説明

動力伝達機構

【課題】トラクタ等の走行車両における動力伝達機構において、旋回用HSTを設けるに際し、その配置などを工夫することにより、車高の低下を防止するとともにミッションケース周囲に形成される空間を有効利用し、また、旋回用HSTの点検作業性を向上する。
【解決手段】ミッションケース23の左右両側にファイナルケース24L・24Rを配置し、各ファイナルケース24L・24Rに支持される車軸16・16上に駆動スプロケット11を設ける構成において、駆動スプロケット11に巻回されるクローラベルト14とミッションケース23との間に、各車軸16・16に回転数差を与えて操向を行うための旋回用HST65を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の走行車両における動力伝達機構の技術に関し、より詳しくは、操向を行うための旋回用HSTのレイアウト等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クローラ式走行装置により走行するトラクタ等の走行車両においては、走行変速を行うための走行用油圧式無段変速装置(走行用HST)及び操向操作を行うための旋回用HSTを備える構成のもの(例えば、特許文献1参照。)や、走行変速は主変速装置や副変速装置などのトランスミッションにより行い、操向操作は旋回用HSTにより行う構成のもの(例えば、特許文献2参照。)がある。このような構成のクローラ式の走行車両においては、フロントアクスル部に遊星歯車機構を備える強制デフ機構が配置されており、この強制デフ機構から左右に設けられる車軸に動力を伝達し、この車軸に軸支される駆動スプロケットを駆動することによって左右のクローラ式走行装置を駆動する構成としている。つまり、クローラ式走行装置における前端側に駆動スプロケットが配置される構成としている。そして、機体の旋回は、運転部に設けられる操向ハンドルを操作することにより、旋回用HSTの出力軸(モータ軸)を回転駆動させ、左右の遊星歯車機構を介して左右の車軸に回転数差を与えることにより行われる。
【特許文献1】特開2002−193151号公報
【特許文献2】特開2004−144162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前述したような構成のクローラ式の走行車両においては、フロントアクスル部に強制デフ機構が配置されており、この強制デフ機構を設けるための前ミッションケース等を設ける必要があるため、これがミッションケースの下方における突起物となり車高が低くなってしまう。このように車高が低いと、作業時において畦や作物にひっかかったりすることがあり、また、湿田作業時において走行性能が低下したり前記前ミッションケース等に泥土が付着したりして湿田走行性能の低下を招くことがある。一方、こうした不具合を回避するため、ミッションケースの配置位置を高くして車高を高くする方法が考えられるが、車高を高くすると重心位置が高くなり、畦越え時やトラック積載時に機体の安定性が損なわれる。
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、旋回用HSTを設けるに際し、その配置などを工夫することにより、車高の低下を防止するとともにミッションケース周囲に形成される空間を有効利用することができ、また、旋回用HSTの点検作業性を向上することができる動力伝達機構を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、ミッションケースの左右両側にファイナルケースを配置し、前記各ファイナルケースに支持される車軸上にスプロケットを設ける構成において、前記スプロケットに巻回されるクローラベルトと前記ミッションケースとの間に、前記各車軸に回転数差を与えて操向を行うための旋回用HSTを配置したものである。
【0007】
請求項2においては、請求項1記載の動力伝達機構において、前記旋回用HSTを左右一側のファイナルケースの前面に配置したものである。
【0008】
請求項3においては、請求項1または請求項2記載の動力伝達機構において、前記旋回用HSTを前記スプロケットよりも前方に配置したものである。
【0009】
請求項4においては、請求項1〜3のいずれかの項記載の動力伝達機構において、前記旋回用HSTのポンプ軸及びモータ軸を前記車軸に対して直角に配置したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、クローラベルトとミッションケースとの間の空間を有効利用することができるとともに車高が低くなることを防止できる。また、クローラベルトにより機体側方からの障害物などから旋回用HSTを保護することができる。
【0012】
請求項2においては、ファイナルケースの前方の空間を有効利用することができ、省スペース化を図ることができる。また、旋回用HSTを設けることによるミッションケースの下方に突出する部分が少なくなるので、車高が低くならずに、機体の重心を低く保つことができる。また、放熱性も高くなる。
【0013】
請求項3においては、旋回用HSTにおける可動斜板の斜板軸の点検などを行う際、スプロケットによって視界が遮られることなく外側から行うことができるので、点検時における作業性の向上が図れる。
【0014】
請求項4においては、旋回用HSTのポンプ軸及びモータ軸を車軸に対して平行に配置するよりも、旋回用HSTの左右幅が短くなり、前後長も短く構成することができるので、旋回用HSTを左右一側のファイナルケースの前面にコンパクトに取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係るトラクタの全体構成を示す側面図、図2は本発明に係る動力伝達機構を示す側面一部断面図、図3はミッションケースを示す平面断面図、図4は同じく側面断面図、図5はミッションケースの後部を示す平面断面図、図6は動力取出ギヤケースを示す平面断面図、図7はミッションケースの正面図、図8は図3におけるR矢視図、図9はミッションケースをホイル型に適用した場合の平面断面図である。なお、以下においては、図1に示すクローラトラクタの進行方向を「前」、その反対側を「後」とし、進行方向右側を「右」、同じく左側を「左」として説明する。
