説明

動力発生装置および動力発生方法

【課題】動力発生装置において、作動媒体の漏洩を防止しつつ膨張機で発生した回転駆動力を膨張機が収容されたハウジングの外部に効率よく取り出す。
【解決手段】本発明の動力発生装置1は、膨張機2を備えた熱機関3と、膨張機2で発生する回転駆動力を膨張機2の駆動部が収容されたハウジング4の外部へ取り出す動力伝達軸とを有する動力発生であって、ハウジング4はその隔壁5で囲まれた内部に膨張機2の駆動部を収容しており、隔壁5を間に介してハウジングの内外に分断されているとともに膨張機2の回転駆動力をハウジング4の外部に伝達するべく磁気カップリング6を備えている。なお、ハウジング外部の動力伝達軸13には、ハウジング4外に伝達された回転駆動力を用いて発電を行う発電機20が接続されていても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱機関で発生した動力を当該熱機関の外部に取り出す動力発生装置および動力発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱機関の中でも外燃機関は、水や、アンモニア、ペンタン、フロンなどの低沸点媒体(水より沸点の低い媒体)などの作動媒体(作動流体とも言う)をランキンサイクルなどの熱力学サイクルによって膨張させたり凝縮させたりすることで熱を動力に変換する(熱エネルギーを運動エネルギーに変換する)構成となっている。このような熱機関は作動媒体の蒸気を膨張させる膨張機を備えており、膨張機は外部から気密状に隔離されたハウジングの内部に収容されている。この膨張機で得られた回転駆動力は軸を介して膨張機が収容されているハウジング外に取り出され、コンプレッサ、ブロア、ポンプ、発電機などの回転機械を回転させるために用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、作動流体の膨張により回転力を発生する膨張機構と、膨張機構の回転力によって駆動される発電機と、膨張機構の回転力によって駆動されるポンプ機構とを備えた流体機械において、前記ポンプ機構を容量可変に構成したことを特徴とする流体機械が開示されている。
また、特許文献2には、ランキンサイクルの熱エネルギーを回転動力へと変換する膨張機と、回転動力により駆動されてランキンサイクルの圧力を上げる給液ポンプと、回転駆動力を発生するモータとを備え、これらで回転軸を共有した流体機械が開示されている。
【0004】
これらの装置(流体機械)は、いずれも熱機関の一部である膨張機と、発電機やポンプなどの回転機械などを1つのハウジング内に一緒に収容したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−185772号公報
【特許文献2】特開2005−30386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1や特許文献2の装置(流体機械)においては、作動媒体の漏洩を防止するために膨張機を収容するハウジングにシールを設けることが必要不可欠になる。
ここで特許文献1や特許文献2の図1の記載例のように、膨張機と、発電機やポンプなどの回転機械を1つのハウジング内に一緒に収容する場合、膨張機と回転機械とを繋ぐ軸の軸シールを不要とすることができる場合がある。しかしながら、ハウジングや回転機械として専用品が必要となり、汎用品が使用できないという問題が有る。また、動力発生装置やこれを用いた発電設備のイニシャルコストアップに繋がりやすい。
【0007】
一方で特許文献2の図19や図20の記載例のように、動力伝達のための回転軸がハウジングを貫通して外部に突き出るような場合、特に大気中に放出されることが好ましくないような低沸点媒体を作動媒体に用いるバイナリ発電などにおいては、軸のシールは重要である。特許文献2の図19や図20の設備では、回転機(モータ9)と膨張機との間にシャフトシールが設けられていて、作動媒体が回転機側に漏洩しない構造を採用している。しかしながら、こういったシャフトシールを採用しても、作動媒体の漏洩を確実に防止することが難しく、また煩雑なシャフトシールのメンテナンスが必要である。また、動力発生装置やこれを用いた発電設備のランニングコストアップに繋がりやすい。