説明

医用画像表示方法および装置

【課題】 生体肝移植などで切望されるドナーから切除される肝臓の一部組織の還流と機能を予測する。
【解決手段】 医用画像診断装置によって得られた被検体の医用画像を用い臓器の特定領域を抽出し、該抽出された特定領域へ流入する流入血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の動脈支配領域24を特定し、該抽出された特定領域から流出する流出血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の静脈支配領域32を特定する工程と、動脈支配領域24と静脈支配領域32より還流領域40を計算する工程と、該計算された還流領域40を表示する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の臓器の部分移植支援を行う医用画像表示方法および装置に係り、特に医師が臨床において肝臓のような臓器の診断や治療を行う際の計画を支援するためのシミュレーションを提供する医用画像表示方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、X線撮影装置やX線CT装置やMRI装置などの異様画像診断装置で得られる画像を診断のみならず治療に用いることが盛んに行われるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1にあるような、単一臓器内の血管の走行情報に基づいた臓器の特定領域を抽出する方法が考案されている。解剖学的情報に基づいているため、医師の判断する特定領域と酷似した結果が得られ、臓器切除術前計画としてのシミュレーション精度は飛躍的に向上する。たとえば、肝臓ガンの摘出手術においては上記シミュレーション方法と一致した術式を採用できる場合が多い。
【0004】
特許文献1にある手法は、1種類の血管の情報を利用して行われており、仮に動脈による切除領域の決定を行った際、動脈における灌流支配領域は比較的良好に設定される。しかし、静脈に関する配慮が全く行われていないため、切除対象となる領域に静脈が含まれた場合、この静脈の灌流支配領域を考慮せずに切除することになる。すなわち、境界付近に存在する静脈が切除された場合、他の切除しない動脈に支配されている領域の血液が戻る静脈が存在しない状態がおこる。
臓器の部分切除、部分移植においては、前記のような静脈の支配領域も合わせて切除し、移植を行うことが必要になるが、上記手法ではその領域の算出は配慮されていない。
【0005】
そこで、本件の特許出願人が行った特願2003-135122号(「先願」という)にあるような、静脈の灌流支配領域を考慮した支配領域を特定する方法がある。これにより、切除領域と残領域は正常な灌流支配構造を把握しながら決定することが可能になる。
【特許文献1】特開2001−283191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の方法は一つの脈管系によるシミュレーションを行うため、生体肝移植などで切望されるドナーから切除される肝臓の一部組織(グラフト)の還流と、そのグラフトの機能を予測するための配慮がなされていなかった。
つまり、現在多くの施設で行われている生体肝移植の場合、ドナーから切除される(部分)肝臓はグラフトと呼ばれ、そのグラフト内での還流(血液の循環経路)が保証されている必要がある。同様に、ドナーに残される肝臓(残肝)においても還流が保証されている必要がある。すなわち、グラフト、残肝の機能を保証し、鬱血、虚血による壊死範囲を容積(数値)として精度よく推定し、最小限にとどめる必要がある。
【0007】
本発明の目的は、グラフトの還流と機能の予測が可能な医用画像表示方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、医用画像診断装置によって得られた被検体の医用画像を用い臓器の特定領域を抽出する工程と、該抽出された特定領域へ流入する流入血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の第1の支配領域を特定する工程と、該抽出された特定領域から流出する流出血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の第2の支配領域を特定する工程と、前記第1の支配領域と前記第2の支配領域より還流領域を計算する工程と、該計算された還流領域を表示する工程と、を含むことにより達成される。
【0009】
また、前記第1の支配領域及び前記第2の支配領域の特定は、複数の血管の位置情報によって特定してもよい。
また、前記複数の血管情報から選択的に組み合わせて前記第1の支配領域又は前記第2の支配領域を特定してもよい。
また、前記選択的組み合わせは血管の流入系と流出系にまとめて、前記第1の支配領域又は前記第2の支配領域を特定してもよい。
【0010】
また、前記臓器を特定するための境界を設定する工程を備え、前記計算工程は、前記設定された境界をさらに用いて前記還流領域を計算してもよい。
また、前記第1の支配領域及び前記第2の支配領域は前記臓器に重畳して表示する工程をさらに含んでもよい。
【0011】
更にまた、医用画像診断装置によって得られた被検体の医用画像を用い臓器の特定領域を抽出する手段と、該抽出された特定領域へ流入する流入血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の第1の支配領域を特定する手段と、該抽出された特定領域から流出する流出血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の第2の支配領域を特定する手段と、前記第1の支配領域と前記第2の支配領域より還流領域を計算する手段と、該計算された還流領域を表示する手段と、を備えたことで達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、グラフトの還流と機能の予測ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、発明の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
