説明

加熱炉の板温制御方法及び装置

【課題】前材と後材との接合部において点火・消火動作が確実に行われるようにする。
【解決手段】出口板温の目標値を含む生産情報、及び前記検出された実績値に基づいて加熱炉に設定すべき全燃料流量を算出するとともに、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在から将来にわたる板温を予測して、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体である後材の将来予測板温と、その目標板温とから後材で必要になる燃料流量を予め算出し、前記算出された燃料流量で板状体を加熱する際に、前記点火・消火動作が必要か否かを判定し、点火・消火動作が必要な場合には前記前材と後材とを接合する部分が前記加熱ゾーンを通過するときに点火・消火を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱炉の板温制御方法及び装置に関し、特に、鋼板や薄鋼帯の焼鈍等に利用される加熱炉の板温制御を行うために用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱炉における板温制御は、「出口板温」と称される加熱炉の出口における板温を制御量とし、かつ加熱炉に供給すべきコークスガス(COG)等の燃料の流量を操作量として行われる。
【0003】
通常、加熱炉については、制御の容易化や燃料流量の節減などを図る上で、その内部を鋼板の搬送経路に沿って複数の加熱ゾーン(「加熱帯」)に分割されるという手法が採用されている。加熱ゾーンは、燃料流量や温度が他の加熱ゾーンとは略独立に制御できるようになっている。以下の説明では、この加熱ゾーンを単にゾーンと称することもある。
【0004】
このような連続焼鈍処理設備では、処理後の鋼板の品質を確保するとともにヒートバックルなどの操業トラブルを回避する上で、「板温」と称される鋼板の温度の制御が重要であり、特に加熱炉における板温制御が重要な課題となっている。
【0005】
連続焼鈍処理設備では、「板幅」と称される鋼板の幅や「板厚」と称される鋼板の厚みなどが異なる異種の鋼板を、自動溶接機構を用いて継ぎ合せて連続的に供給する「セット替」と称される手法が採用されている。このようなセット替に伴って出現する異種鋼板間の継ぎ目では加熱炉板温制御のパラメータとなる板幅、板厚などが階段状に変化し、また、「通板速度」と称される鋼板の搬送速度が毎分数十mから数百mにも達するという状況の下で、相当に高度の制御が必要になる。
【0006】
このような複数ゾーン構成の加熱炉を制御するための従来の典型的な板温制御装置を、4ゾーン構成の加熱炉の場合を例にとって図7に示す。
図7に示したように、最適板温制御部32は、加熱炉31の状態と板温とを加熱炉状態検出部33と板温計34のそれぞれから「実績値」として受け取るとともに、セット替などに伴う目標板温、板幅、板厚、通板速度などのパラメータを生産情報として受け取る。
【0007】
そして、所定のアルゴリズムに従って加熱炉に設定すべき全燃料流量Qを操作量として算定し、これを特定比率配分などのような、所定のアルゴリズムで、各ゾーン毎の流量を算出し、計装コントローラ36に設定する。
【0008】
計装コントローラ36は、各ゾーン毎に設けられている燃料供給管37のバルブBa〜Bdの開度を、空気のバランスを取りながら調整することにより、設定された流量と実績値とが一致するように制御している。
【0009】
このような制御を行うために、オペレータは経験と勘とに基いて4個のゾーンA〜Dのそれぞれについて点火・消火操作を行っていたが、このような操作は熟練度の高い作業が常時必要であり、オペレータの作業負荷が減らないという問題点があった。
【0010】
このような問題点を解消するために、オペレータの介在なしに全燃料流量を各ゾーンに自動的に配分する方法が、例えば、特許文献1において提案されている。
【0011】
【特許文献1】特開平6−10058号公報
【特許文献2】特開昭61−190026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記特許文献1に記載の「板状体の加熱炉板温制御方法」の場合は、後材で必要になる燃料流量までは予見していなかった。このために、加熱ゾーンの点火・消火動作を前材と後材との接合部分に限定できず、計装コントローラ36や燃料供給管37などの状況によっては、空燃比制御の不安定さや不完全燃焼などの予期せぬ影響を受け、板の表面性状や材質確保が困難になりかねないという問題点があった。
