説明

列車無線システム、基地局および移動局

【課題】伝送速度の速い多値変調方式を用いて通信を行う列車無線システムにおいても、電波干渉区間の影響を低減して正常な信号受信が可能な列車無線システムを提供する。
【解決手段】移動局9を搭載した列車109の走行路に対応させてゾーンZ1およびZ2が設定され、各ゾーンに含まれる基地局1および2と移動局9との間で漏洩同軸ケーブル4〜7を介して無線通信を行う列車無線システムにおいて、移動局9が基地局間境界8付近の地点「A」に達した場合に、基地局1は、移動局9への通信を、これまでに適用していた変調方式Aよりも伝送速度の遅い変調方式Cに切り替えて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の基地局と、基地局に接続された漏洩同軸ケーブルを介して移動局と無線通信を行う列車無線システムに関する。
【背景技術】
【0002】
互いに隣接する2つの基地局それぞれに接続された漏洩同軸ケーブル(LCX)の間には電波干渉区間が存在するが、当該電波干渉区間内に移動局のアンテナ(空中線)が存在すると、正常な電波の受信ができないという問題がある。
【0003】
特許文献1では、このような問題を解消するために、移動局において、電波干渉区間にあるアンテナからの無線入力信号を遮断するようにアンテナからの無線入力信号を選択的に受信して復調する構成を採ることで、隣接する基地局の境界にできる電波干渉区間において通信エラー等を軽減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−193336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
列車無線システムにおいて基地局と移動局との間で高速通信を行う場合、例えば256QAM(Quadrature Amplitude Modulation)のような伝送速度の速い多値変調方式を用いることが多いが、その場合は、互いに隣接する基地局間の境界にできる電波干渉区間が長くなる。一方、移動局のアンテナ位置には制約があるため、電波干渉区間が長くなると、移動局の全てのアンテナが同時に電波干渉区間に入る結果となり、基地局からの信号を正しく受信できなくなるという問題があった。
【0006】
本発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、伝送速度の速い多値変調方式を用いて通信を行う列車無線システムにおいても、電波干渉区間の影響を低減して正常な信号受信が可能な列車無線システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る列車無線システムの態様は、移動局を搭載した列車の走行路に対応させて無線エリアであるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と前記移動局との間で漏洩同軸ケーブルを介して無線通信を行う列車無線システムであって、前記基地局は、前記移動局が基地局間境界付近の第1の地点に達した場合に、前記基地局から前記移動局への通信を、これまでに適用していた第1の変調方式よりも伝送速度の遅い第2の変調方式に切り替えて行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る列車無線システム、基地局および移動局の態様によれば、基地局間境界付近の第1の地点に達した場合に、これまでに適用していた第1の変調方式よりも伝送速度の遅い第2の変調方式に切り替えることで、電波干渉区間が短くなり、通信遮断となる時間が大幅に減少し、通信エラーが低減する。また、これにより列車無線システム全体の通信速度の高速化に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る実施の形態1の列車無線システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態1の変調方式と電波干渉区間の関係を説明する図である。
【図3】無線フレームと、無線フレームを構成する1つのタイムスロットの構成を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態1の移動局の構成を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態1の基地局の構成を示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態1の変調方式の切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る実施の形態2の移動局の構成を示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態2の基地局の構成を示す図である。
【図9】本発明に係る実施の形態2の変調方式の切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】本発明に係る実施の形態3の列車無線システムの構成を示す図である。
【図11】本発明に係る実施の形態3の変調方式と電波干渉区間の関係を説明する図である。
【図12】本発明に係る実施の形態3の変調方式の切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】本発明に係る実施の形態4の変調方式の切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
<システム構成>
以下、図1〜図6を用いて本発明に係る列車無線システムの実施の形態1について説明する。図1は実施の形態1に係る列車無線システムの構成を示す概念図である。
【0011】
一般的な列車無線システムにおいては、列車、すなわち移動局の走行路に対応させて複数の無線エリアを設定し、各無線エリアをゾーンと呼称している。ゾーンには、1つの基地局が設けられている。
【0012】
図1に示す列車無線システムにおいては、ゾーンZ1とゾーンZ2との無線エリア境界を基地局間境界8として示し、ゾーンZ1に含まれる基地局1およびゾーンZ2に含まれる基地局2が、互いに隣接する基地局として配置されている。また、各基地局からの信号を集約し、移動局との通話やデータ通信、監視を行う中央装置3が配置されている。
