化学生産装置
【課題】プライミング、洗浄が容易で、任意の粒径を持った乳化や高効率の液−液反応が可能な装置の提供。
【解決手段】第1の液体の流路と、第1の流路の方向の直交方向に他の液体が通流する第2以降の流路が同一平面上に備えられ、この第1の流路と第2以降の流路の交差部分で、第1の液体と他の液体が合流して乳化、反応が行なわれる処理部を複数備え、これらの処理部に液体を供給する流路より十分大きな断面積を持つ各液体の主流路が貫通する構造を備えた処理デバイス10を核とした化学生産装置1であり、各液体と洗浄液を処理デバイスへ送液するためのポンプ71−74と、それらポンプにどの液体を供給するかを制御するためのバルブ81、82と、主流路の処理デバイス出口側と生成した乳化液・反応液の吐出口に設けられプライミング・洗浄時にそれぞれの流路を開閉するバルブ83−85と、乳化液・反応液の状態を監視するモニタリング装置30を設けた。
【解決手段】第1の液体の流路と、第1の流路の方向の直交方向に他の液体が通流する第2以降の流路が同一平面上に備えられ、この第1の流路と第2以降の流路の交差部分で、第1の液体と他の液体が合流して乳化、反応が行なわれる処理部を複数備え、これらの処理部に液体を供給する流路より十分大きな断面積を持つ各液体の主流路が貫通する構造を備えた処理デバイス10を核とした化学生産装置1であり、各液体と洗浄液を処理デバイスへ送液するためのポンプ71−74と、それらポンプにどの液体を供給するかを制御するためのバルブ81、82と、主流路の処理デバイス出口側と生成した乳化液・反応液の吐出口に設けられプライミング・洗浄時にそれぞれの流路を開閉するバルブ83−85と、乳化液・反応液の状態を監視するモニタリング装置30を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の液体供給口からそれぞれ供給される種類の異なる液体を微小流路に導き、微小流路において液体の乳化、反応などを行ない、液体排出口からエマルジョン、反応生成物などを得る化学生産装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反応、乳化などの液体操作を行なって所望の生成物を生成する方法として、バッチ式の生産方法が知られている。これは大型の容器に原料を投入して、回転・攪拌機構を用いて一度に大量の生成物を生成する方法である。液体同士の反応であれば、原料を同時或は逐次に大型容器に投入し、必要があれば温度調整も行なう。また、乳化であれば油相、水相の原料、界面活性剤を大型容器に投入しエマルジョンを生成する。なお、エマルジョンとは、水と油のようにお互いに混じり合わない二つの液体に界面活性剤(乳化剤)を添加し、攪拌等の機械的操作を加え、油滴を水中(あるいは水滴を油中)に均一に分散した液/液系の乳濁液である。
【0003】
しかし、このバッチ式生産は大型容器で反応や乳化を行なうため、容器内の温度を均一に保ち難い、回転・攪拌機時に加えられるせん断力が液体全体に均一に加わらない、などの問題が生じることがあった。この結果、反応においては反応の進行にバラつきが生じて不要な副生成物が生じる。また、乳化においては液滴の粒径が均一でなく分布を持つため、均一な粒子を得るためには攪拌後に所望の粒径の物のみを選り分ける分級操作が必要な場合があった。また、反応が終了するまで、或は乳化時の粒径分布がある程度の値に安定化するまでには数分から数十分の回転・攪拌が必要とされており、効率的な生産方法が望まれていた。
【0004】
上記問題を解決する方法として、数μmから数百μm程度の微小なマイクロ流路内で反応、乳化などの液体操作を行なうマイクロ流体装置が近年注目されている。微小流路内で反応、乳化を行なうマイクロ流体装置は、流路内温度を均一に保って短時間で液−液反応を行うことで、反応進行速度の不均一による副生成物の発生を抑えて反応性生物の収率向上を可能とし、また流路内液体に加わるせん断力を均一にすることで液体を直径の等しい粒子に分断することが可能である。
【0005】
具体的には特許文献1(特開2003−1077号)には、複数の液体をそれぞれ多数の層状の流れに分割し、それらを交互に配することで、液体の総体積に占める各液体の接触面積の割合を増加させたラミネートフローを形成し、高効率の液体混合・反応を可能とする技術が開示されている。
【0006】
あるいは、下記特許文献2(特開2004−359822号)には、円形の基板に2種類の液体が直交する形の流路を形成し、一方の液体が他方の液体を側面から押し流すようにせん断して乳化粒子を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−1077号公報
【特許文献2】特開2004−359822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載された技術は、それぞれマイクロ流体の特性を生かして混合・反応、乳化の液体操作において、従来のバッチ方式より優れた点を有している。しかし、これらの方式を生産用途に適用した場合には、均一送液性と洗浄性に問題が生じると考えられる。その理由を以下に述べる。
【0009】
通常マイクロ流体装置では微小な流路内で液体操作を行なうため、1マイクロ流路あたりの処理量は極僅かとなり、生産用途に処理量を増やすためには多数の流路を並列に設けるナンバリングアップという構造が必要となる。特許文献1,2は共に液体の流れが層流であることが機能発揮のために重要であることから、この点では通常のマイクロ流体装置と等しい。ナンバリングアップ構造では、如何にして各マイクロ流路に均等に液体を送液するかが重要であり、そのためには、特に、送液開始時に微小流路内の空気(気泡)を除去するプライミング処理が必要である。なぜならば、流路内に空気が残留した場合、微小流路を用いるマイクロ流体装置のマイクロ流路では、一般的な数mm以上のマクロ流路に比べて、流路断面積に対する流路断面周長の比率が高いために表面張力が大となり、壁面に付着した気泡の除去が困難だからである。
【0010】
その結果、一部の流路に気泡により液体が送液されないなどの問題が生じ、装置全体が正しく機能しなくなる。特に、複数の流路を並列に備えるナンバリングアップ構造では、空気の混入していない流路抵抗の低い流路へ液体が多く回り込むため、空気の混入している流路の通液量が減少し気泡の除去はより困難となる。
【0011】
然るに、特許文献1、2の構造では、マイクロ流路に分岐部などの曲がり部が多く、また、装置外から供給された液体が、直接分岐流路であるマイクロ流路に送液される構造となっているため、マイクロ流路内の空気の逃げ道が無い。すなわち、このような構造をナンバリングアップした場合、プライミング処理時にマイクロ流路の多数の分岐部分や、流路の隅部・角部に空気が残留し易いという恐れがあった。
【0012】
また、生産用装置は長時間の連続運転を要求される事が多く、流路内の汚れによる生成物の品質低下を防止するために、定期的な洗浄処理も必要とされる。この時、装置の稼働時間を低下させないために短時間で洗浄を実施できるインライン洗浄が好ましいが、前述したプライミングが困難な流路形状では、流路洗浄時にも同様に流路内を洗浄液で置換することが困難であり、洗い残し部分が発生するという問題も生じる。加えて、乳化時の粒子径の制御を行う場合、特許文献2の方式では流量比を調整するしか方法が無いため制御可能な範囲が限られている。
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、マイクロ流体装置としての特性を持ちつつ、マイクロ流路内のプライミング及び洗浄が容易な、化学生産装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため本発明は、数μm〜1mm程度の微細な流路を複数有する処理デバイスに、2液以上を送液して、乳化、反応などを行なう化学装置において、
2液以上が流れる複数の処理流路と、
上記処理流路の交差する部分で2液以上が合流して乳化、反応などの処理を行なう複数の処理部と、
処理デバイス外への排出口を有し、上記各処理流路に分岐して送液するために処理流路に比べて十分大きな断面積を有する一連なり形状の複数の主流路と、
上記処理部での生成物を処理デバイス外へ送出する生成物流路と、
上記主流路に液体または洗浄液を供給するポンプと、
上記ポンプの吐出側に設けられ、任意の液体を上記主流路に選択的に供給する送液切換バルブと、
上記主流路の排出口に設けられた主流路開閉バルブと、
上記生成物流路の送出口を回収側と廃棄側に切換える生成物切換バルブと、
上記生成物流路に送出される生成物の乳化や反応の状態を監視するモニタリング装置と、
事前の設定または上記モニタリング装置からの検出信号に基き、上記ポンプ、送液切換バルブ、主流路開閉バルブ及び生成物切換バルブを制御する制御部を設けたことを特徴とする。
【0015】
また、上記に記載の化学生産装置において、プライミング処理時に、上記制御部は事前の設定に基き、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物切換バルブを廃棄側に切換えた状態で、上記ポンプにより所定液を上記各主流路に供給し、次いで上記主流路開閉バルブを閉じると共に上記生成物切換バルブを回収側に切換えた状態で、上記ポンプにより所定液を各主流路を介して上記処理流路に送液するように、上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする。
【0016】
また、上記に記載の化学生産装置において、洗浄処理時に、上記制御部は事前の設定または上記モニタリング装置からの検出信号に基き、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物切換バルブを廃棄側に切換えた状態で、上記ポンプにより洗浄液を上記各主流路に供給し、次いで、上記主流路開閉バルブを閉じると共に上記生成物切換バルブを回収側に切換えた状態で、上記ポンプにより洗浄液を各主流路を介して上記処理流路に送液するように、上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする。
【0017】
また、上記に記載の化学生産装置において、上記主流路は、処理デバイスの平面に溝状に形成された第1主流路と第2主流路からなり、上記処理流路は処理デバイスの平面に各主流路から複数分岐して溝状に形成された第1処理流路と第2処理流路からなり、上記処理部では、上記第1、第2処理流路をそれぞれ流れる第1液と第2液が合流し、第1の液体を中心として第2の液体がその周辺を覆う流れを形成して乳化、反応などの処理が行なわれ、乳化、反応などの生成物として上記生成物流路に集められ、上記モニタリング装置は、生成物流路に送出される生成物の粒度分布などを計測し、その計測信号を上記制御部に送信することを特徴とする。
【0018】
また、上記に記載の化学生産装置において、上記流体合流部は、合流した後の流路部分に加振する外力発生装置を備え、乳化時の粒子径を制御することを特徴とする。
【0019】