【0013】
本発明は上述の問題点に鑑み、前材と後材との接合部において点火・消火動作が確実に行われるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の加熱炉の板温制御方法は、燃料流量の個別制御が可能な複数の加熱ゾーンから成る加熱炉の点火・消火動作を制御することにより、加熱炉から搬出される板状体の出口板温を制御する方法であって、前記加熱炉の状態値及び出口板温を実績値として検出する実績値検出工程と、前記実績値検出工程において検出された出口板温の目標値を含む生産情報、及び前記検出された実績値に基づきこの加熱炉に設定すべき全燃料流量を算出する燃料流量算出工程と、過去から現在にわたる板温、炉温、燃料流量の推移と、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在から将来にわたる板温を予測して、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体である後材の将来予測板温と、その目標板温とから後材で必要になる燃料流量を予め算出する後材燃料流量算出工程と、前記後材燃料流量算出工程により算出された燃料流量で板状体を加熱する際に、前記点火・消火動作が必要か否かを判定し、点火・消火動作が必要な場合には前記前材と後材とを接合する部分が前記加熱ゾーンを通過するときに点火・消火を行うようにする点火・消火事前判定工程とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明の加熱炉の板温制御装置は、燃料流量の個別制御が可能な複数の加熱ゾーンから成る加熱炉の点火・消火動作を制御することにより、加熱炉から搬出される板状体の出口板温を制御する装置であって、前記加熱炉の状態値及び出口板温を実績値として検出する実績値検出手段と、前記実績値検出手段において検出された出口板温の目標値を含む生産情報、及び前記検出された実績値に基づきこの加熱炉に設定すべき全燃料流量を算出する燃料流量算出手段と、過去から現在にわたる板温、炉温、燃料流量の推移と、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在から将来にわたる板温を予測して、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体である後材の将来予測板温と、その目標板温とから後材で必要になる燃料流量を予め算出する後材燃料流量算出手段と、前記後材燃料流量算出手段により算出された燃料流量で板状体を加熱する際に、前記点火・消火動作が必要か否かを判定し、点火・消火動作が必要な場合には前記前材と後材とを接合する部分が前記加熱ゾーンを通過するときに点火・消火を行うようにする点火・消火事前判定手段とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明のコンピュータプログラムは、燃料流量の個別制御が可能な複数の加熱ゾーンから成る加熱炉の点火・消火動作を制御することにより、加熱炉から搬出される板状体の出口板温を制御する工程をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、前記加熱炉の状態値及び出口板温を実績値として検出する実績値検出工程と、前記実績値検出工程において検出された出口板温の目標値を含む生産情報、及び前記検出された実績値に基づきこの加熱炉に設定すべき全燃料流量を算出する燃料流量算出工程と、過去から現在にわたる板温、炉温、燃料流量の推移と、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在から将来にわたる板温を予測して、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体である後材の将来予測板温と、その目標板温とから後材で必要になる燃料流量を予め算出する後材燃料流量算出工程と、前記後材燃料流量算出工程により算出された燃料流量で板状体を加熱する際に、前記点火・消火動作が必要か否かを判定し、点火・消火動作が必要な場合には前記前材と後材とを接合する部分が前記加熱ゾーンを通過するときに点火・消火を行うようにする点火・消火事前判定工程とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、出口板温の目標値を含む生産情報、及び前記検出された実績値に基づいて加熱炉に設定すべき全燃料流量を算出するとともに、