説明

劣化臭防止剤および抗菌剤

【課題】食品、化粧品などの各種の製品から劣化臭が発生するのを有効に防止し得る劣化臭防止剤を提供する。
【解決手段】植物抽出物とイソチオシアン酸エステルとから成る劣化臭防止剤。好ましい態様においては、植物抽出物がシソ科抽出物であり、シソ科抽出物が非油溶性シソ科植物抽出物であり、非油溶性シソ科植物抽出物/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)が1/1〜99/1である。更に、植物抽出物がテルペン類であり、テルペン類/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)が0.4/1〜40/1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化臭防止剤および抗菌剤に関し、詳しくは、例えば、食品などから劣化臭が発生するのを有効に防止し得る劣化臭防止剤および抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
公害等調査委員会が発表した調査報告では、公害苦情件数の中で、臭気苦情は、騒音苦情に次いで多く、その解決は現代の大きな課題となっている。近年、環境問題および環境が健康におよぼす影響に対する関心が高くなり、従来公害問題にはならなかった程度の悪臭に対しても苦情が多くなり、住宅地に隣接する工場などでは臭気対策に力をいれるようになっている。
【0003】
一方、一般家において臭いに対する不満は恒常化しており、菌による腐敗臭、かび臭などの臭気除去に関心が高まっている。また、その臭気除去は衣料の洗濯や食器の洗浄といった洗浄剤の分野においても盛んに研究がなされており、植物精油を消臭基剤として使用する技術も多く報告されている。
【0004】
例えば、特定の植物精油を含有する消臭洗浄剤が提案され(特許文献1〜4)、特定の界面活性剤と植物精油を含有する除菌および消臭清浄剤組成物が提案され(特許文献5)、特定の香料成分を含有する消臭洗浄剤が提案され(特許文献6及び7)、植物精油や香料成分以外の殺菌剤を含有する消臭洗浄剤が提案されている(特許文献8)。
【0005】
しかしながら、これらは、例えば、食器洗い用液体洗浄剤について言えば、生魚などの食品由来の臭いを除去する方法に使用される技術である。ところが、食器洗浄の道具として使用されるスポンジ等は、長時間水が含まれた状態で放置される場合が多く、このような場合、スポンジ内で菌の繁殖が助長され、菌由来の生臭い臭いが発生する。このような菌の繁殖による臭いの発生の抑制は、上記の消臭技術では困難である。
【0006】
菌に由来する臭いを抑制するためには抗菌剤などを併用することが考えられ、液体洗浄剤に使用することが出来る多くの種類の抗菌剤が知られている。それらの中には亜鉛化合物を抗菌剤として使用する技術も知られている。例えば、抗菌剤を含有する液体洗浄剤組成物が提案されており、殺菌剤としては亜鉛が有効であることが知られている(特許文献9)。また、抗菌消臭洗浄性ワックスの技術が提案されており、抗菌作用または消臭作用を有する金属としては亜鉛が有効であることが知られている(特許文献10)
【0007】
しかしながら、亜鉛、銀などの無機金属や植物製油による劣化臭防止は未だ満足いくものではない。
【0008】
ところで、イソチオシアン酸エステルは優れた抗菌作用を発揮することから食品衛生上好適であるが、その揮発による刺激臭(揮発臭)は、イソチオシアン酸エステルを食品に直接添加して使用することの障害となっている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−282089号公報
【特許文献2】特開2000−212597号公報
【特許文献3】特開2000−234098号公報
【特許文献4】特開2000−234097号公報
【特許文献5】特開2000−178581号公報
【特許文献6】特開2000−290691号公報
【特許文献7】特開2000−282081号公報
【特許文献8】特開平10−212489号公報
【特許文献9】特開2001−181154号公報
【特許文献10】特開2000−198950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述の問題点を解決することを目的としてなされたものであり、食品、化粧品などの各種の製品から劣化臭が発生するのを有効に防止し得る劣化臭防止剤の提供を目的とする。また、本発明は抗菌剤の提供を目的とする。更に、本発明はイソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明らは、上記の課題を解決するため、天然物から劣化臭防止素材を探し、鋭意研究を重ねた結果、その成分として、植物抽出物とイソチオシアン酸エステルを組み合わせた劣化臭防止剤および抗菌剤を発明するに至った。