説明

動脈形成に関与する経路及びその使用

本発明は、その発現が不十分な動脈形成能を患った対象において調節される核酸及びそれによりコードされたポリペプチドに関する。これらの核酸は、不十分な動脈形成能を診断し、不十分な動脈形成能を患った対象を治療し、かつ/又は動脈形成能及び/若しくは動脈形成を刺激するための方法にとりわけ有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その発現が不十分な動脈形成を患った対象由来の単球細胞中で調節される核酸及びそれによりコードされたポリペプチドに関する。これらの核酸は、不十分な動脈形成を診断し、不十分な動脈形成を患った対象を治療し、かつ/又は動脈形成を刺激するための方法にとりわけ有用である。
【背景技術】
【0002】
動脈閉塞疾患は、心筋梗塞、脳卒中及び末梢血管疾患などの心血管合併症を引き起こす。動脈閉塞の大半の症例では、動脈形成と呼ばれるプロセスである出生後側副動脈成長が観察される。十分な側副網が存在すれば、これは狭心症、脳卒中及び間欠性跛行のような虚血の症状を緩和し、心筋梗塞の程度は軽減される。したがって、動脈形成の薬理学的刺激は多数の患者にとり潜在的に有益である。
【0003】
実験的設定では動脈形成の薬理学的刺激の可能性を示す多数の証拠はあるが、大規模な無作為化臨床試験で患者に有益な効果があったことを実証するものは1つもなかった3〜6。患者における動脈形成についての知識に欠けるために、一つに、臨床試験の結果が期待はずれであることが考えられ、したがって、ヒト動脈形成の分子的背景に関する研究が求められる。
【0004】
したがって、動脈形成に関与する分子経路を解明する必要性が依然として存在する。動脈形成に関与する鍵となるポリペプチド及び/又はコード核酸を提供することが本発明の目的である。これらのポリペプチド及び/又は核酸を使った不十分な動脈形成の診断法並びに治療法を提供することは本発明の追加の目的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
興味深いことに、ヒトには冠動脈閉塞を起こしたときの動脈形成応答には大きな不均一性が存在する7,8。したがって、十分な又は不十分な側副動脈成長で応答する患者の比較研究により、ヒトにおける側副動脈成長についての洞察が得られる可能性があり、治療的動脈形成のための新たな標的が明らかにされるであろうと我々は仮定した。
【0006】
循環細胞は、側副動脈成長を組織化すると考えられている。特に、単球及びマクロファージ、しかし潜在的には幹細胞も10、このプロセスにおいては極めて重要であることが分かっており、患者において観察される動脈形成応答の不均一性は循環細胞の転写活性の差に起因する可能性があると我々は仮定した。先行研究で、CD44発現がマウスにおける動脈形成に機能的に関与しており、十分に又は不十分に発達した冠動脈側副血行路を示す患者の刺激を受けた単球上では示差的に調節されていることを我々は明らかにした11。刺激を受けた単球は、動脈形成中に単球/マクロファージの表現型をより厳密に模倣するために、この研究での細胞は刺激された。toll様受容体4(TLR4)アゴニストリポ多糖類(LPS)を使う場合は、これは特に当てはまる。なぜならば、TLR4の内在性アゴニストは血管リモデリングでは単球を刺激することが最近明らかにされたからである12,13
【0007】
この時点で、十分に又は不十分に発達した側副血行路を示す患者、いわゆる良好な動脈形成応答者及び不良な動脈形成応答者の休止単球、刺激を受けた単球、培養マクロファージ、及びCD34+幹細胞のゲノム全体の転写活性を我々は決定した。刺激を受けた後の良好な応答者と不良な応答者間の示差的単球応答を報告し、不良な応答者由来の単球におけるとりわけ増大したインターフェロン(IFN)シグナル伝達の証拠を提供する。
【0008】
驚くべきことに、大多数の示差的に調節された遺伝子は、不良な動脈形成応答者においては過発現されていることが見出されており、プロ動脈形成経路ではなく抗動脈形成経路の示差的活性が、動脈閉塞が起きた際の患者のその動脈形成応答における不均一性の原因であることを示している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
診断方法
第1の態様では、本発明は、対象における不十分な動脈形成能を診断するための方法であって、
(a)対象の
(1)IFNβ及びその下流標的をコードするヌクレオチド配列、
(2)単球アポトーシスに関与するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(3)抗炎症反応に関与するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(4)BATF2、ジンクフィンガーCCCH型抗ウイルス1、ジンクフィンガータンパク質684、RhoGEF3、RhoGEF11及びYEATS2ドメインを含むものなどの転写因子をコードするヌクレオチド配列、並びに
(5)Deltex3様ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列
からなるグループから選択されるヌクレオチド配列の発現レベルを決定する段階と、
(b)(a)において定義されるヌクレオチド配列の発現レベルを、前記ヌクレオチド配列の発現レベルの基準値と比較する段階であって、基準値が好ましくは健常対象者における前記ヌクレオチド配列の発現レベルの平均値である段階と
を含む方法に関する。
【0010】
本発明の文脈では、動脈形成能又は動脈形成は、好ましくは、出生後側副動脈成長を意味する。出生後側副動脈成長は、通常は動脈閉塞に続いて起こり、狭心症、脳卒中及び間欠性跛行のような虚血の症状を緩和するのに寄与する。さらに、十分な側副動脈成長が誘導される又は刺激されたら、心筋梗塞の程度は軽減される。したがって、動脈形成は血管新生とははっきりと異なる。しかし、本発明のすべての方法(診断及び治療)は、あらゆる種類の血管、特に動脈及び静脈に適用してもよい。好ましくは、本発明の方法は動脈に適用される。したがって、本発明の文脈内では、他の方法で明記することがなければ、用語「動脈」は用語「血管」と互いに交換可能である。
【0011】
本発明の文脈では、不十分な動脈形成能とは、好ましくは、0.21未満の側副フローインデックス(CFI)が、実施例中で評価される対象で見出されることを意味する。CFIが0.21より高い対象は十分な動脈形成能を有する対象と見なされ、本発明においては健常対象者とも呼ばれる。
【0012】
本発明の文脈では、診断とは、動脈若しくは血管の閉塞に続いて後に動脈形成能が不十分になることについての対象の予想リスク評価、又は対象の不十分な動脈形成能の評価のいずれかを意味する。
【0013】
本発明の文脈では、被験体は動物でもヒトでもよい。好ましくは、被験体はヒトである。
【0014】
ヌクレオチド配列の発現レベルの評価(健常対象者の基準値も前記方法が実施されている対象の値も)は、好ましくは、(リアルタイム)PCR、アレイ又はノーザン分析などの古典的分子生物学の技法を使って実施される。或いは、別の好ましい実施形態に従えば、診断法において、ヌクレオチド配列の発現レベルは、ヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドの量を定量化することにより間接的に決定される。ポリペプチド量の定量化はどんな既知の技法で実施してもよい。好ましくは、ポリペプチド量はウェスタンブロット法により定量化される。或いは、同定された核酸配列及び/又は対応するポリペプチドの定量化と組み合わせた、対応するポリペプチドの基質の若しくは対応するポリペプチドの機能に関連することが分かっている任意の化合物の定量化、又は特定のアッセイを使った対応するポリペプチドの機能若しくは活性の定量化は、本発明の診断法の範囲内に包含されていることは、当業者であれば理解するであろう。
【0015】
これらのヌクレオチド配列の発現レベル及び/又は対応するポリペプチドの量を対象において測定するのは困難である可能性があるために、好ましくは、対象由来の試料が使われる。別の好ましい実施形態に従えば、(ヌクレオチド配列又はポリペプチドの)発現レベルは、対象から得た試料中においてex vivoで決定される。前記試料は、好ましくは、対象の血液を含み、さらに好ましくは、血液は単球及び/又はマクロファージを含む。さらに好ましくは、単球は、好ましくは、まず試料から、さらに好ましくは、アフェレーシスを介して血液から単離される。アフェレーシスは、当業者には既知の標準法である。好ましくは、アフェレーシスは実施例に記載の通りに実施される。手短に言えば、対象の末梢血が採血され、ヘパリン処理した血液チューブに移される。休止未刺激単球が、抗CD14ビーズ(Dynabeads、Invitrogen、Carlsbad、CA)を使った免疫磁気分離法を使用して4℃で単離される。単球純度は、好ましくは、APC標識マウス抗ヒトCD14抗体を使ったフローサイトメトリーにより確認される。
【0016】
好ましい診断法では、ヌクレオチド配列の発現レベル及び/又は対応するポリペプチドの量を、試験する対象由来のLPS刺激単球及び/又はマクロファージに向けて培養された単球において評価し、健常対象者由来のLPS刺激単球及び/又はマクロファージに向けて培養された単球における対応するレベルと比較する。LPS刺激は、好ましくは、実施例に記載の通りに実施される。さらに好ましくは、LPS刺激は、ほぼ10ng/mlを使ってほぼ3時間の間に実施される。マクロファージに向けた単球の培養は、好ましくは、実施例に記載の通りに実施される。さらに好ましくは、マクロファージに向けた単球の培養は、前記単球を標準単球培地において標準濃度(当業者には既知である)で、標準インキュベーター中においてプラスチック皿で20時間培養することにより実施され、これによりマクロファージへ形質転換が行われることになる。好ましくは、LPS刺激のためにもマクロファージに向けた培養のためにも、単球細胞は、10%FCS(ウシ胎仔血清)及び1%P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)を補充したRPMI1640培地で培養される。前記細胞は、好ましくは、ほぼ2×10細胞/mlの密度で播種される。好ましくは、マクロファージへの単球細胞のコミットメントを確認するために、マクロファージ特異的マーカーの存在が、表3に定義される特異的マクロファージマーカーに対して産生された抗体で染色することにより調べられる。
【0017】
本発明のさらに好ましい診断法では、ヌクレオチド配列は、
(1)グループ1:IFNβ及びその下流標的をコードし、配列番号1〜28から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(2)グループ2:FASL、FAS−Re及びCASP7である単球アポトーシスに関与するポリペプチドをコードし、それぞれ配列番号29〜31から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(3)グループ3:IL−19、IL−20及びIL−24である抗炎症反応に関与するポリペプチドをコードし、それぞれ配列番号32〜34から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(4)グループ4:転写因子BATF2、ジンクフィンガーCCCH型抗ウイルス1、ジンクフィンガータンパク質684、RhoGEF3、RhoGEF11及びYEATS2ドメインを含む転写因子をコードし、それぞれ配列番号35〜40から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(5)グループ5:Deltex3様ポリペプチドをコードし、配列番号41から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列
からなるグループから選択される。
【0018】
表6には、それぞれのコードヌクレオチド配列及び対応するアミノ酸配列の対応する配列番号だけではなく、各ポリペプチドの名称も与えられている。
【0019】
さらに好ましい診断法では、前記比較により、
(a)グループ(1)、(2)、(4)及び(5)から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの増加、並びに/又は
(b)グループ(3)から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの減少
という所見が得られるときに、不十分な動脈形成能が診断される。グループはすべて既に上で定義されている。
【0020】
本発明のさらに好ましい診断法では、前記比較により、
(a)グループ:(1)好ましいグループ1:IFNβをコードし、配列番号1に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列;(2)好ましいグループ2:CASP7をコードし、配列番号31から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列;(4)好ましいグループ4:BATF2、ジンクフィンガーCCCH型抗ウイルス1、ジンクフィンガータンパク質684、RhoGEF3、RhoGEF11及びYEATS2ドメインを含むものなどの転写因子をコードし、それぞれ配列番号35〜40から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列;(5)好ましいグループ5:Deltex3様ポリペプチドをコードし、配列番号41から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列;から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの増加、並びに/又は
(b)以下のグループ:(3)好ましいグループ3:IL−19をコードし、配列番号32に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの減少
という所見が得られるときに、不十分な動脈形成能が診断される。
【0021】
本発明のさらに好ましい診断法では、前記比較により、グループ(1)IFNβ及びその下流標的をコードし、配列番号1〜28から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、さらに好ましくは、IFNβをコードし、配列番号1に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの増加の所見が得られるときに、不十分な動脈形成能が診断される。
【0022】
このセクションで言及されるヌクレオチド配列の好ましいサブ組合せはそれぞれ、以下のどのセクションでも使用してよい。
【0023】
ヌクレオチド配列の発現レベル(又はそれによりコードされたポリペプチドの定常状態レベル)の増加又は減少は、好ましくは、健常対象者の対応するヌクレオチド配列の発現レベル(又は対応するコードされたポリペプチドの定常状態レベル)と比べて、前に定義された方法を使って、ヌクレオチドの発現レベルの検出可能な変化(又はコードされたポリペプチドの定常状態レベル又はポリペプチドの生物活性の任意の検出可能な変化)として定義される。好ましい実施形態に従えば、ポリペプチド活性の増加又は減少は、ポリペプチド活性に対して特異的なアッセイを使って定量化される。
【0024】
ポリペプチドに応じて、どのアッセイが最も適切であるかは当業者であれば分かるであろう。たとえば、IFNβの活性を評価するためには、キナーゼJAK2又は転写因子STAT1若しくはSTAT2などの下流標的の活性化を特異的に評価すればよい。JAKキナーゼ活性に特異的なアッセイは当業者には周知である(FJM Opdamら、Oncogene 2004:23(39);6647〜53ページ)。STAT1又はSTAT2の活性化は、特異的STAT1及び/又はSTAT2標識プローブを使った電気泳動移動度シフト解析(EMSA)を使って評価してもよい(Z Xiaら、Cancer Research 2002:61、1747〜53ページ)。
【0025】
好ましくは、ヌクレオチド配列の発現レベルの増加は、アレイを使ったヌクレオチド配列の発現レベルの少なくとも5%の増加を意味する。さらに好ましくは、ヌクレオチド配列の発現レベルの増加は、少なくとも10%、さらに好ましくは、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%以上の増加を意味する。
【0026】
好ましくは、ヌクレオチド配列の発現レベルの減少は、アレイを使ったヌクレオチド配列の発現レベルの少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、ヌクレオチド配列の発現レベルの減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%以上の減少を意味する。
【0027】
好ましくは、ポリペプチドの発現レベルの増加は、ウェスタンブロット法を使ったポリペプチドの発現レベルの少なくとも5%の増加を意味する。さらに好ましくは、ポリペプチドの発現レベルの増加は、少なくとも10%、さらに好ましくは、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%以上の増加を意味する。
【0028】
好ましくは、ポリペプチドの発現レベルの減少は、ウェスタンブロット法を使ったポリペプチドの発現レベルの少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、ポリペプチドの発現レベルの減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%以上の減少を意味する。
【0029】
好ましくは、ポリペプチド活性の増加は、適切なアッセイを使ったポリペプチド活性の少なくとも5%の増加を意味する。さらに好ましくは、ポリペプチド活性の増加は、少なくとも10%、さらに好ましくは、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%以上の増加を意味する。
【0030】
好ましくは、ポリペプチド活性の減少は、適切なアッセイを使ったポリペプチド活性の少なくとも5%の減少を意味する。さらに好ましくは、ポリペプチド活性の減少は、少なくとも10%、さらに好ましくは、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも150%以上の減少を意味する。
【0031】
好ましくは、対象から得られる試料中の発現レベルがex vivoで決定される。さらに好ましくは、前記試料は本明細書において前に定義されたアフェレーシスにより抽出される単球であって、それに続いて、所与のヌクレオチド配列及び/又はポリペプチドが当業者に周知の方法を使って抽出され精製される単球である。
【0032】
本発明の診断法では、好ましくは、上で定義される1つより多い、さらに好ましくは、少なくとも2、4、6、8、1、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、若しくは41ヌクレオチド配列の発現レベル、及び/又は対応するポリペプチドの定常状態レベルが決定される。
【0033】
核酸構築物
追加の態様では、本発明は核酸構築物に関する。核酸構築物は、(a)配列番号1〜41から選択されるヌクレオチド配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列;及び/又は(b)配列番号1〜41から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のすべて又は一部を含む。
【0034】
好ましくは、ヌクレオチド配列は、単球又はマクロファージ細胞、さらに好ましくは、ヒト単球又はマクロファージ細胞において前記ヌクレオチド配列の発現を推進することができるプロモーターに作動可能に連結されている。さらに好ましくは、前記細胞はヒト単球細胞である。
【0035】
好ましい核酸構築物では、ヌクレオチド配列は、(a)配列番号32〜34から選択される配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列;及び/又は(b)配列番号32〜34から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%のアミノ酸同一性を有する抗炎症反応に関与するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、から選択される。
【0036】
さらに好ましい実施形態では、そのヌクレオチド配列が、(a)配列番号32であるIL−19の配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列;及び/又は(b)配列番号32であるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%のアミノ酸同一性を有するIL−19のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列から選択される核酸構築物が提供される。
【0037】
或いは、本発明の核酸構築物は、RNAi作用物質、すなわちRNA干渉が可能である、又はRNA干渉が可能であるRNA分子の一部であるRNA分子をコードするヌクレオチド配列を含む又はからなる。そのようなRNA分子はsiRNA(たとえば、低分子ヘアピン型RNAを含む低分子干渉RNA)と呼ばれる。RNAi作用物質をコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、a)本明細書に定義されるグループ(1)、(2)、(4)及び(5)又は好ましいグループ(1)、(2)、(4)若しくは(5)から選択される配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列、並びに/或いは、(b)本明細書に定義されるグループ(1)、(2)、(4)及び(5)又は好ましいグループ(1)、(2)、(4)及び(5)から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現を阻害することができる細胞ヌクレオチド配列に十分な相補性を有し、任意選択で、RNAi作用物質をコードするヌクレオチド配列は、単球又はマクロファージ細胞において前記ヌクレオチド配列の発現を推進することができるプロモーターに作動可能に連結されている。
【0038】
