説明

医薬化合物

(a)ER+細胞の受容体に結合可能な第1のコンポーネントと、
(b)第2のコンポーネントと、
を含み、前記第2のコンポーネントがリボゾーム不活化毒素であって、前記第1のコンポーネントにコンジュゲートされている化合物の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストロゲン受容体陽性(ER+)癌細胞を含む癌の治療に関し、特に乳癌の治療に関する。本発明者らは、医薬コンポーネントと毒素コンポーネントを含むコンジュゲートを提供する。このコンジュゲートは、ER+癌細胞を標的としてこれを破壊する能力に優れている。
【背景技術】
【0002】
世界中の女性の間で乳癌は最もよく見られる癌であり、癌に起因する死の最頻要因となっている。乳癌は様々な要因によって引き起こされると考えられており、血中エストロゲンレベルの上昇はその1つである。エストロゲン受容体ファミリーの分野と、エストロゲン受容体癌細胞と正常なエストロゲン受容体細胞との相違に関して、これまで多くの研究がなされている。そのような研究は、体内のエストロゲン産生を抑制することにより、乳癌を治療することができる医薬の創製を目的としてきた。
【0003】
この種の癌は、エストロゲン受容体を有する細胞(ER+細胞)を含む。これらは、通常約200,000から5百万という非常に多数のエストロゲン受容体を有する細胞である。正常な非腫瘍性細胞は、通常約20,000から80,000のエストロゲン受容体を有している。非常に多数のエストロゲン受容体の存在ゆえに、癌細胞は少量のエストロゲンにも反応して、該ホルモンの存在下で細胞分裂速度が上昇する。
【0004】
非特許文献1には、乳癌のための新規な全身治療法について論じられている。これらの治療法は、精製抗エストロゲンや選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)などによる内分泌療法、増殖因子受容体を標的とするモノクローナル抗体、小分子シグナル伝達阻害剤、ワクチンや免疫療法を用いたストラテジー、及び抗アンジオジェネシス療法などを含む。
【0005】
エストロゲン受容体陽性の癌の治療に有効であることが示された医薬の1つは、タモキシフェンである。タモキシフェンは、エストロゲン受容体陽性の腫瘍性細胞のアンタゴニストとして作用する選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の1例であり、細胞表面のエストロゲン受容体に結合して、エストロゲンの細胞への結合を阻害し細胞分裂を抑制する。これは、乳房組織ではアンタゴニストとして作用するものの、子宮内膜上ではアゴニストとしても作用するので、一部の女性においては子宮内膜癌と関連があるとされてきた。よって、癌を含む子宮内膜の変化は、タモキシフェンの副作用の1つである。
【0006】
また、タモキシフェンとポルフィリンのコンジュゲートが、癌細胞の光線力学的治療法に有効であることが示唆されている。このポルフィリンは、赤色光照射により光毒性を示し、コンジュゲートされていないポルフィリンよりもMCF−7乳癌細胞においてより強い細胞殺傷能を有する。乳癌の光線力学的治療法のための、エストロゲン受容体陽性乳癌細胞に選択的に局在するエストラジオール−ポルフィリンコンジュゲートが、非特許文献2に記載されている。
【0007】
癌治療における有効性について研究がなされた他のコンジュゲートには、抗体−毒素コンジュゲートがある。非特許文献3は、ホジキンリンパ腫の治療のために、サポリンなどのリボゾーム不活化蛋白質をモノクローナル抗体に結合させることを記載している。しかしながら、臨床試験を成功裏に経て認可され製品になったものは、未だ存在しない。
【0008】
現在、市場に出ている癌治療(特に、乳癌治療)の医薬や療法は、これら癌細胞の分裂を抑制するが、数年後には、この細胞は変異してこれら医薬が作用しなくなる。その結果、この医薬は無用となり患者も治療に反応しなくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Soo Lo,Stephen R.D. Johnston、「Surgical Oncology」、2003年、第12巻、p.277−287
【非特許文献2】Swamy、James、Mohr、Hanson、Ray、「Bioinorganic & medical Chemistry」、2002年、第10巻、p.3237−3243
【非特許文献3】Bolognesi,Polito他、「British Journal of Haemotology」、2000年、第110巻、p.351−361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の目的は、SERMによる治療や他の治療法がそうであるように、単にER+癌細胞の分裂速度を低減させるのではなく、これら癌細胞を破壊することにより前述の問題を解決するER+癌(特に、前述のER+乳癌を含む)の新規治療法を提供することにある。
【0011】
上述の問題点は、次に記載する本発明の態様及び実施形態により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明は、
(a)ER+細胞の受容体に結合可能な第1のコンポーネントと、
(b)第2のコンポーネントと、
を含み、前記第2のコンポーネントがリボゾーム不活化毒素であって、前記第1のコンポーネントにコンジュゲートされていることを特徴とする化合物を提供する。
【0013】
第1のコンポーネントは、エストロゲン受容体を有する細胞(所謂、ER+細胞)に結合可能であり、換言すればER+細胞受容体(即ち、エストロゲン細胞受容体)に結合可能である。前述のように、この文脈では、ER+細胞受容体とは、エストロゲン受容体陽性細胞受容体(ER+)を指す。この受容体は様々な種類の細胞に存在することがあるが、本発明は、細胞の種類に関わらず、あらゆるER+受容体に結合可能なコンポーネントをも包含する。しかしながら、本発明が対象とする典型的な細胞とは、通常多数(典型的には200,000から5百万)のエストロゲン受容体を有する腫瘍性の細胞である。本発明は、あらゆる種類の乳癌細胞を特に対象としている。一方、正常な非腫瘍性のエストロゲン受容体細胞は、通常約20,000から80,000のエストロゲン受容体を有する。
