説明

化学種定量方法及び化学種定量装置

【課題】分光分析法により、被検固体の面上の化学種を精度よく定量する。
【解決手段】被検固体の面上の予め定められた領域を分割した単位領域上の化学種を分光分析により定量し、この定量結果に基づき、前記予め定められた領域における化学種を定量する。そして、前記単位領域毎の定量結果を比較し、この比較に基づいて、前記単位領域での定量結果を前記予め定められた領域における化学種を定量するデータとして採用するか否かを判断する。化学種が劣化により生成するものであれば、劣化度を診断することができる。また、分光分析を固体断面に適用すれば、深さ方向の化学種の分布を検出することができ、深さ方向の反応速度や化学種が含まれるサンプルの厚さを検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
固体面上の化学種を定量する方法及びその装置に関する。特に、IR吸収スペクトルの吸光度より化学種を定量する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
IR(赤外分光)分析法は光源からの赤外線に対して、有機物の官能基による特定波長の吸収、反射光を検出し、有機物の定性分析を実施する分析機器(例えば、特許文献1)である。しかし、光源及びサンプルに対して赤外線吸収スペクトルの量的相関がないため、定量分析には向かないとされている。
【0003】
IR分析装置で定量分析を実施する場合、分析したい成分の既知濃度の標準サンプルを用いるか、サンプルに目的成分を添加して濃度を変えた時の標準添加法により、濃度と赤外線吸収ピークの検量線を作成して同一条件下で測定したサンプルについて、相対比較する方法がある。
【0004】
このように、IR分析法で定量的に比較する場合、同一条件で標準サンプルとの比較による相対比較しか信頼性がなく、異なるサンプルを別の条件下で測定した時には量的検証が難しく、相対比較しかできない。
【0005】
しかし、近年の光源と赤外線検出器の発達により、微小面積に対しての赤外線吸収特性データを採取し、特定官能基の吸収スペクトルの2次元的な分布を測定できるイメージングIR分析装置というものが市販されてきた(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。この装置によれば、サンプル表面の位置での特定波長の吸収量変化量が得られる。
【0006】
イメージングフーリエ変換赤外線(FT−IR)分析装置は通常のFT−IRに「位置データメモリ」と「IRデータメモリ」を連結して測定、解析ができる分析装置であり、官能基等の面分析が可能となっている。
【0007】
イメージングFT−IR分析装置は複数の赤外線検出器を列状又は碁盤の目状に配置した検出プローブを有し、位置データと赤外線吸光度のデータを関連付けて記憶するIR分析装置である。
【0008】
光学系の位置、倍率設定によりサンプル表面の測定位置、分割の粗さを指定して赤外線吸光度測定毎に指定範囲内をプローブで検索するように移動して、各官能基による検出ピークの2次元配置上の分布を表示できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−21142号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“イメージングフーリエ変換赤外分光光度計(イメージングFT−IR)”、[online]、株式会社日東分析センター、[2009年1月30日検索]、インターネット(URL:http://www.natc.co.jp/service/list/ft_ir.html)
【非特許文献2】“イメージングIRによる分析”、[online]、2008年1月18日、株式会社三井化学分析センター、[2009年1月30日検索]、インターネット(URL:http://www.mcanac.co.jp/service/pdf/ma_pdf_34.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
液体のように混合して撹拌すればどこでも均一とみなせる場合、IRによる検量線法で組成物の定量及び絶対比較が可能である。しかし、添加物が均一になりにくい固体や高粘度物質では測定精度が著しく低下する。
【0012】
したがって、表面反応や吸着物質のような表面の局在化したものや、複数の有機物組成の薄膜についてはIR分光分析で定量分析を実施することが難しく、IR分光分析は固体の定量には用いられず、液体サンプルの定量分析として応用されている。
【0013】
固体のように不均一な物質の定量を行う場合には、質量分析やゲル浸透クロマトグラフが適用され、質量又は容積を分母とした平均値としての定量値を測定する方法がある。
【0014】
質量分析やゲル浸透クロマトグラフは、有機物の定量分析によく用いられる方法であるが、これらの方法は均一物質を溶解又は熱分解して各成分を検出するので、不均一な固体等の局在化した物質や官能基を測定する場合にはサンプルの採取、分離等の前処理が必要となる。