また、上記記載の化学生産装置において、上記流体合流部での各処理流路の角部に丸みを設けたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の化学生産装置の特徴とするところは、2種類以上の液体を供給され、第1の液体が通流する処理流路と、この第1の処理流路の方向とほぼ直交する方向に他の液体が通流する第2以降の処理流路が処理デバイス同一平面上に溝状に形成され、この第1の処理流路と第2以降の処理流路が交差する部分で、第1の液体と他の液体が合流して乳化、反応などが行なわれる処理部を複数備える。そして、これら複数の処理部に液体を供給するための処理流路より十分大きな断面積を持ち、且つ処理部への分岐とは別に大きな断面積を保ったまま処理デバイス外へと通じる排出口を持った各液体の主流路を備えた処理デバイスを核としたシステムである。そして、各液体と洗浄液を処理デバイスへ送液するためのポンプと、それらポンプにどの液体を供給するかを制御するためのバルブと、主流路の処理デバイス出口側と生成した乳化液・反応液などの吐出口に設けられプライミング・洗浄時にそれぞれの流路を開閉するバルブと、乳化液・反応液の状態を監視するモニタリング装置を設けたことにある。また、乳化を行う際に制御可能な粒子径範囲を広げるために、液体を加振するための外力発生装置を備えた。
【0021】
処理流路に対して十分大きく、処理流路への分岐とは別に処理デバイス外への出口を持つ一連なりの主流路を設けることで、各処理部へ均一な送液を行い、且つバルブを制御して断面積が大きく体積も大きい主流路内のプライミング、洗浄を行なった後に、断面積が小さい処理流路のプライミング、洗浄を行なう2段階の操作を実施することで、処理デバイス内の全流路のプライミング、洗浄を容易に確実に行なうことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、微細流路内のプライミング、洗浄が容易に行なえ、且つ任意の粒径を持った均一粒子の生成や、高効率で液の乳化や反応などの液体処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1の構成図である。
【図2】同じく液体処理デバイスの動作説明図である。
【図3】同じく液体処理デバイスの分解斜視図である。
【図4】同じく処理部の拡大断面図である。
【図5】同じく洗浄時の液体処理デバイス内の状態を説明する図である。
【図6】本発明の実施例2の処理部の拡大断面図である。
【図7】本発明の実施例2の変形例の処理部の拡大断面図である。
【図8】本発明の実施例1の変形例の乳化時の構成図である。
【図9】本発明の実施例3の処理部の拡大断面図である。
【図10】本発明の実施例4の構成図である。
【図11】本発明の実施例5の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図に示す実施形態について説明する。なお、図中では第1液の流れを実線矢印、第2液の流れを二点鎖線矢印、生成物の流れを破線矢印、洗浄液の流れを点線矢印で表す。
【0025】
(実施例1)
図1に、本発明実施例1の化学生産装置の構成を示す。本実施例では、第1液を連続相として水と界面活性剤の混合物、第2液を分散相として食用油を用い、水中に油滴が分散したO/W(oil in water)型エマルジョンを生成する乳化について扱う。
【0026】
図1において、エマルジョンの溶媒となる連続相は、連続相タンク91に納められ、溶質となる分散相は分散相タンク93に納められる。また、連続相流路と分散相流路を洗浄するための洗浄液が、それぞれ、連続相洗浄液タンク92と分散相洗浄液タンク94に納められている。連続相タンク91、分散相タンク93に納められた各液体は、それぞれ連続相ポンプ71、分散相ポンプ73により液体処理デバイス10へと送液される。各ポンプの形態については特に定めないが、低脈流かつ、二次側の圧力変動に対しての送液量変化が小さなシリンジ(プランジャー)ポンプのようなものが望ましい。
【0027】
液体処理デバイス10内では、後述するように連続相と分散相が合流して、エマルジョン(乳化液)が生成される。生成された乳化液は、液体処理デバイスから吐出され生成物タンク95へと納められる。以上のように、本実施例では液体処理デバイス10へ液体を送液するだけで、フロー式にエマルジョンを生成することが可能であり、バッチ式生産のような液体の分注機構、攪拌機構を別個に設ける必要は無く、装置の小型化・単純化が可能となる。
【0028】
この他に後述するプライミング、洗浄処理用の機構として、生成物の状態を監視して検出信号S3を出力するモニタリング装置30、連続相、分散相それぞれの洗浄液を納める連続相洗浄液タンク92、分散相洗浄液タンク94、各洗浄液を処理デバイス10へ送液する連続相洗浄ポンプ72、分散相洗浄ポンプ73、連続相ライン8と分散相ライン9の原料と洗浄液を切換える連続相切換バルブ81、分散相切換バルブ82、廃液タンク96と生成物タンク(回収タンク)への流路の切換を行なう生成物切換バルブ83、連続相主流路開閉バルブ84、分散相主流路開閉バルブ85を備える。
【0029】
PS1とPS2は、それぞれ連続相ライン8と分散相ライン9に設けられ検出信号S4、S5を出力する圧力センサ、16は上記圧力センサや上記モニタリング装置30からの検出信号S3〜S5を受けて、制御信号S1、S2を出力して上記ポンプとバルブを制御する制御部である。なお、モニタリング装置30はエマルジョンの粒子径を観察する粒度分布検知装置を用いる。
【0030】
図2は液体処理デバイス10内の構造と状態を説明する図、図3は液体処理デバイス10内の構造の分解斜視図、図4は液体合流部(処理部)20a〜20nの拡大断面図、図5は洗浄時の液体処理デバイス10内の状態を説明する図である。
【0031】
図2、図3において、11と12は、それぞれ、処理デバイス10の本体10aの表面に溝状に形成された連続相主流路と分散相主流路であり、図1に示す連続相ポンプ71と分散相ポンプ73とからライン8と9を通じて、各液体が供給される。13(13a−13n)と14(14a−14n)は、それぞれ数μm〜1mm程度の微細な溝幅からなる連続相処理流路と分散相処理流路で、連続相主流路11と分散相主流路12からそれぞれ分岐して処理デバイス本体10aの表面に溝状に形成される。15は処理流路13と14の交差部分で2液の合流する処理部20(20a〜20n)で乳化、反応などの処理がなされた生成物を、処理デバイス10外に送出する生成物流路である。10bは本体10aの表面を覆うカバーである。
【0032】
上記主流路11、12及び生成物流路15には、それぞれの内部の液を処理デバイス10外へ排出又は送出する排出口11a、12aと送出口15aを備えている。そして、上記排出口11a、12a及び送出口15aには、それぞれ主流路開閉バルブ84、85と生成物切換バルブ83が接続される。各主流路11、12は、処理部20(20a〜20n)へ分岐する処理流路13(13a〜13n)、処理流路14(14a〜14n)より十分大きな断面積を有し、且つ各処理流路以外に分岐を持たない、一連なりの形状をしている。上記流路11、12及び14の端部は、図3に示すように処理デバイス本体10aの表面に形成された溝状の部分から、内部に潜り込んで貫通した状態で外部に開口(11a,12a,15a)している。
【0033】
以下、これらの図を用いて、本実施例によるプライミング処理、エマルジョン生成、流路洗浄の各段階について説明する。
【0034】
エマルジョンを生成する前段階として、処理デバイス10内の各流路内の空気を取り除き、流路を液体で満たすプライミング処理を行なう。内径が数μm〜1mm程度の微細流路を使用し、且つ処理量を増すために流路を並列に多数備えたマイクロ流体機器においては、流路内に空気が残留していると性能を発揮できない。なぜならば、流路が微細であるために微量の空気であっても流路を閉塞しやすく、閉塞すると液体が送液出来ないためである。また、微細流路では壁面長/流路体積の比率(大きい)の関係から壁面の保持力が強く、一度流路に詰まった空気を取り除く事は難しい。
【0035】
特に、ある流路から多数の微細流路が分岐しているような構造で、一ヶ所の微細流路に空気が詰まるとこの通液抵抗が大きくなるため、他の抵抗の小さい微細流路に液体が流れ易く、空気の取り除きが困難となる。以上のように、マイクロ流体機器においてはプライミングを確実に行なうことが必要であり、本発明では以下のように対応している。
【0036】
プライミング処理は、事前の設定に基いて制御部16から各部へ信号S1、S2が送出されて制御がなされる。まず主流路11、12のバルブ84,85を開き、生成物切換バルブ83を廃液タンク96の側に切換えた後に、ポンプ71、73により連続相、分散相を送液して各主流路11、12を満すと共に、各主流路11、12から処理部20を介して生成物流路15に流れ込んだ液を、廃液タンク96へと廃棄する。主流路11、12は一連なりの形状で大きな断面積を持ち、処理流路13、14以外に分岐を持たないため、液が流れ易く内部に空気が詰まることは無く、確実にプライミングを行なうことができる。図2、図3では、各主流路11、12が直線状に描かれているが、前述した一連なりの形状を満たせば、蛇行や渦巻き状など他の形態であってもよい。
【0037】
主流路11、12のプライミングが終了したら、次いで、バルブ84、85を閉じ、処理流路13(13a〜13n)、14(14a〜14n)、生成物流路15及び処理部(液体合流部)20(20a〜20n)のプライミングを行なう。これらの部分はエマルジョンの処理量に応じて複数並列に設けられているが、図2、図3に示すように、処理流路13、14は主流路から分岐した後には分岐部を持たない構造になっている。また図4に示すように、処理部20内でも処理流路13、14が合流してシース流路22へ至る分岐部を持たない構造となっており、前述したような空気が抜け難い構造ではない。
【0038】
よって、送液流量を調整して高圧送液することで全ての流路をプライミングすることが可能となる。なお、プライミングの確実性を高めるためには、装置が許容する最大圧力で送液することが望ましい。流路内の空気が抜けた後に、バルブ83を生成物タンク(回収側)95の側に切換えてプライミングは終了する。
【0039】
次に、エマルジョンの生成について説明する。図2において、プライミング終了後、処理部20内で任意の粒子直径が得られるように、圧力センサPS1、PS2で圧力を見ながら送液量を調整して連続相と分散相の液体を液体処理デバイス10へ送液する。前述したように各主流路11、12が各処理流路13a〜13n,14a〜14nより十分大きいため、複数設けられた処理部20a〜20nへの各液体の送液量はほぼ均一となる。これは、処理流路13a〜13n,14a〜14nの圧力損失が主流路11,12のそれと比較して十分に大きいために、液体が分岐する際に平均化されるためである。
【0040】
本実施例のエマルジョン生成では、連続相と分散相の流量比によって粒子直径を制御するが、均一なエマルジョンを得るには各処理部20a〜20nで合流する連続相と分散相の流量比を均一に揃えることが必要となる。そのため、処理部20a〜20nの数、流路抵抗などに応じて流量の誤差を数%以下に抑えるように主流路11、12の断面の大きさを十分大きくなるように決定する。
【0041】
主流路をどの程度大きくすれば良いか具体的な例を挙げると、処理部20a〜20nを24個備え、シース流路22の最小部直径が50μmの場合、各処理部20a〜20nの送液流量のばらつきを5%以下程度に抑えるためには、主流路抵抗:処理流路抵抗=1:10000が必要との計算結果が得られる。この結果から、処理流路が最小で直径50μmであるのに対して、各主流路は一辺900μmの矩形とした。
