説明

制振ユニット

【課題】回転電気機械の駆動時に発生する振動を効果的に抑制する。
【解決手段】動吸振器50Aは、一端が取り付け部を介してモータ100の外周面、あるいは固定子に直接取り付けられた板ばね54Aと板ばね54Aの他端の上面部に取り付けられた錘56Aとを備える。動吸振器50Bも同様の構成である。一対の動吸振器50A,50Bは、駆動時に発生する電磁力による振動モードにおける腹S1と節P1の間隔に相当する間隔を開けて取り付けられる。振動モードが円周方向(固定子120の周方向)に回転しても、一対の動吸振器50A,50Bのそれぞれが、振動モードを構成する腹と節の間隔だけ円周方向に位相のずれた2つのモード成分を各々制振するため、効果的にモータ100の振動を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の回転電気機械の駆動時に発生する振動による騒音を抑制する制振ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
産業設備、輸送機器、家電機器等の様々な機器の動力源として、三相誘導電動機、DCブラシモータ、ブラシレスモータ等の回転電気機械が広く利用されている。回転電気機械は、回転子とこの回転子の外周部に配置された固定子とで構成され、例えば、三相誘導電動機の場合、固定子に電流を流して回転磁界を発生させ、これが回転子の巻線を切ることにより巻線に電流が流れ、この電流と回転磁界により電磁力が発生し、回転駆動力を得ている。また、発電機の場合、回転子は直流磁界を発生させ、これが固定子巻線を切ることにより固定子巻線に電圧が発生する。
【0003】
このようにモータや発電機のような回転電気機械では、回転磁界が重要な役割をはたしているが、この回転磁界は固定子や回転子のスロット数の影響も受けながら、多くの周波数成分をもつ電磁力として固定子と回転子に作用している。回転電気機械においては、この電磁力により、主に固定子が半径方向に振動し、電磁騒音の原因となっている。
【0004】
このような電磁騒音を防止するために、動吸振器を取り付けて回転電気機械の振動を抑制する手法が利用されている。例えば、特開2000−46103号公報の中で、従来例として複数の動吸振器を取り付けることによって振動を軽減させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−46103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の動吸振器を用いた制振方法では以下のような問題がある。すなわち、回転電気機械の駆動時に発生する電磁力は円周方向に様々な形状のパターンが同時に存在し、それが固定子の円周方向に回転するため、固定子の振動においても同様に円周方向に分布した振動形状のパターン(振動モード)が円周方向に回転する。これに対して、従来の動吸振器ではこの回転する振動モードに応じた最適な位置に最適な個数の動吸振器を取り付けていないので、十分な振動抑制効果を得られないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転電気機械の駆動時に発生する振動を効果的に抑制することが可能な制振ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、回転電気機械に取り付けられる一対の制振装置から成る制振ユニットであって、一対の制振装置のそれぞれが、回転電気機械の外周面に取り付けられた弾性部材と、弾性部材の端部に取り付けられた慣性部材とを備え、回転電気機械の駆動時に回転電気機械に作用する電磁力に基づく固定子の振動モードに応じた所定の位置に配置されたものである。
【0009】
モータ等の回転電気機械は、駆動時に円周方向に複数のパターン(モード)の電磁力が発生し、そのモードが円周方向に回転する。この電磁力により回転電気機械の固定子が同様のモードで振動し、そのモードが円周方向に回転する。例えば、後述する図5に示すような楕円形状や、三角形状、四角形状等に似た振動モードで振動し、円周方向に回転する。本発明において、一対の制振装置は、回転電気機械の駆動時に発生する電磁力による固定子の振動モード形状に応じた所定の位置、つまり、振動を最も効果的に抑制することが可能な位置に取り付けられる。具体的には、電磁力による回転電気機械の固定子の振動モードにおいて、変位(振幅)が最も大きくなる腹部と変位がほぼ零になる節部との間隔だけ離した位置に取り付けられる。これは以下の理由による。