説明

化学分析チップ

【課題】本発明は、試料液の脈動を抑制し、精度の高い検査結果を示すことのできる化学分析チップを提供する。
【解決手段】本発明は、試料液を移送するポンプ手段330と、試料液を流通する流路340と、試料液を検査する検査手段350とを備える化学分析チップ300であって、ポンプ手段330は、薄膜の圧電素子とその圧電素子を支持する支持部材とを備える構造体と、その構造体を挟む第1及び第2の基板とを含有し、第2の基板と上記構造体とによって囲まれたポンプ室を有する化学分析チップ300を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分析チップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、化学反応を利用した化学検査システムは、医療診断、創薬、DNA解析、環境検査、食品品質検査など、様々な分野で利用されている。これらのうち、特に医療オンサイトの診断や創薬実験、DNA解析などの検査システムは、安価であること、及び、検査時間の短縮のために結果が判明するまでの時間を短くすることが求められている。
【0003】
ここで、化学検査システムにおける化学反応速度は個々の反応において一定であるため、その検査液を数10〜数100nLというごく微少量にすることで反応時間を短縮し、結果が判明するまでの時間を短縮している。そのように反応時間を短縮する技術として微細な化学分析チップを利用することが検討されている。
【0004】
従来、化学分析チップ(マイクロ化学チップ)として、例えば、特許文献1、2に記載のものが知られている。特許文献1では、流体貯留部から排出部の流路内にポンプ部を設け、複数の微量の試料液(検査液)を合流させるマイクロ化学チップが開示されている。また、特許文献2には、複数のマイクロポンプを用いて、蛇行した混合流路で混合液を往復させることにより攪拌し、混合液中の分析用物質の抽出効率を高めた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−10676号公報
【特許文献2】特開2008−209281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが、それらの従来の化学分析チップについて詳細に検討を行ったところ、このような従来の化学分析チップは、試料液を検査する検査部(分析部)が試料液の脈動の影響を受けて微量成分を検出し難くなる等、精度の高い検査結果を示さないものであることが判明した。
【0007】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、試料液の脈動を抑制し、精度の高い検査結果を示すことのできる化学分析チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポンプのアクチュエータに用いる圧電材を従来の化学分析チップに備えられるものから改良することで、試料液の脈動を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、試料液を移送するポンプ手段と、試料液を流通する流路と、試料液を検査する検査手段とを備える化学分析チップであって、ポンプ手段は、薄膜の圧電素子とその圧電素子を支持する支持部材とを備える構造体と、構造体を挟む第1及び第2の基板とを含有し、第2の基板と構造体とによって囲まれたポンプ室を有する化学分析チップである。ここで、本発明における「薄膜の圧電素子」とはいわゆる気相法で形成された薄膜の圧電素子を意味する。
【0009】
上記特許文献1及び2には、化学分析チップに備えられるポンプとして、アクチュエータに圧電材を用いて駆動するものが示されている。その圧電材は、厚膜形成手法で形成されているものであったり、圧電素子板であったりして、いずれも膜厚の厚いものである。本発明者らは、圧電材の膜厚が厚いことに起因して、従来の化学分析チップにおいて検査部が試料液の脈動の影響を受けることを見出した。すなわち、膜厚の厚い圧電材は共振周波数が低いため、その圧電材をアクチュエータとして用いたポンプは、移送する試料液の脈動性が高くなってしまう。これにより、検査部が試料液の脈動の影響を強く受けてしまい、精度の高い検査結果を得ることが困難になる。
【0010】
一方、本発明の化学分析チップにおいては、ポンプ手段を駆動するアクチュエータとして薄膜の圧電素子が備えられている。薄膜の圧電素子は共振周波数が高いため、試料液の脈動を抑制することができる結果、精度の高い検査結果を示すことができる。また、本発明の化学分析チップに備えられる薄膜の圧電素子は、厚み方向(d33方向)の変位よりも面内方向(d31方向)の変位が支配的になり、その面内方向の変位に伴い厚み方向に湾曲し、それによりポンプ室内の容積及び圧力の増減を可能としている。その結果、厚み方向の変位によりポンプ室内の容積及び圧力を増減する厚膜の圧電素子と比較して、印加した電圧をより効率的に試料液の移送量に変換することができる。
【0011】
また、化学分析チップは取り扱う試料液がごく微量になるほど、そのチップを大量に製造する場合、それぞれのチップにおいて、特にポンプ手段が一定の品質を備えるように製造するのは困難となる。ところが、本発明においては、圧電素子を薄膜にする、すなわち気相法で形成することにより、圧電素子の接合不良や位置ズレに起因するポンプ手段の品質の低下を防止することができる。
【0012】
本発明の化学分析チップにおいて、上記構造体は、試料液の流通方向に沿って配設された2つ以上の圧電素子を備えると好ましい。このような化学分析チップにおいて、ポンプ手段は、試料液の吸入側(上流側)に配置された圧電素子から吐出側(下流側)に配置された圧電素子に向かって順に電圧を印加することで、複数の圧電素子を全体として蠕動様に動作させて試料液を移送できる。そのため、ポンプ手段の上下流に送液制御のためのバルブを設ける必要がなく、チップの構造を単純なものにでき、チップの更なる小型化及び薄膜化が可能となり、安価なものを大量に製造することができる。また、ポンプ手段がバルブの役割を兼ねているため、部材数が少なくてすみ、かつ、各部材間を接続する流路も必要なくなるため、ポンプ手段とバルブとを別々に設けた場合と比較して、各部材間の距離が短くなって応答性が良好になり、チップ内で実効的な試料液の圧力制御が容易となる。また、ポンプ手段は、上流側の圧電素子を変位させて試料液を押し出す(吐出する)と共に、下流側の圧電素子を変位させて試料液を吸入することで、試料液を移送する。このように、試料液の吐出と吸入とを適切に組み合わせることで、ポンプ手段は更に大きな効率を示し、より小さな電圧の印加であっても、試料液のより大きな移送量を実現することができるので、検査時間の更なる短縮化が可能となる。さらには、上記ポンプ手段は、電圧の印加の順番を下流側から上流側への順に変更すれば、試料液を逆送することもできる。なおもさらに、上記ポンプ手段は、各圧電素子への電圧の印加順を調整することで、試料液の揺動、振動、加圧等が可能になる。そのため、効率的な試料液の混合や化学反応も容易となり、多機能な検査が可能となると共に、特にごく微量の試料液を取り扱う場合に、その流れが層流になることによる不十分な混合を解消することもできる。