【0042】
上記の工程を経て、各処理部20a〜20nに任意の比率で均一に送液された連続相と分散相は、図4に示す構造を持った処理部20において合流し、エマルジョンを形成する。図示のように、処理部20は分散相処理流路14に対し、連続相処理流路13が2方向から直交する形になっており、各処理流路が交差する合流部21で合流したあと、分散相処理流路14と同軸上に設けられたシース流路22に流れ込み、ここで分散相である油を内側の中心流れ41、連続相である水を外側の被覆流れ42としたシースフロー40を形成する。このシースフロー40は、シース流路22を流れるうちに、連続相と分散相の流速差によって生じる液−液界面のゆらぎが増大することで分散相が分断され、一定の粒子径を持ったO/Wのエマルジョンとなる。生成されたO/Wのエマルジョンはそこから流路拡大部23を通り、図2に示す生成物流路15、生成物切換バルブ83を経由して図1に示す生成物タンク(回収タンク)95に集められる。
【0043】
生成されるエマルジョンの粒径は、連続相と分散相の流速比や粘度など複数のパラメータによって定まる。粒径を制御する最も簡単な方法は、分散相か連続相の流量を制御して流速を変化させることである。例えば、分散相の流量を固定して連続相の流量を変化させた場合、連続相流量を増やすと生成される粒径は小さくなり、逆に連続相流量を減らすと粒径は大きくなる。このように本実施例では送液流量、すなわち流速を制御するのみで粒径調整を容易に行なうことができる。
【0044】
また、均一粒径のエマルジョンを安定して得るには、図4においてシース流路22,拡大流路部23の断面形状を流路の軸に対し軸対称とした上で、シース流路22の流路幅をなるべく微細とすることが望ましいが、分散相処理流路部14の出口である分散相処理流路部出口24よりシース流路22を小さくすると、シースフロー40形成時の安定性が低下する(油の中心流れ41がシース流路22の壁面に付着する)ため、シース流路22の流路幅を分散相処理流路部出口24と同等かやや大きい幅とする方が良い。同じくシースフロー40形成時の安定性向上のため、図4に示すように合流部21に面取りを施すか、又は丸み(R)を付けて開口部を広げることが望ましい。このような構造を設けることで、加工誤差で分散相処理流路部出口24とシース流路22の軸がずれた場合でも、許容範囲ならばシースフロー40を形成することが可能となり、ロバスト性が向上する。
【0045】
さらに、各流路の断面形状については、上記のようにシース流路22と拡大流路部23を軸対象とする以外に限定は無いが、後述する洗浄工程での洗浄性向上を考慮すると、隅部の無い形状が好ましいため、円形、あるいは矩形でも角部に丸み(R)を持つことが望ましい。
【0046】
次に、洗浄について説明する。洗浄処理は、制御部16への事前の設定に基いて、又は、モニタリング装置30からの検出信号S3に基いて、制御部16から各部へ信号S1、S2が送出されて制御がなされる。生産装置として長時間のエマルジョン生成を行った場合、経時的な各流路壁面の汚れや、液中の微細なゴミが流路に付着する可能性がある。このような場合、汚れやゴミが付着した流路の断面積が変化するため、流速が変動してシース流路で生成されるエマルジョン粒径が変化し、汚れの無い流路を通じて生成されたエマルジョンと合流したとき、全体として粒径の均一性が失われる。汚れがさらに進行した場合には最悪流路を閉塞し、エマルジョンの生成自体を行なうことができなくなる恐れが生じる。特に、微小な固形粒子を含む液体を使用した場合には粒子の沈殿を伴うため、より上記傾向は顕著となる。
【0047】
この問題への対策としては、流路内の汚れがエマルジョン生成に悪影響を与える前に流路を洗浄するのが良い。最も確実な方法は、液体処理デバイス10を分解して超音波洗浄などで堆積物を除去する方法であるが、デバイスの分解、洗浄、再組立には時間がかかり装置の稼働時間が短くなるため、生産用の装置としては好ましくない。そこで本実施例ではデバイスを分解すること無く、インライン洗浄で全流路を洗浄することを可能とした。
【0048】
以下、図1、図5を用いて説明する。図1において、エマルジョンの状態を監視しているモニタリング装置30によって、平均粒子径(粒度分布)の変動など粒子品質が低下した場合の検出信号S3が制御部16に送られ、制御部16から各部に信号S1、S2が送出されて洗浄処理が開始される。まず連続相ポンプ71と分散相ポンプ73を停止し、液材料の送液を中断する。次に、連続相切換バルブ81と連続相切換バルブ82を連続相洗浄ポンプ72と分散相洗浄ポンプ74の側に切換え、ポンプ72と74を動作させて連続相洗浄液タンク92と分散相洗浄液タンク94に納められた各洗浄液を、液体処理デバイス10へ送液する。ここで連続相が水系で分散相は油系であるため、それぞれに適した洗浄液を送液するが、共通で洗浄可能な洗浄液が存在するならば、ポンプ72、74とタンク92、94は1つにまとめても良い。
【0049】
連続相洗浄ポンプ72、分散相洗浄ポンプ74によって、図5に破線で示すように液体処理デバイス10の連続相主流路11と、分散相主流路12へと送液される。前述したように各主流路は、処理部20a〜20nへ分岐する連続相処理流路13a〜13nと、分散相処理流路14a〜14nより断面積が十分大きく、且つ各処理流路以外に分岐を持たない一連なりの形状をし、さらに、処理デバイス10を貫通して図示しない継手とチューブによって連続相主流路開閉バルブ84と、分散相主流路開閉バルブ85に接続されている。
【0050】
洗浄開始時にはバルブ84と85を開き、生成物バルブ83を廃液タンク96の側に切換えた後に、各洗浄液を所定時間送液して各主流路11、12を洗浄し、廃液タンク96へ廃棄する。なお、各主流路11、12を経由して処理部20に流れ込んだ洗浄液は、生成物流路13を通じて廃液タンク96へ廃棄される。主流路は上述のように大きな断面積を持つので、この段階では洗浄液の送液流量は大きく設定することが望ましい。主流路11、12は処理流路13,14以外に分岐を持たない構造のため、隅々まで洗浄液が行き渡り、確実な洗浄がなされる。
【0051】
主流路11、12の洗浄が終了した後、バルブ84と85を閉め、生成物バルブ83を廃液タンク96の側に切換えたままで、図5に破線で示すように主流路11、12に洗浄液を所定時間送液する。洗浄液は主流路11、12を介して処理流路部13a〜13n、14a〜14n、処理部20a〜20n及び生成物流路15に送液されて各部を洗浄し、廃液タンク96へ廃棄される。
【0052】
上記洗浄対象の各流路は、エマルジョンの処理量に応じて複数並列に設けられているが、処理流路13a〜13n、14a〜14nは、主流路からの分岐以外は分岐部を持たないため洗浄液が円滑に流れ、送液流量を調整して高圧送液することで全ての流路を確実に洗浄することができる。なお、洗浄の確実性を高めるためには、装置が許容する最大圧力で洗浄液を送液することが望ましい。流路内の洗浄終了後に、バルブ83を生成物タンク95の側に切換えて洗浄は終了する。
【0053】
以上のように、本実施例の液体処理デバイス10は、主流路とその他流路を2段階に分けてインライン洗浄することで、デバイスを分解することなく全流路を短時間で確実に洗浄することができ、生産用の装置として適している。なお、洗浄の効果をより高めるためにデバイス内流路の角部及び隅部は直角ではなく丸み(R)を持たせることが望ましい。
【0054】
以上本実施例は、化学生産装置の実施形態について処理デバイスが1つの場合について水中に油滴が分散したO/W(oil in water)型エマルジョンを生成する乳化について説明したが、複数の処理デバイスを直列に設け、複数の異なる種類の連続相液体を段階的に送液して多層エマルジョンを生成する多段構成など他の形態にも適用できる。例えば、本実施例でシースフロー40を形成した後に第2の連続相として油を導入し、中心から油、水、油と積層された3層のシースフロー40を形成することでO/W/O型(oil in water in oil)型の多層エマルジョンを生成することも可能である。
また、実施例では処理デバイスに導入される液数を最小の2個として説明したが、処理デバイスを大型化して内部に多段構成を設けるなど、導入液数と排出液数を実施例より多くしても良い。
【0055】
(実施例2)
本発明の乳化粒子の粒径制御に関する他の実施例について説明する。本実施例は、実施例1では連続相と分散相の流速比で粒径を制御する方法を示したのに対して、より能動的に粒径を制御する方法として液体に振動を加える手段を設けたものである。
【0056】
図6は液体合流部(処理部)20に圧電素子31を組み込んだ状態を表す図である。圧電素子31は、図中の白抜き両端矢印で示すように、シース流路22で形成されたシースフロー40と平行に、図示しない外部コントローラーからの制御で振動させることができる。圧電素子31から発生した振動は、被覆流れ42を介して中心流れ41に伝達され、前述した連続相と分散相の流速比によるものと、振動による力とによって中心流れ41である分散相は液滴に分裂する。そして、圧電素子31の振動強度を調整することで、所望の粒径を持ったエマルジョンを生成することができる。圧電素子31によって振動を加える場合は、できるだけ一様な振動的せん断応力を発生させて微粒子の生成を均一化することが好ましいので、前後の流路部の断面形状が円形であっても、この圧電素子31を組み込んだ流路部分だけは平面状の圧電素子31を対向させた、矩形断面形状であることが好ましい。2枚の対向させる圧電素子31の間隔は振動周波数や原液の粘性にもよるが、一般的にはできるだけ狭い方がより一様な振動的せん断応力を発生させることができる。
【0057】
また、この2枚の圧電素子31は互いに逆位相で振動させることが好ましい。こうすることで圧電素子31間の流路に振動的な流速分布を形成することができ、この流速分布によりせん断応力が生じ、このせん断応力が、上流から流れてきたシースフロー40を、流れ方向に引き伸ばし、最終的には複数個の球状に近い粒子に細分する。これにより、圧電素子を用いない場合に比べて、さらに微細な粒子を生成することが可能となる。
【0058】
この振動的な流速分布の分布状況は、圧電素子31の振動速度によって制御することができる。つまり、シースフロー40が圧電素子31間を通過する時間と壁面振動の振動数によって、どの程度の大きさの粒子に分裂するかが決まる。したがって、連続相、分散相の分裂に要するせん断応力と、連続相、分散相の流速に応じて、壁面振動の振動数と振動変位を調整する。これにより、所望の粒子径を持ったエマルジョンを得ることができる。なお、通常圧電素子31には、高電圧が印加される。したがって、液体と接する圧電素子31の表面は、絶縁されていなければならない。そこで、本実施例では、図示を省略したが、絶縁性であって伸縮性の高い樹脂を、圧電素子31の表面に施している。
【0059】
図6では対向した2枚の圧電素子31を設けているが、圧電素子を一方だけとしてもよい。生じるせん断応力の強度は、圧電素子31を2個対向させたときに比べて劣るが、消費電力と圧電素子を駆動するドライバー回路が1個で済む利点がある。せん断応力が弱まる分だけシースフロー40の通過時間を長くすれば、対向させた場合と同程度の効果が得られるので、比較的処理量が少なくて済む処理において特に有効である。
【0060】
