説明

加熱硬化被膜の製造方法

固体基材上に被膜を製造するための方法であって、この方法は以下の工程を包含する:反応性希釈剤として作用する多官能性樹脂、脂肪酸またはその誘導体と、場合によっては硬化剤および/または1つ以上の添加物を含んでなる液体被覆組成物をこの基材上に塗布する工程であって、ここで、この樹脂がこの脂肪酸またはその誘導体のカルボキシルあるいはアシル基と反応する能力のある官能基を含む、工程;ならびにこの被膜を加熱活性化により硬化させる工程。本発明は、更に、この液体被覆組成物、ならびにこのような被覆組成物の加熱硬化により得られる被膜を含んでなる基材に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸とその誘導体を使用して、加熱硬化被膜を製造することに関する。本発明による被覆方法においては、被覆組成物中の揮発性有機溶剤の量は、相当に低減可能であり、コストを低下し、ならびに被膜の環境性能を改善する。脂肪酸または誘導体は反応性希釈剤として機能する;初めに粘度を低下させ、そして被膜を液体として基材上に塗布することを可能とすることにより、溶剤として機能する。引き続いて、この希釈剤は、希釈剤のカルボキシルあるいはアシル基と樹脂上の好適な基の間の化学反応により最終被膜の中に組み込まれる。この脂肪酸誘導体は、また、被膜の機械的性質を調整するようにも使用可能であり、すなわち、加熱硬化被膜中に可撓性付与剤として組み込み可能である。本発明は、更に脂肪酸またはこれらの誘導体、ならびにこのような被覆組成物の加熱硬化により得られる被膜付きの基材を含んでなる被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱硬化被膜は、工業的に、特に急速に成長するプリコートシートメタル業界においてますます多く使用されつつある。スチールコイルは1つ以上の被膜層により被覆され、そして建築、OEMおよび輸送業界にプリコートシートメタルとして販売される。この被膜系の一つの層は、しばしばローラー塗布法により塗布された加熱硬化された有機被膜である。この塗布は、通常、液体被膜を用いて行われて、溶剤を含む膜が形成され、次に対流オーブン中で加熱硬化される。この方法の主要な欠点の一つは、被膜の粘度を低下させて、コイル上に塗布可能とするために、大量の有機溶剤が必要とされることである。次に、乾燥時に溶剤が蒸発され、溶剤放出を回避するために蒸気が燃焼される。溶剤の使用は環境問題であるのみならず、あれこれと管理をしなければならないので、被覆に大きなコストがかかる。その代わりに、溶剤を最終乾燥被膜の中に組み込むことができるならば、顕著な改善が得られる。溶剤を使用して、粘度を調整する他の加熱硬化された有機被膜にも上記と同一の理由付けが適用可能である。
反応性希釈剤への要求を次のように掲げることができる。
・意図される樹脂系の良好な溶解力
・低粘度
・低揮発性
・希釈剤は乾燥膜の中への組み込みを可能とさせる反応性基を有しなければならない。
・反応性希釈剤は意図された硬化条件(温度、雰囲気、硬化速度など)下で反応しなければならない。
・反応性希釈剤は意図された塗布のために被膜に不適当な物理的性質を導入してはならない。
【0003】
有機被膜において長い歴史を有するモノマー/分子の一つの群は、植物油とこれらの誘導体である(Derksenら)。これらのモノマーは、空気乾燥被膜において伝統的に使用され、ここでは脂肪酸中の不飽和結合が酸化反応により反応して、熱硬化性網目を形成する。これらの空気乾燥系の例はアマニ油被膜と空気乾燥アルキッドである。他の脂肪酸系は、他の官能基、例えばひまし油中のヒドロキシル基をベースとする。
【0004】
被膜中の揮発性有機溶剤を低減させるか、あるいは完全に置き換えるために、脂肪酸エステルを反応性希釈剤として使用することは、多数の特許出願で以前に記述された。
【0005】
EP685543、DE3803141、DE3701410においては、不飽和脂肪酸と種々のアルコールのエステルが反応性希釈剤として使用されている。DE4129528およびEP357128においては、反応性希釈剤は種々の不飽和アルキルエーテル
