説明

制震筋交

【課題】建築物の壁面中に長期間埋設されたままでも機能の低下をきたさず、筋交に働く圧縮力と引張力に対して全く同一の作用を有し、低荷重の震動が働いた場合にても該震動を吸収できる制震筋交を提供する。
【解決手段】低荷重に対応する合成樹脂製の中心に孔を有するバネ31Uと高荷重に対応する金属製のコイルバネ31Cを組み合わせた偶数組の制震ユニット31のうちの半数は、圧縮力に、半数は引張力に対応して震動を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に制震機構を有する制震筋交であり、さらに詳しくは、下記の構成の制震筋交に関するものである。
<構成1>
内部に制震機構を有する制震筋交であり、
制震機構が、低荷重に対応するバネと高荷重に対応するバネを組み合わせた制震ユニットを偶数組組み合わせたものであり、
低荷重に対応するバネは中心に孔を有する合成樹脂製で外周に変形防止のための溝を有しており、
高荷重に対応するバネは金属製のコイルバネであり、
偶数組の制震ユニットのうちの半数は、筋交を長手方向に圧縮する力が働いた場合に圧縮され、
偶数組の制震ユニットのうちの残る半数は、筋交を長手方向に引張する力が働いた場合に圧縮される
ことを特徴とする制震筋交。
<構成2>
低荷重に対応する合成樹脂製のバネの対応可能な荷重の範囲が1.8kNまでであり、
高荷重に対応する金属製のコイルバネの対応可能な荷重の範囲が
1kN〜5kNであることを特徴とする構成1に記載の制震筋交。
<構成3>
筐体が円筒形状のスリーブと該スリーブの両端に螺着される右端キャップ及び左端キャップから成り、スリーブの中央には遮蔽円板がスリーブと一体に固着されており、
左端キャップ及び右端キャップの中心部分には円孔が穿設され、左端キャップに穿設された円孔に左側可動シャフトが挿通されており、右端キャップに穿設された円孔に右側可動シャフトが挿通されており、
左側可動シャフトの右端近傍に、左側可動円板が左側可動シャフトと一体に固着されており、
右側可動シャフトの左端近傍に、右側可動円板が右側可動シャフトと一体に固着されており、
筐体内に4組の制震ユニットが格納されており、2組は上記遮蔽円板の左側に、もう2組は上記遮蔽円板の右側に配されており、
遮蔽円板の左側に配された2組の制震ユニットうちの1組は左側可動円板の左側に、もう1組は左側可動円板の右側に配されており、
遮蔽円板の右側に配された2組の制震ユニットうちの1組は右側可動円板の右側に、もう1組は右側可動円板の左側に配されている、
ことを特徴とする構成1あるいは構成2に記載の制震筋交。
<構成4>
筐体が円筒形状のスリーブと該スリーブの一端に螺着される第1キャップ及び該スリーブの他端に螺着される第2キャップから成り、
第1キャップの中心部分には円孔が穿設され、第2キャップの中心部分には外向けに固定ナックルが溶着されており、
第1キャップの中心部分に穿設された円孔に可動シャフトが挿通されており、
可動シャフトの筐体内の先端近傍に、可動円板が可動シャフトと一体に固着されており、
筐体内に2組の制震ユニットが格納されており、1組は上記可動円板の一方の側に、もう1組は上記可動円板のもう一方の側に配されている、
ことを特徴とする構成1あるいは構成2に記載の制震筋交。
<構成5>
スリーブに通気用の孔が穿設されていることを特徴とする構成1あるいは構成2あるいは構成3あるいは構成4に記載の制震筋交。
【背景技術】
【0002】
一般的に、筋交の内部に制震機構を設けて、筋交に圧縮力あるいは引張力が働いた際に内部の制震機構にて圧縮力あるいは引張力を吸収してできるだけ建築物の変形を防止するという目的によって作られた制震筋交は、存在する。その一例として、下記特許文献1、2を掲げておく。
【0003】
下記特許文献1の「建築用免振ダンパー」は、摺動可能な状態に構成した内外2重円筒の間に「摩擦バネ」を設けて震動を吸収せんとするものである。しかしながら、このような構成の制震機構は、摩擦力を応用するものである以上、部材同士が擦れ合って磨耗するので、耐久性には問題があるといわざるをえない。
【0004】
一般的にいって、筋交という部材は、建築時に柱と梁の間などに入れるものであるが、建物が竣工すると壁の中に埋没して外側からは見えないように配慮がなされるものである。したがって、経年変化で制震効果が弱まった場合、交換が非常に難しく、土壁の場合には土壁を破壊しなければならないし、化粧板等の内装材を使用する場合にても、一旦内装材を剥離しなければならない。したがって、できうる限りメンテナンスを必要としない、耐久性の高い構成としなければならない。
【0005】
次に、下記特許文献2の「建物の免振装置」は、円筒形状のスリーブ(ケーシング)の中に、圧縮力が働いた際に圧縮されるバネと引張力が働いた際に圧縮されるバネの2種類のバネを格納して、圧縮力にも引張力にも対応できるように構成してある。しかしながら、圧縮力が働いた際に圧縮されるバネは1個であるが、引張力が働いた際に圧縮されるバネは2個なので、圧縮力と引張力に対して厳密に同じ作用で制震効果が発揮されるわけではない。
【0006】
筋交に働く圧縮力と引張力に対して同一の作用を有しない場合、例えば圧縮力には弱く、引張力には強いという構成の場合、繰り返し働く圧縮力と引張力に対して作用が異なることにより、圧縮力の方向に建築物の躯体の変形を招きやすい。圧縮力には強く、引張力には弱いという構成の場合には逆に引張力の方向に建築物の躯体の変形を招きやすい。このような事態を避けるためには、圧縮力と引張力に対して同一の作用を有する構成としなければならないことは明白である。
【0007】
また、下記特許文献1、2共に、内装されたバネの圧縮は、ある一定以上の力がかかったときにはじめて行われるので、バネを変形させるまでには至らない低荷重が働いた際には制震効果は得られないことになる。
【0008】
地震の際には、ごく弱い微振動の後に強い揺れが来るのが一般的である。また、弱い地震などではずっと弱い揺れが持続することもある。さらに強い地震の後で起こる余震は、強い揺れのものもあるが大部分は弱い揺れである。このように、建物に働く震動は、強い揺ればかりとは限らないが、弱い揺れの際には内部のバネが圧縮されず、筋交全体が剛性を有してしまう場合には、弱い揺れに対しては実質上制震機構は働いていないという結果となってしまう。
【0009】
下記特許文献1、2の発明においては、凡そ上記の様な問題点を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−42346号公報
【特許文献2】登録実用新案第3069686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上より、発明が解決しようとする課題は次のとおりである。
<課題1>
メカニズムとして摩擦力等の耐久性を下げる要素は使用せず、建築物の壁面中に長期間埋没されたままでも機能の低下をきたさない構成、すなわちメンテナンスフリーの構成とする。
<課題2>
筋交に働く圧縮力と引張力に対して全く同一の作用を有する構成とする。
<課題3>
金属製のバネが圧縮されるに至らないような低負荷の震動が働いた場合にても該震動を吸収できる構成とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、下記に示す解決手段を提供するものである。
<解決手段1>
内部に制震機構を有する制震筋交であり、
制震機構が、低荷重に対応するバネと高荷重に対応するバネを組み合わせた制震ユニットを偶数組組み合わせたものであり、
低荷重に対応するバネは中心に孔を有する合成樹脂製で外周に変形防止のための溝を有しており、
高荷重に対応するバネは金属製のコイルバネであり、
偶数組の制震ユニットのうちの半数は、筋交を長手方向に圧縮する力が働いた場合に圧縮され、
偶数組の制震ユニットのうちの残る半数は、筋交を長手方向に引張する力が働いた場合に圧縮される
ことを特徴とする制震筋交。
<解決手段2>
低荷重に対応する合成樹脂製のバネの対応可能な荷重の範囲が1.8kNまでであり、
