説明

制震装置

【課題】コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生することがなく、既設建物に生じた振動を確実に抑制することができる制震装置を提供する。
【解決手段】制震装置のコーナー部材19は、第1および第2アームやダンパーの外端部に開口するピン孔を挟んで互いに対向配置されたL形第1および第2コーナー材21,22と、第1および第2コーナー材21,22の間に配置されたL形第3コーナー材23とから形成されている。制震装置では、第1および第2アームやダンパーの外端部を回転可能に支持するピン59が第1および第2コーナー材21,22の間に配置され、第1および第2アームやダンパーの軸方向中心線L2とピン59の軸方向中心線L1との交点60が第1〜第3角部の角度を二分する切断線で第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62から求めた図心63の位置にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設建物に生じた振動を抑制する制震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既設建物の柱と梁とから形成された架構と同一形状の外枠と、その外枠の第1角部に外端部が回転可能に設置された第1アームと、外枠の第3角部に外端部が回転可能に設置された第2アームと、外枠の第2角部に外端部が回転可能に設置された油圧ダンパーと、第1および第2アームを所定の角度に保持しつつそれらアームの内端部とダンパーの内端部とを回転可能に支持する回転ヒンジとから制震装置が形成され、その制震装置が建物の各階の架構に左右対称に設置された制震構造物がある(特許文献1参照)。
【0003】
外枠は、縦方向へ延びる一対の縦枠材と、横方向へ延びる一対の横枠材と、第1〜第4角部に設置され、それら縦横枠材につながるコーナー部材とから形成されている。コーナー部材は、第1および第2アームやダンパーの外端部に開口する第1ピン孔を挟んで互いに対向配置されたL形第1および第2コーナー材と、第1および第2コーナー材の間に配置されたL形第3コーナー材とから形成されている。第1および第2コーナー材の間には、第1ピン孔に挿通されてそれらアームやダンパーの外端部を回転可能に支持する第1ピンが配置されている。第1および第2アームの内端部やダンパーの内端部は、それら内端部に開口する第2ピン孔に第2ピンが挿通された状態で、回転ヒンジに回転可能に支持されている。油圧ダンパーは、ロッドとシリンダーとを備え、その軸方向へ伸縮可能である。
【0004】
第1および第2アームやダンパーの軸方向中心線と第1ピンの軸方向中心線との交点は、図6を援用すると、L形第1コーナー材のうち、縦枠材につながる第1側面部を横方向に二分して縦方向へ延びる第7中心線L11と横枠材につながる第2側面部を縦方向に二分して横方向へ延びる第8中心線L12との交点64の位置にある。この制震構造物では、地震等によって既設建物に振動が生じ、その振動が架構から制震構造物に伝わり、それによって制震構造物が左右方向(横方向)へ水平変形すると、制震装置の第1および第2アームが外端部を中心として回転運動を行う。それらアームが回転運動を行うと、それらアームの外端部の水平変位量によってアームやダンパーの内端部を支持する回転ヒンジの回転変位量が増幅されて大きくなる。このように、それらアームの外端部の小さな変位量が回転ヒンジの大きな回転変位量に変換され、小さい変位量×大きな力=大きな変位量×小さな力という関係が成立する。すなわち、外端部の水平変位量に比較して油圧ダンパーのロッドが大きく伸縮し、それによって架構の振動が熱に変換され、既設建物に生じた振動が減衰される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−303705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示の制震構造物では、第1および第2アームやダンパーの軸方向中心線と第1ピンの軸方向中心線との交点がL形第1コーナー材の第7中心線L11と第8中心線L12との交点64の位置にあり、コーナー部材のうちの第1ピンの軸方向中心線から外側の外側部分の耐力とコーナー部材のうちの第1ピンの軸方向中心線から内側の内側部分の耐力とが異なり、既設建物に生じた振動が架構から制震構造物に伝わり、その振動によって第1および第2アームの外端部やダンパーの外端部、コーナー部材に所定の荷重が作用したときに、その荷重をコーナー部材の外側部分と内側部分とで均等に分担することができない。この制震構造物は、コーナー部材に作用する荷重をその外側部分と内側部分とで均等に分担することができないから、振動発生時にコーナー部材に不要な曲げモーメントが発生し、コーナー部材がその曲げモーメントによって変形または破損する場合があり、制震構造物の振動抑制機能が著しく低下する場合がある。
【0007】
本発明の目的は、ピンの軸方向中心線を基準としてコーナー部材をその外側部分と内側部分とに区分したときに、コーナー部材に作用する荷重をその外側部分と内側部分とで均等に分担することができ、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生することがなく、既設建物に生じた振動を確実に抑制することができる制震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明の前提は、第1〜第3角部にコーナー部材を備えた四角形のフレームと、そのフレームの内側に設置された振動減衰機構とを有し、振動減衰機構が、第1角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第1角部からフレームの内側に向かって延びる第1アームと、第1角部に対向する第3角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第3角部からフレームの内側に向かって延びる第2アームと、第1角部と第3角部との間の第2角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第2角部からフレームの内側に向かって延びる振動エネルギー吸収ダンパーと、第1および第2アームを所定の角度に保持しつつそれらアームの内端部とダンパーの内端部とを回転可能に支持する回転ヒンジとから形成された制震装置である。
【0009】
前記前提における本発明の第1の特徴は、コーナー部材が、それらアームおよびダンパーの外端部に開口するピン孔を挟んで互いに対向配置されたL形第1および第2コーナー材と、第1および第2コーナー材の間に配置されたL形第3コーナー材とから形成され、それらアームおよびダンパーの外端部を回転可能に支持するピンが、それらアームおよびダンパーの軸方向中心線に対して直角方向へ延びるとともに、外端部に開口するピン孔に挿通されて第1および第2コーナー材につながっていることにある。
【0010】
前記第1の特徴を有する本発明の一例としては、第1および第2アームの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が、第1および第3角部の角度を二分する切断線で第1〜第3コーナー材を切断した場合のコーナー部材の切断面から求めた図心の位置にあり、ダンパーの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が、第2角部の角度を二分する切断線で第1〜第3コーナー材を切断した場合のコーナー部材の切断面から求めた図心の位置にある。
【0011】
前記前提における本発明の第2の特徴は、コーナー部材が、L形の外側コーナー材と、外側コーナー材の内面中央につながってフレームの内側に向かって延びるL形の内側コーナー材とから形成され、第1および第2アームの外端部とダンパーの外端部とが、内側コーナー材を挟んで互いに離間対向する第1部分と第2部分とから形成され、それらアームおよびダンパーの第1部分と第2部分とを回転可能に支持するピンが、それらアームおよびダンパーの軸方向中心線に対して直角方向へ延びるとともに、内側コーナー材に開口するピン孔に挿通されて第1および第2部分につながっていることにある。
【0012】
前記第2の特徴を有する本発明の一例としては、第1および第2アームの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が、第1および第3角部の角度を二分する切断線で外側コーナー材と内側コーナー材とを切断した場合のコーナー部材の切断面から求めた図心の位置にあり、ダンパーの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が、第2角部の角度を二分する切断線で外側コーナー材と内側コーナー材とを切断した場合のコーナー部材の切断面から求めた図心の位置にある。
【0013】
前記第1および第2の特徴を有する本発明の一例としては、第1および第2アームの外端部を回転可能に支持するピンの軸方向中心線とダンパーの外端部を回転可能に支持するピンの軸方向中心線とが、図心を通って互いに直交する主軸となる二本の中立軸のうちの一方の中立軸に一致し、第1および第2アームの軸方向中心線とダンパーの軸方向中心線とが、二本の中立軸のうちの他方の中立軸に一致している。
【0014】
前記第1および第2の特徴を有する本発明の他の一例として、制震装置では、第1〜第3角部の角度が90度であり、第1〜第3角部を形成するコーナー部材の形状と大きさとが同一である。
【0015】
前記第1および第2の特徴を有する本発明の他の一例としては、コーナー部材が鋳造品または鍛造品あるいは溶接品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる制震装置によれば、コーナー部材が互いに対向配置されたL形第1および第2コーナー材とL形第3コーナー材とから形成され、アームおよびダンパーの外端部を回転可能に支持するピンがアームおよびダンパーの軸方向中心線に対して直角方向へ延びるとともに、外端部に開口するピン孔に挿通されて第1および第2コーナー材につながる連結構造を採用しているから、その連結構造が必要以上に高い制作制度を要しない単純な構造であり、コーナー部材の製作工数を最小限にすることができ、制振装置の生産効率や現地組立の効率が向上し、制振装置の製作費の低減による採算性を改善することができる。
【0017】
第1および第2アームの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が第1および第3角部の角度を二分する切断線で第1〜第3コーナー材を切断した場合のコーナー部材の切断面から求めた図心の位置にあり、ダンパーの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が第2角部の角度を二分する切断線で第1〜第3コーナー材を切断した場合のコーナー部材の切断面から求めた図心の位置にある制震装置は、ピンの軸方向中心線を基準としてコーナー部材をその軸方向中心線から外側の外側部位と軸方向中心線から内側の内側部位とに区分したときに、コーナー部材の外側部位の耐力と内側部位の耐力とが同一となり、フレームの振動によって第1および第2アームの外端部やダンパーの外端部、コーナー部材に荷重が作用したとしても、その荷重をコーナー部材の外側部位と内側部位とで均等に分担することができる。制震装置は、コーナー部材に作用する荷重をその外側部位と内側部位とで均等に分担することができるから、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。制震装置は、大きな変位量を振動エネルギー吸収ダンパーに作用させることができ、ダンパーの伸縮によってフレームの振動を熱に変換することで、振動を確実に抑制することができる。なお、前記特許文献1に開示の制震構造物では第1および第2アームの軸方向中心線と第1ピンの軸方向中心線との交点がL形第1コーナー材の第1中心線と第2中心線との交点の位置にあるのに対し、この制震装置では第1および第2アームの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が図心の位置にあり、図心の位置が前記特許文献1の第1中心線と第2中心線との交点よりも外側となる。したがって、この制震装置の第1および第2アームの軸方向の長さ寸法が特許文献1の制震構造物の第1および第2アームのそれよりも長くなる。それによって、この制震装置の第1および第2アームの外端部の水平変位量と特許文献1に開示の制震構造物の第1および第2アームの外端部の水平変位量とが同一であったとしても、この制震装置の回転ヒンジの回転変位量が特許文献1の制震構造物の回転ヒンジの回転変位量よりも大きくなり、振動発生時にダンパーのロッドが特許文献1の制震構造物のダンパーのそれよりも大きく伸縮するから、特許文献1の制震構造物に比較して振動抑制機能を高くすることができる。また、前記特許文献1に開示の制震構造物ではダンパーの軸方向中心線と第1ピンの軸方向中心線との交点がL形第1コーナー材の第1中心線と第2中心線との交点の位置にあるのに対し、この制震装置ではダンパーの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が図心の位置にあり、図心の位置が前記特許文献1の第1中心線と第2中心線との交点よりも外側となる。したがって、この制震装置は、ダンパーの軸方向の長さ寸法が特許文献1の制震構造物のダンパーのそれよりも長くなり、振動発生時にダンパーのロッドが特許文献1の制震構造物のダンパーのそれよりも大きく伸縮するから、特許文献1の制震構造物に比較して振動抑制機能を高くすることができる。
