説明

制振機能を有するエレベータ装置

【課題】簡潔な構成の制振機能を有するエレベータ装置を提供する。
【解決手段】一実施形態による制振機能を有するエレベータ装置は、エレベータの乗りかごドアに取り付けられた係合刃と、係合刃に係合するようにエレベータの乗り場ドアに取り付けられた係合子と、エレベータのドアを開閉するドア開閉機構とを備える。本装置は、ドア開閉機構によって乗りかごドアおよび乗り場ドアが全開位置に移動したときに、係合刃を介して、ドアを開く駆動力以上の力で、係合子に押圧するコイルバネを、さらに、備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等に設けられた昇降路内を走行するかごが昇降するエレベータ装置に関し、特に、かごの振動を抑えるエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータにおいては、乗りかごが停止している状態で、乗客が乗り降りするときのように荷重の変動があると、乗りかごがふわふわと上下に振動することがある。この現象は、ロープ式エレベータにおいては、例えば、メインロープの伸縮等に起因するが、乗客に対して不安感を与えていた。この振動を抑えるために様々な方策が考えられている。ロープ式エレベータの場合には、剛性の大きなメインロープを使用することは一つの対策にはなるが、ロープ自体および巻き上げ装置等の摩耗を考慮すると、過度に剛性の大きなメインロープを使用することはできない。また、特許文献1には、乗りかごが停止しドアが全開状態のときに、制御装置からの指令によって固定装置が作動し、乗りかご枠を昇降路内に設けられたガイドレールに固定する方法が開示されている。しかし、この方法は複雑な固定装置を必要とするとともに、複雑な制御が必要である問題点があった。特許文献2に開示されたエレベータ装置は、乗りかご枠の速度を検出する速度センサと、乗りかご室の加速度を検出する加速度センサとを備え、乗りかご枠の速度の向きがかご室の加速度の向きと反対向きのときにガイドローラの回転に制動力をかけて乗りかご枠の速度を減速させることによって、乗りかご室の加速度と反対向きの慣性力を発生させて乗りかご室の加速度を小さくしている。この方法は多くの構成要素を必要とするとともに、複雑な制御が必要である問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−106456号公報
【特許文献2】特開2003−104655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、簡潔な構成の制振機能を有するエレベータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態による制振機能を有するエレベータ装置は、エレベータの乗りかごドアに取り付けられた係合刃と、係合刃に係合するようにエレベータの乗り場ドアに取り付けられた係合子と、エレベータのドアを開閉するドア開閉機構とを備える。本装置は、ドア開閉機構によって乗りかごドアおよび乗り場ドアが全開位置に移動したときに、係合刃を介して、ドアを開く駆動力以上の力で、係合子を押圧する押圧手段を、さらに、備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡潔な構成の制振機能を有するエレベータ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明が適用される乗りかごを昇降路の外の乗り場側から見た図である。
【図2】図1に示した乗りかごドア側係合部を含む部分の拡大図である。
【図3】図1に示した乗りかごドアに対応する乗り場ドアを昇降路側から見た図である。
【図4】乗り場ドアに設けられるインターロック部の一例を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態において乗り場ドアに乗りかごドア側係合部が係合した状態を表す図である。
【図6】本発明の実施形態におけるインターロックの動作を表す図である。
【図7】本発明の一実施形態による制振機能を有するエレベータ装置を説明するための図である。
【図8】図7に示したコイルバネの取り付け形態の例を示す図である。
【図9】バネの圧縮長さと押圧力との関係を表す図である。
