説明

医療機器に有用なポリマー材料

本発明は、医療機器に有用なポリマー材料、及び、このポリマー材料から調製される医療機器、特に外科用縫合糸、人工腱、組織再生用ネット又は血管塞栓物を含む医療機器に関する。本発明はまた、このような物品、特に縫合糸及びネットの調製に適したフィラメントを調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、医療機器に有用なポリマー材料、並びにこのポリマー材料から調製される、特に外科用縫合糸、人工腱、組織再生用ネット又は血管塞栓物(vascular plugs)を含む医療機器に関する。本発明はまた、このような物品、特に縫合糸及びネットの調製に適したフィラメントを調製する方法に関する。
[背景]
【0002】
医療機器の製造に有用な生体吸収性繊維は当該分野で公知である。米国特許第5,425,984号明細書及び欧州特許出願公開第024125282号明細書は、約15〜約30mol%のグリコリドを含むポリマーから形成される繊維、並びにコモノマーとして10%までのグリコリドを含むラクチドのポリマーから形成される吸収性の靱帯補綴物及び腱補綴物を開示する。この従来の材料の1つの欠点は、グリコリドポリマーが加水分解を非常に受けやすいことにより、このポリマーから形成される物品が、機械的負荷/外力が変化するサイクルに対する強度や耐久性等の材料特性の長期安定性を必要とする用途に適さない事実である。
【0003】
グリコリドポリマーに関連する欠点に対処する1つのアプローチは、さらなるコモノマー、特にカプロラクトンから生じるモノマーの導入である。米国特許第4,605,730号明細書及び米国特許第4,700,704号明細書は、外科用物品、特に外科用縫合糸を調製するのに有用なカプロラクトンとグリコリドとのコポリマーを開示する。これらの縫合糸は、250000psi未満のヤング率を有する。しかしながら、グリコリドポリマーへのカプロラクトンコモノマーの導入はまた、強度の減少をもたらす。ラクチドモノマー並びにトリメチレンカーボネートモノマーを、任意選択でカプロラクトンモノマーと組み合わせて含むポリマー材料においても同様の結果が認められた。
【0004】
米国特許第6,486,295B1号明細書は、リパーゼ触媒エステル交換反応を用いてコポリマー構造を調節する方法を記載している。この文献は、カプロラクトン単位とペンタデカラクトン単位とを含むコポリマーを開示する。開示されたポリマーの分子量は、平均で10000〜29000(全ての値はMn、g/mol)である。しかしながら、この文献は、生成されたポリエステルの特定の安定性について開示しているのではなく、ポリマー構造物を調製するためのリパーゼの使用に焦点を当てている。欧州特許出願公開第1362872 A1号明細書は、好ましくは2000〜3000の分子量(Mn)を有するポリペンタデカラクトンのセグメントを含むポリエステルウレタンを開示する。
【0005】
しかしながら、これらの材料も、医療用物品、特に、上記で例示した外科用物品にとってしばしば重要な要件である、長期間にわたり十分なその初期強度を維持することができない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、医療用物品、特に、縫合糸、組織再生用ネット、靱帯補綴物及び腱補綴物、並びに、ヘルニア修復用外科用メッシュ等の外科用物品の調製を可能にするポリマーを提供することである。本発明により目的とされる材料は、以下の要件の少なくとも1つを満たす:
(1)高強度
(2)最適な加水分解安定性、すなわち、外科処置において使用された後であっても、長期間にわたり十分な強度を維持すること
(3)粒子のない分解特性
(4)負荷下での伸長が最小
(5)機械的外力/負荷が変化するサイクルに対する耐久性
(6)高歪み下での安定性。
[発明の簡単な説明]
【0007】
本発明は、請求項1に記載のポリマーによりこれらの目的を達成する。好ましい実施形態は、従属形式請求項に要約される。さらに、本発明は、請求項に規定された外科用物品を提供するとともに、外科用物品の調製に適した繊維を調製する方法をも提供する。
[発明の詳細な説明]
【0008】
