説明

列車制御信号の構造と信号送信装置と車上演算処理装置及び列車制御方法

【課題】相互乗り入れ線区でアナログ信号方式の在来列車とデジタル信号方式の新式列車のいずれにも地上から情報を伝送して制御する。
【解決手段】地上の送信器4bは先行列車2の位置等により変化する変化情報を有する主信号デジタル変調波を従来のATC信号に使用されているアナログ信号波により振幅変調して生成した主信号デジタル・アナログ信号波と、該当する区間の線路勾配等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報からなる副信号デジタル変調波を従来のATC信号に使用されているアナログ信号波により振幅変調して生成した副信号デジタル・アナログ信号波とを組み合わせて列車制御信号波を構成して軌道回路2Tに送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地上から列車に対して送信する列車制御信号波の構造と主副デジタル・アナログ信号送信装置と主副デジタル・アナログ信号受信演算装置及び列車制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
列車の速度を自動的に制限速度以下に制御するため、先行列車の位置と進路の条件等により定まる停止目標位置と現在の在線位置で定められた列車制御信号(ATC信号)を地上から列車に伝送し、車上装置は受信したATC信号から算出される停止目標位置までの照査速度パターンに基づき連続的に列車を減速するようにしている。
【0003】
この地上から列車に伝送する従来の列車制御信号は、例えば非特許文献1等に示すように、2つのAF周波数帯よりなる主信号と副信号をそれぞれ振幅変調して組み合わせたアナログ信号方式と、例えば特許文献1に示すように、単独の周波数をMSK(Minimum Shift Keying)変調等のデジタル変調したデジタル信号方式が使用されている。
【0004】
また、地上から列車に伝送する情報量を拡大して列車性能に応じて停止点まで連続して速度制御を行うため車上主体制御方式への移行が進められている。この車上主体制御の列車速度制御方式は、非特許文献2等に示すように、車上装置は、地上から軌道回路等の伝送路を介して送信された列車制御信号を受信して解読した信号現示情報等の安全を確保するための列車制御情報と、ROM等の車上不揮発性記憶媒体に登録された線路勾配や曲線半径等の固定情報とにより先行列車までの最適列車速度を演算し、演算した最適列車速度により列車制御を行っている。
【0005】
さらに、車上装置は、地上から軌道回路等の伝送路を介して送信された列車制御信号を受信して解読した信号現示情報等の安全を確保するための列車制御情報と、軌道回路等の伝送路を介した伝送以前に、トランスポンダ等の情報伝送装置により伝送された線路勾配や曲線半径等の固定情報とにより先行列車までの最適列車速度を演算し、演算した最適列車速度により列車制御を行う列車制御方式も採用されている。
【0006】
また、地上から軌道回路等の伝送路を介して送信した先行列車位置や進路開通等により変化する変化情報と、線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する固定情報と工事等に伴う臨時速度制限情報等の情報よりなる信号を車上装置で受信して解読し、解読した安全を確保するための列車制御情報と線路勾配や曲線半径等の列車間隔をより短くするために有効な列車制御情報とにより演算して得られた先行列車までの最適列車速度により列車制御を行う列車制御方式も採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで使用していたアナログ信号方式からデジタル信号方式に移行するに当たっては、アナログ信号とは異なる周波数帯域のデジタル信号を新たに選択する必要があるが、例えば相互乗り入れ線区においては、乗り入れ線区で使用されている列車制御周波数を避ける必要があるため、新たな周波数帯域の選定は困難であった。また、アナログ信号とデジタル信号波を重畳して送信する場合、車上装置は両信号を同時に受信して復調する必要があり、地上と車上の送受信器等の機器が増大してしまう。
【0008】
これを避けるためにアナログ信号の使用周波数帯をデジタル信号に転用して地上設備と車上設備を一斉にデジタル信号方式に切り換える方法を採用すると、相互乗り入れ線区を走行する全ての車両と全ての地上設備を一斉にアナログ信号方式からデジタル信号方式に交換する必要があり、設備の切り換えに多くの費用が必要であるとともに新方式の試験のためにデジタル信号方式の使用開始前から繰り返して切り換える必要があり、その作業が容易でない等の問題がある。
【0009】
