説明

加工根菜類の製造方法及び根菜類を含む食品の製造方法

【課題】冷凍根菜類の製造方法及びその製品を提供する。
【解決手段】カットした根菜類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍根菜類に解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件下で一定期間保持する処理を実施することにより、破断強度を向上させることを特徴とする冷凍根菜類の製造方法、上記処理を施したカット根菜類、当該カット根菜類を食材の一部として含有する食品及び上記根菜類を含む加熱調理済み食品の製造方法。
【効果】冷凍根菜類の破断強度を向上させ、破断歪率を低値に維持した根菜類及びそれを利用した調理済み食品等を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工根菜類の製造方法及び根菜類を含む食品の製造方法及びその製品に関するものであり、更に詳しくは、カットした人参、ごぼう、大根、馬鈴薯等の根菜類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍根菜類に、解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持するという簡便な処理を実施することにより、保持期間に応じて、破断強度を向上させた、加熱殺菌後でも軟化することのない根菜類の製造方法及び該根菜類を含む食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な冷凍人参は、例えば、人参をカットし、ブランチング(90〜100℃、3〜6分程度)した後、凍結することで製造されている(非特許文献1)。しかし、この種の製造方法では、凍結時に細胞膜へのダメージが生じるため、解凍したときに、破断歪率が増加し、スポンジのような不自然な食感となるという問題があった。また、このような冷凍人参を使用して調理、加熱殺菌を施したときに、加熱処理後の人参の破断強度が低下し、不自然な食感で歯ごたえのないものとなるという問題があった。
【0003】
また、従来、先行技術として、「野菜類の軟化防止方法」が提案されており、野菜類をCa溶液中に低温下で浸漬後、40〜70℃に上昇させると、その後の調理加熱で食感劣化を防止できること、Ca浸漬時間が5時間以上と長時間であること、が示されている(特許文献1)。また、他の先行文献に、「野菜類の加熱処理方法」が提案されており、野菜を60〜90℃(好ましくは70〜80℃)の蒸気に直接接触させる加熱処理法により野菜本来の良好な食感を維持できること、が示されている(特許文献2)。
【0004】
また、他に、「軟化防止野菜及び野菜類の軟化防止方法」が提案されており(特許文献3)、また、他に、「野菜類の軟化防止方法」が提案されており、凍結前に高濃度の糖溶液(実施例では60質量%糖溶液)などに長時間(実施例では16時間)浸漬することで、冷凍野菜類の軟化を防止できること、が示されている(特許文献4)。
【0005】
更に、他の先行文献に、「冷凍カット野菜類の製造方法」が提案されており、冷凍カット野菜類の製造において、水と接触状態で野菜類をカットし、水さらしをした後、直ちに凍結することで軟化が防止できること、が示されている(特許文献5)。
【0006】
その他にも、人参を生(ブランチングしない)で凍結し、解凍した人参が、ブランチング(100℃−3分)後に凍結し、解凍した場合よりも硬いこと、また、60℃で予め加熱(組織強化)してから凍結し、解凍した人参は、ある程度の硬さを維持するが、生人参をブランチングしたものと比較して、歪率が大きく、テクスチャーが異なる(不自然な食感である)こと、人参を生(ブランチングしない)で凍結し、解凍した後の歪率は、ブランチング後に凍結し、解凍した場合よりも、歪率が高くなること、等が示されている(非特許文献2〜5)。
【0007】
しかし、上記した従来の方法では、冷凍人参の解凍後の不自然な食感(スポンジ化、即ち、高い歪率の問題)を改善できないという課題があった。そこで、本発明者らは、解凍後の不自然な食感(スポンジ化)、即ち、高い破断歪率を改善し、加圧加熱殺菌などの加熱後でも自然な歯ごたえが得られるように、カットした直根類をブランチングを省略して凍結し、得られた直根類を解凍及び組織強化する技術を開発し、「直根類の軟化防止方法及びその製品」に関する特許出願をしている(特許文献6)。
【0008】
上述の技術を用いた場合、解凍後の不自然な食感(スポンジ化)、即ち、高い破断歪率は改善され、加熱殺菌後においても、あたかも生人参から調理したかのような自然で、程よい歯ごたえの感じられる人参が得られる。
【0009】
