匂いセンサ用球状弾性表面波素子および匂いセンシングシステム
【課題】匂いの元となるガス分子を高感度に検出できるとともに、多種類のガス応答特性の対応できる匂いセンサ用球状弾性表面波素子および匂いセンシングシステムを提供する。
【解決手段】弾性表面波を周回させて伝搬する伝搬面を有する球状基材と、前記球状基材の伝搬面上に形成され、弾性表面波を前記球状基材の伝搬面に励起する電極と、前記球状基材の伝搬面上に形成され、匂いの元となるガス分子を吸着する感応膜とを有し、前記感応膜は脂質とポリマーとが共有結合したリポポリマーを含むことを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【解決手段】弾性表面波を周回させて伝搬する伝搬面を有する球状基材と、前記球状基材の伝搬面上に形成され、弾性表面波を前記球状基材の伝搬面に励起する電極と、前記球状基材の伝搬面上に形成され、匂いの元となるガス分子を吸着する感応膜とを有し、前記感応膜は脂質とポリマーとが共有結合したリポポリマーを含むことを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂いセンサ用球状弾性表面波素子および匂いセンシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、匂いセンサが、食品や飲料・化粧品・環境計測などの多くの分野で必要とされている。例えば、食品や香料などの品質管理においては、通常、いわゆる“鼻の利く専門家”により匂いの評価や異常を検査するための官能検査が実施される。しかし、専門家による官能検査は鼻の疲労などにより安定した検査結果を得ることが難しい。また、官能検査の専門家を育成するのには長い年月を要するので、検査の必要に応じて専門家を確保することは困難である。このような理由から、安定した検査結果を得ることができる匂いセンシングシステムの必要性が増してきている。
【0003】
匂いセンシングシステムは、特性の異なる複数のセンサの出力パターンを多変量解析したり、ニューラルネットワークなどを用いてパターン認識したりして、匂いの元となるガス分子を特定することにより匂いを識別するものである。パターン認識をする際には、特定の匂いに特異的に応答するセンサを用いるのではなく、生体の嗅細胞と同様に、緩やかな選択性を持ち多数の匂いに応答するセンサを用いる。ちなみに、生体の嗅細胞においては、匂いの応答特性の異なる多数の嗅細胞の出力パターンを嗅覚神経系でパターン認識することにより匂い認識が行われる。
【0004】
人が生活するうえで出会う様々な匂いの原因となるガスの種類は非常に多い。また、同一のガスであっても、人が匂いを感じるときの濃度幅は非常に広い。
【0005】
匂いセンシングシステムに用いられるセンサとしては、たとえばQCMと呼ばれる水晶振動子ガスセンサが挙げられる(非特許文献1、2参照)。このセンサは、50〜200μm程度の薄い水晶板の表裏に銀・金などの金属薄膜電極を形成し、電極上に感応膜を塗布した構造を有する。この感応膜に匂い分子が吸着すると、質量負荷効果が生じるため、水晶振動子の発振周波数の変化に基づいて匂いの元となるガス分子を識別することができる。
【0006】
水晶振動子ガスセンサは、応答・回復速度が速いので測定時間を短縮することができる。また、水晶振動子ガスセンサを用いる他の利点として、人間の感覚とセンサ出力との相関が高いこと、簡便な測定回路で安定に動作すること、信号処理用デジタルLSIとの整合性が良いこと、といった点が挙げられる。しかし、水晶振動子ガスセンサでは感度を上げることが極めて困難である。
【0007】
また、球状弾性表面波素子を用いて匂い計測を行う場合にも、弾性表面波が減衰することから感度を上げることが困難である。特に、有機材料のようにそれ自体が弾性波に対して大きな減衰率を持つ物質を感応膜として使用する際には、感応膜の厚さを薄くすることで減衰を抑制しなくてはならない。
【0008】
一方、匂いセンサの感応膜に関しては、単分子膜や自己組織化膜を使用する方法が試みられている。チオール基またはジスルフィド基をもった感応膜分子を溶解した溶液に、金膜を表面に形成した基材を浸漬することで、金とチオール基またはジスルフィド基が選択的に且つ高密度に結合することから感応膜分子が表面で同一方向に配向した感応膜を形成することができる。高密度にしかも分子を配向して形成できることから周囲のガスと接触する側に、感応性を発揮する部位を揃えさせることなどが可能で優れた吸着特性を得ることができる。
【0009】
しかし、これまで特に弾性波を利用した匂いセンサは、あらかじめ限られた匂いの種類が知られている条件の下に識別を行うものが殆どである。識別すべきガスが特定されていない場合にはより多種類の互いに異なるガス応答特性を持った感応膜を準備する必要がある。そこで、多種類のガス応答特性の対応することが要望されている。
【非特許文献1】中本高道、森泉豊栄,“匂いセンシングシステム”,「電子情報通信学会論文誌(C−I)」,1999年4月,Vol.J82−C−I No.4,p.156−164)
【非特許文献2】"Pegylated lipid as coatings for QCM odor sensors", Sensors and Actuators B, vol. 121, pp. 538-544 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、匂いの元となるガス分子を高感度に検出できるとともに、多種類のガス応答特性の対応できる匂いセンサ用球状弾性表面波素子および匂いセンシングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、弾性表面波を周回させて伝搬する伝搬面を有する球状基材と、前記球状基材の伝搬面上に形成され、弾性表面波を前記球状基材の伝搬面に励起する電極と、前記球状基材の伝搬面上に形成され、匂いの元となるガス分子を吸着する感応膜とを有し、前記感応膜は脂質とポリマーとが共有結合したリポポリマーを含むことを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に対応する発明であって、前記感応膜は、前記リポポリマーがその末端で前記球状基材の伝搬面上に結合して形成された自己組織化膜であることを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に対応する発明であって、前記球状基材の伝搬面上に金を含む薄膜が形成され、前記リポポリマーは末端のチオール基またはジスルフィド基を介して前記金を含む薄膜に結合していることを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に対応する発明であって、前記脂質は、リン脂質およびスフィンゴ脂質からなる群より選択されることを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に対応する発明であって、前記ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリメタクリルアミドおよびポリヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選択されることを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0016】