固定子に発生する任意の振動モードは、その腹と節の間隔だけ円周方向に位相のずれた同じ形状の2つのモード成分の合成として表される。そして、その2つのモード成分の大きさが時間とともに変化することにより振動モードの円周方向の移動(回転)が表現される。よって、これら同じ形状で円周方向に腹と節の間隔だけずれた2つのモード成分各々に対して1つの制振装置を設置し、それぞれの振動を抑えることにより、結果として振動モードが回転する固定子の振動を抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転電気機械に発生する振動モードに応じて一対の制振装置を回転電気機械に取り付けるので、振動モードが回転しても効果的に回転電気機械の振動を抑制することができ、その結果、振動による電磁騒音を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制振ユニットの構成例を示す斜視図である。
【図2】モータの構成例を示す断面図である。
【図3】制振ユニットの構成例を示す平面図である。
【図4】図3に示す制振ユニットのA−A線に沿った断面図である。
【図5】固定子の振動モードを説明するための図である。
【図6】電磁力による固定子の振動モードを説明するための図である。
【図7】電磁力による固定子の振動モードに応じて一対の動吸振器をモータに取り付けた状態を示す図である。
【図8】制振ユニットの機能例を説明するための図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る制振ユニットの構成例を示す平面図である。
【図10】図9に示す制振ユニットのB−B線に沿った断面図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る制振ユニットを各モードに応じて取り付けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下実施の形態とする)について説明する。
<1.第1の実施の形態>
図1〜図8を用いて第1の実施の形態を説明する。
[制振ユニットの構成例]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る制振ユニット50の構成の一例を示している。制振ユニット50は、モータ100の駆動時に作用する電磁力に基づく振動モードに応じて一対の動吸振器50A,50Bをモータ100の最適な位置に取り付けることで、モータ100の駆動時に発生する電磁騒音を効果的に抑制するための装置である。動吸振器50A,50Bは制振装置の一例であり、その取り付け位置等の詳細については後述する。
【0013】
[モータの構成例]
まず、モータ100の構成例について説明する。図2は、モータ100の構成の一例を模式的に示す断面図である。図2に示すように、モータ100は、三相誘導モータであり、回転子110と固定子120とを備えている。回転子110は円筒状をなす鉄心112を有し、鉄心112の中心部には回転軸114が設けられている。鉄心112の外周部には、複数の導体棒が鉄心112の円周方向に所定の間隔を隔てて配置された図示しないかご形巻線が取り付けられている。なお、モータ100は、回転電気機械の一例を構成している。
【0014】
固定子120は、回転子110の外周部を囲むような円筒体であって、その内周面には周方向に複数のスロット122が所定の間隔を隔てて設けられている。複数のスロット122内のそれぞれには、3相交流巻線124が配置されている。3相交流巻線124は、U相、V相、W相とで構成され、駆動時に3相交流が印加されるようになっている。固定子120の外周面には、一般的には固定子120を被覆するカバー部材が貼り付けられているが、本例では固定子120と一体物として扱うものとする。
【0015】
モータ100を回転させる起動時に、3相交流巻線124に一定周波数の3相交流を印加すると、N極とS極の磁石を時間とともに円周方向に回転させたような回転磁界が発生する。回転磁界が発生すると、回転子110のかご形巻線に電流が誘導される。これにより、固定子120の3相交流巻線124による回転磁界と、回転子110のかご形巻線による電流との間で電磁力(トルク)が発生し、回転子110が回転する。モータ100は、起動すると同期速度近くまで加速する。
【0016】
[動吸振器の構成例]