【0014】
第1のコンポーネントは、前述した基準を満たす限り特に限定されない。しかしながら、好ましい実施形態においては、第1のコンポーネントはラロキシフェンなどの選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)である。
【0015】
本発明においては通常、リボゾーム不活化毒素は蛋白質(リボゾーム阻害蛋白質毒素はRIP毒素と呼ばれる)であり、前記RIPはタイプI RIPであることが好ましい。典型的には、この種の蛋白質は、非可逆的に蛋白質合成を阻害して細胞死を引き起こす。前記毒素は、前述した基準を満たす限り特に限定されない。好ましい実施形態においては、前記毒素はサポリンである。
【0016】
好ましい実施形態においては、本発明の化合物における第1のコンポーネントと第2のコンポーネントの化学量論的比率は、0.5:1からN:1の範囲である。ここでNは、第2のコンポーネント中に存在する、第1のコンポーネントの総結合部位数である。この結合部位は、第1のコンポーネントを第2のコンポーネントに結合させることができれば特に限定されない。通常、この結合部位はチロシン及びリシンのいずれかであるが、これらに限定されるものではない。サポリンには最大14箇所のチロシン結合部位と最大23箇所のリシン結合部位が存在し、これらの結合部位はそれぞれ独立して第1のコンポーネントの結合部位として機能することができる(即ち、チロシンのみ、リシンのみ、チロシンとリシンの双方の結合点を利用するかに応じて、N=14、N=23及びN=37のいずれかとなる)。従って、化学量論的比率の好ましい範囲は、0.5:1から37:1であり、0.5:1から23:1がより好ましく、0.5:1から14:1が更に好ましい。しかしながら、どの結合点を利用するかに応じて、これら範囲内のどの比率も使用することができる。
【0017】
更に特に好ましい実施形態においては、第1のコンポーネントと第2のコンポーネントの化学量論的比率は0.5:1から8:1(0.5:1から8:1未満が好ましい)の範囲であり、0.5:1から2.5:1がより好ましい。また、0.5:1から7:1、0.5:1から6:1、0.5:1から5:1、0.5:1から4:1、0.5:1から3:1、0.5:1から2:1などの化学量論的比率も好ましい。
【0018】
ここで、化学量論的比率とは、平均的な化学量論的比率及び分子的な化学量論的比率の双方に言及している。例えば、1:1の分子的な化学量論的比率のコンジュゲート(即ち、第2のコンポーネント1分子に第1のコンポーネント1分子がコンジュゲートされている)と、3:1の分子的な化学量論的比率のコンジュゲート(即ち、第2のコンポーネント1分子に第1のコンポーネント3分子がコンジュゲートされている)を同量含む混合物の平均的な化学量論的比率は2:1になる。このようにして、非整数の化学量論的比率も可能である。
【0019】
本発明は更に、前述した化合物のいずれかを含む医薬組成物を提供する。
【0020】
他の態様においては、本発明は、前述した化合物及び組成物のいずれかの医療における使用を提供する。
【0021】
更なる態様において、本発明は、ER+細胞を含む癌細胞を治療するための医薬の製造のための、前述した化合物及び組成物の使用を提供する。ER+細胞癌の種類は特に限定されないが、癌は、乳癌であることが好ましい。前記医薬は、いかなる哺乳動物の治療にも適しており、その対象が特にヒトであることが好ましい。医薬の投与方法は特に限定されないが、前記医薬は、対象において(静脈内その他経路による)注射及び注入のいずれかと、経口投与に適していることが好ましい。
【0022】
前記医薬の投与量は、有効性及び毒性に係る要件を満たす限り特に限定されない。本発明の好ましい実施形態においては、前記医薬は、コンジュゲートされていない形態で投与したときの第1のコンポーネントの臨床ピーク血中濃度の1%から500%に相当するピーク血中コンジュゲート濃度を達成するための、対象への注射に適している。
【0023】
本発明の更に好ましい実施形態においては、前記医薬は、コンジュゲートされていない形態で投与したときの第1のコンポーネントの臨床ピーク血中濃度の80%から140%を達成するための、対象への注射に適している。
【0024】
ここで、目標とする血中ラロキシフェン濃度は、ヒトの標準的な治療上のピーク血中ラロキシフェン濃度(即ち、0.5ng/ml)に基づいている。
【0025】
本発明は更に、第1のコンポーネントと第2のコンポーネントを反応させて、第1のコンポーネントと第2のコンポーネントをコンジュゲートさせることにより、前述の化合物を製造する方法を提供する。
【0026】
本発明は更に、ER+細胞を含む癌(特に乳癌)の治療方法であって、対象へ医薬を投与することを含み、該医薬は前述の化合物及び組成物のいずれかを含む方法を提供する。
【0027】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明に係るコンジュゲート化合物と組成物がER+癌細胞の効果的な治療を提供し、これらの使用が、ER+癌細胞の経日的腫瘍量の著しい初期縮小をもたらすのみならず、非腫瘍性ER+細胞にそれ程影響を与えることなくER+癌細胞の腫瘍増殖速度を良好且つ持続的に低下させることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】各種サポリン:ラロキシフェン(S:R)コンジュゲートの濃度を漸減させてこれに曝露させたMCF−7、HCC−1143、及びOVCAR−3細胞単層の生存率を示す。各細胞株の細胞生存率(%)は、標準的な乳酸脱水素酵素(LDA)放出アッセイにより計算される。このアッセイでは、最低放出(0%生存率)が、マイトマイシンC50μg/mlで処理された細胞に相当し、最高放出(100%生存率)が完全培地のみで処理された細胞に相当する。
【図2】500nM 2:1ラロキシフェン:サポリンコンジュゲート(S:R 1:2コンジュゲート)、相当するモル濃度のサポリン(500nM)、ラロキシフェン(1,000nM)、サポリン(500nM)とラロキシフェン(1,000nM)の混合物(コンジュゲートされていないサポリンとラロキシフェン)のいずれかに曝露させたMCF−7、HCC−1143、OVCAR−3細胞単層の生存率を示す。各細胞株の細胞生存率(%)は、標準的な乳酸脱水素酵素(LDA)放出アッセイにより計算される。このアッセイでは、最低放出(0%生存率)が、50μg/mlマイトマイシンCで処理された細胞に相当し、最高放出(100%生存率)が完全培地のみで処理された細胞に相当する。
