説明

制御放出型の生体活性物質デリバリー・デバイス

【課題】1つまたは複数の生体活性物質を体内治療部位に制御デリバリーするためのデリバリー・デバイスの提供。
【解決手段】本発明では、伸長方向、該伸長方向に沿った軸線、および近位端と遠位端を有する本体部であって、該本体部の少なくとも一部分が該伸長方向から偏向することを特徴とする本体部と、該本体部に密着した、第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質を含むポリマーコート組成物とを含む制御放出型の生体活性物質デリバリー・デバイスであって、該第1ポリマーはポリアルキル(メタ)アクリル酸、芳香族ポリ(メタ)アクリル酸、またはポリアルキル(メタ)アクリル酸と芳香族ポリ(メタ)アクリル酸の組み合わせを含み、また該第2ポリマーはエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とするデバイスが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1つまたは複数の生体活性物質を体内治療部位に制御デリバリーするためのデリバリー・デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
外科的介入には医療用デバイスの体内留置を伴うものも多い。金属製またはポリマー製デバイスの体内留置は、多様な病状の治療に有益であるが、数多くの合併症を招くおそれもある。そうした合併症には感染症、異物反応の開始(とその結果としての炎症および/または線維被包化)、創傷治癒過程の開始(とその結果としての過形成および/または再狭窄)などのリスクの増大を含むものもある。
【0003】
医療用デバイスの植え込みに由来するおそれのある潜在的に有害な作用を緩和するには植え込みデバイスの近傍に生体活性物質をデリバリーするというアプローチがある。このアプローチは植え込みデバイスの存在に由来する有害な作用の緩和が狙いである。たとえばデバイス表面から抗生物質を放出させて感染症を抑えたり、抗増殖剤を放出させて過形成を抑えたりすることができる。全身投与では、薬物が必要とされる部位に治療濃度を実現するうえで毒性濃度が必要とされることもあるが、生体活性物質の局所放出にはそうした毒性濃度を回避しうるという利点がある。
【0004】
さらに、感染、疾患などの病状の治療を目的に医療用デバイスを体内に留置することもできる。この場合にはインプラント自体の有害な作用を緩和するための生体活性物質に加えて、またはその代りに、そうした病状を治療するための1つまたは複数の生体活性物質をデバイスから放出させることができる。
【0005】
患者体内に生体活性物質を放出する医療用デバイスの使用にはいくつかの難題がある。たとえば治療には長期間(たとえば数週間、数か月間、さらには数年間)にわたる生体活性物質の放出が必要とされる場合もあるが、そうした長期間にわたって生体活性物質の放出速度を所期レベルに維持するのは困難かもしれない。さらに、デバイスの長期間にわたる体内留置を可能にするには、デバイス表面は丈夫なだけでなく生体適合性、非炎症性でもあるのが好ましい。体内植え込み用の好ましいデバイスは採算に合う、経済的に再生産可能な製造方法になじむのが好ましいし、また通常のやり方による滅菌処理にもなじむのが好ましい。
【0006】
特に、身体の低アクセス性領域への植え込み型デバイスの留置はさらなる難題をもたらしかねない。ここでのアクセス性は身体上、治療上のアクセス性である。身体上の低アクセス性に寄与する因子は、標的領域(たとえば腺などのような小領域)の大きさ、該領域(たとえば中耳または内耳などのような体内の隠れた領域)の体内位置、該領域(たとえば眼球または高度に血管化した組織に囲まれた身体領域)を取り巻く組織、または治療対象組織(たとえば治療対象領域が脳の領域のようにデリケートな組織からなる場合)などである。
【0007】
治療上の低アクセス性に寄与する因子はたとえば眼への薬物デリバリーに際して見られる。全身投与した薬物の眼への吸収は血液・眼柵(網膜色素上皮細胞と血管内皮細胞の緊密な接合部)により制限される。生体活性物質は全身投与量を多くすればこの血液・眼柵に比較的少量ながら浸透させることができるが、それは全身毒性のリスクに患者をさらすことになる。生体活性物質(薬物など)の硝子体内注入は薬物を眼球前区に高濃度でデリバリーする有効な手段である。しかし、そうした注入の反復は感染、出血、網膜剥離などの合併症のリスクをはらむ。患者側にとってもこの方法はしばしばかなり耐え難い。
【0008】
本発明の開示は例示的な実施態様としての眼科治療に関連するので、以下、図5の眼球断面図を参照しながら眼球の基本構造についてやや詳しく説明する。眼の構造はその外側から説明すると、まず虹彩38があり、瞳孔40を囲んでいる。虹彩38は環状筋であり、瞳孔40の大きさを調節して眼に取り込まれる光の量を加減する。虹彩38と瞳孔40は共に角膜30という透明な外表面で覆われている。角膜30と連続していて、かつ眼球支持壁を部分的に構成しているのは強膜28(白眼)である。結膜32は強膜28を覆う透明な粘膜である。眼球内部を見ると、虹彩38の後側に透明体すなわち水晶体20が位置する。水晶体20は毛様体の前部に付随する靱帯(図示せず)により懸架されている。毛様体筋の作用の結果としてこれらの靱帯が収縮または弛緩すると、水晶体20の形状が変化する。この遠近調節作用により網膜24上への鮮明な結像が可能になる。光線は透明な角膜30と水晶体20を通って網膜24上に集中する。像焦点(視軸)に対応するヒト網膜の中心点は中心窩(図示せず)である。水晶体の反対側には視神経42がある。
【0009】
眼球には3つの層がある。外層は強膜28と角膜30で構成され、中層は2つの部分すなわち前部(虹彩38と毛様体)と後部(脈絡膜26)に分かれ、また内層または感覚部は網膜で構成される。水晶体20は眼球を前区(水晶体の前側)と後区(水晶体の後側)に分ける。もっと詳しく見ると、眼球は3つの眼房からなる。すなわち(角膜30と虹彩38の間の)前眼房34、(虹彩38と水晶体20の間の)後眼房36および(水晶体20と網膜24の間)硝子体眼房22である。前眼房34と後眼房36は房水で満たされているが、硝子体眼房22はもっと高粘度の硝子体液で満たされている。
【0010】
植え込み時に屈曲および/または伸張に耐えられ、かつ治療有意量の薬剤を本体表面から送達することもできるような、植え込み型医療デバイスはすでに開示されている。米国特許第6,214,901号および第6,344,035号、公開PCT出願第WO 00/55396号、および米国特許出願第2002/0032434号、第2003/0031780号および2002/0188037号の各明細書を参照。
硝子体眼房や内耳などのような低アクセス性領域への薬剤のデリバリーに特に好適である薬剤デリバリー・デバイスは米国特許出願第2002/ 0026176 A1号明細書で開示されている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は1つまたは複数の生体活性物質を体内の治療部位に制御可能なやり方でもたらすためのデバイスおよび方法を提供する。本発明は、低アクセス性の身体領域への生体活性物質のデリバリーに使用するときに特に強みを発揮しうる。本発明の好ましい実施態様は、生体活性物質を治療部位に、身体組織および作用の損傷および妨害を最小限にとどめるようなやり方で、もたらすためのデバイスおよび方法に関する。本発明のデバイスの本来の機能は生体活性物質を体内の所期治療部位にデリバリーすることであり、また好ましい実施態様ではデバイス自体はそれ以外の有意の機能を一切果たさない。言い換えればデバイスは、ひとたび所期の身体治療が成し遂げられたら、体内から取り出されるのが好ましい。さらに、本発明の好ましい実施態様は低侵襲デバイスを提供して、高侵襲の外科的手法に付随するリスクや不都合を抑えることができる。
【0012】
一態様では、本発明は制御放出型の生体活性物質デリバリー・デバイスに関するが、該デバイスは(a)伸長方向、該伸長方向に沿った軸線、および近位端と遠位端を有する本体部であって、該本体部の少なくとも一部分が該伸長方向から偏向することを特徴とする本体部と(b)該本体部に密着した、生体活性物質を含むコーティング組成物(coating composition)とを含む。該コーティング組成物はポリマーコーティング組成物であるのが好ましい。
【0013】
別の態様では、本発明は制御放出型の生体活性物質デリバリー・デバイスに関するが、該デバイスは(a)伸長方向、該伸長方向に沿った軸線、および近位端と遠位端を有する本体部であって、該本体部の少なくとも一部分が該伸長方向から偏向することを特徴とする本体部と(b)該本体部に密着した、第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質を含むポリマーコート組成物(coated composition)とを含む。該コート組成物は第1ポリマーがポリアルキル(メタ)アクリル酸、芳香族ポリ(メタ)アクリル酸、またはポリアルキル(メタ)アクリル酸と芳香族ポリ(メタ)アクリル酸の組み合わせを含み、また該第2ポリマーがエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とする。
【0014】
別の態様では、本発明は1つまたは複数の生体活性物質を患者体内の植え込み部位に制御可能なやり方でもたらすための方法を提供する。好ましい実施態様では、本発明は1つまたは複数の生体活性物質を眼、耳、中枢神経系などのような低アクセス性の身体領域に制御放出するための方法を提供する。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は制御放出型の生体活性物質デリバリー・デバイスの製造方法を提供するが、該製造方法は(a)伸長方向、該伸長方向に沿った軸線、および近位端と遠位端を有する本体部であって、該本体部の少なくとも一部分が該伸長方向から偏向することを特徴とする本体部を準備するステップと(b)第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質を含むポリマーコーティング組成物であって、該第1ポリマーはポリアルキル(メタ)アクリル酸、芳香族ポリ(メタ)アクリル酸、またはポリアルキル(メタ)アクリル酸と芳香族ポリ(メタ)アクリル酸の組み合わせを含み、また該第2ポリマーはエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とするコーティング組成物を該本体部に密着させて準備するステップとを含む。
【0016】
以下、説明を簡単にするため、単数形の「生体活性物質」に繰り返し言及することになろう。単数形の「生体活性物質」に言及するとはいえ、本発明が任意数の生体活性物質を治療部位にもたらしうることは言うまでもない。従って、単数形の「生体活性物質」への言及は複数形をも包摂するものとする。
【0017】
本発明の好ましい実施態様は、制御放出デバイスの1つまたは複数の特徴たとえばコーティング組成物の配合、植え込み部位にデバイスを留置する持続期間、およびデバイス形状などを操作することにより、生体活性物質の制御放出を可能にする。生体活性物質の制御放出を実現するためには、たとえばコーティング組成物の配合を操作することができる。本発明に従えば、コーティング組成物は任意数の個別生体活性物質を含むことができる。そのうえ、コーティング組成物は多様な種類の生体活性物質を含むことができる。選択した生体活性物質に合わせて生体活性物質の配合(たとえば第1ポリマーと第2ポリマーの選択および/または配合比)を操作することができるからである。さらに、コーティング組成物の生体活性物質含量を操作して、コーティング組成物中の生体活性物質の所期当初濃度が維持され、以って特定治療量の生体活性物質が治療部位にもたらされるようにすることも可能である。
【0018】
所期量の生体活性物質を治療部位にもたらすには、デバイスを治療部位に留置する持続期間を変えることができる。たとえば本発明のデバイスの好ましい実施態様は患者への(からの)植え込み、取り出しに適した形状であり、治療コースが完了したと専門医が判断する任意の時点でデバイスを患者から取り出すことができる。
【0019】
実施態様によっては、デバイス形状の操作により生体活性物質の制御放出を実現することができる。たとえばデバイスの表面積および/またはサイズの操作により、治療部位に送達されるべき生体活性物質の含量を制御することができる。好ましい実施態様では本体部の幾何形状および/または表面積を、ワイヤー径、コイルピッチ、デバイス長、デバイス径などの選択により操作することができる。好ましくは、本発明のデバイスは同じ長さと幅をもつ実質的に線状のデバイスと比較して生体活性物質デリバリーのための表面積が大きい。こうしたより大きな表面積は、より短いまたは幅の狭いデバイスのほうが植え込み部位(たとえば眼)との関係で好都合であるときに望ましいかもしれない。
【0020】
好ましくは、制御放出デバイスの形状は1つまたは複数の機構上の利点をもたらす。たとえばデバイスの無用の体内移動を抑制または防止する内蔵固定機構、デバイスの無用の体外排出のリスクの低減などである。さらに本発明の好ましい実施態様は、1つまたは複数の生体活性物質を体内治療部位にデリバリーするための低侵襲デバイスおよび方法を提供することができる。従って、本発明は実施態様によってはそうした治療を必要とする患者の回復時間を短縮するだけでなく、高侵襲の外科的処置に付随する感染症および合併症のリスクを低減することもできる。
【0021】
好ましい実施態様では、本発明のデバイスは体内からの取り出しが容易であり、必要な治療期間に限り体内に留置し、治療コースが完了したらただちに取り出すことができる。該デバイスは好ましくは、コート組成物の耐久性を高めてあり、従って(放出済み生体活性物質を差し引いた後の)コート組成物は治療コースの完了をもって植え込み部位からただちに取り出される。これは、1つまたは複数のデバイス構成要素が治療コース完了後も体内に残った(たとえばコーティングの一部がデバイスからはげ落ちたまたは何らかの形で本体部から層間剥離した)場合に生じるおそれのある潜在的に有害な作用を防ぐことができる。
【0022】
意外にも、本発明の好ましい実施態様は生体活性物質を長期にわたり線形に、再現可能に放出するデバイスおよび方法を提供する。本明細書で開示するように、本発明の好ましい実施態様はin vitro溶出試験によれば、生体活性物質の驚くほど制御可能な放出を長期にわたり示す。好ましい実施態様では、配合を種々(ポリマー配合比の点で)変化させたコーティング組成物は生体活性物質を実質的に線形に放出することができる。本明細書で開示したin vitro放出速度データによれば、再現性のある線形放出速度の長期にわたる実現は可能であると見込まれる。Jaffe et al., Safety and Pharmacokinetics of an Intraocular Fluocinolone Acetonide Sustained Delivery Device(眼内フルオシノロン・アセトニド持続デリバリー・デバイスの安全性および薬物動態), Investigative Ophthalmology & Visual Science, 41:3569-3575 (2000)を参照。従って、本発明は生体活性物質を植え込み部位へと制御放出することができるが、その制御放出は所期の治療期間および投与量に合わせて調節することができる。また本発明は、1つまたは複数の生体活性物質を植え込み部位へと局所デリバリーするものであり、好ましくは、全身治療時に必要とされる場合もある毒性濃度を回避する。
