説明

助手席用エアバッグ装置

【課題】部品点数を少なくでき、かつ、容易にインフレーターをケースに取り付けることができる助手席用エアバッグ装置を提供すること。
【解決手段】助手席用エアバッグ装置Mは、エアバッグ10、インフレーター18、ケース28、及び、リテーナ13を備える。ケースの底壁部29は、インフレーターの挿入用開口30と、インフレーターを支持して収納する収納部38と、エアバッグの取付座32と、を備える。底壁部は、インフレーターの軸方向に沿ったずれを防止可能なずれ規制部34,35と、インフレーターの切欠き部26に進入してインフレーターの周方向への回転を防止可能な回り規制部36と、を備える。リテーナは、インフレーターの上側外周面20a,21aとケース取付座とに対して、エアバッグの開口周縁11を押圧しつつ、ボルト15により取付座32に取り付けられて、エアバッグとインフレーターとをケースに取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の助手席前方に搭載される助手席用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の助手席用エアバッグ装置では、エアバッグと、エアバッグに膨張用ガスを供給するシリンダタイプのインフレーターと、エアバッグ及びインフレーターを収納する板金製のケースと、を備えて構成されていた(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
そして、特許文献1のエアバッグ装置では、インフレーターが、ケース本体に溶接されるストッパプレートと、ケース本体にボルト止めされる留付け金具と、を利用して、ケースに取り付けられていた。ストッパプレートは、インフレーターの一端側の先端における非円柱状の異形軸を挿入させて、インフレーターの軸心の周方向の回り止めを図るとともに、インフレーターの他端面側に配置される留付け金具と協働して、インフレーターの両端面を位置規制し、インフレーターの軸方向に沿ったずれを規制して、インフレーターをケースに取り付けていた。
【0004】
また、特許文献2のエアバッグ装置では、インフレーターが、一端側に取付ボルトを突設させ、他端側に大径のフランジ部を配設させて構成されていた。ケースにおけるインフレーターの取付部位には、インフレーターの軸方向に沿って貫通するように、大径の開口部と小径の開口部とが配設されていた。そして、インフレーターのケースへの取付時には、取付ボルト側を大径の開口部側から挿入させて、取付ボルトを小径の開口部から突出させ、かつ、フランジ部を大径の開口部の周縁に当接させ、取付ボルトにナットを締結させて、インフレーターをケースに取り付けていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−179156号公報
【特許文献2】特開2001−270411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のエアバッグ装置では、エアバッグを取り付けるリテーナの他に、インフレーターの取付用の留付け金具をケースに取り付ける必要があり、部品点数が多くなって、インフレーターのケースへの取付作業に手間取ることとなっていた。
【0007】
また、特許文献1,2のエアバッグ装置では、共に、ケースの下部側で、インフレーターの軸方向に沿って、インフレーターの先端側からケースに挿入させ、そして、インフレーターの先端をケースから突出させて、ケースに取り付けており、取付作業時に、インフレーターの先端がケースから突出するか否かの確認を必要とし、この点にも取付作業に手間がかかる要因となっていた。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、部品点数を少なくでき、かつ、容易にインフレーターをケースに取り付けることができる助手席用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<請求項1の説明>
本発明に係る助手席用エアバッグ装置は、エアバッグと、該エアバッグに膨張用ガスを供給するシリンダタイプのインフレーターと、前記エアバッグ及び前記インフレーターを収納する板金製のケースと、前記エアバッグを前記ケースに取り付けるリテーナと、を備えて構成される助手席用エアバッグ装置であって、
前記ケースが、底壁部と、該底壁部の外周縁から筒状に延びる周壁部と、を備えて上方を開口させた箱形状として構成され、
前記底壁部が、
前記インフレーターの軸心を左右方向に沿わせた状態で上方から見た前記インフレーターの外形形状と略等しい形状に開口した挿入用開口と、
該挿入用開口の前後の周縁から略半割り円筒状に凹み、左右両端の内周面により前記インフレーターの両端の下側外周面を支持可能として前記インフレーターを収納可能な収納部と、