【図3】リン酸緩衝液(PBS)、0.4ng/mlラロキシフェン、0.4nMラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲート(S:R 1:2)のいずれかによる処理により雌性ヌードマウスに形成されたMCF−7腫瘍の成長プロファイルを示す。マウスは、接種後36日目と43日目に後眼窩経路で静脈内投与した。
【図4】コンジュゲート処理による腫瘍体積のパーセント変化を、対照とコンジュゲートされていない物質の場合とを比較して示す。
【図5】コンジュゲート処理による体重のパーセント変化を、対照とコンジュゲートされていない物質の場合とを比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、ER+陽性細胞受容体に結合可能な第1のコンポーネントと、第2のコンポーネントとを含む化合物であって、第2のコンポーネントは通常、RIPタイプIクラスの毒素であり第1のコンポーネントにコンジュゲートされている化合物を提供する。
【0030】
本発明における第1のコンポーネントは、ER+陽性細胞受容体へ結合可能であり、この機能が維持される限り、第1のコンポーネントは特に限定されない。しかしながら前述の通り、任意の選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)化合物が特に有用であることが分かっている。SERMの種類は特に限定されないが、フルベストラント、タモキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン、及びラソフォキシフェンなどを挙げることができる。なかでも、ラロキシフェン化合物は特に有用である。
【0031】
第2のコンポーネントは、リボゾーム不活化毒素である。先に述べたように、該コンポーネントは、蛋白質(RIP毒素)であることが好ましく、タイプI RIPであることが更に好ましい。該毒素は、単独では細胞内に侵入することができず、且つ細胞内活動にのみ働きかけることがより好ましい。
【0032】
ラロキシフェンは閉経後の女性の骨粗鬆症の予防に使用される510Daの選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)である。最近の臨床試験(Vogel VG、Costantino JP他、「for the National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project (NSABP).Effects of Tamoxifen vs Raloxifene on the Risk of Developing Invasive Breast Cancer and Other Disease Outcomes: The NSABP Study of Tamoxifen and Raloxifene (STAR)P−2 Trial」、「JAMA」、2006年、第295巻、p.2727−2741)によれば、エストロゲン受容体陽性乳癌の発症率低減に、ラロキシフェンがタモキシフェンと同程度有効であることが示された。しかしながら、ラロキシフェンを日常的に摂取した患者は、タモキシフェンを日常的に摂取した女性と比較して、子宮癌罹患率が36パーセント低く且つ血栓の形成も29パーセント低かった。子宮癌、特に子宮内膜癌はタモキシフェンの重大な副作用である。
【0033】
ラロキシフェン化合物は、次の構造を有する。
【化1】

【0034】
前記構造式中、炭素に結合した水素の1つ以上が、置換基に置き換えられていてもよい。
【0035】
ラロキシフェンの置換基は特に限定されず、任意の有機基及び、B、Si、N、P、O、S原子などの周期表の3A族、4A族、5A族、6A族、7A族の1以上の原子の少なくともいずれか、ハロゲン原子(例えばF、Cl、Br、I)を含むことができる。
【0036】
置換基が有機基である場合には、この有機基は炭化水素基を含むことが好ましい。前記炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、及び環状の基のいずれかを含むことができる。これとは別に、前記炭化水素基は、脂肪族基及び芳香族基のいずれかを含むことができる。更にこれとは別に、前記炭化水素基は飽和基及び不飽和基のいずれかを含むことができる。
【0037】
炭化水素基が不飽和基を含む場合には、前記炭化水素基は、1つ以上のアルケン官能性及び1つ以上のアルキン官能性の少なくともいずれかを含むことができる。前記炭化水素基が直鎖及び分岐鎖のいずれかの基を含む場合には、第1級、第2級、及び第3級アルキル基の少なくともいずれかを1つ以上含むことができる。前記炭化水素基が環状の基を含む場合には、芳香族環、脂肪族環、複素環基、及びこれらの基の縮合環誘導体の少なくともいずれかを含むことができる。従って、前記環状の基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン、ピリジン、キノリン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ピロール、インドール、イミダゾール、チアゾール、及びオキサゾール基の少なくともいずれか、及び前記基の位置異性体を含む。
【0038】
炭化水素基の炭素原子数は、特に限定されないが、1−40C原子を含む炭化水素基が好ましい。従って、炭化水素基は、低級炭化水素(1−6C)及び高級炭化水素(7C原子以上(例えば7−40C原子))とすることができる。環状の基における環の原子数は特に限定されないが、前記環状の基における環が、3−10原子を含むことが好ましい(例えば、3、4、5、6、及び7のいずれか)。
【0039】
