説明

加熱炉用Co被覆耐荷重支持部材

【課題】 1200℃以上といった高温環境を与える加熱炉内において、被加熱材の下に介挿されて使用されるスキッドのような大なる荷重を支える炉内用耐荷重支持部材を提供する。
【解決手段】 高温環境を与える加熱炉内において大なる荷重を支える加熱炉用Co被覆耐荷重支持部材である。質量%で、Cr:15〜45%、W:13〜20%、残部Co及び不可避的不純物を含む合金からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉内において被加熱材の下に介挿されて使用されるスキッドの如き大なる荷重を支える耐荷重支持部材に関し、特に1200℃以上といった高温環境を与える加熱炉内において繰り返し使用できる加熱炉用Co被覆耐荷重支持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱炉内において被加熱材である金属塊のような重量物を炉床から離間させて均熱を与えるためにスキッドが用いられている。例えば、1200℃以上といった高温環境を与える加熱炉内では、炉床近くでも1100℃以上の高温に達し、スキッドには、かかる高温でも重量物からの荷重に耐えるだけの高い高温圧縮強度と、使用中の酸化による劣化に対する高い耐酸化性が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1乃至3では、従来の27Cr−40Co−17Ni−Fe、30Cr−10Co−25Ni−FeなどのCr、Co及びNiなどを含む耐熱合金鋼からなるスキッドでは、高温圧縮強度や耐クリープ性、耐酸化性が不十分であることを述べた上で、Crの鋳造性及び耐酸化性を改善するNiを高濃度で含むCr基合金からなるスキッドを開示している。かかるスキッドは、1300℃以上における高温圧縮強度、耐クリープ性及び耐酸化性に優れ、鋳造性が良く生産性にも優れると述べている。詳細には、Niを添加することで、(1)Crの延性脆性遷移温度を下げて靱性を高め、(2)脆い金属間化合物からなるσ相を析出させるCoやFeのような添加元素を抑制してσ相に起因する脆化を防止するとともに(α+γ)二相組織を与え、(3)蒸気圧の高いCr酸化物被膜の形成を抑制させその一方で母材との密着性が良好なNi酸化物被膜を形成させて高温酸化による表面剥離などを防止するものである。
【0004】
特許文献1でも述べられているように、Cr酸化物被膜は蒸気圧が高く高温環境下で不安定であるため、Cr基合金だけでなく、他の合金系の耐熱合金、例えば、Co基合金からなるスキッドも知られている。
【0005】
例えば、特許文献4では、従来のCo基耐熱合金からなるスキッドでは、Crの粒状炭化物が表面より脱離しやすく、1100〜1150℃の温度で高温耐摩耗性及び高温靭性が十分でなく使用寿命が短かった、と述べている。その上で、鋳造によりCo基合金中にCrの炭化物を整列した状態で析出させた一方向共晶炭化物相組織を与えたスキッドを開示している。このような組織を与える合金の成分組成の1つとして、質量%で、Cr:15〜70%、C:0.3〜6.0%、残部Coからなる成分を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−293376号公報
【特許文献2】特開平11−293377号公報
【特許文献3】特開平11−293378号公報
【特許文献4】特開平9−241727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、Cr基耐熱合金からなるスキッドにおいて、スキッドの表面に脆いCr酸化物被膜が厚くできてしまうと、スキッドの繰り返しの使用により表面の剥離が進み、大きく減肉してしまう。また、Co基耐熱合金からなるスキッドにおいて、Cr酸化物皮膜ほどの表面の剥離は少ないものの、特に高温靭性が十分ではなく変形などを生じやすかった。すなわち、繰り返しの使用寿命に対する信頼性が低かった。
【0008】
また、特許文献1乃至4に開示の鋳造により製造されるスキッドでは、鋳造欠陥などの鋳造加工特有の欠陥が含まれるため、耐衝撃性が低く、繰り返しの使用に対する信頼性が低かった。一方、鍛造材を切削加工できれば、このような欠陥などを防止できるが、一般的にCrやCoを多く含むCr基耐熱合金やCo基耐熱合金は切削加工性が低かった。
【0009】