ただ、上記の技術を用いた場合でも、加熱殺菌後の歯ごたえ(破断強度)は十分満足の得られるレベルであるが、加熱殺菌後に更に歯ごたえのある(破断強度が向上した)人参が求められた場合、組織強化処理、即ち、解凍時に比較的長時間の加熱処理や高濃度のカルシウム溶液に浸漬するといった処理を実施する必要があった。
【0010】
しかし、このような処理を実施した場合、処理に時間がかかったり、高濃度のカルシウム溶液を作製する必要があるなど、工業生産的には非効率である。また、このような処理を実施した人参を加熱殺菌後に喫食した場合、口の中に繊維質が残った様な筋っぽい歯ざわりが感じられるという問題が生じる。
【0011】
【特許文献1】特開昭60−237957号公報
【特許文献2】特開平11−155513号公報
【特許文献3】特開平9−327276号公報
【特許文献4】特開平10−327794号公報
【特許文献5】特公平7−89860号公報
【特許文献6】特願2005−003218号
【非特許文献1】冷凍食品の事典、日本冷凍食品協会、p.56(2000年)
【非特許文献2】New Food Industry,Vol.37,No.6,p.7−14(1995)
【非特許文献3】Journal of Food Science,Vol.59,No.6,1162−1167(1994)
【非特許文献4】Journal of Food Science,Vol.60,No.1,132−136(1995)
【非特許文献5】Journal of Food Science,Vol.60,No.1,137−141(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、例えば、冷凍人参のスポンジのような不自然な食感が改善され、即ち、破断歪率が低く抑えられた人参で、加熱殺菌後にでも歯ごたえがある、つまり、破断強度が向上しており、かつ、筋っぽさが感じられない、自然な風味の人参に仕上げる処理技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた。
【0013】
その結果、例えば、ブランチングを省略し、冷凍した人参に、解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件、例えば、凍結や乾燥が起こらない、腐敗が進行しない条件で保持するという簡便な処理により、保持期間に応じて、加熱殺菌後の歯ごたえ、つまり、破断強度が向上することを見出し、また、このようにして得られた人参は、加熱殺菌後にも筋っぽさの感じられない、あたかも生人参を使用したかのような自然な歯ごたえ、風味となることを見出すと共に、更に、ごぼう、大根、馬鈴薯等の根菜類でもこうした傾向が見られるという知見も得ることができ、本発明を完成するに至った。本発明は、冷凍根菜類の製造方法、当該方法により破断強度を向上させて、加熱殺菌後でも生の根菜類を使用したかのような食感及び風味を有する根菜類及び当該根菜類を含む加熱調理済み食品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)カットした根菜類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍根菜類に解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施することにより、加熱処理後における根菜類の破断強度を向上させることを特徴とする加工根菜類の製造方法。
(2)カットされ、かつブランチングすることなく凍結された冷凍根菜類に、解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施することにより、加熱処理後の根菜類の破断強度を向上させることを特徴とする加工根菜類の製造方法。
(3)著しく品質が劣化しない条件である、0〜10℃で、根菜類を一定期間保持する処理を実施する、前記(1)又は(2)記載の加工根菜類の製造方法。
(4)上記解凍及び組織強化処理をカルシウム塩溶液中で実施する、前記(1)から(3)の何れか1項に記載の加工根菜類の製造方法。
(5)カットした根菜類を予め酸性溶液に浸漬して凍結する、前記(1)記載の加工根菜類の製造方法。
(6)上記酸性溶液が、クエン酸溶液である、前記(5)記載の加工根菜類の製造方法。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の方法で作製した、上記解凍及び組織強化処理を実施した根菜類であって、加圧加熱殺菌した後の破断強度が10×10Pa以上であることを特徴とするカット根菜類。
(8)前記(7)に記載のカット根菜類を食材の一部として含有することを特徴とする食品。