また、相互乗り入れ線区の一部の線区でアナログ信号方式からデジタル信号方式に切り換え、他の線区でアナログ信号方式からデジタル信号方式に切り換えない場合は、相互乗り入れ線区を走行する全ての車両にアナログ信号方式とデジタル信号方式の両機能を有する車上設備を搭載するか、全ての車両をアナログ信号方式とデジタル信号方式の両機能を有する車上設備を搭載した車両に交換しないと、相互乗り入れ線区を走行できなくなってしまうという問題がある。
【0010】
また、地上から軌道回路等の伝送路を介して送信されて解読した信号現示情報等の安全を確保するための列車制御情報と車上不揮発性記憶媒体に登録された線路勾配や曲線半径等の情報とにより先行列車までの最適列車速度を演算する列車速度制御方式は、線路改修等による線路勾配や曲線半径等の固定情報が変更になった場合、車上不揮発性記憶媒体に登録した制御データを、変更箇所を走行する全車両一斉に変更するとともに、その変更した内容を確認する必要があり、車上不揮発性記憶媒体の書換えが容易でないという問題がある。
【0011】
また、線路勾配や曲線半径等の固定情報をトランスポンダ等の情報伝送装置により車上装置に送信する方式では、トランスポンダ等の情報伝送装置を多く設備する必要があり、設備量が増大するという問題がある。
【0012】
さらに、先行列車位置や進路開通等により変化する変化情報とともに線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する固定情報と工事等に伴う臨時速度制限情報等の情報を軌道回路等の伝送路を介して送信する方式では、軌道回路等の伝送路の信号伝送速度に比べて送信する列車制御信号が長くなり、信号伝送時間が長くなって、その間の列車制御が不可能になり列車が走行できなくなってしまうという問題がある。
【0013】
この発明は、このような問題を解消し、既存のアナログ信号方式をデジタル信号方式に変更する場合において、相互乗り入れ線区の一部の線区でアナログ信号方式からデジタル信号方式に切り換え、他の線区でアナログ信号方式からデジタル信号方式に切り換えない場合であっても、新たな周波数帯域を選定する必要なしでアナログ信号方式の在来列車とデジタル信号方式の新式列車のいずれにも地上から情報を伝送して制御することができるとともに、簡単な構成で軌道回路等の伝送路の信号伝送速度に比べて送信する列車制御信号が長くなっても確実に列車の速度を最適に制御することができる列車制御信号の構造と信号送信装置と車上演算処理装置及び列車制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の列車制御信号の構造は、二つのAF周波数帯よりなる主信号アナログ変調波と副信号アナログ変調波により主信号デジタル変調波と副信号デジタル変調波を2/3程度の変調度で振幅変調した主信号デジタル・アナログ信号と副信号デジタル・アナログ信号を組み合わせ、前記主信号デジタル・アナログ信号のデジタル情報を先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報とし、前記副信号デジタル・アナログ信号のデジタル情報を線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報とすることを特徴とする。
【0015】
この発明の信号送信装置は、デジタル変調された主信号デジタル変調波を生成する主信号デジタル変調波生成部と、所定周波数のアナログ変調波を発生する主信号アナログ変調波発生部と、主信号デジタル変調波生成部で生成した主信号デジタル変調波を主信号アナログ変調波発生部で発生した主信号アナログ変調波で振幅変調する主信号振幅変調部とからなる主信号デジタル・アナログ信号生成部と、デジタル変調された副信号デジタル変調波を生成する副信号デジタル変調波生成部と、所定周波数のアナログ変調波を発生する副信号アナログ変調波発生部と、副信号デジタル変調波生成部で生成した副信号デジタル変調波を副信号アナログ変調波発生部で発生した副信号アナログ変調波で振幅変調する副信号振幅変調部とからなる副信号デジタル・アナログ信号生成部と、前記主信号デジタル・アナログ信号生成部で生成した主信号デジタル・アナログ信号と前記副信号デジタル・アナログ信号生成部で生成した副信号デジタル・アナログ信号を組み合わせて列車制御信号を生成する主副デジタル・アナログ信号組合せ部と、前記主副デジタル・アナログ信号組合せ部で組み合わせた列車制御信号を軌道回路に送信する送信部を有することを特徴とする。
【0016】