実施の形態として、肝臓の造影撮影を行ったX線CT画像を処理対象画像として用い、動脈、静脈の走行情報を利用して、肝臓の領域特定を行う手順およびそれを用いて肝臓の切除領域を表示する方法を以下に説明する。
【0014】
図1(a)に示すようにX線CT装置やMRI装置等の三次元計測の可能な画像診断装置で取得した複数の断層像11を積み上げて、図1(b)に示すような積み上げ三次元画像12とし、処理対象を三次元化する。積み上げ三次元画像12は肝臓の組織と動脈、静脈、腫瘍などを含み、ここには図示しない二次元の投影面に陰影付けして投影処理された擬似三次元画像として例えばモニタへ表示される。
【0015】
図2は本発明において用いるシミュレーション情報を説明する図である。説明を簡単にするために平面図として記載してある。臓器20の内部で血管21と25の間には血液の還流があるとして、たとえば、血管21を23の位置で結紮したとすると、特許文献1によって、血管22の支配領域はたとえば24のように求められる。解剖学的には、還流が認められる血管25の枝26はおおよそ24の境界(端)付近を走行する。
【0016】
ここで、図3に示すように血管25を31の位置で結紮したとすると、特許文献1によって、血管26の支配領域はたとえば32のように求められる。解剖学的には還流が認められる血管21の枝22と33はおおよそ32の境界(端)付近を走行する。
【0017】
図4は図2と図3で求められた支配領域を同時に表示した例を示す。支配領域はおおよそ3つの領域に区分される。血管21の枝22と血管25の枝26の間で還流があると思われる領域は、それぞれの支配領域の重なった部分40であると推定できる。すなわち、支配領域24と32を合わせた領域が生体肝移植におけるグラフトであるとし、枝22と26を再建した場合、還流が正常機能する領域は40であり、その他の領域は鬱血、もしくは虚血が想定される、還流が正常機能しない領域であると推定できる。領域40の正確な容積は、生体肝移植のレシピエントに対する適正グラフト容積である、レシピエント体重の1%を、還流の正常機能が見込めるグラフト容積として、より正確に見積もることになる。
【0018】
また、図5のように実際の手術で、外科医が想定する切離面が51のように設定されており、この図の左をグラフとして用いる場合、図4で求められた領域40は52と53に分割されることになる。この場合も同様に、還流が正常機能すると推定できる領域は53のみであり、52を還流が正常に機能しない領域として認識し、正常機能が見込めるグラフト容積から除外しておくことで、より正確な機能見積もりが可能となる。
【0019】
還流域の計算方法であるが、例えば論理演算を用いて計算する方法が考えられる。脈管系Anにより支配された領域をSan、脈管系Bnにより支配された領域をSbn、外科医が想定する理断面による切除臓器側をCoとすると、求められる還流領域は
【0020】
【数1】

として求められる。このようにして求められた還流領域を半透明表示などで擬似三次元画像として提示することで、視覚的に還流域を把握させることができる。
【0021】
また、脈管が複数種類存在する場合、臓器においては流入系血管と流出系血管に分類できるため、流入系血管と流出系血管を一組ずつ組み合わせて還流域を計算するだけでなく、種類の異なる血管についても流入系と流出系をそれぞれ前記An,Bnとしてまとめ、複合還流域として計算することも可能である。
【0022】
図6に本計測を行うための画面構成例を示す。領域60にはある脈管系(たとえば動脈など1種類に限った)のシミュレーション結果を選択させるための処理結果画像を表示しておく。処理結果は、支配領域と支配脈管のみの3Dでも、肝臓全体における支配脈管の画像にチェックボックス61をつけて視覚的に区別させる。また、複数のシミュレーション結果を表示できるように表示領域60をスクロールさせるためのスクロールバー62を持たせておく。60のまとまりを各脈管毎や、手動により設定された切離麺ごとに複数表示しておき、組み合わせて還流領域を計算させるために利用する。組み合わされた還流域は任意の方向に回転させたり、画像再構成方法を変えたりしながら擬似3次元画像として63に表示される。また、64には従来と同様に、シミュレーションに用いられている臓器実質や血管、支配領域や還流領域の表示、非表示、表示色の変更のためのコントローラを設置する。65には還流域計算結果を表示し、たとえば生体肝移植においてはレシピエント体重などが与えられている場合、それにちなんだ計算結果も合わせて表示する。また、与えられた血管が動脈、静脈、その他判明している場合、非還流域をそれぞれ鬱血候補域、虚血候補域などとして表示することも可能とする。この場合、鬱血候補域、虚血候補域も63に合わせて表示することも可能とする。また、66のように流入系血管による領域、流出系血管による領域、手動による領域を識別するための例えばチェックボックスを有する。
【0023】
図7に本計算のフローの一例を示す。まず、ドナー体重やレシピエント体重など、シミュレーションに必要な情報を初期パラメータとして設定する。図6に示した画面を利用して、操作者が還流域の候補である各脈管枝による支配領域をたとえばチェックボックス61を利用して選択する。選択された支配領域は擬似三次元画像として63に表示される。想定される還流域容積が逐次計算され、その結果が65に表示される。擬似三次元画像の表示形態や非表示部位を60のチェックボックスやコントローラ64を利用して設定する。表示に問題がある場合は再度76を行う。還流域候補である各脈管枝の支配領域の選択が完了していない場合は再度72以降を行い、所望の結果が得られるまで本操作を繰り返す。