請求項6に係る発明は、複数の請求項1に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子であって、それぞれ脂質またはポリマーが互いに異なり、匂いの元となるガス分子の種類に応じて互いに異なる応答特性を有する感応膜を有する匂いセンサ用球状弾性表面波素子と、各々の球状弾性表面波素子の電極に高周波信号を入力して弾性表面波を励起する手段と、各々の球状弾性表面波素子の電極により検出される弾性表面波の検出信号に基づき、前記弾性表面波が多重周回する際の検出信号の強度減衰量、検出信号の位相変化量および検出信号の伝搬速度の変化量のうち少なくとも1つを収集する信号収集手段と、前記信号収集手段により収集される検出信号から、前記匂いの識別を算出する手段とを備えたことを特徴とする匂いセンシングシステムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、匂いの元となるガス分子を高感度に検出できるとともに、多種類のガス応答特性の対応できる匂いセンサ用球状弾性表面波素子および匂いセンシングシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において弾性表面波と称する場合、固体表面あるいは固体境界に沿ってエネルギーを集中して伝搬する弾性波全般を指すこととする。例えばセザワ波のように多少エネルギーを球形基材に漏洩しながら伝搬するものや、SH波、また表面に膜を有する場合に伝搬可能なラブ波、あるいは球形の空洞の内壁を伝搬するもの、回廊波も含んで指すこととする。
【0019】
本発明の匂いセンサは、球状弾性表面波素子の表面にリポポリマーの自己組織化膜を形成する。リポポリマーからなる感応膜は、従来の感応膜よりも薄く均一に形成することができるので、弾性表面波の分散による減衰率の増大を避けることができる。また、リポポリマーは、これを構成する脂質および/またはポリマーの種類を容易に変更できるので、多種類のガス応答特性に対応できる。
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0021】
図1は本発明の実施形態に係る匂いセンサ用の球状弾性表面波素子(ボールSAW)の構成を示す模式図である。図2は球状弾性表面波素子の円周経路における断面図である。
【0022】
球状基材としての圧電性結晶球1の表面に、弾性表面波を励起するためのすだれ状電極2が形成されている。すだれ状電極2は圧電性結晶球1の結晶方位を考慮して形成されている。すだれ状電極2の単位電極が配列されている方向に沿う圧電性結晶球1の最大外周円に弾性表面波を周回させて伝搬する周回経路が形成される。また、圧電性結晶球1の表面のすだれ状電極2をはずれた領域に、少なくとも弾性表面波の周回経路の幅をカバーする金薄膜3が形成されている。なお、金薄膜3の下地には、圧電性結晶球(水晶球)1との密着性を上げるためにクロム接着層(図示せず)を設けている。この金薄膜3上に脂質とポリマーとが共有結合したリポポリマーを含む感応膜4が形成されている(図1には感応膜を図示していない)。
【0023】
圧電性結晶球1の材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)、ランガテイト(La3Ta0.5Ga5.5SiO14)などを用いることができる。LiNbO3やLiTaO3などは、1個の結晶球の表面に最大で10の弾性表面波の周回経路を有し、理論的には9種類の感応特性の違う感応膜を互いに異なる周回経路上に形成することができる。
【0024】
図3に金薄膜3上に形成された感応膜4の模式図を示す。リポポリマーは、脂質とポリマーとが共有結合し、ポリマーの末端に結合基としてジスルフィド基(またはチオール基)を有する。リポポリマーは、圧電性結晶球(水晶球)1の表面に形成された金薄膜3にジスルフィド基を介して結合している。リポポリマーは脂質部分が凝集して自己組織化して配向性のよい単分子膜を形成している。以下、自己組織化した単分子膜をSAM(self-assembling monolayer)と表記することがある。なお、金薄膜3上に化学吸着されたリポポリマーの自己組織化膜に対して、さらに他のリポポリマーを物理吸着させてもよい。
【0025】
圧電性結晶球1の直径と弾性表面波の波長によって決まる所定の電極幅のすだれ状電極2を形成し、図1に示した高周波信号発生器からすだれ状電極2に高周波信号を印加すると、高周波信号に応じた弾性表面波が励起され、周回経路に沿って多重に周回する。励起した弾性表面波は周回するごとにすだれ状電極2を通過し、その際に起電力を発生するので、図1に示した信号解析装置で電気的にその周回の状況を観測することができる。
【0026】
図4に球状弾性表面波素子の出力信号の模式図を示す。周回ごとに出力される信号の時間を計測すれば、弾性表面波の伝搬速度を求めることができる。また、周回ごと出力される信号の強度を計測すれば、周回に伴い周回面が弾性表面波のエネルギーを吸収する量が求まり、伝搬面のもう一つの弾性特性情報を得ることができる。
【0027】
そして、周回経路に形成された感応膜4にガス分子が吸着すると、信号出力に変化が生じる。たとえば、ガス分子の吸着により感応膜4が重くなると、弾性表面波の伝搬速度が低下する。また、ガス分子と反応によって感応膜4が硬くなるなど弾性変化を起こすと、弾性表面波の伝搬速度が変化する。これらの変化を検出することによって匂いセンサとしての機能を得ることができる。
【0028】
球状弾性表面波素子は、平板型の弾性表面波素子とは異なり、圧電性結晶球1の最大外周円に沿った伝搬経路を持つので、反射器を使用することなく弾性表面波を周回数倍の距離だけ伝搬させることができる。信号解析装置による遅延時間や強度の測定精度が同じである場合、周回に応じて変化が重畳されるため、感応膜4の弾性変化をより高感度に測定することできる。
【0029】
本発明において用いられるリポポリマーの例を下記化学式に示す。
【0030】
(a)のリポポリマーは、ポリマー部分が(CH2CH2O)45で表されるポリエチレングリコール(PEG)、ポリマーの一端の脂質部分が2つのステアロイル基を有するリン脂質、ポリマーの他端の結合部分がジスルフィド基を含むPDPとなっている。以下、このリポポリマーを、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−フォスフォエタノールアミン−N−[PDP(ポリエチレングリコール)2000]と称し、PDP−LD2Kと表示する。(a)のリポポリマーは、結合部分であるPDP中のジスルフィド基を介して金薄膜に結合する。
【0031】
(b)のリポポリマーは、ポリマー部分が(CH2CH2O)nで表されるポリエチレングリコール(PEG)、脂質部分が2つのステアロイル基を有するリン脂質となっている。(b)のリポポリマーは、金薄膜に結合した(a)のリポポリマーに物理吸着させることができる。以下、(b)で表されるリポポリマーを、PEGのおおよその分子量(重合度n)に応じてたとえば以下のように表記する。
【0032】
PEG分子量=約1000(n= 22) LD1K
PEG分子量=約2000(n= 45) LD2K
PEG分子量=約5000(n=114) LD5K
【化1】
【0033】
なお、リポポリマーのポリマー部分は、ポリエチレングリコールに限らず、ポリビニルメチルエーテル、ポリメタクリルアミド、ポリヒドロキシエチルアクリレートなどを用いることができる。また、リポポリマーの脂質部分はリン脂質に限らず、スフィンゴ脂質を用いることもできる。
【0034】
次に、以下のようにして、球状弾性表面波素子の表面に設けた金薄膜の上にリポポリマーを含む感応膜を結合させた。
【0035】
1)PDP−LD2Kを0.2mMの濃度でエタノールに溶解した。
【0036】
2)金薄膜を設けた球状弾性表面波素子を溶液中に4時間浸した。
【0037】
3)素子を溶液から取り出し、エタノールに15分間浸した。
【0038】
4)素子をエタノールから取り出し乾燥させた。
【0039】