【0023】
好ましくは、本発明は驚くほど耐久性にすぐれた制御放出デバイスを提供する。本発明のデバイスに耐久性を付与しうるのは材料特性や構造的特徴である。たとえばデバイスの材料特性に関しては、ポリマーコーティング組成物の化学組成や本体部に対する付着力がデバイスの耐久性に関係する。好ましい実施態様では、ポリマーコーティングは本体部に十分に付着し、デバイスの植え込みおよび/または取り出し時にかかる剪断力の作用に耐えうるようにするのが好ましい。そうしないと、本体部からのコーティングの層間剥離が起きてしまう。そうした付着力はポリマーコーティングの化学組成に、またポリマーコーティングの(結合度にも影響する)保全性に由来する可能性がある。
【0024】
構造的特徴もまた好ましい耐久性を本発明のデバイスに付与することができる。本発明に従えば、本体部の少なくとも一部分は伸長方向から偏向し、以って体内への植え込み前・中・後に構造的耐久性を発揮するようなデバイスをもたらす。本体部の構造は植え込みおよび/または取り出し時に専門医により加えられる力を効果的に伝えるよう選択して所期の力伝達性(advanceability)(後述)を与え、以ってデバイスの構造保全性を危うくしかねない力に耐えられるようにするのが好ましい。さらに、本体部の表面が表面形状(たとえばマイクロエッチ処理面、粗面など)を含む場合には、ポリマーコーティング組成物の本体部への付着力は強まる可能性がある。
【0025】
コーティング組成物の耐久性は本体部表面上のコーティング組成物の保全性の(たとえば顕微分析または分光分析などのような通常の手法による)目視検査、植え込み/取り出し前後のコーティングの秤量などの手法を使用して評価することができる。
以下、あれこれの態様や利点についてさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は本発明の一実施態様に従う植え込み型デバイスの透視図である。
【図2】図2は図1に示した実施態様の底面図である。
【図3】図3は本発明の別の実施態様に従う植え込み型デバイスの透視図である。
【図4】図4は図3に示した実施態様の底面図である。
【図5】図5は本発明の一実施態様に従う植え込み型デバイスの経強膜留置の図解である。
【図6】図6は眼の中心視野“A”を示す眼球の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
後述の実施態様は網羅的であることや本発明を以下の詳細な説明で開示する厳密な形態に限定することを意図するものではない。むしろ、以下の実施態様は本発明の原理と実施を当業者が正しく評価し理解しうるようにすることを狙って選択、説明している。
【0028】
本明細書では、本発明のシステムと方法に関連する様々な用語を使用する。
「コーティング組成物」は本明細書では表面を効果的にコートするために使用する1つまたは複数のビヒクル(溶液、混合物、乳液、分散体、配合物など)をいう。「コート組成物」は制御送達デバイス表面上の生体活性物質、第1ポリマーおよび第2ポリマーの効果的な化合体をいう。本明細書中の教示から自明であろうが、コート組成物は1つまたは複数のコーティング組成物から、または1つまたは複数の層として、形成することができる。
【0029】
「生体適合性(の)」は本明細書では、物が有意の異物反応(免疫反応、炎症反応、血栓形成反応など)を誘発することなく受容者によって受容され、その体内で機能しうる性質をいう。生体適合性(の)はたとえば本発明の1つまたは複数のポリマーとの関連では、該ポリマーが受容者により受容され、その体内で所期のとおりに機能しうる性質をいう。
【0030】
「治療有効量」は本明細書では、患者体内に所期の効果(疾患等の病状の治療、または疼痛の緩和など)を生み出すような、生体活性物質の単体での、または他物質(後述)と合わせた、量をいう。治療有効量は治療時の種々の因子たとえば治療対象となる具体的な病状、該病状の重篤度、個別患者のパラメーター(年齢や全身状態、身長体重など)、治療持続期間、使用する特定生体活性物質および(もしあれば)併用療法の性質、それに医療従事者の知識・技術の範囲内の類似の因子に依存しよう。通常の技量をもつ医師または獣医師なら、特定の病状を治療したりその進行を予防したりするのに必要な、有効量の生体活性物質を容易に決定し処方することができる。
【0031】
用語「植え込み部位」は、本発明に従って植え込み型デバイスを留置する患者体内の部位をいう。一方、「治療部位」はデバイス構成要素から直接または間接に治療を受ける身体領域だけでなく植え込み部位をも包含する。たとえば生体活性物質は植え込み部位からデバイス自体を取り巻く領域へと移動することで、単なる植え込み部位よりももっと広い領域を治療することができる。用語「切開部位」は、本発明に従ってデバイスを植え込むために切開または手術創を施す患者の身体領域(皮膚および経皮領域)をいう。切開部位は患者の手術創とその近傍領域を包含する。
【0032】
用語「治療コース」は治療有効量を患者に投与するための1つまたは複数の生体活性物質の、ある時間にわたる投与速度をいう。従って、治療コースの因子には投与速度と治療経過時間(生体活性物質の全投与期間)がある。
【0033】
本発明は患者体内の治療部位を効果的に治療するための、特に生体活性物質を患者身体の低アクセス性領域たとえば眼、耳、脊髄、脳および関節などにデリバリーするための、方法および装置に関する。本発明に従うそうした方法および装置を使用すると、治療持続期間や治療部位に送達する生体活性物質の種類を柔軟に決められるため有利である。特に本発明は1つまたは複数の生体活性物質を体内治療部位に所期治療コースにわたり制御可能にもたらすために開発されている。
【0034】
各種の植え込み型デバイスはいずれも、適正に導入、使用するためには、デバイスの近位端から遠位端への力伝達性、操作性、通過性というニーズに合わせた設計にするのが好ましい。本願では各用語の意味は次のとおりとする。力伝達性はデバイスの近位端から遠位端へと力を伝達しうる性質である。デバイスの本体部は力伝達性と耐座屈(またはキンク)性とを実現するに足る強度を備えるのがよい。操作性は曲がりくねった脈管または他の体内流路を操縦して治療部位へと導きうる性質である。遠位部の柔軟性の向上は操作性の改善につながると判明している。従って用途によっては、デバイスにある程度のゴム状弾性を備えた本体部を使用すると柔軟性の改善になって望ましいかもしれない。通過性は組織壁または脈管狭隘部を通過するようデバイスを操縦しうる性質である。
【0035】
力伝達性、操作性、通過性およびトルク伝達の最適化はデバイス材料とその物理的特性たとえば本体部を形成する材料の厚さなどを慎重に選定することによって実現することができる。さらに、デバイス自体の異なる部分における所期特性の組み合わせを実現するには、複数の構成要素を組み合せてデバイス本体部を形成させるようにしてデバイスを製造することができる。すなわち、デバイス本体部は全長の部分ごとに他と異なる構成要素を含むことができる。そうした1つまたは複数の部分は物理的特性の異なる構成要素および/または異なる材料を含むことができる。たとえば本体部の遠位端を他部分よりも高弾性にすれば、通過性を向上させ、また身体内膜などに接触するデバイスの先端を一段と柔軟性にすることができる。異なる材料の例は互いに異なる金属材料またはポリマー材料、または密度、充填剤、架橋等の特性が異なる同種のポリマーなどである。特にデバイス本体部の一部分は体内(たとえばその内部では組織の運動が起こりそうもない関節などの領域)留置中のデバイスの屈曲を許容しうるような柔軟性を目的に選んだ材料を含むことができるし、また別の部分は軸方向および/またはトルク伝達を目的に選んだ材料を含むことができる。
【0036】
本発明に従って、1つまたは複数の生体活性物質の制御放出が求められるような任意の体内植え込み部位の治療に使用することができるデバイスが開発された。該デバイスは好ましい実施態様では、低アクセス性の身体領域たとえば眼、耳、脳、脊髄、関節を含む治療部位に1つまたは複数の生体活性物質をもたらすために使用することができる。特に本発明のデバイスは伸長方向を有し該伸長方向から少なくとも一部分が偏向することを特徴とする本体部と該本体部に密着した、生体活性物質を含むコーティング組成物とを含む。該本体部およびポリマーコーティング組成物は治療部位に生体活性物質を制御放出するような形状にする。本明細書で述べているように、治療部位での制御放出は投与量(投与速度と投与総量を含む)と治療持続時間の両方の制御を意味する。
【0037】
本発明の説明を容易にするために、眼の治療への本発明の使用を取り上げる。眼を選ぶのは、後述のように眼の病状の治療には特有の困難が伴うからである。さらに、身体組織損傷のリスクを小さくしながらすぐれたデバイスを提供するという点から、この制御放出デバイスの利点を明確にすることができる。しかし、開示のデバイスと方法が任意の治療に、たとえば治療中は生体活性物質を制御放出するのが望ましい中枢神経系(脳および脊髄)、耳(内耳など)、関節などのような低アクセス性の身体領域の治療に、応用しうることは自明である。
【0038】
一態様では、本発明は制御放出型の生体活性物質デリバリー・デバイスを提供するが、該デバイスは(a)伸長方向、該伸長方向に沿った軸線、および近位端と遠位端を有する本体部であって、該本体部の少なくとも一部分が該伸長方向から偏向することを特徴とする本体部と(b)該本体部に密着した、第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質を含むポリマーコート組成物であって、該第1ポリマーはポリアルキル(メタ)アクリル酸、芳香族ポリ(メタ)アクリル酸、またはポリアルキル(メタ)アクリル酸と芳香族ポリ(メタ)アクリル酸の組み合わせを含み、また該第2ポリマーはエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことを特徴とするポリマーコート組成物とを含む。
【0039】
一般に、植え込み型デバイスの本体部は制御放出デバイスのうちの患者に挿入される部分である。該本体部は近位端(植え込み後は身体の外側に位置する)、遠位端(植え込み後は身体の内側に位置する)および軸線を含むものとして説明しうる。使用時は本体部の少なくとも一部分が患者の体内に挿入される。いくつかの実施態様では、本体部のたとえば100%未満を患者の体内に位置させうるのが好ましい。患者体内に位置する本体部の量は専門医が、望ましい治療パラメーター、特定のデバイス形状、植え込み部位などの因子を基に決定することができる。
【0040】
本体部はさらに伸長方向を含み、また好ましい実施態様では本体部の少なくとも一部分は該伸長方向から偏向する。好ましい実施態様では、本体部に含まれる伸長方向からの偏向の数は少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11以上である。いくつかの代替実施態様では本体は伸長方向からの多重偏向を含まず、本体部の形状はJ字型または釣り針型とすることができる。
【0041】
伸長方向からの偏向は任意好適の形状に設けることができる。そうした偏向の例示的な実施態様を本明細書で開示するのはあくまでも説明が目的であり、本明細書で開示する特定の実施態様にこだわるつもりはない。偏向は曲線状または弓状である必要はない。たとえばいくつかの実施態様では、本体部の形状は角張ったZ字型である。また、偏向は規則的なパターンをなすには及ばす、ランダムに設けてもよい。その場合、本体部はランダムなカールまたはターンを含むことになる。実施態様によっては、偏向は軸線を中心にしてパターン化した形状に設ける。これらのパターン化した実施態様の例は本体にコイル、らせんまたはパターン化Z字型ターンを含む。あるいは、軸線を中心にしてランダムな形状またはパターン化しない形状に偏向を設けてもよい。これらの非パターン化実施態様では、個別偏向の軸線から本体部の最も外側の外周までの距離を選定することにより、本体部の全体的な外形をデバイスの用途に応じた所望の形にすることができる。たとえば、本体部の全体的な外形を砂時計型やリング部と非リング部が交互する(交番リング)外周形状(alternating ring circumference shapes)などにするのが好ましい実施態様もあろう。
【0042】
実施態様によっては、伸長方向からの偏向をリング形に設けることができる。そうしたリングは個別に同心的でもよいし(共通の軸をもつかまたは軸線に関して同軸である)、偏心的でもよい(円軌道から偏向する)。これらの実施態様では、個別リングは本体部の長さに沿って離散的であり、従って本体部の伸長方向に沿って離散的に個別リブを形成する。
【0043】
本体部の好ましい実施態様はコイル状またはらせん形である。一般にコイル形状では、コイルの各リングは軸線を中心にして回転し、また全体としてのコイルは軸線を中心にしてほぼ対称である。好ましいコイルは複数のリングからなり、リングの外周はデバイスの近位端から遠位端までの長さに沿ってほぼ同じである。いくつかの好ましい実施態様では、リングはらせん形をなし、その外周はデバイスの長さに沿って変化する。リングの外周はデバイスの近位端で最大となり遠位端で最小となるよう、デバイスの遠位端に向かって小さくなるのが、好ましい。
【0044】
本体部に偏向部分を含めると、同じ長さおよび/または幅の線状デバイスと比較して、植え込み部位に生体活性物質をデリバリーするための表面積が大きくなる。これはデバイス使用時に有利となりうる。というのは、この形状ではデバイスの長さおよび/または幅を小さくしながら表面積を大きくすることができるからである。用途次第でデバイスの長さを制限するのが望ましい場合もあろう。後述のようにたとえば眼へのインプラントは長さを制限して、デバイスが眼の中心視野に入るのを防ぎ、以って眼球組織損傷のリスクを最小限に抑えるのが望ましい。本体部の少なくとも一部分を伸長方向から偏向させることで本発明のデバイスは長さ当りの表面積が大きくなる(従って保持しうる生体活性物質の量も多くなる)が、そのためにデバイスの断面を(従って挿入のための切開を)大きくする必要はない。
【0045】