また、植物抽出物を有効成分とするイソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤を発明するに至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明の劣化臭防止剤によれば、食品、化粧品などの各種の製品から劣化臭が発生するのを防止することが出来る。本発明の抗菌剤によれば、イソチオシアン酸エステルを含有するにも拘わらず、その揮発による刺激臭(揮発臭)を抑制した上で、各種の製品における菌の繁殖を抑制することが出来る。更に、本発明に係るイソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤の利用により、イソチオシアン酸エステルを直接食品に添加して使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
先ず、本発明における劣化臭防止剤の意義を明らかにするため、劣化臭防止剤と防臭剤の違いについて説明する。
【0014】
防臭は、臭い自体を出さないようにするということを指し示す。すなわち、言葉の定義から言えば、製品(特に食品)そのものの臭いも防ぐということであり、本来の臭いそのものも消去(防臭)することである。これに対し、劣化臭防止は、製品そのものの臭いも防止するが、特に、食品本来の臭いは残したまま、その本来の臭いとは異なる臭いである劣化臭を防止する。更に、一般化すると、本来は臭いがしないはずであるが実際はする製品がある。例えば、プラスティックは、重合物の臭いが理論的にないにも拘わらず、重合物以外の不純物が臭いの発生源として存在し、この臭いがプラスティックの劣化臭として考えられる。すなわち、劣化臭は、製品そのもの自体の臭いは維持し、それ以外に発生している臭い(分解物の臭い、酸化劣化した臭い)又は経時的に発生する臭いと定義することが出来る。また、製品の分解や酸化劣化は菌の繁殖によって惹起されることが多く、劣化臭防止剤は抗菌剤として作用する。
【0015】
<劣化臭防止剤および抗菌剤>
本発明の劣化臭防止剤および抗菌剤は、植物抽出物とイソチオシアン酸エステルとから成る。以下、劣化臭防止剤を代表して説明するが、特に断りがない限り、以下の説明は抗菌剤にも適用される。
【0016】
(植物抽出物)
本発明で使用する原料植物は、特に制限されず、ローズマリー、レモングラス、スペアミント、ハッカ、セージ、タイム、ジンジャー等の各種の植物が挙げられるが、好ましくは、シソ、アオジソ、セージ、タイム、オレガノ、チリメンジソ、ローズマリー(マンネンロウ)等のシソ科植物であり、特にローズマリーが好ましい。また、本発明においては、植物抽出物としては非油溶性植物抽出物が好ましい。従って、本発明においては、シソ科植物(特にローズマリー)の非油溶性植物抽出物が最も好ましい。シソ科植物からは、各種のジテルペン類が抽出される。
【0017】
次に、テルペン類には、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン等があり、具体的には、リナロール、イソボルネオール、ボルナン−2−オン、ボルナン−2,3−ジオン、フェカン−2−オール、フェカン−2−オン、p−メンタン−3−オール、p−メンタン−1(6),8−ジエン−2−オ−ル、p−メンタ−1,8−ジエン−7−オール、p−メンタ−1−エン−8−オール、p−メンタン−3−オン、p−メンタ−1(6),8−ジエン−2−オン、p−メンタ−1−エン−3−オン、p−メンタ−4(8)−エン−3−オン、ピナ−2−エン−7−オン、ピナ−2−エン−4−オン、ツジャン−3−オン等が挙げられる。本発明においては、これらのモノテルペノイドアルコール又はモノテルペノイドケトンを好適に使用することが出来る。また、本発明においては、ロスマリン酸、カルノソール、カルノジック酸、ロスマノール、エピロスマノール、エピイソロスマノール、ロスマリジオール、ルテオリン等のジテルペノイドアルコールも好適に使用することが出来る。これらの中では、特に、ロスマリン酸、カルノソール又はカルノジック酸が好ましい。なお、上記のテルペノイドアルコール又はテルペノイドケトン合成品であってもよい。
【0018】
ロスマリン酸は、フェノールカルボン酸の一つであり、特にローズマリーの中に多く含まれている。その構造は、フェノールカルボン酸が2個結合した形である。従って、構造的、機能的に、フェルラ酸、カフェ酸、クロロゲン酸などのフェノールカルボン酸より、フェノール性水酸基が多いので、酸化防止効力が高い。また、SOD(スーパーオキシドデスムターゼ)様などの酵素阻害活性効果も高い。また、構造中に共役二重結合を有しているため、光劣化防止効力が高い。使用するロスマリン酸は、安全の観点から、天然からの抽出物が好ましく、ロスマリン酸が多量に存在するローズマリーからの抽出物が好ましい。
【0019】