【図10】本発明の他の実施形態による制振機能を有するエレベータ装置を説明するための図である。
【図11】図10に示した係合刃ローラガイド部材のドア開方向の端部を拡大した図である。
【図12】図10に示した実施形態における乗りかごドアの相対的な移動距離と、第1の係合刃の押圧力との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、適宜、図面を参照しながら本発明の一例としての実施の形態の説明を行う。尚、同一部分については、異なる図であっても、同一の参照符号を付する。先ず、エレベータ装置において用いられている係合機構の一部の部材を、本発明の一実施形態に用いる場合について説明を行う。図1は、乗りかご枠に収納される乗りかご室のドア(乗りかごドア)に設けられる係合部材を説明するためのものであり、乗りかごを昇降路の外の乗り場側から見た図である。図1では、いわゆる横開きの2枚戸両開き方式の乗りかごドア102および104を示している。しかし、本発明は両開き方式か片開き方式かに依存するものではなく、また、ドアを構成する枚数に依存するものでもない。乗りかごが着床階に到着し、停止したことが確認されると、乗りかごドア102および104は、乗りかごドアベルト106を介して、乗りかごに設けられた乗りかごドア駆動部108に含まれる乗りかごドアモータ(図示せず)の動力によって、連動して開閉する。乗りかごドア102には、乗りかごドア102の運動を着床階に設けられた乗り場ドアに伝える乗りかごドア側係合部110が設けられている。
【0009】
図2(a)は、乗りかごドア側係合部110を含む部分の図1の拡大図である。乗りかごドア側係合部110は、2つのリンク部材202および204を含む。リンク部材202および204は、乗りかごドア102に固定されたプレート206に対して、その中央部分が、それぞれ固定部材208および210によって揺動自在に取り付けられている。固定部材208および210は、これらの中心が昇降方向の直線上にあるように配置されている。2つのリンク部材202および204は、それぞれ、乗りかごドア102の閉方向側の連結部212a、212bで、第1の係合刃216に連結され、乗りかごドア102の開方向側の連結部214a、214bで、それぞれ、第2の係合刃218に連結されている。第1の係合刃216および第2の係合刃218は、乗りかごの昇降方向に平行に配設される。また、2つのリンク部材202および204は、図2(a)に示すように、乗りかごドア102に平行な平面にあって、第1の係合刃216および第2の係合刃218に対して、例えば、斜めに配設される。第1の係合刃216および第2の係合刃218と、リンク部材202および204は、上述したように連結されているため、例えば、第1の係合刃216を押し下げる力が加わると、連結部212a、212bが下方に移動し、リンク部材202および204を介して、連結部214a、214bが上方に移動するため、第2の係合刃218は上方に移動する。この場合、第1の係合刃216、第2の係合刃218、リンク部材202、204が連結されているため、第1の係合刃216と第2の係合刃218の乗りかごドア102の開閉方向の間隔が変化する。この間隔は、図2(a)に示したような形態で連結されている場合には、狭くなる。
【0010】
前述したように、乗りかごドア102は、乗りかごドアベルト106を介して、乗りかごに設けられた乗りかごドア駆動部108に含まれる乗りかごドアモータ(図示せず)の動力によって、開閉する。乗りかごドア102の上方にある、乗りかご室のドアヘッダ220には乗りかごドアの開閉方向に平行にハンガーレール222が固定されている。乗りかごドア102の上方には乗りかごドア吊り部材224a、224bが固定されており、これら乗りかごドア吊り部材224a、224bの上方には、それぞれ、乗りかごドアローラ226a、226bが設けられている。乗りかごドアローラ226a、226bはハンガーレール222上を移動する。すなわち、乗りかごドア102は、乗りかごドアローラ226a、226bおよび乗りかごドア吊り部材224a、224bを介して、ハンガーレール222に吊り下げられた状態で、開閉する。乗りかごドア104も、対応する乗りかごドアローラおよび乗りかごドア吊り部材を介して、同様に、ハンガーレール222に吊り下げられた状態で、乗りかごドア102に連動して開閉する。
【0011】