【0013】
移動局9、10および99をそれぞれ搭載した列車109、110および199が走行する線路(図示せず)の両側には、基地局1、2の送信電波または移動局9、10、99の送信電波を搬送する漏洩同軸ケーブル(LCX)4、5、6および7が敷設されている。このうち、LCX4および5、LCX6および7が対をなし、LCX4および5は基地局1に接続され、LCX6および7は基地局2に接続されている。なお、LCX4〜7には、電波を増幅する装置を含む場合があるがここでは省略している。
【0014】
移動局9、10および99は、基地局と無線通信を行い、地上−車上間での通話やデータの伝送を実現するが、図1に示すように3台に限定されるものではなく、さらに多くの移動局がゾーンZ1およびZ2内に存在する場合もある。
【0015】
基地局間境界8は、基地局1および2のそれぞれの無線エリア境界であり、LCX4および5の終端部分とLCX6および7の終端部分との中間にある10m程度のエリアである。
【0016】
図1において、ゾーン1に存在している移動局9が、ゾーン2の方向に移動する場合、基地局間境界8に近づくまでは、伝送速度の比較的速い変調方式Aを使用するが、そのまま、基地局間境界8を通過すると、変調方式Aでは電波干渉区間が長くなるため、何れの基地局からの信号も正しく受信できなくなる時間が長くなる。
【0017】
例えばTCPIP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)のデータを扱う場合、一時的な通信遮断によりACK(Acknowledgment)信号すら通らなくなりスループットが大幅に減少する。
【0018】
本実施の形態では、これを防ぐため、移動局9が基地局間境界8付近に達すると、伝送速度の比較的遅い変調方式Cに切り替える構成を採用する。これにより伝送速度は多少遅くなるが、変調方式Cでは、所要C/N(Carrier to Noise ratio)が小さいため電波干渉区間が短くなるので、通信遮断となる時間は大幅に減少し、TCPIPのデータの場合でもスループットの低下を抑えることができる。基地局間境界8を通過した後は、再び変調方式Aに戻す。これは、他の移動局99にも適用でき、また、ゾーンZ2からゾーンZ1方向に走行する移動局10においても適用できる。なお、所要C/Nとは、正しく受信するために必要な搬送波(希望波)とノイズのレベル比のことである。ここで、正しく受信するとは、無線エリアにおいて誤りなく伝送できることを意味するが、ある程度正しく伝送できればシステムとしての運用はできるので、例えばBER(BIT ERROR RATE)が1/1000000以下(1×10-6以下)という値で定義される場合もある。
【0019】
図1においては、変調方式Aを使用する領域を変調方式A領域として示し、変調方式Cを使用する領域を変調方式C領域として示している。変調方式C領域は、基地局間境界8と、その近傍の領域とを含むように設定されている。
【0020】
次に、図2を用いて基地局間境界付近における無線の電波干渉状態を説明する。図2においては、ゾーンZ1に含まれるLCX4およびゾーンZ2に含まれるLCX6を例示しており、ゾーンZ1おけるLCX4の電波の電界強度特性を特性E1として示し、ゾーンZ2おけるLCX6の電波の電界強度特性を特性E2として示している。
【0021】
特性E1およびE2は、LCXの延在方向をX軸とし、Y軸に電界強度を示しており、何れも、自らのゾーン内ではほぼ一定の電界強度を有し、基地局間境界に近づくにつれて電界強度が低下し始めるが、隣接するゾーンに入っても電界強度は急速に0となるのではなく、徐々に低下する特性となっている。このため、LCX4およびLCX6からの電波が、それぞれ相手側の電波と干渉する区間(電波干渉区間)が存在している。
【0022】
図2に示すように、ゾーンZ1とゾーンZ2の境目にあたる基地局間境界付近では、基地局1から移動局への下り信号および基地局2から移動局への下り信号が干渉し、移動局は下り信号を正しく受信できない。その電波干渉区間の長さは変調方式によって異なる。
【0023】
例えば、高速の伝送速度に対応した「変調方式A」では、信号を正しく受信するための所要C/Nは、変調方式Cと比較して大きい必要がある。このため、「変調方式A」での電波干渉区間ARは地点「A」から地点「B」の間となる。一方、「変調方式C」では、所要C/Nが、変調方式Aと比較すると小さくて済むので、「変調方式C」での電波干渉区間CRは、地点「F」から地点「G」となり、電波干渉区間ARよりも短いことが判る。
【0024】
ここで、地点「A」や地点「F」は、希望波(D波)と妨害波(U波)との比によって決定される。すなわち、ゾーンZ1においてLCX4からの電波が希望波(D波)である場合、ゾーンZ2からの電波は妨害波(U波)、つまりノイズとなる。ここで、ゾーンZ1とゾーンZ2との電界強度が等しくなる位置を地点「C」とすると、地点「C」では、D/U=0dBとなる。地点「C」から、図に向かって右方向、すなわち、LCX4の電波の電界強度が高くなる方向へ移動すると、LCX4の電波の電界強度は一定になる一方で、LCX6の電波の電界強度は徐々に小さくなるので、例えば、D/U=10dB、20dB、30dB・・・、と徐々にD/Uが大きくなる。このD/Uと、各変調方式における所要C/Nとが一致する地点を、図2では、地点「A」や地点「F」としている。
【0025】
図2では、地点「A」および「B」における電界強度の差R1を、変調方式Aでの所要C/Nとして模式的に示している。また、地点「F」および「G」における電界強度の差R3を、変調方式Cでの所要C/Nとして模式的に示している。
【0026】
ここで、変調方式の一例としては、例えば変調方式Aは所要C/Nが30dB程度の256QAMを使用し、変調方式Cは所要C/Nが15dB程度のQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)を使用することが考えられる。また、QPSKよりもさらに遅いBPSK(Binary Phase Shift Keying)使用することも考えられる。なお、上記所要C/Nの値は一例であり、受信側の性能等により変化する。
