説明

加熱装置

【課題】ガラス状炭素からなる発熱部を誘導発熱させることによって被加熱物を加熱する加熱装置において、シリコンウェハのように形状が基板状をなして面積の大きな被加熱物を汚染することなく急速に昇温して加熱することができ、また、前記被加熱物を急速に降温することが可能な加熱装置を提供することにある。
【解決手段】少なくとも容器一部の略平面状形状の部分がガラス状炭素からなる発熱部11bを有し、被加熱物Wが発熱部11bとは非接触状態で収容される加熱用容器11と、発熱部11bに近接し且つ対向した状態で加熱用容器11の外部に配置され、略平面状に巻回された高周波平面状コイル12と、加熱用容器11内を所定のガス雰囲気に制御する容器内部ガス雰囲気制御手段13とを備え、高周波平面状コイル12への通電により発熱部11bを誘導発熱させることによって被加熱物Wを加熱する加熱装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路製造プロセスでのシリコンウェハの熱処理などを適用対象とし、ガラス状炭素からなる発熱部を誘導発熱させることによって被加熱物を加熱するに際し、シリコンウェハのように形状が基板状をなして面積の大きな被加熱物を汚染することなく急速に昇温させて加熱することができるとともに、急速に降温することが可能な加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定のガス雰囲気中に配された被加熱物を加熱するためには、被加熱物を収容し、容器内が前記ガス雰囲気に制御される加熱用容器と、被加熱物を加熱用容器ごと加熱するための加熱手段との、少なくともふたつの機能を組合せて使用することが、一般的である。そして、加熱用容器としては、高温に耐えて、しかも気密性もあるという観点から、石英や各種のセラミックからなるもの、あるいは金属製のものがよく用いられる。また、加熱手段としては、抵抗発熱するヒーター、赤外線ランプ、あるいは、加熱用容器を囲繞する黒鉛製又は金属製の筐体を誘導発熱させる高周波コイル(高周波誘導加熱コイル)が挙げられる。
【0003】
ところが、前記の組み合わせの欠点は、加熱用容器が一定の断熱効果を有するために、被加熱物を急速に昇温する使い方、被加熱物をごく短時間加熱し、すぐに降温して冷めさせる使い方、といった使い方には必ずしも適していない、ということである。
【0004】
前記欠点を解決する手段のひとつが、ガラス状炭素を容器、かつ、誘導発熱体として使用することである。これは、気密性のある物質であり、しかも誘導発熱性を備えるというガラス状炭素の特徴を利用したものである。
【0005】
例えば、非特許文献1には、ガラス状炭素製円筒を誘導発熱させる方式が示されている。すなわち、ガラス状炭素製円筒の周囲に、該円筒の外周に沿ってコイルを巻回してなる円筒状の高周波コイルを配置し、このコイルに高周波電流を流すことによってガラス状炭素製円筒を誘導発熱させるようにしたものである。この方式において、ガラス状炭素製円筒内のガス雰囲気を制御する手段を付加すれば、前述した目的に好適な加熱装置ができる。
【0006】
しかしながら、ガラス状炭素製円筒の胴体部を誘導発熱させる方式は、比較的少量の被加熱物を加熱するには十分であるが、大口径のシリコンウェハのように形状が基板状(平板状)をなして面積の大きな被加熱物を加熱しようとすると、相当大きな円筒を用意する必要があり、その結果、満足する加熱効率や、被加熱物を均一に加熱する均熱性を得ることが難しい。したがって、ガラス状炭素製円筒を誘導発熱させる方式は、大面積の被加熱物を加熱する目的には適さないと見なされていた。
【0007】
一方、基板状(平板状)の被加熱物としてのシリコンウェハを加熱するために、図4に示すような装置が知られている。図4は、加熱装置として高周波コイルを備えた枚葉式の気相エピタキシャル成長装置の一例を示す模式的構成説明図である。
【0008】
