説明

切削装置

【課題】 スピンドルの切削ブレード取り付け面に傷や腐食の発生を防止して切削ブレードに超音波振動を適切に伝達可能な切削装置を提供することである。
【解決手段】 被加工物を保持するチャックテーブルと、回転駆動されるスピンドルの先端面に装着された切削ブレードを有する切削手段と、該切削ブレードに超音波振動を付与する超音波振動付与手段と、該切削手段と該チャックテーブルとを相対的に移動させる移動手段とを備えた切削装置であって、少なくとも該切削ブレードが装着される該スピンドルの先端面は耐腐食剤でコーティングされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削ブレードに超音波振動を付与しつつ半導体ウエーハや光デバイスウエーハ等の被加工物を切削する切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスにおいては、略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された各領域にIC、LSI等のデバイスを形成する。そして、半導体ウエーハをストリートに沿って切断することにより個々の半導体チップを製造する。
【0003】
また、サファイア基板の表面に窒化ガリウム系化合物半導体等が積層された光デバイスウエーハもストリートに沿って切断することにより、LED(発光ダイオード)、LD(レーザダイオード)等の光デバイスに分割され、分割された光デバイスはデジタルカメラ等の電気機器に広く利用されている。
【0004】
ウエーハのストリートに沿った切断は、通常ダイサーと称されている切削装置により行われる。この切削装置は、ウエーハ等の被加工物を保持するチャックテーブルと、チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削ブレードが装着された切削手段と、チャックテーブルと切削手段とを相対的に移動する切削送り手段とを備えている。
【0005】
このような切削装置においては、切削ブレードを30000rpm等の高速で回転しつつ、切削ブレードを被加工物に切り込ませ、チャックテーブルを切削送りすることにより被加工物を切断する。
【0006】
しかし、光デバイスウエーハの基板となるサファイア、炭化珪素(SiC)、ガラス、リチウムタンタレート等の硬質脆性材料を切削ブレードで切削すると、切削面に欠けが生じるという問題がある。また、サファイア等のモース硬度の高いウエーハは、切削ブレードによる切削が非常に困難である。
【0007】
この問題を解消するために、切削ブレードが装着されたスピンドルに超音波振動子を配設し、超音波振動子に交流電圧を印加することにより、切削ブレードに超音波振動を付与しつつ被加工物を切削する切削装置が例えば特開2008−85271号公報で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−85271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スピンドルに超音波振動子を配設した従来の切削装置では、切削ブレードがスピンドルの先端面にねじにより締結される。被加工物の切削は切削水を供給しながら実施されるため、このタイプの従来の切削装置では切削水が切削ブレードとスピンドルの先端面との間に侵入し、先端面が腐食し易いという問題がある。
【0010】
切削ブレードをスピンドルに装着するねじの締結力が十分でない場合は、この腐食の問題が顕著に発生する。このようにスピンドルの先端面に腐食による凹凸や傷がついてしまうと、スピンドルの超音波振動が切削ブレードに十分に伝達しないという問題がある。
【0011】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スピンドル先端面の傷や腐食を防止して切削ブレードにスピンドルの超音波振動を適切に伝達可能な切削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、被加工物を保持するチャックテーブルと、回転駆動されるスピンドルの先端面に装着された切削ブレードを有する切削手段と、該切削ブレードに超音波振動を付与する超音波振動付与手段と、該切削手段と該チャックテーブルとを相対的に移動させる移動手段とを備えた切削装置であって、少なくとも該切削ブレードが装着される該スピンドルの先端面は耐腐食剤でコーティングされていることを特徴とする切削装置が提供される。
【0013】
好ましくは、耐腐食剤は金属酸化物等の酸化物から構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の切削装置では、耐腐食剤が少なくともスピンドル先端面にコーティングされているため、このコーティングによりスピンドル先端面の傷つきや腐食が防止され、切削ブレードに超音波振動を適切に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明実施形態に係る切削装置の斜視図である。