アルコールの脂肪酸エステルからなる。EP305007およびEP305006は、不飽和脂肪酸と不飽和アルコール部分からなるエステルを反応性希釈剤として使用する。GB2190672は、不飽和脂肪酸を不飽和アリルポリオールとエステル中で結合する反応性希釈剤を使用する。これらの特許は多数のバインダーおよび樹脂系中で反応性希釈剤を使用することを特許請求しているが、これらのすべての場合において、反応性希釈剤の組み込みは希釈剤中の不飽和結合とバインダーおよび希釈剤分子との反応により得られる。この反応は、通常、空気乾燥により硬化される。
【0006】
DE19533168および米国特許第4,877,838号においては、反応性希釈剤は、脂肪酸またはアルコール部分のいずれかに反応性エポキシド基を含有するエステルからなる。これらの場合においては、希釈剤と被膜系との反応は、希釈剤と樹脂および希釈剤中の反応性ヒドロキシル基間の開環反応である。
【0007】
米国特許第4,477,534号においては、樹脂は不飽和脂肪酸エステルを含有し、そして反応性希釈剤は空気乾燥ビニルオキサゾリンエステルを含有する。この希釈剤は空気中で樹脂中の不飽和結合と反応する。
【0008】
脂肪酸誘導体も加熱硬化型被膜に関連するいくつかの特許において報告された。JP09137078においては、不飽和共役脂肪酸と多価アルコールのエステルが塗料のベースとして使用され、加熱あるいは光硬化型であると特許請求されている。この硬化は不飽和脂肪酸基の反応により行われる。同様に、BE805300においては不飽和脂肪酸基がバインダー中で使用される。この硬化は高い温度で不飽和脂肪酸の間の反応により行われる。
【0009】
何人かの発明者は、加熱硬化系におけるエポキシ樹脂中での脂肪酸エステルの使用を報告している。JP08325509は、金属に好適な被膜を得るのに脂肪酸およびP結合のヒドロキシル基を含有する熱硬化型水分散性エポキシ樹脂を使用している。JP63248869は、エポキシ化合物と脂肪酸とを反応させることにより得られるエポキシ樹脂を使用する。この樹脂は金属上に印刷するのに好適である。これらの両方の特許においては、脂肪酸は表面上に塗布する前に樹脂に組み込まれる。この硬化は、樹脂およびアミン含有硬化剤中の不飽和プレポリマーのラジカル重合により行われる。米国特許第4,962,179号は、エポキシ化植物油の形のエポキシド変成脂肪酸を用いた異なるアプローチを報告している。この被膜は加熱時に被覆配合物中の脂肪酸のエポキシド基とアミンの間の反応により硬化する。
【0010】
DD257442においては、被膜の溶剤含量は、アルキッドバインダーをジシクロペンタジエン脂肪酸エステル誘導体で改変することにより低減される。米国特許第4,100,046号においては、シクロアルケニル基が脂肪酸に添加されて、加熱硬化型バインダーを得る。これらの両方の特許においては、脂肪酸は塗布の前に樹脂に組み込まれ、そして系中で希釈剤として使用されない。この硬化反応は不飽和シクロアルケニル基の反応により行われる。
【0011】
JP2000212483においては、脂肪酸のポリグリセリンエステルが水性塗料に添加される。このエステルは粘度を低減(すなわち、希釈剤として作用する)させないか、あるいは被膜の硬化に関与しない。
【0012】
脂肪酸エステルは加熱硬化型粉末被膜においても使用されてきた。NL1009254においては、硬化後の接着と外観を改善するように不飽和脂肪酸エステルが使用される。JP06345822においては、フッ素粉末樹脂は脂肪酸と不飽和ビニルアルコールのエステルを含有する。これらの例のいずれにおいても、被膜は固体であり、液体でないの
で、脂肪酸エステルが希釈剤として作用することはない。
【0013】
これらの例は被覆における溶剤の使用を低減する方法を見出す必要性を実証する。これは、また、塗料配合物中の成分としての脂肪酸エステルにも大きな興味を示す。脂肪酸を配合物の反応性部分として使用する場合には、これは、空気による硬化の能力のある不飽和化合物として、あるいは配合物中の他の成分と反応するエポキシドとしてのいずれかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明の概要
