説明

加速度センサ

【課題】センサ感度を下げることなく、また交差部角にも応力を集中させずに最大応力を抑制して、耐衝撃性を上げることができる加速度センサを提供する。
【解決手段】加速度センサ100は、枠部111と、錘部112と、枠部111と錘部112とを連結する梁部113と、梁部113上に形成された加速度検出部と、梁部113と錘部112又は枠部111との連結部に近接するに従って広がるフィレット部116と、連結部115の下側に円弧状又は楕円形状で形成され、かつ連結部115から離れる方向に奥行きを有する応力緩和部117とを備え、応力緩和部117は、梁幅W、交差部幅L、奥行きOとしたとき、L≧100μm、30μm≦W≦60μm、10μm≦O≦40μmに形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ抵抗素子を用いてX、Y及びZ軸方向の加速度を検出する加速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や家電製品など様々な分野において、加速度センサが用いられる。加速度センサは、ピエゾ抵抗効果型や圧電効果型、静電容量型等に大別されている。いずれも、加速度が加わった状態で変形する可撓部を有し、可撓部の変位量をピエゾ抵抗や圧電素子、静電容量の変化を電気信号として得ている。加速度センサの用途は、自動車分野におけるエアバックや車両制御など、平面方向の検出が主であった。これら用途の加速度センサとしては、検出方向は1軸もしくは2軸で済み、また、高加速度値の検出であるために高分解能が要求されることは少なかった。
【0003】
高感度型の加速度センサは、感度を確保するため可撓部が変形しやすくなるように作られている。このため、加速度センサに測定範囲を大きく外れるような衝撃力が加わると、可撓部が変形し過ぎて破壊することがあり、高感度と高耐衝撃性は相反する。
【0004】
特許文献1には、錘板部及び支持枠部に切り欠き部を設け、可撓部に錘板部及び可撓部に支持枠部が接しない構造とする加速度センサが記載されている。特許文献1に記載の加速度センサは、異常な衝撃力が作用しても、加速度センサ素子の作用部と可撓部及び固定部と可撓部の境界部分の耐破壊性を大きくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−198280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の加速度センサは、耐衝撃性の対策として、梁部にフィレット形状がない(フィレット:R=0)応力緩和構造であったため、フィレット部に応力が集中し最大応力を下げることはできない課題がある。
【0007】
図1は、加速度センサのフィレット形状がない(フィレット:R=0)の梁の構造を示す図である。
【0008】
図1に示すように、特許文献1記載の加速度センサは、梁部11にフィレット形状がない(フィレット:R=0)。また、従来、梁部11にフィレット形状を設けるものがある。図1は、フィレット:R=30の場合の交差部形状を示している。この交差部形状は、直線21と円22の組み合わせである。この梁部11の交差部には、衝撃時に応力31〜33が発生する。
【0009】
従来、加速度センサの最大応力を下げる方法としては、(1)錘を小さくする、(2)梁幅を広くする、(3)梁厚を厚くすることが考えられた。しかし、これらの方法はいずれもセンサ感度を下げることになり、高感度要求に相反する。また、図1に示すように、交差部幅、奥行きを広げることで応力31,32をある程度緩和することはできる。しかし、交差部形状は、直線21と半円22の組み合わせであり、特に直線21の部分で応力33が集中する結果になりあまり好ましい形状ではなかった。
【0010】
本発明は、かかる点を考慮してなされたものであり、センサ感度を下げることなく、また交差部角にも応力を集中させずに最大応力を抑制して、耐衝撃性を上げることができる加速度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の加速度センサは、枠部と、錘部と、前記枠部と前記錘部とを連結する梁部と、前記梁部上に形成された加速度検出部と、前記梁部から前記錘部又は前記枠部に近接するに従って広がるフィレット部と、前記錘部又は前記枠部に円弧状又は楕円形状で形成されて前記梁部から離れる方向に奥行きを有する応力緩和部と、を有し、前記梁部と前記錘部又は前記枠部とを連結する連結部と、を備える構成を採る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、センサ感度を下げることなく、また交差部角にも応力を集中させずに最大応力を抑制して、耐衝撃性を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の加速度センサのフィレット形状がない(フィレット:R=0)の梁の構造を示す図