前記挿入用開口の前後の周縁に配置された前記エアバッグの取付座と、
を備えるとともに、
前記挿入用開口の左右の周縁における前記取付座から延びる板金素材の端面にそれぞれ配置されて、前記収納部に収納した前記インフレーターの両端面をそれぞれ位置規制して、前記インフレーターの軸方向に沿ったずれを防止可能なずれ規制部と、
前記挿入用開口の左右の少なくとも一方の周縁における前記取付座から延びる板金素材の部位により形成され、前記インフレーターの端面近傍の外表面に上下方向に沿って形成された切欠き部に係合して、前記インフレーターの軸心を中心とした周方向への回転を防止可能な回り規制部と、
を備えて構成され、
前記リテーナが、
前後両側を前記ケースの前記取付座に対応させた平板状とし、左右両側を前記インフレーターの両端付近の上側外周面に対応した湾曲状とした略四角環状に形成されて、
前記インフレーターの両端付近の上側外周面と前記ケースの前記取付座とに対して、前記エアバッグの取付用開口周縁における四角環状の取付部位を押圧しつつ、固着手段により前記取付座に取り付けられて、前記エアバッグと前記インフレーターとを前記ケースに取り付けるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る助手席用エアバッグ装置では、ケースの底壁部の収納部に対し、ケースの周壁部の開口を経て、上方からインフレーターを収納させる。その後、リテーナを、エアバッグの取付用開口周縁に配置させつつ、ケースの周壁部の開口を経て、上方からケース内に挿入させ、さらに、インフレーターの両端付近の上側外周面とケースの取付座とに対して、エアバッグの取付用開口周縁における四角環状の取付部位を押圧しつつ、リテーナを、固着手段によって取付座に取り付ければ、ケースに対し、エアバッグとインフレーターとを取り付けることができる。
【0011】
この時、シリンダタイプのインフレーターは、ケースの収納部に収納された際、軸方向の両端面をケースの底壁部におけるずれ規制部に規制されて、軸方向にずれることが規制され、かつ、切欠き部に進入した回り規制部により、周方向の回転が規制される。さらに、その後のリテーナのケースへの固着時、インフレーターは、両端付近の上側外周面と下側外周面とを収納部とリテーナとにより挟持される状態となって、安定してケースに取り付けられることとなる。
【0012】
そして、インフレーターのケースへの取り付けが、ケースの底壁部の取付座から延びる板金素材自体から形成されたずれ規制部及び回り規制部と、エアバッグのケースへの取り付けに共用されるリテーナと、を利用するものであり、別途、取付部品を使用すること無く、部品点数の増加を抑えて、取付作業を行える。
【0013】
さらに、インフレーターの取付作業自体も、単に、切欠き部に回り規制部を進入させつつ、インフレーターを収納部内に収納させるだけで、後は、リテーナによる取付作業時に、エアバッグとともに、インフレーターが自動的にケースに取り付けられることとなって、容易に行える。
【0014】
したがって、本発明に係る助手席用エアバッグ装置では、部品点数を少なくでき、かつ、容易にインフレーターをケースに取り付けることができる。
【0015】
<請求項2の説明>
そして、本発明に係る助手席用エアバッグ装置では、前記回り規制部を、前記取付座から延びて下方に屈曲するように略L字形状に形成し、前記インフレーターの切欠き部を、前記回り規制部の下方へ屈曲した縦板部により規制可能に、前記インフレーターの軸心と平行な平坦面を設けて形成することが望ましい。
【0016】
このような構成では、回り規制部の下方へ屈曲した広い平面状の縦板部が、上下方向に沿って切り欠かれた切欠き部におけるインフレーターの軸心と平行な平坦面に対して、当接することにより、安定してインフレーターの回転を規制することができる。
【0017】
<請求項3の説明>
さらに、本発明に係る助手席用エアバッグ装置では、前記ケースを、
前記ずれ規制部と前記回り規制部とを有した前記底壁部の前記取付座、及び、前記周壁部、を構成する上側部と、
前記取付座の上面側で前記上側部と接合されて、前記収納部を構成する下側部と、
の二部品から形成してもよい。
【0018】
このような構成では、ケースを板金からプレス加工の塑性加工により形成する際、底壁部のずれ規制部や回り規制部を設けた取付座と収納部とを一体的に形成すれば、収納部を深絞りとするように加工する必要が生ずるが、収納部と取付座とを別体とすれば、収納部は、長方形板状の板金を、両端に接合代を設けた状態で、半割り筒状に曲げ加工するだけで、形成できて、ケースを容易に形成することができる。
【0019】
また、このような構成では、収納部から延びる接合代が取付座の上面側に配置されて接合されており、接合代を取付座の下面側に配置させて接合する場合に比べて、接合部分からの膨張用ガスの漏れを防止することができる。
