説明

刺繍データ作成装置、刺繍データ作成プログラム、及び刺繍データ作成プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【課題】写真刺繍を行う際に所定の領域の縫目方向を修正可能な刺繍データ作成装置を提供する。
【解決手段】画像データを構成する各画素について角度特徴及び角度特徴強度を作成する。角度特徴は周囲の色と比較して、どの方向(角度)に色が連続しているかを示し、角度特徴強度はその連続性の高さを示している。この角度特徴及び角度特徴強度に基づいて縫目を示す線分データを作成し、画像データと線分データにより各線分の糸色を示す色データが作成され、線分データと色データにより刺繍データが作成される。線分データと色データによりプレビュー画像を表示した修正指示画面150のプレビュー画像表示領域111上でマウスドラッグすると、マウスポインタの軌跡(白抜き矢印)の周囲の画素の角度特徴が、軌跡の角度に変更される。変更後の角度特徴を用いて線分データを作成し、刺繍データを作成すると、マウスポインタの軌跡に沿った縫目が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍データ作成装置、刺繍データ作成プログラム、及び刺繍データ作成プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものであり、詳細には、写真刺繍を行う際に縫目の方向を調整可能な刺繍データ作成装置、刺繍データ作成プログラム、及び刺繍データ作成プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラにより撮影された写真や、フィルムから焼き付けられた写真の画像を刺繍する写真刺繍が行われている。この写真刺繍にはデジタルカメラにより撮影された写真の画像データや、フィルムから焼き付けられた写真をスキャナで取り込んだ画像データが用いられる。そして、この画像データから糸の縫い目の形状を示す線分データと縫い目の色を示す色データとが作成され、糸の色ごとに縫い目を示す刺繍データが作成されている。このような刺繍データを作成する刺繍データ作成装置において、写真画像に刺繍結果をより近づけるために、糸の縫い目の形状を示す線分データを作成するにあたり、縫い目の方向を一方向だけでなく360°様々な角度を持たせるようにしているものが提案されている(例えば、特許文献1)。具体的には、画像データを構成する画素1つ1つに対して、周囲の画素との関係からその画素上に配置される縫い目の方向(角度特徴)と、その強さ(角度特徴の強度)を算出し、線分データの作成に使用している。この角度特徴及び角度特徴の強度は、注目画素の周囲の画素の輝度に基づいて算出され、周囲との輝度の差が大きいほど、角度特徴の強度の値は大きくなる。
【0003】
また、刺繍データの縫い方向をユーザが指示するデータ処理装置(例えば、特許文献2参照)や縫い目方向設定方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。特許文献2に記載の刺繍ミシンのためのデータ処理装置では、刺繍を施す刺繍縫製領域の境界線上の点を指定することにより、縫い方向を決定している。また、特許文献3に記載の縫い目方向設定方法では、刺繍を施す刺繍領域上でマウスカーソルを移動させることにより、その刺繍領域の縫い目方向を指示している。
【特許文献1】特開2001−259268号公報
【特許文献2】特開平5−146574号公報
【特許文献3】特開平11−19351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の刺繍データ作成装置において、好ましくない方向の縫目が作成されてしまうことがあるという問題点がある。例えば、図26は、写真刺繍の元となる写真画像90を示す模式図である。この写真画像90は、ほぼ輝度に差のない背景に帽子をかぶった女の子の顔が写されている。図27は、図26に示す写真画像から角度特徴及び角度特徴の強度を算出し、それに基づいて作成された線分データを示す模式図901である。この模式図901の線分は縫目の形状を示している。刺繍データは、これらの線分1つ1つに色が与えられて作成される。写真画像90の背景部分は同じ方向で刺繍が施された方が同じものを示していることが明確になり、美しいとされる。しかしながら、図26に示す領域91に該当する図27に示す領域911において、領域911の左半分の写真画像90の左端に近い部分の線分は、ほぼ同じ方向を向いているにもかかわらず、領域911の右半分の帽子との境界に近い部分は、様々な方向を向いてしまっている。これは、角度特徴及び角度特徴の強度を算出する際に輝度を用いており、領域91の輝度はほぼ差がないため、同じ方向の線分が作成されやすいが、背景と帽子との境界線付近では、帽子の輝度の影響を受けてしまうためである。
【0005】
また、図28に示す写真画像80では、男性の顔が写されている。この写真画像80の刺繍を行う場合、髪の毛部分81は実際の髪の毛の流れに沿った縫目の縫製が行われた方が自然であり、美しいとされる。しかしながら、写真画像80の髪の毛部分81は真っ黒に塗り潰されたような状態となっており、このような写真画像から刺繍データを作成すると髪の毛部分の中心部は、作成される線分がほぼ同じ方向を向いてしまうという問題点がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明のデータ処理装置や特許文献3に記載の発明の縫い目方向設定方法では、領域内の全ての縫い目の方向を指定してしまっているので、写真画像を刺繍する場合のように、360°様々な角度を持ち、周囲の縫目の方向や色とのなじみにより縫い上がり結果を写真画像に近づけているような場合には不向きであるという問題点がある。
【0007】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、写真刺繍を行う際に所定の領域の縫目方向を修正可能な刺繍データ作成装置、刺繍データ作成プログラム、及び刺繍データ作成プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の刺繍データ作成装置では、画素の集合体からなり任意の画像を形成する画像データに基づいて、ミシンで刺繍を行うための刺繍データを作成する刺繍データ作成装置において、前記画像データの各画素について、色の連続性の高い方向を示す角度特徴及び連続性の強さを示す角度特徴強度を算出する角度情報算出手段と、当該角度情報算出手段により算出された前記角度特徴及び前記角度特徴強度を角度情報として記憶する角度情報記憶手段と、前記角度情報記憶手段に記憶されている前記角度情報を変更する領域である変更領域を指定する変更領域指定手段と、前記角度情報記憶手段に記憶されている前記角度特徴を変更する量である変更量を指定する角度特徴変更量指定手段と、前記角度特徴変更量指定手段により指定された前記変更量に基づいて、前記変更領域指定手段により指定された前記変更領域に属する画素の角度特徴を変更し、前記角度情報記憶手段に記憶する角度特徴変更手段と、前記角度情報記憶手段に記憶されている角度情報に基づいて、各画素上に配置される糸の軌跡である線分を示す線分データを作成する線分データ作成手段と、前記画像データに基づいて前記線分データ作成手段により作成された前記線分データの各線分の糸色を示す色データを作成する色データ作成手段と、前記線分データ作成手段により作成された線分データ及び前記色データ作成手段により作成された前記色データに基づいて前記刺繍データを作成する刺繍データ作成手段とを備えている。
【0009】
また、請求項2に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記変更領域指定手段により指定された前記変更領域に属する画素の前記角度特徴強度を所定の値に変更し、前記角度情報記憶手段に記憶する角度特徴強度変更手段を備えている。
【0010】
また、請求項3に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1又は2に記載の発明の構成に加えて、前記角度特徴記憶手段に記憶されている前記角度特徴強度が予め設定された閾値より小さい画素又は画素群については、周囲の画素又は画素群の角度特徴を加味した新たな角度特徴を再算出し、前記角度特徴記憶手段に記憶されている前記角度特徴を変更する角度特徴再算出手段を備えている。
【0011】