【0015】
さらに、質量分析やゲル浸透クロマトグラフでは、表面反応のような固体表面数μmまでしか反応せず表面や深さの分布にばらつきがあるサンプルでは、微量サンプルで定量すると逆に採取毎のばらつきが大きくなってしまう。また、質量分析やゲル浸透クロマトグラフでは、事前に平均的なサンプルデータを採取しようとしても、空間的な分布や状態を把握することができない。
【0016】
目的官能基に特異な元素が含まれていれば、電子顕微鏡等によるEDX、WDX等の表面元素分析により、分布や定量分析を行う方法が可能である。しかし、電子顕微鏡などを用いた表面分析では元素分析、元素分布が中心であり、大部分の有機物官能基は炭素、水素、酸素、窒素等で構成されているため、塩素や燐等、特殊な元素を含む官能基以外は有機物の官能基は分析不可能となる。
【0017】
したがって、本発明は分光分析法を用いて測定したデータから、固体面上の官能基等の化学種を定量的に、精度よく評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明の化学種定量方法は、被検固体の面上の予め定められた領域を分割した単位領域上の化学種を分光分析により定量し、この定量結果に基づき、前記予め定められた領域における化学種を定量する方法であって、前記単位領域毎の定量結果を比較し、この比較に基づいて、前記単位領域での定量結果を前記予め定められた領域における化学種を定量するデータとして採用するか否かを判断することを特徴としている。
【0019】
また、本発明の化学種定量装置は、被検固体の面上の予め定められた領域を分割した単位領域上の化学種を分光分析により定量する手段と、前記単位面積毎の定量結果を比較し、この比較に基づいて、前記単位領域での定量結果を前記予め定められた領域における化学種を定量するデータとして採用するか否かを判断する手段と、前記単位領域での定量結果に基づき、前記予め定められた領域における化学種を定量する手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
したがって、以上の発明によれば、分光分析法により、固体面上の化学種を精度よく定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る化学種定量装置の概略図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る化学種定量方法の測定フロー。
【図3】イメージングフーリエ変換赤外線分光光度計の計測概念図。
【図4】(a)本発明の第1実施形態に係る分光分析結果(赤外透過率)、(b)本発明の第1実施形態に係る分光分析結果(吸光度)、(c)本発明の第1実施形態に係る分光分析結果(吸光度)、(d)本発明の第1実施形態に係る分光分析結果(吸光度)。
【図5】本発明の第1実施形態に係る分光分析結果(吸光度)。
【図6】本発明の第1実施形態に係る化学種定量方法の測定結果。
【図7】本発明の第1実施形態に係る化学種定量方法の測定結果。
【図8】劣化により生成する反応生成物の増加量のワイブル解析結果。
【図9】(a)測定対象試料の断面図、(b)本発明の第2実施形態に係る化学種定量方法の測定結果。
【図10】本発明の第2実施形態に係る化学種定量方法の測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る化学種定量方法は、分光分析の分析結果とその分析位置でのデータを利用して、得られた分光分析結果を定量化するものである。特に、分光分析による化学種の定量化において定量精度を向上させるものである。
【0023】
本発明に係る化学種定量方法及び化学種定量装置は、化学種(例えば、官能基)の検出量が安定しなおかつ、個々のサンプルでの差異が検出できるような測定部位(すなわち、本発明に係る予め定められた領域に相当)を設定し、分光分析(例えば、イメージングIR)の測定グリッド(すなわち、本発明に係る単位領域に相当)を位置における最小面積単位として用いることを特徴としている。
【0024】
そして、この各グリッド上の分光分析結果(例えば、赤外線吸収ピークの大きさ)を平均化した値に基づいて、化学種の濃度を精度よく定量している。
【0025】
一般に使用されるプラスチックは主成分の高分子を主体に他の樹脂をブレンドしたり、無機充填材、繊維その他のものが添加されているものが多いので、樹脂表面を拡大すると均質物ではなく、場所によって成分の構成比が微妙に異なっている。
【0026】
そこで、本発明に係る化学種定量方法を樹脂の劣化診断に用いれば、診断する樹脂表面が均質でなく、場所により検出量が微妙に異なっていても、特定の化学種(官能基)をマーカーとして測定し、劣化の定量を精度よく行うことができる。さらに、狭い範囲で定性、定量測定を実施しても各成分の比率の信憑性を向上することができる。
【0027】