【0013】
本発明の化学分析チップにおいて、ポンプ手段が動作していないとき、前記ポンプ室を囲む前記構造体と前記第2の基板とが直接接触していると好ましい。このようなポンプ手段は、動作していないときのポンプ室の容量が実質的にゼロとなる。このポンプ手段は、動作していないときでもポンプ室に空間があって所定の容量を有するようなポンプと比較すると、試料液を吸入する際の容量の増大程度(△V)が大きくなるため、試料液の移送効率が更に高くなる。
【0014】
本発明の化学分析チップは、試料液を貯留する貯留手段を更に備えると好ましい。これにより、試料液を注入した状態でその化学分析チップを取り扱うことができるので、例えば、検査装置へ化学分析チップと試料液を一度に設置したり取り外したりすることができる等、取扱い性が向上する。
【0015】
本発明の化学分析チップは、それぞれ試料液を貯留する第1及び第2の貯留手段と、第1及び第2の貯留手段からそれぞれ試料液を吸入及び吐出により移送する第1及び第2のポンプ手段と、第1及び第2のポンプ手段から吐出された試料液を合流させ、かつ合流した試料液を静的に混合する流路と、流路を通過した試料液を検査する検査手段と、検査手段で検査された後の試料液を吸入及び吐出により移送する第3のポンプ手段と、第3のポンプ手段から吐出された試料液を貯留する第3の貯留手段とを備える化学分析チップであって、第1、第2及び第3のポンプ手段はいずれも、薄膜の圧電素子と圧電素子を支持する支持部材とを備える構造体と、構造体を挟む第1及び第2の基板とを含有し、第2の基板と構造体とによって囲まれたポンプ室と、ポンプ室と連通する第1及び第2の開口部とを有する化学分析チップであると好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料液の脈動を抑制し、精度の高い検査結果を示すことのできる化学分析チップを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一例に係る化学分析チップを模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示すII−II線で切断して現れる断面を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一例に係るポンプ手段の動作を模式的に示す工程図である。
【図4】本発明の一例に係る検査システムを示す模式図である。
【図5】本発明の一例に係るポンプ手段の駆動方法を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の一例に係るポンプ手段の駆動方法を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明の別の一例に係る化学分析チップを模式的に示す平面図である。
【図8】本発明の更に別の一例に係る化学分析チップを模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0019】
図1は、第1の本実施形態の化学分析チップを模式的に示す平面図であり(ただし、後述の第2の基板114を透視している。)、図2は、図1に示すII−II線で切断して現れる断面を模式的に示す断面図である。本実施形態の化学分析チップ100は、第1の基板110と、構造体112と、第2の基板114とを、この順で積層して含む。これらの各部材は、検査前の試料液(以下、「検査前試料液」という。)を貯留する第1及び第2の貯留手段120A及び120Bと、検査前試料液を移送する第1及び第2のポンプ手段130A及び130Bと、検査前試料液を流通する流路140と、検査前試料液を検査する検査手段150と、検査後の試料液(以下、「検査後試料液」という。)を移送する第3のポンプ手段130Cと、検査後試料液を貯留する第3の貯留手段120Cとを構成する。
【0020】
試料液は、検査対象となる試料を含む液であり、試料を溶媒に溶解又は分散した液であってもよく、それに加えて、試料を搬送するためのキャリア液を含むものであってもよい。キャリア液を用いると、試料が液状である場合にその試料の使用量を低減することができる。
【0021】
試料としては、例えば、核酸類、蛋白質類、糖類、細胞、及びその複合体が挙げられる。核酸類としては、例えば、DNA、cDNA、RNA及びアンチセンスRNA、又はそれらの断片若しくはそれらを増幅したもの、化学合成されたDNA及び化学合成されたRNA、又はそれらを増幅したものが挙げられる。蛋白質類としては、例えば、抗原、抗体、レクチン、アドヘシン、生理活性物質の受容体及びペプチドが挙げられる。また、キャリア液としては、例えば、水、メタノール及びエタノールなどのアルコール、リン酸、酢酸、塩酸などの水溶液が挙げられる。
【0022】
第1の基板110は、その表面上に構造体112及び検査手段150に配置される後述のプローブ156を形成可能であり、それらの機能を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、通常の薄膜形成に用いられる基板であってもよい。第1の基板としては、例えば、例えば、シリコン基板、ガラス基板、セラミック基板が挙げられ、その厚さは最も厚い部分で、例えば0.2mm〜2.0mmである。後述の圧電体の材料及び成膜法との組合せの観点、並びに高配向の圧電体を得る観点から、第1の基板110はシリコン基板であると好ましい。
【0023】
第1の基板110は、第1、第2及び第3の貯留手段120A、120B及び120C(「120A〜C」と略記する。以下同様。)を形成するために、それらの貯留手段に対応する部分に、上側に開口を有する窪みが設けられている。また、第1の基板110は、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cの下方部分での厚さが薄くなるよう、その部分に下側に開口を有する窪みが設けられている。これにより、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cがより有効に動作し、試料液をより効率的に移送することができる。
【0024】
