説明

削孔工具

【課題】トンネル工事や基礎工事、補強工事などにおいて用いられる削孔工具において、削孔壁の崩落を防止するためのケーシングパイプが合成樹脂製であっても充分に使用に耐えられ、硬い岩盤に対しても削孔が行えるようにすること。
【解決手段】削孔のための動力を伝達するロッド21と、該ロッド21の先に設けられて削孔を行う削孔ビット部材31とを有し、該削孔ビット部材31の後部には、上記ロッド21の外周側を包囲するケーシングパイプ51の先端に取り付けられる筒状の先端スリーブ41が接続された削孔工具11において、上記削孔ビット部材31と先端スリーブ41とのそれぞれの対向面に、凹溝42,67が設けられ、これら凹溝42,67には、複数個の球体68を転動可能に収納して、削孔ビット部材31と先端スリーブ41とを相対回転可能で、しかも緩衝できるように接続して、削孔動作時にケーシングパイプ51にかかる負荷を低減した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トンネル工事や基礎工事、補強工事などにおいて用いられる削孔工具に関し、より詳しくは、削孔壁の崩落を防止するためのケーシングパイプが合成樹脂製であっても充分に使用に耐えられ、硬い岩盤に対しても削孔が行えるような強度の高い削孔工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーシングパイプが合成樹脂製であってもよいとするものとして、下記特許文献1に開示された掘削工具がある。これは、ケーシングパイプに対してその軸線方向に推力と打撃を伝達する構造の掘削工具であるが、この掘削工具は、推力と打撃が伝達される上記ケーシングパイプと、このケーシングパイプの内部に同芯上に配置されていて、軸線方向に推力と打撃が伝達されると共に回転力が伝達されるロッドと、該ロッドの先端部に取り付けられた掘削工具本体と、該掘削工具本体の先端にこの掘削工具本体に対する回転が拘束されて装着される掘削ビットとを備えた掘削工具において、上記ケーシングパイプの先端に、ケーシングパイプに対して軸線方向に移動可能でかつ軸線周りに回転可能な円筒状のケーシングトップが上記掘削工具本体に外嵌されるようにして取り付けられ、このケーシングトップが常に掘削ビットを包囲した状態で削孔に建て込むことができるように構成されている。
【0003】
そして、この構成では、ケーシングトップがケーシングに対して軸線方向に移動可能に取り付けられているので建て込み時にケーシングパイプに過大な抵抗が作用することなく、ケーシングパイプが樹脂などの低強度のものであってもよいとされている。
【0004】
しかし、推力と打撃はケーシングパイプにも直接的に作用する構成であり、たとえ緩衝材が介装されているとはいっても、多大な負荷がかかるため、割れなどのおそれがあった。特に、削孔される対象が固い岩盤である場合には、上記負荷は非常に大きなものとなり、特許文献1のような構成の工具では削孔することが困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−172089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこでこの発明は、ケーシングパイプに対して削孔時にかかる負荷を低減できるような削孔工具の提供を主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段は、削孔のための動力を伝達するロッドと、該ロッドの先に設けられて削孔を行う削孔ビット部材とを有し、該削孔ビット部材の後部には、上記ロッドの外周側を包囲するケーシングパイプの先端に取り付けられる筒状の先端スリーブが接続された削孔工具であって、上記削孔ビット部材と先端スリーブとにおける内外で重合するそれぞれの対向面に、全周にわたって形成された凹溝等からなる凹部が形成され、これら凹部間に、削孔ビット部材と先端スリーブとを相対回転可能に接続するとともに接続状態を保持する抜け止め部材が保持された削孔工具である。