【0016】
まず、本発明に係る動力伝達機構を採用したクローラトラクタの概略構成について、図1を用いて説明する。
図1に示すように、クローラトラクタは、左右一対のクローラ式走行装置1を備えておおり、このクローラ式走行装置1の前部上方にはエンジン3が配置され、同じくクローラ式走行装置1の後部上方にはミッションケース23が配置されている。エンジン3は、クローラトラクタの左右下側に配置されるメインフレーム6・6間に固設されており、ボンネット4で覆われている。このボンネット4の後方には、ダッシュボード2が設けられており、このダッシュボード2内にステアリングコラムが設けられている。このステアリングコラムにはハンドル軸が支持されており、このハンドル軸の上端に機体の操向操作を行うステアリングハンドル7が配置されている。また、ステアリングハンドル7の後方にはシート8が設けられており、このシート8とダッシュボード2との間の下方にはステップ18が配置されている。そして、これらステアリングハンドル7やシート8やステップ18等から運転部が構成されている。また、シート8の後方には、安全フレーム9が立設している。
【0017】
前記運転部において、前記ダッシュボード2には、機体の前後進を切り換えるためのリバーサレバー17が、ダッシュボード2の側方から突出するように設けられている。また、ダッシュボード2の下側には、ブレーキペダル19が配置されている。また、シート8の近傍には、主変速レバーや副変速レバーやPTO変速レバー等(共に図示略)が配設されている。そして、機体後端部には、耕耘ロータリ作業機やプラウ等の各種作業機を装着するための三点リンク式の装着装置(昇降機構)10が設けられている。
【0018】
前記クローラ式走行装置1は、トラックフレーム15に支持されており、このトラックフレーム15においては、その前端部及び後端部にアイドラ(従動スプロケット)12・12が回転自在に支持されるとともに、これら前後のアイドラ12・12間に転輪13・13・・・が回転自在に支持されている。また、後側のアイドラ12の斜め上前方には、前記ミッションケース23より左右に突出する車軸16に支持される駆動スプロケット11が配置されている。そして、これら駆動スプロケット11、アイドラ12・12及び転輪13・13・・・の周囲にクローラベルト14が巻回され、左右一対のクローラ式走行装置1が構成されている。
【0019】
次に、クローラトラクタの駆動伝達系について図2及び図3を用いて説明する。
前記エンジン3の後方には、フライホイール27を収納するフライホイールケース21を介して前後進切換装置30やPTO変速装置40等を収納するクラッチハウジング22が設けられ、このクラッチハウジング22の後方にはミッションケース23が連接している。ミッションケース23は、前端に構成される前端壁23aを有しており、後端は後端壁23eにより閉じられている。また、ミッションケース23内には、前側から、第一軸受壁23b、第二軸受壁23c及び第三軸受壁23dが適宜間隔を隔てて配設されている。そして、ミッションケース23内において、前端壁23aと第一軸受壁23bとの間には主変速装置50が、第一軸受壁23bと第二軸受壁23cとの間には副変速装置70がそれぞれ配設されている。また、副変速装置70の後方には、該副変速装置70を介して伝達されるエンジン3からの動力を左右方向に分配するための出力軸82が、ミッションケース23を左右方向に貫通した状態で支承されている。一方、ミッションケース23の後端壁23eにはPTO軸46が支承されており、ミッションケース23の後方に向けて突出している。
【0020】
また、ミッションケース23の後部においては、その左右両側にファイナルケース24L・24Rが配置されており、各ファイナルケース24L・24Rには前記車軸16が回転自在に支持されている。そして、各車軸16・16端には、前記駆動スプロケット11が固設されている。ここで、各ファイナルケース24L・24Rは、ミッションケース23の左右両側面に対してボルト等の締結具140により固定され取り付けられる。また、前記車軸16・16は、各ファイナルケース24L・24Rにおいて左右方向外側に延設される筒状の車軸ケース24a内に収納されるとともに支持される。なお、図3において、機体進行方向左側のファイナルケース24Lの左側部は、反対側のファイナルケース24Rと略対称であるため図示を省略している。
【0021】
そして、左右の各ファイナルケース24L・24R内には、減速ギヤ機構85及び差動機構を兼ねる遊星歯車機構110がそれぞれ収納されている。
【0022】
このような構成において、エンジン3からの動力が、主変速装置50で変速された後に副変速装置70で変速され、前記出力軸82を介して左右に分配されて、左右のファイナルケース24L・24Rにおいて減速ギヤ機構85及び遊星歯車機構110を介して各車軸16・16に伝達され、左右の駆動スプロケット11・11に伝達可能にされている。こうして、本発明に係る動力伝達機構における直進駆動力伝達経路が構成されている。また、エンジン3からの動力は、PTO変速装置40を介して、このPTO変速装置40から後方に向けて延設されるPTO伝達軸42からPTO軸46へと伝達可能にされている。
【0023】