【図2】切削手段(スピンドルユニット)の分解斜視図である。
【図3】スピンドルユニットの斜視図である。
【図4】スピンドルユニットの縦断面図である。
【図5】第1実施形態に係るスピンドル先端部の断面図である。
【図6】第2実施形態に係るスピンドル先端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、サファイアウエーハ等の硬質ウエーハをダイシングして個々のチップ(デバイス)に分割するのに適した本発明実施形態に係る切削装置2の斜視図が示されている。
【0017】
切削装置2の前面側には、オペレータが加工条件等の装置に対する指示を入力するための操作パネル4が設けられている。装置上部には、オペレータに対する案内画面や後述する撮像手段によって撮像された画像が表示されるCRT等の表示手段6が設けられている。
【0018】
光デバイスウエーハ等のウエーハWは外周部が環状フレームFに貼着された粘着テープであるダイシングテープTに貼着されて、切削装置2に投入される。これにより、ウエーハWはダイシングテープTを介してフレームFに支持された状態となり、図1に示したウエーハカセット8中にウエーハWが複数枚(例えば25枚)収容される。ウエーハカセット8は上下動可能なカセットエレベータ9上に載置される。
【0019】
ウエーハカセット8の後方には、ウエーハカセット8から切削前のウエーハWを搬出するとともに、切削後のウエーハをウエーハカセット8に搬入する搬出入手段10が配設されている。ウエーハカセット8と搬出入手段10との間には、搬出入対象のウエーハが一時的に載置される領域である仮置き領域12が設けられており、仮置き領域12には、ウエーハWを一定の位置に位置合わせする位置合わせ手段14が配設されている。
【0020】
仮置き領域12の近傍には、ウエーハWと一体となったフレームFを吸着して搬送する旋回アームを有する搬送手段16が配設されており、仮置き領域12に搬出されたウエーハWは、搬送手段16により吸着されてチャックテーブル18上に搬送され、このチャックテーブル18に吸引されるとともに、複数の固定手段19によりフレームFが固定されることでチャックテーブル18上に保持される。
【0021】
チャックテーブル18は、回転可能且つX軸方向に往復動可能に構成されており、チャックテーブル18のX軸方向の移動経路の上方には、ウエーハWの切削すべきストリートを検出するアライメント手段20が配設されている。
【0022】
アライメント手段20は、ウエーハWの表面を撮像する撮像手段22を備えており、撮像により取得した画像に基づき、パターンマッチング等の処理によって切削すべきストリートを検出することができる。撮像手段22によって取得された画像は、表示手段6に表示される。
【0023】
アライメント手段20の左側には、チャックテーブル18に保持されたウエーハWに対して切削加工を施す切削手段(スピンドルユニット)24が配設されている。切削手段24はアライメント手段20と一体的に構成されており、両者が連動してY軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0024】
切削手段24は、回転可能なスピンドル26の先端に切削ブレード(ハブブレード)28が装着されて構成され、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能となっている。切削ブレード28は撮像手段22のX軸方向の延長線上に位置している。
【0025】
25は切削終了後のウエーハをスピンナ洗浄装置27まで搬送する搬送手段であり、スピンナ洗浄装置27に搬送された切削加工終了後のウエーハは、スピンナ洗浄装置27で洗浄されるとともにスピン乾燥される。
【0026】
図2を参照すると、切削手段(スピンドルユニット)24の分解斜視図が示されている。図3はスピンドルユニット24の斜視図である。25はスピンドルハウジングであり、スピンドルハウジング25中に図示しないサーボモータにより回転駆動されるスピンドル26が回転可能に収容されている。切削ブレード28は電鋳ブレードであり、ニッケル母材中にダイアモンド砥粒が分散されてなる切刃28aをその外周部に有している。
【0027】
スピンドル26の端部にねじ穴29が形成されており、切削ブレード28はねじ31をこのねじ穴29に螺合して締め付けることにより、スピンドル26の先端面26aに装着される。
【0028】
30は切削ブレード28をカバーするブレードカバー(ホイールカバー)であり、切削ブレード28の側面に沿って伸長する切削水供給ノズル32が取り付けられている。切削水が、パイプ34を介して切削水ノズル32に供給される。ブレードカバー30はねじ穴36,38を有している。
