説明

創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置

【課題】保管ラックに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブの開口部を封鎖しているキャップを、封入物を汚染したり、こぼしたりすることなく、短時間で取り外すことができ、キャップの取り外しに際し、創薬用マイクロチューブを損傷させることがなくチューブの再使用可能回数を増加させるキャップ外し装置を提供する。
【解決手段】創薬用マイクロチューブのキャップ頭部に形成された凹部に緊合させたピッキング軸棒110を傾倒部材150により傾倒させながら保管ラックRをスライドさせて、創薬用マイクロチューブからキャップを外し、軸棒ホルダ120を上下移動用アクチュエータ130でピッキング軸棒110の軸方向に移動させて、ピッキング軸棒110の先端に緊合したキャップを櫛歯金具140により抜き落としてキャップボックス180に収納することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創薬研究の分野において、創薬用試料を封入するために使用される創薬用マイクロチューブに関するものであり、さらに詳しくは、保管ラックに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブの開口部を封鎖しているキャップを保管ラックの列単位で纏めて取り外すために使用されるキャップ外し装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
創薬研究の分野においては、大量の試料を低温で保管したり分析したりする実験を高効率で行う必要がある。そのため、試料を溶解した溶液をマイクロチューブと呼ばれる円筒状容器に封入し、このマイクロチューブをSBS(Society for Biomolecular Screening)規格に準拠した8行×12列の合計96個の格子状に区画された保管ラック(以下、「96ラック」という)に垂直に並び立てて収容し、保管や搬送を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年においては、前述した96ラックと外形が同じ大きさで、より大量のマイクロチューブを収容するために、16行×24列の合計384個の総区画数を有する保管ラック(以下、「384ラック」という)も知られている。(例えば、特許文献2参照。)
【特許文献1】特開2002−225895号公報(第2頁第4段落、図1)
【特許文献2】特開2007−33061号公報(第6頁第25〜26段落、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、96ラックに対応したマイクロチューブ(以下、「96チューブ」という)では、開口部を着脱可能なキャップで封鎖して、1つのマイクロチューブを繰り返し創薬用試料の保管や分析に使用することが可能であったが、384ラックに対応したマイクロチューブ(以下、「384チューブ」という)では、384チューブの開口部のサイズが96チューブの開口部のサイズのほぼ1/4に縮小されているとともに、384ラックに収容された隣接する384チューブ間の隙間がきわめて狭いため、開口部の封鎖に着脱可能なキャップを用いることが困難であった。そのため、従来の384チューブは、384ラックに収容したまま各384チューブの開口部にアルミニウムの薄膜シートを加熱溶着により貼着した後に、各384チューブ毎にカットして開口部を封鎖する方法が採用されていた。この方法では、一度、開口部の封鎖部材であるアルミニウムを開封すると再び封鎖することが困難で、事実上、384チューブは、使い捨ての使用にならざるを得ず資源の無駄が発生するばかりか、保管途中にチューブ内の試料を分析のために少しだけ抜き取ったり試薬や他の試料を注液したりするという多工程からなる高度な実験に対応できないという課題が指摘されていた。
【0005】