本発明に係るポリマーは、ペンタデカラクトン及び/又はp−ジオキサノン(para-dioxanone)から生じる繰り返し単位(第1の繰り返し単位ともいう)を、少なくとも1つのさらなるモノマー生成エステル繰り返し単位から生じる繰り返し単位(第2の繰り返し単位ともいう)と組み合わせて含む半結晶性コポリマーである。好ましくは、少なくとも1つのさらなるモノマーは、カプロラクトン及びp−ジオキサノン又はこれらの混合物のうちから選択される。しかしながら、原理的には、任意の種類のエステル繰り返し単位生成モノマーを少なくとも1つのさらなるモノマーとして用いることができる。特に、コポリマーが、第1の繰り返し単位として、ジオキサノンからの繰り返し単位を含む場合、コポリマーは、グリコール酸又はその誘導体から生じる繰り返し単位を含まない。このような特に好ましい実施形態は、p−ジオキサノンとカプロラクトンとのコポリマーであり、ここで、繰り返し単位は、ブロック形態(ジオキサノンブロック及びカプロラクトンブロック)でコポリマー中に分配されており、好ましくは、例えば、以下に論じるイソシアネート連結法により得られるウレタン結合により連結されている。本実施形態について、以下の説明は特に、最終コポリマー及び構成ブロックの分子量、並びに、合成方法及び機械的特性に関する好ましい実施形態について、適用される。
【0009】
本発明の別の実施形態において、コポリマーは、主請求項における他の代替物として規定されるものであり、すなわちコポリマーは、ペンタデカラクトンから生じる繰り返し単位を、少なくとも1つのさらなるモノマー生成エステル繰り返し単位から生じる繰り返し単位と組み合わせて含む。
【0010】
本発明の一態様に係るコポリマーは、少なくとも25%の結晶化度(DSC装置を用いて決定される)と、少なくとも70℃の融点とを有する。好ましくは、結晶化度は、25%を超え、より好ましくは30%を超え、実施形態によっては40%を超え、又はさらに50%を超える。好ましくは、結晶化度の上限は、90%であり、また、実施形態によって80%、75%、70%又は60%である。
【0011】
少なくとも30000、より好ましくは少なくとも45000、なおより好ましくは少なくとも50000の数平均分子量を有するコポリマーが好ましい(全ての値は、g/molとし、ポリスチロール基準に対するGPC分析により決定される)。数平均分子量が75000もの大きさであり、実施形態によっては100000を超え、好ましくは150000を超えるコポリマーも本発明により想定される(全ての値は、g/molとし、ポリスチロール基準に対するGPC分析により決定される)。
【0012】
異なるコモノマーが、別個のブロックの形態でコポリマー中に分配されているコポリマーが好ましいが、ランダムコポリマーも適している。
【0013】
しかしながら、半結晶性相分離コポリマー(semi-crystalline phase segregated copolymer)が好ましく、この半結晶性相分離コポリマーは、ペンタデカラクトン又はジオキサノンから生じるブロックと、少なくとも1つのさらなるモノマー、好ましくはカプロラクトン、p−ジオキサノン及びこれらの混合物から選択されるモノマーから生じるブロックとを含む。好ましくは、本発明に係るコポリマーは、ペンタデカラクトン、カプロラクトン及び/又はp−ジオキサノンを除き、他のモノマーから生じるさらなる繰り返し単位を含まない。
【0014】
本発明に係る好ましいコポリマーは、そのコポリマー中に異なる繰り返し単位のブロックライクな分配(block-like distribution)を示すコポリマーである。繰り返し単位の異なるブロックは、上述したモノマーからの従来のポリエステル化学により調製された予備形成マクロモノマーにより、コポリマーに導入され得る。これらのマクロモノマーは、好ましくは、ジオール(すなわち、2つの末端ヒドロキシル官能基を有する)の形態で存在する。次いで、異なるブロック(すなわち、マクロモノマー)をジイソシアネートを用いて組み合わせて、本発明に係るコポリマーを形成し、マクロジオールを互いに結合するためのウレタン連結基を調製してもよい。得られるコポリマーは、ポリエステルウレタン、すなわち、ポリマー構造と称することができ、このポリエステルウレタンは、ポリエステルセグメントである初期マクロモノマーに相当し、ウレタンセグメントにより互いに結合されたブロックを含む。本発明に係るポリエステルウレタンの調製に好ましいジイソシアネートは、式