【0024】
図8には、本発明のシステムが実現可能であるハードウェア例の構成図を示す。このシステムは、CPU82、主メモリ80、磁気ディスク81、表示メモリ83、ディスプレイ84、コントローラ85、マウス86、キーボード87、および共通バス88からなる。磁気ディスク81には、各断層像が格納されており、主メモリ80の投影表示ソフトウェアに従って、CPU82が所定の処理を行う。この処理では、コントローラ85に付加されているマウス86やキーボード87を利用して入出力処理や処理操作が行われる。積み上げ三次元画像や処理結果は表示メモリ83を介してディスプレイ84に表示され、オペレータの操作を利用して図7の処理がなされ、各種条件に合った画像が表示される。また、処理結果および表示内容は磁気ディスク81に格納され、再表示に利用される。
【0025】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の手法はX線CT装置だけでなく、磁気共鳴イメージング装置や超音波診断装置などの他の画像診断装置により取得した画像に対しても用いることができる。また、対象臓器としては上記実施の形態中に説明した肝臓の他に、人体の多くの部位について適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の医用画像表示方法及び装置によれば、複雑に走行する脈管を内包する臓器においても、切除した臓器部分における正常機能範囲を推定することが可能である。すなわち、これまでの方法では、単一の脈管系による支配領域を複数シミュレーションし、その還流を感覚的に推定していたが、本装置ではその推定領域を視覚化することが可能である。
これにより、複雑に走行する脈管を内包する臓器に対して、切除した臓器の還流領域の容積計算および視覚化という、数値的かつ視覚的アプローチが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】断層像とデータの関係を示す図。
【図2】本発明に必要な血管枝による支配領域を説明する図。
【図3】本発明に必要な血管枝による支配領域を説明する図。
【図4】本発明により計算する還流域を説明する図。
【図5】本発明により計算する還流域を説明する図。
【図6】本発明で利用する画面、および必要機能を説明する図。
【図7】本発明の処理の流れの一例を説明するフローチャート。
【図8】本発明を実施可能なハードウェア構成例を示す図。
【符号の説明】
【0028】
11 断層像、12 積み上げ三次元像、20 臓器、21,22 動脈、23 動脈結紮位置、24 動脈支配領域、25,26 静脈、31 静脈結紮領域、32 静脈支配領域、33 動脈、40 還流領域、51 術者により想定される切除線、52 想定される還流域において切除される部位、53 最終的に求められる還流域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像診断装置によって得られた被検体の医用画像を用い臓器の特定領域を抽出する工程と、
該抽出された特定領域へ流入する流入血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の第1の支配領域を特定する工程と、
該抽出された特定領域から流出する流出血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の第2の支配領域を特定する工程と、
前記第1の支配領域と前記第2の支配領域より還流領域を計算する工程と、
該計算された還流領域を表示する工程と、を含むことを特徴とする医用画像表示方法。
【請求項2】
前記第1の支配領域及び前記第2の支配領域の特定は、複数の血管の位置情報によって特定されることを特徴とする請求項1に記載の医用画像表示方法。
【請求項3】
前記複数の血管情報から選択的に組み合わせて前記第1の支配領域又は前記第2の支配領域を特定することを特徴とする請求項2に記載の医用画像表示方法。
【請求項4】
前記選択的組み合わせは血管の流入系と流出系にまとめて、前記第1の支配領域又は前記第2の支配領域を特定することを特徴とする請求項3に記載の医用画像表示方法。
【請求項5】
前記臓器を特定するための境界を設定する工程を備え、前記計算工程は、前記設定された境界をさらに用いて前記還流領域を計算することを特徴とする請求項1に記載の医用画像表示方法。
【請求項6】
前記第1の支配領域及び前記第2の支配領域は前記臓器に重畳して表示する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の医用画像表示方法。
【請求項7】
医用画像診断装置によって得られた被検体の医用画像を用い臓器の特定領域を抽出する手段と、
該抽出された特定領域へ流入する流入血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の第1の支配領域を特定する手段と、
該抽出された特定領域から流出する流出血管を含む循環器の位置情報を利用して前記臓器の第2の支配領域を特定する手段と、
前記第1の支配領域と前記第2の支配領域より還流領域を計算する手段と、
該計算された還流領域を表示する手段と、を備えたことを特徴とする医用画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−109960(P2006−109960A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298302(P2004−298302)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】