説明

包装用フィルム

【課題】 乳酸系重合体を主原料の一つとする包装用フィルムにおいて、製膜時の安定性を有し、保管時にブロッキングを生じることなく、容器への密着性にも優れていて、小巻ラップフィルムとして好適な包装フィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも3層を備えた多層フィルムであって、両表面層は、オレフィン系重合体(A)を主成分として含有する層であり、中間層の少なくとも一つは、乳酸系重合体(B)と、酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とを主成分として含有し、示差走査熱量測定において、加熱速度10℃/minで測定されるガラス転移温度が単一となることを特徴とする包装用フィルムを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然植物由来の樹脂である乳酸系重合体を主原料の一つとして用いてなる包装用フィルムであって、特にカッター刃を備えた箱内に収納され、家庭等で使用される小巻ラップフィルムとして好適に用いることができる包装用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
調理した食品を陶器やプラスチック容器などに載せて包装するフィルムとして、所謂“ラップフィルム”(本発明では、業務用のストレッチ包装フィルムと区別するため“小巻ラップフィルム”とも称する。)が使われている。
このような小巻ラップフィルムは、通常、カッター刃を具備した紙箱の中に筒に巻かれた状態で収納されている。包装する際は、フィルムを紙箱から引き出して食品を覆うように被せ、フィルムを紙箱に具備されたカッター刃に押し当て、このカッター刃でフィルムにミシン目状の孔を開けてフィルムを引きちぎることにより、引き裂きを幅方向に伝播させるようにしてフィルムをカットし、そしてフィルムの端部を容器に密着させて包装するように使用する。このため、小巻ラップフィルムには、透明性のほか、容器への密着性、箱から引き出したフィルムをカットする際のカット適性などの諸特性が必要とされる。
【0003】
現在市販されているラップフィルムの多くは、延伸したポリ塩化ビニリデン系樹脂を主成分とするフィルムのほか、押出しキャストしたポリエチレン系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1系樹脂等を主成分とするフィルムである。
近年、環境問題の高まりから枯渇性資源の有効活用が重要視されるようになり、天然植物由来の樹脂が注目されている。中でも、乳酸系重合体は、とうもろこしやジャガイモ等のでんぷんから得られる天然植物由来の樹脂であり、量産が可能であるばかりか透明性に優れているため、包装用フィルムの原料としても注目されており、乳酸系重合体を原料に用いた包装用フィルムの研究開発が行なわれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、家庭用ラップフィルムの特性であるカット適性、包装適性、耐熱性を同時に具備した生分解性ラップフィルムとして、JIS K−7198 A法の動的粘弾性測定法により、周波数10Hz、ひずみ0.1%にて測定した40℃における貯蔵弾性率の値が100MPa〜3GPaの範囲にあり、100℃における貯蔵弾性率の値が30MPa〜500MPaの範囲にあり、損失正接(tanδ)のピーク値が0.1〜0.8の範囲にある乳酸系樹脂組成物、例えば乳酸系樹脂と可塑剤とを60:40〜99:1の質量割合で含有する乳酸系樹脂組成物を主成分として含有する生分解性ラップフィルムが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、生産性に優れたインフレーション法で、比較的低温で高い収縮率が得られる収縮シート状物を提供するべく、最外層がポリオレフィン系樹脂を主成分とする層であり、該ポリオレフィン系樹脂を主成分とする層の間にポリ乳酸を主成分とする層を少なくとも1層有する収縮シート状物が開示されている。そして、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする層とポリ乳酸を主成分とする層との間に、アクリル変性ポリエチレン系樹脂を接着層として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO/2005/082981
【特許文献2】特開2002−19053号公報
【特許文献3】特開2008−30858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の如く、乳酸系重合体に可塑剤を配合した系では、乳酸系重合体のガラス転移点(Tg)を室温付近まで下げることになるため、キャスティング法などで急速に冷却してラップフィルムを製膜した場合、非晶のままシーティングされることで弾性率が下がってしまい、そのまま長尺で巻いてしまうと、巻締力などで巻物がブロッキングしてしまうという問題が生じることがあった。
【0008】
また、乳酸系重合体に添加した可塑剤が経時的にブリードすることで、製膜したラップフィルムにおいて長期保管後の諸物性が変化することもあった。さらに、乳酸系重合体に可塑剤を配合すると溶融粘度が低下するため、積層フィルムを製膜する際に、各層押出原料の流動性の違いなどから流動ムラ等が発生し、良好なフィルム外観を得にくい等の問題もあった。
【0009】
その他、小巻ラップフィルムとして機能させるには、上記の如く、容器への密着性、紙箱からスムースにフィルムを引き出すことができる引き出し性、引き出したフィルムをカットする際のカット適性などの諸条件が求められるが、乳酸系重合体を主原料に用いて、このような諸条件を満足する包装フィルムを作製することは容易なことではなく、特に特許文献2のように、多層構造の積層フィルムにおいて、容器への密着性に優れるフィルムを作成することは困難であった。
【0010】