O=C=N−R−N=C=O
の化合物であり、ここで、Rは、2価の芳香族基又は脂肪族基である。好ましくは、Rは、1〜10の炭素鎖、好ましくは2〜8、より好ましくは4〜7個の炭素原子を有し、好ましくは直鎖の脂肪族である。この炭素鎖は、水素により飽和していてもよく(脂肪族不飽和基)、又はこの鎖は、さらなる置換基、好ましくは、1〜6個、より好ましくは1〜4個の炭素原子を有する鎖長の短いアルキル基、特にメチル基を示してもよい。特に好ましいジイソシアネートは、トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネートであり、別の例は、ヘキサメチレンジイソシアネートである。
【0015】
本発明に係るポリエステルウレタンの調製に用いられるマクロモノマーは、好ましくは、1000〜50000g/mol(ポリスチレン基準に対するGPCにより決定される)、より好ましくは、1000〜20000g/molの数平均分子量を有し、実施形態によっては、より好ましくは1500〜15000、特に好ましくは2000〜10000の数平均分子量を有する。特に、適切なマクロモノマーは、1000〜10000、好ましくは1500〜5000、より好ましくは2000〜3000の数平均分子量を有するペンタデカラクトンのマクロジオール、3000〜11000、好ましくは4000〜10000の数平均分子量を有するカプロラクトンのマクロジオール、及び、上記他の2つのセグメントについて開示された数平均に相当する数平均分子量を有するp−ジオキサノンマクロジオールである。一実施形態において、ポリマーは、2000〜6000g/mol、好ましくは3000〜5500g/molの平均分子量を有するp−ジオキサノンマクロジオールを、1500〜2500、好ましくは約2000g/molの平均分子量を有するカプロラクトンから生じるマクロジオールと組み合わせて含む。
【0016】
上記で概説したように、本発明に係るコポリマー、すなわち本発明に係るポリエステルウレタンもまた、好ましくは、少なくとも50000、特に50000〜200000、より好ましくは60000〜190000(g/mol、ポリスチレン基準に対するGPCにより決定される)の分子量(数平均)を有する。特に、高分子量トリブロックコポリマーが好ましく、この高分子量トリブロックコポリマーは、例えば、ペンタデカラクトンから生じる1つのブロックと、他のエステル繰り返し単位から生じる2つのブロックを含み、この逆もまた含む。このようなトリブロックコポリマーは、適切なマクロモノマーを適切な割合で用いて、特に、上記で概説したイソシアネート連結技術を用いて調製することができる。
【0017】
本発明に係るコポリマーは、好ましくは、ペンタデカラクトンから生じるブロックを含み、ここで、最終のコポリマーにおけるペンタデカラクトンブロックに相当するマクロジオールは、少なくとも20℃、好ましくは25℃を超え、実施形態によっては30℃を超え又はさらには35℃の融点を有する。
【0018】
本発明に係るコポリマーは、好ましくは、ペンタデカラクトンを10〜90重量%、より好ましくは25〜60重量%、より好ましくは30〜50重量%含む。本発明に係る特に好ましいコポリマーは、ペンタデカラクトンとさらなるコモノマーとの比が40/60〜30/70を示すコポリマーである。
【0019】
ポリマーが、p−ジオキサノンマクロジオールを、カプロラクトンから生じるマクロジオールと組み合わせて含む上記の好ましい実施形態について、p−ジオキサノンから生じるセグメントとカプロラクトンから生じるセグメントとが約1:1の重量比で最終のポリマーに存在し、その結果、およそ等しい重量のジオキサノン単位とカプロラクトン単位とが存在することがさらに好ましい。この関係において、マクロジオールが上記のジイソシアネートを用いた反応により連結していることがさらに好ましく、この関係において、用いられるジイソシアネートはヘキサメチレンジイソシアネートであることが特に好ましい。これらのポリマーは、好ましくは、45000〜60000、好ましくは約50000g/molの平均分子量(Mn)を示す。このようなポリマーは、好ましくは、DSC測定のピーク最大値(熱流dQ/dTの最大値として規定される、以下に引用する参考文献R.F.Schwarzlも参照)において規定される融点を示し、このDSC測定は、窒素下、−70℃と150℃との間で10K/minの加熱冷却速度により行われ、ここで、ピークは第2サイクルで記録され、好ましくは例えば、90〜98℃のように90℃より上であり、例えば、95℃又は96℃である。
