説明

医療用構造体

【課題】ポリマーでコーティングしたとしても、超弾性を示す構造前駆体の長所をそのまま維持した医療用構造体であって、生体適合性を有するポリマーで該構造前駆体をコーティング等した医療用構造体の提供。
【解決手段】構造前駆体;及び該構造前駆体の表面に形成されるポリマー;を有する医療用構造体であって、ポリマーは、ポリロタキサンを有し、該ポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなる医療用構造体により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造前駆体;及び生体適合性を有するポリマーを有する医療用構造体であって、ポリマーを構造前駆体にコーティング等してなる医療用構造体に関する。
特に、本発明は、構造前駆体の材料として弾性材料、特に超弾性材料を用い、ポリマーとして、該構造前駆体の弾性、特に超弾性に追随する特性を有し且つ生体適合性を有するポリロタキサンを用いた医療用構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年大きく進歩した低侵襲治療法、即ち、あまり大きく体を傷つけず、内視鏡やエックス線支援下に、カテーテルなどで、体外から体内の患部に直接アプローチし、ステントなどの医療材料を留置、治療する方法では、医療材料を体外で小さく折り畳んでおき、体内に挿入後、広げて用いる手法が用いられており、この手法に即した医療材料が求められている。
例えば、特許文献1には、金属ワイヤ表面をポリマーでコーティングして得られるステント、ステントグラフトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−325655号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されるポリマーなどの通常のポリマーを用いると、金属ワイヤなどがたとえ超弾性の特性を示しても、ポリマーがその特性、特に超弾性材料の変形に追随することができない、という問題点がある。具体的には、ステントなどは、体内挿入前には折りたたまれているが、通常のポリマーを用いると、十分に折りたたむことができないか又はヒダが生じ扱い難くなる、という問題点を有する。また、体内挿入後、ステント等は、所望の位置で所望の形態を採ることが求められるが、たとえ超弾性材料が該形態を採ることができても、ポリマーがその変形に追随できないために、所望の形態を採れない、という問題点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決できる医療用構造体を提供することにある。
具体的には、本発明の目的は、構造前駆体をポリマーでコーティング等したとしても、弾性、特に超弾性を示す構造前駆体の長所、即ち弾性、特に超弾性を有する医療用構造体であって、生体適合性を有するポリマーを用いることにより構造体の表面が生体適合性を示す医療用構造体を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的以外に、又は上記目的に加えて、超弾性などの特性を有する新規な医療用構造体を提供することにある。
【0006】
本発明者らは、次の発明を見出した。
<1> 構造前駆体;及び該構造前駆体の表面に形成されるポリマー;を有する医療用構造体であって、
ポリマーは、ポリロタキサンを有し、該ポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなり、
前記ポリマーは、前記医療用構造体の外面を形成する、上記医療用構造体。
【0007】
<2> 上記<1>において、構造体は、その変形率が300%以上、好ましくは500%以上、より好ましくは800%以上であるのがよい。
<3> 上記<1>又は<2>において、構造前駆体を構成する材料は、その比例弾性領域が2%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上であるのがよい。
<4> 上記<1>〜<3>のいずれかにおいて、構造前駆体自体の比例弾性領域が2%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上であるのがよい。
<5> 上記<1>〜<4>のいずれかにおいて、構造体自体の比例弾性領域が2%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上であるのがよい。
【0008】
<6> 上記<1>〜<5>のいずれかにおいて、構造前駆体は、i)超弾性合金;ii)アモルファス合金;iii)ゴム金属、iv)形状記憶合金;v)ナイロン繊維;vi)カーボン繊維;vii)ボロン繊維;viii)ポリイミド繊維;及びix)ポリエーテルイミド繊維;からなるA群から選ばれる少なくとも1種の材料を有するのがよい。なお、「超弾性合金」、「アモルファス合金」及び「ゴム金属」の語については後に詳述する。
【0009】
<7> 上記<6>において、構造前駆体が、A群から選ばれる少なくとも1種の材料のみからなるのがよい。
<8> 上記<1>〜<7>のいずれかにおいて、構造前駆体が、細径ワイヤによる編組体;細径ワイヤによる撚線体;コイル体;薄板切り欠き体;及び筒状切り欠き体;からなるB群から選ばれる少なくとも1種の構造を有するのがよい。なお、これらは、上述の材料から形成されるのがよい。
【0010】
<9> 上記<1>〜<8>のいずれかにおいて、構造体は、中空体であるのがよい。