そこで、384チューブの開口部を弾性を有するキャップで封鎖して、384ラックに保管することが提案されているが、キャップ間の隙間がほとんどない上、キャップが小さいため人手では扱いづらく、キャップとともにチューブも一緒にラックから抜けてしまう共上げが発生しやすく、そのためキャップを外すために手間と時間を要していた。また、キャップをチューブに対して傾倒させて外そうとすると、キャップの挿入部とチューブの開口部の内周面とが擦れ合い、両者の摩擦によりチューブの開口部の内周面に傷ができて、創薬用マイクロチューブに要求される機密性が失われ、チューブの再使用可能回数が減少するという課題があった。さらに、人手によりキャップを外すとチューブ内の試料を汚染したり、試料をこぼしたりするという課題があった。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、保管ラックに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブの開口部を封鎖しているキャップを、封入物を汚染したり、こぼしたりすることなく、短時間で取り外すことができるとともに、キャップの取り外しに際し、創薬用マイクロチューブを損傷させることがなくチューブの再使用可能回数を増加させる創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず、本請求項1に係る発明は、保管ラックに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブの開口部を封鎖している頭部に凹部が形成された弾性を有するキャップを前記保管ラックの列単位で取り外し、キャップボックスに収納する創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置であって、前記キャップの凹部に弾性に抗して緊合可能な外径を有する保管ラックの列単位の数と同数のピッキング軸棒と、該ピッキング軸棒を保管ラックのピッチ間隔に離間させて平行かつ直線状に保持する軸棒ホルダと、該軸棒ホルダをピッキング軸棒の軸方向に移動させる上下移動用アクチュエータと、前記ピッキング軸棒の直径よりも大きくかつキャップの外径より小さな幅の溝を保管ラックのピッチ間隔と同間隔で列単位の数と同数分櫛歯状に形成し該溝の各々の幅方向中央にピッキング軸棒が収まるように配置された櫛歯金具と、前記保管ラックを水平方向にスライドさせる水平移動用アクチュエータと、前記ピッキング軸棒、軸棒ホルダ、櫛歯金具及び上下移動用アクチュエータを一体に傾倒させる傾倒部材とを備え、前記キャップの凹部に緊合させたピッキング軸棒を傾倒部材により傾倒させながら保管ラックを傾倒方向と逆方向にスライドさせて、前記創薬用マイクロチューブからキャップを外し、前記軸棒ホルダを上下移動用アクチュエータでピッキング軸棒の軸方向に移動させて、前記ピッキング軸棒の先端に緊合したキャップを櫛歯金具により抜き落としてキャップボックスに収納することにより、前記課題を解決したものである。
【0008】
また、本請求項2に係る発明は、請求項1に係る創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置において、前記ピッキング軸棒の最大傾倒角が45°のとき保管ラックの最大スライド距離が、前記キャップの直径の4分の1であることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0009】
そして、本請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係る創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置において、前記保管ラックが、SBS規格に準拠した16行×24列の格子状に区画されたものであることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0010】
ここで、本発明において、「キャップの直径」とは、創薬用マイクロチューブの開口部に挿入される挿入部の最大直径を意味している。また、「列単位の数分」とは、保管ラックの1列を構成する区画の数を意味しており、すなわち、16行×24列の保管ラックの場合、「列単位の数分」は、16である。
【発明の効果】
【0011】
本請求項1に係る発明によれば、保管ラックに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブの開口部を封鎖している頭部に凹部が形成された弾性を有するキャップを保管ラックの列単位で取り外し、キャップボックスに収納する創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置であって、キャップの凹部に弾性に抗して緊合可能な外径を有する保管ラックの列単位の数と同数のピッキング軸棒と、ピッキング軸棒を保管ラックのピッチ間隔に離間させて平行かつ直線状に保持する軸棒ホルダと、軸棒ホルダをピッキング軸棒の軸方向に移動させる上下移動用アクチュエータと、ピッキング軸棒の直径よりも大きくかつキャップの外径より小さな幅の溝を保管ラックのピッチ間隔と同間隔で列単位の数と同数分櫛歯状に形成し、その溝の各々の幅方向中央にピッキング軸棒が収まるように配置された櫛歯金具と、保管ラックを水平方向にスライドさせる水平移動用アクチュエータと、ピッキング軸棒、軸棒ホルダ、櫛歯金具及び上下移動用アクチュエータを一体に傾倒させる傾倒部材とを備え、キャップの凹部に緊合させたピッキング軸棒を傾倒部材により傾倒させながら保管ラックを傾倒方向と逆方向にスライドさせて、創薬用マイクロチューブからキャップを外し、軸棒ホルダを上下移動用アクチュエータでピッキング軸棒の軸方向に移動させて、ピッキング軸棒の先端に緊合したキャップを櫛歯金具により抜き落としてキャップボックスに収納することにより、保管ラックに垂直に並び立てて収容されている複数の創薬用マイクロチューブのキャップを列単位で纏めて取り外すことができるため、キャップの取り外し作業を短時間で行うことができる。
【0012】
また、キャップの頭部に形成された凹部にピッキング軸棒を緊合させ、傾倒及び軸方向への移動によって、創薬用マイクロチューブからキャップの取り外しを行うことができるため、特別なキャップ把持機構が必要ないので、装置の構造が簡略化されるとともに、製造コストを削減することができる。さらに、キャップを傾けるときに、ピッキング軸棒の傾倒に同期させてチューブをキャップの傾倒方向と逆方向にスライドさせることにより、キャップとチューブが擦り合わないので、キャップの取り外し時に、創薬用マイクロチューブの損傷を抑制しチューブの再使用可能回数を増加させることができる。
【0013】
加えて、人手を介することなくキャップを外すことができるため創薬用マイクロチューブ内に封入されている試料を汚染したり外部に漏らしたりすることが抑制される。
【0014】
また、請求項2に係る発明によれば、請求項1に係る創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置において、ピッキング軸棒の最大傾倒角が45°のとき保管ラックの最大スライド距離が、キャップの直径の4分の1であることにより、キャップの取り外し時におけるキャップの先端とチューブとの擦り合いの度合いが最小となるので、創薬用マイクロチューブの損傷をより一層抑制し、チューブの再使用可能回数をさらに増加させることができる。
【0015】
そして、本請求項3に係る発明によれば、請求項1又は請求項2に係る創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置において、保管ラックが、SBS規格に準拠した16行×24列の格子状に区画されたものであることにより、384チューブの開口部を着脱可能なキャップで封鎖できるため、384チューブの繰り返し利用が可能になり省資源化に貢献できるとともに、保管途中に384チューブ内の試料を分析のために少しだけ抜き取ったり試薬や他の試料を注液したりするという多工程からなる高度な実験に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置は、保管ラックに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブの開口部を封鎖している頭部に凹部が形成された弾性を有するキャップを保管ラックの列単位で取り外し、キャップボックスに収納するものであって、キャップの凹部に弾性に抗して緊合可能な外径を有する保管ラックの列単位の数と同数のピッキング軸棒と、ピッキング軸棒を保管ラックのピッチ間隔に離間させて平行かつ直線状に保持する軸棒ホルダと、軸棒ホルダをピッキング軸棒の軸方向に移動させる上下移動用アクチュエータと、ピッキング軸棒の直径よりも大きくかつキャップの外径より小さな幅の溝を保管ラックのピッチ間隔と同間隔で列単位の数と同数分櫛歯状に形成し、その溝の各々の幅方向中央にピッキング軸棒が収まるように配置された櫛歯金具と、保管ラックを水平方向にスライドさせる水平移動用アクチュエータと、ピッキング軸棒、軸棒ホルダ、櫛歯金具及び上下移動用アクチュエータを一体に傾倒させる傾倒部材とを備え、キャップの凹部に緊合させたピッキング軸棒を傾倒部材により傾倒させながら保管ラックを傾倒方向と逆方向にスライドさせて、創薬用マイクロチューブからキャップを外し、軸棒ホルダを上下移動用アクチュエータでピッキング軸棒の軸方向に移動させて、ピッキング軸棒の先端に緊合したキャップを櫛歯金具により抜き落としてキャップボックスに収納することにより、保管ラックに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブの開口部を封鎖しているキャップを、封入物を汚染したり、こぼしたりすることなく、短時間で取り外すことができるとともに、キャップの取り外しに際し、創薬用マイクロチューブを損傷させることがなくチューブの再使用可能回数を増加させるものであれば、その具体的な実施の態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0017】