そして、本構成の動力伝達機構の特徴として、左右一側(本実施形態においては右側)のファイナルケース24Rの前面に、前記左右の遊星歯車機構110・110を介して車軸16・16に回転数差を与えて機体の操向を行うための旋回用油圧式無段変速装置(以下「旋回用HST」という。)65が付設されている。
【0024】
旋回用HST65は、図7及び図8に示すように、一組の固定容量型の油圧モータ68及び可変容量型の油圧ポンプ67から構成されている。この旋回用HST65においては、油圧ポンプ67の可動斜板が変速アームやリンク機構を介して前記ステアリングハンドル7に連係されており、ステアリングハンドル7の操作によって油圧ポンプ67から油圧モータ68に圧油が吐出され、この油圧モータ68が駆動される構成となっている。そして、旋回用HST65の出力と前記副変速装置70からの出力とが左右の遊星歯車機構110・110で合成されて、左右の車軸16・16を介して駆動スプロケット11・11に伝達される。なお、後に詳述するが、ファイナルケース24Rに付設されている旋回用HST65の出力は、ベベルギヤを介して分配され、ミッションケース23を左右方向に貫通する伝動軸69を介して伝達される。
【0025】
すなわち、旋回用HST65が停止状態では、エンジン3の動力は、前記直進駆動力伝達経路のみを伝達されて、左右の車軸16・16に同回転数が伝達されて機体は直進状態となり、旋回用HST65の出力が左右の遊星歯車機構110・110に伝達されると、左右の駆動スプロケット11・11の回転数の相対的な増減制御により機体が旋回する構成となっている。こうして、左右の駆動スプロケット11・11が回転駆動することによって左右のクローラベルト14・14が回転し、クローラ式走行装置1の駆動により機体の直進や旋回が行われる。
【0026】
このように、本構成においては、旋回用HST65をミッションケース23の左右一側に配置している。これにより、旋回用HST65を組み付ける際の組立てが容易となる。また、機体の側方から旋回用HST65における斜板軸の点検などのメンテナンスを行うことができるので、メンテナンスの容易化を図ることが可能となる。つまり、旋回用HST65をミッションケース23内に設けるとメンテナンスが難しくなるが、こうした不具合を防止することができる。また、左右対称とするために旋回用HST65をミッションケース23の上面や下面に配置すると、全高が高くなったり、最低地上高が低くなったり、周囲の機器と干渉したりするが、こうした不具合も防止することができる。
【0027】
具体的には、前述したように、ミッションケース23の左右両側に配置されるファイナルケース24L・24Rの一側のファイナルケースに付設することにより、旋回用HST65をミッションケース23外の左右一側に配置している。このように、旋回用HST65を左右一側のファイナルケースに付設することにより、予め旋回用HST65をファイナルケースに組み付けることができ、旋回用HST65をファイナルケースと共にミッションケース23に組み付けることが可能となるので組立てが容易となる。
【0028】
また、図3等に示すように、旋回用HST65は、ファイナルケースの前面に配置して付設するのがより好ましい。これにより、ファイナルケースの前方の空間を有効利用することができ、省スペース化を図ることができる。また、旋回用HST65を設けることによるミッションケース23の下方に突出する部分が少なくなるので、車高が低くならずに、機体の重心を低く保つことができる。また、放熱性も高くなる。
【0029】
さらに、旋回用HST65のクローラ式走行装置1に対する配置について、旋回用HST65は、クローラ式走行装置1におけるクローラベルト14とミッションケース23との間に配置されている。このように旋回用HST65を配置することで、クローラベルト14とミッションケース23との間の空間を有効利用することができる。また、クローラベルト14により機体側方からの障害物などから旋回用HST65を保護することができる。
【0030】
また、クローラ式走行装置1を構成する駆動スプロケット11よりも前方に旋回用HST65を配置している。すなわち、ファイナルケース24Rに付設された状態の旋回用HST65が、駆動スプロケット11の前端位置A(図3)よりも前側に位置するようにしている。これにより、旋回用HST65における可動斜板の斜板軸の点検などを行う際、駆動スプロケット11によって視界が遮られることなく外側から行うことができるので、点検時における作業性の向上が図れる。
【0031】
続いて、動力伝達機構の具体的構成について図4及び図5を加えて説明する。
前記エンジン3からは、その出力軸(図示略)が後方に向けて突出しており、この出力軸にはクラッチハウジング22に軸支された主軸31がフライホイール27及びクラッチ(またはダンパー)28を介して連結されている。前記主軸31の動力は、前記前後進切換装置30を介してこの前後進切換装置30から後方に向けて延設される主変速入力軸55に伝達される。ここで、前後進切換装置30は、シンクロクラッチや油圧クラッチ等で構成される前進側クラッチ及び後進側クラッチを有する周知の構造であり、これら前進側クラッチ及び後進側クラッチの断接の切換えにより、主変速入力軸55の回転を正転方向または逆転方向に切り換える。また、前進側クラッチ及び後進側クラッチの断接の切り換えは、前記リバーサレバー17の操作により行われる。ただし、リバーサレバー17がニュートラル位置の場合は、主軸31からの動力は主変速入力軸55には伝達されない。
【0032】