さらに好ましい核酸構築物では、ヌクレオチド配列は、(a)配列番号1、31、35〜40、41から選択される配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び/又は、(b)配列番号1、31、35〜40、41から選択されるヌクレオチド配列によりコードされたアミノ酸配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、から選択される。本発明の核酸構築物では、存在する可能性のあるプロモーターは、好ましくは、単球又はマクロファージ細胞に特異的であるプロモーターである。さらに好ましくは、選ばれるプロモーターは、ヒト単球又はマクロファージ細胞に特異的であり、そこでは機能的である。単球又はマクロファージ細胞に特異的なプロモーターは、他の細胞型でよりも単球又はマクロファージ細胞でのほうが高い転写速度を有するプロモーターである。好ましくは、非単球/マクロファージ細胞と比べると単球/マクロファージにおける構築物のPCRにより測定した場合、単球又はマクロファージ細胞でのプロモーターの転写速度は、非単球又は非マクロファージ細胞での少なくとも1.1、1.5、2.0又は5.0倍である。
【0039】
本発明の核酸構築物における使用に適し、単球又はマクロファージ細胞において発現を推進することができるプロモーターには、(a)配列番号1〜41から選択されるヌクレオチド配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び(b)配列番号1〜41から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に少なくとも60、70、80、85、90、95、98若しくは99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、から選択されるヌクレオチド配列を含むmRNAをコードする遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0040】
本発明の核酸構築物における使用に適し、単球細胞において発現を推進することができる他のプロモーターには、Lang R.らとBurke B.ら(Lang R.ら、(2002)、J.Immunol.、168:3402〜3411ページとBurke B.ら、(2003)、Expert Opinion on Biological Therapy、3:919〜924ページ)に報告されているCD68プロモーターが挙げられる。本発明のDNA構築物において使用するためのプロモーターは、好ましくは、哺乳動物起源であり、さらに好ましくは、ヒト起源である。好ましくは、ヒトCD68プロモーターが使われている。
【0041】
好ましい実施形態では、核酸構築物は、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス及びレトロウイルスをベースとする遺伝子治療ベクターから選択されるウイルス遺伝子治療ベクターである。好ましいウイルス遺伝子治療ベクターは、AAV又はレンチウイルスベクターである。そのようなベクターは本明細書の下においてさらに説明される。
【0042】
不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能若しくは動脈形成を刺激するための方法
不十分な動脈形成能を治療し、及び/又は動脈形成能若しくは動脈形成を刺激するための方法において使用できる薬物であって、患者に使用される既知の薬物は現在存在しない。動脈閉塞疾患の唯一の標準的治療法は、経皮的経管的(冠動脈)血管形成術又はバイパス手術を含む。したがって、追加の態様では、本発明は、対象における不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能若しくは動脈形成を刺激するための方法であって、以下の(1)IFNβ及びその下流標的をコードするヌクレオチド配列(本明細書において前に定義されたグループ1);(2)単球アポトーシスに関与するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(本明細書において前に定義されたグループ2);(3)抗炎症反応に関与するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(本明細書において前に定義されたグループ3);(4)BATF2、ジンクフィンガーCCCH型抗ウイルス1、ジンクフィンガータンパク質684、RhoGEF3、RhoGEF11及びYEATS2ドメインを含むものなどの転写因子をコードしているヌクレオチド配列(本明細書において前に定義されたグループ4);並びに(5)Deltex3様ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列(本明細書において前に定義されたグループ5)から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドの活性又は定常状態レベルを薬理学的に改変することを含む前記方法を提供する。
【0043】
不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能若しくは動脈形成を刺激するための好ましい方法では、前記方法は、以下の(a)本明細書に定義される以下のグループ(1)、(2)、(4)及び(5)若しくは好ましいグループ(1)、(2)、(4)及び(5)から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの減少、並びに/又は、(b)本明細書に定義されるグループ3若しくは好ましいグループ(3)から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの増加、から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドの活性又は定常状態レベルを薬理学的に改変することを含む。
【0044】
不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能若しくは動脈形成を刺激するための好ましい方法では、IFNβの活性若しくはその定常状態レベル又はコードヌクレオチド配列の発現レベルは減少する。IFNβをコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、配列番号1に少なくとも80%の同一性を有し、IFNβは、好ましくは、配列番号42に少なくとも80%の同一性を有する配列により表される。この好ましい方法の特色はすべて、既に本明細書に記載されている。
【0045】
本発明の好ましい方法では、十分な動脈形成能を有する対象又は健常対象者におけるその生理学的レベルを模倣するように、本発明のポリペプチドの活性又は定常状態レベルは改変される。本発明の別の好ましい方法では、どんな対象においても、健常対象者においてさえ、動脈形成能又は動脈形成を刺激するように、本発明のポリペプチドの活性又は定常状態レベルは改変される。
【0046】
本発明のポリペプチドの活性又は定常状態レベルは、たとえば、対象に、好ましくは、対象の単球(若しくはマクロファージ)細胞に、本発明のポリペプチドであって、外来性供給源由来である前記ポリペプチドを提供することにより、又は対象に、好ましくは、対象の単球(若しくはマクロファージ)細胞に、たとえば、ポリペプチドに対する抗体、好ましくは中和抗体などのポリペプチドのアンタゴニスト若しくは阻害剤を添加することにより、前記ポリペプチド自体のレベルで、本発明のポリペプチドの活性又は定常状態レベルを改変してもよい。外来性供給源からポリペプチドを供給するために、下記の適切な宿主細胞でポリペプチドをコードする核酸を発現することにより、ポリペプチドを都合よく産生してもよい。本発明のポリペプチドに対する抗体は下記の通りに入手してもよい。
【0047】
しかし、好ましくは、ポリペプチドの活性又は定常状態レベルは、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現レベルを調節することにより改変される。好ましくは、ヌクレオチド配列の発現レベルは、単球又はマクロファージ細胞において調節される。単球(又はマクロファージ)細胞においてヌクレオチド配列の発現を推進することができるプロモーターの制御下にあるヌクレオチド配列であって、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターが含む、発現構築物(又はベクター)を単球(又はマクロファージ)細胞に導入することにより、本発明のポリペプチドの発現レベルを増加させてもよい。ポリペプチドの発現レベルは、ポリペプチドをコードする外来性ヌクレオチド配列のトランス活性化が可能である因子をコードするヌクレオチド配列を構築物が含む、発現構築物を単球(又はマクロファージ)細胞に導入することにより増加させてもよい。
【0048】
或いは、不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能及び/若しくは動脈形成を刺激するためにそれほど必要であれば、本発明のポリペプチドの発現レベルを、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の生合成(通常は翻訳)を阻害することができるアンチセンス分子を単球(又はマクロファージ)細胞に与えることにより減少させてもよい。アンチセンス又は干渉RNA分子を与えることにより遺伝子発現を減少させることは、本明細書の下に記載されており、たとえば、Famulokら、(2002、Trends Biotechnol.20(11):462〜466ページ)により概説されている。アンチセンス分子は細胞それ自体に与えてもよいし、又は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現を阻害することができるアンチセンスヌクレオチド配列であって、単球(又はマクロファージ)細胞においてアンチセンスヌクレオチド配列の転写を推進することができるプロモーターの制御下にあるアンチセンスヌクレオチド配列を含む発現構築物を単球(又はマクロファージ)細胞に導入することにより、アンチセンス分子を与えてもよい。ポリペプチドをコードする外来性ヌクレオチド配列のトランス抑制が可能である因子をコードするヌクレオチド配列を含む発現構築物を単球(又はマクロファージ)細胞に導入することにより、ポリペプチドの発現レベルを減少させてもよい。アンチセンス若しくは干渉核酸分子を細胞「それ自体に」直接、任意選択で、適切な処方で導入してもよいし、又は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現を阻害することができる(アンチセンス若しくは干渉)ヌクレオチド配列であって、任意選択で、単球(又はマクロファージ)細胞においてヌクレオチド配列の発現を推進することができるプロモーターの制御下にあるアンチセンス若しくは干渉ヌクレオチド配列を含む発現構築物を細胞に導入することにより、アンチセンス若しくは干渉核酸分子を細胞においてin situで産生してもよい。
【0049】
本発明の方法は、好ましくは、ポリペプチドの活性又は定常状態レベルを調節するための核酸構築物及び/又は中和抗体及び/又は本明細書で定義するポリペプチドを含む治療有効量の医薬組成物を対象に投与する段階を含む。核酸構築物は、本明細書において下でさらに明確に述べられる発現構築物でもよい。好ましくは、発現構築物は、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス及びレトロウイルスをベースとする遺伝子治療ベクターから選択されるウイルス遺伝子治療ベクターである。好ましいウイルス遺伝子治療ベクターは、AAV又はレンチウイルスベクターである。或いは、核酸構築物は、アンチセンス分子又はRNA干渉が可能なRNA分子などの、本発明のポリペプチドの発現を阻害することを目的とするものでもよい(下記を参照)。
【0050】
本発明の方法では、単球(又はマクロファージ)細胞は、好ましくは、たとえば、その年齢又はその遺伝的背景又はその食餌により、不十分な動脈形成能を有する高リスクを抱えていると疑われる対象由来の単球(又はマクロファージ)細胞である。或いは、別の好ましい実施形態では、動脈の閉塞に続いて不十分な動脈形成能を後に発症する予想リスクを抱えている、又は既に動脈形成能が不十分である、のいずれかと診断された対象由来の単球(又はマクロファージ)細胞に本発明の方法は適用される。使用される診断法は、好ましくは、本明細書において前に既に記載している発明のうちの1つである。代わりに又は前の好ましい方法と組み合わせて、動脈の閉塞に続いて不十分な動脈形成能を後に発症する予想リスクを抱えているとも、既に動脈形成能が不十分であるとも診断されたことはないが、好ましくは、本明細書において下でさらに詳細する動脈形成能又は動脈形成の(局所的)刺激を必要とする対象に本発明の方法は適用される。ある方法では、処置を受けるために選ばれた単球(又はマクロファージ)細胞は、好ましくは、その細胞が属する対象から単離される(ex vivo法)。細胞はそれに続いて、本発明のポリペプチドの活性又は定常状態レベルを改変することにより処置される。この処置は、好ましくは、細胞に本発明のポリペプチド及び/若しくは核酸構築物、並びに/又は本明細書の前で定義した中和抗体を感染させることにより実施される。最後に、処置された細胞は、それが属する対象に戻される。代わりに又は他の好ましい方法と組み合わせて、本発明の方法では、核酸構築物及び/又は中和抗体及び/又はポリペプチドは、好ましくは、治療が必要な(たとえば、アテローム動脈硬化の結果として、不十分な動脈形成能だと診断され、治療を必要とする、及び/又は動脈形成能若しくは動脈形成を(さらに)刺激する必要がある)側副血行路(動脈若しくは静脈)の血管壁に投与される。
【0051】
好ましい方法では、動脈又は血管などの血管が狭小化又は閉塞すると、動脈形成能は刺激される必要がある。さらに好ましくは、血管は動脈である。動脈は、脳血管循環の動脈(脳卒中、脳虚血の治療)でもよいし、又は末梢循環の動脈(末梢動脈疾患の治療)でもよい。あらゆる場合に、基礎疾患(すなわち、アテローム動脈硬化)は同じであり、主動脈の閉塞(obstruction/occlution)を生じる/既に生じている。さらに好ましくは、動脈は冠動脈である。
【0052】
代わりに又は他の好ましい方法と組み合わせて、本発明の方法は、治療において必要な動脈形成能又は動脈形成を刺激することを含む。好ましくは、動脈形成能又は動脈形成を刺激することは、再建手術、たとえば、特に創傷周辺に添加物/末端を付着させるために必要とされる。再連結された血管又は動脈又は静脈は、創傷の遠位の血管新生をさらに保証する可能性がある。この好ましい方法では、治療を受ける対象はどんな対象でもよく、動脈形成能が不十分であると診断された対象だけではない。
【0053】
別の治療方法では、本明細書に言及される発明は、経皮的経管的(冠動脈)血管形成術又はバイパス手術などの動脈閉塞疾患の標準的治療法と組み合わせてもよい。
【0054】
遺伝子治療は、不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能及び/若しくは動脈形成を刺激するための1つの可能性ではあるが、他の考えうる治療を構想してもよい。たとえば、ある種の分子経路を目的の方向に導く「小分子」薬による治療も好ましい。これらの小分子は、好ましくは、本明細書で後に定義される本発明のスクリーニング法により同定される。
【0055】
核酸構築物の使用
追加の態様では、本発明は、好ましくは、本明細書の上で定義した本発明の方法で、対象において不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能及び/若しくは動脈形成を刺激するための薬物の製造のための、本明細書で定義するポリペプチドの活性又は定常状態レベルを調節するための核酸構築物の使用に関する。
【0056】
動脈形成刺激物質の同定
さらに追加の態様では、本発明は、対象において不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能及び/若しくは動脈形成を刺激することができる動脈形成物質を同定するための方法に関する。そのような方法は、好ましくは、(a)本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現することができる試験細胞集団を提供する段階と、(b)前記試験細胞集団を前記物質に接触させる段階と、(c)前記物質に接触させた試験細胞集団中でヌクレオチド配列の発現レベル又はポリペプチドの活性若しくは定常状態レベルを決定する段階と、(d)(c)において決定された発現、活性又は定常状態レベルを、前記物質に接触させていない試験細胞集団中のヌクレオチド配列又はポリペプチドの発現、活性若しくは定常状態レベルと比較する段階と、(e)前記物質に接触させた試験細胞集団と前記物質に接触させていない試験細胞集団との間で、ヌクレオチド配列又はポリペプチドの発現レベル、活性若しくは定常状態レベルの差を生みだす物質を同定する段階とを含む。
【0057】
好ましくは、段階a)では、試験細胞は本発明の核酸構築物を含む。好ましくは、方法では、複数のヌクレオチド配列又は複数のポリペプチドの発現レベル、活性若しくは定常状態レベルが比較される。好ましくは、方法では、試験細胞集団は哺乳動物細胞、さらに好ましくは、ヒト細胞を含む。さらに好ましくは、試験細胞集団は、骨髄及び/又は末梢血液及び/又は多能性幹細胞を含む。これらの細胞を、回収し、精製し、単球へとex vivoで分化させることができる。さらに好ましくは、試験細胞集団は、単球細胞、さらに好ましくは、ヒト単球細胞系統を含む。さらに好ましくは、THP−1細胞系統が使用されている(Tsuchiya S.ら、(1980)、Int.J.Cancer、26:171〜176ページ)。代わりに又は前述の細胞に加えて、一態様では、本発明は前述の方法において同定される物質にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】不良な応答者からの単球におけるIFNβ産生の増加のELISAによる確認を示す図である。刺激した単球の細胞培養上清のELISA分析によって、不良な応答者におけるタンパク質レベル(培地中に分泌された)でのIFNβ発現の増加を確認した(60.47±32.62対36.54±16.65pg/ml、p=0.0045)。
【図2】(A)IFNβがTHP1単球におけるアポトーシスを誘導することを示す図である。THP1単球を、増加する濃度のrhIFNβで処理した。刺激の24時間後又は48時間後に、単球のアポトーシスを、フローサイトメトリーでアネキシンVの発現を測定することにより評価した。IFNβと共にインキュベートした後、アポトーシス単球のパーセンテージが用量依存的に増加し、24時間後よりも48時間後の効果が大きかった。遺伝子発現をリアルタイムRT−PCRによって分析し、リボソームタンパク質P0に対する発現として表した。(B)IFNβがTHP1単球におけるアポトーシスを誘導することを示す図である。THP1単球を、増加する濃度のrhIFNβで処理した。刺激の24時間後又は48時間後に、単球のアポトーシスを、フローサイトメトリーでアネキシンVの発現を測定することにより評価した。CXCL11の発現の増加によって、IFNβシグナル伝達の亢進を確認した。(C)IFNβがTHP1単球におけるアポトーシスを誘導することを示す図である。THP1単球を、増加する濃度のrhIFNβで処理した。刺激の24時間後又は48時間後に、単球のアポトーシスを、フローサイトメトリーでアネキシンVの発現を測定することにより評価した。サイクリン依存性キナーゼ阻害剤1A(p21)の発現が、IFNβの刺激でアップレギュレートされたことが分かり、サイトカインの細胞周期阻害効果を示唆している。(D)IFNβがTHP1単球におけるアポトーシスを誘導することを示す図である。THP1単球を、増加する濃度のrhIFNβで処理した。刺激の24時間後又は48時間後に、単球のアポトーシスを、フローサイトメトリーでアネキシンVの発現を測定することにより評価した。図3Cと同様に、TNFα関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)がアップレギュレートされ、単球に対するIFNβの抗増殖性及びアポトーシス促進性効果を裏付けた。
【図3】(A)IFNβがSMCの増殖を減弱することを示す図である。初代ヒト動脈平滑筋細胞(SMC)を単離し、細胞培養した。増殖を、BrdU取り込み量によって評価した。IFNβは、上記59したように増殖を用量依存的に低下させた。リアルタイムPCRにより、IFNβ経路のアップレギュレーションが実証された(データは不図示)。(B)IFNβがSMCの増殖を弱めることを示す図である。初代ヒト動脈平滑筋細胞(SMC)を単離し、細胞培養した。増殖を、BrdU取り込み量によって評価した。抗血管形成特性を有すると前に記載した61CXCL10も、アップレギュレートされたことが分かった。(C)IFNβがSMCの増殖を弱めることを示す図である。初代ヒト動脈平滑筋細胞(SMC)を単離し、細胞培養した。増殖を、BrdU取り込み量によって評価した。SMC増殖を阻害すると前に記載した63IL15も、アップレギュレートされたことが分かった。(D)IFNβがSMCの増殖を弱めることを示す図である。初代ヒト動脈平滑筋細胞(SMC)を単離し、細胞培養した。増殖を、BrdU取り込み量によって評価した。in vitroでSMCにこれらのサイトカインのいずれを曝露しても、増殖に対する効果なしに維持された。(E)IFNβがSMCの増殖を弱めることを示す図である。初代ヒト動脈平滑筋細胞(SMC)を単離し、細胞培養した。増殖を、BrdU取り込み量によって評価した。in vitroでSMCにこれらのサイトカインのいずれを曝露しても、増殖に対する効果なしに維持された。(F)IFNβがSMCの増殖を弱めることを示す図である。初代ヒト動脈平滑筋細胞(SMC)を単離し、細胞培養した。増殖を、BrdU取り込み量によって評価した。単球での効果と同様に、細胞周期阻害剤p21の発現が、IFNβ処理によって増加した。したがって、IFNβが、細胞周期の進行に対する効果を阻害することによって直接SMCの増殖を減弱する。
