説明

加飾パネルの製造方法

【課題】水圧転写により透過視可能な基材パネルの裏面に形成される塗膜層の塗料が基材パネルの表面に付着しないようにするとともに、使用者の手に届くまでに加飾パネル表面への傷付きや汚れを防止する
【解決手段】スイッチパネルの形状に対応して形成した透明もしくは半透明の基材パネル5の表面5aに保護フィルム13を剥ぎ取り可能にラミネートする。基材パネル5の裏面5bに、塗膜11が形成された転写フィルムを使用して水圧転写により塗膜層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水圧転写により塗膜層が形成された加飾パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドアトリム等に取り付けられてその意匠性を高める加飾パネルの製造方法として、特許文献1では、透明な基材パネルの裏面に蓄光性塗料層をスクリーン印刷等の方法により形成している。
【0003】
また、特許文献2には、塗膜が形成された転写フィルムを液体の液面に浮かべ、基材パネルの開口部を閉塞治具で閉塞した状態で、該基材パネルを上記転写フィルムに押し当てて液中に没入させることにより、基材パネルの表面に塗膜層を転写し、その後、上記閉塞治具を基材パネルから取り外して加飾パネルを得る製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−240645号公報(段落0008欄、図2)
【特許文献2】特開2005−125493号公報(第0006欄、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1のような透明な基材パネルを用いて特許文献2のような水圧転写方式により透明な基材パネルの裏面に塗膜層を形成する場合、転写フィルムの塗膜を構成する塗料が基材パネルの裏面にだけでなく基材パネルの表面にまで回り込んで付着すると、加飾パネルの意匠性が低下する。
【0005】
また、加飾パネルは製造されてから使用者の手に届くまでの間に表面に傷が付いたり、あるいは表面が汚れたりすると商品価値が低下するので、傷付きや汚れを防止する必要がある。
【0006】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水圧転写により透過視可能な基材パネルの裏面に形成される塗膜層の塗料が基材パネルの表面に付着しないようにするとともに、使用者の手に届くまでに加飾パネル表面への傷付きや汚れを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、この発明は、基材パネルの表面に水圧転写時の塗料が直接付着しないようにしたことを特徴とする。
【0008】
具体的には、請求項1に記載の発明は、所定形状に形成された透明もしくは半透明の基材パネルの表面に保護フィルムを剥ぎ取り可能にラミネートし、上記基材パネルの裏面に、塗膜が形成された転写フィルムを使用して水圧転写により塗膜層を形成することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記基材パネルには開口部が形成されており、上記保護フィルムは基材パネルの裏面と面一になるように上記開口部を塞いでいることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、上記保護フィルムを基材パネルにラミネートした状態で基材パネル及び転写フィルム端末周縁部より外側方に延出させ、この延出部を水圧転写後に切除することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、上記保護フィルムは、透明材もしくは半透明材で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、基材パネルの表面は保護フィルムで覆われているので、水圧転写時に基材パネルの裏面に形成される塗膜層の塗料が基材パネルの表面側に回り込んでも該塗料は基材パネルの表面に直接付着しない。また、加飾パネルが使用者の手に届くまでの間、基材パネルの表面は保護フィルムで保護されて傷付きや汚れが付着するが防止されている。したがって、意匠性の高い加飾パネルを得ることができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、転写フィルムの塗膜を構成する塗料が開口部の内周面に回り込んで付着しないようにすることができる。また、開口部が塞がれ、基材パネルと開口部周縁部との間に段差ができないので開口部周縁部に水流の乱れが生じず、該開口部周縁部における模様全体にも乱れが生じず、塗膜を基材パネルの裏面全体に安定して転写することができる。さらに、基材パネルの表面を覆うための保護フィルムで開口部を塞いでいるので別部材を設けることなく意匠性の高い加飾パネルを簡単にそして安価に得ることができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、基材パネルの端末周縁部において水流の乱れが生じず、該端末周縁部における模様全体にも乱れが生じず、塗膜を基材パネルの裏面全体に安定して転写することができる。また、転写フィルムの塗料は全て基材パネルと保護フィルムの裏面に付着するので、保護フィルムの表面に付着することがなく、加飾パネルに保護フィルムが付いた状態でも見栄えを向上できる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、保護フィルムを通して基材パネル裏面の意匠を透視することができるので、加飾パネルの選別の際に便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0017】