上述したヘテロ原子を含む基、及び上で定義したその他の基は、B、Si、N、P、O、S原子などの周期表の3A族、4A族、5A族、6A族、7A族の1以上のヘテロ原子、及びハロゲン原子(例えばF、Cl、Br、I)のいずれかを含むことができる。従って前記置換基は、水酸基、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、アミン基、アミド基、イミン基、チオール基、チオエーテル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基などの、有機化学における一般的な官能基の1つ以上を含んでいてもよい。前記置換基はまた、カルボン酸無水物及びカルボン酸ハライドなどの、これらの基の誘導体を含むこともある。
【0040】
更に、いずれの置換基も、前記置換基及び官能基の少なくともいずれかを2つ以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0041】
本発明の第2のコンポーネントがRIPタイプIクラスの毒素である場合には、これは特に限定されない。該毒素は、サポリン、MOM、PAP−S、ボウガニン、ゲラニンのいずれであってもよく、特にサポリンは、本発明の化合物及び医薬組成物の一部をなす毒素として有用である。
【0042】
サポリンは、ソープワート(Saponaria officinalis)の種子から得られる30kDaのタイプIリボゾーム不活化蛋白質(RIP)である。サポリンのN−グルコシダーゼ活性は、リボゾームRNA28S中の特定のヌクレオチドを脱プリン化することにより、蛋白質合成を非可逆的に阻害し細胞死をもたらす。サポリンは、種子から得られるだけでなく、遺伝子組換えによって得ることも可能である。
【0043】
サポリンの種類は特に限定されないが、SO−6として知られる形態のサポリンが好ましい。この形態のサポリンは、変性剤、プロテアーゼ、及び熱に対して非常に安定であるという点で特徴的である。更にタイプII RIP(例えばリシン)とは対照的に、サポリンは、それ自身による細胞結合及び内部移行メカニズムを欠如していることにより、通常の条件化では安全と考えられている(Stirpe F, Gasper−Campani A, Barbieri L, Falasca A, Abbondanza A, Stevens WA、「Ribosome−inactivating proteins from the seeds of Saponaria officinalis L. (soapwort) of Agrostemma githago L. (corncockle) and of Asparagus officinalis (asparagus) and from the latex of Hura crepitans L. (sandbox tree)」、「Biochem J」、1983年、第216巻、p.617−625)。
【0044】
第1のコンポーネントと第2のコンポーネントのコンジュゲーションは、特に限定されないが、ビス−ジアゾ−(o−トリジン)[BDT]等の化学的リンカーを使用した共有結合的なコンジュゲーションが有効であることが分かっている。更に、リンカーの使用及びリンカーとして使用する化合物は特に限定されないが、前記具体例が効果的に機能することが示されている。
【0045】
本発明の化合物における第1のコンポーネントと第2のコンポーネントの化学量論的比率は特に限定されず、0.5:1からN:1の範囲とすることができる。ここでNは、第2のコンポーネント中に存在する、第1のコンポーネントの総結合部位数である。これら第1と第2のコンポーネントの化学量論的比率は、特に限定されないが、0.5:1から14:1であり、0.5:1から8:1、好ましくは0.5:1から2.5:1であるコンジュゲートがER+癌細胞の治療に有効である。驚くべきことに、本発明者らは、ラロキシフェン:サポリン比率を約2:1としたときに、乳癌細胞の治療に最も有効なコンジュゲートが得られることを見出した。前記コンジュゲートの使用は、経日的腫瘍体積の著しい初期低下のみならず、持続的且つ良好な腫瘍増殖速度の減少をもたらした。しかしながら、化学量論的比率が0.5:1から8:1未満の範囲内である本発明のコンジュゲートも、同様に有効である。
【0046】
本発明の化合物を含む医薬組成物にはまた、医薬的に許容される担体、賦形剤、アジュバントの少なくともいずれかを含有させることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明に係る化合物及び組成物は、その使用は特に限定されないが、典型的には、ER+細胞を含む癌の治療、特にER+癌の中でも乳癌、卵巣癌、子宮頸癌の治療に使用する医薬の製造に使用される。
【0048】
本発明の化合物及び組成物の使用は、哺乳動物全て、特にヒトに適する。
【0049】
前記使用は、前記医薬が注射及び注入のいずれか、特に静脈内や皮下(但し、これらに限定されない)、経口投与を含むその他の手段による投与に適している。
【0050】
前記使用は、対象への注射により、コンジュゲートされていない形態で使用したときの第1のコンポーネントの臨床ピーク血中濃度の1%から500%の範囲のいずれかのピーク血中濃度を得ることに更に適している。特に前記使用は、注射により臨床ピーク血中濃度の1%から400%、1%から300%、特に1%から200%、好ましくは80%から140%を得るのに更に適している。本発明者らは、驚くべきことに、ラロキシフェン:サポリンの比率が2:1のコンジュゲートを使用して80%から140%を得る治療が、対照群と比較して経日的腫瘍体積の初期における著しい低下のみならず、非腫瘍性ER+細胞にそれ程影響を与えずに、ER+癌細胞の腫瘍増殖率の低下を良好且つ持続的にもたらすことを見出した。
【0051】
