説明

化粧シート

【課題】高剥離強度であり、長時間水に濡れても強度の低下が少ない、合板、パーチクルボード、中質繊維板等の基材に貼り合せて化粧板とする表面材、特に、台所、トイレ等の水を使う場所で使用する床材用の表面材として好適に用いることができる化粧シートを提供する。
【解決手段】木材系パルプ80〜50重量%及びポリエチレン系合成パルプ20〜50重量%からなるパルプ、及び、該パルプに対して5〜15重量%の填料を含有した原紙に、アクリル系樹脂を原紙に対して25〜70重量%含浸し、その後ポリエチレン系合成パルプの融点以上の温度で熱処理した、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が130N/m以上である化粧シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビヤ印刷機によりベタ印刷と柄印刷を施し、合板、パーチクルボード、中質繊維板等の基材に貼り合せて化粧板となし、建材用あるいは家具用等の表面材、特に台所、トイレ、等の水を使う場所で使用する床材用の表面材に利用される化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
化粧シート基材は、薄紙、強化紙、含浸紙等を使用する紙をベースにするタイプと、塩化ビニルフィルム、ポリオレフィンフィルム等を使用するフィルムをベースにタイプに分けられる。近年、環境問題等を考慮し、フィルムから紙をベースにしたタイプ、中でも強度、加工適性の面から含浸紙を使用するタイプへの移行が進んでいる。
しかしながら、含浸紙はフィルムと比べて紙層間で剥離する欠点があり、さらに、水に濡れると強度が大きく低下する為、例えば床表面などの高剥離強度、高表面強度、耐水性、耐湿性を必要とする部位には使用が限られていた。
【0003】
高剥離強度、高表面強度を得るため、あるいは耐水性を改善ため、原紙の表面に保護層を有するシートが報告されている(特許文献1)。しかしながら、保護層を設けるために工程が煩雑になるばかりでなく、長時間水に浸された場合は、紙の木口から水が浸入し強度低下を十分には抑えることが出来ないという問題点があった。
そこで、原紙についての検討がおこなわれ、例えば、特許文献2には、耐水性のある含浸樹脂を用いる方法が開示されているが、耐水性低下の主原因がパルプを構成するセルロースに起因することから、長時間水に濡れた場合には強度低下を伴うという問題点があった。また、特許文献3には、合成繊維を混抄した後熱融着させて良好な耐水性を得る方法が提案されているが、抄造後に合成繊維を熱融着させるために含浸工程で樹脂が紙層内部に十分に入らなくなり高剥離強度を得ることが出来ないという欠点があった。
【特許文献1】特開平7−331594号公報
【特許文献2】特開平5−195491号公報、特開平11−58622号公報、特開2002−147004号公報
【特許文献3】特開平6−136685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来の問題点を解決することにあり、特に、高剥離強度で、水に濡れても強度低下が少ない化粧シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特定の含浸紙を熱処理したものが、上記課題を解決できることを見出したものである。
すなわち本発明は、
(1)木材系パルプ80〜50重量%及びポリエチレン系合成パルプ20〜50重量%からなるパルプ、及び、該パルプに対して5〜15重量%の填料を含有した原紙に、アクリル系樹脂を原紙に対して25〜70重量%含浸し、その後ポリエチレン系合成パルプの融点以上の温度で熱処理した、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が130N/m以上である化粧シート、
(2)化粧シートが床材用である、上記(1)記載の化粧シート、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の化粧シートは、高剥離強度であり、長時間水に濡れても強度の低下が少ない。従って、特に、台所、トイレ等の水を使う場所で使用する床材用の表面材の化粧シートとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられる原紙は、木材系パルプ80〜50重量%及びポリエチレン系合成パルプ20〜50重量%からなるパルプに、パルプに対して5〜15重量%の填料を配合して抄造したものである。
木材系パルプは、LBKP単独、あるいは必要に応じてNBKPを添加することが出来る。木材系パルプの叩解度は500〜600mlcsfにすることが望ましい。500mlcsf未満では叩解が進みすぎて含浸性が悪くなり高剥離強度が得られなくなる。一方、600mlcsfを越えると叩解が不十分なため紙の平滑性が低く印刷適性の点から好ましくない。
【0008】