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、一つのハウジング内に熱機関と回転機とを一緒に収容したり動力を伝達する軸に軸シール機構を採用したりしなくても、作動媒体の漏洩を防止しつつ膨張機で発生した回転駆動力を膨張機が収容されたハウジングの外部に効率よく伝達することができる動力発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の動力発生装置は次の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明の動力発生装置は、膨張機を備えた熱機関と、前記膨張機で発生する回転駆動力を当該膨張機の駆動部が収容されたハウジングの外部へ取り出す動力伝達軸とを有する動力発生装置であって、前記ハウジングはその隔壁で囲まれた内部に膨張機の駆動部を収容しており、前記動力伝達軸は、前記隔壁を間に介して前記ハウジングの内外に分断されているとともに前記膨張機の回転駆動力を前記ハウジングの外部に伝達するべく磁気カップリングを備えていることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記ハウジング外部の動力伝達軸には、前記ハウジング外に伝達された回転駆動力を用いて発電を行う発電機が接続されているとよい。
好ましくは、前記磁気カップリングは、前記膨張機の回転駆動力が伝達されて前記ハウジングの内部で回転する駆動側磁石と、前記ハウジングの外部に配備されて前記駆動側磁石の回転に合わせて従動回転する従動側磁石とを、備えており、前記駆動側磁石と従動側磁石とは、前記隔壁を隔てて互いに異なる磁極を対面させるように配備されているとよい。
【0011】
好ましくは、前記膨張機の駆動部から前記駆動側磁石まで動力伝達経路上に、前記駆動部で出力された回転を減速して磁気カップリングに伝達する減速機が設けられているとよい。
好ましくは、前記駆動側磁石は、従動側磁石の外周を取り囲むように距離をあけて配備されており、前記駆動側磁石及び従動側磁石は、それぞれ少なくとも2個以上設けられているとよい。
【0012】
好ましくは、前記2個以上の駆動側磁石を磁気的に連結する第1の磁路形成部材が設けられており、前記第1の磁路形成部材は、前記駆動側磁石に対して磁気カップリングの径外側で接するように配備されているとよい。
好ましくは、前記2個以上の従動側磁石を磁気的に連結する第2の磁路形成部材が設けられており、前記第2の磁路形成部材は、従動側磁石に対して磁気カップリングの径内側で接するように配備されているとよい。
【0013】
好ましくは、前記隔壁は、少なくとも前記ハウジングの内外に分断された動力伝達軸の間に設けられて前記磁気カップリングを当該ハウジングの内外に隔てる部分が非磁性体から形成されているとよい。
好ましくは、前記熱機関は、液体の作動媒体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した作動媒体の蒸気を膨張させて駆動部を回転させる膨張機と、前記膨張機で膨張した作動媒体の蒸気を凝縮させて液体の作動媒体に変化させる凝縮器と、前記凝縮器で凝縮した液体の作動媒体を蒸発器に圧送することにより作動媒体を循環させる循環ポンプと、を閉ループ状に接続された循環流路上に備えたものであるとよい。
【0014】
一方、本発明の動力発生方法は、上述の動力発生装置を用いて、前記膨張機で発生する回転駆動力を当該膨張機の駆動部が収容されたハウジングの外部へ取り出すことを特徴とするものである。
好ましくは、前記ハウジングの外部へ取り出された回転駆動力を用いて発電機を駆動することで発電を行うとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の動力発生装置によれば、一体型のハウジングや軸シール機構を用いなくともハウジング外部への作動流体の漏洩を防止しつつ、膨張機で発生した回転駆動力を膨張機の駆動部が収容されたハウジングの外部に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の動力発生装置を示す図である。
【図2】第1実施形態の動力発生装置に設けられた磁気カップリングの斜視図である。
【図3】(a)は第1実施形態における磁気カップリングの断面図であり、(b)は同磁気カップリングでの磁力線の発生状態を示す図である。
【図4】第2実施形態の動力発生装置を示す図である。
【図5】(a)は第3実施形態における磁気カップリングの断面図であり、(b)は同磁気カップリングでの磁力線の発生状態を示す図である。
