説明

制御システム

【課題】非干渉化器を作動させた状態で、実運転させて昇温させた場合に、制御対象の温度が低い領域では干渉を見越して操作量を少なくするようにフィードバックが作用するので、投入熱量が抑制されてしまう。その結果、実運転開始から目標温度までの昇温に時間がかかるため、昇温までの時間の短縮化を図る。
【解決手段】複数の制御手段と制御対象との間に、各制御量において、一方の制御量が他方の制御量に与える影響をなくすか低減するように処理する非干渉化手段を備え、非干渉化手段として、補償要素3bと減算器3dとの間の減算器側ラインおよび補償要素3bと加算器3cとの間の加算器側ラインに、補償要素3bからのフィードバック量を可変するフィードバック量可変手段3h3,3h4を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象や制御対象などのモデルに好適なモデル構造を用いた制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
入出力が複数点の干渉のある制御対象、すなわち、制御対象に入力される操作量と制御対象からの制御量とを複数備えるとともに、操作量と制御量との間に相互干渉が存在する制御対象を、非干渉化制御する公知技術として非干渉化PID制御があった。
【0003】
しかしながら、こうした非干渉化PID制御では、複数点の制御対象の各点間の温度差が大きいときには、干渉による熱の移動は大きく、各点間の温度差が小さいときには、干渉による熱の移動は小さいという関係が考慮されていないために、想定する制御対象モデルの誤差が大きく、そのために、非干渉化制御にも限界があった。
【0004】
そこで、本件出願人は、特願2003−289867で 非干渉化制御を行なう温度制御システムを提案した。この提案にかかる温度制御システムは、モデル構造を用いて非干渉化を行なうものであり、制御対象からの二つの検出温度と各目標温度との偏差に基づいて、操作量をそれぞれ演算出力する二つのPID制御手段と、両PID制御手段からの操作量を、モデル構造を用いて非干渉化するように処理して制御対象に対して出力する非干渉化器とを備えている。
【0005】
この非干渉化器は、制御対象のモデル構造の二つの出力の差を算出する減算器と、この減算器からの出力を、制御対象のモデル構造のフィードバック要素に対応する補償要素と、この補償要素の出力を入力される操作量に加算する加算器と、補償要素の出力を入力される操作量により減算する減算器と、を備え、干渉を打ち消す非干渉化を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開特開2004−094939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記本件出願人の出願にかかる温度制御システムでは、非干渉化器を作動させた状態で、実運転させて昇温させた場合に、制御対象の温度が低い領域では干渉を見越して操作量を少なくするようにフィードバックが作用するので、投入熱量が抑制されてしまう。その結果、実運転開始から目標温度までの昇温に時間がかかるという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、実運転開始から目標温度あるいは目標温度近傍から予め定めた所定温度分以上離れた温度から昇温させる場合にその昇温までの時間の短縮化を可能とするようにしたものである。
【0009】
なお、昇温ではなく、実運転開始から冷却させる場合も同様の課題があり、本発明では、この場合も上記同様に降温の時間の短縮化を可能とするようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明第1による制御システムは、制御対象からの複数の制御量と当該複数の制御量のそれぞれに対応して設定された複数の目標値との各偏差を演算する複数の加減算器と、これら加減算器からの各偏差に基づいて前記制御対象に操作量を出力制御する複数の制御手段とを具備した制御システムにおいて、
前記複数の制御手段と前記制御対象との間に、前記各制御量において、一方の制御量が他方の制御量に与える影響をなくすか低減するように処理する非干渉化手段を備え、
前記非干渉化手段は、制御対象モデルを用いて非干渉化を行うものであり、該制御対象モデルは、前記各制御量の差をフィードバックするフィードバック要素を含むと共に、このフィードバック要素からのフィードバック量を、前記一方の制御量に対応する操作量から減算し、また、前記他方の制御量に対応する操作量に加算するものであり、