【0018】
コーナー部材がL形の外側コーナー材とフレームの内側に向かって延びるL形の内側コーナー材とから形成され、第1および第2アームの外端部とダンパーの外端部とが内側コーナー材を挟んで互いに離間対向する第1部分と第2部分とから形成され、それらアームおよびダンパーの第1部分と第2部分とを回転可能に支持するピンがそれらアームおよびダンパーの軸方向中心線に対して直角方向へ延びるとともに、内側コーナー材に開口するピン孔に挿通されて第1および第2部分につながる連結構造を採用した制震装置は、その連結構造が必要以上に高い制作制度を要しない単純な構造であり、コーナー部材の製作工数を最小限にすることができ、制振装置の生産効率や現地組立の効率が向上し、製作費の低減による採算性を改善することができる。
【0019】
第1および第2アームの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が第1および第3角部の角度を二分する切断線で外側コーナー材と内側コーナー材とを切断した場合のコーナー部材の切断面から求めた図心の位置にあり、ダンパーの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が第2角部の角度を二分する切断線で外側コーナー材と内側コーナー材とを切断した場合のコーナー部材の切断面から求めた図心の位置にある制震装置は、ピンの軸方向中心線を基準としてコーナー部材をその軸方向中心線から外側の外側部位と軸方向中心線から内側の内側部位とに区分したときに、コーナー部材の外側部位の耐力と内側部位の耐力とが同一となり、フレームの振動によって第1および第2アームの外端部やダンパーの外端部、コーナー部材に荷重が作用したとしても、その荷重をコーナー部材の外側部位と内側部位とで均等に分担することができる。制震装置は、コーナー部材に作用する荷重をその外側部位と内側部位とで均等に分担することができるから、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。制震装置は、大きな変位量を振動エネルギー吸収ダンパーに作用させることができ、ダンパーの伸縮によってフレームの振動を熱に変換することで、振動を確実に抑制することができる。なお、前記特許文献1に開示の制震構造物では第1および第2アームの軸方向中心線と第1ピンの軸方向中心線との交点がL形第1コーナー材の第1中心線と第2中心線との交点の位置にあるのに対し、この制震装置では第1および第2アームの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が図心の位置にあり、図心の位置が前記特許文献1の第1中心線と第2中心線との交点よりも外側となる。したがって、この制震装置の第1および第2アームの軸方向の長さ寸法が特許文献1の制震構造物の第1および第2アームのそれよりも長くなる。それによって、この制震装置の第1および第2アームの外端部の水平変位量と特許文献1に開示の制震構造物の第1および第2アームの外端部の水平変位量とが同一であったとしても、この制震装置の回転ヒンジの回転変位量が特許文献1の制震構造物の回転ヒンジの回転変位量よりも大きくなり、振動発生時にダンパーのロッドが特許文献1の制震構造物のダンパーのそれよりも大きく伸縮するから、特許文献1の制震構造物に比較して振動抑制機能を高くすることができる。また、前記特許文献1に開示の制震構造物ではダンパーの軸方向中心線と第1ピンの軸方向中心線との交点がL形第1コーナー材の第1中心線と第2中心線との交点の位置にあるのに対し、この制震装置ではダンパーの軸方向中心線とピンの軸方向中心線との交点が図心の位置にあり、図心の位置が前記特許文献1の第1中心線と第2中心線との交点よりも外側となる。したがって、この制震装置は、ダンパーの軸方向の長さ寸法が特許文献1の制震構造物のダンパーのそれよりも長くなり、振動発生時にダンパーのロッドが特許文献1の制震構造物のダンパーのそれよりも大きく伸縮するから、特許文献1の制震構造物に比較して振動抑制機能を高くすることができる。
【0020】
第1および第2アームの外端部を回転可能に支持するピンの軸方向中心線とダンパーの外端部を回転可能に支持するピンの軸方向中心線とが図心を通って互いに直交する主軸となる二本の中立軸のうちの一方の中立軸に一致し、第1および第2アームの軸方向中心線とダンパーの軸方向中心線とが二本の中立軸のうちの他方の中立軸に一致する制振装置は、第1〜第3角部のコーナー部材のうちのピンの軸方向中心線から外側の外側部位の耐力とコーナー部材のうちのピンの軸方向中心線から内側の内側部位の耐力とが同一となり、振動によって第1および第2アームの外端部やダンパーの外端部、コーナー部材に荷重が作用したとしても、その荷重を外側部位と内側部位とで均等に分担することができる。制震装置は、コーナー部材に作用する荷重をその外側部位と内側部位とで均等に分担することができるから、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。この制振装置は、第1および第2アームやダンパーの軸方向中心線を基準としてコーナー部材をその軸方向中心線から一方の側の一方部位と軸方向中心線から他方の側の他方部位とに区分したときに、コーナー部材の一方部位の耐力と他方部位の耐力とが同一となり、振動によって第1および第2アームの外端部やダンパーの外端部、コーナー部材に荷重が作用したとしても、その荷重を一方部位と他方部位とで均等に分担することができる。制震装置は、コーナー部材に作用する荷重を一方部位と他方部位とで均等に分担することができるから、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。この制震装置は、大きな変位量を振動エネルギー吸収ダンパーに作用させることができ、ダンパーの伸縮によってフレームの振動を熱に変換することで、振動を確実に抑制することができる。
【0021】
第1〜第3角部の角度が90度であり、第1〜第3角部を形成するコーナー部材の形状と大きさとが同一である制震装置は、第1〜第3角部の角度やコーナー部材の形状および大きさを統一することで、コーナー部材を規格・標準化することができ、大きさや縦横のサイズが異なるフレームに対応させてコーナー部材の形状や大きさを変える必要はなく、大きさや縦横のサイズが異なるすべてのフレームに規格・標準化したコーナー部材を使用して制振装置を組み立てることができ、制震装置の作製にかかるコストを低減することができる。
【0022】
コーナー部材が鋳造品または鍛造品あるいは溶接品である制振装置は、鋳造または鍛造によってL形第1および第2コーナー材とL形第3コーナー材とが一体となったコーナー部材を簡単に作ることができるから、コーナー部材の生産性が向上し、コーナー部材を廉価に製作することができ、その結果、制振装置の製作費を低減することができる。また、鋳造または鍛造によって外側コーナー材と内側コーナー材とが一体となったコーナー部材を簡単に作ることができるから、コーナー部材の生産性が向上し、コーナー部材を廉価に製作することができ、その結果、制振装置の製作費を低減することができる。さらに、L形第1および第2コーナー材とL形第3コーナー材とを溶接によって一体化することでコーナー部材を作る場合は、コーナー部材の製作工数を最小限にすることができ、コーナー部材を廉価に製作することができる結果、制振装置の製作費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一例として示す制震装置の正面図。
【図2】一例として示すコーナー部材の正面図。
【図3】コーナー部材の斜視図。
【図4】図3のコーナー部材の分解斜視図。
【図5】図4のコーナー部材の切断面から図心を求める場合の説明図。
【図6】ピンの軸方向中心線がコーナー材の図心にある場合と軸方向中心線が第1コーナー材の第1中心線および第2中心線の交点にある場合との比較図。
【図7】制震装置を取り付けた1つの架構の正面図。
【図8】一例として示す架構の全体正面図。
【図9】制震装置による振動減衰機能の説明図。
【図10】制震装置による振動減衰機能の説明図。
【図11】他の一例として示すコーナー部材の斜視図。
【図12】図11のコーナー部材の分解斜視図。
【図13】図12のコーナー部材の切断面から図心を求める場合の説明図。
【図14】他の一例として示すコーナー部材の正面図。
【図15】アームの図示を省略した図14のコーナー部材の斜視図。
【図16】図15のコーナー部材の切断面から図心を求める場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一例として示す制震装置10の正面図である図1等の添付の図面を参照し、本発明にかかる制震装置の詳細を説明すると、以下のとおりである。なお、図2は、一例として示すコーナー部材19の正面図であり、図3は、コーナー部材19の斜視図である。図4は、図3のコーナー部材19の分解斜視図であり、図5は、図4のコーナー部材19の切断面62から図心63を求める場合の説明図である。図6は、ピン59の軸方向中心線L1がコーナー部材19の切断面62の図心63にある場合とピン59の軸方向中心線L1が第1コーナー材21の第7中心線L11および第8中心線L12の交点64にある場合との比較図である。
【0025】
図2〜図5では、縦方向を矢印A(図5を除く)、横方向を矢印Bで示し、前後方向を矢印C(図1,2を除く)で示す。図2〜図6では、スタッドボルト20の図示を省略している。図3,4では、アーム38の図示を省略している。なお、図2〜図5は第1角部11のコーナー部材19を図示しているが、第2および第3角部12,13のコーナー部材19の説明では図2〜図5を援用し、第2および第3角部12,13のコーナー部材19の図2〜図5と同様の図の提示は省略する。この制震装置10は、鉄筋コンクリート造や鉄筋鉄骨コンクリート造の既設建物(図示せず)の柱65と梁66とから作られた架構67に設置され(図7,8参照)、地震等によって建物に生じた振動を抑制する。
【0026】
制震装置10は、四隅に第1〜第4角部11〜14を有する四角形のフレーム15と、フレーム15の内側に設置された振動減衰機構16とから形成されている。フレーム15では、第1角部11の対角に第3角部13が位置し、第2角部12の対角に第4角部14が位置している。フレーム15は、縦方向へ延びる一対の縦枠材17と、横方向へ延びる一対の横枠材18と、第1〜第3角部11〜13を形成するコーナー部材19とから作られている。
【0027】