高荷重に対応する金属製のコイルバネの対応可能な荷重の範囲が
1kN〜5kNであることを特徴とする解決手段1に記載の制震筋交。
<解決手段3>
筐体が円筒形状のスリーブと該スリーブの両端に螺着される右端キャップ及び左端キャップから成り、スリーブの中央には遮蔽円板がスリーブと一体に固着されており、
左端キャップ及び右端キャップの中心部分には円孔が穿設され、左端キャップに穿設された円孔に左側可動シャフトが挿通されており、右端キャップに穿設された円孔に右側可動シャフトが挿通されており、
左側可動シャフトの右端近傍に、左側可動円板が左側可動シャフトと一体に固着されており、
右側可動シャフトの左端近傍に、右側可動円板が右側可動シャフトと一体に固着されており、
筐体内に4組の制震ユニットが格納されており、2組は上記遮蔽円板の左側に、もう2組は上記遮蔽円板の右側に配されており、
遮蔽円板の左側に配された2組の制震ユニットうちの1組は左側可動円板の左側に、もう1組は左側可動円板の右側に配されており、
遮蔽円板の右側に配された2組の制震ユニットうちの1組は右側可動円板の右側に、もう1組は右側可動円板の左側に配されている、
ことを特徴とする解決手段1あるいは解決手段2に記載の制震筋交。
<解決手段4>
筐体が円筒形状のスリーブと該スリーブの一端に螺着される第1キャップ及び該スリーブの他端に螺着される第2キャップから成り、
第1キャップの中心部分には円孔が穿設され、第2キャップの中心部分には外向けに固定ナックルが溶着されており、
第1キャップの中心部分に穿設された円孔に可動シャフトが挿通されており、
可動シャフトの筐体内の先端近傍に、可動円板が可動シャフトと一体に固着されており、
筐体内に2組の制震ユニットが格納されており、1組は上記可動円板の一方の側に、もう1組は上記可動円板のもう一方の側に配されている、
ことを特徴とする解決手段1あるいは解決手段2に記載の制震筋交。
<解決手段5>
スリーブに通気用の孔が穿設されていることを特徴とする解決手段1あるいは解決手段2あるいは解決手段3あるいは解決手段4に記載の制震筋交。
【発明の効果】
【0013】
本発明の解決手段1の発明によれば、制震機構が、低荷重に対応するバネと高荷重に対応するバネを組み合わせた制震ユニットを偶数組組み合わせたものであり、低荷重に対応するバネは中心に孔を有する合成樹脂製で外周に変形防止のための溝を有しており、高荷重に対応するバネは金属製のコイルバネであるので、金属製のコイルバネが圧縮されるに至らないような低荷重が働いた場合にても合成樹脂製のバネが圧縮されることによって該低荷重を吸収することができる。したがって、地震の際の弱い揺れに対しても制震効果を発揮することが可能である。
【0014】
同じく本発明の解決手段1の発明によれば、偶数組の制震ユニットのうちの半数は、筋交を長手方向に圧縮する力が働いた場合に圧縮され、偶数組の制震ユニットのうちの残る半数は、筋交を長手方向に引張する力が働いた場合に圧縮されるので、圧縮力に対する吸収作用と引張力に対する吸収作用が完全に同一となる。したがって、建築物の変形をどちらの方向に対しても均等に防止することが可能となる。なお、本発明の解決手段2の発明においては、対応できる低荷重と高荷重の範囲が具体的に明示されている。
【0015】
また、本発明の解決手段3の発明は、解決手段1の発明の一例の構成を具体的に明示するものである。ここにおいて、筐体内に4組の制震ユニットが格納されていることが明らかにされ、そのうち2組は圧縮力に対応し、もう2組は引張力に対応することが明らかにされる。この2組ずつの制震ユニットは、圧縮力と引張力に対して完全に同一の作用効果を有しているので、建築物の変形をどちらの方向に対しても防止することが可能となることが具体的に示される。
【0016】
また、本発明の解決手段4の発明は、やはり解決手段1の発明の他の一例の構成を具体的に明示するものである。ここにおいて、筐体内に格納されている制震ユニットは2組であることが明らかにされ、そのうち1組は圧縮力に対応し、もう1組は引張力に対応することが明らかにされる。この1組ずつの制震ユニットは、圧縮力と引張力に対して完全に同一の作用効果を有しているので、建築物の変形をどちらの方向に対しても防止することが可能となることが具体的に示される。
【0017】
この解決手段4の発明は、建築物の柱間が狭くて、解決手段3の発明が適用できない場合などに用いられる一例の構成を示している。すなわち、制震ユニットの数が解決手段3の発明に比べて半分であるので、筋交全体の長さも半分近くになり、柱間が狭くて、解決手段3の発明が適用できない場合などでも用いることができるのである。
【0018】
本発明の解決手段5の発明によれば、スリーブに通気用の孔が穿設されているので、夏季においてもスリーブ内の温度上昇を防ぐことができる。低荷重に対応する合成樹脂製のバネは、温度上昇により軟化して特性を保持できなくなるおそれもあるが、スリーブに通気用の孔が穿設されていることによってスリーブ内の温度上昇が防止され、合成樹脂製のバネもその特性を保持することができる。
【0019】
また同じく本発明の解決手段5の発明によれば、スリーブに通気用の孔が穿設されているので、制震ユニットが圧縮された場合においても該通気用の孔から円滑に外気が流入し、筐体内の気圧の変化を防止でき、これが制震ユニットの円滑な圧縮を助長する役割を果たす。制震ユニットが復元する際には逆に該通気用の孔からスリーブ内の空気を排出することによって、やはり円滑な制震ユニットの復元を助長する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)本発明の実施例1の制震筋交の正面図である。(b)本発明の実施例1の制震筋交の平面図である。(c)図1bのA−A線断面図である。
【図2】(a)図1cの左側要部の拡大図である。(b)図1cの右側要部の拡大図である。
【図3】本発明の実施例1の制震筋交の組付方法を説明する説明図である。
【図4】(a)本発明の実施例1の制震筋交のスリーブ継手の外観斜視図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交のスリーブ継手を縦断した状態を示す外観斜視図である。
【図5】(a)本発明の実施例1の制震筋交の左側スリーブの外観斜視図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交の右側スリーブの外観斜視図である。
【図6】(a)本発明の実施例1の制震筋交の金属製のコイルバネの外観斜視図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交の金属製のコイルバネの正面図である。 (c)本発明の実施例1の制震筋交の合成樹脂製のバネの外観斜視図である。 (d)本発明の実施例1の制震筋交の合成樹脂製のバネを縦断した状態を示す外観斜視図である。
【図7】(a)本発明の実施例1の制震筋交の左側可動シャフトの外観斜視図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交の右側可動シャフトの外観斜視図である。
【図8】(a)本発明の実施例1の制震筋交の左端キャップの外観斜視図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交の右端キャップの外観斜視図である。 (c)本発明の実施例1の制震筋交の左側のナックルとナットの外観斜視図である。 (d)本発明の実施例1の制震筋交の右側のナックルとナットの外観斜視図である。
【図9】(a)本発明の実施例2の制震筋交の正面図である。(b)本発明の実施例2の制震筋交の平面図である。(c)図9bのB−B線断面図である。
【図10】図9cの一部を省略した拡大図である。
【図11】本発明の実施例2の制震筋交の組付方法を説明する説明図である。
【図12】本発明の実施例2の制震筋交の第2キャップの外観斜視図である。
【図13】(a)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (c)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。
