説明

動力伝達ユニット及び動力伝達機構の取付方法

【課題】動力伝達軸の劣化を抑制する動力伝達ユニットを提供すること。
【解決手段】所定方向に回転可能な動力伝達軸15に嵌合され、動力伝達軸15の不等速回転を緩和する動力伝達ユニット100であって、動力伝達軸15に対して嵌合され動力伝達軸15とともに回転する円筒状部51に入力側係止部(入力側クラッチ爪53)が設けられた入力側回転体(クラッチ50)と、入力側回転体の円筒状部51を回転軸として回転自在となるように円筒状部51が挿嵌され、入力側係止部に噛合可能な出力側係止部(出力側クラッチ爪63)が設けられた出力側回転体(スプロケット60)と、前記出力側回転体を回転方向に付勢する付勢部材(捩りコイルバネ70)と、を備え、前記入力側回転体と前記出力側回転体とは、所定の角度の範囲で相対的に回転可能であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達ユニットに関し、例えば代掻き作業機や耕耘機等のロータリ作業機における動力伝達軸に設けられ、該動力伝達軸の不等速回転を緩和する動力伝達ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタの後部に設けられたPTO軸からユニバーサルジョイント(例えば、広角ジョイント)を介して農作業機の入力軸に動力を伝達するようにした代掻き機、ロータリ耕耘機等のロータリ農作業機が知られている。このようなロータリ農作業機では、トラクタに設けられたPTO軸とロータリ農作業機に設けられた入力軸との角度の関係によりユニバーサルジョイントが不等速運動(回転)を起こすことがある。この場合、例えばロータリ農作業機のミッションケースのギヤが、接触した状態と離れた状態とを繰り返すことで衝突することになる。このため、ギヤの摩耗等が早まり劣化が促進される虞があった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、ユニバーサルジョイントを介して動力伝達する伝動系の駆動側と従動側との間に設けられる、ユニバーサルジョイントの不等速回転による回転ムラを吸収する回転ムラ吸収機構として、伝動シャフトに対して回転自在に挿嵌された従動側クラッチ爪付きのスプロケットと、伝動シャフトにスプラインを介して挿嵌された駆動側爪クラッチと、伝動シャフトにスプラインを介して挿嵌された係止孔付きプレートと、一端側が駆動側爪クラッチに他方側がプレートの係止孔に係止された捩りコイルバネと、を備えた動力伝達装置が開示されている。
【0004】
このような動力伝達装置によれば、確かに、ユニバーサルジョイントの不等速回転による回転ムラを緩和することができるため、ロータリ農作業機のミッションケース内のギヤが衝突することが抑制されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−245272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された動力伝達装置は、伝動シャフトに対してスプロケットが回転自在に挿嵌される構成であるため、使用に伴う摩耗等により伝動シャフトが劣化する場合がある。このような場合には、メンテナンスとして、動力伝達装置を交換するのみでなく、伝動シャフトの交換も必要なことがあり、作業が煩雑になる虞があった。
また、このように動力伝達装置を交換等する場合には、動力伝達装置がコンパクトに構成されていることが望ましい。
また、伝動シャフトに対してプレートが固定されることで動力伝達装置が構成されるため、動力伝達装置を取り付け又は交換する場合には、殆ど全ての作業をロータリ作業機が置かれた現場で行う必要があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題の少なくとも一つを解決することを課題の一例とし、伝動シャフトの劣化を抑制する動力伝達ユニット及び動力伝達機構の取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、本発明による動力伝達ユニットは、所定方向に回転可能な動力伝達軸に嵌合され、該動力伝達軸の不等速回転を緩和する動力伝達ユニットであって、前記動力伝達軸に対して嵌合され該動力伝達軸とともに回転する円筒状部に入力側係止部が設けられた入力側回転体と、該入力側回転体の円筒状部を回転軸として回転自在となるように該円筒状部が挿嵌され、前記入力側係止部に噛合可能な出力側係止部が設けられた出力側回転体と、前記出力側回転体を回転方向に付勢する付勢部材と、を備え、前記入力側回転体と前記出力側回転体とは、所定の角度の範囲で相対的に回転可能であることを特徴とする。