【0027】
図2より、図1に示した変調方式の切り替え地点は、地点「A」や地点「B」となり、地点「A」や地点「B」に達すると、「変調方式A」から「変調方式C」への切り替えを行う。
【0028】
このように切り替え地点を設定することで、電波干渉区間の影響を確実に排除できるとともに、遅い伝送速度で通信する区間が長くなり過ぎることを防止できる。
【0029】
なお、変調方式の切り替え処理には多少の時間がかかるため、走行速度に応じて、切り替え処理時間の分だけ早めに切り替え処理に入ることが効率的である。切り替え処理時間の分だけ早めに切り替え処理を開始することで、実際の切り替えを、より適切なタイミングで行うことができる。
【0030】
図3には、1つの無線フレームと、無線フレームを構成するタイムスロットの構成を示す。1つの基地局は複数の移動局と通信を行うため、フレームフォーマットは図3の(a)部に示すように時分割されて、複数のタイムスロットSLを有する構成となっている。このような構成を採ることで、例えば1つのタイムスロットでは移動局9(図1)と1対1で通信を行い、他のタイムスロットでは移動局99(図1)と1対1で通信を行うことが可能となる。また、いくつかのタイムスロット、例えば先頭のタイムスロットは、基地局と移動局間の無線アクセスの制御用信号の授受に使われることがある。なお、ここでは無線通信に必要な同期ワードは割愛している。
【0031】
図3において、1つのタイムスロットSLは、ヘッダ部分HPとデータ部分DPとに分かれており、ヘッダ部分HPは、最も受信しやすい、すなわち所要C/Nが小さい変調方式、例えば変調方式Cを用いて送信されており、ここにデータ部分DPの変調方式を指示する変調方式指示信号が含まれている。移動局の受信部では、タイムスロットSLのヘッダ部分HPで指示された変調方式に従ってデータ部分を復調する。このデータ部分DPの変調方式の指示を変更することで、基地局と移動局との通信において、変調方式を変更することができる。
【0032】
<移動局の装置構成>
次に、図4を用いて移動局9の装置構成について説明する。なお、装置構成は移動局10および99においても同じである。
【0033】
移動局9は、送信部91、受信部92および制御部93を備えている。送信部91および受信部92にはフィルタや分波器、分配器、合成器を含んだ高周波部(図示せず)を有している。
【0034】
受信部92は、アンテナ204を介して受信した基地局からのタイムスロットのヘッダ部分に含まれる変調方式の指示信号に従い、適応復調部921においてデータ部分の復調処理を行う。制御部93は受信部92からの復調データを車両内の運転室や車掌室の操作盤などの各種端末201に伝送し、各種端末からの信号のデータを変調信号として送信部91へ伝送する。また制御部93は、位置や速度をリアルタイムで管理している車両装置202から、位置情報や速度情報を得て、変調方式の切り替えタイミングを検出し、送信部91へ伝送するデータの中に、変調方式切替要求信号を含ませる。このため、制御部93は、本列車無線システムにおいて基地局間境界における変調方式を切り替えるべき位置を「位置データ」として記憶している。
【0035】
鉄道の場合、例えば、新幹線では、東京を起点とする線路の距離で設備の位置を管理しており、「XX駅−YY駅間の基地局間境界は123.456km地点である」という情報や、変調方式の切り替え地点の情報が「位置データ」として記憶されている。従って、距離計などにより自車両が路線のどこを走行中なのかの情報をリアルタイムに取得していれば、自車両の速度情報と合わせて、変調方式を切り替えるべきタイミングを算出(検出)することができる。なお、「位置データ」としては距離情報に限定されるものではなく、緯度、経度などのデータでも良い。その場合、移動局はGPS(Global Positioning System)を搭載することで、自車両の現在位置の緯度、経度を取得できる構成とすれば良い。
【0036】
送信部91は、各種データとともに、変調方式切替要求信号をアンテナ203を介して基地局に対して送信する。
【0037】
<基地局の装置構成>
次に、図5を用いて基地局1の装置構成について説明する。なお、装置構成は基地局2においても同じである。
【0038】
基地局1は、送信部11、受信部12、制御部13および高周波部14を備えている。受信部12は、LCX4および5を介して受信した移動局からの信号を復調し、復調信号を制御部13へ伝送する。なお、変調方式切替要求信号がある場合には、それも復調して制御部13へ伝送する。
【0039】
制御部13は、移動局に送信すべき信号を変調信号として送信部11に伝送するとともに、変調方式切替要求信号を受けた場合には、送信部11に対して変調方式を指示する変調方式指示信号を伝送する。
【0040】
送信部11は、制御部13からの変調方式指示に従い、タイムスロットのヘッダ部分に変調方式の指示信号を含ませ、データ部分は適応変調部111においてその変調方式で変調して、高周波部14からLCX4および5を介して移動局へ送信する。高周波部14は、フィルタや分波器、分配器、合成器などを含んでいる。
【0041】
なお、制御部13から送信部11への変調方式の切り替えを指示する代わりに、制御部13がタイムスロットのヘッダ部に直接に変調方式指示信号を含ませる構成としても良い。
【0042】
なお、基地局1は、複数の移動局と同時に通信を行うため、制御部13に含まれている移動局管理部131で各移動局と各タイムスロットの関連付けを随時行っている。
【0043】
<変調方式の切り替え処理>
以上説明した、列車無線システムを採用した場合の基地局境界付近における変調方式の切り替え処理の流れを、図2〜図5を参照しつつ図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0044】
移動局9(図6では単に移動局と記載)は、車両装置202(図4)から周期的に位置情報を確認し(ステップS1)、自車両が存在している位置が所定の基地局間境界付近、すなわち図2におけるA地点に到達したか否かを検出する(ステップS2)。なお、検出周期は一定間隔でなくても良く、走行速度や位置情報により可変としても良い。