また、主軸31より前後進切換装置30に伝達される動力は、PTO変速装置40にもPTO変速入力軸43を介して入力され、このPTO変速装置40から後方に向けて延設されるPTO伝達軸42に伝達される。つまり、主軸31の動力は、前後進切換装置30を介してPTO変速装置40に入力され、このPTO変速装置40にて変速されてPTO伝達軸42に伝達される。PTO伝達軸42は、一軸でまたは複数の軸が同心配置され相対回転不能に連結されて後方に延設され、ミッションケース23の前端壁23a、第一軸受壁23b、第二軸受壁23c及び第三軸受壁23dを貫通し、第三軸受壁23dで支承されるとともに後端部がミッションケース23の後端壁23eに支承されている。そして、前記後端壁23eの略中央部には、前記PTO軸46が軸受体25を介して支承されており、このPTO軸46の前端は第三軸受壁23dの上部に支承され、後端部は後端壁23eよりも後方へ向けて突出している。つまり、このPTO軸46の後方突出部から、機体の後方に連結される作業機を駆動するための動力を取り出す。そして、PTO軸46の前部には、PTO伝達軸42に固設されている入力ギヤ44に噛合する出力ギヤ45が固設されており、PTO伝達軸42の動力は、入力ギヤ44及び出力ギヤ45を介してPTO軸46に伝達されPTO軸46が回転する。
【0033】
一方、前後進切換装置30から後方に向けて突出する主変速入力軸55は、一軸でまたは複数の軸が同心配置され相対回転不能に連結されて後方に延設され、ミッションケース23の前端壁23aを貫通するとともにこの前端壁23aに支承されている。そして、この主変速入力軸55には、前端壁23aと第一軸受壁23bとの間において、第一入力ギヤ51、第二入力ギヤ52、第三入力ギヤ53及び第四入力ギヤ54が固設または形設されている。また、前端壁23aと第一軸受壁23bとの間には、主変速軸60が主変速入力軸55と平行に支承されている。この主変速軸60には、第一出力ギヤ56、第二出力ギヤ57、第三出力ギヤ58及び第四出力ギヤ59が遊嵌されており、これら各出力ギヤ56・57・58・59に、前記主変速入力軸55に設けられている各入力ギヤ51・52・53・54がそれぞれ対応して噛合している。そして、主変速軸60上の第一出力ギヤ56と第二出力ギヤ57とに挟まれた位置及び第三出力ギヤ58と第四出力ギヤ59とに挟まれた位置には、クラッチスライダ61・62がこの主変速軸60に対して相対回転不能かつ摺動自在にクラッチハブを介してそれぞれ嵌合されている。これらクラッチスライダ61・62は、適宜のリンク機構を介して運転部に設けられる主変速レバーに連係されている。
【0034】
また、第一出力ギヤ56及び第二出力ギヤ57にはクラッチスライダ61に係合可能な爪部が形成されており、第三出力ギヤ58及び第四出力ギヤ59にはクラッチスライダ62に係合可能な爪部が形成されている。そして、クラッチスライダ61・62は、前記主変速レバーの操作により主変速軸60の軸方向に摺動し、第一出力ギヤ56、第二出力ギヤ57、第三出力ギヤ58、第四出力ギヤ59のうちいずれか一つの出力ギヤの爪部と係合するように構成されている。こうして、四段階の変速を可能とした主変速装置50が構成され、主変速入力軸55の動力が主変速軸60上の出力ギヤ56・57・58・59のうちいずれか一つの出力ギヤに入力されて、この出力ギヤから主変速入力軸55の変速後の動力が主変速軸60に出力されるようになっている。
【0035】
また、前記主変速軸60は、後方に延設されるとともにその後端部が第二軸受壁23cに支持されており、その延設された部分が副変速装置70における副変速入力軸74を構成する。この副変速入力軸74には、第一入力ギヤ71及び第二入力ギヤ72が固設または形設されている。また、前記主変速入力軸55の後端部には、副変速軸75が主変速入力軸55と同軸に相対回転自在に連結されており、第一軸受壁23bと第二軸受壁23cとの間において前記副変速入力軸74と平行に支持されている。この副変速軸75には、第一出力ギヤ76及び第二出力ギヤ77が形成された出力ギヤ78が遊嵌されている。そして、この出力ギヤ78が副変速軸75上を摺動することにより、前記第一入力ギヤ71と第一出力ギヤ76との噛合または第二入力ギヤ72と第二出力ギヤ77との噛合が選択的に行われる。ここで、噛合するギヤの選択、即ち出力ギヤ78の摺動は、前記副変速レバーの操作により行われる。こうして、二段階の変速を可能とした副変速装置70が構成され、副変速入力軸74の動力が副変速軸75上の出力ギヤ76・77のうちいずれかの出力ギヤに入力されて、この出力ギヤから副変速入力軸74の変速後の動力が副変速軸75に出力されるようになっている。なお、第一出力ギヤ76及び第二出力ギヤ77は、各ギヤを別体に形成し、各ギヤに挟まれた位置において副変速軸75に対して相対回転不能かつ摺動自在にクラッチハブを介してクラッチスライダを設け、このクラッチスライダに前記副変速レバーを適宜のリンク機構を介して連係する構成とすることもできる。
【0036】
また、前記副変速軸75の後端にはベベルギヤ81が固設されて第二軸受壁23cよりも後方に突出している。このベベルギヤ81は、ミッションケース23内において副変速軸75と垂直方向、即ち機体左右方向に架設され支承される出力軸82に固設されるベベルギヤ83に噛合している。
【0037】
前記出力軸82の左右両端部は、左右のファイナルケース24L・24R内にそれぞれ突出しており、その突出部分には、減速入力ギヤ86がそれぞれ固設または形設されている。また、出力軸82の後方においては、ミッションケース23の左右両側において該ミッションケース23及び各ファイナルケース24L・24Rに支承される減速出力軸87・87が、各ファイナルケース24L・24R内において各ファイナルケース24L・24Rに支持される車軸16・16と同心配置されている。そして、この減速出力軸87には、前記減速入力ギヤ86と噛合する減速出力ギヤ88が固設または形設されている。このような構成において、副変速装置70からの動力がベベルギヤ81・83を介して出力軸82に伝達され、この出力軸82の動力が減速入力ギヤ86及び減速出力ギヤ88からなる減速ギヤ機構85を介して減速されて、各ファイナルケース24L・24R内における遊星歯車機構110を介して車軸16へと伝達される。こうして、直進駆動力伝達経路における左右の遊星歯車機構110の前段に減速ギヤ機構85が配置されている。