さらにまた好ましい実施態様では、本体部の形状はデバイスの無用の体内移動や体外排出を抑制する内蔵固定システムとなりうる。そうした形状では、切開創からのデバイスの排出には操作が必要となるからである。デバイスを植え込み部位から取り出すには、たとえばコイル状本体部ならデバイスをねじる必要があるしZ字型本体部ならデバイスを前後に動かす必要があろう。好ましい実施態様によれば、デバイスは自己固定化機能を果たすため追加の固定機構(身体組織への縫合など)を必要としない。本明細書でさらに詳しく述べるように、デバイスにキャップ8を具備させるとデバイス固定機構がさらに強化されよう。
【0046】
実施態様によっては、本体部が伸長方向からの偏向を複数含むとき、個別偏向の間隔はコート適性表面積の増加、デバイスの全体寸法などのような特色の組み合わせを最適化するように選定することができる。たとえば本体部が伸長方向からの偏向を複数含むコイルであるとき、個別コイル間の間隔は本体部を形成する材料の直径以上とすることができる。態様によっては、コイル間の間隔が本体部を形成する材料の直径未満であれば、本体部のコート適性表面積は減少しかねない。本体部の表面積は部分的にはコーティング組成物によるアクセスがより困難になりかねないためである。本発明のこの態様の説明に役立つ一実施態様では、本体部を形成する材料の直径は0.5mmであり、また本体部の各コイル間の間隔は少なくとも0.5mmである。これらの主要寸法はコイル状だけでなく任意形状の本体部にも適用することができる。
【0047】
植え込み型デバイスの全体寸法は特定の用途に応じて選定することができる。たとえばデバイスの長さおよび/または幅は特定の植え込み部位に合わせて選定することができる。植え込み型デバイスの全体寸法を左右する可能性のある因子は、デリバリーすることになる任意の生体活性物質の有効性(従ってまた該生体活性物質の所要量−これは後述のようにデバイス表面積に影響する)、植え込み部位の体内位置(たとえば植え込み部位の体内深さ)、植え込み部位の大きさ(たとえば眼や内耳などのような小領域、または関節や臓器領域などのようなもっと大きい領域)、植え込み部位を取り巻く組織(たとえば血管組織、または骨などのような石灰質硬組織)などである。
【0048】
一例として、植え込み型デバイスを使用して生体活性物質を眼にデリバリーするとき、該デバイスは、外科的処置の締めくくりに強膜の縫合閉鎖をほとんどまたはまったく必要としないような小さな切開から挿入するように設計するのが好ましい。従ってまた、該デバイスは断面が約1mm以下の、たとえば直径が約0.25mm〜約1mmの範囲内の、好ましくは直径が約0.25mm〜約0.5mmの範囲内の切開から挿入するのが好ましい。従ってまた、本体部2を形成する材料の断面径は約1mm以下、たとえば直径が約0.25mm〜約1mmの範囲内、好ましくは直径が約0.25mm〜約0.5mmの範囲内であるのが好ましい。本体部2を形成する材料が円筒型でない(たとえば本体部の断面が四角形である)ときは、該断面の最大寸法を以ってここでいう本体部の直径に近似させることができる。
【0049】
制御放出デバイスを生体活性物質の眼へのデリバリーに使用するとき、その本体部は近位端から遠位端までの全長が約1cm以下、たとえば約0.25cm〜約1cmであるのが好ましい。植え込み後の本体部は眼球内に位置して、制御放出デバイスのうちの生体活性物質を眼房にデリバリーする部分が眼球後区近くに位置するようになる。制御放出デバイスがキャップ8を具備するとき、該キャップは厚さ約1mm未満とするのが好ましく、約0.5mm未満ならなお好ましい。他ならないこの実施態様によれば制御放出デバイスの全長は約1.1cm未満であり、好ましくは約0.6cm未満である。
【0050】
図1は制御放出デバイスの好ましい実施態様を示す。該制御放出デバイスは本体部2を含み、該本体部は近位端4と遠位端6を有する。図1が示す本体部はコイル形状である。この実施態様では、本体部がコイル形状なので本体部2を形成する材料の外径とほぼ同じ大きさの切開からデバイスを体内にねじ込むことが可能になる。さらにまた、本体部はコイル形状なので、制御放出デバイスを植え込み部位内に維持する固定機構として機能しうるし、また植え込み部位および/または身体からの無用の移動や排出を防止することができる。制御放出デバイスはコイル形状をしているため、取り出すときはねじ込むときと反対に回して体外に取り出すことができる。
【0051】
本体部2の遠位端6は本体部の軸線に対し任意の望ましい位置に配置させることができる。図1および2に示すように、本発明の一実施態様に従う本体部の遠位端6は軸線から間隔をおいて位置する先端部10を具備する。この形状は標準「コルクスクリュー」タイプに類似する。使用時には、デリバリー・デバイスを切開部位から挿入し、デバイスが治療部位に正しく収まるまでねじ込む。
【0052】
図3および4は別の実施態様であり、本体部の遠位端6は本体部2の軸線上に位置する先端部10を具備する。実施態様によっては、本体部2の先端部10が軸線上に位置することには遠位端でのデバイスの挿入し易さなどの利点がある。所望の用途次第で、本体部の遠位端を他の形状にしうることは自明であろう。
【0053】
さらに、本体部2の近位端4もまた、本体部の軸線に対し任意の望ましい位置に配置させることができる。図1および3は軸線から間隔をおいて配置した本体部の近位端4を示す。しかし本体部の近位端4は軸線(図では示していない)上にあってもよい。実施態様によっては、本体部2の近位端4が軸線上に位置することにはデバイスの製造し易さ、機械的強度の向上、力の伝達の改善(これは、本体部の屈曲または他の変形のリスクを小さくしながら、本体部に均一な力を加え伝達させることができるためである)などの利点がある。
【0054】
一般に本体部2の製造に使用する材料は特に限定を受けない。実施態様によっては、本体部2は制御デリバリー・デバイスの小さな動きが植え込み部位に伝わらないよう、軟質材料で製造することができる。実施態様によっては、さらに詳しく後述するように、本体部2の少なくとも遠位端6は硬質の非柔軟材料で製造するのが好ましいかもしれない。たとえば眼に植え込むデバイスは植え込み/取り出し特性を改善するために硬質材料で製造するのが好ましい。実施態様によっては、後述のように、本体部2を形状記憶および/超塑性変形特性をもつ材料で製造するのが好ましいかもしれない。
【0055】
実施態様によっては、本体部2は医療用デバイスの製造に使用される任意好適の材料たとえばステンレス鋼(316Lなど); 白金; チタン; 金; およびコバルト-クロム合金やニチノールなどのような合金で製造することができる。別の実施態様では、本体部2は好適なセラミックスたとえば窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナ、ガラス、シリカ、サファイアなどを使用して製造することができる。さらに別の実施態様では、本体部2は好適な複合材料たとえば植え込み型医療用デバイスの製造に一般的に使用しるような複合材料で製造することができる。そうした複合材料は実施態様次第で材料の強度や柔軟性の向上といった利点をもたらしうる。好適な複合材料の例はポリマーまたはセラミックス[たとえば高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリメタクリル酸メチル骨セメント(PMMA)、歯科用ポリマーマトリックス(架橋メタクリル酸ポリマーなど)およびガラス-セラミックス]を繊維または粒子状物質(たとえば炭素繊維、骨粒子、シリカ粒子、ヒドロキシアパタイト粒子、金属繊維または粒子、またはジルコニア、アルミナまたは炭化ケイ素の各粒子)で強化したものなどである。
【0056】
一実施態様では、本体部2は非生物分解性ポリマーで製造する。そうした非生物分解性ポリマーはよく知られており、その例は付加重合、縮合重合いずれかに由来する低重合体、ホモ重合体または共重合体などである。好適な付加重合体の非限定的な例はアクリル樹脂(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸グリセリル、メタクリル酸グリセリル、メタクリルアミドおよびアクリルアミドの各重合体); およびビニル樹脂(エチレン、プロピレン、スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび二フッ化ビニリデンなど)である。縮合重合体の非限定的な例はナイロン樹脂(ポリカプロラクタム、ポリラウリルラクタム、ポリヘキサメチレン=アジプアミド、およびポリヘキサメチレン=ドデカンジアミドなど)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジメチルシロキサンおよびポリエーテルケトンなどである。他の好適な非生物分解性ポリマーの例はシリコーンエラストマー; シリコーンゴム; ポリオレフィン(ポリプロピレンやポリエチレンなど); 酢酸ビニルのホモ重合体や共重合体(エチレン-酢酸ビニル2-ピロリドン共重合体など); ポリアクリロニトリル=ブタジエン; フッ素重合体(ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニルなど); スチレン-アクリロニトリルのホモ重合体と共重合体; アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンのホモ重合体および共重合体; ポリメチルペンテン; ポリイミド; 天然ゴム; ポリイソブチレン; ポリメチルスチレン; ラテッックス; および他の類似の非生物分解性ポリマーである。
【0057】
本体部2の少なくとも一部分はデバイスの体内挿入の前・中・後に伸長方向から偏向することができる。あるいはデバイスは、より楽に体内挿入が行えるような形状へのデバイスの変形を可能する形状記憶および/超塑性変形特性をもつ材料で製造することができる。そうした実施態様の1つでは、たとえば本体部は体内への挿入のために実質的に線状へと変形させることができる。他ならないこの実施態様では、本体部は体内挿入後に元の形状に戻ることができる。この実施態様では、デバイスの本体部には「記憶形状」があり、ある種の条件下でそれを取り戻すことになる。たとえば本体部がジグザグ状またはコイル状の記憶形状をもつとすると、専門医は、デバイスを体内に挿入したければ、デバイスをほぼ線状に変形させ、線状に変形したデバイスを、その断面と同サイズの切開から挿入することができる。体内に挿入されたデバイスはそこでジグザク状、コイル状といった記憶形状を取り戻すことができる。これらの形状記憶実施態様による制御デリバリー・デバイスの全体寸法(全長と全幅の最大値)は、形状記憶材料の使用やデバイスの体内植え込みおよび/または体外取り出しのための本体部の変形による変化をあまり受けないのが好ましい。
【0058】
形状記憶合金は一般に少なくとも2つの相(すなわち比較的低張力でありかつ比較的低温で安定であるマルテンサイト相と比較的高張力でありかつマルテンサイト相よりも高温で安定であるオーステナイト相)をもつ。形状記憶特性は、オーステナイト相が安定する温度より高い温度に材料を加熱することにより、材料に付与される。この温度に加熱する間は、材料を、取り戻させるのが望ましい形状である「記憶形状」に保持する。形状記憶および/または超塑性変形特性をもつ材料はよく知られており、ニチノール(Ni-Ti合金)などの形状記憶合金(SMA)、およびオリゴ(e-カプロラクトン)ジメチルアクリル酸とアクリル酸n-ブチルとをベースにしたABポリマーネットワークなどの形状記憶ポリマー(SMP)がその例である。そうた材料や形状記憶特性を付与する方法は公知であり、本明細書ではこれ以上立ち入らない。
【0059】
本発明の制御デリバリー・デバイスは本体部の材料特性(たとえば超塑性変形特性)を活かして本体部を線状に伸ばすのが好ましい。本体部は、ひとたび植え込み部位に留置されて無拘束状態になると、記憶形状を取り戻すことができる。
【0060】
本体部の遠位端6は、デバイスの用途および身体内の植え込み部位に応じて、任意好適の形状を含むことができる。実施態様によっては、遠位端6はたとえば鈍角をなし、または丸みをおびる。好ましい実施態様では、本体部の遠位端6はデバイスを体内に埋め込むときに身体に穴を開けるような形状にする。たとえば本体部の遠位端6は鋭角の、または鋭い先端を含んでもよい。好ましい一実施態様では、本体部の遠位端6はランプ様角度を有する。好ましくは、この実施態様に従うデバイスを使えば、別個に専用の器具および/または処置を必要としなくても、身体に切開をおくことができる。本体部2の遠位端6をデバイス挿入時に身体に穴を開けるために使用する場合には、少なくとも遠位端6は身体への穴開けに好適な硬質の非柔軟材料で製造するのが好ましい。そうした材料はよく知られており、ポリイミドや類似の材料などがその例である。そうした実施態様の好ましい一例では、本体部2の遠位端6は眼に穴を開けるために使用する。それにより、制御デリバリー・デバイスの眼球内への挿入が可能になる。
【0061】
別の好ましい実施態様では、本体部2の遠位端6は成形または曲げ加工により、軸線に対して平行な部分(たとえば本体部の最遠位部分)を設けることができる。たとえば図3および4に示した一実施態様では、遠位端6は軸線に対して平行な鋭角の(または鋭い)先端を具備する。他ならないこの実施態様によれば、本体部の遠位端に位置する先端は切開面に対して垂直であり、従ってセルフスタート型のデバイス先端となる。これらの図では鋭利な先端を備えた本体部を示しているが、遠位端を本明細書中の教示に従って任意好適の形状にすることができるのは言うまでもない。
【0062】
本体部2は適宜、中実材料(内腔を含まない材料)または内腔を含む材料で製造することができる。図1〜4に示す実施態様では、本体部2は中実材料をコイル状に成形したものである。本体部2はこれとは別に、内腔を含む管状材料で製造してもよい。中実材料、内腔を含む材料のいずれを選択するかは本発明にとって重要ではないので、材料の調達し易さや加工上の問題を考慮して決めればよい。
【0063】
内腔を含む材料の場合、内腔は必要に応じて本体部の全長にわたってもよいし、一部分に限られてもよい。実施態様によっては、内腔は植え込み部位への所望の物質のデリバリーのためのデリバリー機構として機能する。内腔経由でデリバリーされる物質は本明細書で開示する任意の生体活性物質を含んでよい。内腔経由でデリバリーされる物質はコーティング組成物に含まれる生体活性物質と同じでも異なってもよい。さらに、該物質はポリマーコーティング組成物に含まれる生体活性物質とは別に、または該生体活性物質の代りに、もたらすことができる。たとえば一実施態様では、1つまたは複数の物質を内腔経由でデリバリーし、また1つまたは複数の生体活性物質をコート組成物から植え込み部位にもたらすことができる。
【0064】
