説明

加飾成形用シート、加飾成形用シートの製造方法、樹脂成形品

【課題】 3次元加工の成形品の表面となるように配置させて成形する加飾成形を行う加飾成形用シートにおいて、シート材の連続成形性と、3次元加工の成形品の表面性とを両立させることのできるものを提供する。
【解決手段】 本発明の加飾成形用シート1は、多孔質層10と表皮層11を有している。多孔質層10は、剥離基材上にポリウレタン材料を塗工して湿式凝固法によって連続的に多孔質状に形成したものである。また、表皮層11は多孔質層10に積層されるものである。
そして、加飾成形用シート1を用いて、真空成形などによって成形品5を成形するものであり、成形品5の表面に加飾成形用シート1が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品の外装部品、携帯電話の外装部品、モバイル機器の外装部品、建材の外装部品、車輌用内装部品などに使用される加飾成形可能な皮革様シート材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品、携帯電話、モバイル機器、建材、車輌用内装部品などに使用される外装部材は、簡便、低コストで大量に同じものができる成形法によって生産されるのが一般的であり、その成形技術も用途が広がるに従い発展してきた。
本来、簡便、低コスト、大量生産が成形品の特徴であるが、近年の消費者の要求の多様化により、成形品でもデザイン性に優れ、意匠性や触感等の官能面で差別化できるものへの要望が高まってきた。
【0003】
外観に関しては、成形用金型に皮革様紋を予め彫り、成形樹脂単独で外観に意匠性を付与する技術や、皮革様フィルムをインサート成形する技術や、成形樹脂プレートに皮革様フィルムを予めラミネートして真空成形する方法が一般的である。また、合成皮革皮や皮革をインサート成形することにより意匠性やボリューム感を付与する技術が特許文献1に開示されている。
ただ、前者の方法で成形されたものは、確かに外観上は皮革様の意匠性を持っているが、実際に成形品に触ると、成形用樹脂やフィルムの硬さや冷たさが感じられ、所謂、プラスティック製品という域を出ておらず、また、後者の方法で成形されたものは、確かにプラスティック製品とは一線を画すものができるが、成形前に成形後の形状に予め皮革や合成皮革を加工する必要があるなど、工程が煩雑になる問題があった。
【0004】
このため、連続的に成形したシートを用い、このシートを成形品の表面に配置するようにして3次元形状の成形品の成形を行うことが考えられる。
このような連続的に成形したシートを用いて、後から3次元加工する方法を採用する場合、特許文献2に示されるような方法を用いて行うことができる。
【特許文献1】特開2006−175639号公報
【特許文献2】特開2006−1078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、3次元加工を行った成形品の表面に、連続成形したシート材を用いる場合、成形品の表面にシート材によるシワを発生させずに型形状に合わせて追随させ所望の形状とすることと、シート材の連続成形の成形を両立させることが難しいものであった。
すなわち、シート材を連続成形する場合、シート材には張力が発生するが、成形の段階でシート材の強度が弱いと、変形などが発生し、精度良く成形を行うことができない。また、シート材の強度が大きいと引っ張り時の伸びが小さくなり、この連続成形されたシート材を3次元形状に変形させる際に、所望の形状に変形させにくく、また、シワの原因にもなってしまう。
【0006】
一方で、成形品の表面に用いるシート材に多孔質のシート材を用いることにより、引っ張りの際の伸びがより大きくなり、また、圧縮の際の変形が容易となる。そのため、3次元形状の曲面などにも追従しやすくなり、また、ソフト感やボリューム感のある成形品ができる。しかしながら、従来から使用されているシート材のように、連続成形の際に発泡剤を用いて発泡させたシート材を用いたのでは、3次元加工の際の再加熱時に残留した発泡剤によって発泡し、成形品の表面状態を低下してしまうおそれがあった。
【0007】
そのため、発泡剤を用いないで多孔質状としたシート材を用いることが望ましい。そして、このようなシート材として、基材の上に湿式凝固法を用いて製造された合成皮革などがあるが、基材として用いられる不織布、織物、編み物などに伸びの限界があり、シート全体として引っ張りの際の伸びが小さくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、3次元加工の成形品の表面となるように配置させて成形する加飾成形を行う加飾成形用シートにおいて、シート材の連続成形性と、3次元加工の成形品の表面性とを両立させることのできるものを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、上記した目的を達成するため、本発明の加飾成形用シートは、剥離基材上に所定の材料を塗工して湿式凝固法によって連続的に多孔質状とし、多孔質状とした後に前記剥離基材を剥離させて形成される多孔質層とを有するものであり、3次元形状の成形品の表面となるように配置させて成形する加飾成形を行うものであることを特徴としている。