<10> 上記<1>〜<9>のいずれかにおいて、構造体が、線状体;筒状体;袋状体;カゴ状体;及び所望の形態;からなる群から選ばれる第1の形態から、線状体;筒状体;袋状体;カゴ状体;及び所望の形態からなる群から選ばれ且つ第1の形態とは異なる第2の形態へと可変であるのがよい。特に、医療用構造体を用いる場合、該構造体が生体内に導く前に第1の形態を有し、生体内で第2の形態を有することができる。
【0011】
<11> 上記<1>〜<10>において、ポリマーは、上述のポリロタキサンの他に、ポリロタキサン以外である一般ポリマーを有し、該一般ポリマーと上述のポリロタキサンとが共有結合及び/又はイオン結合を介して結合してなるのがよい。
<12> 上記<1>〜<11>において、ポリロタキサンは、少なくとも2分子が上述の環状分子を介して化学架橋してなるのがよい。
<13> 上記<1>〜<12>において、ポリマーは、上述のポリロタキサンのみからなり、該ポリロタキサンは、少なくとも2分子が上述の環状分子を介して化学架橋してなるのがよい。
<14> 上記<1>〜<13>のいずれかにおいて、環状分子は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンからなる群から選択されるのがよい。
【0012】
<15> 上記<1>〜<14>のいずれかにおいて、直鎖状分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよく、例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれるのがよく、より具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0013】
<16> 上記<1>〜<15>のいずれかにおいて、直鎖状分子は、その分子量が3,000以上、好ましくは20,000以上、より好ましくは35,000以上であるのがよい。
<17> 上記<1>〜<16>のいずれかにおいて、封鎖基が、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類であるのがよい。
【0014】
<18> 上記<1>〜<17>のいずれかにおいて、環状分子がα−シクロデキストリン由来であり、直鎖状分子がポリエチレングリコールであるのがよい。
<19> 上記<1>〜<18>のいずれかにおいて、環状分子が直鎖状分子により串刺し状に包接される際に環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、環状分子が0.001〜0.6、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4の量で直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。
【0015】
<20> 上記<1>〜<19>のいずれかにおいて、医療用構造体が医療用フランジを有する医療用構造体であるのがよい。
<21> 上記<1>〜<19>のいずれかにおいて、医療用構造体が医療用フランジのみからなる医療用構造体であるのがよい。
【0016】
<22> 上記<1>〜<19>のいずれかにおいて、医療用構造体が心房中隔欠損治療用カテーテルであり、該構造体は、カテーテル挿入時に該心房中隔欠損の径よりも小径である筒状体である第1の形態を有し、カテーテル増設時に前記心房中隔欠損の径よりも大径の第1及び第2のフランジ部、並びに該第1及び第2のフランジ部を連結し前記心房中隔欠損を連通する所望長さの連関部;を有する第2の形態を有するのがよい。
【0017】
<23> 心房中隔欠損を連通する所望長さの連関部;該連関部の両端に配置され前記心房中隔欠損の径よりも大径の第1及び第2のフランジ部を有する心房中隔欠損治療用カテーテルの敷設方法であって、
前記心房中隔欠損治療用カテーテルが、上記<1>〜<18>のいずれかに記載される医療用構造体であり、
xi)前記心房中隔欠損治療用カテーテルを筒状挿入管に納める工程;
xii)前記筒状挿入管を該心房中隔欠損に連通させる工程;
xiii)前記筒状挿入管から、連通遠位側で、心房中隔欠損治療用カテーテルの第1の押出部を押し出し、該第1の押出部を前記第1のフランジ部とする工程;
xiv)さらに、前記筒状挿入管から、連通近位側で、心房中隔欠損治療用カテーテルの第2の押出部を押し出し、第2の押出部を前記連関部及び前記第2のフランジ部とする工程;
を有する、上記方法。
【0018】
<24> 上記<1>〜<19>のいずれかにおいて、医療用構造体がステントグラフト、人工血管、人工食道、人工気管、人工胆管、人工尿管、及び人工尿道からなる群から選ばれる管状補綴材であるのがよい。
<25> 上記<1>〜<19>のいずれかにおいて、医療用構造体が屈曲性カテーテルであるのがよい。
<26> 上記<1>〜<19>のいずれかにおいて、医療用構造体がリザーバー、ドレナージバッグ、及び人工膀胱からなる群から選ばれるのがよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、構造前駆体をポリマーでコーティング等したとしても、弾性、特に超弾性を示す構造前駆体の長所、即ち弾性、特に超弾性を有する医療用構造体であって、生体適合性を有するポリマーを用いることにより構造体の表面が生体適合性を示す医療用構造体を提供することができる。
また、本発明により、上記効果以外に、又は上記効果に加えて、超弾性などの特性を有する新規な医療用構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】構造前駆体の構造を概念的に示した図である。
【図2】本発明の構造体を用いた屈曲性カテーテル1の概略図である。
【図3】管状体12及び本発明の構造体を用いた第1のフランジ部14を有する管状医療器11の概略図である。