実施態様によっては、内腔は本明細書で開示したポリマーコート組成物を含むことができる。他ならないこれらの実施態様によれば、デバイスの本体部はその外表面にコーティングを施した状態で準備してもよいし、施さない状態で準備してもよい。そうした実施態様のいくつかでは、内腔を利用して生体活性物質を植え込み部位にデリバリーすることができる。たとえば内腔はポリマーコート組成物を、第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質を含めて、含むことができる。他ならないこの実施態様によれば、本体部は該表面に第1ポリマーと第2ポリマーだけを含む(すなわち生体活性物質を欠く)コーティングを施した状態で準備することができる。従ってこの実施例では、生体活性物質は本体部の内腔を経由して植え込み部位に供給される。他実施態様では、内腔は本発明のポリマーコート組成物を(第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質を含めて)含むことができるし、また本体部の該表面にはコート組成物を施さない。
【0065】
内腔は必要に応じて諸要素の任意の組み合わせを含んでよい。実施態様次第で、内腔はたとえばデリバリー対象の物質だけを含んでもよいし、デリバリー対象の物質のほかにポリマーコート組成物を含んでもよい。内腔に含めるべき要素の特定の組み合わせは所期のデバイス用途に応じて選定することができる。
【0066】
内腔に物質および/またはポリマーコーティング組成物を施すときは、デバイスを体内に挿入する前に、またはデバイスを体内に挿入した後に、所望の物質および/またはポリマー組成物を内腔に充填することができる。体内への挿入後にデバイスに物質を充填するのが望ましいときは、本体部2の近位端4近くに専用ポートを設けることができる。該ポートは本体部の内腔と流体連通しており、また植え込み後のデバイスに必要に応じて該物質および/またはポリマー組成物を再充填するためにも使用することができる。
【0067】
デバイスがポートを備えるとき、該ポートは注入機構(たとえば注射器)の針を挿入しうるように設計して、内腔に含めるべき物質が該注入機構よって注入されるようにするのが好ましい。こうして該物質はポートから本体部の内腔へと移動することができる。ポートは好ましくは、注入機構の針に対してスナグ・シールを形成して、物質がポートから注入機構の周りに漏れ出すのを防ぎ、また物質を内腔に滅菌注入しうるようにする。必要ならば、注入機構の挿入を助けると同時に注入機構に対してスナグ・シールを形成するような付属品またはカラー(図示せず)をポートに取り付けてもよい。デリバリー・デバイスに物質を注入し終えたら、注入機構の針をポートから抜き取り、ポートを密封する。密封は、物質の注入時には取り外し注入終了時には元に戻すことができる着脱式の蓋(図示せず)をポートに設けることで可能となる。好ましい実施態様によればポートは、注入機構をそこに挿入することができ、また注入機構を抜き取った後は自動的に密封してしまうようなセルフシール材料で製造する。そうした材料は公知であり、シリコーンゴム、シリコーンエラストマー、ポリオレフィンなどがその例である。
【0068】
さらなる実施例では、デバイスは複数の内腔を含むときには複数のポートを具備し、たとえば各内腔を複数のポートと流体連通させることができる。これらのポートは前述の単一ポートに類似する。必要なら、各内腔に、対応するポートから別々の物質を充填しうるように内腔とポートを配置する(たとえば各内腔に独自の専用ポートを具備させる)ことができる。植え込み部位に複数の追加物質をデリバリーするのが望ましいときには、デバイスは複数の内腔を含むのが望ましいかもしれない。
【0069】
1つまたは複数の追加物質を1つのまたは複数のポートを経由して植え込み部位にデリバリーするのが望ましい実施態様では、個別の内腔はそうしたデリバリーを可能にするための1つまたは複数の開口を具備することができる。そうした開口は、一実施態様ではデバイスの遠位端6に設け、他実施態様では本体部2の長さに沿って設ける。開口の数と大きさは(デリバリー)物質の所期デリバリー速度に応じて変化しうるが、当業者は容易に決定することができる。開口は、デリバリー物質を液流としてデバイスから排出するのではなく緩慢に拡散させるように設計するのが好ましい。たとえばデバイスを眼に植え込むときは、物質を液流として排出するのではなく(それは眼の繊細な組織を傷付けかねない)、緩慢な拡散としてデリバリーするのが好ましい。実施態様によっては、身体と接触するポリマーコーティング組成物はデリバリー物質を特定の気孔率にすることで、該物質の内腔からの拡散速度を制御し易くする。デバイスが具備する開口の具体的な位置は、デバイスをひとたび体内に植え込んだときに該物質がある特定の位置でデリバリーされるよう、決めることができる。
【0070】
別の実施態様では、本体部2が追加物質を植え込み部位にデリバリーするための内腔を含むとき、本体部2を形成する材料は内腔からデリバリーする予定の物質に対して透過性(または半透過性)のものを選定することができる。他ならないこの実施態様によれば、該材料はデバイスとデリバリー物質の特定の用途に応じて選定することができるが、そうした選定は当業者には容易である。好適な透過性材料の例はポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリロニトルの共重合体、ポリ塩化ビニルの共重合体、ポリアミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリフッ化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルブチレート、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、セルロース、ゼラチン、シリコーンゴム、多孔性繊維などである。
【0071】
他ならないこれらの実施態様では、本体部2の製造に使用する材料は、該物質の特定のデリバリー速度を実現するように選定するが、そうした速度の決定は当業者には容易である。さらに、該物質の特定のデリバリー速度は本体部2を形成する透過性(または反透過性)材料の比率を変化させることで制御しうる。たとえばデリバリー速度を落とすには本体部2を形成する透過性材料の比率を50%以下にする。逆にデリバリー速度を上げるには、本体部2を形成する透過性材料の比率を50%以上にする。本体部2の全体ではなく1つまたは複数の部分を透過性または反透過性材料で製造するとき、該透過性または反透過性材料を使用する位置は、デバイスをひとたび体内に植え込んだら該物質がある特定の位置でデリバリーされるように決めることができる。
【0072】
別の実施態様では、本体部2の内腔は内腔の長さに沿って配置された不透過性の仕切りを具備することができる。従って、本体部の内腔は複数の区画に分かれるが、各区画には必要に応じて異なる物質を満たすことができる。これらの区画への充填はデバイス挿入前にたとえば各区画の側面に設けた注入ポートから行うことができよう。別の実施態様では、デバイスへの充填は複数の導管(各導管は対応する区画と流体連通している)を設けておいてデバイス植え込み後に行う。これらの導管は本体部2の壁内に本体部2の外周に沿って設けることができる。該物質は複数のポートから注入するが、各ポートは対応する導管と流体連通している。従って、ある物質はキャップ8のすぐ下の第1区画へと、該物質を第1区画に直接デリバリーするキャップ8の中心部のポートから、注入することができよう。第2区画へと注入される物質は導管を経由して流れ、本体部2の壁の開口から第2区画へと流れ込むことになろう。以下同様である。デリバリー対象の物質は、内腔に関してこれまでに開示した任意の方法により植え込み部位へとデリバリーすることができる。
【0073】
別の実施態様では、(必要に応じて)各内腔または区画を、レーザーを使用した(熱破壊または光破壊による)選択「開口」または活性化になじむよう設計することができる。たとえば特定物質をデリバリーする必要があるときに、レーザーを使用して所望の内腔および/または区画の壁に開口を作ることができよう。従って、各物質の放出は専門医の要求に応じて制御することができよう。レーザーを使用して開口を作るときは、ポリマーコーティング組成物への影響を最小限に抑えるよう波長と温度を制御するのが好ましい。
【0074】
好ましい実施態様では、本体部2は、好ましくはデバイスの全体寸法を増大させることなく、本体部の表面積をさらに増大させるようなやり方で製造することができる。たとえば一実施態様では、複数の素線状の材料をない交ぜまたは撚り合わせて本体部2を形成する(たとえば複数の素線ワイヤーをない交ぜまたは撚り合わせて本体部を形成する)ことによりデバイスを製造する。他ならないこれらの実施態様では、任意数の個別素線たとえば2本、3本、4本の、または5本以上の素線を使用して本体部を形成することができる。撚り合わせて本体部とする個別ストランドの本数は、たとえば本体部を形成する材料の所期直径および/または本体部の全体寸法、挿入および/または植え込み時のデバイスの柔軟性または硬質性、植え込み部位サイズ、所期切開サイズ、本体部の形成に使用する材料などのような因子に応じて選定することができる。
【0075】
これらの実施態様に従い本体部にポリマーコーティング組成物を施すには任意の望ましい方法を用いることができる。たとえば各個別素線にポリマーコーティング組成物を施した後に素線を撚り合わせて本体部を形成してもよい。あるいは未コートの個別素線を撚り合わせて本体部を形成した後に、その本体部にポリマーコーティング組成物を施してもよい。
【0076】
別の実施態様では、本体部2に表面形状を付与することで本体部2の表面積を増大させることができる。これらの実施態様では、本体部2にはディンプル、細孔、突起(うねまたは溝など)、ギザギザなどのような任意好適の種類の表面形状を付与することができる。表面形状は本体部2の製造に使用する材料の表面の粗面化処理によって設けることができる。そうした実施態様の1つによれば、本体部表面の粗面化処理には機械的手法(50μmシリカなどの物質を使用した機械的粗面化など)、化学的手法、エッチング手法または他の公知手法を使用する。他の実施態様では、表面形状は本体部2の製造への多孔質材料の使用により設けることができる。多孔質材料の例は本明細書の中で開示している。あるいは、材料を技術上周知の方法で処理して材料中に細孔を設けるようにしてもよい。さらに別の実施態様では、機械加工材料たとえば機械加工金属で本体部2を製造することにより表面形状を設けることができる。材料は必要に応じてディンプル、くぼみ、細孔などを含めた任意好適の表面形状をもつよう機械加工することができる。
【0077】
さらに別の実施態様では、適宜テーパー型または非テーパー型ねじ込み軸に成形した本体部を使用することでデバイスの表面積を増大させることができる。そうしたねじ込み軸形状の実施態様は普通の木ねじに類似する。ねじ込み軸はねじ山の成形または機械加工など任意好適の手法を用いて製造することができる。さらに、ねじ山は本体部の近位端から遠位端まで切れ目なく続く連続したらせん状のねじ山にしてもよいし、また本体部をめぐる不連続リングとしてもよい。他ならないこれらの実施態様ではデバイスを患者に植え込むための切開を大きくする必要があるかもしれないが、用途次第で、ねじ込み軸により実現される表面積の増大(詳しくは後述)は必要な切開の拡大を補って余りあるかもしれない。
【0078】
好ましい実施態様では、本体部2の表面形状は種々の利点たとえばポリマーコーティング組成物でコートするための本体部表面積の増大、デバイスの耐久性の向上、本体部へのポリマーコーティング組成物の固着性の向上(たとえば表面の粗面化、付着表面積の拡大などに負う)、所期の治療期間が終了した後のデバイスの取り出し易さの改善などをもたすことができる。
【0079】
本体部2は必要に応じて、その全長にわたって、または一部分に限り、表面形状を備えることができる。
【0080】
図1に示すように、本体部2は断面が円形の円筒状であるのが好ましい。しかし、本体部2の断面形状はそれに限定されず、たとえば正方形、長方形、八角形、または他の所望形状でもよい。
【0081】
図1および3に示すように、好ましい実施態様は本体部2の近位端に配置したキャップ8を具備する。キャップ8はデバイスに備わっていれば、ひとたび体内に植え込まれたデバイスの安定化に役立ち、以って追加のデバイス固定機構となりうる。デバイスは切開創から体内に、キャップ8が体表切開創に接触するまで挿入する。その後、必要ならキャップ8を切開部位で身体に縫い付けて、所期の位置に植え込まれた後のデバイスをさらに安定にし、その移動を防止することができる。デバイスはたとえば眼に植え込むときは切開創から眼球内に、キャップ8が切開創に接触するまで挿入することができる。その後、必要ならキャップ8を眼球に縫い付けて、前述のようにいっそうの安定化を図ることができる。
【0082】
キャップ8の全体寸法と形状は、切開部位における身体への刺激が抑えられる限り、特に限定されない。キャップ8はその存在が目立たないような寸法にするのが好ましい。たとえばキャップ8の寸法は好ましくは表面積が小さくなるように選定して、植え込み後のデバイスの全体としての寸法をあまり大きくせずにデバイス固定機能の強化といった特徴を実現するようにする。実施態様によっては植え込み後にキャップを切開部位において組織皮弁で覆うことにより、植え込みおよび/または切開部位におけるデバイスの潜在的な刺激および/または移動をさらに抑制することができる。本明細書でさらに詳しく開示する具体例では、デバイスを眼球に植え込んだ後にキャップを強膜皮弁で覆う。
【0083】
さらに、図ではキャップ8の形状を円形で示しているが、キャップは任意の形状たとえば円形、長方形、三角形、正方形などでもよい。切開部位への刺激を少なくするため、キャップの縁は丸みをもたせるのが好ましい。キャップ8は植え込み部位の外側に留まるように設計されるので、デバイスを挿入する植え込み部位にめり込まないようなサイズとなる。
【0084】
本明細書で開示しているように、デバイスに設けるキャップ8はデバイス自体に追加の固定機構をもたらすことができる。しかし実施態様によっては、植え込み部位にさらなる固定機構を設けるのが望ましいかもしれない。従って、必要ならば、キャップ8は切開創周辺の表面に容易に縫い付けるまたは他の方法で固定することができるように設計する(たとえば縫合糸を通すための1つまたは複数の穴―図示せず―を設ける)こともできる。
【0085】
キャップ8の製造に使用する材料は特に限定されず、例として本体部2の製造に関してすでに開示した材料のうち任意のものが含まれる。該材料はデバイスと接触することになる体液および体組織中で不溶性であるのが好ましい。さらに、キャップ8はそれと接触する身体部分(切開部位とその周辺の領域など)を刺激しないような材料で製造するのが好ましい。たとえばデバイスを眼球に植え込む場合、キャップ8はそれと接触する眼球部分を刺激しないような材料で製造するのが好ましい。従って、他ならないこの実施態様にとって好ましい材料の例は種々のポリマー(シリコーンエラストマーおよびシリコーンゴム、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリスルホンなど)、それに金属(本体部の材料としてすでに開示したような金属)である。
【0086】