また、請求項4に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明の構成に加えて、画像を表示する表示手段と、前記刺繍データ作成手段により作成された前記刺繍データに基づいて刺繍を行った縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を前記表示手段に表示するプレビュー表示制御手段と、前記表示手段に表示された画像における位置を指定する位置指定手段とを備え、前記変更領域指定手段は、前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により指定された位置の軌跡に基づいて決定される領域を前記変更領域とすることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項4に記載の発明の構成に加えて、前記変更領域指定手段は、前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により指定された位置の軌跡に対応する画素である軌跡画素及び、当該軌跡画素に連続した所定数の画素のうち所定の方向の画素からなる領域を前記変更領域とすることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項5に記載の発明の構成に加えて、前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により位置を指定した速度を算出する速度算出手段を備え、前記変更領域指定手段は、前記位置指定手段により指定された位置の軌跡及び前記速度算出手段により算出された速度に基づいて前記軌跡画素に連続した画素の数である前記所定数を決定することを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至3のいずれかに記載発明の構成に加えて、画像を表示する表示手段と、前記刺繍データ作成手段により作成された前記刺繍データに基づいて刺繍を行った縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を前記表示手段に表示するプレビュー表示制御手段と、前記表示手段に表示された画像における位置を指定する位置指定手段とを備え、前記変更領域指定手段は、前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により連続して指定された位置を繋ぐことにより形成される閉領域を前記変更領域とすることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の構成に加えて、画像を表示する表示手段と、前記刺繍データ作成手段により作成された前記刺繍データに基づいて刺繍を行った縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を前記表示手段に表示するプレビュー表示制御手段と、前記表示手段に表示された画像における位置を指定する位置指定手段とを備え、前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により指定された位置の軌跡の傾きを算出する傾き算出手段を備え、前記角度特徴変更量指定手段は、前記傾き算出手段により算出された傾き、又は、前記傾き算出手段により算出された傾きに基づいて算出された値を前記変更量とする。
【0016】
また、請求項9に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の構成に加えて、画像を表示する表示手段と、前記刺繍データ作成手段により作成された前記刺繍データに基づいて刺繍を行った縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を前記表示手段に表示するプレビュー表示制御手段と、前記表示手段に表示された画像における位置を指定する位置指定手段とを備え、前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により位置を指定した速度を算出する速度算出手段を備え、前記角度特徴変更量指定手段は、前記速度算出手段により算出された速度に基づいて算出された値を前記変更量とする。
【0017】
また、請求項10に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記角度特徴変更量指定手段は、前記角度特徴の前記変更量を数値で入力する数値入力手段を備え、前記数値入力手段で入力された値を前記変更量とすることを特徴とする。
【0018】
また、請求項11に係る発明の刺繍データ作成プログラムでは、請求項1乃至10のいずれかに記載の刺繍データ作成装置の各種処理手段としてコンピュータを機能させる。
【0019】
また、請求項12に係る発明のコンピュータ読み取り可能な記録媒体では、請求項11に記載の刺繍データ作成プログラムを記録している。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明の刺繍データ作成装置では、糸の軌跡である線分を作成する際に使用される角度特徴を、その変更領域及び変更量を指定して変更させることができる。したがって、ユーザがより好ましいと感じる縫い上がり状態を得ることができる。
【0021】
また、請求項2に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1に記載の発明の効果に加えて、角度特徴の変更された画素の角度特徴強度を変更することができる。角度特徴強度は線分データ作成時にその画素上に角度特徴の示す角度の線分を作成するか否かの判断に使用される。よって、線分データを作成する際にその角度特徴をどれくらい反映させるのかを指定することができる。
【0022】
また、請求項3に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1又は2に記載の発明の効果に加えて、したがって、角度特徴を変更した画素の周囲の画素の角度特徴となじませることができるので、変更領域に作成される縫目が変更領域の周囲の縫目となじんだ縫い上がり状態となる。
【0023】
また、請求項4に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、プレビュー画像上において位置指定手段により変更領域を指定させることができる。したがって、ユーザは変更領域とする範囲を感覚的に指定することができる。
【0024】
また、請求項5に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項4に記載の発明の効果に加えて、プレビュー画像上において位置指定手段により指定された位置の軌跡に対応する画素である軌跡画素及び、軌跡画素に連続した所定数の画素のうち所定の方向の画素からなる領域を変更領域とすることができる。したがって、位置指定手段により指定された位置の近傍を変更領域とすることができるので、ユーザは変更領域の指定をしやすい。
【0025】
また、請求項6に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項5に記載の発明の効果に加えて、位置指定手段により位置を指定した速度に基づいて軌跡画素に連続した画素の数である所定数を決定することができる。したがって、位置指定手段の指定速度に応じて、位置指定手段により指定された位置からの画素の個数が決定されるので、ユーザは変更領域とする範囲を感覚的に指定することができる。
【0026】
また、請求項7に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至3のいずれかに記載発明の効果に加えて、プレビュー画像上において位置指定手段により連続して指定された位置を繋ぐことにより形成される閉領域を変更領域とすることができる。したがって、角度特徴を変更したい部分が領域である場合に変更領域を指定しやすい。
【0027】
また、請求項8に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の効果に加えて、プレビュー画像上において位置指定手段により指定された位置の軌跡の傾きで変更量を指定することができる。したがって、視覚的に角度特徴の変更量を指定させることができる。角度特徴に基づいて縫目の軌跡となる線分の傾きも決定されるので、縫目の方向を視覚的に指定させることに繋がる。
【0028】
また、請求項9に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の効果に加えて、プレビュー画像上において位置指定手段により位置を指定した速度により変更量を指定することができる。したがって、位置指定手段の指定速度に応じて、変更量を決定することができるので、ユーザは感覚的に変更量を指定することができる。
【0029】
また、請求項10に係る発明の刺繍データ作成装置では、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の効果に加えて、数値を入力することにより変更量を指定することができる。したがって、端的に変更量を指定することができる。
【0030】
また、請求項11に係る発明の刺繍データ作成プログラムをコンピュータに実行させることにより、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明の効果と同様の効果を奏することができる。
【0031】
また、請求項12に係る発明のコンピュータ読み取り可能な記録媒体をコンピュータに読み取らせ、請求項11に記載の刺繍データ作成プログラムをコンピュータに実行させることにより、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明の効果と同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る刺繍データ作成装置1の一実施の形態について、図面を参照して説明する。本実施の形態の刺繍データ作成装置1は、画像データに表された図柄を刺繍ミシン3による刺繍によって出力するための刺繍データを画像データに基づいて作成するものである。まず、刺繍ミシン3について説明する。図1は、刺繍ミシン3の外観図である。
【0033】
また、刺繍ミシン3は、ミシンベッド30上に配置された、刺繍を施そうとする加工布を保持する刺繍枠31を、Y方向駆動部32及び、本体ケース33内に収容されたX方向駆動機構(図示外)によって装置固有のX・Y座標系で示される所定位置に移動させながら、縫い針34及び釜機構(図示外)による縫製動作を行うことにより、その加工布に所定の図柄の刺繍を施すようになっており、前記Y方向駆動部32、X方向駆動機構や針棒35等は、刺繍ミシン3に内蔵されたマイクロコンピュータ等から構成される制御装置(図示外)により制御される。また、刺繍ミシン3の脚柱部36の側面にはメモリカードスロット37が搭載されており、刺繍データが記憶されたメモリカード115をメモリカードスロット37に装着することにより、刺繍データ作成装置1で作成された刺繍データが供給される。