得られたPDP−LD2Kを結合させた球状弾性表面波素子を用い、匂い物質である酢酸ブチルに対する応答性を調べた。この試験では、酢酸ブチルの濃度を25%、50%、75%、100%に変え、15周目の波形の位相応答を測定した。また、60秒から120秒、240秒から300秒、420秒から480秒の間に匂い物質を導入し、それ以外の時刻ではキャリアガスで匂い物質を排出した。その結果を図5に示す。図5には、ベースラインの変化が見られるが、これは素子の温度変化の影響によるである。
【0040】
次に、上記のようにしてPDP−LD2Kを結合させた球状弾性表面波素子(SAMという)に加えて、さらにPDP−LD2Kに対してLD1Kを物理吸着させた球状弾性表面波素子(SAM+LD1Kという)を作製した。図6に、リポポリマー形成前の素子の出力信号の強度変化(コーティング前)と、リポポリマーを形成後の出力信号の強度変化(SAMおよびSAM+LD1K)を示す。
【0041】
コーティング前の素子でも周回に伴う信号強度の低下が見られる。これは、水晶球による弾性表面波のエネルギー吸収、空中への弾性表面波エネルギーの漏出、周回経路表面に形成された金薄膜での電流による弾性表面波のエネルギーの熱エネルギーとしての喪失、または測定回路への電気エネルギーとしての漏出による。
【0042】
また、リポポリマーをコーティング後の素子(SAMまたはSAM+LD1K)でも、周回に伴う信号強度の減衰の程度はそれほど顕著ではない。感応膜としてリポポリマー以外の材料を用いた場合には周回に伴う信号強度の低下が顕著であったのと対比すると、感応膜としてリポポリマーを用いることによって信号強度の減衰を抑制できるという効果が得られる。
【0043】
次に、PDP−LD2Kからなる感応膜を有する球状弾性表面波素子(SAM)およびPDP−LD2K+LD1Kからなる感応膜を有する球状弾性表面波素子(SAM+LD1K)について、匂い物質であるn−ブタノールまたはイソ酪酸の濃度と、50周回目の出力の位相シフトとの関係を調べた。その結果をそれぞれ図7(a)および(b)に示す。
【0044】
両方の球状弾性表面波素子とも、匂い物質の濃度に対して位相シフトが線形に変化している。また、PDP−LD2K+LD1Kからなる感応膜を有する球状弾性表面波素子(SAM+LD1K)の方が高感度であることがわかる。
【0045】
次に、PDP−LD2Kを形成した球状弾性表面波素子との比較のために、従来の感応膜であるSiponate DS−10をACエレクトロスプレイにより形成した球状弾性表面波素子を作製した。これらの球状弾性表面波素子について、匂い物質であるイソ酪酸の濃度と、出力の位相シフトとの関係を調べた。その結果をそれぞれ図8に示す。
【0046】
イソ酪酸の濃度は25%、50%、75%、100%と変化させた。Siponate DS−10をACエレクトロスプレイにより形成した素子では、周回に伴う信号強度の低下が大きかったため、5周目の出力を測定した。一方、PDP−LD2Kを形成した素子では、50周回目の信号まで十分な強度でその位相シフトを測定できた。このようにPDP−LD2Kを形成した素子では、従来の素子の10倍の周回数でも、2倍以上の位相変化で全ての濃度の匂い物質を測定できることがわかった。これは、PDP−LD2Kの自己組織化単分子膜からなる感応膜の厚さが薄いため、感応膜の弾性に対するガスの影響が小さいことによると考えられる。
【0047】
図9に、5種類の自己組織化単分子膜からなる感応膜をそれぞれ有する球状弾性表面波素子について主成分分析を行い、4種類の匂いガス成分の識別を行った結果を示す。図中のAはブタノール、Bは酢酸ヘキシル、Cはイソ酪酸、Dはヘキサナールである。この図から、各々の匂い物質が明確に識別されていることが明らかである。
【0048】
図10に本発明の実施形態に係る匂いセンシングシステムの概略図を示す。
【0049】
この匂いセンシングシステムは、センサセル10と、球状弾性表面波素子20と、匂識別装置30とを備えている。この匂いセンシングシステムにおいては、球状弾性表面波素子20がセンサセル10内に設けられ、この球状弾性表面波素子20からの検出信号に基づいて、センサセル10内の匂いを匂識別装置30により識別する。なお、本実施形態において、部材を総括的に説明する場合には単に数字を表記し、個別的に説明する場合には数字に添え字A〜Eを付して表記する。例えば、球状弾性表面波素子を総括的に説明する場合には球状弾性表面波素子20と表記し、個別的に説明する場合には球状弾性表面波素子20A〜20Eと表記する。
【0050】
センサセル10は匂いの元となるガスGが流入する容器であり、流入管11と、排気管12と、セル制御部13とを備えている。さらに、センサセル10は、球状弾性表面波素子20A〜20Eを支えるための支持体14A〜14Eを内部に備えている。
【0051】
流入管11はセンサセル10内部にガスGを流入するものであり、セル制御部13により制御される。具体的には、円筒形の流入管11の側面に数個の噴出口があいており、ガスGが噴出されるようになっている。
【0052】
排気管12はセンサセル10内のガスを排気するものである。すなわち、流入管11により流入されるガスGがセンサセル10内に残留しないようにするために、匂いを識別するタイミングに応じてセンサセル10内のガスを排気するものである。
【0053】
セル制御部13はセンサセル10を制御するものである。具体的には、流入管11を介してセンサセル10内にガスGを流入するタイミングを制御したり、支持体14を介して球状弾性表面波素子20との電気信号の入出力を制御したりするものである。なお、セル制御部13は、後述する匂識別装置30の制御部32から流入制御信号や励起制御信号を受けると、各制御を実行する。
【0054】
支持体14A〜14Eはそれぞれ球状弾性表面波素子20A〜20Eをセンサセル10内に支持するものである。また、各球状弾性表面波素子20A〜20Eに対し電気信号の伝達を行なう機能を有している。これにより、セル制御部13からの励起制御信号に基づき、弾性表面波を励起することができる。
【0055】
球状弾性表面波素子20は、図1〜図3に示したように、圧電性結晶球1の表面に、すだれ状電極2、金薄膜3、感応膜4を備える。本実施形態では、5個の球状弾性表面波素子20A〜20Eを設けているが、球状弾性表面波素子20Eは参照信号を得るためのものであるので、その伝搬面に感応膜を形成しない。
【0056】
すだれ状電極2は励起手段/検出手段であり、匂識別装置30から高周波信号が入力されることにより、弾性表面波を伝搬面に励起する。詳しくは、すだれ状電極2に高周波の交流電流が流れると、その周波数と電極周期に応じてすだれ状電極2の単位電極が振動して弾性表面波が発生する。また、すだれ状電極2は、弾性表面波が伝搬面を周回する度にこれを検出する。なお、検出した弾性表面波の出力信号は、匂識別装置30の信号収集部33に送出される。
【0057】
匂識別装置30は、基準パターン記憶部31、制御部32、信号収集部33、検出パターン生成部34、匂識別部35、出力部36を備え、各球状弾性表面波素子20A〜20Eからの弾性表面波の検出信号に基づいて、センサセル10内の匂いを識別する。
【0058】
基準パターン記憶部31は、各感応膜22A〜22Dに付着する気体分子の付着量を、基準パターン情報D1〜Dnとして、気体G1〜Gnの種類毎に予め記憶しているメモリである。
【0059】
制御部32は、匂識別装置30の各処理部31〜36を制御するとともに、センサセル10に制御信号を送出するものである。具体的には、センサセル10のセル制御部13に流入制御信号を送出することにより、センサセル10内に気体Gを流入させるための制御を行なう機能を有する。また、センサセル10の制御部13を介して、弾性表面波素子20のすだれ状電極2に高周波信号を入力する制御を行なうことにより弾性表面波を伝搬面上に励起する機能を有する。
