説明

化粧シート及び化粧材

【課題】ABS樹脂を使用した機器との接着性を損なうことなく、耐候性を向上させた化粧シート及びそれを用いた化粧材を提供すること。
【解決手段】表面側から透明アクリル系樹脂シート、ヒートシール剤層、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(以下、ASAとする)樹脂シートを積層してなること、前記ヒートシール剤及び絵柄層のバインダーが、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とを配合した樹脂からなるものであって、前記アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との配合比が4対6〜8対2であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電商品、パソコン周辺機器、携帯電話などの通信機器、バス・トイレタリー用具、建築内装材や家具材、車両内装材、遊戯機等として使用するための意匠性に優れ、層間強度が高く、リサイクルしやすい化粧シート、および当該化粧シートを使用したアクリル樹脂/アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム(以下、ASAとする。)樹脂からなるリサイクルしやすい化粧材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記用途の各種機器には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(以下、ABSとする)樹脂を射出成形したものが多く用いられている。そしてその表面に絵柄の意匠を施す方法としては、予め熱可塑性樹脂シートに絵柄の印刷を施した化粧シートを成形後あるいは成形と一体成形により、その表面に熱プレスやドライラミネートで積層する方法が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、化粧シートにABS樹脂を使用すると、その耐候性が弱い為、極端な日光の照射を受けた場合、退色しやすい傾向があった。耐候性の弱さはABS樹脂内のブタジエンゴムに起因するものと思われる。
【特許文献1】特開2006−205421
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところはABS樹脂を使用した機器との接着性を損なうことなく、耐候性を向上させた化粧シート及びそれを用いた化粧材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のこの課題を解決するものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、表面側から透明アクリル系樹脂シート、ヒートシール剤層、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(以下、ASAとする)樹脂シートを積層してなることを特徴とする化粧シートである。
【0006】
またその請求項2記載の発明は、前記透明アクリル系樹脂シートのヒートシール剤層側の面、又はASA樹脂シートのいずれか一方の面に、絵柄層を設けたことを特徴とする請求項1記載の化粧シートである。
【0007】
またその請求項3記載の発明は、前記ヒートシール剤及び絵柄層のバインダーが、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とを配合した樹脂からなるものであって、前記アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との配合比が4対6〜8対2であることを特徴とする、請求項2記載の化粧シートである。
【0008】
またその請求項4記載の発明は、前記アクリル樹脂のガラス転移点が80〜120℃であり、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂のガラス転移点が−30〜60℃であることを特徴とする、請求項3記載の化粧シートである。
【0009】
またその請求項5記載の発明は、前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の化粧シートを一次成形した後、ABS樹脂を射出成形する際に前記化粧シートと一体成形してなることを特徴とする化粧材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明はその請求項1記載の発明により、基材シートを従来のABS樹脂シートからASA樹脂シートに置き換えることで、ABS樹脂を使用した機器との接着性を損なうことなく、耐候性を向上させることが可能となる、という作用効果を奏する。
【0011】
またその請求項2記載の発明により、これらの層間に絵柄層を設けることで、さらに意匠性の向上した化粧シートを提供することが可能となる。
【0012】
またその請求項3記載の発明より、さらに熱ラミネート後の層間剥離力の向上した化粧シートを提供することが可能となる。
【0013】
またその請求項4記載の発明より、さらに熱ラミネート後の層間剥離力の向上した化粧シートを提供することが可能となる。
【0014】
またその請求項5記載の発明により、本発明の化粧シートと一体成形することでまとめてリサイクルできる化粧材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の化粧材の一実施例の断面の構造を示す。ABS樹脂からなる機器基材1に、ASA樹脂シート2とヒートシール剤層3と適宜設ける絵柄層4と透明アクリル系樹脂シート5とからなる化粧シートを一体成形して設けてなる。
また、図示しないが、必要に応じて任意の層間に接着剤層を設けたり、透明アクリル系樹脂シート5の表面にエンボス加工やワイピング加工を施したり、表面保護層を設けたり、ASA樹脂シート2の裏面にバッカー層、接着剤層又は易接着プライマー層を設けたりすることも任意である。