そこで本発明は、乳酸系重合体を主原料の一つとする包装用フィルムにおいて、製膜時の安定性を有し、製膜したフィルムを巻いた状態で保管しておいてもブロッキングを生じることがなく、容器への密着性にも優れていて、小巻ラップフィルムに求められる諸条件を満足し得る、新たな包装フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題に鑑み、本発明は、少なくとも3層を備えた多層フィルムであって、両表面層は、オレフィン系重合体(A)を主成分として含有する層であり、中間層の少なくとも一つは、乳酸系重合体(B)と、酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とを主成分として含有し、示差走査熱量測定において、加熱速度10℃/minで測定されるガラス転移温度が単一となることを特徴とする包装用フィルムを提案する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の包装用フィルムの中間層の主成分である2種類の樹脂、すなわち、乳酸系重合体(B)と、酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とが完全相溶するため、透明性を維持しつつ、ガラス転移温度を制御して流動性やフィルムの柔軟性を調整することができる。よって、製膜時において各層押出原料の流動性の違いなどから発生する流動ムラを無くすことができる。しかも、製膜したフィルムを巻いた状態で保管しておいてもブロッキングを生じることがなく、さらには容器への密着性にも優れているから、特に小巻ラップフィルムに求められる諸条件を満足し得る包装フィルムを提供することができる。また、少なくとも3層から構成される積層フィルムとすることにより、両表面層に防曇剤や粘着剤等の添加剤を含ませることができるため、フィルムの防曇性や密着性等を高めることもできる。
【0013】
なお、上記特許文献3には、乳酸系重合体と酢酸ビニル含量が10〜60質量%エチレン−酢酸ビニル共重合体を混合してもよいとの記載がある。しかし、この場合におけるエチレン−酢酸ビニル共重合体の添加の目的は、表面層をエチレン−酢酸ビニル共重合体から形成し、中間層を乳酸系重合体から形成して積層構成とした場合に、表面層と中間層との密着性を向上させること、及び積層フィルム製膜の際のトリミングロスを中間層の構成原料として添加することが目的であったため、本発明がエチレン−酢酸ビニル共重合体を乳酸系重合体に混合する目的とは異なっている。そればかりか、酢酸ビニル含量が10〜60質量%の範囲のエチレン−酢酸ビニルを乳酸系重合体に混合しても混合物のガラス転移温度は単一になることはない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例としての包装用フィルム(以下「本包装用フィルム」という)について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<本包装用フィルム>
本包装用フィルムは、少なくとも3層を備えた多層フィルムであって、両表面層がオレフィン系重合体(A)を主成分として含有し、中間層は、乳酸系重合体(B)と、酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)を主成分として含有する包装用フィルムである。
【0016】
以下、本包装用フィルムを構成する表面層および中間層について説明し、その後、本包装用フィルムの積層構成、特性値および製造方法についてこの順に説明する。
【0017】
<表面層>
本包装用フィルムにおいて、内外両面の表面層(以下単に「表面層」という)の主成分は、オレフィン系重合体であることが重要である。
【0018】
(オレフィン系重合体(A))
表面層は、例えば透明で柔軟性を有する樹脂を主成分として形成するのが好ましい。例えばオレフィン系重合体、PET、PBT、PEN、PBN等のポリエステル系重合体、PMMA等のアクリル系重合体、ナイロン樹脂などを挙げることができる。中でも、透明性、自己密着性の点で、オレフィン系重合体が好ましい。そこで次に、表面層の主成分として好適なオレフィン系重合体について説明する。
【0019】
表面層の主成分であるオレフィン系重合体(A)としては、エチレン系重合体、ブチレン系重合体、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン共重合体等のプロピレン系重合体、ポリ4−メチルペンテン、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などを挙げることができる。これらの樹脂は、前記に挙げたうちの一種類の樹脂であってもよいし、二種類以上の樹脂の組み合わせからなる混合樹脂であってもよい。
また、エチレン・プロピレンゴム等を分散複合化させたポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることもできる。
【0020】
これらの中でも、表面層の役割、例えば包装用フィルムとして使用時に、ブロッキング防止、臭気抑制、スリップ性と表面粘着性との適度なバランスの維持、防曇などの表面特性機能、製膜時の成形加工安定化、更には加水分解による乳酸系重合体(A)の分子量の経時的低下の抑制などの表面層の様々な役割を考慮すると、表面層の主成分はエチレン系重合体であるのが好ましい。
【0021】
エチレン系重合体としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンの中から選ばれる1種のエチレン系重合体又はこれら2種類以上の組み合わせからなる混合樹脂、或いは、エチレンを主成分とする共重合体、すなわち、エチレンと、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1などの炭素数3〜10のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピレン酸ビニルなどのビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル、共役ジエンや非共役ジエンのような不飽和化合物の中から選ばれる1種または2種以上のコモノマーとの共重合体或いは多元共重合体、または、前記エチレン系重合体、前記共重合体、前記多元共重合体のうち2種類以上の組み合わせからなる混合樹脂を挙げることができる。これらエチレン系重合体のエチレン単位の含有量は通常50質量%を超えるものである。