【図2】本発明の実施の形態に係る加速度センサの表面から見た斜視図
【図3】上記実施の形態に係る加速度センサの裏面から見た斜視図
【図4】上記実施の形態に係る加速度センサの交差部の拡大図
【図5】上記実施の形態に係る加速度センサの交差部の構造を説明する片持梁としてのイメージ図
【図6】上記実施の形態に係る加速度センサの梁部と錘部の交差部の構造を示す図
【図7】上記実施の形態に係る加速度センサの梁幅と奥行きの関係を示す図
【図8】上記実施の形態に係る加速度センサの錘部に加重が加わる場合の表面から見た斜視図
【図9】上記実施の形態に係る加速度センサの交差部の拡大図
【図10】上記実施の形態に係る加速度センサの交差部幅の違いによる応力変化を示す図
【図11】上記実施の形態に係る加速度センサの奥行きの違いによる応力変化を示す図
【図12】上記実施の形態に係る加速度センサの効果を説明する図
【図13】他の実施の形態に係る加速度センサの交差部の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態)
図2は、本発明の実施の形態に係る加速度センサの表面から見た斜視図、図3は、上記加速度センサの裏面から見た斜視図である。図4は、図3A部に示す加速度センサの交差部の拡大図である。図5は、加速度センサの交差部の構造を説明する片持梁としてのイメージ図である。本実施の形態は、3軸加速度センサに適用した例である。
【0016】
図2乃至図4に示すように、加速度センサ100は、枠部111(111a〜111d)と、枠部111内に設けられた錘部112(112a〜112d)と、枠部111と錘部112とを連結する十字形状の梁部113(113a〜113d)と、梁部113上に形成された加速度検出素子を備える。
【0017】
錘部112は、中心非可動部114と連結される中心部112e(図3)を有し、中心部112eに錘部112a〜112bが連結されクローバ状に形成されている。
【0018】
梁部113を構成する各梁113a〜113dは、ピエゾ抵抗素子を有する肉薄の可撓性部材となっている。梁部113は、中心部分でクローバ状の錘部112と連結されている。この梁部113の中心部分は、肉薄で可撓性の梁部113が加速度に応じて撓むのに対して、加速度が加わっても錘部112を支持して撓まないため、中心非可動部114と呼ぶことにする。
【0019】
梁部113は、錘部112aと112b、112bと112c、112cと112d、112dと112aの間にそれぞれ配置されて中心非可動部114と連結されている。
【0020】
また、図5に示すように、加速度センサは、片持ち梁部113に錘部112が連結され、加重がかかると梁部113が撓む構造である。
【0021】
本実施の形態は、加速度センサ100の梁部と錘部との連結部の構造に特徴がある。
【0022】
図6は、加速度センサ100の梁部113と錘部112の交差部の構造を示す図である。
【0023】
図6に示すように、加速度センサ100は、梁部113と錘部112の交差部である連結部115と、梁部113の両側に形成され、かつ梁部113と錘部112又は枠部111との連結部115に近接するに従って広がるフィレット部116と、フィレット部116と錘部112との交差部を円弧状とする凹状の応力緩和部117とを有する。
【0024】
応力緩和部117は、連結部115の下側に形成され、円弧状又は楕円形状で連結部115から離れる方向に奥行きをもっている。
【0025】
応力緩和部117の奥行きは、錘部112aと112bの間の中心部112eを錘部112の下端面から中心非可動部114まで円弧状又は楕円形状に一様に削ることによって形成されている。錘部112bと112c、112cと112d、112dと112aも同様に形成される。
【0026】
応力緩和部117を楕円形状に形成した場合、交差部幅は楕円の長軸、奥行きは楕円の短軸となる。応力緩和部117は、扇形状である。
【0027】
上記交差部幅とは、梁部113の終端と錘部112に接する幅のことであり、奥行きは、梁部113の終端から錘部112までの長さである。応力緩和部117の奥行きは、応力緩和部117の交差部幅より小さい。本実施の形態は、加速度センサ100の梁幅に応じて適切な長さ交差部幅と奥行きを形成することを特徴とする。具体的には、応力緩和部117は、以下の形状に形成する。
【0028】
梁幅W、連結部115におけるフィレット部116と梁幅の大きさ交差部幅L、連結部115からの応力緩和部117の奥行きOとしたとき、次式(1)を満たす形状とする。