【図4】(A)in vivoでのIFNβ処理により、TRAIL及びIL15が誘導され、bFGFが減少することを示す図である。大腿動脈結紮の3日後に、コントロールマウス及びIFNβで処理したマウスから側副を含む後肢組織を切除し、均質化し、そしてRNAを単離した。リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現解析により、後肢組織において、IFNβ処理が、コントロールと比較して、抗増殖性IL15及びアポトーシス誘導TRAILの有意に高い発現につながることが実証された。(B)in vivoでのIFNβ処理により、TRAIL及びIL15が誘導され、bFGFが減少することを示す図である。大腿動脈結紮の3日後に、コントロールマウス及びIFNβ出処理したマウスから側副を含む後肢組織を切除し、均質化し、そしてRNAを単離した。リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現解析により、後肢組織において、IFNβ処理が、コントロールと比較して、抗増殖性IL15及びアポトーシス誘導TRAILの有意に高い発現につながることが実証された。(C)in vivoでのIFNβ処理により、TRAIL及びIL15が誘導され、bFGFが減少することを示す図である。大腿動脈結紮の3日後に、コントロールマウス及びIFNβ出処理したマウスから側副を含む後肢組織を切除し、均質化し、そしてRNAを単離した。興味深いことに、IFNβ処理により、強力な動脈形成成長因子であるbFGFの発現が有意に低下した。
【図5】in vitroでのIFNβシグナル伝達の遮断により、SMCの増殖が増加することを示す図である。動脈SMCを、IFNα/β受容体に対するsiRNAでトランスフェクトし、48時間インキュベートした。リアルタイムPCRにより、非特異的siRNAでトランスフェクトされた細胞と比較して、IFNARの発現の著しい低下が確認された。BrdUの取り込み量の測定によって評価した増殖が、IFNβシグナル伝達が阻害されたSMCで有意に上昇したことが分かった。この遺伝子発現レベルでは、IFNARでのRNAの干渉により、細胞周期阻害剤p21の発現が低下した。したがって、IFNβシグナル伝達の阻害は、細胞周期阻害タンパク質のダウンレギュレーションによってSMCの増殖を刺激する。
【図6】灌流測定を示す図である。動脈形成の確立した後肢モデルでは、後肢灌流を、最大の血管拡張の条件下、蛍光微粒子の注入で大腿動脈結紮の1週間後に評価した(n=10)。灌流回復は、結紮した後肢の結紮していない後肢に対するパーセンテージとして表し、コントロールマウスと比較して、IFNAR−/−で有意に増加した。
【図7】(A)LPS刺激したマウス単球の遺伝子発現を示す図である。単核細胞をコントロールマウス、IFNβ処理マウス、及びIFNAR−/−マウスから単離し、LPSで刺激した。10ng/mlLPSで3時間刺激した後、単球遺伝子発現を評価した。遺伝子発現を、リアルタイムPCRで評価し、18SrRNAハウスキーピング遺伝子の比率として示した。IFNAR−/−マウスでは、IFNβシグナル伝達経路は、コントロールマウスと比較して強く抑制された。(B)LPS刺激したマウス単球の遺伝子発現を示す図である。単核細胞をコントロールマウス、IFNβ処理マウス、及びIFNAR−/−マウスから単離し、LPSで刺激した。10ng/mlLPSで3時間刺激した後、単球遺伝子発現を評価した。遺伝子発現を、リアルタイムPCRで評価し、18SrRNAハウスキーピング遺伝子の比率として示した。IFNAR−/−マウスでは、IFNβシグナル伝達経路は、コントロールマウスと比較して強く抑制された。(C)LPS刺激したマウス単球の遺伝子発現を示す図である。単核細胞をコントロールマウス、IFNβ処理マウス、及びIFNAR−/−マウスから単離し、LPSで刺激した。10ng/mlLPSで3時間刺激した後、単球遺伝子発現を評価した。遺伝子発現を、リアルタイムPCRで評価し、18SrRNAハウスキーピング遺伝子の比率として示した。IFNAR−/−マウスでは、IFNβシグナル伝達経路は、コントロールマウスと比較して強く抑制された。(D)LPS刺激したマウス単球の遺伝子発現を示す図である。単核細胞をコントロールマウス、IFNβ処理マウス、及びIFNAR−/−マウスから単離し、LPSで刺激した。10ng/mlLPSで3時間刺激した後、単球遺伝子発現を評価した。遺伝子発現を、リアルタイムPCRで評価し、18SrRNAハウスキーピング遺伝子の比率として示した。IFNAR−/−マウスでは、IFNβシグナル伝達経路は、コントロールマウスと比較して強く抑制された。(E)LPS刺激したマウス単球の遺伝子発現を示す図である。単核細胞をコントロールマウス、IFNβ処理マウス、及びIFNAR−/−マウスから単離し、LPSで刺激した。10ng/mlLPSで3時間刺激した後、単球遺伝子発現を評価した。遺伝子発現を、リアルタイムPCRで評価し、18SrRNAハウスキーピング遺伝子の比率として示した。共にIFNβシグナル伝達カスケードの一部であるアポトーシス誘導リガンドTRAIL及び増殖阻害IL15は、IFNβ受容体ノックアウトマウスで強くダウンレギュレートされた。(F)LPS刺激したマウス単球の遺伝子発現を示す図である。単核細胞をコントロールマウス、IFNβ処理マウス、及びIFNAR−/−マウスから単離し、LPSで刺激した。10ng/mlLPSで3時間刺激した後、単球遺伝子発現を評価した。遺伝子発現を、リアルタイムPCRで評価し、18SrRNAハウスキーピング遺伝子の比率として示した。共にIFNβシグナル伝達カスケードの一部であるアポトーシス誘導リガンドTRAIL及び増殖阻害IL15は、IFNβ受容体ノックアウトマウスで強くダウンレギュレートされた。
【図8】(A)IFNAR−/−マウスの側副を含む後肢組織の遺伝子発現解析を示す図である。IFNAR−/−マウスからの側副を含む後肢組織では、リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現解析により、循環単球と同様に、IFNβ経路のシグナル伝達が抑制された(IFNAR−/−マウスにおけるIRF3のダウンレギュレーション)。(B)IFNAR−/−マウスの側副を含む後肢組織の遺伝子発現解析を示す図である。IFNAR−/−マウスからの側副を含む後肢組織では、リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現解析により、循環単球と同様に、IFNβ経路のシグナル伝達が抑制された(IFNAR−/−マウスにおけるIFNARのダウンレギュレーション)。(C)IFNAR−/−マウスの側副を含む後肢組織の遺伝子発現解析を示す図である。IFNAR−/−マウスからの側副を含む後肢組織では、リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現解析により、循環単球と同様に、IFNβ経路のシグナル伝達が抑制された(IFNAR−/−マウスにおけるSTAT1のダウンレギュレーション)。(D)IFNAR−/−マウスの側副を含む後肢組織の遺伝子発現解析を示す図である。IFNAR−/−マウスからの側副を含む後肢組織では、リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現解析により、循環単球と同様に、IFNβ経路のシグナル伝達が抑制された(IFNAR−/−マウスにおけるCXCL10のダウンレギュレーション)。(E)IFNAR−/−マウスの側副を含む後肢組織の遺伝子発現解析を示す図である。IFNAR−/−マウスからの側副を含む後肢組織では、リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現解析により、循環単球と同様に、IFNβ経路のシグナル伝達が抑制された(IFNAR−/−マウスにおけるCXCL11のダウンレギュレーション)。(F)IFNAR−/−マウスの側副を含む後肢組織の遺伝子発現解析を示す図である。IFNAR−/−マウスからの側副を含む後肢組織では、リアルタイムRT−PCRを用いた遺伝子発現解析により、循環単球と同様に、IFNβ経路のシグナル伝達が抑制された(MMP9遺伝子発現が、IFNAR−/−マウスでアップレギュレートされたが、酵素電気泳動法では、この群におけるメタロプロテイナーゼの活性の亢進を確認できなかった(データは不図示))。
【発明を実施するための形態】
【0059】
配列同一性
「配列同一性」は本明細書では、配列の比較により決定される2つ以上のアミノ酸(ポリペプチド若しくはタンパク質)配列又は2つ以上の核酸(ヌクレオチド、ポリヌクレオチド)配列間の関係と定義される。当技術分野では、「同一性」とは、場合によっては、一連のそのような配列間のマッチにより決定されるアミノ酸又は核酸配列間の配列関連性の程度も意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、アミノ酸配列及び1つのポリペプチドの保存されたアミノ酸置換体を第2のポリペプチドの配列と比較することにより決定される。「同一性」と「類似性」は、(Computational Molecular Biology、Lesk,A.M.編、Oxford University Press、New York、1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects、Smith,D.W.編、Academic Press、New York、1993;Computer Analysis of Sequence Data、PartI、Griffin,A.M.とGriffin,H.G.編、Humana Press、New Jersey、1994;Sequence Analysis in Molecular Biology、von Heine,G.、Acsdemic Press、1987;及びSequence Analysis Primer、Gribskov,M.とDevereux,J.編、M Stockton Press、New York、1991;及びCarillo,H.とLipman,D.、SIAM J.Applied Math.、48:1073(1988))に記載された方法を含むが、これらに限定されるものではない既知の方法により容易に計算することができる。
【0060】
同一性を決定する好ましい方法は、試験される配列間に最大マッチを与えるように設計されている。同一性及び類似性を決定する方法は、公的に入手可能なコンピュータプログラムに成文化されている。2つの配列間の同一性及び類似性を決定する好ましいコンピュータプログラム法には、たとえば、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.ら、Nucleic Acids Research 12(1):387ページ(1984))、BestFit、BLASTP、BLASTIN、及びFASTA(Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410ページ(1990))が挙げられる。BLAST XプログラムはNCBI及び他の製造元から公的に入手可能である(BLAST Manual、Altschul,S.ら、NCBI NLM NIH Bethesda、MD20894;Altschul,S.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410ページ(1990))。周知のSmith Watermanアルゴリズムも同一性を決定するのに使ってよい。
【0061】
ポリペプチド配列比較のための好ましいパラメータには、以下の;アルゴリズム:NeedlemanとWunsch、J.Mol.Biol.48:443〜453ページ(1970);比較マトリックス:BLOSSUM62、HentikoffとHentikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89:10915〜10919ページ(1992)より;ギャップペナルティ:12;及びギャップ長ペナルティ:4、が挙げられる。これらのパラメータで有用なプログラムは、Madison WIにあるGenetic Computer Groupから「Ogap」プログラムとして公的に入手可能である。前述のパラメータは、(end gapにはペナルティなしと共に)アミノ酸比較のためのデフォルトパラメータである。
【0062】
核酸比較のための好ましいパラメータには、以下の:アルゴリズム:NeedlemanとWunsch、J.Mol.Biol.48:443〜453ページ(1970);比較マトリックス:マッチ=+10、ミスマッチ=0;ギャップペナルティ:50;ギャップ長ペナルティ:3、Madison WisにあるGenetic Computer GroupからGapプログラムとして入手可能である。核酸比較のためのデフォルトパラメータは上に与えてある。
【0063】
任意選択で、アミノ酸の類似性の程度を決定する際に、当業者であれば、いわゆる「保存的」アミノ酸置換も考慮に入れてもよく、これは当業者には明らかなことであろう。保存的アミノ酸置換とは、類似の側鎖を有する残基の互換性のことである。たとえば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンであり;脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリン及びスレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギン及びグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンであり;塩基側鎖を有するアミノ酸のグループは、リシン、アルギニン、及びヒスチジンであり;並びに硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換のグループは、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、及びアスパラギン−グルタミンである。本明細書に開示するアミノ酸配列の置換変異体は、開示された配列中の少なくとも1個の残基が取り除かれ、その位置に異なる残基が挿入されている変異体である。好ましくは、アミノ酸変化は保存的である。天然に存在するアミノ酸ごとの好ましい保存的置換体は以下の通りであり、すなわち、Alaからser;Argからlys;Asnからgln又はhis;Aspからglu;Cysからser又はala;Glnからasn;Gluからasp;Glyからpro;Hisからasn又はgln;Ileからleu又はval;Leuからile又はval;Lysからarg;glnからglu;Metからleu又はile;Pheからmet、leu又はtyr;Serからthr;Thrからser;Trpからtyr;Tyrからtrp又はphe;及びValからile又はleuである。
【0064】
ポリペプチドの組換え産生のための組換え技術及び方法
本発明における使用のためのポリペプチドは、対象のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が適切な宿主細胞で発現される組換え技術を使って調製することができる。したがって、本発明は、上で定義する核酸分子又はヌクレオチド配列を含むベクター又は核酸構築物の使用にも関する。好ましくは、ベクターは、前記ベクターに適した宿主においてベクターの増殖を保証する複製起点(又は自律的複製配列)を含む複製ベクターである。或いは、ベクターを、たとえば、相同組換えにより又は他の方法で宿主細胞ゲノムに組み込むことができる。特に好ましいベクターは、上で定義するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、ベクターのための宿主細胞においてヌクレオチド配列(すなわち、コード配列)の発現を指示することができるプロモーターに作動可能に連結されている発現ベクターである。
【0065】
本明細書で使用する場合、用語「プロモーター」とは、遺伝子の転写開始部位の転写方向に関して上流に位置して、1個又は複数の遺伝子(又はコード配列)の転写を制御するように機能し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、並びに転写因子結合部位、リプレッサーと活性化タンパク質結合部位、及びプロモーターからの転写量を直接的に又は間接的に調節するように働くことが当業者には既知の他の任意のヌクレオチド配列を含むが、これらに限定されるものではない他の任意のDNA配列の存在により構造的に同定される核酸フラグメントのことである。「構成的」プロモーターは、大半の生理的及び発生的条件下で活性であるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、生理的又は発生的条件に応じて調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、好ましくは、単球若しくはマクロファージ細胞又はそれに由来する組織などの、特定型の分化細胞/組織においてのみ活性である。
【0066】
発現ベクターは、対象のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が適切な宿主細胞、たとえば、Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing and Wiley−Interscience、New York(1987)及びSambrookとRussell(2001、上記を参照)に記載されているような、多細胞生物の培養細胞又は細胞で発現される組換え技術を使って、上で定義する本発明のポリペプチドを調製することを可能にする。これらの文献は両方とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.82:488ページ(部位特異的変異誘発を記載している)及びRobertsら、(1987)Nature328:731〜734又はWells,J.A.ら(1985)Gene34:315ページ(カセット変異導入を記載している)も参照されたい。
【0067】
典型的には、目的のポリペプチドをコードする核酸又はヌクレオチド配列は、発現ベクター中で使われる。語句「発現ベクター」とは、一般に、そのような配列に適合性の宿主内で遺伝子の発現をもたらすことができるヌクレオチド配列のことである。これらの発現ベクターには、典型的には、少なくとも適切なプロモーター配列、及び任意選択で転写終結シグナルが含まれる。発現をもたらすのに必要な又は役立つ追加の因子も、本明細書に記載する通りに使うことができる。ポリペプチドをコードする核酸又はDNA又はヌクレオチド配列は、in vitroで細胞培養物に導入し、そこで発現することができるDNA構築物に組み込まれる。具体的には、DNA構築物は、細菌、たとえば、大腸菌などの原核生物宿主での複製に適しており、又は、培養哺乳動物、植物、昆虫、たとえば、Sf9、酵母、真菌、若しくは他の真核細胞系統に導入することができる。
【0068】
特定の宿主に導入するために調製されたDNA構築物は、典型的には、宿主に認識される複製系、所望のポリペプチドをコードする目的のDNAセグメント、並びに前記ポリペプチドコードセグメントに作動可能に連結された転写及び翻訳開始及び終結調節配列を含んでいる。DNAセグメントは、それが別のDNAセグメントと機能的関係に置かれる場合に、「作動可能に連結」されている。たとえば、プロモーター又はエンハンサーは、それがその配列の転写を刺激するならば、コード配列に作動可能に連結されている。シグナル配列のDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現されるならば、ポリペプチドをコードするDNAに作動可能に連結されている。一般に、作動可能に連結されているDNA配列は近接しており、シグナル配列の場合は、近接しているし読み枠相内でもある。しかし、エンハンサーは、それがその転写を制御しているコード配列と近接していなくてもよい。連結は、都合のよい制限部位での、又はその代わりに挿入されたアダプター若しくはリンカーでのライゲーションにより実現される。
【0069】
適切なプロモーター配列の選択は、一般に、DNAセグメントの発現のために選択される宿主細胞に依存する。適切なプロモーター配列の例には、当技術分野で周知の原核生物及び真核生物プロモーターが挙げられる(SambrookとRussell、2001、上記を参照)。転写調節配列には、典型的には、宿主により認識される異種エンハンサー又はプロモーターが含まれる。適切なプロモーターの選択は宿主に依存するが、trp、lac及びファージプロモーター、tRNAプロモーター並びに糖分解酵素プロモーターなどのプロモーターは既知であり入手可能である(たとえば、SambrookとRussell、2001、上記を参照)。発現ベクターは複製系を含み、ポリペプチドコードセグメントの挿入部位と共に転写及び翻訳調節配列を用いることができる。細胞系統と発現ベクターの実行可能な組合せの例は、SambrookとRussell(2001、上記を参照)及びMetzgerら、(1988)Nature334:31〜36ページに記載されている。たとえば、適切な発現ベクターは、酵母、たとえば出芽酵母、たとえば、昆虫細胞、たとえばSf9細胞、哺乳動物細胞、たとえばCHO細胞及び細菌細胞、たとえば大腸菌で発現させることができる。したがって、宿主細胞は原核宿主細胞でも、真核宿主細胞でもよい。宿主細胞は、液体中で又は固体培地上での培養に適している宿主細胞でよい。宿主細胞は、好ましくは、上で定義した本発明のポリペプチドの産生のための方法で、又は本明細書で定義する動脈形成物質の同定のための方法で使われる。方法は、ポリペプチドの発現に資する条件下で宿主細胞を培養する段階を含む。任意選択で、前記方法は、ポリペプチドの回収を含んでいてもよい。ポリペプチドは、たとえば、当技術分野でそれ自体が既知である種々のクロマトグラフィー法を含む、標準的タンパク質精製技術により培地から回収してよい。
【0070】
或いは、宿主細胞は、トランスジェニック植物又は動物、好ましくは、非ヒト動物などの多細胞生物の一部である細胞である。トランスジェニック植物は、少なくともその細胞の一部に上で定義するベクターを含む。トランスジェニック植物を作製するための方法は、たとえば、U.S.6,359,196及びそこに引用されている参考文献に記載されている。そのようなトランスジェニック植物又は動物は、上で定義した本発明のポリペプチドの産生のための方法で、及び/又は本明細書で定義する動脈形成物質の同定のための方法でも使ってよい。トランスジェニック植物では、方法は、その細胞にベクターを含むトランスジェニック植物の一部又はその植物部分がポリペプチドを含有するそのようなトランスジェニック植物の子孫の一部を回収する、及び任意選択で、前記植物部分由来のポリペプチドの回収の段階を含む。そのような方法も、U.S.6,359,196及びそこに引用されている参考文献に記載されている。同様に、トランスジェニック動物は、その体細胞及び生殖細胞に上で定義するベクターを含む。トランスジェニック動物は、好ましくは、非ヒト動物である。トランスジェニック動物を作製するための方法は、たとえば、WO01/57079及びそこに引用されている参考文献に記載されている。そのようなトランスジェニック動物は、上で定義した本発明のポリペプチドの産生のための方法であって、ベクターを含むトランスジェニック動物又はその雌の子孫由来の体液であってポリペプチドを含む体液を回収する、及び任意選択で、前記体液からポリペプチドを回収する段階を含む方法で使ってよい。そのような方法も、WO01/57079及びそこに引用されている参考文献に記載されている。ポリペプチドを含む体液は、好ましくは、血液又はさらに好ましくは乳である。