本発明の概念は、脂肪酸または脂肪酸誘導体を反応性希釈剤として使用することにより、加熱硬化された液体被膜中の蒸発する溶剤を置き換えるか、あるいは少なくともその量を大幅に低下させることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、脂肪酸誘導体を反応性希釈剤として使用した場合に、上述の系と著しく異なる反応を使用する。本発明は、希釈剤を反応させて網目とする場合、脂肪酸エステルまたはこれらの誘導体のカルボキシルあるいはアシル基を反応性部位として使用することを記述している。この脂肪酸誘導体は、好ましくは脂肪酸のアミド、無水物またはエステル、特にアルキルエステルである。このカルボキシルあるいはアシル基はこの被覆樹脂と化学的に反応されて、この乾燥膜の一体化された部分を形成する。カルボキシル酸またはこれらのエステルを包含する化学反応は、加熱活性化された硬化に極めて好適であり、そして高い温度で高い反応速度が達成可能である。
【0016】
脂肪酸誘導体は被膜において長い歴史を有し、そしてエステル化/エステル交換により被膜樹脂の中にこれらを組み込むことが文献に多く記載されている。しかしながら、これらの反応の使用はいつも化学反応器中での樹脂合成時に行われる。本発明は類似の化学を利用するが、被覆配合物を基材上に薄膜として塗布した後にこの反応が行われるということが異なっている。このことによって、被覆配合物中でこの脂肪酸誘導体を粘度低下剤として使用し、慣用の溶剤の必要性を低減させることができる。
【0017】
反応性希釈剤として脂肪酸誘導体を使用する前述の発明はすべて、本発明で提示されている反応と別な官能基と乾燥機構を使用する。
【0018】
最も一般的な方法は、周囲条件下で大気中の酸素と反応する不飽和脂肪酸を使用して、乾燥膜を形成することである(例えば、EP685543において)。これは、通常、「空気乾燥」被膜と呼ばれる。このアプローチは脂肪酸中のアルケン基により酸化性架橋が可能になる不飽和脂肪酸に限定される。大気中の酸素の存在も硬化に必要である。空気乾燥は、通常、むしろ遅い硬化方法であると考えられ、高加工速度が重要である工業的な被覆には好適でない。
【0019】
他の官能基を有する脂肪酸をベースとする反応性希釈剤も加熱および輻射硬化型系で前述された。これらは、例えばこの脂肪酸の炭素鎖に結合したヒドロキシ、エポキシあるいはアクリレート基のいずれかを有する脂肪酸である。ヒドロキシ官能性脂肪酸は、例えば、ヒドロキシル基がリシノール酸の12番目の炭素上に位置するひまし油中に存在する。エポキシ基は、通常、不飽和脂肪酸とアクリレート中のアルケン基を酸化することによりリシノール酸のヒドロキシ基を化学修飾することによって導入される。これらの構造をベースとする反応性希釈剤が被膜系中で使用可能であるが、本発明と比較していくつかの欠点が存在する。
【0020】
脂肪酸は、通常、この脂肪酸の一部が意図された硬化反応により化学的に反応することの可能な官能基を有する混合物として存在する。未反応の脂肪酸誘導体は被膜表面まで移行し、そして時間と共に性質に変化を引き起こし得る。本発明によるすべての反応性希釈剤はカルボキシルあるいはアシル官能基を含有するので、このことは、炭素鎖上に存在する反応性基を有する脂肪酸誘導体をベースとするすべての前に挙げた反応性希釈剤に当てはまるが、本発明には当てはまらない。更には、化学的変換、例えばアクリル化には、通常、分子量と極性の増加が伴い、粘度を増加させる。これはこれらの系のマイナスの副作用であるので、反応性希釈剤の一つの目的は、系の粘度を低減させて、塗料を基材上に薄膜として塗布させることである。本発明はこの欠点を有さない反応性希釈剤をベースとする。
【0021】
本発明の利点は次のように要約可能である:
すべての脂肪酸アルキルエステルは反応性基を含有する。すなわち脂肪酸の混合物は一つの官能性を保持しながら使用可能である。それゆえ、この被膜中の脂肪酸の未反応部分のリスクは強く低減される。