この発明の車上受信演算装置は、前記信号送信装置から送信された列車制御信号を受信する車上受信演算装置であって、前記信号送信装置から送信された列車制御信号を主副アナログ信号と主副デジタル信号に分離するデジタル・アナログ信号分離部と、前記デジタル・アナログ信号分離部で分離した主副アナログ信号を復調するアナログ復調部と、復調した主副アナログ信号を解読して許容走行速度を決定するアナログ演算処理部と、前記デジタル・アナログ信号分離部で分離した主副デジタル信号を復調するデジタル復調部と、復調した主副デジタル信号を解読して許容走行速度を演算するデジタル演算処理部と、前記アナログ演算処理部と前記デジタル演算処理部からの許容走行速度を比較して列車の許容速度を決定し、決定した許容速度と列車の実走行速度とを照査する速度照査部とを有することを特徴とする。
【0017】
この発明の列車制御方法は、二つのAF周波数帯よりなる主信号アナログ変調波と副信号アナログ変調波により主信号デジタル変調波と副信号デジタル変調波を2/3程度の変調度で振幅変調した主信号デジタル・アナログ信号と副信号デジタル・アナログ信号を組み合わせ、前記主信号デジタル・アナログ信号のデジタル情報を先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報とし、前記副信号デジタル・アナログ信号のデジタル情報を線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報とする列車制御信号を地上から列車に送信し、列車の車上では受信した列車制御信号を主副アナログ信号と主副デジタル信号に分離し、分離した主副アナログ信号を復調し、復調した主副アナログ信号を解読して許容走行速度を決定するとともに分離した主副デジタル信号を復調し、復調した主副デジタル信号を解読して許容走行速度を演算し、主副アナログ信号を解読して決定した許容走行速度と主副デジタル信号を解読して演算した許容走行速度を比較して列車の許容速度を決定し、決定した許容速度と列車の実走行速度とを照査して列車の速度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報を有する主信号デジタル変調波を従来のアナログ方式のATC信号に使用されているアナログ信号波により振幅変調して生成した主信号デジタル・アナログ信号波と、該当する区間の線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報からなる副信号デジタル変調波を従来のATC信号に使用されているアナログ信号波により振幅変調して生成した副信号デジタル・アナログ信号波とを組み合わせて列車制御信号波を構成したから、アナログ信号方式の機能を有する在来列車とデジタル信号方式の機能を有する新式列車のいずれでも列車制御信号を受信して列車制御を行うことができる。
【0019】
また、新たな周波数帯域を選定する必要もなく、相互乗り入れ線区の一部の線区でアナログ信号方式からデジタル・アナログ信号方式に切り換え、他の線区でアナログ信号方式からデジタル・アナログ信号方式に切り換えない場合であってもアナログ信号方式の機能のみの車上装置とデジタル・アナログ信号方式の機能を有する車上装置のいずれでも相互乗り入れをしている各線区の地上から送信している列車制御信号を受信することができる。
【0020】
さらに、列車制御信号のデジタル信号に先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報と、線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報を含むから、線路改修等により固定情報が変更になった場合でも、その部分に該当する地上装置の情報を変更して試験して確認するだけで良く、固定情報を容易に変更することができる。
【0021】
また、線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報を送信するトランスポンダ等の情報伝送装置を設ける必要はなく、設備費を低減することができる。
【0022】
さらに、列車制御信号の電文の長さが制約される軌道回路を介して列車制御信号を伝送する場合であっても、速度制御等の制約が少ない軌道回路進入直後は、列車制御信号に含まれるデジタル信号の変化情報を受信して必要最小の列車速度等の列車制御を行い、先行列車等の速度制約点に近づくまでの間に列車制御信号に含まれる固定情報を受信して線路勾配や曲線半径等に基づく最適列車制御に切り換えることにより合理的な列車制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】地上と列車間の情報伝送システムの構成を示すブロック図である。
【図2】地上装置の送信器の構成を示すブロック図である。
【図3】車上装置の構成を示すブロック図である。
【図4】地上装置の送信器で生成する列車制御信号波の構成を示す模式図である。