【0038】
このように、直進駆動力伝達経路において、左右の遊星歯車機構110の前段に減速ギヤ機構85を配置することにより、副変速装置70から伝達されるエンジン3の動力が減速された後に、回転数が変更されて機体が旋回することになるので、旋回時の車軸16・16の回転数制御を容易に行うことができる。
【0039】
また、旋回用HST65が付設されるファイナルケース24Rと反対側のファイナルケース24Lには、機体を駐車させる際のブレーキ90が設けられている。ブレーキ90は、図5等に示すように、ファイナルケース24L内において出力軸82の端部に設けられており、この出力軸82の制動を行うことにより、直進駆動力伝達経路における動力伝達を制御する。
【0040】
ブレーキ90は、出力軸82に固設されているディスク91に押圧板95が押圧されることによる摩擦力によって出力軸82を制動するいわゆるディスクブレーキに構成されている。具体的には、ファイナルケース24L内に設けられるブレーキケース94に出力軸82の端部が突出しており、この突出した部分にディスク91が固設されている。そして、この押圧板95が出力軸82の軸方向においてディスク91を押圧する方向に移動することにより、ディスク91が制動されるとともに出力軸82が制動される。ここで、前記押圧板95のディスク91を押圧する方向の移動は、該押圧板95の面方向の移動または回転にともなうボール96による押圧板95の押し出し作用により行われる。すなわち、押圧板95及びブレーキケース94には、押圧板95が回転することにより前記ボール96によって該押圧板95が出力軸82の軸方向に押されて移動するように溝部がそれぞれ形成されており、この溝部に前記ボール96が転動可能に介装される。
【0041】
また、押圧板95の面方向の移動または回転は、ブレーキケース94からファイナルケース24Lを介して外側に突出するブレーキ軸97の回転により行われる。すなわち、このブレーキ軸97には、該ブレーキ軸97が回転することによって押圧板95を面方向に移動または回転させるためのブレーキカム98が形成されており、このブレーキカム98を介してブレーキ軸97の回転が押圧板95のディスク91の加圧へと変換される。そして、このブレーキ軸97のファイナルケース24Lよりも外側に突出する部分には、ブレーキアーム99が固設されており、このブレーキアーム99には、前記ブレーキペダル19と連係されているワイヤ等の連結部材が連結されている。このような構成において、ブレーキペダル19を操作することにより、前記連結部材を介してブレーキアーム99が回転するとともに押圧板95がディスク91を加圧し、出力軸82が制動される。
【0042】
このように、旋回用HST65が付設されるファイナルケース24Rと反対側のファイナルケース24Lにブレーキ90を設けることにより、左右の重量バランスを向上することができ、機体の安定した走行や旋回が可能となる。また、旋回用HST65が付設されない側のファイナルケース24Lにおける空きスペースを有効に利用することができるので、省スペース化が図れ機体のコンパクト化を図ることができる。
【0043】
ところで、前述したように、ミッションケース23の右側に配置され、ファイナルケース24Rの前面に付設される旋回用HST65は、HSTケース66がファイナルケース24Rに固定されることにより取り付けられる。そして、このHSTケース66内に油圧ポンプ67及び油圧モータ68が上下に並設されており、旋回用HST65の入力軸である油圧ポンプ67のポンプ軸67a及び旋回用HST65の出力軸である油圧モータ68のモータ軸68aが、機体前後方向に軸支され互いに上下方向に並列している。言い換えると、旋回用HST65のポンプ軸67a及びモータ軸68aは、各ファイナルケース24L・24Rに支持されている車軸16・16に対して直角に配置されている。
【0044】
このように、旋回用HST65のポンプ軸67a及びモータ軸68aを前後方向に配置し、車軸16に対して直角に配置することにより、車軸16に対して平行に配置するよりも旋回用HST65の左右幅が短くなり、前後長も短く構成することができるので、旋回用HST65を左右一側のファイナルケースの前面にコンパクトに取り付けることができる。
【0045】
そして、旋回用HST65の油圧モータ68のモータ軸68aは、ファイナルケース24R内に突出しており、この突出した部分にはベベルギヤ100が固設または形設されている。このベベルギヤ100には、ファイナルケース24R内にモータ軸68aに対して直角方向に支持される旋回逆転軸101に固設または形設されるベベルギヤ102が噛合している。また、ベベルギヤ100におけるベベルギヤ102と対向する位置においては、ミッションケース23を左右方向に貫通して支持される伝動軸69の端部に固設または形設されるベベルギヤ103が噛合している。これにより、モータ軸68aからの動力が、ベベルギヤ100・102・103を介して旋回逆転軸101及び伝動軸69に対して互いに逆回転となって伝達される。
【0046】
そして、旋回逆転軸101には遊星歯車機構入力ギヤ104が固設または形設されており、この遊星歯車機構入力ギヤ104を介してファイナルケース24Rに収納される遊星歯車機構110に動力が伝達される。一方、ファイナルケース24R内においてモータ軸68aからの動力が分配される伝動軸69の他側は、ミッションケース23を左右方向に貫通するとともにファイナルケース24L内に延設され、その端部がファイナルケース24Lに支承されている。そして、このファイナルケース24L内における伝動軸69には、ファイナルケース24L内に収納される遊星歯車機構110に動力を伝達する遊星歯車機構入力ギヤ104が固設または形設されている。つまり、このような構成により、モータ軸68aからの動力がベベルギヤ100・102・103を介して旋回逆転軸101及び伝動軸69に対して互いに逆回転となるように分配して伝達され、各遊星歯車機構入力ギヤ104・104を介して左右の遊星歯車機構110・110それぞれ入力される。