図4に示すように、石英からなる反応容器71内には、シリコンウェハ72が一枚ずつ載置される円盤状をなす黒鉛製のサセプター73が配置されている。反応容器71の外側におけるサセプター73の下方位置には、シリコンウェハ72を支持するサセプター73を誘導発熱させることにより該シリコンウェハ72を加熱するための平板状に巻回された高周波コイル74が配設されている。反応容器71内では、ガス供給口75から原料ガス(反応ガス)などが導入されてシリコンウェハ72の表面をほぼ層流を形成しながら流れ、反対側の排気口76から排出される。この気相エピタキシャル成長装置では、高周波コイル74によってサセプター73を誘導発熱させることによりシリコンウェハ72を所定の温度に加熱しながら、気相成長によるシリコンエピタキシャル層の形成を行っている。
【0009】
このように、反応容器71の中に黒鉛製の平板状のサセプター73を配置し、反応容器71の外部、かつ、サセプター73に近接させて高周波コイル74を配置し、サセプター73を誘導発熱させることにより、その上に置かれたシリコンウェハ72を加熱するという方式である。この方式では、シリコンウェハ72を急速に昇温する目的には適っているが、サセプター73とシリコンウェハ72が接触するため、温度ムラが生じやすく、シリコンウェハ72を汚染しやすい。また、反応容器71に一定の断熱効果があるため、シリコンウェハ72を急速に降温させることができない、などの問題がある。
【特許文献1】特開2003−151737号公報(第2−6頁、図1)
【非特許文献1】J. H. Fisher, L. R. Holland, G. M. Jenkins, and H. Maleki"A new process for the production of long glassy polymeric carbon hollow ware with uniform wall thickness using a spray technique" in Carbon, vol.34, No. 6, pp. 789-795, 1996.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の課題は、ガラス状炭素からなる発熱部を誘導発熱させることによって被加熱物を加熱する加熱装置において、シリコンウェハのように形状が基板状をなして面積の大きな被加熱物を汚染することなく急速に昇温して加熱することができ、また、前記被加熱物を急速に降温することが可能な加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0012】
請求項1の発明は、少なくとも容器一部の略平面状形状の部分がガラス状炭素からなる発熱部を有し、被加熱物が収容される加熱用容器と、前記発熱部に近接し且つ対向した状態で前記加熱用容器の外部に配置され、略平面状に巻回された高周波平面状コイルと、前記加熱用容器内を所定のガス雰囲気に制御する容器内部ガス雰囲気制御手段とを備え、前記高周波平面状コイルへの通電により前記発熱部を誘導発熱させることによって前記被加熱物を加熱することを特徴とする加熱装置である。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載の加熱装置において、前記被加熱物の形状が基板状であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の加熱装置において、前記加熱用容器の外部を所定のガス雰囲気に制御する容器外部ガス雰囲気制御手段を備えていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱装置において、前記発熱部と前記高周波平面状コイルとの間に、断熱部材及び/又は反射部材を備えていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱装置において、前記発熱部の外面の赤外線放射率(R1)と発熱部内面の赤外線放射率(R2)の比(R2/R1)が1.2以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の加熱装置は、少なくとも容器一部の略平面状形状の部分がガラス状炭素からなる発熱部を有し、被加熱物が収容される加熱用容器と、前記発熱部に近接し且つ対向した状態で前記加熱用容器の外部に配置され、略平面状に巻回された高周波平面状コイルとを備えている。