ロスマリン酸の一般的な製法は次の通りである。原料としては、ローズマリーの全草、または、その葉、根、茎、花、果実、種子の何れを使用してもよいが、好ましくは葉を使用する。通常、抽出効率を高めるため、刻んでから使用する。ロスマリン酸は、ローズマリーの水溶性抽出物として得られる。従って、含水エタノールで抽出処理し、当該抽出液に水を添加して非水溶性成分を析出させ、非水溶性成分を分離した溶液を減圧濃縮することにより得られる。含水エタノールとしては含水率40〜60重量%のものが好適に使用される。
【0020】
カルノソール及びカルノジック酸は、セージ、タイム、オレガノ等のシソ科抽出物系香辛料中に多く含まれている。その構造は、他の抗酸化剤と異なり、イソプレン骨格のアピエタンの構造を有している。油脂などの酸化防止効果が他の抗酸化剤よりも格段に強い。また、構造中に共役二重結合を有しており、更に、光により生じたラジカルの影響を受けても互変異性の構造を有する為、ラジカル安定化構造をとりやすく、光劣化防止効力が高い。
【0021】
使用するカルノソール及びカルノジック酸は、安全の観点から、天然からの抽出物が好ましい。この天然物は、セージ、タイム、オレガノ等のシソ科抽出物系の植物から抽出されるが、多量に存在する、ローズマリーからの抽出物が好ましい。
【0022】
カルノソール及びカルノジック酸は、その製法の一例は次の通りである。先ず、前述の水溶性抽出物の場合と同様に、含水エタノールで抽出し、当該抽出液に水を添加して非水溶性成分を析出させ、活性炭を加えて撹拌した後、非水溶性成分と活性炭との混合物を分離し、得られた混合物をエタノールで抽出処理し、得られた抽出液からエタノールを留去し、粉末状の濃縮物として、カルノソール及びカルノジック酸を得る。その詳細は、特公昭59−4469号公報の記載を参照することが出来る。
【0023】
(イソチオシアン酸エステル)
例えば、カラシやワサビの辛味成分であるイソチオシアン酸エステルは植物の抽出物などから得られる天然品であって、人体に対する安全性が高いものである。とりわけ、イソチオシアン酸エステルは優れた抗菌作用を発揮することから食品衛生上好適に使用される。なお、揮発性油状抗菌物質は天然品に限定されるものではなく、自体公知の方法によって合成された合成品であってもよい。
【0024】
イソチオシアン酸エステルの具体例としては、イソチオシアン酸アリル、イソチオシアン酸フェニル、イソチオシアン酸メチル、イソチオシアン酸エチル、イソチオシアン酸プロピル、イソチオシアン酸イソプロピル、イソチオシアン酸ブチル、イソチオシアン酸イソブチル、イソチオシアン酸イソアミル、イソチオシアン酸ベンジル、イソチオシアン酸シクロヘキシル等が挙げられる。
【0025】
(その他の成分)
本発明の劣化臭防止剤においては、ポリグリセリンラウリン酸エステル、ポリグリセリンミリスチン酸エステル、ポリグリセリンパルミチン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル等のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル等、ソルビタンエステル、天然乳化剤(レシチン等)を併用してもよい。また、糖類、糖アルコール、水溶性抗酸化剤などを使用することも出来る。
【0026】
(劣化臭防止剤および抗菌剤)
本発明の劣化臭防止剤および抗菌剤は、前記の各成分を混合して製造される。混合順序は特に制限されない。植物抽出物とイソチオシアン酸エステルの割合(重量比)は広い範囲から選択することが出来る。植物抽出物として、非油溶性シソ科植物抽出物を使用した場合、非油溶性シソ科植物抽出物/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)は、通常1/1〜99/1、好ましくは2/1〜95/5、更に好ましくは3/1〜9/1である。テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトンを使用した場合、テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトン/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)は、通常0.4/1〜40/1である。
【0027】
通常、本発明の劣化臭防止剤の1つの剤形は、前記の各成分を水またはエタノール−水の混合溶媒に溶解させた溶液である。他の剤形は、上記の溶液をスプレードライ又は凍結乾燥した粉体である。粉体の場合は、常法に従い、賦形剤などの各種の添加剤が使用される。
【0028】
また、本発明の劣化臭防止剤は、徐放性を発揮し得る形態で使用することが出来る。例えば、劣化臭防止剤を包む吸湿性のカプセル粒子を作成し、一定の湿度以上の雰囲気下で当該物質を放出し得るような、サイクロデキストリン、アラビアガム、ゼラチン、ヘミセルロース、微生物産生多糖類、改質デンプン等の水溶性フィルム形成剤と必要に応じて粉末賦形剤を水中に溶解および/または分散させた後、本発明の劣化臭防止剤を乳化処理することで得られた乳化液を噴霧乾燥して粉末化することにより製造することが出来る。乳化処理の際は必要に応じて乳化剤を使用してもよい。