縦枠材17と横枠材18とは、断面形状がコ字形に成形された鋼材であり、防錆処理(塗装処理)が施されている。縦枠材17および横枠材18には、そこから外側に突出する複数本のスタッドボルト20が取り付けられている(図1参照)。コーナー部材19は、断面形状が略コ字形に成形された鋼材であり、第1〜第3コーナー材21〜23から作られている(図3,4参照)。第1〜第3角部11〜13を形成するコーナー部材19は、それらの形状と大きさとが同一である。第1〜第3コーナー材21〜23は、側面形状がL形に成形された鋼材であり、防錆処理(塗装処理)が施されている。
【0028】
なお、第1〜第3角部11〜13が特許請求の範囲における第1〜第3角部に直ちに該当するものではなく、第1〜第4角部11〜14のうちのいずれかの角部を特許請求の範囲における第1角部にすることができる。たとえば、第2角部12を特許請求の範囲における第1角部とすると、第4角部14が特許請求の範囲における第3角部となり、第1または第3角部11,13が特許請求の範囲における第2角部となる。また、第3角部13を特許請求の範囲における第1角部とすると、第1角部11が特許請求の範囲における第3角部となり、第2または第4角部12,14が特許請求の範囲における第2角部となる。さらに、第2角部12を特許請求の範囲における第1角部とすると、第4角部14が特許請求の範囲における第3角部となり、第1または第3角部11,13が特許請求の範囲における第2角部となる。
【0029】
第1および第2コーナー材21,22は、縦方向へ延びる所定面積の第1側面部24と、第1側面部24に直交して横方向へ延びる所定面積の第2側面部25と、縦方向へ延びる第1外側部26および第1外側部26に直交して横方向へ延びる第2外側部27と、縦方向へ延びる第1内側部28および第1内側部28に直交して横方向へ延びる第2内側部29とを有する。
【0030】
第1外側部26と第2外側部27とは、その長さ寸法が同一であり、それら外側部26,27の交差角度α1が90度である。第1内側部28と第2内側部29とは、その長さ寸法が同一であり、それら内側部28,29の交差角度α2が90度である。第1〜第3角部11〜13を形成する第1および第2コーナー材21,22は、それらの形状と大きさとが同一であり、かつ、第1および第2側面部24,25の厚み寸法が同一である。
【0031】
第3コーナー材23は、縦方向へ延びる所定面積の第1側面部30と、第1側面部30に直交して横方向へ延びる所定面積の第2側面部31と、縦方向へ延びる第1外側部32および第1外側部32に直交して横方向へ延びる第2外側部33と、縦方向へ延びる第3外側部34および第3外側部34に直交して横方向へ延びる第4外側部35とを有する。
【0032】
第1〜第4外側部32〜35は、その長さ寸法が同一である。第1外側部32と第2外側部33との交差角度α1は、90度であり、第3外側部34と第4外側部35との交差角度α1は、90度である。第1〜第3角部11〜13を形成する第3コーナー材23は、それらの形状と大きさとが同一であり、かつ、第1および第2側面部30,31の厚み寸法が同一である。第3コーナー材23の第1側面部および第2側面部30,31には、そこから外側に突出する複数本のスタッドボルト20が取り付けられている(図1参照)。
【0033】
コーナー部材19や縦枠材17、横枠材18には、鋳造品または鍛造品あるいは溶接品を使用することができる。コーナー部材19や縦枠材17、横枠材18が鋳造品である場合は、金属材料を加熱して液体にした後、それを鋳型(鋳造金型)に流し込み、冷却して断面コ字状のコーナー部材19や縦枠材17、横枠材18が作られる。コーナー部材19や縦枠材17、横枠材18が鍛造品(型鍛造)である場合は、鍛造機械に上下一対の金型を取り付け、加熱された金属材料を金型上に載置して打撃または加圧によって断面コ字状のコーナー部材19や縦枠材17、横枠材18が作られる。鋳造や鍛造では、第1および第2コーナー材21,22と第3コーナー材23とが一体となったコーナー部材19が作られる。
【0034】
コーナー部材19が溶接品である場合は、第3コーナー材23の第1側面部30の内側に第1および第2コーナー材21,22の第1外端部26が溶接によって接合され、第3コーナー材23の第2側面部31の内側に第1および第2コーナー材21,22の第2外端部27が溶接によって接合され、断面コ字状のコーナー部材19が作られる。縦枠材17や横枠材18が溶接品である場合は、それら枠材17,18を形成する各パーツが溶接によって接合され、断面コ字状の縦枠材17や横枠材18が作られる。
【0035】
フレーム15では、縦枠材17の縦方向両端部とコーナー部材19の一方の端部36とが溶接によって接合され、横枠材18の横方向両端部とコーナー部材19の他方の端部37とが溶接によって接合されている。第4角部14では、縦枠材17の端部と横枠材18の端部とが溶接によって接合されている。フレーム15では、第1〜第4角部11〜14の角度α1が90度である。なお、図示のフレーム15はその正面形状が横方向へ長い長方形であるが、フレーム15の正面形状をそれに限定するものではなく、正四角形や縦方向へ長い長方形であってもよい。
【0036】
振動減衰機構16は、第1角部11からフレーム15の内側に向かって延びる第1アーム38と、第3角部13からフレーム15の内側に向かって延びる第2アーム39と、第2角部12からフレーム15の内側に向かって延びる油圧ダンパー40(振動エネルギー吸収ダンパー)と、回転ヒンジ41とから形成されている。
【0037】
第1アーム38は、第1角部11に回転可能に支持(連結)された外端部42と、回転ヒンジ41に回転可能に支持(連結)された内端部43と、それら端部42,43の間に延びる円柱状の中間部44とを有する。第1アーム38の外端部42には、第1ピン孔45(ピン孔)が形成され、その内端部43には、第2ピン孔46が形成されている。
【0038】
第2アーム39は、第3角部13に回転可能に支持(連結)された外端部47と、回転ヒンジ41に回転可能に支持(連結)された内端部48と、それら端部47,48の間に延びる円柱状の中間部49とを有する。第2アーム39の外端部47には、第1ピン孔50(ピン孔)が形成され、その内端部48には、第2ピン孔51が形成されている。第1アーム38と第2アーム39とは、それらの長さ寸法(端部から端部までの寸法)が同一であるが、それらの長さ寸法が異なっていてもよい。
【0039】
油圧ダンパー40は、シリンダー52およびロッド53から形成されている。ダンパー40は、第2角部12に回転可能に支持(連結)された外端部54と、回転ヒンジ41に回転可能に支持(連結)された内端部55とを有する。ダンパー40の外端部54には、第1ピン孔56(ピン孔)が形成され、その内端部55には、第2ピン孔57が形成されている。
【0040】
第1および第2アーム38,39やダンパー40の内端部43,48,55の第2ピン孔46,51,57には、第2ピン58が挿通されている。第2ピン58は、それらアーム38,39およびダンパー40の一点鎖線で示す軸方向中心線L2に対して直角方向へ延びている。第1および第2アーム38,39とダンパー40とは、第2ピン58を介して回転ヒンジ41に回転可能に支持されている。
【0041】
第1アーム38と第2アーム39とは、縦方向上方へ凸となるように回転ヒンジ41を介して所定の角度で連結されている。第1および第2アーム38,39と油圧ダンパー40とは、回転ヒンジ41を介してトグル機構を構成している。なお、第1アーム38と第2アーム39とが縦方向下方へ凸となるように回転ヒンジ41を介して所定の角度で連結されていてもよい。
【0042】
なお、第1アーム38の外端部42が第4角部14に支持され、第2アーム39の外端部47が第2角部12に支持され、ダンパー40の外端部54が第3角部に支持される場合、第1アーム38と第2アーム39とが縦方向下方へ凸となるように回転ヒンジ41を介して所定の角度で連結され、第1および第2アーム38,39と油圧ダンパー40とが回転ヒンジ41を介してトグル機構を構成する。
【0043】
第1角部11における第1コーナー材21と第2コーナー材22との間には、第3コーナー材23と平行して前後方向へ延びる第1ピン59(ピン)が配置されている。第1ピン59は、第1アーム38の一点鎖線で示す軸方向中心線L2に対して直角方向へ延びている。第1ピン59は、第1アーム38の外端部42の第1ピン孔45に回転可能に挿通され、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に挿入された状態でそれらコーナー材21,22に固定されている。
【0044】
なお、第1ピン59は、第1アーム38の外端部42の第1ピン孔45に挿入された状態で外端部42に固定されるとともに、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に回転可能に挿通されていてもよい。第1アーム38の外端部42に開口する第1ピン孔45は、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に一致している。第1アーム38は、その外端部42が第1ピン59を介して第1角部11に回転可能に支持され、ピン59(第1ピン孔45)を旋回軸として縦枠材17と横枠材18との間を旋回可能である。
【0045】
第1ピン59の一点鎖線で示す軸方向中心線L1と第1アーム38の軸方向中心線L2との交点60は、第1角部11の角度α1(90度)を二分する(第1外側部26と第2外側部27との交差角度α1(90度)を二分する)切断線61(第1外側部26と切断線61との交差角度45度、第2外側部27と切断線61との交差角度45度)で第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62の図心63の位置にある。
【0046】
第1ピン59の軸方向中心線L1は、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向(第3コーナー材23の第1および第2側面部30,31と平行する前後方向)へ延びる第1線分L3(図心を通る主軸となる一方の中立軸)に一致している。第1アーム38の軸方向中心線L2は、図心63を通ってアーム38の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4(図心を通る主軸となる他方の中立軸)に一致している(図5参照)。
【0047】
第3角部13における第1コーナー材21と第2コーナー材22との間には、第3コーナー材23と平行して前後方向へ延びる第1ピン59(ピン)が配置されている。第1ピン59は、第2アーム39の一点鎖線で示す軸方向中心線L2に対して直角方向へ延びている。第1ピン59は、第2アーム39の外端部47の第1ピン孔50に回転可能に挿通され、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に挿入された状態でそれらコーナー材21,22に固定されている。
【0048】
なお、第1ピン59は、第2アーム39の外端部47の第1ピン孔50に挿入された状態で外端部47に固定されるとともに、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に回転可能に挿通されていてもよい。第2アーム39の外端部47に開口する第1ピン孔50は、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に一致している。第2アーム39は、その外端部47が第1ピン59を介して第3角部13に回転可能に支持され、ピン59(第1ピン孔50)を旋回軸として縦枠材17と横枠材18との間を旋回可能である。
【0049】
第1ピン59の一点鎖線で示す軸方向中心線L1と第2アーム39の軸方向中心線L2との交点60は、第3角部13の角度α1(90度)を二分する(第1外側部26と第2外側部27との交差角度α1(90度)を二分する)切断線61(第1外側部26と切断線61との交差角度45度、第2外側部27と切断線61との交差角度45度)で第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62の図心63の位置にある。
【0050】