【0034】
次に、図2のブロック図を参照して、刺繍データ作成装置1の電気的構成について説明する。図2は、刺繍データ作成装置1の電気的構成を示すブロック図である。刺繍データ作成装置1は、所謂パーソナルコンピュータであり、キーボード21、マウス22、ディスプレイ24及びイメージスキャナ装置25を接続している。図2に示すように、刺繍データ作成装置1には、刺繍データ作成装置1の制御を司るコントローラとしてのCPU11が設けられ、CPU11には、各種のデータを一時的に記憶するRAM12と、BIOS等を記憶したROM13と、データの受け渡しの仲介を行うI/Oインタフェイス14とが接続されている。I/Oインタフェイス14には、ハードディスク装置15が接続され、当該ハードディスク装置15には、画像データ記憶エリア151と、角度情報記憶エリア152と、色データ記憶エリア154と、線分データ記憶エリア153と、刺繍データ記憶エリア155と、プログラム記憶エリア156と、その他の情報記憶エリア157とが少なくとも設けられている。
【0035】
なお、画像データ記憶エリア151には、イメージスキャナ装置25により読み込まれた画像データが記憶され、そして、角度情報記憶エリア152には、角度特徴及び角度特徴強度からなる角度情報が画像データを形成する画素ごとに記憶される。そして、線分データ記憶エリア153には、角度情報から作成された線分データが記憶される。この線分データは、刺繍の縫目の1つ1つを線分で示したものである。そして、色データ記憶エリア154には、線分データ及び画像データから作成される色データが記憶される。この色データは、線分データで示されている線分の色(縫製する刺繍糸の色)を示すものである。そして、刺繍データ記憶エリア155には、色データ及び線分データから作成される刺繍データが記憶される。この刺繍データは、刺繍ミシン3で刺繍を行う際に使用するものであり、刺繍糸ごとに形成する縫目の位置やピッチ等の情報が示されている。そして、プログラム記憶エリア156にはCPU11で実行される刺繍データ作成プログラムが記憶されている。その他の情報記憶エリア157には、刺繍データ作成装置1で使用されるその他の情報が記憶されている。なお、刺繍データ作成装置1がハードディスク装置15を備えていない専用機の場合は、ROMにプログラムが記憶される。
【0036】
また、I/Oインタフェイス14には、マウス22と、ビデオコントローラ16と、キーコントローラ17と、CD−ROMドライブ18と、メモリカードコネクタ23と、イメージスキャナ装置25とが接続されている。ビデオコントローラ16にはディスプレイ24が接続され、キーコントローラ17にはキーボード21が接続されている。なお、CD−ROMドライブ18に挿入されるCD−ROM114には、刺繍データ作成装置1の制御プログラムである刺繍データ作成プログラムが記憶されており、導入時には、制御プログラムは、CD−ROM114から、ハードディスク装置15にセットアップされてプログラム記憶エリア156に記憶される。また、メモリカードコネクタ23では、メモリカード115の読み取りや書き込みが可能となっている。
【0037】
ここで、角度情報記憶エリア152に記憶される角度情報について説明する。角度情報とは、角度特徴及び角度特徴強度を示している。角度特徴及び角度特徴強度は、画素ごとに算出される値であり、角度特徴はその画素の色を周囲の画素の色と比較した際に、どの方向(角度)に色が連続しているかを示しており、角度特徴強度はその連続性の高さを示している。この角度特徴は、隣接した画素のみとの色の連続性でなく、より広い領域における色の連続性を捉えている。つまり、人間が遠めに画像を見たときに、色が連続していると感じる方向を数値化したものである。そして、ある画素の線分を作成する際に、その線分の傾きは角度特徴の示す角度とされる。また、角度特徴強度は、当該画素の線分の示す刺繍を行うか、それとも線分を削除して刺繍を行わないかを決定する際に、周囲の画素の角度特徴強度と比較して用いられる。
【0038】
角度情報記憶エリア152は、二次元配列とされており、縦側の次元には縦の画素数だけ配列が設けられ、横側の次元には横の画素数だけ配列が設けられている(図9参照)。そして、二次元配列の要素として「角度特徴」欄と「角度特徴強度」欄が設けられており、1つの配列要素に1つの画素についての角度特徴及び角度特徴強度が記憶される。よって、画素の数だけ角度特徴及び角度特徴強度を記憶することができる。
【0039】
次に、図3を参照して、画像データから刺繍データを作成する処理手順について説明する。図3は、処理手順を示すフローチャートであり、図3に示すフローチャートの処理は、刺繍データ作成装置1のCPU11において、刺繍データ作成プログラムが動作することにより行われる。
【0040】
図3に示すように、刺繍データを作成する画像データが入力される(S1)。この画像データの入力は、イメージスキャナ装置25を動作させて画像が取り込まれたり、外部記憶装置やハードディスク装置15に記憶されている画像データのファイルが指定されたりすることにより行われ、画像データ記憶エリア151に記憶される。この画像データは複数の画素により構成されており、各画素が色合いの指標である色相、明るさの指標である明度、あざやかさの指標である彩度などの情報を有している。そして、各画素がマトリクス状に配置されることにより画像を形成している。
【0041】
刺繍データを作成する画像データが入力され、画像データ記憶エリア151に記憶されたら(S1)、画像データの各画素の角度特徴及び角度特徴強度が算出され角度情報が作成される(S2)。ここで、この角度特徴及び角度特徴強度の算出方法について、図5乃至図7を参照して、具体的に説明する。図4は、ある画素とその周囲の画素の輝度値を示す模式図500であり、図5は、各画素について右方向の画素データとの差の絶対値を算出した結果を示す模式図501であり、図6は、各画素について右下方向の画素データとの差の絶対値を算出した結果を示す模式図502であり、図7は、各画素について下方向の画素データとの差の絶対値を算出した結果を示す模式図503であり、図8は、各画素について左下方向の画素データとの差の絶対値を算出した結果を示す模式図504である。
【0042】
まず、入力された画像データがグレースケール化される。これは、カラー画像をモノクロ画像に変換する処理であり、各画素についてカラー画像を構成する複数の色成分の値に基づいて、モノクロ画像を構成する1つの色成分の輝度の階調値(輝度値)を決定している。ここでは、RGBの3原色成分からなる画像データを構成している各画素データ(R、G、B)のうち、最大値と最小値の和の1/2が、その画素の明るさの指標である輝度値として設定されている。例えば、ある画素のRGB値が(200、100、50)である場合の輝度値は、(200+50)÷2=125となる。なお、画像データをグレースケール化する方法は、上述した方法に限定されるものではなく、例えば、各画素データ(R、G、B)の最大値を輝度値として設定することも可能である。
【0043】
次に、グレースケール化された画像データに対して、周知のハイパスフィルタによる変換処理が行われる。そして、ハイパスフィルタによる変換画像に基づいて、画像を構成する各画素についての角度特徴と角度特徴強度が算出される。具体的な算出方法は以下に示すとおりである。まず、画像を構成するある画素に注目し、この注目画素の周囲Nドットの画素を参照しながら、その注目画素の画素データが有する角度特徴を計算する。ここでは、簡単のために、N=1(Nは参照する周囲の画素の注目画素からの距離、つまり、N=1の場合には注目画素に隣接している画素のみを参照し、N=2の場合には注目画素に隣接している画素及びさらにそれを取り囲む画素まで参照される。)の場合について説明する。
【0044】
例えば、注目画素を中心とした3×3の画素について、それぞれの画素データが、図4の模式図500に示すような輝度値を有しているとする。ここで、輝度値は、0〜255の範囲の数値によって特定され、輝度値が「0」の場合が「黒」、輝度値が「255」の場合が「白」である。注目画素の輝度値は「100」であり、その周囲の画素は左上から右回りに順に、「100」、「50」、「50」、「50」、「100」、「200」、「200」、「200」である。
【0045】
まず、各画素データについて、右方向の画素データとの差の絶対値をそれぞれ計算する。この結果が図5に示す模式図501である。この場合、一番右側の3つの画素については、右方向の画素が存在しないので計算されず、「*」で示されている。注目画素についてみると、注目画素の輝度値は「100」、右の画素の輝度値は「50」なので、その差の絶対値は「50」となっている。次いで、右下方向、下方向及び左下方向についても、同様に差の絶対値が計算される。これらの結果がそれぞれ、図6に示す模式図502、図7に示す模式図503、図8に示す模式図504である。これらの計算結果に基づいて、領域中の画素値の不連続性が高い方向に相当する「角度特徴の法線方向の角度」が求められる。そして、この「角度特徴の法線方向の角度」に90度を加えた角度が求める「角度特徴」とされる。
【0046】
具体的には、まず、各方向の計算結果に基づいて、それぞれの計算結果(差の絶対値)の和Tb、Tc、Td、Teが求められる。右方向の計算結果の和をTb、右下方向の計算結果をTc、下方向の計算結果をTd、左下方向の計算結果をTeとすると、Tb=300、Tc=0、Td=300、Te=450となる。そして、和Tb、Tc、Td、Teから、水平成分及び垂直成分の和がそれぞれ求められ、アークタンジェントが計算される。このとき、右下方向の水平・垂直成分と、左下方向の水平・垂直成分とはうち消し合うと考える。