【0008】
この構成によれば、回転力と打撃力がロッドを介して削孔ビット部材に伝えられ、削孔ビット部材が回転しながら突き進んで削孔がなされる。このとき、削孔ビット部材の後部に接続された先端スリーブは、削孔ビット部材と相対回転可能であり、しかも相互間には、抜け止め部材と、この抜け止め部材を相対移動可能に収納する凹部が設けられて、相互に接続されているので、削孔ビット部材が回転して掘り進む時に、これに接続された先端スリーブも削孔ビット部材の動きにつれて移動するものの、先端スリーブは削孔ビット部材につられて回転しない。また、回転するとしても、それは追随するような回転ではない。このため、先端スリーブの後方に接続されるケーシングパイプの回転を阻止しまたは抑制し、削孔動作によってケーシングパイプにかかる衝撃を和らげることができる。
【0009】
ここで、上記構成要素について、次のような態様に構成することができる。
【0010】
その態様のひとつは、上記抜け止め部材が複数個の転動体からなる削孔工具である。
転動体には、球体やローラなどが使用できるが、いずれの場合も、複数個の転動体がそれぞれに凹部内を転がり動くので、良好な回転状態を得られる。また、転動体が球体であれば、削孔ビット部材と先端スリーブとに形成される凹部の形態を簡素にできるとともに、組立ても簡単にすることができる。また、球体と凹部との間に先端スリーブ等の軸方向において適宜の隙間が設けられると、この隙間が緩衝作用をするので、打撃時の振動を緩和することも可能である。これによっても、削孔ビット部材や先端スリーブにかかる負荷を低減できる。
【0011】
態様の他の一つは、上記抜け止め部材が、可撓性を有する線状体である削孔工具である。
部品点数を低減できるので、コストの低減を図ることができる。
【0012】
態様の他の一つは、上記抜け止め部材が弾性体からなる削孔工具である。
抜け止め部材と凹部とを有する構造に基づいて緩衝作用が得られる上に、抜け止め部材自体の性状によっても緩衝作用が得られる。弾性体としては様々なものが使用できるが、引張強さ、引裂強さ、耐摩耗性、動的疲労性等の点で優れている、たとえばウレタンゴムからなるものを用いるのがよい。また、抜け止め部材が線状の場合には、コイルばねを用いることもできる。
【0013】
態様の他の一つは、上記ロッドと削孔ビット部材のそれぞれの連結部分が、中空に形成された筒状部を有するとともに、これら筒状部の内側に、筒状部間にまたがるように芯部材が挿入され、該芯部材が存在する部分の外周側に、上記凹部が形成された削孔工具である。
【0014】
この構成によれば、ロッドと削孔ビット部材の連結部分の筒状部に、これら筒状部間にまたがるように芯部材が介在して、その連結状態が保持される。芯部材が連結部分において芯となるので、周方向(内外)で重合する部分において、その連結状態が補強される。このような強度の高い部分に、上記転動体を収納する凹部が形成されるので、転動体を保持したことによって強度の低下をもたらすことはなく、硬い岩盤にでも充分に削孔できる削孔工具となる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明によれば、削孔ビット部材の回転が先端スリーブやケーシングパイプに伝わって、これらが削孔ビット部材に追従して回転することはないので、ケーシングパイプに対して負荷がかかることを阻止または抑制することができる。このため、ケーシングパイプが鋼管などのように強度の高いものでなくとも、削孔壁の崩落を抑制するなどの所期の目的を達成できるような削孔工具を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、削孔工具11の断面図、図2はその分解図である。これらの図に示すように削孔工具11は、削孔のための動力を伝達するロッド21と、該ロッド21の先端に着脱可能に取り付けられて削孔を行う削孔ビット部材31と、該削孔ビット部材31の後端部外周に取り付けられる先端スリーブ41と、該先端スリーブ41の後端に接続され、上記ロッド21の外周側に位置して削孔により形成された孔壁の崩落を防ぐケーシングパイプ51とを有する。