したがって、略平面状に巻回された高周波平面状コイルへの通電により、対向配置された略平面状形状の発熱部を発熱分布性良く誘導発熱させることができ、これによって、シリコンウェハのように形状が基板状(平板状)をなして面積の大きな被加熱物に指向性良く熱放射してこの被加熱物を急速に昇温して加熱することができる。そして、前記発熱部が高温においてもガス状あるいは粒子状の発塵がほとんどなく、耐薬品性にも優れるという性質を持つガラス状炭素で構成され、加熱用容器の発熱部以外の部分は発熱しないため、被加熱物を汚染することなく加熱することができる。また、前記発熱部は熱容量が小さいという性質を持つガラス状炭素で構成されているので、加熱処理後、発熱部に冷却用窒素ガスを吹き付けるなどの適宜の手段により発熱部を冷やすことで、加熱用容器内の被加熱物の温度を急速に下げることが可能である。
【0018】
また、加熱用容器の外部を不活性ガス雰囲気に制御する容器外部ガス雰囲気制御手段を備えるものは、比較的高温でも、ガラス状炭素からなる発熱部の酸化消耗を防ぐことができる。
【0019】
また、発熱部と高周波平面状コイルとの間に、断熱部材及び/又は反射部材を備えるものは、加熱効率が高く、被加熱物の昇温時間を大幅に短くして加熱効率を大幅に高めることができる。また、加熱装置全体を覆わず発熱部のみで効果があるため、降温速度も確保することができる。
【0020】
また、発熱部の外面の赤外線放射率(R1)と発熱部内面の赤外線放射率(R2)の比(R2/R1)が1.2以上であるものは、被加熱物が配された容器内部に臨む発熱部内面の赤外線放射率(R2)を容器外部に臨む発熱部外面の赤外線放射率(R1)よりも前記比率のように大きくして、発熱部で誘導発熱された熱のうち、容器外部へ放射される割合を小さくすることで、被加熱物の昇温時間を短くして加熱効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
ガラス状炭素製部品は、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の成形体を炭素化処理して製造されるものであるが、熱硬化性樹脂の成形性がよくないこと、炭素化処理において体積収縮が大きいこと、炭素化時のガス発生により割れやすいことなどから、形状が複雑で大きな部品の製造は困難な状況にある。
【0023】
そこで、本発明の加熱装置では、被加熱物を収容する加熱用容器について、誘導発熱に必要な一部のみをガラス状炭素からなる発熱部とすることで、前記のような製造上の困難さを克服し、かつ、被加熱物の急速加熱、急速冷却を可能とした。すなわち、ガラス状炭素で構成するのは、容器全体でなく、発熱部だけであるので、それだけ製造が容易である。また、発熱部以外の部分は、それほどの高温にさらされないため、金属、セラミック、ガラス又は石英などの、ガラス状炭素の性質を有しないけれども、加工の容易な材料を用いることができる。
【0024】
本発明の加熱装置は、加熱用容器の一部分がガラス状炭素からなる発熱部であり、発熱部に対応して誘導発熱のための高周波コイルが備えられているので、急速に発熱部を誘導発熱させることで、被加熱物を急速加熱することができる。また、被加熱物の加熱処理後、発熱部に冷却用窒素ガスを吹き付けるなどの適宜の手段により発熱部を冷やすことで、加熱用容器内の被加熱物の温度を急速に下げることが可能である。なお、好ましくは、加熱用容器には被加熱物が発熱部と非接触状態で収容されることがよい。
【0025】
本発明の加熱装置においては、発熱部を略平面状とし、好ましくは容器外表面に占める割合を高くすることで、重量に比して面積の大きな基板状の被加熱物を加熱する操作を効率的に行うことができる。このような例としては、胴部長さに比べて内径の方が大きな円筒体を前述したように金属あるいは石英などの加工の容易な材料で製作し、その天井側の開口端にガラス状炭素製円板からなる発熱部を設けてなる逆コップ状加熱用容器であって、マニホールド(容器内部ガス雰囲気制御手段)上に載置するようにしたものを挙げることができる(図3参照)。また、他の例としては、胴部長さに比べて内径の方が大きな逆コップ状のガラス状炭素製加熱用容器であって、マニホールド上に載置するようにしたものを挙げることができる(図1,図2参照)。なお、加熱用容器が載置されるマニホールドには被加熱物を搬入・搬出するためのハッチ(図示せず)が設けられている。