【図4】心房中隔欠損治療用カテーテル31及びその敷設法を例示する概略図である。
【図5】実施例1で用いた構造前駆体の構造を示す図である。
【図6】実施例2及び3並びに比較例2及び3で用いた模擬回路の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、構造前駆体;及び該構造前駆体の表面に形成されるポリマー;を有する医療用構造体であって、該ポリマーがポリロタキサンを有し、該ポリマーが該医療用構造体の外面を形成する医療用構造体を提供する。
【0022】
<構造前駆体>
本発明において、構造前駆体は、その語の通り、医療用構造体の前駆体を意味する。換言すると、構造前駆体は、医療用構造体の骨格を形成する。
構造前駆体を構成する材料は、その比例弾性領域が2%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上であるのがよい。
また、構造前駆体自体の比例弾性領域も、2%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上であるのがよい。
さらに、構造体自体の比例弾性領域も、2%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上であるのがよい。
【0023】
ここで、比例弾性領域とは、ある物質の応力−歪曲線を測定した場合、応力と歪が比例する領域をいう。なお、一般に、この領域を超えると、弾性の性質から元にもどらない塑性変形を起こす領域へ変わる。
【0024】
構造前駆体は、i)超弾性合金;ii)アモルファス合金;iii)ゴム金属、iv)形状記憶合金;v)ナイロン繊維;vi)カーボン繊維;vii)ボロン繊維;viii)ポリイミド繊維;及びix)ポリエーテルイミド繊維;からなるA群から選ばれる少なくとも1種の材料を有するのがよい。
【0025】
ここで、「超弾性合金」として、Ni−Ti(50:50atom%)合金及び該合金に少量のCuを含む合金、Ti−Pd合金、白金合金、Fe−Mn−Si合金、Ag−Cd合金(44/49 atom%Cd)、Au−Cd合金(46.5/50 atom%Cd)、Cu−Al−Ni合金(14/14.5wt%Aland3/4.5wt%Ni)、Cu−Sn合金(約15atom%Sn)、Cu−Zn合金(38.5/41.5wt%Zn)、Cu−Zn−X合金(X=Si、Al、Sn)、Fe−Pt合金(約25atom%Pt)、Co−Ni−Al合金、Co−Ni−Ga合金、並びにNi−Fe−Ga合金などを挙げることができるが、これらに限定されない。なお、Ni−Ti(50:50atom%)合金及び該合金に少量のCuを含む合金、Ti−Pd合金、白金合金、及びFe−Mn−Si合金であるのが好ましく、より好ましくはNi−Ti(50:50atom%)合金及び該合金に少量のCuを含む合金であるのがよい。
【0026】
また、「アモルファス合金」とは、少なくとも体積率50%以上の非晶質相を含む実質的に非晶質の合金をいい、M1M2M3M4M5(M1はZr、Hf及びTiから選ばれる1種、2種又は3種の元素、M2はCu、Fe、Co、Mn、Nb、V、Cr、Zn、Al、Sn、及びGaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素、M3はB、C、N、P、Si及びOよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素、M4はTa、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素、M5はAu、Pt、Pd及びAgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、a、b、c、d及びeはそれぞれ原子%で、25≦a≦85、15≦b≦75、0≦c≦30、0≦d≦15、0≦e≦15である)で表される合金である。なお、アモルファス合金は、好ましくは、Zr、Al及びCuから成る三元系合金を主成分とし、前記主成分中にZrが、40原子%〜55原子%、Alが5原子%〜15原子%、Cuが30原子%〜50原子%含まれ、前記合金を構成するZr、Al及びCuの内の一部がHf、Ti、Fe及びCoのいずれかに置き換えられるものであるのがよい(特開2005−27840のうちアモルファス合金に関する内容は本願に参照として含まれる)。
【0027】
さらに、「ゴム金属」とは、Ti−15〜30(V,Nb,Ta)−0.3(Zr,Hf)−1.8〜6.5O(式中、数値は、主成分がTiであり、全原子数を100atom%とした場合のatom%である。なお、Tiについてのatom%は省略している)で表される合金をいう(WO2002−077305のうちゴム金属に関する内容は本願に参照として含まれる)。
【0028】
構造前駆体は、医療用構造体の用い方などにも依存するが、上記A群の材料の他の材料を有してもよい。また、構造前駆体は、医療用構造体の用い方などにも依存するが、上記A群のうちの1種又は複数種の材料のみからなってもよい。勿論、構造前駆体は、医療用構造体の用い方などにも依存するが、上記A群のうちの1種の材料のみからなってもよい。
【0029】
構造前駆体は、上述の比例弾性領域の値を示すために、及び/又は、後述の構造体の変形率の値を示すために、種々の構造を有することができる。これらの構造として、細径ワイヤによる編組体;細径ワイヤによる撚線体;コイル体;薄板切り欠き体;及び筒状切り欠き体;からなるB群から選ばれる少なくとも1種の構造を有するのがよい。なお、これらの細径ワイヤなどは、上述の材料から形成されるのがよい。