【0029】
L≧100μm
30μm≦W≦60μm
10μm≦O≦40μm …(1)
上記、L≧100μmは、L≧梁幅+(フィレット×2)+(誤差)×2から設定される。なお、この誤差は後述の製造精度に依存する。
【0030】
上記、30μm≦W≦60μmの下限値30μmは、配線等の実装要求から設定される。また、上限値60μmは、感度等の要求精度から設定される。
【0031】
図7は、梁幅Wと奥行きOの関係を示す図である。
【0032】
図7に示すように、梁幅Wと奥行きOは、製造精度の最大値(MAX)と最小値(MIN)の範囲に収まる範囲の略中間値を最適値として設定する。
【0033】
製造精度(±5μm)を考慮すると製造精度(MAX)と製造精度(MIN)の間であればよい。また、交差部幅と奥行きを変更してもセンサ感度に影響を与えることはない。
【0034】
図6の応力緩和部117において、交差部幅が、梁幅+フィレット×2+5μm(製造精度)×2以上、つまりフィレット部116のカーブが終わり、直線部で交差するときに、奥行きOを図7の最適値に示す長さに設定する。例えば、梁幅40μm+フィレット30μm(片側)×2+5μm(片側)×2(製造精度)=110μmのときに奥行きOを図7の最適値に示す長さに設定する。これにより、図6のA地点の最大応力を緩和しつつ、角部である図6のB地点の応力も抑えることができる。加速度センサ100の梁幅に応じて適切な長さの交差部幅と奥行きにすることによって応力を緩和し、耐衝撃性を上げることができる。すなわち、従来例の問題であったセンサ感度を下げることなく、また交差部角にも応力を集中させずに最大応力をさげて、耐衝撃性を上げることができる。
【0035】
図8は、加速度センサ100の錘部112に加重が加わる場合の表面から見た斜視図である。図9は、図8A部に示す加速度センサの交差部の拡大図である。
【0036】
図8に示すように、加速度センサ100は、梁部113と錘部112からなり、高い加速度(例えば2000G)がかかると、梁部113が撓んで錘部112側の梁終端部に最大応力が発生する。この梁部113の撓みが加速度検出素子(図示略)により加速度として検出される。
【0037】
しかし衝撃試験の結果も、錘部112側の梁終端部から破壊が起きており、この部分の応力緩和を行うと耐衝撃性が向上する。図9は、錘部112側の梁終端部の応力を示している。
【0038】
本発明者らは、交差部幅と奥行きを変えてシミュレーションを行った。その結果、梁幅毎に最適な長さがあることが分かった。梁幅40μmを例に採り説明する。
【0039】
シミュレーションはANSYSを使用し、条件は静解析、X軸方向2000Gにより行った。
【0040】
図10は、交差部幅(楕円の長軸)の違いによる応力変化を示す図であり、奥行きを20μmで固定して、交差部幅を変えて最大応力と最大応力に対する交差部角の応力の比率を示している。
【0041】
基本的に、交差部幅は広ければ広いほど良い。図10に示すように、90μmから110μmの間で最大応力が50MPa変化し比率も90%超えているのに対して、110μm以降は最大応力変化約20MPa、比率も急に低くなっており、変曲点が存在する。これは、交差部がフィレットのカーブではなく直線部に移ったことに起因している。このように、交差部幅は、梁幅40μm+フィレット30μm×2+5μm(片側)×2(製造精度)=110μm以上であれば問題ない。
【0042】
図11は、奥行き(楕円の短軸)の違いによる応力変化を示す図であり、交差部幅を130μmに固定して奥行きを変化させたときの交差部角の応力の比率を示している。
【0043】
図11に示すように、25μmから40μmで最大応力がボトムを持つことが分かる。応力的にはその範囲であれば良い。しかし比率を考慮に入れると、最適値は25μmになる。同様の解析を梁幅毎に行うことで、交差部幅と奥行きの最適値を決定することができる。
【0044】
図12は、従来例と本実施の形態の効果を比較して説明する図であり、図12(a)は、従来の加速度センサの交差部の拡大図、図12(b)は、本実施の形態の加速度センサ100の交差部の拡大図である。なお、図12(a)は、図1と同じ従来例である。
【0045】
図12(a)に示すように、加速度センサの交差部形状が、直線21と円22の組み合わせである場合、梁11の交差部には、衝撃時に応力31〜33が発生する。特に、梁11の直線21の部分に応力33が集中する。また、交差部角にも応力31,32が集中する。これに対して、本実施の形態では、図12(b)に示すように、加速度センサ100は、扇形状の応力緩和部117を形成することで、交差部角にのみ従来例に比して格段に小さい応力121,122が生じるに過ぎない。