前記非干渉化手段は、
前記各制御量の差を、前記フィードバック要素に対応してフィードバック量として出力する補償要素と、前記補償要素からのフィードバック量を前記一方の制御量に対応する操作量から減算する減算器と、前記フィードバック量を前記他方の制御量に対応する操作量に加算する加算器とを含み、かつ、前記補償要素と前記減算器との間の減算器側ラインおよび前記補償要素と前記加算器との間の加算器側ラインのうちの少なくとも一方のラインに、補償要素からの前記フィードバック量をオンオフしたり、あるいは可変したりするフィードバック量制御手段を備えた、ことを特徴とする。
【0011】
本発明第2による制御システムは、制御対象からの複数の制御量と当該複数の制御量のそれぞれに対応して設定された複数の目標値との各偏差を演算する複数の加減算器と、これら加減算器からの各偏差に基づいて前記制御対象に操作量を出力制御する複数の制御手段とを具備した制御システムにおいて、
前記複数の加減算器の前段側に、前記各制御量において、一方の制御量が他方の制御量に与える影響をなくすか低減するように処理する非干渉化手段を備え、
前記非干渉化手段は、制御対象モデルを用いて非干渉化を行うものであり、該制御対象モデルは、前記各制御量の差をフィードバックするフィードバック要素を含むと共に、このフィードバック要素からのフィードバック量を、前記一方の制御量に対応する操作量から減算し、また、前記他方の制御量に対応する操作量に加算するものであり、
前記非干渉化手段は、
前記各制御量の差を、前記フィードバック要素に対応してフィードバック量として出力する補償要素と、前記目標値から前記補償要素からのフィードバック量を減算する減算器と、前記目標値に前記補償要素からのフィードバック量を加算する加算器とを含み、かつ、前記補償要素と前記減算器との間の減算器側ラインおよび前記補償要素と前記加算器との間の加算器側ラインのうちの少なくとも一方のラインに、補償要素からの前記フィードバック量をオンオフしたり、あるいは可変したりするフィードバック量制御手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記フィードバック量制御手段は、前記制御量あるいはフィードバック量が予め定めた量を超えて離れているとき、非干渉化を抑制するよう制御する。
【0013】
好ましくは、前記フィードバック量制御手段は、当該制御システムの運転開始時間からの経過時間に基づいて非干渉化抑制の制御を行う。
【0014】
上記制御量は、温度、圧力、流量、速度あるいは液位などの種々の物理量の状態の制御量を含む。
【0015】
上記制御対象モデルは、制御対象や計測対象などの想定している対象をモデル化するのに必要なものをいう。このモデル要素は、物理量、例えば、温度、圧力、流量、速度あるいは液位を、その出力として把握できるものである。このモデル要素は、例えば、熱板の温度制御、容器の圧力制御、タンクの液位制御を想定すると、入力、例えば、熱流(熱量)、気流、液体流量に対して、出力を、物理量、例えば、温度、圧力、液位として与えるものであり、容量成分、例えば、熱容量、容器体積、タンク断面積を有するものである。
【0016】
したがって、容量成分を有するものを、モデル要素として把握することができ、例えば、熱容量の大きな金属製の支持構造体に固定された熱板によるウェハの熱処理を想定すると、熱容量を有する塊である熱板、ウェハ、支持構造体などをモデル要素として把握することができ、または、熱板を複数チャンネルのヒータで温度制御する場合には、各チャンネルのヒータに割当てられる熱板の各部分を、モデル要素として把握することができる。
【0017】
フィードバック要素は、制御量の差に係数値を乗じる要素であってもよいし、1次遅れ要素、あるいは、動特性を持たせた要素であってもよい。フィードバック要素は、干渉の度合いなどに応じて設定することができる。
【0018】
上記制御には、カスケード制御、モデル予測制御、スミス補償型制御等の各種の制御を含むものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、実運転から目的とする温度まで昇温あるいは冷却に要する時間の短縮化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の一つの実施の形態に係る制御対象モデルを示す図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態に係る温度制御システムの概略構成図である。