中でも、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−メタクリル酸エステル共重合体の中から選ばれる1種のエチレン系重合体又はこれら2種類以上の組み合わせからなる混合樹脂が特に好ましい。
上記のエチレン−アクリル酸エステル共重合体のアクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどが挙げられ、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体のメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等を挙げることができる。
【0022】
なお、表面粘着性のバランス、防曇性などの表面特性、製膜時の成形加工安定性、および中間層との層間接着性を重視する場合には、酢酸ビニル含量が10〜60質量%で、メルトフローレート(以下、「MFR」と略することがある。MFRの測定条件は、JIS K 7210に基づき190℃、荷重21.18Nであり、他のMFRも同様である。)が0.2〜20g/10分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
このエチレン−酢酸ビニル共重合体において、酢酸ビニル含量が10質量%以上であれば、結晶性が低いためフィルムが硬くならず、柔軟性や弾性回復性が良好であり、表面粘着性も発現し易いという点で好ましい。その一方、60質量%以下であれば、耐熱性やフィルム強度等を確保でき、防曇剤等を添加してもブリードアウトを抑制でき、しかも表面粘着性が強すぎないためにフィルムの巻き出し性や外観を良好とすることができるという点で好ましい。このような観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含量は10〜58質量%であるのがより好ましく、特に12〜56質量%であるのがさらに好ましい。
また、エチレン−酢酸ビニル共重合体のMFRが0.2g/10分以上であれば、押出加工性は安定し、20g/10分以下であれば、成形時に安定した製膜が可能となると共に、厚み斑や力学強度の低下やバラツキ等が少なくなり好ましい。このような観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体のMFRは0.5〜18g/10分であるのがより好ましく、中でも1〜15g/10分がさらに好ましい。
【0023】
他方、電子レンジ加熱に耐え得る電子レンジ耐熱性を重視する場合は、密度が0.90〜0.95g/cm3で、且つMFRが0.2〜20g/10分の線状低密度ポリエチレンが特に好ましい。
エチレン系重合体の密度がこのような範囲内であれば、適度な結晶性を有するためフィルムが硬くならず、柔軟性や弾性回復性が良好となり、しかもエチレン系重合体の融点がラップの実使用温度範囲、具体的には電子レンジ等で加熱した場合の雰囲気温度よりも高くなるため、得られるフィルムで食品を包装し、電子レンジ等で加熱した場合でも食品容器等にフィルムが溶けて貼りつくといった問題を生じることが無いため好ましい。
このような観点から、エチレン系重合体の密度は0.90〜0.94g/cm3であるのが特に好ましく、中でも0.91〜0.94g/cm3であるのがさらに好ましい。
また、エチレン系重合体のMFRが0.2g/10分以上であれば、押出加工性は安定し、20g/10分以下であれば、成形時に安定した製膜が可能となり、厚み斑や力学強度の低下やバラツキ等が少なくなるため好ましい。このような観点から、エチレン系重合体(A)のMFRは0.5〜18g/10分であるのが特に好ましく、中でも1〜15g/10分であるのがさらに好ましい。
【0024】
上記エチレン系重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法、また、ラジカル開始剤を用いた塊状重合法等を挙げることができる。
【0025】
表面層には、防曇性、帯電防止性、滑り性、粘着性などの性能を付与するために、各種添加剤を適宜配合してもよい。
【0026】
<中間層>
次に、中間層の構成成分について説明する。
【0027】
中間層は、乳酸系重合体(B)と、酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)と、を主成分として含有する層である。
乳酸系重合体(B)と、酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とは、完全相溶するため、優れた透明性を維持しつつ、中間層のガラス転移温度を制御することができる。
【0028】
(乳酸系重合体(B))
乳酸系重合体(B)としては、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸であるポリ(DL−乳酸)、或いはこれらの混合体、或いはこれらを含む共重合体を用いることができる。
但し、ここでいうポリ(L−乳酸)またはポリ(D―乳酸)は、理想的にはL−乳酸またはD−乳酸100%からなるポリマーであるが、重合に際し不可避的に異なる乳酸が含まれる可能性があるため、L−乳酸またはD―乳酸を98%以上含むものである。
【0029】
乳酸系重合体(B)におけるD−乳酸(D体)とL−乳酸(L体)の比率(モル比)は、L体/D体=100/0〜85/15、もしくはL体/D体=0/100〜15/85であるのが好ましく、より好ましくはL体/D体=99.5/0.5〜85/15もしくはL体/D体=0.5/99.5〜15/85である。かかる範囲内であれば、得られるフィルムの耐熱性を損ねることがない。
なお、L体とD体との共重合比が異なる乳酸系重合体をブレンドしてもよい。その場合、複数の乳酸系重合体のL体とD体との共重合比の平均値が上記範囲内に入るようにするのが好ましい。