実施態様によっては、キャップ8は本体部2と同じ材料で製造することができるし、本体部2とは異なる材料で製造することもできる。キャップ8は本体部2とは別個に製造し、その後で任意好適の取り付け機構(たとえば好適な接着剤またははんだ)を使用して本体部2に取り付けることができる。キャップ8はたとえば、本体部2をそこにはめ込み、その後ではんだ、溶接等の方法で取り付けるための開口を具備するように製造してもよい。代替実施態様では、キャップ8と本体部2を単一品として製造してもよい。それには、たとえばデバイスの両構成部分(本体部2とキャップ8)を含む金型を使用する。的確なデバイス製造方法の選択はデバイスの構成部分を成形するための材料や装置の調達し易さなどの因子に依存する。
【0087】
実施態様によっては、ポリマーコーティング組成物をキャップ8に施すことができる。他ならないこれらの実施態様によれば、キャップ8に施すポリマーコーティング組成物は本体部2に施すポリマーコーティング組成物と同じでも、異なってもよい。たとえばキャップ8向けのポリマーコーティング組成物に含まれる特定の生体活性物質は切開部位に所期の治療効果を及ぼすように変えることができる。切開部位に望ましいかもしれない例示的な生体活性物質は切開部位における身体の反応を緩和または制御するための抗菌剤、抗炎症剤などである。この開示を検討すれば、キャップ8に施すポリマーコーティング組成物向けに第1および第2ポリマーもまた選択すれば、キャップ専用の所望のポリマーコーティング組成物を必要に応じて準備しうることは自明であろう。
【0088】
実施態様によっては、キャップ8は本体部2と共に準備されるポリマーコート組成物と同じポリマーコート組成物を含んでもよい。これらの実施態様によれば、ポリマーコーティング組成物は必要に応じて、制御デリバリー・デバイス全体(本体部+キャップ)にワンステップで施すことができる。あるいは、ポリマーコーティング組成物はたとえばキャップ8を別個に製造するときに別個のステップでキャップ8に施し、その後で本体部2に取り付けることもできる。
【0089】
本発明では、ポリマーコート組成物がデバイスの本体部に密着した状態で準備される。該ポリマーコート組成物は第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質を含むのが好ましい。
【0090】
該コート組成物はデバイス本体部の少なくとも一部分に密着した状態で準備される。実施態様によっては、該コート組成物は本体部の全表面に密着した状態で準備するのが望ましいかもしれない。あるいは、コート組成物は本体部の一部分(たとえば本体部の近位端と遠位端の間の中間部分)上に準備することもできる。たとえばいくつかの好ましい実施例では、コート組成物を本体部の、遠位鋭利端以外の部分に密着した状態で準備するのが望ましいかもしれない。これはたとえば、該鋭利端でのコート組成物の層間剥離リスクの低減および/または該鋭利端の鋭さの維持に望ましいかもしれない。コート組成物を密着させる本体部の量は、植え込み部位での所期の生体活性物質供給量、コート組成物に使用する第1および第2ポリマーの選定、植込み部位の特性、コート組成物の層間剥離リスクなどの因子を考慮して決定することができる。実施態様によってはたとえば、デバイスの植え込みおよび/または取り出しに際しての層間剥離リスクを低減する意味で、コート組成物を本体部の、近位、遠位両端以外の部分に密着した状態で準備するのが望ましいかもしれない。いくつかの随意実施態様では、そうした層間剥離リスクを低減するために、コーティングの厚さを段階的に変化させ、コーティングの厚さが本体部の遠位端および/または近位端に向かって薄くなるようにしてもよい。さらに別の随意実施態様では、遠位端および/または近位端にはそれ以外の部分に施すコーティング組成物とは異なるコート組成物を設けた本体部を準備してもよい。そうした実施態様の一例は、遠位端および/または近位端に減摩性コーティングを施し、近位端と遠位端の間の中間部分には異なるコート組成物を設けた本体部を具備する。本明細書で開示した考え方に従えば、当業者はコート組成物を密着させる本体部の量および/または本体部の1つまたは複数の識別可能領域に設けるコート組成物の組成を随意に決定することができる。
【0091】
本発明に従ったコーティング組成物の調製に使用するための好適な第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質は、通常の有機合成手順によって調製することができる、および/または種々の供給元から商業的に入手することができる。好ましくは、そうしたポリマーはコーティング組成物へのin vivo使用に適した形で調達するか、または当業者に利用可能な通常の方法によりそうした使用のために所期レベルまで(たとえば不純物の除去により)精製する。
【0092】
コーティング組成物の調製では溶媒、該溶媒に溶解した相補的ポリマーの組み合わせ(第1ポリマーと第2ポリマー)、および該ポリマー/溶媒混合物中に分散させた単数または複数の生体活性物質を含ませることができる。該溶媒は該ポリマーの真溶液を形成するような溶媒であるのが好ましい。生体活性物質は該溶媒に可溶性であるか、または該溶媒中で分散体を形成する。これらの実施態様は用時に、コーティング組成物によるデバイスのコートに先立ってユーザーが混合処理する必要はない。好ましい実施態様では、コーティング組成物は単一組成物としてデバイスをコートすることができる一液系でもよい。たとえば米国特許第6,214,901号明細書は溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)の使用を例示している。TEFは好適であり、ある種のコーティング組成物には好ましい場合もあるが、本発明では他の溶媒も使用可能である。たとえばアルコール(メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)、アルカン(ヘキサンやシクロヘキサンなどのようなアルカンのハロゲン化物または非ハロゲン化物)、アミド(ジメチルホルムアミドなど)、エーテル(ジオキソランなど)、ケトン(メチルケトンなど)、芳香族化合物(トルエン、キシレンなど)、アセトニトリル、エステル(酢酸エチルなど)である。
【0093】
コート組成物は好ましくは生体適合性であり、体内に植え込んだときに炎症または刺激を著しく誘発するような結果にはならない。加えて、コート組成物は好ましくは広範囲にわたる絶対、相対両ポリマー濃度の下で有用である。前文との関連では、コート組成物の物理的特性(固着性、耐久性、柔軟性、拡張性など)は一般に広範囲のポリマー濃度にわたって好適であろう。さらに、多様な生体活性物質の放出速度に対する本発明の制御能はポリマーおよび/または生体活性物質の絶対および/または相対濃度を変化させることにより操作することができる。
【0094】
ポリマーコーティング組成物それ自体の説明に移ると、好ましい実施態様ではポリマーコーティング組成物は第1ポリマー、第2ポリマーおよび生体活性物質を含む。好ましくは、第1ポリマーは1つまたは複数の望ましい性質たとえば第2ポリマーおよび生体活性物質との相溶性、疎水性、耐久性、生体活性物質放出特性、生体適合性、分子量および商業的入手性などをもたらす。好ましくは、第1ポリマーはポリアルキル(メタ)アクリル酸、芳香族ポリ(メタ)アクリル酸、またはポリアルキル(メタ)アクリル酸と芳香族ポリ(メタ)アクリル酸の組み合わせを含む。
【0095】
好適なポリアルキル(メタ)アクリル酸の例はポリ(n-ブチル)メタクリル酸である。好ましい一実施態様では、ポリマーコーティング組成物は第2ポリマーとしてポリ(n-ブチル)メタクリル酸(pBMA)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(pEVA)とを含む。この組成物はすでに、コーティング組成物の約0.05〜70 wt%という絶対ポリマー濃度範囲内で有用と判明している。「絶対ポリマー濃度」は本明細書ではコーティング組成物中の第1ポリマーと第2ポリマーの合算総濃度をいう。好ましい一実施態様では、コーティング組成物は重量平均分子量が約100キロドルトン(kD)〜約1000kDの範囲内のポリアルキル(メタ)アクリル酸たとえばポリ(n-ブチル)メタクリル酸と酢酸ビニル濃度が約10〜90wt%であるpEVAとを含む。特に好ましい実施態様では、ポリマー組成物は重量平均分子量が約200kD〜約500kDの範囲内のポリアルキル(メタ)アクリル酸たとえばポリ(n-ブチル)メタクリル酸と酢酸ビニル濃度が約30〜34wt%であるpEVAとを含む。この実施例のポリマーコーティング組成物中の生体活性物質の濃度は最終コーティング組成物の約0.01〜90wt%の範囲内とすることができる。
【0096】
「重量平均分子量」またはMwは本明細書では、絶対的な分子量測定方法をいい、またポリマー調製品の分子量の測定に特に有用である。重量平均分子量(Mw)は次式によって定義することができる:
【0097】
【数1】

【0098】
式中Nは質量Mの試料中のポリマーのモル数であり、Σiは調製品中の全NiMi(化学種)の合計である。Mwは通常の手法たとえば光散乱法または超遠心分離法を用いて測定することができる。ポリマー調製品の分子量を定義するために使用されるMwや他の用語の説明はたとえばAllcock, H.R. & Lampe, F.W., Contemporary Polymer Chemistry; p. 271 (1990) に求めることができる。
【0099】
芳香族ポリ(メタ)アクリル酸を含有するコーティング組成物は実施態様によっては予想外の利点をもたらすことができる。そうした利点はたとえば他のコーティングたとえばポリアルキル(メタ)アクリル酸ポリマーとは異なる特性(異なる溶解度特性など)をコーティングに付与しつつ、他の性質については所期の組み合わせを維持する能力などに関する。特定の理論にこだわるつもりはないが、本発明のポリアルキル(メタ)アクリル酸とは異なる芳香族ポリ(メタ)アクリル酸によってもたらされる(特に高極性溶媒中での)溶解度の向上は、それ自体がポリアルキル(メタ)アクリル酸との併用が一般に選好されるポリマーよりも高極性である(たとえば酢酸ビニル濃度が著しく高い)pEVAの使用を可能にするように見受けられる。
【0100】
好適な芳香族ポリ(メタ)アクリル酸の例はポリアリール(メタ)アクリル酸、ポリアラルキル(メタ)アクリル酸およびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリル酸、特に炭素原子数6〜16のアリール基をもち重量平均分子量が約50kD〜約900kDである化合物などである。好ましい芳香族ポリ(メタ)アクリル酸の例は、少なくとも1つの炭素鎖と少なくとも1つの芳香環がアクリル酸部分(一般にエステル)と結合している化合物である。たとえばポリアルキル(メタ)アクリル酸またはポリアリール(メタ)アクリル酸は、それ自体芳香族部分を含むアルコール類から誘導される芳香族エステルから合成することができる。
【0101】
ポリアリール(メタ)アクリル酸の例はポリ-9-アントラセニルメタクリル酸、ポリクロロフェニルアクリル酸、ポリメタクリロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、ポリメタクリロキシベンゾトリアゾール、ポリナフチルアクリル酸、ポリナフチルメタクリル酸、ポリ-4-ニトロフェニルアクリル酸、ポリペンタクロロアクリル酸、ポリペンタブロモアクリル酸、ポリペンタフルオロアクリル酸、ポリペンタクロロメタクリル酸、ポリペンタブロモメタクリル酸、ポリペンタフルオロメタクリル酸、ポリフェニルアクリル酸、およびポリフェニルメタクリル酸などである。
【0102】
ポリアラルキル(メタ)アクリル酸の例はポリベンジルアクリル酸、ポリベンジルメタクリル酸、ポリ-2-フェネチルアクリル酸、ポリ-2-フェネチルメタクリル酸、およびポリ-1-ピレニルメチルメタクリル酸などである。
【0103】
ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリル酸の例はポリフェノキシエチルアクリル酸、ポリフェノキシエチルメタクリル酸、および種々のポリエチレングリコール分子量のポリエチレングリコールフェニルエーテル=アクリル酸とポリエチレングリコールフェニルエーテル=メタクリル酸である。
【0104】
ポリマーコーティング組成物の第2ポリマーは好ましくは、特に第1ポリマーと混合して使用するときに、1つまたは複数の望ましい性質たとえば第1ポリマーおよび生体活性物質との相溶性、疎水性、耐久性、生体活性物質放出特性、生体適合性、分子量および商業的入手性などをもたらす。
【0105】
好適な第2ポリマーの例は商業的に入手可能であり、酢酸ビニル濃度がエチレン-酢酸ビニル共重合体(pEVA)の約10〜90wt%の範囲である、または約20〜60wt%の範囲である、または約30〜34wt%の範囲であるpEVAを含む。pEVAは酢酸ビニル濃度低くなるほどTHF、トルエンなどのような一般的な溶媒に対しますます不溶性になる可能性がある。第2ポリマーは商業的にはビーズ、ペレット、顆粒などの形で入手可能である。
【0106】
本発明に従う特に好ましいコーティング組成物はポリアルキル(メタ)アクリル酸たとえばポリ(n-ブチル)メタクリル酸、または芳香族ポリ(メタ)アクリル酸たとえばポリベンジル(メタ)アクリル酸およびpEVAを含む。他ならないこの組成物はすでに、全コーティング組成物の約0.05〜70 wt%という絶対ポリマー濃度(その定義は前述のとおり)範囲内で、さらに好ましくは全コーティング組成物の約0.25〜10 wt%という絶対ポリマー濃度範囲内で、有用と判明している。
【0107】
好ましい一実施態様では、該ポリマー組成物は重量平均分子量が約100kD〜約500kDの第1ポリマーと、酢酸ビニル濃度が約10〜90wt%の範囲内の、さらに好ましくは約20〜60wt%の範囲内のpEVAとを含む。特に好ましい実施態様では、該ポリマー組成物は重量平均分子量が約200kD〜約500kDの第1ポリマーと、酢酸ビニル濃度が約30〜34wt%の範囲内のpEVAとを含む。
【0108】
好ましい実施態様では、該コーティング組成物は生体活性物質を含む。本明細書おける説明では単数形の「生体活性物質」に言及するが、それは見込まれる複数の生体活性物質の適用を制限するものではなく、任意数の生体活性物質を本明細書の教示に従って送達することができるのは言うまでもなく。「生体活性物質」本明細書では生体組織の生理に影響を及ぼす物質をいう。本発明に従う有用な生体活性物質は、植え込み部位に適用するための望ましい治療特性を有する事実上任意の物質を含む。
【0109】