【図5】地上装置の送信器で送信するデジタル信号のフレーム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、地上と列車との間で列車制御信号等の情報を授受する情報伝送システムの構成を示すブロック図である。図に示すように、情報伝送システムは、地上装置1と列車2に搭載した車上装置3を有し、地上装置1で列車1の位置を検知して列車1に対して速度制御信号等を伝送して列車1の速度を制限速度以下に制御する。
【0025】
地上装置1は、各軌道回路1T〜4Tの列車進出側の境界に接続された送信器4a〜4cと、各軌道回路1T〜4Tの列車進入側の境界に接続された受信器5a〜5dと、先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報を送信器4a〜4cに送る条件連絡回路6及び各軌道回路1T〜4Tの区間の線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報や臨時速度制限情報等の情報(以下、固定情報という)が登録されている固定情報登録部7を有する。
【0026】
送信器4a〜4cは、図2のブロック図に示すように、主信号デジタル・アナログ信号生成部8と副信号デジタル・アナログ信号生成部9と主副デジタル・アナログ信号組合せ部10及び送信部11を有する。
【0027】
主信号デジタル・アナログ信号生成部8は、主信号アナログ変調波発生部10と主信号デジタル変調波生成部11及び主信号振幅変調部12を有する。主信号アナログ変調波発生部10は条件連絡回路6を介して送られる変化情報から、例えば下記表に示すように、速度情報に対応した主信号の信号周波数とする主信号アナログ変調波を発生する。
【0028】
【表1】

【0029】
主信号デジタル変調波生成部11は条件連絡回路6を介して送られる変化情報からなる主信号デジタル変調波を生成する。主信号振幅変調部12は主信号デジタル変調波生成部11で生成した主信号デジタル変調波を主アナログ変調波発生部10で発生した主信号アナログ変調波により2/3程度の変調度で振幅変調して主信号デジタル・アナログ信号波を生成する。
【0030】
副信号デジタル・アナログ信号生成部9は、副信号アナログ変調波発生部13と副信号デジタル変調波生成部14及び副信号振幅変調部15を有する。副信号アナログ変調波発生部13は条件連絡回路6を介して送られる変化情報から速度情報に対応した副信号の信号周波数とする副信号アナログ変調波を発生する。副信号デジタル変調波生成部14は固定情報登録部7に登録されている固定情報を読み出して副信号デジタル変調波を生成する。副信号振幅変調部15は副信号デジタル変調波生成部14で生成した副信号デジタル変調波を副信号アナログ変調波発生部13で発生した副信号アナログ変調波により2/3程度の変調度で振幅変調して副信号デジタル・アナログ信号波を生成する。
【0031】
主副デジタル・アナログ信号組合せ部10は主信号振幅変調部12で生成した主信号デジタル・アナログ波と副信号振幅変調部15で生成した副信号デジタル・アナログ波を組み合わせて列車制御信号波を生成する。送信部11は主副デジタル・アナログ信号組合せ部10で生成した列車制御信号波を各軌道回路1T〜4Tに送信する。受信器4は各軌道回路1T〜4Tに送信されている列車制御信号波の受信の有無により、該当する軌道回路に列車2が在線するか否を検出する。
【0032】
相互乗り入れ線区で一部の線区は地上装置1をアナログ信号方式からデジタル・アナログ信号方式に切り換え、他の線区ではアナログ信号方式の地上装置を使用している場合がある。この相互乗り入れ線区で従来のアナログ信号方式の機能を有して相互乗り入れ線区を走行する列車2の車上装置3は、図3(a)のブロック図に示すように、受信器16とアナログ演算処理部17と速度照査部18及び速度制御部19を有する。受信器16は受信部20とアナログ復調部21を有する。受信部20は車上子22を介して軌道回路1T〜4Tに送信されている列車制御信号波を受信する。アナログ復調部21は受信部20で受信した列車制御信号波の主信号アナログ変調波と副信号アナログ変調波を復調する。アナログ演算処理部17はアナログ復調部21で復調したアナログ信号の主信号と副信号を解読して許容走行速度を決定する。速度照査部17はアナログ演算処理部17で決定した許容走行速度と列車2の速度とを照合して照査する。速度制御部18は速度照査部17の照査結果によりブレーキ装置等を制御して列車2の速度が制限速度以下になるように制御する。
【0033】