【0030】
乳酸系重合体は、少量の共重合成分として他のヒドロキシカルボン酸等を含んでいてもよく、また少量の鎖延長剤残基を含んでいてもよい。
【0031】
乳酸系重合体の重合法としては、縮合重合法、開環重合法、その他公知の重合方法を採用することができる。
例えば縮合重合法では、L−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物等を直接脱水縮合重合して任意の組成を有する乳酸系重合体を得ることができる。
また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、適当な触媒を使用して任意の組成、結晶性を有する乳酸系重合体を得ることができる。
ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D―乳酸の二量体であるD−ラクチド、或いはL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、任意の結晶性を有する乳酸系重合体を得ることができる。
【0032】
乳酸系重合体の重量平均分子量は5万〜40万の範囲であるのが好ましく、更に好ましくは10万〜25万の範囲である。乳酸系重合体の重量平均分子量が5万以上であれば機械物性や耐熱性等の実用特性を確保することができ、40万以下であれば溶融粘度が高過ぎて成形加工性が劣ることがない。
【0033】
本包装用フィルムに用いる乳酸系重合体は、市販されている乳酸系重合体を用いることができる。例えば、商品名「レイシア」シリーズ(三井化学(株)製)、商品名「Nature Works」シリーズ(NatureWorks社製)、商品名「U‘zシリーズ」(豊田自動車製)等を挙げることができる。
【0034】
(エチレン−酢酸ビニル共重合体(C))
エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)は、酢酸ビニル含量が85質量%以上であるため、乳酸系重合体(B)と混合した際に完全相溶する、すなわち、示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で測定されるガラス転移温度が単一となる。
【0035】
ここで、混合樹脂組成物のガラス転移温度が単一であるとは、混合樹脂組成物をJIS K−7121に準じて、加熱速度10℃/分で示差走査熱量系を用いてガラス転移温度を測定した際に、ガラス転移温度を示すピークが一つだけ現れるという意味である。別の観点から見れば、前記混合樹脂組成物を、歪み0.1%、周波数10Hzにて動的粘弾性測定(JIS K−7198 A法の動的粘弾性測定)により測定した際に、損失正接(tanδ)の極大値が1つ存在するという意味である。
また、ガラス転移温度(或いは損失正接の極大値)が単一であるということは、乳酸系重合体(B)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とがナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶した状態であることを意味する。
【0036】
上記のように、乳酸系重合体(B)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とがナノメートルオーダー(分子レベル)で相溶した状態であれば、ガラス転移温度(或いは損失正接の極大値)が単一となるため、それぞれの混合量を調整することにより混合樹脂組成物のガラス転移温度を所望の範囲に調整することができる。
この際、該ガラス転移温度を20〜60℃の範囲内とすれば、実使用環境温度下においてフィルムが硬すぎることが無く、適度に伸びるため、容器等の形状に沿ってうまく包装することができるようになるから、特に家庭用ラップフィルムとして好適である。
【0037】
このような観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)としては、酢酸ビニル含量が85質量%以上であることが重要である。
酢酸ビニル含有量が85重量%未満であると、乳酸系重合体(B)との相溶性が悪く、ガラス転移温度(或いは損失正接の極大値)を示すピークは1つにならない。
よって、エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)としては、エチレン含量が1〜15質量%かつ酢酸ビニル含量が99〜85質量%のものを選択することがより好ましい。エチレン成分の含有量が1質量%以上であれば、乳酸系重合体(B)と混合した場合の混合樹脂組成物のガラス転移温度を低温にする効果が得られ、該ガラス転移温度を好ましい範囲にすることができる。一方、13質量%以下であれば、乳酸系重合体(B)との相溶性が良好となるため好ましい。
このような観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)としては、特にエチレン含量が1〜13質量%でかつ酢酸ビニル含量が99〜87質量%のものがさらに好ましい。
【0038】
乳酸系重合体(B)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)との混合配合量は、20℃における貯蔵弾性率、損失正接のピーク温度及び損失正接値が所望する範囲になるように調整するのが好ましい。その目安として、質量比率で(B)/(C)=80/20〜10/90となるように配合するのが好ましい。
中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体(C)の含有量を高めることで、中間層のガラス転移温度(Tg)を下げることができる。そこで、当該Tgを上記のように20〜60℃に調整し、かつラップフィルムとしての耐熱性及びカット性を確保するために乳酸系重合体(B)の結晶性を調整する観点から、(B)/(C)=70/30〜30/70、中でも(B)/(C)=60/40〜40/60であるのがさらに好ましい。
【0039】
(他の成分)
