説明

加熱デバイス、消去装置、情報記録消去装置、及び転写装置

【課題】装置の高コスト化を招くことなく、感熱媒体を均一にむらなく加熱する。
【解決手段】発熱部材103から放出される熱エネルギーを、熱伝導率の高いアルニウムから構成された熱容量の大きい加熱部材102を介して、熱可逆性を有する記録カード70の記録面に伝導させることで、記録カード70の記録面をむらなく均一に加熱する。これにより、記録カード70に記録された情報を精度よく消去することが可能となる。また、発熱部材103として安価な発熱体を用いることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱デバイス、消去装置、情報記録消去装置、及び転写装置に係り、更に詳しくは感熱媒体を加熱する加熱デバイス、感熱記録媒体に記録された情報を消去する消去装置、感熱記録媒体に対して、情報の記録及び消去を行う情報記録消去装置、及びインクを物体に転写する転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護やリサイクルの観点から、情報の記録及び消去を繰り返し行うことが可能なリライタブルペーパーが注目されている。このリライタブルペーパーは、例えば基材にロイコ染料と酸化性物質を塗布することにより、表面に熱可逆性を有する記録層を形成したもので、適当な熱を加えることにより、記録層を相対的に発色させたり消色させたりすることが可能な記録媒体である。このリライタブルペーパーに情報の記録を行う場合には、記録媒体を加熱するサーマルヘッドを備えたサーマルプリンタが必要となるが、サーマルプリンタは、構造が比較的簡単でメンテナンスが容易であることから、今後、カールソンプロセスを用いたレーザプリンタなどに代わる利用の拡大が予想されている。
【0003】
この種のサーマルプリンタには、情報の記録に先立って、予め記録媒体に記録された情報の消去を行う消去プレートや消去ローラなどが用いられている。これらの消去プレート等では、発熱体の背面に熱容量の大きい蓄熱部材を配置することにより、記録媒体の加熱時に発熱体の消去に有効な範囲内(以下、単に有効範囲内という)の熱量を補償して、記録媒体を連続的に加熱する場合にも、発熱体の有効範囲内の温度分布を安定に維持する技術が採用されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、発熱体からの熱は熱容量の少ない保護層を介して記録媒体に伝達されるため、記録媒体に記録された情報の消去を連続的に精度よく行おうとすると、発熱体自体も発熱特性が有効範囲内で均一なものを用いる必要があり、装置の高コスト化の要因となる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−317899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の事情の下になされたもので、その第1の目的は、装置の高コスト化を招くことなく、精度よく感熱媒体を加熱することが可能な加熱デバイスを提供することにある。
【0006】
また、本発明の第2の目的は、感熱記録媒体に記録された情報を、精度よく消去することが可能な消去装置を提供することにある。
【0007】
また、本発明の第3の目的は、感熱記録媒体に対して、情報の記録及び消去を精度よく行うことが可能な情報記録消去装置を提供することにある。
【0008】
また、本発明の第4の目的は、インクを物体に精度よく転写することが可能な転写装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の観点からすると、電気エネルギーが変換された熱エネルギーを用いて、感熱媒体を加熱する加熱デバイスであって、表面が電気的絶縁体に被覆された、前記電気エネルギーを熱エネルギーに変換する発熱体と;前記発熱体に接触して配置され、前記発熱体からの熱エネルギーを前記感熱媒体に伝導させる加熱部材と;を備える加熱デバイスである。
【0010】
これによれば、発熱体からの熱エネルギーが加熱部材を介して感熱部材に伝導されることで、感熱媒体が加熱される。これにより、加熱部材として熱容量の大きな部材を用いることで、発熱体の形状及び温度分布にかかわらず、加熱部材の、感熱部材に接触する面における温度分布を均一にすることができ、感熱部材をむらなく加熱することができる。したがって、有効範囲の温度分布が一定となる高価な発熱体を使用することなく、精度よく感熱媒体を加熱することが可能となる。
【0011】
本発明は第2の観点からすると、熱可逆的に発色及び消色する感熱記録媒体に記録された情報を消去する消去装置であって、前記感熱記録媒体を加熱して、前記情報を消去する請求項1〜6のいずれか一項に記載の加熱デバイスと;前記加熱デバイスに対して前記感熱記録媒体を相対移動させるプラテンローラと;を備える消去装置である。
【0012】
