説明

医療用膨張・収縮駆動装置

【課題】 使用状態において、正常時のガス漏れと異常時のガス漏れとを容易に区別することが可能な医療用膨張・収縮駆動装置を提供すること。
【解決手段】 制御装置10が、配管系圧力センサ15により検出された圧力が所定値以下となった場合に、第1電磁弁63を閉状態として、第2電磁弁68を開状態とし、二次ガスタンク64から配管系18へのガスの補充を行い、タンク圧力センサ65により検出された圧力の変動に基づき、ガスの補充量を算出し、算出したガスの補充量に基づいてガスの異常漏れが発生しているか否かを判断し、ガスの異常漏れが発生していると判断した場合には、警報を発する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば陽圧と陰圧を交互に出力して大動脈内バルーンポンプ(IABP)などの医療機器を膨張・収縮駆動する医療用膨張・収縮駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばIABP用バルーンカテーテルでは、そのバルーンを患者の心臓の近くの動脈血管内に挿入し、心臓の拍動に合わせて膨張および収縮させ、心臓の補助治療を行う。バルーンを膨張・収縮させるための駆動装置として、特開昭60−106464号公報に示す駆動装置が知られている。
【0003】
この公報に示す駆動装置は、一次配管系と、二次配管系とを有し、これら系を圧力伝達隔壁装置(一般的には、容量制限装置(VLD)またはアイソレータと称する)により隔離し、一次配管系に生じる圧力変動を二次配管系に伝達し、二次配管系に生じる圧力変化によりバルーンを膨張および収縮駆動している。このように一次配管系と二次配管系とに分離するのは、バルーンを駆動するための流体と、陽圧および陰圧の発生源となる流体とを別流体にし、バルーンの膨張・収縮の応答性向上を図りつつ、二次配管系を拡散による洩れを除いて気密に保つことにより、比較的高価な二次配管系内の流体ガスを大量に消費せず、低コストで圧力発生を行うためである。また、間に圧力伝達隔壁装置を介在させることで、バルーン膜に損傷が生じた状態でバルーンを膨張および収縮させる時に、一定容量以上のガスがバルーンから体内へ洩れ出す危険を防止するためである。
【0004】
ところで、このようなIABP用バルーンカテーテルでは、二次配管系に封入されるガスとして、質量が小さく応答性に優れたヘリウムガスが好ましく用いられる。ところが、このヘリウムガスは、分子量が小さいことから、二次配管系にピンホールなどが形成されていなくとも、バルーン膜や配管系を構成するチューブの壁を透過して拡散する。たとえば密閉された二次配管系にヘリウムガスを封入しても、20乃至30分バルーンを駆動させるとヘリウム圧は数mmHg低下することがある。
【0005】
このため、バルーンカテーテルの使用中にも、二次配管系の内部へは、適度にヘリウムガスを補充する必要がある。このことを怠ると、ヘリウムガスが二次配管系からなくなり、被駆動装置であるバルーンが十分に膨張しなくなり、心機能補助効果が失われてしまう。このために、ヘリウムガスを補充する装置として、二次配管系の内部圧力を圧力センサで監視し、その検出圧力が所定値以下となった時に、検出圧力が所定値以上になるように、電磁弁を短時間に所定回数だけ開き、高圧のガスシリンダーから、安全のため調圧してあるヘリウムガスタンクを経由してヘリウムガスを補充するようにした装置が知られている。
【0006】
しかし、このようなヘリウムガス補填装置が無制限にガスを補うことは、バルーンにピンホール等の穴が開いた時に、患者の血管内に大量のガスを注入してしまい閉塞のガス栓塞、ひいては生命の危機を及ぼす危険がある。よって、従来よりある装置では、機械式レギュレーター等を用いて、ヘリウムガスを比較的低圧の状態にしておき、これを更に複数回に分けて二次配管系に補うような方法がとられており、一連の充填に伴う電磁弁の開閉回数や、一連の充填から次の一連の充填が始まる迄の時間間隔等を監視して制限する機構が設けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来例に係る装置では、電磁弁による開閉回数を把握することはできるが、単位時間当りのヘリウムガスの充填容量を正確に把握することはできなかった。