図1は、構造前駆体の構造を概念的に示した図である。図1中、(a)は細径ワイヤによる編組中空体の概念図、(b)は細径ワイヤによる撚線中空体(両端が閉じた袋状体)の概念図、(c)は(a)とは異なる細径ワイヤによる編組中空体(両端が閉じた袋状体)の概念図、(d)は(b)とは異なる細径ワイヤによる撚線中空体(両端が閉じた袋状体)の概念図、(e)は筒状切り欠き体の概念図、をそれぞれ示す。なお、これらの図は例示であって、本発明の構造前駆体はこれらに限定されるものではない。
構造前駆体がこれらの構造を有することにより、それを構成する材料の比例弾性領域と相俟って、構造前駆体は、上述の比例弾性領域を達成することができ、本発明の目的を達成することができる。
【0030】
<ポリマー>
本発明の医療用構造体において、ポリマーは、上述の構造前駆体の表面に形成され、且つ構造体の外面を形成する。特に、本発明の医療用構造体は、後述のように、中空体であるのがよく、その場合、ポリマーは、中空体の外面を形成する。
概略的に言うと、構造前駆体は構造体の骨組みであり、ポリマーは該構造前駆体(骨組み)に肉付けされた箇所である。例えば、構造前駆体がコイル体であり構造体が中空体である場合、骨組みであるコイル体にポリマーが肉付けされて中空体が形づくられる。
なお、肉付け、即ちポリマーを構造前駆体の表面に形成させ、構造体の外面を形成する際、ポリマーとして複数種を用いて複数層を形成してもよい。即ち、構造前駆体表面近傍には、該構造前駆体を構成する材料との親和性が高いポリマーを配置させる一方、構造体表面には生体適合性を有するポリマーを配置させる、という複数層の構造を形成してもよい。
【0031】
本発明において、ポリマーは、ポリロタキサンを有する。
ポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなる構成を有する。ポリロタキサンの各構成要素に関しては後述する。
本発明において、ポリマーは、ポリロタキサン以外の一般ポリマーを有しても、ポリロタキサンのみからなってもよい。ポリロタキサンは、該ポリロタキサンの少なくとも2分子が環状分子を介して化学架橋してなるのがよい。なお、一般ポリマーとして、特に限定されないが、生体適合性を有するものであるのが好ましい。
本発明のポリマーは、ポリロタキサンを有することにより、特に上述の化学架橋の構造を有することにより、本発明のポリマーに弾性、特に超弾性などの特性を保持させることができ、これによって構造前駆体の変形に追随する医療用構造体を提供できる。
【0032】
以下、本発明の構造体のポリマーに含まれるポリロタキサンの各構成について説明する。
<<環状分子>>
環状分子は、その開口部に直鎖状分子が串刺し状に包接される分子であれば、特に限定されない。
環状分子は、水酸基を有する環状分子であるのがよく、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンからなる群から選択されるのがよい。環状分子が、水酸基を有する場合、該水酸基の一部が、他の基により置換されてもよい。なお、他の基として、本発明のポリロタキサンを親水性化する親水性化基、本発明のポリロタキサンを疎水性化する疎水性化基、光反応性基などを挙げることができるが、これに限定されない。
【0033】
<<直鎖状分子>>
本発明のポリロタキサンの直鎖状分子は、環状分子の開口部に串刺し状に包接され得るものであれば、特に限定されない。
例えば、直鎖状分子として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよい。例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテルからなる群から選ばれるのがよい。より具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0034】
直鎖状分子は、その分子量が3,000以上、好ましくは20,000以上、より好ましくは35,000以上であるのがよい。
本発明のポリロタキサンにおいて、環状分子がα−シクロデキストリン由来であり、直鎖状分子がポリエチレングリコールであるのがよい。
【0035】
環状分子が直鎖状分子により串刺し状に包接される際に環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、前記環状分子が0.001〜0.6、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.05〜0.4の量で直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。
なお、環状分子の最大包接量は、直鎖状分子の長さと環状分子の厚さとにより、決定することができる。例えば、直鎖状分子がポリエチレングリコールであり、環状分子がα−シクロデキストリン分子の場合、最大包接量は、実験的に求められている(Macromolecules 1993, 26, 5698-5703を参照のこと。なお、この文献の内容はすべて本明細書に組み込まれる)。
【0036】
<<封鎖基>>
本発明のポリロタキサンの封鎖基は、擬ポリロタキサンの両端に配置され、環状分子が脱離しないように作用する基であれば、特に限定されない。
例えば、封鎖基として、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類であるのがよい。
【0037】
<医療用構造体>
本発明において、医療用構造体は、構造前駆体及びポリマーを有してなり、<ポリマー>の項で述べたような構造を有する。特に、本発明の医療用構造体は、医療用中空構造体であるのがよい。
構造体は、その変形率が300%以上、好ましくは500%以上、より好ましくは800%以上であるのがよい。