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在から将来にわたる板温を予測して、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体である後材の将来予測板温と、その目標板温とから後材で必要になる燃料流量を予め算出し、前記算出された燃料流量で板状体を加熱する際に、前記点火・消火動作が必要か否かを判定し、点火・消火動作が必要な場合には前記前材と後材とを接合する部分が前記加熱ゾーンを通過するときに点火・消火を行うようにしたので、前材と後材との接合部において点火・消火動作が確実に行われるようにすることができる。これにより、製品として出荷する部分においては、点火・消火動作時に発生しやすい空燃比制御の不安定さや不完全燃焼などの予期せぬ影響を受けないようにすることが可能となり、板の表面性状や材質確保を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
次に、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態を示し、加熱炉の板温制御装置の一例を説明するブロック図である。
図1において、1はストリップ仕様設定器、2はストリップトラッキング装置、3は加熱炉状態検出器、4は加熱炉出口板温予測制御器、5は燃料流量制御器、6は後材燃料流量予測器、7は点消火事前判定器、8は速度検出器、9はセット替検出器、10は加熱炉、11は板温計である。また、100は本実施形態の加熱炉10で加熱する鋼板である。
【0019】
ストリップトラッキング装置2は、セット替(溶接点)検出器9からの検出信号P1、速度検出器8により検出した中央ライン速度V、及びセット替検出器9の設置場所から加熱炉出口までの距離(ライン長さ)に基づいて、加熱炉出口から次の接合部までのストリップ長さ)に基づいて、加熱炉出口から次の接合部までのストリップ長さz(接合部位置)を常に求めて、加熱炉出口板温予測制御器4、及び後材燃料流量予測器6に出力する。また、ストリップトラッキング装置2は、接合部の加熱炉出口通過タイミングに起動信号P2をストリップ仕様設定器1に出力する。ストリップ仕様設定器1は、図1に示すように、ストリップトラッキング装置2からの起動信号P2によって起動され、加熱炉内を先行して通過中の前材と、その後に加熱炉へ挿通される後材のそれぞれのストリップ仕様(板厚、板幅、加熱炉出口目標板温)を出力する。加熱炉状態検出器3は、加熱炉10の状態として、各加熱ゾーンA〜Dに供給されている燃料流量や板温計11からストリップ100が加熱炉10を出る際の板温を検出する。さらに、炉温及び点消火状態も加熱炉10の「実績値」として検出される。
【0020】
以下、本発明の更に詳細を実施形態によって説明する。
本実施形態の加熱炉10は、鋼板100の搬送経路に沿って分割された4個のゾーンA,B,C,Dから成るとともに、燃料供給管の途中にゾーンごとに設けられた流量制御弁Ba,Bb,Bc,Bdの開度(完全に閉じることも含む)を調整することによって各ゾーンに配分する燃料流量を個別制御できるようになっている。
【0021】
加熱炉状態検出器3は、4個のゾーンA,B,C,Dのそれぞれに設けられた温度計から各ゾーン内の温度を入力し、点火中のゾーンについて温度の加重平均値をとるなどの処理によって加熱炉全体の状態値を検出するとともに、各ゾーンの点消火状態も検出し、これを加熱炉出口板温予測制御器4、及び後述する後材燃料流量予測器6に出力する。
【0022】
加熱炉出口板温予測制御器4は、加熱炉状態検出器3から出力される加熱炉10の状態値と、板温計11から出力される板温とを実績値として受け取るとともに、セット替などに伴う目標板温、板幅、板厚、通板速度などの情報をストリップ仕様設定器1とトラッキング装置2の作用により受取り、所定のアルゴリズムに従って加熱炉10に設定すべき全燃料流量Qを算定し、操作量として燃料流量制御器5に出力する。
【0023】
すなわち、本実施形態の加熱炉出口板温予測制御器4は、生産情報や操業実績から加熱炉10から搬出される板状体、すなわち、ストリップ100の出口板温を予測する「板温予測モデル」と、それらが目標板温に一致するように閉ループ制御を行う制御プログラムとから構成されている。
【0024】
ここで、板温予測モデルとは、炉出口板温と炉温、燃料流量、板厚、板幅、及び速度との動的な関係を表すもので、「数1」のような公知の板温予測モデル(例えば、特許文献2に記載されているモデル)を有している。
【0025】