【0020】
<請求項4の説明>
さらに、本発明に係る助手席用エアバッグ装置では、前記リテーナにおける前記ケースの前記取付座への配置部位の内縁に、下方へ屈曲して延びて、前記エアバッグの前記取付用開口周縁側に流れる膨張用ガスを遮蔽可能なガス遮蔽部を、配設させて構成することが望ましい。
【0021】
このような構成では、インフレーターが膨張用ガスを吐出した際、ガス遮蔽部が、リテーナとケースの取付座との間で挟持されたエアバッグの取付用開口周縁側に対して高温の膨張用ガスが直接触れるように流れることを、防止できる。そのため、上記のような構成では、エアバッグにおけるケースの取付座付近からの膨張用ガスの漏れを防止することができる。
【0022】
また、ガス遮蔽部は、リテーナの前後の内縁側を収納部側に単に曲げるだけで簡単に形成でき、リテーナの前後の平板状の部位に固着手段としてのボルト等を多数配設する構成としても、それらのボルト等の配設に影響を与えずに、容易に固着手段を配設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る一実施形態の助手席用エアバッグ装置を示す車両搭載状態の縦断面図であり、車両の前後方向に沿った縦断面図を示す。
【図2】実施形態の助手席用エアバッグ装置を示す車両搭載状態の縦断面図であり、車両の左右方向に沿った縦断面図を示す。
【図3】実施形態の助手席用エアバッグ装置の分解斜視図である。
【図4】実施形態の助手席用エアバッグ装置の側面図である。
【図5】実施形態の助手席用エアバッグ装置のケース付近の平面図であり、順に、ケース単体の平面図、ケースにインフレーターを収納した状態の平面図、ケースにインフレーターとリテーナとを配置させた状態を示す平面図である。
【図6】実施形態の助手席用エアバッグ装置の回り規制部の変形例をそれぞれ示す側面図である。
【図7】実施形態の助手席用エアバッグ装置の他の変形例を示す分解斜視図である。
【図8】図7に示す変形例のケースを示す斜視図である。
【図9】図7に示すケースの平面図である。
【図10】図7に示す変形例の助手席用エアバッグ装置の縦断面図であり、車両の前後方向に沿った縦断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態の助手席用エアバッグ装置(以下、エアバッグ装置と略す)Mは、図1,2に示すように、助手席前方のインストルメントパネル(以下、インパネと略す)1に配置され、折り畳まれたエアバッグ10と、エアバッグ10に膨張用ガスを供給するインフレーター18と、エアバッグ10及びインフレーター18を収納保持するケース28と、エアバッグ10及びインフレーター18をケース28に取り付けるためのリテーナ13と、折り畳まれたエアバッグ10を覆う蓋体51と、を備えて構成されている。
【0025】
なお、実施形態の場合、蓋体51は、インパネ1の開口2に配置されているが、インパネ1と一体的に形成しても良い。
【0026】
また、本発明での左右・上下の方向の基準は、ケース28に収納するインフレーター18の軸方向を左右方向とし、ケース28に収納するインフレーター18の収納方向を下方とすることを基準とするものである。そして、実施形態の場合、左右・上下の方向は、車両の左右方向と上下方向とに一致し、さらに、明細書での前後方向も、実施形態の場合、車両の前後方向と一致している。勿論、本発明の助手席用エアバッグ装置では、実際の車両への搭載状態で、左右・上下や前後の方向がずれても良い。
【0027】
エアバッグ10は、図1〜3に示すように、下部に膨張用ガスを流入させる略長方形状の開口10aを備えた袋状として、ポリエステルやポリアミド等の可撓性を有した織布から形成されている。開口10aの周縁は、略四角環状のリテーナ13の形状に対応するように、略四角環状に形成されて、ケース28に取り付ける取付用開口周縁11となる。そして、取付用開口周縁11には、車両の前後方向両側に配置される部位に、エアバッグ10をケース28に取り付けるための複数(実施形態では三個ずつ)の取付孔11aが形成されている。
【0028】
エアバッグ10をケース28に取り付けるリテーナ13は、板金製として、図1〜3に示すように、略四角環状の本体14を備えて構成されている。本体14は、前後両側に、ケース28の後述する取付座32,33に対応するように平板状とした平板部14a,14aを配設させ、左右両側に、インフレーター18の後述する両端部20,21付近の上側外周面20a,21aに対応するように半割り円筒状に湾曲する湾曲部14b,14bを配設させて構成されている。また、平板部14a,14aには、それぞれ、固着手段としての下方に延びる複数(実施形態では、三個ずつ)のボルト15が固着されている。そして、リテーナ13は、各ボルト15をエアバッグ10の取付孔11aから突出させるようにエアバッグ10内に配置させて、各ボルト15をケース28の後述する貫通孔32a,33aに挿通させ、各ボルト15にナット16を螺合させることにより、平板部14a,14aが、エアバッグ10の取付用開口周縁11を介在させて、ケース28の取付座32,33に圧接し、かつ、湾曲部14b,14bが、エアバッグ10の取付用開口周縁11を介在させて、インフレーター18の上側外周面20a,21aに圧接して、エアバッグ10とインフレーター18とをケース28に取り付けることとなる。