【0045】
移動局9は制御部93(図4)内に基地局間境界がどこにあるかの位置データを有しており、移動局9は、図2における地点「A」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達すると、基地局1に対して変調方式Cへの切り替えを要求する変調方式切替要求信号を送信する(ステップS3)。
【0046】
これを受けた基地局1は、移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Cに変更する(ステップS4)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Cを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Cで変調して送信する。なお、ヘッダ部分HPは常に変調方式Cで変調している。これにより、基地局1から移動局9への通信(下り方向)は、基地局間境界付近においては変調方式Cで通信を行うこととなる(ステップS5)。
【0047】
移動局9は、変調方式を切り替えるべき位置より処理時間の分だけ手前の地点で変調方式切替要求信号を送信するので、基地局1から変調方式が変更されたタイムスロットのデータが送信されて来るタイミングは、移動局9が変調方式を切り替えるべき位置に達したタイミングと一致することとなる。そのため、変調方式を切り替えるべき位置より処理時間の分だけ手前の地点を検出する動作は、移動局9(自車両)が基地局間境界付近の所定位置に達するタイミングを検出する動作ということができる。
【0048】
移動局9が移動して、地点「C」でゾーンZ1からゾーンZ2へ移るが(基地局1から基地局2にハンドオーバーするが)、基地局2から移動局9への通信(下り方向)は、変調方式Cを維持している(ステップS6)。
【0049】
移動局9は、車両装置202(図4)から周期的に位置情報を確認し(ステップS7)、自車両が存在している位置が所定の基地局間境界付近、すなわち図2におけるB地点に到達したか否かを検出する(ステップS8)。
【0050】
移動局9が地点「B」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達すると、基地局2に対して変調方式Aへの切り替えを要求する変調方式切替要求信号を送信する(ステップS9)。
【0051】
これを受けた基地局2は、移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Aに変更する(ステップS10)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Aを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Aで変調して送信する。
【0052】
これにより、基地局2から移動局9への通信(下り方向)は、地点「B」通過後、変調方式Aで通信を行うこととなる(ステップS11)。基地局間境界を通過した後は、伝送速度の速い通信に戻ることで、列車無線システム全体の伝送速度の高速化を妨げることがない。
【0053】
変調方式Aに変更した後は、次の基地局間境界付近に達するまで変調方式Aを維持する。
【0054】
上記説明では、ゾーンZ1からゾーンZ2に移動する移動局9を例に採って説明したが、逆方向に走行する移動局10の場合は、地点「A」と地点「B」、基地局1と基地局2とが逆の順番で説明されるだけであり、処理手順は同じである。
【0055】
以上のように、移動局から基地局に対して変調方式の切り替え要求を行う移動局主導の列車無線システムを採用することで、移動局が基地局間境界付近に到達するタイミングの検出の精度を高めることができる。
【0056】
<実施の形態2>
以上説明した実施の形態1に係る列車無線システムは、移動局から基地局に対して変調方式の切り替え要求を行う移動局主導のシステムであったが、実施の形態2に係る列車無線システムでは、基地局主導で変調方式を切り替える構成となっている。
【0057】
<移動局の装置構成>
図7は、実施の形態2に係る列車無線システムを構成する移動局9の装置構成図である。なお、装置構成は移動局10および99においても同じである。
【0058】
移動局9の構成は基本的には図4と同じであるが、制御部93は「位置データ」を記憶する構成とはなっておらず、変調方式切替要求信号も出力せず、移動局に送信すべき信号のデータを変調信号として送信部91に与える構成となっている。
【0059】
<基地局の装置構成>
図8は、実施の形態2に係る列車無線システムを構成する基地局1の装置構成図である。なお、装置構成は基地局2においても同じである。
【0060】
基地局1の構成は基本的に図5と同じであるが、制御部13は、本列車無線システムにおいて基地局間境界における変調方式を切り替えるべき位置を「位置データ」として記憶している。
【0061】
この「位置データ」には、東京を起点とする距離の情報や変調方式の切り替え地点の情報が記憶されていると言う点では、図4の移動局における「位置データ」と同じである。
【0062】
制御部13では、移動局9から周期的に送信されてくる位置情報によって、移動局9の存在位置をほぼリアルタイムに把握し、その位置の変化から速度を推測することで変調方式を切り替えるべきタイミングを算出することができる。
【0063】
なお、移動局9から送信される位置情報は、距離情報に限定されるものではなく、移動局9に搭載されたGPSにより取得された緯度、経度などのデータでも良い。その場合、「位置データ」には緯度、経度で表された変調方式を切り替えるべき位置の情報を含んでいるものとする。
【0064】
基地局に位置データを記憶していることで、位置データに変更があった場合、中央装置(図1)等を介して容易に位置データの更新が可能となる。
【0065】
<変調方式の切り替え処理>
以上説明した、列車無線システムを採用した場合の基地局境界付近における変調方式の切り替え処理の流れを、図2、図3、図7および図8を参照しつつ図9に示すフローチャートを用いて説明する。