さらに、加熱炉内では多くの耐荷重支持部材が使用されており、これらにはスキッドと共通して上記したような高い高温圧縮強度や靱性、耐酸化性が求められている。かかる各種耐荷重支持部材においても、目的に合わせて切削加工によりその所与の形状を成形加工できることが望まれる。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、特に1200℃以上といった高温環境を与える加熱炉内において、被加熱材の下に介挿されて使用されるスキッドのような大なる荷重を支える炉内用耐荷重支持部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
高温環境を与える加熱炉内、特に1200℃以上の加熱炉内では、Crの耐酸化性が高く、Cr酸化物被膜を耐荷重支持部材の表面に与えることが好ましい。その一方、上記したように繰り返しの使用において、かかる皮膜は剥離を生じやすい。これに対して、本発明者は、Cr酸化物被膜の表面をCo酸化物皮膜で覆ってCr酸化物被膜の剥離を防止できることを見い出した。しかしながら、Co酸化物皮膜/Cr酸化物被膜の複層を表面に有するような材料では切削加工が非常に困難でもあった。
【0012】
そこで、本発明による加熱炉用Co被覆耐荷重支持部材は、高温環境を与える加熱炉内において大なる荷重を支える加熱炉用耐荷重支持部材であって、質量%で、Cr:15〜45%、W:13〜20%、残部Co及び不可避的不純物を含む合金からなることを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、切削加工時には切削加工性に優れるCo基合金でありながら、高温環境を与える加熱炉内の使用時にあっては、高い高温圧縮強度や靱性を有するとともに、Cr酸化物被膜がこのCo基合金を覆い耐酸化性を高めるのである。これに加え、Cr酸化物被膜の粒界から外表面に向けてCoが移動し、Cr酸化物被膜をCo酸化物皮膜が覆ってCr酸化物被膜の剥離を防止するのである。つまり、一種のスマート材料であり、高温環境を与える加熱炉内での繰り返し使用に対する信頼性が高いのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるCo被覆耐荷重支持部材の断面図である。
【図2】本発明によるCo被覆耐荷重支持部材の要部の使用時の変化を示す拡大断面図である。
【図3】本発明によるCo被覆耐荷重支持部材のCr及びWの組成成分と機械的特性のマトリクス図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による1つの実施例である加熱炉内で使用されるスキッド(炉床材)について、図1及び図2に従ってその詳細を説明する。
【0016】
図1に示すように、スキッド1は、水冷されたスキッドパイプ12を跨ぐようにしてその上に載置され、側部に肉盛り部10を与えるようにしてスキッドパイプ12に肉盛り溶接されて固定される。スキッド1は、上方に向けて凸部1aを有し、その頂部に鋼材11を載せこれを支持する。つまり、特に凸部1aには鋼材11の荷重が負荷される故、座屈してしまわないだけの機械強度が必要とされる。
【0017】
スキッド1は、典型的には、20%Cr−15%W−Coの成分組成を有するCo基合金を鍛造により粗成形した後、上記したような形状に切削加工して与えられる。かかる成分組成の合金の1000℃以上での高温圧縮強度及び靱性を大幅に低減することなく、後述するCr酸化物のCo被覆による保護効果を与え、且つ、切削加工性を十分に与えるには、やはり後述するように、質量%で、Crを15〜45%、Wを13〜20%の範囲で含むCo基合金であることが必要である。
【0018】
ここで、スキッド1を加熱炉内で使用したときの変化について、図2に従ってその詳細を説明する。
【0019】
図2(a)に示すように、切削加工直後のスキッド1は、表層近傍も含めてCo基地中にCr及びWを完全に固溶させたほぼ一様な固溶体からなる素地2である。このようなスキッド1は、1000℃以上、典型的には、1250℃以上の加熱炉内で被加熱材である鋼材11を炉床から離間させて支持できるように配置される。すなわち、スキッド1は鋼材11からの荷重を受ける。また、鋼材11を鍛造加工等するためにこれを加熱炉から取り出すときや、加工を終了したときには、スキッド1の上から鋼材11が取り除かれ、荷重が除去される。そして、次の加工のために、スキッド1の上に鋼材11が配置されると、再度、鋼材11からの荷重を受ける。
【0020】