【0029】
なお、リテーナ13の外周縁には、補強用のリブ(図符号省略)が上方に突設されている。
【0030】
また、リテーナ13には、ケース28の取付座32,33への配置部位の内縁に、すなわち、平板部14a,14aの内縁に、ケース28の後述する収納部38側の下方に屈曲して延びる帯板状のガス遮蔽部14cが形成されている。これらのガス遮蔽部14cは、平板部14aと取付座32,33とで挟持したエアバッグ10の取付用開口周縁11側に流れる膨張用ガスを遮蔽するように、配設されている。
【0031】
インフレーター18は、図1〜3,5に示すように、シリンダタイプとして、円柱状の本体部19と、本体部19の両端部20,21の端面20c,21c側に配置されるコネクタ24,25と、を備えて構成されている。インフレーター18は、軸心Xを水平方向の左右方向に沿わせて、ケース28に収納される。コネクタ24,25は、本体部19の各端面20c,21cから突出するように配設され、各コネクタ24,25には、それぞれ、作動信号を入力するリード線R1,R2が接続される。そして、本体部19の中央付近には、高出力の膨張用ガスを突出させる複数のガス吐出口22が配設され、本体部19の一方の端部21(右端部)21側付近には、低出力の膨張用ガスを突出させる複数のガス吐出口23が配設されている。コネクタ24には、高出力の膨張用ガスをガス吐出口22から吐出させる信号を入力させるリード線R1が接続され、コネクタ25には、低出力の膨張用ガスをガス吐出口23から吐出させる信号を入力させるリード線R2が接続される。
【0032】
そして、コネクタ24の外周面の後面側には、図2〜4に示すように、上下方向に沿って形成された切欠き部26が、形成されている。切欠き部26には、インフレーター18の軸心Xに接近した底面に、インフレーター18の軸心Xと平行な平坦面26aが形成されている。この平坦面26aは、切欠き部26が上下方向に沿って形成されており、上下方向に沿い、かつ、軸心Xと平行な左右方向に沿って延びる長方形状の平面状に形成されている。
【0033】
ケース28は、板金製として、図1〜5に示すように、底壁部29と、底壁部29の外周縁から四角筒状に上方に延びる周壁部45と、を備えて上方を開口させた箱形状として構成されている。
【0034】
周壁部45の内側には、図1,2,4に示すように、折り畳まれたエアバッグ10が収納され、周壁部45の前後の上縁には、蓋体51の側壁部53に設けられた係止孔53aに挿入されて、側壁部53を係止する複数の係止爪46が配設されている。
【0035】
底壁部29は、図3,5に示すように、インフレーター18の軸心Xを左右方向に沿わせた状態で上方から見たインフレーター18の外形形状と略等しい形状に開口した挿入用開口30を備えている。そして、底壁部29には、挿入用開口30の前後の周縁から略半割り円筒状に凹んでインフレーター18を収納する収納部38が形成されている。
【0036】
この収納部38は、挿入用開口30の周縁31における前側部31aと後側部31bとを連結するように、インフレーター18の略下側半分を収納可能に略半割り円筒状に凹み、左右両端に、内周面40a,41aでインフレーター18の両端部20,21の下側外周面20b,21bを支持可能な支持部40,41を配設させている。支持部40,41の間は、収納したインフレーター18のガス吐出口22,23の部位を離れて覆うように、支持部40,41より大径とした略半割り円筒状(詳しくは、略半割り八角筒状)の大径部39としている。
【0037】
なお、支持部40,41は、インフレーター18をケース28に取り付けた際のリテーナ13の湾曲部14b,14bの直下の位置に配置されている。
【0038】
また、収納部38の左右両端には、インフレーター18の両端面を露出させるように切り欠かれて形成された開口部48,49が、配設されている。開口部48,49は、周壁部45の左右の壁面まで延設されている(図3参照)。
【0039】
そして、底壁部29は、挿入用開口30の前後の周縁を、すなわち、周縁31の前側部31aと後側部31bを、水平方向の左右方向に延びた平面状として、エアバッグ10の取付座32,33としている。これらの取付座32,33には、リテーナ13のボルト15を貫通させる貫通孔32a,33aが形成されている。