第1ピン59の軸方向中心線L1は、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向(第3コーナー材23の第1および第2側面部30,31と平行する前後方向)へ延びる第1線分L3(図心を通る主軸となる一方の中立軸)に一致している。第2アーム39の軸方向中心線L2は、図心63を通ってアーム39の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4(図心を通る主軸となる他方の中立軸)に一致している(図5援用)。
【0051】
第2角部12における第1コーナー材21と第2コーナー材22との間には、第3コーナー材23と平行して前後方向へ延びる第1ピン59(ピン)が配置されている。第1ピン59は、ダンパー40の一点鎖線で示す軸方向中心線L2に対して直角方向へ延びている。第1ピン59は、ダンパー40の外端部54の第1ピン孔56に回転可能に挿通され、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に挿入された状態でそれらコーナー材21,22に固定されている。
【0052】
なお、第1ピン59は、ダンパー40の外端部54の第1ピン孔56に挿入された状態で外端部54に固定されるとともに、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に回転可能に挿通されていてもよい。ダンパー40の外端部54に開口する第1ピン孔56は、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に一致している。ダンパー40は、その外端部54が第1ピン59を介して第2角部12に回転可能に支持され、ピン59(第1ピン孔56)を旋回軸として縦枠材17と横枠材18との間を旋回可能である。
【0053】
第1ピン59の一点鎖線で示す軸方向中心線L1とダンパー40の軸方向中心線L2との交点は、第2角部12の角度α1(90度)を二分する(第1外側部26と第2外側部27との交差角度α1(90度)を二分する)切断線61(第1外側部26と切断線61との交差角度45度、第2外側部27と切断線61との交差角度45度)で第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62の図心63の位置にある。
【0054】
第1ピン59の軸方向中心線L1は、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向(第3コーナー材23の第1および第2側面部30,31と平行する前後方向)へ延びる第1線分L3(図心を通る主軸となる一方の中立軸)に一致している。ダンパー40の軸方向中心線L2は、図心63を通ってダンパー40の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4(図心を通る主軸となる他方の中立軸)に一致している(図5援用)。
【0055】
図5に基づいてコーナー部材19の図心63を求める手順を説明すると、以下のとおりである。第3コーナー材23の切断面62の反対側であってコーナー部材19の切断面62から所定寸法離間した位置にX軸を仮想し、第1および第2コーナー材21,22の切断面62の反対側であってコーナー部材19の切断面62から所定寸法離間した位置にY軸を仮想する。次に、X軸からコーナー部材19に向かって離間したY軸上の距離YoをYo=(Ya×a+Yb×b+Yc×c)÷(a+b+c)によって求め、その距離Yoにおいて第3コーナー材23の第1および第2側面部30,31と平行する前後方向へ第1線分L3(中立軸)を仮想する。さらに、Y軸からコーナー部材19に向かって離間したX軸上の距離XoをXo=(Xa×a+Xb×b+Xc×c)÷(a+b+c)によって求め、その距離Xoにおいて第1および第2コーナー材21,22の第1および第2側面部24,25と平行する方向へ第2線分L4(中立軸)を仮想する。第1および第2線分L3,L4を仮想した場合のそれら線分L3,L4の交点がコーナー部材19の図心63となる。
【0056】
ここで、Yaは、X軸から第3コーナー材23の切断面62の短手方向の寸法を二分する第1中心線L5までの距離、Ybは、X軸から第1コーナー材21の切断面62の長手方向の寸法を二分する第2中心線L6までの距離であり、Ycは、X軸から第2コーナー材22の切断面62の長手方向の寸法を二分する第3中心線L7までの距離である。Xaは、Y軸から第3コーナー材23の切断面62の長手方向の寸法を二分する第4中心線L8までの距離、Xbは、Y軸から第1コーナー材21の切断面62の短手方向の寸法を二分する第5中心線L9までの距離であり、Xcは、Y軸から第2コーナー材22の切断面62の短手方向の寸法を二分する第6中心線L10までの距離である。また、aは、第3コーナー材23の切断面62の面積、bは、第1コーナー材21の切断面62の面積であり、cは、第2コーナー材22の切断面62の面積である。前記式を利用することで、第1〜第3コーナー材21〜23から作られたコーナー部材19の図心63を正確に求めることができる。
【0057】
ピン59の軸方向中心線L1が図心63にある場合とピン59の軸方向中心線L1が第1コーナー材21の第7中心線L11および第8中心線L18の交点64にある場合とでは、図6に示すように、ピン59の軸方向中心線L1の位置が異なる。なお、第7中心線L11は、第1コーナー材21のうち、縦枠材17につながる第1側面部24を横方向に二分して縦方向へ延びる線であり、第8中心線L12は、横枠材18につながる第2側面部25を縦方向に二分して横方向へ延びる線である。
【0058】
ピン59の軸方向中心線L1が図心63にある場合は、ピン59の軸方向中心線L1が第1コーナー材21の第7中心線L11および第8中心線L12の交点64にある場合よりも、軸方向中心線L1が第3コーナー材23に近接する(ピン59の軸方向中心線L1が第1コーナー材21の第7中心線L11および第8中心線L12の交点64にある場合よりも外側に位置する)。その結果、同一サイズのフレーム15に第1および第2アーム38,39やダンパー40を取り付けたときに、それらアーム38,39やダンパー40の長さを長くすることができる。
【0059】
図7は、制震装置10を取り付けた1つの架構67の正面図であり、図8は、一例として示す架構67の全体正面図である。図9,10は、制震装置10による振動減衰機能の説明図である。図7ではスタッドボルト20および鋼管コッター68を図示しているが、実際にはボルト20やコッター68はモルタル69に埋設され、モルタル69から露出することはない。図9,10では、架構67の図示を省略している。図7,8では、縦方向を矢印Aで示し、横方向を矢印Bで示す。
【0060】
制震装置10では、そのフレーム15が既設建物の架構67の内側に設置される。架構67全体では、それを横方向へ二分する中心線L13に対して制震装置10を設置した架構67が左右対称に配置されている。より詳細には、制震装置10が中心線L13を挟んで同一階の同一架構67に設置され、振動減衰機構16が中心線L13を挟んで左右両側に互いに鏡像関係になるように設置されている。架構67を形成する柱65と梁66とには、架構67の内側に突出する鋼管コッター68(またはアンカー筋)が取り付けられている。鋼管コッター68は、柱65や梁66にドリルで柱65や梁66に開けた孔に挿入され、グラウト剤で柱65や梁66に固定されている。
【0061】
フレーム15は、その正面形状が1つの架構67と同形であるが、その大きさが架構67のそれよりもわずかに小さい。フレーム15を架構67の内側に配置すると、フレーム15と架構67との間に間隙が形成される。フレーム15と架構67とは、図7に示すように、柱65や梁66に取り付けられた鋼管コッター68とフレーム15に取り付けられたスタッドボルト20とが並んだ状態で、間隙に充填された繊維モルタル69を介して連結されている。繊維モルタル69に替えてモルタルを使用することもできるが、この場合は、スタッドボルト29と鋼管コッター68との間にスパイラル筋を配筋する。フレーム15と架構67とを連結する手順は、フレーム15と架構67との間隙を取り囲むように型枠を組み、型枠内に繊維モルタル69を充填する。繊維モルタル69を所定期間養生し、モルタル69が固化した後、型枠を外す。
【0062】
制震装置10による振動減衰の原理を説明すると、以下のとおりである。地震等によって既設建物に振動が生じ、その振動が架構67を介して制震装置10に伝わる。建物の任意の階層が右方向(横方向右方)へ水平変形したとすると、図9に矢印A1で示すように、架構67とともにその架構67に設置された制震装置10も右方向へ水平変形する。ただし、フレーム15の縦方向の伸縮を無視してフレーム15が水平変形したものとする。
【0063】
架構67とともにフレーム15が右方向へ水平変形すると、フレーム15に設置された振動減衰機構16の第1アーム38および第2アーム39が第1ピン59を中心として回転運動を行う。それらアーム38,39が回転運動すると、それらアーム38,39の水平変位量によって回転ヒンジ41の回転変位量が増幅されて大きくなる。このように、第1ピン59を中心としたそれらアーム38,39の小さな水平変位量が回転ヒンジ41の大きな回転変位量に変換され、小さい変位量×大きな力=大きな変位量×小さな力という関係が成立する。すなわち、油圧ダンパー40のロッド53が大きく伸縮して架構67の振動が熱に変換され、小さな力によって架構67の振動が減衰されるとともに、それと同時に既設建物の振動が抑制される。
【0064】
次に、建物の任意の階層が左方向(横方向左方)へ水平変形したとすると、図10に矢印A2で示すように、架構67とともにその架構67に設置された制震装置10も左方向へ水平変形する。なお、図9と同様に、フレーム15の縦方向の伸縮を無視してフレーム15が水平変形したものとする。架構67とともにフレーム15が左方向へ水平変形すると、フレーム15に設置された振動減衰装置16の第1アーム38および第2アーム39が第1ピン59を中心として回転運動を行う。それらアーム38,39が回転運動すると、それらアーム38,39の水平変位量によって回転ヒンジ41の回転変位量が増幅されて大きくなり、油圧ダンパー40のロッド53が大きく伸縮して架構67の振動が熱に変換され、小さな力によって架構67の振動が減衰されるとともに、それと同時に既設建物の振動が抑制される。
【0065】
制震装置10は、コーナー部材19が互いに対向配置されたL形第1および第2コーナー材21,22とL形第3コーナー材23とから形成され、それらアーム38,39およびダンパー40の外端部42,47,54を回転可能に支持するピン59がアーム38,39およびダンパー40の軸方向中心線L2と直交して延びるとともに、外端部42,47,54に開口するピン孔45,50,56に挿通されて第1および第2コーナー材21,22につながる連結構造を採用しているから、その連結構造が必要以上に高い制作制度を要しない単純な構造であり、コーナー部材19の製作工数を最小限にすることができ、制振装置10の生産効率や現地組立の効率が向上し、制振装置10の製作費の低減による採算性を改善することができる。
【0066】
制振装置10は、鋳造または鍛造によってL形第1および第2コーナー材21,22とL形第3コーナー材23とが一体となったコーナー部材19を簡単に作ることができるから、コーナー部材19の生産性が向上し、コーナー部材19を廉価に製作することができ、その結果、制振装置10の製作費を低減することができる。また、L形第1および第2コーナー材21,22とL形第3コーナー材23とを溶接によって一体化することでコーナー部材19を作る場合は、コーナー部材19の製作工数を最小限にすることができ、コーナー部材19を廉価に製作することができる結果、制振装置10の製作費を低減することができる。
【0067】