【0060】
信号収集部33は、すだれ状電極2により検出される弾性表面波の検出信号を収集するものである。また、収集した検出信号を検出パターン生成部34に送出する。
【0061】
検出パターン生成部34は、信号収集部33により収集される検出信号から、各感応膜22A〜22Dに付着する気体分子の付着量を当該感応膜22A〜22Dの種類毎に示す検出パターン情報Dxを生成するものである。具体的には、弾性表面波を多重周回させた後の検出信号の強度減衰量に基づいて、気体分子の付着量を算出する。付着量を算出する際、弾性表面波素子10Eからの検出信号を温度較正に用いることができる。なお、生成された検出パターン情報Dxは、匂識別部35に送出される。
【0062】
匂識別部35は、基準パターン記憶部31により記憶されている基準パターン情報D1〜Dnと検出パターン生成部34により生成される検出パターン情報Dxとを比較し、両者を同一とみなせるときの基準パターン情報から気体Gの種類を特定して匂いを識別するものである。パターン認識に際しては、多変量解析による方法と、ニューラルネットワークによる方法とがある。
【0063】
多変量解析による方法は、各センサについて数種類の値が観測される場合に用いられる解析手法である。例えば、センサAとセンサBとの2個のセンサを用い、未知の匂いWxが、匂いW1と匂いW2とのいずれかに属するかを判別する。
【0064】
ニューラルネットワークによる方法は、ニューロンと呼ばれる要素が多数結合した回路を用いた解析手法であり、ニューロン同士の結合の強さを学習により最適化することによりパターン認識を行なうものである。ニューラルネットワークを構成する方法は、コンピュータにソフトウェアを実装する方法と、ハードウェアにより行う方法がある。
【0065】
なお、パターン認識により特定された気体のデータは、匂い情報として出力部36に送出される。
【0066】
出力部36は、匂識別部35により識別された匂い情報を出力するものである。
【0067】
図11のフローチャートを参照して本実施形態に係る匂いセンシングシステムの動作を説明する。
【0068】
始めに、制御部32の制御により、匂いを識別対象である気体Gxが流入管11から噴出される。これにより、センサセル10内にガスGxが充満する(ステップS1)。
【0069】
続いて、制御部32の制御により、複数の球状弾性表面波素子20A〜20Eのすだれ状電極2に高周波信号が入力されて、伝搬面に弾性表面波が励起される(ステップS2)。
【0070】
励起された弾性表面波が周回し、すだれ状電極2に到達すると、弾性表面波が電気信号に変換される。変換された電気信号は、検出信号として信号収集部33に送出される。続いて、信号収集部33により検出信号A〜Eが収集され、検出パターン作成部34に送出される(ステップS3)。
【0071】
検出パターン作成部34では、検出信号に基づき、弾性表面波の強度変化が解析される(ステップS4)。それから、強度変化に基づいて、各伝搬面における気体Gxの分子の付着量が算出され、検出パターン情報Dxが生成される(ステップS5)。そして、生成された検出パターン情報Dxは、匂識別部35に送出される。
【0072】
次に、匂識別部35により、基準パターン記憶部31に記憶された基準パターン情報D1〜Dnと検出パターン情報Dxとが比較される(ステップS6)。ここでは、ニューラルネットワークによる比較処理が実行される。このような比較処理により、例えば、検出パターン情報Dxと基準パターン情報D2とが一致するとみなせる場合には、特定のガスGxが識別される(ステップS7)。そして、特定のガスGxを示す結果情報が出力部36に出力される(ステップS8)。
【0073】
上記のような測定方法以外でも、センサセルに常にフローを流して、空気と匂いサンプルを切り替えて測定するフロー測定系も可能である。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態に係る匂いセンサ用の球状弾性表面波素子(ボールSAW)の構成を示す模式図。
【図2】球状弾性表面波素子の円周経路における断面図。
【図3】金薄膜上に形成された感応膜の模式図。
【図4】本発明に係る球状弾性表面波素子の出力信号の模式図。
【図5】本発明に係る球状弾性表面波素子の酢酸ブチルに対する応答性を示す図。
【図6】リポポリマー形成前の素子の出力信号の強度変化と、リポポリマーを形成後の出力信号の強度変化を示す図。
【図7】本発明に係る球状弾性表面波素子について、n−ブタノールまたはイソ酪酸の濃度と、50周回目の出力の位相シフトとの関係を示す図。
【図8】本発明に係る球状弾性表面波素子と従来の球状弾性表面波素子について、匂い物質であるイソ酪酸の濃度と出力の位相シフトとの関係を示す図。
【図9】本発明に係る球状弾性表面波素子について、4種類の匂いガス成分の識別を行った結果を示す図。
【図10】本発明に係る匂いセンシングシステムの概略図。
【図11】本発明に係る匂いセンシングシステムの動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0076】
1…圧電性結晶球、2…すだれ状電極、3…金薄膜、4…感応膜、10…センサセル、11…流入管、12…排気管、13…セル制御部、14…支持体、20…球状弾性表面波素子、30…匂識別装置、31…基準パターン記憶部、32…制御部、33…信号収集部、34…検出パターン生成部、35…匂識別部、36…出力部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂いセンサ用球状弾性表面波素子および匂いセンシングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、匂いセンサが、食品や飲料・化粧品・環境計測などの多くの分野で必要とされている。例えば、食品や香料などの品質管理においては、通常、いわゆる“鼻の利く専門家”により匂いの評価や異常を検査するための官能検査が実施される。しかし、専門家による官能検査は鼻の疲労などにより安定した検査結果を得ることが難しい。また、官能検査の専門家を育成するのには長い年月を要するので、検査の必要に応じて専門家を確保することは困難である。このような理由から、安定した検査結果を得ることができる匂いセンシングシステムの必要性が増してきている。
【0003】
匂いセンシングシステムは、特性の異なる複数のセンサの出力パターンを多変量解析したり、ニューラルネットワークなどを用いてパターン認識したりして、匂いの元となるガス分子を特定することにより匂いを識別するものである。パターン認識をする際には、特定の匂いに特異的に応答するセンサを用いるのではなく、生体の嗅細胞と同様に、緩やかな選択性を持ち多数の匂いに応答するセンサを用いる。ちなみに、生体の嗅細胞においては、匂いの応答特性の異なる多数の嗅細胞の出力パターンを嗅覚神経系でパターン認識することにより匂い認識が行われる。
【0004】
人が生活するうえで出会う様々な匂いの原因となるガスの種類は非常に多い。また、同一のガスであっても、人が匂いを感じるときの濃度幅は非常に広い。
【0005】
匂いセンシングシステムに用いられるセンサとしては、たとえばQCMと呼ばれる水晶振動子ガスセンサが挙げられる(非特許文献1、2参照)。このセンサは、50〜200μm程度の薄い水晶板の表裏に銀・金などの金属薄膜電極を形成し、電極上に感応膜を塗布した構造を有する。この感応膜に匂い分子が吸着すると、質量負荷効果が生じるため、水晶振動子の発振周波数の変化に基づいて匂いの元となるガス分子を識別することができる。
【0006】