また、燃料流量制御器5は、燃料流量配分の規則を定めた燃料配分テーブルと、この燃料配分テーブルを参照して燃料流量の配分を行うプロセッサから成る部分と、このプロセッサを介して燃料配分テーブルの内容を変更する入出力部とから構成されている。
【0026】
燃料流量制御器5のプロセッサは、加熱炉出口板温予測制御器4から受けた全燃料流量に基づき燃料配分テーブルを参照して個々のゾーンA,B,C,Dのそれぞれに配分する燃料流量を求め、ゾーンごとに設けられている流量制御弁Ba,Bb,Bc,Bdの開度を調整する。例えば、加熱炉出口板温予測制御器4から出力された全燃料流量Qを4個のゾーンA,B,C,Dのそれぞれに配分する。この燃料流量制御器5のプロセッサ部分は、加熱炉出口板温予測制御器4を実現するためのソフトウェアとともに電子計算機上を走行するソフトウェアによって実現することもできる。
【0027】
図5は、図1に示した燃料流量制御器5による燃料流量の配分方法を説明するための概念図であり、横軸は全燃料流量Q(トータルCOG)、縦軸は点火ゾーン数を示している。
そして、全燃料流量Qの増加に応じて、点火していくための閾値q11,q21,q31と、全燃料流量の減少に応じて、消火していくための閾値q12,q22,q32を持つ。
【0028】
いま、各ゾーンに発熱量が無視できる程度に小さな点火用の種火を設けておく場合を想定すれば、あるゾーンに配分する燃料流量を有限の値に設定することはそのゾーンを点火状態にすることを意味し、逆にあるゾーンに配分する燃料流量をゼロに設定することはそのゾーンを消火状態にすることを意味する。そのような種火を備えてない加熱炉については燃料流量の配分と点火/消火の制御と連携して行ってもよいが、以下では、説明の便宜上、各ゾーンに点火用の種火が設けられており、従って、燃料流量制御器5による燃料流量の配分が各ゾーンの点火と消火の制御を兼ねる場合を想定する。
【0029】
まず、全燃料流量Qがゼロから単調に増加してゆく場合を想定する。全燃料流量Qがゼロよりも大きくかつ増加時の最低の閾値q11より小さければ、すなわち0<Q<q11(≦DゾーンのみのMAX流量)であれば、この全燃料流量Qが全て最終段のゾーンDのみに配分される。すなわち、点火ゾーン数は「1」であり、残りの3個のゾーンA,B,Cは消火状態を保持する。
【0030】
全燃料流量Qが更に増加して増加時の最低の閾値q11を越えると、ゾーンCが点火され、全燃料流量が後段の2個の点火ゾーンDとCとに配分される。全燃料流量Qが更に増加して増加時の中間の閾値q21(≦3Zと4Zを合せた上でのMAX流量)を越えると、ゾーンBが新たに点火され、全燃料流量Qが3個の点火ゾーンD,C,Bに配分される。全燃料流量Qが更に増加して増加時の最高の閾値q31(≦2Zと3Zと4Zを合せた上でのMAX流量)を越えると、最前段のゾーンAが新たに点火され、全燃料流量Qが4個の点火ゾーンD,C,B,Aに配分される。点火中の各ゾーンへの燃料配分については、流量の配分比が後段ほど大きければ、後段の燃料流量ほど大きな値となるように、すなわち、ゾーンD,C,B,Aの順に大きな値が配分される。
【0031】
上記全ゾーン点火の状態から今度は全燃料流量Qがゼロまで単調に減少し始めるものとする。全燃料流量Qの減少に伴いこれが増加時の最高の閾値q31より小さくなっても4個のゾーンは依然として点火状態を保持する。全燃料流量Qが更に減少し、これが減少時の最高の閾値q32よりも小さくなると始めて、最前段のゾーンAに対する燃料流量の配分量がゼロとなり、これが消火状態に移行する。すなわち、点火ゾーンは後段の3個のゾーンB,C,Dとなり、点火ゾーン数は「4」から「3」に減少する。
【0032】
以下、同様にして、全燃料流量Qが更に減少し、これが増加時の中間の閾値q21より小さくなっても後段の3個の加熱ゾーンB,C,Dが依然として点火状態を保持するが、これが減少時の中間の閾値q22よりも小さくなると始めて、加熱ゾーンBに対する配分量がゼロとなり、加熱ゾーンBが消火状態に移行する。
【0033】
すなわち、点火ゾーン数は「3」から「2」に減少する。全燃料流量Qが更に減少し、これが増加時の最低の閾値q11より小さくなっても後段の2個のゾーンD,Cが依然として点火状態を保持するが、これが減少時の最低の閾値q12よりも小さくなると始めて、ゾーンCに対する配分量がゼロとなりこれが消火状態に移行する。
【0034】
すなわち、点火ゾーンは最後段のゾーンDのみとなり、点火ゾーン数は「2」から「1」に減少する。全燃料流量Qが更に減少してゼロになると最後段のゾーンDも消火状態となり、加熱炉全体の動作が停止する。
