説明

化粧料

【課題】
化粧料において、ソフトフォーカス効果、透明感、適度なカバー力、塗布時ののびの滑らかさ、塗布色、紫外線防御効果に優れた理想的な化粧料を提供すること。
【解決手段】
愛知県北設楽郡東栄町の振草地域で産出され、ハンター方式による白色度が88.0以上の振草産絹雲母の表面に、液滴噴霧プロセスを利用して酸化チタンを15〜25重量%被覆させた複合粉体を調製し、これを化粧料へ配合することにより、紫外線防御効果に優れながらも、のびの滑らかさが損なわれること無く、さらには、自然な隠ぺい力とソフトフォーカス効果を有する化粧料を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振草産絹雲母の表面に、液滴噴霧プロセスを利用して酸化チタンを被覆させた複合粉体を含有することにより、紫外線防御能を高めながら、滑らかな使用感と自然な仕上がりを付与した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料の重要な機能の一つに、紫外線から肌を守る機能がある。このため、従来から紫外線防御効果を化粧料に持たせるために、様々な酸化チタン、酸化亜鉛をはじめとする無機系紫外線防御剤やケイ皮酸系等の有機系紫外線吸収剤が汎用されている(非特許文献1〜3)。
【0003】
【非特許文献1】FRAGRANCE JOURNAL,27(5),PAGE25−30(1999)
【非特許文献2】J.SOC.COSMET.CHEM.JAPAN,VOL.31 ,NO.4,PAGE373−384(1997)
【非特許文献3】FRAGRANCE JOURNAL,28(5),PAGE26−32(2000)
【0004】
これらの技術の進歩は、紫外線の皮膚の老化に及ぼす影響や皮膚がんとの因果関係などから紫外線の有害性が明らかになってきた中で、一般消費者の紫外線防御の関心が高まり、より高い紫外線防御効果を有する化粧料の開発が必要となってきたことに起因する。
【0005】
しかしながら、紫外線のカット効果を高めるために、無機系紫外線防御剤や有機系紫外線吸収剤を増量すると、使用感や安全性の面で弊害が出てくる。
【0006】
例えば、紫外線防御効果を有する微粒子酸化チタンは分散性が悪く、凝集しやすいため、のびが悪く、高い紫外線防御効果を求めて高配合すると、塗布時ののびの滑らかさを失うという問題点があった。さらには、皮膚の上では均一に塗布されないため、隙間が空いてしまい、微粒子酸化チタンの配合に見合った紫外線防御効果を得られないという欠点や、化粧膜に厚みが出る、微粒子酸化チタンの青白さが現れるなど仕上がりについて不自然さが目立ってくる。
【0007】
これらの問題を解決するため、これまで様々な発明がなされている。例えば、特許文献1のように、劈開化薄板状無機粉体の表面を、二酸化チタン及び/または酸化鉄で、沈着法により被覆した粉体で、のびの滑らかさ、密着性、均一性、隠蔽性、自然で薄い化粧仕上がりを得ようと試みている。しかしながら、この複合粉体では、十分な紫外線防御効果が示されていない。
【0008】
特許文献2では、劈開セリサイトまたは劈開セリサイトチタンから選択される薄片状粉体に、粉体状態である微粒子酸化チタンをヘンシェルミキサーで混合しパルベライザーで粉砕する混合摩砕法により吸着させた複合粉体で、高い紫外線カット効果、延展性、密着感、厚みや隠蔽性を上げる発明がなされている。しかしながら、吸着法による複合化のため、母粉体表面で微粒子酸化チタンが局在化しやすいこと、微粒子酸化チタンの凝集物がそのまま母粉体表面に付きやすいこと、同じく微粒子酸化チタンの凝集物の存在により塗膜に均一さが欠け不自然さが出てしまうこと、未吸着や遊離の微粒子酸化チタンの存在により剤形の耐光性に欠けること、適度な隠蔽性はあるものの小ジワやシミの輪郭を自然に隠し目立たなくするソフトフォーカス効果が劣ること、セリサイトの品質によって白色度が劣り濡れによってくすみが出易い等、問題点があった。
【0009】
特許文献3では、劈開化膨潤性粘土鉱物の表面を二酸化チタンで被覆した表面被覆薄片状粉体と紫外線吸収剤併用系による日焼け止め化粧料が示されているが、この特許文献における表面被覆薄片状粉体の紫外線防御効果は、表面被覆薄片状粉体のみでは不十分であり(紫外線吸収剤を併用している例が、高いSPFを示している。)、ソフトフォーカス効果も低いものであった。