加振による粒径制御では、圧電素子31の代わりに超音波を用いても良い。図7は圧電素子31に代えて超音波素子32を設けた場合の液体合流部20の断面図である。超音波素子32はシース流路22、拡大流路部23を挟み込むように設置され、図示しない外部コントローラーから制御することで、任意の周波数の超音波33を発生する。発生した超音波33は流路壁面を通して流路内の液体を高周波数で振動させるため、前述した液−液界面のゆらぎが増幅しシースフロー40の分断と、粒子の微細化が行われる。
【0061】
この超音波素子による場合は、粒径の制御性では圧電素子方式に劣るが、より微細な粒子を得ることができるという利点がある。また、超音波素子32は直接液体に触れないため絶縁処理などが必要で無く、組み込みが容易である。なお、この方式も圧電素子方式と同じく対向した2個の超音波素子32の片方をだけを取り除いても良い。生じるせん断応力の強度が低下する分、シースフロー40の通過時間を長くすれば、対向させた場合と同程度の効果が得られる。
【0062】
加振による粒径制御のさらなる別形態としては、図8に示すように連続相、分散相が液体処理デバイス10へ送液される直前のライン8、9に、圧電素子などによる加振装置34を設ける方式がある。この方式では液体処理デバイス10へ流れる連続相、分散相に任意の脈動を与えることにより、液体合流部20で形成されるシースフロー40内の連続相、分散相の比に周期的なムラを発生させて、粒径を制御する。例えば分散相に脈動を与えた場合、シースフロー40の芯にあたる中心流れ41に太い部分と細い部分が生じる。細い部分は拡大流路部23に達した際に分断されやすくなり、任意の脈動を与えることで粒径の制御を行なうことができる。この方式は、液体処理デバイス10に関係なく後付が可能であるので、デバイスの改造無しで制御性を向上することができる利点を持つ。
【0063】
以上、説明したように流速比の制御に加えて上記のような加振機構を設けることで、流路サイズを変更すること無くより広い範囲で粒径を制御することができる。また、流路内の汚れなどで粒子径が変化した場合、ある程度の変動であれば加振機構を制御することで所望の粒子径に調整することも可能であるため、洗浄処理の回数を減らす効果も得られる。加えて、洗浄工程では流路に振動を加えることで、洗浄効果を高めることも可能である。
【0064】
(実施例3)
図9に、本発明を液体同士の界面反応や抽出に用いた場合の液体合流部20の拡大断面図を示す。なお、界面反応、抽出においても、実施例1にて説明したプライミング、洗浄処理は乳化と同様に重要な要素であり、液体合流部20以外の装置構成は図1、図2と同様として前述したようにプライミング、洗浄処理を行なうことで安定したシースフロー40の形成と、長時間の生産が可能となる。
【0065】
前述の実施例では連続相、分散相をシース流路22でシースフロー40に形成した後に、圧電素子31などを設けてエマルジョンを生成したが、液体同士の界面反応や抽出に用いる場合は、2種類の液体の送液量を調整し適当な長さのシース流路22へ、シースフロー40として送液することで、混じり合わない液体界面での反応・成分抽出などを行なうことが可能となる。シースフロー40は、片方の液体の周囲を他方の液体で覆った形であるため、体積辺りの2液体の接触界面面積が大きく、界面反応、抽出を高い効率で行える利点がある。シース流路22の長さについては、液体同士の相性(反応のし易さなど)や、処理量などから液体操作終了までの時間を計算し、流路内で処理が終了するのに必要な長さを備えるようにすると良い。
【0066】
また、図9では連続相処理流路13は分散相処理流路14と直交する形になっているが、よりシースフローを形成しやすくするために、連続相処理流路13をV字形として、分散相処理流路14の左右斜め上方向から連続相が合流する形としても良い。さらに、本実施例の場合、モニタリング装置30は濃度を工学的に観察する吸光度計や、生成物の成分を分析する液体クロマトグラフィのような物を目的に合わせて適宜設けることが望ましい。
【0067】
(実施例4)
本発明の洗浄に関する他の実施例について図10、11を用いて説明する。図10は連続相と分散相それぞれの原料と洗浄液の送液を1台のポンプで実施する場合の構成を示す図である。実施例1では原料と洗浄液は別々のポンプで送液する方式だったが、図10に示すように連続相切換バルブ81、分散相切換バルブ82をそれぞれ連続相ポンプ71、分散相ポンプ73の上流に設け、これらバルブを切換えることでポンプに原料あるいは洗浄液の任意の一方を供給する。この方式の場合、原料と洗浄液を切換える際にポンプ内の液体を置換する必要があり、実施例1と比較して洗浄処理に時間がかかるが、ポンプの数を半減させることができるため装置構成が簡易となり、製造コストを低減できる利点を持つ。
【0068】
(実施例5)
図11は洗浄液を循環式にした場合の構成を示す図である。実施例1では洗浄液は液体処理デバイス10へ送液された後、廃液タンク96へ送液され、そのまま廃棄する方式であった。これに対して本実施例では連続相、分散相各ラインに循環洗浄用の洗浄液タンクを1個ずつ追設し、最初にこの循環洗浄用の洗浄液で繰り返し洗浄を行ない、仕上げに非循環用洗浄液ですすぎを行なう2段階洗浄方式とした。この方式の利点は、循環洗浄を行なうことで洗浄液の消費量を低減できることにある。以下で洗浄工程の詳細を説明する。
【0069】
洗浄開始時に、まず連続相切換バルブ81を連続相洗浄ポンプ72の側に切換え、分散相切換バルブ82を分散相洗浄ポンプの側に切換え、連続相洗浄液切換バルブ86を連続相循環洗浄液タンク97の側に切換え、分散相洗浄液切換バルブ87を分散相循環洗浄液タンク98の側に切換え、連続相洗浄液循環バルブ88を続相循環洗浄液タンク97の側に切換え、分散相洗浄液循環バルブ89を分散相循環洗浄液タンク98の側に切換え、生成物切換バルブ83を廃液タンク96の側に切換えて、連続相と分散相の各洗浄液が液体処理デバイス10を経由して循環する流路を形成する。
【0070】
そして、この切換状態で連続相洗浄ポンプ72と分散相洗浄ポンプ73を動作させ、洗浄液を循環させながら配管と処理デバイス10内の各流路を洗浄する。
【0071】
循環している洗浄液を目視観察するなどして洗浄が十分行われたと確認した時点で、ポンプ72、74を停止させ、連続相洗浄液切換バルブ86を連続相洗浄液タンク92の側に切換え、分散相洗浄液切換バルブ87を分散相洗浄液タンク94の側に切換え、連続相洗浄液循環バルブ88と分散相洗浄液循環バルブ89を廃液タンク96の側に切換えて、連続相と分散相の各洗浄液が、液体処理デバイス10を経由して廃液タンク96へ送液される流路を形成する。この状態で連続相洗浄ポンプ72と分散相洗浄ポンプ73を再び動作させ、配管と処理デバイス10内の各流路のすすぎ洗いを行い洗浄が終了する。
【0072】
以上のような工程で洗浄を行なうことで、洗浄液の消費量を抑えながら、確実な洗浄を行なうことが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1…化学生産装置、10…液体処理デバイス、11…連続相主流路、12…分散相主流路、13…連続相処理流路、14…分散相処理流路、15…生成物流路、16…制御部、20…処理部(液体合流部)、21…合流部、22…シース流路、23…拡大流路部、24…分散相処理流路部出口、30…モニタリング装置、31…圧電素子、32…超音波素子、33…超音波、34…加振装置、40…シースフロー、41…中心流れ、42…被覆流れ、71…連続相ポンプ、72…連続相洗浄ポンプ、73…分散相ポンプ、74…分散相洗浄ポンプ、81…連続相切換バルブ(送液切換バルブ)、82…分散相切換バルブ(送液切換バルブ)、83…生成物切換バルブ、84…連続相主流路開閉バルブ、85…分散相主流路開閉バルブ、86…連続相洗浄液切換バルブ、87…分散相洗浄液切換バルブ、88…連続相洗浄液循環バルブ、89…分散相洗浄液循環バルブ、91…連続相タンク、92…連続相洗浄液タンク、93…分散相タンク、94…分散相洗浄液タンク、95…生成物タンク、96…廃液タンク、97…連続相循環洗浄液タンク、98…分散相循環洗浄液タンク、S1、S2…制御信号、S3〜S5…検出信号。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の液体供給口からそれぞれ供給される種類の異なる液体を微小流路に導き、微小流路において液体の乳化、反応などを行ない、液体排出口からエマルジョン、反応生成物などを得る化学生産装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反応、乳化などの液体操作を行なって所望の生成物を生成する方法として、バッチ式の生産方法が知られている。これは大型の容器に原料を投入して、回転・攪拌機構を用いて一度に大量の生成物を生成する方法である。液体同士の反応であれば、原料を同時或は逐次に大型容器に投入し、必要があれば温度調整も行なう。また、乳化であれば油相、水相の原料、界面活性剤を大型容器に投入しエマルジョンを生成する。なお、エマルジョンとは、水と油のようにお互いに混じり合わない二つの液体に界面活性剤(乳化剤)を添加し、攪拌等の機械的操作を加え、油滴を水中(あるいは水滴を油中)に均一に分散した液/液系の乳濁液である。
【0003】
しかし、このバッチ式生産は大型容器で反応や乳化を行なうため、容器内の温度を均一に保ち難い、回転・攪拌機時に加えられるせん断力が液体全体に均一に加わらない、などの問題が生じることがあった。この結果、反応においては反応の進行にバラつきが生じて不要な副生成物が生じる。また、乳化においては液滴の粒径が均一でなく分布を持つため、均一な粒子を得るためには攪拌後に所望の粒径の物のみを選り分ける分級操作が必要な場合があった。また、反応が終了するまで、或は乳化時の粒径分布がある程度の値に安定化するまでには数分から数十分の回転・攪拌が必要とされており、効率的な生産方法が望まれていた。
【0004】
上記問題を解決する方法として、数μmから数百μm程度の微小なマイクロ流路内で反応、乳化などの液体操作を行なうマイクロ流体装置が近年注目されている。微小流路内で反応、乳化を行なうマイクロ流体装置は、流路内温度を均一に保って短時間で液−液反応を行うことで、反応進行速度の不均一による副生成物の発生を抑えて反応性生物の収率向上を可能とし、また流路内液体に加わるせん断力を均一にすることで液体を直径の等しい粒子に分断することが可能である。
【0005】
具体的には特許文献1(特開2003−1077号)には、複数の液体をそれぞれ多数の層状の流れに分割し、それらを交互に配することで、液体の総体積に占める各液体の接触面積の割合を増加させたラミネートフローを形成し、高効率の液体混合・反応を可能とする技術が開示されている。
【0006】
あるいは、下記特許文献2(特開2004−359822号)には、円形の基板に2種類の液体が直交する形の流路を形成し、一方の液体が他方の液体を側面から押し流すようにせん断して乳化粒子を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−1077号公報
【特許文献2】特開2004−359822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載された技術は、それぞれマイクロ流体の特性を生かして混合・反応、乳化の液体操作において、従来のバッチ方式より優れた点を有している。しかし、これらの方式を生産用途に適用した場合には、均一送液性と洗浄性に問題が生じると考えられる。その理由を以下に述べる。