これによれば、消去装置では、本発明の加熱デバイスを用いて、感熱記録媒体に記録された情報の消去が行われる。したがって、感熱記録媒体を均一に加熱することができ、感熱記録媒体に記録された情報をむらなく消去することが可能となる。
【0013】
本発明は第3の観点からすると、熱可逆的に発色及び消色する感熱記録媒体に対して、情報の記録及び消去を行う情報記録消去装置であって、前記感熱記録媒体を加熱して、前記感熱記録媒体に記録された情報の消去を行う請求項7に記載の消去装置と;前記消去装置により情報が消去された前記感熱記録媒体に、情報の記録を行う記録装置と;を備える情報記録消去装置である。
【0014】
これによれば、消去装置では、本発明の加熱デバイスを用いて、感熱記録媒体に記録された情報の消去が行われる。したがって、記録された情報をむらなく消去することが可能となる。また、記録装置では、感熱記録媒体への情報の記録が、むらなく情報が消去された感熱記録媒体に対して行われるので、精度よく情報の記録を行なうことが可能となる。
【0015】
本発明は第4の観点からすると、リボンの一側の面に塗布されたコート材を物体に転写する転写装置であって、前記リボンの他側を加熱して、前記コート材を前記物体に転写する請求項1〜7のいずれか一項に記載の加熱デバイスと;前記物体を、前記インクリボンに押圧しつつ、前記加熱デバイスに対して相対移動するプラテンローラと;を備える転写装置である。
【0016】
これによれば、リボンを均一に加熱することができるので、リボンに塗布された、例えば熱転写インクやオーバーコート層などのコート材をむらなく物体に転写することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。図1には一実施形態に係るプリンタ10の概略構成が示されている。このプリンタ10は、一例として記録カード70に対して、情報の消去及び記録を行うことが可能なサーマルプリンタである。図1に示されるように、プリンタ10は、消去装置30、記録装置50、リフター40、給紙カセット21、昇降機構24、紙送りローラ23、排紙トレイ60、及び上記各部を収容する筐体10aなどを備えている。
【0018】
前記記録カード70は、図2の平面図に示されるように、長手方向をX軸方向とするカードである。この記録カード70は、ベースとなる基材と該基材の上面(+Z側の面)に貼り合わされた記録材を含んで構成されている。
【0019】
前記記録材は、サーマルヘッドでの消色及び発色が可能な可逆性感熱記録媒体であり、加熱温度及び加熱後の冷却速度の相違により相対的に発色した状態を形成し得るものである。図3は、この記録材の発色濃度と温度との関係(温度特性)を示した図である。図3に示されるように、例えば始めの消色状態Aにある感熱記録媒体を昇温していくと、グラフ中の実線で示されるように温度T1近傍で発色が起こり始め温度T1に達すると感熱記録媒体は発色状態Bとなる。この発色状態Bから急冷すると、グラフ中の実線で示されるように常温においても発色状態Cを維持する。また、発色状態Bから徐冷した場合には、グラフ中の破線に示されるように徐冷の過程で消色が起き、消色状態Aに戻る。一方、発色状態Cから再度昇温するとグラフ中の一点鎖線で示されるようにT1よりも低い温度T2で消色が起きて、消色状態Eとなり、ここから降温すると消色状態Aに戻る。従って、記録カード70の上面をサーマルヘッド等で加熱することにより情報の消去を行い、また情報の記録を行うことが可能となっている。
【0020】
図1に戻り、前記給紙カセット21は上方が開放されるとともに、底壁に開口21aが設けられた箱状の部材であり、内部にはZ軸方向に移動するトレイ22を備えている。このトレイ22には上述した記録カード70が長手方向をX軸方向として積載されている。そして、給紙カセット21が筐体10aに挿入されると、トレイ22は、例えば−X側端及び+X側端をそれぞれ中心としてY軸に平行な軸回りに起伏回動可能に設けられた1対の棒状部材25A,25Bを備える昇降機構24により、給紙カセット21の開口21aを介して上方に付勢される。これにより、トレイ22に積載された記録カード70のうちの最も上にある記録カード70が、支持部材23aに支持された紙送りローラ23の下面に圧接され、紙送りローラ23が回転することにより、記録カード70が挿入口30aを介して消去ユニット30の内部へ供給されるようになっている。
【0021】
前記消去装置30は、給紙カセット21から順次送られてくる記録カード70を、+X方向へ搬送する搬送ローラ対31、搬送ローラ対31の+X側に昇降可能に配置された消去ヘッドとしての加熱デバイス100、該加熱デバイス100の下方に配置されたプラテンローラ33、加熱デバイス100の+X側に、可動部材34aを介して配置された可動ローラ34を備えている。
【0022】