【0010】
【特許文献1】特公平5−60802
【特許文献2】特許3043903
【特許文献3】特許3480879
【0011】
以上の状況から、化粧料において、紫外線防御効果に優れながらも、微粒子酸化チタンによってのびの滑らかさが損なわれること無く、さらには、自然な隠ぺい力とソフトフォーカス効果を有してシミやシワ等の肌のトラブルを隠す効果に優れ、くすみの無い粉体と、これを含有した化粧料の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、紫外線防御能を高めながら、使用感の優れた化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる実情において、本発明者らは鋭意研究を行った結果、愛知県北設楽郡東栄町の振草地域で産出され、ハンター方式による白色度が88.0以上の振草産絹雲母の表面に、液滴噴霧プロセスを利用して酸化チタンを15〜25重量%被覆させた複合粉体を調製し、これを化粧料へ配合することにより、紫外線防御効果に優れながらも、のびの滑らかさが損なわれること無く、さらには、自然な隠ぺい力とソフトフォーカス効果を有する化粧料を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、絹のような自然で美しい光沢と滑らかな感触で純度の高い振草産絹雲母と水溶性チタニア系化合物のスラリーを液滴状態で噴霧させ、高温で乾燥する液滴噴霧プロセスにて、均一に15〜25重量%の微粒子酸化チタンを被覆した酸化チタン被覆絹雲母を化粧品に利用すれば、高い紫外線防御効果が得られ、のびが滑らかで、透明感がありながら青白さの無い適度な隠ぺい力と毛穴や小ジワを隠す効果に優れた化粧品を提供できることを見出した。
【0015】
本発明で使用する愛知県北設楽郡東栄町の振草地域で産出される振草産絹雲母とは、非特許文献4に紹介されているように、この地域の大峠環状複合岩体での熱水変質作用によって形成されたセリサイトである。
【0016】
【非特許文献4】FRAGRANCE JOURNAL,22(6),PAGE51−56(1994)
【0017】
振草産絹雲母の特徴としては、先ず、結晶の積層方法に特徴がある。結晶の積層方法の違いによって生じる雲母のポリタイプには、「1M型(単斜格子)」、「2M型(2層単斜格子)」、格子「2M型(2層単斜格子)」、「3T型(3層三方格子)」等が知られるが、振草産絹雲母は、様々なポリタイプが存在せず、ほぼ純粋な「2M型」であり、化粧品原料のセリサイトとして世界的にも貴重な資源である。形状も、高いアスペクト比(XY軸最長粒子径/Z軸最長粒子径=20以上)を有し、粒子個々の平均的な大きさ(平均粒子径)は約10μmであり、これらの特徴から、絹のような自然で美しい光沢と滑らかな感触が振草産絹雲母にはある。
【0018】
本発明で使用する振草産絹雲母は、例えば次のようにして原鉱から複合粉体に用いる原料として得る。先ず、採掘された原鉱を選別し、水と共にスラリー化して原鉱をほぐして水中に分散させる。この分散操作で、絹雲母は水中に分散し続けるが大きく重たい硫化鉱物等の随伴鉱物は沈殿するという特性を利用して、不純物を取り除き純粋な絹雲母のみを集める「水簸選鉱」を行って他の鉱物が完全に除去される。次に、湿式サイクロン分級機を用いて粒度分布調整を行い、さらに水洗を繰り返し、脱水、乾燥、解砕を経て振草産絹雲母を得る。(市販品としては三信鉱工社製セリサイト FSE、F100、F88、Fine Mica等がある。)
【0019】
このようにして得られた振草産絹雲母は、非特許文献4の表4に記述されているように、ハンター方式による白色度(JIS Z 8722)が88.0以上のものが安定して得られ、化粧料へ配合し塗布した場合のくすみを防ぎ透明感を引き出すことができる。実際に、白色度について測定してみると、他の鉱山から得られた絹雲母と比較しても、表1のように振草産絹雲母は白色度が高い。特に、本発明ではくすみの無い透明感を重視して、用いる振草産絹雲母としては、ハンター方式による白色度が90.0以上のものが好ましい。
【0020】
【表1】

【0021】
振草産絹雲母の平均粒子径も、分級により15μm以下のものを本発明では用いるが、より高い滑らかさを求めると平均粒子径が約10μmを中心とした7〜12μmのものが好ましい。