【0047】
このように、ミッションケース23の左右一側に配置される旋回用HST65より左右他側に配置される遊星歯車機構110への動力の伝達を、ミッションケース23を左右に貫通する伝動軸69を介して行うことにより、ミッションケース23の上方または下方に突起部が形成されることなく、ミッションケース23の左右一側の旋回用HST65より左右他側の遊星歯車機構110への動力の伝達を行うことができるので、車高が低くなったり、機体後部に設けられる装着装置(昇降機構)10等の動作が妨げられたりすることを防止することができる。
【0048】
前述した各ファイナルケース24L・24Rに収納される遊星歯車機構110・110は、左右略対称の構成であり、前記遊星歯車機構入力ギヤ104と噛合するアウタギヤ111と、車軸16に固設される第一サンギヤ112と、前記減速出力軸87に固設される第二サンギヤ113と、同じく減速出力軸87に該減速出力軸87の外周上を回転するように遊嵌されるキャリア114と、前記第一サンギヤ112及び第二サンギヤ113に噛合する二つのプラネタリギヤ115a・115bとを備えている。アウタギヤ111は、車軸16の外周上を回転するように車軸16に遊嵌されておりキャリアとして機能する。つまり、アウタギヤ111とキャリア114とは、プラネタリシャフト116により連結され一体的に回転するように構成されており、このプラネタリシャフト116に前記プラネタリギヤ115a・115bが回転自在に支持されている。そして、これら二つのプラネタリギヤ115a・115bのうち一方のプラネタリギヤ115aに前記第一サンギヤ112が噛合しており、他方のプラネタリギヤ115bに前記第二サンギヤ113が噛合している。
【0049】
このような構成の遊星歯車機構110・110において、直進駆動力伝達経路において減速出力軸87から入力される動力と、旋回用HST65からアウタギヤ111を介して入力される動力とが合成され、この合成される動力が駆動スプロケット11・11を軸支する車軸16・16に伝達されて機体の直進及び旋回が行われる。
【0050】
続いて、旋回用HST65への動力伝達について図6〜図8を用いて説明する。
旋回用HST65への動力は、前述した前後進切換装置30と主変速装置50との間より取り出す構成としている。本実施形態においては、主変速装置50の主変速入力軸55から動力を取り出して旋回用HST65を駆動する構成としている。この場合、主変速入力軸55の旋回用HST65が配置される側の側方(本実施形態においては右側側方)において、主変速入力軸55の動力を取り出すための開口部がミッションケース23に設けられる。そして、この開口部から主変速入力軸55の動力を取り出すための動力取出ギヤケース119がミッションケース23に取り付けられる。つまり、ミッションケース23の旋回用HST65が配置される側の側面に、旋回用HST65用の動力取出ギヤケース119を設けている。ここで、動力取出ギヤケース119は、そのフランジ部119aを介してボルト等の締結具141によってミッションケース23に固定される。
【0051】
そして、動力取出ギヤケース119内には、主変速入力軸55の動力を変速するための変速機構120が収納されている。つまり、主変速入力軸55からの動力が、動力取出ギヤケース119内の変速機構120を介して変速されるとともに取り出され、旋回用HST65の入力軸であるポンプ軸67aへ伝達される構成となっている。
【0052】
具体的には、動力取出ギヤケース119の一端側には、主変速入力軸55の動力を取り出すための第一中間軸121を軸支する支持部119bが形成されており、この支持部119bが、動力取出ギヤケース119をミッションケース23に取り付けた状態でミッションケース23内に張り出している。これにより、前記第一中間軸121がミッションケース23内において主変速入力軸55と平行に配置される。そして、この第一中間軸121には、主変速入力軸55に設けられている第三入力ギヤ53と噛合する第一入力ギヤ123と、第二入力ギヤ124とが一体的に形成され回転自在に支持されている。
【0053】
また、動力取出ギヤケース119内には、第二中間軸122が支承されており、この第二中間軸122には、前記第一入力ギヤ123と噛合可能な第一出力ギヤ125と、第二入力ギヤ124と噛合可能な第二出力ギヤ126とが一体的に形成されている変速ギヤ127が相対回転不能かつ摺動可能に遊嵌されている。この変速ギヤ127が第二中間軸122上を摺動することにより、第一入力ギヤ123と第一出力ギヤ125とが噛合した状態と、第二入力ギヤ124と第二出力ギヤ126とが噛合した状態と、前記いずれの噛合も解除されて第一中間軸121から第二中間軸122への動力の伝達が行われない状態とが選択される。
【0054】
そして、第二中間軸122には入力ギヤ128が固設または形設されており、この入力ギヤ128が動力取出ギヤケース119に支承される旋回用HST入力軸130に固設または形設される出力ギヤ129に噛合している。これにより、第二中間軸122の動力は、旋回用HST入力軸130に常時伝達される構成となっている。旋回用HST入力軸130は、旋回用HST65のポンプ軸67aと同心配置されるとともに該ポンプ軸67aと相対回転不能に連結された状態で、動力取出ギヤケース119に支承されている。つまり、旋回用HST入力軸130の回転が直接ポンプ軸67aに伝達される。