【0010】
本発明の加飾成形用シートは、湿式凝固法によって連続的に多孔質状とするので、シートの成形を連続的に行うことができ、また、このシートを用いて3次元加工の成形品の成形を行う場合に、再発泡が発生しないので成形性がよい。
【0011】
請求項2に記載の発明は、剥離基材には、織物又は不織布が用いられていることを特徴とする請求項1に記載の加飾成形用シートである。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、剥離基材には、織物又は不織布が用いられているので、湿式凝固法の際に、剥離基材側からも抽出が可能となり、バランスの良い多孔質層の形成が可能となる。
【0013】
また、多孔質層の成形に、ポリウレタン材料を用いることができる(請求項3)。
【0014】
請求項4に記載の発明は、多孔質層に積層される表皮層を有するものであり、前記表皮層が、3次元形状の成形品の表面となるように配置させて成形する加飾成形を行うものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加飾成形用シートである。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、多孔質層に積層される表皮層を有するものであるので、3次元形状の成形品の意匠性、表面強度の付与を容易に行うことができる。
【0016】
さらに、表皮層には、皮革様外観を付与するための形状を付与することができる(請求項5)。
【0017】
請求項6に記載の発明は、多孔質層には、剥離基材の剥離面を転写させてできる転写面を有しており、表皮層は転写面とは反対側の面に積層されるものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の加飾成形用シートである。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、表皮層は転写面とは反対側の面に積層されるものであるので、表皮層を積層した後に、剥離基材を剥離する方法によっても製造することができる。また、剥離基材に織物や不織布を用いた場合などには、剥離基材の表面形状を転写面に転写させることができ、3次元形状の成形品する場合に、加飾成形用シートの転写面と、成形品の本体部分となる樹脂シートなどのとの密着性を向上させることができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、多孔質層の表面を削ってスエード調とするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加飾成形用シートである。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、多孔質層の表面を削ってスエード調とするものであるので、3次元形状の成形品の意匠性の付与を容易に行うことができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、多孔質層には、剥離基材の剥離面を転写させてできる転写面を有しており、転写面とは反対側の面を削ってスエード調とするものであることを特徴とする請求項7に記載の加飾成形用シートである。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、転写面とは反対側の面を削ってスエード調とするものであるので、削った後に剥離基材を剥離する方法によっても製造することができる。また、剥離基材に織物や不織布を用いた場合などには、剥離基材の表面形状を転写面に転写させることができ、3次元形状の成形品する場合に、加飾成形用シートの転写面と、成形品の本体部分となる樹脂シートなどのとの密着性を向上させることができる。
【0023】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の加飾成形用シートを製造する加飾成形用シートの製造方法であって、剥離基材上に所定の材料を塗工して湿式凝固法によって連続的に多孔質状とする工程と、多孔質状の多孔質層を剥離基材から剥離させる工程と、多孔質層に表皮層を積層させる工程とを有し、3次元形状の成形品の表面となるように配置させて成形する加飾成形を行う加飾成形用シートを製造することを特徴とする加飾成形用シートの製造方法である。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、剥離基材上に所定の材料を塗工して湿式凝固法によって連続的に多孔質状とする工程と、多孔質状の多孔質層を剥離基材から剥離させる工程と、多孔質層に表皮層を積層させる工程によって、加飾成形用シートを製造するので、連続的に成形を容易に行うことができ、かかるシートを用いて3次元加工の成形品の成形を行う場合にも成形性がよい。