【0026】
本発明の加熱装置は、加熱用容器の外部を所定のガス雰囲気に制御する容器外部ガス雰囲気制御手段を備えていてもよい。ガラス状炭素は高温の酸化性雰囲気に置かれると酸化消耗することから、加熱用容器の外部を不活性ガス雰囲気にすることによって発熱部の酸化消耗を防ぐことができる。
【0027】
本発明の加熱装置は、発熱部と高周波平面状コイルとの間に、断熱部材及び/又は反射部材を備えていてもよい。発熱部を誘導発熱させると、その熱は被加熱物の加熱に供される一方、加熱用容器の外部にも放射される。したがって、発熱部と高周波平面状コイルとの間に、断熱部材及び/又は反射部材を設けることは、加熱効率を高めるために有効である。このような断熱部材としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックなどの公知の断熱材を使用できる。反射部材としては金属板、金属箔などの材料からなるものが好適である。
【0028】
本発明の加熱装置は、発熱部の外面の赤外線放射率(R1)と発熱部内面の赤外線放射率(R2)の比(R2/R1)が1.2以上であるようにしてもよい。炭素材料は一般に赤外線放射率の高い材料であると見なされているが、本発明者は、ガラス状炭素製部材の赤外線放射率は、表面粗さ状態によってかなりの程度変化することを知見した。すなわち、表面が鏡面仕上げされた発熱部では赤外線放射率は比較的小さく、粗面化処理された発熱部では赤外線放射率が比較的大きい。
【0029】
よって、被加熱物が配された容器内部に臨む発熱部内面の赤外線放射率(R2)を容器外部に臨む発熱部外面の赤外線放射率(R1)よりも大きくして、発熱部で誘導発熱された熱のうち、容器外部へ放射される割合を小さくすることで、被加熱物の昇温時間を短くして加熱効率を高めることができる。前記比(R2/R1)を1.2以上と規定する理由は、1.2を下回ると十分な加熱効率向上効果が得られないためである。なお、本材料の赤外線放射率の上限は100%、下限は40%程度であるから、前記比(R2/R1)の上限値は2.5程度である。
【0030】
本発明の加熱装置においては、発熱部を構成するガラス状炭素成形体は、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を所定の形状に成形し、不活性雰囲気中で、高温、例えば1000℃以上に加熱処理し、炭素化することにより作製することができる。熱硬化性樹脂を所定の形状に成形する方法としては、遠心成形、プレス成形、射出成形、注型成形又は接合などの公知の方法から選択することができる。
【0031】
なお、ルツボなどの形状がコップ状のガラス状炭素製容器を誘導発熱し、該容器内の被加熱物(被溶解物)を加熱する技術が知られている(例:特開平8−29066号公報)。しかし、この従来技術はガラス状炭素製容器全体を均一に加熱することを意図している。したがって、ガラス状炭素製容器の全体が高温に加熱されるため、雰囲気制御のためのマニホールドを具備させることは困難であった(シール材料が損耗するため)。容器内のガス雰囲気の制御が必要な場合には、装置全体を所定のガス雰囲気中に配置する必要があり、装置の大型化が避けられない。また、ルツボの形状からして、底部部分だけを誘導発熱させたとしても、シリコンウェハのように形状が基板状をなす面積の大きな被加熱物の加熱には適さないと考えられる。
【実施例】
【0032】
[実施例1,2]
【0033】
図1は本発明の一実施形態による加熱装置の構成を概念的に示す断面図、図2は本発明の別の実施形態による加熱装置の構成を概念的に示す断面図である。
【0034】