【0017】
この削孔工具11では、ロッド21を介して削孔ビット部材31に伝達された回転力と打撃力とによって削孔が行われる構造であって、上記先端スリーブ41とケーシングパイプ51はその削孔動作に従って削孔内に侵入する。しかし、先端スリーブ41とケーシングパイプ51は、削孔ビット部材31と同期して回転しないように構成されている。
【0018】
上記各部について順に説明する。
上記ロッド21は、パーカッションマシンの本体のハンマ機構部におけるシャンクロッド(図示せず)の先に接続されるもので、上記削孔ビット部材31に対して接続される先端ロッド21aと、この先端ロッド21aの後ろに順次継ぎ足される継ぎ足しロッドとがある。いずれも所定長さに形成された円筒状で、軸心部分には長さ方向に貫通する導通孔部22を有し、端部には接続のための雄ねじ23が形成されている。この雄ねじ23は左ねじである。つまり、左への回転が締まる方向への回転である。なお、図では、例としてテーパねじを示したが、ロープねじやハイリードねじなどであるもよい。そして、先端ロッド21aと継ぎ足しロッド、継ぎ足しロッド同士は、上記雄ねじ23に螺合する雌ねじ24aを両端部に有した円筒状のカップリング部材24によって接続される。
【0019】
先端ロッド21aの場合、上記接続のための雄ねじ23は後端に形成され、先端には、削孔ビット部材31に対する接続のための係合筒状部25が形成される。係合筒状部25の内周側には、上記導通孔部22よりも大径の孔部26を有し、外周部に、図3に示したような係脱爪部27を備えている。
【0020】
係脱爪部27は、図4に示した如く、先端ロッド21aを左方向に回転した時に削孔ビット部材31と係合し、反対側の右方向に回転した時にその係合が外れるもので、鉤型に形成されている。つまり、長さ方向に延びる延設部27aと、該延設部27aの先端部から左方向に突出する爪部27bとを有する平面視横L字型である。
【0021】
このような形状の係脱爪部27は、等間隔を隔てて2個形成される。好ましくは、これら係脱爪部27は、その幅方向の大きさが係合筒状部25を周方向に4等分した程度の大きさであるとよい。
なお、図4は、先端スリーブ41を除く、図1のA−A線矢視断面図である。
【0022】
上記削孔ビット部材31は、上記ロッド21が接続される略円筒状の本体部材61と、該本体部材61の先に一体固定されるビット部材71とからなる。本体部材61は、後端部に上記先端ロッド21aの係合筒状部25が着脱可能に接続する被係合筒状部62を有し、先端部がビット部材71内に差し込まれて回転不可能な状態に固定される。
【0023】
上記被係合筒状部62は、先端ロッド21aの係合筒状部25と、その長さ方向において相互に係合するもので、係合筒状部25と同径の筒状に形成され、内周側には、係合筒状部25の孔部26と同径の孔部63を有し、外周部に、図3に示したような係脱爪部64を有している。
【0024】
係脱爪部64は、図4に示した如く、先端ロッド21aを左方向に回転した時にその係脱爪部27と係合し、反対側の右方向に回転した時にその係合が外れるもので、鉤型に形成されている。つまり、長さ方向に延びる延設部64aと、該延設部64aの先端部から右方向に突出する爪部64bとを有する平面視横L字型である。このような形状の係脱爪部64は、等間隔を隔てて2個形成される。
【0025】
また、上記孔部63より先端側の軸心部分には、該孔部63よりも小径の連通孔部65とそれより大径の先端孔部66とが形成されており、この先端孔部66には、逆止弁32が保持される。逆止弁32は、上記先端ロッド21a内の導通孔部22を通して注入されるエアや水、薬液などの流体の通過は許容するが、削孔カスを通さないようにするためのもので、ボール32aと、該ボール32aを付勢するねじりコイルばね32bで構成されている。
【0026】