水晶振動子ガスセンサは、応答・回復速度が速いので測定時間を短縮することができる。また、水晶振動子ガスセンサを用いる他の利点として、人間の感覚とセンサ出力との相関が高いこと、簡便な測定回路で安定に動作すること、信号処理用デジタルLSIとの整合性が良いこと、といった点が挙げられる。しかし、水晶振動子ガスセンサでは感度を上げることが極めて困難である。
【0007】
また、球状弾性表面波素子を用いて匂い計測を行う場合にも、弾性表面波が減衰することから感度を上げることが困難である。特に、有機材料のようにそれ自体が弾性波に対して大きな減衰率を持つ物質を感応膜として使用する際には、感応膜の厚さを薄くすることで減衰を抑制しなくてはならない。
【0008】
一方、匂いセンサの感応膜に関しては、単分子膜や自己組織化膜を使用する方法が試みられている。チオール基またはジスルフィド基をもった感応膜分子を溶解した溶液に、金膜を表面に形成した基材を浸漬することで、金とチオール基またはジスルフィド基が選択的に且つ高密度に結合することから感応膜分子が表面で同一方向に配向した感応膜を形成することができる。高密度にしかも分子を配向して形成できることから周囲のガスと接触する側に、感応性を発揮する部位を揃えさせることなどが可能で優れた吸着特性を得ることができる。
【0009】
しかし、これまで特に弾性波を利用した匂いセンサは、あらかじめ限られた匂いの種類が知られている条件の下に識別を行うものが殆どである。識別すべきガスが特定されていない場合にはより多種類の互いに異なるガス応答特性を持った感応膜を準備する必要がある。そこで、多種類のガス応答特性の対応することが要望されている。
【非特許文献1】中本高道、森泉豊栄,“匂いセンシングシステム”,「電子情報通信学会論文誌(C−I)」,1999年4月,Vol.J82−C−I No.4,p.156−164)
【非特許文献2】"Pegylated lipid as coatings for QCM odor sensors", Sensors and Actuators B, vol. 121, pp. 538-544 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、匂いの元となるガス分子を高感度に検出できるとともに、多種類のガス応答特性の対応できる匂いセンサ用球状弾性表面波素子および匂いセンシングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、弾性表面波を周回させて伝搬する伝搬面を有する球状基材と、前記球状基材の伝搬面上に形成され、弾性表面波を前記球状基材の伝搬面に励起する電極と、前記球状基材の伝搬面上に形成され、匂いの元となるガス分子を吸着する感応膜とを有し、前記感応膜は脂質とポリマーとが共有結合したリポポリマーを含むことを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に対応する発明であって、前記感応膜は、前記リポポリマーがその末端で前記球状基材の伝搬面上に結合して形成された自己組織化膜であることを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に対応する発明であって、前記球状基材の伝搬面上に金を含む薄膜が形成され、前記リポポリマーは末端のチオール基またはジスルフィド基を介して前記金を含む薄膜に結合していることを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に対応する発明であって、前記脂質は、リン脂質およびスフィンゴ脂質からなる群より選択されることを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に対応する発明であって、前記ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリメタクリルアミドおよびポリヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選択されることを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子である。
【0016】
請求項6に係る発明は、複数の請求項1に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子であって、それぞれ脂質またはポリマーが互いに異なり、匂いの元となるガス分子の種類に応じて互いに異なる応答特性を有する感応膜を有する匂いセンサ用球状弾性表面波素子と、各々の球状弾性表面波素子の電極に高周波信号を入力して弾性表面波を励起する手段と、各々の球状弾性表面波素子の電極により検出される弾性表面波の検出信号に基づき、前記弾性表面波が多重周回する際の検出信号の強度減衰量、検出信号の位相変化量および検出信号の伝搬速度の変化量のうち少なくとも1つを収集する信号収集手段と、前記信号収集手段により収集される検出信号から、前記匂いの識別を算出する手段とを備えたことを特徴とする匂いセンシングシステムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、匂いの元となるガス分子を高感度に検出できるとともに、多種類のガス応答特性の対応できる匂いセンサ用球状弾性表面波素子および匂いセンシングシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において弾性表面波と称する場合、固体表面あるいは固体境界に沿ってエネルギーを集中して伝搬する弾性波全般を指すこととする。例えばセザワ波のように多少エネルギーを球形基材に漏洩しながら伝搬するものや、SH波、また表面に膜を有する場合に伝搬可能なラブ波、あるいは球形の空洞の内壁を伝搬するもの、回廊波も含んで指すこととする。
【0019】
本発明の匂いセンサは、球状弾性表面波素子の表面にリポポリマーの自己組織化膜を形成する。リポポリマーからなる感応膜は、従来の感応膜よりも薄く均一に形成することができるので、弾性表面波の分散による減衰率の増大を避けることができる。また、リポポリマーは、これを構成する脂質および/またはポリマーの種類を容易に変更できるので、多種類のガス応答特性に対応できる。
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0021】
図1は本発明の実施形態に係る匂いセンサ用の球状弾性表面波素子(ボールSAW)の構成を示す模式図である。図2は球状弾性表面波素子の円周経路における断面図である。
【0022】
球状基材としての圧電性結晶球1の表面に、弾性表面波を励起するためのすだれ状電極2が形成されている。すだれ状電極2は圧電性結晶球1の結晶方位を考慮して形成されている。すだれ状電極2の単位電極が配列されている方向に沿う圧電性結晶球1の最大外周円に弾性表面波を周回させて伝搬する周回経路が形成される。また、圧電性結晶球1の表面のすだれ状電極2をはずれた領域に、少なくとも弾性表面波の周回経路の幅をカバーする金薄膜3が形成されている。なお、金薄膜3の下地には、圧電性結晶球(水晶球)1との密着性を上げるためにクロム接着層(図示せず)を設けている。この金薄膜3上に脂質とポリマーとが共有結合したリポポリマーを含む感応膜4が形成されている(図1には感応膜を図示していない)。
【0023】
圧電性結晶球1の材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)、ランガテイト(La3Ta0.5Ga5.5SiO14)などを用いることができる。LiNbO3やLiTaO3などは、1個の結晶球の表面に最大で10の弾性表面波の周回経路を有し、理論的には9種類の感応特性の違う感応膜を互いに異なる周回経路上に形成することができる。
【0024】