図1はこの発明の実施形態に係る製造方法により塗膜層1を形成した加飾パネルとしての自動車用スイッチパネル3を示す。該スイッチパネル3はドアトリム(図示せず)に取り付けられるものであり、製造方法を説明する前にその構造について説明する。該スイッチパネル3は、ポリカーボネードABS、ABS、アクリル等の樹脂材で、スイッチパネル3の形状に対応させて成形された透明もしくは半透明の基材パネル5を備えている。
【0018】
該基材パネル5の略中央部には、図2にも示すように、パワーウインドの昇降スイッチ配設用の矩形開口部7が形成されている。図2において、基材パネル5の表面に符号5aを、裏面に符号5bを、外周面に符号5cを、開口部7の内周面に符号5dをそれぞれ付している。上記基材パネル5の裏面5bには水圧転写により塗膜層1が形成されている。そして、上記基材パネル5の表面5a、外周面5c及び開口部7の内周面5dには、透明材もしくは半透明材で構成されている保護フィルム13が剥ぎ取り可能にラミネートされている。13cは剥ぎ取り代13cである。尚、基材パネル5に転写する塗膜層1は木目模様に限らず、多数の同じ模様が略等間隔に形成されているものや、1つの模様で形成されているものでもよい。
【0019】
次に、図3〜図9に基づいてスイッチパネル3を製造する要領について説明する。
【0020】
最初に、図3及び図4に基づいて基材パネル5に保護フィルム13をラミネートする要領について説明する。
【0021】
まず、図3に示すように、基材パネル5を真空ラミネート治具15に裏面5bが接した状態で載置する。次に、基材パネル5より面積が大きく、裏面13aに粘着材(図示せず)が付された保護フィルム13の端末周縁部をクランプ治具17で挟持し、該クランプ治具17を真空ラミネート治具15の上方から同図矢印Aの方向(基材パネル5の表面5a側)に位置を下げていき、真空引きにより保護フィルム13の裏面13aを基材パネル5の表面5aに密着させる。これにより、保護フィルム13が基材パネル5の表面5aに剥ぎ取り可能にラミネートされている(図4参照)。上記保護フィルム13は基材パネル5より面積が大きく形成されているので、保護フィルム13には基材パネル5の端末周縁部より外側方に延出した延出部13bが設けられている。また、上記保護フィルム13は基材パネル5の表面5aだけでなく外周面5cや開口部7の内周面5dにも巻き込んでラミネートされ、かつ基材パネル5の裏面5bと面一になるようにして上記開口部7を塞いでいる。
【0022】
次に、図5〜図9に基づいて上記のように表面5aに保護フィルム13がラミネートされた基材パネル5の裏面5bに転写フィルムFを転写する要領について説明する。
【0023】
転写フィルムFは、図5に示すように、PVA(ポリビニルアルコール)等の水溶性材料からなる水溶性シート19の上に、塗膜11が形成されて構成されている。この塗膜11は非水溶性の塗料で構成されており、この転写フィルムFの端末部間の長さL2は、図6に示すように、基材パネル5の端末部間の長さL1より大きく、保護フィルム13の端末部間の長さL3のより小さく形成されている。
【0024】
まず、転写フィルムFを塗膜11が上を向くようにして水面Wに浮かべ、この状態で、転写フィルムFの塗膜11に図示しない噴霧装置等を用いてキシレンや他の溶剤等の接着剤を吹き付ける。しばらくすると、水溶性シート19が水に完全に溶解して塗膜11のみが水面Wに浮かんでいる状態となる(図6参照)。
【0025】
次に、基材パネル5を裏面5bが下に向いた状態で塗膜11の上方に配置し、この状態から基材パネル5を矢印Bで示すように下方へゆっくりと移動させ、基材パネル5の裏面5bを塗膜11の上面に押し当て、さらに、上記基材パネル5を下方へ移動させて水中に没入させる。これにより、図7に示すように、塗膜11が基材パネル5の裏面5b全体、基材パネル5の開口部7に対応する保護フィルム13の裏面13a及び保護フィルム13の延出部13bの先端部を除く基端側部分の裏面13aに連続して接触し、塗膜11が水圧により基材パネル5の裏面5bに押し付けられて密着して転写される。この際、保護フィルム13が開口部7の内周面5dにもラミネートされて基材パネル5の裏面5bと面一になって上記開口部7を塞いでいる。これにより、転写フィルムFの塗膜11を構成する塗料が開口部7の内周面5dに回り込んで付着しないようにすることができる。また、開口部7が塞がれ、基材パネル5と開口部7周縁部との間に段差ができないので開口部7周縁部に水流の乱れが生じず、該開口部7周縁部における模様全体にも乱れが生じず、塗膜11を基材パネル5の裏面5b全体に安定して転写することができる。さらに、基材パネル5の表面5aを覆うための保護フィルム13で開口部7を塞いでいるので別部材を設けることなく意匠性の高い加飾パネル3を簡単にそして安価に得ることができる。加えて、基材パネル5の端末周縁部において水流の乱れが生じず、該端末周縁部における模様全体にも乱れが生じず、塗膜11を基材パネル5の裏面5b全体に安定して転写することができる。また、転写フィルムFの塗料は全て基材パネル5と保護フィルム13の裏面13aに付着するので、保護フィルム13の表面に付着することがなく、加飾パネル3に保護フィルム13が付いた状態でも見栄えを向上できる。
【0026】
その後、基材パネル5を水中から引き上げて洗浄し、図8に示すように、塗膜11が転写された基材パネル5の裏面5bにバックアップ塗装材21をスプレーガン23で吹き付けて下地色を形成した後、乾燥させて、塗膜層1を形成する。
【0027】