生体活性物質の非限定的な例は次のとおりである: トロンビン抑制薬; 抗血栓薬; 血栓溶解薬; 線維素溶解薬; 血管攣縮抑制薬; カルシウムチャンネル遮断薬; 血管拡張薬; 血圧降下薬; 抗菌薬たとえば抗生物質(テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、セファレキシン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、リファンピシン、シプロフロキサシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、ペニシリン、スルホンアミド、スルファジアジン、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルフィソキサゾール、ニトロフラゾン、プロピオン酸ナトリウムなど)、抗真菌薬(アンホテリシンBやミコナゾールなど)および抗ウイルス薬(イドクスウリジン、トリフルオロチミジン、アシクロビル、ガンシクロビル、インターフェロンなど); 表面糖タンパク質受容体の阻害薬; 抗血小板薬; 細胞分裂抑制薬; 微小管阻害薬; 抗分泌薬; 活性型阻害薬; リモデリング阻害薬; アンチセンス・ヌクレオチド; 代謝拮抗薬; 抗増殖薬(抗血管新生薬を含む); 抗がん化学療法薬; 抗炎症薬(ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン21-リン酸、フルオシノロン、メドリゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン21-リン酸、酢酸プレドニゾロン、フルオロメタロン、ベータメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロン・アセトニドなど); 非ステロイド系抗炎症薬(サリチル酸塩、インドメタシン、イブプロフェン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ピロキシカムなど); 抗アレルギー薬(クロモグリク酸ナトリウム、アンタゾリン、メタピリジン、クロルフェニラミン、セトリジン、ピリラミン、プロフェンピリダミンなど); 抗増殖薬(13-cisレチノイン酸など); 消炎薬(フェニレフリン、ナファゾリン、テトラヒドラゾリンなど); 縮瞳薬および抗コリンエステラーゼ(ピロカルピン、サリチル酸塩、カルバコール、塩化アセチルコリン、フィゾスチグミン、エゼリン、フルオロリン酸ジイソプロピル、ホスホリン・ヨウ素、臭化デメカリウムなど); 散瞳薬(atropinsurface、シクロペントレート、ホマトロピン、スコポラミン、トロピカミド、ユーカトロピン、ヒドロキシアンフェタミンなど); 交感神経様作用薬(エピネフリンなど); 抗新生物薬(カルムスチン、シスプラチン、フルオロウラシルなど); 免疫治療薬(ワクチン、免疫刺激薬など); ホルモン剤(エストロゲン、エストラジオール、プロゲステロン剤、プロゲステロン、インスリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、ペプチドおよびバソプレシン視床下部放出因子など); ベータ遮断薬(マレイン酸チモロール、塩酸レボブノロール、塩酸ベタキソロールなど); 免疫抑制剤、成長ホルモン拮抗薬、増殖因子(上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子ベータ、ソマトトロピン、フィブロネクチンなど); 炭酸脱水酵素阻害薬(ジクロロフェナミド、アセタゾラミド、メタゾラミドなど); 血管新生阻害薬(アンジオスタチン、酢酸アネコルタブ、トロンボスポンジン、抗VEGF抗体など); ドーパミン作動薬; 放射線治療薬; ペプチド; タンパク質; 酵素; 細胞外マトリックス成分; ACE阻害薬; フリーラジカル捕捉剤; キレート剤; 抗酸化剤; ポリメラーゼ阻害薬; 光線力学療法用薬剤; 遺伝子療法用薬剤; およびその他の治療薬たとえばプロスタグランジン、抗プロスタグランジン薬、プロスタグランジン前駆体など。
【0110】
特定の生体活性物質または生体活性物質の組み合わせは次のような1つまたは複数の因子を考慮して選定することができる: 制御デリバリー・デバイスの用途、治療対象の病状、予想される治療期間、植え込み部位の特性、使用する生体活性物質の数と種類など。
【0111】
コーティング組成物中の生体活性物質の濃度は最終コーティング組成物の重量を基準にして約0.01〜90wt%の範囲内とすることができる。コーティング組成物中の生体活性物質の濃度は約75wt%以下が好ましく、約50%wt%以下ならなお好ましい。コーティング組成物中の生体活性物質の含量は約1μg〜約10mg、または約100μg〜1500μg、または約300μg〜1000μgの範囲内とすることができる。
【0112】
制御デリバリー・デバイスには任意好適の方法によってコーティング組成物をコートすることができる。たとえばコーティング組成物によるコーティングには浸漬法、スプレー法、および植え込み型デバイスをコーティング組成物でコートするための他の一般的な方法を用いることができる。当業者は本明細書中の開示から、特定材料へのコーティング組成物の使用適合性ひいてはコート組成物の適合性を評価することができる。
【0113】
態様によっては、制御デリバリー・デバイスのコーティング組成物によるコーティングには実施例2で述べるような超音波スプレーヘッドを使用することができる。実施例2で述べるように、コーティング作業時には制御デリバリー・デバイスのキャップをピン万力で保持することができる。
【0114】
実施態様によっては、コーティング組成物によるコーティングに先立ち本体部表面を前処理することができる。本発明では、植込み型デバイスのコーティングに通常使用する任意好適の表面前処理法を、たとえばシラン、ポリウレタン、パリレンなどによる処理を含めて、使用することができる。たとえばパリレン主要3種のうちの1つパリレンC (Union Carbide Corporationの市販品)を使用して医療用デバイスの表面をポリマー層でコートすることができる。パリレンCは置換塩素原子1個を含むパラキシリレンであり、真空環境中、低圧でガス状の重合適性モノマーとして放出することによりコートすることができる。該モノマーは室温で、支持体表面上で重縮合するので、医療用デバイスの表面にマトリックスを形成する。膜の厚さは圧力、温度およびモノマー使用量によって制御することができる。このパリレン膜は不活性の非反応性バリヤーとなる。
【0115】
実施態様によっては、コート組成物は少なくとも2層を含み、各層は同じまたは異なるコート組成物を含む。そうした実施態様の1つでは、第1層は生体活性物質だけを含むか、または生体活性物質と1つまたは複数のポリマー(第1ポリマーおよび/または第2ポリマー)を含み、第1層の後を1つまたは複数の追加層でコートするが、各追加層は生体活性物質を含んでも含まなくてもよい。これらの異なる層は複合コート層を形成しその中で協力し合って、特定の所期特性を示す全般的な放出プロフィールを実現するが、高分子量の生体活性物質と併用するのが特に好ましい。本発明によれば、個別コート層の組成物は必要に応じて次のうちの任意のものを1つまたは複数含んでよい: 1つまたは複数の生体活性物質、第1ポリマー、および/または第2ポリマー。
【0116】
制御デリバリー・デバイス表面のコーティング組成物によるコーティングは1回または複数回の操作で行うのが好ましい。本体部をコーティング組成物でコートする方法は一般にデバイスの幾何形状および他の作業上の問題といった因子によって左右される。コート後のコート組成物は溶媒の蒸発によって乾燥させることができる。乾燥工程は任意好適の温度(たとえば室温または高温)で、また随意に減圧下に、行うことができる。
【0117】
いくつかの好ましい実施態様では、調節相対湿度条件下に本体部をコーティング組成物でコートする。「相対湿度」はここでは任意の気温における飽和蒸気圧(または最大蒸気量)に対する水蒸気圧(または水蒸気量)の比をいう。空気中の飽和蒸気圧は気温と共に変化し、気温が高ければ高いほど、空気中に保持しうる水蒸気量は増加する。それが飽和に達すると、空気中の相対湿度は100%となる。本発明のいくつかの実施態様では、本体部のコーティング組成物によるコーティングは周囲湿度と比べて高いまたは低い相対湿度条件下に行うことができる。
【0118】
本発明では、湿度の調節はコーティング組成物の調製時であれ本体部のコート時であれ、任意好適のやり方で行うことができる。たとえばコーティング組成物の調製時に湿度を調節する場合には、コーティング組成物の水分を本体部のコーティング組成物によるコーティング前および/またはコーティング後に調整することができる。コーティング組成物によるコーティング時に湿度を調節する場合には、周囲湿度とは異なる相対湿度を実現しうるように工夫した囲いのある区画または領域内で本体部のコーティング組成物によるコーティングを行うことができる。一般的な傾向として、高湿度条件下にコーティング組成物をコートすると生体活性物質の放出が加速され、低湿度条件下にコーティング組成物をコートすると生体活性物質の放出が減速されることが判明している。本発明で見込まれているように、周囲温度でさえも、対応する生体活性物質の制御放出に相関していてその実現に資すると決まっている場合には、「調節」湿度とみなすことができる。
【0119】
さらに、また特に制御デリバリー・デバイスの本体部を複数のコーティング組成物でコートして最終コート組成物とする場合には、別の方法で(たとえばコーティング組成物の水分の調整によってではなく、制御環境の使用により)湿度を調節することができる。前述のように、コート組成物は複数の個別ステップを用いて、または複数のコーティング組成物層として、施すことができる。その場合には、たとえば生体活性物質だけを(または生体活性物質と1つまたは複数のポリマーとを)含む第1層の上に、生体活性物質、第1ポリマーおよび/または第2ポリマーの好適な組み合わせを含む1つまたは複数の追加層を施して、それらの結果として本発明のコート組成物が実現される。
【0120】
こうして、本発明は好ましい実施態様では、制御デリバリー・デバイスからの生体活性物質の放出を再現可能に制御する能力をもたらす。
【0121】
いくつかの実施態様では、複数のコーティング組成物と対応するコーティングステップを採用して、(必要ならば)独自の調節湿度を有し各々対応する放出プロフィールをもつ個別コート層を所期のように組み合せて最終コート層とすることができる。種々の効果をin vivoで実現するためにこれらの諸層の総合的な作用を利用し、最適化するためのやり方は当業者には自明であろう。
【0122】
さらに別の実施態様では、コーティング組成物による表面コート作業を複数の異なる湿度レベルで行い、対応する放出プロフィールを評価して、所期プロフィールに対応する調節湿度レベルを決定することにより、コート組成物からの生体活性物質の所期の放出速度を選定することができる。たとえばそうした実施態様の1つでは、デバイスをコーティング組成物でコートするときの(約15℃〜約30℃の範囲内の任意の温度での)相対湿度を好ましくは約0%〜約95%の範囲内に、なお好ましくは約0%〜約50%の範囲内に、調節する。特定の理論にこだわるつもりはないが、同じ位置における塗料ダレ間の、および/または異なるコーティング位置の間の、周囲湿度の潜在的な差異は変動が著しく、生体活性物質の放出といった特性に影響を及ぼしかねないほどであると判明している。本発明は調節湿度を使用することにより、調節性と再現性が著しく高い放出特性を示すコート組成物をもたらすことができる。
【0123】
本発明のコーティング組成物は任意好適の形で、たとえば真溶液、流動体様またはペースト様の乳液、混合物、分散体または配合物などの形で施すことができる。コート組成物のほうは一般に、制御デリバリー・デバイス表面のコート組成物にin situで影響を及ぼすような、溶媒または他の揮発性成分の除去および/または他の物理化学作用(たとえば加熱または照明)に由来しよう。
【0124】
制御デリバリー・デバイス表面のコート組成物の全重量は一般に決定的ではない。生体活性物質に帰属させうるコート組成物の重量は約1μg〜約10mg-体活性物質/cm2-制御デリバリー・デバイス表面積の範囲内とすることができる。実施態様次第では、該表面積はデバイスの本体部2の全部または一部を含む。別の実施態様では、該表面積はデバイスの本体部2とキャップ8を含む。生体活性物質に帰属させうるコート組成物の重量は約0.01mg〜約10mg-体活性物質/cm2-制御デリバリー・デバイス表面積の範囲内であるのが好ましい。この生体活性物質量は一般に生理的条件下で十分な治療効果をもたらすのに有効である。ここでいう表面積はデバイスの肉眼的な表面積である。
【0125】
好ましい実施態様では、制御デリバリー・デバイス表面のコート組成物の最終膜厚は一般に約0.1μm〜約100μmの範囲内、または約5μm〜約60μmの範囲内であろう。このレベルの膜厚は一般に、生理的条件下で植え込み部位に治療有効量の生体活性物質をもたらすのに有効である。最終膜厚は、コート組成物に含めるべき生体活性物質の総量、生体活性物質の種類と数、治療コース、植え込み部位などの因子に応じて変動し、またときには本明細書で特定した好ましい範囲を逸脱する可能性がある。
【0126】
制御デリバリー・デバイス表面のコート組成物の厚さは任意好適の手法を用いて評価することができる。たとえば液体窒素などを使用して制御デリバリー・デバイスを凍結させて、コート組成物を部分的に層間剥離させ、剥離部分の端の厚さを光学顕微鏡で測定することができる。技術上周知の他の視覚化法たとえばここで開示した厚さをもつコーティングの視覚化に適した鏡検法なども使用可能である。
【0127】
好ましい実施態様では、制御デリバリー・デバイスを体内に植え込む前に通常の滅菌法により滅菌処理する。滅菌は必要に応じてたとえばエチレンオキシド法またはガンマ線照射法で行なうことができる。好ましい実施態様では、使用する滅菌法はポリマーコート組成物に(たとえば生体活性物質の放出、コーティングの安定性などへの作用による)影響を与えない。
【0128】
本発明によれば、制御デリバリー・デバイスは好ましくは1つまたは複数の生体活性物質を制御放出によりデリバリーする能力をもたらす。「制御放出」は本明細書では、化合物(生体活性物質など)の患者体内への、所期投与量(投与速度と投与総量を含む)および治療持続時間における放出をいう。たとえば所期の生体活性物質放出プロフィール(コーティング組成物から放出される生体活性物質の単位時間当たりの量)を実現するためには、コーティング組成物の特定の組成を(コーティング組成物の個別成分の量と構成比を含めて)加減することができる。特定の理論にこだわるつもりはないが、生体活性物質のin vivo放出動態は一般に、デバイス植え込み後数分間〜数時間以下の短時間(バースト)放出成分と有用な放出が数時間から数時間さらには数か月間持続する場合もある長時間放出成分の両方を含むとされている。生体活性物質放出の加速または減速は本明細書では、これらの放出動態成分のいずれか一方または両方についていう。
【0129】
所期の生体活性物質放出プロフィールは選定される生体活性物質の種類、植え込み部位にもたらされる個別生体活性物質の数、所期の治療効果、体内植え込みの持続時間、および技術上周知の他因子などのような因子に依存する可能性がある。
【0130】