【図6】(a)は第4実施形態における磁気カップリングの断面図であり、(b)は同磁気カップリングでの磁力線の発生状態を示す図である。
【図7】(a)は第5実施形態における磁気カップリングの断面図であり、(b)は同磁気カップリングでの磁力線の発生状態を示す図である。
【図8】(a)は第6実施形態における磁気カップリングの断面図であり、(b)は同磁気カップリングでの磁力線の発生状態を示す図である。
【図9】(a)は第7実施形態における磁気カップリングの断面図であり、(b)は同磁気カップリングでの磁力線の発生状態を示す図である。
【図10】第8実施形態の動力発生装置の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
「第1実施形態」
以下、本発明に係る動力発生装置1の第1実施形態を、図面に基づき説明する。
図1に示すように、第1実施形態の動力発生装置1は、作動流体の蒸気の膨張により回転駆動する駆動部(本実施形態においてはスクリュロータ10)を有する膨張機2を備えた熱機関3と、この膨張機2で発生する回転駆動力を膨張機2の駆動部10が収容されたハウジング4の外部へ取り出す動力伝達軸とを有するものである。このハウジング4はその隔壁5で囲まれた内部に膨張機2の駆動部10を収容している。動力伝達軸は、隔壁5を間に介してハウジングの内に位置する駆動軸11とハウジング外に位置する従動軸13とに分断されている。また分断された動力伝達軸、即ち、駆動軸11と従動軸13には、膨張機2の回転駆動力をハウジング4の外部に伝達するために磁気カップリング6が設けられている。このように、動力発生装置1は、駆動軸11および従動軸13からなる動力伝達軸と磁気カップリング6とで構成された動力伝達装置を備えている。
【0018】
なお、第1実施形態では、熱機関3としてバイナリサイクルを例示する。とはいえ、熱機関3としては、熱を動力に変換する機関であれば、どのような機関も含まれる。バイナリサイクルのようなランキンサイクルを利用した機関以外にも、例えば蒸気機関、蒸気タービン、スターリングサイクルのような外燃機関、あるいはガスタービンのような内燃機関が含まれる。
【0019】
図1に示すように、バイナリサイクルは、液体の作動媒体Tを蒸発させる蒸発器7と、この蒸発器7で蒸発した作動媒体Tの蒸気を膨張させて駆動部を回転駆動させる膨張機2と、この膨張機2で膨張した作動媒体Tの蒸気を凝縮させて液体の作動媒体Tに変化させる凝縮器8と、この凝縮器8で凝縮した液体の作動媒体Tを蒸発器7に圧送することにより作動媒体Tを循環させる媒体循環ポンプ9と、を閉ループ状に接続された循環流路上に備えている。
【0020】
膨張機2は、膨張する前後の蒸気の圧力差を利用して回転駆動するスクリュロータ10(駆動部)を有している。スクリュロータ10は、駆動軸11を中心に回転自在となっており、発生した回転駆動力を駆動軸11を介して伝達可能となっている。
膨張機2のスクリュロータ10(駆動部)の周囲にはハウジング4(隔壁5)が設けられており、このハウジング4により内部と外部とを気密的に隔離できるようになっている。この気密的に隔離されたハウジング4の内部には、スクリュロータ10と共にバイナリサイクルで用いられる低沸点媒体の作動媒体Tが収容されている。
【0021】
上述した膨張機2のスクリュロータ10で生起した回転駆動力を回転機械12(コンプレッサやブロアなど)に伝達する場合には、通常は膨張機2と回転機械12との間に回転駆動力を伝達可能な動力伝達手段を設けなくてはならない。
従来、このような動力伝達手段として、膨張機のハウジングの内外を貫通するように設けられた回転軸が採用される場合には、この回転軸とハウジングとの間から作動媒体が漏洩することを抑制する軸シールが必要不可欠となっていた。このような軸シールを設けると、装置のメンテナンスが煩雑となって、ランニングコストのアップに繋がったり、収容された作動媒体Tの漏出の虞もあるため好ましくない。この問題を解決するために、従来は一つのハウジング内に膨張機と回転機械とを一緒に収容して作動媒体Tの漏出を防止することも行われていた。このような膨張機と回転機械とを一体型のハウジングに収容すると、両者間の軸シールが不要となる場合があるが、回転機械として専用品が必要となり、イニシャルコストのアップに繋がったり、汎用品が使用できないため好ましくない。
【0022】