【0035】
つまり、一旦点火状態に移行させた加熱ゾーンについては、この移行時よりも全燃料流量が多少減少しても、そのまま点火状態を保持させる。また、一旦消火状態に移行した加熱ゾーンについては、この移行時よりも全燃料流量が多少増加しても、そのまま消火状態を保持させる。このような状態遷移に関する不応領域を設定することにより、頻繁な点消火動作を回避して、加熱炉板温制御や空燃比制御の不安定化による不完全燃焼や、さらには開閉弁など関連機器の消耗を極力抑えられるようにする。
【0036】
また、このシステムの運用責任者は、燃料流量制御器5内の燃料配分テーブルの変更が必要になった場合には、図示しない書き換え手段からプロセッサを介してその内容を書換えることにより、燃料配分の規則を随時変更することができる。これにより、後段高負荷配分の他に、全ゾーン等負荷、前段高負荷などの任意の配分規則も実現可能となる。
【0037】
このような燃料流量制御を行っている加熱炉の板温制御装置において、本実施形態においては、現在加熱炉10を通板中の鋼板100の加熱制御を行いながら、過去から現在にわたる板温、炉温、燃料流量の推移と、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体(以下、後材)の将来予測板温と、その目標板温(目標値)とを予測する。そして、前記予測した後材の将来予測板温と目標板温とから、後材で必要になる燃料流量(後材燃料流量)を予め算出しておくようにしている。
【0038】
先ず、図3の制御特性図を参照しながら本実施形態で行う「評価関数と燃料流量算出」の関係を説明する。
図3において、(a)は板温に関する特性を示し、(b)は板厚及び搬送速度を示し、(c)は燃料流量の推移を示している。
図3(c)に示したように、燃料流量は過去から現在に至るまでに増加してきている。図3(c)においては燃料流量が階段状に増加している様子を示しているが、これは燃料流量を所定の時間毎にサンプリングしているためである。
【0039】
図3(b)に示すように、板厚が変わることを検出した場合には、図3(c)に示すように、後材を目標板温rに加熱するのに必要な「必要燃料流量」(2)を算出する。この「必要燃料流量」は、後述する「数3」を用いて行う。そして、この算出した「必要燃料流量」を点消火事前判定器7で行う点消火の事前判定で使用する。
【0040】
ところで、「現状流量」から、後材を目標板温rに加熱するのに必要な「必要燃料流量」(2)に直ぐに変えると、現在加熱中の前材の温度が特性曲線f'のように高くなり過ぎてしまう。そこで、本実施形態においては、後述する「数2」を用いて、前材の後端と後材の先端の両方の板温偏差を最適化するための必要燃料流量(1)(=現状流量+ΔU(t))を算出して、それに切り替えるようにしている。
【0041】
このようにすることにより、板厚が変化する前に燃料流量を制御しなかった場合の板温予測値(図3(a)において点線で示している)に対して、「特性曲線f」で示すように前材と後材との接合部において板温偏差を分散させることができ、前材及び後材の両方ともに目標板温からの乖離を少なくすることができる。
【0042】
次に、図2のフローチャートを参照しながら本実施形態の加熱炉の板温制御装置で行う制御手順の一例を説明する。
制御処理が開始されると、先ず、ステップS201において加熱炉10の出口に配設されている板温計11の計測値が予め設定した目標板温となるようにする制御を行う。このための板温予測は、加熱炉出口板温予測制御器4において、下記の「数1」を用いた「板温予測モデル」により行う。
【0043】
【数1】

【0044】
次に、ステップS202に進み、「加熱炉出口板温y」が所定の温度となるようにするために必要な燃料流量を算出する。この燃料流量の算出は、加熱炉出口板温予測制御器4において下記の「数2」で示した評価関数を用いて行う。
【0045】
【数2】

【0046】
次に、ステップS203において、鋼板100の接合部が接近しているか否かを判断する。鋼板100の接合部が接近していることはストリップトラッキング装置2により検出される。ステップS203の判断の結果、接合部が接近していない場合にはステップS201に戻って前述した制御を行う。
【0047】
一方、ステップS203の判断の結果、接合部が接近している場合にはステップS204に進む。ステップS204においては、後材の板温予測を行う。
【0048】