次に、図9に示すように、上記基材パネル5を表面5aが上側に向いた状態で載置台25に載置する。この載置台25の上方にはトリム治具31が昇降可能に配置されている。該トリム治具31は、ベースプレート27の下面に複数のトリム刃29が一体に突設されている。このように構成されたトリム治具31を、図9矢印Cで示すように、下方へ移動させ、上記トリム刃29を基材パネル5の外周面5c及び開口部7の内周面5dに対応させて保護フィルム13の剥ぎ取り代13cを残した状態で延出部13bを切除する。このようにして、図1に示すように、塗膜層1が形成されたスイッチパネル3が得られる。
【0028】
したがって、本実施形態に係るスイッチパネル3の製造方法によれば、基材パネル5の表面5aは保護フィルム13で覆われているので、水圧転写時に基材パネル5の裏面5bに形成される塗膜層1の塗料が基材パネル5の表面5a側に回り込んでも該塗料は基材パネル5の表面5aに直接付着しない。また、加飾パネル3が使用者の手に届くまでの間、基材パネル5の表面5aは保護フィルム13で保護されて傷付きや汚れが付着するが防止されている。したがって、意匠性の高い加飾パネル3を得ることができる。
【0029】
また、基材パネル5の端末周縁部および開口部7周縁部において水流の乱れが生じず、該端末周縁部および開口部7周縁部における模様全体にも乱れが生じず、塗膜11を基材パネル5の裏面5b全体に安定して転写することができる。
【0030】
また、転写フィルムFの塗料は全て基材パネル5と保護フィルム13の裏面13aに付着するので、保護フィルム13の表面に付着することがなく、加飾パネル3に保護フィルム13が付いた状態でも見栄えを向上できる。
【0031】
さらに、保護フィルム13を通して基材パネル5の裏面5bの意匠を透視することができるので、加飾パネル3の選別の際に便利である。
【0032】
尚、本実施形態では、水圧転写の場合について説明しているが、水以外の液体を用いることも可能である。この場合、用いる液体に溶解する材料で水溶性シート19を構成するとともに、その液体に溶解しない塗料により塗膜11を構成すればよい。
【0033】
さらに、本実施形態では、本発明を自動車のスイッチパネル3に適用した場合について説明したが、本発明は、例えば自動車のインストルメントパネルに設けられるセンターパネルやリッド部材、また、自動車部品以外にも模様を水圧転写するようにした加飾パネルに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明は、水圧転写により塗膜層が形成された加飾パネルの製造方法に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る製造方法により塗膜層を形成したスイッチパネルの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る製造方法により塗膜層を形成したスイッチパネルの略半分を示す斜視図である。
【図3】基材パネルに保護フィルムをラミネートする工程図である。
【図4】基材パネルに保護フィルムをラミネートした状態においてその略半分を示す斜視図である。
【図5】転写フィルムを水面に浮かべた状態を示す工程図である。
【図6】水溶性シートが溶解し、塗膜の上方に基材パネルを配置した状態を示す工程図である。
【図7】基材パネルを水中に没入させて塗膜を基材パネルに転写した状態を示す工程図である。
【図8】基材パネルの裏面にバックアップ塗装材をスプレーガンで吹き付けている状態を示す工程図である。
【図9】トリム治具で保護フィルムの延出部を切除する工程図である。
【符号の説明】
【0036】
1 塗膜層
3 スイッチパネル(加飾パネル)
5 基材パネル
5a 基材パネルの表面
5b 基材パネルの裏面
7 開口部
11 塗膜
13 保護フィルム
13a 保護フィルムの裏面
F 転写フィルム
W 水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状に形成された透明もしくは半透明の基材パネルの表面に保護フィルムを剥ぎ取り可能にラミネートし、
上記基材パネルの裏面に、塗膜が形成された転写フィルムを使用して水圧転写により塗膜層を形成することを特徴とする加飾パネルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾パネルの製造方法において、
上記基材パネルには開口部が形成されており、上記保護フィルムは基材パネルの裏面と面一になるように上記開口部を塞いでいることを特徴とする加飾パネルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加飾パネルの製造方法において、
上記保護フィルムを基材パネルにラミネートした状態で基材パネル及び転写フィルム端末周縁部より外側方に延出させ、この延出部を水圧転写後に切除することを特徴とする加飾パネルの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加飾パネルの製造方法において、
上記保護フィルムは、透明材もしくは半透明材で構成されていることを特徴とする加飾パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−152981(P2007−152981A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346599(P2005−346599)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(505142872)ダイキョーニシカワ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】