次に、動吸振器50A,50Bの構成例について説明する。図3は動吸振器50A,50Bの概略構成の一例を示す平面図であり、図4は図3に示す動吸振器50A,50BのA−A線に沿った断面図である。なお、図4では、モータ100の内部の断面構成は公知の構成と同様であるため便宜上省略して図示している。また、一対の動吸振器50A,50Bはそれぞれ同一の構成であるため、以下では動吸振器50Aについてのみ説明する。
【0017】
図3および図4に示すように、動吸振器50Aは、その復元力と慣性力によりモータ100との間に相対変位を生じさせることでモータ100の振動エネルギーを吸収するものであり、取り付け部52Aと板ばね54Aと錘56Aとを備えている。
【0018】
取り付け部52Aは、板ばね54Aを浮かせた状態でモータ100に取り付けるために所定の厚みを有した直方体形状、あるいは円柱形状からなり、モータ100の固定子120に取り付けられている。取り付け部52Aには、例えば金属材料、あるいは、アクリルやウレタン等の硬質の樹脂材料等が用いられ、モータ100に対向する面が固定子120の周面に沿うような形状に加工されている。
【0019】
板ばね54Aは、弾性部材の一例であり、所定の弾性係数を有する帯状の平板部材であって、例えば鋼等の金属材料や樹脂材料からなる。この板ばね54Aの基端(一端)は、取り付け部52Aおよび板ばね54Aに穿設されたねじ孔60Aにねじ58Aが締結されることで取り付け部52Aに固定される。これにより、板ばね54Aは、モータ100の外周面から浮いた(所定間隔だけ離れた)状態とされ、その先端(他端)が自由端とされる。板ばね54Aはその長手方向がモータ100の回転軸114方向に沿うようにして配置され、板ばね54Aの長手方向の長さがモータ100の回転軸114方向における長さよりも短くなるように選定され、モータ100の設置スペースからはみ出さないようにされている。ただし、モータ100の設置スペースに余裕があるのならば、回転軸114方向の長さより長くてもよく、方向も任意方向でよい。
【0020】
錘56Aは、慣性部材の一例であり、板ばね54Aの先端側の上面(モータ100とは反対側の面)に接着剤にて取り付けられている。なお、上記板ばね54Aの固定子120への取り付けおよび上記錘56Aの板ばね54Aへの取り付けは、上記に限らず、ねじ止め、接着剤あるいは溶接等を適宜、組合わせて取り付けてもよい。
【0021】
[電磁力における振動モード例]
図5は、モータ100の固定子120の振動モードの一例を示している。図5において、実線は固定子120の本来の外形形状であり、点線が固定子120の振動モードである。
【0022】
モータ100が駆動すると、固定子120と回転子110との鉄心相互を吸引する電磁力が固定子120を多角形に変形させる。この電磁力による変形の大きさが時間とともに周期的に変化することで振動する。この振動は、図5に示すように、モータ100を構成する極数に応じて、例えば「モード0」〜「モード4」のような振動モードに分類され、極数、固定子および回転子のスロット数により振動モードが決まってくる。
【0023】
図5において、「モード0」の場合、径方向に一様に拡大、縮小して振動する。「モード1」は節が2つある振動モードで、腹と節の間の角度は90°である。「モード2」は節が4つある振動モードで、楕円に似た変形をし、腹と節との間の角度は45°となる。「モード3」は節が6つある振動モードで、三角形に似た変形をし、腹と節との間の角度は30°となる。「モード4」は節が8つある振動モードで、四角形に似た変形をし、腹と節との間の角度が22.5°となる。さらに、これら以外にも腹と節の数がさらに多いモードも存在する。電磁力のモードが回転しているために、固定子に発生するこれらの振動モードも円周方向に回転する。
【0024】
[2極モータへの動吸振器の取り付け例]
続けて、モータ100の極数が「2極」の場合における動吸振器50A,50Bの取り付け例について説明する。発生する振動モードは固定子および回転子のスロット数により決まるが、モータ100の極数が「2極」の場合、振動モードは、例えば図5に示した「モード2」と「モード4」の2つのモードの発生が考えられる。これは、「モード2」のパターンで振動する場合もあるし、「モード4」のパターンで振動する場合もあるし、「モード2」および「モード4」の双方のパターンで同時に振動する場合もあることを意味している。本例では、「モード2」のみが発生する場合について説明する。
【0025】
図6は、「モード2」の場合におけるモータ100の固定子120の振動モードの一例を示している。図6において、実線は固定子120の本来の外形形状を示し、点線は電磁力により変形した所定時刻Tにおける固定子120の外形形状を示している。