そこで、本発明の動力発生装置1には、隔壁5を介して膨張機2の回転駆動力をハウジング4外に伝達する磁気カップリング6を有するものとしている。すなわち、動力発生装置1は、膨張機2と回転機械12との間で回転駆動力を伝達可能とするために、隔壁を間に介して駆動軸11と従動軸13とに分断された動力伝達軸と、さらに隔壁を介してハウジングの内外に分かれているこれら両軸を磁気的に連結する磁気カップリング6とから構成される動力伝達装置を備えている。
【0023】
以下、動力伝達装置の詳細について述べる。
図1及び図2に示すように、駆動軸11は、膨張機2のスクリュロータ10の回転軸心に沿って配備された回転軸である。駆動軸11の一端(図1の左側)は膨張機2の駆動部であるスクリュロータ10に連結されており、他端(図1の右側)は隔壁5の近傍にまで伸びていて、この他端側の先端には駆動側磁石14の装着された磁気カップリング6の外筒体15が設けられている。
【0024】
外筒体15は、回転機械12側(反スクリュロータ10側)を向いて開口する有底円筒状の部材であり、非磁性体から形成されている。外筒体15には駆動軸11が同軸状に連結されており、またその円筒状に形成された部分には、互いに対向するように、周方向に離れて配備された2個の駆動側磁石14が設けられている。
一方、従動軸13は、駆動軸11と同軸な方向に沿って配備された回転可能な軸である。従動軸13の一端(図1の左側)は膨張機2側に向かって伸びていて、この一端には従動側磁石16を取り付ける内挿体17が設けられており、他端(図1の右側)は回転機械12に連結されている。
【0025】
内挿体17は、円柱体であり、外筒体15同様に非磁性体から形成されている。内挿体17は、外筒体15の内側に遊挿可能となっており、内挿体17の外周面(外筒体15の内側に挿し込まれる部分の外周面)には従動側磁石16が取り付けられている。
これら外筒体15と内挿体17との間、言い換えれば、駆動側磁石14と従動側磁石16の間には、隔壁5が存在する。
【0026】
ハウジング4には、内挿体17が設けられる従動軸13の一端に対応する位置に、外部を向いて開口し膨張機2内側に向かって陥没する凹部18が形成されており、この凹部18が前述の隔壁5とされている。
すなわち、この凹状の隔壁5(凹部18)の中に外部から内挿体17が回転自在に嵌り込むようになっている。また、凹状の隔壁5は、ハウジング4の内部から見れば、内部に向かって突出する円柱状の凸部となっていて、この円柱状の凸部に外筒体15が嵌り込むようになっている。外筒体15の内径は、円柱状の凸部である隔壁5の外径より大とされているため、外筒体15は隔壁5に当たることなく回転自在となっている。
【0027】
なお、駆動側磁石14及び従動側磁石16は、図例ではネオジウム磁石やサマリウムコバルト磁石のような永久磁石であるが、電磁石を用いても良い。
また、外筒体15及び内挿体17の軸心を挟んでそれぞれ周方向に2つ設けられている駆動側磁石14及び従動側磁石16は、径外側または径内側に向けて磁力線が放出されるように、外筒体15の回転軸心を基準として径外側の表面と径内側の表面とがN極またはS極となるように取り付けられている。駆動側磁石14と従動側磁石16とは、互いに異なる磁極を対面させるようにして配備されていて、両磁石の間に隔壁5を透過して磁気的な引力が誘起されるようになっている。
【0028】
より具体的には、いずれの磁石も図2の上側に位置する磁極がS極となっており、また図2の下側に位置する磁極がN極となっていて、磁力線は磁石内を上から下に抜けた後、一番下側の磁石のN極(図例の場合は駆動側磁石14のN極)から径外側に放出されて磁石の外側を通って上方に向かい、一番上側の磁石のS極(図例の場合は駆動側磁石14のS極)に径外側から集まるようになっている。
【0029】
この周方向に離れて配備された2個の駆動側磁石14の外周側には、磁石の外側を通る磁力線を上方に向かって漏れなく案内する第1の磁路形成部材19が設けられている。
図3(a)に示すように、駆動側磁石14同士を磁気的に連結する第1の磁路形成部材19は、外筒体15を外周側から全周に亘って覆うことができる電磁軟鉄板で短尺円筒状に形成されたヨークである。第1の磁路形成部材(以下、外側ヨークという)19は上述した2つの駆動側磁石14の外周面(磁極)に面状態で接触している。これら2つの駆動側磁石14は一方の外周面がN極であり、他方の外周面がS極である。そして、外側ヨーク19は、2つの駆動側磁石14のうち一方の駆動側磁石14のN極から透入された磁力線をもう一方の駆動側磁石14のS極に案内することにより、磁力線の漏れを可能な限り抑えて駆動側磁石14の磁力を高め、ひいては駆動側磁石14から従動側磁石16に伝達されるトルクを高める作用を備えている。