構造前駆体の特性に追随することができるポリマー、特にポリロタキサンを用いることにより、上記変形率を達成することができ、各種の医療用構造体として用いることができる。
構造体は、線状体;筒状体;袋状体;カゴ状体;及び所望の形態;からなる群から選ばれる第1の形態から、線状体;筒状体;袋状体;カゴ状体;及び所望の形態からなる群から選ばれ且つ第1の形態とは異なる第2の形態へと可変であるのがよい。特に、医療用構造体を用いる場合、該構造体が生体内の所望箇所に導く前に第1の形態を有し、生体内の所望箇所で第2の形態を有することができる。
【0038】
<医療用構造体の応用>
上述の医療用構造体は、種々の医療材料として用いることができる。以下、例示説明するが、応用分野はこれらに限定されるものではない。
【0039】
本発明の医療用構造体は、ステントグラフト、人工血管、人工食道、人工気管、人工胆管、人工尿管、及び人工尿道からなる群から選ばれる管状補綴材として応用することができる。なお、管状補綴材として、上記のみに限定されるものではない。
管状補綴材は、用い方などに依存して、構造体の寸法、構造体の成分(即ち、構造前駆体及びポリマー)を適宜、変更することができる。
例えば、ステントグラフトとして用いる場合、次のように作業して、患者体内の所望箇所に本発明の構造体であるステントグラフトを設けることができる。まず、本発明の構造体であるステントグラフトを折りたたんで、デリバリカテーテルの先端部に設ける。患者の体内の所望箇所まで、デリバリカテーテル先端を近づけた後、デリバリカテーテル内に設けた押し出し部材で折りたたんだステントグラフトを患者体内の所望箇所に押し出す。本発明の構造体であるステントグラフトは、構造前駆体が超弾性金属及び/又は形状記憶合金でなるため、押し出されたステントグラフトは、折りたたむ前の構造へと変化し、ポリマーはそれに追随して所望の箇所で所望の構造を採ることができる。
なお、ステントグラフトなどは、バルーンカテーテルなどによって患部で拡張されるもの、患部に留置されたとき自己拡張するものなどがあり、これらの場合であっても、本発明の構造体であるステントグラフトは、所望の構造を採ることができる。
【0040】
本発明の医療用構造体は、屈曲性カテーテルとして用いることができる。
本発明の医療用構造体は、上述のように、その変形率が300%以上、好ましくは500%以上、より好ましくは800%以上であり、構造前駆体を構成する材料、構造前駆体そのもの、及び/又は構造体そのものは、その比例弾性領域が2%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上である。したがって、本発明の医療用構造体をカテーテルとして用いた場合、体腔の屈曲に順応することができる屈曲性カテーテルとすることができる。
図2は、屈曲性カテーテル1の概略図である。図2(a)の屈曲性カテーテル1は、本発明の構造体部3と手元操作部5とを有してなる。構造体部3は、図示しない略線状中空体である構造体前駆体と該構造前駆体の外面をポリマーとを有してなる。
図2(b)は、該屈曲性カテーテル1の構造体部3が、屈曲した体腔7に挿入されている模式図である。構造体部3は、患者9の体腔7の屈曲部にあわせて屈曲することができる。
【0041】
本発明の医療用構造体は、リザーバー、ドレナージバッグ、及び人工膀胱からなる群から選ばれる用途に用いるのがよい。
【0042】
本発明の医療用構造体は、医療用フランジを有する管状医療器、例えば医療用フランジを有するドレナージチューブ、カテーテル、カニューレなどに用いることができる。
開腹手術や開胸手術など、体を切開し、臓器の治療などを行った手術後は、術後の出血や浸出液の排出のため、ドレナージチューブを挿入しておき、患部が回復、これらの排液が止まったとき、これらの挿管を抜去する。しかし、これら挿管は、使用中抜けるとトラブルとなるため、抜けない構造が必要で、抜け防止の突起などが作られるが、充分ではない。また、大きな突起を作ると、今度は術中以外には挿管しにくい。このため、挿入時にはチューブと近い径(ノンプロファイルという)であり、体内では大きく拡がり、できれば、鍔状に拡がるものが好ましい。なお、ここで鍔状体又は盤状体をフランジという。
また、チューブの体外のものが、体内に押し込まれると、菌を体内に入れる可能性がある。このため、チューブが押し込まれないように、体内のフランジだけでなく、体外にも鍔状体を有するチューブ、即ちフランジを複数有するチューブが好ましい。
さらに、循環器治療における、心房や心室からの脱血や送血にはカニューレが用いられるが、これらについても、ドレナージチューブと同様に、抜け防止のため、フランジを有するものが好ましく、感染防止の点でも同様に、フランジを複数有するカニューレが好ましい。
【0043】
医療用フランジを有する管状医療器は、換言すると、次のような構成を有する。
即ち、医療用構造体が管状体及び第1のフランジ部を有する管状医療器であり、該管状医療器は、管状体挿入時に第1のフランジ部は管状体の径と略同径の筒状体である第1の形態を有し、管状医療器増設時に第1のフランジ部は管状体挿入口の径よりも大径の第1の鍔状体となる第2の形態を有し、該第1のフランジが挿入口近傍に配置され且つ挿入口内に配置されてなる。
また、所望により、管状医療器は、第2のフランジ部を、挿入口よりも遠位側に有し、管状医療器増設時に第2のフランジ部は管状体挿入口の径よりも大径の第2の鍔状体となる第2の形態を有し、該第2のフランジが挿入口近傍に配置され且つ挿入口外に配置されてなる。
なお、管状体は、第2のフランジのさらに挿入口よりも遠い側に配置されるのがよい。また、所望により、管状体は、第1のフランジのさらに先に配置されてもよい。