【0022】
本発明での振草産絹雲母に液滴噴霧プロセスを利用して酸化チタンを被覆させ複合粉体を得る方法は、特許文献4に沿った噴霧法を利用した液滴プロセスである。
【0023】
【特許文献4】特開2005−219972
【0024】
すなわち、本発明で液滴噴霧プロセスとは、原料物質を溶解又は分散した液状物質を噴霧法により任意の液滴径を有する液滴をつくり、さらに液滴径を制御して温度コントロール場へ輸送し、液滴中の分散媒体の乾燥が液滴周囲から起こる物理現象を利用するもので、液滴を生成して反応させる噴霧乾燥法、噴霧熱分解法、凍結乾燥法等が具体的に挙げられる。
【0025】
本発明で用いられる原料物質を溶解又は分散した液状物質は、基材となる振草産絹雲母に添加物として水溶性チタニア系化合物(硫酸チタン、チタンペルオキソクエン酸アンモニウム等)を混合したスラリー等を用いる。また、必要に応じてスラリーを加熱又は冷却してスラリーの粘度の調整を行っても良い。
【0026】
本発明で含有される複合粉体の酸化チタンは、粒子状で100nm以下の微粒子で被覆されているのが良く、さらに、肌に塗布しても青白さが気にならず、高いSPF(Sun Protection Factor)値を得るためには、被覆物である粒状の酸化チタンの平均粒子径として30〜50nmが良い。
【0027】
本発明で含有される複合粉体の酸化チタン被覆量は、少量でも紫外線防御能を示すが、化粧品原料として十分な紫外線防御能を持たせるためには、複合粉体全量に対して15重量%以上の酸化チタンで被覆されているのが好ましい。
【0028】
また、特に、母粉体の振草産絹雲母のような滑らかさで、酸化チタン単独のように真っ白く或いは青白く隠蔽するのではなく、微かに白く自然に隠蔽しながら透明感がある、反射する光を様々な角度へ拡散させるソフトフォーカス効果がある、という効果全てが十分満たされて好ましいのは、複合粉体の酸化チタン被覆量が複合粉体全量に対して25重量%以下である。従って、紫外線防御能も考慮すると、酸化チタン被覆量としては、複合粉体全量に対して15〜25重量%が好ましい。
【0029】
得られた複合粉体は、化粧品原料として用いる場合、表面活性を抑えるために、別途、焼成処理を行っても良い。さらには、撥水性や撥油性を付与するために、金属石鹸処理、シリコーン処理、含フッ素化合物処理、アミノ酸処理等、各種表面処理を行って化粧品に配合しても良い。なお、これら処理は1種又は2種以上組み合わせて用いても構わない。
【0030】
本発明は、上述の複合粉体を含有する化粧料であるが、複合粉体の特性を考慮すると、化粧料の中でも、日焼け止め化粧料、メイクアップ化粧料等への応用が好ましく、具体的には、サンスクリーン剤、化粧下地、パウダーファンデーション、クリームファンデーション、リキッドファンデーション、頬紅、アイシャドウ、フェイスパウダー等の化粧料である。
【0031】
また、これらの化粧料に配合する複合粉体の量としては、特に限定しないが、自然な隠ぺい力、透明感、ソフトフォーカス効果、紫外線防御能等、製剤化する処方の目的によって配合量を考慮すると、0.5〜20重量%が好ましい。特に、これら4つの特徴のもっともバランスが良いのは1〜15重量%である。
【0032】
本発明の化粧料には、前述の複合粉体の他に、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、通常の化粧料に配合される成分である水、油脂、ロウ類、炭化水素、脂肪酸、アルコール、アルキルグリセリルエーテル、エステル、シリコーン油、フッ素油、多価アルコール、糖類、高分子、界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、殺菌・防腐剤、染料、香料、色素、可塑剤、有機溶媒、薬剤、動植物抽出物、パール顔料、表面処理粉体、複合顔料、アミノ酸及びペプチド、ビタミン等を適宜配合することができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0033】
本発明の化粧料は、紫外線防御効果に優れながらも、のびの滑らかさが損なわれること無く、さらには、自然な隠ぺい力とソフトフォーカス効果を有し、くすみが無いという点に優位さがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明では、愛知県北設楽郡東栄町の振草地域で産出され、ハンター方式による白色度が88.0以上の振草産絹雲母の表面に、液滴噴霧プロセスを利用して酸化チタンを均一に被覆させた複合粉体を調製し、これを化粧料へ配合する。