さらに、上記孔部63が形成されている範囲内における外周面には、凹部として断面略半円形状の凹溝67が全周にわたって形成されている。この凹溝67は、図5に示したように抜け止め部材としての球体68が転動可能に収納保持される部分である。
【0027】
このように形成された本体部材61の被係合筒状部62と、上記先端ロッド21aの係合筒状部25は、筒状の芯部材35が挿入されることによって接続される。芯部材35は、本体部材61や先端ロッド21aとは別の部材からなり、軸心部分に長さ方向に貫通する貫通孔部35aを有したパイプ状である。そしてその太さは、係合筒状部25と被係合筒状部62の内周側の孔部26,63に嵌合対応する太さである。芯部材35が存在すればそれでよいが、より好ましくは、芯部材35の外周面が孔部26,63の内周面に面接触するように設定されるのがよい。また、芯部材35の長さは、係脱爪部27,64が周方向で重なり合う(オーバーラップする)長さよりも長く設定されている。
【0028】
芯部材35の外周面に形成された2本の溝は、削孔動作に伴って互いに衝突し圧力を受ける上記係脱爪部27,64の対向面が変形して径方向に膨れ上がった時にそれを許容するためのぬすみ部35b,35bであり、係脱爪部27,64の軸方向における相対向する対向面部分に対応する部位に形成されている。
【0029】
このようなぬすみ部35b,35bを形成するほか、又はぬすみ部35b,35bの形成と併せて、係脱爪部27,64の先端の角部に傾斜面を形成して芯部材35との間にぬすみ部と同様の機能を果たす隙間が形成されるようにするもよい。
【0030】
なお、先端ロッド21aと削孔ビット部材31との間の分離は、上記係合筒状部25と被係合筒状部62との間で行われるので、削孔のたびに芯部材35を取り外して使い捨てにして、疲労により強度の劣化した芯部材35を誤って使用することを回避するには、芯部材35を本体部材61側に圧入して、分離時に芯部材35が削孔ビット部材31とともに削孔内に残るようにするとよい。そのためには、被係合筒状部62の孔部63の所定範囲に若干小径となる部分を形成すればよく、簡単である。
【0031】
ビット部材71は、本体部材61よりも大径で、先端部は適宜の形状に形成され、超硬合金からなるチップ72が固定されている。そしてこのビット部材71には、本体部材61の上記先端孔部69に連通する中央孔部73が形成され、この中央孔部73から先には複数本の噴孔74が形成されている。
【0032】
上記先端スリーブ41は、上記球体68によって、削孔ビット部材31を構成する本体部材61の外周面に相対移動可能に取り付けられる。相対移動は、先端スリーブ51の長さ方向および周方向で行われるように設定される。
【0033】
この先端スリーブ41は、内周面における上記球体68に対応する部位の全周に凹部としての凹溝42を有する。凹溝42は、先端スリーブ41を本体部材61上でその軸方向に相対移動可能にする緩衝用の隙間を有した大きさに形成されている。また、この凹溝42は、本体部材61との間で周方向に相対回転可能に接続できるようにするためのもので、この先端スリーブ41の凹溝42と本体部材61の凹溝67との間に球体68を収納するために、先端スリーブ41の外周面には内外に貫通する投入孔42aが形成され、この投入孔42aには、投入孔42aを閉塞する蓋体43が固定される。
【0034】
先端スリーブ41の内周面における上記凹溝42よりも先端側には、本体部材61との間をシールするシール部材44が設けられている。
【0035】
一方、先端スリーブ41の後端部には、接続用の接続ねじ部45が形成されており、上記ケーシングパイプ51が接続される。図中46は、先端ロッド21aとの間をシールするシール部材である。
【0036】
先端スリーブ41を本体部材61に嵌合し接続するには、まず先端スリーブ41を本体部材61に差し込む。つぎにこの状態で、先端スリーブ41の投入孔42aから複数の球体68を投入し、先端スリーブ41と本体部材61の凹溝42,67間に収納する。すると、球体68が凹溝42,67間に収まり接続状態が保持される。
【0037】