【0022】
このアルキルエステルは好ましくは単官能性であり、そして多官能性樹脂とのみ反応可能であり、従ってこの希釈剤のすべてが熱硬化性網目を生成するのに寄与する。トリグリセリドの使用はこのことを変えるが、この場合には粘度も高い。
【0023】
この反応性希釈剤は、カルボン酸またはこれらのエステルに対して反応性である官能基を有するいかなる被覆樹脂とも反応可能である。エステル化/エステル交換は高い温度で極めて迅速であり得るのでこの反応性は高温かつ短時間で加熱硬化される被膜系に好適である。
【0024】
アルキル脂肪酸は低粘度および低揮発性を有し、これによって液体被膜用の粘度低下剤として好適である。
【0025】
更には、この脂肪酸誘導体はこの被膜の可撓性を調整するのに使用可能である。
大気中の酸素は記述されている硬化反応には影響を及ぼさない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、加熱硬化型液体被膜に一緒になって配合可能な2つあるいは場合によっては3つの膜形成性成分A、B、およびCに基づく。成分Aは、加熱活性化時にそれ自体で、あるいは硬化剤Bと一緒になって熱硬化性物を形成する能力のある多官能性被覆樹脂である。このような樹脂(成分A)の例は、架橋反応に好適なヒドロキシル、カルボン酸あるいはエポキシ官能基のいずれかを有するアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリレート樹脂またはポリメタクリレート樹脂である。フェノール系およびアミノ樹脂が他の例である。硬化剤(成分B)は、通常、アミノ化合物、例えばヘキサメトキシメチロールメラミンまたはエポキシ官能性硬化剤、例えばビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルまたはトリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)である。他の硬化剤は、成分Aと反応する能力のあるフェノール系−、ヒドロキシル−、アミン−、カルボキシレート、あるいはイソシアネート官能性架橋剤であることができる。成分Cは、加熱活性化時にAおよび/またはBと反応して、乾燥膜の一体化された部分を形成する能力のある反応性希釈剤である。成分Cは、カルボキシル基が成分Aおよび/またはBと反応する能力のある官能性基である、飽和あるいは不飽和の脂肪酸または脂肪酸誘導体、特にエステル、無水物あるいはアミドである。本発明による反応に使用されるカルボキシルあるいはアシル基に加えて、成分Cは、この組成物中の他の成分との反応にある程度関与する他の官能基を含
有し得る。室温において、成分Cは液体であり、低粘度を有し、そして揮発性でない。Cの機能は、乾燥時に蒸発する慣用の有機溶剤の量を低下させても基材上に液体被膜として塗布可能なように、被膜の粘度を低下させることである。低粘度の要求はこの脂肪酸の炭素鎖長を最大22個の炭素に制限する。このエステルは、脂肪酸の単官能性エステル、例えばアルキルエステル、例えばメチル、イソプロピル、エチルエステル、または多官能性エステル、例えばグリセロールエステルであることができる。
【0027】
この被膜は、他の成分、例えば共溶剤、顔料、触媒、および固体粒子を含む他の添加物と一緒になって成分A、B、およびCが適切な比で配合されて、湿式膜塗布、例えばローラー塗布に好適な粘度の溶剤を含む塗料を形成する。成分A、BおよびCは、硬化工程時に相分離を避けるように選択されなければならない。本発明の好ましい実施形態においては、比較的高い官能性(OH>3モル/モル)と、それにも拘わらず低い極性の樹脂が成分Aとして使用され、そして菜種油メチルエステル(RME)が成分Cとして使用される。次に、被膜が基材上に塗布され、そして加熱活性化により硬化される。この被覆に好適な基材は、加熱活性化される硬化に耐えることができる任意の材料である。通常の基材は、耐食性ならびに所望の接着性を導入するために、例えば亜鉛またはホスフェートで場合によっては前処理された金属表面である。