【0035】
次に、複合粉体例、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
複合粉体例1:
基材となる振草産絹雲母(白色度90.4、平均粒子径10.8μm)100gに、添加物として水溶性チタニア系化合物(チタンペルオキソクエン酸アンモニウム、二酸化チタン換算で約5%濃度)400gを用いてスラリーを調製した。その後さらに撹拌しながら80〜90℃に加温した後、液滴噴霧プロセスにて反応させた。すなわち、特許文献4の実施例1及び2での複合粉体製造と同様なプロセスにて行い、反応器中へヤマト科学製パルビスミニスプレーGB−22型にて噴霧し(圧縮空気を用いた二流体ノズル方式)、200℃にて乾燥、反応させた。生成した複合粉体の回収は、液滴の搬送や発生したガス状物質の状態を乱しにくいサイクロン捕集により行った。得られた複合粉体は、医薬部外品原料規格の一般試験法「二酸化チタン定量法」により酸化チタン量を定量して15.4%の酸化チタン被覆量であり、被覆された粒状の酸化チタンの平均粒子径も電子顕微鏡により約50nmであることを確認した。
【0037】
複合粉体例2:
基材となる振草産絹雲母(白色度94.0、平均粒子径10.3μm)100gに、添加物として水溶性チタニア系化合物(チタンペルオキソクエン酸アンモニウム、二酸化チタン換算で約5%濃度)500gを用いてスラリーを調製した。その後複合粉体例1と同様に調製して、被覆酸化チタン量20.4%、被覆平均粒子径約40nmの複合粉体を得た。
【0038】
複合粉体例3:
基材となる振草産絹雲母(白色度94.0、平均粒子径10.3μm)100gに、添加物として水溶性チタニア系化合物(チタンペルオキソクエン酸アンモニウム、二酸化チタン換算で約8%濃度)400gを用いてスラリーを調製した。その後複合粉体例1と同様に調製して、被覆酸化チタン量24.6%、被覆平均粒子径約30nmの複合粉体を得た。
【0039】
比較粉体例1:
基材となる振草産絹雲母(白色度94.0、平均粒子径10.3μm)を比較粉体例1とした。
【0040】
比較複合粉体例1:
基材となる振草産絹雲母(白色度94.0、平均粒子径10.3μm)100gに、添加物として水溶性チタニア系化合物(チタンペルオキソクエン酸アンモニウム、二酸化チタン換算で約8%濃度)550gを用いてスラリーを調製した。その後複合粉体例1と同様に調製して、被覆酸化チタン量30.2%、被覆平均粒子径約40nmの比較複合粉体例1を得た。
【0041】
比較複合粉体例2:
基材となる振草産絹雲母(白色度94.0、平均粒子径10.3μm)100gに、添加物として水溶性チタニア系化合物(チタンペルオキソクエン酸アンモニウム、二酸化チタン換算で約5%濃度)250gを用いてスラリーを調製した。その後複合粉体例1と同様に調製して、被覆酸化チタン量10.6%、被覆平均粒子径約50nmの比較複合粉体例2を得た。
【0042】
比較複合粉体例3:
市販の酸化チタン被覆セリサイトであるカバーリーフPC−2035(触媒化成工業社製、30重量%酸化チタン被覆で特許文献1又は2の手法と推定)を比較複合粉体例3とした。
【0043】
比較複合粉体例4:
基材となる島根県産絹雲母(白色度85.3、平均粒子径11.3μm)100gに、添加物として水溶性チタニア系化合物(チタンペルオキソクエン酸アンモニウム、二酸化チタン換算で約5%濃度)400gを用いてスラリーを調製した。その後複合粉体例1と同様に調製して、被覆酸化チタン量16.5%、被覆平均粒子径約50nmの複合粉体を得た。
【0044】
複合粉体評価
調製した複合粉体に対して、紫外光の透過率測定、光沢測定による光の拡散反射評価、色差測定による隠蔽率評価、粉体の滑り具合を見積もる摩擦係数測定を行い、化粧料に配合する複合粉体を選び出した。
【0045】
紫外光の透過率測定
先ず、シリコーンKE−1300T:CAT1300=90:10(何れも信越化学社製)の重量比で混合したものに、各複合粉体を酸化チタン量が1重量%となるように添加し、フーバーマーラーにて十分撹拌した。その後、この撹拌物をガラス板上にドクターブレードにて膜厚40μmでキャストして、一晩置くことによって測定用試料であるフィルムを作製した。このフィルムを分光光度計にセットし、透過率を波長300nmで測定した(粉体を含まないフィルムにてベースライン補正)。