【図14】(a)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (c)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。
【図15】(a)本発明の実施例2の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (b)本発明の実施例2の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (c)本発明の実施例2の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (d)本発明の実施例2の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (e)本発明の実施例2の制震筋交の作用を説明するための説明図である。
【図16】(a)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (c)本発明の実施例2の制震筋交の作用を説明するための説明図である。
【図17】(a)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (b)本発明の実施例1の制震筋交の作用を説明するための説明図である。
【図18】(a)本発明の実施例2の制震筋交の作用を説明するための説明図である。 (b)本発明の実施例2の制震筋交の作用を説明するための説明図である。
【図19】本発明の実施例1及び実施例2に使用され得るウレタン製のバネの耐圧試験の試験成績書の写しである。
【図20】本発明の実施例1及び実施例2に使用され得る鋼製のコイルバネの耐圧試験の試験成績書の写しである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
<実施例1の構成>
本発明の実施例1の制震筋交Aは、図1に見るように略円筒形状の筐体1と筐体1に挿通されている左側可動シャフト21、右側可動シャフト22、筐体1内部に格納されている第1制震ユニット31、第2制震ユニット32、第3制震ユニット33、第4制震ユニット34から構成されている。
【0023】
筐体1はスリーブ11とスリーブ11の左端に螺着される左端キャップ12、スリーブ11の右端に螺着される右端キャップ13から構成されている。スリーブ11はさらに円筒形状の左側スリーブ111、円筒形状の右側スリーブ112、左側スリーブ111と右側スリーブ112を中央にて接続しているスリーブ継手113から構成されている。左側スリーブ111、右側スリーブ112、スリーブ継手113はすべて金属製である。
【0024】
スリーブ継手113は図4に見るように、円筒形状の本体113aと本体113aの中央に溶着により固着されている金属製の遮蔽円板114からなる。スリーブ継手113の内壁にはネジ溝が刻切されている。また図5には左側スリーブ111、右側スリーブ112を示す。どちらも円筒形状をなし、夫々の両端部外周にはネジ山が刻切されている。また、底部にはどちらも夫々2個の孔hを有している。合計4個の孔hは、図2にて明らかなように、ウレタンバネ31U、32U、33U、34Uの直下に穿設されている。
【0025】
左側スリーブ111の左端に螺着される左端キャップ12は、図8aに見るように、左側面中央部に円孔12aが穿設されており、内周面にはネジ溝が刻切されている。また、右側スリーブ112の右端に螺着される右端キャップ13は、図8bに見るように、右側面中央部に円孔13aが穿設されており、内周面にはネジ溝が刻切されている。
【0026】
左側可動シャフト21は、図7aに見るように本体21aが丸棒状で金属製であり、左端外周面にはネジ山が刻切され、テーパが付された右端の近傍には金属製の円板状の左側可動円板21bが固着されている。また、右側可動シャフト22は、図7bに見るように本体22aが丸棒状で金属製であり、右端外周面にはネジ山が刻切され、テーパが付された左端の近傍には金属製の円板状の右側可動円板22bが固着されている。
【0027】
第1制震ユニット31は、図2aに見るように、左側に配された鋼製のコイルバネ31Cと右側に配されたウレタン樹脂からなるウレタンバネ31Uが1組となって構成されている。コイルバネ31Cとウレタンバネ31Uの間には中央に円孔D1aを有する金属製の円板状の仕切板D1が配されている。
【0028】
第2制震ユニット32は、図2aに見るように、右側に配された鋼製のコイルバネ32Cと左側に配されたウレタン樹脂からなるウレタンバネ32Uが1組となって構成されている。コイルバネ32Cとウレタンバネ32Uの間には中央に円孔D2aを有する金属製の円板状の仕切板D2が配されている。
【0029】
第3制震ユニット33は、図2bに見るように、左側に配された鋼製のコイルバネ33Cと右側に配されたウレタン樹脂からなるウレタンバネ33Uが1組となって構成されている。コイルバネ33Cとウレタンバネ33Uの間には中央に円孔D3aを有する金属製の円板状の仕切板D3が配されている。
【0030】
第4制震ユニット34は、図2bに見るように、右側に配された鋼製のコイルバネ34Cと左側に配されたウレタン樹脂からなるウレタンバネ34Uが1組となって構成されている。コイルバネ34Cとウレタンバネ34Uの間には中央に円孔D4aを有する金属製の円板状の仕切板D4が配されている。
【0031】
図6a、図6bに鋼製のコイルバネ31Cの構成を示す。コイルバネ31Cは、実施例1にては、直径Cφが40mm、長さCLが50mm、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さCLが40mmになった時の荷重が1.90kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さCLが35mmになった時の荷重が3.92kNのものを使用している。
【0032】
図20に、コイルバネ31Cの耐圧試験の試験成績表を示す。この耐圧試験は、出願人の依頼で平成22年3月8日に財団法人東海技術センターが行ったものである。なお、試験結果の表中に「高さ」とあるのは、図6a、図6bにおける長さCLのことである。コイルバネ32C、33C、34Cもコイルバネ31Cと全く同一の仕様のものである。
【0033】
図6c、図6dにウレタン樹脂製のウレタンバネ31Uの構成を示す。ウレタンバネ31Uは、実施例1にては、直径Uφが35mm、長さULが30mm、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さULが20mmになった時の荷重が0.62kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さCLが15mmになった時の荷重が1.12kNのものを使用している。
【0034】
ウレタンバネ31Uは、図6cに示すように外周面に4本の溝Ut、Ut、Ut、Utを有している。溝Ut、Ut、Ut、Utはすべて同じ幅dtを有している(図6d参照)。なお、溝Ut、Ut、Ut、Utに分割されて形成される山部については、両端の山部Ua、Ueが幅du1、中間の山部Ub、Uc、Udが幅du2で、du1>du2となるように構成してある(図6d参照)。また、中央には円孔31Hが穿設されている。
【0035】
du1>du2とする理由は以下のとおりである。すなわち、幅du1の山部Ua、Ueはウレタンバネ31Uの両端部に位置するが、この部分は隣接する左側可動円板21bあるいは仕切板D1に当接して直接圧力を受ける部位であり、この部分が薄いと変形をきたす怖れがあるので、他の山部Ub、Uc、Udより厚く構成してある。
【0036】
図19に、ウレタンバネ31Uの耐圧試験の試験成績表を示す。この耐圧試験は、出願人の依頼で平成22年3月8日に財団法人東海技術センターが行ったものである。なお、試験結果の表中に「高さ」とあるのは、図6cにおける長さULのことである。ウレタンバネ32U、33U、34Uもウレタンバネ31Uと全く同一の仕様のものである。