図3に金薄膜3上に形成された感応膜4の模式図を示す。リポポリマーは、脂質とポリマーとが共有結合し、ポリマーの末端に結合基としてジスルフィド基(またはチオール基)を有する。リポポリマーは、圧電性結晶球(水晶球)1の表面に形成された金薄膜3にジスルフィド基を介して結合している。リポポリマーは脂質部分が凝集して自己組織化して配向性のよい単分子膜を形成している。以下、自己組織化した単分子膜をSAM(self-assembling monolayer)と表記することがある。なお、金薄膜3上に化学吸着されたリポポリマーの自己組織化膜に対して、さらに他のリポポリマーを物理吸着させてもよい。
【0025】
圧電性結晶球1の直径と弾性表面波の波長によって決まる所定の電極幅のすだれ状電極2を形成し、図1に示した高周波信号発生器からすだれ状電極2に高周波信号を印加すると、高周波信号に応じた弾性表面波が励起され、周回経路に沿って多重に周回する。励起した弾性表面波は周回するごとにすだれ状電極2を通過し、その際に起電力を発生するので、図1に示した信号解析装置で電気的にその周回の状況を観測することができる。
【0026】
図4に球状弾性表面波素子の出力信号の模式図を示す。周回ごとに出力される信号の時間を計測すれば、弾性表面波の伝搬速度を求めることができる。また、周回ごと出力される信号の強度を計測すれば、周回に伴い周回面が弾性表面波のエネルギーを吸収する量が求まり、伝搬面のもう一つの弾性特性情報を得ることができる。
【0027】
そして、周回経路に形成された感応膜4にガス分子が吸着すると、信号出力に変化が生じる。たとえば、ガス分子の吸着により感応膜4が重くなると、弾性表面波の伝搬速度が低下する。また、ガス分子と反応によって感応膜4が硬くなるなど弾性変化を起こすと、弾性表面波の伝搬速度が変化する。これらの変化を検出することによって匂いセンサとしての機能を得ることができる。
【0028】
球状弾性表面波素子は、平板型の弾性表面波素子とは異なり、圧電性結晶球1の最大外周円に沿った伝搬経路を持つので、反射器を使用することなく弾性表面波を周回数倍の距離だけ伝搬させることができる。信号解析装置による遅延時間や強度の測定精度が同じである場合、周回に応じて変化が重畳されるため、感応膜4の弾性変化をより高感度に測定することできる。
【0029】
本発明において用いられるリポポリマーの例を下記化学式に示す。
【0030】
(a)のリポポリマーは、ポリマー部分が(CH2CH2O)45で表されるポリエチレングリコール(PEG)、ポリマーの一端の脂質部分が2つのステアロイル基を有するリン脂質、ポリマーの他端の結合部分がジスルフィド基を含むPDPとなっている。以下、このリポポリマーを、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−フォスフォエタノールアミン−N−[PDP(ポリエチレングリコール)2000]と称し、PDP−LD2Kと表示する。(a)のリポポリマーは、結合部分であるPDP中のジスルフィド基を介して金薄膜に結合する。
【0031】
(b)のリポポリマーは、ポリマー部分が(CH2CH2O)nで表されるポリエチレングリコール(PEG)、脂質部分が2つのステアロイル基を有するリン脂質となっている。(b)のリポポリマーは、金薄膜に結合した(a)のリポポリマーに物理吸着させることができる。以下、(b)で表されるリポポリマーを、PEGのおおよその分子量(重合度n)に応じてたとえば以下のように表記する。
【0032】
PEG分子量=約1000(n= 22) LD1K
PEG分子量=約2000(n= 45) LD2K
PEG分子量=約5000(n=114) LD5K
【化1】
【0033】
なお、リポポリマーのポリマー部分は、ポリエチレングリコールに限らず、ポリビニルメチルエーテル、ポリメタクリルアミド、ポリヒドロキシエチルアクリレートなどを用いることができる。また、リポポリマーの脂質部分はリン脂質に限らず、スフィンゴ脂質を用いることもできる。
【0034】
次に、以下のようにして、球状弾性表面波素子の表面に設けた金薄膜の上にリポポリマーを含む感応膜を結合させた。
【0035】
1)PDP−LD2Kを0.2mMの濃度でエタノールに溶解した。
【0036】
2)金薄膜を設けた球状弾性表面波素子を溶液中に4時間浸した。
【0037】
3)素子を溶液から取り出し、エタノールに15分間浸した。
【0038】
4)素子をエタノールから取り出し乾燥させた。
【0039】
得られたPDP−LD2Kを結合させた球状弾性表面波素子を用い、匂い物質である酢酸ブチルに対する応答性を調べた。この試験では、酢酸ブチルの濃度を25%、50%、75%、100%に変え、15周目の波形の位相応答を測定した。また、60秒から120秒、240秒から300秒、420秒から480秒の間に匂い物質を導入し、それ以外の時刻ではキャリアガスで匂い物質を排出した。その結果を図5に示す。図5には、ベースラインの変化が見られるが、これは素子の温度変化の影響によるである。
【0040】
次に、上記のようにしてPDP−LD2Kを結合させた球状弾性表面波素子(SAMという)に加えて、さらにPDP−LD2Kに対してLD1Kを物理吸着させた球状弾性表面波素子(SAM+LD1Kという)を作製した。図6に、リポポリマー形成前の素子の出力信号の強度変化(コーティング前)と、リポポリマーを形成後の出力信号の強度変化(SAMおよびSAM+LD1K)を示す。
【0041】
コーティング前の素子でも周回に伴う信号強度の低下が見られる。これは、水晶球による弾性表面波のエネルギー吸収、空中への弾性表面波エネルギーの漏出、周回経路表面に形成された金薄膜での電流による弾性表面波のエネルギーの熱エネルギーとしての喪失、または測定回路への電気エネルギーとしての漏出による。
【0042】
また、リポポリマーをコーティング後の素子(SAMまたはSAM+LD1K)でも、周回に伴う信号強度の減衰の程度はそれほど顕著ではない。感応膜としてリポポリマー以外の材料を用いた場合には周回に伴う信号強度の低下が顕著であったのと対比すると、感応膜としてリポポリマーを用いることによって信号強度の減衰を抑制できるという効果が得られる。
【0043】
次に、PDP−LD2Kからなる感応膜を有する球状弾性表面波素子(SAM)およびPDP−LD2K+LD1Kからなる感応膜を有する球状弾性表面波素子(SAM+LD1K)について、匂い物質であるn−ブタノールまたはイソ酪酸の濃度と、50周回目の出力の位相シフトとの関係を調べた。その結果をそれぞれ図7(a)および(b)に示す。
【0044】
両方の球状弾性表面波素子とも、匂い物質の濃度に対して位相シフトが線形に変化している。また、PDP−LD2K+LD1Kからなる感応膜を有する球状弾性表面波素子(SAM+LD1K)の方が高感度であることがわかる。
【0045】
次に、PDP−LD2Kを形成した球状弾性表面波素子との比較のために、従来の感応膜であるSiponate DS−10をACエレクトロスプレイにより形成した球状弾性表面波素子を作製した。これらの球状弾性表面波素子について、匂い物質であるイソ酪酸の濃度と、出力の位相シフトとの関係を調べた。その結果をそれぞれ図8に示す。
【0046】
イソ酪酸の濃度は25%、50%、75%、100%と変化させた。Siponate DS−10をACエレクトロスプレイにより形成した素子では、周回に伴う信号強度の低下が大きかったため、5周目の出力を測定した。一方、PDP−LD2Kを形成した素子では、50周回目の信号まで十分な強度でその位相シフトを測定できた。このようにPDP−LD2Kを形成した素子では、従来の素子の10倍の周回数でも、2倍以上の位相変化で全ての濃度の匂い物質を測定できることがわかった。これは、PDP−LD2Kの自己組織化単分子膜からなる感応膜の厚さが薄いため、感応膜の弾性に対するガスの影響が小さいことによると考えられる。