図4は、加熱デバイス100の分解斜視図である。図4に示されるように、前記加熱デバイス100は、外部から電力が供給されることにより発熱する発熱部材103と、発熱部材103の上面側及び下面側に配置された蓄熱部材101及び加熱部材102とを備えている。
【0023】
前記発熱部材103は、長手方向をY軸方向とする面状発熱体であり、図5に示されるように、一例として厚さ数ミクロンのステンレス箔を打ち抜くか、又はエッチングすることにより形成された抵抗105と、抵抗105の上面側と下面側から貼り合わされた長手方向をY軸方向とする1組のポリイミドシート104とを有している。抵抗105は、+Y側端及び−Y側端に1対の電極105aが形成され、1対の電極間を抵抗本体がX軸方向に蛇行して形成されることにより、所定量の熱エネルギーを放出する面積(有効面積)が確保され、各部での幅が一定に形成されることで単位長さあたりの抵抗率が抵抗全体で均一となるように調整されている。そして、抵抗105の上面及び下面にポリイミドシート104がそれぞれ貼り付けられることで電気的に絶縁されている。
【0024】
前記蓄熱部材101は、長手方向をY軸方向とする直方体状の部材である。この蓄熱部材101の素材としては、例えば熱伝導率の高い金属であるアルミニウムが用いられているが、例えば金、銀、銅、鉄などの熱伝導率の高い金属であれば特に限定されることはない。
【0025】
前記加熱部材102は、長手方向をY軸方向とする直方体状の部材である。この加熱部材102は、+X側及び−X側の側面にY軸に沿って溝102a,102bが形成され、下面は下方に凸で、Y軸に平行な母線を有する湾曲面(以下、加熱面ともいう)となっている。加熱部材102も、蓄熱部材101と同様にアルミニウムを素材とし、その熱容量は、蓄熱部材101の熱容量とほぼ等しくなるように調整されている。なお、加熱部材102は、熱伝導率が高く、蓄熱部材101の熱容量とほぼ同じ熱容量を有していればよく、必ずしも加熱部材102と蓄熱部材101の素材が同じである必要はない。
【0026】
上記のように構成された発熱部材103、蓄熱部材101、及び加熱部材102は、蓄熱部材101と加熱部材102とで発熱部材103を上下方向から挟んだ状態で、加熱部材102と蓄熱部材101とを相互に、例えばボルト等により固定することで一体化されている。なお、発熱部材103を蓄熱部材101及び加熱部材102で挟む際に、発熱部材103の表裏面に、熱伝導率の高いグリス等の充填材を塗布してもよい。このようにすることで、発熱部材103と蓄熱部材101との間、及び発熱部材103と加熱部材102との間の熱的な接触抵抗を低減することが可能となる。
【0027】
消去装置30では、記録カード70が送られてくると、該記録カード70を搬送ローラ対31を介して+X方向へ移動させつつ、加熱デバイス100の加熱面を、プラテンローラ33により下方から支持された記録カード70の上面に当接させる。そして、加熱デバイス100の抵抗105に電極105aを介して電力を供給することにより、記録カード70の上面を図3におけるT2以上の温度まで加熱して、記録カード70に記録された情報の消去を行う。
【0028】
前記記録装置50は消去装置30の上方(+Z側)に配置され、不図示の支持部材により昇降可能に支持された記録ヘッド52、記録ヘッド52の下方に配置されたプラテンローラ53、記録ヘッド52の+X側に配置され、リフター40を介して搬送された記録カード70を記録ヘッド52とプラテンローラ53との間に引き込む引き込みローラ51、及び記録ヘッド52の−X側に、上下方向に近接して配置された第1,第2排出ローラ54,55を備えている。
【0029】
記録装置50では、記録カード70の−X側端が、記録ヘッド52とプラテンローラ53との間に引き込まれると、プラテンローラ53により下方から支持される記録カード70の上面に記録ヘッド52を当接させた状態で、プラテンローラ53により記録カード70を−X方向へ送りながら、記録カード70の上面をT1以上の温度に加熱することで情報の記録を行う。一方、引き込みローラ51及び第1排出ローラ54は、不図示の駆動機構により上下動可能な支持部材51a,54aをそれぞれ介して配置されており、情報の記録中は記録カード70に干渉しない位置に退避している。そして、情報の記録が完了すると、記録カード70の上面に第1排出ローラ54を当接することにより、記録カード70を第1,第2排出ローラ54,55とで挟み、第2排出ローラ55を回転させることで、記録カード70を、筐体10aに形成された排出口50aを介して、排紙トレイ60へ順次排出する。
【0030】
前記リフター40は、筐体10aの内部で、消去装置30の+X側に配置された昇降装置41、該昇降装置41にリンクバー44Aとリンクバー44Bとをそれぞれ介して連結された搬送トレイ42、及び搬送トレイ42の−X側端部近傍に長手方向をY軸方向として配置された搬入出ローラ47を備えている。
【0031】