【0037】
なお、素材としては、ウレタンに替えてゴムやシリコンを用いることも考えられる。ただ、ゴムは温度が80℃くらいから軟化するので、夏季の温度上昇を考えると、ウレタンあるいはシリコンの方が適切であろうと考えられる。ちなみに、ウレタンの軟化温度は120℃程度、シリコンの軟化温度は200℃程度であるので、素材としてはシリコンの方が適切であるが、価格面からするとウレタンを選択するのが現実的であるということになる。なお、前述のようにスリーブ111、112には孔hが2箇所ずつ穿設されているので、スリーブ111、112内の温度上昇はこれにより抑制される。
【0038】
図1に見るように、左側可動シャフト21の左端には円孔N1aを有するナックルN1とナットN2が螺着されている。また、右側可動シャフト22の右端には円孔N3aを有するナックルN3とナットN4が螺着されている。
【0039】
図3に実施例1の制震筋交Aの組付構成を示す。実施例1の制震筋交Aを組付けるにあたっては、まずスリーブ継手113の左側に左側スリーブ111の右端を螺着させる。
【0040】
次に、ウレタンバネ32U、仕切板D2、コイルバネ32Cからなる第2制震ユニット32を左側スリーブ111に格納する。コイルバネ32Cの右端は図2aに見るようにスリーブ継手113の遮蔽円板114の左側面に当接させる。
【0041】
次に、左側可動シャフト21を左側スリーブ111に格納する。左側可動シャフト21の右端近傍に固着されている左側可動円板21bの右側面はウレタンバネ32Uの左側面に当接し、左側可動シャフト21の本体21aの左側可動円板21bより右の部分はウレタンバネ32Uの中央の円孔32Hの半分以上に挿通される。
【0042】
次に、左側可動シャフト21の左端から第1制震ユニット31を挿通させる。図2aに見るように、第1制震ユニット31のウレタンバネ31Uの右側面は左側可動シャフト21の左側可動円板21bの左側面に当接し、左側可動シャフト21がコイルバネ31Cの中央部とウレタンバネ31Uの中央の円孔31Hに挿通されることとなる。
【0043】
次に、左側可動シャフト21の左端に左端キャップ12の円孔12aを挿通し、左端キャップ12を左側スリーブ111の左端に螺着させる。これにて、左端キャップ12の円孔12aから左側可動シャフト21の左端部が突出する形となるので、左側可動シャフト21の左端にナットN2とナックルN1を螺着する。これで、実施例1の制震筋交Aの左半分の組付が完成する。
【0044】
次に、スリーブ継手113の右側に右側スリーブ112の左端を螺着させる。さらに、ウレタンバネ33U、仕切板D3、コイルバネ33Cからなる第3制震ユニット33を右側スリーブ112に格納する。コイルバネ33Cの左端は図2bに見るようにスリーブ継手113の遮蔽円板114の右側面に当接させる。
【0045】
次に、右側可動シャフト22を右側スリーブ112に格納する。右側可動シャフト22の左端近傍に固着されている右側可動円板22bの左側面はウレタンバネ33Uの右側面に当接し、右側可動シャフト22の本体22aの右側可動円板22bより左の部分はウレタンバネ33Uの中央の円孔33Hの半分以上に挿通される。
【0046】
次に、右側可動シャフト22の右端から第4制震ユニット34を挿通させる。図2bに見るように、第4制震ユニット34のウレタンバネ34Uの左側面は右側可動シャフト22の右側可動円板22bの右側面に当接し、右側可動シャフト22がコイルバネ34Cの中央部とウレタンバネ34Uの中央の円孔34Hに挿通されることとなる。
【0047】
次に、右側可動シャフト22の右端に右端キャップ13の円孔13aを挿通し、右端キャップ13を右側スリーブ112の右端に螺着させる。これにて、右端キャップ13の円孔13aから右側可動シャフト22の右端部が突出する形となるので、右側可動シャフト22の右端にナットN4とナックルN3を螺着する。これで、実施例1の制震筋交Aの組付が完成する。
【0048】
実施例1の制震筋交Aにおいては、スリーブ継手113の中央に固着された遮蔽円板114を挟んで左側に第1制震ユニット31、第2制震ユニット32が配され、右側に第3制震ユニット33、第4制震ユニット34が配された左右対称の構成となっていることがわかる。
【0049】
<実施例1の作用>
実施例1の制震筋交Aは、一例として図16aに示すような形で建築物に装着される。すなわち、図16aにおいては制震筋交AのナックルN1を取付金具Tを介して柱PLに装着し、制震筋交AのナックルN3を取付金具Tを介して梁BMに装着している。図16bにはナックルN3が取付金具Tを介して梁BMに装着されている状態を拡大して示す。
【0050】
制震筋交AのナックルN3は、ナックルN3の円孔N3aに取付ピンPを挿通して取付金具Tに回動自在に枢着されている。ナックルN1もやはり取付ピンPを円孔N1aに挿通して取付金具Tに回動自在に枢着されている。なお、ナックルN1が枢着された取付金具Tは柱PLに固着され、ナックルN3が枢着された取付金具Tは梁BMに固着されている。
【0051】
図17aは、地震等の震動によって、柱PLと梁BMのなす角度αが90°を越えた状態を示す。この際、制震筋交Aには、全体を引き伸ばそうとする力、すなわち引張力X1(X3)、X2(X4)が働く。この際の制震筋交Aの内部の作用を図13b、図13cに示す。なお図13aは、引張力も圧縮力も働いていない通常の状態を示す。
【0052】
引張力が低荷重の引張力X1、X2である場合には、制震筋交Aは図13bに示すように反応する。すなわち、引張力X1によって左側可動シャフト21が左方向に引っ張られ、左側スリーブ111内にては、左側可動シャフト21の本体21aに固着されている左側可動円板21bも左方向に摺動させられる。
【0053】
すると、左側可動円板21bの左側に配された第1制震ユニット31が左側可動円板21bによって左方向に圧縮される。しかしながら、引張力X1が低荷重であるのでコイルバネ31Cは反応せず、まずウレタンバネ31Uが圧縮される。図13bはこの状態を示している。
【0054】
前記のように、実施例1の制震筋交Aにおいては、ウレタンバネ31Uは、直径Uφが35mm、長さULが30mm(図6c参照)、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さULが20mmになった時の荷重が0.62kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さCLが15mmになった時の荷重が1.12kNのものを使用している。
【0055】
したがって、引張力X1が1kNをやや超える程度までなら、このウレタンバネ31Uがその力を吸収して復元させることができるということになる。ウレタンバネ31Uには、図6c、図6dに見るように外周面に溝Ut、Ut、……が設けてあるので、圧縮力が働くと溝Ut、Ut、……が圧縮される、すなわちその幅dt、dt、……が狭まるように変形される。このため、ウレタンバネ31Uの中央が膨張して破断に至るようなことが起こらない。なお、溝Ut、Ut、……の幅dt、dt、……が0になるまで圧縮されても、さらにウレタンの素材そのものが圧縮されるので、溝Ut、Ut、……の幅dt、dt、……が0になってもさらに若干の圧縮は進行するものである。
【0056】
図19に示す試験成績表にては、試験結果のNo.1(備考欄A73)が実施例1に使用されるウレタンバネ31Uであるが、荷重0.62kNで10mm、荷重1.12kNで15mmの変位(長さULの縮小)が生じていることがわかる。長さULが15mm縮小すると、これは長さULが半分になるということであるので、溝Ut、Ut、……の幅dt、dt、……の設定にもよるが、このあたりがウレタンバネ31Uの変位の限界であろうと考えられる。
【0057】