【図3】図3は図1の温度制御システムにおける制御対象と非干渉化器とのブロック構成を示す図である。
【図4】図4は従来の非干渉制御と本発明の非干渉制御との説明に用いる図である。
【図5】図5は別の非干渉化器のブロック構成を示す図である。
【図6】図6はさらに別の非干渉化器のブロック構成とその非干渉化器内のフィードバック量可変手段におけるゲイン−温度偏差の関係を示す図である。
【図7】図7はさらに別の非干渉化器のブロック構成とその非干渉化器内のフィードバック量可変手段におけるゲイン−温度偏差の関係を示す図である。
【図8】図8はさらに別の非干渉化器のブロック構成とその非干渉化器内のフィードバック量可変手段におけるゲイン−温度偏差の関係を示す図である。
【図9】図9は本発明の実施の形態において3チャンネルの温度制御システムを示す図である。
【図10】図10は本発明の他の実施の形態に係る温度制御システムの構成を示す図である。
【図11】図11は図10に対応する3チャンネルの温度制御システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る温度制御システムを説明する。温度制御対象となるモデル構造について図1を参照して説明する。実施の形態では制御量の一例として温度としているが、制御量が温度に限定されるものではない。また、実施の形態では温度を目的の温度まで所定温度以上離れている場合に、その目的の温度にまで昇温する場合を説明するが、冷却の場合も同様である。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る制御対象モデルのモデル構造のブロック線図である。実施の形態のモデル構造100は、2入力(u1,u2)2出力(z1,z2)の熱干渉系の制御対象の熱モデルであり、2chの制御対象モデルである。
【0023】
入力u1,u2としては、例えば、熱処理盤や熱処理炉などの制御対象をそれぞれ加熱する二つのヒータ出力である操作量MV1,MV2を、また、出力z1,z2としては、例えば、制御対象の温度をそれぞれ検出する二つの温度センサからの検出温度である制御量PV1,PV2を想定することができる。
【0024】
制御対象モデルのモデル構造100は、2出力z1,z2の差を、減算部102で算出し、フィードバック要素Pfを介して2入力u1,u2に、減算部103および加算部104を介して、正負を異ならせてそれぞれフィードバックするものである。
【0025】
P11,P22は、各入力u1,u2から各出力z1,z2への伝達関数である。この例では、熱処理盤や熱処理炉などの制御対象の二つのヒータに割当てられた部分、すなわち、各chに対応する制御対象が、熱容量を有するモデル要素としてそれぞれ把握されるものであり、各モデル要素は、伝達関数P11,P22として示されている。
【0026】
モデル構造100は、熱干渉系の熱モデルであり、温度差があるときに、熱量の移動が生じ、この熱量の移動は、温度差に比例するというフーリエの法則の意味するところと等価である。
【0027】
フーリエの法則は、例えば、「伝熱工学」、田坂英紀著、森北出版株式会社のp6より、熱移動量を決める重要な因子は、空間的な温度勾配であり、2点間の距離をΔx、2点間の温度差をΔTとすると、熱流束q(単位面積当たりの熱移動量)は、λを熱伝導率として、q=−λ(dT/dx)となる。
【0028】
フィードバック要素Pfがフーリエの法則の熱伝導率λに対応する。モデル構造100は、上述の各モデル要素の出力である2出力z1,z2の差、すなわち、温度差を、干渉の度合い等に対応するフィードバック要素Pfを介して各モデル要素の入力である2入力u1,u2、すなわち、熱量に対応する操作量に、正負を異ならせてそれぞれフィードバックするものであり、温度差によって、一方のchから他方のchへ熱量の移動が生じ、一方のchは熱量が奪われ(負)、他方のchには熱量が足される(正)という熱干渉の現象をブロック線図で表したものである。
【0029】
実施の形態の制御対象モデルのモデル構造100は、熱系の制御対象の干渉は、二つの温度があって、温度の差ができたときに、その温度差に比例した熱量の移動が起こるというフーリエの法則を意味している。フィードバック要素pfは、温度差によってどれだけ熱量が移動するかの比率であって、係数値であってもよいし、一次遅れ要素であってもよい。
【0030】