【0025】
また、請求項1〜8のいずれかに記載の加飾成形用シートを用い、前記加飾成形用シートが表面に配置することにより、樹脂成形品を成形することができる(請求項10)。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、加飾成形用シートの連続成形性を良好に行うことができ、また、3次元加工の成形品の表面性を良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の加飾成形用シート1は、図1に示されるような層構成であり、多孔質層10及び表皮層11を有している。そして、図3に示すように、加飾成形用シート1を成形品5の表面に配置させて成形する加飾成形に用いることができる。
【0028】
多孔質層10は、後述するように、湿式凝固法により形成される層であり、多孔質状となっている。
多孔質層10の厚みは、特に限定されるものではないが、0.20〜1.00mmが好ましい。そして、この厚みは、多孔質層10の原料の塗工量を調節することにより、調節することができる。
【0029】
表皮層11は、多孔質層10に積層される層である。そして、後述するように、成形品5の表面に加飾成形用シート1が配置され、加飾成形用シート1が成形品5の一部となると、表皮層11は成形品5の最外層に配置される。
表皮層11は多孔質状ではなく、多孔質層10よりも強度が高い。そのため、成形品5の使用時などに、摩擦などによる加飾成形用シート1の破損を発生しにくくすることができる。
表皮層11の厚みは、特に限定されるものではないが、1〜50μmが好ましい。そして、この厚みは、表皮層11の原料の塗工量を調節することにより、調節することができる。
【0030】
また、表皮層11には、皮革様外観を付与するための形状が付与されており、具体的には、一定のパターンの凹凸となっている。
【0031】
多孔質層10は、図2に示されるように、剥離基材50上に多孔質層10となる所定の材料を塗工して、湿式凝固法によって形成される。
具体的には、まず、表面を離型処理を施した剥離基材50を用い、この上に多孔質層10となる所定の材料を塗工する。
剥離基材50は長尺のシート材であり、多孔質層10を形成する工程などにおける、張力や巻き付けなどが可能なように、強度や可とう性を有する材質が用いられている。また、剥離基材50には、織物や不織布等の布帛素材を用いることができる。そして、このような材質のものを用いることにより、多孔質層10に用いる原料の溶媒を抽出する際に、剥離基材50側からも抽出させることができ、両面から抽出を行うことができる。
【0032】
この剥離基材50に用いることができるものとして、具体的には、ポリエチレンテレフタレートフィルム,ポリエステルオックスフォード,ポリエステルタフタ,ポリエステルポンジー,ナイロンフィルム,ナイロンタフタ,天然繊維を用いた織物や、前記化繊を用いた不織布等が挙げられ、更には、これらを貼り合せ等によって複合したものが挙げられる。
【0033】
また、剥離基材50の多孔質層10の原料を載せる面である剥離面50aには、離型処理を行うことができる。離型処理は、シリコーン処理、フッ素系撥水処理、アクリル樹脂処理、そして、前記処理を組み合わせたものを用いることができる。更には、剥離基材50に織物や不織布等の布帛素材を用いる場合は、多孔質層10を形成するための原料を塗工する際に、剥離基材50を通過して剥離基材の裏面へ抜ける裏抜けが懸念される。このような場合は、前記処理後、カレンダー処理等を行ってこのようなことを防ぐことができる。
【0034】
剥離基材50と、多孔質層10との剥離強度は、所定の範囲とすることが望ましい。具体的には、この剥離強度は、20〜200g/インチが好ましく、更に好ましくは30〜150g/インチが好ましい。前記剥離強度を下回ると、多孔質層10を形成する工程(特に湿式凝固工程)で、剥離基材50と多孔質層10が剥離してしまい、外観不良、皺等のトラブルを引き起こす。また、前記剥離強度を上回ると、剥離基材50と多孔質層10との剥離を行う剥離工程で、剥離ができないという問題や、剥離は出来ても、多孔質層10が収縮したりカールしてしまうという問題や、さらに、多孔質層10自体が破れたり、剥離不能に陥ってしまうことが発生するおそれがある。