【0026】
略楕円形状の長軸方向の円弧部分が本来の外形形状に対して外側に変位して変位がプラスとなり、楕円形状の短軸方向の窪んだ円弧部分が本来の外形形状に対して内側に変位して変位がマイナスとなる。本例では、プラス側の変位が最大の部位を腹S1,S3と呼び、マイナスが側の変位の絶対値が最大の部位を腹S2,S4と呼ぶ。また、その変位のプラス側の最大点である腹とマイナス側の変位の絶対値が最大の点である腹との間の中間部は、ほとんど振動せず振幅がゼロの節となる。本例では、この点を節P1、P2,P3,P4と呼ぶ。「モード2」の場合、隣接する腹と節との間の角度が例えば45°となっている。
【0027】
図7は、図6に示す「モード2」の場合における一対の動吸振器50A,50Bの取り付け位置の一例を示している。
【0028】
図7に示すように、一対の動吸振器50A,50Bのうち動吸振器50Aは、所定時刻Tにおける固定子120の外周面上の腹S1に対応した位置に取り付けられる。動吸振器50Bは、腹S1の位置を基準としたとき、この腹S1から時計周り方向に45°離れた節P1に対応した固定子120の外周面に取り付けられる。すなわち、一対の動吸振器50A,50Bは、腹S1と節P1との間の45°間隔でモータ100の固定子120に取り付けられる。もちろん、上記取り付け位置に限定されることはなく、一対の動吸振器50Aと50Bとの間隔が45°ならば固定子120の円周上の任意の位置に取り付ければよい。更に、この間隔も45°ではなく、腹と節の間隔を満たすように135°間隔あるいは225°間隔等でもよい。しかし一般的には、動吸振器50A,50Bは、離れた腹と節の位置よりも、隣接した腹と節の位置のそれぞれに取り付けることが好ましい。これは、位置が近い方が製造段階において効率的に取り付け作業を行うことができるからである。
【0029】
[一対の動吸振器の機能例]
図8(A)〜図8(C)は、一対の動吸振器50A,50Bをモータ100に取り付けた場合における動吸振器50A,50Bの機能の一例を説明するための図である。以下では、図7に示した位置に動吸振器50A,50Bを取り付けた場合について説明する。また、固定子120の振動モードは時計回りに回転するものとする。なお、図において、実線は固定子120の本来の外形形状を示し、点線はそれぞれの時刻における固定子120の外形形状を示している。
【0030】
図8(A)に示すように、動吸振器50Aが振幅が最大となる腹S1に位置し、動吸振器50Bが振幅が略零の節P1に位置する時刻では、動吸振器50Aによる制振効果により固定子120の振動が抑制される。
【0031】
続けて、図8(B)に示すように、動吸振器50Aが振幅が略零の節P4に位置し、動吸振器50Bが振幅が最大となる腹S1に位置する時刻では、動吸振器50Bによる制振効果が作用し、固定子120の振動が抑制される。
【0032】
続けて、図8(C)に示すように、動吸振器50Aが振幅が最大となる腹S4に位置し、動吸振器50Bが振幅が略零の節P4に位置する時刻では、動吸振器50Aによる制振効果が作用し、固定子120の振動が抑制される。以降、このような動作が繰り返し実行される。
【0033】
本例では動吸振器50Aおよび50Bが、腹や節に位置する時刻について説明したが、その中間の任意の時刻においても制振効果が作用することを、以下の制御理論を用いて説明する。
【0034】
[制振理論について]
一対の動吸振器50A,50Bを振動モードの腹と節の間隔に相当する位置に取り付けた場合における制振理論について説明する。
【0035】
モータ100の駆動時の電磁力による固定子120の半径方向の変位uは、N個の振動モードを考慮すれば、下記式(1)で記述される。
【0036】
【数1】

【0037】
ここに
θ:固定子の円周方向の座標(rad)、反時計回りを正とする
i:固定子の円周方向の振動モードを表す整数(i=1,・・・,N)
(図5における「モード0」は実質的に振動モードが回転しないので除外している)
ai:θ=0に腹をもつモードiの変位
bi:θ=π/2iに腹をもつモードiの変位
また、n個の動吸振器(j=1,・・・, n)の変位は、xj(j=1,・・・, n)で記述される。動吸振器50A,50Bの2個だけ考える時は、n=2となる。
さらに,以下のように定義する。
【0038】
r:固定子を厚さが薄いリングと考えたときの半径
ρ:固定子の密度
E:固定子の縦弾性係数
I:固定子の断面2次モーメント
A:固定子の断面積