本包装用フィルムの中間層は、上記乳酸系重合体(B)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)のほかに、さらにオレフィン系重合体(E)を含有することができる。
【0040】
このオレフィン系重合体(E)は、表面層を構成するオレフィン系重合体(A)と同じオレフィン系重合体であっても、異なるオレフィン系重合体であってもよいが、好ましくは同じオレフィン系重合体であるのがよい。オレフィン系重合体(E)と表面層を構成するオレフィン系重合体(A)とが同じオレフィン系重合体であれば、中間層と表面層との密着性を高めることができ、フィルム全体での力学特性を高めることができるほか、例えば製膜したフィルムの両端をカットしてトリミングした際に発生するトリミングロスを、中間層の構成原料として添加するようにして調製できるから、材料の無駄を無くし、材料コストの軽減を図ることができる。
【0041】
最も好適なオレフィン系重合体(E)としては、酢酸ビニル含量が10〜60質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体を挙げることができる。このエチレン−酢酸ビニル共重合体は、表面層の主成分であるオレフィン系重合体(A)としても好適に使用することができ、かつ、トリミングロス等から発生するリサイクル樹脂を添加した際の透明性、力学特性や材料コスト面も含めて実用的に大きな問題がなく、工業材料としても安定的に入手可能である。
【0042】
オレフィン系重合体(E)の配合割合は、中間層における乳酸系重合体(B)との質量比率において、(B):(E)=1:99〜50:50、特に5:95〜50:50、中でも特に10:90〜45:55となるように配合するのが好ましい。
【0043】
本包装用フィルムの中間層には、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、アンチブロッキング剤、光安定剤、核剤、加水分解防止剤、消臭剤などの添加剤を処方することができる。
例えば、本包装用フィルムの実用特性を保持するために、乳酸系重合体(B)100質量部に対して、カルボジイミド化合物を好ましくは0.1〜3質量部、より好ましくは0.5〜1質量部配合することで重量平均分子量を増大させることができる。かかる範囲を下回る場合、重量平均分子量を増大させる効果が薄い場合が多く、またかかる範囲を上回る場合には、フィルム成形時にフィッシュアイやゲルを生じる場合があり好ましくない。
【0044】
(その他の添加剤)
本包装用フィルムの表面層及び/または中間層には、防曇性、帯電防止性、滑り性、粘着性などの性能を付与するために次のような各種添加剤を適宜配合することができる。
例えば、炭素数が1〜12、好ましくは1〜6の脂肪族アルコールと、炭素数が10〜22、好ましくは12〜18の脂肪酸との化合物である脂肪族アルコール系脂肪酸エステル、具体的には、モノグリセリンオレート、ポリグリセリンオレート、ポリグリセリンポリリシノレート、グリセリントリリシノレート、グリセリンアセチルリシノレート、ポリグリセリンステアレート、ポリグリセリンラウレート、メチルアセチルリシレート、エチルアセチルリシレート、ブチルアセチルリシレート、プロピレングリコールオレート、プロピレングリコールラウレート、ペンタエリスリトールオレート、ポリエチレングリコールオレート、ポリプロピレングリコールオレート、ソルビタンオレート、ソルビタンラウレート、ポリエチレングリコールソルビタンオレート、ポリエチレングリコールソルビタンラウレート等、ならびに、ポリアルキレンエーテルポリオール、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等、更に、パラフィン系オイルなどから選ばれた化合物の少なくとも1種を、各種を構成する樹脂成分100質量部に対して0.1〜12質量部配合させることができ、好適には1〜8質量部配合させるのが好ましい。
【0045】
<積層構成>
本包装用フィルムは、オレフィン系重合体である(A)を主成分とする表面層と、乳酸系重合体(B)と酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とを主成分とする中間層とを備えていればよく、本発明の主旨を超えない範囲で、力学特性や層間接着性の改良など必要に応じて他の層(以下、「P層」と略することがある)を適宜備えていてもかまわない。例えば、他の層(P層)として、接着層または/及び再生層を備えることができる。また、表面層と同一組成からなる層(以下、「S層」と略することがある)を、両表面層以外の中間層として備えていてもよい。また、中間層(以下、「M層」と略することがある)を、両表面層の間に少なくとも1層有してあればよく、2層以上有してもかまわない。
より具体的には、(S層)/(M層)/(S層)からなる3層構成、(S層)/(P層)/(M層)/(S層)からなる4層構成、(S層)/(P層)/(M層)/(P層)/(S層)、(S層)/(M層)/(P層)/(M層)/(S層)などからなる5層構成を代表的に挙げることができる。この場合、各層の樹脂組成や厚み比に関しては同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
P層に接着層が用いられる場合、用いる樹脂としては、特に限定しないが、例として、軟質の芳香族系炭化水素と共役ジエン系炭化水素との共重合体またはこれら共重合体の水素添加誘導体、酢酸ビニル含量が30〜80質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体、変性ポリオレフィン系樹脂、乳酸系重合体と、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック共重合体及びメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックを有するアクリル系ブロック共重合体との混合樹脂である乳酸・アクリル混合樹脂のいずれか1種又は2種以上の組み合わせからなる樹脂を主成分として含有するのがより好ましい。
【0047】