前記昇降装置41は、筐体10aの底壁面に不図示の支持部材を介してX軸方向を長手方向として配置され、−X側端部から中央部にかけて形成された長手方向をX軸方向とする案内孔41aに沿って移動する移動軸45Aと、+X側端部から中央部にかけて形成された長手方向をX軸方向とする案内孔41bに沿って移動する移動軸45Bとを有している。
【0032】
前記リンクバー44Aは、上方に凸となるように湾曲した形状を有し、+X側端が、搬送トレイ42の+X側端部上方に、Y軸に平行な軸回りに回動可能に取り付けられ、−X側端が昇降装置41に設けられた移動軸45Aに、Y軸に平行な軸回りに回動可能に取り付けられている。また、前記リンクバー44Bも、リンクバー44Aと同等の構成を有し、−X側端が、搬送トレイ42の−X側端部上方に、Y軸に平行な軸回りに回動可能に取り付けられ、+X側端が昇降装置41に設けられた移動軸45Bに、Y軸に平行な軸回りに回動可能に取り付けられている。
【0033】
上記リフター40では、昇降装置41により移動軸45Aが−X方向に移動されるとともに、移動軸45Bが+X方向に移動されることで、搬送トレイ42が下降し、図1に実線で示される位置に位置決めされ、昇降装置41により移動軸45Aが+X方向に移動されるとともに、移動軸45Bが−X方向に移動されることで、搬送トレイ42が上昇し、図1に仮想線で示される位置に位置決めされるようになっている。ここで、説明の便宜上、図1に実線で示される搬送トレイ42が位置するところを搬入位置と定義し、図1に仮想線で示される搬送トレイ42が位置するところを搬出位置と定義する。
【0034】
次に、上述のように構成されたプリンタ10の動作について説明する。前提として、給紙カセット21には予め複数枚の記録カード70が収容され、トレイ22は昇降機構24により上方に付勢されているものとする。また、搬送トレイ42は図1に実線で示される位置に位置決めされ、プリンタ10の各部は不図示の制御装置により統括的に制御されるものとする。
【0035】
《給紙工程》
制御装置は、ユーザや上位装置から運転指令があると、紙送りローラ23を回転させ、給紙カセット21に収容された記録カード70を+X方向へ送ることで、記録カード70を、挿入口30aを介して、消去装置30の搬送ローラ対31の1対の搬送ローラ間へ搬送する。
【0036】
《消去工程》
消去装置30に記録カード70が搬送されると、制御装置は、記録カード70を搬送ローラ対31及びプラテンローラ33により+X方向へ移動しつつ、加熱デバイス100により記録カード70の上面を加熱して、記録カード70に記録された情報の消去を行う。
【0037】
《リフターへの搬入工程》
記録カード70が+X方向に移動し、その+X側端部が搬送トレイ42に設けられた搬入出ローラ47の上方を通過すると、制御装置は、可動部材34aを回動させて可動ローラ34を記録カード70の上面に当接させ、可動ローラ34と搬入出ローラ47とを協働して、記録カード70を搬送トレイ42へ搬入する。
【0038】
《リフトアップ工程》
搬送トレイ42に記録カード70が搬入されると、制御装置は、昇降装置41を駆動して搬送トレイ42の上昇を開始する。本実施形態に係るプリンタ10では、搬送トレイ42が搬入位置からの移動を開始して、搬出位置に達するまでに要する時間は約1〜2秒程度に設定されている。
【0039】
《リフターからの搬出工程》
主制御装置は、搬送トレイ42が搬出位置に位置決めされると、支持部材51aを駆動して引き込みローラ51を記録カード70の上面に当接させる。そして、引き込みローラ51及び搬入出ローラ47を協働して、記録カード70の−X側端を記録ヘッド52とプラテンローラ53との間へ搬送する。
【0040】
《記録工程》
記録カード70が−X方向へ移動して、記録カード70の記録開始位置が記録ヘッド52の直下にくると、制御装置は、記録ヘッド52を下降させて、記録カード70を記録ヘッド52とプラテンローラ53で挟持するとともに、支持部材51a,54aを上方へ駆動することにより、引き込みローラ51及び第1排出ローラ54を記録カード70に干渉しない位置まで退避させる。そして、記録カード70をプラテンローラ53のみにより記録ヘッド52に対して相対移動させて、記録カード70へ情報の記録を開始する。また、これと並行して、制御装置は、記録カード70に対する印刷が開始されると、搬送トレイ42を搬入位置まで移動させて待機させる。
【0041】
《排紙工程》
そして、情報の記録が完了した記録カード70は、第1排出ローラ54及び第2排出ローラ55により排出口50aを介して排紙され、順次排紙トレイ60へスタックされる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る加熱デバイス100により記録カード70を加熱する際には、まず発熱部材103からの熱が加熱部材102に伝導される。本実施形態では、加熱部材102を熱伝導率の高いアルニウムから構成しているため、加熱部材102の加熱面の温度分布は、抵抗105の形状及び熱分布にかかわらず均一化される。そして、記録カード70は、この加熱面から熱エネルギーを受けることにより加熱される。したがって、本実施形態に係る加熱デバイス100では、記録カード70の記録面をむらなく均一に加熱することができ、精度よく情報の消去を行うことが可能となる。
