説明

制御弁式鉛蓄電池

【課題】 高温雰囲気下で使用される制御弁式鉛蓄電池の信頼性の向上を図る。
【解決手段】 電槽1のセルに収納された極群3に電解液が保持され、実質的に流動する電解液を持たない制御弁式鉛蓄電池において、前記電槽1の開口部を覆う蓋2が、その内面に突起20を有しており、かつ前記突起20の頂点が、極群のストラップ31、32とセル間接続部の上方の対向しない位置に設けられてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制御弁式鉛蓄電池に関するもので、さらに詳しく言えば、高温雰囲気下で使用される制御弁式鉛蓄電池における、極群のストラップとセル間接続部の腐食防止に寄与できる構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御弁式鉛蓄電池は、電槽に収納された極群に電解液が保持されていて、実質的に流動する電解液を有していないため、従来の液式電池のように、極群のストラップとセル間接続部が電解液中に没していない。そのため、近年の使用される許容温度範囲の拡大傾向に対し、新たな問題が生起してきている。すなわち、充電時の極群温度に対して使用環境温度が低いと、電池内で発生した水蒸気によって蓋の内面で結露を生じることによる問題である。
【0003】
たとえば、制御弁式鉛蓄電池では、極群に大部分の電解液が保持されていて遊離電解液の量が制限されていることから、極群に保持された電解液が減少すると、直ちに放電性能の低下に至ることから、このような電解液の減少を抑制するのに種々の手段が講じられてきた(特許文献1)。
【特許文献1】実願昭58−118202号(実開昭60−26761号)のマイクロフィルム
【0004】
上記特許文献1には、極群に保持された電解液の一部が蓋体の下面に水滴として付着することによる電解液の減少を抑えること、すなわち、蓋体の下面に水平面に対して傾斜した内面を有する凹部を形成し、該凹部に付着した水滴を傾斜に沿って流落させて電槽内に戻すことが開示されているが、単に、蓋体の下面に付着した水滴を電槽内に戻して放電性能の低下を抑制することが開示されているに過ぎない。
【0005】
腐食防止に関しては、陽極柱と蓋体との接合部で蓋体内面及び電槽壁内面に付着した電解液(希硫酸)を介して陽極酸化電流が流れることに起因することを開示したものがある(特許文献2)。
【特許文献2】実公昭56−34702号公報
【0006】
上記特許文献2には、陽極柱と蓋体との接合部において電解液(希硫酸)を介して流れる陽極酸化電流が該接合部を腐食させないようにすることが開示されているが、電解液中に没していないストラップあるいはセル間接続部の露出部の腐食に言及したものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記各特許文献に開示あるいは示唆のない腐食、すなわち、制御弁式鉛蓄電池において、結露によって生成した水がストラップあるいはセル間接続部の露出部に滴下すると、該部位の腐食が進行することに着目してなされたもので、その腐食のメカニズムを解明して、このような腐食防止に寄与できる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した課題に鑑み、電槽のセルに収納された極群に電解液が保持され、実質的に流動する電解液を持たない制御弁式鉛蓄電池において、前記電槽の開口部を覆う蓋が、その内面に突起を有しており、かつ前記突起の頂点が、極群のストラップとセル間接続部の上方の対向しない位置に設けられていることを特徴(請求項1)とし、また、前記制御弁式鉛蓄電池において、蓋の内面にテーパ部が形成され、該テーパ部に前記突起を有しており、該テーパ部は前記突起の付け根部分が極群に近接している形状であることを特徴とする(請求項2)。
【発明の効果】
【0009】
上記した腐食のメカニズムは、解明の結果、ストラップあるいはセル間接続部の露出部に結露による水がストラップあるいはセル間接続部の露出部に滴下すると、その部分で鉛の溶解析出反応が起こって水酸化鉛が生成し、この水酸化鉛によってアルカリ性に変化し、さらに生成した水酸化鉛が正極電位によって酸化されてα−PbO2に変化(腐食)するという過程を経ることが明らかになり、このようにストラップあるいはセル間接続部の露出部の腐食が徐々に進行すると、該部位の強度の低下を招いて、これらを破断に至らせることになるので、上記のような構成にすることにより、結露による水がストラップあるいはセル間接続部の露出部に滴下しないようにでき、腐食防止が図れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を、その実施形態に基づいて説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る制御弁式鉛蓄電池の模式図である。1は電槽、2は前記電槽1の開口部を覆う蓋、3は前記電槽1内の一つのセルに収納された極群を示しており、該極群3の上方に極群3中の正極板の耳を集合させた正極ストラップ31と負極板の耳を集合させた負極ストラップ32が設けられ(なお、該セルが端セルの場合は、正極ストラップ31または負極ストラップ32は外部端子に接続され、負極ストラップ32または正極ストラップ31は紙面と垂直の片方向に隣接する他のセルの異極性のストラップにセル間接続部を介して接続されており、該セルが中間セルの場合は、正極ストラップ31、負極ストラップ32はいずれも紙面と垂直の両方向に隣接する他のセルの異極性のストラップにセル間接続部を介して接続されている)、前記蓋2は、その内面に突起20が設けられており、かつ前記突起20の頂点が、前記正極ストラップ31、負極ストラップ32あるいは紙面と垂直の方向に正極ストラップ31、負極ストラップ32と重なって位置するセル間接続部の上方の対向しない位置に設けられるようにしている。