また、P層に接着層が用いられる場合、本包装フィルムは、表面層、中間層等を含有する再生層を有することができる。これらは、例えば製膜したフィルムの両端をカットしてトリミングした際に発生するトリミングロスを用いることができ、材料の無駄を無くし、材料コストの軽減を図ることができる。
再生層は、表面層と中間層の間だけでなく、表面層と接着層の間、中間層と接着層との間に設けることができる。例えば、表面層、中間層、あるいは接着層の構成を2層構成にしておき、一方の層にフィルム両端のトリミングロスをリターンすることによって、表面層と中間層の間だけでなく、表面層と接着層の間、中間層と接着層との間に再生層を設けることができる。この場合、各層の厚み比や組成比のほか、リターンを含有させる層が表面層、中間層、あるいは接着層のいずれをベースとしているかによって、これらの成分の混合比を調整することができる。
【0048】
本包装用フィルムにおいては、フィルム全体の厚みに対する中間層の厚み比が35〜90%であることが好ましい。中間層の厚み比がかかる範囲内であれば、前記の動的粘弾性による各特性値(E’、tanδ)を満足するフィルムの設計が容易となり、例えばTダイ法にてフィルムを成形する際、安定した製膜安定性が得られ、また、食品包装用ラップフィルムに好適なカット性を発現させるための力学特性や容器の密着性を発現させるための緩和特性を比較的容易に付与することができる。また、製膜したフィルムを巻いた状態で保管しておいてもブロッキングが生じず、防曇性や容器密着性が良好であり、経時により加水分解による分子量低下が生じ難いことに加えて、各層間の接着性も良好である包装用フィルムとすることができる。
さらに、安定した製膜加工性と柔軟性をより重視する場合には、フィルム全体の厚みに対する中間層の厚み比が35〜65%であるのが好ましく、特に35〜60%であるか、或いは、最も厚さの大きな層であるのがより好ましい。
また、カット性及び容器への密着性、さらには植物度すなわちCO削減等をより重視する場合には、フィルム全体の厚みに対する中間層の厚み比は60〜90%であるのが好ましく、特に65〜90%であるのがより好ましい。
なお、中間層が上記したように2層以上ある場合には、全ての中間層の合計厚みを用いて厚み比を計算すればよい。
【0049】
<厚さ>
本包装用フィルムの厚さ(全体)は、食品包装用ラップフィルムとして用いられる範囲、具体的には6μm〜30μmであればよく、好ましくは10μm〜20μmである。
【0050】
<特性値>
本包装用フィルムは、(1)動的粘弾性測定により、周波数10Hz、温度20℃で測定した貯蔵弾性率(E’)が1.0GPa〜4.0GPaであり、(2)損失正接(tanδ)のピーク温度が20℃〜60℃であって、(3)そのピーク値が0.1〜0.8の範囲になるように調製することできる。このような条件(1)(2)(3)の全てを満足するフィルムは、特にカッター刃を備えた箱内に収納され、家庭等で使用される小巻ラップフィルムとして好適に用いることができる。
【0051】
貯蔵弾性率(E’)が1.0GPa未満であると、フィルムが柔らか過ぎて変形に対して応力が小さ過ぎるため、例えば紙箱から引き出してカットする際のカット性が悪くなることがある。その一方、E’が4.0GPaを超えると、硬くて伸び難いフィルムになり、紙箱から引き出した際の引き出し性が悪くなることがある。
また、tanδのピーク温度が60℃以下であり、そのピーク値が0.1以上であれば、フィルムの変形に対する復元挙動が瞬間的に起こることがないため、フィルムを容器に包装する際、僅かな間にフィルムが復元することがなく容器への密着性が良好となるため好ましい。また、tanδのピーク温度が20℃以上であり、そのピーク値が0.8以下であれば、塑性的な変形を示すことがないため、通常の使用方法では問題となることがないため好ましい。
なお、tanδ(損失正接)とは、貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比、すなわち損失正接(tanδ=E”/E’)であり、この値が高い温度領域では、材料の損失弾性率(E”)、すなわち粘弾性特性のうち粘性の寄与率が大きいことを意味している。このtanδの値及び高い値を示す温度領域を評価することにより、包装時の容器への密着性や包装工程におけるフィルムの応力緩和挙動などを判断する大きな目安となる。
【0052】
上記の条件(1)〜(3)を全て満足するフィルムを作製するには、例えば中間層及び表面層を構成する樹脂の選択(例えば主成分となる樹脂の種類、その分子量やTg、乳酸系重合体のLD比など)、中間層及び表面層の厚み比率、製膜方法、加工条件(例えばフィルム製膜後の熱処理条件など)を適宜バランスよく調整することによって作製することができる。
【0053】
<製造方法>
本包装用フィルムの製造方法について説明するが、下記製造方法に限定されるものではない。
【0054】
先ず、各層の構成原料が混合組成物である場合には、予め各層の構成原料を混合しておき、必要に応じてペレット化しておくのが好ましい。この際の混合方法としては、例えば、予め同方向二軸押出機、ニーダー、ヘイシェルミキサー等を用いてプレコンパウンドするようにしても構わないし、又、各原料をドライブレンドして直接フィルム押出機に投入するようにしても構わない。いずれの混合方法においても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、均一に混合させるためにはプレコンパウンドすることが好ましい。例えば中間層であれば、乳酸系重合体と、必要に応じて添加剤とをそれぞれ十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製すればよい。
【0055】
次に、各層の構成原料を、それぞれ別々に押出機に投入して溶融押出し、Tダイ成形又はインフレーション成形により共押出して積層すればよい。
この際、実用的にはTダイより押出した溶融物をそのまま、キャスティングロールなどで急冷しながら引き取るようにしてフィルムを製膜するのが好ましい。
【0056】