【0071】
ポリペプチドを調製するための別の方法は、in vitro転写/翻訳系を用いることである。ポリペプチドをコードするDNAは上記の発現ベクターにクローン化される。次に、発現ベクターはin vitroで転写され、翻訳される。翻訳産物は直接使ってもよいし、まず精製してもよい。in vitro翻訳から生じるポリペプチドは、典型的には、in vivoで合成されるポリペプチドに存在する翻訳後修飾を含有しないが、ミクロソームの固有の存在により、ある翻訳後修飾が起こっている可能性がある。in vitro翻訳によるポリペプチドの合成のための方法は、たとえば、BergerとKimmel、Methods in Enzymology、152巻、Guide to Molecular Cloning Techniques、Academic Press、Inc.,San Diego、CA、1987により記載されている。
【0072】
遺伝子治療
本発明のいくつかの態様は、上で定義するヌクレオチド配列を含む核酸構築物又は発現ベクターであって、前記ベクターが遺伝子治療に適しているベクターの使用に関する。遺伝子治療に適しているベクターは、Anderson 1998、Nature 392:25〜30ページ;WaltherとStein、2000、Drugs 60:249〜71ページ;Kayら、2001、Nat.Med.7:33〜40ページ;Russell、2000、J.Gen.Virol.81:2573〜604ページ;AmadoとChen、1999、Science 285:674〜6ページ;Federico、1999、Curr.Opin.Biotechnol.10:448〜53ページ;VignaとNaldini、2000、J.Gene Med.2:308〜16ページ;Marinら、1997、Mol.Med.Today 3:396〜403ページ;PengとRussell、1999、Curr.Opin.Biotechnol.10:454〜7ページ;Sommerfelt、1999、J.Gen.Virol.80:3049〜64ページ;Reiser、2000、Gene Ther.7:910〜3ページ;及びそこに引用されている参考文献に記載されている。
【0073】
特に適した遺伝子治療ベクターには、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが挙げられる。これらのベクターは、神経細胞を含む幅広い数の分裂及び非分裂細胞型に感染する。さらに、アデノウイルスベクターは高レベルの導入遺伝子発現が可能である。しかし、細胞侵入後のアデノウイルス及びAAVベクターのエピソームの性質により、前述の通り、これらのウイルスベクターは、導入遺伝子の一過性発現のみを必要とする治療的適用に最も適している(Russell、2000、J.Gen.Virol.81:2573〜2604ページ;Goncalves、2005、Virol J.2(1):43ページ)。好ましいアデノウイルスベクターは、Russell(2000、上記を参照)により概説されるように、宿主応答を減らすように改変される。AAVベクターを使った神経細胞遺伝子治療のための方法は、Wangら、2005、J Gene Med.3月9日(印刷より先に電子出版)、Mandelら、2004、Curr Opin Mol Ther.6(5):482〜90ページ;及びMartinら、2004、Eye18(11):1049〜55ページにより記載されている。単球又はマクロファージ細胞への遺伝子移入では、AAV血清型2は有効なベクターであり、したがって、好ましいAAV血清型である。
【0074】
本発明における適用に好ましいレトロウイルスベクターは、レンチウイルスをベースとする発現構築物である。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染するという独特の能力を有する(AmadoとChen、1999、Science 285:674〜6ページ)。レンチウイルスをベースとする発現構築物の構築及び使用のための方法は、米国特許第6,165,782号、米国特許第6,207,455号、米国特許第6,218,181号、米国特許第6,277,633号及び米国特許第6,323,031号並びにFederico(1999、Curr Opin Biotechnol 10:448〜53ページ)及びVignaら、(2000、J Gene Med 2000;2:308〜16ページ)に記載されている。
【0075】
一般に、遺伝子治療ベクターが、発現される本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、前述した適切な調節配列に作動可能に連結されているヌクレオチド配列を含むという意味で、遺伝子治療ベクターは、上述の発現ベクターと同じになるであろう。そのような調節配列は、プロモーター配列を少なくとも含むことになる。遺伝子治療ベクターからのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現のために適したプロモーターには、たとえば、サイトメガロウイルス(CMV)中間初期プロモーター、マウスモロニー白血病ウイルス(MMLV)、ラウス肉腫ウイルス、又はHTLV−1由来のプロモーターなどのウイルス末端反復配列プロモーター(LTR)、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター及び単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーターが挙げられる。適切なプロモーターは下に記載されている。
【0076】
小分子有機又は無機化合物の投与により誘導されることがあるいくつかの誘導性プロモーター系は既に記載されている。そのような誘導性プロモーターには、メタロチオニンプロモーターなどの重金属(Brinsterら、1982、Nature 296:39〜42ページ;Mayoら、1982、Cell 29:99〜108ページ)、RU−486(プロゲステロンアンタゴニスト)(Wangら、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:8180〜8184ページ)、ステロイド類(MaderとWhite、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603〜5607ページ)、テトラサイクリン(GossenとBujard、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547〜5551ページ;米国特許第5,464,758号;Furthら、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9302〜9306ページ;Howeら、1995、J.Biol.Chem.270:14168〜14174ページ;Resnitzkyら、1994、Mol.Cell.Biol.14:1669〜1679ページ;Shockettら、1995、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6522〜6526ページ)、並びにtetRポリペプチド、VP16の活性化ドメイン、及びエストロゲン受容体のリガンド結合ドメインで構成されたマルチキメラトランス活性化因子をベースとするtTAERシステム(Yeeら、2002、US6,432,705)により制御されるプロモーターが挙げられる。
【0077】
RNA干渉(下記を参照)による特定の遺伝子のノックダウンのための低分子RNAをコードするヌクレオチド配列に適したプロモーターには、前述のポリメラーゼIIプロモーターに加えて、ポリメラーゼIIIプロモーターが挙げられる。RNAポリメラーゼIII(pol III)は、5S、U6、アデノウイルスVA1、ヴォールト、テロメラーゼRNA、及びtRNAを含む多種多様の小核及び細胞質非コードRNAの合成に関与する。これらのRNAをコードする多数の遺伝子のプロモーター構造が決定されており、RNA pol IIIプロモーターは3種類の構造に分類されることが見出されている(概説は、GeiduschekとTocchini−Valentini、1988、Annu.Rev.Biochem.57:873〜914ページ;Willis、1993、Eur.J.Biochem.212:1〜11ページ;Hernandez、2001、J.Biol.Chem.276:26733〜36ページ参照)。siRNAの発現に特に適しているのが、RNA pol IIIプロモーターの3型であり、転写は、5’隣接領域、すなわち、転写開始部位の上流にのみ存在するシス作用性エレメントにより推進される。上流配列エレメントには、従来のTATAボックス(Mattajら、1988、Cell 55、435〜442ページ)、近位配列エレメント及び遠位配列エレメント(DSE;GuptaとReddy、1991、Nucleic Acids res.19、2073〜2075ページ)が挙げられる。3型pol IIIプロモーターの制御下にある遺伝子の例は、U6低分子核内RNA(U6snRNA)、7SK、Y、MRP、H1及びテロメラーゼRNA遺伝子である(たとえば、Myslinskiら、2001、Nucl.Acids Res.21:2502〜09ページ参照)。
【0078】
遺伝子治療ベクターは、任意選択で、第2又は追加のポリペプチドをコードする第2又は1つ若しくは複数の追加のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。第2又は追加のポリペプチドは、発現構築物を含有する細胞の同定、選択及び/又はスクリーニングを可能にする(選択可能な)マーカーポリペプチドでもよい。この目的のために適したマーカータンパク質は、たとえば、蛍光タンパク質GFP、及び選択可能マーカー遺伝子HSVチミジンキナーゼ(HAT培地上での選択のため)、細菌性ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(ハイグロマイシンB上での選択のため)、Tn5アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(G418上での選択のため)、並びにジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)(メトトレキサート上での選択のため)、CD20、低親和性神経成長因子遺伝子である。これらのマーカー遺伝子を入手するための製造元及びその使用のための方法は、SambrookとRussell(2001)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New Yorkに提供されている。
【0079】
或いは、第2又は追加のヌクレオチド配列は、必要だと判断された場合は、トランスジェニック遺伝子から対象を治療することを可能にするフェイルセーフ機構を提供するポリペプチドをコードしていてもよい。そのようなヌクレオチド配列は、自殺遺伝子と呼ばれることが多いが、プロドラッグを、ポリペプチドが発現されているトランスジェニック細胞を死滅させることができる毒性物質に変換することができるポリペプチドをコードしている。そのような自殺遺伝子の適切な例には、たとえば、大腸菌シトシンデアミナーゼ遺伝子、又は単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス及び水痘帯状疱疹ウイルス由来のチミジンキナーゼ遺伝子のうちの1つが挙げられ、その場合、ガンシクロビルを対象のIL−10トランスジェニック細胞を死滅させるためのプロドラッグとして使ってもよい(たとえば、Clairら、1987、Antimicrob.Agents Chemother.31:844〜849ページ参照)。
【0080】
遺伝子治療ベクターは、好ましくは、下に定義する適切な医薬担体を含む医薬組成物に処方される。
【0081】
RNA干渉
本発明の特定のポリペプチドの発現のノックダウンのために、遺伝子治療ベクター又は他の発現構築物は、好ましくは、RNAi作用物質、すなわち、RNA干渉が可能である、又はRNA干渉が可能であるRNA分子の一部であるRNA分子をコードする目的のヌクレオチド配列の発現のために使用される。そのようなRNA分子はsiRNA(たとえば、低分子ヘアピン型RNAを含む低分子干渉RNA)と呼ばれる。或いは、siRNA分子は、たとえば、医薬組成物で単球細胞の内部に又はその近隣に直接投与してもよい。
【0082】
目的のヌクレオチド配列は、標的遺伝子mRNAの領域に対するアンチセンスRNAをコードするアンチセンスコードDNA、及び/又は標的遺伝子mRNAの同一領域に対するセンスRNAをコードするセンスコードDNAを含む。本発明のDNA構築物では、アンチセンス及びセンスコードDNAは、それぞれアンチセンス及びセンスRNAを発現することができる本明細書で上に定義した1個又は複数のプロモーターに作動可能に連結されている。「siRNA」は、好ましくは、短い二本鎖RNAであって、哺乳動物細胞では有毒ではない低分子干渉RNAを意味する(Elbashirら、2001、Nature 411:494〜98ページ;Caplenら、2001、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:9742〜47ページ)。前記長さは必ずしも21〜23ヌクレオチドに限定されるものではない。siRNAの長さは、それが毒性を示さない限り、特に制限はない。「siRNA」は、たとえば、少なくとも15、18又は21ヌクレオチド、及び最大25、30、35又は49ヌクレオチド長が可能である。或いは、発現されるsiRNAの最終転写産物の二本鎖RNA部分は、たとえば少なくとも15、18又は21ヌクレオチド、及び最大25、30、35又は49ヌクレオチド長が可能である。
【0083】
「アンチセンスRNA」は、好ましくは、標的遺伝子mRNAに相補的な配列を有するRNA鎖であり、標的遺伝子mRNAに結合することによりRNAiを誘導すると考えられている。「センスRNA」は、アンチセンスRNAに相補的な配列を有し、その相補的アンチセンスRNAにアニールしてsiRNAを形成する。この文脈での用語「標的遺伝子」は、好ましくは、その発現が現在の系によって発現されるsiRNAにより発現停止される遺伝子のことであり、任意に選択することができる。この標的遺伝子としては、たとえば、その配列は分かっているがその機能はまだ解明されていない遺伝子、及びその発現が疾患の原因であると考えられている遺伝子が選択されるのが好ましい。標的遺伝子は、少なくとも15ヌクレオチド以上を有し、siRNAの鎖の1つ(アンチセンスRNA鎖)に結合することができる長さである前記遺伝子のmRNAの部分配列が決定されている限り、そのゲノム配列が完全には解明されていない遺伝子でもよい。したがって、遺伝子、発現された配列タグ(EST)及びそのうちの一部の配列(好ましくは少なくとも15ヌクレオチド)が解明されているmRNAの部分を、その完全長配列が決定されていなくても、「標的遺伝子」として選択してもよい。
【0084】
2本のRNA鎖が対を形成するsiRNAの二本鎖RNA部分は、完全に対をなす部分に限定されることはなく、ミスマッチ(対応するヌクレオチドが相補的でない)、バルジ(一方の鎖上で対応する相補的ヌクレオチドが欠けている)などによる非対形成部分を含有していてもよい。非対形成部分は、それがsiRNA形成を妨げない程度に含有することができる。本明細書で使用される「バルジ」は、好ましくは、1〜2非対形成ヌクレオチドを含み、2本のRNA鎖が対を形成するsiRNAの二本鎖RNA領域は、好ましくは、1〜7、さらに好ましくは、1〜5バルジを含有している。さらに、本明細書で使用される「ミスマッチ」は、好ましくは、2本のRNA鎖が対を形成するsiRNAの二本鎖RNA領域に、数で好ましくは1〜7、さらに好ましくは1〜5含有されている。好ましいミスマッチでは、ヌクレオチドの1つはグアニン、他方はウラシルである。そのようなミスマッチは、センスRNAをコードするDNA中のCからT、GからA、又はその混合である突然変異に起因するが、特にこれらの変異に限定されるものではない。さらに、本発明では、2本のRNA鎖が対を形成するsiRNAの二本鎖RNA領域は、バルジとミスマッチの両方を、合計で好ましくは数で1〜7、さらに好ましくは1〜5含有していてもよい。そのような非対形成部分(ミスマッチ又はバルジ、等)は、アンチセンスとセンスコードDNA間での下記の組換えを抑制し、下記のsiRNA発現系を安定化することができる。さらに、2本のRNA鎖が対を形成しているsiRNAの二本鎖RNA領域に非対形成部分を全く含有しないステムループDNAの配列を決定するのは困難であるが、上記のミスマッチ又はバルジを導入することにより配列決定は可能になる。さらに、対形成二本鎖RNA領域にミスマッチ又はバルジを含有するsiRNAは、大腸菌又は動物細胞において安定しているという利点がある。
【0085】
siRNAの末端構造は、siRNAがそのRNAi効果により標的遺伝子発現を発現停止させることができる限り、平滑末端でも付着末端(突出)でもよい。付着(突出)末端構造は3’突出だけに限定されるものではなく、5’突出構造も、それがRNAi効果を誘導することができる限り、含まれてよい。さらに、突出ヌクレオチドの数は既に報告されている2〜3に限定されることはなく、前記突出がRNAi効果を誘導することができる限り、どんな数でも可能である。たとえば、突出は1〜8、好ましくは2〜4ヌクレオチドからなる。本明細書では、付着末端構造を有するsiRNAの全長は、対形成した二本鎖部分の長さと両末端に突出した一本鎖を含む対の長さの和として表される。たとえば、両末端に4ヌクレオチド突出のある19bp二本鎖RNA部分の場合、全長は23bpとして表される。さらに、この突出配列は標的遺伝子に対する特異性が低いので、必ずしも標的遺伝子配列に相補的(アンチセンス)でも同一(センス)でもない。さらに、siRNAが標的遺伝子に対するその遺伝子サイレンシング効果を維持することができる限り、siRNAは、たとえば、その一方の末端の突出部分に、(tRNA、rRNA若しくはウイルスRNAなどの天然RNA分子、又は人工RNA分子でもよい)低分子量RNAを含有していてもよい。
【0086】
さらに、「siRNA」の末端構造は必ず上記のように両末端でカットオフ構造であり、二本鎖RNAの一方の側の末端がリンカーRNAにより連結されているステムループ構造(「shRNA」)をしていてもよい。二本鎖RNA領域(ステムループ部分)の長さは、たとえば、少なくとも15、18又は21ヌクレオチドであり、最大25、30、35又は49ヌクレオチド長であることが可能である。或いは、発現されるsiRNAの最終転写産物である二本鎖RNA領域の長さは、たとえば、少なくとも15、18又は21ヌクレオチドであり、最大25、30、35又は49ヌクレオチド長である。さらに、リンカーの長さには、それがステム部分の対形成を妨げないような長さである限り、特に制限はない。たとえば、ステム部分の安定した対形成及びその部分をコードするDNA間の組換えの抑制のためには、リンカー部分はクローバー型のtRNA構造をしていてもよい。リンカーはステム部分の対形成を妨げる長さを有しているとしても、たとえば、イントロンがRNA前駆体から成熟RNAへのプロセシング中に切り取られ、それによってステム部分の対形成を可能にするように、イントロンを含むリンカー部分を構築することは可能である。ステムループsiRNAの場合、ループ構造のないRNAのどちらかの末端(ヘッド又はテール)は低分子量RNAを有していてもよい。上記のように、この低分子量RNAは、tRNA、rRNA、snRNA若しくはウイルスRNAなどの天然RNA分子、又は人工RNA分子でもよい。
【0087】
それぞれアンチセンス及びセンスコードDNAからアンチセンス及びセンスRNAを発現するために、本発明のDNA構築物は、上で定義するプロモーターを含む。構築物中のプロモーターの数及び位置は、原則として、それがアンチセンス及びセンスコードDNAを発現することができる限り、任意に選択することができる。本発明のDNA構築物の簡単な例として、プロモーターがアンチセンスとセンスコードDNAの両方の上流に位置している直列型発現系を形成することができる。この直列型発現系は、両末端に上述のカットオフ構造を有するsiRNAを産生することができる。ステムループsiRNA発現系(ステム発現系)では、アンチセンス及びセンスコードDNAは反対方向に配置され、これらのDNAはリンカーDNAを介して連結されてユニットを構築する。プロモーターはこのユニットの一方の側に連結されて、ステムループsiRNA発現系を構築する。本明細書では、リンカーDNAの長さ及び配列に特に制限はなく、その配列が終結配列ではなく、その長さと配列が上記の成熟RNA産生中にステム部分対形成を妨げない限り、どんな長さと配列を有していてもよい。例として、上記のtRNAをコードするDNAなどをリンカーDNAとして使うことができる。
【0088】
直列型とステムループ発現系の両方の場合、5’末端は、プロモーターから転写を促進することができる配列を有していてもよい。さらに具体的には、直列型siRNAの場合、siRNA産生の効率は、アンチセンス及びセンスコードDNAの5’末端にプロモーターから転写を促進することができる配列を付加することにより改良してもよい。ステムループsiRNAの場合、そのような配列を上記のユニットの5’末端に付加することができる。そのような配列からの転写産物は、siRNAによる標的遺伝子発現停止が妨げられない限り、siRNAに結合している状態で使ってもよい。この状態が遺伝子発現停止を妨げるならば、トリミング法(たとえば、当技術分野で知られているリボザイム)を使って転写産物のトリミングを実施するのが好ましい。アンチセンス及びセンスRNAは、同一ベクターで又は別々のベクターで発現させてもよいことは当業者には明らかであろう。センス及びアンチセンスRNAの下流に過剰な配列を付加することを回避するためには、それぞれの鎖(アンチセンス及びセンスRNAをコードする鎖)の3’末端に転写のターミネーターを置くことが好ましい。前記ターミネーターは、4個以上の連続するアデニン(A)ヌクレオチドの配列でもよい。
【0089】
抗体