また、前記入力側回転体は、前記円筒状部における前記動力伝達軸側の端部に前記入力側係止部が設けられ、前記動力伝達ユニットは、前記入力側回転体の円筒状部に対して、前記出力側回転体及び前記付勢部材が前記動力伝達軸側から前記出力側回転体、前記付勢部材の順に配置されていることを特徴とする。
また、前記付勢部材は捩りコイルバネからなり、該捩りコイルバネは、前記出力側回転体に設けられる係止孔と、前記円筒状部に固定される係止部材に設けられる係止孔とに、両端部が係止されていることを特徴とする。
また、本発明による動力伝達機構の取付方法は、略円筒状を呈する円筒状部の一端側に入力側係止部が設けられた入力側回転体と、該入力側回転体の円筒状部が回転軸となるように該円筒状部に支持され、前記入力側係止部に噛合可能な出力側係止部が設けられた出力側回転体と、前記出力側回転体を回転方向に付勢する捩りコイルバネと、を備える動力伝達機構を、所定方向に回転可能な動力伝達軸に対して取り付ける取付方法であって、前記入力側回転体の円筒状部に対して前記出力側回転体及び前記捩りコイルバネを支持させることで予め動力伝達機構をユニット化し、該ユニット化された動力伝達機構における前記円筒状部を前記動力伝達軸に取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動力伝達軸の劣化を抑制する動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る代掻き作業機(作業体展開位置)の外観を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る代掻き作業機(作業体格納位置)の外観を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る代掻き作業機の動力伝達系を示す部分断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る代掻き作業機の動力伝達系を示す拡大図である。
【図5】(a)動力伝達ユニットにおけるクラッチを示す左側面図である。(b)(a)におけるb−b断面図である。
【図6】(a)動力伝達ユニットにおけるスプロケットを示す右側面図である。(b)同左側面図である。(c)(a)におけるc−c断面図である。
【図7】(a)動力伝達ユニットにおける捩りコイルバネを示す正面図である。(b)同平面図である。(c)同左側面図である。
【図8】(a)動力伝達ユニットにおけるプレートを示す正面図である。(b)同右側面図である。(c)同左側面図である。
【図9】(a)動力伝達ユニットを示す分解斜視図である。(b)動力伝達ユニットを示す斜視図である。(c)動力伝達ユニットを示す斜視図である。
【図10】(a)動力伝達ユニットの取付状態を説明するための左側面図である。(b)動力伝達ユニットの動作状態を説明するための左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。便宜上、同一又は対応する要素には同一の符号を付け、その説明を省略する場合がある。なお、本発明は、所定方向に回転可能な動力伝達軸に設けられ、該動力伝達軸の不等速回転を緩和する動力伝達ユニットに広く適用可能であるが、ここでは本発明を、伝動ケースとしてのチェーンケースに入力される動力伝達軸に設けられる動力伝達ユニットが代掻き作業機に適用されている場合の一例について説明する。
【0012】