【0047】
図9に、5種類の自己組織化単分子膜からなる感応膜をそれぞれ有する球状弾性表面波素子について主成分分析を行い、4種類の匂いガス成分の識別を行った結果を示す。図中のAはブタノール、Bは酢酸ヘキシル、Cはイソ酪酸、Dはヘキサナールである。この図から、各々の匂い物質が明確に識別されていることが明らかである。
【0048】
図10に本発明の実施形態に係る匂いセンシングシステムの概略図を示す。
【0049】
この匂いセンシングシステムは、センサセル10と、球状弾性表面波素子20と、匂識別装置30とを備えている。この匂いセンシングシステムにおいては、球状弾性表面波素子20がセンサセル10内に設けられ、この球状弾性表面波素子20からの検出信号に基づいて、センサセル10内の匂いを匂識別装置30により識別する。なお、本実施形態において、部材を総括的に説明する場合には単に数字を表記し、個別的に説明する場合には数字に添え字A〜Eを付して表記する。例えば、球状弾性表面波素子を総括的に説明する場合には球状弾性表面波素子20と表記し、個別的に説明する場合には球状弾性表面波素子20A〜20Eと表記する。
【0050】
センサセル10は匂いの元となるガスGが流入する容器であり、流入管11と、排気管12と、セル制御部13とを備えている。さらに、センサセル10は、球状弾性表面波素子20A〜20Eを支えるための支持体14A〜14Eを内部に備えている。
【0051】
流入管11はセンサセル10内部にガスGを流入するものであり、セル制御部13により制御される。具体的には、円筒形の流入管11の側面に数個の噴出口があいており、ガスGが噴出されるようになっている。
【0052】
排気管12はセンサセル10内のガスを排気するものである。すなわち、流入管11により流入されるガスGがセンサセル10内に残留しないようにするために、匂いを識別するタイミングに応じてセンサセル10内のガスを排気するものである。
【0053】
セル制御部13はセンサセル10を制御するものである。具体的には、流入管11を介してセンサセル10内にガスGを流入するタイミングを制御したり、支持体14を介して球状弾性表面波素子20との電気信号の入出力を制御したりするものである。なお、セル制御部13は、後述する匂識別装置30の制御部32から流入制御信号や励起制御信号を受けると、各制御を実行する。
【0054】
支持体14A〜14Eはそれぞれ球状弾性表面波素子20A〜20Eをセンサセル10内に支持するものである。また、各球状弾性表面波素子20A〜20Eに対し電気信号の伝達を行なう機能を有している。これにより、セル制御部13からの励起制御信号に基づき、弾性表面波を励起することができる。
【0055】
球状弾性表面波素子20は、図1〜図3に示したように、圧電性結晶球1の表面に、すだれ状電極2、金薄膜3、感応膜4を備える。本実施形態では、5個の球状弾性表面波素子20A〜20Eを設けているが、球状弾性表面波素子20Eは参照信号を得るためのものであるので、その伝搬面に感応膜を形成しない。
【0056】
すだれ状電極2は励起手段/検出手段であり、匂識別装置30から高周波信号が入力されることにより、弾性表面波を伝搬面に励起する。詳しくは、すだれ状電極2に高周波の交流電流が流れると、その周波数と電極周期に応じてすだれ状電極2の単位電極が振動して弾性表面波が発生する。また、すだれ状電極2は、弾性表面波が伝搬面を周回する度にこれを検出する。なお、検出した弾性表面波の出力信号は、匂識別装置30の信号収集部33に送出される。
【0057】
匂識別装置30は、基準パターン記憶部31、制御部32、信号収集部33、検出パターン生成部34、匂識別部35、出力部36を備え、各球状弾性表面波素子20A〜20Eからの弾性表面波の検出信号に基づいて、センサセル10内の匂いを識別する。
【0058】
基準パターン記憶部31は、各感応膜22A〜22Dに付着する気体分子の付着量を、基準パターン情報D1〜Dnとして、気体G1〜Gnの種類毎に予め記憶しているメモリである。
【0059】
制御部32は、匂識別装置30の各処理部31〜36を制御するとともに、センサセル10に制御信号を送出するものである。具体的には、センサセル10のセル制御部13に流入制御信号を送出することにより、センサセル10内に気体Gを流入させるための制御を行なう機能を有する。また、センサセル10の制御部13を介して、弾性表面波素子20のすだれ状電極2に高周波信号を入力する制御を行なうことにより弾性表面波を伝搬面上に励起する機能を有する。
【0060】
信号収集部33は、すだれ状電極2により検出される弾性表面波の検出信号を収集するものである。また、収集した検出信号を検出パターン生成部34に送出する。
【0061】
検出パターン生成部34は、信号収集部33により収集される検出信号から、各感応膜22A〜22Dに付着する気体分子の付着量を当該感応膜22A〜22Dの種類毎に示す検出パターン情報Dxを生成するものである。具体的には、弾性表面波を多重周回させた後の検出信号の強度減衰量に基づいて、気体分子の付着量を算出する。付着量を算出する際、弾性表面波素子10Eからの検出信号を温度較正に用いることができる。なお、生成された検出パターン情報Dxは、匂識別部35に送出される。
【0062】
匂識別部35は、基準パターン記憶部31により記憶されている基準パターン情報D1〜Dnと検出パターン生成部34により生成される検出パターン情報Dxとを比較し、両者を同一とみなせるときの基準パターン情報から気体Gの種類を特定して匂いを識別するものである。パターン認識に際しては、多変量解析による方法と、ニューラルネットワークによる方法とがある。
【0063】
多変量解析による方法は、各センサについて数種類の値が観測される場合に用いられる解析手法である。例えば、センサAとセンサBとの2個のセンサを用い、未知の匂いWxが、匂いW1と匂いW2とのいずれかに属するかを判別する。
【0064】
ニューラルネットワークによる方法は、ニューロンと呼ばれる要素が多数結合した回路を用いた解析手法であり、ニューロン同士の結合の強さを学習により最適化することによりパターン認識を行なうものである。ニューラルネットワークを構成する方法は、コンピュータにソフトウェアを実装する方法と、ハードウェアにより行う方法がある。
【0065】
なお、パターン認識により特定された気体のデータは、匂い情報として出力部36に送出される。
【0066】
出力部36は、匂識別部35により識別された匂い情報を出力するものである。
【0067】
図11のフローチャートを参照して本実施形態に係る匂いセンシングシステムの動作を説明する。
【0068】
始めに、制御部32の制御により、匂いを識別対象である気体Gxが流入管11から噴出される。これにより、センサセル10内にガスGxが充満する(ステップS1)。
【0069】
続いて、制御部32の制御により、複数の球状弾性表面波素子20A〜20Eのすだれ状電極2に高周波信号が入力されて、伝搬面に弾性表面波が励起される(ステップS2)。
【0070】
励起された弾性表面波が周回し、すだれ状電極2に到達すると、弾性表面波が電気信号に変換される。変換された電気信号は、検出信号として信号収集部33に送出される。続いて、信号収集部33により検出信号A〜Eが収集され、検出パターン作成部34に送出される(ステップS3)。
【0071】
検出パターン作成部34では、検出信号に基づき、弾性表面波の強度変化が解析される(ステップS4)。それから、強度変化に基づいて、各伝搬面における気体Gxの分子の付着量が算出され、検出パターン情報Dxが生成される(ステップS5)。そして、生成された検出パターン情報Dxは、匂識別部35に送出される。
【0072】