植え込み部位での生体活性物質の制御放出能は多数の利点をもたらしうる。たとえば制御デリバリー・デバイスを植え込み部位に、任意の所望期間にわたり維持することができるし、また所期治療効果を実現するための生体活性物質の総量を所期の速度でデリバリーするように生体活性物質の放出動態を調節することもできる。いくつかの実施態様では、植え込み部位での生体活性物質の制御放出能はただ1個のデバイスの植え込みを可能にするが、該デバイスは所期の治療効果が実現するまで留置することができ、途中で取り出して生体活性物質を新たに含ませたデバイスと交換する必要がない。本発明のいくつかの実施態様は好ましくは、植え込み部位での生体活性物質貯留層の補充を不必要にする。実施態様によっては、制御デリバリー・デバイスは身体の他組織を害するおそれのある生体活性物質の全身的な適用を不必要にする。
【0131】
制御デリバリー・デバイスを利用すれば、本明細書で開示した生体活性物質などのような任意所望の生体活性物質または生体活性物質の組み合わせを眼球にデリバリーすることができる。生体活性物質の長期にわたるデリバリー量は治療レベル以内で、しかも毒性レベル未満であるのが好ましい。たとえば眼の疾患または障害の治療に使用するトリアムシノロン・アセトニドの好ましい目標投与量は約0.5μg/日〜約2μg/日である。治療コースは6か月超であるのが好ましく、1年超であるのがなお好ましい。従って好ましい実施態様では、患者への植え込み後6か月以上または9か月以上または12か月以上または36か月以上にわたって、生体活性物質がコート組成物から治療有効量、放出される。
【0132】
本発明の好ましい実施態様は、生体活性物質を一定速度で長期間にわたり放出することができる制御デリバリー・デバイスを提供する。さらに、該制御デリバリー・デバイスは好ましくは、コーティング組成物の配合を変化させる(たとえば第1ポリマーと第2ポリマーの相対量を、および/またはコーティング組成物中の生体活性物質の含量を、変化させる)ことによって生体活性物質の放出速度を制御するという能力をもたらす。実施例で説明するように、好ましいコート組成物は生体活性物質を、再現性のあるやり方で、様々な時間にわたり、ある範囲内の放出速度で、放出させることができる。実施例では、可変量のエチレン-酢酸ビニル共重合体(pEVA)/ポリ(n-ブチル)メタクリル酸と一定量の生体活性物質とを含むコーティング組成物を調製し、ステンレス鋼支持体をコートした。このコート組成物からの生体活性物質の放出速度をPBS中で、本明細書で開示の溶出試験法により求めた。その結果、in vitroでは生体活性物質は驚くほど長時間にわたりコート組成物から放出させられると判明した。さらに、コーティング組成物は実質的に線形の放出速度をもたらすように配合することができた。in vitroで観測された放出速度に基づくと、in vivo放出速度はPBS中での値よりも高くなると見込まれる。前掲Jaffe et al.を参照。コート組成物間で放出速度の差が観測されたが、それはコート組成物のポリマー組成の差に関連する。従って好ましい実施態様では、コーティング組成物のポリマー組成を操作して生体活性物質の放出速度を制御することができる。
【0133】
制御デリバリー・デバイスの使用については、生体活性物質の眼球への制御デリバリーに関する説明から、また図5および6を参照することで、さらなる理解が可能である。しかし、下文で開示する原理が患者体内の任意の植え込み部位に適用しうることは言うまでもない。
【0134】
本発明に従い、本明細書の教示に基づき制御デリバリー・デバイスを製作して、外科的な処置に備える。身体に、植え込み部位にアクセスするための切開をおく。制御デリバリー・デバイスをたとえば生体活性物質の眼球へのデリバリーに使用するときは、該デバイスを挿入するための強膜切開術を行う。強膜切開術には通常の手法が使用可能である。そうした手法の例は結膜32の切開と強膜28に対する扁平部強膜切開である。図5および6に示すように、結膜32の切開では一般に強膜28の広い面積を露出させるように、眼を覆う結膜32を引き開けて、引き開けた状態の結膜32(破線は結膜の通常の位置を示す)を結紮または緊締する。言い換えると、強膜28は扁平部強膜切開を施す領域だけが露出される。次いでこの処置に使用される外科用器具を切開創に通す。従って、切開創はこれらの器具に対応しうるだけの大きさにするのがよい。
【0135】
あるいは、強膜切開術を米国特許出願第09/523,767号明細書で開示されているような、無縫合手術の方法と装置を可能にするアラインメント装置および方法の使用によって実現することもできる。特に、そうした方法および装置では器具を挿入するための開口を縫合糸の使用によって閉じる必要がなくなる。アラインメント装置は1つまたは複数の入口を設けるために結膜および強膜から挿入する。好ましくは、アラインメント装置は外科的な処置に使用する外科用器具を眼球内に挿入するための金属またはポリイミド素材のカニューレである。
【0136】
さらなる実施態様では、デバイスはセルフスタート型の経結膜、経強膜「針棒」により直接植え込むことができる。たとえばデバイスの本体部2は図3に示すような鋭利端10を具備してもよい。この実施態様では、鋭利端10を利用して身体に突き刺し、もって切開部位を設け、植え込み部位にアクセスすることができる。この場合には結膜手術も外来アラインメント装置も不要である。
【0137】
さらなる実施態様では、結膜組織を切開して扁平部領域を露出させ、露出部の強膜に針棒を突き刺すことができる。次いで、鋭利端を具備するセルフスタート型コイルを扁平部の針棒部位から挿入して、デバイスのキャップが強膜に触れるまで強膜にねじ込む。いくつかの好ましい実施態様では、針棒は植え込み型デバイスの本体部よりも小径である(たとえば本体部の径が0.5mm以下のデバイスに対しては30ゲージの針棒を使うことができる)。次いで結膜組織をキャップ上に引き被せてデバイスを覆う皮弁または「シール」とし、以って植え込み部位の炎症、異物感などを緩和する。随意に1本の縫合糸(好ましい実施態様では生物分解性縫合糸)で結膜組織をさらに緊締することができる。
【0138】
実施態様によっては、本体部の近位部分の寸法をやや上回る切開創を設けるのが好ましいかもしれない。たとえばキャップ8を具備するデバイスを眼球に植え込むときは、キャップ8の最大直径よりも大きい切開創を設けて、キャップが強膜の外表面よりも下に沈むようにするのが好ましい。たとえば強膜の部分切開により強膜皮弁を作ることができる。デバイスの植え込みが終わったら、強膜皮弁をデバイス上に折り曲げて、キャップを覆うカバーとすることができる。あるいは、本体部の近位端がキャップ8を具備しないときでも、やはり皮弁様カバーを利用して前述の要領でデバイスの近位端を覆うことができる。好ましくは、これらの実施態様はデバイス近位端(たとえばキャップ8)の他身体組織との接触を最小限に抑え、以って身体組織の炎症、および/または眼球運動のデバイへの伝達ひいては眼球組織の損傷といったリスクを小さくする。これは1つまたは複数の利点たとえば眼球運動の制御デリバリー・デバイスへの伝達傾向の緩和(デバイスの近位端が眼球表面に位置するために他組織と接触する心配がない)や、周辺組織の炎症の緩和などをもらしうる。
【0139】
次いで、本体部2を眼球内に挿入する。たとえば本体部2がコイル状である実施態様では、キャップ8が眼球の外表面に触れるまで本体部2を眼球内にねじ込む。本体部2を形状記憶材料で製造する実施態様では、形状記憶材料をまずマルテンサイト変態温度まで冷却して、材料を線状に変形させる。次いでデバイスを眼球内に挿入する。記憶形状にもどすには、デバイスを無拘束状態にしてマルテンサイト変態温度よりも高い温度に(たとえばデバイスを加熱して)到達させればよい。形状気温材料をたとえばレーザー加熱すればデバイスをマルテンサイト変態温度よりも高い温度に戻すことができる。またマルテンサイト変態温度が体温よりも低い形状記憶材料を選定すれば、材料を体温よりも低い温度に冷却し、線状に変形させ、眼球に挿入するだけでよい。あとは材料が眼球内で体温まで温まれば、デバイスは記憶形状へと戻る。後述のように、レーザーを使用するときは、条件を管理することにより、ポリマーコート組成物への悪影響を最小限に抑えるように波長や温度などのパラメーターを維持するのが好ましい。
【0140】
図5は本発明の一実施態様に従う眼球植え込み型の制御デリバリー・デバイスの使用例である。眼球に植え込むときは、制御デリバリー・デバイスの長さLを制限して制御デリバリー・デバイスが中心視野Aに入るのを防ぐようにするのが好ましい(図6参照)。この植え込み体が中心視野Aに入ると、これは患者の視覚内の盲点となるし、また網膜組織および水晶体嚢の損傷リスクを高めかねない。従って、たとえば制御デリバリー・デバイスを扁平部で(図5に示すように)挿入するとき、扁平部上の植え込み部位から中心視野Aまでの距離は約1cm未満であるのが望ましい。
【0141】
随意に、デバイスを眼球内に植え込んだ後に、キャップ8を強膜に縫合または他の方法で緊締し、制御デリバリー・デバイスを定位置に維持するようにしてもよい。好ましい実施態様では、1つまたは複数の生体活性物質を眼球内にデリバリーするためのデバイスのさらなる操作は一切不要である。必要ならデバイスのキャップ8を覆うように結膜を調節することができ、以って外科的な処置は完了する。
【0142】
他の実施態様では、1つまたは複数の追加物質を眼球内部にデリバリーするための内腔をデバイスが具備するとき、さらなるステップを次のように含めることができる。ポートを閉じるためにカバーを使用している場合には、この時点でカバーを外し、またもし使用するのであれば、注入機構(注射器など)の滑り嵌めを可能にするためのカラーを設ける。次いで注入機構をポートと接続し、1つまたは複数の物質が制御デリバリー・デバイスへと注入されるようにする。ポートの素材が、注入機構の針をそこに挿入することができ、また注入機構を抜き取った後は自動的に密封してしまうようなセルフシール材料であるときは、注入機構をポートから挿入し、該物質を注入するだけである。注入後は、必要に応じて結膜を調節してデバイスのキャップ8を覆うようにすることができる。
【0143】
本発明の制御デリバリー・デバイスを使用すれば種々の眼病の治療を目的に1つまたは複数の生体活性物質を眼球にデリバリーすることができる。そうした眼病の例は網膜剥離; 閉塞症; 増殖性網膜症; 増殖性硝子体網膜症; 糖尿病性網膜症; ブドウ膜炎、脈絡膜炎、網膜炎などの炎症; 変性疾患(加齢性黄斑変性、別名AMDなど); 血管疾患; および新生物を含む種々の腫瘍などである。さらに別の実施態様では、制御デリバリー・デバイスを術後に、たとえば眼の手術などに由来する可能性のある合併症の緩和または予防を目的とした処置として、使用することができる。そうした実施態様の一例では、白内障の外科処置後の患者に、術後炎症の管理(たとえば緩和または予防)の一助として制御デリバリー・デバイスを使用することができる。
【0144】
用途によっては、炎症部位に送達する生体活性物質および/または追加物質に添加物をさらに含めることができる。好適な添加物の非限定的な例は水、生理食塩水、デキストロース、キャリアー、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、賦形剤などである。
【0145】
ひとたび植え込み部位への生体活性物質のデリバリーが終わり、所要治療有効量の生体活性物質が病状の治療のためにデリバリーされたならば、制御デリバリー・デバイスは取り出すことができる。
【0146】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、それらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0147】
試験法
特定コート組成物のin vivo使用への適合性は耐久性試験、溶出試験などを含む多様な試験法のうちの1つまたは複数の試験法により評価することができる。以下、各試験の例を説明する。
【0148】
試料調製
1mm径のステンレス鋼(たとえば316L)ワイヤーを長さ2cmに切断した。切断後のワイヤー片を本明細書で開示するようにパリレンCコーティング組成物(Union Carbide Corporation)で処理した。ワイヤー片を微量天秤で秤量した。
【0149】
コーティング組成物は本明細書で開示の要領で好適な溶媒を使用して種々の濃度に調製した。浸漬法またはスプレー法により各ワイヤー片またはその部分を該コーティング混合物でコートし、コートしたワイヤーを溶媒蒸発により乾燥させ、再秤量した。この重量からコート質量を計算し、それを基にコート組成物中のポリマーと生体活性物質の質量を求めた。
コート組成物の耐久性は次の方法で評価した。
【0150】
耐久性試験
使用した耐久性試験法は次のとおりであった。コートしたデバイスを前述の要領で製作した。コートしたデバイスを挿入工具に取り付けた。該工具は、デバイスのキャップとしっかりかみ合いながらもデバイスのコート部との機械的な接触は防ぐようにしてある。デバイスは遠位鋭利端を具備しており、デバイスを結膜および強膜から眼球内へのデバイスの貫通にはそれを利用した。ブタ死体眼球を入手し、遠位鋭利端を使用してデバイスを該眼球内に、デバイスのキャップが強膜と同一平面に来るまで挿入した。
【0151】
植え込み後ただちに、植え込みに使用した挿入工具を使用して、コートしたデバイスを取り出した。デバイスを入念に、溶媒を使わずに、清浄処理した(デバイス表面に付着した組織の除去には脱イオン水を使用した)。次いでデバイスの表面コート欠陥(コーティングの層間剥離など)の有無を光学顕微鏡で調べた。
【0152】
溶出試験
生理的条件下でのコート組成物から生体活性物質放出の度合いおよび/または速度の評価には任意好適の溶出試験法を使用することができる。一般に、生理的条件下に導入後最初の24時間で、放出期待総量の50%未満の薬物が放出されるのが望ましい。しばしば、生体活性物質の何らかの量が少なくとも30日間にわたり放出されるのが望ましい。コーティングは生体活性物質が全量放出された後もSEM評価で無傷とされるのがよい。
【0153】
ここで使用した溶出試験は次のとおりである。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、リン酸10mM、NaCl 150mM、pH7.4、水溶液) 3ml〜10mlをピペットで取り、Teflon(登録商標)張りキャップ付きの褐色バイアルに注入した。コーティング組成物でコートしたワイヤーまたはコイルをPBS中に浸した。バイアルに撹拌子を入れ、キャップをしっかりと締めた。撹拌プレートを使用してPBSを撹拌し、またPBSの温度は水浴を使用して37℃に維持した。サンプリング時点は期待(または所期)溶出速度を基に選定した。サンプリング時点で、ワイヤーまたはコイルをバイアルから取り出し、新鮮PBS入りの新しいバイアルに移した。UV/Vis分光光度計を使用して、前にコーティング組成物でコートしたワイヤーまたはコイルの入っていたPBS溶液中の薬物濃度を測定した。累計薬物溶出量と時間を対応させたグラフを作り、溶出プロフィールを得た。