このような例は、スチールコイルの表面修飾であり、ローラーアプリケーターを用いて被覆組成物により被覆され、そして200℃以上の温度で硬化される。好ましいオーブン温度は、現在では少なくとも100℃、200℃以上、特に250℃よりも高い。本発明を使用する好ましい方法は、300℃の空気温度を有するオーブン中および240℃の最高基材温度で行われる鋼板のコイル被覆における方法である。しかしながら、特定の塗布において必要とされる温度は、この組成物中に存在する触媒、ならびに前記組成物を硬化条件にかける時間に依存する。当業者によれば一定の状況ではこれは容易に決定可能である。
【0028】
この硬化温度および時間は、この温度における成分Cの揮発性が著しくないように選択されなければならない。例として、温度をゆっくりと増加(300℃まで)させながら、単独で(ニート)、そして被覆配合物の一部としてRMEの揮発性を評価した。通常の基材温度(240℃)においては、ニートRMEの23%が蒸発した。300℃ではこのニートRMEはすべて消滅したが、配合品においてはRMEの50%のみが蒸発した。蒸発した成分Cの量は、樹脂(成分A)との反応性の相対的な速度および雰囲気、ならびにこの配合物の相安定性および揮発性に依存する。この樹脂との急速な反応は蒸発を防止する。急速な反応は、触媒、樹脂上の高官能性およびこの配合物中の成分間の良好な相接触の使用により達成可能である。同一の測定を窒素雰囲気中で繰り返すと、類似な値が得られた。このことは、EP685543、DE3803141、DE3701410などで述べられているように、RMEがこれらの条件下では主に酸化反応により組み込まれるのではないということを示す。加えて、RMEの代わりに飽和エステル(ステアリン酸メチル)を使用した。このエステルは酸化反応を行うことができないが、最終膜中ではRMEとの混合物と類似した程度の組み込みを示した。
【0029】
脂肪酸誘導体の組み込みは被膜特性の変化においても認められた。RMEの量を増加させた配合物を鋼表面上に塗布し、そして通常の硬化条件(300℃の空気温度、37秒、240℃の最終基材温度)下で硬化させた。RMEの添加量を0から10%まで増加させるにしたがって、この方法で得られた膜は、45℃から35℃までのTgの低下を示した。RMEが未反応生成物として存在するものでないことを確証するために、この膜をヘキサンにより抽出し、そして抽出物を秤量し、そして脂肪酸メチルエステルを分析した。RMEを含まない被膜および15%までのRMEを含有する被膜から抽出される量の差は、希釈剤の約10%のみが膜と未反応であったことを示す。未反応エステル量を更に少なくすることは、異なる触媒、樹脂または硬化条件を選択することにより達成可能である。
【0030】
この段階において、樹脂が少なくとも3個のOHの官能基数のヒドロ官能性ポリエステルであり、ヘキサメトキシメチルメラアミンが硬化剤であり、そして反応性希釈剤が菜種油メチルエステルである被覆組成物により最良の結果が得られた。この被覆組成物を鋼表面に塗布し、そして硬化を300℃で37秒間行った。
【0031】
従って、本発明は、第1の態様においては、固体基材上に被膜を製造するための方法に関し、この方法は以下の工程を包含する:
多官能性樹脂、脂肪酸またはこれらの誘導体と任意では硬化剤および/または1つ以上の添加物を含んでなる液体被覆組成物をこの基材上に塗布する工程であって、ここで、この樹脂がこの脂肪酸またはこれらの誘導体のカルボキシルあるいはアシル基と反応する能力のある官能基を含んでなる、工程;ならびに
この被膜を加熱活性化により硬化させる工程。
【0032】
更に、本発明は、以下の工程を包含する方法により製造される被膜を有する固体基材に関する:
多官能性樹脂、脂肪酸またはこれらの誘導体と任意では硬化剤および/または1つ以上の添加物を含んでなる液体被覆組成物をこの基材上に塗布する工程であって、ここで、この樹脂がこの脂肪酸またはこれらの誘導体のカルボキシルあるいはアシル基と反応する能力のある官能基を含んでなる、工程;ならびに