第1の係合刃216の上部には、乗りかごドア側係合刃ローラ228が設けられている。乗りかご室のドアヘッダ220には、乗りかごドア102の開閉方向に、ほぼ平行に係合刃ローラガイド部材230が固定されている。例えば、第1の係合刃216が適切な力で上方に付勢されるか、あるいは第2の係合刃218が適切な力で下方に付勢される等のメカニズムによって、第1の係合刃216は上方に移動しようとするが、乗りかごドア側係合刃ローラ228が係合刃ローラガイド部材230に接すると、それ以上、上方に動くことはできない。すなわち、第1の係合刃216の昇降方向の移動は係合刃ローラガイド部材230によって制限され、第1の係合刃216の昇降方向の位置が定まる。乗りかごドア102が完全な閉状態のときに乗りかごドア側係合刃ローラ228が接する係合刃ローラガイド部材230の部分230aは、乗りかごドア102から遠ざかる方向、すなわち上向きに曲げられている。したがって、乗りかごドア102が完全な閉状態から少し開方向に移動すると、乗りかごドア側係合刃ローラ228が係合刃ローラガイド部材230によって押し下げられ、第1の係合刃216が押し下げられる。前述したように、図2(a)に示したような場合には、第1の係合刃216が押し下げられると、第1の係合刃216と第2の係合刃218の乗りかごドア102の開閉方向の間隔が狭くなる。この作用は、後ほど述べる、乗り場ドアのインターロックに関連する。
【0012】
図2(b)は、乗りかごドア側係合部110を上から見たときの模式図である。第1の係合刃216と第2の係合刃218の対向する面216a、218aは、例えば、乗りかごドア102に垂直かつ昇降方向(図に垂直な方向)に平行な部分を含む。
【0013】
図3は、図1に示した乗りかごドアに対応する乗り場ドアを昇降路側から見た図である。したがって、図3に示すそれぞれの乗り場ドア302および304は、それぞれ、図1に示した乗りかごドア102および104に対応する。乗り場ドア302および304は、それぞれ、図1に示した乗りかごドア102および104に連動して開閉するが、通常のエレベータシステムにおいては、着床階に乗りかごが停止していないときに、誤作動によって開いてしまうと危険なため、乗り場側には乗り場ドア302および304を移動させるための動力装置は備えられていない。さらに、乗り場ドア302および304には、着床階に乗りかごが停止していないときに、乗り場ドア302および304が開くことを防止するインターロック部306が備えられている。本実施形態によるインターロック部306は、乗り場ドア側係合部を含む。乗りかごが着床階に到着し所定の位置に停止すると、乗り場ドア302に設けられた乗り場ドア側係合部と、乗りかごドア側係合部110が係合し、乗り場ドアは乗りかごドアによって開閉する。図3には、乗り場ドア304を乗り場ドア302に連動して開閉させる部材等が取り付けられた乗り場のドアヘッダ308も示している。
【0014】
次に、図4を参照しながら、一実施形態による乗り場ドアに設けられるインターロック部306について説明する。乗り場ドア302の昇降路側には、その先端部404が爪状に形成された第1のインターロック部材402が、先端部404が揺動自在になるように取り付けられている。乗り場ドア304の昇降路側には、凹部が形成された第2のインターロック部材406が固定されている。図4は、第1のインターロック部材402と、第2のインターロック部材406とがインターロックされた状態を示している。乗り場ドア302と304は、第1のインターロック部材402と第2のインターロック部材406を介して、インターロックされている。第1のインターロック部材402と第2のインターロック部材406は、インターロックされた状態において、乗り場ドア302と304の少なくとも一方に開方向の力が加えられても、乗り場ドア302と304が開かないような形状、強度を持っている。図に示した乗り場ドアのインターロック状態は、その乗り場ドアが設置された着床階に乗りかごが到着し、所定の位置に停止し、乗りかごドアが開き始めるまで維持され、安全性が確保される。
【0015】