図1において、1は胴部長さに比べて内径の方が大きく断面円形で逆コップ状をなし、全体がガラス状炭素からなる加熱用容器である。加熱用容器1内にはシリコンウェハのように形状が基板状(平板状)をなして面積の大きな被加熱物Wが収容されるようになっている。2は加熱用容器1の平坦な形状の天井部に近接し且つ対向した状態で加熱用容器1の外部に配置され、略平面状に巻回された高周波平面状コイルである。したがって、加熱用容器1の天井部が発熱部となる。
【0035】
3は加熱用容器1内に不活性ガス、この例では窒素ガスを供給・排気して加熱用容器1内を窒素ガス雰囲気(不活性ガス雰囲気)に制御する容器内部ガス雰囲気制御手段としてのマニホールドである。加熱用容器1はマニホールド3上に載置されている。マニホールド3には加熱用容器1内に被加熱物Wを搬入・搬出するためのハッチ(図示せず)が設けられている。4はマニホールド3上に載置された逆コップ状の外部容器である。この外部容器4は、該容器内に不活性ガス、この例では窒素ガスを供給・排気することにより、加熱用容器1及び高周波平面状コイル2の外部を窒素ガス雰囲気に制御する容器外部ガス雰囲気制御手段を構成している。また、被加熱物Wの加熱処理後、加熱用容器1の天井部(発熱部)の外面に冷却用窒素ガスを吹き付ける冷却用窒素ガス吹付け装置(図示せず)が外部容器4内に配設されている。
【0036】
図2に示す加熱装置は、加熱用容器1’及び高周波平面状コイル2’が前記図1のそれと少し相違している点以外は、図1のものと同一構成である。図2に示すように、加熱用容器1’は、全体がガラス状炭素からなる加熱用容器であって、胴部長さに比べて内径の方が大きな逆コップ状をなし、天井部の形状が略平面状の範囲に含まれるところの、上方へわずかに凸のドーム状をなしている(図1の加熱用容器1の天井部は平坦形状)。そして、高周波平面状コイル2’は、その形状が略平面状の範囲に含まれるところの、上方へわずかに凸のドーム状をなしている。
【0037】
実施例1の加熱・冷却試験は前記図1に示す構成の加熱装置を用いて行い、実施例2の加熱・冷却試験は前記図2に示す構成の加熱装置を用いて行った。
【0038】
なお、加熱用容器1の製作について説明すると、まず、原料として、市販の液状フェノール樹脂(群栄化学工業製PL−4804)を100℃で5時間熱処理して固形分率を調整したものを使用した。そして、所定の金型を使用して、注型法によりフェノール樹脂製容器を成形した。このフェノール樹脂製容器について空気中200℃で50時間加熱するキュアリング処理を行った後、窒素雰囲気中にて2℃/hにて1000℃まで加熱処理し、さらに2000℃まで10℃/hにて昇温して炭素化することにより、逆コップ状をなすガラス状炭素製の加熱用容器1を得た。加熱用容器1’についても同様の手順で製作した。
【0039】
比較例1として、加熱用容器1’に代えて加熱用容器1’と同一形状の石英製の加熱用容器と、高周波平面状コイル2’に代えて該加熱用容器のドーム状の天井部の上方に配された加熱用の赤外線ランプと、マニホールド3と、冷却用窒素ガス吹付け装置とを備えた加熱装置により、同様に加熱・冷却試験を行った。
【0040】
比較例2として、加熱用容器1と、加熱用容器1の胴部を囲繞する円筒状の高周波コイルと、マニホールド3と、外部容器4と、冷却用窒素ガス吹付け装置とを備えた加熱装置により、同様に加熱・冷却試験を行った。
【0041】
加熱試験では、コイルに周波数430kHz、出力1.2kW、電流6Aの条件で高周波電力を供給し、加熱用容器の中心部の温度(熱電対にて測定)が室温から800℃に到達するのに要する時間を測定した。また、加熱停止後、加熱用容器の中心部の温度が800℃から室温にまで下がるのに要する時間を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1と実施例2では、極めて短時間で昇温、降温することができた。一方、比較例1では、赤外線加熱により急速昇温は可能であったが、降温速度を十分大きくすることができなかった。比較例2では、昇温速度、降温速度ともに小さい値にとどまった。
【0044】
[実施例3〜7]
【0045】
図3は本発明の別の実施形態による加熱装置の構成を概念的に示す断面図である。
【0046】
