説明

加熱処理用袋状物

【課題】本発明の目的は、(1)シール性、(2)強度や耐衝撃性、(3)化学的安定性、(4)耐付着性に優れた加熱処理用袋状物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、ポリイミドフィルムと接着性フッ素樹脂層とを積層してなる積層フィルムを含む加熱処理用袋状物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理用袋状物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂製の袋状物に、化学薬品や食品を収納して加熱処理を行う場合がある(例えば、特許文献1参照。)。また、細菌等の培養時に、ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)樹脂製の袋状物に培養液を収納して加熱処理する場合がある(例えば、特許文献2参照。)。これらの袋状物は、多層フィルムとする場合には、これらの樹脂層を内層とし、外層にポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などを用いることが開示されている。
【0003】
しかしながら、これらの袋状物は、(1)封止部、即ち、袋形容器における融着シール部のシール性、(2)落下等の強い衝撃が加わった場合の強度や耐衝撃性、(3)酸性度やアルカリ性度など、内容物の性状に対する化学的安定性、(4)内容物を取り出す際に袋状物にこびりつかないように耐付着性の改善が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−238785号公報
【特許文献2】特開2002−101867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、(1)シール性、(2)強度や耐衝撃性、(3)化学的安定性、(4)耐付着性に優れた加熱処理用袋状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリイミド〔PI〕フィルムと接着性フッ素樹脂層とを積層してなる積層フィルムを含む加熱処理用袋状物である。
本発明は、上記加熱処理用袋状物を用いてなることを特徴とする薬品容器である。
本発明は、上記加熱処理用袋状物を用いてなることを特徴とする食品容器である。
本発明は、上記加熱処理用袋状物を用いてなることを特徴とする滅菌処理用容器である。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0007】
本発明の加熱処理用袋状物は、PIフィルムと接着性フッ素樹脂層とを積層してなる積層フィルムを含むものである。
【0008】
本発明におけるPIフィルムは、特に限定されず、芳香族ポリイミドフィルム等、市販品であってもよい。
上記PIフィルムは、その特性を損なわない範囲で、充填材、安定剤、紫外線吸収剤、顔料等の添加剤を適宜配合したものであってもよい。
【0009】
本発明における接着性フッ素樹脂層は、接着性フッ素樹脂からなるものである。
本明細書において、上記接着性フッ素樹脂とは、接着性部位を有するフルオロポリマーを意味する。
【0010】
本明細書において、上記フルオロポリマーは、含フッ素モノマーに由来する含フッ素モノマー単位を主鎖中に有するポリマーである。上記フルオロポリマーは、更に、フッ素非含有モノマーに由来するフッ素非含有モノマー単位を有するものであってもよいし、有しないものものであってもよい。
本明細書において、上記フルオロポリマーについての「モノマー単位」は、ポリマー分子構造の一部分であって、モノマーに由来する部分を意味する。例えば、テトラフルオロエチレン単位は、−(CF−CF)−で表される。
【0011】
上記含フッ素モノマーは、フッ素原子を有する重合可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、フッ化ビニリデン〔VdF〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル〔VF〕、へキサフルオロプロピレン〔HFP〕、へキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕類、下記一般式(i):
CH=CX(CF (i)
(式中、Xは、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表されるモノマー等が挙げられる。
【0012】
上記フッ素非含有モノマーは、上記含フッ素モノマーと共重合可能でフッ素原子を有さない化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレン〔Et〕、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0013】