この被膜を加熱活性化により硬化させる工程。
【0033】
本発明の一つの実施形態においては、基材上に作製される被膜が基材から剥離され、それによって薄膜が形成される。この場合においては、この基材表面とこの硬化された被膜は、表面に対する接着を防止する表面エネルギー差を有し、一方、この膜中の凝集が充分強く、基材からの剥離時の破断を防止する。
【0034】
本発明の更なる態様によれば、加熱活性化による硬化の可能な液体被覆組成物が提供される。この組成物は、多官能性樹脂、脂肪酸またはその誘導体ならびに任意では硬化剤および/または1つ以上の添加物を含み、この多官能性樹脂は、この脂肪酸またはその誘導体のカルボキシル基あるいはアシル基と反応する能力のある官能基を含む。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
〈材料〉
A.ヒドロキシ官能ポリエステル:
酸価:8mgKOH/g樹脂、0.14ミリモル酸/g樹脂
ヒドロキシル価:121mgKOH/g樹脂、2.15ミリモルOH/g樹脂
Tg−6℃
分子量、Mn:1530g/モル
70%乾燥含量(w/w)、溶剤:Solvesso100(CAS−Nr:64742−95−6)
分岐した骨格
官能基数(モル/モル樹脂):3.3OH、0.2酸
供給元:Akzo Nobel Nippon Paint AB(Gamlebyn,Sweden)
B.ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)
1530
分子量:390g/モル
官能基数:6
供給:Akzo Nobel Nippon Paint AB
C1.脂肪酸エステルメチルエステル(FAME):
1936(菜種油メチルエステル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチルなど)
分子量:296g/モル
官能基数:1
供給元:Svenska Lantmannen、商品名:RME
C2.脂肪酸エステルメチルエステル(FAME):
1238(ステアリン酸メチル)
分子量:298.5g/モル
官能基数:1
購入元:Lancaster
触媒:p−ドデシルベンジルスルホン酸(DDBSA)
【0036】
【表1】

【0037】
混合物2
5g(16.9ミリモルエステル)のC1(RME)を添加したことを除いて混合物1と同じ
混合物3
10g(33.8ミリモルエステル)のC1(RME)を添加したことを除いて混合物1と同じ
混合物4
15g(50.7ミリモルエステル)のC1(RME)を添加したことを除いて混合物1と同じ
混合物5
6g(20.1ミリモルエステル)のC2(MSt)を添加したことを除いて混合物1と同じ
〈塗布および硬化〉
この混合物をスチール基材(0.6mm厚)上に16μmのワイヤバーアプリケーターにより塗布して、10μmの乾燥膜厚を得た。次に、この被膜をオーブン中300℃で37秒間硬化させ、次に冷水中で急速に冷却した。この被膜に対して241℃のピーク金属温度(PMT)を得た。この最終被膜は高光沢、良好な接着、および鉛筆硬度Hを有していた。黄変を示さない混合物1〜3および5からの膜に相反して、混合物4からの被膜は若干黄変した。これらの性質は、FAMEの代わりに揮発性有機溶剤を使用して製造される被膜の性質に匹敵するものであった。
【0038】
〈機械的性質の試験〉
自立性の膜について機械的性質をTA−装置DMA Q800により引っ張りモードで求めた。この被膜の細片を切断し、そして外科用メスにより金属シートから取り外すことにより、自立性の膜を得た。混合物1〜3をベースとする硬化膜について引っ張りモジュラスとガラス転移を求めた。モジュラスの低下の開始により求められるTgは、混合物1、2、および3からの膜についてそれぞれ45、35、30℃であった。このことは、RMEの量が増加すると、膜が軟化し、そしてTgが低い値に移動すること、ならびにRM
Eの量がこの硬化被膜のTgを調整するツールとして使用可能であるということを示す。
【0039】
〈被膜中の未反応FAMEの検定〉