【0030】
上述のような動力伝達装置(動力伝達軸および磁気カップリング6)を用いれば、駆動側磁石14と従動側磁石16との間に隔壁5を存在させたままで回転駆動力(動力)の伝達が可能となる。そのため、従来の装置で採用されていたような様々な課題を有する手段、すなわち一つのハウジング内に膨張機だけでなく、その膨張機によって回転される回転機械も一緒に収容するといった手段や、ハウジングの内外を貫通するように動力伝達用の軸を設けておいて、この軸に軸シールを設けるといった手段などを採用する必要がない。
【0031】
それゆえ、上記のような手段を採用したりしなくても、作動媒体の漏洩を防止しつつ膨張機2で発生した回転駆動力を膨張機2の駆動部が収容されたハウジング4の外部に効率よく取り出す(伝達する)ことができる。なお、上記のような手段を採用しないと、装置のメンテナンスを煩雑化することがなく、またコストを低く抑えることもできる。
さらに、図3(b)に示すように、外側ヨーク19を設けることにより、一方の駆動側磁石14から放出された磁力線は外側ヨーク19の内部を通って他方の駆動側磁石14に案内される。つまり、磁力線を磁路形成部材(例えば外側ヨーク19)のような磁性体に透入すると、磁性体である磁路形成部材の端部に集約される性質を磁力線は有している。そこで、この磁力線の性質を利用すれば、磁路形成部材を用いて、磁力線の漏れを可能な限り抑えて駆動側磁石14の磁力を高め、駆動側磁石14と従動側磁石16との間の磁気的な引力を増大させることができ、ひいては駆動側磁石14から従動側磁石16に伝達されるトルクを高めて回転駆動力を効率的に伝達することも可能となる。
【0032】
なお、このように第1の磁路形成部材(外側ヨーク19)を用いて駆動側磁石14や従動側磁石16の数を増やして磁力を高くすれば、隔壁5(ハウジング4)が金属製の場合には隔壁5で大きな渦電流損失が生じてしまう。しかし、上述したように駆動側磁石14や従動側磁石16の設置数をそれぞれ2個と限定すれば、渦電流損失を磁気カップリング6に用いられる磁石数に応じて減少させることができるので、渦電流損失を小さく抑えることも可能となる。
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態の動力発生装置1を説明する。
【0033】
図4に示すように、第2実施形態の動力発生装置1は、発電を行うバイナリサイクル(バイナリ発電システム)に用いられている。すなわち、動力発生装置1は、ハウジング内外で分断された駆動伝達軸(駆動軸11及び従動軸13)と磁気カップリング6を備えた動力伝達装置により、膨張機2のハウジング4外に回転駆動力を伝達し、その回転駆動力を用いて発電機20を回転させて、発電を行うようにしている。
【0034】
第1実施形態では、動力伝達率を考慮して、回転機械に対して回転駆動力を直接伝達する手法を開示したが、設備レイアウトによっては膨張機2の近傍にポンプなどの回転機械を配備するスペースが確保しにくい場合があり、この様な場合は第2実施形態に示すようにハウジング4外に伝達された回転駆動力を用いて発電機20で発電を行い、一旦発電機20で回転駆動力を電力に変換してから電力で回転機械12を駆動させることが好ましい。
【0035】
本実施形態においても、従来の動力伝達手段で採用されていたシール機構などが不要となり、作動媒体の漏出を防止しつつ膨張機2で発生した回転動力を膨張機2が収容されたハウジング4の外部に効率的に取り出すことが可能となる。また、装置のメンテナンスを煩雑化することなく、またランニングコストを低く抑えることも可能となる。
「第3実施形態」
次に、本発明の第3実施形態の動力発生装置1を説明する。
【0036】
第1実施形態の動力発生装置1は、動力伝達装置における磁気カップリングに、電磁軟鉄板で形成された短尺円筒状の部材(外側ヨーク)を第1の磁路形成部材19として用いた例であった。一方、第3実施形態では、第1の磁路形成部材19を「複数の板磁石21(長手方向の両端がそれぞれN極またはS極とされた板状の磁石)を磁気的に接続されるように外筒体15の外周に沿って円弧状に並べた構成」としている。
【0037】