上記フルオロポリマーとしては、下記共重合体(I)、下記共重合体(II)等が挙げられる。
(I)少なくとも、TFE及びEtを重合してなる共重合体、
(II)少なくとも、TFEと、下記一般式(ii)
CF=CF−Rf (ii)
(式中、Rfは、−CF又は−ORfを表し、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される少なくとも1種以上のモノマーとを重合してなる共重合体。
【0014】
上記共重合体(I)としては、例えば、少なくとも、TFE単位20〜80モル%及びEt単位80〜20モル%からなる共重合体等が挙げられる。
本明細書において、各モノマー単位についてのモル%は、共重合体の分子鎖を構成するモノマー単位が由来することとなったモノマーの合計モル数のうち、後述する接着性部位含有モノマー単位が由来することとなったモノマーのモル数を除いたモル数を100モル%とし、この100モル%中に占める各モノマー単位が由来することとなったモノマーのモル数の割合である。
上記各モノマー単位についてのモル%は、19F−NMRチャートから求めた値である。
【0015】
上記共重合体(I)は、主鎖中に、TFE単位とEt単位以外に、共重合可能なその他のモノマーに由来するその他のモノマー単位を有するものであってもよく、上記その他のモノマーとして、得られる積層フィルムの用途に応じた種類のモノマーを適宜選択して共重合に供することができる。
上記その他のモノマーとしては、HFP、CTFE、プロピレン、下記一般式(iii):
CX=CX(CF (iii)
(式中、X及びXは、同一又は異なって、水素原子若しくはフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)で表されるモノマー、下記一般式(iv):
CF=CF−ORf (iv)
(式中、Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるモノマー等が挙げられ、通常これらの1種又は2種以上が用いられる。
上記その他のモノマー単位は、共重合体(I)の分子鎖を構成するモノマー単位100モル%のうち0〜20モル%の割合で有するものであってもよい。
【0016】
上記フルオロポリマーとしては、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、薬液低透過性、非粘着性等に優れている点で、共重合体(I)が好ましく、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性、薬液低透過性、非粘着性、低温加工性、透明性等に優れている点で、Et/TFE/HFP共重合体がより好ましい。上記Et/TFE/HFP共重合体におけるHFP単位は、5〜20モル%であることが好ましく、より好ましい下限が8モル%であり、より好ましい上限が17モル%である。上記Et/TFE/HFP共重合体は、Et、TFE及びHFPに由来する各モノマー単位に加え、上記Et/TFE/HFP共重合体の好ましい性質を損なわない範囲で、HFP単位以外の上記その他のモノマーを1種又は2種以上有するものであってもよい。
【0017】
本明細書において、上記「接着性部位」とは、PIフィルムとの親和性若しくは反応性を有する官能基を意味する。
本明細書において、「親和性」とは、水素結合、van der Waals力等、化学構造を変化させるまでに至らないPIフィルムとの相互作用を示す性質を意味し、「反応性」とは、官能基等の化学構造を変化させる性質を意味する。
【0018】
上記接着性部位は、通常、上記フルオロポリマーが主鎖又は側鎖に有するものである。
上記接着性部位としては、特に限定されないが、例えば、炭素−炭素二重結合、カルボニル基[−C(=O)]、カルボニル基を有する基、エポキシ基、水酸基、アミノ基、シリル基、スルホン酸基、エーテル結合、シアノ基、ホスホン酸基等が挙げられ、上記接着性部位を有するフルオロポリマーにおいて、上記接着性部位は1種のみ存在するものであってもよいし、2種以上存在するものであってもよい。
【0019】
上記カルボニル基を有する基としては、例えば、カーボネート基、ハロゲノホルミル基、ホルミル基、カルボキシル基、カルボニルオキシ基[−C(=O)O−]、酸無水物基[−C(=O)O−C(=O)−]、イソシアネート基、アミド基[−C(=O)−NH−]、イミド基[−C(=O)−NH−C(=O)−]、ウレタン結合[−NH−C(=O)O−]、カルバモイル基[NH−C(=O)−]、カルバモイルオキシ基[NH−C(=O)O−]、ウレイド基[NH−C(=O)−NH−]、オキサモイル基[NH−C(=O)−C(=O)−]等が挙げられる。