【0020】
好ましくは、このようなポリマーは、p−ジオキサノンから生じるセグメントに関して、20%を超える、例えば20〜60%、好ましくは25〜50%の結晶含有量を示し、これもまたDSCにより決定される(第2サイクル、加熱冷却条件及び温度範囲は上述の通り、熱示差結晶化度ともいわれ、測定されたエンタルピー増加と100%結晶性物質について外挿した値とを比較することで得られる。また、F.R.Schwarzl、Polymer−Mechanik、Springer Verlag Berlin Heidelberg 1990、p.278を参照)。
【0021】
上記のように、他の実施形態において、本発明に係るコポリマーは、少なくとも70℃の融点と、好ましくは少なくとも25%の結晶化度とを有する。
【0022】
本発明に係る上記のコポリマー、特に上記から導かれる好ましい実施形態におけるコポリマーは、医療用物品、特に外科用物品(好ましくは縫合糸、外科用ネット及びメッシュを含む)、特にヘルニア修復用外科用手段、並びに、補綴腱及び補綴靱帯及び血管塞栓物の調製に適している。本発明に係るコポリマーより調製される繊維及びフィラメントにより、改善された外科用物品(例えば、上述したような物品)の調製が可能となる。本発明に係るコポリマーの構造に起因して、機械的特性と所望の分解プロファイルとの良好なバランスを示す医療用物品を調製することができる。上述のように、本発明に係るコポリマーにより、特に、高強度と十分な加水分解安定性を有する繊維の調製が可能となり、その結果、機械的特性が所望の期間維持され得る。
【0023】
本発明に係るコポリマーより調製された外科用物品は、術後3年未満で完全に体に吸収される一方、術後少なくとも3週間、好ましくは少なくとも6週間、元の強度の少なくとも50%を維持する。
【0024】
本発明に係るコポリマーより調製されたモノフィラメントは、1000MPaを超え、好ましくは1200MPaを超え、実施形態によっては1500MPaを超える弾性率を示す。さらに、モノフィラメントは、1200%未満の伸長度において100MPaを超え、好ましくは120MPaを超え、実施形態によっては150MPaを超える引張強度を示す。本発明に係る代表的なモノフィラメントは、750μmから25μmの間、好ましくは600〜30μm、より好ましくは500〜40μmの直径を有する本発明に係るコポリマーから調製することができる。本発明に係るコポリマーはまた、マルチフィラメント材料中の単一のフィラメントが再び、モノフィラメントについての上述した範囲のフィラメント直径を示すマルチフィラメントに加工することができる。本発明に係るモノフィラメント及びマルチフィラメントにより、術後の強度の維持について最も高い要求に応える外科用物品(例えば、縫合糸、外科用手段及び外科用ネット、特に組織再生用及びヘルニア修復用の外科用物品、並びに、補綴腱及び補綴靱帯等)の調製が可能となる。同時に、これらの外科用物品は生体適合性であり、体に吸収され得、その結果、医療分野におけるこれらの材料の使用は、妥当性がある。
【0025】
本発明はさらに、本発明に係るコポリマーよりフィラメントを調製する方法を提供する。この方法は、好ましくは、標準的な溶融紡糸装置を用いて本発明のコポリマーを溶融紡糸するステップを含む。好ましくは、溶融紡糸ステップは、予備乾燥したポリマー粒状物(例えば、0.1mbarの圧力、40℃で24時間を超える予備乾燥されている)を用いて行われる。次いで、この予備乾燥した生成物は、好ましくは、湿度を減少させたか、又は湿度を排除した条件下で、例えば、わずかに高めた温度で、ガス相を用い、非常に低い融解温度、例えば−10℃未満、好ましくは−15℃未満の融解温度を有するコポリマーと接触させて保存することができる。次いで、この予備乾燥した材料を押出成形機、好ましくは温度プロファイルを調整するための別個の区域を有する一軸押出成形機に導入することができる。適切な押出成形機は、特に、少なくとも3つの異なる温度区域を有し、この温度区域は、本発明に係るコポリマーの加工のために、それぞれ130〜170℃、150〜200℃及び150〜210℃の範囲の温度に調整することができる。