なお、上記球体68は、鋼球のほか、たとえばゴム、特に引張強さ、引裂強さ、耐摩耗性、動的疲労性等の点で優れているウレタンゴム製のものであるもよい。また、抜け止め部材として、球体68のほか、線状をなす弾性体を用いることもできる。図6がその一例を示したもので、ウレタンゴム製の円形断面の線状体68aである。図示はしないが、線状体68aはコイルばねで構成することもできる。
【0038】
球体68や線状体68aを収納する凹溝42,67の大きさは、球体68や線状体68aを潰さないで収納でき、しかも、隙間ができる大きさである。線状体66aの収納は、凹溝67,42によってできるリング状の空間に対して接線方向に延びる投入孔42aから線状体68aを差し込んで、所定長さにおいて切断してから押込み、蓋体43で投入孔42aを閉塞するとよい。線状体68aは、両端が接しておらずとも所期の目的を達成することができる。
【0039】
上記ケーシングパイプ51は、塩化ビニルなどの合成樹脂製で、所定長さに形成された円筒状である。そして先端に、上記接続ねじ部45に螺合する第1ねじ部51aが形成され、後端には、この第1ねじ部51aに螺合可能な形状の第2ねじ部(図示せず)が形成された構造で、順次継ぎ足して使用される。
【0040】
また、ケーシングパイプ51には、薬剤を噴射するため、図9、図10に示したように、逆止弁付きの複数の噴射孔52が適宜間隔おきに形成されている。
【0041】
このように構成された削孔工具11では、図1に示したようにロッド21を削孔ビット部材31に接続した状態でパーカッションマシンから左回りの回転力と打撃力を削孔ビット部材31に伝達すると、図7に示したように、削孔ビット部材31は、その回転力と打撃力を受けて、地盤や岩盤内に切り込む。このとき、回転力と打撃力を受ける削孔ビット部材31に接触しているのは先端スリーブ41であるが、この先端スリーブ41の接触は、球体68と凹溝42,67を介してなされている。そして、球体68と凹溝42,67の間には、隙間(余裕、あそび)を有しているため、回転力や打撃力による振動は緩和され、先端スリーブ41の後端部に接続されたケーシングパイプ51に掛かる負荷を軽減できるとともに、先端スリーブ41は削孔ビット部材31に対して周方向に自在に相対回転する。
【0042】
しかも、球体68は転動可能であるため、球体68と凹溝42,67の衝突時の衝撃も緩和でき、先端スリーブ41に連結されたケーシングパイプ51に掛かる負荷はさらに軽減される。
【0043】
また、抜け止め部材がウレタンゴムからなる場合には、それ自身が弾性を有するため、抜け止め部材と凹溝67,42の衝突時の衝撃も良好に緩和できる。この結果、先端スリーブ41に連結されたケーシングパイプ51にかかる負荷をより一そう軽減できる。
【0044】
さらに、先端スリーブ41は削孔ビット部材31の本体部材61や先端ロッド21aに対してシール部材44,46を介して接続されているので、先端スリーブ41はいたずらにがたつくことはない。そのうえ、本体部材61や先端ロッド21aと先端スリーブ41との間に泥土などが浸入するのを防止し、緩衝を行う嵌合構造を保護できる。
【0045】
また、削孔などの作業終了後には、ロッド21に対して図8に示した如く、削孔の時とは逆、すなわち右回りの回転力を加えれば、ロッドはすべて一体であるので、先端ロッド21aを削孔ビット部材31から簡単に分離することができる。抜き取ったロッド21は、カップリング部材24を外せば各部材ごとに分離できる。
【0046】
以上のような削孔工具を用いた作業例を以下に説明する。
(作業例1)
削孔しながら薬液注入を行う場合には、図9に示したように、まず、噴孔74からエア又は水を噴射しながら所定深さの削孔(削孔工程)を行い(a)、削孔動作を止めてからエア又は水に代えて所望の薬液を噴孔74から噴射(薬液注入工程)する(b)。または、上記削孔(削孔工程)と薬液噴射(薬液注入工程)を同時に行う。
このような動作を順次繰り返して、所定の深さまで削孔と薬液注入を行う(c)。
最後に、ロッド21を右に回転してロッドのみを回収する(d)。