図1に代掻き作業機1の外観を表す平面図を、図2に代掻き作業機1の外観を表す側面図をそれぞれ示す。代掻き作業機1は、走行機体Tの後部に対して3点リンク連結機構(図示省略)によって連結され、走行機体Tの前進走行とともに進行して代掻き作業を行うものであり、機体前進方向に対して左右方向の中央部に配置された作業機本体10と、この左右両端部に上下方向に対して回動可能に取り付けられた左作業体20L及び右作業体20Rと、からなる3分割構造のロータリ作業部を備えている。
【0013】
作業機本体10の左右両端部には、前後方向に延びる軸部14,14が設けられ、この軸部14,14を中心として左作業体20L、右作業体20Rが上下方向に回動自在に設けられている。作業機本体10と左作業体20Lとの上部間及び作業機本体10と右作業体20Rとの上部間にはそれぞれ油圧シリンダ(図示省略)が設けられ、この油圧シリンダの伸縮によって、図2に示される左作業体20L及び右作業体20Rが作業機本体10の上方に折り畳まれる格納位置と、図1に示される左作業体20L及び右作業体20Rが作業機本体10の側方に展開される展開位置との間を移動する。
【0014】
図3に示すように、作業機本体10は、左右方向に延びる主フレーム11を備えており、この主フレーム11の左右方向の中央部にはギヤボックス13が設けられている。このギヤボックス13には、前方側に突出する入力軸17が設けられており、この入力軸17によって走行機体TのPTO軸からの動力がユニバーサルジョイント等の動力伝達手段を介してギヤボックス13に伝達されるようになっている。入力軸17の後端と、主フレーム11内に設けられた動力伝達軸15の右側端部とは、ギヤボックス13内でベベルギヤ17a,15aによって噛み合っており、これによって、入力軸17の動力が動力伝達軸15に伝えられることになる。
【0015】
主フレーム11の左側端部にはチェーンケース8が、右側端部には側部フレーム9がそれぞれ垂設されている。チェーンケース8と側部フレーム9との下部間には多数の耕耘爪が取り付けられた耕耘ロータ30Cが回転自在に支持されている。そして、動力伝達軸15がチェーンケース8内の動力伝達系と連結されることで、入力軸17からの動力が動力伝達系を介して作業機本体10の耕耘ロータ30Cに伝達されて、耕耘ロータ30cが所定方向に回転するように構成されている。
【0016】
左作業体20L及び右作業体20Rは、展開位置における外側端部にそれぞれ側部フレーム21L,21Rを備えており、この側部フレーム21L,21Rに設けられた支持部23L,23Rに、多数の耕耘爪が取り付けられた耕耘ロータ30L,30Rの一端側(外側端)が回転自在に支持されている。耕耘ロータ30L、30Rの他端側(内側端側)は、左作業体20L及び右作業体20Rにおける左右方向の内側に設けられた支持フレーム25L、25Rに回転自在に支持されており、その端部には、従動クラッチ31L,31Rが連結されている。左作業体20Lの従動クラッチ31Lはチェーンケース8から外方(左側)に向かって露出された駆動クラッチ18と、右作業体20Rの従動クラッチ31Rは側部フレーム9から外方(右側)に向かって露出された駆動クラッチ19とそれぞれ展開位置において噛み合うものである。これにより、耕耘ロータ30L,30C,30R(総称するときは「耕耘ロータ30」とする)は同方向に連動して回転することになる。
【0017】
ここで、チェーンケース8内の動力伝達系について、図3〜10を参照しながら説明する。動力伝達軸15の左側端部(ベベルギヤ15aが設けられているのと反対側の端部)は、チェーンケース8内に挿入されており、この左側端部には、動力伝達軸15に対して固定され動力伝達軸15とともに回転する入力側回転体としてのクラッチ50と、クラッチ50に噛合可能な出力側回転体としてのスプロケット60と、スプロケット60を回転方向(実施例では、耕耘ロータ30が作業時に回転する際のスプロケット60の回転方向)に付勢する付勢部材としての捩りコイルバネ70とが設けられている。スプロケット60にはチェーン68が掛け回され、このチェーン68はチェーンケース8の下部に設けられた出力側スプロケット69に掛け回されている(図面上チェーン68は一部省略している)。出力側スプロケット69は、作業機本体10の耕耘ロータ30Cに接続されるとともに、駆動クラッチ18を介して左作業体20Lの耕耘ロータ30Lに、耕耘ロータ30C及び駆動クラッチ19を介して右作業体20Rの耕耘ロータ30Rに接続可能となっており、これにより、動力伝達軸15の動力が耕耘ロータ30に伝達されるものである。