上記カルボニル基を有する基としては、導入が容易であり、反応性が高い点から、カーボネート基、ハロゲノホルミル基等が好ましい。
【0020】
上記カーボネート基は、[−OC(=O)O−]で表される結合を有する基であり、−OC(=O)O−R基(式中、Rは、有機基、IA族原子、IIA族原子、又は、VIIB族原子を表す。)で表されるものである。上記式中のRにおける有機基としては、例えば炭素数1〜20のアルキル基、エーテル結合を構成する酸素分子を有する炭素数2〜20のアルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、エーテル結合を構成する酸素分子を有する炭素数2〜4のアルキル基等である。上記カーボネート基としては、例えば、−OC(=O)O−CH、−OC(=O)O−C、−OC(=O)O−C17、−OC(=O)O−CHCHOCHCH等が挙げられる。
【0021】
上記ハロゲノホルミル基は、−COY(式中、Yは、VIIB族原子を表す。)で表されるものであり、−COF、−COCl等が好ましい。
【0022】
上記接着性部位の数は、基材の種類、形状、用途、必要とされる接着強度、上述のフルオロポリマーの種類の違い等により適宜選択されうるが、通常、主鎖炭素数1×10個あたり3〜1000個である。上記接着性部位の数は、カルボニル基の数をカウントする場合、通常、主鎖炭素数1×10個あたり150個以上であり、好ましくは250個以上、より好ましくは300個以上である。
本明細書において、上記「接着性部位」の数は、国際公開99/45044号パンフレットに記載のカルボニル基含有官能基の個数の測定方法に準じた赤外吸収スペクトル分析を行うことにより測定したものである。
【0023】
上記接着性フッ素樹脂としては、例えば、国際公開99/45044号パンフレットに記載のカルボニル基含有官能基を有する含フッ素エチレン性重合体等を挙げることができる。
上記接着性フッ素樹脂は、通常、重合によりフルオロポリマーを製造するに際し接着性部位を導入することにより得ることができるが、接着性部位を導入する方法としては特に限定されず、例えば、(1)接着性部位含有モノマーを共重合する方法、(2)接着性部位を有する重合開始剤を存在させて乳化重合等の水性媒体中での重合を行い、ポリマー鎖末端に該重合開始剤に由来する接着性部位を導入する方法、(3)重合に際し又は重合後の加熱等によりポリマー鎖中の炭素−炭素単結合が二重結合に変化することにより接着性部位を有することとなる方法等が挙げられる。
【0024】
上記(1)の方法は、例えば、接着性部位含有モノマーを、目的の接着性フッ素樹脂に応じた種類と配合の含フッ素モノマーと、所望によりフッ素非含有モノマーとを公知の方法により共重合させることによって行うことができる。
上記共重合の方法としては特に限定されず、例えば、含フッ素モノマー等の他の共単量体によるポリマー鎖形成時に接着性部位含有モノマーを系内に導入して行うランダム共重合であってもよいし、ブロック共重合、グラフト共重合であってもよい。グラフト共重合としては、例えば、フルオロポリマーに後述の不飽和カルボン酸類を付加させる方法等が挙げられる。
【0025】
上記「接着性部位含有モノマー」とは、接着性部位を有する重合可能な化合物を意味し、フッ素原子を有していてもよいし、有していなくてもよい。なお、本明細書において、上述した「含フッ素モノマー」及び「フッ素非含有モノマー」は、上記接着性部位を有していないものである。
【0026】
上記接着性部位含有モノマーとしては、例えば、接着性部位がカルボニル基を有する基である場合、パーフルオロアクリル酸フルオライド、1−フルオロアクリル酸フルオライド、アクリル酸フルオライド、1−トリフルオロメタクリル酸フルオライド、パーフルオロブテン酸等のフッ素を有するモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸クロライド、ビニレンカーボネート等のフッ素を有さないモノマーが挙げられる。
【0027】
上記接着性部位含有モノマーとしては、更に、不飽和カルボン酸類が挙げられる。本明細書において、上記不飽和カルボン酸類とは、共重合を可能にする炭素−炭素不飽和結合(以下、「共重合性炭素−炭素不飽和結合」ともいう。)を1分子中に少なくとも1個有し、且つ、カルボニルオキシ基[−C(=O)−O−]を1分子中に少なくとも1個有する化合物であればよく、なかでも、上記共重合性炭素−炭素不飽和結合が1分子中に1個であるものが好ましい。
上記不飽和カルボン酸類としては、例えば、脂肪族不飽和カルボン酸及びその酸無水物が挙げられる。上記脂肪族不飽和カルボン酸としては、脂肪族不飽和モノカルボン酸であってもよいし、カルボキシル基を2個以上有する脂肪族不飽和ポリカルボン酸であってもよい。