【0040】
さらに、底壁部29には、収納時のインフレーター18の軸方向に沿った左右方向のずれを防止可能なずれ規制部34,35と、インフレーター18の軸心Xを中心とした周方向への回転を防止可能な回り規制部36と、が配設されている。
【0041】
ずれ規制部34,35は、収納部38に収納したインフレーター18の両端面20c,21cをそれぞれ位置規制可能に、底壁部29の挿入用開口30の左右の周縁における取付座32,33から延びる板金素材の端面32d,33dに、それぞれ配置されている。すなわち、ずれ規制部34は、挿入用開口30の周縁31の左側部31cにおいて、取付座32,33から延びる板金素材における左側延設部32b,33bの右側に向いた端面32d,33dから、形成されている。また、ずれ規制部35は、挿入用開口30の周縁31の右側部31dにおいて、取付座32,33から延びる板金素材における右側延設部32c,33cの左側に向いた端面32d,33dから、形成されている。
【0042】
これらのずれ規制部34,35は、単に、取付座32,33から延びる延設部32b,32c,33b,33cに形成されており、取付座32,33と同じ板金素材が、別途、溶接等で接合されずに、一体的に延設されて形成されている。
【0043】
回り規制部36は、インフレーター18の切欠き部26に進入して係合するように、挿入用開口30の左右の少なくとも一方の周縁における取付座33から延びる板金素材の左側延設部33bの前向きの内縁33e側に、すなわち、挿入用開口30の周縁31の左側部31cの前向きの内縁33e側に、形成されている(図4,5参照)。実施形態の場合、回り規制部36は、左側部31cの前向きの内縁33e側から前方の下方に屈曲するように略L字形状に形成され、その屈曲した縦板部36aの前面(内側面)36bを、切欠き部26の平坦面26aに当接させるように、構成されている。
【0044】
さらに、ケース28の収納部38には、エアバッグ装置Mを車両に搭載する際に、車両ボディ側の取付ベース5にボルト6止めして搭載するための取付ブラケット43が、配設されている(図1,2参照)。
【0045】
蓋体51は、図1,2に示すように、ポリオレフィン系やポリエステル系等の熱可塑性エラストマー等から形成されて、ケース28の周壁部45の上方を塞ぐように配置される略長方形状の天井壁部52と、天井壁部52の周縁から下方へ延びる略四角筒形状の側壁部53と、から構成されている。天井壁部52には、側壁部53に囲まれた部位に、周囲に薄肉の破断予定部(図符号省略)を配置させて、エアバッグ10の膨張時、前後両側に開く二つの扉部52a,52aが配設されている。また、天井壁部52には、インパネ1の開口2の周縁に設けられたフランジ部3に係止させる係止脚52bが形成されている。側壁部53の車両の前後方向両側の部位には、既述したように、車両の前後方向に貫通して、ケース28の係止爪46を挿入させる複数(実施形態では三個)の係止孔53aが、形成されている。
【0046】
実施形態のエアバッグ装置Mの車両への搭載を説明すると、まず、エアバッグ装置Mを組み立てる。エアバッグ装置Mの組み立てを説明すると、予め、各取付孔11aからボルト15を突出させるように、内部にリテーナ13を配設させた状態で、エアバッグ10を折り畳み、さらに、折り崩れしないように、折り畳んだエアバッグ10を、破断可能なラッピングシート9でくるんでおく。
【0047】
そして、ケース28の底壁部29の収納部38に対し、図5のA,Bに示すように、ケース28の周壁部45の開口45a(図3参照)を経て、端部20側を左側とし、端部21側を右側とし、さらに、回り規制部36を切欠き部26に進入させつつ、上方からインフレーター18を収納させる。その後、エアバッグ10の取付用開口周縁11に配置させた状態のリテーナ13を、ケース28の周壁部45の開口45aを経て、上方からケース28内に挿入させ、さらに、リテーナ13の各ボルト15を貫通孔32a,33aに貫通させつつ、さらに、インフレーター18の両端部20,21付近の上側外周面20a,21aとケース28の取付座32,33とに対して、エアバッグ10の取付用開口周縁11における四角環状の取付部位を押圧しつつ、各ボルト15にナット16を締結して、リテーナ13を取付座32,33に取り付ければ、ケース28に対し、エアバッグ10とインフレーター18とを取り付けることができる(図5のB、図1,2参照)。
【0048】
この時、シリンダタイプのインフレーター18は、ケース28の収納部38に収納された際、軸方向の両端面20c,21cをケース8の底壁部29におけるずれ規制部34,35に規制されて、軸方向にずれることが規制され、かつ、切欠き部26に進入した回り規制部36により、周方向の回転が規制される。さらに、その後のリテーナ13のケース28への固着時、インフレーター18は、両端部20,21付近の上側外周面20a,21aと下側外周面20b,21bとを、収納部38の支持部40,41の内周面40a,41aとリテーナ13の湾曲部14b,14bの下面とにより挟持される状態となって、安定してケース28に取り付けられることとなる。