【0044】
図3は、管状体12及び第1のフランジ部14を有する管状医療器11の概略図である。
管状体12は、先端部15及び手元部16、並びに先端部15と手元部16との間に溝部17を有する。該管状体12は、第1のフランジ部14となる部分19を有する管状固定部13の管状内部18に設けられる。第1のフランジ部は管状医療器を患者体腔に挿入する前は管状を示し、該第1のフランジ部14の先端は先端部20に、手元側は管状固定部手元部18に固着される。また、管状固定部13は、フランジ部14のフランジ状態を維持する維持部材21を具備してなる。
管状医療器11は、(A)に図示されるように、患者体腔に設けられた体腔内留め具23及び体腔外留め具24の孔23a及び24aを通って、患者体腔内に挿入される。
次いで、管状医療器11は、(B)に図示されるように、管状体12を手元側、即ちX方向に引くことにより、管状体先端部15に設けられた突起部(図示しない)が管状固定部13の先端部20に設けられた溝部(図示しない)に係止する。また、管状固定部手元部18を孔23a及び24a近傍に固定することにより、フランジ部14は、(B)に図示されるように、略ボール状から徐々に、(C)に図示するフランジ状へと変化する。
さらに、管状体12をX方向に引くことにより、(C)に図示されるように、フランジ部14はフランジ状となる。また、該フランジ状を維持するため、維持部材21のボタン25を押してボタン下部26が管状体12に設けられた溝部17と係止される。
一方、図示しないが、管状医療器11を患者体腔から脱着する際は、(C)でボタン25を押して、ボタン下部26と溝部17との係止を解除し、管状体12をX方向とは逆にすることにより、フランジ部14がフランジ状から管状へと変形するため、管状医療器11を患者体腔から容易に脱着することができる。
なお、図3では、フランジ部が編組体の構造前駆体のみからなるように図示されているが、これは単に理解のためであり、実際にはフランジ部は、構造前駆体(骨格)にポリマーが肉付けされた本発明の構造体である。
【0045】
本発明の医療用構造体は、実質的に医療用フランジのみからなる構造体、例えば心房中隔欠損治療用カテーテルなどに用いることができる。
この場合、心房中隔欠損治療用カテーテルは、カテーテル挿入時に該心房中隔欠損の径よりも小径である筒状体である第1の形態を有し、カテーテル増設時に心房中隔欠損の径よりも大径の第1及び第2のフランジ部、並びに該第1及び第2のフランジ部を連結し前記心房中隔欠損を連通する所望長さの連関部;を有する第2の形態を有するのがよい。
【0046】
心房中隔欠損治療用カテーテルは、次のような方法により敷設することができる。
即ち、心房中隔欠損を連通する所望長さの連関部;該連関部の両端に配置され前記心房中隔欠損の径よりも大径の第1及び第2のフランジ部を有する心房中隔欠損治療用カテーテルの敷設方法であって、
xi)前記心房中隔欠損治療用カテーテルを筒状挿入管に納める工程;
xii)前記筒状挿入管を該心房中隔欠損に連通させる工程;
xiii)前記筒状挿入管から、連通遠位側で、心房中隔欠損治療用カテーテルの第1の押出部を押し出し、該第1の押出部を前記第1のフランジ部とする工程;
xiv)さらに、前記筒状挿入管から、連通近位側で、心房中隔欠損治療用カテーテルの第2の押出部を押し出し、第2の押出部を前記連関部及び前記第2のフランジ部とする工程;
を有する方法により敷設することができる。
【0047】
図4は、心房中隔欠損治療用カテーテル31及びその敷設法を例示する概略図である。
心房中隔欠損治療用カテーテル31は、先端部33、第1のフランジ部34、連関部35、第2のフランジ部36及び手元部37を有してなる。なお、第1のフランジ部34及び第2のフランジ部の構造前駆体は、例示において、形状記憶合金からなる。
心房中隔欠損治療用カテーテル31は、筒状挿入管41の先端側に配置される共に、筒状挿入管41の手元側には押出部43が配置される。
図4の(A)〜(E)は、該心房中隔欠損治療用カテーテル31の敷設法を例示する。
まず、図4(A)に示すように、心房中隔欠損治療用カテーテル31及び押出部43が配置された筒状挿入管41の先端を、心房中隔欠損部に設けた留め具51に押し当て、押出部43をX方向に押し出し、先端部33及び第1のフランジ部34を患者体腔内に設ける。
その後、第1のフランジ部34の構造前駆体が上述のように形状記憶合金からなるため、第1のフランジ部34は、図4(B)及び(C)に示すように、ボール状((B))からフランジ状((C))へと変化する。
次いで、図4(D)に示すように、連関部35が留め具51内に配置されるように、筒状挿入管41をY方向に引くと共に、必要に応じて押出部43をX方向に押し出す。これにより、第2のフランジ部36が筒状挿入管41から表出し、第2のフランジ部36の構造前駆体が上述のように形状記憶合金からなるため、第2のフランジ部36は、図4(D)に示すように、ボール状へと変化する。
さらに、第2のフランジ部36及び手元部37を筒状挿入管41から表出されることにより、図4(E)に示すように、第2のフランジ部36は、フランジ状へと変化する。
これにより、心房中隔欠損部を閉じるカテーテルを設けることができる。
なお、図4では、留め具51を用いているが、これは所望により用いても用いなくともよい。また、図4では、フランジ部が編組体の構造前駆体のみからなるように図示されているが、これは単に理解のためであり、実際にはフランジ部は、構造前駆体(骨格)にポリマーが肉付けされた本発明の構造体である。
【0048】
<医療用構造体の製造方法>
上述の医療用構造体は、次のような方法によって製造することができる。