以下、図2以降を参照してモデル構造100を制御対象とした本実施の形態の温度制御システムを説明する。図2における温度制御システムにおいては、目標温度SP1,SP2と検出温度PV1,PV2とを加減算する加減算部1a,1bと、制御対象4からの二つの検出温度PV1,PV2と各目標温度SP1,SP2との偏差である加減算部1a,1b出力に基づいて、操作量MV1’,MV2’をそれぞれ演算出力する二つのPID制御部2a,2bと、両PID制御部2a,2bからの操作量MV1’,MV2’を、モデル構造100を用いて非干渉化するように処理して制御対象4に対して出力する非干渉化器3とを備えている。なお、加減算部1a,1bと、PID制御部2a,2bと、非干渉化器3と、でもって温度調節器5を構成する。
【0031】
本実施の形態における非干渉化器3の原理を図3、図4を参照して以下に説明する。
【0032】
なお、図4(a1)および図4(b1)の横軸は時間、縦軸は温度、図4(a2)、図4(b2)で横軸は時間、縦軸はスイッチ3eのオンオフ状態を示す。
【0033】
この非干渉化器3においては、本件出願人の特願2003−289867と同様に、制御対象のモデル構造の二つの出力PV1,PV2の差を算出する減算器3aと、この減算器3aからの出力を、制御対象のモデル構造100のフィードバック要素Pfに対応する補償要素3bと、この補償要素3bの出力を、入力される操作量MV1’,MV2’に、加算または減算する加算器3cおよび減算器3dを備えて、干渉を打ち消すよう動作(非干渉化動作)すると共に、補償要素3bと減算器3dとの間のライン内にフィードバック量制御手段としてスイッチ3eを具備し、補償要素3bと加算器3cとの間のライン内にはスイッチを設けず、そして、スイッチ3eのオンオフ(開閉)制御により実運転開始時において制御対象4の昇温を高速で行うことができるようにしている。
【0034】
すなわち、図4(a1)(a2)、図4(b1)(b2)を参照して、目標温度SP1,SP2=80℃で、かつ、検出温度PV1>検出温度PV2と仮定して、図4(a2)で示すように運転開始時点からスイッチ3eをオン(閉)して加算器3cと減算器3dに共に検出温度PV1,PV2の温度偏差がフィードバック入力されることで非干渉化処理している状態では、図4(a1)で示すように、検出温度PV1が早期に目標温度SP1=80℃に昇温しても、検出温度PV2がそれより遅れて目標温度SP2が80℃になる。すなわち、両目標温度SP1,SP2が共に目標温度80℃になるまでには120秒の時間がかかる。
【0035】
これは、スイッチ3eをオンにして非干渉化器3を作動させた状態で、実運転させて昇温させた場合、制御対象4の温度が低い領域(上記例では検出温度PV2の領域)では干渉を見越して操作量MV2を少なくするようなフィードバックが作用するので、上記領域への投入熱量が抑制されてしまい、その結果、上記領域が目標温度SP2に到達するまでの昇温に時間がかかるからである。
【0036】
これに対して、本実施の形態では、図4(b2)で示すように実運転の開始時点ではスイッチ3eをオフにすることで補償要素3bから検出温度PV1,PV2の温度偏差に対応する出力が加算器3cにフィードバック入力されても減算器3dへはフィードバック入力されなくすることで、図4(b2)で示すように検出温度PV1の領域は非干渉化されて検出温度PV2の領域の干渉を受けずに済む。このため検出温度PV1の領域は多めに加熱されて検出温度PV1が目標温度SP1を90秒以下の早い時間でオーバーした後、降温して90秒で80℃になる。
【0037】
一方、検出温度PV2の領域はスイッチ3eのオフで検出温度PV1の領域から非干渉化されず、干渉されるので検出温度PV2は目標温度SP2に図4(a1)の場合よりも30秒早い90秒で80℃に到達する。それ以降はスイッチ3eをオフにして全体を非干渉制御とする。その結果、図4(b2)のほうが図4(a1)よりも制御対象4全体が30秒早く目標温度に到達することとなる。
【0038】
以上では、フィードバック量制御手段であるスイッチ3eは、制御量である検出温度PV2が目標値である目標温度SP2またはこれに関連した温度から予め定めた所定温度以上離れているとき例えば実運転開示等、または、後述するフィードバック量(補償要素3bからのフィードバック入力の大きさ)が所定値を超えているときに、非干渉化を抑制するようオンオフする。また、上記温度ではなく、当該温度制御システムの運転開始時間からの経過時間に基づいてスイッチ3eをオンオフさせて非干渉化抑制の制御を行うようにしてもよい。
【0039】
なお、スイッチ3eは、図4(b2)のようにオンオフ制御することに限定するものではなく、スイッチ3eに代えて図5ないし図8で示すフィードバック量可変手段3hないし3h4でもよい。
【0040】