この剥離強度が所定の範囲に入るようにするには、剥離基材50の種類や、処理の方法等を選択したり組み合わせることによって行われる。
【0035】
そして、剥離基材50に多孔質層10となる原料を塗工し、湿式凝固させて多孔質層10を形成する。
本実施形態における多孔質層10を形成させるために用いる原料は、ポリウレタンを有機溶媒Aに溶解させたものである。
【0036】
ポリウレタンとは、ウレタン結合を有する樹脂であり、具体的にはポリエステル方ポリウレタン、ポリエーテル型ポリウレタン、ポリカーボネート型ポリウレタン、更にはこれらを組み合わせた複合ポリウレタン等の従来公知のものを用いることができる。
更に、家電製品、モバイル機器、建材、車輌用内装部品の外装部材のような高耐久性を要求される用途に使用する場合には、ポリカーボネート型ポリウレタン、ポリエーテルポリカーボネート型ポリウレタンが好適である。一方、携帯電話の外装部材においては、商品のライフサイクルは短いため、耐久性はあまり重視しなくともよいように思われるが、人間の肌に触れる用途であるため、汗に対する耐久性が要求され、やはり、ポリカーボネート型ポリウレタン、ポリエーテルポリカーボネート型ポリウレタンが好適である。更には、成形時に150℃以上の温度が掛かることから、比較的結晶性の高いために、耐熱性に優れるポリカーボネート型ポリウレタンがより好ましい。
また、これらポリウレタンをその他骨格の異なるポリマーで変性しているものでもよく、例としてはシリコーン変性型、フッ素系ポリマー変性型、ポリアクリレート系ポリマー変性型ポリウレタン等様々なものが挙げられる。
【0037】
多孔質層10の原料に用いるポリウレタンの硬さは、任意に選択することができる。この硬さは、用途や成形品に要求されるソフト感、ボリューム感、物性に影響されるので、このことを考慮すると、100%モジュラスが2.94〜29.3MPaとなる範囲が好ましく、更には、3.92〜15.3MPaのものが特に好ましい。
【0038】
そして、このポリウレタンの破断伸度は、成形時に深絞りに対応したり、3次元曲面に追従する必要があるため、100〜500%のものが好適である。この範囲を下回ると、成形時に深絞りに追従せず、シート切れが起こったり、3次元曲面に追従せずシャープな形状の成形品ができなかったりする。一方、この範囲を上回ると、深絞りや3次元曲面の追従性は良好なものの、多孔質構造が伸びきってしまい、ボリューム感やソフト感に欠けるものになってしまう。
また、多孔質層10用に用いられるポリウレタンは、単独で用いても良く、複数の種類のものを混合することもでき、成形品の用途、要求特性に応じて対応させることができる。
なお、100%モジュラス、破断伸度の測定には、JIS K 6251により測定されるものである。
【0039】
多孔質10用の原料は、ポリウレタンを有機溶媒Aに溶解させて作られるので、有機溶媒Aはポリウレタンを溶解させることが出来るものが用いられる。
そして、有機溶媒Aは、従来公知の湿式凝固法に用いられる有機溶媒を用いることができ、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンといった非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素といったハロゲン系溶媒、ジメチルケトン、メチルエチルケトンといったケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンといった環状エーテル溶媒、トルエン、キシレンといった芳香族系等有機溶媒が挙げることができる。
【0040】
特に有機溶媒Aに用いる上記溶媒のうち、環境への影響、湿式凝固法における加工性、簡便性等を考慮した場合、非プロトン性の極性溶媒が好ましい。また、必要に応じてこれら溶媒を2種以上混合して用いてもよい。更に、有機溶媒Aにポリウレタンを溶解させる折の濃度は、溶媒に応じて任意の濃度を選択できるが、好ましくは10〜30質量%であり、特に好ましく15〜25質量%である。
これら範囲より濃度が低い場合は、多孔質層10における体積に対する空孔の割合、つまり多孔度が高い多孔質層が得られる。この場合、多孔質層の強度が著しく弱くなり、シートとして取り扱うのが困難になるだけでなく、成形時に多孔質層が潰れてしまい、ボリューム感やソフト感といった官能性付与ができなくなる。
また、これら範囲より濃度が高い場合は、多孔質層10の強度自体は向上するが、多孔質層10用の原料の粘度が著しく上がってしまい、塗工が困難にある、或いは脱溶媒が著しく困難になり多孔質層10が得られないといった問題点が発生する。
【0041】
また、本発明におけるポリウレタン多孔質層10の膜物性の改質、家電製品の外装部品、建材の外装部品、車輌用内装部品にて要求される難燃性の付与等、必要に応じて添加剤、孔調整剤、充填剤、難燃剤等を該多孔質層用の原料に添加してもよい。