Fscos(Ωst+sθ):電磁力の交流分のうち、モードsとして円周方向に分布し,角速度Ωsでθの負の方向(ここでは時計回り)に回転するもの
s:固定子および回転子のスロット数により決まる電磁力のモードを表す整数
Ωs:モードsをもつ電磁力の角振動数で、電源周波数Ω/2π(50Hz,あるいは60Hz)、すべり率、固定子のスロット数により決まる
Fs:モードsの電磁力の振幅
これらを前提として、固定子120の運動方程式を導出する。
【0039】
簡単のため、電磁力としてFscos(Ωst+sθ)の成分のみ考慮すれば、固定子120の上記式(1)のcosiθのモードの変位aiの運動方程式は、下記式(2)のように導出される。
【0040】
【数2】

【0041】
同様に、固定子120の上記式(1)のsiniθのモードの変位biの運動方程式は、下記式(3)のように導出される。
【0042】
【数3】

【0043】
動吸振器の運動方程式は下記式(4)のように導出される。
【0044】
【数4】

【0045】
ここに
mj:動吸振器jの慣性部材の質量
kj:動吸振器jの弾性部材の弾性係数
以下では、簡単のため、電磁力、およびそれに基づく固定子の振動モードの円周方向の波を2波(i=s=2)とした場合における、固定子120および動吸振器50A,50Bの運動方程式を導出する。
【0046】
上記の条件とした場合、固定子120の半径方向の変位は下記式(5)で与えられる。
【0047】
【数5】

【0048】
固定子120の半径方向の運動方程式は、上記式(5)を上記式(2),式(3)に代入すると、それぞれ下記式(6),式(7)で記述される。
【0049】
【数6】

【0050】
また、モード2を完全に制振するための動吸振器50A,50Bの設置位置は、例えば、θ1=0,θ2=π/(2i)=π/4となる。
θ1=0に設置された動吸振器50Aの運動方程式は、下記式(8)で記述される。
【0051】
【数7】

【0052】
θ2=π/4に設置された動吸振器50Bの運動方程式は、下記式(9)で記述される。
【0053】
【数8】

【0054】
上記式(6)〜式(9)から、式(6)と式(8)が連立し、式(7)と式(9)が連立していることがわかる。すなわち、式(6)で記述されるcos2θモード成分は動吸振器50Aで制振され、式(7)で記述されるsin2θモード成分は動吸振器50Bで制振されるメカニズムになっていることが分かる。各連立微分方程式を解くことにより、
【0055】
【数9】

【0056】
のとき、a2=b2=0となり、結局、式(5)からu=0となることがわかる。以上より、第1の実施の形態によれば、一対の動吸振器50A,50Bを式(10)の条件を満たすように設計し、各々θ1=0とθ2=π/4に設置すれば、モード2の電磁振動を完全に制振できる。
【0057】
<2.第2の実施の形態>
図9および図10を用いて第2の実施の形態を説明する。
第2の実施の形態では、モータ100としてインバータ制御されたモ−タやSRモータ等の回転速度が変化するモータを用いるため、動吸振器として減衰効果を合わせ持つ部材を用いている点において上記第1の実施の形態と相違している。なお、その他の制振ユニット150の構成は、上記第1の実施の形態の制振ユニット50と同様であるため、共通の構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0058】
図9は制振ユニット150の概略構成の一例を示す平面図であり、一対の動吸振器150A、150Bは第1の実施形態と同様に、振動モードの腹と節の間隔に相当する間隔をもって配置される。図10は図9に示す制振ユニット150のB−B線に沿った断面図である。なお、制振ユニット150を構成する一対の動吸振器150A,150Bはそれぞれ同一の構成であるため、以下では動吸振器150Aについてのみ説明する。
【0059】
図9および図10に示すように、動吸振器150Aは、弾性減衰部材154Aと錘156Aとを備えている。弾性減衰部材154Aは、例えば、アクリルやウレタン等の樹脂材料からなり、前述した弾性部材54Aの機能に加えて、減衰効果も合わせて有している。弾性減衰部材154Aは、この例では、細長の直方体形状により構成され、その長手方向が回転軸114の軸方向に沿うようにしてモータ100の固定子120の外周面に取り付けられているが、必ずしも直方体形状である必要はない。錘156Aは、弾性減衰部材154Aと略同一形状の細長の直方体からなり、その長手方向が回転軸114方向に沿うようにして弾性減衰部材154Aの上面部に重畳して取り付けられている。
【0060】