制震装置10は、第1および第2アーム38,39の軸方向中心線L2とそれらアーム38,39の外端部42,47を回転可能に支持するピン59の軸方向中心線L1との交点60が第1および第3角部11,13の角度を二分する切断線61によって第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62から求めた図心63の位置にあり、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向へ延びる第1線分L3にピン59の軸方向中心線L1が一致しているから、ピン59の軸方向中心線L1を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L1から外側の外側部位70と軸方向中心線L1から内側の内側部位71とに区分したときに、コーナー部材19の外側部位70の耐力と内側部位71の耐力とが同一となり、フレーム15の振動によって第1および第2アーム38,39の外端部42,47やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重をコーナー部材19の外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができる。
【0068】
制震装置10は、第1および第2アーム38,39の外端部42,47を支持するコーナー部材19に作用する荷重をその外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。
【0069】
制震装置10は、ダンパー40の軸方向中心線L2とダンパー40の外端部54を回転可能に支持するピン59の軸方向中心線L1との交点60が第2角部12の角度を二分する切断線61で第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62から求めた図心63の位置にあり、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向へ延びる第1線分L3にピン59の軸方向中心線L1が一致しているから、ピン59の軸方向中心線L1を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L1から外側の外側部位70と軸方向中心線L1から内側の内側部位71とに区分したときに、コーナー部材19の外側部位70の耐力と内側部位71の耐力とが同一となり、振動によってダンパー40の外端部54やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重を外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができる。
【0070】
制震装置10は、ダンパー40の外端部54を支持するコーナー部材19に作用する荷重をその外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。
【0071】
制震装置10は、図心63を通って第1および第2アーム38,39の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4に第1および第2アーム38,39の軸方向中心線L2が一致するから、第1および第2アーム38,39の軸方向中心線L2を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L2から一方の側の一方部位72と軸方向中心線L2から他方の側の他方部位73とに区分したときに、コーナー部材19の一方部位72の耐力と他方部位73の耐力とが同一となり、振動によって第1および第2アーム38,39の外端部42,47やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができる。
【0072】
制震装置10は、第1および第2アーム38,39の外端部42,47を支持するコーナー部材19に作用する荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。
【0073】
制震装置10は、図心63を通ってダンパー40の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4にダンパー40の軸方向中心線L2が一致するから、ダンパー40の軸方向中心線L2を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L2から一方の側の一方部位72と軸方向中心線L2から他方の側の他方部位73とに区分したときに、コーナー部材19の一方部位72の耐力と他方部位73の耐力とが同一となり、振動によってダンパー40の外端部54やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができる。
【0074】
制震装置10は、ダンパー40の外端部54を支持するコーナー部材19に作用する荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。
【0075】
制震装置10は、第1ピン59を中心としたそれらアーム38,39の小さな水平変位量が回転ヒンジ41の大きな回転変位量に変換され、大きな変位量を油圧ダンパー40(振動エネルギー吸収ダンパー)に作用させることができ、ダンパー40のロッド53の伸縮によってフレーム15の振動を熱に変換することで、既設建物の振動を確実に抑制することができる。
【0076】
なお、前記特許文献1に開示の制震構造物では第1および第2アームやダンパーの軸方向中心線と第1ピンの軸方向中心線との交点がL形第1コーナー材の第7中心線L11と第8中心線L12との交点64の位置にあるのに対し(図6参照)、この制震装置10では第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2とピン59の軸方向中心線L1との交点60が図心63の位置にあり、図心63の位置が前記特許文献1の第7中心線L11と第8中心線L12との交点64よりも外側となる。したがって、この制震装置10の第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向の長さ寸法が特許文献1の制震構造物の第1および第2アームやダンパーのそれよりも長くなる。それによって、この制震装置10の第1および第2アーム38,39の外端部42,47の水平変位量と特許文献1に開示の制震構造物の第1および第2アームの外端部の水平変位量とが同一であったとしても、この制震装置10の回転ヒンジ41の回転変位量が特許文献1の制震構造物の回転ヒンジの回転変位量よりも大きくなり、振動発生時にダンパー40のロッド53が特許文献1の制震構造物のダンパーのそれよりも大きく伸縮するから、特許文献1の制震構造物に比較して振動抑制機能を高くすることができる。
【0077】
制震装置10は、第1〜第3角部11〜13の角度や第1〜第3コーナー材21〜23の形状および大きさを統一(コーナー部材19の形状および大きさを統一)することで、第1〜第3コーナー材21〜23(コーナー部材19)を規格・標準化することができ、大きさや縦横のサイズが異なるフレーム15に対応させてそれらコーナー材21〜23の形状や大きさを変える必要はなく、大きさや縦横のサイズが異なるすべてのフレーム15に規格・標準化した第1〜第3コーナー材21〜23を使用してコーナー部材19を作ることができ、制震装置10の作製にかかるコストを低減することができる。また、制震装置10が既設建物の柱65と梁66とから形成された架構67に設置され、制震装置10を設置した架構67が既設建物の全ての架構67に対して左右対称に配置されているから、振動発生時における制震装置10の正負力の増幅倍率を既設建物において均等にすることができ、制震装置10による制震機能が建物全体に均等に作用し、建物に発生した振動を制震装置10によって確実に抑制することができる。
【0078】
図11は、他の一例として示すコーナー部材19の斜視図であり、図12は、図11のコーナー部材19の分解斜視図である。図13は、図12のコーナー部材19の切断面62から図心63を求める場合の説明図である。図11〜図13では、スタッドボルト20やアーム38(図12,13のみ)の図示を省略している。図11〜図13では、縦方向を矢印A(図13を除く)、横方向を矢印Bで示し、前後方向を矢印Cで示す。
【0079】
図11に示すコーナー部材19が図3のそれと異なるところは、図11のコーナー部材19の第2コーナー材22の厚み寸法が図3のコーナー部材19の第2コーナー材22のそれよりも大きい点にあり、その他の構成は図3のコーナー部材19と同一であるから、図3のコーナー部材19と同一の符号を付すことで、このコーナー部材19のその他の構成の説明は省略する。このコーナー部材19が設置されたフレーム15やフレーム15の内側に設置された振動減衰機構16は、図1,2のそれらと同一であるから、図1,2のフレーム15や振動減衰機構16の説明を援用することで、それらの説明は省略する。なお、第1〜第3角部11〜13を形成するコーナー部材19は、それらの形状と大きさとが同一である。
【0080】
第1および第2コーナー材21,22は、縦方向へ延びる所定面積の第1側面部24と、第1側面部24に直交して横方向へ延びる所定面積の第2側面部25と、縦方向へ延びる第1外側部26および第1外側部26に直交して横方向へ延びる第2外側部27と、縦方向へ延びる第1内側部28および第1内側部28に直交して横方向へ延びる第2内側部29とを有する。第1外側部25と第2外側部26とは、その長さ寸法が同一であり、それら外側部25,26の交差角度α1が90度である。第1内側部28と第2内側部29とは、その長さ寸法が同一であり、それら内側部28,29の交差角度α2が90度である。第2コーナー材22は、その厚み寸法が第1コーナー材21のそれよりも大きい。第1〜第3角部11〜13では、それら角部11〜13を形成する第1および第2コーナー材21,22の形状と大きさとが同一、第1側面部24の厚み寸法が同一であり、第2側面部25の厚み寸法が同一である。
【0081】
第3コーナー材23は、縦方向へ延びる所定面積の第1側面部30と、第1側面部30に直交して横方向へ延びる所定面積の第2側面部31と、縦方向へ延びる第1外側部32および第1外側部32に直交して横方向へ延びる第2外側部33と、縦方向へ延びる第3外側部34および第3外側部34に直交して横方向へ延びる第4外側部35とを有する。第1〜第4外側部32〜35は、その長さ寸法が同一である。第1外側部32と第2外側部33との交差角度α1は、90度であり、第3外側部34と第4外側部35との交差角度α1は、90度である。第1〜第3角部11〜13では、それら角部11〜13を形成する第3コーナー材23の形状と大きさとが同一であり、第1および第2側面部30,31の厚み寸法が同一である。第3コーナー材23の第1側面部および第2側面部30,31には、そこから外側に突出する複数本のスタッドボルト20が取り付けられている(図1参照)。
【0082】
コーナー部材19や縦枠材17、横枠材18には、図1のそれと同様に、鋳造品または鍛造品あるいは溶接品を使用することができる。第1〜第3角部11〜13における第1コーナー材21と第2コーナー材22との間には、第3コーナー材23と平行して前後方向へ延びる第1ピン59(ピン)が配置されている。第1ピン59は、第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2に対して直角方向へ延びている。第1ピン59は、第1および第2アーム38,39やダンパー40の外端部42,47,54の第1ピン孔45,50,56に回転可能に挿通され、第1および第2コーナー材21,22に固定されている。なお、第1ピン59は、第1および第2アーム38,39やダンパー40の外端部42,47,54の第1ピン孔45,50,56に挿入された状態で外端部42,47,54に固定されるとともに、第1および第2コーナー材21,22に形成されたピン孔に回転可能に挿通されていてもよい。
【0083】
第1および第2アーム38,39は、その外端部42,47がピン59を介して第1および第3角部11,13に回転可能に支持され、ピン59(第1ピン孔45,50)を旋回軸として縦枠材17と横枠材18との間を旋回可能である。ダンパー40は、その外端部54がピン59を介して第2角部12に回転可能に支持され、ピン59(第1ピン孔56)を旋回軸として縦枠材17と横枠材18との間を旋回可能である。
【0084】