【0047】
(作業例2)
所定深さの削孔(削孔工程)をしてから薬液注入(薬液注入工程)を行う場合には、図10に示したように、まず、噴孔74からエア又は水を噴射しながら所定深さの削孔を行う(a,b)。次に、ロッド21を右に回転してロッドのみを回収する(c)。続いて、薬液注入用の注入管81をロッド21に代えて差し込んで、注入管81を利用して薬液注入を行う(d)。薬液は、ケーシングパイプ51に設けられた逆止弁付きの噴射孔52から噴出する。
【0048】
上記例のようにして、削孔作業と薬液注入作業は行われる。
先端スリーブ41とケーシングパイプ51は、削孔ビット部材31に対して相対回転可能である。このため、これらが削孔ビット部材31に追随して回転することはないので、ケーシングパイプ51に対して負荷がかかることを阻止または抑制することができる。
【0049】
また、上記ロッド21と削孔ビット部材31との間は、長さ方向において相互に係合する係合筒状部25および被係合筒状部62と、これらの内側に挿入された芯部材35とにより接続される。そして、芯部材が2個の筒状部間にまたがるように介在して2個の筒状部の接続状態を保持するとともに、芯となって、内外で重合する部分において、その接続状態を補強する。
【0050】
このため、係合筒状部25と被係合筒状部62には、厚みを部分的に薄くしてしまうねじ等の係脱構造を有する場合に比して、部材の厚みを均一にして脆弱部分のない形状にすることができるとともに、その厚さを確保することができる。この結果、部材とその接続部分の強度を保つことができる。つまり、上述例のように削孔工具11の軸心部分に貫通孔を有する場合でも、また、削孔工具の小径化(小型化)を図る場合でも、充分な強度を有する削孔工具11となる。
【0051】
また、芯部材35の長さは、係合筒状部25と被係合筒状部62の係脱爪部27,64の長さよりも長く設定されているので、芯部材35が接続部分の間により深く挿入されることになり、剛性がさらに高まる。
【0052】
さらに、芯部材35ぬすみ部35b,35bを有するので、削孔動作によって2個の係脱爪部27,64の先端面が対向面に対して互いに激しく当たって変形し、径方向に膨れ上がっても、力を逃がすことができる。この結果、削孔工具11の耐久性を高めることができる。
【0053】
このような強度の高い部分に、先端スリーブ41が上記相対回転するための凹溝67が形成されているので、球体68を保持したことによって強度の低下をもたらすことはなく、硬い岩盤にでも充分に削孔できる削孔工具となる。
【0054】
また、係合筒状部25と被係合筒状部62との係脱は、鉤型の係脱爪部27,64で行う構造であるので、回収作業が簡単である。そのうえ、係脱爪部27,64の形状が脆弱部分のない簡素な形状であるので、削孔時の衝撃で不測に破損したりするおそれを無くし、堅固な着脱構造を構成でき、確実な削孔と必要部材の回収を実現できる。
【0055】
そしてまた、削孔動作に際しては、上述の如くケーシングパイプ51に掛かる負荷を抑えることができるので、ケーシングパイプ51がひび割れたりする不測の損傷を回避できる。
【0056】
また、ロッド21に導通孔部22が形成されるとともに、芯部材35には貫通孔部35aが形成されており、削孔ビット部材31には中央孔部73と噴孔74が形成されているので、削孔をしながら、または削孔と交互に薬液注入を行うことも可能で、作業効率を向上することもできる。
【0057】
さらに、作業後に埋め殺しにされるケーシングパイプ51は合成樹脂製であるので、後の掘削等の作業に影響はなく、作業効率を向上することができる。
【0058】
またケーシングパイプ51が逆止弁付きの噴射孔52を有しているので、削孔を行った後に薬液注入を行う場合に、ケーシングパイプ51を抜き取らずに埋めた状態のまま作業が行える。つまり、作業の簡単化を図ることができる。
【0059】
以下、その他の例を説明する。説明に際して、上記構成との同一の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0060】