エストロゲンの競合的拮抗薬として働く(即ち、細胞増殖速度を低下させる)既存の癌治療薬とは異なり、本発明の化合物、医薬組成物、及び治療は、多数のER受容体を有する細胞(即ち癌細胞)には致死的効果を有するが、その他のER+細胞にはそのような効果を示さない。短期治療により癌細胞を破壊すれば、表現型の変化の程度を小さくすることができる。この表現型の変化は、競合的拮抗薬に長期的に曝露された癌細胞に通常見られ、標的細胞の拮抗薬感受性の喪失につながる。本化合物は、癌細胞がER+からER−に変異すると効果を失う。また本化合物は、ハーセプチンよりも優れた利点を2つ有する(ハーセプチンは、HER2/neu受容体に作用するヒト化モノクローナル抗体であり、乳癌の治療に使用される)。1つ目は、ハーセプチンが主にHer2/neu陽性細胞を標的とするのに対し、本化合物は癌細胞をHer2/neu陽性の如何に関わらずER+細胞を標的とすることであり、2つ目は、癌細胞の複製を単に遅らせるだけでなくこれを破壊することである。本発明の化合物は、標的とする癌細胞に焦点を合わせることができる光源がない場合でも、癌細胞を標的とすることができるので、光線力学的治療法に見られる問題点がない。本化合物はまた、免疫複合体形成による血管漏出症候群及び腎毒性のリスクが低いという点で、免疫毒素(毒素に結合させたモノクローナル抗体)より優れている。
【0052】
更に、コンジュゲートが標的細胞に入った後、リンカーに対する細胞内プロテアーゼの作用によりSERM(担体)とタイプI RIP(毒素)とが分離されたかどうかとは無関係であり、本化合物は、SERMとその受容体との結合、或いはそのような結合によって活性化される細胞機構に依存しないので、その有効性は変化しない。即ち、一度細胞内に入れば、タイプI RIPは、リボゾーム延いては全mRNA(ハウスキーピング遺伝子により作られたもの、他の細胞受容体への結合及びこれらの活性化により生じる刺激性シグナル(例えば、SERM担体の細胞受容体との結合によりもたらされるシグナル)によって誘導されたもの、他の環境的/内的機構及び刺激の少なくともいずれかにより誘導されたものを含む)の翻訳を直接的且つ非可逆的に阻害する。
【実施例】
【0053】
以下の考察と添付の図面を参照し、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例はほんの一例に過ぎない。
【0054】
実施例1−ラロキシフェンのサポリンへのコンジュゲーション
ラロキシフェン(シグマ)を、ビス−ジアゾ−(o−トリジン)[BDT]をリンカーとして(このリンカーは、チロシンを介した結合に有用である)サポリン(シグマ)にコンジュゲートさせた。このリンカーは、酸性溶液中で非常に安定だが、pHが7になるとチロシンや他の芳香性フェノールと極めて急速に反応する。このため前記反応は制御が困難で、適切に制御しないと、該リンカーがサポリンの配列中のチロシン14残基を介してサポリンと架橋し、その完全性を破壊してしまう。従って、この反応の実施条件は非常に重要である。
【0055】
ラロキシフェンのサポリンに対する比率が14:1、8(約):1及び2:1のコンジュゲートを調製した。
【0056】
2:1(ラロキシフェン:サポリン)コンジュゲーションのプロトコルを次に示す。コンジュゲーションを行うために、サポリン中のチロシンに対してモル比で10倍量のBDTを使用し、−20℃で30秒から50秒以上反応させた。水酸化ナトリウムの1モル濃度水溶液(M.NaOHaq)を適量使用してpHを2から5に上昇させた後、1モル塩化水素(M.HCl)を添加して反応を停止させた。紫外分光分析から、30秒の反応時間で、サポリン1分子に対し平均してBDT2分子が反応することが示された。インキュベーション時間を延長させることにより、平均して8から14分子のBDTがサポリン1分子と反応した。各BDT分子が1残基のチロシンとだけ反応する確率を高めるために、過剰量のBDTを使用した。このことは、これらBDT2分子それぞれにおける2番目のジアゾ基が反応せずに残存することにより、構造中にフェノール基を3基有するラロキシフェンとの反応にこれらが利用可能であることを意味する。
【0057】
得られた混合物を、M.HClを用いてゲル濾過し過剰なBDTを除去した後、pHを7に上げて、BDT−サポリンコンジュゲートを大過剰のラロキシフェン溶液(50%メタノール)と反応させた。ラロキシフェンは、酸性溶液中では安定だがアルカリ溶液中では安定ではないので、得られた溶液を直ちに再度酸性にした。大過剰のラロキシフェンを使用することで、ラロキシフェンは、そのフェノール基のうちの1基だけでBDTを介してサポリンと結合することにより、その化学的改変は最小限に留まり、その完全性は最大限維持される。
【0058】
ラロキシフェンとの反応により茶色の溶液が生成する。この色は、溶液をクロロホルムで抽出することにより除去した。真空下40℃での蒸発により、淡い麦色の水層の体積を小さくした後、13,000RPMで遠心して固形物を除去した。得られた淡黄色の溶液をM.HClによるゲル濾過で精製することにより、無色のラロキシフェン−BDT−サポリンコンジュゲート溶液を得た。
【0059】
実施例2−細胞株
MCF−7細胞株(ECACC、カタログno.86012803)は、69歳女性の乳腺癌から単離されたものであり、エストロゲン受容体を発現する。この細胞株を、2mM L−Gln(シグマ)、1%非必須アミノ酸(シグマ)、100IUペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(シグマ)、10%ウシ胎児血清(FCS)(シグマ)(完全培地として)を添加した、最小必須培地(シグマ)で維持した。
【0060】
HCC−1143細胞株(ATTC、カタログno.CRL−2321)は、52歳女性の原発性乳管癌から単離されたものであり、エストロゲン受容体を発現しない。この細胞株を、2mM L−Gln(シグマ)、10mM HEPES(シグマ)、1mM Na−Pyr(シグマ)、100IUペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(シグマ)、10%FCS(シグマ)(完全培地として)を添加した、RPMI−1640(シグマ)培地で維持した。
【0061】
最後に、NIH:OVCAR−3細胞(ATTC、カタログno.HTB−161)は、60歳女性の卵巣腺癌から単離されたものであり、エストロゲン受容体を発現する。この細胞株を、2mM L−Gln(シグマ)、10mM HEPES(シグマ)、1mM Na−Pyr(シグマ)、0.01mg/mlウシインシュリン(シグマ)、100IUペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(シグマ)、20%FCS(シグマ)(完全培地として)を添加した、RPMI−1640(シグマ)培地で維持した。
【0062】
実施例3−クローン原生アッセイ
MCF−7、HCC−1143、OVCAR−3の各培養物を、培養密度約80%でトリプシン処理により収穫し、無血清培地で1回洗浄した後、これを、96ウェル平底プレート(Nunc)の1ウェル当たり200μlの完全培地中に5×10細胞で播種した。
【0063】
48時間37℃で培養後、培地を除き、試験物質(ラロキシフェン:サポリンコンジュゲートのPBS溶液)及び対照物質(サポリン、ラロキシフェン、PBS(シグマ)、陽性対照のマイトマイシンC(シグマ))のいずれかを異なる希釈度で含有する完全培地で置換した(100μl/ウェル)。実験は、4連で実施した。
【0064】
18時間37℃で培養後、試験化合物を除き、完全培地を各ウェルに200μl/ウェルで添加した。
【0065】
37℃で96時間培養後、培地を除き、0.9%トリトンX−100(シグマ)のPBS溶液(室温)を、全ウェルに100μl/ウェルで添加した。37℃で2時間培養した後、全ウェルからPBS−トリトンX−100溶液50μlを新しい平底96ウェルプレートに移した。
【0066】
CytoTox 96(登録商標)Non−Radioactive Cytotoxicity Assayキット(プロメガ)の検出試薬を取扱説明書に従って調製し、検出試薬を全ウェルに50μl/ウェルで添加した。室温暗条件下で30分間培養した後、全ウェルにStop溶液を50μl/ウェルで添加して反応を停止させ、490nmでの各ウェルの吸光度を測定した。
【0067】
実施例4−インビボでの抗腫瘍活性
6から8週齢の雌性ヌードマウス(nu/nu)30匹に、2×10MCF−7細胞をマトリゲル(ベクトン・ディッキンソン)(総量200μl)と共に皮下接種した。実験終了まで、体重減少と腫瘍増殖(直交する2軸を測定し、計算式[π×(最小測定値)/2)×(最大測定値)]により算出)を毎日モニターした。
【0068】
測定した腫瘍の体積が0.3cmに達したときに(接種36日後)、マウスを数群に分け(各群3匹)、各群に次のいずれかを静脈内(後眼窩静脈経路)投与した。
*ピーク血中R:S 2:1コンジュゲート濃度0.4nM、0.2nM、0.1nM(それぞれラロキシフェン0.4ng/ml、0.2ng/ml、0.1ng/mlに相当する)を得るための、ラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲート(S:R 1:2)のPBS溶液100μl(これら3群をそれぞれA、B、Cとする)
*ピーク血中ラロキシフェン(コンジュゲート)濃度を0.4ng/ml、0.2ng/ml、0.1ng/mlを得るための、ラロキシフェンのPBS溶液100μl(これら3群をそれぞれD、E、Fとする)
*PBS100μl(1群:G)
【0069】
目標とする血中ラロキシフェン濃度は、ヒトの標準的な治療上のピーク血中濃度(即ち0.5ng/ml)に基づいている。コンジュゲートとして或いはそれ単独で投与されるラロキシフェンの前記ピーク血中濃度を得るためのマウス個体への投与量は、各マウスの体重(g)に0.08(マウスの血液量(ml)は、平均して体重の8%である)と、所望の血中ラロキシフェン濃度(0.4、0.2、0.1ng/ml)を乗じて算出した。
【0070】
初回の投与から7日後(接種後43日)のマウスに対して、同様の最終血中ラロキシフェン濃度(0.4、0.2、0.1ng/ml)が得られるように、コンジュゲート、ラロキシフェン単独、PBSの2回目投与を行った。
【0071】
統計学的分析
統計学的差異は、ノンパラメトリックなマン−ホイットニー検定により算出し、p<0.05であれば有意と判定した。
【0072】
結果
この研究は、サポリンとラロキシフェンのコンジュゲートが、雌性生殖器官のER陽性細胞、或いは他の非ER陽性細胞を破壊せずに、エストロゲン受容体(ER)陽性乳腺細胞を選択的に殺滅可能かどうかを確立することを目的として行った。この目的でサポリンをラロキシフェンにモル比(R:S)14:1、8:1、2:1でコンジュゲートし、これらコンジュゲートの投与量増加に伴うMCF−7(ER陽性乳癌細胞株)、HCC−1143(ER陰性乳癌細胞株)、OVCAR−3(ER陽性乳癌細胞株)の細胞単層への影響を試験した。
【0073】
図1に示すように、ラロキシフェン:サポリン 14:1コンジュゲート(S:R 1:14)は、いずれの細胞株に対しても限定的にしか作用せず、HCC−1143、OVCAR−3細胞株と比較し、MCF−7細胞株に対して選択的な致死的作用は全く有していないことが分かる。対照的に、ラロキシフェン:サポリン 8:1コンジュゲート(S:R 1:8)は、濃度500nM以上で全細胞株に対し致死的であることが示された。250nMにおいてのみ、MCF−7細胞株に対する選択的な致死的作用の僅かな増加が認められた(MCF−7生存率33.6±2%に対し、HCC−1143生存率70.8±5%、OVCAR−3生存率61.2±5.6%)。
【0074】
ラロキシフェン:サポリン 8:1コンジュゲート(S:R 1:8)と同様に、ラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲート(S:R 1:2)は、試験したコンジュケート濃度のうちの最高濃度では、ERの状態に関わらず全細胞を殺滅した。しかしながらこれより低い投与量では、ラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲートは、試験した全3種のコンジュゲート中最も著しい選択的作用を示した。コンジュゲート濃度500nMでは、ラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲートは、HCC−1143(62.8±10.7%)とOVCAR−3(65.2±3.5%)には限定的にしか作用しなかったものの、MCF−7細胞に対してはその大部分を殺滅した(生存率4.9±4.3%)。
【0075】
これらの結果に鑑みて、更に詳細なインビトロ分析にはラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲートを選択した。この目的のために、MCF−7、HCC−1143、及びOVCAR−3細胞の単層を、500nMラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲート、相当モル濃度のサポリン(500nM)、ラロキシフェン(1,000nM)、サポリン(500nM)とラロキシフェン(1,000nM)の混合物(サポリンとラロキシフェンはコンジュゲートされていない)で処理した。