構造体112は、第1の基板110と接触する部分において、第1の基板110と接合されており、第1、第2及び第3の圧電素子160A〜Cと、それらの圧電素子160A〜Cに直接接合して支持する支持部材170とを備える。支持部材170は、例えば最も厚い部分で10〜30μmの厚さを有する膜である。支持部材170の材料は、絶縁性を有する材料であって、かつ、第1、第2及び第3の圧電素子160A〜Cの変位によっても破損することなく適度に湾曲して追従することが必要となるため、柔軟性を有する材料であることが好ましい。支持部材170の材料として柔軟性を有する材料を採用すると、第1、第2及び第3の圧電素子160A〜Cの変位を後述のポンプ室に良好に伝えることが可能となるため、第1、第2の及び第3のポンプ手段130A〜Cの効率(試料液移送効率、作動効率)が高くなる。支持部材170の材料は、具体的には樹脂材料であることが好ましく、後述の圧電体及び上部電極に良好に接着する材料がより好ましく、例えば、シリコーン樹脂、ポリイミド及びパリレンが挙げられる。支持部材170において、第1、第2及び第3の貯留手段120A〜C並びに検査手段150を形成する部分で、その厚み方向に貫通孔が設けられている。また、支持部材170は、第1、第2及び第3の圧電素子160A〜Cを下方から埋め込んでいる。
【0025】
第2の基板114は、構造体112と接触する部分において、構造体112と接合されている。第2の基板114としては、例えば、ガラス基板、セラミック基板が挙げられ、その厚さは、例えば、最も厚い部分で0.2mm〜2.0mmである。第2の基板114は、第1、第2及び第3の貯留手段120A〜Cを形成するために、それらの貯留手段に対応する部分に、下側に開口を有する窪みが設けられている。また、第2の基板114には、試料液が第1及び第2の貯留手段120A〜Bから、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜C、流路140、検査手段150及び第3のポンプ手段130Cを経て、第3の貯留手段120Cまで流通するよう、それらに対応する部分に、下側に開口を有する溝及び窪みが設けられている。
【0026】
第1及び第2の貯留手段120A〜Bは、それぞれ検査前試料液を貯留するものであり、それぞれ流路122A〜Bと連通している他は、第1の基板110、構造体112及び第2の基板114に包囲されて形成されている。図示するそれらの貯留手段120A〜Bの形状は共に略円柱状であるが、それらの形状は互いに同一であっても異なっていてもよく、検査前試料液を貯留可能な形状であれば、特に限定されない。
【0027】
第1及び第2の貯留手段120A〜Bは、それぞれ流路122A〜Bを経て、第1及び第2のポンプ手段130A〜Bと連通する。流路122A〜Bは、それぞれ第1及び第2の貯留手段120A〜B並びに第1及び第2のポンプ手段130A〜Bと連通している他は、第2の基板114と構造体112とに包囲されて形成される。
【0028】
図3は、第1のポンプ手段130Aの動作を示す模式的に示す(断面で表す)工程図であり、(A)は動作前の状態を示す。第1のポンプ手段130Aは、薄膜の第1の圧電素子160Aと、その圧電素子160Aを支持する支持部材170の一部とを備える構造体112の一部と、構造体112の上記一部を挟む第1及び第2の基板110及び114の一部とを含有し、第2の基板114の上記一部と構造体112の上記一部とに包囲されて形成されるポンプ室132Aを有する。また、圧電素子160Aは、下部電極162と、薄膜の圧電体164と、検査前試料液の流通方向に沿って配設された3つの上部電極166a、166b及び166c(「166a〜c」と略記する。以下同様。)とを備え、下部電極162と上部電極166a〜cとが圧電体164を上下から挟んでいる。
【0029】
圧電素子160Aは、例えば厚み0.5μm〜10.0μmの薄膜状であって、上部電極166a〜cはそれぞれ略円形の主面を有し、下部電極162及び圧電体164は、その3つの上部電極166a〜cよりも大きな平面寸法を有している。圧電素子160Aは、支持部材170に下側から埋め込まれて接合されて、かつ下面は第1の基板110と接合されている。圧電素子160Aにおける3つの上部電極166a〜cは互いに直接接触しておらず、その間では支持部材170の下面が圧電体164の上面と接合されている。
【0030】
圧電素子160Aに備えられる下部電極162からは配線(図示せず)が取り出され、3つの上部電極166a〜cからは、それぞれ配線(図示せず)が取り出される。取り出されたそれらの配線は端子(図示せず)まで延びており、その端子を介して電源(図示せず)に接続されている。
【0031】
ここで、第1のポンプ手段130Aの動作方法について、図3を参照しながら説明する。なお、圧電素子160Aにおいて、下部電極162及び圧電体164上に上部電極166aを備え、それらの間での電圧の印加により動作する部分を圧電動作部168a、下部電極162及び圧電体164上に上部電極166bを備え、それらの間での電圧の印加により動作する部分を圧電動作部168b、下部電極162及び圧電体164上に上部電極166cを備え、それらの間での電圧の印加により動作する部分を圧電動作部168cと表記する。まず、(A)工程において、ポンプ手段130Aは停止状態にある。次いで、(B)工程において、下部電極162と、検査前試料液の流通方向に対して最も上流側の上部電極166aとの間に電圧を印加する。この際、圧電体164の上部電極166aと接触する部分が面内方向(d31方向)に収縮するように電圧を印加する。すると、圧電体164のその部分が変位(面内方向への収縮)する一方で、下部電極162や第1の基板110は面内方向に変位しないため、圧電動作部168aが支持部材170及び第1の基板110を伴って下側に湾曲する。これにより、ポンプ室132Aの容量が増大すると共にポンプ室132Aが負圧になるため、ポンプ手段130Aは、第1の貯留手段120Aに貯留された検査前試料液を、流路122Aを経由してポンプ室132Aに吸入する。
【0032】
次いで、(C)工程において、下部電極162と上部電極166aとの間への電圧の印加を維持した状態で、下部電極162と上部電極166bとの間に電圧を印加する。すると、圧電体164の上部電極166bと接触する部分が変位(面内方向への収縮)する一方で、下部電極162や第1の基板110は面内方向に変位しないため、圧電体164の上記部分の変位に伴い圧電動作部168bが支持部材170及び第1の基板110を伴って下側に湾曲する。これにより、ポンプ室132Aの容量が更に増大すると共にポンプ室132Aが負圧になるため、ポンプ手段130Aは、流路122Aからポンプ室132Aに更に検査前試料液を吸入する。
【0033】