例えば、本発明の創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置が対象とするマイクロチューブは、円筒形状のものであっても、四角筒形状のものであっても、キャップ外し動作に何ら支障はない。
【0018】
また、本発明の創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置に用いられる上下移動用アクチュエータ及び水平移動用アクチュエータは、保管ラックのピッチ間隔よりも細かい精度で位置決め制御可能なものであれば、サーボモータを用いたものやリニアモータを用いたものなど、どのような形式のアクチュエータであっても構わない。
【0019】
本発明の一実施例を図1乃至図9に基づいて説明する。
ここで、図1は、本実施例の創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置が対象としている保管ラック及び創薬用マイクロチューブの斜視図であり、図2は、本実施例のキャップ外し装置が対象としている創薬用マイクロチューブのキャップの斜視図であり、図3は、本実施例のキャップ外し装置の全体斜視図であり、図4は、図3に示したキャップ外し装置のIV部の拡大図である。また、図5乃至図7は、本実施例のキャップ外し装置の動作を示すために装置の一部の部材を省略して示した側面図である。そして、図8は、従来のキャップ外し装置によってキャップを外す動作の詳細を説明する断面図であり、図9は、本実施例のキャップ外し装置によってキャップを外す動作の詳細を説明する断面図である。
【0020】
(創薬用マイクロチューブと保管用ラックについて)
まず、本実施例である創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置によって、キャップの取り外しが行われる創薬用マイクロチューブとそれを収容するSBS規格に準拠した16行×24列の格子状に区画された保管ラックについて、図1に基づいて説明する。
【0021】
創薬用マイクロチューブMTは、図1の拡大斜視図に示すように、略四角筒形状であり底部に向けて細くなっているとともに外側面の角部に面取りが施されている。そして、その開口部は、円柱形状で頭部に円形状の凹部C1が形成されたキャップCが嵌合するような形状に成形されている。
【0022】
一方、保管ラックRは、ラックフレームの内側に格子状に区画された隔壁を有しており、この格子状の区画に前述した創薬用マイクロチューブMTの底部が嵌合する。なお、創薬用マイクロチューブMT及び保管ラックRの形状は、互いに安定した状態で嵌合するものであれば、それらの形状は、特に限定されるものではない。
【0023】
(創薬用マイクロチューブのキャップについて)
次に、キャップCについて図2に基づいて詳述する。キャップCは、図2に示すように、創薬用マイクロチューブの開口部に挿入される挿入部C3と、この挿入部C3の外周径よりも大きな外周径を有し創薬用マイクロチューブの開口部から突出する把持部C2を有している。そして、キャップCの挿入部C3には、先端に向けて細くなるテーパC6が形成されている。
【0024】
また、キャップCの挿入部C3と把持部C2との境界に段差が形成されているとともに、挿入部C3の境界近傍に、創薬用マイクロチューブの開口部の内壁と密着しないくびれC4が形成されている。このくびれC4が設けられていることにより、キャップCの挿入部C3の外周面と創薬用マイクロチューブの開口部の内壁との間に形成される気密嵌合面C5の面積が小さくなり、気密嵌合面C5に生じる接触面圧が大きくなるため、キャップCと創薬用マイクロチューブの開口部との気密性が向上する。このキャップCは、弾性に抗してキャップ外し装置のピッキング軸棒と緊合する必要があるため、弾性力に優れたポリエチレン等により形成することが好ましい。
【0025】
(キャップ外し装置の構成について)
ここで、本実施例の創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置100の構成について説明する。本実施例のキャップ外し装置100は、図3及び図3のIV部を拡大した図4に示すように、創薬用マイクロチューブのキャップCの凹部に、このキャップCが有する弾性に抗して緊合可能な外径を有するピッキング軸棒110を有している。このピッキング軸棒110は、保管ラックRの列単位の数と同数分、すなわち、本実施例においては、16本設けられている。
【0026】