入口には、より温度の低い区域(例えば、20〜100℃を有する)を1又は複数有することができ、押出成形機の出口では、温度をわずかに高い値(例えば、115〜215℃)に増加させることができる。押出成形機を出ると、溶融した押出成形物を、適切な加熱されたライン(150〜215℃)を用いて、任意の濾過ユニット(50〜250μm、好ましくは50〜10μmの細孔寸法を有する)に供給し、その後、適切な加熱(160〜220℃)紡糸ヘッドに提供された紡糸ノズルに溶融物を供給する。ノズルは、通常の寸法の開口を少なくとも1つ有し、所望のモノフィラメント又はマルチフィラメントの調製を可能にするように設計されている。紡糸ノズルを出た後は、生成されたフィラメントを、好ましくは0℃から50℃の間、好ましくは4〜40℃の温度を有する空気を吹き付けることにより冷却する。次いで、スパンフィラメントを適切な機器上に巻き付けることができる。あるいは、吹き付け空気に関して上述した温度と同様の温度を有する水浴を用いて繊維を冷却することができる。このような水浴は、通常10〜200cmの長さを有する。次いで、スパンフィラメントを再び適切な機器上に巻き付けることができる。冷却の間、冷却後であって保存前、又は、保存後、本発明に係るフィラメントは、さらにフィラメント特性を変更するために、さらなる標準的な加工ステップ(例えば、伸長ステップ等)に供してもよい。
【0026】
上記ステップによって調製されたフィラメント、又は他の任意の標準的な手順により調製されたフィラメントは、上述した外科用物品の調製に有利に用いられ得る。この関係において、所望の外科用物品の種類に応じて、他の成形ステップ、例えば、押出成形ステップ、射出成形ステップ等を用いることもできる。
【0027】
本発明のフィラメントは、好ましくは、“Sterile,resorbierbare,synthetische Faden;Fila resorbilia synthetica monofilamenta sterilia”,Europaisches Arzneibuch,3.Ausgabe,1997,S.1321 f.f.についての要件を遵守しており、その結果、例えば、それらの長さ及び直径は、本明細書において特定されるように一定であり、フィラメントは、破壊まで針を用いた又は用いない所定の外力に耐え、順次包装されてラベルを付けられる。
【0028】
本発明のフィラメントは、一時的な形状から永久的な形状への変化を引き起こす際に生じる力に関して、高い再現性を有する。形状記憶効果を引き起こすことにより、形状記憶フィラメントから結び目をつくることができるので、本発明の材料を用いる際に生じる外力は、手により結び目をつくる場合より、また、公知の形状記憶ポリマーを用いる場合よりもなお、非常に再現性がある。それゆえ、このような形状記憶フィラメントは、公知の縫合糸材料より、耐引裂き性に関する要件がより低く、これにより他の特性を最適化することができる。
【0029】
別の好ましい実施形態において、本発明のフィラメントはそれゆえ、先に引用したEuropaisches Arzneibuchにおいて特定されている外力より弱い力にのみ破壊まで耐えるが、他のパラメータ(例えば、弾性、生体分解性、生体適合性等)において公知のフィラメントに対しては有利である。
【0030】
上記のように物品を生成するのに加工されるコポリマーは、純粋なコポリマーであってもよく、加工に先立って又は加工の間に従来の添加物(例えば、有効成分(active principle)、造影剤、診断用薬、充填材等)と配合させてもよい。これらの添加物は、外科用物品の所望の最終的な特性を妨げない限り、従来の量で用いてもよい。
【実施例】
【0031】
生体分解性形状記憶ポリマーで形成された縫合糸
1.生体分解性形状記憶ポリマーの合成
合成の第1段階において、報告された方法(A.Lendlein,P.Neuenschwander,U.W.Suter,Macromol.Chem.Phys.,201,1067,(2000))に従って、開始剤として低分子量ジオールを用いた開環重合によりマクロジオールを合成し、精製した。溶融転移温度(Ttrans)を有する切り替えセグメント(switching segment)(ソフトセグメント)のための前駆体として、オリゴ(ε−カプロラクトン)ジオール(M 2000g/mol)を選択した。溶融転移温度(T=Tperm)を有する結晶化可能なオリゴ(p−ジオキサノン)ジオール(M 4000g/mol)を、物理的な架橋を提供するためのハードセグメントとして選択した。