次に、ステップS205に進み、「後材の予測板温と目標板温との差」を評価し、後材で必要になる燃料流量を算出する。この評価は後材燃料流量予測器6において行うものであり、本実施形態においては下記の「数3」に示す評価関数を用いて行う。
【0049】
【数3】

【0050】
ここで、「数2」で算出する燃料流量と、「数3」で算出する燃料流量との違いを説明する。「数2」で算出する燃料流量は、通板中の鋼板100が加熱炉10の出口で所定の板温となるようにするために必要な燃料流量である。具体的には、図4(a)に示したように、t+d(むだ時間)〜t+N2(板温予測窓)の区間において、目標板温と予測板温が乖離している部分(破線を付した部分)の面積を評価して、それらが最小化するように、図4(b)に示したΔU(t)(燃料流量の変更量)を算出している。
【0051】
それに対して、「数3」の場合には、後材に必要なトータル燃料流量を事前に予測して評価するためのものである。すなわち、図4において「t+N1´」〜「t+N2´」において、目標板温と予測板温が乖離している部分(黒く塗り潰した部分)の面積を評価するようにし、それらが最小化するための燃料流量を算出するのに用いられる。(図4の例では、N1'とN2'はN2より小さいが、N2より大きくてもよい)
【0052】
次に、ステップS206に進み、図5に示したように、加熱ゾーンA〜Dの燃料「min」、「max」を考慮した点火・消火ヒステリシスを参照する。点火・消火ヒステリシスは、点火動作を開始するしきい値と、消火動作を開始するしきい値を異ならせることにより実現している。
【0053】
次に、ステップS207に進み、溶接点において点火・消火を行うか否かを判断する。この判断は、点消火事前判定器7により行われる。点消火事前判定器7の判断の結果、溶接点において点火・消火を行う必要がある場合にはステップS208に進み、前材と後材との溶接点において点火または消火を行う。その後、ステップS209に進む。一方、ステップS207の判断の結果、点火・消火を行う必要がないと判断した場合にはステップS208をジャンプしてステップS209に直接進む。
【0054】
ステップS209においては、ストリップ100の加熱処理を終了するか否かを判断する。この判断の結果、加熱終了しない場合にはステップS201に戻って前述した処理を繰り返し行う。また、終了する場合には「エンド」処理を実行する。
【0055】
(実施例)
次に、図6の特性図を参照しながら一実施例を説明する。
この例の場合、前材と後材との接合点において、板厚が「1.3倍」に厚くなり、目標板温が上がるケースを示している。なお、「図6」において、SP:セットポイント、PV:プロセスバリュー、NOF:Non oxygen furnace(無酸化炉)を示している。
【0056】
この例の場合、後材の板厚が「1.3倍」に厚くなることが予見されているので、図6において「(1)」で示したように、早め(前材と後材との接合部が来る前の「15:37」の頃から)にトータルの燃料流量を増加させはじめている。また、トータルの燃料流量を増加させるのに伴って、図6中において「(2)」で示したように、点消火事前判定器7から「点消火指令」のうち、点火指令を発信して「2ゾーン」を点火している。
【0057】
このように、前材と後材とを接合する部分が当該ゾーンを通過するときに、予め点火・消火を行うようにすることにより、図6中において「(3)」で示したように、斜線を付している「板温偏差」を前材と後材とで分け合う形にすることができ、最適制御を実現することができる。これにより、板温制御精度を格段と向上することができるとともに、オペレータの作業負荷を大幅に低減することができる。
【0058】
(本発明に係る他の実施の形態)
上述した本発明の実施の形態における加熱炉の板温制御装置を構成する各手段、並びに加熱炉の板温制御方法の各ステップは、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は本発明に含まれる。
【0059】
また、本発明は、例えば、システム、装置、方法、プログラムもしくは記憶媒体等としての実施の形態も可能であり、具体的には、複数の機器から構成されるシステムに適用してもよいし、また、一つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0060】
なお、本発明は、前述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラム(実施の形態では図2に示すフローチャートに対応したプログラム)を、システムあるいは装置に直接、あるいは遠隔から供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータが前記供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。