このピッキング軸棒110は、保管ラックRのピッチ間隔に離間されて、平行かつ直線状に軸棒ホルダ120に固設されている。そして、軸棒ホルダ120は、上下移動用アクチュエータ130のスライダ部132に取り付けられていて、ピッキング軸棒110の軸方向に移動可能になっている。
【0027】
また、ピッキング軸棒110の直径よりも大きくキャップCの外径より小さな幅の溝142を保管ラックRのピッチ間隔と同間隔で、保管ラックRの列単位の数と同数分、すなわち、本実施例においては、16個、櫛歯状に形成し、これらの溝142の各々の幅方向中央にピッキング軸棒110が収まるように櫛歯金具140が配置されている。
【0028】
そして、上下移動用アクチュエータ130及び櫛歯金具140は、傾倒部材150に固設されている。この傾倒部材150は、側面が略L字形状をしており、この側面上に、ピッキング軸棒110とキャップCが緊合する位置と略同じ高さ且つ同じ前後位置に傾倒軸152を有しており、この傾倒軸152を中心として、ピッキング軸棒110、軸棒ホルダ120、上下移動用アクチュエータ130及び櫛歯金具140を一体に傾倒させることができるようになっている。
【0029】
保管ラックRは、ラックホルダテーブル162上に載置され、水平移動用アクチュエータ160によって、水平に移動可能となっている。この水平移動用アクチュエータ160の進退動作により、キャップ外しを行いたいキャップ付の創薬用マイクロチューブが垂直に並び立てて収容されている列がピッキング軸棒110の真下に来るように順次移動させられる。なお、図3に仮想線で示すように、櫛歯金具140の前方には、取り外したキャップCを収容するためのキャップボックス180が設置されている。
【0030】
また、傾倒部材150に設けられた傾倒軸152の片側には、傾倒部材150を傾倒させるための傾倒用モータ170が連結されている。
【0031】
(キャップ外し装置の動作について)
続いて、図5乃至図9に基づいて、本実施例のキャップ外し装置100が創薬用マイクロチューブMTのキャップCを取り外す動作について説明する。
【0032】
ここで、図5乃至図7は、本実施例のキャップ外し装置100の傾倒部材150の周辺部材を省略した側面図を示しており、図5及び図7においては、手前側の傾倒軸152の描写を省略し、傾倒軸穴154から見えるピッキング軸棒110とキャップCとラックRについて、拡大した図を合わせて示している。図7においては、傾倒軸穴154を含んでピッキング軸棒110と櫛歯金具140との位置関係が分かるような円で囲った部分の拡大図を合わせて示している。図8は、本実施例のキャップ外し装置の動作の特徴を明確にするために、比較対照として、従来のキャップ外し装置によってキャップを外す動作の詳細を説明する断面図であり、図9は、本実施例のキャップ外し装置によってキャップを外す動作の詳細を説明する断面図である。
【0033】
まず、上下移動用アクチュエータ130が垂直である状態において、水平移動用アクチュエータ160によって、保管ラックRに垂直に並び立てて収容された創薬用マイクロチューブMTの開口部を封鎖している頭部に凹部が形成された弾性を有するキャップCを列単位で取り外す対象となる列が、ピッキング軸棒110の真下に来るように保管ラックRが載置されたラックホルダテーブル162を移動させる。そして、軸棒ホルダ120を上下移動用アクチュエータ130によって降下させて、図5に示すように、ピッキング軸棒110の先端をキャップCの凹部にキャップCの弾性に抗して緊合させる。傾倒軸穴154内の拡大図に示された二重線で示された部材は、向こう側の傾倒軸152(図4参照)を示している。なお、ピッキング軸棒110は、1本のように見えるが、これは、真横から見ているためであって、実際には、図4に示すように列単位の数と同数分、すなわち、16本配備されている。
【0034】
次に、図6に示すように、傾倒用モータを駆動して傾倒部材150を傾倒させることによって、ピッキング軸棒110の先端に緊合しているキャップCを傾倒させて創薬用マイクロチューブMTの開口部から外す。
【0035】
この時、図8に示すように、創薬用マイクロチューブMTの位置を固定したまま、ピッキング軸棒110をT方向に傾倒させてキャップCを外そうとすると、図8の拡大断面図に示すように、キャップCのくびれC4の一部と創薬用マイクロチューブMTの開口部の端面との接触点を中心にキャップCが傾き、キャップCのテーパC6(先端部)が創薬用マイクロチューブMTの開口部の内周面に擦り合う。その結果、創薬用マイクロチューブMTの開口部の内周面が摩耗する。この問題を解消するために、本実施例のキャップ外し装置100においては、図9に示すように、キャップCのくびれC4の一部と創薬用マイクロチューブMTの開口部の端面との接触点を中心にキャップCをT方向に傾けながら、創薬用マイクロチューブMTを傾倒方向と逆方向、すなわち、図9に示したS方向にスライドさせる。その結果、図9の拡大断面図に示すように、キャップCのテーパC6と先端部が創薬用マイクロチューブMTの開口部の内周面とが擦り合う度合いが軽減するため、創薬用マイクロチューブMTの開口部の内周面の摩耗が減少する。