【0047】
右下方向(45度方向)の和Tcが、左下方向(135度方向)の和Teよりも大きいとき(Tc>Te)、結果として得たい値は0〜90度であるので、右下方向を水平・垂直成分における+(プラス)成分、左下方向を水平・垂直成分における−(マイナス)成分と考え、水平成分の和はTb+Tc−Te、垂直成分の和はTd+Tc−Teとされる。
【0048】
逆に、右下方向の和Tcが、左下方向の和Teよりも小さいとき(Tc<Te)は、結果として得たい値が90〜180度であるので、左下方向を水平・垂直成分における+(プラス)成分、左上方向を水平・垂直成分における−(マイナス)成分と考え、水平成分の和はTb−Tc+Te、垂直成分の和はTd−Tc+Teとされる。このときは、結果として得たい値は90〜180度であるので、アークタンジェントを計算する前に全体に「−1」が掛けられる。
【0049】
例えば、図5乃至図8に示す場合はTc<Teであるので、結果として得たい値は90〜180度となる。水平成分の和はTb−Tc+Te=300−0+450=750、垂直成分の和は300−0+450=750となり、アークタンジェントを計算する前に全体に−1を掛けて、arctan(−750/750)=−45度となる。この角度が、求めようとしている「角度特徴の法線方向の角度」となる。この角度は、注目領域内における画素データの不連続性が高い方向を示している。したがって、この場合の注目画素の角度特徴としては、−45+90=45度となる。ここで、右下方向を水平・垂直成分における+成分と考えているので、ここで求めた45度は、右下方向となる。上述の例では、注目した画素の周りの画素が有する色情報との違いにより、角度特徴を求めていると言える。この場合、色情報としては各画素に対応した明るさ(輝度値)を用いているが、あざやかさや色合いを用いても同様の結果が得られる。
【0050】
また、このようにして算出された角度特徴強度は、数1に示す数式を用いて計算する。この場合、周囲の画素との輝度値の差の総和は、和Tb、Tc、Td、Teの和であるので、(300+0+300+450)×(255−100)÷255÷16=39.9となる。ここで、角度特徴は明るさの変化の方向、角度特徴強度は明るさの変化の大きさを示している。
【数1】

【0051】
なお、本実施形態では、画像を構成する各画素についての角度特徴及びその強度を周知のPrewittのオペレータやSobelのオペレータをグレースケール化された画像データに対して適用することで、画像を構成する各画素についての角度特徴及びその強度を求めることも可能である。例えば、Sobelのオペレータを用いる場合、座標(x、y)において、水平オペレータを適用した結果をsx、垂直オペレータを適用した結果をsyとすると、座標(x、y)における角度特徴及びその強度は、数2に示す数式によって計算することができる。
【数2】

【0052】
以上のようにして、画像データの各画素に対応した角度特徴及び角度特徴強度が算出され、角度情報として角度情報記憶エリア152に記憶される(図3、S2)。ここで、画像データのサイズが150画素×150画素であった場合には、角度情報記憶エリア152には150×150の配列で角度特徴及び角度特徴強度が記憶される。
【0053】
次いで、角度特徴が再算出される(S3)。ここでは、角度特徴強度が所定の閾値より小さい画素について角度特徴を再算出する。角度特徴強度が小さい画素は、その角度特徴が線分データに的確に反映されないことがあるので、周囲の画素の角度特徴を加味して新たな角度特徴を算出する。これにより、周囲になじんだ線分データを作成することができる。よって、違和感のない画像を再現可能な刺繍データを作成することができる。
【0054】
具体的には、1つの画素を順に注目画素とする。そして、この注目画素の角度特徴強度が所定の閾値以下であるか否かの判断が行われる。所定の閾値以下でなければ、その注目画素は角度特徴の再算出をする必要はない。所定の閾値以下であれば、その注目画素の角度特徴を再算出する。そこで、注目画素の周囲の画素を走査し、角度特徴強度が前記閾値よりも大きい画素について、角度特徴のcos値と角度特徴強度の積の和S1、角度特徴のsin値と角度特徴強度の積の和S2をそれぞれ求める。そして、S2/S1のアークタンジェント値を新たな角度特徴として角度成分を決定する。
【0055】
例えば、図9に示す例を考える。図9は、角度情報記憶エリア152の一部を示す模式図である。注目画素は(m,n)である。ここでは、「周囲の画素」を隣接した画素とする。つまり、(m−1,n−1),(m,n−1),(m+1,n−1),(m−1,n),(m+1,n),(m−1,n+1),(m,n+1),(m+1,n+1)である。また、角度特徴強度は「0」〜「100」の値を取り、閾値を「10」とする。この場合、注目画素(m,n)の角度特徴強度は「5」であるので、角度特徴を再算出する。そして、角度特徴強度が閾値よりも大きい画素の角度特徴は、(m−1,n−1)=30,(m+1,n−1)=100,(m−1,n)=50,(m−1,n+1)=15,(m,n+1)=80である。よって、上述したS1,S2を算出すると、「S1=cos(45)×30+cos(70)×50+cos(80)×15+cos(90)×80+cos(60)×100=90.92」、「S2=sin(45)×30+sin(70)×50+sin(80)×15+sin(90)×80+sin(60)×100=249.57」となり、「注目画素の角度特徴=tan−1(249.57/90.92)=70.02≒70」となる。よって、角度情報記憶エリア152の注目画素(m,n)の角度特徴は「70」に変更される。
【0056】
次いで、角度情報記憶エリア152に記憶されている角度情報から線分データが作成され、線分データ記憶エリア153に記憶される(S5)。ここでは、まず、各画素について角度成分及び長さ成分を有する線分情報が作成される。角度情報から作成された線分情報の集合が線分データである。角度成分については、角度情報記憶エリア152に記憶されている角度特徴がそのまま設定されるが、長さ成分については、予め設定された固定値又はユーザが入力した入力値が設定されることになる。具体的には、図10に示すように、注目画素を中心に、設定された角度成分及び長さ成分を有する線分が配置されるような線分情報が作成される。なお、図10は、角度成分が45度の場合を示している。
【0057】
ここで、画像を構成する全ての画素に対して線分情報を作成すると、この線分データに基づいて作成される刺繍データに従って刺繍縫製を行うとき、針数が極端に多くなったり、同じ所を何度も縫うことになったりして縫製品質が損なわれる。また、角度特徴強度の小さい画素についても一律に線分情報が作成される。画像全体としての特徴が効果的に反映されない刺繍データが作成され恐れがある。そこで、画像を構成する各画素が左から右へ、上から下へと順に走査され、当該画素の角度特徴強度が所定の閾値より大きい場合についてのみ、線分情報が作成される。なお、「角度特徴強度の閾値」としては、予め設定した固定値又はユーザが入力した入力値が設定される。
【0058】
このようにして線分データが作成されると(S4)、後に行われる刺繍データの作成において不適切又は不必要な線分の線分情報が線分データ記憶エリア153に記憶されている線分データから削除される(S5)。具体的には、画像を構成する全ての画素を左上から順に走査し、線分情報が作成された全ての画素について以下の処理が行われる。
【0059】
まず、注目画素の周囲に似た角度の線分情報が存在すれば、角度特徴強度の小さい方の線分情報を削除する。具体的には、注目画素を中心に、その注目画素について作成された線分情報によって特定される線分の延長線上の所定範囲内に存在する全ての画素が走査される。そして、注目画素の角度特徴に近似した角度特徴を有し、かつ、その角度特徴強度が注目画素の角度特徴強度より小さい画素が存在すれば、その画素について作成された線分情報が削除される。逆に、注目画素の角度特徴に近似した角度特徴を有し、しかも、その角度特徴強度が注目画素の角度特徴強度より大きい画素が存在すれば、注目画素について作成された線分情報が削除される。なお、ここでは、注目画素について作成された線分情報の長さ成分のn倍の範囲を走査範囲とするが、走査範囲を決定する「n値」や角度特徴の近似範囲「±θ」については、予め設定した固定値を採用してもよく、ユーザが入力した入力値を採用してもよい。
【0060】
このようにして、不必要な線分情報が削除されると(S5)、次に、各線分に対しての色データが作成される(S6)。この色データを作成するに際には、画像データ及び線分データが使用される。なお、色成分を決定するに際しては、使用する刺繍糸の糸色の設定を行う必要がある。この設定においては、使用する刺繍糸の糸色数の入力、糸色数分の刺繍糸の糸色情報(RGB値)とカラーコードの入力が行われる。そして、入力された内容から糸色対応テーブルが作成される。また、このとき糸色の縫い順の設定も行われる。なお、刺繍糸の糸色の設定及び糸色の縫い順は、予め設定しておいてもよく、入力画面に従って、ユーザが入力するようにしてもよい。また、予め糸色対応テーブルが作成されている糸色の中からユーザが使用する糸色を選択するようにしてもよい。
【0061】