(9)カットされ、かつブランチングすることなく凍結された冷凍根菜類に、解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施することにより、加工根菜類を調製し、次いで、得られた加工根菜類を含む食品を加熱処理することを特徴とする根菜類を含む加熱処理済み食品の製造方法。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、加工根菜類の製造方法であって、カットした根菜類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍根菜類に解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施することにより、加熱処理後における根菜類の破断強度を向上させることを特徴とするものである。また、本発明は、上記加工根菜類を使用することで、上述のカット根菜類を食材の一部として含有する食品、更に、カットされ、かつブランチングすることなく凍結された冷凍根菜類に、解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施することにより、加工根菜類を調製し、次いで、得られた加工根菜類を含む食品を加熱処理することからなる上記根菜類を含む加熱処理済み食品の製造方法、を提供するものである。
【0016】
本発明は、加工根菜類の製造方法において、カットした根菜類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍根菜類に解凍及び組織強化処理を実施し、著しく品質が劣化しない条件、例えば、凍結や乾燥が起こらない、腐敗が進行しない条件で一定期間保持するという簡便な処理を実施することにより、保持期間に応じて、加熱殺菌後の歯ごたえ、即ち、破断強度が向上し、かつ、加熱殺菌後でも筋っぽさがなく、あたかも生の根菜類を使用したかのような自然な歯ごたえ、風味の根菜類とすることを特徴とするものである。尚、本発明においては、予めカットされ、かつブランチングすることなく凍結された冷凍根菜類を用意し、これに解凍及び組織強化処理を実施するようにすることも可能である。
【0017】
本発明では、冷凍根菜類に解凍及び組織強化処理を施した後、これを、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する方法としては、好適には、凍結や乾燥が起こらない、腐敗が進行しない条件で一定期間保持すること、好ましくは0〜10℃で一定期間保持すること、が例示され、その保持手段としては、具体的には、例えば、冷蔵庫、恒温庫、定温庫、インキュベーターなどを例示することができる。尚、この場合、温度が低すぎると凍結する可能性があり、高すぎると乾燥や腐敗が進行する懸念があるので、それ以外の条件で好適な条件を選択することが必要とされる。本発明において、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施するとは、上述の処理を実施することを意味する。
【0018】
また、本発明では、解凍及び組織強化処理を実施する方法としては、カットした冷凍根菜類を水あるいは湯に浸漬して20〜75℃で3分〜180分、好ましくは55〜70℃で30分〜40分加熱処理を実施する方法が例示され、また、加熱処理方法としては、具体的には、例えば、蒸気、湯浸漬、遠赤外、マイクロ波、熱風などによる処理が好ましく、蒸気、湯浸漬が最も好ましいものとして例示される。上記処理は、ペクチンメチルエステラーゼ酵素が失活しない程度の加熱条件で根菜類を加熱することで実施され、それにより、根菜類のペクチンメチルエステラーゼの活性化処理が実施される。
【0019】
上記加熱処理において、冷凍根菜類にカルシウム溶液中で解凍及び組織強化処理を実施する方法としては、例えば、塩化カルシウム溶液、乳酸カルシウム溶液、炭酸カルシウム溶液、酢酸カルシウム溶液などのカルシウム溶液中で、好適には、塩化カルシウムの場合、0.1〜4.0質量%、5〜75℃で120〜5分、好ましくは、0.25〜1.0%質量%、55〜65℃で10〜30分処理する方法が例示される。それにより、ペクチン中のカルボキシル基とカルシウムの結合が促進され、組織強化が実現される。
【0020】
カットした根菜類をブランチングを省略して凍結するに当たり、予め酸性溶液に浸漬する方法としては、例えば、クエン酸、酢酸、グルコン酸、アスコルビン酸、強酸性水、電解次亜水などの酸性溶液に浸漬する方法が例示される。
【0021】
上記酸性溶液としてクエン酸溶液を使用する場合、クエン酸濃度1.0質量%以上(pH2.2以下)では5〜45℃、60〜5分、クエン酸濃度0.03〜1.0質量%(pH4〜2.2)、好ましくは、0.05〜0.2質量%(pH3.4〜2.7)では、解凍後の食感が不自然にならない程度の弱い加熱、例えば、15mmダイス人参の場合、60℃では3〜10分、65℃では30秒〜3分、70℃では15秒〜1分、85℃では5〜30秒で、クエン酸溶液浸漬を併用することができる。
【0022】