次に、匂識別部35により、基準パターン記憶部31に記憶された基準パターン情報D1〜Dnと検出パターン情報Dxとが比較される(ステップS6)。ここでは、ニューラルネットワークによる比較処理が実行される。このような比較処理により、例えば、検出パターン情報Dxと基準パターン情報D2とが一致するとみなせる場合には、特定のガスGxが識別される(ステップS7)。そして、特定のガスGxを示す結果情報が出力部36に出力される(ステップS8)。
【0073】
上記のような測定方法以外でも、センサセルに常にフローを流して、空気と匂いサンプルを切り替えて測定するフロー測定系も可能である。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態に係る匂いセンサ用の球状弾性表面波素子(ボールSAW)の構成を示す模式図。
【図2】球状弾性表面波素子の円周経路における断面図。
【図3】金薄膜上に形成された感応膜の模式図。
【図4】本発明に係る球状弾性表面波素子の出力信号の模式図。
【図5】本発明に係る球状弾性表面波素子の酢酸ブチルに対する応答性を示す図。
【図6】リポポリマー形成前の素子の出力信号の強度変化と、リポポリマーを形成後の出力信号の強度変化を示す図。
【図7】本発明に係る球状弾性表面波素子について、n−ブタノールまたはイソ酪酸の濃度と、50周回目の出力の位相シフトとの関係を示す図。
【図8】本発明に係る球状弾性表面波素子と従来の球状弾性表面波素子について、匂い物質であるイソ酪酸の濃度と出力の位相シフトとの関係を示す図。
【図9】本発明に係る球状弾性表面波素子について、4種類の匂いガス成分の識別を行った結果を示す図。
【図10】本発明に係る匂いセンシングシステムの概略図。
【図11】本発明に係る匂いセンシングシステムの動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0076】
1…圧電性結晶球、2…すだれ状電極、3…金薄膜、4…感応膜、10…センサセル、11…流入管、12…排気管、13…セル制御部、14…支持体、20…球状弾性表面波素子、30…匂識別装置、31…基準パターン記憶部、32…制御部、33…信号収集部、34…検出パターン生成部、35…匂識別部、36…出力部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を周回させて伝搬する伝搬面を有する球状基材と、
前記球状基材の伝搬面上に形成され、弾性表面波を前記球状基材の伝搬面に励起する電極と、
前記球状基材の伝搬面上に形成され、匂いの元となるガス分子を吸着する感応膜と
を有し、
前記感応膜は脂質とポリマーとが共有結合したリポポリマーを含むことを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項2】
前記感応膜は、前記リポポリマーがその末端で前記球状基材の伝搬面上に結合して形成された自己組織化膜であることを特徴とする請求項1に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項3】
前記球状基材の伝搬面上に金を含む薄膜が形成され、前記リポポリマーは末端のチオール基またはジスルフィド基を介して前記金を含む薄膜に結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項4】
前記脂質は、リン脂質およびスフィンゴ脂質からなる群より選択されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項5】
前記ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリメタクリルアミドおよびポリヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選択されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項6】
複数の請求項1に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子であって、それぞれ脂質またはポリマーが互いに異なり、匂いの元となるガス分子の種類に応じて互いに異なる応答特性を有する感応膜を有する匂いセンサ用球状弾性表面波素子と、
各々の球状弾性表面波素子の電極に高周波信号を入力して弾性表面波を励起する手段と、
各々の球状弾性表面波素子の電極により検出される弾性表面波の検出信号に基づき、前記弾性表面波が多重周回する際の検出信号の強度減衰量、検出信号の位相変化量および検出信号の伝搬速度の変化量のうち少なくとも1つを収集する信号収集手段と、
前記信号収集手段により収集される検出信号から、前記匂いの識別を算出する手段と
を備えたことを特徴とする匂いセンシングシステム。
【請求項1】
弾性表面波を周回させて伝搬する伝搬面を有する球状基材と、
前記球状基材の伝搬面上に形成され、弾性表面波を前記球状基材の伝搬面に励起する電極と、
前記球状基材の伝搬面上に形成され、匂いの元となるガス分子を吸着する感応膜と
を有し、
前記感応膜は脂質とポリマーとが共有結合したリポポリマーを含むことを特徴とする匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項2】
前記感応膜は、前記リポポリマーがその末端で前記球状基材の伝搬面上に結合して形成された自己組織化膜であることを特徴とする請求項1に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項3】
前記球状基材の伝搬面上に金を含む薄膜が形成され、前記リポポリマーは末端のチオール基またはジスルフィド基を介して前記金を含む薄膜に結合していることを特徴とする請求項1または2に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項4】
前記脂質は、リン脂質およびスフィンゴ脂質からなる群より選択されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項5】
前記ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリメタクリルアミドおよびポリヒドロキシエチルアクリレートからなる群より選択されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子。
【請求項6】
複数の請求項1に記載の匂いセンサ用球状弾性表面波素子であって、それぞれ脂質またはポリマーが互いに異なり、匂いの元となるガス分子の種類に応じて互いに異なる応答特性を有する感応膜を有する匂いセンサ用球状弾性表面波素子と、
各々の球状弾性表面波素子の電極に高周波信号を入力して弾性表面波を励起する手段と、
各々の球状弾性表面波素子の電極により検出される弾性表面波の検出信号に基づき、前記弾性表面波が多重周回する際の検出信号の強度減衰量、検出信号の位相変化量および検出信号の伝搬速度の変化量のうち少なくとも1つを収集する信号収集手段と、
前記信号収集手段により収集される検出信号から、前記匂いの識別を算出する手段と
を備えたことを特徴とする匂いセンシングシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−109343(P2009−109343A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281928(P2007−281928)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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