上記脂肪族不飽和モノカルボン酸としては、例えば、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、それらの酸無水物等、炭素数3〜20の脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。上記脂肪族不飽和ポリカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸〔CAC〕、イタコン酸、アコニット酸、無水イタコン酸〔IAH〕及び無水シトラコン酸〔CAH〕等が挙げられる。
【0028】
上記(2)の方法における重合開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0029】
上記接着性フッ素樹脂は、得られる積層フィルムのシール性の点で、融点が好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下である。
本明細書において、上記融点は、示差走査熱量計(セイコー社製)を用い、昇温速度10℃/分にて測定し、得られた融解ピークの極大値での温度である。
【0030】
本発明における積層フィルムは、上述のPIフィルムと接着性フッ素樹脂とを積層することにより作成することができる。
上記PIフィルムと接着性フッ素樹脂との積層は、例えば、押出ラミネーション法にて行うことができるし、PIフィルムと接着性フッ素樹脂とを熱圧着等により貼り合わせて行うこともできる。
【0031】
上記押出ラミネーションは、例えば、上述の接着性フッ素樹脂を溶融させて、上述のPIフィルム上に押し出す押出工程(a)、PIフィルムと、押し出した接着性フッ素樹脂とをロールで挟んで圧着する圧着工程(b)、得られた積層物を巻取る巻取工程(c)等をも含むものであってよく、通常、押出工程(a)、圧着工程(b)、巻取工程(c)の順で行う。
【0032】
上記押出工程(a)における押出温度は、使用するPIフィルム及び接着性フッ素樹脂の種類、目的とする積層フィルムの厚さ等に応じて、好ましい範囲が異なるが、層間接着強度が大きい積層フィルムが得られる点で、通常、使用する接着性フッ素樹脂の融点以上、分解温度未満であることが好ましい。
【0033】
上記押出工程(a)において、溶融させた接着性フッ素樹脂を上記PIフィルム上に押し出す速度は、使用する上記接着性フッ素樹脂や上記PIフィルムの組成、厚さ等によって適宜設定することができるが、例えば、0.1〜100m/分の範囲で行うことができる。
【0034】
上記押出ラミネーション、なかでも、上記押出工程(a)は、層間接着強度が大きい積層フィルムが得られる点で、不活性ガス中で行うこと及び/又はPIフィルムを予め乾燥若しくは予熱することにより水分を除去しておくことが好ましい。
本発明において、押出ラミネーションは、押出工程により接着性フッ素樹脂に存在する接着性部位の接着性が発揮されることに特徴があると考えられるが、上記押出ラミネーションを不活性ガス中で行う場合及び/又はPIフィルムを予め乾燥若しくは予熱することにより水分を除去しておく場合、上記接着性を充分に発揮することができると考えられる。
【0035】
上記押出ラミネーションにおける上記押出工程(a)以外の各工程条件は、使用するPIフィルム及び接着性フッ素樹脂の各種類、目的とする積層フィルムの厚さ等に応じ、公知の方法に従って適宜設定することができる。
【0036】
上述のPIフィルムと上述の接着性フッ素樹脂との積層は、熱圧着にて行う場合、一般に、公知の押出成形法等にて接着性フッ素樹脂をフィルムに成形したのち、得られた接着性フッ素樹脂フィルムとPIフィルムとを重ね合わせて加熱しながら圧着させることにより行うことができる。
上記熱圧着は、120〜300℃の温度にて行うことが好ましい。該温度は、より好ましい下限が140℃であり、より好ましい上限が280℃である。
上記PIフィルムは、熱圧着等により貼り合わせて積層する場合、積層前に予め予熱してもよいし、予備乾燥してもよい。
また、熱圧着等により各層を貼り合わせる場合、層間接着性を向上させるため、貼り合わせた後に加熱を行いエージングさせてもよい。
上記エージングの為の加熱は、200〜280℃にて行うことが好ましい。
【0037】
本発明における積層フィルムは、適宜各層の厚さを設定することができ、特に限定されない。
上記積層フィルムにおいて、PIフィルムの厚さは5〜100μmであることが好ましく、10μm以上、50μm以下であることがより好ましい。また、上記接着性フッ素樹脂層の厚さは、5〜100μmであることが好ましいが、10μm以上、50μm以下であることがより好ましい。
上記積層フィルムは、厚さが全体で10〜200μmであることが好ましく、20μm以上、100μm以下であることがより好ましい。