【0042】
例えば、膜物性の向上を目的とした添加剤としては、アクリルビーズ、セラミックビーズや、これらのものをポリウレタンに分散したもの、耐熱性等の付与のためにイソシアネート系架橋剤等が挙げることができる。孔調整剤としては、ノニオン、カチオン、アニオン性の界面活性剤、アルコール系溶媒、ポリエチレンオキサイド等の親水性高分子添加剤、パラフィン系オイル、芳香族系溶媒等の疎水性の添加剤が挙げられる。これら孔調整剤の添加量としては、通常用いられる程度でよく、0.1〜10重量部程度が好ましく、上記調整剤を2種類以上併用してもよい。
充填剤としては、無機、有機充填剤があり、改質の目的に合わせて添加するのが好ましい。
難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、リン窒素系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等が挙げられ、力学的特性の低下と難燃性付与のバランスを取りながら添加するのが好ましい。その他添加剤としては、意匠性付与のための、着色剤が挙げられる。着色剤も従来公知の湿式凝固法に合ったものを選択するのが好ましく、特に好ましいのはビヒクルの耐久性が高いものが挙げられる。
【0043】
剥離基材50に多孔質層10用の原料を塗工する工程では、通常用いられる方法を採用することができ、例えば、クリアランスコーティング法、ドクターナイフコーティング法、リバースロールコーティング法、グラビアコーティング法、バーコーティング法等様々なものが挙げられる。
多孔質層10用の原料を塗工する量であるが、基材の厚み、重量、多孔質層10の種類によって任意に変えることができるが、平方メートル当たり500〜2000gが好ましい。この範囲より少なければ多孔質層10の自立性がなくなり、基材から剥離するときに、皺が入ったり、幅が収縮するという問題が発生するだけでなく、成形後のボリューム感を得ることも困難になる。一方、この範囲より多くなれば、多孔質層1が湿式成膜時に収縮してしまい、基材に皺が入り易くなり、これが更にひどくなると、工程中に多孔質層10が剥離してしまうという問題が発生する。
【0044】
そして、基材に多孔質層10用の原料を塗工したものを、有機溶媒Bに浸漬させて湿式凝固させ、乾燥させる。
有機溶媒B中に浸漬させると、有機溶媒Bに有機溶媒Aが溶出し、一方、ポリウレタン自体は有機溶媒Bに溶けないので、多孔質層10用の原料に含まれるポリウレタンによって多孔質層10が形成される。
更に、多孔質層10は、図2に示すように、剥離基材50から剥離させて形成されるものであるが、この剥離の工程を行う時期は、多孔質層10を完全に乾燥させてから剥離させても、不完全な乾燥状態で剥離させてもよい。
【0045】
多孔質層10は、湿式凝固法の後、剥離基材50の剥離面50aから剥離させて形成されるものである。そのため、本実施形態のように剥離基材50に織物や不織布等の布帛素材を用いた場合、剥離面50aの細かい凹凸が多孔質層10の転写面10aに転写される。
そして、加飾成形用シート1を用いて、成形品5を成形する場合、図3に示されるように、多孔質層10の剥離面50aの転写面10aを裏面にして行うことができる。すなわち、樹脂プレート20や接着剤21側に、この転写面10aを配置することで、樹脂プレート20との密着性を向上させることができる。
【0046】
表皮層11は、意匠性、表面強度を付与するための層であり、多孔質層10に積層される層である。
表皮層11の積層は、多孔質層10を剥離基材50から剥離させる前でも後でも良い。また、表皮層11の形成を、多孔質層10上で行うこともでき、また、別途、表皮層11をシート状に形成して、これを密着するなどして積層しても良い。
多孔質層10のハンドリングが難しい場合には、多孔質層10を剥離基材50から剥離させる前に表皮層11を積層し、その後、剥離基材50を剥離させる方法を採用することができる。
表皮層11を形成する方法としては、ポリウレタンの乾式転写法、グラビアコーティング、エンボシング、バフィング等の従来公知の方法を用いることができる。
【0047】
表皮層11に用いる樹脂としては、多孔質層10とほぼ同等の破断伸度を示す樹脂が好ましい。これは成形時に、多孔質層10と表皮層11との破断伸度に差異が大きい場合、シートの厚み方向で、伸びの特性が異なるため、加飾成形の際に加飾成形用シート1を曲げたり伸ばされたりされた場合に、シート切れが起こったり、3次元曲面に追従しないという問題が発生するからである。
そのため、多孔質層10用の樹脂と、表皮層11用の樹脂との破断伸度を調整することが望ましい。ただし、多孔質層10と表皮層11との間の密着性等を考慮した場合、同系統の樹脂を用いることが望ましく、多孔質層10にポリウレタンを用いた場合には、表皮層11用樹脂もポリウレタン系樹脂であることが好ましい。