【0043】
図7は、記録カード70の消去特性を示す図である。この消去特性は、記録カード70を加熱デバイス100に対して速度150mm/sで相対的に移動した時に、消去されずに残った情報の比率の温度依存性を示すものである。一例として、このような特性の記録カード70に対する情報の消去を行う場合には、図7に示されるように、記録カード70の記録面の記録残存率が最も小さくなる403K〜453Kまで記録カード70を昇温させる必要がある。
【0044】
例えば、図8には、時刻t1から時刻t2までの間に記録カード70に対する情報の消去を行い、時刻t2から時刻t3までの間を加熱デバイス100の予熱期間とし、以降連続して記録カード70の消去を行った場合の加熱部材102の温度変化が示されている。加熱デバイス100では、この図8に示される例のように、加熱部材102の温度が消去時に記録カード70に熱量を奪われるために下降して、加熱部材102の最低温度が403k以下の温度になると、記録カード70に対して403k以下の加熱部分が良好に情報の消去を行うことができなくなる。したがって、本実施形態にかかる加熱デバイス100において、所定のインターバルを挟みながら、記録カード70に対して連続的に情報の消去を行うには、加熱デバイス100の加熱部材102の温度が常時403K〜453Kの範囲にあることが必要になる。
【0045】
図9は、本実施形態にかかる加熱デバイス100を用いて、記録カード70の情報の消去を行ったときの、加熱デバイス100各部の温度変化を示す図であり、曲線S1は加熱部材102の温度変化を示し、曲線S2は発熱部材103の温度変化を示し、曲線S3は蓄熱部材101の温度変化を示している。
【0046】
なお、このときの蓄熱部材101、発熱部材103、及び加熱部材102のサイズは次表1に示される通りであり、記録カード70のX軸方向の大きさは300mm(A4長を想定)であるものとした。また、記録カード70の加熱デバイス100に対する相対移動速度は150mm/sであり、加熱デバイス100に対しては約7秒おきに記録カード70が供給されるものとした。また、発熱部材103に対する投入電力は71Wとした。
【0047】
【表1】

【0048】
図9に示されるように、本実施形態にかかる加熱デバイス100では、記録カード70に対する消去によっても、加熱部材102の温度は常時425k以上(403k以上)に維持されるため、記録カード70に対する情報の消去を連続的に行うことが可能であることがわかる。
【0049】
また、図9に示されるように、本実施形態にかかる加熱デバイス100では、蓄熱部材101の温度変化は、加熱部材102の温度変化102に比較して小さくなっている。そこで、加熱デバイス100の蓄熱部材101と加熱部材102との厚みに依存する温度変動のシミュレーションを行った。
【0050】
図10(A)〜図12(B)は、加熱部材102の厚さを6.28mmを基準として、それぞれ0.5倍、0.25倍、0.1倍、0.05倍、0.01倍、10倍に設定し、この加熱部材102を備える加熱デバイス100で、記録カード70の情報の消去を行ったときの、加熱デバイス100各部の温度変化のシミュレーション結果である。また、図13(A)及び図13(B)は、蓄熱部材101の厚さを5.50mmを基準として、それぞれ10倍及び0.1倍に設定し、この加熱部材102を備える加熱デバイス100で記録カード70の情報の消去を行ったときの、加熱デバイス100各部の温度変化を示すシミュレーション結果である。なお、同様に曲線S1は加熱部材102の温度変化を示し、曲線S2は発熱部材103の温度変化を示し、曲線S3は蓄熱部材101の温度変化を示している。また、図14は、蓄熱部材101と加熱部材102とに仮想材料を用い、加熱部材102の厚みを0.1倍にしたときの温度変化のシミュレーション結果である。
【0051】
図10(A)〜図12(B)からは、消去処理が開始されてから2秒後の加熱部材102の温度が、次表2に示されるように、加熱部材102の厚みに依存して低下していることがわかる。一方、図13(A)及び図13(B)からは、蓄熱部材101の厚みを大きく変えても2秒後の加熱部材102の温度はほぼ等しく(425K)なっていることがわかる。
【0052】
【表2】

【0053】
すなわち、加熱デバイス100の温度変動は、蓄熱部材101よりも加熱部材102の厚みに寄与するところが大きく、蓄熱部材101の厚みによる影響はほとんどない。このため、蓄熱部材101は、発熱部材103の上面からの熱を奪うことで、発熱部材103の焼損を回避することに寄与していることがわかる。また、本実施形態では、加熱部材102の厚みは、0.06mm以上であり、外部環境の温度変動等を考慮すると、好ましくは0.3mm以上であり、更に好ましくは0.6mm以上であることが望ましい。