図3において、11は逆コップ状の加熱用容器である。この加熱用容器11は、胴部長さに比べて内径の方が大きいこの例ではSUS316製の円筒体11aの天井側の開口端に、気密保持用Oリングを介してガラス状炭素製円形発熱板(発熱部)11bを取り付けたものである。円筒体11aは、胴部長さ50mm、内径400mmである。ガラス状炭素製円形発熱板11bは、外径400mm、厚み3.4mmである。
【0047】
12は加熱用容器11のガラス状炭素製円形発熱板11bに近接し且つ対向した状態で加熱用容器11の外部に配置され、略平面状に巻回された高周波平面状コイルである。したがって、加熱用容器11のガラス状炭素製円形発熱板11bが発熱部となる。
【0048】
13は加熱用容器11内に不活性ガス、この例では窒素ガスを供給・排気して加熱用容器11内を窒素ガス雰囲気(不活性ガス雰囲気)に制御する容器内部ガス雰囲気制御手段としてのマニホールドである。加熱用容器11はマニホールド13上に載置されている。マニホールド13には加熱用容器11内に被加熱物Wを搬入・搬出するためのハッチ(図示せず)が設けられている。14はマニホールド3上に載置された逆コップ状の外部容器である。この外部容器14は、該容器内に不活性ガス、この例では窒素ガスを供給・排気することにより、加熱用容器11(ガラス状炭素製円形発熱板11b)及び高周波平面状コイル2の外部を窒素ガス雰囲気に制御する容器外部ガス雰囲気制御手段を構成している。
【0049】
なお、ガラス状炭素製円形発熱板11bの製作について説明すると、まず、原料として、市販の液状フェノール樹脂(群栄化学工業製PL−4804)を100℃で5時間熱処理して固形分率を調整したものを使用した。そして、所定の金型を使用して、注型法により外径500mm、厚み4mmのフェノール樹脂製円板を成形した。このフェノール樹脂製円板について空気中200℃で50時間加熱するキュアリング処理を行った後、窒素雰囲気中にて2℃/hにて1000℃まで加熱処理し、さらに2000℃まで10℃/hにて昇温して炭素化することにより、外径400mm、厚み3.4mmのガラス状炭素製円形発熱板11bを得た。
【0050】
実施例3〜7と比較例3は、図3に示す構成の加熱装置により加熱試験を行ったものである。ただし、表2に示すように、実施例4では、ガラス状炭素製円形発熱板11bの外面上に、断熱部材として市販の炭素繊維フェルト(厚み10mm)を配置した。また、実施例5では、ガラス状炭素製円形発熱板11bの外面上に、反射部材としてアルミ板(厚み0.5mm)を配置した。
【0051】
また、実施例6,7、及び比較例3では、内面が粗面化処理されたガラス状炭素製円形発熱板11bを使用した。
【0052】
すなわち、実施例6では、炭素化して得られたガラス状炭素製円形発熱板の内面に600番のサンドペーパーをかけて表面粗さ(算術平均高さRa(JIS B0601:2001))が0.8μmとなるよう調整することにより、内面の赤外線放射率(R2)が49%、粗面化処理しない外面の赤外線放射率(R1)が40%(表面粗さ:0.2μm)であるガラス状炭素製円形発熱板を使用した。また、実施例7では、内面を240番のサンドペーパーにより粗面化処理し、内面の赤外線放射率(R2)が65%(表面粗さ:3.1μm)、粗面化処理しない外面の赤外線放射率(R1)が40%(表面粗さ:0.2μm)であるガラス状炭素製円形発熱板を使用した。比較例3では、内面を1000番のサンドペーパーにより粗面化処理し、内面の赤外線放射率(R2)が45%(表面粗さ:0.2μm)、粗面化処理しない外面の赤外線放射率(R1)が40%(表面粗さ:0.2μm)であるガラス状炭素製円形発熱板を使用した。
【0053】
なお、赤外線放射率を測定することについて説明すると、赤外線放射率の測定には、装置:日本電子製JIR−5500型のフーリエ変換型赤外分光光度計及び赤外放射測定ユニットIRR−200、試料:3cm角の基板(発熱体自体を装置に装着できない場合は、適宜切り出す)を用いた。赤外線放射率の測定方法は、黒体炉2点(160℃、80℃)及び試料の分光放射強度[実測値]を測定し、これらの強度と黒体の分光放射強度[理論値]とから、試料の分光放射率を求め、求めたその値から積分放射率を算出して、これを赤外線放射率とした。測定条件は、分解能:16cm−1、測定温度:200℃(試料加熱ステージの温度)、波長範囲:4.5〜15.4μmとした。この赤外線放射率の測定を測定対象のガラス状炭素製円形発熱板の有効発熱面積中における任意の3点に対して行い、それら3点の平均値を採用した。