ポリエチレン系合成パルプは、融点120〜140℃程度のものが用いられる。融点が120℃未満では乾燥工程で汚れやすく、また、紙の耐熱性の点からも好ましくない。一方、融点が140℃以上では含浸後の熱処理で熱融着するのに高温度が必要になり紙が黄変するという問題がある。
かかるポリエチレン系繊維としては、例えば、三井化学(株)製のSWP等の合成パルプが例示され、これらは、融点、繊維長、繊維径等が異なる2種以上のものを配合しても良い。
ポリエチレン系合成パルプが20重量%未満の配合では耐水性を上げる効果が不十分となり、一方50重量を越えるとウエット強度が低く含浸時に紙切れの問題が発生するとともにコスト的にも好ましくない。
【0009】
本発明で用いられる填料としては、原紙に遮蔽性を出す為に二酸化チタンに代表される白色系填料、あるいは有機、無機の着色顔料を挙げることができる。添加量がパルプに対して5重量%未満では遮蔽性が十分でなく、15重量%を越えると遮蔽性は良くなるが高剥離強度が得られにくくなり好ましくない。
【0010】
化粧シートには、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン(以下PAEと略す。)等の湿潤紙力剤、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ポリアクリルアミド等の紙力増強剤、硫酸バンド、高分子凝集剤等の歩留向上剤、消泡剤、等を必要に応じて添加することが出来る。
【0011】
原紙は、定法に準じ、湿式抄紙法で抄造される。
【0012】
原紙は、アクリル樹脂を原紙に対して25〜70重量%(含浸率として20〜41%)、より好ましくは30〜60重量%(含浸率として23%〜37.5%)含浸される。
アクリル系樹脂が25重量%未満では高剥離強度が得られなくなり、70重量%を越えると工程で汚れやすくなり、ブロッキングやコストの点からも好ましくない。
用いられるアクリル系樹脂としては、アクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸およびそのエステルの重合体および共重合体、アクリロニトリル、アクリルアミド、スチレンなどを共重合させたものを用いる事が出来る。これらアクリル系樹脂は、ソープフリー乳化重合したアクリル系樹脂、内部架橋剤により内部架橋したアクリル系樹脂、自己架橋剤により自己架橋したアクリル系樹脂を用いることが出来る。
また、スチレン−ブタジエンゴム系、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム系の樹脂などを混合して使用しても差支えがない。
含浸方法は、抄造後にインラインでサイズプレスなどにより含浸する方法、一旦抄造乾燥巻取後にオフラインでディップ含浸する方法の何れでも良い。
【0013】
本発明では含浸後にポリエチレン系合成パルプの融点以上の温度で熱処理される。
熱処理の条件としては、ポリエチレン系合成パルプの融点以上の温度、例えば130℃、1分間以上熱処理することが好ましい。
熱処理は、含浸後であれば、キャレンダー処理の前でも後でも良い。
【0014】
本発明の化粧シートは、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が130N/m以上、好ましくは150N/m以上のものである。なお、本発明でいう水浸漬後の紙層間剥離強度とは、紙層の中間でT字状態に剥がした際のウェット状態で測定した強度をいう。
紙層間剥離強度が130N/m未満であると、水を使用する場所に用いる表面材として用いた場合、剥離強度が低下し紙層間で剥がれることがある。
本発明は、一般の化粧板用の強化紙(化粧シート)の紙層間剥離強度が100N/m程度であること、水に24時間浸漬しても、紙層間剥離強度が130N/m以上であれば、水を使用する場所に用いられる表面材として用いても、十分な剥離強度であり、好適に用いられることを見出したものである。
【0015】
本発明の化粧シートは、含浸後に平滑処理がなされた、平滑度300秒以上のものが好ましい。平滑処理は、熱キャレンダー方式を使用することが特に望ましい。熱キャレンダー方式においてキャレンダーロール温度は80〜120℃に設定することが好ましい。80℃未満にすると平滑度が低下し、一方120℃を越えるとキャレンダー汚れが悪くなる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を挙げ詳細に説明する。
なお、実施例における化粧シートの特性は以下の方法で評価した。
(1)含浸率:式[1]により算出した。
【0017】
【数1】

【0018】
(2)紙層間剥離強度:紙のMD方向に15mm巾で切り出し、紙の層間で剥がれるようにT字に剥離させ、そのときの強度をテンシロン万能試験機(オリエンテック製PTM−100)にて測定した。
(3)24時間水浸漬後の紙層間剥離強度:上記紙層間剥離強度を測定する方法と同様に作製した測定用サンプルを、23℃の水の中に24時間浸漬した。その後、水中より取り出して吸取り紙で余分な水分を拭取り、紙の層間で剥がれるようにT字に剥離させ、そのときの強度をテンシロン万能試験機(オリエンテック製PTM−100)にて測定した。