図5(a)に示す非干渉化器3においては、フィードバック量制御手段としてフィードバック量可変手段3hを備える。このフィードバック量可変手段3hは、図3と同様に、補償要素3bと減算器3dとの間のライン内に設け、補償要素3bと加算器3cとの間のライン内には設けていない。
【0041】
そして、このフィードバック量可変手段3hは、フィードバック入力検知手段3fと、フィードバック入力のゲイン(フィードバック量)切替手段3gとを含む。フィードバック入力検知手段3fは、目標温度SP2と検出温度PV2との温度偏差を検知し、その検知出力をゲイン切替手段3gに入力する。ゲイン切替手段3gは、図5(b)に示すゲイン−温度偏差関係により補償要素3bから減算器3dへのフィードバック量(フィードバック入力ゲイン)を切り替える。
【0042】
すなわち、実運転開始において制御対象4の温度立ち上げ時で目標温度SP2と検出温度PV2との温度偏差がt2以上に大きいとするフィードバック入力検知出力がフィードバック入力検知手段3fから与えられると、ゲイン切替手段3gはそれに対応して減算器3dへのフィードバック量(フィードバック入力ゲイン)をゲイン0に抑制して非干渉化を小さくし、これにより操作量MV2を大きくして検出温度PV1を目標温度SP1に早く昇温させる。
【0043】
そして、制御対象4の温度が立ち上って温度偏差がt1以下に小さくなったとするフィードバック入力検知出力がフィードバック入力検知手段3fから与えられると、ゲイン切替手段3gは、それに対応して減算器3dへのフィードバック入力ゲインをゲイン1に制御し、非干渉化制御させる。
【0044】
図5(b)の温度偏差t1とt2との間は、フィードバック量が可変する過渡期間を示す。
【0045】
図6(a)の非干渉化器3は別のフィードバック量可変手段3h1を備える。このフィードバック量可変手段3h1は、図3と同様に、補償要素3bと減算器3dとの間のライン内に設け、補償要素3bと加算器3cとの間のライン内には設けていない。そして、このフィードバック量可変手段3h1は、フィードバック入力検知手段3f1とゲイン切替手段3g1とを含む。図6(a)で示すフィードバック量可変手段3h1におけるフィードバック入力検知手段3f1は、フィードバック入力を検知し、その検知出力をゲイン切替手段3g1に入力する。ゲイン切替手段3gは、図6(b)で示すゲイン−フィードバック入力関係で補償要素3bからのフィードバック入力のゲインをゲイン0とゲイン1とに切り替える。
【0046】
すなわち、フィードバック入力が一定以上に大きいことがフィードバック入力検知手段3f1により検知され、その検知出力によりゲイン切替手段3g1は、減算器3dへのフィードバック入力ゲインをゲイン0に切り替えることで非干渉化を抑制し、これにより検出温度PV2が目標温度SP2に早く昇温できるようにし、フィードバック入力が一定以下に小さいことがフィードバック入力検知手段3f1により検知されると、ゲイン切替手段3g1は、減算器3dへのフィードバック入力ゲインをゲイン1に切り替えることで非干渉化制御を行わせる。図6(b)の温度偏差t1とt2との間は、フィードバック量が可変する過渡期間を示す。
【0047】
上記ではいずれもフィードバック量可変手段3h,3h1は補償要素3bと減算器3dとの間のライン内に設けたが、図7(a)で示すように補償要素3bとの加算器3cとの間のライン内にフィードバック量可変手段3h2を設けてもよい。この場合、フィードバック量可変手段3h2は、フィードバック入力検知手段3f2とゲイン切替手段3g2とで構成される。このゲイン切替手段3g2は、図7(b)で示すゲイン−温度偏差関係や、ゲイン−フィードバック入力関係のいずれの関係でゲインをゲイン0とゲイン1とに切り替えてよい。図7(b)の温度偏差t1とt2との間は、フィードバック量が可変する過渡期間を示す。
【0048】
フィードバック量可変手段3h2は、図5(b)や図6(b)のそれとは異なって、運転開始の立ち上げ時で目標温度SP2と検出温度PV2との温度偏差が一定以上のとき、または、フィードバック入力が一定以上に大きいときは、ゲイン切替手段3g2はゲイン1とし、一定以下のときはゲイン0に切り替える。
【0049】
以上では、上記ではフィードバック量可変手段3h,3h1,3h2は、補償要素3bとの加算器3cとの間のライン内、補償要素3bとの減算器3dとの間のライン内のいずれか一方内であった。
【0050】
これに対して、図8(a)で示すように補償要素3bと加算器3cとの間のライン内と、補償要素3bと減算器3dとの間のライン内双方に配置してもよい。