【0009】
通常マイクロ流体装置では微小な流路内で液体操作を行なうため、1マイクロ流路あたりの処理量は極僅かとなり、生産用途に処理量を増やすためには多数の流路を並列に設けるナンバリングアップという構造が必要となる。特許文献1,2は共に液体の流れが層流であることが機能発揮のために重要であることから、この点では通常のマイクロ流体装置と等しい。ナンバリングアップ構造では、如何にして各マイクロ流路に均等に液体を送液するかが重要であり、そのためには、特に、送液開始時に微小流路内の空気(気泡)を除去するプライミング処理が必要である。なぜならば、流路内に空気が残留した場合、微小流路を用いるマイクロ流体装置のマイクロ流路では、一般的な数mm以上のマクロ流路に比べて、流路断面積に対する流路断面周長の比率が高いために表面張力が大となり、壁面に付着した気泡の除去が困難だからである。
【0010】
その結果、一部の流路に気泡により液体が送液されないなどの問題が生じ、装置全体が正しく機能しなくなる。特に、複数の流路を並列に備えるナンバリングアップ構造では、空気の混入していない流路抵抗の低い流路へ液体が多く回り込むため、空気の混入している流路の通液量が減少し気泡の除去はより困難となる。
【0011】
然るに、特許文献1、2の構造では、マイクロ流路に分岐部などの曲がり部が多く、また、装置外から供給された液体が、直接分岐流路であるマイクロ流路に送液される構造となっているため、マイクロ流路内の空気の逃げ道が無い。すなわち、このような構造をナンバリングアップした場合、プライミング処理時にマイクロ流路の多数の分岐部分や、流路の隅部・角部に空気が残留し易いという恐れがあった。
【0012】
また、生産用装置は長時間の連続運転を要求される事が多く、流路内の汚れによる生成物の品質低下を防止するために、定期的な洗浄処理も必要とされる。この時、装置の稼働時間を低下させないために短時間で洗浄を実施できるインライン洗浄が好ましいが、前述したプライミングが困難な流路形状では、流路洗浄時にも同様に流路内を洗浄液で置換することが困難であり、洗い残し部分が発生するという問題も生じる。加えて、乳化時の粒子径の制御を行う場合、特許文献2の方式では流量比を調整するしか方法が無いため制御可能な範囲が限られている。
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、マイクロ流体装置としての特性を持ちつつ、マイクロ流路内のプライミング及び洗浄が容易な、化学生産装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため本発明は、数μm〜1mm程度の微細な流路を複数有する処理デバイスに、2液以上を送液して、乳化、反応などを行なう化学装置において、
2液以上が流れる複数の処理流路と、
上記処理流路の交差する部分で2液以上が合流して乳化、反応などの処理を行なう複数の処理部と、
処理デバイス外への排出口を有し、上記各処理流路に分岐して送液するために処理流路に比べて十分大きな断面積を有する一連なり形状の複数の主流路と、
上記処理部での生成物を処理デバイス外へ送出する生成物流路と、
上記主流路に液体または洗浄液を供給するポンプと、
上記ポンプの吐出側に設けられ、任意の液体を上記主流路に選択的に供給する送液切換バルブと、
上記主流路の排出口に設けられた主流路開閉バルブと、
上記生成物流路の送出口を回収側と廃棄側に切換える生成物切換バルブと、
上記生成物流路に送出される生成物の乳化や反応の状態を監視するモニタリング装置と、
事前の設定または上記モニタリング装置からの検出信号に基き、上記ポンプ、送液切換バルブ、主流路開閉バルブ及び生成物切換バルブを制御する制御部を設けたことを特徴とする。
【0015】
また、上記に記載の化学生産装置において、プライミング処理時に、上記制御部は事前の設定に基き、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物切換バルブを廃棄側に切換えた状態で、上記ポンプにより所定液を上記各主流路に供給し、次いで上記主流路開閉バルブを閉じると共に上記生成物切換バルブを回収側に切換えた状態で、上記ポンプにより所定液を各主流路を介して上記処理流路に送液するように、上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする。
【0016】
また、上記に記載の化学生産装置において、洗浄処理時に、上記制御部は事前の設定または上記モニタリング装置からの検出信号に基き、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物切換バルブを廃棄側に切換えた状態で、上記ポンプにより洗浄液を上記各主流路に供給し、次いで、上記主流路開閉バルブを閉じると共に上記生成物切換バルブを回収側に切換えた状態で、上記ポンプにより洗浄液を各主流路を介して上記処理流路に送液するように、上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする。
【0017】
また、上記に記載の化学生産装置において、上記主流路は、処理デバイスの平面に溝状に形成された第1主流路と第2主流路からなり、上記処理流路は処理デバイスの平面に各主流路から複数分岐して溝状に形成された第1処理流路と第2処理流路からなり、上記処理部では、上記第1、第2処理流路をそれぞれ流れる第1液と第2液が合流し、第1の液体を中心として第2の液体がその周辺を覆う流れを形成して乳化、反応などの処理が行なわれ、乳化、反応などの生成物として上記生成物流路に集められ、上記モニタリング装置は、生成物流路に送出される生成物の粒度分布などを計測し、その計測信号を上記制御部に送信することを特徴とする。
【0018】
また、上記に記載の化学生産装置において、上記流体合流部は、合流した後の流路部分に加振する外力発生装置を備え、乳化時の粒子径を制御することを特徴とする。
【0019】
また、上記記載の化学生産装置において、上記流体合流部での各処理流路の角部に丸みを設けたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の化学生産装置の特徴とするところは、2種類以上の液体を供給され、第1の液体が通流する処理流路と、この第1の処理流路の方向とほぼ直交する方向に他の液体が通流する第2以降の処理流路が処理デバイス同一平面上に溝状に形成され、この第1の処理流路と第2以降の処理流路が交差する部分で、第1の液体と他の液体が合流して乳化、反応などが行なわれる処理部を複数備える。そして、これら複数の処理部に液体を供給するための処理流路より十分大きな断面積を持ち、且つ処理部への分岐とは別に大きな断面積を保ったまま処理デバイス外へと通じる排出口を持った各液体の主流路を備えた処理デバイスを核としたシステムである。そして、各液体と洗浄液を処理デバイスへ送液するためのポンプと、それらポンプにどの液体を供給するかを制御するためのバルブと、主流路の処理デバイス出口側と生成した乳化液・反応液などの吐出口に設けられプライミング・洗浄時にそれぞれの流路を開閉するバルブと、乳化液・反応液の状態を監視するモニタリング装置を設けたことにある。また、乳化を行う際に制御可能な粒子径範囲を広げるために、液体を加振するための外力発生装置を備えた。
【0021】
処理流路に対して十分大きく、処理流路への分岐とは別に処理デバイス外への出口を持つ一連なりの主流路を設けることで、各処理部へ均一な送液を行い、且つバルブを制御して断面積が大きく体積も大きい主流路内のプライミング、洗浄を行なった後に、断面積が小さい処理流路のプライミング、洗浄を行なう2段階の操作を実施することで、処理デバイス内の全流路のプライミング、洗浄を容易に確実に行なうことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、微細流路内のプライミング、洗浄が容易に行なえ、且つ任意の粒径を持った均一粒子の生成や、高効率で液の乳化や反応などの液体処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1の構成図である。
【図2】同じく液体処理デバイスの動作説明図である。
【図3】同じく液体処理デバイスの分解斜視図である。
【図4】同じく処理部の拡大断面図である。
【図5】同じく洗浄時の液体処理デバイス内の状態を説明する図である。
【図6】本発明の実施例2の処理部の拡大断面図である。
【図7】本発明の実施例2の変形例の処理部の拡大断面図である。
【図8】本発明の実施例1の変形例の乳化時の構成図である。
【図9】本発明の実施例3の処理部の拡大断面図である。
【図10】本発明の実施例4の構成図である。
【図11】本発明の実施例5の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図に示す実施形態について説明する。なお、図中では第1液の流れを実線矢印、第2液の流れを二点鎖線矢印、生成物の流れを破線矢印、洗浄液の流れを点線矢印で表す。
【0025】
(実施例1)
図1に、本発明実施例1の化学生産装置の構成を示す。本実施例では、第1液を連続相として水と界面活性剤の混合物、第2液を分散相として食用油を用い、水中に油滴が分散したO/W(oil in water)型エマルジョンを生成する乳化について扱う。
【0026】
図1において、エマルジョンの溶媒となる連続相は、連続相タンク91に納められ、溶質となる分散相は分散相タンク93に納められる。また、連続相流路と分散相流路を洗浄するための洗浄液が、それぞれ、連続相洗浄液タンク92と分散相洗浄液タンク94に納められている。連続相タンク91、分散相タンク93に納められた各液体は、それぞれ連続相ポンプ71、分散相ポンプ73により液体処理デバイス10へと送液される。各ポンプの形態については特に定めないが、低脈流かつ、二次側の圧力変動に対しての送液量変化が小さなシリンジ(プランジャー)ポンプのようなものが望ましい。
【0027】
液体処理デバイス10内では、後述するように連続相と分散相が合流して、エマルジョン(乳化液)が生成される。生成された乳化液は、液体処理デバイスから吐出され生成物タンク95へと納められる。以上のように、本実施例では液体処理デバイス10へ液体を送液するだけで、フロー式にエマルジョンを生成することが可能であり、バッチ式生産のような液体の分注機構、攪拌機構を別個に設ける必要は無く、装置の小型化・単純化が可能となる。
【0028】
この他に後述するプライミング、洗浄処理用の機構として、生成物の状態を監視して検出信号S3を出力するモニタリング装置30、連続相、分散相それぞれの洗浄液を納める連続相洗浄液タンク92、分散相洗浄液タンク94、各洗浄液を処理デバイス10へ送液する連続相洗浄ポンプ72、分散相洗浄ポンプ73、連続相ライン8と分散相ライン9の原料と洗浄液を切換える連続相切換バルブ81、分散相切換バルブ82、廃液タンク96と生成物タンク(回収タンク)への流路の切換を行なう生成物切換バルブ83、連続相主流路開閉バルブ84、分散相主流路開閉バルブ85を備える。
【0029】