続いて、(D)工程において、下部電極162と上部電極166aとの間への電圧の印加を停止し、下部電極162と上部電極166bとの間への電圧の印加を維持した状態で、下部電極162と、検査前試料液の流通方向に対して最も下流側の上部電極166cとの間に電圧を印加する。すると、圧電体164の上部電極166aと接触する部分の面内方向への収縮がなくなるため、圧電動作部168aが停止時の状態に戻る。また、圧電体164の上部電極166cと接触する部分が変位(面内方向への収縮)する一方で、下部電極162や第1の基板110は面内方向に変位しないため、圧電体164の上記部分の変位に伴い圧電動作部168cが支持部材170及び第1の基板110を伴って下側に湾曲する。これにより、圧電動作部168aに対応するポンプ室132Aの部分の容量が減少して、その部分が加圧されると共に、圧電動作部168cに対応するポンプ室132Aの部分の容量が増大してその部分が負圧になるため、ポンプ手段130Aは、圧電動作部168aに対応するポンプ室132Aの部分で検査前試料液を押し出す一方で、圧電動作部168cに対応するポンプ室132Aの部分に検査前試料液を吸入し、検査前試料液をより下流側に移送する。
【0034】
次に、(E)工程において、下部電極162と上部電極166bとの間への電圧の印加を停止する。すると、圧電体164の上部電極166bと接触する部分の面内方向への収縮がなくなるため、圧電動作部168bが停止時の状態に戻る。これにより、圧電動作部168bに対応するポンプ室132Aの部分の容量が減少して、その部分が加圧されるため、ポンプ手段130Aは、圧電動作部168bに対応するポンプ室132Aの部分で検査前試料液を押し出し、ポンプ手段130Aの下流にある流路140に検査前試料液を移送する。
【0035】
そして、(A)工程に戻って、下部電極162と上部電極166cとの間への電圧の印加を停止する。すると、圧電体164の上部電極166cと接触する部分の面内方向への収縮がなくなるため、圧電動作部168cが停止時の状態に戻る。これにより、圧電動作部168cに対応するポンプ室132Aの部分の容量が減少して、その部分が加圧されるため、ポンプ手段130Aは、圧電動作部168cに対応するポンプ室132Aの部分で検査前試料液を押し出し、ポンプ手段130Aの下流にある流路140に更に検査前試料液を移送する。
【0036】
上述の各工程を繰り返すことで、本実施形態のポンプ手段130Aにおける圧電素子160Aを全体として蠕動させて(うごめくように)動作することにより、そのポンプ手段130Aを経由して検査前試料液を移送することができる。この場合、例えば上記(E)工程の開始と共に、上記(B)工程を開始してもよい。これにより、更に圧電ポンプ130Aによる単位時間当たりの流体の移送量を増大することが可能となる。
【0037】
第2のポンプ手段130Bは、第2の圧電素子160Bを備えるものであって、第2の貯留手段120Bに貯留された検査前試料液を、流路122Bを経由してポンプ室(図示せず)に吸入し、更にそのポンプ室から吐出することで流路140に移送することができる。本実施形態において、第2のポンプ手段130Bは第1のポンプ手段130Aと同様の構造及び動作を有するため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0038】
流路140は、第1及び第2のポンプ手段130A〜B及び検査手段150と連通している他は、構造体112と第2の基板114とに包囲されて形成される。流路140は、第1のポンプ手段130Aから連通する流路部140Aと、第2のポンプ手段130Bから連通する流路部140Bと、それらの流路部140A〜Bが合流した後の流路部140Cとを有する。流路部140Cは図示するように平面形状において蛇行している。流路140は、第1及び第2のポンプ手段130A〜Bから移送される検査前試料液を検査手段150に流通すると共に、必要に応じて、検査前試料液を混合したり反応させたりするものである。すなわち、流路140は、第1のポンプ手段130Aからの検査前試料液と、その検査前試料液とは異なる種類の第2のポンプ手段130Bからの検査前試料液とを、流路部140Cで合流し更に蛇行形状によりそれらの検査前試料液を静的に撹拌する。これにより、それらの検査前試料液の混合又は反応を速やかに進行させることができ、例えばDNAの化学合成や増幅、検査解析に利用することが可能となる。
【0039】
検査手段150は、その部分に検査前試料液を滞留させて、その分析や検査を行うためのものである。検査手段150は、流路140及び第3のポンプ手段130Cと連通している他は、第1及び第2の基板110及び114と構造体112とに包囲されて形成される。検査手段は、より正確で精度の高い分析や検査を行うために、検査前試料液を所定時間滞留できるように所定以上の容積を確保することが好ましい。また、検査手段150には、DNAと結合することによりそのDNAの検出を可能とするようなセンサ156が備えられると好ましい。
【0040】
第3のポンプ手段130Cは、第3の圧電素子160Cを備えるものであって、検査手段150からの検査後試料液を、流路152を経由してポンプ室(図示せず)に吸入し、更にそのポンプ室から吐出することで流路154に移送することができる。本実施形態において、第3のポンプ手段130Cは第1のポンプ手段130Aと同様の構造及び動作を有するため、ここでの詳細な説明は省略する。流路152は、検査手段150及び第3のポンプ手段130Cと連通している他は、第2の基板114と構造体112とに包囲されて形成される。
【0041】
第3の貯留手段120Cは、第3のポンプ手段130Cから移送される検査後試料液を貯留するものであり、流路154と連通している他は、第1の基板110、構造体112及び第2の基板114に包囲されて形成されている。図示する第3の貯留手段120Cの形状は略円柱状であるが、検査後試料液を貯留可能な形状であれば、特に限定されない。流路154は、第3のポンプ手段130C及び第3の貯留手段120Cと連通している他は、第2の基板114と構造体112とに包囲されて形成される。
【0042】
続いて、本実施形態の化学分析チップ100の製造方法について説明する。まず、成膜用基板を兼ねる第1の基板110を準備し、その第1の基板110の下側の主面をエッチング等により加工して、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cの下方部分での厚さが薄くなるよう、その部分に下側に開口を有する窪みを形成する。次いで、その第1の基板110上の所定位置に第1、第2及び第3の圧電素子160A〜Cを形成する。圧電素子160Aを例にとって説明すると、まず、第1の基板110上に薄膜の下部電極162及び薄膜の圧電体164をこの順で積層する。より具体的には、まず、第1の基板110の表面上に下部電極162を、例えばスパッタ法、CVD法又は蒸着法などの気相法により形成し、第1の基板110に下部電極162を接合する。下部電極162の材料は、圧電素子の電極材料として用いられ得るものであれば特に限定されず、例えば白金、金、銅、及びこれらを含む合金が挙げられる。また、下部電極162の厚さは、例えば0.05μm〜1.0μmである。