人参を例にすると、カットした人参をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍人参に解凍及び組織強化処理を実施し、著しく品質が劣化しない条件、例えば、凍結や乾燥が起こらない、腐敗が進行しない条件で一定期間保持した場合、加圧加熱殺菌した後の人参の破断強度は10×10Pa以上であり、破断歪率が20%以下となる。
【0023】
本発明では、例えば、上記の加工人参を原料として使用し、加熱殺菌することにより作製された加熱殺菌済み食品であって、加熱殺菌後の歯ごたえ、つまり、破断強度が向上した人参を含有することを特徴とする加熱殺菌済み食品を提供することができる。尚、この場合、加熱殺菌には、加圧加熱殺菌、高温短時間殺菌、又は低温殺菌のいずれかを用いることができる。
【0024】
加熱殺菌方法としては、加圧加熱殺菌の場合、101℃〜140℃、90分〜3分、好ましくは115〜130℃、30分〜10分、高温短時間殺菌の場合、100℃〜140℃、5分〜2秒、好ましくは110℃〜135℃、3分〜2秒、低温殺菌の場合、55℃〜100℃、90分〜5分、好ましくは70〜100℃、60分〜10分、が例示される。
【0025】
本発明では、上記のいずれかに記載の方法を採用することにより、冷凍根菜類の破断歪率を低下させ、つまり、スポンジのような不自然な食感を改善し、かつ、破断強度を向上させて、歯ごたえが感じられるようにすることが可能となる。
【0026】
また、本発明では、上記人参に限らず、大根、ごぼう、馬鈴薯、サトイモ、レンコンなどの根菜類にも同様に適用することができ、それらの根菜類を、例えば、半加工食材、あるいは保存性食品の具材等として用いることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、冷凍根菜類の破断強度を向上させ、破断歪率を低値に維持することができる。
(2)冷凍根菜類を解凍後に、一定期間保持するという簡便な処理により、加熱殺菌後でも破断強度が向上した、歯ごたえのある、また、筋っぽさが感じられない高品質の冷凍根菜類を提供することができる。
(3)上記処理を施して破断強度を向上させた根菜類及び当該根菜類を使用した加熱調理済み食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
市販の人参(品種:向陽2号)を剥皮後、肉部を15mmのダイス状にカットし、0.2質量%クエン酸溶液(60℃)に5分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、この人参を恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結後の人参を、お湯(40℃)に3分間浸漬し、解凍及び組織強化処理を実施し、その後、4℃冷蔵庫に48時間保持して、破断強度を向上させた人参を作製した。
【0030】
保管後の人参を、カレーソースと共にレトルトパウチに充填し、密封後、122℃−23分の条件で加圧加熱殺菌した。加圧加熱殺菌後に、20℃の冷却水にパウチを浸漬し、12時間冷却した。その後、カレーソースより人参を取り出し、レオメーター(YAMADEN RE−3305)で突き刺し強度を測定し、破断強度・破断歪率を算出した。なお、測定の条件は、ロードセル荷重量は2kgf、直径3mm円形プランジャー、貫入速度1mm/sとした。
【0031】
比較例1
市販の人参(品種:向陽2号)を剥皮後、肉部を15mmのダイス状にカットし、0.2質量%クエン酸溶液(60℃)に5分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、この人参を恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結後の人参を、お湯(40℃)で3分間解凍し、保持期間を全く置かなかった(解凍直後に加圧加熱殺菌を実施した)人参を作製した。その後、前記実施例1と同様の方法で破断強度・破断歪率を算出し、比較例1とした。
【0032】
その結果を以下に示す。
破断強度(×10Pa) 破断歪率(%)
実施例1 10 17
比較例1 8 15
【0033】
凍結後の人参に、解凍及び組織強化処理を実施し、その後、4℃冷蔵庫に48時間保持することで、加圧加熱殺菌後の破断強度、即ち、歯ごたえを更に向上させる効果があること、また、破断歪率も低値で維持され、加圧加熱殺菌後においてもスポンジのような不自然な食感が軽減されていること、が分かった。
【実施例2】
【0034】