【0018】
図4及び図5に示されるように、チェーンケース8内に設けられた入力側回転体としてのクラッチ50は、略円筒形状を呈した円筒状部51とこの円筒状部51の一端側に設けられる入力側クラッチ爪53(入力側係止部)とによって構成されている。円筒状部51は、その内側において、入力側クラッチ爪53が設けられている側に、嵌合手段としてのスプライン溝50a(図示例では溝の形状を省略している)が形成されている。このスプライン溝50aは動力伝達軸15の端部に設けられたスプライン溝15bと嵌合可能となっている。これにより、クラッチ50は、動力伝達軸15に対する回転が規制された状態で動力伝達軸15に支持(固定)され、動力伝達軸15の回転にともなって回転可能となっている。
【0019】
クラッチ50の円筒状部51の外周面は滑らかに形成されており、左右方向(軸方向)の中央側において周方向に1周する1条の溝部55が形成されている。なお、円筒状部51の他端側(入力側クラッチ爪53が設けられているのと反対側)の端部には均等の間隔で設けられた複数の切欠57が設けられている。図示例では、4箇所の切欠57が90度間隔で設けられている。
【0020】
図4及び図6に示されるように、スプロケット60は、外周にチェーン68が巻き掛けられる複数の歯部67が形成され、中心にクラッチ50の円筒状部51の外径より僅かに大きく形成された軸孔61が設けられている。このようなスプロケット60の軸孔61に対してクラッチ50の円筒状部51が挿入されることによって、クラッチ50の円筒状部51を中心軸としてスプロケット60が回転自在に支持される。
【0021】
スプロケット60の一方(図示例では動力伝達軸15側)の側面には、軸方向に向かって出力側クラッチ爪63(出力側係止部)が形成されており、この出力側クラッチ爪63は、スプロケット60がクラッチ50の円筒状部51に支持された状態で入力側クラッチ爪53に係止可能となっている。なお、図10に示すように、入力側クラッチ爪53と出力側クラッチ爪63とは、所定の角度θ1(図示例では約20度)の間隙をもって噛み合っており、この角度θ1の範囲で相対的に回転可能となっている。
【0022】
また、スプロケット60の軸孔61に対してクラッチ50の円筒状部51が挿入された際に、円筒状部51の溝部55に環状のリング部材56が嵌合されることで、クラッチ50の入力側クラッチ爪53とスプロケット60の出力側クラッチ爪63とが係止可能な位置に保持されるようになっている。入力側クラッチ爪53の左側面からリング部材56が嵌合される溝部55までの距離L1(図5参照)は、スプロケット60の右側面から左端部までの距離L2(図6参照)より僅かに大きい程度であり、スプロケット60の左右方向に対する遊びは殆どないものである。
【0023】
図4及び図7に示されるように、捩りコイルバネ70は、両端部71,73がそれぞれ軸方向に向かって延びており、その一端(端部73)がスプロケット60の動力伝達軸15側と反対側の側面に設けられた係止孔62に係止される。そして、捩りコイルバネ70の他端(端部71)は、クラッチ50の円筒状部51の外側端部に設けられたプレート80(係止部材)の係止孔82(係止孔82a又は82b)に係止される。ここで、実施例では、スプロケット60に対して係止孔62が一箇所のみに設けられている例が示されているが、これに限定されるものではない。図示例に示される、一の出力側クラッチ爪63の回転方向中央に設けられる係止孔62の他に、他の出力側クラッチ爪63の回転方向中央からの角度を所定方向ずらした位置に他の係止孔を設けることができる。この場合、捩りコイルバネ70を係止させる係止孔を変えることによって、捩りコイルバネの付勢力を変えることができ、所望の付勢力に調整することが可能となる。なお、捩りコイルバネ70の内側にはクラッチ50の円筒状部51が挿入されているが、円筒状部51と捩りコイルバネ70との間隙には円筒状の外カラー90が配置されているため、これらが接することはない。