PS1とPS2は、それぞれ連続相ライン8と分散相ライン9に設けられ検出信号S4、S5を出力する圧力センサ、16は上記圧力センサや上記モニタリング装置30からの検出信号S3〜S5を受けて、制御信号S1、S2を出力して上記ポンプとバルブを制御する制御部である。なお、モニタリング装置30はエマルジョンの粒子径を観察する粒度分布検知装置を用いる。
【0030】
図2は液体処理デバイス10内の構造と状態を説明する図、図3は液体処理デバイス10内の構造の分解斜視図、図4は液体合流部(処理部)20a〜20nの拡大断面図、図5は洗浄時の液体処理デバイス10内の状態を説明する図である。
【0031】
図2、図3において、11と12は、それぞれ、処理デバイス10の本体10aの表面に溝状に形成された連続相主流路と分散相主流路であり、図1に示す連続相ポンプ71と分散相ポンプ73とからライン8と9を通じて、各液体が供給される。13(13a−13n)と14(14a−14n)は、それぞれ数μm〜1mm程度の微細な溝幅からなる連続相処理流路と分散相処理流路で、連続相主流路11と分散相主流路12からそれぞれ分岐して処理デバイス本体10aの表面に溝状に形成される。15は処理流路13と14の交差部分で2液の合流する処理部20(20a〜20n)で乳化、反応などの処理がなされた生成物を、処理デバイス10外に送出する生成物流路である。10bは本体10aの表面を覆うカバーである。
【0032】
上記主流路11、12及び生成物流路15には、それぞれの内部の液を処理デバイス10外へ排出又は送出する排出口11a、12aと送出口15aを備えている。そして、上記排出口11a、12a及び送出口15aには、それぞれ主流路開閉バルブ84、85と生成物切換バルブ83が接続される。各主流路11、12は、処理部20(20a〜20n)へ分岐する処理流路13(13a〜13n)、処理流路14(14a〜14n)より十分大きな断面積を有し、且つ各処理流路以外に分岐を持たない、一連なりの形状をしている。上記流路11、12及び14の端部は、図3に示すように処理デバイス本体10aの表面に形成された溝状の部分から、内部に潜り込んで貫通した状態で外部に開口(11a,12a,15a)している。
【0033】
以下、これらの図を用いて、本実施例によるプライミング処理、エマルジョン生成、流路洗浄の各段階について説明する。
【0034】
エマルジョンを生成する前段階として、処理デバイス10内の各流路内の空気を取り除き、流路を液体で満たすプライミング処理を行なう。内径が数μm〜1mm程度の微細流路を使用し、且つ処理量を増すために流路を並列に多数備えたマイクロ流体機器においては、流路内に空気が残留していると性能を発揮できない。なぜならば、流路が微細であるために微量の空気であっても流路を閉塞しやすく、閉塞すると液体が送液出来ないためである。また、微細流路では壁面長/流路体積の比率(大きい)の関係から壁面の保持力が強く、一度流路に詰まった空気を取り除く事は難しい。
【0035】
特に、ある流路から多数の微細流路が分岐しているような構造で、一ヶ所の微細流路に空気が詰まるとこの通液抵抗が大きくなるため、他の抵抗の小さい微細流路に液体が流れ易く、空気の取り除きが困難となる。以上のように、マイクロ流体機器においてはプライミングを確実に行なうことが必要であり、本発明では以下のように対応している。
【0036】
プライミング処理は、事前の設定に基いて制御部16から各部へ信号S1、S2が送出されて制御がなされる。まず主流路11、12のバルブ84,85を開き、生成物切換バルブ83を廃液タンク96の側に切換えた後に、ポンプ71、73により連続相、分散相を送液して各主流路11、12を満すと共に、各主流路11、12から処理部20を介して生成物流路15に流れ込んだ液を、廃液タンク96へと廃棄する。主流路11、12は一連なりの形状で大きな断面積を持ち、処理流路13、14以外に分岐を持たないため、液が流れ易く内部に空気が詰まることは無く、確実にプライミングを行なうことができる。図2、図3では、各主流路11、12が直線状に描かれているが、前述した一連なりの形状を満たせば、蛇行や渦巻き状など他の形態であってもよい。
【0037】
主流路11、12のプライミングが終了したら、次いで、バルブ84、85を閉じ、処理流路13(13a〜13n)、14(14a〜14n)、生成物流路15及び処理部(液体合流部)20(20a〜20n)のプライミングを行なう。これらの部分はエマルジョンの処理量に応じて複数並列に設けられているが、図2、図3に示すように、処理流路13、14は主流路から分岐した後には分岐部を持たない構造になっている。また図4に示すように、処理部20内でも処理流路13、14が合流してシース流路22へ至る分岐部を持たない構造となっており、前述したような空気が抜け難い構造ではない。
【0038】
よって、送液流量を調整して高圧送液することで全ての流路をプライミングすることが可能となる。なお、プライミングの確実性を高めるためには、装置が許容する最大圧力で送液することが望ましい。流路内の空気が抜けた後に、バルブ83を生成物タンク(回収側)95の側に切換えてプライミングは終了する。
【0039】
次に、エマルジョンの生成について説明する。図2において、プライミング終了後、処理部20内で任意の粒子直径が得られるように、圧力センサPS1、PS2で圧力を見ながら送液量を調整して連続相と分散相の液体を液体処理デバイス10へ送液する。前述したように各主流路11、12が各処理流路13a〜13n,14a〜14nより十分大きいため、複数設けられた処理部20a〜20nへの各液体の送液量はほぼ均一となる。これは、処理流路13a〜13n,14a〜14nの圧力損失が主流路11,12のそれと比較して十分に大きいために、液体が分岐する際に平均化されるためである。
【0040】
本実施例のエマルジョン生成では、連続相と分散相の流量比によって粒子直径を制御するが、均一なエマルジョンを得るには各処理部20a〜20nで合流する連続相と分散相の流量比を均一に揃えることが必要となる。そのため、処理部20a〜20nの数、流路抵抗などに応じて流量の誤差を数%以下に抑えるように主流路11、12の断面の大きさを十分大きくなるように決定する。
【0041】
主流路をどの程度大きくすれば良いか具体的な例を挙げると、処理部20a〜20nを24個備え、シース流路22の最小部直径が50μmの場合、各処理部20a〜20nの送液流量のばらつきを5%以下程度に抑えるためには、主流路抵抗:処理流路抵抗=1:10000が必要との計算結果が得られる。この結果から、処理流路が最小で直径50μmであるのに対して、各主流路は一辺900μmの矩形とした。
【0042】
上記の工程を経て、各処理部20a〜20nに任意の比率で均一に送液された連続相と分散相は、図4に示す構造を持った処理部20において合流し、エマルジョンを形成する。図示のように、処理部20は分散相処理流路14に対し、連続相処理流路13が2方向から直交する形になっており、各処理流路が交差する合流部21で合流したあと、分散相処理流路14と同軸上に設けられたシース流路22に流れ込み、ここで分散相である油を内側の中心流れ41、連続相である水を外側の被覆流れ42としたシースフロー40を形成する。このシースフロー40は、シース流路22を流れるうちに、連続相と分散相の流速差によって生じる液−液界面のゆらぎが増大することで分散相が分断され、一定の粒子径を持ったO/Wのエマルジョンとなる。生成されたO/Wのエマルジョンはそこから流路拡大部23を通り、図2に示す生成物流路15、生成物切換バルブ83を経由して図1に示す生成物タンク(回収タンク)95に集められる。
【0043】
生成されるエマルジョンの粒径は、連続相と分散相の流速比や粘度など複数のパラメータによって定まる。粒径を制御する最も簡単な方法は、分散相か連続相の流量を制御して流速を変化させることである。例えば、分散相の流量を固定して連続相の流量を変化させた場合、連続相流量を増やすと生成される粒径は小さくなり、逆に連続相流量を減らすと粒径は大きくなる。このように本実施例では送液流量、すなわち流速を制御するのみで粒径調整を容易に行なうことができる。
【0044】
また、均一粒径のエマルジョンを安定して得るには、図4においてシース流路22,拡大流路部23の断面形状を流路の軸に対し軸対称とした上で、シース流路22の流路幅をなるべく微細とすることが望ましいが、分散相処理流路部14の出口である分散相処理流路部出口24よりシース流路22を小さくすると、シースフロー40形成時の安定性が低下する(油の中心流れ41がシース流路22の壁面に付着する)ため、シース流路22の流路幅を分散相処理流路部出口24と同等かやや大きい幅とする方が良い。同じくシースフロー40形成時の安定性向上のため、図4に示すように合流部21に面取りを施すか、又は丸み(R)を付けて開口部を広げることが望ましい。このような構造を設けることで、加工誤差で分散相処理流路部出口24とシース流路22の軸がずれた場合でも、許容範囲ならばシースフロー40を形成することが可能となり、ロバスト性が向上する。
【0045】
さらに、各流路の断面形状については、上記のようにシース流路22と拡大流路部23を軸対象とする以外に限定は無いが、後述する洗浄工程での洗浄性向上を考慮すると、隅部の無い形状が好ましいため、円形、あるいは矩形でも角部に丸み(R)を持つことが望ましい。
【0046】
次に、洗浄について説明する。洗浄処理は、制御部16への事前の設定に基いて、又は、モニタリング装置30からの検出信号S3に基いて、制御部16から各部へ信号S1、S2が送出されて制御がなされる。生産装置として長時間のエマルジョン生成を行った場合、経時的な各流路壁面の汚れや、液中の微細なゴミが流路に付着する可能性がある。このような場合、汚れやゴミが付着した流路の断面積が変化するため、流速が変動してシース流路で生成されるエマルジョン粒径が変化し、汚れの無い流路を通じて生成されたエマルジョンと合流したとき、全体として粒径の均一性が失われる。汚れがさらに進行した場合には最悪流路を閉塞し、エマルジョンの生成自体を行なうことができなくなる恐れが生じる。特に、微小な固形粒子を含む液体を使用した場合には粒子の沈殿を伴うため、より上記傾向は顕著となる。
【0047】
この問題への対策としては、流路内の汚れがエマルジョン生成に悪影響を与える前に流路を洗浄するのが良い。最も確実な方法は、液体処理デバイス10を分解して超音波洗浄などで堆積物を除去する方法であるが、デバイスの分解、洗浄、再組立には時間がかかり装置の稼働時間が短くなるため、生産用の装置としては好ましくない。そこで本実施例ではデバイスを分解すること無く、インライン洗浄で全流路を洗浄することを可能とした。
【0048】
以下、図1、図5を用いて説明する。図1において、エマルジョンの状態を監視しているモニタリング装置30によって、平均粒子径(粒度分布)の変動など粒子品質が低下した場合の検出信号S3が制御部16に送られ、制御部16から各部に信号S1、S2が送出されて洗浄処理が開始される。まず連続相ポンプ71と分散相ポンプ73を停止し、液材料の送液を中断する。次に、連続相切換バルブ81と連続相切換バルブ82を連続相洗浄ポンプ72と分散相洗浄ポンプ74の側に切換え、ポンプ72と74を動作させて連続相洗浄液タンク92と分散相洗浄液タンク94に納められた各洗浄液を、液体処理デバイス10へ送液する。ここで連続相が水系で分散相は油系であるため、それぞれに適した洗浄液を送液するが、共通で洗浄可能な洗浄液が存在するならば、ポンプ72、74とタンク92、94は1つにまとめても良い。