市販の人参(品種:新黒田五寸)を剥皮後、肉部を7g程度の乱切り状にカットし、0.2質量%クエン酸溶液(60℃)に5分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、この人参を恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結後の人参を、0.5質量%塩化カルシウム溶液(60℃)に10分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却し、解凍及び組織強化処理を実施した。その後、4℃冷蔵庫にそれぞれ24、48、72時間保持した人参を作製した。その後、前記実施例1と同様の方法で突き刺し強度を測定し、破断強度・破断歪率を算出した。
【0035】
比較例2
市販の人参(品種:新黒田五寸)を剥皮後、肉部を7g程度の乱切り状にカットし、0.2質量%クエン酸溶液(60℃)に5分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、この人参を恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結後の人参を、0.5質量%塩化カルシウム溶液(60℃)に10分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却し、保持期間を全く置かなかった(カルシウム浸漬、冷却直後に加圧加熱殺菌を実施した)人参を作製した。その後、前記実施例1と同様の方法で突き刺し強度を測定し、破断強度・破断歪率を算出した。
【0036】
それらの結果を以下に示す。
破断強度(×10Pa) 破断歪率(%)
実施例2 24時間後 18 11
48時間後 22 11
72時間後 27 11
比較例2 14 13
【0037】
凍結後の人参に、解凍及び組織強化処理を実施し、その後、4℃冷蔵庫に長時間保持することで、加圧加熱殺菌後の破断強度、即ち、歯ごたえが徐々に向上し、筋っぽさが感じられない自然な歯ごたえの人参が得られること、また、破断歪率は低値で維持され、加圧加熱殺菌後においてもスポンジのような不自然な食感が軽減されていること、が分かった。
【実施例3】
【0038】
市販の人参(品種:向陽2号)を剥皮後、肉部を15mmのダイス状にカットし、恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結後の人参を、0.5質量%塩化カルシウム溶液(60℃)に10分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却し、解凍及び組織強化処理を実施した。次いで、0℃、4℃、10℃に設定した恒温庫に48時間保持した人参を作製した。その後、前記実施例1と同様の方法で突き刺し強度を測定し、破断強度・破断歪率を算出した。
【0039】
比較例3
市販の人参(品種:向陽2号)を剥皮後、肉部を15mmのダイス状にカットし、恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結後の人参を、0.5質量%塩化カルシウム溶液(60℃)に10分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却し、保持期間を全く置かなかった(冷却直後に加圧加熱殺菌を実施した)人参を作製した。その後、前記実施例1と同様の方法で突き刺し強度を測定し、破断強度・破断歪率を算出した。
【0040】
それらの結果を以下に示す。
破断強度(×10Pa) 破断歪率(%)
実施例3 0℃−48時間 28 14
4℃−48時間 29 14
10℃−48時間 34 17
比較例3 17 16
【0041】
上記実施例では、冷凍人参をカルシウム処理後に、解凍及び組織強化処理を実施し、その後、0℃、4℃、10℃で保持したが、いずれにおいても加熱加圧殺菌後に歯ごたえ(破断強度)の向上が見られた。また、保持温度に関わらず、筋っぽさが感じられない自然な歯ごたえの人参となった。また、破断歪率は低値に維持されていた。
【実施例4】
【0042】
市販の馬鈴薯(品種:男爵)を剥皮後、15mmのダイス状にカットし、2.0質量%乳酸カルシウム溶液(60℃)に30分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、この馬鈴薯を恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結後の馬鈴薯を、お湯(40℃)に3分間浸漬し、解凍及び組織強化処理を実施し、その後、4℃冷蔵庫に48時間保持した馬鈴著を作製した。
【0043】
保管後の馬鈴薯をカレーソースと共にレトルトパウチに充填密封後、122℃−23分の条件で加圧加熱殺菌した。加圧加熱殺菌後に、20℃の冷却水にパウチを浸漬し、12時間冷却した。その後、カレーソースより馬鈴薯を取り出し、レオメーター(YAMADEN RE−3305)で突き刺し強度を測定し、破断強度・破断歪率を算出した。なお、測定条件は、ロードセル荷質量は2kgf、直径3mm円形プランジャー、貫入速度1mm/sとした。