【0024】
図4及び図8に示されるように、プレート80は、中央にボルト等の締結部材91を挿入するための貫通孔81が設けられ、この貫通孔81の周囲が軸方向の一方側(動力伝達軸15と反対側(外側))に突出した凸状部83となっている。この凸状部83は、平面視で多角形状(図示例では長方形)となっており、レンチ等によって挟持可能となっている。凸状部83が設けられている側面と反対側の側面は、円筒状部51の端部に設けられた4箇所の切欠57に対応した嵌合片87が形成されており、クラッチ50における切欠57に嵌合可能となっている。プレート80に設けられる係止孔82は、嵌合片87の位置に対して所定の角度ずらされた位置に複数箇所設けられ(図示例では2箇所)、係止孔82を変えることによって捩りコイルバネ70の付勢力が変更可能となっている。図示例では、対向する位置に設けられた嵌合片87a,87bから、それぞれ捩りコイルバネ70の付勢方向に向かって異なる角度(α、β)の位置に係止孔82a,82bが設けられ、角度がより大きな係止孔82aでは、より大きな付勢力が得られるようになっている。また、同じ係止孔82に係止させる場合であっても、円筒状部51に対するプレートの回転方向における固定位置が90度間隔で変更できるため、これによって付勢力を変更することもできる。
【0025】
そして、図9に示されるように、スプロケット60、リング部材56、捩りコイルバネ70、外カラー90の順番でそれぞれがクラッチ50の円筒状部51に対して支持された状態で、プレート80の嵌合片87と円筒状部51の切欠57とが嵌合されることによって、動力伝達機構としての動力伝達ユニット100が構成される。ここで、プレート80の嵌合片87と円筒状部51の切欠57との嵌合は、凸状部83をレンチ等によって挟持した状態で、捩りコイルバネ70の付勢力に抗ってプレート80を回転させて行うものである。このとき、凸状部83と嵌合片87との間に隙間である透過部89が設けられることで、4つの嵌合片87のうち少なくとも1つ(実施例では2つ)の嵌合片87が目視可能であり、さらに切欠57が目視可能となる。これにより、プレート80の嵌合片87と円筒状部51の切欠57との位置関係を確認しながら、プレート80を回転させることができ、プレート80の嵌合片87と円筒状部51の切欠57との嵌合を容易に行うことができる。なお、クラッチ50の円筒状部51の内側には、円筒状を呈する内カラー93がプレート80側に配置されており、動力伝達ユニット100を動力伝達軸15に嵌合させた際に、内カラー93の一端がプレート80に、他端が動力伝達軸15の端部に当接することで、動力伝達ユニット100(特にクラッチ50)の強度の担保を図っている。
【0026】
動力伝達ユニット100において、捩りコイルバネ70の両端部71,73は、スプロケット60の係止孔62及びプレート80の係止孔82に係止されているものである。ここで、図7に示すように、実施例における捩りコイルバネ70は、無負荷状態において、その一端(端部71)と他端(端部73)とが軸方向視で一致している。しかし、図10に示すように、プレート80がクラッチ50に嵌合した状態において、プレート80の係止孔82とスプロケット60の係止孔62とは、軸方向視における位置が所定角度θ2ずれている。そのため、プレート80とクラッチ50との嵌合は、捩りコイルバネ70の両端部71,73が、プレート80とスプロケット60との係止孔82,62に挿入された状態で、プレート80の凸状部83をレンチ等によって挟持してバネ径が小さくなる方向に回転させることで可能となる。
【0027】