まず、画像データにおいての色を参照する範囲を決定するための反映参照高が設定される。参照範囲の一例としては、線分を挟む2本の平行線と、線分の両端への2本の垂線とで囲まれる領域である。そして、この反映参照高は、線分情報によって特定される線分から平行線までの距離を示す量(例えば、画素数又は刺繍結果の長さ)である。そして、線分を描画するために、画像データと同じサイズの画像が変換画像としてRAM12の変換画像記憶エリア(図示外)に作成される。なお、サイズ調整色用画像の色を参照する範囲は予め設定しておいてもよく、ユーザが入力するようにしてもよい。
【0062】
次に、ある注目画素について作成された線分情報によって特定される線分を変換画像上に描画する際に参照領域が設定され、この参照領域内に含まれる全ての画素について、それぞれのR・G・B値の和Cs1が求められる。また、この和Cs1を算出するために用いた画素数はd1とされる。ただし、このとき線分が描画されていない(通っていない)画素及びこれから描画しようとする線分が通る画素については、計算に含めない。
【0063】
一方、画像データの該当する参照領域についても、その参照領域内に含まれる全ての画素について、それぞれのR・G・B値の和Cs2が求められる。また、その参照領域内の画素数はd2とされる。
【0064】
そして、これから描画しようとする線分の画素数はslとされ、(Cs1+CL×sl)÷(sl+d1)=Cs2÷d2となるCLが算出される。これは、即ち、これから描画しようとする線分に色CLを設定したとき、その参照領域内の線分の色の平均値と、元画像の該当する参照領域内の色の平均値が等しくなるということである。
【0065】
最後に、入力した糸色の中で、線分の色CLにRGB空間で最も距離の近い糸色が求められ、これが線分の色成分として色データ記憶エリア154に記憶される。なお、RGB空間での距離dは、算出した色CLのRGB値をr0、g0、b0、入力した糸色のRGB値をrn、gn、bnとすると、数3に示す数式に基づいて算出される。
【数3】

【0066】
このようにして色データが作成されると、色成分を加味した状態で各線分情報を再度分析し、線分データにおいて線分情報の併合及び削除が行われる(S7)。まず、各線分データによって特定される線分のうち、同一線上に重なり合う同色の線分が存在している場合、即ち、角度成分及び色成分が同一で、部分的に重なり合う複数の線分が存在している場合は、それらの線分データが1つの線分データに併合される。このように、複数の線分データを1つの線分データに併合することによって、最終的に縫目の数を減らすことができるので、縫製品質を損なうことなく、効率よく刺繍縫製を行うことができる刺繍データを作成することが可能となる。
【0067】
また、S6において設定した縫い順に従って線分を配置したとき、ある色成分を有する線分が、後から配置される他の色成分を有する線分によって部分的に隠される場合、他の色成分を有する線分によって隠された状態におけるその線分の表出率を算出し、この表出率が所定の閾値(最低表出率)より小さくなるような線分が存在する場合は、その線分データを削除する。このように、表出率の小さいあまり意味のない線分データを削除することによって、最終的に縫目の数を減らすことができるので、縫製品質を損なうことなく、効率よく刺繍縫製を行うことができる刺繍データを作成することが可能となる。なお、閾値(最低表出率)は、予め設定された固定値を採用してもよく、ユーザが入力した入力値を採用してもよい。
【0068】
次に、プレビュー画面が表示される(S8)。図11は、プレビュー画面の一例であるプレビュー画面100を示す模式図である。図11に示すように、プレビュー画面100には、画像データを刺繍した縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を表示するプレビュー画像表示領域101、角度特徴修正ボタン102、刺繍データ作成ボタン103が少なくとも表示されている。プレビュー画像は、カラー画像であり、線分データ及び色データに基づいて、線分データの示す線分が色データの示す色(刺繍糸の色)で色づけされて示されたものである。
【0069】
このプレビュー画面100が表示されたら(S8)、角度特徴修正ボタン102が選択されて、角度特徴修正の指示が行われたか否かの判断が行われる(S10)。角度特徴修正の指示が行われていれば(S10:YES)、角度情報修正のための処理が行われる(S11〜S16)。そして、S3へ戻り、角度特徴が再算出され(S3)、そして、修正された角度情報の修正及び再算出された角度情報に基づいて線分データ及び色データが作成され(S4〜S7)、再度プレビュー画面100が表示される(S8)。
【0070】
次に、本発明の要部である角度情報修正のための処理(S11〜S16)について説明する。まず、プレビュー画面100が角度特徴修正指示用の修正指示画面110(図12参照)に切り替えられる(S11)。図12は、修正指示画面110を示す模式図である。図12に示すように、修正指示画面110は、プレビュー画面100と同様にプレビュー画像が表示されるプレビュー画像表示領域111が設けられており、さらに、角度特徴修正終了ボタン112が設けられている。このプレビュー画像表示領域111には、プレビュー画像が表示されると共に、マウス22からの入力が受け付けられるようになっている。
【0071】
そこで、マウス22からの入力が受け付けられる(S12)。このプレビュー画像表示領域111上にマウスポインタ221を移動させマウス22をドラッグすると、マウスポインタ221の移動軌跡がマウス22からの入力として受け付けられる。本実施の形態では、マウス22がドラッグされた際のマウスポインタ221の移動軌跡で、角度特徴を変更する領域を決定し、マウスポインタ221の移動軌跡を直線に近似した際の近似直線の角度を変更後の角度特徴とする。つまり、ユーザがプレビュー画像表示領域111で、縫目の方向を変更したい部分を、変更したい方向にマウス22でドラッグすることにより、角度特徴を変更する画素及びその方向を指示することができる。そして、その移動軌跡に対応する画素(マウスポインタ221が通った画素)が変更指示画素とされ、その座標がRAM12に記憶される。そして、角度特徴修正終了ボタン112が選択されると、マウス22からの入力の受付が終了したとされる。つまり、角度特徴修正終了ボタン112が選択されるまでは、プレビュー画像表示領域111でのマウス22のドラッグによる入力が継続して受け付けられる。
【0072】
例えば、図13に示す例を考える。図13は、一部の画素に対して角度情報を記載した模式図501である。そして、図13の紙面左下から右上に進む矢印がマウスポインタ221の移動軌跡590である。この場合には、網掛けされている画素が変更指示画素とされる。
【0073】
次いで、角度特徴の変更量が決定される(S13)。この変更量は、マウスポインタ221の軌跡に基づいて決定される。本実施の形態では、例えば、変更指示画素の座標を直線に近似した際の近似直線の傾きが変更量とされ、RAM12に記憶される。図13に示す例では、傾き45°の直線であるので変更量は「45」とされる。次いで、角度特徴及び角度特徴強度を変更する変更領域が決定され(S14)、変更領域の画素について、角度情報記憶エリア152の角度特徴がS13で決定された変更量に変更される(S15)。本実施の形態では、例えば、変更指示画素に連続した画像のうち縦方向及び横方向に2個の画素(近隣画素)に応じた領域を変更領域とする。図14は、図13に示した例の角度特徴変更後の模式図511である。図13に示した例では、図14に示すように斜線で塗り潰された画素及び網掛けされている変更指示画素が変更領域591の画素とされ、S13で決定された「45」が変更領域591の画素の角度特徴とされる。
【0074】
次いで、変更領域の角度特徴強度が変更される(S16)。本実施の形態では、予め定められている値(例えば、80)に変更するものとする。図15は、図13に示した例の画素の変更後の角度特徴強度を記載した模式図521である。図13に示した例では、図15に示すように、変更領域591の角度特徴強度が全て「80」とされる。このようなS13〜S16の処理は、S12で入力された変更指示画素の全てに対して行われる。
【0075】
以上のようにして、角度情報が変更されたら(S11〜S16)、S3へ戻り、角度特徴が再算出される(S3)。そして、修正された角度情報の修正及び再算出された角度情報に基づいて線分データ及び色データが作成され(S4〜S7)、再度プレビュー画面100が表示される(S8)。
【0076】
図16は、図12に示した修正指示画面110において行われた修正指示を図示した修正指示画面120を示す模式図であり、図17は、図16に示した修正指示により更新されたプレビュー画面104を示す模式図である。図16に示すプレビュー画像表示領域111の14本の黒色矢印がマウスポインタ221の軌跡である。ここでは、女の子の背景部分の縫目にばらつきがあるので、それを整えるために、背景部分の縫目の傾きを右上方向に指示している。すると、図17に示すように、背景部分の縫目方向が整えられ、ばらつきが軽減される。
【0077】
また、図18は、男性の顔写真(図28参照)を画像データとして使用した際のプレビュー画面105を示す模式図であり、図19は、図18に示したプレビュー画面105に対して行われた角度特徴の修正指示を図示した修正指示画面150を示す模式図であり、図20は、図19に示した修正指示により更新されたプレビュー画面106を示す模式図である。図18に示すように男性の髪の毛の縫目方向は髪の毛の流れとは全く関係のない方向となっている。これは、図28に示すように、画像データにおいて男性の髪の毛の部分に輝度の差がほとんどなく、黒く塗り潰されているような状態であることが原因であると考えられる。そこで、図19に示すように、修正指示画面において、マウス22のマウスポインタ221の移動軌跡が髪の毛の流れに沿った向きとなるように指示を行う。すると、図20に示すように、髪の毛部分の縫目の方向は実際の髪の毛の流れのような方向となり美しい縫い上がり状態を得ることができる。ユーザは、髪の毛を櫛で梳かすようにして、角度特徴の変更量を指示することができるので、視覚的にわかりやすく自然な動作で違和感なく指示を行うことができる。