本発明のいくつかの態様は、上で定義する本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントの使用に関する。所与のポリペプチドに特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントを作製するための方法は、たとえば、HarlowとLane(1988、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)並びにWO91/19818;WO91/18989;WO92/01047;WO92/06204;WO92/18619;及びUS6,420,113とそこに引用されている参考文献に記載されている。本明細書で使用する場合、用語「特異的結合」は、低親和性特異的結合と高親和性特異的結合の両方を含む。特異的結合は、たとえば、少なくとも約10−4MのKdを有する低親和性抗体又は抗体フラグメントにより示すことができる。特異的結合は、高親和性抗体又は抗体フラグメント、たとえば、少なくとも約10−7M、少なくとも約10−8M、少なくとも約10−9M、少なくとも約10−10MのKdを有する抗体若しくは抗体フラグメントによっても示すことができ、又は少なくとも約10−11M若しくは10−12M以上のKdを有することも可能である。好ましい実施形態は、IFNβに対する抗体、さらに好ましくはヒト抗体、さらに好ましくは中和抗ヒトIFNβ抗体に関する。中和抗体は、好ましくは、所与のアッセイにおいて少なくともある程度はIFNβに結合し、その作用を不活化することができる抗体である。好ましくは、in vitroアッセイにおいて、中和抗体は所定量のIFNβの少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%に結合して不活化することができる。前記不活化は、好ましくは、本明細書において前で定義したIFNβの活性を測定することにより評価される。
【0090】
ペプチド模倣薬
本発明のポリペプチドに又はその受容体ポリペプチドに特異的に結合し、本発明のポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストとして(本発明のポリペプチドの活性又は定常状態レベルを改変するための)本明細書で定義する本発明の方法で用いてもよく、たとえば、US6,180,084に詳細に記載されているそれ自体が当技術分野で知られている方法を使って同定してもよいペプチド様分子(ペプチド模倣薬と呼ばれる)又は非ペプチド分子。前記特許文献は参照により本明細書に組み込まれている。そのような方法には、たとえば、ペプチド模倣薬、ペプチド、DNAのライブラリー又はcDNA発現ライブラリー、コンビナトリアルケミストリー及び、特に有用なのが、ファージディスプレーライブラリーのスクリーニングが挙げられる。これらのライブラリーは、前記ライブラリーを本発明の実質的に精製されたポリペプチド、そのフラグメント又はその構造類似体に接触させることにより、ポリペプチドのアゴニスト及び/又はアンタゴニストを求めてスクリーニングしてもよい。
【0091】
医薬組成物
本発明は、ポリペプチド、核酸、核酸構築物、遺伝子治療ベクター及び抗体からなるグループから選択される成分を活性成分として含む医薬調製物又は組成物にさらに関する。これらの成分はすべて既に本明細書で定義した。組成物は、好ましくは、活性成分に加えて薬剤的に許容可能な担体を少なくとも含む。
【0092】
いくつかの方法で、哺乳動物、昆虫又は微生物細胞培養物から、トランスジェニック哺乳動物の乳又は他の供給源から精製した本発明のポリペプチド又は抗体は、医薬組成物として医薬担体と一緒に精製した形で投与される。ポリペプチドを含む医薬組成物を作製する方法は、米国特許第5,789,543号及び米国特許第6,207,718号に記載されている。好ましい形は、投与及び治療的適用の意図された形態に依存する。
【0093】
医薬担体は、ポリペプチド、抗体又は遺伝子治療ベクターを患者に送達するのに適したどんな適合性無毒性物質でも可能である。減菌水、アルコール、脂肪、ワックス、及び不活性固体を担体として使ってもよい。薬剤的に許容可能なアジュバンド、緩衝剤、分散剤、なども医薬組成物に組み込んでよい。
【0094】
医薬組成物中の本発明のポリペプチド又は抗体の濃度は、広く、すなわち、約0.1重量%未満、通常は少なくとも約1重量%から、20重量%以上までも異なることが可能である。
【0095】
経口投与では、活性成分は、カプセル、錠剤、及び粉末などの固形の剤形で、又はエリキシル剤、シロップ、及び懸濁液などの液体の剤形で投与することができる。活性成分(複数可)は、グルコース、ラクトース、ショ糖、マンニトール、デンプン、セルロース若しくはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルカム、炭酸マグネシウム及び同類のものなどの不活性成分及び粉末担体と一緒にゼラチンカプセルにカプセル化することができる。所望の色、味、安定性、緩衝能力、分散又は他の既知の所望の特色を与えるために添加してよい追加の不活性成分の例には、赤色酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、食用ホワイトインク及び同類のものである。類似の希釈剤を使って、圧縮錠剤を作ることができる。錠剤もカプセルも、数時間の期間にわたる薬物の連続放出を提供するための徐放製品として製造することができる。圧縮錠剤は、どんな不快な味も隠し、錠剤を大気から保護するために糖衣をかける若しくはフィルムコートすることができる、又は消化管での選択的分解のために腸溶コーティングすることができる。経口投与のための液体の剤形は、患者が受け入れやすくするための着色及び香味づけを含むことができる。
【0096】
ポリペプチド、抗体又は核酸構築物又は遺伝子治療ベクターは、好ましくは、非経口的に又は全身的に投与される。調製物のためのポリペプチド、抗体、核酸構築物又はベクターは無菌でなければならない。滅菌法は、凍結乾燥及び再構成に先立って又は続いて、無菌濾過膜を通じた濾過により容易に実現することができる。1つの好ましい投与経路は、全身的であり、さらに好ましくは経口的である。別の好ましい経路は、既知の方法、たとえば、皮下、静脈、腹腔内、筋肉内、動脈内、病巣内、頭蓋内、くも膜下腔内、経皮的、経鼻、頬側、直腸又は膣経路による注射若しくは点滴に一致するポリペプチド、抗体、核酸構築物又はベクターの投与のための非経口経路である。さらに好ましくは、投与のための経路は静脈又は皮下である。ポリペプチド、抗体、核酸構築物又はベクターは、点滴により連続して又はボーラス注入により、投与される。静脈点滴のための典型的な組成物は、10〜50mlの無菌0.9%NaCl、又は20%アルブミン液を任意選択で補充した5%グルコース、及び1〜50μgの前記ポリペプチド、抗体、核酸構築物又はベクターを含有するように構成することもできるであろう。筋肉注射のための典型的な医薬組成物は、たとえば、1〜10mlの無菌緩衝用水及び1〜100μgの本発明のポリペプチド、抗体、核酸構築物又はベクターを含有するように構成されるであろう。非経口投与可能な組成物を調製するための方法は、当技術分野では周知であり、たとえば、Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing、Easton、PA、1980)を含む種々の出典にさらに詳細に記載されている(前記文献は、あらゆる目的のために参照によりその全体が組み込まれている)。
【0097】
治療的適用では、医薬組成物は、症状の重症度を緩和し及び/又は症状のそれ以上の進行を妨げる若しくは停止するに十分な量が、不十分な動脈形成能を患った対象に投与される。或いは、医薬組成物は、動脈形成能の刺激又は動脈形成を刺激することを必要とする対象に投与される。これを実現するのに十分な量は、「治療」又は「予防有効量」と定義される。そのような有効量は、状態の重症度に及び対象の健康の全身状態に依存することになる。一般に、治療又は予防有効量は、好ましくは、許容レベルにまで、好ましくは、正常な非罹健常対象者に見られる平均レベル(近く)まで、症状を逆戻りさせる、すなわち、動脈形成能を回復する若しくは刺激する又は動脈形成を刺激するのに十分な用量である。
【0098】
本発明では、ポリペプチド又は抗体は、通常、対象に週当たり約1μg/kg対象体重以上の用量で投与される。多くの場合、用量は週当たり10μg/kgよりも多い。投与計画では、週当たり10μg/kgから週当たり少なくとも1mg/kgまで変動することが可能である。典型的には、投与計画は、週当たり10μg/kg、週当たり20μg/kg、週当たり30μg/kg、週当たり40μg/kg、週当たり60μg/kg、週当たり80μg/kg及び週当たり120μg/kgである。好ましい計画では、10μg/kg、20μg/kg又は40μg/kgが、週1回、2回、又は3回投与される。治療は、好ましくは、非経口経路で投与される。
【0099】
マイクロアレイ
本発明の別の態様は、上で定義する核酸、ポリペプチド又は抗体を含むマイクロアレイ(又は他のハイスループットスクリーニング装置)に関する。マイクロアレイは、核酸若しくはアミノ酸配列又はその混合物の分析のために、1つ又は複数の固定化核酸又はポリペプチドフラグメントを含有する固体支持体又は担体である(たとえば、WO97/27317、WO97/22720、WO97/43450、EP0799897、EP0785280、WO97/31256、WO97/27317、WO98/08083及びZhuとSnyder、2001、Curr.Opin.Chem.Biol.5:40〜45ページ参照)。核酸を含むマイクロアレイは、たとえば、前述の遺伝子型又は発現パターンを分析するための方法に適用してもよい。ポリペプチドを含むマイクロアレイは、ポリペプチドと相互作用をする基質、リガンド又は他の分子の適切な候補の検出のために使ってもよい。抗体を含むマイクロアレイは、前述のポリペプチドの発現パターンを分析するための方法において使ってもよい。
【0100】
概要
本文書及びその特許請求の範囲では、動詞「含む(to comprise)」及びその活用はその非限定的意味で使われ、前記単語の後に続く品目が含まれるが、具体的に言及されていない品目を排除しないことを意味する。さらに、動詞「なる(to consist)」は、本明細書で定義されるヌクレオチド配列、核酸構築物又は医薬組成物が、具体的に同定された成分以外の追加の成分(単数又は複数)であって、本発明の独自の特徴を変えない前記追加の成分(単数又は複数)を含んでもよいことを意味する「基本的にからなる」で置き換えられるものである。さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、文脈から前記要素の1つ及び1つのみが存在することを明確に求められない限り、複数の前記要素が存在する可能性を排除しない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0101】
本明細書に引用する特許及び参考文献はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0102】
以下の実施例は、例証目的のためにのみ提供され、いかなる点でも本発明の範囲を限定することを目的としていない。
【実施例】
【0103】
(例1)
方法
患者の選択
この研究は、施設内医療倫理委員会によって承認された。2006年4月から12月の間に、安定冠動脈疾患のために電気経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受ける予定の45人の白人患者を、インフォームドコンセントを得た後で含めた。患者は、1つの血管の冠動脈疾患(狭窄径≧70%)であり、4週間以上、狭心症の症状を持つ場合に適格と見なした。排除の基準は:多血管疾患、心筋梗塞の既往、心臓外科手術又はPCIの既往、左心室機能低下、糖尿病、腫瘍疾患、及び急性又は慢性の炎症性疾患とした。
【0104】
側副フローインデックス(CFI)
患者にニトログリセリン0.1mgを冠動脈内注射してから、冠動脈の血管造影を行った。垂直画像を用いて狭窄率を決定するために、量的冠動脈血管造影(Medis、Leiden、The Netherlands)を行った。基準条件の際のレシピエントの動脈に対する側副流動を、Rentropスコアにしたがって2人の盲検観察者が評価した44
【0105】
0.014インチ(0.3556mm)圧力ガイドワイヤ(BrightWire、Volcano、Rancho Cordova、CA)を、冠動脈内圧測定のために用いた。1分のバルーン拡張の間に、冠動脈閉塞部の遠位側の圧力(楔入圧、P)及び大動脈(Pao)圧を決定した。CFIを、上記したように45(P−5mmHg)/(Pao−5mmHg)として算出した。患者を、0.21のカットオフ値を用いてCFIにしたがって2つの群に分けた。
【0106】
単球及び幹細胞の単離、培養、及び遺伝子発現解析
容量60mlの末梢血を、手順の開始時に動脈鞘から採取し、ヘパリン添加血管に移した。血液を、標準的な手順にしたがって単球単離のために迅速に処理した。簡単に述べると、休止している非刺激単球を、抗CD14ビーズ(Dynabeads、Invitrogen、Carlsbad、CA)を用いる免疫磁気分離によって4℃で全血5mlから直接単離した。必要な洗浄段階の後、細胞を、RNA溶解緩衝液(Stratagene、La Jolla、CA)を用いてビーズ上に溶解し、−80℃で凍結した。単球純度は、APC標識マウス抗ヒトCD14抗体(Caltag、Invitrogen)を用いてフローサイトメトリーによって90%を超えることを確認した。
【0107】
全血の残りの部分から、Ficoll密度分離(General Electric、Fairfield、CT)を用いて単球細胞画分を単離した。CD34細胞を、抗CD34ビーズ(Dynabeads)を用いる免疫磁気分離によって陽性単離し、洗浄し、溶解した。溶解物を、さらなる処理のために−80℃で保存した。CD34細胞純度は、FITC標識マウス抗ヒトCD34抗体(BD Biosciences、San Jose、CA)を用いるフローサイトメトリーによって測定すると90%を超えた。
【0108】
次いで、残りのCD34陰性細胞に、単球陰性単離キット(Dynal、Invitrogen)を用いる免疫磁気分離によって単球陰性分離を行った。純度90%以上のビーズを含まない単球集団を、APC標識マウス抗ヒトCD14抗体を用いるフローサイトメトリーによって確認した。陰性単離細胞を、10%FCS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む標準的な単球培地(RPMI、Gibco、Invitrogen)に溶解し、2×10細胞/mlの濃度で培地ウェルに播種した。次いで、単球を10ng/mlリポ多糖(Sigma−Aldrich、Munich、Germany)と共に3時間インキュベートすることによって活性化させた。単球のもう1つの画分は、20時間の培養後、マクロファージに分化した。刺激した単球及びマクロファージの両方では、接着細胞のみをRNAの単離のために溶解し、これにより95%を超える純度に上昇した。全RNAを全細胞溶解物から単離した(Absolutely RNAマイクロプレップキット、Stratagene、La Jolla、CA)。
【0109】
42人の患者からのRNA試料を、Illumina TotalPrep RNA増幅キット(Ambion、Austin、TX)を用いて増幅し、ビオチン化した。基準の単球、刺激した単球、及びマクロファージからの品質管理に合格した120の試料を、分化細胞集団の割合のバランスをとりながら、Sentrix HumanRef−8発現ビーズチップアレイ(Illumina、San Diego、CA)及び各チップの8つの位置にランダムに割り当てた。40回の技術的複製も行った。さらに、32個の幹細胞試料と十分な品質の8個の技術的複製物を、ハイブリダイゼーションのために選択した。試料を、ServiceXS(Leiden、The Netherlands)を用いてビーズチップアレイにハイブリダイズさせ、スキャニングし、特徴の抽出を行った。
【0110】
フローサイトメトリーを用いた末梢血中のCD34細胞数の評価
総量100μlの末梢血を、暗い中で45分間、FITC標識マウス抗ヒト抗体(クローン581、BD Pharmingen)20μlと共にインキュベートした。次いで、試料を洗浄し、塩化アンモニウム系のホルムアルデヒドを含まない溶解液で溶解し、フローサイトメトリーを行った。リンパ球ゲート中のCD34細胞の総数を計数し、単球細胞の総数及び白血球細胞の総数に対して調整した。
【0111】
遺伝子アレイの結果のバリデーション−RT−PCR
製造業者の取扱説明書(Invitrogen)にしたがってSuperscript IIを用いて、45人すべての患者からのcDNA試料を、全RNAから逆転写した。希釈したcDNAに、MY−IQ単色リアルタイムPCR検出システム(Biorad、Hercules、CA)を用いてリアルタイムPCRを行った。プライマーを、Primer−3を用いて設計した46。mRNAの発現レベルを、リボソームタンパク質P0の発現に対して補正して、相対発現値として表示した。RT−PCRを、以下に示すプライマー:CXCL10(順方向5’−ACCTTTCCCATCTTCCAAGG−3’、逆方向5’−GGTAGCCACTGAAAGAATTTGG−3’)、CXCL11(順方向5’−TGAAAGGTGGGTGAAAGGAC−3’、逆方向5’−GCACTTTGTAAACTCCGATGG−3’)、IFNγ(順方向5’−TATCTCAGGGGCCAACTAGG−3’、逆方向5’−AAAGCACTGGCTCAGATTGC−3’)、IFNβ(順方向5’−TGGGAGGATTCTGCATTACC−3’、逆方向5’−CAATTGTCCAGTCCCAGAGG−3’)、MMP1(順方向5’−CACAAATGGTGGGTACAAAAAG−3’、逆方向5’−GGTGACACCAGTGACTGCAC−3’)、MMP10(順方向5’−CATTGCTAGGCGAGATAGGG−3’、逆方向5’−TCAGTGCAATTCAAAAGCAAG−3’)、NQO1(順方向5’−AACACTGCCCTCTTGTGGTG−3’、逆方向5’−CAGCCGTCAGCTATTGTGG−3’)、P0(順方向5’−TGCACAATGGCAGCATCTAC−3’、逆方向5’−ATCCGTCTCCACAGACAAGG−3’)を用いて、遺伝子アレイ上で異なって発現される遺伝子の選択のために行った。
【0112】
酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)
LPS刺激試料の上清中のインターフェロン−β及びインターフェロン−γの検出のために、ELISAを、製造業者の記載(R&D、Minneapolis、MN)にしたがって行った。簡単に述べると、抗IFNβ抗体又は抗IFNγ抗体のそれぞれで被覆された96ウェルプレート上で試料をインキュベートした。必要な洗浄段階の後、ビオチン化抗体、続いてストレプトアビジン−コンジュゲートホースラディッシュペルオキシダーゼを接着プローブに結合した。基質としてテトラメチル−ベンジジン(TMB)を用いて、EL808分光光度計(BioTek、Winooski、VT)で、450nmで吸光度を測定した。
【0113】
統計解析
臨床特性を、平均±標準偏差又は量的変数の中央値及び四分位数間範囲として、名目変数に対して観察された数(%)を表している。フィッシャーの直接確率検定を、2×2の分割表で関連性を調べるために用いた。量的臨床特性、血行力学的測定値、PCR及びELISAのデータを、コルモゴルフ−スミルノフ検定を用いて正常な分布について調べた。2群間の比較を、正規分布パラメータに対するスチューデントt検定及び非正規分布パラメータに対するマンホイットニーU検定によって行った。
【0114】
アレイデータを、IlluminaのBeadStudioソフトウエアを用いて抽出した。1個の誤標識アレイと、検出p値<0.01を有するプローブが30%未満の10個の低信号アレイ(7個の別個の試料及び1個の3連試料に一致する)を排除した。単球の場合、これにより、解析に利用できる合計151個(39個の技術的複製物を含む)のアレイが残った。CD34+細胞試料から、38個(8個の技術的複製物を含む)のアレイを解析した。アレイからのビーズ要約データの正規化及び統計解析を、limmaパッケージ47及びR/Bioconductorの社内スクリプト48を用いて行った。ビーズ要約強度を、log2に変換してから、分位数正規化49を用いて正規化した。異なって発現する遺伝子を見出すために、線形モデル50解析を行った。技術的複製物は、複製物内の相関についての共通値を推定することと、これを線形モデルに含めることによって取り扱った。目的の治療間の発現差異を、moderated t検定51を用いて評価した。この検定は、各遺伝子に対してより安定した推論ができるように遺伝子全体にわたって標準的な誤差を加減する点を除き、各プローブに対する標準的なt検定に類似している。得られるp値は、予想される偽の発見率を5%未満に制御する多重検査に対して調整した52
【0115】
刺激した単球の遺伝子発現プロフィールから患者の体質(良好な応答者又は不良な応答者)を予測できるか否か検査するために、対角線形判別解析(DLDA)分類法を用いた。この分類法を、ミッシェル(Michiels)らに記載されているように53、反復ランダムサンプリング法でバリデーションを行った。データセット(N=38、技術的複製物の発現データを平均した)を、交換しない再サンプリングを用いて、500のトレーニングセット(サイズn)及び500の関連バリデーションセット(サイズN−n)に分けた。再サンプリングは、トレーニング及びバリデーションセットにおける十分な応答者と不十分な応答者との割合が完全データセットの割合に類似するように行った。各トレーニングセットでは、分子サインを、2つの試料群間のt統計によって決定する、発現が予後と最も相関している5、10、...100のプローブから同定した。分類法に含めるのに最適な遺伝子の数を、トレーニングセットに対する5倍のクロスバリデーションで選択した。得られる分類法の正確さ(正確に予想された試料の割合)、特異性(正確に予想された良好な応答者の割合)、及び感受性(正確に予想された不良な応答者の割合)を、それぞれの関連バリデーションセットに対して評価した。この方法は、バリデーションデータが遺伝子の選択及び分類法のトレーニングに関与していないため、分類法の独立したバリデーションを保障する。試料のサイズの影響を調べるために、トレーニングセットnのサイズを、2つの段階で6から36までとした。したがって、残りの試料は、32から2までのバリデーションセットに属する。階層的クラスタリングを、コサイン相関距離測定及び重み付け平均リンクを用いてSpotfireで行った。
【0116】