【0046】
透過率の評価は、この測定で透過率の値により
20%未満:良好
20%以上40%未満:やや良
40%以上:不良
とした。
【0047】
光沢測定による光の拡散反射評価
LENETA社製OPACITY CHARTSの黒い部分にニチバン社製両面テープ40mm幅を貼付し、化粧用パフにて均一に各複合粉体を塗布した。塗布したサンプルを、スガ試験機社製デジタル変角光沢計にて入射角45度に固定し、受光角20度と45度の光沢強度を測定した。
【0048】
拡散反射光が多くソフトフォーカス効果の高い粉体は、45度の入射角に対して45度の角度で反射する光、すなわち受光角45度の正反射が抑えられ周りに拡散することによって低角や広角の反射強度が高くなる。そこで、ソフトフォーカス効果のある粉体を見積もるため、受光角45度の反射強度(I45)と20度の反射強度(I20)に強度差が少なければ拡散反射が多いとし、I45/I20を算出してこの比により
I45/I20=1以上1.2未満 :良好
I45/I20=1.2以上1.5未満:やや良
I45/I20=1.5以上 :不良
とした。
【0049】
色差測定による隠蔽率評価
先ず、シリコーンKE−1300T:CAT1300=90:10(何れも信越化学社製)の重量比で混合したものに、各複合粉体が10重量%となるように添加し、フーバーマーラーにて十分撹拌した。その後、この撹拌物をLENETA社製OPACITY CHARTS上にドクターブレードにて膜厚40μmでキャストして、一晩置くことによって測定用試料を作製した。この試料の白地と黒地のXYZ表色系のY値を色差計にて測定し、隠蔽率(%)={Y値(黒地)/Y値(白地)}×100として算出、比較した。
【0050】
隠蔽率について
10%未満:非常に良好
10%以上20%未満:良好
20%以上25%未満:やや良好
25%以上:不良
として、各粉体を評価した。
【0051】
摩擦係数測定
各粉体の静摩擦係数を、トライボステーションType32(新東科学社製)にて、移動速度2500mm/分、測定距離:50mm往路、荷重:100g/cm、測定面(冶具表面及び下地):出光石油化学社製人工皮革サプラーレ、の条件で測定した。
【0052】
滑りの良い振草産絹雲母の静摩擦係数が約0.7であり、滑りが悪くきしみ感の強い微粒子酸化チタンが約1.0であることから、静摩擦係数の値から各粉体の滑り特性を、
0.8未満:良好
0.8以上0.9未満:やや良好
0.9以上:不良
とした。
【0053】
各粉体の物性評価結果を表2に示す。
【表2】

【0054】
表2より、紫外光の透過率測定から紫外線の防御能を、光沢測定による光の拡散反射評価からソフトフォーカス効果を、色差測定による隠蔽率評価から微かに白く自然に隠蔽しながら透明感を出す効果を、摩擦係数測定から粉体の塗布時のなめらかさを判断することができ、複合粉体例1〜3と比較複合粉体例4が良好であることがわかる。この段階では絹雲母に平均粒子径30〜50nmの酸化チタンを15〜25重量%被覆すれば、基本的な前記4つの効果を満たすことができると判断した。
【0055】
そこで各粉体を用いて、下記処方のパウダーファンデーションを調製した。

パウダーファンデーション処方
成分 配合量(重量%)
(1) シリコーン処理セイサイト 14.10
(2) シリコーン処理タルク 15.00
(3) シリコーン処理合成金雲母 10.00
(4) シリコーン処理酸化チタン 8.00
(5) シリコーン処理微粒子酸化チタン 7.00
(6) シリコーン処理酸化亜鉛 2.00
(7) ステアリン酸亜鉛 1.00
(8) メチルパラベン 0.50
(9) シリコーン処理黄酸化鉄 1.60
(10)シリコーン処理ベンガラ 0.50
(11)シリコーン処理黒酸化鉄 0.30
(12)無水ケイ酸 4.00
(13)硫酸バリウム 5.00
(14)窒化ホウ素 3.00
(15)(ジメチコン/ビニルジメチコン
/メチコン)クロスポリマー 1.00
(16)ポリメタクリル酸メチル 6.00
(17)各粉体 10.00
(18)メチルポリシロキサン 7.00