具体的には、図5(a)に示すように、第3実施形態の第1の磁路形成部材19は、複数(図例では16枚)の板磁石21を外筒体15の外周面に沿って周方向に並べたものである。この板磁石21は、外筒体15の外周面に沿って円弧状に湾曲している。2個の駆動側磁石14のうち、図5(a)、(b)における上側の駆動側磁石14のS極に対しては、このS極の表面に接するように左右に2つの板磁石21が配備されている。これらの板磁石21は、互いにN極同士を向かい合わせて配備されており、互いに接触し合うことがないように周方向に距離をあけて配備されている。
【0038】
一方、図5(a)、(b)における下側の駆動側磁石14のN極に対しても、このN極の表面に接するように左右に2つの板磁石21が配備されている。これらの板磁石21は、互いにS極同士を向かい合わせて且つ互いに距離をとって配備されている。そして、上側の駆動側磁石14に接するように配備された2つの板磁石21と、下側の駆動側磁石14に接するように配備された2つの板磁石21との間をそれぞれ補間するように、上述した板磁石21が左側に8枚、右側に8枚配備されている。隣接する板磁石21は、互いに異なる磁極同士が向かい合うようにそれぞれ配備されている。
【0039】
図5(b)に示すように、電磁軟鉄板からなる外側ヨークに代えて複数の板磁石21を組みあわせた磁路形成部材19を用いても、複数の板磁石21が磁力線の経路(磁気回路)を形成することができ、その内部を順番に通って磁力線が伝達されるため、駆動側磁石14の磁力を高めることが可能になり、ひいては駆動回転軸から従動回転軸に伝達されるトルクを高めて回転駆動力を効率的に伝達することも可能となる。
「第4実施形態」
次に、本発明の第4実施形態の動力発生装置1を説明する。
【0040】
図6(a)に示すように、第4実施形態の動力発生装置1は、動力伝達装置における磁気カップリングに、上述した第1実施形態の第1の磁路形成部材(外側ヨーク)19と駆動側磁石14とが一体とされたものを用いている。言い換えれば駆動側磁石14と第1の磁路形成部材19との機能を兼ね備えたような磁石(以降、一体磁石22という)を備えている。
【0041】
一体磁石22は、外筒体15の外周面を全周に亘って覆う円筒状であり、第3実施形態での駆動側磁石14に相当する径内側に向かって突出するような突起部23を設けて、一方(図6(a)における下側)の突起部23の端部をN極、もう一方(図6(a)における上側)の突起部23の端部をS極としたものである。
図6(b)に示すように、第1の磁路形成部材19と駆動側磁石14との機能を兼ね備えた一体磁石22を用いても、一体磁石22の内部を通って磁力線がN極からS極に伝達されるため、駆動側磁石14の磁力を高めることが可能になり、ひいては駆動回転軸から従動回転軸に伝達されるトルクを高めて回転駆動力を効率的に伝達することも可能となる。
「第5実施形態」
次に、本発明の第5実施形態の動力発生装置1について説明する。
【0042】
本実施形態は、動力伝達装置の内挿体17(従動軸13の先端)に、電磁軟鉄板、複数の板磁石21、または一体磁石22からなる第2の磁路形成部材24を設けて、従動側磁石16同士を結ぶ構成を有するものであり、他の構成は、上述した実施形態と略同様である。
詳しくは、図7(a)に示すように、第5実施形態の動力伝達装置は、2個以上の従動側磁石16同士を磁気的に連結する第2の磁路形成部材24が設けられたものである。この第2の磁路形成部材24は内挿体17(従動軸13)を軸方向に交差して貫通するように設けられた孔ないしは溝に配備されている。
【0043】
具体的には、内挿体17の外周面には、内挿体17の回転軸心を挟んで図7(a)、(b)における上側と下側との2箇所に従動側磁石16が設けられている。そして、これら上下2個の従動側磁石16の間に、2個の従動側磁石16を磁気的に連結する第2の磁路形成部材24が配備されている。この第2の磁路形成部材24は、第1の磁路形成部材19であるヨークと同様に電磁軟鉄板で形成されているヨークである。第2の磁路形成部材24は、内挿体17を上下(軸垂直方向)に貫通する貫通孔25に収容されており、その上面は上側の従動側磁石16のN極に接していて、下面は下側の従動側磁石16のS極に接している。
【0044】
それゆえ、図7(b)に示すように、第2の磁路形成部材24の内部を通って上側の従動側磁石16のN極から下側の従動側磁石16のS極に磁力線が形成され、外部に漏れる磁力線が減少するため、従動側磁石16の磁力を高めることが可能になり、ひいては駆動側磁石14から従動側磁石16に伝達されるトルクを高めて回転駆動力を効率的に伝達することも可能となる。
「第6実施形態」「第7実施形態」