【0012】
上記実施形態1では、突起20は、正極ストラップ31と電槽内壁との間、正極ストラップ31と負極ストラップ32との間および負極ストラップ32と電槽内壁との間の3か所に設けているが、いずれか1か所または2か所に設けてもよい。なお、突起20としては、蓋2の内面に、紙面と垂直の方向にセル幅とほぼ等しい長さの三角柱状に設けたり、円錐状または角錐状のものを断続的に設けたり、といった形状にすることができるが、これに限定されるものではない。
【0013】
(実施形態2)
図2は本発明の実施形態2に係る制御弁式鉛蓄電池の模式図で、図1と同じ部位には同じ符号を付してある。この実施形態2では、蓋2の内面にテーパ部21が形成され、該テーパ部21に突起20を有しており、該テーパ部21は前記突起20の付け根部分が極群に近接するようにしている。
【0014】
上記実施形態2では、突起20は、正極ストラップ31と負極ストラップ32との間の1か所とテーパ部21を設けているが、正極ストラップ31と電槽内壁との間あるいは負極ストラップ32と電槽内壁との間に、実施形態1と同様の突起を設けるようにしてもよく、これらの突起についても、蓋2の内面にテーパ部を設け、該テーパ部を突起の付け根部分が極群3に近接するようにしてもよい。なお、突起の形状についても、実施形態1と同様に考えることができる。
【0015】
次に、上記した実施形態1に係る6AHの鉛蓄電池(本発明品)と、突起20が設けられていない6AHの鉛蓄電池(従来品)とを、まず60℃の雰囲気下(恒温槽内)に置いて、放電を1C電流で60秒間、充電を最大電流1C、最大電圧14.0Vで150秒間とする充放電サイクル試験に供し、この試験を継続させながら、3日(72時間)後に、60℃から25℃の雰囲気下(恒温槽内)にし、さらに3日(72時間)後に、再び60℃の雰囲気下(恒温槽内)に戻すという温度サイクル試験を並行させながら、充放電サイクルが10000サイクルになるまで継続させた。
【0016】
そして、10000サイクルの試験の終了後、各電池を解体して正極ストラップ31を目視観察したところ、本発明品は従来品に比べて腐食層の生成が軽微であった。そして、本発明品と従来品について、腐食層をX線分析で調査したところ、本発明品ではβ−PbO2のみが検出されてα−PbO2は検出されなかったのに対し、従来品ではβ−PbO2とα−PbO2の両方が検出された。また、蓋2の内面を目視観察したところ、従来品では本発明品に比べて結露の跡が多く認められた。これは、従来品では、結露による水が正極ストラップに滴下して水酸化鉛Pb(OH)2が生成し、正極ストラップの周辺がアルカリ性雰囲気になって腐食の進行が加速されたのに対し、本発明品では水酸化鉛Pb(OH)2が生成されず(アルカリ性雰囲気にならず)に腐食の進行が加速されなかったことによる。このことから、本発明品では、結露による水が正極ストラップあるいはセル間接続部の露出部に滴下することがないので、アルカリ性雰囲気になることはなく、該部の腐食の抑制が図れたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
上記した如く、本発明は、高温雰囲気下で使用される制御弁式鉛蓄電池において、そのストラップあるいはセル間接続部が結露による水の滴下によって腐食するのを防止することができるから、このような用途における制御弁式鉛蓄電池の信頼性向上に寄与することができ、その産業上の利用可能性が大である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係る制御弁式鉛蓄電池の模式図。
【図2】本発明の実施形態2に係る制御弁式鉛蓄電池の模式図。
【符号の説明】
【0019】
1 電槽
2 蓋
3 極群
20 突起
21 テーパ部
31 正極ストラップ
32 負極ストラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽のセルに収納された極群に電解液が保持され、実質的に流動する電解液を持たない制御弁式鉛蓄電池において、前記電槽の開口部を覆う蓋が、その内面に突起を有しており、かつ前記突起の頂点が、極群のストラップとセル間接続部の上方の対向しない位置に設けられていることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1記載の制御弁式鉛蓄電池において、蓋の内面にテーパ部が形成され、該テーパ部に前記突起を有しており、該テーパ部は前記突起の付け根部分が極群に近接している形状であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−71609(P2008−71609A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248983(P2006−248983)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】