説明

加硫用モールド

【課題】優れた耐久性を有しつつ、ベントホールの排気効率を向上させることができる加硫用モールドを提供する。
【解決手段】外管6の内側に、複数の内管8を密接させて嵌め込んで構成されたベントピース5を、加硫用モールドのベントホール3に着脱可能に埋設することにより、それぞれの内管8の通気路V1を通じての排気と、内管8どうしのすき間に形成された通気路V2を通じての排気が確保され、内管8を用いているので軸方向強度が高く、ベントピース5の横断面における内管8の開口総面積を大きくしても、実用上変形し難く優れた耐久性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫用モールドに関し、さらに詳しくは、優れた耐久性を有しつつ、ベントホールの排気効率を向上させることができる加硫用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤやその他のゴム製品を加硫する際には、加硫用モールド内に不要な空気が閉じ込められ、また、加硫によってガスが発生する。これら空気やガスは、加硫して製造される製品に対してゴム充填不足等の加硫故障を生じさせる。そこで、モールドには、空気や加硫時に発生するガスを外部に排出するためにベントホールが設けられている。
【0003】
ベントホールの大きさが過小であると排気効率が低くなり、大きさが過大であるとベントホールにゴムが流入してバリ(スピュー)の原因になる。また、ベントホールには経時的にゴムや不純物が堆積して目詰まりが生じるので、ドリル等で目詰まりを解消するメンテナンス作業を行なう必要がある。
【0004】
このように排気を確保しつつ、ゴムの流入を防止することが要求されるベントホールには、種々の構造が提案されている。例えば、ベントホールの開口をベントピースで蓋閉し、このベントピースにスリット等を設けた構造が提案されている(特許文献1参照)。この提案の構造では、スリット等による開口総面積を大きくすると、ベントピース自体の強度が低下するので、開口総面積を大きくすることが難しく、排気効率を向上させるには不利になる。
【0005】
また、金属管の内側に、軸方向に微細な通路を有する線条体を内設したベントプラグや金属管の内側に、多数の細線を加撚したワイヤを配置したベントプラグが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、このベントプラグでは、金属管の内側に占める線条体の割合が大きくなるので、大きな通気路を確保することが難しく、排気効率を向上させるには不利になる。また、線条体に内在する微細な通路や、加撚したワイヤどうしのすき間では、ばらつきが大きいため安定した排気を確保するにも不利になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−232642号公報
【特許文献2】特開平11−114964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた耐久性を有しつつ、ベントホールの排気効率を向上させることができる加硫用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の加硫用モールドは、外管の内側に、複数の内管を密接させて嵌め込んで構成されたベントピースを、ベントホールに着脱可能に埋設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の内管を密接させて、外管の内側に嵌め込むことによりベントピースを構成したので、それぞれの内管を通じての排気と、内管どうしのすき間を通じての排気を確保することができる。それ故、排気効率を向上させるには有利になる。内管を用いているので軸方向強度が高く、ベントピースの横断面における内管の開口総面積を大きくしても、実用上変形し難いので耐久性にも優れ、安定した排気を確保できる。
【0010】
また、内管の内径と外径の少なくとも一方を変更することにより、容易に排気具合を調整することができる。さらに、上記ベントピースをベントホールに着脱可能に埋設することにより、ベントピースを交換するだけで目詰まりを解消できるのでメンテナンス性に優れている。
【0011】
ここで、前記密接させた複数の内管のすべてが、同じ外径でかつ同じ内径である仕様にすることもできる。この場合、通気路の大きさが画一的になるので、安定した排気を得るにはさらに有利になる。内管の共通化によりコスト削減にも寄与する。
【0012】
或いは、前記密接させた複数の内管に、外径の異なる内管が混在する仕様にすることもできる。この場合、内管を最密に配置し易くなるので、内管の配置がより安定する。
【0013】
或いは、前記外管の内側に同軸上に中間管を設け、外管と中間管のすき間に複数の内管を密接させて嵌め込むとともに、中間管の内側に複数の内管を密接させて嵌め込んだ仕様にすることもできる。この場合、内管の数を減らしつつ、ベントピースの剛性をさらに向上させることができる。
【0014】
また、本発明では、前記密接させた複数の内管どうしのすき間に、中実体を嵌め込んだ仕様にすることもできる。この場合、排気具合を調整しつつ、ベントピースの剛性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の加硫用モールドを例示する断面図である。
【図2】図1のベントピースの平面図である。
【図3】ベントピースの変形例を示す平面図である。
【図4】ベントピースの変形例を示す平面図である。
【図5】ベントピースの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の加硫用モールドを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0017】
図1に例示するように、本発明の加硫用モールド1は、内周側表面が成形面2になっている。タイヤ用のモールドの場合は、この成形面がタイヤトレッド等を成形する面になる。加硫用モールド1には、成形面2に開口するベントホール3が形成され、ベントホール3は、加硫用モールド1の外部につながっている連通孔4に連結されている。
【0018】