【0019】
実施例1
リファイナーで600mlcsfに叩解したLBKP/NBKP(20/80)80重量部、融点135℃のポリエチレン系合成パルプ(三井化学製、SWP E790)20重量部、着色顔料10重量部、及び各種製紙用助剤(湿潤紙力剤PAE2重量部、硫酸アルミニウム3重量部、アルミン酸ナトリウム0.5重量部)を内添し、定法により湿式抄造法で原紙を抄造した。なお、原紙の乾燥温度は100℃としポリエチレン系合成繊維の融点以下の温度に調整した。
この原紙にアクリル系樹脂(日本ゼオン製、ニポールLX814)を含浸率が25.8重量%となるように含浸した。次いで、140℃で2分熱処理して繊維を熱融着させた後、スーパーキャレンダーにて平滑化処理して平滑度300秒の化粧シートを作製した。
【0020】
実施例2
実施例1において、ポリエチレン系合成パルプを融点が135℃のものに代えて120℃のもの(三井化学製、SWP AU690)を用いた以外、実施例1と同様に実施し(含浸率:26.5%)、化粧シートを作製した。
【0021】
実施例3
実施例1において、LBKP/NBKP(20/80)の添加量を80重量部にかえて50重量部及びポリエチレン系合成パルプの添加量を20重量部にかえて50重量部、及び、含浸率を34.8%とした以外、実施例1と同様に実施し、化粧シートを作製した。
【0022】
実施例4
実施例2において、LBKP/NBKP(20/80)の添加量を80重量部にかえて50重量部及びポリエチレン系合成パルプの添加量を20重量部にかえて50重量部とした以外、実施例1と同様に実施し(含浸率25.5%)、化粧シートを作製した。
【0023】
実施例5
実施例3において、熱処理時間を2分に代えて5分とした以外、実施例3と同様に実施し、化粧シートを作製した。
【0024】
比較例1
実施例2において、熱処理をアクリル系樹脂含浸後に代えてアクリル樹脂含浸前の原紙とした以外、実施例2と同様に実施し(含浸率25.2重量%)、化粧シートを作製した。
【0025】
比較例2
実施例1において、アクリル系樹脂の含浸率を19.0重量%とした以外、実施例2と同様に実施し、化粧シートを作製した。
【0026】
比較例3
実施例1において、パルプとしてポリエチレン系合成パルプを使用せず木材パルプ100重量部のみとした以外、実施例1と同様に実施し(含浸率28.2重量%)、化粧シートを作製した。
【0027】
実施例、比較例により得られた化粧シートの特性を表1に示す。
実施例1〜4で作製した化粧シートは、紙層間剥離強度が300N/m以上の高剥離強度が得られており、また、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度も150N/m以上の強度が得られた。水浸漬後の紙層間剥離強度の値は、化粧板用に用いられる含浸紙の紙層間剥離強度のレベルであり、本発明の化粧シートは、水に濡れても容易には剥離しない強度であることが分かる。
一方、比較例1で作製した化粧シートは含浸前にポリエチレン系合成パルプを熱融着したことによりほぼ同様の含浸率でありながら含浸性が悪いためか、紙層間剥離強度が低く、また、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度も100N/m程度と低い強度しか得られなかった。
また、比較例2で作製した化粧シートは含浸率が低く、紙層間剥離強度、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度共に低いものであった。
比較例3で作製した化粧シートは、高い紙層間剥離強度は得られたものの、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度は不十分なものであった。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の化粧シートは、高剥離強度であり、長時間水に濡れても強度の低下が少ないものであり、合板、パーチクルボード、中質繊維板等の基材に貼り合せて化粧板とする表面材、特に、台所、トイレ等の水を使う場所で使用する床材用の表面材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材系パルプ80〜50重量%及びポリエチレン系合成パルプ20〜50重量%からなるパルプ、及び、該パルプに対して5〜15重量%の填料を含有した原紙に、アクリル系樹脂を原紙に対して25〜70重量%含浸し、その後ポリエチレン系合成パルプの融点以上の温度で熱処理した、24時間水浸漬後の紙層間剥離強度が130N/m以上である化粧シート。
【請求項2】
化粧シートが床材用である、請求項1記載の化粧シート。

【公開番号】特開2008−81898(P2008−81898A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265082(P2006−265082)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】