【0066】
移動局9(図9では単に移動局と記載)は、車両装置202(図7)から周期的に位置情報を取得し、基地局1へ送信している。基地局1は、移動局9からの位置情報を確認することで移動局9の存在位置をほぼリアルタイムに把握する(ステップS11)。そして、移動局9が存在している位置が所定の基地局間境界付近、すなわち図2におけるA地点に到達したか否かを検出する(ステップS12)。すなわち、基地局1は制御部13(図8)内に基地局間境界がどこにあるかの位置データを有しており、また移動局9の存在位置の変化から速度も推測できるため、移動局9が、図2における地点「A」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達するタイミングを検出でき、そのタイミングに合わせて移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Cに変更する(ステップS13)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Cを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Cで変調して送信する。なお、ヘッダ部分HPは常に変調方式Cで変調している。
【0067】
これにより、基地局1から移動局9への通信(下り方向)は、基地局間境界付近においては変調方式Cで通信を行うこととなる(ステップS14)。
【0068】
移動局9が移動して、地点「C」でゾーンZ1からゾーンZ2へ移るが(基地局1から基地局2にハンドオーバーするが)、基地局2から移動局9への通信(下り方向)は、変調方式Cを維持している(ステップS15)。
【0069】
基地局2は、移動局9からの位置情報を確認し(ステップS16)、移動局9が所定の基地局間境界付近、すなわち図2における地点「B」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達したか否かを検出する(ステップS17)。
【0070】
そして、B地点に到達するタイミングに合わせて移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Aに変更する(ステップS18)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Aを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Aで変調して送信する。これにより、基地局2から移動局9への通信(下り方向)は、基地局間境界外においては変調方式Aで通信を行うこととなる(ステップS19)。
【0071】
基地局間境界を通過した後は、伝送速度の速い通信に戻ることで、列車無線システム全体の伝送速度の高速化を妨げることがない。
【0072】
変調方式Aに変更した後は、次の基地局間境界付近に達するまで変調方式Aを維持する。
【0073】
上記説明では、ゾーンZ1からゾーンZ2に移動する移動局9を例に採って説明したが、逆方向に走行する移動局10の場合は、地点「A」と地点「B」、基地局1と基地局2とが逆の順番で説明されるだけであり、処理手順は同じである。
【0074】
<実施の形態3>
<システム構成>
以下、図10〜図12を用いて本発明に係る列車無線システムの実施の形態3について説明する。図10は実施の形態3に係る列車無線システムの構成を示す概念図であり、図1を用いて説明した実施の形態1の列車無線システムよりも、より細かく変調方式を切り替えることを特徴としている。
【0075】
図10に示す列車無線システムにおいては、基地局間境界8では変調方式Cを使用し、基地局間境界8付近では変調方式Cよりも伝送速度が早く、変調方式Aよりは伝送速度が遅い変調方式Bを使用することで、変調方式を段階的に切り替える構成を採用する。すなわち、移動局9が基地局間境界8付近に達すると、変調方式Aから変調方式Bに切り替え、移動局が基地局間境界8に達すると変調方式Bから変調方式Cに切り替える構成を採用する。
【0076】
これにより、伝送速度を段階的に変更することが可能となり、急激に伝送速度が変わることによる不具合を軽減することができる。
【0077】
基地局間境界8を通過した後は、変調方式Bを経て変調方式Aに戻す。これは、他の移動局99にも適用でき、また、ゾーンZ2からゾーンZ1方向に走行する移動局10においても適用できる。
【0078】
図10においては、変調方式Aを使用する領域を変調方式A領域として示し、変調方式Bを使用する領域を変調方式B領域として示し、変調方式Cを使用する領域を変調方式C領域として示している。変調方式C領域は、基地局間境界8のほぼ中央部の領域に設定されている。
【0079】
なお、移動局および基地局の構成は、それぞれ図4および図5を用いて説明した構成と同じであり、移動局から基地局に対して変調方式の切り替え要求を行う移動局主導のシステムである。
【0080】
次に、図11を用いて基地局間境界付近における無線の電波干渉状態を説明する。図1においては、ゾーンZ1に含まれるLCX4およびゾーンZ2に含まれるLCX6を例示しており、ゾーンZ1おけるLCX4の電波の電界強度特性を特性E1として示し、ゾーンZ2おけるLCX6の電波の電界強度特性を特性E2として示している。
【0081】
特性E1およびE2は、LCXの延在方向をX軸とし、Y軸に電界強度を示しており、何れも、自らのゾーン内では一定の電界強度を有し、基地局間境界に近づくにつれて電界強度が低下し始めるが、隣接するゾーンに入っても電界強度は急速に0となるのではなく、徐々に低下する特性となっている。このため、LCX4およびLCX6からの電波が、それぞれ相手側の電波と干渉する電波干渉区間が存在している。
【0082】
電波干渉区間の長さは変調方式によって異なり、例えば、高速の伝送速度に対応した「変調方式A」では、信号を正しく受信するための所要C/Nは、変調方式BおよびCと比較して大きい必要がある。このため、「変調方式A」での電波干渉区間ARは地点「A」から地点「B」の間となる。一方、「変調方式B」では、所要C/Nが、変調方式Aと比較すると小さくて済むので、「変調方式B」での電波干渉区間BRは、地点「D」から地点「E」となり、電波干渉区間ARよりも短いことが判る。また、「変調方式C」では、所要C/Nが、変調方式Bよりも小さくて済むので、「変調方式C」での電波干渉区間CRは、地点「D」から地点「E」となり、電波干渉区間BRよりも短いことが判る。