ピン59(第1ピン)の一点鎖線で示す軸方向中心線L1と第1および第2アーム38,39やダンパー40の一点鎖線で示す軸方向中心線L2との交点60は、角部11の角度α1(90度)を二分する(第1外側部26と第2外側部27との交差角度α1(90度)を二分する)切断線61(第1外側部26と切断線61との交差角度45度、第2外側部27と切断線61との交差角度45度)で第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62の図心63の位置にある。ピン59の軸方向中心線L1は、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向(第3コーナー材23の第1および第2側面部30,31と平行する前後方向)へ延びる第1線分L3(図心を通る主軸となる一方の中立軸)に一致している。第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2は、図心63を通って第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4(図心を通る主軸となる他方の中立軸)に一致している(図13参照)。
【0085】
図13に基づいてコーナー部材19の図心63を求める手順を説明すると、以下のとおりである。第3コーナー材23の切断面62の反対側であってコーナー部材19の切断面62から所定寸法離間した位置にY軸を仮想し、第1および第2コーナー材21,22の切断面62の反対側であってコーナー部材19の切断面62から所定寸法離間した位置にX軸を仮想する。Y軸からコーナー部材19に向かって離間したY軸上の距離YoをYo=(Ya×a+Yb×b+Yc×c)÷(a+b+c)によって求め、距離Yoにおいて第3コーナー材23の第1および第2側面部30,31と平行する前後方向へ第1線分L3(中立軸)を仮想する。X軸からコーナー部材19に向かって離間したX軸上の距離XoをXo=(Xa×a+Xb×b+Xc×c)÷(a+b+c)によって求め、距離Xoにおいて第1および第2コーナー材21,22の第1および第2側面部24,25と平行する方向へ第2線分L4(中立軸)を仮想する。第1および第2線分L3,L4を仮想した場合のそれら線分L3,L4の交点60がコーナー部材19の図心63となる。なお、YaやYb、Yc、Xa、Xb、Xc、a、b、cは、図5のそれらと同一である。
【0086】
制震装置10では、そのフレーム15が既設建物の架構67の内側に設置される。架構67全体では、それを横方向へ二分する中心線L13に対して制震装置10を設置した架構67が左右対称に配置される(図7,8参照)。なお、図11,12のコーナー部材19を使用した制震装置10による振動減衰の原理は図3,4のコーナー部材19を使用した制震装置10のそれと同一であるから、図9,10とそれら図に基づく説明とを援用することで、その説明は省略する。
【0087】
制震装置10では、その設置条件や設置箇所によってコーナー部材19を形成する第1〜第3コーナー材21〜23の強度を異なるように設定する場合やそれらの大きさを異なるように成形する場合がある。図11,12のコーナー材19を使用した制震装置10は、そのような要求に対応することができることのみならず、第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2とそれらアーム38,39やダンパー40の外端部42,47,54を回転可能に支持するピン59の軸方向中心線L1との交点60が第1〜第3角部の角度11〜13を二分する切断線61によって第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62から求めた図心63の位置にあり、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向へ延びる第1線分L3にピン59の軸方向中心線L1が一致しているから、ピン59の軸方向中心線L1を基準としてコーナー部材19を軸方向中心線L1から外側の外側部位70と軸方向中心線L1から内側の内側部位71とに区分したときに、外側部位70の耐力と内側部位71の耐力とが同一となり、フレーム15の振動によって第1および第2アーム38,39やダンパー40の外端部42,47,54やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重をコーナー部材19の外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができる。
【0088】
制震装置10は、図心63を通って第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4に第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2が一致するから、第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L2から一方の側の一方部位72と軸方向中心線L2から他方の側の他方部位73とに区分したときに、コーナー部材19の一方部位72の耐力と他方部位73の耐力とが同一となり、振動によって第1および第2アーム38,39やダンパー40の外端部42,47,54、コーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができる。
【0089】
制震装置10は、コーナー部材19に作用する荷重をその外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができるとともに、コーナー部材19に作用する荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。制震装置10は、第1ピン59を中心としたそれらアーム38,39の小さな水平変位量が回転ヒンジ41の大きな回転変位量に変換され、大きな変位量を油圧ダンパー40(振動エネルギー吸収ダンパー)に作用させることができ、ダンパー40のロッド53の伸縮によってフレーム15の振動を熱に変換することで、既設建物の振動を確実に抑制することができる。図11,12のコーナー部材19を使用した制震装置10のその他の効果は、図3,4のコーナー部材19を使用した制震装置10のその他の効果と同一である。
【0090】
図11,12のコーナー部材19では、第2コーナー材22の厚み寸法が第1コーナー材21のそれよりも大きい例を示したが、第1コーナー材21の厚み寸法が第2コーナー材22のそれより大きくてもよく、第1コーナー材21の大きさと第2コーナー材22の大きさとが異なっていてもよい。ただし、これらの場合でも、ピン59の一点鎖線で示す軸方向中心線L1と第1および第2アーム38,39やダンパー40の一点鎖線で示す軸方向中心線L2との交点60は、角部11の角度α1を二分する切断線61で第1〜第3コーナー材21〜23を切断した場合のコーナー部材19の切断面62の図心63の位置にある。さらに、ピン59の軸方向中心線L1は、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向へ延びる第1線分L3に一致し、第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2は、図心63を通って第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4に一致する。
【0091】
図14は、他の一例として示すコーナー部材19の正面図であり、図15は、アーム38の図示を省略した図14のコーナー部材19の斜視図である。図16は、図15のコーナー部材19の切断面62から図心63を求める場合の説明図である。図14〜図16では、縦方向を矢印A(図16を除く)、横方向を矢印Bで示し、前後方向を矢印C(図14を除く)で示す。
【0092】
このコーナー部材19が設置されたフレーム15やフレーム15の内側に設置された振動減衰機構16は、図1,2のそれらと同一であるから、図1,2のフレーム15や振動減衰機構16の説明を援用することで、それらの説明は省略する。ただし、第1および第2アーム38,39の外端部42,47およびダンパー40の外端部54の形状が図1,2のそれらと異なっている。コーナー部材19は、断面形状が略T字形に成形された鋼材であり、防錆処理(塗装処理)が施されている。コーナー部材19は、L形の外側コーナー材74と、外側コーナー材74の内面中央につながってフレーム15の内側に向かって延びるL形の内側コーナー材75とから形成されている。なお、第1〜第3角部11〜13を形成するコーナー部材19は、それらの形状と大きさとが同一である。
【0093】
外側コーナー材74は、縦方向へ延びる所定面積の第1外側部分76と、第1外側部分76に直交して横方向へ延びる所定面積の第2外側部分77とを有する。第1外側部分76と第2外側部分77とは、その長さ寸法が同一である。第1外側部分76と第2外側部分77との交差角度α1は、90度である。第1〜第3角部11〜13では、それら角部11〜13を形成する外側コーナー材74の形状と大きさとが同一であり、外側コーナー材74の厚み寸法が同一である。第1および第2外側部分76,77には、図示はしていないが、そこから外側に突出する複数本のスタッドボルト20が取り付けられている(図1参照)。
【0094】
内側コーナー材75は、縦方向へ延びる所定面積の第1内側部分78と、第1内側部分78に直交して横方向へ延びる所定面積の第2内側部分79とを有する。内側コーナー材75にはピン孔80が形成され、そのピン孔80に第1ピン59が挿通されている。第1内側部分78と第2内側部分79とは、その長さ寸法が同一である。第1内側部分78と第2内側部分79との交差角度α2は、90度である。第1〜第3角部11〜13では、それら角部11〜13を形成する内側コーナー材75の形状と大きさとが同一であり、内側コーナー材75の厚み寸法が同一である。
【0095】
図14のコーナー部材19には、鋳造品または鍛造品あるいは溶接品を使用することができる。コーナー部材19が鋳造品である場合は、金属材料を加熱して液体にした後、それを鋳型(鋳造金型)に流し込み、冷却して外側コーナー材74と内側コーナー材75とが一体になった断面T字状のコーナー部材19が作られる。コーナー部材19が鍛造品(型鍛造)である場合は、鍛造機械に上下一対の金型を取り付け、加熱された金属材料を金型上に載置して打撃または加圧によって外側コーナー材74と内側コーナー材75とが一体になった断面T字状のコーナー部材19が作られる。
【0096】
コーナー部材19が溶接品である場合は、第1内側部分78が第1外側部分76の内面中央に溶接によって接合され、第2内側部分79が第2外側部分77の内面中央に溶接によって接合され、断面T字状のコーナー部材19が作られる。縦枠材17や横枠材18には、図1と同様に、鋳造品または鍛造品あるいは溶接品を使用することができる。
【0097】
フレーム15では、縦枠材17の縦方向両端部とコーナー部材19の一方の端部81とが溶接によって接合され、横枠材18の横方向両端部とコーナー部材19の他方の端部82とが溶接によって接合されている。第4角部14では、縦枠材17の端部と横枠材18の端部とが溶接によって接合されている。フレーム15では、第1〜第4角部11〜14の角度α1が90度である。
【0098】
第1アーム38の外端部42は、アーム38の径方向へ離間対向する第1部分83と第2部分84とから形成されている。第1および第2部分83,84は、互いに並行してアーム38の中間部44から第1角部11に向かって延びている。第1および第2部分83,84には、第1ピン59を挿入するピン孔が形成されている。コーナー部材19の内側コーナー材75は、第1部分83と第2部分84とに挟まれている。第1ピン59は、第1アーム38の軸方向中心線L2に対して直角方向へ延びている。第1ピン59は、コーナー部材19の内側コーナー材75に形成されたピン孔80に回転可能に挿通され、第1アーム38の第1および第2部分83,84に形成されたピン孔に挿入された状態でそれら部分83,84に固定されている。
【0099】
なお、第1ピン59は、コーナー部材19の内側コーナー材75のピン孔80に挿入された状態で内側コーナー材75に固定され、第1アーム38の第1および第2部分83,84のピン孔に回転可能に挿通されていてもよい。コーナー部材19の内側コーナー材75に開口するピン孔80は、第1アーム38の第1および第2部分83,84に開口するピン孔に一致している。第1アーム38は、その外端部42が第1ピン59を介して第1角部11に回転可能に支持され、ピン59を旋回軸として縦枠材17と横枠材18との間を旋回可能である。