これよりさらに大きな荷重がかかった状態を、図13cに示す。大きな引張力X3,X4が働くと、ウレタンバネ31Uの変位の限界を超えて第1制震ユニット31が圧縮されることとなるが、この場合にはコイルバネ31Cが圧縮されることになるので、不都合は生じない。コイルバネ31Cは、先述のように実施例1の制震筋交Aにては、直径Cφが40mm、長さCLが50mm(図6a参照)、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さCLが40mmになった時の荷重が1.90kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さCLが35mmになった時の荷重が3.92kNのものを使用している。
【0058】
図20に示す試験成績表にては、試験結果のNo.1(備考欄重荷重)が実施例1に使用されるコイルバネ31Cであるが、荷重1.90kNで10mm、荷重3.92kNで15mmの変位(長さCLの縮小)が生じていることがわかる。コイルバネ31Cは、実際には荷重が1kN前後から圧縮が始まるので、ウレタンバネ31Uの圧縮限界の少し前からコイルバネ31Cが変形して引張力X3を吸収する。したがって、ウレタンバネ31Uとコイルバネ31Cは滑らかにその役割を交換し連繋して働くことになる。
【0059】
なお、図20に示す試験成績表にては、荷重が3.92kNで変位15mmより先の記録がないが、実際にはもう少しコイルバネ31Cの変形領域はあるので、4kNを越える荷重に対しても対応は可能である。
【0060】
以上に述べたように、実施例1の制震筋交Aの第1制震ユニット31にては、低荷重(引張力X1)ではウレタンバネ31Uが働いて震動を吸収すると共に復元力を発揮し、高荷重(引張力X3)ではコイルバネ31Cが働いて震動を吸収すると共に復元力を発揮し、しかもウレタンバネ31Uの作用領域とコイルバネ31Cの作用領域を若干オーバーラップさせてあるので、両者の連携が極めてスムーズに行われ、低荷重(引張力X1)にても高荷重(引張力X3)にても確実に制震作用を発揮するものである。
【0061】
なお、ウレタンバネ31Uは圧縮される際には体積が若干減少するので、その分スリーブ111内の気圧は減少するが、スリーブ111には孔h、hが穿設されているので、気圧が減少した分外気が孔h、hから流入する。したがって、第1制震ユニット31は気圧の減少の影響を蒙ることなく円滑にその動作を行うことができる。ウレタンバネ31Uが復元される際には逆に孔h、hからスリーブ内の空気が排出されるので、やはり第1制震ユニット31は気圧の変化の影響を蒙ることなく円滑にその動作を行うことができる。
【0062】
以上は第1制震ユニット31に関する作用の説明であるが、制震筋交Aの右端においては、第1制震ユニット31と対称的に構成された第4制震ユニット34が、第1制震ユニット31と同時に第1制震ユニット31と全く同じ作用を行う。すなわち、低荷重(引張力X2)時にはウレタンバネ34Uが圧縮され、高荷重(引張力X4)になるとコイルバネ34Cが圧縮される。
【0063】
ウレタンバネ34Uはウレタンバネ31Uと、コイルバネ34Cはコイルバネ31Cと、夫々全くの同一仕様であるので、制震筋交Aの左端と右端では、全く同一の作用が対称的に行われる。したがって、制震筋交Aの全体が極めてバランス良く制震作用を果たすことができる。
【0064】
この際、第2制震ユニット32と第3制震ユニット33には全く力が働かないので、両方とも変形しない。すなわち、ウレタンバネ32U、コイルバネ32C、コイルバネ33C、ウレタンバネ33Uは一切変形を蒙らない。
【0065】
なお、図13cにおいては、第1制震ユニット31と第4制震ユニット34の変形限界に近い状態を描いているが、ここで注目されるのは、左側可動シャフト21の本体21aの右端部が第2制震ユニット32のウレタンバネ32Uの円孔32H内に僅かではあるが挿通された状態であることである。
【0066】
すなわち、逆に言えば、左側可動シャフト21の本体21aの長さは、制震筋交Aに高荷重が働いて第1制震ユニット31が変形限界にまで圧縮された際にも本体21aの右端が第2制震ユニット32のウレタンバネ32Uの円孔32H内部に残るだけの長さとして設定されるということであり、このようにすることにより、第1制震ユニット31が復元する際にも左側可動シャフト21の本体21aの右端は障害なく第2制震ユニット32のウレタンバネ32Uの円孔32H内を右方向に移動できるのである。
【0067】
同様のことは、右側可動シャフト22の本体22aの長さの設定にも言えることであって、右側可動シャフト22の本体22aの長さは、制震筋交Aに高荷重が働いて第4制震ユニット34が変形限界にまで圧縮された際にも本体22aの左端が第3制震ユニット33のウレタンバネ33Uの円孔33H内部に残るだけの長さとして設定される。
【0068】
次に、実施例1の制震筋交Aに、上述とは逆の圧縮力が働いた場合の制震筋交Aの作用を説明する。図17bは、地震等の震動によって、柱PLと梁BMのなす角度αが90°より小となった状態を示す。この際、制震筋交Aには、全体を圧縮しようとする力、すなわち圧縮力Y1(Y3)、Y2(Y4)が働く。この際の制震筋交Aの内部の作用を図14b、図14cに示す。なお図14aは、引張力も圧縮力も働いていない通常の状態を示す。
【0069】
圧縮力が低荷重の圧縮力Y1、Y2である場合には、制震筋交Aは図14bに示すように反応する。すなわち、圧縮力Y1によって左側可動シャフト21が右方向に押しこまれ、左側スリーブ111内にては、左側可動シャフト21の本体21aに固着されている左側可動円板21bも右方向に摺動させられる。
【0070】
すると、左側可動円板21bの右側に配された第2制震ユニット32が左側可動円板21bによって右方向に圧縮される。しかしながら、圧縮力Y1が低荷重であるのでコイルバネ32Cは反応せず、まずウレタンバネ32Uが圧縮される。図14bはこの状態を示している。
【0071】
実施例1の制震筋交Aにおいては、ウレタンバネ32Uは、ウレタンバネ31U同様の仕様のもので、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さULが20mmになった時の荷重が0.62kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さCLが15mmになった時の荷重が1.12kNのものを使用している。(図19の試験成績表参照)したがって、圧縮力Y1が1kNをやや超える程度までなら、このウレタンバネ32Uがその力を吸収して復元させることができるということになる。
【0072】
これよりさらに大きな荷重がかかった状態を、図14cに示す。大きな圧縮力Y3、Y4が働くと、ウレタンバネ32Uの変位の限界を超えて第2制震ユニット32が圧縮されることとなるが、この場合にはコイルバネ32Cが圧縮されることになるので、不都合は生じない。コイルバネ32Cは、コイルバネ31Cと同一仕様のもので、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さCLが40mmになった時の荷重が1.90kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さCLが35mmになった時の荷重が3.92kNである(図20の試験成績表参照)。
【0073】
コイルバネ32Cは、実際には荷重が1kN前後から圧縮が始まるので、ウレタンバネ32Uの圧縮限界の少し前からコイルバネ32Cが変形して圧縮力Y3を吸収する。したがって、ウレタンバネ32Uとコイルバネ32Cは滑らかにその役割を交換し連繋して働くことになる。なお、図20に示す試験成績表にては、荷重が3.92kNで変位15mmより先の記録がないが、実際にはもう少しコイルバネ31Cの変形領域はあるので、4kNを越える荷重に対しても対応は可能である。
【0074】