【0029】
本発明の劣化臭防止剤は、上記のように、用途に合わせ、溶解液、乳化製剤、粉末その他任意の剤形で使用でき、用途により適宜付香することも出来る。
【0030】
(製品への添加)
低加工度食料としては、生鮮食料品、水産加工品、畜産加工品、青果物(加工用ナッツ、イチゴ);中加工度食料としては、油脂(液油、揚げ油、かけ油)、固体脂(ラード他動物脂、カカオ脂、混合品)エマルジョン、マーガリン等、乳製品(牛乳(煉乳、濃縮乳)、チーズ、クリーム、還元乳)、製粉(小麦粉、加糖ミックス、無糖ミックス)、調味料(魚介エキス、畜肉エキス、アミノ酸、酵母エキス、醤油、味噌、マヨネーズ類、香辛料エキス)、高加工度食品としては、製パン(パン生地、フラワーペースト、餡、ジャム、パン用油脂、クリーム)、製菓(揚げスナック、焼菓子、米菓、クッキー、ビスケット、半生ケーキ、洋生菓子、和生菓子、バタークリーム)、麺(フライ麺、ノンフライ麺、生麺、液体スープ、たれ、粉体スープ、めんつゆ、乾燥具材、レトルト具材)、飲料(乳入り、果汁入り、色素入り、フレーバー入り、植物エキス入り)、畜肉(ハムソー、ハンバーグ、パティ)、食事用原料(カレー、シチュウー、パスタソース、レトルト中華料理)冷凍食品、揚げ物が挙げられる。
【0031】
飼料としては、フィッシュミール、チキンミール、ポークミール、ビーフミール等が挙げられ、エチケット製品としては、はみがき製品、ガム、キャンディ、口臭予防製品が挙げられる。すなわち、本発明の劣化臭防止剤は、口腔内から発生する臭いに使用することが出来る。生活製品に関連した臭い防止としては、空気の汚れ防止、トイレやタバコの臭いの防止等があり、本発明の劣化臭防止剤は、あらゆる生活環境の臭いに使用することが出来る。更に、これらの臭いや足のくささ等が付着した衣服にも使用することが出来る。
【0032】
空気清浄機製品としては、家庭内で使用される空気清浄機、車、船、電車、飛行機、建物に使用される空気清浄装置があげられ、これらのON、OFF時に発生する臭いと使用時に発生する臭い、更には、経年変化により発生する臭いに使用することが出来る。
【0033】
汚染土壌の種類としては、あらゆる土壌(粘土・シルトから砂、礫または土砂)に適用が可能であり、少量で不快な臭気を発生させる汚染が対象となる。例えば、ガソリンスタンドでは多くのスタンドでガソリンの漏洩が知られている。ガソリンでは定量下限値未満(いわゆる不検出、四塩化炭素抽出―IR吸光法では10mg/kgまたは20mg/kg未満)の土壌濃度であっても不快なガソリン臭が強く発生する。対象となる汚染物質にはガソリン、灯油、軽油、重油がある。
【0034】
自動車製品としては、例えば、新車の臭いに使用することが出来る。具体的には、ポリマー部品同士の接着時発生する臭いや経年変化により発生する臭いに使用することが出来る。種類としては、車内のカバー、ダッシュボード、エアコンからの噴出し口、足元のフロアー部品が挙げられる。
【0035】
水産畜肉製品としては、様々な魚、鶏、豚、牛等から発生する臭い、これらを処理する時に発生する臭い、保存時に発生する臭いに使用することが出来る。
【0036】
プラスティック製品としては、重合による生じる重合反応物の臭いやプラスティックに使用される添加剤の臭いに使用することが出来る。具体的なプラスティックとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン等の炭化水素鎖系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート等の共重合体ポリマー、含窒素、含イオウ、含塩素系ポリマー等がある。
【0037】
白家電製品としては、洗濯機、エアコン、冷蔵庫が代表としてあげられ、使用時に発生する洗濯機であれば、洗濯槽内の臭い、エアコンであれば、エアコン内の臭い、冷蔵庫であれば、冷蔵庫内の臭いに使用することが出来る。更に、使用後の臭いにも使用することが出来る。
【0038】
建築製品としては、特に資材から発生する臭いや、内装材に使用される可塑剤の臭いや、この可塑剤が建築時に使用されるときに反応する臭いに使用することが出来る。
【0039】
本発明の劣化臭防止剤の添加量は、製品に対する植物抽出物とイソチオシアン酸エステルの合計量の割合として、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜10重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%である。
【0040】
<イソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤>