【0049】
なお、図1,2では、インフレーター18の上側外周面20a,21aや下側外周面20b,21bと、支持部40,41の内周面40a,41aやリテーナの湾曲部14bと、の間に、僅かな隙間を設けて図示しているが、実際には、適宜、エアバッグ10の取付用開口周縁11を介在させて、隙間の略無い状態で押圧されている。
【0050】
そして、インフレーター18のケース28への取り付けが、ケース28の底壁部29の取付座32,33から延びる板金素材自体から形成されたずれ規制部34,35及び回り規制部36と、エアバッグ10のケース28への取り付けに共用されるリテーナ13と、を利用するものであり、別途、取付部品を使用すること無く、部品点数の増加を抑えて、取付作業を行える。
【0051】
さらに、インフレーター18の取付作業自体も、単に、切欠き部26に回り規制部36を進入させつつ、インフレーター18を、挿入用開口30を経て、収納部38内に収納させるだけで、後は、リテーナ13による取付作業時に、エアバッグ10とともに、インフレーター18が自動的にケース28に取り付けられることとなって、容易に行える。
【0052】
したがって、実施形態のエアバッグ装置Mでは、部品点数を少なくでき、かつ、容易にインフレーター18をケース28に取り付けることができる。
【0053】
なお、実施形態では、ずれ規制部34,35が、挿入用開口30の周囲における底壁部29自体の厚さ寸法分の端面32d,33dから形成したが、挿入用開口30の周縁を曲げ加工して、底壁部29自体の厚さ寸法より上下方向に長く、インフレーター18の端面20c,21cを支持できるように、ずれ規制部を形成してもよい。
【0054】
そして、ケース28にエアバッグ10とインフレーター18とを取り付けた後、蓋体51の側壁部53をケース28の周壁部45の外周側に嵌め、各係止孔53aに係止爪46を挿入させれば、エアバッグ装置Mを組み立てることができる。
【0055】
このように組み立てたエアバッグ装置Mは、車両に組み付けた状態のインパネ1の開口2から挿入させ、蓋体51の係止脚52bをインパネ1のフランジ部3に係止させるとともに、ボルト6を使用して、各取付ブラケット43を取付ベース5に固定し、インフレーター18のコネクタ24,25に作動用のリード線R1,R2を結線すれば、車両に搭載することができる。
【0056】
エアバッグ装置Mの車両への搭載後、インフレーター18のガス吐出口22,23から膨張用ガスが吐出されれば、エアバッグ10は、膨張して、ラッピングシート9を破断するとともに、蓋体51の扉部52a・52aを押し開いて、ケース28の開口45aから、大きく突出することとなる。
【0057】
そして、実施形態のエアバッグ装置Mでは、部品点数を少なくでき、かつ、容易にインフレーター18をケース28に取り付けることができる作用・効果の他、つぎのような作用・効果を得ることができる。
【0058】
すなわち、実施形態のエアバッグ装置Mでは、リテーナ13が、ケース28の取付座32,33への配置部位である平板部14a,14aの内縁に、下方へ屈曲して延びて、エアバッグ10の取付用開口周縁11側に流れる膨張用ガスを遮蔽可能なガス遮蔽部14cを、配設させて構成されている。
【0059】
そのため、実施形態では、インフレーター18が膨張用ガスを吐出した際、ガス遮蔽部14cが、リテーナ13とケース28の取付座32,33との間で挟持されたエアバッグ10の取付用開口周縁11側に対して高温の膨張用ガスが直接触れるように流れることを、防止できる。そのため、上記のような構成では、エアバッグ10におけるケース28の取付座32,33付近からの膨張用ガスの漏れを防止することができる。
【0060】
特に、実施形態のケース28では、収納部38の支持部40,41間に、多数のガス吐出口22,23からの膨張用ガスを受け止めて上方の周壁部45の開口45a側に流すように、半割り円筒状の大径部39を配設させており、そして、膨張用ガスは、インフレーター18の軸直交方向に向かうように多数のガス吐出口22,23から流れることから、リテーナ13の平板部14aと取付座32,33との間の部位には、インフレーター18の軸直交方向へ吐出する膨張用ガスの一部が直接流れることとなる。しかし、実施形態では、ガス遮蔽部14cが配設されており、リテーナ13の平板部14aと取付座32,33との間に直接向かう高温の膨張用ガスから、エアバッグ10の取付用開口周縁11の部位(平板部14aと取付座32,33との間の部位)を、保護できる。
【0061】