【0043】
次いで、下部電極162の表面上に薄膜の圧電体164を形成する。圧電体164の形成方法としては、気相法であれば特に限定されず、例えば、スパッタ法、CVD法又は蒸着法が挙げられる。圧電体164の材料は薄膜形成可能な圧電材料であれば特に限定されず、例えば、PZT、チタン酸バリウムなどが挙げられる。それらの中でも、優れた圧電特性を示し、入手も容易な観点から、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が好ましい。圧電体164の厚さは、例えば0.5μm〜5.0μmである。
【0044】
続いて、圧電体164の表面上に薄膜の上部電極166a〜cとなる層を、例えばスパッタ法、CVD法又は蒸着法などの気相法により形成する。次いで、上部電極166a〜cとなる層を所望の形状にパターニングする。パターニングの方法は、特に限定されず、例えば、エッチマスクとしてマスクレジストを上部電極166a〜cとなる層の表面上に形成した後に、エッチングによりマスクレジストで被覆されていない上記層の部分を除去し、その後、マスクレジストを除去してもよい。他のパターニングの方法として、レジストパターニング、成膜、不要部分の除去を行うリフトオフ法を用いてもよい。これにより、薄膜の上部電極166a〜cが形成され、下部電極162、圧電体164及び上部電極166a〜cが積層された領域において薄膜の圧電素子160Aが得られる。上部電極166a〜cの材料は、圧電素子の電極材料として用いられ得るものであれば特に限定されず、例えば白金、金、銅、及びこれらを含む合金が挙げられる。上部電極166a〜cの厚さは、例えば0.05μm〜1.0μmであってもよい。
【0045】
第2及び第3の圧電素子160B〜Cも、第1の圧電素子160Aと同様にして形成される。
【0046】
次いで、第1の基板110、圧電素子160A〜C及び圧電体164の露出した表面上に支持部材170を形成する。支持部材170の材料は、上述のとおり、具体的には樹脂材料であることが好ましい。支持部材170の材料が樹脂材料である場合、まず、その樹脂材料の原料となる樹脂組成物(例えば、樹脂及び/又は単量体と溶媒との混合物)を第1の基板110、圧電素子160A〜C及び圧電体164の露出した表面上に塗布する。次いで、塗布した樹脂組成物を乾燥などにより固化又は加熱若しくは光照射などにより硬化させる。その後、第1、第2及び第3の貯留手段120A〜C並びに検査手段150に対応する部分の樹脂材料を除去する。こうして、第1、第2及び第3の圧電素子160A〜Cとそれらの圧電素子160A〜Cを支持する支持部材170とを備える構造体112を得る。その後、下部電極162及び上部電極166a〜cに配線を接続する。
【0047】
次に、第1の基板110の上側の主面の所望の部分をエッチングする。具体的には、第1、第2及び第3の貯留手段120A〜Cに対応する部分を上側の主面からエッチングして、それらを設けるための窪みを形成する。エッチングの方法は、特に限定されず、例えば、エッチマスクとして所定形状のマスクレジストを第1の基板110の表面上に形成した後に、エッチングによりマスクレジストで被覆されていない第1の基板110の部分を除去し、その後、マスクレジストを除去してもよい。他のエッチングの方法としては、レジストパターニング、成膜、不要部分の除去を行うリフトオフ法が挙げられる。エッチングとしては、ドライエッチングが好ましく、例えば、反応性ガスエッチング、反応性イオンエッチング、反応性イオンビームエッチング、イオンビームエッチング、反応性レーザービームエッチングが例示される。こうして、第1の基板と構造体112とを備える複合体を得る。
【0048】
一方、第2の基板114を準備して、第2の基板114の下側の主面をウェットエッチング等によりパターニング加工して所定形状の溝及び窪みを形成する。溝及び窪は、その形状及び位置が、第1、第2及び第3の貯留手段120A〜C、流路122A〜B、140、152及び154、第1のポンプ手段130Aにおけるポンプ室132A、第2及び第3のポンプ手段におけるポンプ室、並びに検査手段150に対応するように形成する。
【0049】
次いで、上記複合体と、パターニング加工後の第2の基板114とを、位置合わせして接合する。接合は、接着性樹脂を用いてなされてもよい。接着性樹脂の種類としては、複合体と第2の基板114とを接合できるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリイミド、変性ポリイミド、パリレン、シリコーン系樹脂が挙げられる。こうして、本実施形態の化学分析チップ100が得られる。
【0050】
次に、本実施形態の化学分析チップ100を用いる検査システムについて説明する。図4は、本実施形態の検査システムを示す模式図である。本実施形態の検査システム200は、化学分析チップ100の検査手段150における試料液を分析するための検出装置210と、化学分析チップ100の第1〜第3のポンプ手段130A〜Cを駆動し制御するための電源及び制御装置220と、第1〜第3のポンプ手段130A〜Cの各電極と電源及び制御装置220とを接続する配線230とを備える。
【0051】
検出装置210としては、試料液における分析対象となる情報を検出できるものであれば特に限定されず、例えば、分析対象となる情報がDNA解析の場合は、検出装置210は一般的な蛍光色素の標識をモニタ解析する方法であってもよい。その他の検出装置210としては、例えば、放射性色素や発光色素、磁気マーカーなどを有する酵素作用を検知するセンシング方法が挙げられる。
【0052】
また、電源及び制御装置220は、例えば、駆動回路及びマイクロコンピュータ等を備え、所定の制御プログラム等を実行することによって、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cを駆動する。駆動回路は、信号生成部と信号増幅部とを備えてもよく。その駆動回路では、信号生成回路、信号生成ソフトなどの信号生成部において生成した電圧信号を、ピエゾドライバなどの信号増幅部で所定の電圧まで増幅して、上述の各下部電極及び上部電極に配線230を介して供給する。各下部電極及び上部電極に電圧信号を供給するタイミングは、マイクロコンピュータによる所定の制御プログラムにより制御される。
【0053】