【0054】
加熱試験では、コイルに周波数430kHz、出力1.2kW、電流6Aの条件で高周波電力を供給し、加熱用容器の中心部の温度(熱電対にて測定)が室温から500℃に到達するのに要する時間を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例3は、前記のように加熱用容器11の天井部をガラス状炭素製円形発熱板11bで構成し、それを誘導発熱させるようにしたものであり、その結果、20秒という短時間で500℃まで昇温することができた。また、実施例3の構成に加えて断熱部材を備えた実施例4と、反射部材を備えた実施例5では、さらに昇温時間を短縮することができた。
【0057】
また、発熱部であるガラス状炭素製円形発熱板11bの外面の赤外線放射率(R1)と内面の赤外線放射率(R2)の比(R2/R1)が1.2以上である実施例6と実施例7では、実施例3に比べて昇温時間が短縮できて加熱効率を顕著に向上させることができた。一方、比較例3では、前記比(R2/R1)が1.2を下回り、実施例3に比べて加熱効率の向上は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態による加熱装置の構成を概念的に示す断面図である。
【図2】本発明の別の実施形態による加熱装置の構成を概念的に示す断面図である。
【図3】本発明の別の実施形態による加熱装置の構成を概念的に示す断面図である。
【図4】従来技術を説明するための図であって、加熱装置として高周波コイルを備えた枚葉式の気相エピタキシャル成長装置の一例を示す模式的構成説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1,1’…加熱用容器
2,2’,12…高周波平面状コイル
3,13…マニホールド
4,14外部容器
11…加熱用容器
11a…円筒体
11b…ガラス状炭素製円形発熱板
W…被加熱物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも容器一部の略平面状形状の部分がガラス状炭素からなる発熱部を有し、被加熱物が収容される加熱用容器と、前記発熱部に近接し且つ対向した状態で前記加熱用容器の外部に配置され、略平面状に巻回された高周波平面状コイルと、前記加熱用容器内を所定のガス雰囲気に制御する容器内部ガス雰囲気制御手段とを備え、前記高周波平面状コイルへの通電により前記発熱部を誘導発熱させることによって前記被加熱物を加熱することを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記被加熱物の形状が基板状であることを特徴とする請求項1記載の加熱装置。
【請求項3】
前記加熱用容器の外部を所定のガス雰囲気に制御する容器外部ガス雰囲気制御手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の加熱装置。
【請求項4】
前記発熱部と前記高周波平面状コイルとの間に、断熱部材及び/又は反射部材を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記発熱部の外面の赤外線放射率(R1)と発熱部内面の赤外線放射率(R2)の比(R2/R1)が1.2以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−158123(P2007−158123A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352608(P2005−352608)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】