【0054】
また、本実施形態に係る加熱デバイス100では、抵抗105の形状及び熱分布にかかわらず記録カード70の記録面をむらなく均一に加熱することができるため、加熱有効範囲の温度分布が均一な高価な抵抗のみならず、汎用の抵抗及び安価な抵抗を用いることができる。したがって、装置の低コスト化を図ることが可能となる。
【0055】
また、本実施形態に係る加熱デバイス100では、発熱部材103の上面に接触するように、加熱部材102と同等の熱容量をもつ蓄熱部材101が設けられている。したがって、プリンタ10の立ち上げ時などに発熱部材103に大電力を投入して、加熱部材102を25℃程度の室温から例えば70℃程度の待機温度まで急速に昇温したとしても、発熱部材103の上面と下面からはほぼ等量の熱が放出されるので、発熱部材103の過熱による損傷を回避することが可能となる。
【0056】
また、蓄熱部材101は、記録カード70の加熱時に加熱部材102から放出された熱量を適宜補償するので、加熱部材102により連続的に記録カード70の加熱を行ったときの加熱面の温度変動を低減することが可能となる。
【0057】
また、本実施形態に係る加熱デバイス100では、熱容量及び熱伝導率が大きい蓄熱部材101及び加熱部材102を備えているため、記録カード70を連続的に加熱する場合にも加熱面の温度変動が小さく抑えられ、全体としての投入電力量を少なくすることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態に係る消去装置30では、加熱デバイス100を用いて、記録カード70に記録された情報の消去が行われる。したがって、記録カード70を均一に加熱することができ、記録された情報をむらなく消去することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態に係るプリンタ10では、消去装置30で、加熱デバイス100を用いて、記録カード70に記録された情報の消去が行われる。したがって、記録された情報をむらなく消去することが可能となる。また、記録装置50では、情報の記録が、むらなく情報が消去された記録カード70に対して行われるので、精度よく情報の記録をすることが可能となる。
【0060】
なお、本実施形態では、プリンタ10で記録カード70に対して情報の消去等を行う場合について説明したが、これに限らず、感熱性の記録用紙であれば情報の消去及び記録が可能である。
【0061】
また、図3に示される記録カード70の感熱特性は一例であり、これ以外の感熱特性を有していてもよい。その場合には、消去装置30や記録装置50での加熱温度を適切に設定することで対応することが可能となる。
【0062】
なお、本実施形態では、蓄熱部材101及び加熱部材102の素材としてアルミニウムを用いたが、これに限らず、熱伝導率(=λ)の高い銅などの金属素材を用いてもよい。
【0063】
図15(A)〜図19(B)は、蓄熱部材101と加熱部材102の素材が、熱伝導率396W/(m・℃)の銅、熱伝導率237W/(m・℃)のアルミ、熱伝導率120W/(m・℃)のアルミ、熱伝導率80W/(m・℃)の鉄、熱伝導率52W/(m・℃)の軟銅、熱伝導率33W/(m・℃)のアルミナ、熱伝導率10W/(m・℃)の仮想材料、熱伝導率1W/(m・℃)の仮想材料、熱伝導率0.18W/(m・℃)の樹脂であるときの加熱デバイス100で、記録カード70の情報の消去を行ったときの、加熱デバイス100各部の温度変化を示すシュミレーション結果である。図15(A)〜図19(B)からは、消去処理が開始されてから2秒後の加熱部材102の温度が次表3に示されるように、熱伝導率に依存して変化することがわかる。
【0064】
【表3】

【0065】
表3からは、熱伝導率が30W/(m・℃)以上の場合に、2秒後の温度が403K以上となるため、本実施形態にかかる加熱デバイス100においては、蓄熱部材101及び加熱部材102の素材として、熱伝導率が30W/(m・℃)以上の素材を用いることができる。また、外部環境の温度変動等を考慮すると、熱伝導率が50W/(m・℃)以上の素材を用いることが望ましい。具体的な素材としては、上述したアルミナ、軟鋼の他に、熱伝導率が2000W/(m・℃)のダイヤモンド等が考えられる。
【0066】
また、記録対象となる記録媒体が硬質である場合などには、加熱面に例えばニッケルめっき等を施して、耐摩耗性を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態では、発熱部材103として面状発熱体を用いたが、これに限らず、例えば、表面に酸化膜等の絶縁膜が形成された抵抗を加熱部材102の中に鋳込んで一体的に形成してもよい。
【0068】