【0049】
連続相洗浄ポンプ72、分散相洗浄ポンプ74によって、図5に破線で示すように液体処理デバイス10の連続相主流路11と、分散相主流路12へと送液される。前述したように各主流路は、処理部20a〜20nへ分岐する連続相処理流路13a〜13nと、分散相処理流路14a〜14nより断面積が十分大きく、且つ各処理流路以外に分岐を持たない一連なりの形状をし、さらに、処理デバイス10を貫通して図示しない継手とチューブによって連続相主流路開閉バルブ84と、分散相主流路開閉バルブ85に接続されている。
【0050】
洗浄開始時にはバルブ84と85を開き、生成物バルブ83を廃液タンク96の側に切換えた後に、各洗浄液を所定時間送液して各主流路11、12を洗浄し、廃液タンク96へ廃棄する。なお、各主流路11、12を経由して処理部20に流れ込んだ洗浄液は、生成物流路13を通じて廃液タンク96へ廃棄される。主流路は上述のように大きな断面積を持つので、この段階では洗浄液の送液流量は大きく設定することが望ましい。主流路11、12は処理流路13,14以外に分岐を持たない構造のため、隅々まで洗浄液が行き渡り、確実な洗浄がなされる。
【0051】
主流路11、12の洗浄が終了した後、バルブ84と85を閉め、生成物バルブ83を廃液タンク96の側に切換えたままで、図5に破線で示すように主流路11、12に洗浄液を所定時間送液する。洗浄液は主流路11、12を介して処理流路部13a〜13n、14a〜14n、処理部20a〜20n及び生成物流路15に送液されて各部を洗浄し、廃液タンク96へ廃棄される。
【0052】
上記洗浄対象の各流路は、エマルジョンの処理量に応じて複数並列に設けられているが、処理流路13a〜13n、14a〜14nは、主流路からの分岐以外は分岐部を持たないため洗浄液が円滑に流れ、送液流量を調整して高圧送液することで全ての流路を確実に洗浄することができる。なお、洗浄の確実性を高めるためには、装置が許容する最大圧力で洗浄液を送液することが望ましい。流路内の洗浄終了後に、バルブ83を生成物タンク95の側に切換えて洗浄は終了する。
【0053】
以上のように、本実施例の液体処理デバイス10は、主流路とその他流路を2段階に分けてインライン洗浄することで、デバイスを分解することなく全流路を短時間で確実に洗浄することができ、生産用の装置として適している。なお、洗浄の効果をより高めるためにデバイス内流路の角部及び隅部は直角ではなく丸み(R)を持たせることが望ましい。
【0054】
以上本実施例は、化学生産装置の実施形態について処理デバイスが1つの場合について水中に油滴が分散したO/W(oil in water)型エマルジョンを生成する乳化について説明したが、複数の処理デバイスを直列に設け、複数の異なる種類の連続相液体を段階的に送液して多層エマルジョンを生成する多段構成など他の形態にも適用できる。例えば、本実施例でシースフロー40を形成した後に第2の連続相として油を導入し、中心から油、水、油と積層された3層のシースフロー40を形成することでO/W/O型(oil in water in oil)型の多層エマルジョンを生成することも可能である。
また、実施例では処理デバイスに導入される液数を最小の2個として説明したが、処理デバイスを大型化して内部に多段構成を設けるなど、導入液数と排出液数を実施例より多くしても良い。
【0055】
(実施例2)
本発明の乳化粒子の粒径制御に関する他の実施例について説明する。本実施例は、実施例1では連続相と分散相の流速比で粒径を制御する方法を示したのに対して、より能動的に粒径を制御する方法として液体に振動を加える手段を設けたものである。
【0056】
図6は液体合流部(処理部)20に圧電素子31を組み込んだ状態を表す図である。圧電素子31は、図中の白抜き両端矢印で示すように、シース流路22で形成されたシースフロー40と平行に、図示しない外部コントローラーからの制御で振動させることができる。圧電素子31から発生した振動は、被覆流れ42を介して中心流れ41に伝達され、前述した連続相と分散相の流速比によるものと、振動による力とによって中心流れ41である分散相は液滴に分裂する。そして、圧電素子31の振動強度を調整することで、所望の粒径を持ったエマルジョンを生成することができる。圧電素子31によって振動を加える場合は、できるだけ一様な振動的せん断応力を発生させて微粒子の生成を均一化することが好ましいので、前後の流路部の断面形状が円形であっても、この圧電素子31を組み込んだ流路部分だけは平面状の圧電素子31を対向させた、矩形断面形状であることが好ましい。2枚の対向させる圧電素子31の間隔は振動周波数や原液の粘性にもよるが、一般的にはできるだけ狭い方がより一様な振動的せん断応力を発生させることができる。
【0057】
また、この2枚の圧電素子31は互いに逆位相で振動させることが好ましい。こうすることで圧電素子31間の流路に振動的な流速分布を形成することができ、この流速分布によりせん断応力が生じ、このせん断応力が、上流から流れてきたシースフロー40を、流れ方向に引き伸ばし、最終的には複数個の球状に近い粒子に細分する。これにより、圧電素子を用いない場合に比べて、さらに微細な粒子を生成することが可能となる。
【0058】
この振動的な流速分布の分布状況は、圧電素子31の振動速度によって制御することができる。つまり、シースフロー40が圧電素子31間を通過する時間と壁面振動の振動数によって、どの程度の大きさの粒子に分裂するかが決まる。したがって、連続相、分散相の分裂に要するせん断応力と、連続相、分散相の流速に応じて、壁面振動の振動数と振動変位を調整する。これにより、所望の粒子径を持ったエマルジョンを得ることができる。なお、通常圧電素子31には、高電圧が印加される。したがって、液体と接する圧電素子31の表面は、絶縁されていなければならない。そこで、本実施例では、図示を省略したが、絶縁性であって伸縮性の高い樹脂を、圧電素子31の表面に施している。
【0059】
図6では対向した2枚の圧電素子31を設けているが、圧電素子を一方だけとしてもよい。生じるせん断応力の強度は、圧電素子31を2個対向させたときに比べて劣るが、消費電力と圧電素子を駆動するドライバー回路が1個で済む利点がある。せん断応力が弱まる分だけシースフロー40の通過時間を長くすれば、対向させた場合と同程度の効果が得られるので、比較的処理量が少なくて済む処理において特に有効である。
【0060】
加振による粒径制御では、圧電素子31の代わりに超音波を用いても良い。図7は圧電素子31に代えて超音波素子32を設けた場合の液体合流部20の断面図である。超音波素子32はシース流路22、拡大流路部23を挟み込むように設置され、図示しない外部コントローラーから制御することで、任意の周波数の超音波33を発生する。発生した超音波33は流路壁面を通して流路内の液体を高周波数で振動させるため、前述した液−液界面のゆらぎが増幅しシースフロー40の分断と、粒子の微細化が行われる。
【0061】
この超音波素子による場合は、粒径の制御性では圧電素子方式に劣るが、より微細な粒子を得ることができるという利点がある。また、超音波素子32は直接液体に触れないため絶縁処理などが必要で無く、組み込みが容易である。なお、この方式も圧電素子方式と同じく対向した2個の超音波素子32の片方をだけを取り除いても良い。生じるせん断応力の強度が低下する分、シースフロー40の通過時間を長くすれば、対向させた場合と同程度の効果が得られる。
【0062】
加振による粒径制御のさらなる別形態としては、図8に示すように連続相、分散相が液体処理デバイス10へ送液される直前のライン8、9に、圧電素子などによる加振装置34を設ける方式がある。この方式では液体処理デバイス10へ流れる連続相、分散相に任意の脈動を与えることにより、液体合流部20で形成されるシースフロー40内の連続相、分散相の比に周期的なムラを発生させて、粒径を制御する。例えば分散相に脈動を与えた場合、シースフロー40の芯にあたる中心流れ41に太い部分と細い部分が生じる。細い部分は拡大流路部23に達した際に分断されやすくなり、任意の脈動を与えることで粒径の制御を行なうことができる。この方式は、液体処理デバイス10に関係なく後付が可能であるので、デバイスの改造無しで制御性を向上することができる利点を持つ。
【0063】
以上、説明したように流速比の制御に加えて上記のような加振機構を設けることで、流路サイズを変更すること無くより広い範囲で粒径を制御することができる。また、流路内の汚れなどで粒子径が変化した場合、ある程度の変動であれば加振機構を制御することで所望の粒子径に調整することも可能であるため、洗浄処理の回数を減らす効果も得られる。加えて、洗浄工程では流路に振動を加えることで、洗浄効果を高めることも可能である。
【0064】
(実施例3)
図9に、本発明を液体同士の界面反応や抽出に用いた場合の液体合流部20の拡大断面図を示す。なお、界面反応、抽出においても、実施例1にて説明したプライミング、洗浄処理は乳化と同様に重要な要素であり、液体合流部20以外の装置構成は図1、図2と同様として前述したようにプライミング、洗浄処理を行なうことで安定したシースフロー40の形成と、長時間の生産が可能となる。
【0065】
前述の実施例では連続相、分散相をシース流路22でシースフロー40に形成した後に、圧電素子31などを設けてエマルジョンを生成したが、液体同士の界面反応や抽出に用いる場合は、2種類の液体の送液量を調整し適当な長さのシース流路22へ、シースフロー40として送液することで、混じり合わない液体界面での反応・成分抽出などを行なうことが可能となる。シースフロー40は、片方の液体の周囲を他方の液体で覆った形であるため、体積辺りの2液体の接触界面面積が大きく、界面反応、抽出を高い効率で行える利点がある。シース流路22の長さについては、液体同士の相性(反応のし易さなど)や、処理量などから液体操作終了までの時間を計算し、流路内で処理が終了するのに必要な長さを備えるようにすると良い。
【0066】
また、図9では連続相処理流路13は分散相処理流路14と直交する形になっているが、よりシースフローを形成しやすくするために、連続相処理流路13をV字形として、分散相処理流路14の左右斜め上方向から連続相が合流する形としても良い。さらに、本実施例の場合、モニタリング装置30は濃度を工学的に観察する吸光度計や、生成物の成分を分析する液体クロマトグラフィのような物を目的に合わせて適宜設けることが望ましい。
【0067】
(実施例4)
本発明の洗浄に関する他の実施例について図10、11を用いて説明する。図10は連続相と分散相それぞれの原料と洗浄液の送液を1台のポンプで実施する場合の構成を示す図である。実施例1では原料と洗浄液は別々のポンプで送液する方式だったが、図10に示すように連続相切換バルブ81、分散相切換バルブ82をそれぞれ連続相ポンプ71、分散相ポンプ73の上流に設け、これらバルブを切換えることでポンプに原料あるいは洗浄液の任意の一方を供給する。この方式の場合、原料と洗浄液を切換える際にポンプ内の液体を置換する必要があり、実施例1と比較して洗浄処理に時間がかかるが、ポンプの数を半減させることができるため装置構成が簡易となり、製造コストを低減できる利点を持つ。
【0068】
(実施例5)