また、相互乗り入れ線区で一部の線区は地上装置1をアナログ信号方式からデジタル・アナログ信号方式に切り換え、他の線区では地上装置1をアナログ信号方式としている場合、デジタル・アナログ信号方式の機能を有し、相互乗り入れ線区を走行する列車2の車上装置3aは、図3(b)のブロック図に示すように、受信器16aとアナログ演算処理部17とデジタル演算処理部23と速度照査部18a及び速度制御部19を有する。受信器16aは受信部20とデジタル・アナログ信号分離部24とアナログ復調部21及びデジタル復調部24を有する。受信部20は車上子22を介して軌道回路1T〜4Tに送信されている列車制御信号波を受信する。デジタル・アナログ信号分離部24は受信部20で受信した列車制御信号波をアナログ変調波とデジタル変調波を分離し、分離したアナログ変調波をアナログ復調部21に出力し、デジタル変調波をデジタル復調部25に出力する。アナログ復調部21はデジタル・アナログ信号分離部24から入力する主信号アナログ変調波と副信号アナログ変調波を復調する。アナログ演算処理部17はアナログ復調部21で復調したアナログ信号の主信号と副信号を解読して許容走行速度を決定する。デジタル復調部25はデジタル・アナログ信号分離部24から入力する主信号デジタル変調波と副信号デジタル変調波を復調する。デジタル演算処理部23はデジタル復調部25で復調したデジタル信号に含まれる変化情報と固定情報を参照して列車2の速度パターンを作成する。速度照査部18aはアナログ演算処理部17で決定した許容走行速度又はデジタル演算処理部17で作成した速度パターンで示す速度のいずれかと列車2の速度とを照合して照査する。速度制御部19は速度照査部18aの照査結果によりブレーキ装置等を制御して列車2の速度が制限速度以下になるように制御する。
【0034】
この地上装置1の送信器4bから列車制御信号波を列車2が在線する軌道回路2Tに送信して車上装置3で受信して列車2の速度を制御するときの伝送状態を図4の波形図を参照して説明する。
【0035】
軌道回路2Tに接続された2T送信器4bの主信号アナログ変調波発生部10は先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報に応じた主信号周波数のアナログ変調波31を生成して主信号振幅変調部12に出力する。主信号デジタル変調波生成部11は先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報に応じた主信号デジタル変調波30を生成して主信号振幅変調部12に出力する。主信号振幅変調部12は主信号デジタル変調波生成部12から入力した主信号デジタル変調波30を主信号アナログ変調波発生部10から入力するアナログ変調波31により2/3程度の変調度で振幅変調して主信号デジタル・アナログ信号波32を主副デジタル・アナログ信号組合せ部10に出力する。
【0036】
副信号アナログ変調波発生部13は先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報に応じた副信号周波数のアナログ変調波を生成して副信号振幅変調部15に出力する。副信号デジタル変調波生成部14は固定情報登録部7に登録された線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報に応じた副信号デジタル変調波を生成して副信号振幅変調部15に出力する。副信号振幅変調部15は副信号デジタル変調波生成部14から入力した副信号デジタル変調波を副信号アナログ変調波発生部13から入力するアナログ変調波により2/3程度の変調度で振幅変調して副信号デジタル・アナログ信号波を主副デジタル・アナログ信号組合せ部10に出力する。
【0037】
主副デジタル・アナログ信号組合せ部10は主信号振幅変調部12から入力した主信号デジタル・アナログ信号波と副信号振幅変調部15から入力した副信号デジタル・アナログ信号波を組み合わせて、列車制御信号波を生成して送信部11に出力する。送信部11は主副デジタル・アナログ信号組合せ部10から入力した列車制御信号波を軌道回路2Tに送信する。この列車制御信号波に含まれるデジタル信号40は、図5に示すように、先行列車位置等の変化情報を有する主信号デジタル信号41と線路構造等に関する固定情報を有する副信号デジタル信号42をそれぞれ連続して生成されている。
【0038】
軌道回路2Tに接続された受信器5bは軌道回路2Tに送信されている列車制御信号波40を受信することにより軌道回路2Tに列車2が在線していないことを検知し、軌道回路2Tに列車2が進入して送信されて列車制御信号波を受信しなくなると軌道回路2Tに列車2が在線したことを検知する。
【0039】
相互乗り入れ線区のデジタル・アナログ信号方式の軌道回路2Tにアナログ信号方式の機能を有する列車2が在線して車上装置3の受信器16で軌道回路2Tに送信されている列車制御信号波を車上子21から受信すると、受信した列車制御信号波のアナログ変調波をアナログ復調部21で復調してアナログ演算処理部17に出力する。アナログ演算処理部17はアナログ復調部21で復調したアナログ信号の主信号と副信号を解読して許容走行速度を決定する。速度照査部18はアナログ演算処理部17で決定した許容走行速度と列車2の速度とを照合して照査し、速度制御部19は速度照査部18で照査した結果によりブレーキ装置等を制御して列車2の速度が制限速度以下になるように制御する。