フィルムの耐熱性やカット性を重視する場合には、溶融押出シートを冷却ロールによって冷却固化した後、樹脂の結晶化温度以下に加熱し、ニップロール間の速度差を利用してフィルムの縦方向に1.2〜5.0倍延伸する縦延伸、もしくはフィルムの縦横両方向に1.2〜5.0倍に逐次二軸延伸及び/または同時二軸延伸するフラット延伸法を採用するのが好ましい。
延伸温度としては、押出シートの温度を30〜90℃の範囲に設定とすることが好ましく、さらに40〜90℃の範囲とすることが好ましい。延伸温度がかかる範囲内であれば、中間層と表面層の両方を延伸に好適な弾性率に近づけることができるため好ましい。また、延伸倍率は1.2〜5.0倍の範囲内とすることが好ましく、さらに1.5〜4.0倍の範囲とすることが好ましい。延伸倍率がかかる範囲内であれば、押出シートの破断や白化等のトラブルが生じることなくカット性を向上させることができる。
【0057】
また、生産性及び/または経済性を重視する場合には、環状ダイから材料樹脂を溶融押出してインフレーション成形するのが好ましい。また、その際の冷却方法としては、チューブの外面から冷却する方法、チューブの外、内面の両面から冷却する方法のどちらでも良い。
【0058】
このようにして得られたフィルムは、熱収縮率や自然収縮率の軽減、幅収縮の発生の抑制等の目的に応じて、必要に応じて加熱ロール間での縦延伸、各種の熱固定、エージング等の熱処理を行うようにしてもよい。
熱処理条件としては、熱処理温度を40〜100℃の範囲に設定することが好ましく、さらに60〜90℃の範囲とすることが好ましい。熱処理温度が40℃以上であれば熱処理の効果を十分に得ることができ、100℃以下であればフィルムがロールにべたつく等の成形性の問題を生じることがない。
【0059】
また、防曇性、帯電防止性、粘着性等を付与、促進させる目的で、コロナ処理や熟成等の処理、更には、印刷、コーティング等の表面処理や表面加工を行ってもよい。
【0060】
<用語の説明>
一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。他方、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0061】
また、本明細書において「主成分」という」と表現した場合、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する。この際、当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)がその層を構成する組成物の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100%含む)を占めるものである。
【0062】
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。
なお、本明細書中に表示されるフィルムについての種々の測定値および評価は次のようにして行った。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向を縦方向(以下「MD」と記載する場合がある)、その直角方向を横方向(以下「TD」と略する場合がある)と称する。
【0064】
(1)E’、tanδ
JIS K−7198 A法に記載の動的粘弾性測定法により、アイティー計測制御(株)製動的粘弾性測定装置「DVA−200」を用い、フィルム(サンプル)の横方向(TD)について、振動周波数10Hz、歪み0.1%にて、昇温速度1℃/分で−50℃から150℃まで測定し、得られたデータから温度20℃での貯蔵弾性率(E’)、並びに、損失正接(tanδ)のピーク温度及びそのピーク値を求めた。
【0065】
(2)ガラス転移温度(Tg)
必要に応じてフィルム(サンプル)の表面層と中間層を剥離させ、中間層のみを切り出したサンプル10mgを、JISK7121に準じて、パーキンエルマー(株)製DSC−7を用いて、加熱速度を10℃/分で−100℃から200℃まで昇温し、250℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で−100℃まで降温し、−100℃で1分間保持した後、加熱速度10℃/分で再昇温し、得られたサーモグラムからガラス転移温度(Tg)を求めた。
なお、表1には、ガラス転移温度(Tg)が一つ確認されたもの(単一のもの)についてはTgの数値を1つ記載し、2つ確認されたものについてはTgの数値を2つ記載した。
【0066】
(3)製膜性
Tダイ成形法によるフィルムの製膜性について、以下の基準で評価した。
◎:各層の押出時の流動性の違いなどが観察されず、極めて安定していた。
○:各層の押出時の流動性の違いなどがあったが、問題とならないレベルであった。
△:各層の押出時の流動性の違いなどがあり、別の条件で製造する必要があった。
【0067】
(4)耐ブロッキング性
得られたフィルムの巻き物を、温度43℃、相対湿度40%の条件の恒温室内に5日間保管し、その後の表面状態と巻き返し性とを観察し、以下の基準で評価した。
◎:フィルム同士のブロッキングが全くなかった。
○:フィルム同士のブロッキングが少しあったが実用上問題とならないレベルであった。
△:フィルム同士のブロッキングにより剥離がやや重く実用上問題であった。
×:フィルム同士のブロッキングにより剥離が出来ず、巻き返しができなかった。
【0068】
(5)容器密着性
直径10cm、深さ5cmの茶碗状の陶磁器性の容器に包装したときの容器への密着性を、以下の基準で評価した。
◎:好適に包装できるレベルであった。
○:少し容器形状から広がったが、実用上問題ないレベルであった。
×:フィルムが容器に沿わずに広がってしまい実用上問題であった。
【0069】
(6)防曇性
直径50mm、高さ80mmからなるSUS304製の円筒の一側の開口部に、製膜したフィルムを皺なく貼り付け、外気温0〜5℃の環境下で、フィルムを貼ってない開口部側の円筒端部30mmを水温20℃の水中に浸し、浸し始めてから1時間後の防曇性を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:水分が均一な水膜となり、水滴は認められなかった。