この被膜の細片をn−ヘキサンにより抽出した。この抽出物を蒸発させ、そして残渣を回収した。抽出物の量は極めて低く、ほぼ0.1mg/mg被膜であった。ガスクロマトグラフィを用いてこの抽出物を分析して、未反応のFAMEおよび脂肪酸を同定した。表1にFAMEおよび脂肪酸の量を被膜細片のパーセント(w/w)として示す。
【0040】
【表2】

【0041】
(実施例2)
FAMEが硬化工程時の蒸発により失われたのでないということを確認するために、熱重量分析(TGA)を用いて重量減少を加熱時にモニターした。この装置構成においては、実際のコイル被膜条件からの温度上昇と空気対流を厳密に模倣することができなかった。この装置においては、温度を30℃から300℃まで20℃/分の速度で上昇させ、その後試料を300℃で5分間放置した。空気または窒素のゆっくりとした流れを試料の上に通した。この配合物のほぼ30mgのアリコートを1.5mmの表面積のアルミナカップに入れた。
混合物1〜4:実施例1におけるのと同じ
混合物6:l0g(33.5ミリモルエステル)のC2(MSt)を添加したことを除いて混合物1と同じ
記録された重量減少は、(i)ポリエステル中の溶剤の蒸発、(ii)ポリエステルの熱分解、(iii)FAMEの蒸発のいくつかの工程によるものである。表2に溶剤に起因する減少を差し引いた後の重量減少(全混合物の%w/wとして)を示す。
【0042】
【表3】

【0043】
これらの測定は、300℃においては、ニートRMEがこの金属表面から完全に蒸発し
たということを示す。ポリエステルを含む配合物においては、ほぼ50%のRMEがこの温度においてこの被膜中に残存する。コイル被覆に対して通常のPMTである240℃においては、ほぼ75%のRMEがこの配合物中に残存する。
【0044】
表3に溶剤に起因する減少を差し引いた後の窒素雰囲気中での硬化における重量減少(%w/wとして)を示す。
【0045】
【表4】

【0046】
窒素および空気中での測定の間の差は極めて小さく、酸化反応はFAMEが膜に組み込まれる主な反応でないということを示す。
(実施例3)
〈材料〉
A.ヒドロキシ官能ポリエステル:
酸価:8−12mgKOH/g樹脂=>0.14ミリモル酸/g樹脂
ヒドロキシル価:120mgKOH/g樹脂=>2.14ミリモルOH/g樹脂
Tg:−6℃
Mn:2500g/モル
60%乾燥含量(w/w)、溶剤:キシレン
分岐した骨格
官能基数:5.3OH、0.5酸
供給元:Beckers Industrial Coatings
B.ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)
l530
分子量:390g/モル
官能基数:6
供給元:Beckers Industrial Coatings
C3.脂肪酸エステルメチルエステル(FAME)
1936(リノール酸メチル、オレイン酸メチルなど)
分子量:296g/モル
官能基数:1
供給元:Svenska Lantmannen、商品名:Linutina
触媒:硫酸
【0047】
【表5】

【0048】
〈塗布および硬化〉
この混合物をクロメート処理されたスチール基材(0.6mm厚)上に16μmのワイヤバーアプリケーターにより塗布して、10μmの乾燥膜厚を得た。次に、この被膜をオーブン中300℃で37秒間硬化させ、次に冷水中で急速に冷却した。この被膜に対して241℃のピーク金属温度(PMT)を得た。この被膜中の最終FAME含量はほぼ8%(w/w)であった。この最終被膜は高光沢、良好な接着を有し、黄変せず、そして鉛筆硬度Hを有していた。これらの性質は、FAMEの代わりに揮発性有機溶剤を使用して製造される被膜の性質に匹敵するものであった。
【0049】
(参考文献)
Derksen,J.T.P.,F.P.Cuperus,およびP.Kolster,Renewable resources in coatings technology:概説,Progress in Organic Coatings,1996.27(1−4):p.45−53