また、本実施形態によるインターロック部306は、乗り場ドア302の昇降路側に固定部材408を介して揺動自在に取り付けられた部材410を含む。部材410の一端は、リンク部材412を介して、第1のインターロック部材402に連結されている。固定部材408は、部材410よりもさらに昇降路側に設けられる第1のローラ414を回動自在に軸支する。また、図に示すように、部材410の昇降路側には、インターロックされた状態において、第1のローラ414よりも乗り場ドア304側に設けられた固定部材416によって回動自在に取り付けられた第2のローラ418が設けられている。インターロックの動作に関しては、後ほど図6を参照しながら説明を行う。
【0016】
図5に、乗り場ドア302に乗りかごドア側係合部110が係合した状態を示す。すなわち、乗り場ドア302、304が設けられた着床階に乗りかごが到着し、所定の位置に停止した状態における、乗り場ドア302に設けられたインターロック部306の部材と乗りかごドア側係合部110が係合した状態を示す。図5(a)は、係合状態を昇降路側から見た図である。尚、係合状態を明らかにするために、乗りかごドアの部材は、乗りかごドア側係合部110を除き示していない。乗り場ドア302、304が設けられた着床階に乗りかごが到着し、所定の位置に停止した状態においては、乗りかごドア側係合部110の第1の係合刃216および第2の係合刃218の間に、インターロック部306の第1のローラ414および第2のローラ418が存在する。このとき、インターロック部306の第1のインターロック部材402および第2のインターロック部材406はインターロックされた状態にある。
【0017】
図5(b)は、図5(a)でI−I’で示した部分を上側から見た図である。図5(b)には乗り場ドア302に対応する乗りかごドア102を示している。
【0018】
図6を参照しながら、インターロックの動作を説明する。図6(a)は図5(a)のインターロック部306を拡大したもので、第1のインターロック部材402および第2のインターロック部材406はインターロックされた状態にある。図6(b)は、第1のインターロック部材402と第2のインターロック部材406とのインターロックが解除された状態を示す。図2を参照しながら前述したように、乗りかごドア102が完全な閉状態から少し開方向に移動すると、第1の係合刃216が押し下げられ、第1の係合刃216と第2の係合刃218の乗りかごドア102の開閉方向の間隔が狭くなる。このとき、第2のローラ418が第2の係合刃218によって第1の係合刃216側に押され、これに伴って部材410はその左端が上がる方向に揺動する。部材410の左端にはリンク部材412が取り付けられており、このリンク部材412を介して、第1のインターロック部材402の先端が上方に移動し、第1のインターロック部材402と第2のインターロック部材406とのインターロックが解除される。
【0019】
図7に、エレベータ装置において用いられている係合機構の一部の部材を用いた本発明の一実施形態を示す。図は、乗りかごドア102と、このドアに係合する乗り場ドア302(図示せず)が全開した状態を、乗り場ドア302が閉じた状態と重ね合わせて、昇降路の外の乗り場側から見たものである。尚、乗り場ドア302に取り付けられた部材は、インターロック部306を除き、示していない。図にはドアの開閉方向に伸縮するコイルバネ702が示されている。コイルバネ702の一端は、例えば、乗りかご室のドアヘッダ220に取り付けられる。コイルバネ702の他端は、乗りかごドア102が全開状態のとき、第1の係合刃216を、ドアを開く駆動力以上の力で、ドア閉方向に押す。第1の係合刃216がドア閉方向に押されると、第1の係合刃216が乗り場ドア302に取り付けられた第1のローラ414および第2のローラ418を押すように作用するとともに、リンク部材202および204を介して、第2の係合刃218がドア開方向、すなわち第1の係合刃216に近づく方向の力を受ける。したがって、コイルバネ702は、第1の係合刃216と第2の係合刃218との間隔を狭めるように作用し、2つの乗りかごドア側係合子216、218の間にある、乗り場ドア302に取り付けられたローラ414、418は、乗りかごドアに取り付けられた乗りかごドア側係合子216、218によって締め付けられる。この締め付け作用によって、乗りかごドア側係合子216、218とローラ414、418の間の摩擦力が増大し、乗りかご室が昇降方向に揺れている場合に、その揺れに対する制動効果を高めることができる。尚、リンク部材202および204は、図に示すように、乗りかごドア側係合子216、218に対して斜めに取り付けられている必要がある。リンク部材と乗りかごドア側係合子が垂直になっていると、乗りかごドア側係合子216をドア閉方向に押しても、上記の効果が得られないためである。この実施形態においては、乗りかごドア側係合部110の部材および乗り場ドア302に取り付けられたローラ414、418は、乗り場ドア302を乗りかごドア102に連動して開閉させる係合機構の部材であるとともに、乗りかご室の制振機構の部材としても機能するため、制振機能のために追加する部材は少なくて済む。