たとえばヘリウムガスタンクの内部の圧力が弁の開閉前後で一定に保たれることは不可能であり、また電磁弁の開閉時間のばらつきもあり、しかもバルーン側の圧力は、患者の血圧の影響で変動する。よって電磁弁1開閉当たりのヘリウムの充填容量は、一定せず、当然、ヘリウム充填時の電磁弁開閉回数も、一定しない。このため、電磁弁による開閉回数からヘリウムガスの総充填容量を正確に把握することはできず、当然、充填回数や一連の充填から二次配管系の圧力が下がり次の充填が始まる迄の時間間隔等での監視による制限を厳しく設定すると、前記ばらつきの影響で不安な警告等が発生してしまう。又、上記監視の制限を緩めてしまうと、二次配管系あるいは被駆動機器としてのバルーンカテーテルに形成されたピンホールなどの異常によるガス漏れ(異常ガス漏れ)と、通常動作時の拡散による漏れ(正常ガス漏れ)とを区別することが困難であった。
【0008】
たとえば図6(B)に示すように、ヘリウムガス補充のための電磁弁の開閉回数を縦軸に、時間軸を横軸にとってグラフ化しても、弁の開閉回数がヘリウムガスの補充量を正確に反映しているわけではない。そのため、ヘリウムガスの補充時と補充時との間の時間間隔を観察しても、異常ガス漏れと正常ガス漏れとを明確に区別することは困難である。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、使用状態において、正常時のガス漏れと異常時のガス漏れとを容易に区別することが可能な医療用膨張・収縮駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る医療用膨張・収縮駆動装置は、被駆動機器の膨張および収縮を繰り返すように、被駆動機器に連通する配管系に、陽圧と陰圧とを交互に印加する圧力発生手段と、前記配管系の内部圧力を検出する配管系圧力検出手段と、前記配管系にガスを補充するガス補充手段と、前記ガス補充手段により補充されるガスの量を制御する制御手段とを有する医療用膨張・収縮駆動装置であって、
前記ガス補充手段が、比較的高圧のガスが封入された一次ガスタンクと、この一次ガスタンクの出力側に接続された開閉可能な第1弁手段と、この第1弁手段の開閉により前記一次ガスタンクの出力側に連通される二次ガスタンクと、この二次ガスタンク内の圧力を検出するタンク圧力検出手段と、この二次ガスタンクの出力側に接続され、前記配管系の内部への前記二次ガスタンクからのガスの補充を弁開閉により制御する第2弁手段とを有し、
前記制御手段が、前記配管系圧力検出手段により検出された圧力が所定値以下となった場合に、前記第1弁手段を閉状態として、第2弁手段を開状態とし、前記二次ガスタンクから配管系へのガスの補充を行い、前記タンク圧力検出手段により検出された圧力の変動に基づき、ガスの補充量を算出し、前記算出されたガスの補充量に基づいてガスの異常漏れが発生しているか否かの判断をし、前記判断によりガスの異常漏れが発生していると判断した場合には、警報を発するように動作することを特徴とする。
【0011】
中央情報処理装置(CPU)が、前記ガスの異常漏れが発生しているか否かの判断を行うことが好ましい。
【0012】
前記配管系圧力検出手段により、前記被駆動機器を収縮状態から膨張状態に切り換えるタイミングで、前記配管系の圧力を検出し、この検出された圧力が所定値以下か否かを前記制御手段が判断することが好ましい。
【0013】
被駆動機器としては、たとえばIABP用バルーンカテーテルを好ましく例示することができる。
【0014】
本発明に係る医療用膨張・収縮駆動装置を用いて、被駆動機器側配管系内へのガス補充量を算出するには、次のようにして行う。
【0015】
配管系圧力検出手段により検出された圧力が所定値以下となった場合に、第1弁手段を閉状態として、第2弁手段を開状態とする。これにより、二次ガスタンクから配管系へのガスの補充を行うことができる。そのガス補充の前後において、タンク圧力検出手段によりタンク内圧力を検出する。その間、第1弁手段により、二次ガスタンクは一次ガスタンクとは遮断されているので、そのガス補充前後の圧力差(P1−P2)と、二次ガスタンクの容積Vとから、二次タンクから配管系へ移動したガス補充量が求められる。その補充量は、(P1−P2)×Vに比例する。