次に、本実施形態の化学分析チップ100に対して、検査システム200を用いて検査する検査方法について説明する。まず、化学分析チップ100の第1及び第2の貯留手段120A〜Bにそれぞれ試料液を供給する。次いで、その化学分析チップ100を検査システム200の所定位置に設置する。次に、電源及び制御装置220から配線230を介して、第1及び第2のポンプ手段130A〜Bの各電極に所定の電圧を印加して、各ポンプ手段130A〜Bの駆動を開始する。これにより、第1及び第2の貯留手段120A〜Bに貯留された検査前試料液が、各ポンプ手段130A〜Bを経由して、流路140に供給される。流路140では、第1及び第2の貯留手段120A〜Bからの検査前試料液が合流して、更に蛇行したその流路140により十分に混合される。引き続き、第1及び第2のポンプ手段130A〜Bを駆動することにより、流路140にて混合された検査前試料液が検査手段150に供給される。検査手段150に検査前試料液が十分に供給されてから第1及び第2のポンプ手段130A〜Bへの電圧の印加を止めて、それらのポンプ手段130A〜Bの駆動を停止する。次いで、検出装置210により、試料液を分析する。分析が完了するまでの所定時間が経過した後、電源及び制御装置220から配線230を介して、第3のポンプ手段130Cの各電極に所定の電圧を印加して、ポンプ手段130Cの駆動を開始する。これにより、検査後試料液がポンプ手段130Cを介して、第3の貯留手段120Cに回収される。検査後試料液の全てが第3の貯留手段120Cに回収されて貯留されたら、第3のポンプ手段130Cへの電圧の印加を止めて、そのポンプ手段130Cの駆動を停止する。
【0054】
以上説明した本実施形態の化学分析チップ100においては、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cを駆動するアクチュエータとして薄膜の圧電素子(例えば圧電素子160A)が備えられている。薄膜の圧電素子は共振周波数が高いため、高速駆動させることにより試料液の脈動を抑制することができる結果、精度の高い分析・検査結果を示すことができる。また、化学分析チップ100の上記各ポンプ手段130A〜Cに備えられる薄膜の圧電素子は、厚み方向(d33方向)の変位よりも面内方向(d31方向)の変位が支配的になり、その面内方向の変位に伴い厚み方向下側に湾曲し、それによりポンプ室(例えばポンプ室132A)内の容積及び圧力の増減を可能としている。これは、厚み方向の変位によりポンプ室内の容積及び圧力を増減する厚膜の圧電素子と比較して、印加した電圧をより効率的に試料液の移送量に変換することができるという利点を実現するものである。
【0055】
また、化学分析チップは取り扱う試料液がごく微量になるほど、そのチップを大量に製造する場合、それぞれのチップにおいて、特にポンプ手段が一定の品質を備えるように製造するのは困難となる。ところが、本実施形態においては、圧電素子を薄膜にする、すなわち気相法で形成することにより、圧電素子の接合不良や位置ズレに起因するポンプ手段の品質の低下を防止することができる。
【0056】
さらに、本実施形態の化学分析チップ100は、試料液の吸入側(上流側)に配置された圧電素子から吐出側(下流側)に配置された圧電素子に向かって順に電圧を印加することが可能な各ポンプ手段130A〜Cを備える。それらのポンプ手段130A〜Cでは、複数の圧電素子を全体として蠕動様に動作させて試料液を移送できる。そのため、ポンプ手段130A〜Cの上下流に試料液の移送量を制御するためのバルブ(弁)を設ける必要がなく、チップ100の構造を単純なものにでき、チップ100の更なる小型化及び薄膜化が可能となり、安価なものを大量に製造することができる。また、ポンプ手段130A〜Cがバルブの役割を兼ねているため、部材数が少なくてすみ、かつ、各部材間を接続する流路も少なくできるため、ポンプ手段とバルブとを別々に設けた場合と比較して、各部材間の距離が短くなって応答性が良好になり、チップ内で実効的な試料液の圧力制御が容易となる。また、各ポンプ手段130A〜Cでは、上流側の圧電素子を変位させて試料液を押し出す(吐出する)と共に、下流側の圧電素子を変位させて試料液を吸入することで、試料液を移送する。このように、試料液の吐出と吸入とを適切に組み合わせることで、ポンプ手段130A〜Cは更に大きな効率を示し、より小さな電圧の印加であっても、試料液のより大きな移送量を実現することができるので、分析・検査時間の更なる短縮化が可能となる。
【0057】
また、本実施形態の化学分析チップ100は、試料液を貯留する各貯留手段120A〜Cを備えることにより、試料液を注入した状態でその化学分析チップ100を取り扱うことができ、例えば、検査システム200へ化学分析チップ100と試料液とを一度に設置したり取り外したりすることができる等、取扱い性が向上する。
【0058】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、上記第1の本実施形態における第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cの構造が互いに異なっていてもよい。
【0059】
また、本発明の化学分析チップに備えられるポンプ手段は、上記本実施形態では、試料液の流通方向に沿って上流側から下流側に順に圧電体の部分を駆動することで、試料液を上流から下流に移送するものであったが、ポンプ手段の駆動方法はこれに限定されない。図5及び6は、本発明に係るポンプ手段の駆動方法を模式的に示す平面図である。図示するポンプ手段は、上記本実施形態と同様に、試料液の流通方向に沿って配設された3つの上部電極に対応する3つの圧電動作部が独立に動作できるものである。図5は、そのようなポンプ手段を1つ動作する場合を示しており、図6は、そのようなポンプ手段を2つ並列に配置して動作する場合を示している。
【0060】
図5の(A)は、上記本実施形態と同様に、上流側から下流側に順に圧電動作部を駆動することで、ポンプ手段が試料液を上流から下流に移送するものである。(B)は、下流側から上流側に順に圧電動作部を駆動することで、ポンプ手段が試料液を下流から上流に移送するものである。このような駆動方法は、例えば、下流側に移送した試料液を上流側に逆流させたい場合に有用である。(C)は、まず、上流側から下流側に順に圧電動作部を駆動させ、最下流の圧電動作部を駆動させた後、直ちに下流側から上流側に順に圧電動作部を駆動させ、最上流の圧電体の部分を駆動させた後、直ちに再び上流側から下流側に順に圧電動作部を駆動させ、これを繰り返す駆動方法である。これにより、ポンプ手段において、試料液を効率的に混合撹拌することが可能となる。さらに(D)は、それぞれの圧電動作部をランダムに駆動する駆動方法である。これによっても、ポンプ手段において、試料液を効率的に混合撹拌することが可能となる。
【0061】