【0038】
本発明における積層フィルムは、上述の熱ラミネーション法により作成した場合、接着強度(x)を、一般に200N/m以上、好ましくは300N/m以上、より好ましくは400N/m以上にすることができる。
本明細書において、上記接着強度(x)は、積層フィルムを10mm幅に切り出し、その端の接着性フッ素樹脂層とPIフィルムとを刃物を用いて剥離し掴みしろを作り、テンシロン万能試験機にて、25mm/分の速度で180°剥離させた時に要した強度である。
【0039】
本発明における積層フィルムは、上述の接着性含フッ素樹脂とPIとを積層してなるものであるので、優れた耐熱性、耐薬品性、機械的特性等を示し、各種用途に使用することができ、袋状物に形成することにより、本発明の加熱処理用袋状物とすることができる。
【0040】
本発明の加熱処理用袋状物としては特に限定されないが、接着剤を用いることによる悪影響を防止する点で、接着性フッ素樹脂層の熱融着により袋形状化したものが好ましい。本発明の加熱処理用袋状物は、特に限定されないが、接着性フッ素樹脂層の熱融着を行う点で、内側が接着性フッ素樹脂層であるものが好ましい。
【0041】
本発明の加熱処理用袋状物は、上述の積層フィルムに加え、更に、PIフィルムの外表面、即ち、上記接着性フッ素樹脂層との接面と反対側の面に1又は2以上のその他の層を含んでなる多層積層フィルムであってもよい。
上記その他の層は、例えば、熱可塑性樹脂層、熱硬化性樹脂層が1層又は2層以上積層されたものであってもよい。
上記多層積層フィルムは、上述の積層フィルムにおけるPIフィルム上に、上記接着性フッ素樹脂層を積層してなるものであってもよく、また、該接着性フッ素樹脂層上に、熱可塑性樹脂層又は熱硬化性樹脂層を1層又は2層以上有するものであってもよい。
上記接着性フッ素樹脂以外に、上記その他の層を構成する材料としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレン/酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン;熱可塑性エラストマー;等が好ましい。
上記多層積層フィルムは、例えば、上述した積層フィルムの作成において、上記その他の層を予め作成してPIフィルム等と圧着する方法、PIフィルム(接着性フッ素樹脂を積層したものであってもよい)上に押出ラミネーション法により積層する方法等により作成することができる。
【0042】
本発明の加熱処理用袋状物の形状としては特に限定されず、例えば、投影図において、長方形、正方形等の四角形を基本とする形状、楕円形、円形等であってもよいし、チューブ状であってもよいし、ガセット型や船底型等の平面上の底部を有するような袋状であってもよいし、周縁部に各種容器を吊り下げるための孔を設けたものであってもよい。
本発明の加熱処理用袋状物は、内容物の種類、加熱装置の容量等に応じて、適当な容量にすることができる。
【0043】
本発明の加熱処理用袋状物は、例えば、上述の積層フィルムを2枚重ね合わせるか又は適当な箇所で折り曲げて、熱シール、高周波シール等、公知の方法にて周縁部をシールすることにより作成することができる。
上記周縁部は、上述の積層フィルムの一部分であり、融点が低い接着性含フッ素樹脂同士を接触させてシールするものであるので、接着剤等の他材を使用する必要がなく、210℃程度のシール温度にて充分シールすることができる。このため、本発明の加熱処理用袋状物は、通常の熱シール機にて簡易且つ低コストで作成することができる。
【0044】
本発明の加熱処理用袋状物は、上述の構成よりなるので、封止部におけるシール性に優れており、様々な内容物の汚染及び流出を防ぐことができ、優れた保護性能を示す。
上記加熱処理用袋状物は、更に、用いる接着性フッ素樹脂の融点未満であれば、常温以上の温度領域下にあっても耐性があり、非常に幅広い温度範囲に耐性を示すことができる。
【0045】
本発明の加熱処理用袋状物が上記優れた効果を奏する機構としては、明確ではないが、(1)PIは成形体の形状を維持する機能を担う、(2)PIフィルムと接着性フッ素樹脂層との層間接着性に優れる、(3)PIフィルムと接着性フッ素樹脂層とは、接着剤を使用しなくても直接接着することができ、接着剤を用いる必要がなく、加熱処理時における接着剤からのアウトガスや溶出物による問題がない、及び、(4)PIフィルムと接着性フッ素樹脂層とを積層してなる積層フィルムは、接着性フッ素樹脂層同士を熱融着等させることにより袋状物を形成するが、該接着性フッ素樹脂層同士の接着性に優れ、シール性に信頼性がある、という各特性が相乗的に奏するものと考えられる。
【0046】