【0016】
このようにして求められたガス補充量を、経時的に記録する。記録手段は、半導体メモリ、磁気ディスク、光記録媒体、あるいはその他の記録媒体などに記録し、必要に応じて画面あるいは紙に出力可能にしておくことが好ましい。そして、この記録されたガス補充量の経時変化を観察し、ガス補充の間隔が縮まり、かつ、算出ガス補充量が増え始めたときに、ガスの異常漏れが発生していると判断し、早めに警報を出すことができる。ガス補充量が増え始めたか否かは、記録手段に記録されたガス補充量の経時変化を、中央情報処理装置(CPU)などが適宜読み取り、判断すれば自動的に警報を出すことができる。
【0017】
本発明では、患者側の要因や、機械的ばらつきによらず、被駆動機器側配管系へのガス補充量を正確に把握することが可能になり、被駆動機器あるいは配管系に生じたピンホールなどによる異常な漏れと、正常時の漏れとを明確に区別することができ、異常時に早めに警告を出すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被駆動機器側配管系へのガス補充量を正確に把握することが可能になり、被駆動機器あるいは配管系に生じたピンホールなどによる異常な漏れと、正常時の漏れとを明確に区別することができ、異常時に早めに警告を出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る医療用膨張・収縮駆動装置を、図面に示す実施形態に基づき、詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る医療用膨張・収縮駆動装置の概略構成図である。
【0021】
図1に示す実施形態に係る駆動装置は、IABP用バルーンカテーテル20のバルーン22を膨張および収縮させるために用いられる。
【0022】
本実施形態に係る医療用膨張・収縮駆動装置について説明するに先立ち、まずIABP用バルーンカテーテル20について説明する。
【0023】
図7に示すように、IABP用バルーンカテーテル20は、心臓の拍動に合わせて拡張および収縮するバルーン22を有する。バルーン22は、膜厚約100〜150μm程度の筒状のバルーン膜で構成される。本実施形態では、拡張状態のバルーン膜の形状は円筒形状であるが、これに限定されず、多角筒形状であっても良い。
【0024】
IABP用バルーン22は耐屈曲疲労特性に優れた材質で構成される。バルーン22の外径および長さは、心機能の補助効果に大きく影響するバルーン22の内容積と、動脈血管の内径などに応じて決定される。バルーン22は、通常、その内容積が30〜50ccであり、外径が拡張時14〜16mmであり、長さが210〜270mmである。
【0025】
このバルーン22の遠位端は、短チューブ25を介してまたは直接に内管30の遠位端外周に熱融着または接着などの手段で取り付けてある。
【0026】
バルーン22の近位端には、金属チューブ27などの造影マーカーを介してまたは直接に、カテーテル管24の遠位端に接合してある。このカテーテル管24の内部に形成された第1のルーメンを通じて、バルーン22内に、圧力流体が導入または導出され、バルーン22が拡張または収縮するようになっている。バルーン22とカテーテル管24との接合は熱融着あるいは紫外線硬化樹脂などの接着剤による接着により行われる。
【0027】
内管30の遠位端はカテーテル管24の遠位端より遠方へ突き出ている。内管30はバルーン22およびカテーテル管24の内部を軸方向に挿通されている。内管30の近位端は分岐部26の第2ポート32に連通するようになっている。内管30の内部には、バルーン22の内部およびカテーテル管24内に形成された第1のルーメンとは連通しない第2のルーメンが形成してある。内管30は、遠位端の開口端23で取り入れた血圧を分岐部26の第2ポート32へ送り、そこから血圧変動の測定を行うようになっている。
【0028】