図6の(A)は、並列に配置した2つのポンプ手段の上流に分岐した流路が設けられている場合を示す。この場合、2つのポンプ手段を同時に駆動し、それぞれ、上流側から下流側に順に圧電動作部を駆動する。このとき、2つのポンプ手段に印加する電圧や、圧電動作部の駆動シーケンスを変化させることで、それぞれのポンプ手段による試料液の移送量(移送割合)を任意に変更することが可能となる。また、(B)は、並列に配置した2つのポンプ手段の下流の流路が合流し、そこに貯留手段が設けられ終端している場合である。この場合、2つのポンプ手段を同時に駆動し、それぞれ、上流側から下流側に順に圧電動作部を駆動すると、それらのポンプ手段により移送された試料液が上記貯留手段に滞留し、更に2つのポンプ手段の駆動を続けることで貯留手段での試料液の圧力が上昇する。これにより、温度制御と併用するなどして化学反応の時間を短縮したり制御したりすることが可能となるので、かかる加圧方法は、薬品・化学製品開発における水素化反応、重合反応、カルボニル化反応の付加圧合成の実験に用いることができる。(C)は、並列に配置した2つのポンプ手段の下流の流路が合流し、更に合流した後の下流の流路に、圧電動作部が1つのみのポンプ手段を備える場合である。この場合、3つのポンプ手段を同時に駆動し、並列に配置したポンプ手段についてそれぞれ、上流側から下流側に順に圧電動作部を駆動すると、それらのポンプ手段により移送された試料液が下流で合流する。合流した後の試料液は、更に圧電動作部が1つのみのポンプ手段に供給される。圧電動作部が1つのみのポンプ手段は、その上下流に弁が設けられていないと、その駆動により、試料液を移送するよりもむしろ試料液を上下に振動する方が支配的になる。したがって、これにより、試料液の効率的な混合撹拌が可能となる。
【0062】
このように、本発明の化学分析チップにおけるポンプ手段はその配置及び駆動方法によって、様々な動作を行うことが可能である。特に、従来の化学分析チップにおいて、その小型化を図ろうとすると、ポンプの能力不足に起因して、試料液のレイノルズ数が極端に低くなる。ところが、本発明の化学分析チップによると、上述から明らかなように、試料液を振動して乱流を発生させることにより、効率的な試料液の混合撹拌が可能となる。したがって、試料液の迅速かつ十分な混合及び反応に有効な手段となり得、化学分析チップとしての機能性が高まる。
【0063】
また、本発明の化学分析チップは、図7に示すような構成を有していてもよい。図7は、第2の本実施形態の化学分析チップを模式的に示す平面図である(ただし、第2の基板を透視している。)。この本実施形態の化学分析チップ300は、検査前試料液を貯留する第1の貯留手段320Aと、検査前試料液を流通する流路340と、検査前試料液を検査する検査手段350と、ポンプ手段330の上流で検査後試料液を流通する流路342と、検査後試料液を移送するポンプ手段330と、ポンプ手段330の下流で検査後試料液を流通する流路344と、検査後試料液を貯留する第2の貯留手段320Bとを備える。第1の貯留手段320Aと検査手段350とは、流路340を介して連通しており、検査手段350とポンプ手段330とは、流路342を介して連通しており、ポンプ手段330と第2の貯留手段320Bとは、流路344を介して連通している。
【0064】
この化学分析チップ300において、第1の貯留手段320A、検査手段350、ポンプ手段330及び第2の貯留手段320Bは、それぞれ、第1の本実施形態における第1の貯留手段120A、検査手段150、第3のポンプ手段130C及び第3の貯留手段120Cと同様のものである。また、この本実施形態に係る検査前試料液を流通する流路340は、蛇行しておらず直線状となっている。この本実施形態の化学分析チップ300は、流路が合流したり蛇行していなかったりして、上記第1の本実施形態と対比して、単純な構成を有しているため、2種以上の試料液を混合したり反応したりする必要がない場合に有用である。なお、この本実施形態の化学分析チップ300においては、ポンプ手段330を駆動することにより、系内の全ての試料液の移送を行う。
【0065】
さらに、本発明の化学分析チップは、図8に示すような構成を有していてもよい。図8は、第3の本実施形態の化学分析チップを模式的に示す平面図である(ただし、第2の基板を透視している。)。この本実施形態の化学分析チップ400は、試料液を貯留する第1及び第2の貯留手段420A及び420Bと、試料液を移送する第1及び第2のポンプ手段430A及び430Bと、試料液を流通する流路440と、試料液を検査する第1の検査手段450Aと、試料液を移送する第3のポンプ手段430Cと、試料液を貯留する第3の貯留手段420Cとを備える。さらに、化学分析チップ400は、第1のポンプ手段430Aから移送される試料液を第2のポンプ手段430Bから移送される試料液とを混合すると共に検査する第2の検査手段450Bと、流路440におけるヒータ及び温度センサ等のセンサを内蔵する加熱手段460とを備える。第1の貯留手段420Aと第1のポンプ手段430Aとは、流路422Aを介して連通しており、第2の貯留手段420Bと第2のポンプ手段430Bとは、流路422Bを介して連通しており、第1のポンプ手段430Aと第2の検査手段450Bとは、流路424Aを介して連通しており、第2のポンプ手段430Bと第2の検査手段450Bとは、流路424Bを介して連通している。また、第2の検査手段450Bと第1の検査手段450Aとは、流路440を介して連通しており、第1の検査手段450Aと第3のポンプ手段430Cとは、流路426を介して連通しており、第3のポンプ手段430Cと第3の貯留手段420Cとは、流路428を介して連通している。
【0066】
この化学分析チップ400において、第1、第2及び第3の貯留手段420A〜C、1、第2及び第3のポンプ手段430A〜C、流路440並びに第1の検査手段450Aは、それぞれ、第1の本実施形態における第1、第2及び第3の貯留手段120A〜C、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜C、流路140並びに検査手段150と同様のものである。
【0067】
第2の検査手段450Bは、試料液の分析や検査を行うためのものである。第1の検査手段450Aでは、流路440を通過して十分な混合や反応の後の試料液が分析されるのに対して、第2の検査手段450Bでは、流路440を通過する前の十分な混合や反応の前の試料液が分析される。したがって、第1及び第2の検査手段450A〜Bにおける分析結果を対比することによって、流路440での混合前後での変化、反応前後の比較、経時変化などを調べることができる。第2の検査手段450Bも、第1の検査手段450Aと同様に、流路422A及びB、流路440と連通している他は、第1及び第2の基板と構造体(以上図示せず)とに包囲されて形成される。第2の検査手段450Bは、より正確で精度の高い分析や検査を行うために、試料液を所定時間滞留できるように所定以上の容積を確保することが好ましい。また、第2の検査手段450Bには、DNAと結合することによりそのDNAの検出を可能とするようなプローブ(図示せず)が備えられると好ましい。また、加熱手段460は、流路440において混合撹拌された試料液を所定の温度に加熱して、そこでの反応を促進するためのものである。加熱手段460がヒータと共に温度センサ等のセンサを内蔵することで、所望の温度に制御しやすくなり、反応の制御が容易となる。