本発明の加熱処理用袋状物は、上記特性を有するのみならず、(5)接着性フッ素樹脂の熱融着温度が従来のフッ素樹脂よりも低温でよいために、安価で市販されている汎用の熱融着機(熱シール機)を使用することができ、特殊な製造技術を特に必要とせず、また、製造コストを低減することができる。更にまた、内容物がフッ素樹脂層と接する場合には、(6)内容物の性状(酸性度、アルカリ性度など)に化学的な影響を受け難い、及び(7)内容物排出時に袋状物の内面に付着(残存)しにくく容易に排出することができる、という効果を有する。
【0047】
本発明の加熱処理用袋状物は、内容物を収納し、所望により密封した後、加熱処理が可能な容器である。上記加熱処理は、水浴、油浴、電子レンジ、オートクレーブ及びインキュベーター等により行うことができる。上記加熱処理における加熱温度は、加熱処理用袋状物を構成する接着性フッ素樹脂の融点未満であれば特に制限されないが、内容物の温度が好ましくは30〜190℃となる加熱処理に好適であり、より好ましい上限は160℃であり、下限は例えば80℃であってもよい。また、本発明の加熱処理用袋状物は、上記特性を有するので、長期間の加熱、加熱後の急冷や衝撃にも充分に耐え得るものである。
本発明の加熱処理用袋状物は、上述の特性を有するので、例えば、薬品容器、食品容器、滅菌処理用容器等として使用することができる。
上記薬品容器は、例えば、袋状物内で化学反応させるための反応容器、加熱処理や放射線処理をする場合の処理容器として使用することができる。上記薬品容器に収納することができる薬品としては、接着性フッ素樹脂との化学的安定性を有する化学薬品が好ましい。該化学薬品としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化学物質、塩酸、硝酸、硫酸等の酸性化学物質、イソオクタン、トルエン、トリエチルアミン等の有機溶剤、等が挙げられる。
上記食品容器は、例えば、臭気の強い食品や、湿気を嫌う食品を収納することができ、また、電子レンジ調理用容器やレトルト食品用容器として使用することができる。
上記滅菌処理用容器は、例えば、袋状物内でシャーレ、試験管等の硝子器具、耳鏡、鼻鏡、舌圧子等の金属器具を収納して加熱滅菌することができる。上記加熱滅菌の条件としては、好ましくは、100〜160℃において1〜10時間、より好ましくは130〜150℃において3〜5時間が挙げられる。また、上記滅菌処理用容器に薬品、薬液、食品等を収納し、80℃から140℃で加熱滅菌することができる。また、30〜45℃等、加熱温度によっては、菌の培養容器として使用することもできる。この場合、あらかじめ本容器を150℃で1時間乾熱滅菌した後、培地および培養対象物を収納して使用できる。
【0048】
本発明の加熱処理用袋状物は、上述のとおり接着剤を使用しなくてもPIフィルムと接着性フッ素樹脂層との接着性に優れたものであることから、接着剤を用いることによる問題がない。本発明の加熱処理用袋状物は、最内層が接着性フッ素樹脂層である場合、該接着性フッ素樹脂層が内容物に接するが、接着性フッ素樹脂の耐薬品性により、該加熱処理用袋状物の内容物による劣化等の影響が抑制され、また、内容物への影響が通常ないので、内容物の劣化、変質を抑止することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の加熱処理用袋状物は、上述の構成よりなるので、(1)シール性、(2)強度や耐衝撃性、(3)化学的安定性、(4)耐付着性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は本実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
合成例1(接着性フッ素樹脂の合成)
内容積820Lのガラスライニング性オートクレーブに純水200Lを入れ、径内を窒素ガスで充分に置換した後、真空にし、1−フルオロ−1,1−ジクロロエタン113kg及びヘキサフルオロプロピレン95kg、シクロヘキサン85gを仕込んだ。次いで、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)[CH=CF(CFH]292gを窒素ガスを用いて圧入し、槽内温度を35℃、攪拌速度を200rpmに保った。更にテトラフルオロエチレンを7.25kg/cmGになるまで圧入し、その後、エチレンを8kg/cmGになるまで圧入した。
【0052】
次いで、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートの50質量%メタノール溶液1.9kgを仕込むことにより、重合を開始した。重合の進行と共に槽内圧力が低下するので、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレンの混合ガス(モル比=39.2:43.6:17.3)を追加圧入して、重合圧力を8kg/cmGに保ちながら重合を続け、途中、CH=CF(CFH1100gを20回に分割してマイクロポンプで仕込み、重合を合計32時間行った。重合終了後、内容物を回収し、水洗し、粉末状の接着性フッ素樹脂を95kg得た。