【0154】
溶出試験の締め括りに、ワイヤーまたはコイルを水洗いし、乾燥させ、再秤量した。生体活性物質溶出率とコート組成物減量率の相関が確認された。
必要なら、膜厚の(たとえばMinitest 4100隙間ゲージの使用による)測定によりコーティングを評価することができるし、またコーティングの質(粗さ、平滑性、均一性など)をSEM解析で調べることもできる。
【0155】
命名法
実施例では次の略語を使用する。
pEVA エチレン-酢酸ビニル共重合体(SurModics, Inc., Eden Prairie, MN)
PBMA ポリ(n-ブチル)メタクリル酸(SurModics, Inc., Eden Prairie, MN)
TA トリアムシノロン・アセトニド(Sigma-Aldrich Chemical, St. Louis, MO )
【0156】
以下の実施例では、各コーティング組成物の組成データをコーティング組成物の調製に使用したポリマーの重量百分率の比としてまとめている。たとえばTA/pEVA/PBMA(50/49/1)という呼称のコーティング組成物はトリアムシノロン・アセトニド50重量部、エチレン-酢酸ビニル共重合体49重量部、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体1重量部で調製している。
【0157】
実施例1
ステンレス鋼ワイヤーからのトリアムシノロン・アセトニドの放出
テトラヒドロフラン(THF)を使用して以下の要領で3種類のポリマー溶液を調製して、一液系のコーティング組成物とした。これら3種類の溶液は重量平均分子量がおよそ337kDのPBMAの量に対して変動量のpEVA(酢酸ビニル含量33%(w/w))を含んでいた。3溶液は各々、全ポリマー重量に対して一定量のトリアムシノロン・アセトニドを含んでいた。
【0158】
コーティング組成物は次の要領で調製した。まずポリマーをTHFに加え、200rpmのシェーカーに載せて室温(約20〜22℃)で混合しながら一晩溶解させた。ポリマーの溶解後、トリアムシノロン・アセトニドを加え、混合物を再びシェーカー(100rpm)に1時間載せ、一液系のコーティング組成物を形成させた。調製した組成物をまとめるとTableIのようになる。
【0159】
【表1】

【0160】
ステンレス鋼ワイヤーのコーティング用サンプルを次の要領で調製した。ステンレス鋼ワイヤーを6(容量)%のENPREP-160SE (Cat.#2108-100, Enthone-OMI, Inc., West Haven, CT)/脱イオン水溶液に1時間浸漬して清浄にした。浸漬後、材料を脱イオン水で数回すすぎ洗いした。水洗後、ステンレス鋼ワイヤーを0.5(容量)% メタクリロキシプロピルメトキシ=シラン(Cat.# M6514, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)/50(容量)%イソプロピルアルコール+脱イオン水の溶液に室温で1時間浸漬した。ステンレス鋼ワイヤーを水切りし、風乾させた。乾いたワイヤーを次に100℃のオーブンに1時間入れた。
【0161】
オーブン乾燥後、ステンレス鋼ワイヤーをパリレン・コーティング炉(PDS 2010 LABCOTER(登録商標)2, Specialty Coating Systems, Indianapolis, IN)に入れ、LABCOTER(登録商標)システムの説明書に従い2gのパリレンC (Specialty Coating Systems) でコートした。得られたパリレンCコーティングの厚さは約1〜2μmであった。
【0162】
コーティング溶液1a、1bおよび1cをパリレンCコート後のワイヤー表面にスプレーした。これには、1.0mm(0.04インチ)オリフィス付きノズルを取り付けた、圧力421.84g/cm2(6psi)のIVEKスプレー装置(IVEK Dispenser 2000, IVEK Corp., North Springfield, VT)を使用した。塗布作業時のノズルからワイヤー表面までの距離は5〜5.5cmであった。塗布作業では40μlのコーティング溶液をワイヤー表面にむらなく7秒間スプレーした。このスプレー作業は、ワイヤー表面のTA付着量がGraph Iに記載のコーティング1a、1bおよび1cに関するTA量と等しくなるまで繰り返した。ワイヤー表面のコーティング組成物は約8〜10時間にわたる、室温(約20〜22℃)での溶媒蒸発により乾燥させた。乾燥後、コートしたワイヤーを再秤量した。この重量からコート質量を計算し、それを基にコート組成物中のポリマーと生体活性物質の質量を求めた。
【0163】
次いで、コートしたワイヤーを前述の溶出試験にかけた。各コーティング組成物に関する溶出試験結果は次のGraph Iに示すとおりである。
【0164】
【表2】

【0165】
175日を超える期間にわたりコーティングの放出速度を求めた。コーティング1cでは51日目から456日目までの間の計算放出速度は0.5μg/日であり、放出速度は実験期間にわたり線形であった。コーティング1aでは14日目から79日目までの間の計算放出速度は4.2μg/日であり、コーティング1bでは84日目から337日目までの間の計算放出速度は1.2μg/日であった。これらの放出速度を使用すると、コーティング1cはコーティング組成物からPBS中に(100%のTAが放出されると仮定して)3年超の期間にわたり放出される計算となった。
【0166】
グラフに示すように、コーティング1aの当初TA(生体活性物質)含量は611μgであったが、うち600μgが190日以内に放出された。コーティング1bの当初TA含量は633μgであったが、うち631μgが372日以内に放出された。コーティング1cの当初TA含量は602μgであったが、うち240μgが456日以内に放出された。
【0167】
これらの結果が示すように、生体活性物質(この場合はTA)がin vitroでは本発明のコート組成物から驚くほど長期(3年超)にわたって溶出すると予測された。さらに、コーティング組成物は長期にわたり実質的に線形の放出速度をもたらすことができる。そのうえ、これらの結果が示唆するように、コート組成物を、たとえばその第1ポリマーと第2ポリマーの重量比を変化させることにより変化させれば、TAなどのような生体活性物質の溶出速度を必要に応じて制御することができる。従って専門医による治療コースの特定が可能であり、またその治療コースを実現するために、本発明に従うポリマーコーティング組成物の組成を操作して制御放出プロフィールをもたらすことも可能である。コーティング組成物の湿度条件を制御することで放出プロフィールをさらに制御することもできるが、それは本明細書でもう少し詳しく説明しているとおりである。
【0168】
溶出試験の締め括りに、ワイヤーを水洗いし、乾燥させ、再秤量した。コート組成物1aおよび1bに関する溶出前および溶出後データを次のTable IIに示す。
【0169】
【表3】

【0170】
以上の結果が示すように、薬物放出量はコート組成物中の当初薬物含量と、また溶出試験で判明した放出率とも、よく相関している。
【0171】
実施例2
らせんコイルからのin vitroトリアムシノロン・アセトニド放出
テトラヒドロフラン(THF)を使用して実施例1の要領で2種類のポリマーを調製した。調製した組成物をまとめるとTable III のようになる。
【0172】
【表4】

【0173】
キャップを具備するらせんコイルをMP35N(登録商標)合金(ESPI, Ashland, Oregon)で製作した。コイルをアルカリ溶液で洗浄後、脱イオン水ですすぎ洗いした。コイルをイソプロピルアルコールでさらに洗浄した後、すすぎ洗いした。コーティング処理の前にコイルを乾かし秤量した。
【0174】
コーティング溶液1dおよび1eをコイル表面にスプレーした。この作業には、コーティング溶液用シリンジポンプと超音波スプレーヘッド(Sono-Tek, Milton, NY)とで構成される超音波コーターを使用した。ピン万力を使用してコイルのキャップを保持し、コイルをスプレーヘッドに対して直角に保ち、回転させた。スプレーヘッドを動かしながらコイル表面にコーティング組成物をスプレーした。このスプレー作業は、コイル表面のTA付着量がTable III に記載のコーティング1dおよび1eに関するTA量と等しくなるまで繰り返した。らせんコイル表面のコーティング組成物は室温(約20〜22℃)での溶媒蒸発により乾燥させた。乾燥後、コートしたコイルを再秤量した。この重量からコート質量を計算し、それを基にコート組成物中のポリマーと生体活性物質の質量を求めた。
【0175】
次いで、コートしたコイルを前述の溶出試験にかけた。各コーティング組成物に関する溶出試験結果は次のGraph IIに示すとおりである。
【0176】
【表5】

【0177】
TAの放出を63日間にわたりモニターした。Graph IIに示すように、コーティング1dの当初薬物(TA)含量は975μgであったが、63日以内に約171μgが放出された。コーティング1eの当初TA含量は914μgであったが、63日以内に約371μgが放出された。コーティング1dでは20日目から63日目までの間の計算放出速度は1.6μg/日であった。コーティング1eでは20日目から63日目までの間の計算放出速度は3.6μg/日であった。
【0178】
コーティング1dおよび1eに関する溶出データもまた、実施例1の結果と同様に、生体活性物質がin vitroでは本発明のコート組成物から驚くほど長期にわたって溶出すると予測しうること示した。さらに、コーティング組成物はやはり長期(20日目から63日目までの間)にわたり実質的に線形の放出速度を示した。以上の結果は実施例1の場合と同様に、コート組成物を変化させれば、生体活性物質の溶出速度を制御しることを示唆した。
【0179】
溶出試験の締め括りに、コイルを水洗いし、乾燥させ、再秤量した。コート組成物1dおよび1eに関する溶出前および溶出後データを次のTable IVに示す。
【0180】
【表6】

【0181】
以上の結果が示すように、溶出前および溶出後のコイル重量から求められる薬物放出率はUV分光分析で求めた薬物放出率とよく相関している。
【0182】
実施例3
らせんコイルからのin vivoトリアムシノロン・アセトニド放出
10本のコイルを2種類の組成物Dose A、Dose Bでコートし、ウサギ眼球の硝子体眼房に植え込んでTAを持続放出させるようにした。Table Vはこの実施例でコイルのコーティングに使用したコーティング組成物のまとめである。Dose Bは「速放」コーティング組成物であり、これはDose Aの「徐放」コーティング組成物と比べてpEVA/PBMA比が比較的高かった。
【0183】
実施例1の要領でコーティング溶液を調製した。このコーティング溶液を実施例2の要領でコイルにスプレーした。コートしたコイルを次の要領でウサギ眼球の硝子体眼房に植え込んだ。結膜を切開し、切開部位から引き離し、針棒を使用して強膜から眼球に切開創を設けた。鋭利端を具備するセルフスタート型コイルの鋭利端を使用して、コイルを眼球の硝子体眼房に挿入した。この挿入はコイルのキャップが眼球の外表面に触れるまで行い、挿入処置の終わりに結膜をキャップ上に引き寄せた。
【0184】
Dose Bコイル5本とDose Aコイル4本は29日間植え込んだ。Dose Aコイル1本は11日間植え込んだ。コイルを体外に取り出した後、コートしたコイル中の薬物の残量を求めた。コート層を溶解して薬物とポリマーを分離した。C18カラム、アセトニトリル/脱イオン水の使用によるグラジエント溶出、およびUV検出からなるHPLC解析を行った。薬物含有溶液からの結果を新規に調製した常用標準から作成した校正曲線と比較した。薬物放出量を計算し、次のGraph III にプロットした。
【0185】
【表7】

【0186】
【表8】

【0187】
その結果によれば、Dose Aをコートした植え込みコイルから11日以内および29日以内に放出されたTA量はそれぞれ約92μg、126μgであった。植え込みDose Bをコートしたコイルから29日以内に放出されたTA量は約275μgであった。「速放」コーティング組成物(Dose B)からのTA放出量は「徐放」コーティング組成物(Dose A)からのTA放出量の約2.2倍であった。
【0188】
植え込み材料に対する眼組織の耐容性は29日間の追跡調査期間を通して高かったように見受けられる。前眼房または硝子体眼房の炎症は術後1週間、4週間いずれの検査でも認められなかった。同様に、植え込みに伴う眼圧の上昇または結膜の菲薄化もなかった。
【0189】
Dose AおよびDose Bコイルは、体外に取り出した後、40Xの光学顕微鏡で調べた。塗膜への損傷(スクラッチ、剥離または亀裂)は認められなかった。
当業者には本明細書の検討または開示の実施態様から本発明の他の実施態様は自明であろう。当業者は、以下の請求項で示される本発明の真の範囲および本質から逸脱することなく、本明細書で開示した原理や実施態様に種々の省略、態様変更または変化を加えることができよう。
【0190】
本明細書に組み込まれその一部をなす添付図面は本発明のいくつかの態様の図解であり、好ましい実施態様の開示と共に本発明の原理の説明に役立つ。図面の簡単な説明は次のとおりである:

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御放出型の生体活性物質デリバリー・デバイスであって、以下の:
(a)0.25mm〜1mmの範囲の断面をもつ固体材料から形成されたコイル状の本体部、該本体部は、伸長方向、当該伸長方向に沿った軸線、並びに近位端及び遠位端を有、ここで、当該本体部の少なくとも一部は、当該伸長方向から偏向しており;及び
(b)上記本体部の少なくとも一部に接するポリマーコート組成物、ここで、当該ポリマーコート組成物は、第1ポリマー、第2ポリマー、及び生体活性物質を含む;
を含み、
ここで、上記第1ポリマーは、ポリアルキル(メタ)アクリレート、芳香族ポリ(メタ)アクリレート、又はポリアルキル(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートの組合せを含み、かつ、ここで、上記第2ポリマーは、ポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)を含む前記デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−167551(P2011−167551A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116262(P2011−116262)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【分割の表示】特願2006−513459(P2006−513459)の分割
【原出願日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】