【0029】
40は着脱カバーであり、ブレードカバー30に取り付けられると、切削ブレード28の側面に沿って伸長する切削水ノズル42を有している。切削水は、パイプ44を介して切削水ノズル42に供給される。
【0030】
ねじ48を着脱カバー40の丸穴46に挿入してブレードカバー30のねじ穴36に螺合することにより、着脱カバー40はブレードカバー30に固定される。これにより、図3に示すように、切削ブレード28の概略上半分がブレードカバー30及び着脱カバー40により覆われる。
【0031】
50は発光部及び受光部を有するフォトインターラプターにより切削ブレード28の切刃28aの欠け又は磨耗を検出するブレード検出ブロックであり、ねじ54を丸穴52に挿入してブレードカバー30のねじ穴38に螺合することにより、ブレード検出ブロック50がブレードカバー30に取り付けられる。55はフォトインターラプターの位置を調整する調整ねじである。
【0032】
次に、図4に示す縦断面図を参照して、本発明実施形態のスピンドルユニット24の全体構成について説明する。スピンドルユニット24のスピンドルハウジング25はボア58を有しており、このボア58中にスピンドル26が回転可能に収容されている。
【0033】
スピンドル26は一体的に形成された環状スラストプレート56を有している。スピンドル26は、ラジアルエアベアリング60及びスラストエアベアリング62により、スピンドルハウジング25のボア58中に回転可能に支持されている。
【0034】
スピンドル26には切削ブレード28に超音波振動を付与する超音波振動子64が配設されている。超音波振動子64は、スピンドル26の軸方向に分極された環状の圧電素子66と、該圧電素子66の両側分極面に装着された環状の電極板68,70とから構成される。
【0035】
圧電素子66は、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、リチウムタンタレート等の圧電セラミックスから構成される。このように構成された超音波振動子64は、環状電極板68,70に後述する電力供給手段によって所定周波数の交流電力が印加されると、スピンドル26に超音波振動を発生させる。尚、超音波振動子64は、スピンドル26の軸方向に複数個配設するようにしてもよい。
【0036】
スピンドルユニット24は、スピンドル26を回転駆動する電動モータ72を備えている。電動モータ72は例えば永久磁石式モータから構成される。電動モータ72は、スピンドル26の中間部に形成されたモータ装着部74に装着された永久磁石からなるロータ76と、ロータ76の外周側においてスピンドルハウジング25に配設されたステーターコイル78とから構成される。
【0037】
このように構成された電動モータ72は、ステーターコイル78に後述する電力供給手段によって交流電力を印加することによりロータ76が回転し、これによりロータ76が装着されたスピンドル26が回転される。
【0038】
スピンドルユニット24は更に、超音波振動子64に交流電力を印加するとともに電動モータ72に交流電力を印加する電力供給手段80を備えている。電力供給手段80は、スピンドル26の一端(右端)に配設されたロータリートランス82を含んでいる。
【0039】
ロータリートランス82は、スピンドル26の右端に配設された受電手段84と、受電手段84と対向して配設された給電手段86を具備している。受電手段84は、スピンドル26に装着されたロータリーコア88と、ロータリーコア88に巻回された受電コイル90とから構成される。
【0040】
このように構成された受電手段84の受電コイル90の一端には導電線を介して圧電素子66の電極板68が接続され、受電コイル90の他端には導電線を介して圧電素子66の電極板70が接続されている。
【0041】
給電手段86は、受電手段84の外周側に配設されたステーターコア92と、ステーターコア92に配設された給電コイル94とから構成される。このように構成された給電手段86の給電コイル94には、電気配線96を介して交流電力が供給される。
【0042】
電力供給手段80は、交流電源98と、交流電源98とロータリートランス82の給電コイル94との間に挿入された電圧調整手段100と、給電手段86に供給する交流電力の周波数を調整する周波数調整手段102と、電圧調整手段100及び周波数調整手段102を制御する制御手段104と、制御手段104に切削ブレード28に付与する超音波振動の振幅等を入力する入力手段106を具備している。
【0043】
交流電源98は、制御回路110及び電気配線108を介して電動モータ72のステーターコイル78に交流電力を供給する。周波数調整手段102としては、株式会社エヌエフ回路設計ブロックが提供するデジタルファンクションジェラレータ、商品名「DF−1905」を使用することができる。DF−1905によると、周波数を10Hz〜500kHzの範囲内で適宜調整することができる。