(19)コハク酸ジ2−エチルヘキシル 4.00
合計 100.00
【0056】
(調製方法)
成分(1)〜(17)をヘンシェル型ミキサーにて均一に混合し、アトマイザーにて粉砕を行った。さらに、成分(1)〜(17)の混合粉砕物と成分(18)及び(19)をヘンシェル型ミキサーにて均一に混合してアトマイザー粉砕後、ふるいを通し、中皿にプレスしてパウダーファンデーションを得た。
【実施例1】
【0057】
実施例1として、上記パウダーファンデーション処方の成分(17)各粉体を、前述の複合粉体例1としたものを調製した。
【実施例2】
【0058】
実施例2として、上記パウダーファンデーション処方の成分(17)各粉体を、前述の複合粉体例2としたものを調製した。
【実施例3】
【0059】
実施例3として、上記パウダーファンデーション処方の成分(17)各粉体を、前述の複合粉体例3としたものを調製した。
【0060】
比較例1として、上記パウダーファンデーション処方の成分(17)各粉体を、比較粉体例1が8.00重量%と微粒子酸化チタンが2.00重量%の混合物として調製した。(比較粉体例1は酸化チタンで被覆されていないため、成分(17)の10.00重量%のうち、本発明で用いる複合粉体と対応させるため、複合粉体中に20重量%分を酸化チタン量として対応した。)
【0061】
比較例2として、上記パウダーファンデーション処方の成分(17)各粉体を、前述の比較複合粉体例1としたものを調製した。
【0062】
比較例3として、上記パウダーファンデーション処方の成分(17)各粉体を、前述の比較複合粉体例2としたものを調製した。
【0063】
比較例4として、上記パウダーファンデーション処方の成分(17)各粉体を、前述の比較複合粉体例3としたものを調製した。
【0064】
比較例5として、上記パウダーファンデーション処方の成分(17)各粉体を、前述の比較複合粉体例4としたものを調製した。
【0065】
調製したパウダーファンデーションの評価を次のように行った。
(パウダーファンデーション評価1)
使用感の評価として、小じわや毛穴を隠しハリがあるように見えるソフトフォーカス効果、微かに白く自然に隠蔽しながら透明感があるといった適度なカバー力、塗布時ののびの滑らかさ、塗布色についての4項目を、専門の女性パネラー5人に実際に塗布してもらい、各パウダーファンデーションの評価を行った。
【0066】
(パウダーファンデーション評価2)
紫外線防御能の評価として、パウダーファンデーションをフィルムに塗布して、フィルムの紫外線の透過強度を紫外線強度計により測定する方法で、紫外線防御効果を判断した。
【0067】
測定装置
光源は、WACOM社製 XB−25IWI型ソラーシュミレーターで、透過した紫外線の強度測定は、TOKYO OPTICAL社製 UVR−305/365−D(2)型紫外線強度計を用いて、305nmの透過光を測定した。光源から紫外線強度計までの距離は約30cm、その間にセットする試料は光源から約27cmとし、測定中は、ずれが生じないように十分に固定した。
【0068】
測定試料調製
約5cm四方のスライド用フレームに、3M社製 ブレンダーム サージカルテープを貼付し、下記処方に示した化粧下地0.01gを前面に均一に塗布した後、0.01gのパウダーファンデーションを均一に塗布して測定用試料とした。
【0069】
用いた化粧下地処方
成分 配合量(重量%)
セスキステアリン酸メチルグルコシド 1.00
ステアロイル乳酸ナトリウム 0.20
硬化ナタネ油アルコール 3.50
スクワラン 6.00
ミリスチン酸オクチルドデシル 6.00
メチルフェニルポリシロキサン 6.00
マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル 2.00
トリイソステアリン酸ポリグリセリル 1.00
ブチルパラベン 0.10
精製水 56.44
合成ケイ酸ナトリウム・マグネシウム 1.30
ヒドロキシエタンジホスホン酸 0.06
キサンタンガム 0.20
1,3−ブチレングリコール 10.00
メチルパラベン 0.20
ジグリセリン 5.00
メチルポリシロキサン 1.00
合計 100.00
【0070】