【0046】
図12(a)に示すように、従来例では、梁幅40μmの場合、X軸2000G解析において最大応力1559MPa、耐衝撃性1400Gであった。
【0047】
これに対して、図12(b)に示すように、本実施の形態では、最適値の時、ここでは交差部幅130μmでかつ奥行き25μmの場合、X軸2000G解析において最大応力は1358MPaとなり、従来例と比して約10%の改善が見られる。応力値から耐衝撃性を考えると1600Gと予想され、200Gの耐衝撃性向上が得られる。
【0048】
交差部の応力緩和が起きるのは高い加速度の時であり、実際に使用する低い加速度では、交差部を変えても感度は変わらない。
【0049】
以上詳細に説明したように、本実施の形態の加速度センサ100は、枠部111と、錘部112と、枠部111と錘部112とを連結する梁部113と、梁部113上に形成された加速度検出部と、梁部113と錘部112又は枠部111との連結部に近接するに従って広がるフィレット部116と、連結部115の下側に円弧状又は楕円形状で形成され、かつ連結部115から離れる方向に奥行きを有する応力緩和部117とを備え、応力緩和部117は、梁幅W、交差部幅L、奥行きOとしたとき、L≧100μm、30μm≦W≦60μm、10μm≦O≦40μmに形成する。これにより、図6に示すように、図6のA地点の最大応力を緩和しつつ、角部である図6のB地点の応力も抑えることができる。その結果、センサ感度を下げることなく、また交差部角にも応力を集中させずに最大応力をさげて、耐衝撃性を上げることができる。
【0050】
(他の実施の形態)
図13は、他の実施の形態に係る加速度センサの交差部の拡大図である。
【0051】
図13に示すように、加速度センサ100の応力緩和部117Aは、連結部115の下側に形成され、楕円と直線とを組み合わせた形状である。
【0052】
応力緩和部117Aの奥行きが最適値であれば、楕円と直線とを組み合わせた形状を採ることができる。楕円と直線とを組み合わせた形状の応力緩和部117Aを形成することで、交差部角と直線の部分に応力131〜133が生じるものの、許容範囲に収まっている。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変更が可能であり、本発明がこれらに及ぶことは当然である。
【0054】
上記実施の形態では、3軸加速度センサに適用した例であるが、同様の構成により、半導体加速度センサ全般に適用することができる。
【0055】
また、上記実施の形態では、加速度センサという名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、3軸加速度センサ、半導体加速度センサ等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の加速度センサは、例えばゲームコントローラ等の玩具や、自動車の衝撃検出装置、ハードディスクの落下検知装置、携帯電話機の入力装置等の種々の装置に広く適用し得る。
【符号の説明】
【0057】
100 加速度センサ
111,111a〜111d 枠部
112,112a〜112d 錘部
113,113a〜113d 梁部
115 連結部
116 フィレット部
117,117A 応力緩和部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠部と、
錘部と、
前記枠部と前記錘部とを連結する梁部と、
前記梁部上に形成された加速度検出部と、
前記梁部から前記錘部又は前記枠部に近接するに従って広がるフィレット部と、前記錘部又は前記枠部に円弧状又は楕円形状で形成されて前記梁部から離れる方向に奥行きを有する応力緩和部と、を有し、前記梁部と前記錘部又は前記枠部とを連結する連結部と、
を備えることを特徴とする加速度センサ。
【請求項2】
前記梁部の終端と前記錘部に接する幅を交差部幅とし、前記梁部の終端から前記錘部又は前記枠部までの長さを奥行きとするとき、前記奥行きは、前記交差部幅より小さい請求項1記載の加速度センサ。
【請求項3】
前記応力緩和部は、梁幅W、交差部幅L、奥行きOとしたとき、下記を満たす形状とする
L≧100μm
30μm≦W≦60μm
10μm≦O≦40μm
請求項2記載の加速度センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−47821(P2011−47821A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197215(P2009−197215)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】