【0051】
すなわち、図8(a)では、補償要素3bと加算器3cとの間のライン内にはフィードバック量可変手段3h3、補償要素3bと減算器3dとの間のライン内にはフィードバック量可変手段3h4を設ける。
【0052】
フィードバック量可変手段3h3は、フィードバック入力検知手段3f3とゲイン切替手段3g3とを含み、フィードバック量可変手段3h4は、フィードバック入力検知手段3f4とゲイン切替手段3g4とを含む。
【0053】
ゲイン切替手段3g3は、図8(b1)のゲイン−フィードバック入力関係で、ゲイン切替手段3g4は、図8(b2)のゲイン−フィードバック入力関係でゲインを切り替える。図3ないし図7でのゲイン−温度偏差関係、ゲイン−フィードバック入力関係は、検出温度PV1>検出温度PV2が前提であったが、図8(b1)(b2)ではその前提はなく、検出温度PV1>検出温度PV2の場合、その逆の場合を含む。
【0054】
図8(b1)(b2)のゲイン−フィードバック入力関係において、検出温度PV1>PV2の関係領域での図8(b1)のゲイン1、図8(b2)のゲイン0は非干渉化抑制である。また、検出温度PV1<PV2の関係領域での図8(b1)のゲイン0、図8(b2)のゲイン1は非干渉化抑制である。図8(b1)(b2)のゲイン2は非干渉化である。
【0055】
図8(b1)では検出温度PV1>PV2においてフィードバック入力がt1以上であれば、ゲイン1、検出温度PV1<PV2においてフィードバック入力がt2以下であれば、ゲイン0、フィードバック入力がt2´とt1´の間であれば、ゲイン2とする。ゲイン2の幅すなわちt2´とt1´の間は、検出温度PV1,PV2が目標温度SP1,SP2から或る一定の温度範囲では非干渉化するように定めることができる。
【0056】
図8(b2)では検出温度PV1>PV2においてフィードバック入力がt1以上であれば、ゲイン0、検出温度PV1<PV2においてフィードバック入力がt2以下であれば、ゲイン1、フィードバック入力がt2´とt1´の間であれば、ゲイン2とする。この場合のゲイン2の幅すなわちt2´とt1´の間も、検出温度PV1,PV2が目標温度SP1,SP2から或る一定の温度範囲では非干渉化するように定めることができる。
フィードバック量可変手段3h3は、検出温度PV1,PV2の温度偏差のフィードバック入力がプラス側(検出温度PV1>検出温度PV2)一定値以上に大きい場合はフィードバック入力ゲインをゲイン1に切り替え、検出温度PV1,PV2の温度偏差のフィードバック入力がマイナス側(検出温度PV1<検出温度PV2)一定値以上に大きい場合はフィードバック入力ゲインをゲイン0に切り替えて非干渉化を抑制し、上記プラス側一定値とマイナス側一定値との間ではゲイン2に切り替えて非干渉化制御を行う。
【0057】
フィードバック量可変手段3h4は、検出温度PV1,PV2の温度偏差のフィードバック入力がプラス側(検出温度PV1>検出温度PV2)一定値以上に大きいか、マイナス側(検出温度PV1<検出温度PV2)一定値以上に大きい場合は、ゲインを0または1に切り替えて非干渉化を抑制し、上記プラス側一定値とマイナス側一定値との間ではゲイン2に切り替えて非干渉化制御を行う。
【0058】
以上では2チャンネルであったが、図9で示すように3チャンネルでもよい。図9を参照して、SP1−SP3は目標温度、PV1−PV3は検出温度、C1−C3は、PID制御部、H1−H3は操作量からヒータ発熱量への変換係数、Hs1−Hs3は伝達関数、SWはゲイン切替手段、β12−β13はフィードバック要素、H1−1−H3−1は操作量からヒータ発熱量への変換係数の逆数、FCP,FCNはフィードバック入力検知手段である。加減算部は特に符号を付けていない。図9の3チャンネルは2チャンネルと同様であるから、特にその詳細な説明は略する。
【0059】
図10は、本実施の形態における非干渉化器のもう1つの原理に関わるブロック図を示す。この非干渉化器30は、加減算部1a,1bの前段に挿入される。この非干渉化器30は、減算器30aと、補償要素30bと、スイッチ30cと、PID−1制御部30d,30eと、減算器30f,30gとを備える。この場合の非干渉の原理は、上記とほぼ同様である。なお、PID−1制御部30d,30eを挿入しているのはPID制御部2a,2bでのPID制御の影響をなくすためである。このスイッチ30cは、フィードバック量制御手段である。このスイッチ30cのオンオフ制御は、図3のスイッチ3eと同様である。目標値SP1,SP2は非干渉化器30により、それぞれ、目標値SP1´,SP2´に制御される。スイッチ30cのオンオフ(開閉)制御により実運転開始時において制御対象4の昇温を高速で行うことができる。