【0044】
比較例4
市販の馬鈴薯(品種:男爵)を剥皮後、15mmのダイス状にカットし、2.0質量%乳酸カルシウム溶液(60℃)に30分間浸漬後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、この馬鈴薯を恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結後の馬鈴薯を、お湯(40℃)で3分間解凍し、保持期間を全く置かなかった(解凍直後に加圧加熱殺菌を実施した)馬鈴薯を作製した。
【0045】
その結果を以下に示す。
破断強度(×10Pa) 破断歪率(%)
実施例4 23 9
比較例4 17 7
【0046】
馬鈴薯を4℃冷蔵庫に48時間保持することで、加圧加熱殺菌後の破断強度、即ち、歯ごたえを更に向上できること、また、加圧加熱殺菌後にも不自然な歯ごたえは感じられなかったこと、が分かった。また、破断歪率は低値に維持されていた。
【実施例5】
【0047】
市販の大根を剥皮後、15mmのダイス状にカットし、恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。その後、得られた凍結大根を、0.5質量%塩化カルシウム溶液(60℃)に10分間浸漬し、解凍及び組織強化処理を実施した後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、4℃冷蔵庫に48時間保持した大根を作製した。
【0048】
保管後の大根をカレーソースと共にレトルトパウチに充填し、密封後、122℃−23分の条件で加圧加熱殺菌した。加圧加熱殺菌後に、20℃の冷却水にパウチを浸漬し、12時間冷却した。その後、カレーソースより大根を取り出し、レオメーター(YAMADEN RE−3305)で突き刺し強度を測定し、破断強度・破断歪率を算出した。なお、測定条件は、ロードセル荷重量は2kgf、直径3mm円形プランジャー、貫入速度1mm/sとした。
【0049】
比較例5−A
市販の大根を剥皮後、15mmのダイス状にカットし、恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。その後、得られた凍結大根を、0.5質量%塩化カルシウム溶液(60℃)に10分間浸漬し、解凍後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、保持期間を全く置かなかった(解凍直後に加圧加熱殺菌を実施した)大根を作製した。その後、前記実施例5と同様の方法で破断強度・破断歪率を算出し、比較例5−Aとした。
【0050】
比較例5−B
市販の大根を剥皮後、15mmダイス状にカットし、90℃に設定したお湯に5分間浸漬した(ブランチング処理)。その後、この大根を冷却水(20℃)で3分間冷却し、更に恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結した大根を、40℃に設定したお湯に3分間浸漬し、解凍後、4℃冷蔵庫に48時間保持した大根を作製した。保管後、前記実施例5と同様の方法で破断強度・破断歪率を算出し、比較例5−Bとした。
【0051】
比較例5−C
市販の大根を剥皮後、15mmダイス状にカットし、90℃に設定したお湯に5分間浸漬した(ブランチング処理)。その後、この大根を冷却水(20℃)で3分間冷却し、更に恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。凍結した大根を、40℃に設定したお湯に3分間浸漬し、解凍後、保持期間を全く置かなかった(解凍直後に加圧加熱殺菌を実施した)大根を作製した。保管後、前記実施例5と同様の方法で破断強度・破断歪率を算出し、比較例5−Cとした。
【0052】
それらの結果を以下に示す。
破断強度(×10Pa) 破断歪率(%)
実施例5 59 24
比較例5−A 35 20
比較例5−B 12 22
比較例5−C 12 18
【0053】
カットした大根をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた凍結大根を解凍時に組織強化し、その後、4℃冷蔵庫に48時間保持することで、加圧加熱殺菌後の破断強度、即ち、歯応えを更に向上できること、また、このようにして得られた大根に筋っぽさなどの不自然な歯応えは感じられなかったこと、が分かった。一方、冷凍野菜では、凍結前にブランチングを実施するのが一般的であるが、その製法で作製した大根は、4℃で保持しても歯応えの向上は全く見られなかった。
【実施例6】
【0054】