測定は、先ず化粧下地とパウダーファンデーションを塗布する前にブランクとしてフレームに貼付したサージカルテープの紫外線透過強度Ibを測定し、その後、化粧下地とパウダーファンデーションを塗布した後の紫外線透過強度Iを測定してから、紫外線阻止率{(Ib−I)/Ib}×100(%)を算出した。この算出結果を、既知データをもとに紫外線阻止率とSPFによりプロットした検量線に照らし合わせ、各パウダーファンデーションのSPFをin vitroで見積もった。
【0071】
その結果、実施例1〜3のパウダーファンデーションは、ソフトフォーカス効果、微かに白く自然に隠蔽しながら透明感があるといった適度なカバー力、塗布時ののびの滑らかさ、塗布色の使用感について、パネラーから非常に好評な結果が得られた。また、SPFについても、比較例1の複合していない母体の振草産絹雲母と酸化チタンを用いたときのSPFが22.8であったことに対し、実施例1が25.8、実施例2が26.4、実施例3が26.7とSPFが増強される効果が認められた。
【0072】
比較例2の比較複合粉体例1を用いたパウダーファンデーションでは、酸化チタンの被覆量が多い複合粉体を用いているので、ややカバー力が高いと評価され、のびにおいても多少の引っかかりが認められた。
【0073】
比較例3の比較複合粉体例2を用いたパウダーファンデーションでは、被覆されている酸化チタン量が少ないため、使用感については、ほぼ良好な結果が得られたが、SPFについては23.2とやや増強効果も小さかった。
【0074】
比較例4の比較複合粉体3を用いたパウダーファンデーションでは、カバー力が高く透明感が失われ、滑らかさの欠けた使用感で不評であった。また、SPFも23.8という結果が得られ、市販の複合粉体では増強効果は一応認められるものの、30重量%被覆でありながらその効果は小さいことが認められた。
【0075】
比較例5の比較複合粉体4を用いたパウダーファンデーションでは、使用感において、塗布色の色ぐすみが問題であった。例えば、顔の額からあごにかけて真ん中で左右半分に分けて、比較例5と実施例2と塗り分けてみると、明らかに比較例5は明度、彩度共に下がって見え、色ぐすみが認められた。SPFについては25.9であった。
【0076】
以上から、白色度が他の産地よりも極めて高く、滑らかな振草産絹雲母の表面に、液滴噴霧プロセスを利用して酸化チタンを15〜25重量%被覆させた複合粉体をパウダーファンデーションに含有させれば、ソフトフォーカス効果、微かに白く自然に隠蔽しながら透明感があるといった適度なカバー力、塗布時ののびの滑らかさ、塗布色といった使用感に優れ、このプロセスを利用した複合粉体であれば、何らかの効果で低い酸化チタン被覆量でSPFを増強させることが判る。
【実施例4】
【0077】
実施例4として、前述の実施例1〜3で調製したパウダーファンデーションで成分(1)のシリコーン処理セリサイトを14.1重量%から9.1重量%に減じ、成分(17)の各粉体を複合粉体例1とし配合量も10.0重量%から15.0重量%に増量して、実施例1〜3と同様にしてパウダーファンデーションを調製した。
【0078】
その結果、実施例1〜3と同様な評価を行ったところ、実施例4のパウダーファンデーションは、実施例1〜3と同様にソフトフォーカス効果、透明感と適度なカバー力、塗布時ののびの滑らかさ、塗布色について、パネラーから非常に好評な結果が得られた。また、SPFについても、28.2と増強効果が認められ良好なパウダーファンデーションであった。
【実施例5】
【0079】
実施例5として、前述の実施例1〜3で調製したパウダーファンデーションで成分(1)のシリコーン処理セリサイトを14.1重量%から4.1重量%に減じ、成分(17)の各粉体を複合粉体例1とし配合量も10.0重量%から20.0重量%に増量して、実施例1〜3と同様にしてパウダーファンデーションを調製した。
【0080】
その結果、実施例1〜3と同様な評価を行ったところ、実施例5のパウダーファンデーションは、SPFについては30を超える数値が得られSPF30+と表示できる良好なものができたが、若干明度が上がりカバー力もやや高めの評価であった。
【0081】
従って実施例5から、化粧品への複合粉体の配合量としては、20.0重量%までが適当であると判断でき、実施例4から15.0重量%であればカバー力も良好な状態で配合できると考えられた。
【実施例6】
【0082】
次に、本発明における複合粉体を紫外線対応の化粧下地へ応用した。その処方を実施例6として示す。