【0078】
そして、プレビュー画面100,104,105,106において、角度特徴修正ボタン102が選択されずに(S16:NO)、刺繍データ作成ボタン103が選択されて、刺繍データ作成の指示が行われたか否かの判断が行われる(S17)。刺繍データ作成の指示も行われなければ(S17:NO)、S16へ戻り、繰り返し角度特徴修正の指示又は刺繍データ作成の指示は行われたか否かの判断が行われる(S16、S17)。
【0079】
そして、刺繍データ作成の指示が行われれば(S17:YES)、線分データ及び色データに基づいて刺繍データが作成され、刺繍データ記憶エリア155に記憶される(S18)。線分データ及び色データに基づく刺繍データの作成は、基本的には、同一色成分ごとに、各線分データによって特定される各線分の始点、終点及び色成分を、縫目(ステッチ)の始点、終点及び色に変換することによって行われる。ただし、全ての線分を独立した縫目に変換すると、線分の数だけ渡り縫い部分が発生し、それぞれに留め縫いが入ると、縫製品質も悪くなるので、できる限り各線分を連続した縫目に変換するために、以下に示すような処理を行う。
【0080】
まず、各線分データによって特定される全体の線分群を、色成分ごとの線分群に分割する。次に、ある色成分の線分群について、最も左上に位置する端点を有する線分を検索し、その端点をその線分(開始線分)の始点とし、その線分のもう一方の端点を終点とする。そして、この終点から最も近い端点を有する他の線分を検索し、この端点を次の線分の始点とし、その線分のもう一方の端点を終点とする。この処理を繰り返すことによって、その色成分の線分群についての縫製順序を決定し、これを全ての色成分の線分群に対して行う。なお、この処理を行う場合、既に順序が決定された線分については、それ以降の順序決定の検索から除外することは言うまでもない。
【0081】
以上のようにして、プレビュー画像をユーザが確認して、縫目の方向を修正したい場合には、マウス22を操作して、縫目の方向を整えることができる。縫目の方向を整える領域は、プレビュー画像上をマウス22でドラッグするだけでよく、マウス22のドラッグによるマウスポインタ221が通った画素に縦方向に連続した2つの画素までがその領域(変更領域)とされる。また、縫目を整えたい方向(角度)も、同じくマウス22のドラッグによるマウスポインタ221の移動軌跡に基づいて決定される。本実施の形態では、変更指定画素を近似した近似直線の傾きを変更後の角度特徴としている。縫目自体の傾きを指定しているのではなく、縫目を示す線分データを作成する際に用いられる角度特徴を変更しているので、指定された領域の縫目が全て指定された角度となってしまうことなく、周囲の縫目との違和感がない縫目を形成することができる。
【0082】
また、変更領域の画素の角度特徴強度を全て所定の値(80)に変更しているので、角度特徴を変更した画素については均一で比較的大きな角度特徴強度(最大値の8割)となり、これらの画素の連続性が高いことを示しているので、線分データにおいて、この位置に線分が作成される可能性が高くなる。なお、変更領域内の全ての画素の角度特徴強度を変更しているが、S5の第二処理においって、ブロック内の線分を間引いているので、変更領域内に縫目が密集してしまうことはない。
【0083】
また、角度情報を変更した後に、角度特徴を再算出している(S3)ので、変更領域の周囲の画素の角度特徴が変更後の角度特徴の影響を受ける。よって、線分データを作成した際に変更領域と周囲とがなじんだ状態となり、違和感のない縫い上がり状態となる。
【0084】
なお、上記実施の形態のハードディスク装置15の角度情報記憶エリア152が「角度情報記憶手段」に該当し、ディスプレイ24が「表示手段」に該当し、マウス22が「位置指定手段」に該当する。そして、図3に示すフローチャートのS2で角度情報を算出する処理を行うCPU11が「角度情報算出手段」に該当し、S8でプレビュー画面を表示する処理を行うCPU11が「プレビュー表示制御手段」に該当し、S4,S5,S7で線分データを作成する処理を行うCPU11が「線分データ作成手段」に該当し、S6で色データを作成する処理を行うCPU11が「色データ作成手段」に該当し、S18で刺繍データを作成する処理を行うCPU11が「刺繍データ作成手段」に該当する。
【0085】
そして、S13でマウスポインタ221の移動軌跡の近似直線の傾きを算出する処理を行うCPU11が「傾き算出手段」に該当し、S13でマウスポインタ221の移動軌跡の近似直線の傾きを変更後の角度特徴とする処理を行うCPU11が「角度特徴変更量指定手段」に該当し、S14で変更領域を決定する処理を行うCPU11が「変更領域指定手段」に該当し、S15で角度特徴を変更する処理を行うCPU11が「角度特徴変更手段」に該当する。
【0086】
なお、本発明の刺繍データ作成装置、刺繍データ作成プログラム、及び、刺繍データ作成プログラムを記録した記録媒体は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0087】
上記実施の形態では、「変更量」を変更指示画素全体の近似直線の傾きとし、角度特徴を「変更量」に変更しているが、「変更量」の算出方法はこの算出方法に限られない。例えば、近似直線を変更指示画素全体で算出するのではなく、適当な長さ(例えば、ディスプレイ24上の長さ1cmに対応する長さ)や画素数で軌跡を切断し、切断された軌跡ごとで近似直線を算出してもよい。変更指示画素ごとに変更指示画素上の移動軌跡を直線近似して、その傾きを変更量としてもよい。また、変更指示画素を直線近似するのではなく、接線を算出しその傾きを用いてもよい。
【0088】
また、「変更量」をそのまま角度特徴としなくともよい。例えば、マウス22のドラッグによるマウスポインタ221の移動軌跡の傾きに対して「変更度合い」を加味して変更後の角度特徴を決定してもよい。「変更度合い」は、予め設定されている値でもよいし、ユーザにより都度入力させてもよい。ここで、図21乃至図23を参照して、「変更度合い」を加味して変更後の角度特徴を決定する方法について説明する。図21は、一部の画素の角度特徴に対して、マウスポインタの移動軌跡581及び変更領域582,583を示した模式図521であり、図22は、図21に示す模式図521の角度特徴の算出過程を示す模式図522であり、図23は、図21に示す模式図521の角度特徴を変更した後の角度特徴を示す模式図523である。変更領域は上記実施の形態と同様に、変更指示画素に連続した画像のうち縦方向及び横方向に2個の画素(近隣画素)に応じた領域を変更領域とする。変更度合いを50%とする。なお、図21に示す例では、簡単のために全ての角度特徴を「120」としている。
【0089】
図21に示す移動軌跡581の傾きは45°である。そして、移動軌跡581が通った変更指示画素及び近隣画素が変更領域582,583とされる。変更領域582は移動軌跡581の進行方向に対して右に存在する画素を含む領域であり、変更領域583は移動軌跡581の進行方向に対して左に存在する画素を含む領域である。なお、移動軌跡581が通った変更指示画素については、移動軌跡581がその画素を分断してできる2つの領域について、右の領域が大きければ右の変更領域582に含め、左の領域が大きければ左の変更領域583に含めるものとする。なお、右側の変更領域582の角度特徴をK1、左側の変更領域583の角度特徴をK2、移動軌跡581の傾きをθ、変更度合いをaと現すこととする。
【0090】
まず、移動軌跡581の傾きθを「−180≦θ<180」となるように補正する。ここでは、θ=45であるので補正の必要はない。例えば、θ=270であった場合には、360°が減算され、「270−360=−90」と補正される。
【0091】
次いで、右側の変更領域582の角度特徴K1は「θ≦K1<θ+180」、左側の変更領域583の角度特徴K2は「θ−180≦K2<θ」となるように補正される。K1が「θ≦K1<θ+180」に含まれない場合には、180が加算され、K2が「θ−180≦K2<θ」に含まれない場合には180が減算される。図21に示す例では、θ=45であるので「45≦K1<225」、「−135≦K2<45」に補正される。右側の変更領域582の角度特徴K1=120であり、「45≦K1<225」に含まれるので、補正の必要はない。しかし、左側の変更領域583の角度特徴K2=120は「−135≦K2<45」に含まれないので、「120−180=−60」と補正される。この補正後の角度特徴の状態を示しているのが図22に示す模式図522である。
【0092】
次いで、数4に示す式に基づいて変更後の角度特徴が算出される。図22に示す模式図522では、右側の変更領域582では、「tan−1((sin120+sin45×0.5)/(cos120+cos45×0.5)≒−83.15」となる。しかし、右側の変更領域582の角度特徴K1は「θ≦K1<θ+180」=「45≦K1<225」なので、補正のために180を足して「−83.15+180=96.847≒97」となる。左側の変更領域583では、「tan−1((sin−60+sin45×0.5)/(cos−60+cos45×0.5)≒−30.98≒−31」となる。左側の変更領域583の角度特徴K2は「θ−180≦K2<θ」=「−135≦K2<45」なので補正の必要はない。
【数4】

【0093】