図11は、削孔ビット部材31と先端スリーブ41とを接続する凹部と抜け止め部材の他の例を示している。すなわち、削孔ビット部材31の本体部材61には、球体68の半分を転動可能に収容する凹部67aが複数個形成され、一方、先端スリーブ41の内周面における全周に凹溝42が形成されている。
【0061】
このような構成によれば、本体部材61における厚みの薄い部分を少なくすることができて、強度を維持できる。また、球体68の数を低減してコストを抑えることもできる。
【0062】
図12、図13は、ケーシングパイプ51の回転を阻止または抑制し、ケーシングパイプ51にかかる衝撃を和らげる緩衝が、削孔ビット部材31と先端スリーブ41との間のみではなく、先端スリーブ41自体でも行えるようにした例である。
【0063】
すなわち、先端スリーブ41が長さ方向において複数個の先端スリーブ担体に分割され、これら先端スリーブ担体における相互に対向する側の端部には、内外に重合する筒状の重合筒部が形成され、これら重合筒部における内外で重合するそれぞれの対向面に、凹部が形成され、これら凹部間に、先端スリーブ担体同士を相対回転可能に接続するとともに接続状態を保持する抜け止め部材が保持された構成である。
【0064】
図12の削孔工11は、先端スリーブ41が、先端スリーブ担体として、削孔ビット部材31に接続する先端スリーブ本体47と、この先端スリーブ本体47の後端に接続される円筒状をなす1個の補助部材48を有するものである。そして、先端スリーブ本体47の後端には、補助部材48の内側に重合する筒状の重合筒部47aが形成されている。この重合筒部47aの長さ方向の中間部における外周面の全周には、凹溝47bが形成されている。
【0065】
一方、補助部材48の先端には、上記重合筒部47aの外周に相対回転可能に嵌合する筒状の重合筒部48aが形成され、この重合筒部48aにおける上記凹溝47bに対向する部位には、全周にわたって凹溝48bが形成されている。そして、凹溝47b,48b間には、図6に示したのと同様に、たとえばウレタンゴム等の可撓性材料かなる線状体50が装入され、先端スリーブ本体47と補助部材48とを相対回転可能で、しかも分離不能に接続している。線状体50を用いるので、球体を用いた場合に比して肉厚の薄い構造部分に適用することができるとともに、接続作業が容易である。
【0066】
また、補助部材48の後端部の内周面には、接続ねじ部45が形成され、ケーシングパイプ51の接続に備えている。
【0067】
このような構成によれば、ロッド21を回転しながら打撃を加えて削孔したときに、先端スリーブ41の先端部と後端部の2段階で、連れまわり防止と緩衝が行え、ケーシングパイプ51にかかる負荷を一そう軽減できる。
【0068】
図13の削孔工具11は、先端スリーブ41が、先端スリーブ担体として、削孔ビット部材31に接続する先端スリーブ本体47と、この先端スリーブ本体47の後端に接続される円筒状をなす2個の補助部材48,49を有するものである。つまり、この削孔工具11においては、三段階で、連れまわり防止と緩衝が行える。
【0069】
図中、補助部材48の48aは、先端スリーブ本体47の重合筒部47aの外周に嵌まる重合筒部48aで、その内周面には凹溝48bが形成されるとともに、この補助部材48の後端には、補助部材49の内側に重合する筒状の重合筒部48cが形成されている。そして、この重合筒部48cの外周面に、凹部としての凹溝48dが全周にわたって形成されている。
【0070】
また、補助部材48の後端に接続される補助部材49は、上記重合筒部48cの外周に相対回転可能に嵌合する筒状の重合筒部49aが形成され、この重合筒部49aにおける上記凹溝48dに対向する部位には、全周にわたって、上記凹部としての凹溝49bが形成されている。そして、凹溝47b,48b、48d,49b間には、図6に示したのと同様に、たとえばウレタンゴム等の可撓性材料かなる線状体50が装入され、先端スリーブ本体47と補助部材48,49を相対回転可能で、しかも分離不能に接続している。