以上に述べたように、実施例1の制震筋交Aの第2制震ユニット32にては、低荷重(圧縮力Y1)ではウレタンバネ32Uが働いて震動を吸収すると共に復元力を発揮し、高荷重(圧縮力Y3)ではコイルバネ32Cが働いて震動を吸収すると共に復元力を発揮し、しかもウレタンバネ32Uの作用領域とコイルバネ32Cの作用領域を若干オーバーラップさせてあるので、両者の連携が極めてスムーズに行われ、低荷重(圧縮力Y1)にても高荷重(圧縮力Y3)にても確実に制震作用を発揮するものである。
【0075】
以上は第2制震ユニット32に関する作用の説明であるが、制震筋交Aの右端においては、第2制震ユニット32と対称的に構成された第3制震ユニット33が、第2制震ユニット32と同時に第2制震ユニット32と全く同じ作用を行う。すなわち、低荷重(圧縮力Y2)時にはウレタンバネ33Uが圧縮され、高荷重(圧縮力Y4)になるとコイルバネ33Cが圧縮される。
【0076】
ウレタンバネ33Uはウレタンバネ32Uと、コイルバネ33Cはコイルバネ32Cと、夫々全くの同一仕様であるので、制震筋交Aの左端と右端では、全く同一の作用が対称的に行われる。したがって、制震筋交Aの全体が極めてバランス良く制震作用を果たすことができる。
【0077】
この際、第1制震ユニット31と第4制震ユニット34には全く力が働かないので、両方とも変形しない。すなわち、ウレタンバネ31U、コイルバネ31C、コイルバネ34C、ウレタンバネ34Uは一切変形を蒙らない。なお、右側スリーブ112の底部に穿設された孔h、hの作用は、左側スリーブ111の底部に穿設された孔h、hの作用と同一である。
【0078】
以上にて、実施例1の制震筋交Aに対して引張力が働いた場合(図17a)でも圧縮力が働いた場合でも(図17b)、制震筋交Aは完全に均等に反応して、引張力あるいは圧縮力を吸収することがわかる。すなわち、引張力に対しては第1制震ユニット31と第4制震ユニット34の2組の制震ユニットが働き、圧縮力に対しては第2制震ユニット32と第3制震ユニット33の2組の制震ユニットが働く。
【0079】
第1制震ユニット31、第2制震ユニット32、第3制震ユニット33、第4制震ユニット34はその作用が完全に等しいので、結果として、制震筋交Aは、圧縮力に対しても引張力に対しても全く同じ反応を示し、全く同じ復元能力を有しているということがいえるのである。
【実施例2】
【0080】
<実施例2の構成>
本発明の実施例2の制震筋交Bは、図9に見るように略円筒形状の筐体4と筐体4に挿通されている可動シャフト5、筐体4内部に格納されている第1制震ユニット61、第2制震ユニット62から構成されている。
【0081】
筐体4は金属製のスリーブ41とスリーブ41の左端に螺着される金属製の左端キャップ42、スリーブ41の右端に螺着される金属製の右端キャップ43から構成されている。
【0082】
スリーブ41の左端に螺着される左端キャップ42は、図11に見るように、左側面中央部に円孔42aが穿設されており、内周面にはネジ溝が刻切されている。また、スリーブ41の右端に螺着される右端キャップ43は、図11、図12に見るように、右側面中央部に円孔N7aを有するナックルN7が溶着により右方向に突設固着されている。
【0083】
可動シャフト5は、図11に見るように本体51が丸棒状で金属製であり、左端外周面にはネジ山が刻切され、テーパを有する右端近傍には金属製の円板状の可動円板52が固着されている。
【0084】
第1制震ユニット61は、図10に見るように、左側に配された鋼製のコイルバネ61Cと右側に配されたウレタン樹脂からなるウレタンバネ61Uが1組となって構成されている。コイルバネ61Cとウレタンバネ61Uの間には中央に円孔D5aを有する金属製の円板状の仕切板D5が配されている。
【0085】
第2制震ユニット62は、図10に見るように、右側に配された鋼製のコイルバネ62Cと左側に配されたウレタン樹脂からなるウレタンバネ62Uが1組となって構成されている。コイルバネ62Cとウレタンバネ62Uの間には中央に円孔D6aを有する金属製の円板状の仕切板D6が配されている。
【0086】
ウレタンバネ61U、ウレタンバネ62Uは、実施例1におけるウレタンバネ31Uと全く同一の仕様のものである。すなわち、ウレタンバネ61U、ウレタンバネ62Uは、実施例1にては、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が10mm短縮された時の荷重が0.62kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が15mm短縮された時の荷重が1.12kNのものを使用している(図19の試験成績表参照)。
【0087】
また、コイルバネ61C、コイルバネ62Cは、実施例1におけるコイルバネ31Cと全く同一の仕様のものである。すなわちコイルバネ61C、コイルバネ62Cは、実施例2にては、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が10mm短縮された時の荷重が1.90kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が15mm短縮された時の荷重が3.92kNのものを使用している(図20の試験成績表参照)。
【0088】
図9に見るように、可動シャフト5の左端には円孔N5aを有するナックルN5とナットN6が螺着されている。また、右端キャップ43の右側面には、前述のように円孔N7aを有するナックルN7が溶着により固着されている。
【0089】
図11に実施例2の制震筋交Bの組付構成を示す。実施例2の制震筋交Bを組付けるにあたっては、まずスリーブ41の左側から可動シャフト5をスリーブ41内に格納する。次に、可動シャフト5の左端から第1制震ユニット61を挿通させ、さらに左端キャップ42の円孔42aを挿通させてスリーブ41の左端に左端キャップ42を螺着させる。そして左端キャップ42の円孔42aから突出している可動シャフト5の本体51の左端にナットN6、ナックルN5を螺着させる。これで、制震筋交Bの左半分の組付けが完了する。
【0090】
次に、スリーブ41の右側から第2制震ユニット62をスリーブ41内に格納する。この際、可動シャフト5の本体51の右端が第2制震ユニット62のウレタンバネ62Uの中央の円孔62Hの途中まで挿通されるようにする。そして、スリーブ41の右端に右端キャップ43を螺着する。これにて制震筋交Bの組付けは完了する。
【0091】
実施例2の制震筋交Bにおいては、可動シャフト5の本体51の右端近傍に固着された可動円板52を挟んで左側に第1制震ユニット61が、右側に第2制震ユニット62が配され、筐体4の内部は左右対称の構成となっていることがわかる(図10参照)。
【0092】
<実施例2の作用>
実施例2の制震筋交Bは、一例として図16cに示すような形で建築物に装着される。すなわち、図16cにおいては制震筋交BのナックルN5を取付金具Tを介して柱PL1に回動自在に装着し、制震筋交BのナックルN7を取付金具Tを介して梁BMに回動自在に装着している。制震筋交Bは、実施例1の制震筋交に比べると半分近い長さであるので、図16cのように柱PL1と柱PL2が近接しているようなところにも用いることができる。
【0093】
図18aは、地震等の震動によって、柱PL1と梁BMのなす角度βが90°を越えた状態を示す。この際、制震筋交Bには、全体を引き伸ばそうとする力、すなわち引張力X5(X7)、X6(X8)が働く。この際の制震筋交Bの内部の作用を図15b、図15cに示す。なお図15aは、引張力も圧縮力も働いていない通常の状態を示す。
【0094】
引張力が低荷重の引張力X5、X6である場合には、制震筋交Bは図15bに示すように反応する。すなわち、引張力X5によって可動シャフト5が左方向に引っ張られ、可動シャフト5の本体51に固着されている可動円板52も左方向に摺動させられる。
【0095】
すると、可動円板52の左側に配された第1制震ユニット61が可動円板52によって左方向に圧縮される。しかしながら、引張力X5が低荷重であるのでコイルバネ61Cは反応せず、まずウレタンバネ61Uが圧縮される。図15bはこの状態を示している。
【0096】