市販のごぼうを剥皮後、15mm厚の輪切りにカットし、恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。その後、得られた凍結ごぼうを、0.5質量%塩化カルシウム溶液(60℃)に10分間浸漬し、解凍及び組織強化処理を実施した後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、4℃冷蔵庫に48時間保持したごぼうを作製した。
【0055】
保管後のごぼうをカレーソースと共にレトルトパウチに充填し、密封後、122℃−23分の条件で加圧加熱殺菌した。加圧加熱殺菌後に、20℃の冷却水にパウチを浸漬し、12時間冷却した。その後、カレーソースよりごぼうを取り出し、レオメーター(YAMADEN RE−3305)で突き刺し強度を測定し、破断強度・破断歪率を算出した。なお、測定条件は、ロードセル荷重量は2kgf、直径3mm円形プランジャー、貫入速度1mm/sとした。
【0056】
比較例6
市販のごぼうを剥皮後、15mm厚の輪切りにカットし、恒温庫(−40℃設定)に2時間入れ、エアブラスト凍結を実施した。その後、得られた凍結ごぼうを0.5質量%塩化カルシウム溶液(60℃)に10分間浸漬し、解凍後、冷却水(20℃)で3分間冷却した。その後、保持期間を全く置かなかった(解凍直後に加圧加熱殺菌を実施した)ごぼうを作製した。その後、前記実施例5と同様の方法で破断強度・破断歪率を算出し、比較例6とした。
【0057】
その結果を以下に示す。
破断強度(×10Pa) 破断歪率(%)
実施例6 67 18
比較例6 40 15
【0058】
カットしたごぼうをブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた凍結ごぼうを解凍時に組織強化し、その後、4℃冷蔵庫に48時間保持することで、加圧加熱殺菌後の破断強度を大幅に向上できること、また、このようにして得られたごぼうは、加圧加熱殺菌後にも非常にしっかりとした歯応えが感じられること、が分かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上詳述したように、本発明は、加工根菜類の製造方法及び根菜類を含む食品の製造方法に係るものであり、本発明により、冷凍人参等の冷凍根菜類の破断強度を向上させ、破断歪率が低い、即ち、冷凍根菜類の不自然なスポンジのような食感を改善することができる。また、本発明により、処理後に一定期間保持するという簡便な処理により、加熱殺菌後でも破断強度が向上した、歯ごたえのある、筋っぽさが感じられない高品質な加工根菜類を作製し、このような根菜類を含む食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カットした根菜類をブランチングを省略して凍結し、次いで、得られた冷凍根菜類に解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施することにより、加熱処理後における根菜類の破断強度を向上させることを特徴とする加工根菜類の製造方法。
【請求項2】
カットされ、かつブランチングすることなく凍結された冷凍根菜類に、解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施することにより、加熱処理後の根菜類の破断強度を向上させることを特徴とする加工根菜類の製造方法。
【請求項3】
著しく品質が劣化しない条件である、0〜10℃で、根菜類を一定期間保持する処理を実施する、請求項1又は2記載の加工根菜類の製造方法。
【請求項4】
上記解凍及び組織強化処理をカルシウム塩溶液中で実施する、請求項1から3の何れか1項に記載の加工根菜類の製造方法。
【請求項5】
カットした根菜類を予め酸性溶液に浸漬して凍結する、請求項1記載の加工根菜類の製造方法。
【請求項6】
上記酸性溶液が、クエン酸溶液である、請求項5記載の加工根菜類の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法で作製した、上記解凍及び組織強化処理を実施した根菜類であって、加圧加熱殺菌した後の破断強度が10×10Pa以上であることを特徴とするカット根菜類。
【請求項8】
請求項7に記載のカット根菜類を食材の一部として含有することを特徴とする食品。
【請求項9】
カットされ、かつブランチングすることなく凍結された冷凍根菜類に、解凍及び組織強化処理を実施した後、著しく品質が劣化しない条件で一定期間保持する処理を実施することにより、加工根菜類を調製し、次いで、得られた加工根菜類を含む食品を加熱処理することを特徴とする根菜類を含む加熱処理済み食品の製造方法。

【公開番号】特開2008−17769(P2008−17769A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192218(P2006−192218)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】