【0055】
このようにして、第二中間軸122に遊嵌される変速ギヤ127を摺動させることにより、旋回用HST65への動力の伝達の断接及び二段階の変速を可能とした変速機構120が構成され、主変速入力軸55の動力が、第一中間軸121、第二中間軸122及び旋回用HST入力軸130を介してポンプ軸67aに伝達されて旋回用HST65が駆動する。
【0056】
このように、前後進切換装置30と主変速装置50との間より、旋回用HST65の動力を取り出す構成とすることにより、旋回用HST65の入力に際して主変速装置50や副変速装置70などにおいて変速される前の所定の回転数を得ることが可能となる。これにより、安定した操向操作性が得られる。また、前後進切換装置30によって切り換えられる前進と後進で逆回転入力を得られるため、ステアリングハンドル7から旋回用HST65までの旋回操作部の構造を簡単にすることができる。
【0057】
また、ミッションケース23の側面に、旋回用HST65用の動力取出ギヤケース119を設けることにより、旋回用HST65の動力を取り出すための動力取出ギヤケース119をミッションケース23に組み付ける際、機体側方より容易に組み立てることができる。また、後述するように、ミッションケース23をホイル型に適用するときには、前述したミッションケース23に設けられる開口部を蓋等で閉じるだけでよい。
【0058】
さらに、動力取出ギヤケース119内に変速機構120を設けることにより、旋回用HST65に対して独立した変速を行うことができ、機体の高速走行や低速走行など、走行速度に対応して旋回用HST65への動力の伝達を行うことが可能となる。すなわち、例えば、副変速装置70と変速機構120をワイヤやリンク等を介して連動させ、または電気的に連動させることにより、高速走行時には低速回転で旋回用HST65を駆動して急旋回を防止し、低速走行時には高速回転で旋回用HST65を駆動して、小さな操向操作で旋回半径を小さくすることができるようになる。
【0059】
このように、本構成においては、前後進切換装置30、主変速装置50、副変速装置70を介して伝達されるエンジン3からの動力を左右の遊星歯車機構110・110を介して左右の車軸16・16に伝達する直進駆動力伝達経路を有する一方、前記各遊星歯車機構110・110には旋回用HST65の出力を伝達する構成としている。そして、旋回用HST65の出力は、該旋回用HST65の出力軸であるモータ軸68aより前記ベベルギヤ100・102・103を介して動力を分配され、左右の遊星歯車機構110・110に伝達する構成としている。ここで、旋回用HST65の出力は、各遊星歯車機構110・110のアウタギヤ111に伝達される。
【0060】
具体的な操作態様としては、前記ステアリングハンドル7による操作が中立位置を維持している場合には、旋回用HST65の油圧モータ68のモータ軸68aは回転駆動されないので、このモータ軸68aに固設されているベベルギヤ100は回転せずに固定される。これにより、旋回逆転軸101上に固設されているベベルギヤ102及び伝動軸69上に固設されているベベルギヤ103が回転せずに固定されるので、旋回逆転軸101及び伝動軸69それぞれに固設されている遊星歯車機構入力ギヤ104・104も回転せずに固定される。よって、左右の遊星歯車機構入力ギヤ104・104に噛合する各遊星歯車機構110・110のアウタギヤ111にブレーキ作用が発生し、アウタギヤ111及びこのアウタギヤ111と同期回転するキャリア114は、車軸16及び減速出力軸87上で回転することなく略固定状態に維持される。この結果、第二サンギヤ113の回転のみが、プラネタリギヤ115a・115bと第一サンギヤ112とを介して車軸16に出力されることとなる。つまり、ステアリングハンドル7が中立位置を保持している場合には、エンジン3から副変速装置70などを介する直進駆動力伝達経路を経る出力のみが各遊星歯車機構110・110に入力されるため、左右の車軸16・16(駆動スプロケット11・11)が同方向かつ同回転数で回転駆動され、機体が直進するようになる。
【0061】
一方、ステアリングハンドル7の左右旋回操作時には、ステアリングハンドル7の操作により旋回用HST65の油圧ポンプ67から油圧モータ68に圧油が吐出されて、油圧モータ68のモータ軸68aが回転駆動される。そして、モータ軸68aの動力がベベルギヤ100を介して旋回逆転軸101に固設されているベベルギヤ102及び伝動軸69に固設されているベベルギヤ103に伝達され、旋回逆転軸101と伝動軸69とが互いに逆回転かつ同回転数で回転駆動される。これにより、旋回逆転軸101と伝動軸69とに固設されている遊星歯車機構入力ギヤ104・104に噛合する各遊星歯車機構110・110のアウタギヤ111・111が、逆回転かつ同回転数で車軸16・16上を回転し、これらアウタギヤ111の回転にともない、キャリア114及びプラネタリギヤ115a・115bも車軸16及び減速出力軸87上を逆回転かつ同回転数で回転する。ここで、プラネタリギヤ115a・115bのキャリア114(アウタギヤ111)に対する回転方向と、プラネタリギヤ115a・115bの車軸16(減速出力軸87)に対する回転方向とが、逆方向であれば旋回用HST65の出力が加算されて第一サンギヤ112の回転数が増加し、同方向であれば旋回用HST65の出力が減算されて第一サンギヤ112の回転数が減少して、第一サンギヤ112の回転が車軸16に出力される。つまり、ステアリングハンドル7の左右旋回操作時には、エンジン3からの、主変速装置50及び副変速装置70等を介する直進駆動力伝達経路を経る出力と、旋回用HST65を介する出力とが左右の遊星歯車機構110・110で合成されるため、左右の車軸16・16(駆動スプロケット11・11)が回転数差をともなって回転駆動され、機体が左方向または右方向に旋回するようになる。