バルーンカテーテル20を動脈内に挿入する際に、バルーン22内に位置する内管30の第2ルーメンはバルーン22を都合良く動脈内に差し込むためのガイドワイヤー挿通管腔としても用いられる。バルーンカテーテルを血管などの体腔内に差し込む際には、バルーン22は内管30の外周に折り畳んで巻回される。図5に示す内管30は、たとえばカテーテル管24と同様な材質で構成される。内管30の内径は、ガイドワイヤを挿通できる径であれば特に限定されず、たとえば0.15〜1.5mm、好ましくは0.5〜1mmである。この内管30の肉厚は、0.1〜0.4mmが好ましい。内管30の全長は、血管内に挿入されるバルーンカテーテル20の軸方向長さなどに応じて決定され、特に限定されないが、たとえば500〜1200mm、好ましくは700〜1000mm程度である。
【0029】
カテーテル管24は、ある程度の可撓性を有する材質で構成されることが好ましい。カテーテル管24の内径は、好ましくは1.5〜4.0mmであり、カテーテル管24の肉厚は、好ましくは0.05〜0.4mmである。カテーテル管24の長さは、好ましくは300〜800mm程度である。
【0030】
カテーテル管24の近位端には患者の体外に設置される分岐部26が連結してある。分岐部26はカテーテル管24と別体に成形され、熱融着あるいは接着などの手段で固着される。分岐部26にはカテーテル管24内の第1のルーメンおよびバルーン22内に圧力流体を導入または導出するための第1ポート28と、内管30の第2ルーメン内に連通する第2ポート32とが形成してある。
【0031】
第1ポート28は、たとえば図8に示すポンプ装置9に接続され、このポンプ装置9により流体圧がバルーン22内に導入または導出されるようになっている。導入される流体は特に限定されないが、ポンプ装置9の駆動に応じて素早くバルーン22が拡張または収縮するように、粘性および質量の小さいヘリウムガスなどが用いられる。
【0032】
ポンプ装置9の詳細については、図1を参照にして後述する。
【0033】
第2ポート32は図8に示す血圧変動測定装置29に接続され、バルーン22の遠位端の開口端23から取り入れた動脈内の血圧の変動を測定可能になっている。この血圧測定装置29で測定した血圧の変動に基づき、図6に示す心臓1の拍動に応じてポンプ装置9を制御し、0.4〜1秒の短周期でバルーン22を拡張および収縮させるようになっている。
【0034】
IABP用バルーンカテーテル20では、前述したように、バルーン22内に導入および導出する流体として、より高速にバルーンの膨張および収縮を行わせるために、粘性および質量の小さいヘリウムガスなどが用いられる。このヘリウムガスの陽圧および陰圧を直接ポンプやコンプレッサなどで作り出すことは、シール部分からの漏れ等によりヘリウムガスが失われることを考えると経済的でないことから、図1に示すような構造を採用している。すなわち、バルーン22内に連通する二次配管系18と、一次側圧力発生手段としてのポンプ4a,4bに連通する一次配管系17とを、圧力伝達隔壁装置40により分離している。圧力伝達隔壁装置40は、たとえば図2に示すように、ダイヤフラム52およびプレート50により気密に仕切られた第1室46と第2室48とを有する。
【0035】
第1室46は、ポート42を通じて図1に示す一次配管系17に連通している。第2室48は、ポート44を通じて二次配管系18に連通している。第1室46と第2室48とは、流体の連通は遮断されているが、第1室46の圧力変化(容積変化)が、ダイヤフラム52の変位により、第2室48の圧力変化(容積変化)として伝達するようになっている。このような構造を採用することにより、一次配管系17と二次配管系18とを連通させることなく、一次配管系17の圧力変動を二次配管系18に伝達することができる。また、二次配管系18に封入されるガスの容量(化学当量)を一定に制御し易い。
【0036】
本実施形態では、一次配管系17の内部流体を空気とし、二次配管系18の内部流体をヘリウムガスとしている。二次配管系18の内部流体をヘリウムガスとしたのは、粘性および質量が小さいガスを用いることで、バルーン22の膨張・収縮の応答性を高めるためである。
【0037】