【0060】
なお、図10は2チャンネルであるが、3チャンネルの場合を図11に示す。図11において図9と対応する部分には同一の符号を付している。なお、C1−1、C2−1、C3−1は、図10の30d,30eに対応する。図11の3チャンネルは図10の2チャンネルと同様であるから、特にその詳細な説明は略する。
【符号の説明】
【0061】
3 非干渉化器
3c 加算器
3d 減算器
3e スイッチ
3f フィードバック入力検知手段
3g ゲイン切替手段
3h−3h4 フィードバック量可変手段
4 制御対象
5 温度調節器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象からの複数の制御量と当該複数の制御量のそれぞれに対応して設定された複数の目標値との各偏差を演算する複数の加減算器と、これら加減算器からの各偏差に基づいて前記制御対象に操作量を出力制御する複数の制御手段とを具備した制御システムにおいて、
前記複数の制御手段と前記制御対象との間に、前記各制御量において、一方の制御量が他方の制御量に与える影響をなくすか低減するように制御対象モデルを用いて非干渉化処理する非干渉化手段を備え、
前記制御対象モデルは、前記各制御量の差をフィードバックするフィードバック要素を含むと共に、このフィードバック要素からのフィードバック量を、前記一方の制御量に対応する操作量から減算し、また、前記他方の制御量に対応する操作量に加算するものであり、
前記非干渉化手段は、
前記各制御量の差を、前記フィードバック要素に対応してフィードバック量として出力する補償要素と、前記補償要素からのフィードバック量を前記一方の制御量に対応する操作量から減算する減算器と、前記フィードバック量を前記他方の制御量に対応する操作量に加算する加算器とを含み、かつ、前記補償要素と前記減算器との間の減算器側ラインおよび前記補償要素と前記加算器との間の加算器側ラインのうちの少なくとも一方のラインに、補償要素からの前記フィードバック量をオンオフしたり、あるいは可変したりするフィードバック量制御手段を備えた、ことを特徴とする制御システム。
【請求項2】
制御対象からの複数の制御量と当該複数の制御量のそれぞれに対応して設定された複数の目標値との各偏差を演算する複数の加減算器と、これら加減算器からの各偏差に基づいて前記制御対象に操作量を出力制御する複数の制御手段とを具備した制御システムにおいて、
前記複数の加減算器の前段側に、前記各制御量において、一方の制御量が他方の制御量に与える影響をなくすか低減するように制御対象モデルを用いて非干渉化処理する非干渉化手段を備え、
前記制御対象モデルは、前記各制御量の差をフィードバックするフィードバック要素を含むと共に、このフィードバック要素からのフィードバック量を、前記一方の制御量に対応する操作量から減算し、また、前記他方の制御量に対応する操作量に加算するものであり、
前記非干渉化手段は、
前記各制御量の差を、前記フィードバック要素に対応してフィードバック量として出力する補償要素と、前記目標値から前記補償要素からのフィードバック量を減算する減算器と、前記目標値に前記補償要素からのフィードバック量を加算する加算器とを含み、かつ、前記補償要素と前記減算器との間の減算器側ラインおよび前記補償要素と前記加算器との間の加算器側ラインのうちの少なくとも一方のラインに、補償要素からの前記フィードバック量をオンオフしたり、あるいは可変したりするフィードバック量制御手段を備えた、ことを特徴とする制御システム。
【請求項3】
前記フィードバック量制御手段は、前記制御量あるいはフィードバック量が予め定めた量を超えて離れているとき、非干渉化を抑制するよう制御する、請求項1または2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記フィードバック量制御手段は、当該制御システムの運転開始時間からの経過時間に基づいて非干渉化抑制の制御を行う、請求項1または2に記載の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−186589(P2011−186589A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48946(P2010−48946)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】