【0083】
図11では、地点「A」および「B」における電界強度の差R1を、変調方式Aでの所要C/Nとして模式的に示している。また、地点「D」および「E」における電界強度の差R2を、変調方式Bでの所要C/Nとして模式的に示し、地点「F」および「G」における電界強度の差R3を、変調方式Cでの所要C/Nとして模式的に示している。
【0084】
図11より、図10に示した変調方式の第1の切り替え地点は、地点「A」や地点「B」となり、地点「A」や地点「B」に達すると、「変調方式A」から「変調方式B」への切り替えを行う。また、変調方式の第2の切り替え地点は、地点「D」や地点「E」となり、地点「D」や地点「B」に達すると、「変調方式B」から「変調方式C」への切り替えを行う。
【0085】
ここで、変調方式の一例としては、例えば変調方式Aは所要C/Nが30dB程度の256QAMを使用し、変調方式Bは所要C/Nが25dB程度の64QAMあるいは所要C/Nが20dB程度の16QAMを使用し、変調方式Cは所要C/Nが15dB程度のQPSKを使用することが考えられる。なお、上記所要C/Nの値は一例であり、受信側の性能等により変化する。
【0086】
変調方式Aとして256QAMを使用した場合、基地局間境界外においては、256QAMを使用することで伝送速度が早くなり、通信の品質を高めることができる。
【0087】
<変調方式の切り替え処理>
以上説明した、列車無線システムを採用した場合の基地局境界付近における変調方式の切り替え処理の流れを、図3〜図5および図11を参照しつつ図12に示すフローチャートを用いて説明する。
【0088】
移動局9(図12では単に移動局と記載)は、車両装置202(図4)から周期的に位置情報を確認し(ステップS21)、自車両が存在している位置が所定の基地局間境界付近、すなわち図11におけるA地点に到達したか否かを検出する(ステップS22)。なお、検出周期は一定間隔でなくても良く、走行速度や位置情報により可変としても良い。
【0089】
移動局9は、図11における地点「A」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達すると、基地局1に対して変調方式Bへの切り替えを要求する変調方式切替要求信号を送信する(ステップS23)。
【0090】
これを受けた基地局1は、移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Bに変更する(ステップS24)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Bを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Bで変調して送信する。なお、ヘッダ部分HPは常に変調方式Cで変調している。これにより、基地局1から移動局9への通信(下り方向)は、基地局間境界付近においては変調方式Bで通信を行うこととなる(ステップS25)。
【0091】
移動局9は、車両装置202(図4)から周期的に位置情報を確認しており(ステップS26)、自車両が存在している位置が基地局間境界内、すなわち図11におけるD地点に到達したか否かを検出する(ステップS27)。
【0092】
移動局9は、図11における地点「D」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達すると、基地局1に対して変調方式Cへの切り替えを要求する変調方式切替要求信号を送信する(ステップS28)。
【0093】
これを受けた基地局1は、移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Cに変更する(ステップS29)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Cを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Cで変調して送信する。これにより、基地局1から移動局9への通信(下り方向)は、基地局間境界内においては変調方式Cで通信を行うこととなる(ステップS30)。
【0094】
移動局9が移動して、地点「C」でゾーンZ1からゾーンZ2へ移るが(基地局1から基地局2にハンドオーバーするが)、基地局2から移動局9への通信(下り方向)は、変調方式Cを維持している(ステップS31)。
【0095】
移動局9は、車両装置202(図4)から周期的に位置情報を確認しており(ステップS32)、移動局9がさらに移動して地点「E」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達すると(ステップS33)、基地局2に対して変調方式Bへの切り替えを要求する変調方式切替要求信号を送信する(ステップS34)。
【0096】
これを受けた基地局2は、移動局9との間で使用しているタイムスロットのみ変調方式Bに変更する(ステップS35)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Bを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Bで変調して送信する。
【0097】
これにより、基地局2から移動局9への通信(下り方向)は、地点「E」通過後、変調方式Bで通信を行うこととなる(ステップS36)。
【0098】
移動局9は、車両装置202(図4)から周期的に位置情報を確認しており(ステップS37)、移動局9がさらに移動して地点「B」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達すると(ステップS38)、基地局2に対して変調方式Aへの切り替えを要求する変調方式切替要求信号を送信する(ステップS39)。
【0099】