【0100】
第1ピン59の一点鎖線で示す軸方向中心線L1と第1アーム38の軸方向中心線L2との交点60は、第1角部11の角度α1(90度)または角度α2(90度)を二分する切断線61(外側コーナー材74と切断線61との交差角度45度、内側コーナー材75と切断線61との交差角度45度)で外側コーナー材74と内側コーナー材75とを切断した場合のコーナー部材19の切断面85の図心63の位置にある。第1ピン59の軸方向中心線L1は、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向(外側コーナー材74と平行する前後方向)へ延びる第1線分L3(図心を通る主軸となる一方の中立軸)に一致している。第1アーム38の軸方向中心線L2は、図心63を通ってアーム38の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4(図心を通る主軸となる他方の中立軸)に一致している(図16参照)。
【0101】
第2アーム39の外端部47は、アーム39の径方向へ離間対向する第1部分83と第2部分84とから形成されている(図14,15援用)。第1および第2部分83,84は、互いに並行してアーム39の中間部49から第3角部13に向かって延びている。第1および第2部分83,84には、第1ピン59を挿入するピン孔が形成されている。コーナー部材19の内側コーナー材75は、第1部分83と第2部分84とに挟まれている。第1ピン59は、第2アーム39の軸方向中心線L2に対して直角方向へ延びている。第1ピン59は、コーナー部材19の内側コーナー材75に形成されたピン孔80に回転可能に挿通され、第2アーム39の第1および第2部分83,84に形成されたピン孔に挿入された状態でそれら部分83,84に固定されている。
【0102】
なお、第1ピン59は、コーナー部材19の内側コーナー材75のピン孔80に挿入された状態で内側コーナー材75に固定され、第2アーム39の第1および第2部分83,84のピン孔に回転可能に挿通されていてもよい。コーナー部材19の内側コーナー材75に開口するピン孔80は、第2アーム39の第1および第2部分83,84に開口するピン孔に一致している。第2アーム39は、その外端部47が第1ピン59を介して第3角部13に回転可能に支持され、ピン59を旋回軸として縦枠材17と横枠材18との間を旋回可能である。
【0103】
第1ピン59の一点鎖線で示す軸方向中心線L1と第2アーム39の軸方向中心線L2との交点60は、第3角部13の角度α1(90度)または角度α2(90度)を二分する切断線61(外側コーナー材74と切断線61との交差角度45度、内側コーナー材75と切断線61との交差角度45度)で外側コーナー材74と内側コーナー材75とを切断した場合のコーナー部材19の切断面85の図心63の位置にある。第1ピン59の軸方向中心線L1は、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向(外側コーナー材74と平行する前後方向)へ延びる第1線分L3(図心を通る主軸となる一方の中立軸)に一致している。第2アーム39の軸方向中心線L2は、図心63を通ってアーム39の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4(図心を通る主軸となる他方の中立軸)に一致している(図16援用)。
【0104】
油圧ダンパー40の外端部54は、ダンパー40の径方向へ離間対向する第1部分83と第2部分84とから形成されている(図14,15援用)。第1および第2部分83,84は、互いに並行して第2角部12に向かって延びている。第1および第2部分83,84には、第1ピン59を挿入するピン孔が形成されている。コーナー部材19の内側コーナー材75は、第1部分83と第2部分84とに挟まれている。第1ピン59は、ダンパー40の軸方向中心線L2に対して直角方向へ延びている。第1ピン59は、コーナー部材19の内側コーナー材75に形成されたピン孔80に回転可能に挿通され、ダンパー40の第1および第2部分83,84に形成されたピン孔に挿入された状態でそれら部分83,84に固定されている。
【0105】
なお、第1ピン59は、コーナー部材19の内側コーナー材75のピン孔80に挿入された状態で内側コーナー材75に固定され、ダンパー40の第1および第2部分83,84のピン孔に回転可能に挿通されていてもよい。コーナー部材19の内側コーナー材75に開口するピン孔80は、ダンパー40の第1および第2部分83,84に開口するピン孔に一致している。ダンパー40は、その外端部54が第1ピン59を介して第2角部12に回転可能に支持され、ピン59を旋回軸として縦枠材17と横枠材18との間を旋回可能である。
【0106】
第1ピン59の一点鎖線で示す軸方向中心線L1とダンパー40の軸方向中心線L2との交点は、第2角部12の角度α1(90度)または角度α2(90度)を二分する切断線61(外側コーナー材74と切断線61との交差角度45度、内側コーナー材75と切断線61との交差角度45度)で外側コーナー材74と内側コーナー材75とを切断した場合のコーナー部材19の切断面85の図心63の位置にある。第1ピン59の軸方向中心線L1は、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向(外側コーナー材74と平行する前後方向)へ延びる第1線分L3(図心を通る主軸となる一方の中立軸)に一致している。ダンパー40の軸方向中心線L2は、図心63を通ってダンパー40の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4(図心を通る主軸となる他方の中立軸)に一致している(図16援用)。
【0107】
図16に基づいてコーナー部材19の図心63を求める手順を説明すると、以下のとおりである。コーナー部材19の外側コーナー材74の切断面86の反対側であってコーナー部材19の切断面85から所定寸法離間した位置にX軸を仮想し、内側コーナー材75の切断面87の反対側であってコーナー部材19の切断面85から所定寸法離間した位置にY軸を仮想する。次に、X軸からコーナー部材19に向かって離間したY軸上の距離YoをYo=(Ya×a+Yb×b)÷(a+b)によって求め、その距離Yoにおいて外側コーナー材74と平行する前後方向へ第1線分L3(中立軸)を仮想する。さらに、Y軸からコーナー部材19に向かって離間したX軸上の距離XoをXo=(Xa×a+Xb×b)÷(a+b)によって求め、その距離Xoにおいて内側コーナー材75と平行する方向へ第2線分L4(中立軸)を仮想する。第1および第2線分L3,L4を仮想した場合のそれら線分L3,L4の交点がコーナー部材19の図心63となる。
【0108】
ここで、Yaは、X軸から外側コーナー材74の切断面86の短手方向の寸法を二分する第1中心線L14までの距離、Ybは、X軸から内側コーナー材75の切断面87の長手方向の寸法を二分する第2中心線L15までの距離である。Xaは、Y軸から外側コーナー材74の切断面86の長手方向の寸法を二分する第3中心線L16までの距離、Xbは、Y軸から内側コーナー材74の切断面87の短手方向の寸法を二分する第4中心線L17までの距離である。aは、外側コーナー材74の切断面86の面積であり、bは、内側コーナー材75の切断面87の面積である。前記式を利用することで、外側コーナー材74と内側コーナー材75とから形成されたコーナー部材19の図心63を正確に求めることができる。
【0109】
制震装置10では、そのフレーム15が既設建物の架構67の内側に設置される。架構67全体では、それを横方向へ二分する中心線L13に対して制震装置10を設置した架構67が左右対称に配置される(図7,8援用)。なお、図14,15のコーナー部材19を使用した制震装置10による振動減衰の原理は図3,4のコーナー部材19を使用した制震装置10のそれと同一であるから、図9,10とそれら図に基づく説明とを援用することで、その説明は省略する。
【0110】
制震装置10は、コーナー部材19がL形の外側コーナー材74とL形の内側コーナー材75とから形成され、それらアーム38,39およびダンパー40を回転可能に支持するピン59がそれらアーム38,39およびダンパー40の軸方向中心線L2と直交して延びるとともに、内側コーナー材75に開口するピン孔に挿通されて第1および第2部分83,84につながる連結構造を採用しているから、その連結構造が必要以上に高い制作制度を要しない単純な構造であり、コーナー部材19の製作工数を最小限にすることができ、制振装置10の生産効率や現地組立の効率が向上し、制振装置10の製作費の低減による採算性を改善することができる。
【0111】
制振装置10は、鋳造または鍛造によってL形の外側コーナー材74とL形の内側コーナー材75とが一体となったコーナー部材19を簡単に作ることができるから、コーナー部材19の生産性が向上し、コーナー部材19を廉価に製作することができ、その結果、制振装置10の製作費を低減することができる。また、L形の外側コーナー材74とL形の内側コーナー材75とを溶接によって一体化することでコーナー部材19を作る場合は、コーナー部材19の製作工数を最小限にすることができ、コーナー部材19を廉価に製作することができる結果、制振装置10の製作費を低減することができる。
【0112】
制震装置10は、第1および第2アーム38,39の軸方向中心線L2とそれらアーム38,39の外端部42,47を回転可能に支持するピン59の軸方向中心線L1との交点60が第1および第3角部11,13の角度を二分する切断線61によって外側コーナー材74と内側コーナー材75とを切断した場合のコーナー部材19の切断面85から求めた図心63の位置にあり、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向へ延びる第1線分L3にピン59の軸方向中心線L1が一致しているから、ピン59の軸方向中心線L1を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L1から外側の外側部位70と軸方向中心線L1から内側の内側部位71とに区分したときに、コーナー部材19の外側部位70の耐力と内側部位71の耐力とが同一となり、フレーム15の振動によって第1および第2アーム38,39の外端部42,47やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重をコーナー部材19の外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができる。
【0113】
制震装置10は、第1および第2アーム38,39の外端部42,47を支持するコーナー部材19に作用する荷重をその外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。
【0114】
制震装置10は、ダンパー40の軸方向中心線L2とダンパー40の外端部54を回転可能に支持するピン59の軸方向中心線L1との交点60が第2角部12の角度を二分する切断線61で外側コーナー材74と内側コーナー材75とを切断した場合のコーナー部材19の切断面85から求めた図心63の位置にあり、図心63を通ってピン59の軸方向中心線L1と同一方向へ延びる第1線分L3にピン59の軸方向中心線L1が一致しているから、ピン59の軸方向中心線L1を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L1から外側の外側部位70と軸方向中心線L1から内側の内側部位71とに区分したときに、コーナー部材19の外側部位70の耐力と内側部位71の耐力とが同一となり、振動によってダンパー40の外端部54やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重を外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができる。
【0115】