【0068】
また、例えば、上記第1の本実施形態において、支持部材170は圧電素子160Aの上側(ポンプ室側)に配置されたが、支持部材は圧電素子の下側(ポンプ室とは逆側)に配置されてもよく、省略されてもよい。ただし、それらの場合、圧電素子が直接流体と接触することとなり、圧電素子の劣化に繋がりやすくなるため、支持部材は圧電素子のポンプ室側に配置されることが好ましい。また、上記本実施形態において、圧電素子160Aは、1つの下部電極162、1つの圧電体164及び3つの上部電極166a〜cを積層して備えるものであったが、上部電極の数はもちろん5つに限定されるものではなく、また、1つの下部電極162上に、複数の圧電体と複数の上部電極とを順に積層して備えるものであってもよく、複数の下部電極のそれぞれに圧電体及び上部電極を順に積層して備えるものであってもよい。さらに、上記本実施形態の第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cのいずれか1つ以上において、構造体112と第2の基板114とが接合することなく直接接触してもよい。このようなポンプ手段は、動作していないときのポンプ室の容量が実質的にゼロとなる。このポンプ手段は、動作していないときでもポンプ室に空間があって所定の容量を有するようなポンプと比較すると、試料液を吸入する際の容量の増大程度(△V)が大きくなるため、試料液の移送効率が更に高くなる。
【0069】
さらに、別の本実施形態において、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cのいずれか1つ以上が、ただ一つの下部電極とただ1つの圧電体とただ1つの上部電極とを備えるただ一つの圧電素子を有するものであってもよい。その場合、ポンプ手段が試料液を効率的に移送するために、上流側の流路及び下流側の流路に、別々に開閉できる弁を備えることが好ましい。また、各貯留手段、検査手段及び上部電極の平面形状は略円形でなくてもよく、例えば卵の断面形や楕円、矩形であってもよい。さらには、上記第1の本実施形態において、第1の基板110は、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cの下方部分での厚さが薄くなるよう、その部分に下側に開口を有する窪みを形成するものであるが、第1の基板がその部分で貫通孔を形成し、第1、第2及び第3のポンプ手段130A〜Cの下側の表面が露出してもよい。
【0070】
また、上記第1の本実施形態において、第2の基板114には、ポンプ室132Aを各圧電動作部168a〜c毎に仕切るよう、下側に突出した突出部が設けられていてもよい。これらの突出部の下面は、ポンプ手段130Aが作動していないときに、支持部材170の上面と直接接触することにより、ポンプ室132Aを仕切る。すなわち、ポンプ室132Aは、各圧電動作部168a〜c毎の部分的なポンプ室を有してもよい。
【0071】
さらには、本発明の化学分析チップは貯留手段を備えていなくてもよい。この場合、例えば、外部の貯留手段と本発明の化学分析チップを互いに連通可能なように接続することで、上記本実施形態の化学分析チップと同様にして用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の化学分析チップは、試料液の脈動を抑制し、精度の高い検査結果を示すことのできるので、医療診断、創薬、DNA解析、環境検査、食品品質検査など、様々な分野で利用可能性があり、これらのうち、特に医療オンサイトの診断や創薬実験、DNA解析などの検査システムに利用可能性がある。
【符号の説明】
【0073】
100、300、400…化学分析チップ、110…第1の基板、112…構造体、114…第2の基板、120A〜C、320A〜B、420A〜C…貯留手段、140、340、440…流路、130A〜C、330、430A〜C…ポンプ手段、132A…ポンプ室、150、350、450A〜B…検査手段、160A〜C…圧電素子、162…下部電極、164…圧電体、166a〜c…上部電極、170…支持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を移送するポンプ手段と、前記試料液を流通する流路と、前記試料液を検査する検査手段と、を備える化学分析チップであって、
前記ポンプ手段は、薄膜の圧電素子と前記圧電素子を支持する支持部材とを備える構造体と、前記構造体を挟む第1及び第2の基板と、を含有し、前記第2の基板と前記構造体とによって囲まれたポンプ室を有する、化学分析チップ。
【請求項2】
前記構造体は、前記試料液の流通方向に沿って配設された2つ以上の前記圧電素子を備える、請求項1に記載の化学分析チップ。
【請求項3】
前記ポンプ手段が動作していないとき、前記ポンプ室を囲む前記構造体と前記第2の基板とが直接接触している、請求項1又は2に記載の化学分析チップ。
【請求項4】
前記試料液を貯留する貯留手段を更に備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化学分析チップ。
【請求項5】
それぞれ試料液を貯留する第1及び第2の貯留手段と、前記第1及び第2の貯留手段からそれぞれ前記試料液を吸入及び吐出により移送する第1及び第2のポンプ手段と、前記第1及び第2のポンプ手段から吐出された前記試料液を合流させ、かつ合流した前記試料液を静的に混合する流路と、前記流路を通過した前記試料液を検査する検査手段と、前記検査手段で検査された後の前記試料液を吸入及び吐出により移送する第3のポンプ手段と、前記第3のポンプ手段から吐出された前記試料液を貯留する第3の貯留手段と、を備える化学分析チップであって、
前記第1、第2及び第3のポンプ手段はいずれも、薄膜の圧電素子と前記圧電素子を支持する支持部材とを備える構造体と、前記構造体を挟む第1及び第2の基板と、を含有し、前記第2の基板と前記構造体とによって囲まれたポンプ室と、を有する、化学分析チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−122858(P2011−122858A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278900(P2009−278900)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】