即ち、まず骨組みである構造前駆体を準備する。
次いで、構造前駆体の表面にポリマーを肉付けして医療用構造体を形成する。概略的には、例えば構造前駆体をある管状体に入れ、該管状体に、モノマー又はオリゴマーの溶液などポリマー前駆体を注入し、その後、該管状体を回転させながらポリマー前駆体を重合させることにより、構造前駆体の表面にポリマーを肉付けさせて医療用構造体を形成することができる。なお、構造前駆体を入れる管状体を、所望のポリマー製にして、構造体を一体成形することもできる。
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
構造前駆体の材料として、SUS316チューブ(外径4mm、肉厚0.3mm、長さ120mm)を用い、これをYAGレーザで図5に記載されるようなパターンに切削加工し、化学研磨した。
ステント骨格は、ステントのストラット(ジグザグの折りたたみ)の繰り返し長さが8mm、線幅0.5mm、8個の折りたたみでステント外周を包んでいる。ストラット間の連結エレメントが長さ7mmで、ともにストラット幅を0.5mmとした。1本のステント骨格は9個のストラットと、各ストラット間に60°ずれて6個のストラット連結エレメントを有し、隣り合ったストラットの連結エレメントには互いに約30°ずれるように配置され、連結エレメントの数は48個であった。
【0050】
次に、外径4.0mm、肉厚0.5mmのポリロタキサンスリーブを作製した。
ポリロタキサンスリーブは、環状分子としてα−シクロデキストリン、直鎖状分子としてポリエチレングリコール(分子量:35,000)、封鎖基としてアダマンタンアミンを用い、架橋剤として1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDGE)を用い、WO2001-083566及びWO2005-080469(なお、この文献の内容は全て参考として本明細書に組み込まれる)に記載される方法とほぼ同じ方法で作製した。
先に得られたステント骨格の外側にポリロタキサンスリーブを配置し、内側からもポリロタキサン溶液(ポリロタキサンスリーブを調製したものと同じ)を塗布し、ステント骨格と一体化してステントSA−1を得た。
【実施例2】
【0051】
構造前駆体の材料として、Zr−Al−Cu系アモルファス合金を用いた以外、実施例1とほぼ同じ方法でステントSA−2を得た。
【0052】
(比較例1及び2)
実施例1及び2において、外径4.0mm、肉厚0.5mmのポリロタキサンスリーブの代わりに同サイズのポリウレタン(ペレセン80A)を用い、且つ内側のポリロタキサンの代わりにポリウレタン(ペレセン80A)を用いた以外、実施例1と同様にして、ステントSC−1及びSC−2を得た。
【0053】
(ステントの評価)
実施例1及び2、並びに比較例1及び2のステントSA−1、SA−2、SC−1及びSC−2について、ステントに求められる特性である、<通過性>及び<拡張性>について調べた。
<通過性>
図6に示す模擬回路を用いた。即ち、R=25の半円を二つ連結し、S状の10φの模擬回路(水中で)の通過性を評価した。
試料のステントは、拡張径35mmのバルーンカテーテル(拡張前外径)、10F(3.3mmφ)のPTAバルーンでデリバリーした。結果を表1に示す。
なお、表1中、「A」:デリバリー容易で変形なし(「AA」は特に良好);「B」:デリバリーできたが抵抗が大きいか、あるいは変形がある;「C」:通過できない;ことを示す。
【0054】
<拡張性>
拡張用カテーテルでの拡張性を評価した。結果を表1に示す。
なお、表1中、「A」:所定径に拡張した;「B」:部分的にしか拡張できなかった;「C」:拡張できず;ことを示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から、実施例1及び2のステントは、<通過性>及び<拡張性>の双方において、良好な結果を示し、ステントに求められる特性を有していることがわかる。一方、比較例1及び2のステントは、<通過性>において問題ないが、<拡張性>において、ステントに求められる特性を有してないことがわかる。
【実施例3】
【0057】
中芯(マンドレル)として外径3mmのロッドを用い、ポリロタキサン(肉厚0.2mm、長さ150cm)を成形した。なお、ここでポリロタキサンは、実施例1と同様にして調製したポリロタキサン溶液から成形した。
得られたポリロタキサン成形体上に、100μm超弾性ワイヤ(Ni/Ti=55.9/44.01(wt%))を用いて編組密度13で編組体(長さ150cm)を成形した。
編組体上にさらに、ポリロタキサンを、肉厚0.2mmとなるように成形し、超弾性体/ポリロタキサン複合チューブTA−1を得た。このチューブの中芯を除去した。なお、ポリロタキサンは、上述と同じ調製物を用いた。
さらに、このチューブの先端に柔軟な接着剤樹脂を塗布、先端の丸み付けを行った。
ルアーロック構造を有するカテーテル元をナイロン12などの樹脂で射出成形し、チューブTA−1の手元部を挿入接着固定し、カテーテルCA−3を得た。
【0058】
(比較例3)
実施例3において、ポリロタキサンの代わりに、ウレタン(ペレセン 硬度65D)を用いた以外、実施例3と同様にして、カテーテルCC−3を得た。
【0059】
実施例3及び比較例3で得られたカテーテルCA−3及びCC−3について、その挿入性を評価した。
評価は、図6のような回路をポリカーボネート(透明)で作り、これを水槽中に入れ、入り口(1)からカテーテルCA−3又はCC−3を挿入し、この回路を通過可能か否かについて試験した。
その結果、カテーテルCA−3(実施例3)は、問題なく通過できたのに対して、カテーテルCC−3(比較例3)は、第二のカーブで突っかかり通過できなかった。