制震装置10は、ダンパー40の外端部54を支持するコーナー部材19に作用する荷重をその外側部位70と内側部位71とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。
【0116】
制震装置10は、図心63を通って第1および第2アーム38,39の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4に第1および第2アーム38,39の軸方向中心線L2が一致するから、第1および第2アーム38,39の軸方向中心線L2を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L2から一方の側の一方部位72と軸方向中心線L2から他方の側の他方部位73とに区分したときに、コーナー部材19の一方部位72の耐力と他方部位73の耐力とが同一となり、振動によって第1および第2アーム38,39の外端部42,47やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができる。
【0117】
制震装置10は、第1および第2アーム38,39の外端部42,47を支持するコーナー部材19に作用する荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。
【0118】
制震装置10は、図心63を通ってダンパー40の軸方向中心線L2と同一方向へ延びる第2線分L4にダンパー40の軸方向中心線L2が一致するから、ダンパー40の軸方向中心線L2を基準としてコーナー部材19をその軸方向中心線L2から一方の側の一方部位72と軸方向中心線L2から他方の側の他方部位73とに区分したときに、コーナー部材19の一方部位72の耐力と他方部位73の耐力とが同一となり、振動によってダンパー40の外端部54やコーナー部材19に荷重が作用したとしても、その荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができる。
【0119】
制震装置10は、ダンパー40の外端部54を支持するコーナー部材19に作用する荷重を一方部位72と他方部位73とで均等に分担することができるから、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生せず、コーナー部材19の振動発生時における変形や破損を防ぐことができ、コーナー部材19に不要な曲げモーメントが発生することによる振動抑制機能の低下やコーナー部材19の変形や破損による振動抑制機能の低下を防ぐことができる。
【0120】
制震装置10は、第1ピン59を中心としたそれらアーム38,39の小さな水平変位量が回転ヒンジ41の大きな回転変位量に変換され、大きな変位量を油圧ダンパー40(振動エネルギー吸収ダンパー)に作用させることができ、ダンパー40のロッド53の伸縮によってフレーム15の振動を熱に変換することで、既設建物の振動を確実に抑制することができる。
【0121】
なお、前記特許文献1に開示の制震構造物では第1および第2アームやダンパーの軸方向中心線と第1ピンの軸方向中心線との交点がL形第1コーナー材の第7中心線L11と第8中心線L12との交点64の位置にあるのに対し(図6参照)、この制震装置10では第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向中心線L2とピン59の軸方向中心線L1との交点60が図心63の位置にあり、図心63の位置が前記特許文献1の第7中心線L11と第8中心線L12との交点64よりも外側となる。したがって、この制震装置10の第1および第2アーム38,39やダンパー40の軸方向の長さ寸法が特許文献1の制震構造物の第1および第2アームやダンパーのそれよりも長くなる。それによって、この制震装置10の第1および第2アーム38,39の外端部42,47の水平変位量と特許文献1に開示の制震構造物の第1および第2アームの外端部の水平変位量とが同一であったとしても、この制震装置10の回転ヒンジ41の回転変位量が特許文献1の制震構造物の回転ヒンジの回転変位量よりも大きくなり、振動発生時にダンパー40のロッド53が特許文献1の制震構造物のダンパーのそれよりも大きく伸縮するから、特許文献1の制震構造物に比較して振動抑制機能を高くすることができる。
【0122】
制震装置10は、外側コーナー材74と内側コーナー材75との形状および大きさを統一(コーナー部材19の形状および大きさを統一)することで、外側コーナー材74およびL形の内側コーナー材75(コーナー部材19)を規格・標準化することができ、大きさや縦横のサイズが異なるフレーム15に対応させてそれらコーナー材74,75の形状や大きさを変える必要はなく、大きさや縦横のサイズが異なるすべてのフレーム15に規格・標準化した外側コーナー材74および内側コーナー材75を使用してコーナー部材19を作ることができ、制震装置10の作製にかかるコストを低減することができる。また、制震装置10が既設建物の柱65と梁66とから形成された架構67に設置され、制震装置10を設置した架構67が既設建物の全ての架構67に対して左右対称に配置されているから、振動発生時における制震装置10の正負力の増幅倍率を既設建物において均等にすることができ、制震装置10による制震機能が建物全体に均等に作用し、建物に発生した振動を制震装置10によって確実に抑制することができる。
【符号の説明】
【0123】
10 制震装置
11 第1角部
12 第2角部
13 第3角部
14 第4角部
15 フレーム
16 振動減衰機構
17 縦枠材
18 横枠材
19 コーナー部材
21 第1コーナー材
22 第2コーナー材
23 第3コーナー材
38 第1アーム
39 第2アーム
40 油圧ダンパー(振動エネルギー吸収ダンパー)
41 回転ヒンジ
42 外端部
43 内端部
45 ピン孔
47 外端部
48 内端部
50 ピン孔
54 外端部
55 内端部
56 ピン孔
59 第1ピン(ピン)
60 交点
61 切断線
62 切断面
63 図心
65 柱
66 梁
67 架構
74 外側コーナー材
75 内側コーナー材
76 第1外側部分
77 第2外側部分
78 第1内側部分
79 第2内側部分
80 ピン孔
83 第1部分
84 第2部分
85 切断面
86 切断面
87 切断面
L1 軸方向中心線
L2 軸方向中心線
L3 第1線分
L4 第2線分
L5 第1中心線
L6 第2中心線
L7 第3中心線
L8 第4中心線
L9 第5中心線
L10 第6中心線
L11 第7中心線
L12 第8中心線
L13 中心線
L14 第1中心線
L15 第2中心線
L16 第3中心線
L17 第4中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1〜第3角部にコーナー部材を備えた四角形のフレームと、前記フレームの内側に設置された振動減衰機構とを有し、前記振動減衰機構が、前記第1角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第1角部から前記フレームの内側に向かって延びる第1アームと、前記第1角部に対向する第3角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第3角部から前記フレームの内側に向かって延びる第2アームと、前記第1角部と前記第3角部との間の第2角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第2角部から前記フレームの内側に向かって延びる振動エネルギー吸収ダンパーと、前記第1および第2アームを所定の角度に保持しつつそれらアームの内端部と前記ダンパーの内端部とを回転可能に支持する回転ヒンジとから形成された制震装置において、
前記コーナー部材が、それらアームおよびダンパーの外端部に開口するピン孔を挟んで互いに対向配置されたL形第1および第2コーナー材と、前記第1および第2コーナー材の間に配置されたL形第3コーナー材とから形成され、それらアームおよびダンパーの外端部を回転可能に支持するピンが、それらアームおよびダンパーの軸方向中心線に対して直角方向へ延びるとともに、前記外端部に開口するピン孔に挿通されて前記第1および第2コーナー材につながっていることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記第1および第2アームの軸方向中心線と前記ピンの軸方向中心線との交点が、前記第1および第3角部の角度を二分する切断線で前記第1〜第3コーナー材を切断した場合の前記コーナー部材の切断面から求めた図心の位置にあり、前記ダンパーの軸方向中心線と前記ピンの軸方向中心線との交点が、前記第2角部の角度を二分する切断線で前記第1〜第3コーナー材を切断した場合の前記コーナー部材の切断面から求めた図心の位置にある請求項1記載の制震装置。
【請求項3】
第1〜第3角部にコーナー部材を備えた四角形のフレームと、前記フレームの内側に設置された振動減衰機構とを有し、前記振動減衰機構が、前記第1角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第1角部から前記フレームの内側に向かって延びる第1アームと、前記第1角部に対向する第3角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第3角部から前記フレームの内側に向かって延びる第2アームと、前記第1角部と前記第3角部との間の第2角部のコーナー部材に回転可能に支持された外端部を有してその第2角部から前記フレームの内側に向かって延びる振動エネルギー吸収ダンパーと、前記第1および第2アームを所定の角度に保持しつつそれらアームの内端部と前記ダンパーの内端部とを回転可能に支持する回転ヒンジとから形成された制震装置において、
前記コーナー部材が、L形の外側コーナー材と、前記外側コーナー材の内面中央につながって前記フレームの内側に向かって延びるL形の内側コーナー材とから形成され、前記第1および第2アームの外端部と前記ダンパーの外端部とが、前記内側コーナー材を挟んで互いに離間対向する第1部分と第2部分とから形成され、それらアームおよびダンパーの第1部分と第2部分とを回転可能に支持するピンが、それらアームおよびダンパーの軸方向中心線に対して直角方向へ延びるとともに、前記内側コーナー材に開口するピン孔に挿通されて前記第1および第2部分につながっていることを特徴とする制震装置。
【請求項4】
前記第1および第2アームの軸方向中心線と前記ピンの軸方向中心線との交点が、前記第1および第3角部の角度を二分する切断線で前記外側コーナー材と前記内側コーナー材とを切断した場合の前記コーナー部材の切断面から求めた図心の位置にあり、前記ダンパーの軸方向中心線と前記ピンの軸方向中心線との交点が、前記第2角部の角度を二分する切断線で前記外側コーナー材と前記内側コーナー材とを切断した場合の前記コーナー部材の切断面から求めた図心の位置にある請求項3記載の制震装置。
【請求項5】
前記第1および第2アームの外端部を回転可能に支持する前記ピンの軸方向中心線と前記ダンパーの外端部を回転可能に支持する前記ピンの軸方向中心線とが、前記図心を通って互いに直交する主軸となる二本の中立軸のうちの一方の中立軸に一致し、前記第1および第2アームの軸方向中心線と前記ダンパーの軸方向中心線とが、前記二本の中立軸のうちの他方の中立軸に一致している請求項2または請求項4記載の制振装置。
【請求項6】
前記制震装置では、前記第1〜第3角部の角度が90度であり、前記第1〜第3角部を形成する前記コーナー部材の形状と大きさとが同一である請求項1ないし請求項5いずれかに記載の制震装置。
【請求項7】
前記コーナー部材が、鋳造品または鍛造品あるいは溶接品である請求項1ないし請求項6いずれかに記載の制振装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−74615(P2011−74615A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225001(P2009−225001)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】