システムバイオロジーレベルでの遺伝子発現差異を、定型的経路及び遺伝子オントロジーカテゴリーにおけるこれらの存在を評価することによって研究するために、Metacore(商標)54を用いた。正規化アレイデータを、識別子として遺伝子記号を用いてMetacore(商標)データ管理プログラムにインポートした。名目p値を、カットオフ0.05で経路解析に用いた。
【0117】
加えて、遺伝子セット濃縮解析(GSEA)55を、すべてのデータセットに対して行った。さらに、経路解析及び見出された濃縮経路の視覚化のためにGenMAPP56を用いた。このプラットフォームは、GO(遺伝子オントロジー)及びKEGG(京都遺伝子ゲノム百科事典)データベースの定型的経路を利用している。最後に、濃縮生物学的処理及び分子機能の解析のためにPanther57ソフトウエアを用いた。
【0118】
受入コード
すべてのマイクロアレイデータを、受入番号GSE7547として遺伝子発現情報データベース(GEO)に提出した。
【0119】
結果
良好な応答者及び不良な応答者の患者の特徴
患者は、62.8±12.0歳で、CFIが0.04〜0.57(平均値 0.23±0.11)であった。全ゲノム遺伝子発現解析のために42人の患者を選択した。基準特徴は、良好な応答者(患者22人、平均CFI 0.32±0.10)と不良な応答者(20人、平均CFI 0.14±0.04)との間の十分なマッチした(表1)。2つの群は、定量的冠動脈造影(QCA)によって測定した、拡張すべき冠動脈の狭窄の重症度に差異がなかった。さらに、患者群は、側副動脈成長に潜在的に影響を及ぼしうる特徴26(年齢、性別、投薬、脂質プロフィール)について差異がなかった。
【0120】
不良な応答者は、バルーン冠動脈閉塞の際に虚血の兆候としてより明らかなST部分の上昇を示し(1.88±1.40mm対0.50±0.99mm、p=0.001)、低く修正されたRentropスコア(0.23±0.43対0.95±0.89、p=0.001)を示した。しかしながら、0〜3のスケールに対して、すべての患者の93%が0又は1のスコアであった。したがって、CFIとは対照的に、Rentropスコアは、この患者集団の良好な応答者と不良な応答者の分離を許可しない。
【0121】
遺伝子発現解析−休止単球
循環単球の数は、良好な応答者と不良な応答者との間に差異がなかった(518±116/μl対529±154/μl、p=0.80)。休止単球は、2つの患者群の間で異なって調節された単一遺伝子を発現しなかった(すべての遺伝子に対して、調整済みp値>0.4)。しかしながら、経路レベルに対する解析により、表皮成長因子受容体経路、線維芽細胞成長因子受容体経路、及びインスリンシグナル伝達経路が、良好な応答者と不良な応答者との間で異なって調節されることが示された(補助表6)。
【0122】
遺伝子発現解析−刺激した単球
良好な応答者及び不良な応答者の指定、休止単球、刺激した単球、及びマクロファージにかかわらず、単球遺伝子発現に対する刺激の効果の評価により、教師なし階層クラスタリングを行った際に明確に異なった遺伝子発現が示された(不図示)。単球のLPS刺激(表2)並びにマクロファージに向けた細胞培養(表3)は、休止単球と比較して、これらの刺激で予想された遺伝子の顕著なアップレギュレーションとなった。加えて、刺激した単球の休止単球に対する遺伝子発現差異を、経路レベルで分析することにより、TLR媒介免疫応答、サイトカイン、及びケモカイン媒介シグナル伝達経路、並びに細胞周期経路における最も顕著な変化が示された(補助表3)。LPSは、TLR4を介した炎症シグナル伝達を誘導することが知られており、このため、NFκB(MyD88依存)及びTICAM−1/IRF3(MyD88非依存)分枝の両方の活性化が、IFN−媒介シグナル伝達27につながる(不図示)。
【0123】
良好な応答者と不良な応答者を比較すると、LPS刺激単球は、合計244個の異なって発現された遺伝子を示した(調整済みp<0.05)。244個の遺伝子のうち、147個の遺伝子が、不良な応答者の単球でより強く誘導された。100個の最も異なって発現された遺伝子を例示するヒートマップは、遺伝子の95%が、不良な応答者でより強く誘導されていることを示す(不図示)。
【0124】
マクロファージに向けて培養された細胞集団では、3つの遺伝子が、異なって発現されるのが分かった(調整済みp<0.05):ガラクトースムタロターゼ、卵黄膜外層−1相同体、及び仮想タンパク質(LOC149134)。
【0125】
良好な応答者と不良な応答者の発現差異を比較すると、刺激した単球とマクロファージとの間に良好な一致が観察された。刺激した単球における100個の最も異なって発現された遺伝子のうち82%が、マクロファージ試料で同じ方向で発現差異を示し(正確な2項試験、p<10−10)、これらのmoderated t統計量は、有意に相関していた(スピアマンの階数相関係数=0.56、p<10−15)。このような一致は、刺激した単球と休止単球との間には存在しなかった(データは不図示)。
【0126】
分類分析
分類分析のために刺激した単球試料を用いた。26人の患者のトレーニングセット及び12人の患者のバリデーションセットにおける500の分割を用いると、バリデーションセットにおける患者は、70%の平均精度(CI 50〜92%、平均感受性:65.2%、平均特異度:75%)で、良好な応答者又は不良な応答者に分類された。分類用遺伝子を用いたときの良好な応答者及び不良な応答者からの刺激した単球の発現プロフィールの教師なしクラスタリング(不図示)。注目すべきは、1つを除くすべての分類用遺伝子(シスタチオニンβシンターゼ(CBS)、クラスタリングの図の一番上の行)が、不良な応答者でより強く誘導された。
【0127】
不良な応答者におけるIFNシグナル伝達の増加
不良な応答者からの刺激した単球で最も強く過剰に発現された遺伝子は、IFN−β及び多数のIFN関連遺伝子(補助表1及び2)であった。また、分類するセットのいくつかの遺伝子も、IFN経路に関連していた。経路分析により、最も有意に異なって発現された免疫応答経路が明らかになった(表4、補助表4)。興味深いことに、2つのトップに位置する経路、IFNα/β及びTICAM−1特異的シグナル伝達経路は、TLRシグナル伝達経路のMyD88非依存アームに属する。これらの経路の精密分析により、IFNα/β、STAT1/2、IRF1/2、及びIFI6を含め、大多数の遺伝子が、不良な応答者でより多く発現されていることが示された。不良な応答者におけるTLRシグナル伝達経路のTICAM−1特異的MyD88非依存アームの選択的な誘導を実証した(データは不図示)。同時に、良好な応答者における抗炎症遺伝子の過剰発現の証拠を見出し:IL−10ファミリーメンバーサイトカインIL−19、IL−20、及びIL−24が、良好な応答者からの刺激した単球で有意に増大したことが分かった。さらに、IFN経路の阻害剤である抗炎症SOCS−7は、良好な応答者でより強く誘導されることが分かった。
【0128】
免疫応答の経路、特にIFN−α/β経路は、不良な応答者での一貫した過剰発現を示し、使用した他の経路分析ソフトウエアでも示した(データは不図示)。モチーフ遺伝子セットを用いるGSEAでの転写因子結合部位解析は、IFN−βの重要な役割をさらに裏付け、52の遺伝子セットが不良な応答者で濃縮されたことを示し(調整済みp<0.25)、そのうち14が、IFN刺激応答要素、IFNコンセンサス部位結合タンパク質、IFN応答因子、及びSTATを含むIFN関連モチーフに基づいた遺伝子セットである(データは不図示)。
【0129】
マクロファージ集団では、より少ない経路が異なって発現されたが、IFN−α/βシグナル伝達経路は、再び、不良な応答者でより強い活性化を示した(補助表5)。
【0130】
不良な応答者からの単球がアポトーシス関連遺伝子活性の亢進を示す
不良な応答者の刺激した単球は、細胞毒性因子様Perforin、CD95(FAS)、及びTRAIL(TNFSF10)の発現の増加を示した。さらに、抗アポトーシスオキシドレダクターゼNQO128が、良好な応答者でより多く誘導されたことが分かった。単一遺伝子レベルに対するこれらの発現差異を支持すると共に、経路解析は、不良な応答者の単球におけるアポトーシスの亢進を指摘した。アポトーシス関連経路は、アポトーシス促進性FASL、FAS受容体CD45、及びCASP7遺伝子はすべて、不良な応答者で増加したことを示した。
【0131】
良好な応答者でアップレギュレートされた因子
合計97個の遺伝子が、良好な応答者からの刺激した単球で有意にアップレギュレートされたことが分かった。これらの中に、良好な応答者でより多く発現される唯一の分類用遺伝子であるCBSがあった。CBSは、良好な応答者からの血漿中で低下する傾向があるホモシステインを代謝する(12.9±1.7対16.5±7.9mg/dl、p=0.09)。さらに、マトリックス−メタロプロテイナーゼ(MMP)1及びMMP10は、良好な応答者からの単球でより強く誘導されることが分かった。
【0132】
良好な応答者及び不良な応答者における幹細胞遺伝子発現
CD34+細胞の数は、良好な応答者と不良な応答者との間で異なっていなかった(3.99±3.19/μl対4.28±2.73/μl、p=0.75)。明確に単離されたCD34+細胞の純度は、フローサイトメトリーで決定すると90%を超えていた。2つの患者群間の幹細胞遺伝子発現を比較すると、多数の試験の補正後に異なって調節された単一遺伝子は見出されなかった。異なって発現した経路の解析により、IFNα/β経路が再び、異なって調節され、この経路に属する遺伝子が、不良な応答者でより多く発現されていることが示された(補助表7)。
【0133】
リアルタイムRT−PCR
刺激した細胞試料で異なって発現した遺伝子の選択から遺伝子アレイの結果を確認するためにRT−PCRを行った。良好な応答者のIFN経路の遺伝子の弱い誘導が、試験したすべての標的(IFN−β、IFN−γ、CXCL10、CXCL11)で確認され、同様にMMP1、MMP10、及びNQO1の強い誘導が確認された(表5)。
【0134】
ELISA
タンパク質レベルでの2つの患者群におけるIFN−βの異なる遺伝子発現レベルを確認するために、LPS刺激単球の上清を検査した。ELISA分析は、不良な応答者に対して良好な応答者でIFN−βの有意に少ない分泌を示した(36.54±16.65対60.47±32.62pg/ml、p<0.005、図1)。IFN−γは、単球培養の上清で検出できなかった(データは不図示)。
【0135】
考察
この研究は、不良な応答者に対する良好な応答者からの単球がそれらの遺伝子発現プロフィールで異なっていることを明確に実証している。LPSでの単球のin vitro刺激によるストレス試験は、これらの差異を最も強く示した。また、マクロファージに向けた培養は、良好な応答者と不良な応答者との間の遺伝子発現差異を示した。休止単球及び幹細胞は、異なって発現された遺伝子を全く示さなかった。IFN−β及びIFN関連経路は、不良な応答者での4つの検査した細胞型のうちの3つで、一貫してより強く誘導された。
【0136】
近年行われた側副動脈成長の刺激に対する臨床試験は、これまで成功していない3−6。ほとんどの場合、動脈形成促進因子が、側副動脈成長の実験モデルで確認される。しかしながら、実験的な探索戦略、たとえば種間の分散、及び実験モデルでほとんど実施されない異脂肪血症と糖尿病のような共罹患率が関係するいくつかの落とし穴がある。したがって、ヒトにおける動脈形成の分子機構の研究が必要である。
【0137】
冠動脈内の測定及び患者のマッチング
疾患集団と健常な集団とを比較する研究とは異なり、本研究では、すべての患者が、同じ疾患実体(すなわち、アテローム硬化性冠動脈疾患)を有するが、疾患に対する動脈形成応答のみで異なっている。したがって、利用できる最良のツールで良好な応答者を不良な応答者から分けるために十分な注意を払い、冠動脈内の圧力測定29を用いてCFIを算出し、2つの患者群を注意深くマッチさせた。
【0138】
別の近年の研究では、側副動脈の状態に関連した冠動脈疾患の患者における休止単球の遺伝子発現の分析により、いくつかの遺伝子の異なる調節が必要とされたが、これらのデータは、多数の試験30に対して補正されていなかった。この発現差異を示せなかったことは、限定された患者の数(n=16)が原因である可能性もあるが、これらの患者の中での根底にある冠動脈疾患の重傷度のばらつきも原因である。また、Chittendenらによる研究では、側副血行動態を、侵襲的に評価しなかったが、自然に見えるRentropスコアから推定した。Rentropスコアでは、良好な応答者と不良な応答者とを極めて正確には分離できないことが実証された31
【0139】
単球トランスクリプトームにおける差異を細胞ストレス試験によって明らかにする
現在、多様な患者集団の異なる組織のトランスクリプトームを比較する多数の試験が行われている。しかしながら、単球などの循環細胞を分析する場合、可塑性に留意することが重要である:単球は、循環している場合は機能的役割を僅かに有するだけであるが、血管外遊走、刺激、及びマクロファージへの形質転換で、いくつかの(病理)生理的プロセスの重要な役割を果たすことになる。それから初めて、これらが、疾患特異的遺伝子発現プロフィールに変化する。動脈形成に関連した遺伝子発現の差異を明らかにするためには単球をex vivoで刺激しなければならないと判断しため、細胞をTLR4アゴニストLPSで刺激した。実際、良好な応答者と不良な応答者との間の差異は、LPSでの刺激又はマクロファージ様細胞に向けての培養後に初めて明らかになった。細胞ストレス試験のこの手法は、循環細胞が関与するアテローム性動脈硬化症又は転移癌などの他の疾患実体でも有用であることを証明できるであろう。
【0140】
不良な応答者におけるIFN依存経路の強い誘導
2つの患者群からのLPS刺激単球の発現プロフィールを比較すると、MyD88依存経路の遺伝子発現では差異が一切見られず、MyD88非依存、TICAM−1調節、IFN誘導経路の発現で大きな差異が見られた(データは不図示)。この研究は、側副動脈の発生(動脈形成)におけるタイプI IFNの役割に対する初めの証拠を示したが、毛細血管の萌芽(血管形成)におけるこれらの重要性を幅広く研究した。血管形成におけるIFNα32及びIFNβ33の阻害効果とこの研究の結果から、タイプI IFNが、血管の成長及び増殖に対して阻害効果を有すると結論することができる。
【0141】
したがって、動脈形成を刺激するための可能な治療法は、IFN経路の阻害、したがって循環細胞の炎症反応の調節を伴うであろう。したがって、初めての可能な動脈形成促進療法は、炎症促進性ではなく、むしろ抗炎症性であろう。これは、炎症促進剤に基づいた現在の動脈形成促進療法34に関連して示されたアテローム性動脈硬化症の悪化又は既存のプラークの不安定化のリスクの増大を考えると、極めて重大であろう。この研究では、動脈形成の刺激のためにこれまで試験したいずれの成長因子も、異なって発現しないことが確認されたことに留意されたい。
【0142】
不良な応答者におけるアポトーシスの増加
IFN軸のアップレギュレーションとは別に、不良な応答者からの単球が、アポトーシス感受性の増加を示し、刺激時に、いくつかのアポトーシス関連遺伝子及び経路が、良好な応答者よりも強く誘導されることを示した。同時に、オキシドレダクターゼNQO128が、良好な応答者の単球でより多く発現され、抗アポトーシス特性に向かっていることを示した。アポトーシスの減少は、GM−CSFが動脈形成を刺激する機構35の1つである。さらに、NQO1は、酸化ストレスにさらされると活性化される保護性細胞応答36の一部であり、これが、側副動脈成長37に影響を及ぼす。
【0143】
良好な応答者における改善されたホモシステイン代謝及びマトリックス分解因子
CBSが、良好な応答者でより強く誘導されることが分かった。CBSは、ホモシステインを代謝することが知られており38、高レベルのホモシステインが、後肢虚血のラットモデルでの血管形成を阻害することが以前に記載された39。興味深いことに、血漿レベルのホモシステインは、我々の研究では良好な応答者で高くなる傾向があった。さらに、良好な応答者からの単球は、血管リモデリングにおいて重要な役割を果たすことが知られているMMPの有意なアップレギュレーションを示した40
【0144】
幹細胞の非分化トランスクリプトーム
特に内皮前駆細胞と呼ばれる幹細胞は、新血管形成を誘導することが報告されている。興味深いことに、前駆細胞は、単球の特徴を有することが示されている41,42。我々の研究では、CD34+細胞は、良好な応答者と不良な応答者との間で異なって発現された単一遺伝子を示さなかった。これらの負のデータは、同様に動脈形成で幹細胞の重要な役割を示せなかった実験的研究に一致している43。これらはまた、比較的少数の試料によって、又はこれらの細胞が休止循環細胞であったという事実によっても説明されるであろう。場合によっては、EPCのような亜集団の分化又は解析が差異を明らかにするであろう。
【0145】
結論
現在の研究で、我々は、ヒトにおける動脈形成の一部の分子背景を初めて解明した。細胞ストレス試験により、十分又は不十分な側副回路の患者の異なる単球遺伝子発現プロフィールが明らかになった。これは、ヒトでも、単球が側副動脈の発生を組織化することを強く示唆する。臨床現場から研究室への逆の方法では、我々は、現在、実験モデルで試験される動脈形成の刺激の新しい戦略を提供する。驚くべきことに、異なって調節される遺伝子の大半は、不良な動脈形成応答者で過剰に発現されることが分かり、動脈形成促進経路ではなく、抗動脈形成経路の活性差異が、動脈閉塞時の動脈形成応答における患者の不均一性に関与することを示唆した。これは、動脈形成の刺激についての研究のパラダイムの転換につながる可能性があり、抗動脈形成IFN及びアポトーシス経路の調節が、側副動脈成長を刺激する潜在的な治療方法であることを示唆する。
【0146】
(例2)
背景
大きな不均一性が、ヒトの動脈閉塞時の動脈形成応答において存在する。患者の研究では、我々は、側副冠動脈が十分に成長した患者と側副冠動脈が十分に成長していない患者からの循環細胞遺伝子発現プロフィールを比較した(本明細書の例1を参照)。我々は、不十分な側副動脈の患者からの単球でアップレギュレートされるインターフェロン−β及び多数の下流インターフェロン調節標的を見出した。我々は、ここで、実験的なin vivoでの研究におけるインターフェロン経路との干渉が、動脈形成を調節し、我々の患者の研究の所見を支持することを実証する。
【0147】
方法
24匹の129SvEv(背景)マウス及び12匹のIFNAR1/2−/−(インターフェロンα/β−受容体ノックアウト)マウスに対して片側大腿動脈の結紮を行った。12匹の背景マウスを、インターフェロン−βを1日に1×10IU/kgの皮下注射で処理した。大腿動脈結紮の7日後に、すべてのマウスの腹部大動脈にカニューレを挿入し、後肢組織を、異なる圧力レベルで異なる色の蛍光微粒子で灌流した。後肢血管構造の最大の拡張を得るために、アデノシンを微粒子に付加した。組織を消化し、微粒子の数を、フローサイトメトリー解析によって評価した。側副依存性灌流は、結紮後肢の非結紮後肢に対する割合として表す。
【0148】
結果
コントロールマウスの微粒子灌流は、41.9±4.6%の灌流回復を示した。インターフェロン−α/β受容体欠損マウスは、有意に増大した灌流回復を示した(54.3±6.5%、p<0.001(コントロールと比較))。反対に、インターフェロン−βでの全身処理は、有意に減弱した灌流回復を示した(31.5±4.1%、p=0.001(コントロールと比較))。
【0149】
結論
側副動脈成長は、インターフェロン−βを用いた治療で減弱することができ、インターフェロン−β−シグナル伝達の非存在下で増大する。これらのデータは、動脈形成におけるインターフェロン−βの原因的役割の証拠を示し、側副動脈成長の亢進のためにインターフェロン経路が阻害される治療法の基礎を提供する。
【0150】
(例3)
この研究では、我々は、動脈形成の阻害に対するIFNβ処理の機構的な効果を分析することを目的とし、IFNβのシグナル伝達の阻害による側副動脈成長を刺激できるか否かを試験した。
【0151】
方法
IFNβ処理時の単球アポトーシス及び遺伝子発現のin vitro解析
増加する濃度のrhIFNβを、標準培地(RPMI1640、Gibco、Invitrogen、Breda、The Netherlands)で培養したTHP−1単球(ATCC)に加えた。24時間後及び48時間後にアネキシンV抗体(Invitrogen、Breda、The Netherlands)での染色によりアポトーシスを測定し、フローサイトメトリーを用いてアネキシンV−陽性細胞のパーセンテージを検出した。また、THP−1単球を培養し、遺伝子発現解析のためにrhIFNβで刺激した。細胞を、RNA溶解緩衝液(Stratagene、La Jolla、CA)で溶解し、全RNAを、スピンカラムRNA単離(Stratagene)で単離し、cDNAに逆転写した。リアルタイムRT−PCRを、P0(順方向5’−tgcacaatggcagcatctac−3’、逆方向5’−atccgtctccacagacaagg−3’)、CXCL11(順方向5’−tgaaaggtgggtgaaaggac−3’、逆方向5’−gcactttgtaaactccgatgg−3’)、p15(順方向5’−tagtggagaaggtgcgacagc−3’、逆方向5’−gccgtggagcagcagcag−3’)、p21(順方向5’−cgggatgagttgggaggag−3’、逆方向5’−ctgagcgaggcacaaggg−3’)、p27(順方向5’−caggagagccaggatgtc−3’、逆方向5’−tagaagaatcgtcggttcg−3’)、及びTNFSF10(順方向5’−attttgggaacccaacgtg−3’、逆方向5’−ggcatgatctcaccacactg−3’)について行った。
【0152】
血管平滑筋細胞(SMC)の増殖及び遺伝子発現のin vitro解析