【0044】
図5を参照すると、本発明第1実施形態に係るスピンドル26の先端部の断面図が示されている。本実施形態によると、スピンドル26の先端面26aに酸化膜コーティング112が施されている。
【0045】
この酸化物コーティング112は低温でコーティングできる例えば金属酸化物の酸化クロムが好ましく、ビッカース硬度は約Hv900以上が好ましい。酸化クロムはプラズマ溶射によってコーティングすることができ、150℃程度の加熱でコーティングできる。
【0046】
スピンドル26の先端面26aの腐食を防止するために、硬質クロムメッキ、ニッケルメッキ等の金属メッキを施すことも考えられるが、メッキでは先端面26aに発生する腐食を防止できないことが本発明者の実験で確認された。
【0047】
本発明実施形態の切削装置2では、酸化物コーティング112が施されたスピンドル26の先端面26aと切削ブレード28との間に合成樹脂製のスペーサー113を介装し、更に切削ブレード28とねじ31との間に合成樹脂製のスペーサー115を介装して、ねじ31をねじ穴29に螺合して締め付けることにより、切削ブレード28がスピンドル26に装着される。
【0048】
以下、本発明実施形態のスピンドルユニット24の作用について説明する。電力供給手段80から電動モータ72のステーターコイル78に交流電力を供給する。その結果、電動モータ72が回転してスピンドル26が回転し、スピンドル26の先端面26aに酸化物コーティング112を介して取り付けられた切削ブレード28が回転される。
【0049】
一方、電力供給手段80は、制御手段104によって電圧供給手段100及び周波数調整手段102を制御し、交流電力を所定の電圧値に制御するとともに、交流電力の周波数を所定周波数に調整して、ロータリートランス82を構成する給電手段86の給電コイル94に所定周波数の交流電力を供給する。
【0050】
このように所定周波数の交流電力が給電コイル94に供給されると、回転する受電手段84の受電コイル90を介して超音波振動子64の電極板68と電極板70との間に所定周波数の交流電力が印加される。
【0051】
その結果、超音波振動子64は径方向に繰り返し変位して超音波振動する。この超音波振動は、スピンドル26を介して切削ブレード28に伝達され、切削ブレード28が径方向に超音波振動する。
【0052】
本実施形態の切削装置2では、このように超音波振動子64で切削ブレード28を径方向に振動させながら、サファイアウエーハ等の難切削材を切削する。切削は切削水を供給しながら実施されるが、切削ブレード28の締め付けが不十分で切削水が切削ブレード28とスピンドル26の先端面26aの間に侵入しても、先端面26aに耐腐食剤である酸化物コーティング112が施されているため、スピンドル26の先端面26aの腐食及び傷つきが防止されて、切削ブレード28に超音波振動子64による超音波振動を適切に伝達することができる。
【0053】
図6を参照すると、本発明第2実施形態のスピンドル先端部分の断面図が示されている。本実施形態は、スピンドル26の先端面26aの酸化物コーティング112に加えて、スピンドルハウジング25から突出したスピンドル26の外周部にも酸化物コーティング114を施したものである。好ましくは、酸化物コーティング114は、酸化物コーティング112と同様に、プラズマ溶射によってコーティングされた酸化クロムコーティングから構成される。
【符号の説明】
【0054】
24 切削手段(スピンドルユニット)
25 スピンドルハウジング
26 スピンドル
26a スピンドル先端面
28 切削ブレード
64 超音波振動子
66 圧電素子
68,70 電極板
80 電力供給手段
112,114 酸化物コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、回転駆動されるスピンドルの先端面に装着された切削ブレードを有する切削手段と、該切削ブレードに超音波振動を付与する超音波振動付与手段と、該切削手段と該チャックテーブルとを相対的に移動させる移動手段とを備えた切削装置であって、
少なくとも該切削ブレードが装着される該スピンドルの先端面は耐腐食剤でコーティングされていることを特徴とする切削装置。
【請求項2】
耐腐食剤は酸化物から構成される請求項1記載の切削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−222221(P2012−222221A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88031(P2011−88031)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】