また、ガス遮蔽部14cは、リテーナ13の前後の内縁側を収納部38側に単に曲げるだけで簡単に形成でき、リテーナ13の前後の平板部14a,14aに固着手段としてのボルト15を多数配設する構成としても、それらのボルト15の配設に影響を与えずに、容易にボルト15を配設することができる。
【0062】
また、実施形態のエアバッグ装置Mでは、回り規制部36が、取付座33から延びる左側延設部33bにおいて、下方に屈曲するように略L字形状に形成され、インフレーター18の切欠き部26が、回り規制部36の下方へ屈曲した縦板部36aの前面36bにより規制可能に、インフレーター18の軸心Xと平行な平坦面26aを設けて形成されている。
【0063】
そのため、実施形態では、回り規制部36の下方へ屈曲した広い平面状の縦板部36aが、上下方向に沿って切り欠かれた切欠き部26におけるインフレーター18の軸心Xと平行な平坦面26aに対して、当接することにより、安定してインフレーター18の回転を規制することができる。
【0064】
なお、実施形態では、図4に示すように、縦板部36aが、左側延設部33bから一旦上方に上がった後、下方に下がるように形成されて、換言すれば、上端部36cを高くして縦板部36aの上下方向の長さを長くしており(実施形態では平坦面26aより長い)、切欠き部26の平坦面26aに対して、上下方向に広い面積で当接できるように構成されており、一層、安定してインフレーター18の回転を規制することができる。
【0065】
ちなみに、この点を考慮しなければ、図6のAに示す回り規制部36Aのように、単に、取付座33から延びる左側延設部33bから下方に屈曲するL字形状に形成してもよい。あるいは、図6のBに示す回り規制部36Bのように、取付座33から延びる左側延設部33bの前向きの端面33f自体から、形成してもよい。
【0066】
さらに、回り規制部としては、インフレーター18の切欠き部26を対応させれば、図6のBに示す回り規制部36B,36Bのように、インフレーター18の一方の端部20の外周面の二箇所の切欠き部26,26に対応させて配設してもよい。あるいは、インフレーター18の左右両端部に切欠き部を設けて、それらに対応するように、回り規制部を設けてもよい。その場合でも、そのインフレーターの端部側では、一箇所若しくは二箇所に切欠き部を設けて、それらの切欠き部に対応させて、回り規制部を設けてもよい。
【0067】
但し、インフレーター18の左右の端部20,21側をそれぞれ所定の左右方向の側に配置させ、かつ、上側外周面20a,21aを必ず上側に配置させてインフレーター18をケース28に収納する構成の場合には、誤組付を防止できるように、インフレーター18の左右の一方の端部の前面側若しくは後面側の一箇所だけに、切欠き部26を設け、ケース28側にも、一箇所の切欠き部26に対応させて、一つの回り規制部36を設けることが望ましい。
【0068】
また、実施形態のエアバッグ装置Mでは、底壁部29と周壁部45とを備えたケース28を、一枚の板金素材から形成している。なお、周壁部45は、底壁部29から四方に延びた舌片を立ち上がらせて、重ねた所定の接合代44の部位をスポット溶接して、四角筒形状に形成している(図3参照)。また、底壁部29は、開口部48,48や貫通孔32a,33aを打ち抜きつつ、収納部38を絞り加工して、形成している。
【0069】
しかし、図7〜10に示すように、ケース28Aは、ずれ規制部34,35と回り規制部36とを有した底壁部29Aの取付座32A,33A、及び、周壁部45A、を構成する上側部55と、取付座32A,33Aの上面55a側で上側部55と接合されて、収納部38Aを構成する下側部56と、の二部品から形成してもよい。
【0070】
このような構成では、実施形態のように、ケース28を板金からプレス加工の塑性加工により形成する際、底壁部29のずれ規制部34,35や回り規制部36を設けた取付座32,33と収納部38とを一体的に形成すれば、収納部38を深絞りとするように加工する必要が生ずるが、ケース28Aのように、収納部38Aとずれ規制部34,35や回り規制部36を設けた取付座32A,33Aとを別体とすれば、収納部38Aは、長方形板状の板金を、前後両端に取付座32A,33Aにスポット溶接する接合代56aを設けた状態で、半割り筒状に曲げ加工するだけで、形成できて、ケース28Aを容易に形成することができる。
【0071】
また、このケース28Aでは、収納部38Aから延びる接合代56aが取付座32A,33Aの上面55a側に配置されてスポット溶接されており、接合代56aを取付座32A,33Aの下面側に配置させて溶接する場合に比べて、接合部分からの膨張用ガスの漏れを防止することができる。
【符号の説明】
【0072】
10…エアバッグ、
10a…開口、
11…取付用開口周縁、
13…リテーナ、