ヒトSMCを、臍帯動脈から新鮮に単離し、SMC培地(M199、Gibco、Invitrogen)で3継代まで増殖させ、次いで24時間、飢餓状態にした。初代ヒトSMCの増殖を、製造業者の取扱説明書(Roche)にしたがって増大する濃度のrhIFNβ(Merck Chemicals、Nottingham、UK)、rhCXCL10(R&D Systems、Minneapolis、MN)、又はrhIL15(R&D Systems)で24時間刺激した後、これらの細胞のBrdU取り込み量を決定してin vitroで評価した。第2の実験では、SMCを、siPORT NeoFXトランスフェクション試薬(Ambion)0.5μl及び20pmol siRNAを用いてIFNα/β受容体(IFNAR)(Ambion/Applied Biosystems、Austin、Texas)に対するsiRNAでトランスフェクトし、これらを、Optimem培地で10分間インキュベートしてからプレートに移した。次いで、細胞をトリプシン処理し、正常培地に懸濁した細胞を、トランスフェクション複合体に加え、37℃で保存した。すべてのアッセイを、トランスフェクションの48時間後に行った。コントロールとして、非特異的siRNAを用いるか、又はsiRNAを用いなかった。増殖を、上記したようにBrdU取り込み量を測定することにより評価した。培養した平滑筋細胞の追加のセットを溶解し、IFN処理又はIFNAR−siRNAでのトランスフェクションの後にRNA単離のために用いた。RNAを、スピンカラムRNA単離(Stratagene)で単離し、cDNAに逆転写した。リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を、P0、IFNAR(順方向5’−tatgctgcgaaagtcttcttgag−3’、逆方向5’−tcttggctagtttgggaactgta−3’)、CXCL10(順方向5−acctttcccatcttccaagg−3’、逆方向5’−ggtagccactgaaagaatttgg−3’)、IL15(順方向5’−tttcagtgcagggcttcctaa−3’、逆方向5’−gggtgaacatcactttccgtat−3’)、p15、p21、p27に対して行った。
【0153】
動物実験
この研究は、施設内医療倫理委員会によって承認され、アメリカ国立衛生研究所が出版した「実験動物の世話及び使用の案内(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)」(NIH出版番号:85−23、1996年改訂)に従った。合計50匹のマウス(30匹の野生型(129Sv/Ev)及び20匹のIFNα/β受容体ノックアウト(IFNAR−/−)マウス、B&K Universal、Hull、UK)を、上記したように10週齢で片側二重大腿動脈結紮を行った。10匹の野生型マウスには、上記したようにrmIFNβ(Merck、Hull、UK)10IU/kgを毎日皮下注射した。
【0154】
後肢組織遺伝子発現
大腿動脈結紮の3日後に、後肢をマウスから切断し、液体窒素でスナップ凍結させ、0.7mmジルコニアビーズ(Biospec Products、Inc.)及びミニビーズビーターを用いてホモジネートした。RNAを、製造業者の取扱説明書にしたがってTrizol(登録商標)試薬(Roche、Mannheim、Germany)で単離した。全RNAを、以下に示す標的:mm18SrRNA(順方向5’−tcaacacgggaaacctcac−3’、逆方向5’−accagacaaatcgctccac−3’)、mmIFNAR(順方向5’−cctgcacacttcaagacagc−3’、逆方向5’−gagcaacctgtgctctaccc−3’)、mmIRF3(順方向5’−caaggctcagtcttcccatc−3’、逆方向5’−cgtagggacaatgtgtgtgc−3’)、mmSTAT1(順方向5’−acagcctgatggttctggtc−3’、逆方向5’−tttggcatggaaaagagagg−3’)、mmCXCL10(順方向5’−ggatggctgtcctagctctg−3’、逆方向5’−ataaccccttgggaagatgg−3’)、mmCXCL11(順方向5’−aagtcacgtgcacactccac−3’、逆方向5’−cgtgtgcctcgtgatatttg−3’)、mmIL15(順方向5’−acatccatctcgtgctacttgt−3’、逆方向5’−gcctctgttttagggagacct−3’)、mmTNFSF10(順方向5’−cagaccattagtgccaccag−3’、逆方向5’−tcggggtacaccagcttatc−3’)、bFGF(順方向5’−gcgacccacacgtcaaacta−3’、逆方向5’−tcccttgatagacacaactcctc−3’)、及びMMP9(順方向5’−ctggacagccagacactaaag−3’、逆方向5’−ctcgcggcaagtcttcagag−3’)のリアルタイムRT−PCRのためにcDNAに逆転写した。
【0155】
マウス単球の単離、刺激、及び遺伝子発現解析
側副を含む後肢組織の分子解析に用いる各マウスから、心穿刺によって血液を収集し、単核細胞をFicoll(登録商標)(General Electric、Fairfield、CT)で単離した。末梢血単核細胞(PBMC)を標準的な単球培地(RPMI1640)で2時間培養し、非接着細胞を洗い流して、単球をPBMCから単離した。次いで、接着する単球画分を、10ng/mlリポ多糖(LPS)で3時間刺激した。細胞を、RNA溶解緩衝液(Stratagene)で溶解し、RNAをスピンカラムRNA単離(Stratagene)で単離し、cDNAに逆転写した。リアルタイムRT−PCRを、mm18SrRNA、mmIFNAR、mmSTAT1、mmCXCL10、mmCXCL11、mmIL15、及びmmTNFSF10に対して行った。
【0156】
MMP9活性についての酵素電気泳動法
簡単に述べると、等量のタンパク質を、上記したように1mg/mlゼラチンを含む10%SDSポリアクリルアミドゲルにかけた。2.5%Tritonで15分間2回洗浄した後、ゲルをBrij溶液(0.05M Tris−HCl、pH7.4、0.01M CaCl2、0.05%Brij−35(Sigma、Zwijndrecht、The Netherlands))中で、37℃で一晩インキュベートした。ゲルを1時間染色し(25%メタノール、15%酢酸、0.1%クーマシーブルー)、脱染溶液(25%メタノール、15%酢酸)で15分間脱染した。バンドを、ChemiDoc XRSシステム(Biorad、Venendaal、The Netherlands)を用いて解析した。
【0157】
後肢灌流測定
大腿動脈結紮の1週間後、灌流回復を、上記したように最大血管拡張の条件下、蛍光微粒子注入で評価した58。組織の切除、均質化、及び溶解の後、1g当たりの組織の蛍光微粒子を、フローサイトメトリーで計数した。灌流回復を、結紮後肢の非結紮後肢に対する灌流パーセントとして表した。
【0158】
統計解析
データは、平均値±平均値の標準誤差として表す。群間の比較は、スチューデントのt検定で行った。3つ以上の群間の比較は、一方向分散分析(ANOVA)で行った。p値<0.05は、統計的に有意であると見なされた。
【0159】
結果
IFNβが単球のアポトーシスを誘導する
THP1単球は、IFNβに曝露すると、曝露の24時間後及び48時間後の両方で有意なアポトーシスの亢進を示した(図2a)。RT−PCRは、IFNβのシグナル伝達の増加を裏付けた(図2b)。IFNβは、細胞周期制御因子p21(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤−1A)を刺激したが(図2c)、p15又はp27は刺激しなかった(データは不図示)。アポトーシス刺激TRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)は、IFNβで刺激されるとアップレギュレートされることが分かった(図2d)。
【0160】
IFNβはSMCの増殖を減弱する
リアルタイムRT−PCRによって示されたように、IFNβ処理は、血管SMCのIFN経路の下流標的としてCXCL10及びIL15の遺伝子発現をアップレギュレートした。しかしながら、増加する用量の既知の抗血管形成因子CXCL10及びIL15のSMCへの添加は、BrdU取り込み量によって測定すると、増殖に影響を与えていなかった。サイクリン依存性キナーゼ阻害剤1A(p21)は、アップレギュレートされることが分かり、SMCの細胞周期に対するIFNβの阻害効果を示唆した。他の2つの細胞周期制御因子p15及びp27の発現は、IFNβによって誘導されなかった。また、血管SMC増殖及び遺伝子発現データに関する概要については図3を参照されたい。
【0161】
in vivoでのIFNβ処理でTRAILが誘導され、bFGFが減少する
in vitro実験と同様に、アポトーシス促進性TRAIL及び抗増殖性IL15は、IFNβ処理マウスからの側副枝を含む後肢組織で有意に増加した(図4)。また、興味深いことに、処理マウスが、動脈形成促進サイトカインbFGFの有意な発現の低下を示した。
【0162】
in vitroでのIFNβのシグナル伝達の遮断によりSMCの増殖が増加する
IFNα/β受容体(IFNAR)遺伝子発現のダウンレギュレーションは、siRNAでのトランスフェクションの後に実証できるであろう。トランスフェクションの48時間後、BrdUの取り込み量が、IFNARの発現が阻害されているSMCで有意に増加し、これらの細胞での増殖の増加を示唆した。非特異的siRNAで処理したSMCと比較すると、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤p21の発現の減少が見られた(図5)。
【0163】
IFNAR−/−マウスでの動脈形成の増加
動脈形成に対するIFNβのシグナル伝達の阻害の影響を機能的に試験するために、IFNAR−/−マウス及びコントロールマウスにおける動脈形成のマウス後肢モデルでの側副動脈成長を分析した。最大血管拡張の条件下、微粒子を注入して、組織1g当たりの後肢灌流を計算すると、大腿動脈結紮の1週間後、灌流回復(結紮後肢の非結紮後肢に対する)が、コントロール群と比較して、IFNAR−/−マウスで有意な改善が見られた(54.29±2.47%対41.88±1.86%、p<0.001、図6)。
【0164】
IFNAR−/−マウスの循環マウス単球の遺伝子発現解析
リアルタイムRT−PCRは、野生型動物と比較して、IFNAR−/−マウスで、抑制されたIFNβのシグナル伝達の兆候としてIFNAR、STAT1、CXCL10、及びCXCL11の著しい発現の低下を示した(図7)。また、アポトーシス促進性TRAIL及び単核細胞活性化IL1560も、IFNAR−/−マウスからの刺激した単球で著しく低下した(図7)。
【0165】
IFNAR−/−マウスの側副枝を含む後肢組織の遺伝子発現解析
IFNAR−/−マウスの側副枝を含む組織における遺伝子発現の局所的な変化を研究するために、マウス後肢組織からのmRNAのリアルタイムRT−PCRを行った。遺伝子発現解析は、ノックアウトマウスにおけるIFNβ経路のmRNAの発現の低下を示した。IFNAR、IRF3、STAT1、CXCL10、及びCXCL11は、コントロール動物と比較して減少していることが分かった。マトリックス−メタロプロテイナーゼ9(MMP9)遺伝子発現は、野生型マウスと比較するとIFNAR−/−からの後肢組織での有意な亢進が見られた。しかしながら、酵素電気泳動法を用いると、3つの治療群間の側副枝を含む後肢組織で活性化の有意な差異は見られないであろう(データは不図示)。IFNAR−/−マウスからの側副枝を含む後肢組織の遺伝子発現データについては、図8を参照されたい。
【0166】
考察:
この研究は、動脈形成に対するインターフェロンβの効果を精査する。側副冠動脈の発達が不十分な患者からの刺激した単球でのIFNβのシグナル伝達の増加に関連して59、ここで、in vitroでの単球に対するIFNβの直接的なアポトーシス促進性効果、並びにIFNβ受容体が欠損している刺激されたマウス単球でのIFNβ及びアポトーシス関連遺伝子発現の低下を報告する。in vitroでの増殖解析により、血管SMC増殖に対するIFNβの負の効果と、IFNβのシグナル伝達を阻害するRNA干渉によって逆転される増殖阻害細胞周期制御因子p21のアップレギュレーションが示された。in vivoでは、側副動脈成長が、IFNAR−/−マウスで増加し、IFNβのシグナル伝達の阻害が、実際に動脈形成を促進できることを示した。
【0167】
動脈形成に対するIFNβの直接的又は間接的効果?
CXCL10(IP10)は、IFNβによって調節され、血管形成の強力な阻害剤として知られている61。血管SMC及び単球中のCXCL10は、IFNβで刺激されるとin vitroでアップレギュレートされることが分かっており、その発現がIFNAR−/−マウスで強く抑制されることを確認したため、動脈形成に対するIFNβの阻害効果がCXCL10によっても媒介されうるか否かについて試験した。しかしながら、in vitroアッセイでは、CXCL10の濃度増大は、SMC増殖に影響を及ぼさなかった。インターロイキン−15もまた、IFNβによって調節され、このサイトカインは、SMCの増殖に負に影響することを既に記載した63,64。しかしながら、IL−15の濃度増大も、我々の研究ではSMCの増殖を阻害しなかった。したがって、少なくともin vitroでは、IFNβは、血管平滑筋細胞に対して直接的な抗増殖効果を果たすと結論した。単球は、メタロプロテイナーゼ、成長因子、及びサイトカインの分泌によって動脈形成を組織化することが知られている62。マトリックス−メタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)に対するインターフェロン−βの阻害効果は既に記載した65。我々の研究では、IFNβのシグナル伝達の阻害により、MMP9の遺伝子発現が増加した。しかしながら、メタロプロテイナーゼは、mRNA発現レベルではなくそれらの活性で調節されるため、酵素電気泳動法が、機能の差異を検出するための最も基準になる方法である。我々の研究では活性の有意な上昇が検出されなかったため、MMP9は、IFNAR−/−マウスでの動脈形成の亢進に関与するとは考えられない。興味深いことに、I型インターフェロンが、既知の動脈形成促進成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の発現を阻害することは既に記載した66。ここで、我々は、IFNβでの処理により、マウス側副枝を含む後肢組織におけるbFGFの遺伝子発現が有意に低下することを示す。このin vivoでの所見は、IFNβの抗動脈形成効果の大部分が、血管SMCに対するその抗増殖効果によるという仮説を裏付ける。
【0168】
SMC増殖及び細胞周期に対するIFNβのシグナル伝達調節の効果
細胞周期−調節に関与する遺伝子発現の解析により、p53によって調節され、かつ細胞増殖を阻害することが知られているp21(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤1A)の発現が、IFNβ処理で増加することを見出した(図3)67。対照的に、他の細胞周期調節遺伝子(p15、p27)は、影響されずに残った。IFNβの抗増殖性細胞増殖阻害効果は、知られており、腫瘍の研究で利用されており、この研究では、IFNβは、成長阻害サイトカインとして使用され、そしてアポトーシス及び成長の阻害は、p21の発現の増加に起因している68。ここで、IFNβのシグナル伝達の阻害後の動脈成長に対する潜在的な正の効果を明らかにしようとした。SMCブロッキングIFNAR遺伝子発現のsiRNA処理は、実際、これらの細胞の増殖を亢進させた(図5)。非特異的siRNA処理細胞と比較した、IFNAR siRNA処理SMCでの細胞周期制御因子p21のダウンレギュレーションにより、IFNβの直接的な細胞周期−調節効果の仮説が補強された。
【0169】
単球アポトーシス
遺伝子発現データ(TRAILの発現の増加)及び機能アッセイの両方が、IFNβでの刺激により、in vitro及びin vivoの双方で単球アポトーシスの増加を示した。全ゲノム遺伝子発現解析を用いて、側副動脈の発達が不十分な患者におけるIFNβ及びアポトーシスシグナル伝達経路の増加を既に実証し、IFNβがマウスの動脈形成を阻害することを示した59。したがって、現在のデータは、IFNβ誘導単球アポトーシス及び動脈形成のIFNβ誘導阻害に関連している。これは、多発性硬化症の患者からの単球におけるアポトーシスのIFNβ媒介誘導に関する以前の報告69の追認である。IFNβは、ヒト単球における表面結合TRAILのアップレギュレーション及び可溶性TRAILの放出を誘導することが以前に実証されている70。サイクリン依存性キナーゼ阻害剤1A(p21)のサイクリン依存性キナーゼ2からのそのカスパーゼ媒介切断によるアポトーシスの調節は、内皮細胞で記載した71。したがって、IFNβのシグナル伝達の増加により、共に動脈形成の過程で中心的役割を演じる細胞型であるSMCの増殖の低下及び単球のアポトーシスの増加が起こる。
【0170】
IFNβ受容体ノックアウトモデル
動脈形成に対するIFNβの阻害効果の証拠を確立したため、IFNβのシグナル伝達の遮断により、適応側副動脈成長を増進できる可能性があるという仮説を立てた。初めの手法では、IFNβでの処理−抗体の中和(市販の中和抗体40,000IU/kgを毎日皮下注射)は、灌流回復に関して一切の効果を示さなかった(データは不図示)。続くin vitro測定は、IFNβ中和抗体又は抗IFNAR抗体のいずれかの5,000IU/ml以上の濃度が、IFNβのシグナル伝達の50%の遮断を達成するために必要であることを示した。in vivoでのこれらの濃度の達成は、実現不可能な高コストとなった。したがって、マウスノックアウトモデルを使用することにした。IFNAR−/−マウスでは72、ネオマーカーをExonIIIに挿入すると、機能不全mRNAとなり、結果として受容体タンパク質の排除となる。IFNAR遺伝子のプロモーターが無傷であるため、mRNAはまだ検出可能である(Prof.U.Muller、Heidelberg、個人的な情報交換)。これは、RT−PCRのデータによって反映されており、IFNAR−/−マウスからの単球において、IFNAR mRNAが減少したがまだ存在することを示している。興味深いことに、IFNβ経路に関して、IFNAR−/−マウスの刺激したマウス単球の遺伝子発現プロフィールは、側副動脈の発達が十分な患者からの刺激した単球の遺伝子発現プロフィールと同等であった。
【0171】
臨床現場でのIFNβ阻害の実施
動脈形成の研究で初めて、この研究が、サイトカインシグナル伝達経路の阻害を、側副動脈成長を刺激する治療法として提案する。これまで試験した動脈形成促進物質は、そのほとんどが、それぞれがアテローム硬化症を悪化させる又はプラークを不安定にさせる可能性がある炎症誘発効果又は骨髄細胞放出効果を必ず有するサイトカイン(成長因子、化学誘引物質、又はコロニー刺激因子)であった73−75。アテローム硬化症に対するIFNβの効果は、まだ詳細について研究されていない。近年のデータは、IFNβが、ApoEマウスにおけるアンジオテンシンII誘導アテローム硬化症を緩和するが、この研究では76、IFNβ単独では、アテローム硬化症に対して一切効果がないことを示唆している。たとえば、IFNβ受容体IFNARでの介在によるなどのIFNβのシグナル伝達の阻害効果は、いまだ解明されていない。動脈形成の促進のための抗IFNβ治療をさらに臨床に適用する場合は、潜在的な悪影響を排除しなければならない。本質的に炎症を軽減するIFNβのシグナル伝達の阻害は、アテローム硬化症を緩和しないと考えられる。しかしながら、血管の成長を促進するインターフェロンの治療的阻害は、自己免疫過程を活性化させうるが、これは、上記したように77IFNβによって阻害される。
【0172】
研究の制限:
臨床治験では、側副動脈成長が不十分な患者からの単球でのIFNβのシグナル伝達の促進が実証されたが59、現行の研究では、IFNβを全身に投与した。この方法は、動脈形成におけるIFNβの起源の証明にはならなかったが、単球/マクロファージが、サイトカインの主な起源である可能性が極めて高い。
【0173】
結論
初期の研究において59、側副冠動脈成長が不十分な患者からの刺激した単球におけるIFNβのシグナル伝達の増加を見出した後、動脈形成を、IFNβ経路で干渉することによって調節できると確信する。IFNβは、動脈形成に極めて重要である細胞、すなわち単球及び平滑筋細胞に対する直接の抗増殖性効果及びアポトーシス促進効果を有する。IFNβの増殖阻害効果は、細胞周期の進行に対する遅延効果によって媒介される。反対に、in vitroでの血管SMCの増殖及びin vivoでの側副動脈成長は、IFNβのシグナル伝達を遮断することによって刺激することができる。IFNβのシグナル伝達の阻害は、まず、サイトカイン及び炎症のシグナル伝達の促進ではなくサイトカインのシグナル伝達の阻害による動脈形成促進法である。IFNβ又はその受容体の薬理的阻害剤を用いたIFNβのシグナル伝達の調節のさらなる研究が、サイトカイン阻害戦略を用いた臨床研究を想定する前に、アテローム硬化症モデルで必要である。
【0174】
(例4)
方法:冠動脈の慢性完全閉塞(CTO)の選択的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を予定している20人の単一血管冠動脈疾患の非糖尿病患者に対して、圧力誘導冠動脈側副フローインデックス(CFI)を測定した。処置を行う前に採取した末梢血から単球を単離し、3つの画分:CD14+未刺激単球、リポ多糖(LPS)で3時間処理して活性化した単球、及び20時間のex vivoでの培養によってマクロファージに向けて分化した単球に分けた。全RNAを、すべての群から単離し、ランダム化し、増幅し、そしてIlluminaヒトRef−8 v2ビーズチップにハイブリダイズさせた。信号強度を、分位数正規化し、分化遺伝子発現を決定し(多数の試験に対して補正)、そして経路解析を行った。候補遺伝子を、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で評価した。例4に用いた各方法は、前の例で記載したように行った。
【0175】
結果:患者を、「良好な側副応答者」と「不良な側副応答者」に分けた。患者数が多い群(n=50)における正規分布に基づいて、良好な側副応答者に対するCFIカットオフ値を0.37に設定した。このカットオフ値を用いると、各群は、10人の患者を含んだ。基準特徴は、2つの群で同等であった。LPS刺激細胞では、いくつかの遺伝子は、2つの群間で異なって発現することが分かった。前の研究(非完全閉塞)では、特にインターフェロン関連標的に対して、大きい重複が存在した。「不良な側副応答者」での発現の増加は、たとえば、CXCL11(1.8倍)、CCL8(1.7倍)、CXCL9(1.7倍)、及びIL−27(1.3倍)に対して見られた。不良な側福応答者におけるインターフェロン軸のこの過剰発現は、不良な側副応答者で有意にアップレギュレートされたいくつかのインターフェロン関連経路を示す経路解析によって確認された。
【0176】
結論:
これらのデータは、前の患者の研究結果を追認し、不十分な側副の発達がインターフェロンのシグナル伝達の増加に関連していることを示している。したがって、インターフェロン経路の調節が、側副血管の成長を刺激する有望な新手法であろう。
【0177】



