【0061】
したがって、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、前記コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明は、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。
【0062】
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等の形態であってもよい。
【0063】
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM,DVD−R)などがある。
【0064】
その他、プログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続し、前記ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記録媒体にダウンロードすることによっても供給できる。
【0065】
また、本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることによっても実現可能である。つまり、本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明に含まれるものである。
【0066】
また、本発明のプログラムを暗号化してCD−ROM等の記憶媒体に格納してユーザに配布し、所定の条件をクリアしたユーザに対し、インターネットを介してホームページから暗号化を解く鍵情報をダウンロードさせ、その鍵情報を使用することにより暗号化されたプログラムを実行してコンピュータにインストールさせて実現することも可能である。
【0067】
また、コンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施の形態の機能が実現される他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施の形態の機能が実現され得る。
【0068】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によっても前述した実施の形態の機能が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態を示し、加熱炉の板温制御装置の構成例を説明するブロック図である。
【図2】加熱炉の板温制御方法の制御手順の一例を説明するフローチャートである。
【図3】燃料流量と板温との関係を示す特性図であり、(a)は板温に関する特性を示し、(b)は板厚及び搬送速度を示し、(c)は燃料流量の推移を示す特性図である。
【図4】板温の評価範囲の取り方を説明するための概念図である。
【図5】4つの加熱ゾーンの燃料「min」、「max」を考慮した点火・消火ヒステリシスを説明する図である。
【図6】板厚が「1.3倍」に厚くなり目標板温が上がる場合において行われる制御例を示す特性図である。
【図7】従来の加熱炉の板温制御装置の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0070】
1 ストリップ仕様設定器
2 ストリップトラッキング装置
3 加熱炉状態検出器
4 加熱炉出口板温予測制御器
5 燃料流量制御器
6 後材燃料流量予測器
7 点消火事前判定器
8 速度検出器
9 セット替検出器
10 加熱炉
11 板温計
100 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料流量の個別制御が可能な複数の加熱ゾーンから成る加熱炉の点火・消火動作を制御することにより、加熱炉から搬出される板状体の出口板温を制御する方法であって、
前記加熱炉の状態値及び出口板温を実績値として検出する実績値検出工程と、
前記実績値検出工程において検出された出口板温の目標値を含む生産情報、及び前記検出された実績値に基づきこの加熱炉に設定すべき全燃料流量を算出する燃料流量算出工程と、