【0053】
得られた接着性フッ素樹脂について、以下の測定を行った。
(1)モノマー単位
19F−NMR分析を行い、測定した。
(2)カーボネート基数
接着性フッ素樹脂の粉末を室温にて圧縮成形し、厚さ0.05〜0.2mmフィルムを作製した。得られたフィルムについて赤外吸収スペクトル分析を行い、カーボネート基[−OC(=O)−O−]中のカルボニル基が帰属するピーク[1809cm−1(νC=O)]の吸光度を測定した。得られた測定値から、下記式に基づき主鎖炭素数1×10個あたりのカーボネート基の個数を算出した。
N=500AW/εdf
A:上記νC=Oの吸光度
ε:上記νC=Oでのモル吸光度係数[l・cm−1・mol−1
(モデル化合物よりε=170とした。)
W:モノマー組成から計算される組成平均分子量
d:フィルムの密度[g/cm
f:フィルムの厚さ[mm]マイクロメーターにて測定。
上記赤外吸収スペクトル分析は、Perkin−Elmer FTIRスペクトロメーター1760X(Perkin−Elmer社製)を用いて40回スキャンして行った。νC=Oの吸光度の解析は、Perkin−Elmer Spectrum for Windows(登録商標) Ver.1.4Cソフトウェアにて行った。
(3)融点
示差走査熱量計(セイコー社製)を用い、昇温速度10℃/分にて測定し、得られた融解ピークの極大値での温度を融点とした。
【0054】
得られた接着性フッ素樹脂は、モノマー単位がTFE/Et/HFP/[CH=CF(CFH]=38.9/45.9/14.8/0.4であり、カーボネート基数が主鎖炭素数1×10個あたり411個であり、融点が171.8℃であった。
【0055】
実施例
(1)合成例から得られた接着性フッ素樹脂について、シリンダ直径90mmの単軸押出し機にTダイを接続し、シリンダ温度170〜230℃、ダイ温度230℃、スクリュー回転数10rpmの条件下にて、接着性フッ素樹脂フィルム(厚み:25μm)を成形した。
得られた接着性フッ素樹脂フィルムと、ポリイミドフィルム(製品名:カプトン100H、東レ・デュポン社製、厚み:25μm)とを、温度250℃の条件下にて熱ロールでラミネートして、積層フィルム(長さ20m×幅200mm×全体厚み50μm。以下、長尺フィルムともいう。)を得た。得られた積層フィルム(フッ素樹脂層の厚さ;25μm、ポリイミド層の厚さ;25μm)の接着強度について、長さ方向に100mm、幅方向に10mmの短冊状に切り出し、その端のフッ素樹脂層とポリイミド層とを刃物を用いて剥離し掴みしろを作り、テンシロン万能試験機(オリエンテック社製)を用いて25mm/分の速度で180°剥離させて測定したところ、400N/mであった。
(2)続いて、上記長尺フィルムから12cm角に切り出した積層フィルム2枚を、シール幅(貼付しろ)1cmとして接着性フッ素樹脂層を内側にして重ね、3辺をヒートシーラーで210℃×5秒の条件で熱融着して開口状態の袋を作成した。
【0056】
実験1
実施例で作製した袋に、28%濃度のアンモニア水100mlを収納して、開口部をヒートシールした。30日間にわたり70℃で加熱処理をしたが、内容物に変化はなく、また、袋のシール性の低下、変質は認められなかった。
【0057】
実験2
実施例で作製した袋に、細菌の付着したガラス製シャーレを収納して、開口部をヒートシールした。1時間にわたり乾熱滅菌器にて150℃の加熱滅菌処理をした。袋のシール性の低下、変質は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の加熱処理用袋状物は、上述の構成よりなるので、(1)シール性、(2)強度や耐衝撃性、(3)化学的安定性、(4)耐付着性が良好な加熱処理用袋状物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムと接着性フッ素樹脂層とを積層してなる積層フィルムを含む加熱処理用袋状物。
【請求項2】
請求項1記載の加熱処理用袋状物を用いてなることを特徴とする薬品容器。
【請求項3】
請求項1記載の加熱処理用袋状物を用いてなることを特徴とする食品容器。
【請求項4】
請求項1記載の加熱処理用袋状物を用いてなることを特徴とする滅菌処理用容器。

【公開番号】特開2006−326290(P2006−326290A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122090(P2006−122090)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】