また、要求される意匠、物性によって、表皮層11を複数の層を組み合わせて積層したものを採用することができる。
【0048】
本実施形態の加飾成形用シート1では、表皮層11は、多孔質層10の転写面10aとは反対側に配置されるものであり、多孔質層10の転写面10aが加飾成形用シート1の裏面となる。表皮層11の配置を反対側に配置することもでき、転写面10a側に配置することもできる。
【0049】
そして、上記のような加飾成形用シート1を用い、以下のようにして、成形品5を製造することができる。
成形品5を製造する場合、金型内に加飾成形用シート1を配置して、射出圧や型内の減圧などによって、加飾成形用シート1の表側の圧力が裏側の圧力よりも小さくなる様にして、加飾成形用シート1の表側が金型に押し付けられるようにする。そして、加飾成形用シート1の裏側が、成形品5の本体部分となる樹脂と密着させる状態となるようにする。
具体的な方法としては、金型内に加飾成形用シート1を配置した状態で、加飾成形用シート1の裏側から射出成形によって成形することもでき、また、加飾成形用シート1と成形品5の本体部分となる樹脂シートや樹脂プレートを積層させ、加飾成形用シート1側をほぼ真空状態まで減圧する真空成形によって成形することもできる。
【0050】
上記した射出成形や真空成形は、公知の方法を採用することができ、また、用いる樹脂も、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ABS等従来公知の樹脂を採用することができる。
また、真空成形を用いる場合は、前述の樹脂シートや樹脂プレートの上に加飾成形用シート1を積層することによって密着させることもできるが、これらの間に接着剤を配置させて成形することもできる。そして、接着剤を配置させることにより、加飾成形用シート1をより強固に密着させることができる。
【0051】
本実施形態では、図1や図3に示されるように、成形品5は、加飾成形用シート1と樹脂プレート20とを積層し、金型60を用いて真空成形によって成形されるものである。そして、図3のように、成形品5の表面に、表皮層11が表側、多孔質層10の転写面10a側が裏側となるように加飾成形用シート1が配置されている。また、加飾成形用シート1と樹脂プレート20との間には、接着剤21を配置され、接着剤21によって加飾成形用シート1と樹脂プレート20との密着が行われている。
【0052】
そして、図3に示されるように、成形品5の表面には加飾成形用シート1の表皮層11が配置され、表皮層11の内側に多孔質層10が配置されるので、成形品5を使用する際には、摩擦などの強度を確保しながら、ソフト感やボリューム感を付与することができる。
【0053】
また、多孔質層10には、発泡剤を用いていないので、成形品5を成形する加飾成形の際に、再発泡することがないので、成形品5の表面をきれいな状態とすることができる。
【0054】
上記した加飾成形用シート1は、表皮層11を有するものであったが、表皮層11を設けないものを採用することができる。
例えば、図4に示される加飾成形用シート2では、表皮層11が設けられていないものである。そして、上記した実施形態のものと同様に樹脂プレート20を積層して、さらに、接着剤21によって加飾成形用シート2と樹脂プレート20との密着させて、成形品6の成形が行われる。
【0055】
また、加飾成形用シート2は、表面に処理が行われており、具体的には多孔質層10の表面をサンドペーパーなどで削り取って、スゥエード調の外観となるように加工するバフィングが行われている。そして、このようなバフィングされたもの用いてバフィング製品とすることができる。
なお、このバフィングは、転写面10aとは反対側の面に行い、バフィングされた面を表面に、転写面10aを裏面とすることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて、更に詳細に説明する。しかし、本発明はその主旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。
【0057】
以下に示される方法によって、実施例1、2、3、比較例1、2の加飾成形用シートを製造して、これらの加飾成形用シートの(1)破断伸度を確認し、また、真空成形法によって樹脂成形品を成形して、(2)追従性、(3)再発泡性を確認した。
【0058】
(1) 破断伸度については、JIS K 6251に準拠して測定した。
(2) 追従性については、シートが3次元面に追従している場合を「○」、シートが追従せず、型形状に沿っていない場合を「×」とした。
(3)再発泡については、成形時の加熱によってシートに発泡が見られない場合を「○」、成形時の加熱による発泡が見られる場合を「×」とした。