過去から現在にわたる板温、炉温、燃料流量の推移と、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在から将来にわたる板温を予測して、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体である後材の将来予測板温と、その目標板温とから後材で必要になる燃料流量を予め算出する後材燃料流量算出工程と、
前記後材燃料流量算出工程により算出された燃料流量で板状体を加熱する際に、前記点火・消火動作が必要か否かを判定し、点火・消火動作が必要な場合には前記前材と後材とを接合する部分が前記加熱ゾーンを通過するときに点火・消火を行うようにする点火・消火事前判定工程とを有することを特徴とする加熱炉の板温制御方法。
【請求項2】
前記後材燃料流量算出工程においては下記の式、
【数1】

を評価関数に用いて、前記後材を所定の温度に加熱するのに必要な全燃料流量を算出することを特徴とする請求項1に記載の加熱炉の板温制御方法。
【請求項3】
前記燃料流量算出工程により算出された全燃料流量を前記複数の加熱ゾーンに配分することにより各加熱ゾーンの点火及び消火を含む流量配分を行う流量配分工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の加熱炉の板温制御方法。
【請求項4】
燃料流量の個別制御が可能な複数の加熱ゾーンから成る加熱炉の点火・消火動作を制御することにより、加熱炉から搬出される板状体の出口板温を制御する装置であって、
前記加熱炉の状態値及び出口板温を実績値として検出する実績値検出手段と、
前記実績値検出手段において検出された出口板温の目標値を含む生産情報、及び前記検出された実績値に基づきこの加熱炉に設定すべき全燃料流量を算出する燃料流量算出手段と、
過去から現在にわたる板温、炉温、燃料流量の推移と、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在から将来にわたる板温を予測して、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体である後材の将来予測板温と、その目標板温とから後材で必要になる燃料流量を予め算出する後材燃料流量算出手段と、
前記後材燃料流量算出手段により算出された燃料流量で板状体を加熱する際に、前記点火・消火動作が必要か否かを判定し、点火・消火動作が必要な場合には前記前材と後材とを接合する部分が前記加熱ゾーンを通過するときに点火・消火を行うようにする点火・消火事前判定手段とを有することを特徴とする加熱炉の板温制御装置。
【請求項5】
前記後材燃料流量算出手段においては下記の式、
【数2】

を評価関数に用いて、前記後材を所定の温度に加熱するのに必要な全燃料流量を算出することを特徴とする請求項4に記載の加熱炉の板温制御装置。
【請求項6】
前記燃料流量算出手段により算出された全燃料流量を前記複数の加熱ゾーンに配分することにより各加熱ゾーンの点火及び消火を含む流量配分を行う流量配分手段を有することを特徴とする請求項4または5に記載の加熱炉の板温制御装置。
【請求項7】
燃料流量の個別制御が可能な複数の加熱ゾーンから成る加熱炉の点火・消火動作を制御することにより、加熱炉から搬出される板状体の出口板温を制御する工程をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記加熱炉の状態値及び出口板温を実績値として検出する実績値検出工程と、
前記実績値検出工程において検出された出口板温の目標値を含む生産情報、及び前記検出された実績値に基づきこの加熱炉に設定すべき全燃料流量を算出する燃料流量算出工程と、
過去から現在にわたる板温、炉温、燃料流量の推移と、現在から将来にわたる板厚、板幅、通板速度とから、現在から将来にわたる板温を予測して、現在加熱炉を通板中の前材の次に加熱する板状体である後材の将来予測板温と、その目標板温とから後材で必要になる燃料流量を予め算出する後材燃料流量算出工程と、
前記後材燃料流量算出工程により算出された燃料流量で板状体を加熱する際に、前記点火・消火動作が必要か否かを判定し、点火・消火動作が必要な場合には前記前材と後材とを接合する部分が前記加熱ゾーンを通過するときに点火・消火を行うようにする点火・消火事前判定工程とをコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−255443(P2008−255443A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100890(P2007−100890)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】