一方、加熱炉内において、スキッド1は徐々に酸化を受ける。初期には、主に粒界に沿って素地2の内部へ拡散した酸素によって、粒界を中心としてCr酸化物が形成される。その後、粒内にもCr酸化物が形成される。すなわち、スキッド1の内部にCr酸化物が網目状に分布し、やがて一面にCr酸化物が観察されるようになる。
【0021】
図2(b)に示すように、さらに酸化が進むと、スキッド1の表層近傍に層状にCr酸化物が分布し、Cr酸化物被膜3が形成される。
【0022】
図1(c)に示すように、やがてCr酸化物被膜3の粒界5からCo原子が表面に向けて拡散し、最表面においてCo酸化物を膜状に形成していく。なお、Cr酸化物被膜3の粒界5に沿ってCo(又はCo酸化物)が高い濃度で分布していることも観察された。かかるCr酸化物被膜3の粒界やこれに生じたヒートクラックの如き亀裂を埋めるようにCo(又はCo酸化物)が形成されることでCr酸化物被膜3及びCo酸化物被膜4は被膜全体として緻密な被膜となる。
【0023】
従来、Cr酸化物被膜3を表面に形成したスキッド1は耐酸化性には優れるもの、Cr酸化物被膜3は硬く延性に乏しいため剥離しやすく、酸化による減肉を増長してしまうことがあった。一方、Co酸化物被膜4でCr酸化物被膜3を覆ったスキッド1では、Cr酸化物被膜3の剥離を延性に富むCo酸化物被膜4が保護するのである。
【0024】
以上のように、Cr酸化物被膜3によってスキッド1の酸化による劣化を低減するとともに、延性の高いCo酸化物被膜4でCr酸化物被膜3を覆うことでこの剥離を防止する。つまり、スキッド1は加熱炉用耐荷重支持部材として長い寿命を有する。しかも、スキッド1において、このようなCr酸化物被膜3とCo酸化物被膜4との複層は使用中に自己形成され、特別な加工工程が不要である。
【0025】
すなわち、スキッド1は、切削加工時には切削加工性に優れるCo基合金でありながら、高温環境を与える加熱炉内の使用時にあっては、高い高温圧縮強度や靱性を有するとともに、Cr酸化物被膜3がこのCo基合金を覆い耐酸化性を高め、さらに、Cr酸化物被膜3の粒界から外表面に向けてCoが移動し、Cr酸化物被膜3をCo酸化物皮膜4が覆ってCr酸化物被膜の剥離を防止するのである。
【0026】
本発明者は、上記したようなCo酸化物被膜4でCr酸化物被膜3を覆うメカニズムを与え得る成分組成について調査した。その結果、上記した20%Cr−15%W−Coの成分組成について、Cr及びWの添加量を変化させても同様のメカニズムを得られることが分かった。
【0027】
図3に示すように、マトリクス中の黒丸印は諸特性の不十分なことを、また白丸印は諸特性に優れることを示している。Wの添加が質量%で20%を超すと切削加工性を大幅に低下させ、その一方、逆に13%以下であると、高温強度が不十分になった。また、Crの添加量が質量%で45%を超えるとCo酸化物被膜4によるCr酸化物被膜4の形成が不十分になり、一方、逆に13%以下であると耐酸化性に依存する高温強度が不十分になった。つまり、Co基合金は、質量%で、Cr:15〜45%、W:13〜20%、残部Co及び不可避的不純物を含むことが必要である。
【0028】
ここまで本発明による代表的実施例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。すなわち、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるだろう。
【符号の説明】
【0029】
1 スキッド
2 素地
3 Cr酸化物被膜
4 Co酸化物被膜
11 鋼材
12 スキッドパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温環境を与える加熱炉内において大なる荷重を支える耐荷重支持部材であって、
質量%で、Cr:15〜45%、W:13〜20%、残部Co及び不可避的不純物を含む合金からなることを特徴とする加熱炉用Co被覆耐荷重支持部材。
【請求項2】
使用時において、主としてCrからなるCr酸化物層の表面を覆うようにして、主としてCoからなるCo酸化物層が形成されていくことを特徴とする請求項1記載の加熱炉用Co被覆耐荷重支持部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−46793(P2012−46793A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190209(P2010−190209)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】