本発明に係るイソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤は植物抽出物を有効成分とする。植物抽出物としては、好ましい実施態様を含め、前述の本発明の劣化臭防止剤において説明した植物抽出物が適用される。イソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤としては、シソ科植物(特にローズマリー)の非油溶性植物抽出物が好ましい。特に、ローズマリー抽出物において特有の臭いとなっているヘキサナール(アルデヒド基を分子内にもつ揮発性有機化合物)等を除去して使用するのが好ましい。ヘキサナール等の不快臭成分の除去は、非誘電率(25℃)が3以下の溶媒(例えばトルエン等)を使用した抽出処理により容易に除去することが出来、その詳細は、特開2004−204212号公報の記載を参照することが出来る。
【0041】
イソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤として植物抽出物を使用する場合、植物抽出物の使用量は、イソチオシアン酸エステルの揮発による刺激臭(揮発臭)をどの程度抑制するかによって決定されるため、一概に決定し得ない。しかしながら、植物抽出物を多量に使用しても何ら問題はなく、前述した本発明の劣化臭防止剤(抗菌剤)の組成の場合と同様の範囲から選択してもよい。すなわち、植物抽出物として、非油溶性シソ科植物抽出物を使用した場合、非油溶性シソ科植物抽出物/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)は、通常1/1〜99/1、好ましくは2/1〜95/5、更に好ましくは3/1〜9/1である。テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトンを使用した場合、テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトン/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)は、通常0.4/1〜40/1である。
【0042】
因に、非油溶性シソ科植物抽出物/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)=1/1の場合、イソチオシアン酸エステルの揮発成分は1〜20%、10/1(重量比)の場合20〜70%低減する。それ以上の重量比では揮発成分が約99%低減する。揮発成分は、例えばヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定することが出来る。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。
【0044】
<劣化臭防止剤>
(非油溶性ローズマリー抽出物の製造)
ローズマリー1kgに50%含水エタノール10Lを加えて3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣を50%含水エタノール6Lで同様に抽出する操作を更に2回繰り返して濾液を得た。これらの濾液を合わせ、水5Lを加えて沈殿物を析出させた。これに活性炭100gを加え、1時間撹拌し、一夜冷所で保存した後に濾過して濾液Aを得た。また、ローズマリー1kgに50%含水エタノール10Lを加えて3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣を50%含水エタノール6Lで同様に抽出する操作を更に2回繰り返して濾液を得た。これらの濾液を合わせ、水5Lを加えて沈殿物を析出させた。これに活性炭100gを加え、1時間撹拌し、一夜冷所で保存した後に濾過して沈殿と活性炭の混合物を得た。この混合物にエタノール4Lを加え、3時間加熱還流し、温時に濾過して濾液を得た。残渣をエタノール2.4Lで同様に抽出する操作を更に2回繰り返して濾液Bを得た。濾液Aと濾液Bを合わせ、減圧濃縮して、粉末状の非油溶性ローズマリー抽出物を得た。
【0045】
(イソチオシアン酸エステル)
イソチオシアン酸エステルとしては純度97%以上のイソチオシアン酸アリル天然品((株)ヴォークス・トレーディング社製の商品「マスタードエッセンシャルオイル」)を使用した。
【0046】
(製剤の調製)
先ず、前記の非油溶性ローズマリー抽出物とイソチオシアン酸エステルを使用し、表1及び表2に示す各溶液(A、B)を調製し、これらを使用し、表3に示す各劣化臭防止剤サンプルを調製し、劣化防止機能を調べた。官能試験はパネラー6人で行い、試験結果は平均値で示した。数字が小さいほど、消臭効果が高く、臭いが少ない。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
<実験1:モデル悪臭防止試験>