以上のようにして、変更度合い及びマウスポインタ221の移動軌跡に基づいて角度特徴が変更される。なお、上記変形例では、変更度合いを50%としたが、これは固定値でなくともよい。例えば、マウス22のドラッグによるマウスポインタ221の移動速度に応じて変更度合いを決定してもよい。マウス22がドラッグされていた時間及び移動軌跡の長さ(又は、ディスプレイ24上nドット数)により速度を算出することができる(この処理を行うCPU11が「速度算出手段」に該当する)。そして、予め速度に応じた変更度合いを設定してもよい。例えば、1cm/秒以下であれば変更度合い10%ととし、1cm/秒より早く、2cm/秒以下であれば20%とするというように早くなるほど、変更度合いが大きくなるように設定してもよい。また、逆に、早くなるほど変更度合いが小さくなるように設定してもよい。また、ユーザに早くなるほど、大きくなるか、小さくなるかを選択させてもよい。また、ユーザにどの速度でどの割合にするかを設定させてもよい。
【0094】
また、マウス22のドラッグによるマウスポインタ221の移動軌跡に基づいて「変更量」を決定しなくてもよい。例えば、変更量をユーザに数値で入力させてもよい。この場合、修正指示画面110,150に変更量入力欄を設け、入力された値を変更量として、変更領域の画素の角度特徴として角度情報記憶エリア152に記憶すればよい。この変更量入力欄が「数値入力手段」に相当する。
【0095】
また、上記実施の形態では、変更指示画素に連続した画像のうち縦方向及び横方向に2個の画素に応じた領域を変更領域としているが、連続した画素の個数は2個に限らない。また、縦方向及び横方向に限らず、斜め方向を含んでもよい。また、縦方向のみや横方向のみであってもよい。なお、縦方向のみの場合には近似直線の傾きが90°,270°の場合には横方向にするなどの対処が必要である。横方向のみの場合も同様に、近似直線の傾きが0°,180°である場合には縦方向にするなどの対処が必要である。また、画素の個数でなく、マウスポインタ221の移動軌跡からの距離であってもよい。また、変更指定画素から連続した個数や移動軌跡からの距離は予め設定されておらず、ユーザが設定するようにしてもよい。また、連続する方向もユーザに設定させてもよい。
【0096】
また、変更指定画素から連続した個数や移動軌跡からの距離をマウス22のマウスポインタ221の移動速度により決定してもよい。予め速度に応じた個数や距離を設定しておく、例えば、1cm/秒以下であれば1個とし、1cm/秒より早く、2cm/秒以下であれば2個とするというように速くなるほど、個数が多くなるように設定してもよい。また、逆に、早くなるほど個数が少なくなるように設定してもよい。また、ユーザに早くなるほど、多くなるか、少なくなるかを選択させてもよい。また、ユーザにどの速度でどの個数にするかを設定させてもよい。
【0097】
また、上記実施の形態では、マウス22のドラッグによるマウスポインタ221の移動経路に基づいて変更領域を決定したが、変更領域の指定はこれに限らない。例えば、マウス22により、プレビュー画像表示領域111上に任意の閉領域を指示させて、その閉領域を変更領域としてもよい。図24は、プレビュー画像表示領域111上で閉領域を指定する場合の修正指示画面130を示す模式図である。
【0098】
図24のプレビュー画像表示領域111の斜線で塗り潰された閉領域が変更領域133である。図24においてはわかりやすさのために変更領域133を斜線で塗り潰しているが、修正指示画面130において実際には塗り潰さなくてもよいし、透過させてプレビュー画像を表示させてもよい。この変更領域133の境界線上の点131がマウス22によりクリックされた点(クリック点131)である。なお、図24では、煩雑さを防ぐために全てのクリック点131に符号を付していない。プレビュー画像表示領域111上で任意の点がクリックされると、その位置がRAM12の所定の記憶エリアに記憶され、プレビュー画像表示領域111上に図24に示すような丸印が表示される。そして、次にプレビュー画像表示領域111の任意の点がクリックされると、その点の座標が引き続きRAM12に記憶される。さらに、前回のクリック点131と今回のクリック点131を結ぶ線分が算出され、境界線132としてプレビュー画像表示領域111上に表示される。なお、この境界線132も煩雑を避けるために図24においては全ての境界線に符号を付していない。
【0099】
このようにして、プレビュー画像表示領域111上の閉領域の境界線をユーザに指定させることができる。そして、最初に指定されたクリック点131が再びクリックされると、境界線132が閉じられ閉領域が形成される。この境界線132群の内側の領域が変更領域133とされる。なお、クリック点131を結ぶ線分は図24に示すような直線のみでなく、曲線であっても、曲線と直線との両方を用いてもよい。
【0100】
また、このようにクリックした点を繋ぐことにより閉領域を形成するのではなく、フリーハンドでマウス22をドラッグし、マウスポインタ221の移動軌跡を境界線として、閉領域を形成してもよい。この場合に、マウスポインタ221の移動軌跡が閉じていない場合には、移動軌跡の始点と終点とを結んで閉領域を形成すればよい。また、図25に示すように、マウス22のドラックによる始点と終点とを結ぶ直線を対角線とする長方形の内部(閉領域)を変更領域としてもよい。また、長方形でなく、マウス22のドラックによる始点と終点とを結ぶ直線を直径とする円や楕円、長方形の頂点にカーブを持たせた形状の閉領域を変更領域としてもよい。
【0101】
また、変更領域の決定方法をユーザに選択させるようにしてもよい。図24に示したように、背景部分全体の縫目方向を修正したい場合には、ユーザが縫目方向を変更したい領域がはっきりしており、上記実施の形態で示したようにマウスポインタ221の移動軌跡の周囲の画素を変更領域とするよりも指示しやすい。また、図19に示した例のように、髪の毛の縫目方向を修正したい場合には、きっちりと変更領域を区切りたくないので、上記実施の形態で示したように、マウスポインタ221の移動軌跡の周囲の画素を変更領域とし、櫛で梳かすように指示する方が指示しやすい。よって、変更領域の決定方法を複数提供し、ユーザに選択可能とすることにより、修正箇所の状況にあった修正指示を行うことができる。
【0102】
また、上記実施の形態では、角度情報を変更した後に、S3において角度特徴の再算出を行っているが、必ずしも角度特徴の再算出を行わなくてもよい。角度特徴の修正指示をする際に、再算出をするか否かを選択するように、「する」場合にはS3へ戻り、再算出するが、「しない」場合にはS4へ戻り、再算出をしないようにすればよい。角度特徴の再算出が行われない場合には、角度情報の変更された画素から作成される線分の方向と、周囲の画素から作成される線分の方向とのなじみが少なくなる。よって、周囲とのなじみを持たせたくない場合には、再算出を行わない方が、好ましい縫い上がり状態を得ることができる。例えば、図24に示すように背景部分全体の縫目方向を修正したい場合には、背景と女の子の髪の毛や帽子は別の物であるので、周囲の縫目の方向となじませない方が好ましい。よって、再算出を行わない方が好ましい縫い上がり状態となる。また、一方、図19に示した例のように、髪の毛の縫目方向を修正したい場合には、変更領域の周囲の髪の毛ともなじんだ方が自然な髪の毛の流れのようになるので、周囲の縫目の方向となじませた方が好ましい。よって、再算出を行った方が好ましい縫い上がり状態となる。
【0103】
また、上記実施の形態では、角度特徴強度を「0」〜「100」としたがこの値に限らない。また、角度特徴強度を予め定められている値(例えば、80)に変更したが、この値はこれに限らない。また、角度特徴強度を変更しなくてもよい。また、ユーザにより角度特徴強度をいくつに変更するかを指定させたり、角度特徴強度を変更するか否かを選択させたりしてもよい。角度特徴強度を大きな値とすれば、周囲の角度特徴よりも線分データを作成する際にこの画素の位置にユーザの指示した移動軌跡に沿った傾きの線分が作成されやすくなる。
【0104】
また、上記実施の形態では、角度特徴修正終了ボタン112が選択された後に線分データや色データの再作成を行って、プレビュー画像を更新しているが、マウス22によりドラッグが行われる都度、プレビュー画像の更新を行ってもよい。また、刺繍データ作成プログラムはCD−ROM114に記憶されているが、この記録媒体はCD−ROMに限らず、フレキシブルディスクやDVDなど他の記録媒体であってもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】刺繍ミシン3の外観図である。
【図2】刺繍データ作成装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】処理手順を示すフローチャートである。
【図4】ある画素とその周囲の画素の輝度値を示す模式図500である。
【図5】各画素について右方向の画素データとの差の絶対値を算出した結果を示す模式図501である。
【図6】各画素について右下方向の画素データとの差の絶対値を算出した結果を示す模式図502である。
【図7】各画素について下方向の画素データとの差の絶対値を算出した結果を示す模式図503である。
【図8】各画素について左下方向の画素データとの差の絶対値を算出した結果を示す模式図504である。
【図9】角度情報記憶エリア152の一部を示す模式図である。
【図10】注目画素にして作成される線分情報を図示した模式図である。
【図11】プレビュー画面の一例であるプレビュー画面100を示す模式図である。
【図12】修正指示画面110を示す模式図である。である。
【図13】一部の画素に対して角度情報を記載した模式図501である。