なお、駆動側磁石14の磁力を高めるために用いた上述した他の実施形態における第1の磁路形成部材19の場合と同様に、第2の磁路形成部材24を複数の板磁石26を組みあわせたものとしたり、従動側磁石16と第2の磁路形成部材24とが一体化された一体磁石27としたりすることもできる。
【0045】
例えば、図8(a)に示すように、本発明の第6実施形態の動力伝達装置は、第2の磁路形成部材24として電磁軟鉄板に代えて複数の板磁石26を積層したものである。この図8(a)の第2の磁路形成部材24を用いても、図8(b)に示すように複数の板磁石26(第2の磁路形成部材24)の内部を通って従動側磁石16の磁力を高めることが可能になる。
【0046】
また、図9(a)に示すように、本発明の第7実施形態の動力伝達装置は、第2の磁路形成部材24と上下2個の従動側磁石16とが一体とされた一体磁石27を用いたものである。この図9(a)の一体磁石27(第2の磁路形成部材24)を用いても、図9(b)に示すように一体磁石27(第2の磁路形成部材24)の内部を通って従動側磁石16の磁力を高めることが可能になり、駆動側磁石14から従動側磁石16に伝達されるトルクを高めて回転駆動力を効率的に伝達することができる。
【0047】
なお図示はしないものの、以上述べた第5実施形態から第7実施形態の第2の磁路形成部材24の構成は、第1実施形態で述べた第1の磁路形成部材19に対してのみ設けられるものではない。第5実施形態から第7実施形態の第2の磁路形成部材24の構成を、第2実施形態から第4実施形態のいずれかの第1の磁路形成部材19と組み合わせても何ら問題はない。
「第8実施形態」
次に、本発明の第8実施形態の動力発生装置1について説明する。
【0048】
図10に示すように、第8実施形態の動力発生装置1は、膨張機2から駆動側磁石14まで動力伝達経路上に、膨張機2の回転駆動力を減速して磁気カップリング6に伝達する減速機28が設けられたものである。
この減速機28は、ハウジング4の内部に設けられた駆動軸11であって、膨張機2の駆動部と外筒体15(駆動側磁石14)との間に設けられている。減速機28は、膨張機2で発生した回転速度を減速して磁気カップリング6側に伝達することを可能としており、これにより駆動軸11の回転数を例えばポンプやコンプレッサといった回転機械12の使用領域に合わせた回転数に予め調整することができるようになっている。
【0049】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0050】
なお、上述した第1実施形態から第8実施形態では、駆動軸11に設けられた外筒体15の内側に、従動軸13に設けられた内挿体17が挿入される構造の磁気カップリング6を挙げたが、外筒体15や内挿体17のどちらを駆動側(従動側)にするかは任意に選択することができる。例えば、駆動軸11に設けられた内挿体17を従動軸13に設けられた外筒体15の内側に挿入する構造の磁気カップリング6を用いても良い。
【0051】
なお、上述した第1実施形態から第8実施形態では、渦電流損失を小さくするため、駆動側磁石14及び従動側磁石16が2個ずつ設けられた例を挙げたが、磁石の数は2個に限定されない。例えば、駆動側磁石14及び従動側磁石16が4個〜8個ずつ設けられたものを用いても良い。
また、ハウジング4の隔壁5の材質としては、セラミックス、ガラス、グラスファイバー、炭素繊維等の非磁性体を用いることができる。この場合には、渦電流損失を考慮する必要がないため、駆動側磁石14及び従動側磁石16の設置個数はそれぞれ2個以上とされていても良いが、隔壁の厚さを厚くする場合(駆動側磁石14と従動側磁石16の距離が少し開く場合)は、それぞれ2個とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0052】
1 動力発生装置
2 膨張機
3 熱機関
4 ハウジング
5 隔壁
6 磁気カップリング
7 蒸発器
8 凝縮器
9 媒体循環ポンプ
10 スクリュロータ
11 駆動軸
12 回転機械
13 従動軸
14 駆動側磁石
15 外筒体
16 従動側磁石
17 内挿体
18 凹部
19 第1の磁路形成部材
20 発電機
21 第1の磁路形成部材を構成する板磁石
22 第1の磁路形成部材を構成する一体磁石
23 突起部
24 第2の磁路形成部材
25 貫通孔
26 第2の磁路形成部材を構成する板磁石
27 第2の磁路形成部材を構成する一体磁石
28 減速機