【0020】
尚、乗りかごドア側係合部110の乗りかごドア102への取り付け位置等が不適切な場合には、ローラ414等が乗りかごドア側係合子216と218との間隙の中央に位置しないことがある。しかし、このような場合であっても、乗りかごドア側係合子216および218のいずれか一方がローラ414等を押圧し、一定の制動効果を得ることができる。また、ローラ414等が乗りかごドア側係合子216と218との間隙の中央に位置するように乗りかごドア側係合部110を乗りかごドア102に取り付けることは、乗りかごドア側係合部110を乗りかごドア102に取り付けているプレート206の位置を調整するか、または適切な治具等を用いることによって容易に行うことができる。
【0021】
また、乗り場ドア302に、1または複数の制動部材704を設けることもできる。第1のローラ414および第2のローラ418がインターロック部306の機能の一部を担うのに対し、制動部材704はインターロック機能とは無関係である。したがって、制動部材704は、インターロック機能に必要な要件を満たす必要がなく、乗りかご室の振動を制動する機能のみに適した形状、材料等を用いることができる。制動部材704を複数設ける場合には、それらのドア開閉方向の寸法は同一であり、複数の制動部材704は昇降方向に平行な直線上に整列するように設ける。
【0022】
コイルバネ702の取り付けには、様々な形態がある。図8は、コイルバネ702の取り付け形態の例を示すために図7を上から見た模式図である。ここで、ドアは全開の直前の状態にある。図8に示す取り付け形態は、コイルバネ702によって乗りかごドア側係合子216を押圧する点で共通する。図8(a)に示す形態においては、コイルバネ702をバネ固定部材802に固定し、バネ固定部材802は乗りかご室のドアヘッダ220に固定される。図8(b)に示す形態においては、コイルバネ702が乗りかごドア側係合子216に固定され、乗りかご室のドアヘッダ220にコイルバネ702の押圧を受けるストッパ804が固定されている。図8(c)に示す形態は、バネ固定部材802を乗り場のドアヘッダ308に固定する点で、図8(a)に示した形態と異なる。図8(d)に示す形態は、ストッパ804を乗り場のドアヘッダ308に固定する点で、図8(b)に示した形態と異なる。
【0023】
良く知られているように、バネの押圧力Fは、バネが自由な状態から圧縮されたときのバネが縮む長さ(圧縮長さ)Lに比例する。圧縮長さLとバネの押圧力Fとの関係を図9に示す。本実施形態においては、圧縮長さLはコイルバネ702が乗りかごドア側係合子216またはストッパ804に触れた状態から、乗りかごドア102がさらに開方向に移動した距離であるため、必要な押圧力に対応して乗りかごドア102の全開位置を定めることができる。また、乗りかごドア102が全開する第1の位置を圧縮長さLに対応する位置とし、乗りかごドア102が全開する第2の位置を圧縮長さLに対応する位置とすることによって、全開位置におけるバネの押圧力を、それぞれ、FおよびFのように異なる値とすることができる。このように乗りかごドア102が全開する位置を複数規定することによって、例えば、かご室の振動が大きな着床階と、振動が小さな着床階に応じて、乗りかごドア102の全開位置を決定することができる。乗りかごドア102の全開位置の規定および決定は、例えば、制御装置によって行うことができる。
【0024】
尚、以上の説明においては、押圧部材としてコイルバネ702を用いた場合について述べたが、押圧部材はコイルバネに限られることなく、他の適切なバネ、ゴムのような弾性体、さらには剛性の大きな部材、例えば、金属であってもよい。
【0025】