【図14】図13に示した例の角度特徴変更後の模式図511である。
【図15】図13に示した例の変更後の角度特徴強度を記載した模式図521である。
【図16】図12に示した修正指示画面110において行われた修正指示を図示した修正指示画面120を示す模式図である。
【図17】図16に示した修正指示により更新されたプレビュー画面104を示す模式図である。
【図18】男性の顔写真を画像データとして使用した際のプレビュー画面105を示す模式図である。
【図19】図18に示したプレビュー画面105に対して行われた角度特徴の修正指示を図示した修正指示画面150を示す模式図である。
【図20】図19に示した修正指示により更新されたプレビュー画面106を示す模式図である。
【図21】一部の画素の角度特徴に対して、マウスポインタの移動軌跡581及び変更領域582,583を示した模式図521である。
【図22】図21に示す模式図521の角度特徴の算出過程を示す模式図522である。
【図23】図21に示す模式図521の角度特徴を変更した後の角度特徴を示す模式図523である。
【図24】プレビュー画像表示領域111上で閉領域を指定する場合の修正指示画面130を示す模式図である。
【図25】プレビュー画像表示領域111上で閉領域を指定する場合の修正指示画面140を示す模式図である。
【図26】写真刺繍の元となる写真画像90を示す模式図である。
【図27】図26に示す写真画像から角度特徴及び角度特徴の強度を算出し、それに基づいて作成された線分データを示す模式図901である。
【図28】写真刺繍の元となる写真画像80を示す模式図である。
【符号の説明】
【0106】
1 刺繍データ作成装置
11 CPU
12 RAM
13 ROM
22 マウス
24 ディスプレイ
100,104,105,106 プレビュー画面
101 プレビュー画像表示領域
102 角度特徴修正ボタン
110,120,130,140,150 修正指示画面
111 プレビュー画像表示領域
112 角度特徴修正終了ボタン
131 クリック点
132 境界線
133 変更領域
151 画像データ記憶エリア
152 角度情報記憶エリア
153 線分データ記憶エリア
155 刺繍データ記憶エリア
156 プログラム記憶エリア
221 マウスポインタ
581 移動軌跡
582 変更領域
583 変更領域
590 移動軌跡
591 変更領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素の集合体からなり任意の画像を形成する画像データに基づいて、ミシンで刺繍を行うための刺繍データを作成する刺繍データ作成装置において、
前記画像データの各画素について、色の連続性の高い方向を示す角度特徴及び連続性の強さを示す角度特徴強度を算出する角度情報算出手段と、
当該角度情報算出手段により算出された前記角度特徴及び前記角度特徴強度を角度情報として記憶する角度情報記憶手段と、
前記角度情報記憶手段に記憶されている前記角度情報を変更する領域である変更領域を指定する変更領域指定手段と、
前記角度情報記憶手段に記憶されている前記角度特徴を変更する量である変更量を指定する角度特徴変更量指定手段と、
前記角度特徴変更量指定手段により指定された前記変更量に基づいて、前記変更領域指定手段により指定された前記変更領域に属する画素の角度特徴を変更し、前記角度情報記憶手段に記憶する角度特徴変更手段と、
前記角度情報記憶手段に記憶されている角度情報に基づいて、各画素上に配置される糸の軌跡である線分を示す線分データを作成する線分データ作成手段と、
前記画像データに基づいて前記線分データ作成手段により作成された前記線分データの各線分の糸色を示す色データを作成する色データ作成手段と、
前記線分データ作成手段により作成された線分データ及び前記色データ作成手段により作成された前記色データに基づいて前記刺繍データを作成する刺繍データ作成手段とを備えたことを特徴とする刺繍データ作成装置。
【請求項2】
前記変更領域指定手段により指定された前記変更領域に属する画素の前記角度特徴強度を所定の値に変更し、前記角度情報記憶手段に記憶する角度特徴強度変更手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の刺繍データ作成装置。
【請求項3】
前記角度特徴記憶手段に記憶されている前記角度特徴強度が予め設定された閾値より小さい画素又は画素群については、周囲の画素又は画素群の角度特徴を加味した新たな角度特徴を再算出し、前記角度特徴記憶手段に記憶されている前記角度特徴を変更する角度特徴再算出手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の刺繍データ作成装置。
【請求項4】
画像を表示する表示手段と、
前記刺繍データ作成手段により作成された前記刺繍データに基づいて刺繍を行った縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を前記表示手段に表示するプレビュー表示制御手段と、
前記表示手段に表示された画像における位置を指定する位置指定手段とを備え、
前記変更領域指定手段は、
前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により指定された位置の軌跡に基づいて決定される領域を前記変更領域とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の刺繍データ作成装置。
【請求項5】
前記変更領域指定手段は、
前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により指定された位置の軌跡に対応する画素である軌跡画素及び、当該軌跡画素に連続した所定数の画素のうち所定の方向の画素からなる領域を前記変更領域とすることを特徴とする請求項4に記載の刺繍データ作成装置。
【請求項6】
前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により位置を指定した速度を算出する速度算出手段を備え、
前記変更領域指定手段は、
前記位置指定手段により指定された位置の軌跡及び前記速度算出手段により算出された速度に基づいて前記軌跡画素に連続した画素の数である前記所定数を決定することを特徴とする請求項5に記載の刺繍データ作成装置。
【請求項7】
画像を表示する表示手段と、
前記刺繍データ作成手段により作成された前記刺繍データに基づいて刺繍を行った縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を前記表示手段に表示するプレビュー表示制御手段と、
前記表示手段に表示された画像における位置を指定する位置指定手段とを備え、
前記変更領域指定手段は、
前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により連続して指定された位置を繋ぐことにより形成される閉領域を前記変更領域とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の刺繍データ作成装置。
【請求項8】
画像を表示する表示手段と、
前記刺繍データ作成手段により作成された前記刺繍データに基づいて刺繍を行った縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を前記表示手段に表示するプレビュー表示制御手段と、
前記表示手段に表示された画像における位置を指定する位置指定手段とを備え、
前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により指定された位置の軌跡の傾きを算出する傾き算出手段を備え、
前記角度特徴変更量指定手段は、前記傾き算出手段により算出された傾き、又は、前記傾き算出手段により算出された傾きに基づいて算出された値を前記変更量とする請求項1乃至7のいずれかに記載の刺繍データ作成装置。
【請求項9】
画像を表示する表示手段と、
前記刺繍データ作成手段により作成された前記刺繍データに基づいて刺繍を行った縫い上がりを仮定した画像であるプレビュー画像を前記表示手段に表示するプレビュー表示制御手段と、
前記表示手段に表示された画像における位置を指定する位置指定手段とを備え、
前記プレビュー画像上において前記位置指定手段により位置を指定した速度を算出する速度算出手段を備え、
前記角度特徴変更量指定手段は、前記速度算出手段により算出された速度に基づいて算出された値を前記変更量とする請求項1乃至7のいずれかに記載の刺繍データ作成装置。
【請求項10】
前記角度特徴変更量指定手段は、
前記角度特徴の前記変更量を数値で入力する数値入力手段を備え、
前記数値入力手段で入力された値を前記変更量とすることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の刺繍データ作成装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の刺繍データ作成装置の各種処理手段としてコンピュータを機能させるための刺繍データ作成プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載の刺繍データ作成プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2008−289517(P2008−289517A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135019(P2007−135019)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】