前記のように、実施例2の制震筋交Bにおいては、ウレタンバネ61Uは実施例1の制震筋交Aのウレタンバネ31Uと同一仕様で、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が20mmになった時の荷重が0.62kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が15mmになった時の荷重が1.12kNのものを使用している。 したがって、引張力X5が1kNをやや超える程度までなら、このウレタンバネ61Uがその力を吸収して復元させることができるということになる。
【0097】
図19に示す試験成績表にては、試験結果のNo.1(備考欄A73)が実施例2に使用されるウレタンバネ61Uであるが、荷重0.62kNで10mm、荷重1.12kNで15mmの変位(長さの縮小)が生じていることがわかる。長さが15mm縮小すると、これは長さが半分になるということであるので、このあたりがウレタンバネ61Uの変位の限界であろうと考えられる。
【0098】
これよりさらに大きな荷重がかかった状態を、図15cに示す。大きな引張力X7,X8が働くと、ウレタンバネ61Uの変位の限界を超えて第1制震ユニット61が圧縮されることとなるが、この場合にはコイルバネ61Cが圧縮されることになるので、不都合は生じない。コイルバネ61Cは、先述のように実施例2の制震筋交Bにては、実施例1の制震筋交Aのコイルバネ31と同一仕様で、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が40mmになった時の荷重が1.90kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が35mmになった時の荷重が3.92kNのものを使用している。
【0099】
図20に示す試験成績表にては、試験結果のNo.1(備考欄重荷重)が実施例1に使用されるコイルバネ61Cであるが、荷重1.90kNで10mm、荷重3.92kNで15mmの変位(長さの縮小)が生じていることがわかる。コイルバネ61Cは、実際には荷重が1kN前後から圧縮が始まるので、ウレタンバネ61Uの圧縮限界の少し前からコイルバネ61Cが変形して引張力X7を吸収する。したがって、ウレタンバネ61Uとコイルバネ61Cは滑らかにその役割を交換し連繋して働くことになる。
【0100】
なお、図20に示す試験成績表にては、荷重が3.92kNで変位15mmより先の記録がないが、実際にはもう少しコイルバネ61Cの変形領域はあるので、実施例1の場合と同様4kNを越える荷重に対しても対応は可能である。
【0101】
以上に述べたように、実施例2の制震筋交Bの第1制震ユニット61にては、低荷重(引張力X5)ではウレタンバネ61Uが働いて震動を吸収すると共に復元力を発揮し、高荷重(引張力X7)ではコイルバネ61Cが働いて震動を吸収すると共に復元力を発揮し、しかもウレタンバネ61Uの作用領域とコイルバネ61Cの作用領域を若干オーバーラップさせてあるので、両者の連携が極めてスムーズに行われ、低荷重(引張力X5)にても高荷重(引張力X7)にても確実に制震作用を発揮するものである。
【0102】
以上は第1制震ユニット61に関する作用の説明であるが、制震筋交Bの他端においては、第1制震ユニット61と対称的に構成された第2制震ユニット62が、第1制震ユニット61と同時に第1制震ユニット61と全く同じ作用を行う。すなわち、低荷重(引張力X6)時にはウレタンバネ62Uが圧縮され、高荷重(引張力X8)になるとコイルバネ62Cが圧縮される。
【0103】
ウレタンバネ62Uはウレタンバネ61Uと、コイルバネ62Cはコイルバネ61Cと、夫々全くの同一仕様であるので、制震筋交Bの左端と右端では、全く同一の作用が対称的に行われる。したがって、制震筋交Bの全体が極めてバランス良く制震作用を果たすことができる。
【0104】
なお、図15cにおいては、第1制震ユニット61の変形限界に近い状態を描いているが、ここで注目されるのは、可動シャフト5の本体51の右端部が第2制震ユニット62のウレタンバネ62Uの円孔62H内に僅かではあるが挿通された状態であることである。
【0105】
すなわち、逆に言えば、可動シャフト5の本体51の長さは、制震筋交Bに高荷重が働いて第1制震ユニット61が変形限界にまで圧縮された際にも本体51の右端が第2制震ユニット62のウレタンバネ62Uの円孔62H内部に残るだけの長さとして設定されるということであり、このようにすることにより、第1制震ユニット61が復元する際にも可動シャフト5の本体51の右端は障害なく第2制震ユニット62のウレタンバネ62Uの円孔62H内を右方向に移動できるのである。
【0106】
次に、実施例2の制震筋交Bに、上述とは逆の圧縮力が働いた場合の制震筋交Bの作用を説明する。図18bは、地震等の震動によって、柱PL1と梁BMのなす角度βが90°より小となった状態を示す。この際、制震筋交Aには、全体を圧縮しようとする力、すなわち圧縮力Y5(Y7)、Y6(Y8)が働く。この際の制震筋交Bの内部の作用を図15d、図15eに示す。なお図15aは、前述のように引張力も圧縮力も働いていない通常の状態を示す。
【0107】
圧縮力が低荷重の圧縮力Y5、Y6である場合には、制震筋交Bは図15dに示すように反応する。すなわち、圧縮力Y5によって可動シャフト5が右方向に押しこまれ、可動円板52も右方向に摺動させられる。
【0108】
すると、可動円板52の右側に配された第2制震ユニット62が可動円板52によって右方向に圧縮される。しかしながら、圧縮力Y5が低荷重であるのでコイルバネ62Cは反応せず、まずウレタンバネ62Uが圧縮される。図15dはこの状態を示している。
【0109】
実施例2の制震筋交Bにおいては、ウレタンバネ62Uは、ウレタンバネ61Uと同一仕様のもので、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が20mmになった時の荷重が0.62kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が15mmになった時の荷重が1.12kNのものを使用している。(図19の試験成績表参照)したがって、圧縮力Y5が1kNをやや超える程度までなら、このウレタンバネ62Uがその力を吸収して復元させることができるということになる。
【0110】
これよりさらに大きな荷重がかかった状態を、図15eに示す。大きな圧縮力Y7、Y8が働くと、ウレタンバネ62Uの変位の限界を超えて第2制震ユニット62が圧縮されることとなるが、この場合にはコイルバネ62Cが圧縮されることになるので、不都合は生じない。コイルバネ62Cは、コイルバネ61Cと同一仕様のもので、変位10mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が40mmになった時の荷重が1.90kN、変位15mm、すなわち荷重をかけて長さ(高さ)が35mmになった時の荷重が3.92kNである(図20の試験成績表参照)。
【0111】
コイルバネ62Cは、実際には荷重が1kN前後から圧縮が始まるので、ウレタンバネ62Uの圧縮限界の少し前からコイルバネ62Cが変形して圧縮力Y6を吸収する。したがって、ウレタンバネ62Uとコイルバネ62Cは滑らかにその役割を交換し連繋して働くことになる。なお、図20に示す試験成績表にては、荷重が3.92kNで変位15mmより先の記録がないが、実際にはもう少しコイルバネ61Cの変形領域はあるので、4kNを越える荷重に対しても対応は可能である。
【0112】
以上に述べたように、実施例2の制震筋交Bの第2制震ユニット62にては、低荷重(圧縮力Y6)ではウレタンバネ62Uが働いて震動を吸収すると共に復元力を発揮し、高荷重(圧縮力Y8)ではコイルバネ62Cが働いて震動を吸収すると共に復元力を発揮し、しかもウレタンバネ62Uの作用領域とコイルバネ62Cの作用領域を若干オーバーラップさせてあるので、両者の連携が極めてスムーズに行われ、低荷重(圧縮力Y6)にても高荷重(圧縮力Y8)にても確実に制震作用を発揮するものである。