これを受けた基地局2は、移動局9との間で使用しているタイムスロットのみ変調方式Aに変更する(ステップS40)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Aを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Aで変調して送信する。
【0100】
これにより、基地局2から移動局9への通信(下り方向)は、地点「B」通過後、変調方式Aで通信を行うこととなる(ステップS41)。
【0101】
基地局間境界を通過した後は、伝送速度の速い通信に戻ることで、列車無線システム全体の伝送速度の高速化を妨げることがない。
【0102】
変調方式Aに変更した後は、次の基地局間境界付近に達するまで変調方式Aを維持する。
【0103】
上記においては、3つの変調方式を切り替える例を示したが、変調方式Cよりも所要C/Nの小さい変調方式が使える場合は、図11の地点「F」から「G」の区間を当該変調方式で通信するものとし、地点「A」と「F」との間に地点「D」以外の新たな地点を設定し、また地点「B」と「G」との間に地点「E」以外の新たな地点を設定することで、4つの変調方式を切り替える構成としても良く、さらに変調方式があるのであれば、5段階以上の切り替えを行うようにしても良い。
【0104】
<実施の形態4>
以上説明した実施の形態3に係る列車無線システムは、移動局から基地局に対して変調方式の切り替え要求を行う移動局主導のシステムであったが、実施の形態2と同様に、基地局主導で変調方式を切り替える構成としても良い。
【0105】
なお、移動局および基地局の構成は、それぞれ図7および図8を用いて説明した構成と同じであり、基地局主導で変調方式の切り替えを行う。
【0106】
<変調方式の切り替え処理>
基地局主導で変調方式の切り替えを行う列車無線システムを採用した場合の、多段階で変調方式の切り替えを行う処理の流れを、図3、図7、図8および図11、を参照しつつ図13に示すフローチャートを用いて説明する。
【0107】
移動局9(図13では単に移動局と記載)は、車両装置202(図7)から周期的に位置情報を取得し、基地局1へ送信している。基地局1は、移動局9からの位置情報を確認することで移動局9の存在位置をほぼリアルタイムに把握する(ステップS51)。
【0108】
そして、移動局9が存在している位置が所定の基地局間境界付近、すなわち図11におけるA地点に到達したか否かを検出する(ステップS52)。すなわち、基地局1は制御部13(図8)内に基地局間境界がどこにあるかの位置データを有しており、また移動局9の存在位置の変化から速度も推測できるため、移動局9が、図11における地点「A」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達するタイミングを検出でき、そのタイミングに合わせて移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Bに変更する(ステップS53)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Bを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Bで変調して送信する。なお、ヘッダ部分HPは常に変調方式Cで変調している。これにより、基地局1から移動局9への通信(下り方向)は、図11のAD間やEB間においては変調方式Bで通信を行うこととなる(ステップS54)。
【0109】
基地局1は、周期的に移動局9からの位置情報を確認しており(ステップS55)、移動局9が移動して、車両が存在している位置が基地局間境界内、すなわち図11におけるD地点に到達したか否かを検出する(ステップS56)。
【0110】
そして、図11における地点「D」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達するタイミングに合わせて移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Cに変更する(ステップS57)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Cを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Cで変調して送信する。これにより、基地局1から移動局9への通信(下り方向)は、基地局間境界内においては変調方式Cで通信を行うこととなる(ステップS58)。
【0111】
移動局9が移動して、地点「C」でゾーンZ1からゾーンZ2へ移るが(基地局1から基地局2にハンドオーバーするが)、基地局2から移動局9への通信(下り方向)は、変調方式Cを維持している(ステップS59)。
【0112】
基地局2は、周期的に移動局9からの位置情報を確認しており(ステップS60)、移動局9がさらに移動して地点「E」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達したか否かを検出する(ステップS61)。
【0113】
そして、E地点に到達するタイミングに合わせて移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Bに変更する(ステップS62)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Bを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Bで変調して送信する。これにより、基地局1から移動局9への通信(下り方向)は、図11のAD間やEB間においては変調方式Bで通信を行うこととなる(ステップS63)。
【0114】
基地局2は、周期的に移動局9からの位置情報を確認しており(ステップS64)、移動局9がさらに移動して、所定の基地局間境界付近、すなわち図11における地点「B」(正確には処理時間の分だけ手前の地点)に到達したか否かを検出する(ステップS65)。
【0115】