図1に示すように、一次配管系17には、一次側圧力発生手段として、二つのポンプ4a,4bが配置してある。一方の第1ポンプ4aは、陽圧発生用ポンプ(コンプレッサとも言う;以下同様)であり、他方の第2ポンプ4bは、陰圧発生用ポンプである。第1ポンプ4aの陽圧出力口には、減圧弁7を介して、陽圧タンクとしての第1圧力タンク2が接続してある。また、第2ポンプ4bの陰圧出力口には、絞り弁8を介して陰圧タンクとしての第2圧力タンク3が接続してある。
【0038】
第1圧力タンク2および第2圧力タンク3には、それぞれの内部圧力を検出する圧力検出手段としての圧力センサ5,6が装着してある。各圧力タンク2,3には、それぞれ電磁弁11および電磁弁12の入力端に接続してある。これら電磁弁11,12の開閉は、図示省略してある制御手段により制御され、たとえば患者の心臓の拍動に対応して制御される。これら電磁弁11,12の出力端は、二次側圧力発生手段としての圧力伝達隔壁装置40の入力ポート42(図2参照)に接続してある。
【0039】
図2に示す圧力伝達隔壁装置40の出力ポート44が図1に示す二次配管系18に接続してある。二次配管系18は、バルーン22の内部に連通しており、ヘリウムガスが封入された密閉系となっている。この二次配管系18は、ホースまたはチューブなどで構成される。この二次配管系18には、その内部圧力を検出する配管系圧力検出手段としての圧力センサ15が装着してある。この圧力センサ15の出力は、制御手段へ入力するようになっている。
【0040】
また、この二次配管系18には、図示省略してあるが、電磁弁を介して、排気用ポンプが接続してある。電磁弁および排気用ポンプは、バルーンカテーテルの使用前に、二次配管系18の内部を、ヘリウムガスに置換するために、配管系18内を真空引きするためのものであり、通常使用状態では、電磁弁は閉じられ、排気用ポンプは駆動しない。
【0041】
さらに、この二次配管系18には、電磁弁19が装着してあり、二次配管系18のガス圧が所定値以上に上昇した場合には、この電磁弁19が所定時間開き、内部のガスを逃がすように構成してある。この制御は、制御手段10が行う。
【0042】
さらにまた、この二次配管系18には、二次配管系18内部に常時ガスの化学当量が一定に保たれるように所定量のヘリウムガスを補充するための補充装置60が接続してある。補充装置60は、一次ガスタンクとしての一次ヘリウムガスタンク61を有する。ヘリウムガスタンク61の出力側には、減圧弁62を介して、第1弁手段としての第1電磁弁63が接続してある。この第1電磁弁63の開閉は、制御手段10により制御される。この第1電磁弁63の出力側には、二次ガスタンクとしての二次ヘリウムガスタンクが接続してあり、この電磁弁63の開閉により、一次ヘリウムガスタンク61の出力側に二次ヘリウムガスタンク64が連通するようになっている。
【0043】
二次ヘリウムガスタンク64には、タンク圧力検出手段としての圧力センサ65が装着してあり、タンク64内の圧力を検出し、タンク64内の圧力が略一定に保たれるように制御される。たとえばタンク64内の圧力は、100mmHg以下程度に制御される。圧力センサ65により検出された圧力は制御手段10へ入力されるようになっている。
【0044】
二次ヘリウムタンク64には、第2弁手段としての第2電磁弁68が接続してある。電磁弁68は、制御手段10により制御される。また、図示省略してあるが、その電磁弁68と並列に初期充填用電磁弁が接続してある。初期充填用電磁弁は、負圧にされた二次配管系18内に最初にヘリウムガスを充填する際に用いられる。通常使用状態では、この電磁弁は作動しない。
【0045】
次に、本実施形態に係る医療用膨張・収縮駆動装置の動作例について説明する。
【0046】
本実施形態では、ポンプ4aを駆動することにより、第1圧力タンク2内の圧力PT1が例えば約300mmHg(ゲージ圧)に設定され、ポンプ4bを駆動することにより、第2圧力タンク3内の圧力PT2が例えば約−150mmHg(ゲージ圧)に設定される。そして、図1に示す圧力伝達隔壁装置40の入力端に加わる圧力を、電磁弁11,12を交互に駆動することで、第1圧力タンク2および第2圧力タンク3の圧力に切り換える。この切り替えのタイミングは、患者の心臓の拍動に合わせて行われるように、制御手段10によって制御される。