化粧下地処方
成分 配合量(重量%)
(1) ペンタステアリン酸デカグリセリル 1.50
(2) ステアロイル乳酸ナトリウム 0.50
(3) イソステアリン酸デカグリセリル 3.00
(4) ベヘニルアルコール 2.00
(5) 硬化ナタネ油アルコール 0.50
(6) マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル 0.50
(7) メトキシケイヒ酸オクチル 4.00
(8) 水添ポリイソブテン 4.50
(9) スクワラン 4.50
(10)メチルフェニルポリシロキサン 1.50
(11)シリコーン処理微粒子酸化チタン 4.00
(12)精製水 60.08
(13)合成ケイ酸ナトリウム・マグネシウム 0.50
(14)ヒドロキシエタンジホスホン酸 0.02
(15)キサンタンガム 0.20
(16)複合粉体例2 0.50
(17)1,3−ブチレングリコール 8.00
(18)メチルパラベン 0.20
(19)ジグリセリン 4.00
合計 100.00
【0083】
(調製方法)
成分(9)〜(11)を混合し三本ローラーで成分(11)を十分に分散させた。これを、成分(1)〜(8)までを加温溶解したものに加え、ホモジナイザーにて、さらに加温しながら分散させ油相を調製した。水相は、成分(16)を成分(17)の一部を用いて三本ローラーにて分散させた後、残りの成分(12)〜(19)を混合しホモジナイザーにて均一にして調製した。乳化は油相80℃、水相85℃にして、水相へ油相を投入し、ホモジナイザーで十分に撹拌し、その後、ホモジナイザーを停止してから冷却して、実施例6の化粧下地を得た。
【0084】
得られた実施例6の化粧下時は、滑らかにのび、特に、顔に塗布したときの印象が、微かに白く自然に隠蔽しながら透明感があり、更に霞がかかったようなソフトフォーカス効果が認められた。また、くすんだ色味も全く無かった。さらには、この僅かな配合によっても、SPFの増強効果が認められ、他の複合粉体例1でも3でも同様な効果があった。
【実施例7】
【0085】
さらに、実施例6の化粧下地で成分(16)の複合粉体例2を0.50重量%から1.00%に増量して、実施例7としての化粧下地を調製した。(過不足分は精製水にて全量を100重量%にした。)
【0086】
実施例7は実施例6から複合粉体例2を増量したことにより、透明感を維持したまま、シミを隠す効果が加わり、SPF増強効果も一層増した。従って、化粧料への配合濃度の希薄な領域では、0.5重量%以上が好ましく、理想的には1.0重量%以上が好ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明で用いた複合粉体を用いれば、ソフトフォーカス効果、透明感、適度なカバー力、塗布時ののびの滑らかさ、塗布色、紫外線防御効果に優れた理想的な化粧料を調製することができる。また、化粧料ばかりでなく、樹脂等に練り込んでも紫外線による劣化の少ない樹脂製品を提供できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンター方式による白色度が88.0以上の絹雲母の表面に、液滴噴霧プロセスを利用して酸化チタンを15〜25重量%被覆させた複合粉体を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項2】
愛知県北設楽郡東栄町の振草地域で産出され、ハンター方式による白色度が88.0以上の振草産絹雲母の表面に、液滴噴霧プロセスを利用して酸化チタンを15〜25重量%被覆させた複合粉体を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項3】
複合粉体を0.5〜20重量%含有することを特徴とする請求項1乃至2に記載の化粧料。


【公開番号】特開2008−56646(P2008−56646A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238776(P2006−238776)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【出願人】(591275665)三信鉱工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】