また、本実施形態に係るプリンタ10では、加熱デバイス100を消去ヘッドとして用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、感熱性を有する感熱媒体を均一に加熱するのに好適である。一例として図6には、インクリボン207に塗布されたインクを記録媒体70’に転写する転写装置200が示されている。この転写装置200では、プラテンローラ205により加熱デバイス100に対して記録媒体70’が相対移動され、供給リボンコア201に巻回されたインクリボン207は、1対の補助ローラ203,204、ガイドローラ206及び巻き取りリボンコア202が協働することにより、記録媒体70’の上面に供給される。そして、記録媒体70’の上面に供給されたインクリボン207の上面が加熱デバイス100により加熱されることで、インクリボン207の下面に塗布されたインクが、記録媒体70’の上面に転写される。このように、本発明の加熱デバイス100は、感熱記録媒体の消去を行う場合だけでなく、インク等を記録媒体に転写する転写装置や、ラミネータ等にも応用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明の加熱デバイスは、感熱媒体の加熱に適している。また、本発明の消去装置は、熱可逆性を有する感熱記録媒体に記録された情報を消去するのに適している。また、本発明の情報記録消去装置は、熱可逆性を有する感熱記録媒体に対する情報の記録及び消去に適している。また、本発明の転写装置は、物体にコート材を熱転写するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態に係るプリンタ10の概略構成を示す図である。
【図2】記録カード70を示す図である。
【図3】記録カード70の感熱特性を示す図である。
【図4】加熱デバイス100の展開斜視図である。
【図5】発熱部材103を示す図である。
【図6】加熱デバイス100を用いた転写装置200を示す図である。
【図7】記録媒体に対する消去を行なう際の加熱温度を説明するための図である。
【図8】加熱デバイス100各部の温度変動の範囲を説明するための図である。
【図9】加熱デバイス100各部の温度変動のシミュレーション結果を示す図(その1)である。
【図10】図10(A)及び図10(B)は、加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の厚みに依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その1、その2)である。
【図11】図11(A)及び図11(B)は、加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の厚みに依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その3、その4)である。
【図12】図12(A)及び図12(B)は、加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の厚みに依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その5、その6)である。
【図13】図13(A)及び図13(B)は、加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の厚みに依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その7、その8)である。
【図14】加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の厚みに依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その9)である。
【図15】図15(A)及び図15(B)は、加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の熱伝導率に依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その1、その2)である。
【図16】図16(A)及び図16(B)は、加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の熱伝導率に依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その3、その4)である。
【図17】図17(A)及び図17(B)は、加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の熱伝導率に依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その5、その6)である。