○:水分が均一な水膜となっていたが、ところどころに細かい水滴があった。
△:ところどころに直径約1mm〜3mm未満の水滴があった。
×:直径約3mm以上の水滴があった。
【0070】
(実施例1)
両表面層を形成する樹脂組成物については、オレフィン系重合体(A)としてのプライムポリマー社製直鎖状低密度ポリエチレン「neo−zex0234N」(MFR:2.0g/10分、密度0.92g/cm3)(以下「A−1」と略する)100質量部と、理研ビタミン社製「MJ−1」5.0質量部とを、押出設定温度180〜200℃に設定した同方向二軸押出機に投入し溶融混練した。
【0071】
他方、中間層を形成する樹脂組成物については、乳酸系重合体(B)としてのNatureWorks社製「NatureWorks4032D」(L体/D体=98.6/1.4、重量平均分子量:20万)(以下「B−1」と略する)と、酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)としてのランクセス社製「レバプレン900HV」(酢酸ビニル含量:87.6質量%)(以下「C−1」と略する)とを、質量比で(B−1)/(C−1)=40/60とし、押出設定温度180〜200℃に設定した同方向二軸押出機に投入し溶融混練した。そして、上記のように溶融混練した両表面層を形成する樹脂組成物と、中間層を形成する樹脂組成物を、それぞれ別々の押出機から合流させ、三層Tダイ温度200℃、ダイギャップ2mmで共押出し、温度30℃に設定したキャストロールにて急冷することで、総厚み12μm(表面層/中間層/表面層=1.5μm/9μm/1.5μm)の包装用フィルム(サンプル)を得た。
得られたフィルムについて評価した結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2)
実施例1において、両表面層を形成する樹脂組成物を、日本ポリエチレン社製エチレン−酢酸ビニル共重合体「LV440」(酢酸ビニル含量:15質量%、MFR:2.2g/10分)(以下、A−2と略する)100質量部と、理研ビタミン社製ジグリセリンモノオレート「DGO−1」5.0質量部との混合物に変更した以外は、実施例1と同様にして総厚み12μmの包装用フィルム(サンプル)を得た。
得られたフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0073】
(実施例3)
実施例2において、中間層を形成する樹脂組成物を(B−1)/(C−1)=60/40とした以外は、実施例2と同様にして総厚み12μmの包装用フィルム(サンプル)を得た。
得られたフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0074】
(比較例1)
実施例1において、中間層を形成する樹脂組成物を(B−1)100質量部とした以外は、同様にして総厚み12μmの包装用フィルム(サンプル)を得た。
得られたフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)
実施例1において、中間層を形成する樹脂組成物を(B−1)と、エチレン−酢酸ビニル共重合体としてのランクセス社製「レバプレン800HV」(酢酸ビニル含量:80質量%)とから構成するようにし、かつ両者の質量比を(B−1)/「レバプレン800HV」=50/50とした以外は、実施例1と同様にして総厚み12μmの包装用フィルム(サンプル)を得た。
得られたフィルムを評価した結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1より、実施例1〜3で得たフィルムは、製膜時に各層押出原料の流動性の違いなどから生じる流動ムラ等はなく、安定した製膜性を有し、製膜したフィルムを巻いた状態で保管しておいてもブロッキングが生じないことが確認できた。さらには、容器密着性や防曇性も良好であることが確認された。
これに対して、中間層に酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)を有さない場合(比較例1)や、酢酸ビニル含量が85質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体をブレンドした場合(比較例2)には、容器密着性が不十分であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層を備えた多層フィルムであって、
両表面層は、オレフィン系重合体(A)を主成分として含有する層であり、
中間層の少なくとも一つは、乳酸系重合体(B)と、酢酸ビニル含量85質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とを主成分として含有し、示差走査熱量測定において、加熱速度10℃/minで測定されるガラス転移温度が単一となることを特徴とする包装用フィルム。
【請求項2】
中間層は、乳酸系重合体(B)とエチレン−酢酸ビニル共重合体(C)とを、10:90〜90:10の質量比率で含有することを特徴とする請求項1記載の包装用フィルム。
【請求項3】
オレフィン系重合体(A)が、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−メタクリル酸エステル共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体およびポリプロピレン系エラストマーからなる群の中から選ばれる少なくとも1種のオレフィン系重合体又はこれら2種類以上の組合わせからなる混合樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の包装用フィルム。

【公開番号】特開2012−24960(P2012−24960A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163686(P2010−163686)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】