【0016】
本発明におけるASA樹脂シート2としては、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体樹脂からなるシートであるが、着色顔料、充填剤、補強剤、その他の樹脂組成物を本願発明の目的とする物性を損なわない範囲で添加することができる。
【0017】
本発明におけるヒートシール剤層3及び絵柄層4のバインダー樹脂としては、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の混合品、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体及びポリエステル樹脂の混合品、及びこれらの樹脂の混合品等が使用可能であり、シート上の基材を熱ラミネートするには特には低温での熱ラミネートの点でアクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の混合品が好適である。
【0018】
また、ヒートシール剤層3及び絵柄層4のバインダー樹脂が、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなるバインダー樹脂において、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の部数の配合比が4対6から8対2の範囲にあるときが、熱ラミネート後の層間強度に最適である。特には、5対5から7対3が熱ラミネート後の層間強度に最も望ましい。
【0019】
また、ヒートシール剤層3及び絵柄層4のバインダー樹脂が、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなるバインダー樹脂において、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体のガラス転移点がそれぞれ80℃から120℃、−30℃から60℃の範囲にあるときが、熱ラミネート後の層間強度に最適である。特には、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体のガラス転移点がそれぞれ90℃から100℃、−20℃から30℃の範囲にあるときが熱ラミネート後の層間強度に最も望ましい。
【0020】
ヒートシール剤層3のヒートシール剤の乾燥後の塗布量としては0.1g/m2〜2g/m2が層間剥離力の点で好適である。
【0021】
本発明における絵柄層4としては、透明アクリル系樹脂シート5の裏面又はASA樹脂シート2の表面に設けられるものであり、そのインキの組成や印刷方法等は特に限定されるものではないが、例えばアクリル系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系、ウレタン系、ポリエステル系、繊維素誘導体系、塩素化ポリプロピレン系、ポリビニルブチラール系等又はそれらの2種以上の混合系等の印刷インキ又は塗料を使用して、例えばグラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、静電印刷法等の各種印刷法や、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、リップコート法、ダイコート法、コンマコート法等の各種塗工法、その他、フォトリソグラフ法、電子写真法、転写法等、適宜の画像形成方法で形成すればよい。
【0022】
前記絵柄層4がなす絵柄の種類は、特に限定されず、所望により任意であるが、例えば木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学図形、文字、記号等、或いはそれらの2種以上の組み合わせ等であり、全面ベタ印刷であってもよい。
【0023】
また、該絵柄層4の形成に際し、溶剤系の印刷インキ又は塗料を使用して、透明アクリル系樹脂シート5の裏面又はASA樹脂シート2の表面に直接印刷しようとすると、これらの樹脂シートは、印刷適性に劣るために、印刷された絵柄がかすれたり、シートの耐溶剤性に劣るために、印刷面が荒れて絵柄の鮮映性が低下したり、樹脂シート中に膨潤浸透して残留した溶剤が、貼り合わせ後に気化して膨れを生じたりする場合がある。
【0024】
係る問題を回避するためには、これらのシートへの直接印刷に代えて、予め離型性の転写基材シート(図示無し、例えば厚み25μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、エチレン−テトラフロロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂フィルム等、或いはそれらの非印刷面に紙を積層したもの、例えばポリエチレンラミネート紙、ポリプロピレンラミネート紙等を使用することができる。この絵柄層4を形成した転写シートを用意しておき、この転写シートを使用して、透明アクリル系樹脂シート5の裏面又はASA樹脂シート2の表面に絵柄層4を転写形成する方法によってもよい。
【0025】
この方法によると、印刷適性に優れた転写基材シートの表面への印刷により、かすれのない良好な画質の絵柄層4が得られることはもとより、絵柄4を転写基材シート上で十分に乾燥させて溶剤分を除去しておくことにより、透明アクリル系樹脂シート5やASA樹脂シート2、絵柄層4の溶剤に侵されて表面が荒らされたり、貼り合わせ後に残留溶剤の気化により膨れを発生したりする問題を回避することができる。
【0026】
上記方法において、転写基材シートとしては、印刷インキに対する離型性や印刷適性、寸法安定性、耐熱性、耐溶剤性に優れたシート状体を使用することが望ましい。また、印刷面の表面平滑性に優れたシート状体を使用すると、転写後の絵柄層4面が平滑になることから、極めて鮮映性に優れた化粧シートが得られる利点がある。
【0027】
特に、絵柄層4に照り感や光沢感のある意匠表現のために真珠光沢顔料を使用する場合には、真珠光沢顔料の粒径が大きい(通例5〜100μm程度)ことから、直接印刷では印刷面が荒れやすい問題があるが、このような場合にも、上記した転写法を採用すれば、印刷面の荒れの問題を回避し、鮮映性に優れ、しかも照り感や光沢感を有する化粧シートを容易に得ることができる。