【0047】
圧力センサ5,6により検出される圧力変動を図4(A)に示す。また、電磁弁11,12による圧力切り替え駆動の結果、図1に示す二次配管系18内の圧力変動を、圧力センサ15で検出した結果を図4(B)に示す。二次配管系18内の圧力変動の最大値が、たとえば289mmHg(ケージ圧)であり、最小値が−114mmHg(ゲージ圧)である。二次配管系18内が、図4(B)に示す圧力変動を生じる結果、バルーン22では、図4(C)に示すような容積変化が生じ、心臓の鼓動に合わせたバルーン22の膨張および収縮が可能になり、心臓の補助治療を行うことができる。
【0048】
次に、図3を参照して、図1に示す制御手段の作用を説明する。
【0049】
まずステップS1では、図1に示す圧力センサ15からの二次配管系内の圧力を検出する。その際に、本実施形態では、図5(D)に示すタイミング*2(図5(A),(B)におけるバルーンの収縮状態から膨張状態に切り換えるタイミング)で、図1に示す圧力センサ15による検出圧力を検出し、その検出圧力P3(図5(A))が、所定値Pm1以下であるかを判断する。そうでない場合には、ステップS1を繰り返す。所定値Pm1とは、たとえば0mmHgである。検出圧力P3(図5(A))が、所定値Pm1以下である場合とは、二次配管系18内のヘリウムガスの量が少なくなった場合であり、その場合には、ステップS2以下に進み、ガスの補充を行う。
【0050】
なお、本実施形態において、図5(C)に示す*1のタイミングで検知されるプラトー圧P4(バルーン膨張時の圧力)を基準圧とすることなく、バルーンが収縮状態での圧力P3を基準圧力として用いたのは、以下の理由による。
【0051】
図5(C)の*1に示すタイミングで、バルーン側圧力を検出し、この圧力を一定に保つように、バルーン側配管内のガス補充を行うようにした場合には、バルーンの繰り返し疲労や、不用意な加圧(間違った圧力の適用、患者の血管の屈曲)や、患者血管内の突起物への挿入時の引っかかりなどの不慮の事態で発生するバルーン容量の変動に気づかずに、バルーン側配管へ、駆動ガスとしてのヘリウムガスを不足分充填し、使用し続ける危険性が内在している。当然、このような変形したバルーンの期待寿命は、本来の場合よりも短くなるため、患者にとっては好ましくない。さらに、患者回復に伴う血圧上昇によって、バルーンの内圧が設定上限値を越えれば、最悪、バルーンからヘリウムガスを抜いてしまうように制御され、バルーンが膨らまらなくなるおそれもある。
【0052】
これに対し、本実施形態では、図5(D)に示すように、バルーン22が萎んだ状態で、このバルーン22に接続される閉鎖配管系18に一定容量(一定モル数:化学当量比)のガスを入れる。その後、バルーン22などからの透過により減少するガスの低減を、必ず、バルーン22が萎んだ状態で監視する。
【0053】
このため本実施形態では、外力により変形し得るバルーン22部分のガス圧への影響を排除し、任意の駆動配管系18(チューブやホースを含む)とバルーンの容量に応じたガスの化学当量が一定に保たれるようにすることが可能となる。このように制御すれば、プラトー圧(バルーンが膨らんだ状態での圧力)P4をも観測することにより、バルーン22が曲折されてるなどの不測の事態によりバルーン22の容積が変化したことを検出することができる。たとえば、プラトー圧力P4が、通常よりも高くなった場合には、バルーン22が曲折されているなどの判断ができる。また、プラトー圧力P4が、通常よりも小さくなった場合には、ガスが透過以外の不測の事態で漏れていると判断することができる。
【0054】
また、本実施形態では、患者血圧がプラトー圧P4より高くなった場合、バルーン22の容積はほぼ一定に保たれ、プラトー圧P4は血圧とほぼ同じ値で推移する。
【0055】
次に、図3に示すステップS2以降について説明する。
【0056】
ステップS1にて、ガスの補充が必要と判断された場合には、本実施形態では、ステップS2において、図1に示す第1電磁弁63を閉じる。その結果、一次ヘリウムガスタンク61と二次ヘリウムガスタンク64との連通が遮断される。次に、ステップS3では、図1に示すタンク圧力センサ65の圧力P1を読み込む。次に、ステップS4にて、第2電磁弁68をtミリ秒間n回開けて、二次配管系18内へガスタンク64からヘリウムガスを補充する。tミリ秒とは、特に限定されないが、たとえば8ミリ秒である。また、n回とは、特に限定されないが、1〜10回である。