弾性減衰部材154Aおよび錘156Aの両端部のそれぞれには、ねじ孔160A,162Aが穿設され、これらのねじ孔160A,162Aのそれぞれにねじ164A,166Aが締結されることで、弾性減衰部材154Aおよび錘156Aのそれぞれがモータ100の外周面に取り付け、固定される。
【0061】
動吸振器150Aの、錘156Aの質量と弾性減衰部材154Aの弾性係数は、前述の制振理論と同様に、電磁振動と共振するようにその比が決定されるが、弾性減衰部材154Aに減衰効果があるため、共振のピークがなだらかになる。すなわち、電磁振動の角振動数に対し、ある特定の角振動数で動吸振器の振動振幅は最大になるが、その角振動数の近傍でも十分大きな振動振幅を維持することができる。
【0062】
したがって第2の実施の形態によれば、回転速度が変化するモータを用いた場合でも、モータ100の振動を効果的に抑制することができる。その結果、モータ100の振動による電磁騒音を確実に防止することができる。なお本例では、弾性効果と減衰効果をあわせ持つ弾性減衰部材を用いたが、弾性部材と減衰部材の組合わせで構成してもよい。また、減衰効果のない弾性部材を用いた一対の動吸振器と、減衰効果のみを持つ減衰部材からなる一対の減衰器を、同一間隔で配置するようにしてもよい。
【0063】
<3.第3の実施の形態>
図11を用いて第3の実施の形態を説明する。
上記第1および第2の実施の形態では振動モードが単一で発生する場合について説明したが、第3の実施の形態では複数の振動モードが同時に発生する場合について説明する。なお、その他の制振ユニットの構成は、上記第1の実施の形態と同様であるため、共通の構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0064】
図11は、モータ100の駆動時に「モード2」と「モード4」とが同時に発生した場合における一対の動吸振器50A,50Bおよび一対の動吸振器250A,250Bの取り付け状態を示している。このようなケースとしては、例えば2極のモータ100において、「モード2」の振動がある程度の大きさで発生するとともに、電磁力との共振により「モード4」も発生するような場合が考えられる。なお、図11において、実線は固定子120の本来の外形形状を示し、点線はモード2の場合の電磁力により変形した所定時刻Tにおける固定子120の外形形状を示し、一点鎖線はモード4の場合の電磁力により変形した所定時刻Tにおける固定子120の外形形状を示している。
【0065】
ここで、「モード2」については上記第1の実施の形態で説明したので、「モード4」について説明する。モータ100が回転駆動すると、図11に示すように、固定子120は駆動時に発生する電磁力により四角形状に近い変形をする。略四角形状の角部に相当する位置が本来の外形形状に対して外側に変位して変位がプラスとなり、略四角形状の辺部の中央付近に相当する位置が本来の外形形状に対して内側に変位して変位がマイナスとなる。また、その変位のプラス側の最大点である腹とマイナス側の変位の絶対値が最大の点である腹との間の中間部は、ほとんど振動せず振幅がゼロの節となる。「モード4」の場合、隣接する腹(最大点,最小点)と節との間の角度は22.5°となっている。
【0066】
また「モード4」に対応する一対の動吸振器250A,250Bの固有振動数は、前述の式(10)と同様にモード4の電磁力の角振動数Ω4で決まる固有振動数に設定される。
【0067】
本例では、図11に示すように、一対の動吸振器50A、50Bのうち動吸振器50Aが「モード2」の腹S1に取り付けられ、動吸振器50Bが腹S1から時計周り方向に45°離れた節P1に取り付けられる。また、一対の動吸振器250A、250Bのうち動吸振器250Aが「モード4」の腹S7に取り付けられ、動吸振器250Bが腹S7から時計周り方向に22.5°離れた節P7に取り付けられる。したがって、「モード2」の振動モードに対しては一対の動吸振器50A、50Bが制振効果を発揮し、「モード4」の振動モードに対しては一対の動吸振器250A、250Bが制振効果を発揮する。
以上説明したように、第3の実施の形態によれば、複数のモードが同時に発生した場合、モードの数と一対の動吸振器から成る制振ユニットの数を同じとし、一対の動吸振器は、それぞれ制振対象のモードの腹と節の間隔に相当する間隔を持った位置に取り付けているため複数の振動モードが同時に発生した場合でも、各振動モードの振動を確実に抑制することができ、振動による電磁騒音を効果的に抑制することができる。