【0076】
図2は2つの独立した実験の平均を示すが、同図に示されるように、ラロキシフェンは、ER陽性乳癌であるMCF−7細胞株に対して有意な(p<0.05)選択的作用を示したが、ER陰性のHCC−1143細胞株、卵巣のER陽性OVCAR−3細胞株に対してはそのような作用を示さなかった。同様に、サポリンとラロキシフェンの混合物は、MCF−7細胞に対して選択的作用を示したが、サポリンそれ自体では有意な(p>0.05)致死的作用が得られなかったことから、この作用は、ラロキシフェンの活性によるものと考えられる。モル比2:1でラロキシフェンをサポリンにコンジュゲートさせることにより、両化合物の単なる混合物と比較して、これら化合物のMCF−7に対する致死的作用を有意に(p,0.05)増加させる(MCF−7生存率16.0±6.3%に対し51.6±3.2%)が、HCC−1143及びOVCAR−3に対しては、致死的作用は限定的にしか増加しなかった(HCC−1143生存率72.4±5.7%に対し84.3±8.5%、OVCAR−3生存率77.7±4.9%に対し104.4±2.5%)。
【0077】
ラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲート(S:R 1:2)のインビボでの腫瘍増殖抑制の有効性を試験するために、雌性ヌードマウス(nu/nu)にMCF−7細胞を皮下接種した。腫瘍が形成された時点で(36日目)、ピーク血中ラロキシフェン:サポリン 2:1(S:R 1:2)濃度を0.4nM、0.2nM、0.1nMとするために、後眼窩経路でラロキシフェン:サポリン 2:1コンジュゲート(S:R 1:2)を、これらマウスに静脈内ボーラス注射した。この濃度は、ラロキシフェンピーク血中濃度0.4、0.2、0.1ng/mlを得るのに必要な量に相当し、これはそれぞれヒトの目標ピーク臨床血中ラロキシフェン濃度80%、40%、20%に当たる。対照動物には、PBS或いは同量のラロキシフェンを同経路で投与した。43日目のマウスに対して、ラロキシフェン:サポリン 2:1(S:R 1:2)、PBS、ラロキシフェンのいずれかの2回目の投与を行った。
【0078】
エストロゲン産生に対するMCF−7細胞の天然の感受性のために、ヌードマウスモデルの経日腫瘍体積の変動は、約4日乃至5日周期の正弦パターンに従う(図3参照)。この周期の長さは、マウスの発情周期の長さと関連する(即ち、4日乃至5日)。その結果、実験的な分析を促進するために、図3は、各実験群の腫瘍体積の変動を経日変化及び5日周期をオーバーラップさせる(オーバーラップは1点当り4日間)ための移動平均(即ち、トレンド線)として示した。
【0079】
PBS処理群は、上述した正弦パターンの腫瘍増殖を示した。このパターンは、各周期における最大腫瘍体積が、最終的に致死的腫瘍サイズに至るまで増加するという自然傾向によって特徴付けられる。0.2ng/mlと0.1ng/mlのラロキシフェンで処理した場合には、PBS対照群と比較して何ら変化はなかった。0.4ng/mlラロキシフェン群のみが、経時的な腫瘍サイズの維持或いは僅かな縮小を表す自然傾向を示した。これは、選択的エストロゲン受容体モジュレーターの臨床学的作用様式の特徴である。
【0080】
ピーク血中ラロキシフェン:サポリン 2:1(S:R 1:2)濃度を0.2nM、0.1nMとする処理は、いずれもPBS対照群と比較して、腫瘍増殖における変化を何らもたらさなかった。しかしながら、0.4nMラロキシフェン:サポリン 2:1(S:R 1:2)による処理は、0.4ng/mlラロキシフェン群及びPBS対照群と比較して著しい経日腫瘍体積の初期縮小(図3の経日腫瘍体積変化の37日目と38日目を参照)もたらした。更には、0.4ng/mlラロキシフェン群で得られた結果と比較して、良好且つ持続的な腫瘍体積増殖速度の減少(図3の本研究の移動平均トレンド線参照)をももたらした。
【0081】
実施例5−コンジュゲートのインビトロ活性
この研究の目的は、ヌードマウスに埋込んだ、ヒトのエストロゲン受容体陽性乳癌細胞株である皮下のZR−75−1の増殖動態に対するコンジュゲートの作用を評価することである。
【0082】
本研究では、ZR−75−1の増殖がエストロゲンに依存するため、40匹以上の正常な4−6週齢の雌性胸腺欠損ヌードマウス(nu/nu)に対し、腫瘍細胞接種の3日前から毎日5mg/kgエストラジオールを注射した。エストラジオール処理後の全マウスに、21G針とシリンジを用いて25×10のZR−75−1細胞(ATCCより入手)をマトリゲル(ベクトン・ディッキンソン)と共に皮下接種した。
【0083】
試験物質の初回投与後、36日間に亘り、48時間から72時間毎に体重と腫瘍体積をモニターした。腫瘍体積は、次の計算式を利用して求めた:(腫瘍体積)=(a×b/2)(式中aは最小径値、bは最大径値)。
【0084】
形成された腫瘍が約75−150mm(個々の腫瘍体積は、100から250mgに及ぶこともある)に達したときに、7群間の平均腫瘍体積が対照群の平均腫瘍重量の10%以内になるように、マウスを3処理群(各群n=12)に分けた。同日中(1日目)に、(A)サポリン−ラロキシフェンコンジュゲート、(B)コンジュゲートされていないサポリンとラロキシフェンの混合物、及び(C)ラロキシフェンのみ、のいずれか0.1mlをマウスに静脈内注射した。この処理を、72時間毎に合計5回(1、3、6、9、12日目)繰り返した。
【0085】
全3群における、マウス1匹当たりのラロキシフェンの正味の注射量は同一とし、ピーク血中ラロキシフェン濃度は、0.7ng/mlとなるように設計した。この濃度は、臨床的な血中ラロキシフェン濃度の範囲内である。これらマウスをまた、ラロキシフェンとコンジュゲートされていないサポリン及びラロキシフェンとコンジュゲートされたサポリンのいずれかを注射し、サポリン:ラロキシフェンのモル比を1:2として算出した場合のサポリンが同量投与されるようにした。
【0086】
エストラジオールの投与は、皮下の腫瘍の正常な増殖を促すために、埋込み後15日目に再開した。