【図18】図18(A)及び図18(B)は、加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の熱伝導率に依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その7、その8)である。
【図19】加熱デバイス100の蓄熱部材101及び加熱部材102の熱伝導率に依存する温度変動のシミュレーション結果を示す図(その9)である。
【符号の説明】
【0071】
10…プリンタ、10a…筐体、21…給紙カセット、21a…開口、22…トレイ、24…昇降機構、25A,25B…棒状部材、23…紙送りローラ、23a…支持部材、30…消去装置、31…搬送ローラ対、33…プラテンローラ、34…可動ローラ、34a…可動部材、40…リフター、41…昇降装置、41a,41b…案内孔、42…搬送トレイ、44A,44B…リンクバー、45A,45B…移動軸、47…搬入出ローラ、50…記録装置、51…引き込みローラ、51a…支持部材、52…記録ヘッド、53…プラテンローラ、54…第1排出ローラ、54a…支持部材、55…第2排出ローラ、60…排紙トレイ、70…記録カード、100…加熱デバイス、101…蓄熱部材、102…加熱部材、102a,102b…溝、103…発熱部材、104…ポリイミドシート、105…抵抗、105a…電極、200…転写装置、201…供給リボンコア、202…巻取りリボンコア、203,204…補助ローラ、205…プラテンローラ、206…ガイドローラ、207…インクリボン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギーが変換された熱エネルギーを用いて、感熱媒体を加熱する加熱デバイスであって、
表面が電気的絶縁体に被覆された、前記電気エネルギーを前記熱エネルギーに変換する発熱体と;
前記発熱体からの熱エネルギーを均一に伝導させる加熱部材と;を備える加熱デバイス。
【請求項2】
前記発熱体は面状発熱体であり、前記加熱部材は前記発熱体の一側の面に接触して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の加熱デバイス。
【請求項3】
前記発熱体の一側の面の温度分布は、不均一であることを特徴とする請求項2に記載の加熱デバイス。
【請求項4】
前記発熱体の他側の面に接触して配置され、前記発熱体からの熱エネルギーを蓄熱する蓄熱部材を更に備える請求項2又は3に記載の加熱デバイス。
【請求項5】
前記蓄熱部材は、熱伝導率が30W/(m・℃)以上で2000W/(m・℃)以下であることを特徴とする請求項4に記載の加熱デバイス。
【請求項6】
前記加熱部材と前記蓄熱部材とは、熱容量及び熱伝導率のうちのいずれかが同一であることを特徴とする請求項4又は5に記載の加熱デバイス。
【請求項7】
前記加熱部材の前記面状発熱体に接触する面の面積は、前記面状発熱体の前記一側の面の有効発熱面積の1倍以上で4倍以下であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の加熱デバイス。
【請求項8】
前記加熱部材の前記感熱媒体に対向する面には、保護層が形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の加熱デバイス。
【請求項9】
熱可逆的に発色及び消色する感熱記録媒体に記録された情報を消去する消去装置であって、
前記感熱記録媒体を加熱して、前記情報を消去する請求項1〜8のいずれか一項に記載の加熱デバイスと;
前記加熱デバイスに対して前記感熱記録媒体を相対移動させるプラテンローラと;を備える消去装置。
【請求項10】
熱可逆的に発色及び消色する感熱記録媒体に対して、情報の記録及び消去を行う情報記録消去装置であって、
前記感熱記録媒体を加熱して、前記感熱記録媒体に記録された情報の消去を行う請求項9に記載の消去装置と;
前記消去装置により情報が消去された前記感熱記録媒体に、情報の記録を行う記録装置と;を備える情報記録消去装置。
【請求項11】
リボンの一側の面に塗布されたコート材を物体に転写する転写装置であって、
前記リボンの他側を加熱して、前記コート材を前記物体に転写する請求項1〜8のいずれか一項に記載の加熱デバイスと;
前記物体を、前記インクリボンに押圧しつつ、前記加熱デバイスに対して相対移動するプラテンローラと;を備える転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−91321(P2008−91321A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162415(P2007−162415)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(399047714)株式会社ウェッジ (9)
【Fターム(参考)】