この結果から、本発明のカテーテル(カテーテルCA−3(実施例3))は、従来では考えられない大きな変形を受ける管状組織(屈曲の激しい血管、消化管など)を容易に通過できるものと考えられる。
【実施例4】
【0060】
ワイヤ径が50μm、AF点5℃の超弾性ニチノールワイヤ(NiTi=55.99/44.01(wt%))を用い、2mmの芯体に組みひも状に編組し中空体を構成した。この中空体の出入口は白金リング、および白金キャップを用い、レーザ溶接、固定した。
この中空体を、芯体を入れたまま両側から押しつぶし、20mm(10mmから30mm)に径の拡大された、連続し、重なった二枚のディスク状に変形させ、固定治具で形状を固定した。これを450℃、30分間、熱処理し、この形状を記憶させた。
芯体を除去、形状記憶後、この中空体をポリロタキサンにディップし、ワイヤにコーティングを行った。なお、用いたポリロタキサンは、実施例1と同組成で調製したポリロタキサン溶液であった。
【0061】
この中空体をスペーサー治具で、二枚のディスクの間隔をあけ、元の円筒状に近い形に戻し、この状態で、ポリロタキサンのチューブをはめ込んだ。
ポリロタキサンチューブの両端は、白金リング、あるいは白金キャップに白金細線(10μ)で縛り固定した。
ワイヤにコーティングしたポリロタキサンとスリーブではめたポリロタキサンが互いに部分的に相溶し、スリーブがワイヤ中空体に安定に固着した。
このワイヤ、ポリロタキサン複合中空体の中を通り、遠位側のキャップを中から押し出し、近位側を把持したまま両端の距離をあけ、円筒状に近い形にするための留置治具にマウントし、デリバリカテーテルの中に入れた。これを二重無菌包装、滅菌して製品A−4とした。
【0062】
図4と同様の方法により、本実施例の心房中隔欠損治療用カテーテルをモデル使用した。即ち、使用時は、カテーテルを血管経由で低侵襲に心臓モデルにアプローチ、製品の遠位側半分を心房中隔壁を通過させ、デリバリカテーテルの中から押し出すとともに、中空体の留置治具を緩め、記憶されているディスク状形状を回復させ、心房中隔欠損部(卵円孔)の左心室側に固定、次に、中空体の近位側まで押し出し、治具を緩め、中空体両端の距離を狭め、二枚のディスク状を回復させた。
ポリロタキサンが柔軟なので、ワイヤ編組体の原型に近い形を回復し、ぴったりと卵円孔を封止できた。
【0063】
(比較例4)
実施例4のポリロタキサンの代わりに、ポリウレタン(Tecoflex, 硬度80A)を用いた以外、実施例5と同様に、デリバリカテーテルの製品C−4を得た。
しかしながら、製品C−4は、使用時、留置治具を開放しても、充分に原型状を回復できなかった。そのため、卵円孔を十分には封止できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造前駆体;及び該構造前駆体の表面に形成されるポリマー;を有する医療用構造体であって、
ポリマーは、ポリロタキサンを有し、該ポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなり、
前記ポリマーは、前記医療用構造体の外面を形成する、上記医療用構造体。
【請求項2】
前記構造体は、その変形率が300%以上である請求項1記載の構造体。
【請求項3】
前記構造前駆体を構成する材料は、その比例弾性領域が2%以上である請求項1又は2記載の構造体。
【請求項4】
前記構造前駆体自体の比例弾性領域が2%以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の構造体。
【請求項5】
前記構造体自体の比例弾性領域が2%以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の構造体。
【請求項6】
前記構造前駆体は、i)超弾性合金;ii)アモルファス合金;iii)ゴム金属、iv)形状記憶合金;v)ナイロン繊維;vi)カーボン繊維;vii)ボロン繊維;viii)ポリイミド繊維;及びix)ポリエーテルイミド繊維;からなるA群から選ばれる少なくとも1種の材料を有する請求項1〜5のいずれか1項記載の構造体。
【請求項7】
前記構造前駆体は、前記A群から選ばれる少なくとも1種の材料のみからなる請求項6記載の構造体。
【請求項8】
前記構造前駆体が、細径ワイヤによる編組体;細径ワイヤによる撚線体;コイル体;薄板切り欠き体;及び筒状切り欠き体;からなるB群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する請求項1〜7のいずれか1項記載の構造体。
【請求項9】
前記構造体が中空体である請求項1〜8のいずれか1項記載の構造体。
【請求項10】
前記構造体が、線状体;筒状体;袋状体;カゴ状体;及び所望の形態;からなる群から選ばれる第1の形態から、線状体;筒状体;袋状体;カゴ状体;及び所望の形態からなる群から選ばれ且つ第1の形態とは異なる第2の形態へと可変である請求項1〜9のいずれか1項記載の構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−240163(P2010−240163A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92508(P2009−92508)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(505136963)アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社 (19)
【出願人】(598155966)株式会社アクトメント (8)
【Fターム(参考)】