【0059】
(実施例1)
84dtex×102.5本/84dtex×90本のポリエステルタフタを、以下のシリコーン系撥水剤に浸漬し、0.3MPaのマングルで絞った後、150℃で3分乾燥させ、剥離基材を作成した。
撥水剤配合
・シリコーンKM−768(信越化学製) 3部
・Cat.A(信越化学製) 0.04部
・Cat.B(信越化学製) 0.05部
【0060】
そして、剥離基材に以下の配合で多孔質層用原料を調整し、バーコーターで塗工量を平方メートル当たり800g塗工し、次いで温度25℃の水に4分間浸漬し、更に40℃の温水中に15分間浸漬した後、圧力0.4MPaのマングルで絞り、140℃のオーブンで乾燥後、剥離基材から剥がして多孔質層となるシートを得た。
多孔質層用原料配合
・レザミンCU8614(大日精化製、ポリウレタン) 100部
・ジメチルホルムアミド(大日精化製) 70部
・セイカセブンBS780S(大日精化製、顔料) 15部
【0061】
次に表皮層用の表皮層用原料を以下のように調整し、皮シボ様離型紙上に平方メートル当たり100g塗工し、120℃のオーブンで2分間乾燥後、0.3MPa、80℃、20秒の条件にて、上記で得られた多孔質層となるシートに感熱転写し、離型紙より剥がし、皮革様外観を有する加飾成形用シートを得た。
外観処理用配合
・レザミンME8210(大日精化製、ポリウレタン) 100部
・ダイラックPV−5824(大日本インキ化学工業製、顔料) 7部
・ジメチルホルムアミド 20部
・メチルエチルケトン 20部
・レザミンNE架橋剤(大日精化製、架橋剤) 2部
【0062】
(実施例2)
実施例1と同様の処方にて、多孔質層となるシートを作成した後、表皮層用の原料を以下のように調整し、皮革様外観を有する加飾成形用シートを得た。
外観処理用配合
・ラックスキンU−1834M(セイコー化成製、ポリウレタン) 100部
・ラックスキンU−1840G(セイコー化成製、ポリウレタン) 30部
・ダイラックPV−5800(大日本インキ化学工業製、顔料) 5部
【0063】
(実施例3)
実施例1と同様の処方にて、多孔質シートを作成した後、表面処理として、転写面と反対面を#180のサンドペーパーでバフィングし、そして、#240のサンドペーパーにてドレッシング処理してスウェード調皮革様シートを得た。
なお、実施例3では、表皮層が設けられていない。
【0064】
(比較例1)
経編機(28ゲージ)のフロント筬に75デニール/72フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸を、バック筬に50デニール/24フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸をそれぞれ供給してハーフ組織に編成し、次いでその片面を起毛したトリコットを水に浸漬し、圧力0.4MPaのマングルで絞って基材とした。その後、基材の起毛面に、実施例1で用いた多孔質層用原料と同じ配合のものをバーコーターにて、塗工量平方メートル当たり800g塗工し、次いで温度25℃の水に4分間浸漬し、更に40℃の温水中に15分間浸漬した後、140℃のオーブンで乾燥して多孔質層を基材に積層した加飾成形用シートを得た。
なお、比較例1の加飾成形用シートでは、実施例1と同様の湿式凝固層を有するものであるが、基材は剥離させず、また、この比較例1に用いる基材として、通常の合成皮革と同様なものを用いた。
【0065】
(比較例2)
下記に示す配合の樹脂配合物をバンバリーミキサーにより5分間混練し、続いて2本ロールのウォームアップロールにより6分間混練し、逆L字形4本ロールカレンダーにより、レーヨン製1/2綾織物(目付量:平方メートル当たり180g)の生機の上に、0.4mmの厚みに貼着した。
樹脂配合物
・アクリフトCM−2008(住友化学製、EMMA) 100部
・AZ−H(大塚化学製、発泡剤) 5部
・LS−5(旭電化工業製、滑剤) 0.1部
・MBE−10690(特殊色料工業製、顔料) 5部
【0066】
そして、上記シートの表面にプライマー(US−200CL−1、セイコー化成)を平方メートル当たり15g塗工し、乾燥し、次いで、変性アクリル樹脂形表面処理剤(584−6、セイコー化成)を平方メートル当たり15g塗工し、乾燥した。
更に、該樹脂配合物シートを温度210℃のオーブンに2分間置き、0.9mm厚の発泡シートを得た。そして、樹脂配合物側に150℃で皮シボ調エンボスを施し、加飾成形用シートを得た。
【0067】
そして、実施例1、2、3及び比較例1、2の加飾成形用シートを用いて、真空成形を行って、3次元形状の樹脂成形体を成形した。