ベントホール3は、成形面2に面する大径部3aと大径部3aの下方に連続する小径部3bとで構成されている。したがって、大径部3aと小径部3bとの境界が段差になっている。
【0019】
ベントホール3には、ベントピース5が着脱可能に埋設されている。より詳しくは、ベントピース5は大径部3aに嵌入され、下端がベントホール3の段差に支持されている。
【0020】
図2に例示するように、ベントピース5は、外管6の内側に、複数の内管8を密接させて嵌め込んで構成されている。このベントピース5は、例えば、外管6の内側に複数の内管8を配置した状態にして、引き抜き機のダイスを通過させて縮径させることにより長尺体を製造した後、この長尺体を所定の長さに切断して製造される。したがって、それぞれの内管8は、外管6の内側にしっかりと固定されている。
【0021】
ベントピース5の長さは、例えば1mm〜15mm程度である。より好ましくは4mm〜6mmの長さである。
【0022】
外管6の外径は、例えば0.4mm〜3.0mm程度であり、内径は0.3mm〜2.9mm程度である。内管8の外径は、例えば0.08mm〜0.3mm程度であり、内径は0.02mm〜0.07mm程度である。内管8へのゴムの流入を防止するには、その内径を0.05mm以下にするのが特に好ましい。
【0023】
外管6と内管8は、ステンレス鋼、一般炭素鋼、アルミニウム合金等で形成され、両者を同じ材質にすることが、製造上も熱膨張の観点からも好ましい。
【0024】
このベントピース5では、それぞれの内管8の通気路V1を通じての排気と、内管8どうしのすき間に形成された通気路V2を通じての排気を確保することができる。それ故、排気効率を向上させるには有利になる。
【0025】
また、筒状体である内管8は軸方向強度が高いので、ベントピース5の横断面における内管8の開口総面積を大きくしても軸方向の外力によって変形し難い。加硫用モールド1でゴム製品を加硫する場合、ベントピース5は軸方向の外力を受けるが、このベントピース5によれば、実用上変形し難く耐久性にも優れている。即ち、優れた耐久性と排気効率を得ることができる。内管8が変形し難いので安定した排気を確保するにも有利になる。
【0026】
また、内管8の内径と外径の少なくとも一方を変更するだけで、排気具合を変えることができる。そのため、様々なゴム製品に適合するように、容易に排気具合を調整することが可能になる。
【0027】
ベントピース5の通気路V1、V2が目詰まりした場合は、古いベントピース5を新しいベントピース5に交換するだけで目詰まりを解消できる。そのため、ベントホール3のメンテナンス性に優れている。
【0028】
この実施形態のように、すべての内管8を、同じ外径でかつ同じ内径の仕様にすると、それぞれの通気路V1、V2の大きさが画一的になるので、安定した排気を得るには一段と有利になる。また、内管8の共通化によりコスト削減にも有利になる。
【0029】
図3に例示するベントピース5は、外管6の内側で密接させた複数の内管8aに、外径の異なる内管8bが混在するようにして構成されている。この仕様にした場合、より大径の内管8aと内管8aとのすき間に、より小径の内管8bが入り込むので、内管8a、8bを最密に配置し易くなる。そのため、内管8a、8bの配置がより安定する。外径の異なる内管8a、8bの種類は2種類に限定されず、他の複数種類にすることもできる。
【0030】
図4に例示するベントピース5は、外管6の内側に同軸上に中間管7を設けて、外管6と中間管7のすき間に複数の内管8を密接させて嵌め込んでいる。さらに、中間管7の内側に複数の内管8を密接させて嵌め込んで形成されている。
【0031】
この仕様の場合、内管8の数を減らせるので生産性を向上させるには有利になる。また、中間管7の存在により、ベントピース5の剛性を一段と向上させることができるので、ベントピース5の変形等の不具合を低減することができる。中間管7と、外管6および内管8とは同じ材質にすることが好ましい。
【0032】
図5に例示するベントピース5は、外管6の内側で密接させた複数の内管8どうしのすき間に、中実体9を嵌め込んで構成されている。この仕様の場合、内管8と内管8とのすき間に形成された通気路V2が、中実体9によって塞がれるので排気具合を適宜調整することができる。また、中実体9の存在により、ベントピース5の剛性を一段と向上させることができるので、ベントピース5の変形等の不具合を低減することができる。
【0033】
特に、外管6の内側中央に中実体9を配置すると、ベントピース5の強度が安定し易くなり、製造も容易になる。中実体9と、外管6および内管8とは同じ材質にすることが好ましい。
【0034】
本発明は、タイヤ、防舷材、ベルト、その他の種々のゴム製品の加硫用モールドに適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 加硫用モールド
2 成形面
3 ベントホール
3a 大径部
3b 小径部
4 連通孔
5 ベントピース
6 外管
7 中間管
8、8a、8b 内管
9 中実体
V1、V2 通気路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外管の内側に、複数の内管を密接させて嵌め込んで構成されたベントピースを、ベントホールに着脱可能に埋設したことを特徴とする加硫用モールド。
【請求項2】
前記密接させた複数の内管のすべてが、同じ外径でかつ同じ内径である請求項1に記載の加硫用モールド。
【請求項3】
前記密接させた複数の内管に、外径の異なる内管が混在する請求項1に記載の加硫用モールド。
【請求項4】
前記外管の内側に同軸上に中間管を設け、外管と中間管のすき間に複数の内管を密接させて嵌め込むとともに、中間管の内側に複数の内管を密接させて嵌め込んだ請求項1に記載の加硫用モールド。
【請求項5】
前記密接させた複数の内管どうしのすき間に、中実体を嵌め込んだ請求項1〜4のいずれかに記載の加硫用モールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−189634(P2011−189634A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57987(P2010−57987)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】