【0068】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。例えば、上記第1〜第3の実施の形態では、モータ100の円周方向に沿って振動モード(電磁力)が発生する場合について説明したが、これに限定されることはない。例えば、モータ100が円周方向の振動モードだけでなく、回転軸114方向の振動モードもともなう場合、この回転軸114方向の振動モードは回転軸方向には移動しないので、回転軸114方向の振幅が最も大きな腹の位置を選び、その位置で円周方向の振動モードの腹と節の間隔に相当する位置に一対の動吸振器50A,50Bを取り付けることで、効果的に振動を抑制できる。
【0069】
また、上記第1〜第3の実施の形態では、固定子120と外周部を被覆するカバー部材を一体物とみなして、ここに一対の動吸振器50A,50Bを取り付けた例を説明したが、これに限定されることはなく、固定子120の外周面に密着した被覆カバーに一対の動吸振器50A,50Bを取り付けるような構造としても良く、同様の制振効果が得られる。
【0070】
また、上記実施の形態では、モータ100として三相誘導モータやSRモータを用いた例について説明したが、これに限定されることはなく、それ以外のモータや発電機等の回転電気機械にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
50,150,250・・・制振ユニット、50A,50B、150A,150B、250A,250B・・・動吸振器(制振装置)、54A,54B、254A,254B・・・板ばね(弾性部材)、56A,56B、156A,156B、256A,256B・・・錘(慣性部材)、100・・・モータ(回転電気機械)、154A,154B・・・弾性減衰部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電気機械に取り付けられる一対の制振装置から成る制振ユニットであって、
前記一対の制振装置のそれぞれは、
前記回転電気機械の外周面に取り付けられた弾性部材と、
前記弾性部材の端部に取り付けられた慣性部材とを備え、
前記回転電気機械の駆動時に前記回転電気機械に作用する電磁力に基づく振動モードの振幅に応じた所定の位置に配置された
ことを特徴とする制振ユニット。
【請求項2】
前記電磁力による前記振動モードが振幅の大きい腹部と振幅の小さい節部との規則的なパターンで構成されている回転電気機械に取り付けられる一対の制振装置から成る制振ユニットであって、
前記一対の制振装置は、前記振動モードにおいて振幅が大きい前記腹部と振幅が小さい前記節部との間の間隔で配置され、
かつ、当該制振装置の前記弾性部材の弾性係数と前記慣性部材の質量は、当該制振装置の固有振動数が当該振動モードの角振動数と一致するように成された
ことを特徴とする請求項1に記載の制振ユニット。
【請求項3】
前記電磁力による振動モードが複数存在する回転電気機械に取り付けられる制振ユニットであって、
前記一対の制振装置を複数対備え、
そのうちの一対は、前記複数の振動モードのいずれか一つの振動モードの前記腹部と前記節部との間隔で配置され、
かつ、当該制振装置の前記弾性部材の弾性係数と前記慣性部材の質量は、当該制振装置の固有振動数が当該振動モードの角振動数と一致するように成された
ことを特徴とする請求項2に記載の制振ユニット。
【請求項4】
前記電磁力による振動モードが複数存在し、かつ同時に発生する回転電気機械に取り付けられる制振ユニットであって、
前記同時に発生した前記複数の振動モードの数と同数の前記一対の制振装置が前記回転電気機械に取り付けられた
ことを特徴とする請求項3に記載の制振ユニット。
【請求項5】
前記回転電気機械の回転速度が変化する前記回転電気機械に取り付けられる制振ユニットであって、
前記制振装置の前記弾性部材は、弾性効果に加えて減衰効果を有する部材、もしくは弾性効果を有する弾性部材と減衰効果を有する減衰部材との組合わせにより構成された
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の制振ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−61058(P2013−61058A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201638(P2011−201638)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】