【0178】
表1.基準特徴。良好な応答者及び不良な応答者は、臨床的な特徴において差異を示さなかった。CFI=側副血行指標。CAD=冠動脈疾患。ARB=アンジオテンシン受容体遮断薬。ACE=アンジオテンシン変換酵素。QCA=量的冠動脈血管造影法。NT−proBNP=N末端−pro−脳ナトリウム利尿ペプチド。データは、中央値[1.分位数、3.4分位数]として表した。
【表1】

【0179】
表2.未刺激単球と比較したLPSで3時間刺激した単球におけるアップレギュレートされた遺伝子(対解析)。LPS刺激の単離された単球は、基準の単球と比較すると、この刺激で予期したように、炎症反応、免疫応答、サイトカイン活性、及びアポトーシスに関連した遺伝子の強いアップレギュレーションとなった。
【表2】

【0180】
表3.未刺激単球と比較した、20時間培養したマクロファージにおけるアップレギュレートされた遺伝子(対解析)。マクロファージに向けた単球の培養も、休止単球よりも多いマクロファージによって一般に発現される炎症性遺伝子の有意なアップレギュレーションとなった。
【表3】

【0181】
表4.刺激した単球における良好な応答者及び不良な応答者間で異なって調節された経路を、それらの機能にしたがって整列させた。第3及び第4の列は、それぞれの機能の群に対する、良好な応答者及び不良な応答者のそれぞれでより強く誘導された遺伝子の数を示している(調整済みp<0.05)。免疫又はアポトーシスに関連した遺伝子は、ほとんど不良な応答者に限られて過剰発現することが分かった(また、補助表4〜7も参照)。
【表4】

【0182】
表5.リアルタイムPCRでの遺伝子アレイの結果の確認。倍数変化における負の符号は、良好な応答者であまり強くなく誘導された遺伝子を指す。この表は、試験したすべての標的に対して、異なって調節された遺伝子をPCRで確認すると、遺伝子アレイの遺伝子発現レベルと比較して、ほぼ同一の結果が得られた。
【表5】

【0183】
表6.動脈形成に関与するポリペプチド及び対応するDNA配列の分類並びに配列表に記載されている配列番号の明示
【表6−1】


【表6−2】


脂肪中のポリペプチドが好ましく、本文中にも示したように対応する好適な群に存在するポリペプチドを構成する。
【0184】
補助表1
良好な応答者であまり強く誘導されなかった遺伝子
単球の刺激により、良好な応答者の不良な応答者に対する異なる遺伝子発現を明らかにした。異なって発現された遺伝子(倍数変化<0.7(すなわち、良好な応答者であまり強く誘導されなかった遺伝子)、調整済みp<0.05)の選択をここに示す。最も際立ったことは、インターフェロン及びアポトーシス経路の遺伝子が、良好な応答者であまり強く誘導されないことが分かったことである。
【表7−1】


【表7−2】


【表7−3】


【表7−4】

【0185】
補助表2
良好な応答者でより強く誘導された遺伝子
単球の刺激により、良好な応答者の不良な応答者に対する異なった遺伝子発現が明らかになった。異なって発現された遺伝子の選択(倍数変化>1.3(すなわち、良好な応答者でより強く誘導される遺伝子)、調整済みp<0.05)をここに示す。
【表8−1】


【表8−2】

【0186】
補助表3
刺激した単球の休止単球に対する経路解析
Metacore(商標)経路解析プラットフォームを用いて、基準の単球と比較して、LPSで刺激後の単球で有意に異なって発現された経路を明らかにした(患者の指定なし)。示差的地図を一覧にし、続いて属する細胞プロセスを記載する。列「遺伝子」は、この比較で異なって発現されることが分かった遺伝子の数を記載し、続いてこの経路の遺伝子の総数を記載する。最も際立ったことは、経路「細胞炎症性応答につながるTLRリガンド及び共通TLRシグナル伝達経路」が、最も有意に異なって調節された経路の中から見出されたことである。
【表9−1】


【表9−2】

【0187】
補助表4
刺激した単球の経路解析:良好な応答者対不良な応答者
経路解析を用いて、良好な応答者及び不良な応答者の刺激した単球での異なる遺伝子発現を比較した。特に、「インターフェロン−α/βシグナル伝達経路」並びにインターフェロンの発現を調節するTLR4経路のTICAM−1特異的部分の2つが、最も異なって発現した経路であった。
【表10−1】


【表10−2】


【表10−3】


【表10−4】

【0188】
補助表5
培養マクロファージの経路解析:良好な応答者対不良な応答者
培養マクロファージの経路解析により、良好な応答者と不良な応答者との間で異なる遺伝子発現が明らかになった。再び、「インターフェロン−α/β経路」は異なる発現を示した。
【表11−1】


【表11−2】


【表11−3】


【表11−4】

【0189】
補助表6
休止単球の経路解析:良好な応答者対不良な応答者
休止単球のMetacore(商標)経路解析により、特にEGFR経路及びFGFR経路の発現差異が明らかになり、これらの遺伝子は、1つを除いてすべてが良好な応答者でアップレギュレートされた。
【表12−1】


【表12−2】


【表12−3】


【表12−4】

【0190】
補助表7
幹細胞の経路解析:良好な応答者対不良な応答者
良好な応答者及び不良な応答者からのCD34+細胞の遺伝子発現を経路解析にかけても、有意に異なって調節された経路がほとんど明らかにならなかった。しかしながら、注目すべきことに、再び、インターフェロン−α/β経路が異なって調節されることが分かった。
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の不十分な動脈形成能を診断するための方法であって、
(a)対象中のヌクレオチド配列の発現レベルを決定する段階であって、該ヌクレオチド配列は、
(1)IFNβ及びその下流標的をコードするヌクレオチド配列、
(2)単球アポトーシスに関与するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(3)抗炎症反応に関与するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(4)BATF2、ジンクフィンガーCCCH型抗ウイルス1、ジンクフィンガータンパク質684、RhoGEF3、RhoGEF11及びYEATS2ドメインを含むものなどの転写因子をコードするヌクレオチド配列、並びに
(5)Deltex3様ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列
からなるグループから選択されるものである、上記段階と、
(b)(a)において定義されるヌクレオチド配列の発現レベルを、前記ヌクレオチド配列の発現レベルの基準値と比較する段階であって、基準値が、好ましくは健常対象者における前記ヌクレオチド配列の発現レベルの平均値である段階と
を含む方法。
【請求項2】
ヌクレオチド配列が、
(1)表6において同定されるIFNβ及びその下流標的をコードし、配列番号1〜28から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(2)単球アポトーシスに関与するポリペプチドであるFASL、FAS−Re及びCASP7をコードし、それぞれ配列番号29〜31から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(3)抗炎症反応に関与するポリペプチドであるIL−19、IL−20及びIL−24をコードし、それぞれ配列番号32〜34から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(4)BATF2、ジンクフィンガーCCCH型抗ウイルス1、ジンクフィンガータンパク質684、RhoGEF3、RhoGEF11及びYEATS2ドメインを含むものなどの転写因子をコードし、それぞれ配列番号35〜40から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(5)Deltex3様ポリペプチドをコードし、配列番号41に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列
からなるグループから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
比較により、
(a)グループ(1)、(2)、(4)及び(5)から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの増加、並びに
(b)グループ(3)から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの減少
のうちの少なくとも1つの所見が得られるときに、不十分な動脈形成能が診断される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
比較により、
(a)(1)IFNβをコードし、配列番号1に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(2)単球アポトーシスに関与しているCASP7ポリペプチドをコードし、配列番号31から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(4)転写因子をコードし、配列番号35〜40から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
(5)Deltex3様ポリペプチドをコードし、配列番号41に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、
からなるグループから選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの増加、及び
(b)以下のグループ:
(3)抗炎症反応に関与するIL−19ポリペプチドをコードし、配列番号32に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列
から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの減少
のうちの少なくとも1つの所見が得られるときに、不十分な動脈形成能が診断される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ヌクレオチド配列の発現レベルが、ヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドの量を定量化することにより間接的に決定される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
対象から得られた試料中の発現レベルがex vivoで決定される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(a)配列番号1〜41から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び
(b)配列番号1〜41から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に少なくとも80%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物であって、ヌクレオチド配列が、単球又はマクロファージ細胞においてヌクレオチド配列の発現を推進することができるプロモーターに任意選択で作動可能に連結されている核酸構築物。
【請求項8】
ヌクレオチド配列が、
(a)配列番号32〜34から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、及び
(b)それぞれ配列番号32〜34から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に少なくとも80%のアミノ酸同一性を有する、抗炎症反応に関与するアミノ酸配列であるIL−19、IL−20及びIL−24をコードするヌクレオチド配列
から選択される、請求項7に記載の核酸構築物。
【請求項9】
(a)請求項2又は4に記載のグループ(1)、(2)、(4)及び(5)の配列番号から選択される配列に少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列、並びに
(b)請求項2又は4に記載のグループ(1)、(2)、(4)及び(5)の配列番号から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列に少なくとも80%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列
から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現を阻害することができるRNAi作用物質をコードするヌクレオチド配列を含み、
任意選択で、前記RNAi作用物質をコードするヌクレオチド配列が単球又はマクロファージ細胞において前記ヌクレオチド配列の発現を推進することができるプロモーターに作動可能に連結されている、請求項7に記載の核酸構築物。
【請求項10】
プロモーターが、単球又はマクロファージ細胞に特異的であるプロモーターであり、好ましくはプロモーターがCD69プロモーターであり、さらに好ましくはヒトCD69プロモーターである、請求項7から9までのいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項11】
アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス及びレトロウイルスをベースとする遺伝子治療ベクターから選択されるウイルス遺伝子治療ベクターである、請求項7から10までのいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項12】
対象において不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能及び/若しくは動脈形成を刺激するための方法であって、
(a)請求項2又は4で定義されるグループ(1)、(2)、(4)及び(5)から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの減少、並びに
(b)請求項2又は4で定義されるグループ(3)から選択されるヌクレオチド配列の発現レベルの増加、
から選択されるヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドの活性又は定常状態レベルを薬理学的に改変することを含む方法。
【請求項13】
IFNβの活性若しくはその定常状態レベル又はコードヌクレオチド配列の発現レベルが減少する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
動脈が狭窄又は閉塞すると、動脈形成能又は動脈形成を刺激する必要がある、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
動脈が冠動脈であり、好ましくは冠動脈の閉塞によりアテローム硬化冠疾患が生じる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項7から11までのいずれか一項に記載の核酸構築物を含む治療有効量の医薬組成物を対象に投与する段階を含む、請求項13から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
医薬組成物が、単球細胞にかつ/又は治療される血管壁内に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
中和抗ヒトIFNβ抗体を含む治療有効量の医薬組成物を対象に投与する段階を含む、好ましくは請求項12から17までのいずれか一項に記載の、対象において不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能及び/若しくは動脈形成を刺激するための方法。
【請求項19】
創傷周辺の再建手術のために動脈形成を刺激する必要がある、好ましくは請求項12から17までのいずれか一項に記載の、対象において動脈形成能又は動脈形成を刺激するための方法。
【請求項20】
好ましくは請求項12から19までのいずれか一項に記載の方法における、対象用の薬物の製造のための、請求項7から11までのいずれか一項に記載の核酸構築物中に存在するヌクレオチド配列の使用。
【請求項21】
対象において不十分な動脈形成能を予防及び/若しくは治療し、並びに/又は動脈形成能及び/若しくは動脈形成を刺激することができる動脈形成物質の同定のための方法であって、
(a)請求項7に記載の核酸構築物中に存在するヌクレオチド配列を発現することができる試験細胞集団を提供する段階であって、好ましくは前記試験集団が単球細胞を含み、さらに好ましくは前期試験細胞集団が哺乳動物細胞、さらに好ましくはヒト細胞を含む段階と、
(b)試験細胞集団を物質に接触させる段階と、
(c)物質に接触させた試験細胞集団中で、ヌクレオチド配列の発現レベル又はポリペプチドの活性若しくは定常状態レベルを決定する段階と、
(d)(c)において決定された発現、活性又は定常状態レベルを、前記物質に接触させていない試験細胞集団におけるヌクレオチド配列又はポリペプチドの発現、活性若しくは定常状態レベルと比較する段階と、
(e)物質に接触させる試験細胞集団と物質に接触させていない試験細胞集団との間で、ヌクレオチド配列又はポリペプチドの発現レベル、活性若しくは定常状態レベルに差を生みだす物質を同定する段階とを
含む方法。
【請求項22】
複数のヌクレオチド配列又は複数のポリペプチドの発現レベル、活性又は定常状態レベルが比較される、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【公表番号】特表2010−537629(P2010−537629A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522838(P2010−522838)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050575
【国際公開番号】WO2009/028945
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(506421600)
【Fターム(参考)】