図10に、エレベータ装置において用いられている係合機構の一部の部材を用いた本発明の他の実施形態を示す。図は、乗りかごドア102と、このドアに係合する乗り場ドア302(図示せず)が全開した状態を、乗り場ドア302が閉じた状態と重ね合わせて、昇降路の外の乗り場側から見たものである。尚、本図においても、インターロック部306を除き、乗り場ドア302に取り付けられた部材は示していない。図には図2を参照しながら説明を行った、乗りかごドア102の開閉方向に、ほぼ平行に乗りかご室のドアヘッダ220に固定されている係合刃ローラガイド部材230が示されている。前述したように、係合刃ローラガイド部材230は、第1の係合刃216の昇降方向の移動を制限し、第1の係合刃216の昇降方向の位置を定めている。乗りかごドア102が全開状態のときには、第1の係合刃216に取り付けられた乗りかごドア側係合刃ローラ228は、係合刃ローラガイド部材230のドア開方向の端部230bに接している。乗りかごドア側係合部110が図10に示した形態、すなわち、リンク部材202および204の第1の係合刃216との連結部212aおよび212bが、それぞれ、リンク部材202および204をプレート206に取り付けている固定部材208および固定部材210と同じ高さか下にある形態においては、係合刃ローラガイド部材のドア開方向の端部230bは下向きに曲げられている。したがって、乗りかごドア102が全開状態においては、乗りかごドア側係合刃ローラ228が係合刃ローラガイド部材230によって押し下げられ、第1の係合刃216が押し下げられる。前述したように、図10に示したような場合には、第1の係合刃216が押し下げられると、第1の係合刃216と第2の係合刃218の乗りかごドア102の開閉方向の間隔が狭くなる。このとき、第1の係合刃216は、ドアを開く駆動力以上の力で、係合子を押圧する。この結果、2つの乗りかごドア側係合子216、218の間にある、乗り場ドア302に取り付けられたローラ414、418は、乗りかごドアに取り付けられた乗りかごドア側係合子216、218によって締め付けられる。この締め付け作用によって、乗りかごドア側係合子216、218とローラ414、418の間の摩擦力が増大し、乗りかご室が昇降方向に揺れている場合に、その揺れに対する制動効果を高めることができる。この実施形態においても、乗りかごドア側係合部110の部材および乗り場ドア302に取り付けられたローラ414、418は、乗り場ドア302を乗りかごドア102に連動して開閉させる係合機構の部材であるとともに、乗りかご室の制振機構の部材としても機能するため、制振機能のために追加する部材は少なくて済む。図10に示した係合刃ローラガイド部材のドア開方向の端部230bの作用については、後ほど図11を参照しながら、さらに説明を加える。
【0026】
尚、図7に示した実施形態と同様に、乗りかごドア側係合部110の乗りかごドア102への取り付け位置等が不適切な場合には、ローラ414等が乗りかごドア側係合子216と218との間隙の中央に位置しないことがある。しかし、このような場合であっても、乗りかごドア側係合子216および218のいずれか一方がローラ414等を押圧し、一定の制動効果を得ることができる。また、ローラ414等が乗りかごドア側係合子216と218との間隙の中央に位置するように乗りかごドア側係合部110を乗りかごドア102に取り付けることは、乗りかごドア側係合部110を乗りかごドア102に取り付けているプレート206の位置を調整するか、または適切な治具等を用いることによって容易に行うことができる。また、乗り場ドア302に1または複数の制動部材704を設けることができることも図7に示した実施形態と同様である。
【0027】
尚、リンク部材202および204の第1の係合刃216との連結部212aおよび212bが、それぞれ、リンク部材202および204をプレート206に取り付けている固定部材208および固定部材210よりも上にある形態においては、係合刃ローラガイド部材のドア開方向の端部230bは上向きに曲げられている。第1の係合刃216が押し下げられるとすると、第1の係合刃216と第2の係合刃218の乗りかごドア102の開閉方向の間隔が広くなるためである。
【0028】
すなわち、係合刃ローラガイド部材のドア開方向の端部230bは、2つのリンク部材202、204と第1の係合刃216がなす角度に応じて、下方または上方に曲げられている。
【0029】