【0040】
また、軌道回路2Tにデジタル・アナログ信号方式の機能を有する列車2が在線して車上装置3aの受信器16aで軌道回路2Tに送信されている列車制御信号波を車上子21から受信して受信した列車制御信号波をデジタル・アナログ信号分離部24に出力すると、デジタル・アナログ信号分離部24は受信した列車制御信号波をアナログ変調波とデジタル変調波を分離し、分離したアナログ変調波をアナログ復調部21に出力し、デジタル変調波をデジタル復調部25に出力する。アナログ復調部21は入力した主信号アナログ変調波と副信号アナログ変調波を復調し、アナログ演算処理部17はアナログ復調部21で復調したアナログ信号の主信号と副信号を解読して許容走行速度を決定する。デジタル復調部25は入力した主信号デジタル変調波と副信号デジタル変調波を復調し、デジタル演算処理部23はデジタル復調部25で復調したデジタル信号40に含まれる変化情報と固定情報を参照して列車2の速度パターンを作成する。速度照査部18aはアナログ演算処理部17で決定した許容走行速度とデジタル演算処理部17で作成した速度パターンで示す速度を比較し、アナログ演算処理部17で決定した許容走行速度とデジタル演算処理部17で作成した速度パターンのいずれかの速度と列車2の速度とを照合して照査し、速度制御部19は速度照査部18aの照査結果によりブレーキ装置等を制御して列車2の速度が制限速度以下になるように制御する。
【0041】
このデジタル・アナログ信号方式の機能を有する列車2が相互乗り入れ線区のアナログ信号方式の軌道回路に在線すると、地上から送信する列車制御信号波にはデジタル信号波が含まれていないため、アナログ演算処理部17で決定した許容走行速度により列車2の速度を制御する。
【0042】
このようにしてアナログ信号方式の機能を有する車上装置3を搭載した在来列車2とデジタル・アナログ信号方式の機能を有する新式列車2のいずれでも送信器4bから送信する列車制御信号波40を受信して最適列車制御を行なうことができる。また、新たな周波数帯域を選定する必要もなく、相互乗り入れ線区の一部の線区でアナログ信号方式からデジタル・アナログ信号方式に切り換え、他の線区でアナログ信号方式からデジタル・アナログ信号方式に切り換えない場合であってもアナログ信号方式の機能のみの車上装置3とデジタル・アナログ信号方式の機能を有する車上装置3aとのいずれも相互乗り入れをしている各線区の地上から送信している列車制御信号波を受信することができる。
【0043】
また、列車制御信号波のデジタル信号40に先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報と、線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報を含むから、線路改修等により固定情報が変更になった場合でも、固定情報登録部7のその部分に該当する情報を変更して試験して確認するだけで良く、固定情報を容易に変更することができる。また、線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報を送信するトランスポンダ等の情報伝送装置を設ける必要はなく、設備費を低減することができる。
【0044】
また、列車制御信号波の電文の長さが制約される軌道回路を介して列車制御信号波を伝送する場合であっても、速度制御等の制約が少ない軌道回路進入直後は、列車制御信号波に含まれるデジタル信号40の主信号デジタル信号41を受信して必要最小の列車速度等の列車制御を行い、先行列車等の速度制約点に近づくまでの間に列車制御信号波に含まれる副信号デジタル信号42を受信して線路勾配や曲線半径等に基づく最適列車制御に切り換えることにより合理的な列車制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1;地上装置、2;列車、3;車上装置、4;送信器、5;受信器、
6;条件連絡回路、7;固定情報登録部、8;主信号デジタル・アナログ信号生成部、
9;副信号デジタル・アナログ信号生成部、10;主信号アナログ変調波発生部、
11;主信号デジタル変調波生成部、12;主信号振幅変調部、
13;副信号アナログ変調波発生部、14;副信号デジタル変調波発生部、
15;副信号振幅変調部、16;受信器、17;アナログ演算処理部、
18;速度照査部、19;速度制御部、20;受信部、21;アナログ復調部、
22;車上子、23;デジタル演算処理部、24;デジタル・アナログ信号分離部、