【0036】
なお、創薬用マイクロチューブMTのS方向へのスライド距離とキャップCのT方向への傾倒角との関係について、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、キャップCの挿入部C3の最大直径が4mmの場合、キャップCをT方向に45°傾倒させたときに創薬用マイクロチューブMTをS方向へ1mm移動させることによって、キャップCのテーパC6の先端部と創薬用マイクロチューブとの擦り合いが最小になることが判明した。すなわち、本実施例のキャップ外し装置100は、ピッキング軸棒110の最大傾倒角が45°のとき保管ラックRの最大スライド距離がキャップCの直径の4分の1となるように構成されている。
【0037】
キャップCが創薬用マイクロチューブMTの開口部から外れたら、図7に示すように、傾倒部材150をさらに傾倒させて、上下移動用アクチュエータ130により軸棒ホルダ120を上方に引き上げる。その結果、ピッキング軸棒110の先端に緊合していたキャップCは、櫛歯金具140によって抜き落とされ、キャップボックス180の中に収容される。
【0038】
このような一連の動作を繰り返すことによって、保管ラックRに垂直に並び立てて収容された創薬用マイクロチューブMTのキャップCを、保管ラックRの列単位で纏めて取り外すことができる。
【0039】
以上のように、本実施例の創薬用マイクロチューブMTのキャップ外し装置100によれば、保管ラックRに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブMTの開口部を封鎖している頭部に凹部C1が形成された弾性を有するキャップCを保管ラックRの列単位で取り外し、キャップボックス180に収納するものであって、キャップCの凹部C1に弾性に抗して緊合可能な外径を有する保管ラックRの列単位の数と同数のピッキング軸棒110と、ピッキング軸棒110を保管ラックRのピッチ間隔に離間させて平行かつ直線状に保持する軸棒ホルダ120と、軸棒ホルダ120をピッキング軸棒110の軸方向に移動させる上下移動用アクチュエータ130と、ピッキング軸棒110の直径よりも大きくかつキャップCの外径より小さな幅の溝を保管ラックRのピッチ間隔と同間隔で列単位の数と同数分櫛歯状に形成し、その溝の各々の幅方向中央にピッキング軸棒110が収まるように配置された櫛歯金具140と、保管ラックRを水平方向にスライドさせる水平移動用アクチュエータ160と、ピッキング軸棒110、軸棒ホルダ120、櫛歯金具140及び上下移動用アクチュエータ130を一体に傾倒させる傾倒部材150とを備え、キャップCの凹部C1に緊合させたピッキング軸棒110を傾倒部材150により傾倒させながら保管ラックRを傾倒方向と逆方向にスライドさせて、創薬用マイクロチューブMTからキャップCを外し、軸棒ホルダ120を上下移動用アクチュエータ130でピッキング軸棒110の軸方向に移動させて、ピッキング軸棒110の先端に緊合したキャップCを櫛歯金具140により抜き落としてキャップボックス180に収納することにより、保管ラックRに垂直に並び立てて収容されている複数の創薬用マイクロチューブMTのキャップCを列単位で纏めて取り外すことができるため、キャップCの取り外し作業の高速化を実現できる。
【0040】
また、キャップCの頭部に形成された凹部C1にピッキング軸棒110を緊合させ、傾倒及び軸方向への移動によって、創薬用マイクロチューブMTからキャップCの取り外しを行うことができるため、特別なキャップ把持機構が必要ないので、装置の構造が簡略化されるとともに、製造コストを削減することができる。
【0041】
さらに、キャップCを傾けるときに、ピッキング軸棒110の傾倒に同期させて創薬用マイクロチューブMTをキャップCの傾倒方向と逆方向にスライドさせることにより、キャップCと創薬用マイクロチューブMTが擦り合わないので、キャップCの取り外し時に、創薬用マイクロチューブMTの損傷を抑制しチューブの再使用可能回数を増加させることができ、その効果は甚大である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置は、384チューブの繰り返し利用を可能とし、省資源化に貢献するとともに、保管途中に384チューブ内の試料を分析のために少しだけ抜き取ったり試薬や他の試料を注液したりするという多工程からなる高度な実験を可能とし、創薬研究の発展に貢献するなど、その産業上の利用可能性はきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施例が対象とする創薬用マイクロチューブと保管ラックの斜視図。