一般に、悪臭の成分は、アルデヒド、酸、アミン又はチオールである。そこで、これを基に、アセトアルデヒド、ノネナール、酪酸、吉草酸、ジメチルアミン、ジメチルジスルフィドを選択し、それぞれの1ppm(20μg/20ml)溶液を調製した。それぞれを各2mLずつ採取し、混合し、モデル悪臭物質とした。この悪臭物質に、劣化臭防止剤をそれぞれ20μl滴下し、混合した。そのときの官能消臭試験を、無添加を参照として行い、表4に示す基準で評価した。表5に結果を示す。
【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
(実験2:えび生臭さ防止試験)
えび氷ブロック(1.8kg)を流水で解凍し、表3に示す各劣化臭防止剤サンプルで浸漬した。その後、洗浄し、ボイルした。無添加のえびを参照として、官能消臭試験を実施した。表6に示す基準で評価し、表7に結果を示す。
【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
(実験3:鉱物油汚染土壌臭防止試験)
劣化臭防止剤を水で10倍に希釈し、石油などで汚染された土壌に添加し、官能消臭試験を行った。何も添加していない石油などで汚染された土壌と比較した。表8に示す基準で評価し、表9に結果を示す。
【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
(ガスクロマトグラフィー分析)
上記の官能消臭試験に供した各土壌10gをサンプル管にとり、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(「Agilent6890 GC」)により測定し、汚染土壌の臭いである、脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素の臭いの強度を評価した。無添加を100として比較した。表10に結果を示す、
【0060】
【表10】

【0061】
表10に示す結果から、汚染土壌の臭いである、脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素の両方ともに、サンプル1の添加により低下した。このことから、本発明の劣化臭防止剤は、非常に高い劣化臭防止効果を有することが分かる。
【0062】
<抗菌剤およびイソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤>
非油溶性ローズマリー抽出物とイソチオシアン酸エステルとから成る抗菌剤を調製して抗菌性試験を行った。また、この際、イソチオシアン酸エステルの揮発による刺激臭(揮発臭)を測定し、非油溶性ローズマリー抽出物によるイソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤としての性能を評価した。
【0063】
非油溶性ローズマリー抽出物およびイソチオシアン酸エステルとしては、前述の劣化臭防止剤の調製で使用したものを使用した。非油溶性ローズマリー抽出物は製剤化したRM溶液を使用した。更に、以下の方法で製造した非油溶性ローズマリー抽出物(低臭品)も製剤化してRM溶液として使用した。
【0064】
(非油溶性ローズマリー抽出物(低臭品)の製造)
前述の「非油溶性ローズマリー抽出物の製造」と同様にして非油溶性ローズマリー抽出物を得た後、その1kgをヘキサン(比誘電率(25℃)1.90)1kgに分散させ、1時間常温で攪拌を行った。その後、ヘキサンをろ過し、乾燥し、非油溶性ローズマリー抽出物(低臭品)を得た。
【0065】
(製剤の調製)
先ず、上記の非油溶性ローズマリー抽出物(低臭品)を使用し、表11に示す溶液(A)を調製した。
【0066】
【表11】

【0067】
(抗菌剤)
前記の非油溶性ローズマリー抽出物の製剤化溶液とイソチオシアン酸エステルを使用し、表12に示す抗菌剤サンプルを調製した。
【0068】
【表12】

【0069】
(抗菌性試験)
抗菌性試験は、特開平11−322521号公報に記載の方法に従い行った。すなわち、ブレインハートインヒュージョンブイヨン(BHI)培地(ニッスイ社製)中、37℃で一晩増殖培養させた大腸菌JCM1649株の菌液を、滅菌リン酸緩衝液で希釈し、10個/mlの試験菌液を調製した。一方、上記のサンプル1、3、4を使用し、水で希釈し、イソチオシアン酸エステルの濃度が5、10、25、50、100ppmの水溶液を調製した。各濃度のイソチオシアン酸エステル水溶液10ml中に試験菌液を1mlずつ添加した。同時にコントロールとしてイソチオシアン酸エステルを含有しない水10ml中に試験菌液を1ml添加したものを調製した。37℃で10分間加熱した後に氷冷した各菌液を、デソキシコレート培地(ニッスイ社製)で混釈培養し、37℃の条件下、24、48、72時間後のコロニーの発生状況を観察した。サンプル1、3、4の何れについても同様の結果が得られた。表13に結果を示す。
【0070】
【表13】

【0071】