本発明の第1実施形態に係る化学種定量方法及び化学種定量装置について、実施例をあげて詳細に説明する。本発明の第1の実施例は、イメージングフーリエ変換赤外線(FT−IR)分光光度計を用い、樹脂面上の官能基(カルボン酸)を定量する方法である。
【0028】
図1は、本発明の第1実施形態に係る化学種定量装置の概略図である。
【0029】
本発明の第1実施形態に係る化学種定量装置7は、光源部1、試料部2、検出部3、フーリエ変換部4、データ処理部5、出力部6を備える。
【0030】
光源部1からの赤外線(IR)が試料部2の試料に照射される。IRが試料に照射されると、試料に透過又は反射したIRを検出部3で検出する。
【0031】
検出部3で検出した信号は、フーリエ変換部4でフーリエ変換され、試料固有の赤外スペクトルが得られる。このデータは、データ処理部5に送られ、分光分析結果とともに分析位置情報も記録される。そして、分析結果が出力部6に出力される。
【0032】
また、データ処理部5では、予め設定された単位領域あたりの各分析結果を比較し、測定誤差が大きい場合(数%以上)は、測定をやり直す機能を備えている。
【0033】
化学種定量装置7による測定フローを図2に示す。
【0034】
先ず、測定に先立ち、測定するサンプルの表面が均一であるか目視で観察する。目視観察により、表面が均一である位置、及び測定部位(すなわち、本発明に係る予め定められた領域に相当)が決定(選択)される。
【0035】
図3に示すように、測定サンプル面には、樹脂基本素材31の他に、劣化部分32や無機充填材33、樹脂添加物34等が存在し、測定サンプル面は均質ではない。そこで、劣化部分32等が検出できる範囲であり、且つIRによる官能基の検出量が安定する測定部位を選択する。そして、その測定部位を数百点以上に分割した最小領域(例えば、IRの検出グリッド)に基づき官能基の定量を行う。例えば、1ピクセル検出グリッドの1辺を5μm〜125μmに設定するとよい。
【0036】
例えば、第1実施例では、任意の5mm×5mmの測定部位を予め定め、この測定部位を125μm間隔で測定し(この125μm×125μmの領域は、本発明の単位領域に相当)、41×41の1681点のカルボン酸の吸光度を測定した。
【0037】
ステップS1で、単位領域のFT−IR分光分析を行い、IRイメージ像を採取する。各グリッド(単位領域)で測定されるピーク(例えば、図3ではIRの赤外透過率)から、予め選択された測定対象ピーク(第1実施例ではカルボン酸の赤外透過率(波長1720cm-1))を抽出し、データ処理部5が数値化し、出力部6で可視化される。
【0038】
ここで、イメージ像を採取する際の分析結果を数値化する方法について図4、図5を参照して説明する。図4(a)は、カルボン酸の赤外透過率(%T)を示している。
【0039】
赤外透過率(%T)で標記した場合、赤外吸収は、分子結合部に赤外吸収があると赤外透過率は減少する。そのため、測定前後の変化を定量した際、最初になかった結合が新たに結合形成されると赤外透過率100%→50%と数値が下がる。すなわち、結合変化量が増加した場合に透過率が減少するため理解しにくい。そこで、データ処理部5では、赤外透過率(%T)を吸光度(Abs)に変換し、定量評価を行う際には図4(b)〜図4(d)で示すように吸光度(Abs)で評価するとよい。
【0040】
まず、官能基の吸光度より、どの結合(赤外吸収波長)を定量化するかを決定する。選択した赤外吸収波長を点線で示す。赤外吸収波長を決定した後、その波長での吸光度を数値化する。
【0041】
数値化する方法は、測定データをそのまま数値化する方法(図4(b))、ベースラインを設定し、吸光度からベースの吸収スペクトルを引いた値を数値化する方法(図4(c))、決定した赤外吸収波長のピークが立ち上がる前と立ち上がった後の吸光度の平均値を算出し、吸光度からこの平均値を引いて、赤外吸収の吸光度のみを求める方法(図4(d))がある。
【0042】
図4(a)は、単一試料でベースラインが安定している場合に適している。また、図4(c)、図4(d)は、通常のIR分析で行われることであり、図4(c)で示した方法は、同じ材質の試料について特定の官能基の量的変化を数値化、比較する場合に適し、図4(d)で示した方法は、異なる材質のサンプルについて、特定の官能基の量を数値化、比較する場合に適する。
【0043】
図5を参照し、具体的な例をあげてカルボン酸の定量値を算出する方法を説明する。樹脂基本素材31のピーク(ここではエチレン基が示す吸光度)を基準ピークとし、樹脂の劣化により生じるカルボン酸(吸収波長1720cm-1)の吸光度よりカルボン酸を定量する。
【0044】
基準ピークの測定値からベース(ブランク)分(図5のaで示す部分)を引いた値を基準ピークの吸光度とし、カルボン酸の測定値からベース分(図5のbで示す部分)を引いた値をカルボン酸基の吸光度とする。
【0045】
そして、以下に示す(1)式で、カルボン酸の定量値を算出した。
カルボン酸の定量値=(カルボン酸の吸光度)/(基準ピークの吸光度) …(1)
ステップS2では、データ処理部5が、ステップS1で測定された、各測定エリアでの分光分析結果の誤差を検出する。