【0057】
次に、ステップS5では、圧力センサ15により図5(D)に示すタイミング*2で圧力P3を読み取り、この圧力P3が所定値Pm2以上となったかを判断する。このPm2は、たとえば10mmHgである。この圧力P3が所定値Pm2以上となるまで、ステップS4を繰り返し、ガスを補充し続ける。
【0058】
ステップS5において、検出圧力P3が所定値Pm2以上となった場合には、ガスの補充が十分であると判断できるので、ガスの補充を完了し、次にステップS6では、圧力センサ65による検出圧力P2を読み取る。この圧力センサ65により検出した圧力P1は、ガス補充前の二次ヘリウムタンク64内の圧力であり、検出圧力P2は、ガス補充完了後の二次ヘリウムタンク64内の圧力である。しかも、一次ヘリウムガスタンク61からの二次ヘリウムガスタンク64内への連通は電磁弁63により遮断されている。そのため、この圧力差(P1−P2)と二次ヘリウムガスタンク64の容積V(予め測定してある)とから、二次ヘリウムタンク64から二次配管系18へ移動したガス補充量が求められる。その補充量は、(P1−P2)×Vに比例する。
【0059】
次に、ステップS8では、このようにして求められたガス補充量を、経時的に記録する。記録手段は、半導体メモリ、磁気ディスク、光記録媒体、あるいはその他の記録媒体などに記録し、必要に応じて画面あるいは紙に出力可能にしておくことが好ましい。そして、この記録されたガス補充量の経時変化を観察し、図6(A)に示すように、ガス補充の間隔が縮まり、かつガスの補充量が増え始めたときに、ガスの異常漏れが発生していると判断し、早めに警報を出すことができる。ガス補充が増え始めたか否かは、記録手段に記録されたガス補充量の経時変化を、中央情報処理装置(CPU)などが適宜読み取り、判断すれば自動的に警報を出すことができる。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0061】
たとえば、上述した実施形態では、一次側圧力発生手段として、二つのポンプ4a,4bを用いたが、本発明では、単一のポンプを用い、その陽圧出力端に陽圧タンクとしての第1圧力タンク2を接続し、また、ポンプの陰圧出力端に陰圧タンクとしての第2圧力タンク3を接続しても良い。その場合には、ポンプの台数を削減でき、装置の軽量化および省エネルギー化に寄与する。また、ポンプとしては、ダイヤフラムポンプに限らず、リニアーピストンポンプ、ロータリーベーンポンプ、ピストンポンプ、コンプレッサなどを用いても良い。
【0062】
また、上記実施形態では、圧力切替え手段として、第3電磁弁11と第4電磁弁12との二つの電磁弁を用いたが、本発明は、これに限定されず、単一の三方切替弁を用いて、圧力伝達隔壁40の入力端に加わる圧力を切り換えるようにしても良い。
【0063】
さらにまた、一次配管系17のガス種は、空気に限定されず、その他の流体であっても良い。また、二次配管系18のガス種もヘリウムガスに限定されず、その他の流体であっても良い。
【0064】
さらに本発明では、一次配管系17および圧力伝達隔壁装置40を用いることなく、図9に示すように、二次配管系18内に直接に所定容量のガスを往復させる圧力発生手段を用いることもできる。その圧力手段としては、たとえばベローズ40aおよびベローズ40aを軸方向に伸縮駆動する駆動手段(たとえばモータ40b)から成り、ベローズ40aの内部または外部を直接二次配管系18内に連通させる。このベローズ40aをモータ40bなどで軸方向に往復移動させることで、所定のタイミングで二次配管系18内に直接ガスを往復させ、バルーン22の膨張および収縮を行う。その他の構成は、図1に示す実施形態と同様である。
【0065】
また、上述した実施形態では、被駆動機器として、バルーンカテーテルを用いたが、本発明に係る駆動装置は、膨張および収縮を繰り返す医療機器であれば、その他の医療機器の駆動用に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る医療用膨張・収縮駆動装置の概略構成図である。