そして、B地点に到達するタイミングに合わせて移動局9との間で使用しているタイムスロットのみを変調方式Aに変更する(ステップS66)。具体的には、移動局9へ送信するタイムスロットのヘッダ部分HP(図3)に変調方式Aを指示する変調方式指示信号を含ませ、データ部分DP(図3)を変調方式Aで変調して送信する。これにより、基地局1から移動局9への通信(下り方向)は、基地局間境界外においては変調方式Aで通信を行うこととなる(ステップS67)。
【0116】
基地局間境界を通過した後は、伝送速度の速い通信に戻ることで、列車無線システム全体の伝送速度の高速化を妨げることがない。
【0117】
変調方式Aに変更した後は、次の基地局間境界付近に達するまで変調方式Aを維持する。
【0118】
上記説明では、ゾーンZ1からゾーンZ2に移動する移動局9を例に採って説明したが、逆方向に走行する移動局10の場合は、地点「A」と地点「B」、基地局1と基地局2とが逆の順番で説明されるだけであり、処理手順は同じである。
【0119】
また、上記においては、3つの変調方式を切り替える例を示したが、変調方式Cよりも所要C/Nの小さい変調方式が使える場合は、図11の地点「F」から「G」の区間を当該変調方式で通信するものとし、地点「A」と「F」との間に地点「D」以外の新たな地点を設定し、また地点「B」と「G」との間に地点「E」以外の新たな地点を設定することで、4つの変調方式を切り替える構成としても良く、さらに変調方式があるのであれば、5段階以上の切り替えを行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0120】
1,2 基地局、4〜7 LCX、8 基地局間境界、9,10,99 移動局。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局を搭載した列車の走行路に対応させて無線エリアであるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局と前記移動局との間で漏洩同軸ケーブルを介して無線通信を行う列車無線システムであって、
前記基地局は、
前記移動局が基地局間境界付近の第1の地点に達した場合に、前記基地局から前記移動局への通信を、これまでに適用していた第1の変調方式よりも伝送速度の遅い第2の変調方式に切り替えて行うことを特徴とする、列車無線システム。
【請求項2】
前記移動局は、
前記列車から取得した前記列車の位置情報および速度情報と、自らが保持する前記基地局間境界の位置データとに基づいて、前記列車が前記第1の地点に達するタイミングを検出し、該タイミングに合わせて、前記基地局が前記第1の変調方式から前記第2の変調方式に通信切り替えて送信を行うように前記基地局に対して前記第2の変調方式への切り替えを要求する変調方式切替要求信号を送信し、
前記基地局は、
前記移動局からの前記変調方式切替要求信号を受けて、前記移動局に送信する送信信号のヘッダ部分に、前記送信信号のデータ部分の変調方式が前記第2の変調方式であることを指示する変調方式指示信号を含ませ、前記データ部分を前記第2の変調方式で変調して前記移動局に送信する、請求項1記載の列車無線システム。
【請求項3】
前記移動局は、
前記列車から周期的に取得した前記列車の位置情報を前記基地局に送信し、
前記基地局は、
前記移動局からの前記位置情報と、自らが保持する前記基地局間境界の位置データとに基づいて、前記列車が前記第1の地点に達するタイミングを検出し、該タイミングに合わせて、前記移動局に送信する送信信号のヘッダ部分に、前記送信信号のデータ部分の変調方式が、前記第2の変調方式であることを指示する変調方式指示信号を含ませ、前記データ部分を前記第2の変調方式で変調して前記移動局に送信する、請求項1記載の列車無線システム。
【請求項4】
前記基地局は、
前記移動局への通信を、前記第1の変調方式から前記第2の変調方式に切り替えた後、前記第1の地点に相対する第2の地点に達した後は、前記基地局から前記移動局への通信を、前記第1の変調方式に切り替えて行う、請求項1記載の列車無線システム。
【請求項5】
前記基地局は、
前記移動局への通信を、前記第1の変調方式から前記第2の変調方式に切り替えた後、前記第2の地点に達する前に、少なくとも1回、前記第2の変調方式よりもさらに伝送速度の遅い変調方式に切り替える、請求項4記載の列車無線システム。
【請求項6】
前記第1の変調方式は、256QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、64QAM、16QAMおよびQPSKの中から選択される、請求項1記載の列車無線システム。
【請求項7】
前記第1および第2の地点は、
前記基地局からの通信に、前記第1の変調方式を適用した場合に、互いに隣接するゾーンの電界が干渉し合う電波干渉区間の両端位置に相当する、請求項4記載の列車無線システム。
【請求項8】
移動局を搭載した列車の走行路に対応させて無線エリアであるゾーンが複数設定され、各ゾーンに含まれる基地局であって、
前記基地局は、前記移動局との間で漏洩同軸ケーブルを介して無線通信を行い、前記移動局が基地局間境界付近の第1の地点に達した場合に、これまでに適用していた第1の変調方式よりも伝送速度の遅い第2の変調方式に切り替えて前記基地局から前記移動局への通信を行うことを特徴とする、基地局。
【請求項9】
列車に搭載された移動局であって、
前記移動局は、
前記移動局を搭載した列車の走行路に対応させて無線エリアであるゾーンが複数設定され、前記移動局は各ゾーンに含まれる基地局との間で漏洩同軸ケーブルを介して無線通信を行い、
前記移動局が基地局間境界付近の第1の地点に達した場合に、前記基地局から前記移動局への通信が、これまでに適用していた第1の変調方式よりも伝送速度の遅い第2の変調方式に切り替えられた場合に、それに合わせて変調方式を変更することを特徴とする、移動局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−160806(P2012−160806A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17515(P2011−17515)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】