25;デジタル復調部。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特開2001−219849号公報
【非特許文献】
【0047】
【非特許文献1】鉄道と電気技術 平成19年3月 (社)日本鉄道電気技術協会発行 第77頁〜第83頁。
【非特許文献2】鉄道と電気技術 平成19年5月 (社)日本鉄道電気技術協会発行 第71頁〜第76頁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つのAF周波数帯よりなる主信号アナログ変調波と副信号アナログ変調波により主信号デジタル変調波と副信号デジタル変調波を2/3程度の変調度で振幅変調した主信号デジタル・アナログ信号と副信号デジタル・アナログ信号を組み合わせ、
前記主信号デジタル・アナログ信号のデジタル情報を先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報とし、前記副信号デジタル・アナログ信号のデジタル情報を線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報とすることを特徴とする列車制御信号の構造。
【請求項2】
デジタル変調された主信号デジタル変調波を生成する主信号デジタル変調波生成部と、所定周波数のアナログ変調波を発生する主信号アナログ変調波発生部と、主信号デジタル変調波生成部で生成した主信号デジタル変調波を主信号アナログ変調波発生部で発生した主信号アナログ変調波で振幅変調する主信号振幅変調部とからなる主信号デジタル・アナログ信号生成部と、
デジタル変調された副信号デジタル変調波を生成する副信号デジタル変調波生成部と、所定周波数のアナログ変調波を発生する副信号アナログ変調波発生部と、副信号デジタル変調波生成部で生成した副信号デジタル変調波を副信号アナログ変調波発生部で発生した副信号アナログ変調波で振幅変調する副信号振幅変調部とからなる副信号デジタル・アナログ信号生成部と、
前記主信号デジタル・アナログ信号生成部で生成した主信号デジタル・アナログ信号と前記副信号デジタル・アナログ信号生成部で生成した副信号デジタル・アナログ信号を組み合わせて列車制御信号を生成する主副デジタル・アナログ信号組合せ部と、
前記主副デジタル・アナログ信号組合せ部で組み合わせた列車制御信号を軌道回路に送信する送信部を有することを特徴とする信号送信装置。
【請求項3】
請求項2記載の信号送信装置から送信された列車制御信号を受信する車上受信演算装置であって、
前記信号送信装置から送信された列車制御信号を主副アナログ信号と主副デジタル信号に分離するデジタル・アナログ信号分離部と、
前記デジタル・アナログ信号分離部で分離した主副アナログ信号を復調するアナログ復調部と、復調した主副アナログ信号を解読して許容走行速度を決定するアナログ演算処理部と、
前記デジタル・アナログ信号分離部で分離した主副デジタル信号を復調するデジタル復調部と、復調した主副デジタル信号を解読して許容走行速度を演算するデジタル演算処理部と、
前記アナログ演算処理部と前記デジタル演算処理部からの許容走行速度を比較して列車の許容速度を決定し、決定した許容速度と列車の実走行速度とを照査する速度照査部とを有することを特徴とする車上演算処理装置。
【請求項4】
二つのAF周波数帯よりなる主信号アナログ変調波と副信号アナログ変調波により主信号デジタル変調波と副信号デジタル変調波を2/3程度の変調度で振幅変調した主信号デジタル・アナログ信号と副信号デジタル・アナログ信号を組み合わせ、前記主信号デジタル・アナログ信号のデジタル情報を先行列車の位置や進路開通等により変化する変化情報とし、前記副信号デジタル・アナログ信号のデジタル情報を線路勾配や曲線半径等の線路構造に関する情報と臨時速度制限情報等の固定情報とする列車制御信号を地上から列車に送信し、
列車の車上では受信した列車制御信号を主副アナログ信号と主副デジタル信号に分離し、分離した主副アナログ信号を復調し、復調した主副アナログ信号を解読して許容走行速度を決定するとともに分離した主副デジタル信号を復調し、復調した主副デジタル信号を解読して許容走行速度を演算し、主副アナログ信号を解読して決定した許容走行速度と主副デジタル信号を解読して演算した許容走行速度を比較して列車の許容速度を決定し、決定した許容速度と列車の実走行速度とを照査して列車の速度を制御することを特徴とする列車制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−220275(P2010−220275A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60392(P2009−60392)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】