【0028】
また、得られた化粧シートを使用して、ASA樹脂シート側を射出成形同時ラミネート法によりABS樹脂成形品の表面に積層した化粧材を作製することができる。この化粧材は、化粧シートを分離せずにそのまま粉砕しても、再度射出成形用樹脂として再利用できるものである。
【0029】
以上の各シート層の厚さや化粧シートの総厚は特に限定されるものではないが、取り扱い性やABS樹脂成形品への積層の加工適性等を考慮し、一般的には、透明アクリル系樹脂シート層(1)の厚さは20〜150μm程度、ASA樹脂シートの厚さは50〜300μm程度、化粧シートの総厚は100〜500μm程度とすることが望ましい。
【0030】
透明アクリル系樹脂シート5にASA樹脂シート2を設ける方法としては、熱ラミネート法、ドライラミネート法、押出しラミネート法等により製造可能であり、特には生産性、表面の鏡面性保持、層間強度の点で熱ラミネート法が好適である。該熱ラミネート条件としては、該熱ラミネート時のヒートドラム温度が100℃から120℃、ラインスピード5m/minから15m/minがしわが入りにくく、層間強度、生産性の点で好適である。
【実施例1】
【0031】
ASA樹脂フィルム2として、厚さ100μmの着色ASA樹脂フィルム(テクノポリマー(株)製:「NFW100」)を用い、これにヒートシール剤層と絵柄層のバインダーとしてアクリル系/塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体混合(6:4)を用い、印刷によりヒートシール剤層3とインキによる絵柄層4と施した。この上に、透明アクリル系樹脂シート5として厚さ50μmの透明アクリルフィルム(三菱レイヨン(株)製:「アクリプレンHBS006」)を用い、これらを熱ラミネート法により積層して本発明の化粧シートを作製した。
【0032】
<比較例1>
前記ASA樹脂フィルム2の代わりに厚さ150μmの着色ABS樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、化粧シートを作製した。以上のようにして得た化粧シートの耐候耐色性を評価した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【実施例2】
【0034】
実施例1のシートを用いて予備成型加工を行い、実施例1の予備成型加工品の内部に溶融したABS樹脂を注入し(インサート成型)化粧材を作製した。
【0035】
<比較例2>
比較例1のシートを用いて予備成型加工を行い、実施例1の予備成型加工品の内部に溶融したABS樹脂を注入し(インサート成型)化粧材を作製した。以上のようにして得た化粧材の耐候耐色性を評価した。結果を表1に示す。
【0036】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の化粧シートは、家電商品、パソコン周辺機器、携帯電話などの通信機器、バス・トイレタリー用具、建築内装材や家具材、車両内装材、遊戯機等として使用するための意匠性に優れ、層間強度が高く、リサイクルしやすい化粧材としてなる化粧シートとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の化粧材の一実施例の断面の構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1…ABS製機器基材
2…ASA樹脂シート
3…ヒートシール剤層
4…絵柄層
5…透明アクリル系樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から透明アクリル系樹脂シート、ヒートシール剤層、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体樹脂シートを積層してなることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記透明アクリル系樹脂シートのヒートシール剤層側の面、又はアクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体樹脂シートのいずれか一方の面に、絵柄層を設けたことを特徴とする請求項1記載の化粧シート
【請求項3】
前記ヒートシール剤及び絵柄層のバインダーが、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂とを配合した樹脂からなるものであって、前記アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との配合比が4対6〜8対2であることを特徴とする、請求項2記載の化粧シート。
【請求項4】
前記アクリル樹脂のガラス転移点が80〜120℃であり、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂のガラス転移点が−30〜60℃であることを特徴とする、請求項3記載の化粧シート。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の化粧シートを一次成形した後、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂を射出成形する際に前記化粧シートと一体成形してなることを特徴とする化粧材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−110532(P2008−110532A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295019(P2006−295019)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(593173840)株式会社トッパン・コスモ (243)
【Fターム(参考)】