このように、動力伝達ユニット100は捩りコイルバネ70を付勢した状態で構成されているため、図10(a)に示される取付状態では、この付勢力によってクラッチ50の入力側クラッチ爪53の回転方向後端側とスプロケット60の出力側クラッチ爪63の回転方向前端側とが当接するように力が加わるものである。そして、図10(b)に示される駆動状態では、動力伝達軸15とともに回転するクラッチ50によって、クラッチ50の入力側クラッチ爪53の回転方向側とスプロケット60の出力側クラッチ爪63の回転方向後端側とが当接することで、クラッチ50の動力がスプロケット60に伝達される。この状態では、捩りコイルバネ70がさらに付勢されるものであり、端部71と端部72との位置が軸方向視で角度θ2より大きな角度θ3となり、バネ径はさらに小さくなる。なお、図10(a)及び(b)において、回転方向は矢印で示されている。
【0028】
このように、クラッチ50の入力側クラッチ爪53とスプロケット60の出力側クラッチ爪63とに所定の間隙をもたせながら、捩りコイルバネ70によって、入力側クラッチ爪53の回転方向後端側と出力側クラッチ爪63の回転方向前端側とが当接する方向に付勢されることにより、動力伝達軸15の不等速が発生した場合であっても、動力伝達ユニット100によってこれが緩和され、スプロケット60の出力としては不等速が緩和される。これにより、チェーンケース8の下部に設けられた出力側スプロケット69の出力は安定し易くなる。そして、駆動クラッチ18,19と従動クラッチ31L,31Rとの動力伝達が安定し、駆動クラッチ18,19及び従動クラッチ31L,31Rの摩耗や打撃音が抑制される。
【0029】
また、実施例によれば、スプロケット60が動力伝達軸15に接して回転するのではなく、クラッチ50の円筒状部51を中心軸としてこれに接触して回転する構成であるため、動力伝達軸15が摩耗等により劣化することを抑制できる。また、円筒状部51が摩耗等により劣化した際には、動力伝達ユニット100のみを交換等すれば足り、動力伝達軸15を交換等する必要がない。
【0030】
チェーンケース8には、動力伝達ユニット100が取り付けられる部分に、オイル挿入孔が設けられたカバー98が配設されている。オイル挿入孔にはキャップ98aが設けられており、必要に応じて着脱可能となっている。また、カバー98はチェーンケース8に対して着脱可能となっており、動力伝達ユニット100が消耗した際には、カバー98等を取り外して動力伝達ユニット100の交換やメンテナンスを行うことができる。
【0031】
なお、動力伝達ユニット100を交換等する場合は、クラッチ50に対してスプロケット60、リング部材56の順でこれらを取り付け、さらに捩りコイルバネ70、外カラー90及び内カラー93を取り付けた後に、プレート80を取り付けることによって動力伝達ユニット100を構成しておき、この動力伝達ユニット100を締結部材91等によって動力伝達軸15に取り付けることが好ましい。例えば、動力伝達軸15に対して、クラッチ50、スプロケット60、リング部材56の順でこれらを取り付け、さらに捩りコイルバネ70、外カラー90及び内カラー93を取り付けた後に、プレート80、座金95及び締結部材91を取り付けることでも、代掻き作業機1に対して動力伝達ユニット100を取り付けることになるが、この場合には、殆ど全ての作業を代掻き作業機の置いてある現場で行わなくてはならない。しかしながら上述のように、予め組み立てられた動力伝達ユニット100を動力伝達軸15に取り付けることにより、交換作業等が容易になるものである。
【0032】
また、実施例では、動力伝達ユニット100が、クラッチ50の円筒状部51に対してスプロケット60、リング部材56、捩りコイルバネ70の順番でそれぞれが支持されて構成されているため、スプロケット60の歯部67より軸方向の内側(動力伝達軸側)に出力側クラッチ爪63が配設されることになり、この出力側クラッチ爪63の分だけ軸方向外側に対する張り出しが小さくなる。このように、動力伝達ユニット100がコンパクトに構成されることにより、交換等の際に取り扱いが容易となる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、円筒状部と動力伝達軸とがそれぞれに形成されたスプライン溝によって嵌合される例を示したが、これに限定されない。円筒状部と動力伝達軸とが回転方向に対して固定されればよく、例えば、円筒状部の内側及び動力伝達軸の端部がいずれも角柱状であり、これが嵌合する構成でも構わない。