【0113】
以上にて、実施例2の制震筋交Bに対して引張力が働いた場合(図18a)でも圧縮力が働いた場合でも(図18b)、制震筋交Bは完全に均等に反応して、引張力あるいは圧縮力を吸収することがわかる。すなわち、引張力に対しては第1制震ユニット61が働き、圧縮力に対しては第2制震ユニット62が働く。
【0114】
第1制震ユニット61と第2制震ユニット62はその作用が完全に等しいので、結果として、制震筋交Bは、圧縮力に対しても引張力に対しても全く同じ反応を示し、全く同じ復元能力を有しているということがいえるのである。
【0115】
なお、実施例2の制震筋交Bのスリーブ43の底部には孔h、hが穿設されているが、これは実施例1の制震筋交Aの左側スリーブ111の底部に穿設された孔h、h、右側スリーブ112の底部に穿設された孔h、hと全く同様の役割、すなわち換気による筐体4内の温度上昇の防止と、通気による第1制震ユニット61と第2制震ユニット62の円滑な作用を保証するためのものである。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上に説明してきたように、本発明の制震筋交は、圧縮力に対しても引張力に対しても全く同じように働いて震動を吸収する。しかも、摩擦部材等劣化が懸念されるような部材は用いていないのでメンテナンスフリーであり、一旦壁中に埋設させれば、そのまま半永久的にその機能を持続させることができる。また、低荷重にては合成樹脂製のバネが働き、高荷重にては金属製のコイルバネが働き、両者の作用領域がオーバーラップするように設定されているので、相互の連携がスムーズで、低荷重に対しても高荷重に対しても等しくその作用を発揮することが可能となる。
【0117】
以上の特質からして、本発明の制震筋交は、東海大地震等の巨大地震の発生が近い将来に予測される今日、建物の新築やリフォームにあたって、簡単に取付けられる制震部材として非常に重宝であり、しかもメンテナンスフリーで引張力に対しても圧縮力に対しても均等に働くので、制震筋交として求められる全ての要素を備えており、大きな産業上の利用可能性を有しているものといえるのである。
【符号の説明】
【0118】
1 筐体
11 スリーブ
111 左側スリーブ
112 右側スリーブ
113 スリーブ継手
113a 本体
114 遮蔽円板
12 左端キャップ
12a 円孔
13 右端キャップ
13a 円孔
21 左側可動シャフト
21a 本体
21b 左側可動円板
22 右側可動シャフト
22a 本体
22b 右側可動円板
31 第1制震ユニット
31C コイルバネ
31H 円孔
31U ウレタンバネ
32 第2制震ユニット
32C コイルバネ
32H 円孔
32U ウレタンバネ
33 第3制震ユニット
33C コイルバネ
33H 円孔
33U ウレタンバネ
34 第4制震ユニット
34C コイルバネ
34H 円孔
34U ウレタンバネ
4 筐体
41 スリーブ
42 左端キャップ
42a 円孔
43 右端キャップ
5 可動シャフト
51 本体
52 可動円板
61 第1制震ユニット
61C コイルバネ
61H 円孔
61U ウレタンバネ
62 第2制震ユニット
62C コイルバネ
62H 円孔
62U ウレタンバネ
A 制震筋交
B 制震筋交
BM 梁
Cφ 直径
CL 長さ
D1 仕切板
D1a 円孔
D2 仕切板
D2a 円孔
D3 仕切板
D3a 円孔
D4 仕切板
D4a 円孔
D5 仕切板
D5a 円孔
D6 仕切板
D6a 円孔
N1 ナックル
N1a 円孔
N2 ナット
N3 ナックル
N3a 円孔
N4 ナックル
N4a 円孔
N5 ナックル
N5a 円孔
N6 ナット
N7 ナックル
N7a 円孔
P 取付ピン
PL 柱
PL1 柱
PL2 柱
T 取付金具
UL 長さ
Ua 山部
Ub 山部
Uc 山部
Ud 山部
Ue 山部
Ut 溝
Uφ 直径
X1 引張力
X2 引張力
X3 引張力
X4 引張力
X5 引張力
X6 引張力
X7 引張力
X8 引張力
Y1 圧縮力
Y2 圧縮力
Y3 圧縮力
Y4 圧縮力
Y5 圧縮力
Y6 圧縮力
Y7 圧縮力
Y8 圧縮力
dt 幅
du1 幅
du2 幅
h 孔
α 角度
β 角度




















【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に制震機構を有する制震筋交であり、
制震機構が、低荷重に対応するバネと高荷重に対応するバネを組み合わせた制震ユニットを偶数組組み合わせたものであり、
低荷重に対応するバネは中心に孔を有する合成樹脂製で外周に変形防止のための溝を有しており、
高荷重に対応するバネは金属製のコイルバネであり、
偶数組の制震ユニットのうちの半数は、筋交を長手方向に圧縮する力が働いた場合に圧縮され、
偶数組の制震ユニットのうちの残る半数は、筋交を長手方向に引張する力が働いた場合に圧縮される
ことを特徴とする制震筋交。
【請求項2】
低荷重に対応する合成樹脂製のバネの対応可能な荷重の範囲が1.8kNまでであり、
高荷重に対応する金属製のコイルバネの対応可能な荷重の範囲が
1kN〜5kNであることを特徴とする請求項1に記載の制震筋交。
【請求項3】
筐体が円筒形状のスリーブと該スリーブの両端に螺着される右端キャップ及び左端キャップから成り、スリーブの中央には遮蔽円板がスリーブと一体に固着されており、
左端キャップ及び右端キャップの中心部分には円孔が穿設され、左端キャップに穿設された円孔に左側可動シャフトが挿通されており、右端キャップに穿設された円孔に右側可動シャフトが挿通されており、
左側可動シャフトの右端近傍に、左側可動円板が左側可動シャフトと一体に固着されており、
右側可動シャフトの左端近傍に、右側可動円板が右側可動シャフトと一体に固着されており、
筐体内に4組の制震ユニットが格納されており、2組は上記遮蔽円板の左側に、もう2組は上記遮蔽円板の右側に配されており、
遮蔽円板の左側に配された2組の制震ユニットうちの1組は左側可動円板の左側に、もう1組は左側可動円板の右側に配されており、
遮蔽円板の右側に配された2組の制震ユニットうちの1組は右側可動円板の右側に、もう1組は右側可動円板の左側に配されている、
ことを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の制震筋交。
【請求項4】
筐体が円筒形状のスリーブと該スリーブの一端に螺着される第1キャップ及び該スリーブの他端に螺着される第2キャップから成り、
第1キャップの中心部分には円孔が穿設され、第2キャップの中心部分には外向けに固定ナックルが溶着されており、
第1キャップの中心部分に穿設された円孔に可動シャフトが挿通されており、
可動シャフトの筐体内の先端近傍に、可動円板が可動シャフトと一体に固着されており、
筐体内に2組の制震ユニットが格納されており、1組は上記可動円板の一方の側に、もう1組は上記可動円板のもう一方の側に配されている、
ことを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の制震筋交。
【請求項5】
スリーブに通気用の孔が穿設されていることを特徴とする請求項1あるいは請求項2あるいは請求項3あるいは請求項4に記載の制震筋交。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−208374(P2011−208374A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74520(P2010−74520)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【特許番号】特許第4565526号(P4565526)
【特許公報発行日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(510086349)
【出願人】(501188454)株式会社アイアン工業 (1)
【出願人】(510086350)
【Fターム(参考)】