T 作動流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張機を備えた熱機関と、前記膨張機で発生する回転駆動力を当該膨張機の駆動部が収容されたハウジングの外部へ取り出す動力伝達軸とを有する動力発生装置であって、
前記ハウジングはその隔壁で囲まれた内部に前記膨張機の駆動部を収容しており、
前記動力伝達軸は、前記隔壁を間に介して前記ハウジングの内外に分断されているとともに前記膨張機の回転駆動力を前記ハウジングの外部に伝達するべく磁気カップリングを備えていることを特徴とする動力発生装置。
【請求項2】
前記ハウジング外部の動力伝達軸には、前記ハウジングの外部に伝達された回転駆動力を用いて発電を行う発電機が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の動力発生装置。
【請求項3】
前記磁気カップリングは、前記膨張機の回転駆動力が伝達されて前記ハウジングの内部で回転する駆動側磁石と、前記ハウジングの外部に配備されて前記駆動側磁石の回転に合わせて従動回転する従動側磁石とを、備えており、
前記駆動側磁石と従動側磁石とは、前記隔壁を隔てて互いに異なる磁極を対面させるように配備されていることを特徴とする請求項1または2に記載の動力発生装置。
【請求項4】
前記膨張機の駆動部から前記駆動側磁石までの動力伝達経路上に、前記駆動部で出力された回転を減速して磁気カップリングに伝達する減速機が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の動力発生装置。
【請求項5】
前記駆動側磁石は、従動側磁石の外周を取り囲むように距離をあけて配備されており、
前記駆動側磁石及び従動側磁石は、それぞれ少なくとも2個以上設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の動力発生装置。
【請求項6】
前記2個以上の駆動側磁石を磁気的に連結する第1の磁路形成部材が設けられており、
前記第1の磁路形成部材は、前記駆動側磁石に対して磁気カップリングの径外側で接するように配備されていることを特徴とする請求項5に記載の動力発生装置。
【請求項7】
前記2個以上の従動側磁石を磁気的に連結する第2の磁路形成部材が設けられており、
前記第2の磁路形成部材は、前記従動側磁石に対して磁気カップリングの径内側で接するように配備されていることを特徴とする請求項5に記載の動力発生装置。
【請求項8】
前記隔壁は、少なくとも前記ハウジングの内外に分断された動力伝達軸の間に設けられて前記磁気カップリングを当該ハウジングの内外に隔てる部分が非磁性体から形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の動力発生装置。
【請求項9】
前記熱機関は、液体の作動流体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した作動流体の蒸気を膨張させて駆動部を回転させる膨張機と、前記膨張機で膨張した作動流体の蒸気を凝縮させて液体の作動流体に変化させる凝縮器と、前記凝縮器で凝縮した液体の作動流体を蒸発器に圧送することにより作動流体を循環させる循環ポンプと、を閉ループ状に接続された循環流路上に備えたものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の動力発生装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の動力発生装置を用いて、前記膨張機で発生する回転駆動力を当該膨張機の駆動部が収容されたハウジングの外部へ取り出すことを特徴とする動力発生方法。
【請求項11】
請求項2〜9の何れかに記載の動力発生装置を用いて、前記ハウジングの外部へ取り出された回転駆動力を用いて発電機を駆動することを特徴とする請求項10に記載の動力発生方法。

【図1】
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【図4】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−51769(P2013−51769A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187251(P2011−187251)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】