【図2】本実施例のキャップ外し装置が対象としている創薬用マイクロチューブのキャップ斜視図。
【図3】本実施例のキャップ外し装置の全体斜視図。
【図4】図3のIV部の拡大図。
【図5】本実施例のキャップ外し装置の動作を示すための概略側面図。
【図6】本実施例のキャップ外し装置の動作を示すための概略側面図。
【図7】本実施例のキャップ外し装置の動作を示すための概略側面図。
【図8】従来のキャップ外し装置によってキャップを外す動作の詳細を説明する断面図。
【図9】本実施例のキャップ外し装置によってキャップを外す動作の詳細を説明する断面図。
【符号の説明】
【0044】
100 ・・・ 創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置
110 ・・・ ピッキング軸棒
120 ・・・ 軸棒ホルダ
130 ・・・ 上下移動用アクチュエータ
132 ・・・ (上下移動用アクチュエータの)スライダ部
140 ・・・ 櫛歯金具
142 ・・・ (櫛歯金具の)溝
150 ・・・ 傾倒部材
152 ・・・ (傾倒部材の)傾倒軸
154 ・・・ (傾倒部材の)傾倒軸穴
160 ・・・ 水平移動用アクチュエータ
162 ・・・ ラックホルダテーブル
170 ・・・ 傾倒用モータ
180 ・・・ キャップボックス
MT ・・・ 創薬用マイクロチューブ
C ・・・ キャップ
C1 ・・・ (キャップの)凹部
C2 ・・・ (キャップの)把持部
C3 ・・・ (キャップの)挿入部
C4 ・・・ (キャップの)くびれ
C5 ・・・ (キャップの)気密嵌合面
C6 ・・・ (キャップの)テーパ
R ・・・ 保管ラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保管ラックに垂直に並び立てて収容された複数の創薬用マイクロチューブの開口部を封鎖している頭部に凹部が形成された弾性を有するキャップを前記保管ラックの列単位で取り外し、キャップボックスに収納する創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置であって、
前記キャップの凹部に弾性に抗して緊合可能な外径を有する保管ラックの列単位の数と同数のピッキング軸棒と、
該ピッキング軸棒を保管ラックのピッチ間隔に離間させて平行かつ直線状に固設する軸棒ホルダと、
該軸棒ホルダをピッキング軸棒の軸方向に移動させる上下移動用アクチュエータと、
前記ピッキング軸棒の直径よりも大きくかつキャップの外径より小さな幅の溝を保管ラックのピッチ間隔と同間隔で列単位の数と同数分櫛歯状に形成し該溝の各々の幅方向中央にピッキング軸棒が収まるように配置された櫛歯金具と、
前記保管ラックを水平方向にスライドさせる水平移動用アクチュエータと、
前記ピッキング軸棒、軸棒ホルダ、櫛歯金具及び上下移動用アクチュエータを一体に傾倒させる傾倒部材とを備え、
前記キャップの凹部に緊合させたピッキング軸棒を傾倒部材により傾倒させながら保管ラックを傾倒方向と逆方向にスライドさせて、前記創薬用マイクロチューブからキャップを外し、前記軸棒ホルダを上下移動用アクチュエータでピッキング軸棒の軸方向に移動させて、前記ピッキング軸棒の先端に緊合したキャップを櫛歯金具により抜き落としてキャップボックスに収納することを特徴とする創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置。
【請求項2】
前記ピッキング軸棒の最大傾倒角が45°のとき保管ラックの最大スライド距離が、前記キャップの直径の4分の1であることを特徴とする請求項1記載の創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置。
【請求項3】
前記保管ラックが、SBS規格に準拠した16行×24列の格子状に区画されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の創薬用マイクロチューブのキャップ外し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−96627(P2010−96627A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267484(P2008−267484)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】