図11は、図10に参照符号232で示した、係合刃ローラガイド部材230のドア開方向の端部230bを拡大した図である。尚、図には乗りかごドア側係合子216を示していない。図11(a)は、ドアが全開位置に近づいたときの乗りかごドア側係合刃ローラ228と係合刃ローラガイド部材230との位置関係を示している。この段階では、乗りかごドア側係合刃ローラ228は未だ係合刃ローラガイド部材230の平坦部に接している。図11(b)は、ドアが全開位置に移動したときの乗りかごドア側係合刃ローラ228と係合刃ローラガイド部材230との位置関係を示している。乗りかごドア側係合刃ローラ228は係合刃ローラガイド部材230の湾曲した端部230bに接している。図11(a)に示した状態から図11(b)に示した状態に乗りかごドア側係合刃ローラ228が移動する距離Lは、乗りかごドア102の移動距離に等しい。前述したように、乗りかごドア側係合刃ローラ228が係合刃ローラガイド部材230によって押し下げられると、第1の係合刃216は第2の係合刃218に近づき、乗り場ドア302に取り付けられたローラ414等を押圧する力が増大する。図11(a)に示した状態を基準としたときの乗りかごドア102の移動距離Lと、第1の係合刃216がローラ414等を押圧する力Fとの関係を図12に示す。図12に示す曲線は、係合刃ローラガイド部材230のドア開方向の端部230bの湾曲に対応している。図7に示した実施形態と同様に、必要な押圧力に対応して乗りかごドア102の全開位置を定めることができる。また、乗りかごドア102が全開する第1の位置を移動距離Lに対応する位置とし、乗りかごドア102が全開する第2の位置を移動距離Lに対応する位置とすることによって、全開位置における第1の係合刃216の押圧力を、それぞれ、FおよびFのように異なる値とすることができる。このように、図7に示した実施形態と同様に、乗りかごドア102が全開する位置を複数規定することによって、例えば、かご室の振動が大きな着床階と、振動が小さな着床階に応じて、乗りかごドア102の全開位置を決定することができる。乗りかごドア102の全開位置は、例えば、制御装置によって規定および決定することができる。
【0030】
さらに、係合子216、または係合子216と係合子218の、例えば制動部材704等の制動部材と接触する部分を、係合子の素材自体に比べて、制動部材に対する動摩擦係数が大きくなるような加工をすることも有用である。このような加工には、ウレタンシート等の、係合子自体に比べて動摩擦係数が大きな部材を制動部材に接触する係合子の部分に貼付等によって固定すること、制動部材に接触する係合子の部分を物理的あるいは化学的に動摩擦係数を高める加工を行うことが含まれる。この実施形態によれば、本装置の制振特性がさらに改善される。
【0031】
また、ドアの全開位置を複数設けることは前述したが、かご室の荷重を計測する荷重系からの信号に応じて、複数設けたドアの全開位置の中から適切な全開位置を決定することもできる。この実施形態によれば、荷重が大きいときには効果的な制振特性が得られると同時に、荷重が大きいときには制振機能を働かせないことによって本装置に用いられる部材の摩耗を減少させることもできる。
【符号の説明】
【0032】
102、104 乗りかごドア
106 乗りかごドアベルト
108 乗りかごドア駆動部
110 乗りかごドア側係合部
202、204 リンク部材
206 プレート
208、210 固定部材
212a、212b、214a、214b リンク部材の連結部
216 第1の係合刃
218 第2の係合刃
220 乗りかご室のドアヘッダ
222 ハンガーレール
224a、224b 乗りかごドア吊り部材
226a、226b 乗りかごドアローラ
228 乗りかごドア側係合刃ローラ
230 係合刃ローラガイド部材
230a、230b 係合刃ローラガイド部材の端部
302、304 乗り場ドア
306 インターロック部
308 乗り場のドアヘッダ
402 第1のインターロック部材
404 第1のインターロック部材の先端部
406 第2のインターロック部材
408、416 固定部材
410 部材
412 リンク部材
414、418 ローラ
702 コイルバネ
704 制動部材
802 バネ固定部材
804 ストッパ
1302 バネ固定部材
1304 バネ
1306 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの乗りかごドアに取り付けられた係合刃と、