【0062】
このようにして、機体が旋回する際、この機体の旋回半径は左右の車軸16・16の回転数差によって決定される。ここで、各車軸16・16の回転数差は、左右の遊星歯車機構110・110において直進駆動力伝達経路からの動力に対して合成される旋回用HST65(油圧モータ68のモータ軸68a)からの動力に応じて変更される。
【0063】
以上、説明した本構成の動力伝達機構においては、ミッションケース23の左右に配置されるファイナルケース24L・24Rを変更するだけで、ミッションケース23本体に軸受などを追加する必要もなく、ミッションケース23をクローラ型とホイル型とで共用することが可能となる。具体的に前記ミッションケース23をホイル型に適用する場合は、例えば図9に示すように構成される。すなわち、ミッションケース23の後部左右両側にホイル型用のファイナルケース224L・224Rを配置し、副変速装置70の後方に、該副変速装置70の副変速軸75の後端に設けられるベベルギヤ81と噛合するベベルギヤ283を有するデフ機構280を構成するとともに、このデフ機構280から左右のファイナルケース224L・224R内に出力軸282・282を左右方向にそれぞれ支承する。また、各ファイナルケース224L・224R内には車軸216・216をそれぞれ支承するとともに各ファイナルケース224L・224Rにおいて機体に対して外側に突出させ、この車軸216・216の突出した部分に駆動輪となる後輪211・211を固設する。そして、前記出力軸282に固設または形設される減速入力ギヤ284と、車軸216に固設または形設される減速出力ギヤ285とを介して出力軸282・282の動力を車軸216・216に伝達する構成とする。また、この場合、旋回用HST65の動力を取り出すための動力取出ギヤケース119をミッションケース23から取り外すことにより、容易にホイル型の場合に不要な機構を省略することができる。このようにして、駆動輪である後輪211・211を機体後部に配設するとともに、機体前部には従動輪である前輪(図示略)を配設することによりホイル型の走行車両を構成する。なお、図9において、機体進行方向左側のファイナルケース24L内の左側部は、反対側のファイナルケース24Rと略対称であるため図示を省略している。
【0064】
このように、共通のミッションケース23においてファイナルケースのみを変更することにより、クローラ型については、駆動スプロケットの回転数差を生じさせる強制デフ機構(旋回用HST65及び左右の遊星歯車機構110・110)を構成することができ、一方、ホイル型については、左右後輪の内外輪差を吸収するデフ機構280を構成することができる。これにより、簡易な設計変更でクローラ型とホイル型の仕様変更が可能となり、在庫管理も容易となるので、コストの低減を図ることができる。なお、本構成の動力伝達機構におけるミッションケース23は、機体前部にホイル式前輪を有するとともに機体後部に走行クローラを有するいわゆるハーフクローラ型にも適用することが可能であり、ミッションケース23の汎用性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係るトラクタの全体構成を示す側面図。
【図2】本発明に係る動力伝達機構を示す側面一部断面図。
【図3】ミッションケースを示す平面断面図。
【図4】同じく側面断面図。
【図5】ミッションケースの後部を示す平面断面図。
【図6】動力取出ギヤケースを示す平面断面図。
【図7】ミッションケースの正面図。
【図8】図3におけるR矢視図。
【図9】ミッションケースをホイル型に適用した場合の平面断面図。
【符号の説明】
【0066】
1 クローラ式走行装置
3 エンジン
11 駆動スプロケット
14 クローラベルト
16 車軸
23 ミッションケース
24L ファイナルケース
24R ファイナルケース
30 前後進切換装置
50 主変速装置
65 旋回用HST
67 油圧ポンプ
67a ポンプ軸
68 油圧モータ
68a モータ軸
69 伝動軸
70 副変速装置
85 減速ギヤ機構
90 ブレーキ
100 ベベルギヤ
102 ベベルギヤ
103 ベベルギヤ
110 遊星歯車機構
111 アウタギヤ
119 動力取出ギヤケース
120 変速機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースの左右両側にファイナルケースを配置し、前記各ファイナルケースに支持される車軸上にスプロケットを設ける構成において、
前記スプロケットに巻回されるクローラベルトと前記ミッションケースとの間に、前記各車軸に回転数差を与えて操向を行うための旋回用HSTを配置したことを特徴とする動力伝達機構。
【請求項2】
前記旋回用HSTを左右一側のファイナルケースの前面に配置したことを特徴とする請求項1記載の動力伝達機構。
【請求項3】
前記旋回用HSTを前記スプロケットよりも前方に配置したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の動力伝達機構。
【請求項4】
前記旋回用HSTのポンプ軸及びモータ軸を前記車軸に対して直角に配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項記載の動力伝達機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−56319(P2006−56319A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238558(P2004−238558)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】