【0046】
誤差が少ない(例えば、1%程度)場合(ステップS2でOK)、ステップS3において、基準領域(125μm×125μm)でのカルボン酸の定量値の平均値を算出し、この平均値を測定部位(5mm×5mm)での定量値とする。なお、平均値を算出する場合、平均値から大きくずれた値を排除することにより測定部位の定量値の精度を向上させることもできる。
【0047】
基準領域の測定結果には、位置情報も付加されているため、図6に示すように測定データと位置情報に基づいて、基準エリアの測定結果を出力部6で可視化することができる。
【0048】
測定部位の定量値は、数百〜数万のオーダーで測定された各基準領域での測定値の平均値であるため、従来の定量方法と比較して顕著に定量精度が向上した(例えば、第1実施例では2桁以上精度が向上した)。
【0049】
誤差が大きい場合(ステップS2でNG)、再び測定部位を決定するところから測定をやり直す。
【0050】
以上説明した測定フローを繰り返すことにより、任意に設定した測定部位でばらつきの少ない平均的な分析結果を得ることができる。そして、測定部位での定量値の精度が向上する。
【0051】
図7に、カルボン酸をマーカーとして、他の樹脂や充填材、添加剤をブレンドした樹脂の経時的な劣化度を測定した結果を示す。
【0052】
図7より明らかなように、劣化によるカルボン酸の増加量をイメージングFT−IR測定により、測定部位におけるカルボン酸の分散状況及び、カルボン酸の定量値を精度よく検出することが可能である。
【0053】
本発明の化学種定量方法では、顕微鏡目視により樹脂表面が均一な場所を選択し、ある程度以上の広さでの測定部位を設定する。そして、この測定部位を数百点以上に分割し基準領域とし、各基準領域内のマーカーとなる官能基の赤外線吸収量を測定し、各基準領域内の官能基の定量を行う。そして、基準領域での官能基の定量値の平均化を行うことで、測定部位での官能基の定量化を行う。その結果、同一サンプルの上では誤差1%台で十分バラつきの少ない定量値を得ることができた。
【0054】
そして、ブレンド樹脂や充填材が多量に含まれる樹脂は表面の微細部毎に定量組成が異なり、赤外線の照射される部位の吸収量がばらつくようなサンプルにおいても定量的な測定が可能となった。
【0055】
したがって、樹脂の固体表面における劣化度を定量的に測定することが可能となり、劣化診断、寿命予測に適用できた。
【0056】
また、本発明の化学種定量方法を、固体と気体の接触面や樹脂への紫外線照射によって発生する表面反応により生じる化学種の定量に用いれば、劣化等の反応速度を簡単に定量測定することが可能となり、信頼性評価の判定パラメータとして活用できる。
【0057】
本発明の化学種定量方法により、劣化により増加する反応生成物の官能基を定量化し、劣化官能基の増加量をワイブル解析したところ、図8に示すように実際の不具合頻度と一致する傾きの直線が得られた。
【0058】
本発明の第2実施形態に係る化学種定量方法について、図9、図10を参照して説明する。
本発明の第2実施形態に係る化学種定量方法は、イメージングIRにより表面反応の断面侵食深さ解析を解析するものである。
【0059】
すなわち、分光分析(例えば、イメージングIR分析)による化学種定量方法を、樹脂表面ではなく樹脂断面の化学種分布に適用すると、表面反応の樹脂内部への浸透速度や樹脂薄膜積層材料の厚さ測定等が可能となる。
【0060】
第1実施例で、図5を参照して説明したように、基準ピークと識別官能基のピークにより、識別官能基を定量化するので、熱による溶融分散のように、断面の厚さにより組成が変化するような(例えば、高分子フィルムを熱圧着したようなもの)サンプルに対しても精度良く識別官能基の定量を行うことができる。
【0061】
本発明の第2実施形態に係る化学種定量方法を具体的な実施例をあげて説明する。
本発明の第2実施例は、図9に示すように、表面反応の樹脂内部への浸透深さを計測したものである。
【0062】
表面反応は、深さ方向に不均一に進行し、まばらな分布となる。そこで、第2実施例のように、本発明に係る化学種定量方法をサンプルの断面に対して適用し、化学種(識別官能基等)を定量化することで図10に示すような深さ方向の定量値(濃度)を得ることができる。
【0063】
他にも多層の高分子フィルムを熱圧着し、熱による溶融分散や圧力による膜厚減少後の実際の平均厚さを計測することができる。
【0064】
第2実施形態に係る化学種定量方法によれば、色調が同じで光学観察では樹脂層と接着剤層や塗膜の厚さが判別できないサンプルの膜厚測定にも利用することができる。
【0065】
以上のように、本発明に係る化学種定量方法及び、化学種定量装置によれば、イメージングIR分析装置やラマン分光マッピング分析装置等の分析データに対応する位置パラメータを持ち画像化する機能がある分光分析装置を用いて、単位領域での平均吸光度や平均散乱光度等の分光分析結果に基づいて、測定部位の定量値を算出することにより、サンプル面上の化学種の絶対値比較が可能となり、固体面上の化学種の定量化ができる。