この係合刃に係合するようにエレベータの乗り場ドアに取り付けられた係合子と、
前記エレベータのドアを開閉する機構と、
この機構によって前記乗りかごドアおよび前記乗り場ドアが全開位置に移動したときに、前記係合刃を介して、前記ドアを開く駆動力以上の力で、前記係合子を押圧する押圧手段と
を備えることを特徴とする制振機能を有するエレベータ装置。
【請求項2】
前記係合刃の数は2であり、
第1の係合刃は、前記乗りかごドアに対して固定され中心が昇降方向の直線上にあるように配置された2つの固定部材のそれぞれに揺動自在に取り付けられ互いにほぼ平行な2つのリンク部材それぞれの端部近傍であって前記2つの固定部材よりもドア開方向に位置する第1の連結部に、昇降方向に平行に、前記リンク部材に対して揺動自在に取り付けられ、
第2の係合刃は、前記2つのリンク部材それぞれに対応する前記固定部材を中心として前記第1の連結部に対して対称な位置に設けられた第2の連結部に、昇降方向に平行に、前記リンク部材に対して揺動自在に取り付けられ、
前記エレベータ装置は、前記第1の係合刃を上方に付勢する部材と、前記第1の係合刃の上部に取り付けられた係合刃ローラとを、さらに、備え、
前記係合子は、係合時に、前記第1の係合刃と前記第2の係合刃の間に位置し、
前記係合刃ローラが、前記乗りかごドアのヘッダに前記乗りかごドアの開閉方向に、ほぼ平行に固定された係合刃ローラガイド部材に接触することによって、前記第1の係合刃の上方への移動を制限することを特徴とする請求項1に記載の制振機能を有するエレベータ装置。
【請求項3】
前記乗りかごドアおよび前記乗り場ドアが全開位置に移動したときに、前記第1の係合刃および前記第2の係合刃は、これら双方の係合子が前記係合子に接触するように取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の制振機能を有するエレベータ装置。
【請求項4】
前記押圧部材は、前記乗りかごドアおよび前記乗り場ドアが全開位置に移動したときに、前記第1の係合刃をドア閉方向に押す弾性体または剛性の大きな部材を含み、
前記2つのリンク部材は、前記第1の係合刃に対して斜めに取り付けられていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の制振機能を有するエレベータ装置。
【請求項5】
前記押圧部材は前記係合刃ローラガイド部材であって、
前記乗りかごドアおよび前記乗り場ドアが全開位置に移動したときに前記係合刃ローラが接触する部分が、前記2つのリンク部材と前記第1の係合刃がなす角度に応じて、下方または上方に曲がっている係合刃ローラガイド部材であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の制振機能を有するエレベータ装置。
【請求項6】
前記第1の係合刃および第2の係合刃の前記係合子に接触する部分は、それぞれ、前記第1の係合刃および第2の係合刃の素材に比べて、前記係合子に対する動摩擦係数を大きくする加工がなされていることを特徴とすることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の制振機能を有するエレベータ装置。
【請求項7】
前記全開位置を複数規定する手段と、
規定された複数の全開位置の中から1つの全開位置を決定する全開位置決定手段と
を、さらに、備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の制振機能を有するエレベータ装置。
【請求項8】
前記かご室の荷重を計測するかご室荷重計測手段をさらに備え、
前記全開位置決定手段は、前記かご室荷重計測手段の出力にしたがって前記複数設定された全開位置の中から1つの全開位置を決定することを特徴とする請求項7に記載の制振機能を有するエレベータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−73862(P2011−73862A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229547(P2009−229547)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】