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体基材上に被膜を製造するための方法であって、該方法は以下の工程を包含する:
多官能性樹脂、脂肪酸またはその誘導体と任意では硬化剤および/または1つ以上の添加物を含んでなる液体被覆組成物を該基材上に塗布する工程であって、
該樹脂がこの脂肪酸またはこれらの誘導体のカルボキシルあるいはアシル基と反応する能力のある官能基を含む、工程;ならびに
該被膜を加熱活性化により硬化させる工程。
【請求項2】
前記多官能性樹脂がアルキッド、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、フェノール系、またはアミノ樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬化剤がアミノ化合物、例えばヘキサメトキシメチロールメラミン、エポキシ官能性化合物、例えばビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルまたはトリグリシジルイソシアヌレート、あるいはフェノール系−、ヒドロキシル−、アミン−、カルボキシレートまたはイソシアネート官能性架橋剤である、請求項1あるいは2に記載の方法。
【請求項4】
前記脂肪酸誘導体が単官能性エステル、例えばアルキル、例えばメチル、または多官能性エステル、例えばグリセロールエステルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記脂肪酸またはその誘導体が22個以下の炭素原子の炭素鎖長を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記基材が任意では耐食性であり、そして前記被覆組成物に対して接着性であるように前処理された、金属表面、例えばスチールである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により製造される被膜を有する固体基材。
【請求項8】
多官能性樹脂、脂肪酸またはその誘導体と任意では硬化剤および/または1つ以上の添加物を含んでなる液体被覆組成物であって、
該樹脂が該脂肪酸またはその誘導体のカルボキシルあるいはアシル基と反応する能力のある官能基を含んでなる樹脂である、液体被覆組成物。
【請求項9】
前記多官能性樹脂がアルキッド、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、フェノール系、またはアミノ樹脂である、請求項8に記載の被覆組成物。
【請求項10】
前記硬化剤がアミノ化合物、例えばヘキサメトキシメチロールメラミン、エポキシ官能化合物、例えばビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルまたはトリグリシジルイソシアヌレート、あるいはフェノール系−、ヒドロキシル−、アミン−、カルボキシレートまたはイソシアネート官能性架橋剤である、請求項8あるいは9に記載の被覆組成物。
【請求項11】
前記脂肪酸誘導体が単官能性エステル、例えばアルキル、例えばメチル、または多官能性エステル、例えばグリセロールエステルである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の被覆組成物。
【請求項12】
前記脂肪酸またはその誘導体が22個以下の炭素原子の炭素鎖長を有する、請求項8〜11のいずれか1項に記載の組成物。

【公表番号】特表2007−512408(P2007−512408A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541099(P2006−541099)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001734
【国際公開番号】WO2005/052070
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506177707)
【Fターム(参考)】