(イソチオシアン酸エステルの揮発抑制試験)
上記の抗菌剤サンプル1、3、4を使用し、水で希釈し、イソチオシアン酸エステルの濃度が5、10、25、50、100ppmの水溶液を調製した。イソチオシアン酸エステルの揮発による刺激臭(揮発臭)の官能試験は、表14に示す評価基準を採用し、パネラー6人で行った。試験結果は平均値として表15に示した。数字が小さいほど、消臭効果が高く、揮発臭が少ない。
【0072】
【表14】

【0073】
【表15】

【0074】
表13に示す抗菌性試験の結果および表15に示すイソチオシアン酸エステルの揮発抑制試験から、イソチオシアン酸エステルは優れた抗菌作用を損なうことなく、イソチオシアン酸エステルの揮発による刺激臭(揮発臭)が抑制されていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物抽出物とイソチオシアン酸エステルとから成ることを特徴とする劣化臭防止剤。
【請求項2】
植物抽出物がシソ科抽出物である請求項1に記載の劣化臭防止剤。
【請求項3】
シソ科抽出物が非油溶性シソ科植物抽出物である請求項2に記載の劣化臭防止剤。
【請求項4】
非油溶性シソ科植物抽出物/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)が1/1〜99/1である請求項3に記載の劣化臭防止剤。
【請求項5】
植物抽出物がテルペノイドアルコール又はテルペノイドケトンである請求項1に記載の劣化臭防止剤。
【請求項6】
テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトン/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)が0.4/1〜40/1である請求項5に記載の劣化臭防止剤。
【請求項7】
テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトンとイソチオシアン酸エステルとから成ることを特徴とする劣化臭防止剤。
【請求項8】
テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトン/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)が0.4/1〜40/1である請求項7に記載の劣化臭防止剤。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の劣化臭防止剤を含むことを特徴とする食品。
【請求項10】
汚染土壌に請求項1〜8に記載の劣化臭防止剤を含有させることを特徴とする汚染土壌の防臭方法。
【請求項11】
植物抽出物とイソチオシアン酸エステルとから成ることを特徴とする抗菌剤。
【請求項12】
植物抽出物がシソ科抽出物である請求項11に記載の抗菌剤。
【請求項13】
シソ科抽出物が非油溶性シソ科植物抽出物である請求項12に記載の抗菌剤。
【請求項14】
非油溶性シソ科植物抽出物/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)が1/1〜99/1である請求項13に記載の抗菌剤。
【請求項15】
植物抽出物がテルペノイドアルコール又はテルペノイドケトンである請求項11に記載の抗菌剤。
【請求項16】
テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトン/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)が0.4/1〜40/1である請求項15に記載の抗菌剤。
【請求項17】
テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトンとイソチオシアン酸エステルとから成ることを特徴とする抗菌剤。
【請求項18】
テルペノイドアルコール又はテルペノイドケトン/イソチオシアン酸エステルの割合(重量比)が0.4/1〜40/1である請求項17に記載の抗菌剤。
【請求項19】
植物抽出物を有効成分とするイソチオシアン酸エステルの揮発抑制剤。
【請求項20】
植物抽出物がシソ科抽出物である請求項19に記載の揮発抑制剤。
【請求項21】
シソ科抽出物が非油溶性シソ科植物抽出物である請求項20に記載の揮発抑制剤。
【請求項22】
植物抽出物がテルペノイドアルコール又はテルペノイドケトンである請求項19に記載の揮発抑制剤。

【公開番号】特開2008−291016(P2008−291016A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112542(P2008−112542)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(593204214)三菱化学フーズ株式会社 (45)
【Fターム(参考)】