14…本体、
14a…平板部、
14b…湾曲部、
14c…ガス遮蔽部、
15…(固着手段)ボルト、
18…インフレーター、
19…本体部、
20,21…(インフレーターの)端部、
20a,21a…上側外周面、
20b,21b…下側外周面、
20c,21c…端面、
26…切欠き部、
26a…平坦面、
28,28A…ケース、
29,29A…底壁部、
30…挿入用開口、
31…(挿入用開口の)周縁、
32,33,32A,33A…取付座、
32b,33b…左側延設部、
32c,33c…右側延設部、
32d,33d…端面、
34,35…ずれ規制部、
36,36A,36B…回り規制部、
38,38A…収納部、
40,41…支持部、
45,45A…周壁部、
55…上側部、
56…下側部、
X…(インフレーターの)軸心、
M…(助手席用)エアバッグ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグと、該エアバッグに膨張用ガスを供給するシリンダタイプのインフレーターと、前記エアバッグ及び前記インフレーターを収納する板金製のケースと、前記エアバッグを前記ケースに取り付けるリテーナと、を備えて構成される助手席用エアバッグ装置であって、
前記ケースが、底壁部と、該底壁部の外周縁から筒状に延びる周壁部と、を備えて上方を開口させた箱形状として構成され、
前記底壁部が、
前記インフレーターの軸心を左右方向に沿わせた状態で上方から見た前記インフレーターの外形形状と略等しい形状に開口した挿入用開口と、
該挿入用開口の前後の周縁から略半割り円筒状に凹み、左右両端の内周面により前記インフレーターの両端の下側外周面を支持可能として前記インフレーターを収納可能な収納部と、
前記挿入用開口の前後の周縁に配置された前記エアバッグの取付座と、
を備えるとともに、
前記挿入用開口の左右の周縁における前記取付座から延びる板金素材の端面にそれぞれ配置されて、前記収納部に収納した前記インフレーターの両端面をそれぞれ位置規制して、前記インフレーターの軸方向に沿ったずれを防止可能なずれ規制部と、
前記挿入用開口の左右の少なくとも一方の周縁における前記取付座から延びる板金素材の部位により形成され、前記インフレーターの端面近傍の外表面に上下方向に沿って形成された切欠き部に係合して、前記インフレーターの軸心を中心とした周方向への回転を防止可能な回り規制部と、
を備えて構成され、
前記リテーナが、
前後両側を前記ケースの前記取付座に対応させた平板状とし、左右両側を前記インフレーターの両端付近の上側外周面に対応した湾曲状とした略四角環状に形成されて、
前記インフレーターの両端付近の上側外周面と前記ケースの前記取付座とに対して、前記エアバッグの取付用開口周縁における四角環状の取付部位を押圧しつつ、固着手段により前記取付座に取り付けられて、前記エアバッグと前記インフレーターとを前記ケースに取り付けるように構成されていることを特徴とする助手席用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記回り規制部が、前記取付座から延びて下方に屈曲するように略L字形状に形成され、
前記インフレーターの切欠き部が、前記回り規制部の下方へ屈曲した縦板部により規制可能に、前記インフレーターの軸心と平行な平坦面を設けて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の助手席用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記ケースが、
前記ずれ規制部と前記回り規制部とを有した前記底壁部の前記取付座、及び、前記周壁部、を構成する上側部と、
前記取付座の上面側で前記上側部と接合されて、前記収納部を構成する下側部と、
の二部品から形成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の助手席用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記リテーナが、前記ケースの前記取付座への配置部位の内縁に、下方へ屈曲して延びて、前記エアバッグの前記取付用開口周縁側に流れる膨張用ガスを遮蔽可能なガス遮蔽部を、配設させて構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の助手席用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−10431(P2013−10431A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144505(P2011−144505)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】