【0066】
すなわち、表面状態による誤差を均一化できる程の大きさを持つ測定部位を微小な領域に分割し、この分割された領域(基準領域)で分光分析法を用いて測定した目的官能基の赤外線吸収量等の各分光分析結果より、基準領域での官能基の定量化を行う。そして、各基準領域での官能基の定量値を平均化したものを測定部位における目的官能基の定量値とすることにより、サンプルの単位での特定官能基の占有率として絶対値比較の可能な定量値を得ることができる。なお、測定部位の面積を広くすることにより、定量精度を向上させることができる。
【0067】
したがって、測定部位で平均化された定量値が得られることから、固体表面の反応のように位置によってばらつきのある反応や劣化状態の経時的変化の解析を容易に行うことができる。
【0068】
また、深さ方向の長さを位置パラメータとすれば、反応速度や層間厚さを測定することができる。
【0069】
つまり、透明な樹脂では光学的方法で積層膜の膜厚を測定するのは困難であったが、断面深さ方向の数値解析により、有機物の積層薄膜等の光学的に層の見分けがつかないサンプルにおいても、識別官能基があれば層間厚さを測定することができる。
【0070】
さらに、一定時間毎に濃度解析を実施すれば、経過時間による断面の深さ方向の濃度変化を計測することができるので、気体/固体における表面反応の反応速度や固体/液体の浸透速度を解析することが可能となる。
【0071】
なお、本発明に係る化学種定量方法及び化学種定量装置は、上記実施形態で説明した内容に限定されるものではなく、測定部位の範囲及び基準領域の範囲等は適宜変更することができる。特に、分光分析方法は、IR分光分析や、ラマン分光分析等分光分析等が利用でき、検出するものも吸光度や散乱光、発光スペクトル等を検出すればよい。また、検出する化学種も官能基に限定するものではなく、分子、イオン等でもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検固体の面上の予め定められた領域を分割した単位領域上の化学種を分光分析により定量し、
この定量結果に基づき、前記予め定められた領域における化学種を定量する方法であって、
前記単位領域毎の定量結果を比較し、
この比較に基づいて、前記単位領域での定量結果を前記予め定められた領域における化学種を定量するデータとして採用するか否かを判断する
ことを特徴とする化学種定量方法。
【請求項2】
前記分光分析は、赤外線分光分析又はラマン分光分析である
ことを特徴とする請求項1に記載の化学種定量方法。
【請求項3】
前記化学種は官能基である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化学種定量方法。
【請求項4】
前記化学種は、前記被検固体の劣化により生じるものである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の化学種定量方法。
【請求項5】
前記被検固体の面は、当該被検固体の断面である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の化学種定量方法。
【請求項6】
前記分光分析を一定時間毎に行う
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の化学種定量方法。
【請求項7】
前記単位領域での定量結果に応じた値に色を設定し、
前記定量結果を画像化する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の化学種定量方法。
【請求項8】
被検固体の面上の予め定められた領域を分割した単位領域上の化学種を分光分析により定量する手段と、
前記単位面積毎の定量結果を比較し、この比較に基づいて、前記単位領域での定量結果を前記予め定められた領域における化学種を定量するデータとして採用するか否かを判断する手段と、
前記単位領域での定量結果に基づき、前記予め定められた領域における化学種を定量する手段とを
備えた
ことを特徴とする化学種定量装置。
【請求項9】
前記化学種は、前記被検固体の劣化により生じる
ことを特徴とする請求項8に記載の化学種定量装置。
【請求項10】
前記分光分析は、赤外線分光分析又はラマン分光分析である
を特徴とする請求項8又は9に記載の化学種定量装置。
【請求項11】
前記化学種は、前記被検固体に浸透した固体又は液体又は気体である
ことを特徴とする請求項8から請求項10のうちいずれか1項に記載の化学種定量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−216818(P2010−216818A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60557(P2009−60557)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】