具体的には、縦8cm、横4cm、深さ1cmの金型を用い、上記加飾成形用シートにアクリル系粘着剤を塗工し、0.3mm厚のポリカーボネートプレートに貼り合せて、これらを金型に配置した。そして、ヒーター温度270℃、加熱時間20秒、ヒーターとシートの距離15mmの条件で加熱後、真空成形を行った。
なお、この金型は、加飾成形用シート側の3次元形状の突出部分の形状が、幅が48mm、長さが86mm、深さが10mmであるものを用いた。
【0068】
実施例1、2、3、比較例1、2の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0069】
表1に示されるように、実施例1、2、3の加飾成形用シートは、全ての試験項目において良好な結果であり、また、生地が用いられていないので、破断伸度のタテとヨコの差が小さい。
一方、比較例1の加飾成形用シートは実施例1、2、3と比べて、追従性が劣っており、比較例2の加飾成形用シートは実施例1、2、3と比べて、追従性や再発泡性が劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の加飾成形用シートを用いて加飾成形を行う工程を示した断面図である。
【図2】図1に示す加飾成形用シートの多孔質層を形成する工程を示した断面図である。
【図3】図1に示す加飾成形用シートを用いて加飾成形を行う工程を示した断面図である。
【図4】変形例の加飾成形用シートを用いて加飾成形された成形品を示した断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1、2 加飾成形用シート
5、6 成形品
10 多孔質層
11 表皮層
20 樹脂プレート
21 接着剤
50 剥離基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離基材上に所定の材料を塗工して湿式凝固法によって連続的に多孔質状とし、多孔質状とした後に前記剥離基材を剥離させて形成される多孔質層とを有するものであり、
3次元形状の成形品の表面となるように配置させて成形する加飾成形を行うものであることを特徴とする加飾成形用シート。
【請求項2】
剥離基材には、織物又は不織布が用いられていることを特徴とする請求項1に記載の加飾成形用シート。
【請求項3】
多孔質層の成形には、ポリウレタン材料が用いられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の加飾成形用シート。
【請求項4】
多孔質層に積層される表皮層を有するものであり、
前記表皮層が、3次元形状の成形品の表面となるように配置させて成形する加飾成形を行うものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加飾成形用シート。
【請求項5】
表皮層には、皮革様外観を付与するための形状が付与されていることを特徴とする請求項4に記載の加飾成形用シート。
【請求項6】
多孔質層には、剥離基材の剥離面を転写させてできる転写面を有しており、表皮層は転写面とは反対側の面に積層されるものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の加飾成形用シート。
【請求項7】
多孔質層の表面を削ってスエード調とするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加飾成形用シート。
【請求項8】
多孔質層には、剥離基材の剥離面を転写させてできる転写面を有しており、転写面とは反対側の面を削ってスエード調とするものであることを特徴とする請求項7に記載の加飾成形用シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の加飾成形用シートを製造する加飾成形用シートの製造方法であって、
剥離基材上に所定の材料を塗工して湿式凝固法によって連続的に多孔質状とする工程と、多孔質状の多孔質層を剥離基材から剥離させる工程と、多孔質層に表皮層を積層させる工程とを有し、
3次元形状の成形品の表面となるように配置させて成形する加飾成形を行う加飾成形用シートを製造することを特徴とする加飾成形用シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の加飾成形用シートを用い、前記加飾成形用シートが表面に配置されたことを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−291089(P2008−291089A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136855(P2007−136855)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000222255)東洋クロス株式会社 (24)
【Fターム(参考)】