第2段階において、2つのマクロジオールを以下のようにしてヘキサメチレンジイソシアネートと結合させた:両マクロジオールを等量で1,2−ジクロロエタンに溶解し、80℃まで加熱した。等モル量のヘキサメチレンジイソシアネートを加えた。溶媒及びモノマーを標準的な技術により乾燥し、水を排除して合成を行った。粗生成物をヘキサン中で沈殿させた。得られたポリマーは、約50000g/molの分子量(M)を有し、融点Tmは、90℃を超えており、オリゴ(p−ジオキサノン)ジオールセグメントに起因する結晶化度は約35%であった。
【0032】
2.生体分解性記憶ポリマーの形状記憶特性
形状記憶特性を定量するために、プログラム及び回復をサイクル熱機械試験により以下のようにして検討した:300〜500μmの厚さを有するフィルムに材料を圧縮した。犬骨形状サンプル(クランプ間長さ:6mm、幅:3mm)をフィルムから打ち抜き、サーモチャンバを備えた引張試験機(K.Sakurai,Y.Shirakawa,T.Kahiwagi,T.Takahashi,Polymer 35,4238(1994)を参照)に載置した。200%の歪みとし、歪み速度10mm・min−1、Tlow=20℃及びThigh=50℃で、試験を行った。サンプルを10分間Tlowで保持し、その後、負荷を取り除いた(H.Tobushi,H.Hara,E.Yamada,S.Hayashi,S.P.I.E.2716,46(1996)を参照)。
この簡単な試験によると、形状記憶は1次元であるが、その効果は3次元で生じるとのことである。効果は、一般的に2つの重要なパラメータを用いて記述される。歪み固定率Rは、切り替えセグメントが、プログラムプロセスの間に受ける機械的変形を固定する能力を表す。本明細書において記載されるポリマーについて、Rは約99%である。歪み回復率Rは、材料がその永久形状を回復する能力を定量化する。Rは、サイクル数に依存し、非配向の圧縮されたフィルムにおけるポリマー鎖が、サイクルの早い段階で非弾性挙動により再配向することで徐々に100%に近づく。第1サイクルにおいて、Rは開示されたマルチブロックコポリマーについて約80%であり、第3サイクルでは約100%である。
【0033】
3.生体外(in vitro)での生体適合性試験
本明細書に開示されたポリマーの組織適合性を、毒性を評価するのに感度の良い方法である絨毛尿膜試験(CAM試験)(K.Spanel−Borowski,Res.Exp.Med.(Berl)189,69(1989))を用いて調査した。9つの実験を独立して行った。全ての試験において、Folkman(R.Crum,S.Szabo,J.Folkman,Science 230,1375(1985))に従った等級で良好な組織適合性が示された。試験結果によると、血管の数又は形状において検出可能な変化がないか、又はポリマーフィルム(サンプル長:左A0.3cm、右A0.5cm)の下又はその近傍において損傷がないことが示された。陽性のコントロールサンプルについては、A.Lendlein,Chem.in unserer Zeit 33,279(1999)を参照のこと。
【0034】
4.生体外での縫合糸の結び目作成試験
高弾性形状記憶熱可塑性プラスチックを、Haake Polylab一軸押出成形機のロッドダイを介して、90℃での押出成形によりモノフィラメントに押出成形した。エチレンオキシドにより45℃で滅菌した縫合糸を、滅菌条件下で、押出成形した繊維に対して制御した応力をかけ、次いで熱クエンチングすることによりプログラムにかけた。これにより、直径0.29mmの縫合糸を得た。ゆるい結び目を固く締め、フィラメントを両端で固定した。フィラメントを40℃より高く温めると、結び目は最大外力を示しながら収縮しており、フィラメントは、実験を10回繰り返した場合でも十分再現性があり、温度とはほとんど独立しており、その間、T付近でなくとも形状変化を引き起こすのに十分高かった。この再現性により、フィラメントを縫合糸として用いることが可能となり、このフィラメントは、破壊試験において公知の材料より低い耐久性を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタデカラクトン及び/又はジオキサノンから生じる繰り返し単位を、少なくとも1つの追加エステル繰り返し単位生成モノマーから生じるさらなる繰り返し単位と組み合わせて含み、少なくとも70℃の融点と、少なくとも25%の全結晶含有量又は少なくとも20%のペンタデカラクトン及び/若しくはジオキサノンから生じる繰り返し単位の結晶含有量とを有する、コポリマー。