【0034】
また、円筒状部に対するプレートの周方向の固定位置を相対的に可変とするために、円筒状部の端部に設けられた切欠に対してプレートに設けられた嵌合片が嵌合される例を示したが、これに限定されない。例えば、円筒状部とプレートとにそれぞれ対応するスプライン溝を形成し、これらが嵌合するようにしても構わない。
【0035】
また、プレートに形成される係止孔の数が2箇所である例を示したが、これに限定されず、3箇所以上であっても構わない。また、係止孔の数は1箇所であっても構わないが、その場合には、プレートと円筒状部との周方向における固定位置が相対的に変更可能であることが好ましい。
【0036】
また、入力側係止部及び出力側係止部として、その形状がクラッチ爪である例を示したが、これに限定されない。入力側係止部及び出力側係止部は、回転方向に対して相対的に回転可能であり、かつ、回転方向に対して係止可能であればその形状は特に限定されない。
【符号の説明】
【0037】
1 代掻き作業機(ロータリ作業機)
8 チェーンケース(伝動ケース)
15 動力伝達軸
50 クラッチ(入力側回転体)
51 円筒状部
53 入力側クラッチ爪(入力側係止部)
60 スプロケット(出力側回転体)
63 出力側クラッチ爪(出力側係止部)
70 捩りコイルバネ(付勢部材)
80 プレート(係止部材)
100 動力伝達ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に回転可能な動力伝達軸に嵌合され、該動力伝達軸の不等速回転を緩和する動力伝達ユニットであって、
前記動力伝達軸に対して嵌合され該動力伝達軸とともに回転する円筒状部に入力側係止部が設けられた入力側回転体と、
該入力側回転体の円筒状部を回転軸として回転自在となるように該円筒状部が挿嵌され、前記入力側係止部に噛合可能な出力側係止部が設けられた出力側回転体と、
前記出力側回転体を回転方向に付勢する付勢部材と、を備え、
前記入力側回転体と前記出力側回転体とは、所定の角度の範囲で相対的に回転可能であることを特徴とする動力伝達ユニット。
【請求項2】
前記入力側回転体は、前記円筒状部における前記動力伝達軸側の端部に前記入力側係止部が設けられ、
前記動力伝達ユニットは、前記入力側回転体の円筒状部に対して、前記出力側回転体及び前記付勢部材が前記動力伝達軸側から前記出力側回転体、前記付勢部材の順に配置されていることを特徴とする請求項1記載の動力伝達ユニット。
【請求項3】
前記付勢部材は捩りコイルバネからなり、
該捩りコイルバネは、前記出力側回転体に設けられる係止孔と、前記円筒状部に固定される係止部材に設けられる係止孔とに、両端部が係止されていることを特徴とする請求項1又は2記載の動力伝達ユニット。
【請求項4】
略円筒状を呈する円筒状部の一端側に入力側係止部が設けられた入力側回転体と、
該入力側回転体の円筒状部が回転軸となるように該円筒状部に支持され、前記入力側係止部に噛合可能な出力側係止部が設けられた出力側回転体と、
前記出力側回転体を回転方向に付勢する捩りコイルバネと、を備える動力伝達機構を、所定方向に回転可能な動力伝達軸に対して取り付ける取付方法であって、
前記入力側回転体の円筒状部に対して前記出力側回転体及び前記捩りコイルバネを支持させることで予め動力伝達機構をユニット化し、該ユニット化された動力伝達機構における前記円筒状部を前記動力伝達軸に取り付けることを特徴とする動力伝達機構の取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−193829(P2012−193829A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60308(P2011−60308)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(390010836)小橋工業株式会社 (198)
【Fターム(参考)】