【0071】
このように、三段階でケーシングパイプ51に対する連れまわり防止と衝撃緩和を図ることができるので、ケーシングパイプ51にかかる負荷を更に一そう軽減することが可能である。二段階、三段階のほか、それよりも増やすこともできる。
【0072】
なお、抜け止め部材としては、上記線状体50に代えて、図5に示したような球体や、短円柱状のローラ等を使用することもできる。
【0073】
この発明の構成と、上記一形態の構成との対応において、
この発明の抜け止め部材は、上記一形態における球体68、線状体68aに対応し、
凹部は、凹溝42,67、凹部67aに対応し、
転動体は、球体68に対応し、
筒状部は、係合筒状部25と被係合筒状部62に対応するも、
この発明は、上記一形態の構成のみに限定されるものではなく、その他の様々な形態を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】削孔工具の断面図。
【図2】削孔工具の分解状態の断面図。
【図3】筒状部の分解斜視図。
【図4】図1におけるA−A部分の要部断面図。
【図5】図1におけるB−B線矢視断面図。
【図6】他の例を示す断面図。
【図7】作用状態の断面図。
【図8】作用状態の断面図。
【図9】作業工程を示す説明図。
【図10】作業工程を示す説明図。
【図11】他の例を示す断面図。
【図12】他の例に係る削孔工具の断面図。
【図13】他の例に係る削孔工具の断面図。
【符号の説明】
【0075】
11…削孔工具
21…ロッド
25…係合筒状部
31…削孔ビット部材
35…芯部材
41…先端スリーブ
42…凹溝
51…ケーシングパイプ
62…被係合筒状部
67…凹溝
67a…凹部
68…球体
68a…線状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔のための動力を伝達するロッドと、該ロッドの先に設けられて削孔を行う削孔ビット部材とを有し、該削孔ビット部材の後部には、上記ロッドの外周側を包囲するケーシングパイプの先端に取り付けられる筒状の先端スリーブが接続された削孔工具であって、
上記削孔ビット部材と先端スリーブとにおける内外で重合するそれぞれの対向面に、凹部が形成され、
これら凹部間に、削孔ビット部材と先端スリーブとを相対回転可能に接続するとともに接続状態を保持する抜け止め部材が保持された
削孔工具。
【請求項2】
前記削孔ビット部材と先端スリーブとに形成される凹部のうち、少なくともいずれか一方が全周にわたって形成された凹溝である
請求項1に記載の削孔工具。
【請求項3】
前記抜け止め部材が、複数個の転動体からなる
請求項1または請求項2に記載の削孔工具。
【請求項4】
前記抜け止め部材が、可撓性を有する線状体である
請求項1または請求項2に記載の削孔工具。
【請求項5】
前記抜け止め部材が、弾性体からなるものである
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の削孔工具。
【請求項6】
前記ロッドと削孔ビット部材のそれぞれの連結部分が、中空に形成された筒状部を有するとともに、
これら筒状部の内側に、筒状部間にまたがるように芯部材が挿入され、
該芯部材が存在する部分の外周側に、上記凹部が形成された
請求項1から請求項5のうちのいずれか一項に記載の削孔工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−115612(P2008−115612A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300126(P2006−300126)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(591046858)アロイ工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】