【図2】図2は圧力伝達隔壁装置の一例を示す要部断面図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態に係る医療用膨張・収縮駆動装置の制御例を示すフローチャート図である。
【図4】図4(A)は各圧力タンクの内圧変化を示すグラフ、同図(B)はバルーン側の圧力変化を示すグラフ、同図(C)はバルーンの容積変化を示すグラフである。
【図5】図5は圧力検出のタイミングを示すチャート図である。
【図6】図6(A)はヘリウムガス補充量の経時変化を示すグラフ、同図(B)はヘリウム補充回数の経時変化を示すグラフである。
【図7】図7はバルーンカテーテルの一例を示す概略断面図である。
【図8】図8はバルーンカテーテルの使用例を示す概略図である。
【図9】図9は本発明の他の実施形態に係る医療用膨張・収縮駆動装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0067】
2… 第1圧力タンク
3… 第2圧力タンク
4a,4b… ポンプ
5,6… 圧力センサ
10… 制御手段
11,12,,16,19… 電磁弁
15… 圧力センサ(配管系圧力検出手段)
17… 一次配管系
18… 二次配管系
20… バルーンカテーテル
22… バルーン
40… 圧力伝達隔壁
60… 補充装置(ガス補充手段)
61… 一次ヘリウムガスタンク(一次ガスタンク)
63… 第1電磁弁(第1弁手段)
64… 二次ヘリウムガスタンク(二次ガスタンク)
65… 圧力センサ(タンク圧力検出手段)
68… 第2電磁弁(第2弁手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動機器の膨張および収縮を繰り返すように、被駆動機器に連通する配管系に陽圧と陰圧とを交互に印加する圧力発生手段と、
前記配管系の内部圧力を検出する配管系圧力検出手段と、
前記配管系にガスを補充するガス補充手段と、
前記ガス補充手段により補充されるガスの量を制御する制御手段と
を有する医療用膨張・収縮駆動装置であって、
前記ガス補充手段は、
前記配管系に補充する前記ガスが封入された一次ガスタンクと、
この一次ガスタンクの出力側に接続された開閉可能な第1弁手段と、
この第1弁手段の開閉により前記一次ガスタンクの出力側に連通される二次ガスタンクと、
この二次ガスタンク内の圧力を検出するタンク圧力検出手段と、
この二次ガスタンクの出力側に接続され、前記配管系の内部への前記二次ガスタンクからのガスの補充を弁開閉により制御する第2弁手段とを有し、
前記制御手段は、
前記配管系圧力検出手段により検出された圧力が所定値以下となった場合に、前記第1弁手段を閉状態として、第2弁手段を開状態とし、前記二次ガスタンクから配管系へのガスの補充を行い、
当該ガスの補充の前後において前記タンク圧力検出手段により検出された前記二次ガスタンク内の圧力の変動に基づき、前記配管系へのガスの補充量を算出し、
前記算出されたガスの補充量に基づいてガスの異常漏れが発生しているか否かの判断をし、
前記判断によりガスの異常漏れが発生していると判断した場合には、警報を発する
ように動作することを特徴とする医療用膨張・収縮駆動装置。
【請求項2】
中央情報処理装置(CPU)が、前記ガスの異常漏れが発生しているか否かの判断を行うことを特徴とする請求項1に記載の医療用膨張・収縮駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−212443(P2006−212443A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68102(P2006−68102)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【分割の表示】特願平7−335274の分割
【原出願日】平成7年12月22日(1995.12.22)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】