【請求項2】
前記個々のコモノマーは、別個のブロックに分配されている繰り返し単位の形態で、コポリマー内に分配されている、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
少なくとも50000g/molの数平均分子量を示す、請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項4】
少なくとも80℃の融点を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項5】
少なくとも35%の結晶化度を有する、請求項1〜3又は5のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項6】
ポリエステルウレタンであり、2価のウレタンセグメントを介して結合された同一の繰り返し単位のブロックを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項7】
前記ペンタデカラクトンから生じるブロックは、1000〜20000g/molの数平均分子量を有する、請求項6に記載のコポリマー。
【請求項8】
10〜90wt%のペンタデカラクトンを含む、前記請求項のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項9】
前記少なくとも1つの追加エステル繰り返し単位生成モノマーは、カプロラクトン、p−ジオキサノン又はこれらの混合物から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のコポリマーを含む外科用物品。
【請求項11】
縫合糸、外科用ネット及び外科用手段から選択され、特に、ヘルニア修復及び補綴腱及び補綴靱帯のための、請求項10に記載の外科用物品。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のコポリマーから調製され、500〜40μmの平均径を有するフィラメント。
【請求項13】
1200%未満の伸長度において、1000MPaを超える弾性率及び/又は100MPaを超える引張強度を有する、請求項12に記載のフィラメント。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のコポリマーを溶融させるステップと、任意選択で、前記溶融段階又は溶融前のコポリマーとさらなる従来の添加物とを混合するステップと、次いで、紡糸ノズルを介して前記溶融したコポリマーを押出成形するステップと、次いで、前記紡糸されたフィラメントを冷却するステップと、次いで、前記フィラメントを適切な機器に巻き付けるステップとを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載のコポリマーを用いて、請求項12又は13に記載のフィラメントを調製する方法。

【公表番号】特表2009−526108(P2009−526108A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553696(P2008−553696)
【出願日】平成19年2月12日(2007.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001194
【国際公開番号】WO2007/090686
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(504380747)ネモサイエンス、ゲーエムベーハー (9)
【氏名又は名称原語表記】MNEMOSCIENCE GMBH
【Fターム(参考)】