図11は洗浄液を循環式にした場合の構成を示す図である。実施例1では洗浄液は液体処理デバイス10へ送液された後、廃液タンク96へ送液され、そのまま廃棄する方式であった。これに対して本実施例では連続相、分散相各ラインに循環洗浄用の洗浄液タンクを1個ずつ追設し、最初にこの循環洗浄用の洗浄液で繰り返し洗浄を行ない、仕上げに非循環用洗浄液ですすぎを行なう2段階洗浄方式とした。この方式の利点は、循環洗浄を行なうことで洗浄液の消費量を低減できることにある。以下で洗浄工程の詳細を説明する。
【0069】
洗浄開始時に、まず連続相切換バルブ81を連続相洗浄ポンプ72の側に切換え、分散相切換バルブ82を分散相洗浄ポンプの側に切換え、連続相洗浄液切換バルブ86を連続相循環洗浄液タンク97の側に切換え、分散相洗浄液切換バルブ87を分散相循環洗浄液タンク98の側に切換え、連続相洗浄液循環バルブ88を続相循環洗浄液タンク97の側に切換え、分散相洗浄液循環バルブ89を分散相循環洗浄液タンク98の側に切換え、生成物切換バルブ83を廃液タンク96の側に切換えて、連続相と分散相の各洗浄液が液体処理デバイス10を経由して循環する流路を形成する。
【0070】
そして、この切換状態で連続相洗浄ポンプ72と分散相洗浄ポンプ73を動作させ、洗浄液を循環させながら配管と処理デバイス10内の各流路を洗浄する。
【0071】
循環している洗浄液を目視観察するなどして洗浄が十分行われたと確認した時点で、ポンプ72、74を停止させ、連続相洗浄液切換バルブ86を連続相洗浄液タンク92の側に切換え、分散相洗浄液切換バルブ87を分散相洗浄液タンク94の側に切換え、連続相洗浄液循環バルブ88と分散相洗浄液循環バルブ89を廃液タンク96の側に切換えて、連続相と分散相の各洗浄液が、液体処理デバイス10を経由して廃液タンク96へ送液される流路を形成する。この状態で連続相洗浄ポンプ72と分散相洗浄ポンプ73を再び動作させ、配管と処理デバイス10内の各流路のすすぎ洗いを行い洗浄が終了する。
【0072】
以上のような工程で洗浄を行なうことで、洗浄液の消費量を抑えながら、確実な洗浄を行なうことが可能となる。
【符号の説明】
【0073】
1…化学生産装置、10…液体処理デバイス、11…連続相主流路、12…分散相主流路、13…連続相処理流路、14…分散相処理流路、15…生成物流路、16…制御部、20…処理部(液体合流部)、21…合流部、22…シース流路、23…拡大流路部、24…分散相処理流路部出口、30…モニタリング装置、31…圧電素子、32…超音波素子、33…超音波、34…加振装置、40…シースフロー、41…中心流れ、42…被覆流れ、71…連続相ポンプ、72…連続相洗浄ポンプ、73…分散相ポンプ、74…分散相洗浄ポンプ、81…連続相切換バルブ(送液切換バルブ)、82…分散相切換バルブ(送液切換バルブ)、83…生成物切換バルブ、84…連続相主流路開閉バルブ、85…分散相主流路開閉バルブ、86…連続相洗浄液切換バルブ、87…分散相洗浄液切換バルブ、88…連続相洗浄液循環バルブ、89…分散相洗浄液循環バルブ、91…連続相タンク、92…連続相洗浄液タンク、93…分散相タンク、94…分散相洗浄液タンク、95…生成物タンク、96…廃液タンク、97…連続相循環洗浄液タンク、98…分散相循環洗浄液タンク、S1、S2…制御信号、S3〜S5…検出信号。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数μm〜1mm程度の微細な流路を複数有する処理デバイスに、2液以上を送液して、乳化、反応などを行なう化学装置において、
2液以上を流す複数の処理流路と、
上記処理流路の交差する部分で2液以上が合流して乳化、反応などの処理を行なう複数の処理部と、
処理デバイス外への排出口を有し、上記各処理流路に分岐して送液するために処理流路に比べて十分大きな断面積を有する一連なり形状の複数の主流路と、
上記処理部での生成物を処理デバイス外へ送出する生成物流路と、
上記主流路に液体または洗浄液を供給するポンプと、
上記ポンプの吐出側に設けられ、任意の液体を上記主流路に選択的に供給する送液切換バルブと、
上記主流路の排出口に設けられた主流路開閉バルブと、
上記生成物流路の送出口を回収側と廃棄側に切換える生成物切換バルブと、
上記生成物流路に送出される生成物の乳化や反応の状態を監視するモニタリング装置と、
事前の設定または上記モニタリング装置からの検出信号に基き、上記ポンプ、送液切換バルブ、主流路開閉バルブ及び生成物切換バルブを制御する制御部を設けたことを特徴とする化学生産装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学生産装置において、
上記制御部はプライミング処理に際し、事前の設定に基き、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物切換バルブを廃棄側に切換えた状態で、上記ポンプにより所定液を上記各主流路に供給し、次いで上記主流路開閉バルブを閉じると共に上記生成物切換バルブを回収側に切換えた状態で、上記ポンプにより所定液を各主流路を介して上記処理流路に送液するように、上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする化学生産装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学生産装置において、
上記制御部は洗浄処理に際し、事前の設定または上記モニタリング装置からの検出信号に基き、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物切換バルブを廃棄側に切換えた状態で、上記ポンプにより洗浄液を上記各主流路に供給し、次いで、上記主流路開閉バルブを閉じると共に上記生成物切換バルブを回収側に切換えた状態で、上記ポンプにより洗浄液を各主流路を介して上記処理流路に送液するように、上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする化学生産装置。
【請求項4】
請求項1または3に記載の化学生産装置において、
上記主流路は、処理デバイスの平面に溝状に形成された第1主流路と第2主流路からなり、上記処理流路は処理デバイスの平面に各主流路から複数分岐して溝状に形成された第1処理流路と第2処理流路からなり、上記処理部では、上記第1、第2処理流路をそれぞれ流れる第1液と第2液が合流し、第1の液体を中心として第2の液体がその周辺を覆う流れを形成して乳化、反応などの処理が行なわれ、乳化、反応などの生成物として上記生成物流路に集められ、
上記モニタリング装置は、生成物流路に送出される生成物の粒度分布などを計測し、その計測信号を上記制御部に送信することを特徴とする化学生産装置。
【請求項5】
請求項4に記載の化学生産装置において、
上記流体合流部は、合流した後の流路部分に加振する外力発生装置を備え、乳化時の粒子径を制御することを特徴とする化学生産装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の化学生産装置において、
上記流体合流部での各処理流路の角部に丸みを設けたことを特徴とする化学生産装置。
【請求項1】
数μm〜1mm程度の微細な流路を複数有する処理デバイスに、2液以上を送液して、乳化、反応などを行なう化学装置において、
2液以上を流す複数の処理流路と、
上記処理流路の交差する部分で2液以上が合流して乳化、反応などの処理を行なう複数の処理部と、
処理デバイス外への排出口を有し、上記各処理流路に分岐して送液するために処理流路に比べて十分大きな断面積を有する一連なり形状の複数の主流路と、
上記処理部での生成物を処理デバイス外へ送出する生成物流路と、
上記主流路に液体または洗浄液を供給するポンプと、
上記ポンプの吐出側に設けられ、任意の液体を上記主流路に選択的に供給する送液切換バルブと、
上記主流路の排出口に設けられた主流路開閉バルブと、
上記生成物流路の送出口を回収側と廃棄側に切換える生成物切換バルブと、
上記生成物流路に送出される生成物の乳化や反応の状態を監視するモニタリング装置と、
事前の設定または上記モニタリング装置からの検出信号に基き、上記ポンプ、送液切換バルブ、主流路開閉バルブ及び生成物切換バルブを制御する制御部を設けたことを特徴とする化学生産装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学生産装置において、
上記制御部はプライミング処理に際し、事前の設定に基き、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物切換バルブを廃棄側に切換えた状態で、上記ポンプにより所定液を上記各主流路に供給し、次いで上記主流路開閉バルブを閉じると共に上記生成物切換バルブを回収側に切換えた状態で、上記ポンプにより所定液を各主流路を介して上記処理流路に送液するように、上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする化学生産装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学生産装置において、
上記制御部は洗浄処理に際し、事前の設定または上記モニタリング装置からの検出信号に基き、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物切換バルブを廃棄側に切換えた状態で、上記ポンプにより洗浄液を上記各主流路に供給し、次いで、上記主流路開閉バルブを閉じると共に上記生成物切換バルブを回収側に切換えた状態で、上記ポンプにより洗浄液を各主流路を介して上記処理流路に送液するように、上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする化学生産装置。
【請求項4】
請求項1または3に記載の化学生産装置において、
上記主流路は、処理デバイスの平面に溝状に形成された第1主流路と第2主流路からなり、上記処理流路は処理デバイスの平面に各主流路から複数分岐して溝状に形成された第1処理流路と第2処理流路からなり、上記処理部では、上記第1、第2処理流路をそれぞれ流れる第1液と第2液が合流し、第1の液体を中心として第2の液体がその周辺を覆う流れを形成して乳化、反応などの処理が行なわれ、乳化、反応などの生成物として上記生成物流路に集められ、
上記モニタリング装置は、生成物流路に送出される生成物の粒度分布などを計測し、その計測信号を上記制御部に送信することを特徴とする化学生産装置。
【請求項5】
請求項4に記載の化学生産装置において、
上記流体合流部は、合流した後の流路部分に加振する外力発生装置を備え、乳化時の粒子径を制御することを特徴とする化学生産装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の化学生産装置において、
上記流体合流部での各処理流路の角部に丸みを設けたことを特徴とする化学生産装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−25148(P2011−25148A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173066(P2009−173066)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
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