【0087】
瀕死状態であるとき、或いは体重が14g未満に減少したときに、マウスを安楽死させた(COを使用した窒息により)。個々の腫瘍体積が3,000mmを達したとき、或いは腫瘍が潰瘍化したときにも安楽死させた。実験中、B群(コンジュゲートされていないサポリン及びラロキシフェンの投与群)のマウス1匹を実験から除かざるを得なかった。
【0088】
この実験の結果は、サポリン−ラロキシフェンコンジュゲート投与が、ラロキシフェン単独、コンジュゲートされていないラロキシフェン及びサポリンを投与した場合のいずれと比較しても、有意な(p<0.05、マン−ホイットニー)ピーク腫瘍体積縮小(5日目)がもたらされたことを示唆している。
【0089】
更に、処理終了後(12日目)から36日目までに、サポリン−ラロキシフェンコンジュゲートを投与したマウスは、一般に、他の2実験群と比較して常に腫瘍体積が小さかった(図4参照)。
【0090】
マウスの一般的な健康状態の指標は、実験期間中その体重を観察することにより得ることができる。そのため全実験期間中に亘って、各群のマウスの体重を48時間から72時間毎に測定した。結果から明らかなように、ラロキシフェン単独、コンジュゲートされていないラロキシフェン及びサポリンを投与した場合のいずれと比較しても、サポリン−ラロキシフェンコンジュゲートを投与されたマウスは、有意に(p<0.05、マン−ホイットニー)良好な体重増加プロファイルを示すことが分かった(図5参照)。
【0091】
実施例6−サポリンへのラロキシフェンの更なるコンジュゲーション
実験A
ラロキシフェン(シグマ)を、ビス−ジアゾ−(o−トリジン)[BDT]をリンカーとしてサポリン(シグマ)にコンジュゲートさせた。このリンカーは、酸性溶液中で非常に安定だが、pHが7になるとチロシンや他の芳香性フェノールと極めて急速に反応する。このため前記反応は制御が困難で、適切に制御しないと、該リンカーがサポリンの配列中のチロシン14残基を介してサポリンと架橋し、その完全性を破壊してしまう。従って、この反応の実施条件は非常に重要である。
【0092】
ラロキシフェンのサポリンに対する比率が2:1のコンジュゲートを調製した。
【0093】
2:1(ラロキシフェン:サポリン)コンジュゲートを調製するためのプロトコルを次に示す。コンジュゲーションを行うために、1.2mgの凍結乾燥したサポリン(シグマ)を0.6mlの水に溶解し軽く超音波処理した。この溶液に0.4mlのDMSO(シグマ)と0.01mlの1M HClを添加し、DMSOを混合した。得られた蛋白質溶液を軽く超音波処理した後、0.4mgから1mgのラロキシフェンをこの溶液に添加し、次いでサポリン中のチロシン1残基に対してモル過剰のBDTを添加した。得られた溶液のpHを、1M水酸化ナトリウム水溶液(M.NaOHaq)を適量添加し6.5に上げ、室温で22分から34分間反応させた。反応終了後、得られた溶液にリン酸を最終濃度が約9となるように添加し混合した。過剰BDTは、Biogel P2カラム(バイオラド)を使用して、30.4%DMSOと9.1%リン酸を含む水溶液(溶離液)で溶出させることにより、粗製コンジュゲート溶液から除去した。サポリンとラロキシフェンを含有する画分を、UV分光光度法により決定し、使用前に水で透析した。
【0094】
実験B
ラロキシフェン−HClとDSC(ジ(N-スクシンイミジル)カーボネート)(このリンカーは、リシンを介した結合に有用である)を、質量比2:1(ラロキシフェン:DSC)で0.2mlのDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解させた。トリエチルアミン(0.01ml)をピリジン(0.13ml)に添加し、この調製物を0.01mlずつラロキシフェン/DSC混合物に15分間かけて順次添加した。このプロセスは、21℃、定常攪拌下で行った。40%DMFを含む15mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)でサポリン溶液(0.6mg/ml)を調製し、0.01mlのラロキシフェン/DSC溶液を添加した。得られた調製物を先ずボルテックスし混合した後、コロイド状になるまで超音波処理し、次いでコンジュゲーション反応を21℃で30分間行った。得られた生成物を、13,000rpmで3分間遠心して得た清澄な上清を直接使用するか、0.1HClで処理したSephadex G10カラムを通して、凍結乾燥させ、PBSに再懸濁してから使用した。
【0095】
実験C
サポリンを、2mg/mlのグルコースを含有する10mMリン酸緩衝液(pH6.0)に溶解させ、得られた溶液に、1M HCl(0.1ml)を定常攪拌下で添加しpHを3.7に下げた。この調製物に、ラロキシフェンHClのDMSO溶液(3mg/ml)1mlを21℃、定常攪拌下で添加し、次いで0.005mlのBDT試薬を添加した。定常攪拌下のサポリン−ラロキシフェン−BDT調製物に、0.1M NaOHを0.01mlずつ順次添加しpHを6.8とし、このpHで60分間反応させた。得られた生成物を、先ず水で透析し、次いで2mg/mlグルコースを含有するPBSで1晩透析した。このプロセスで生成した茶色の沈殿物を回収し、超音波処理と激しくボルテックスすることにより水に再懸濁させた。遠心分離による清澄化後、上清を分けてから使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ER+細胞の受容体に結合可能な第1のコンポーネントと、
(b)第2のコンポーネントと、
を含み、前記第2のコンポーネントがリボゾーム不活化毒素であって、前記第1のコンポーネントにコンジュゲートされていることを特徴とする化合物。
【請求項2】
毒素が、サポリン、MOM、PAP−S、ボウガニン及びゲラニンのいずれか1つである請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
毒素がサポリンである請求項1から2のいずれかに記載の化合物。
【請求項4】
第1のコンポーネントがラロキシフェン化合物である請求項1から3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
第1のコンポーネントが第2のコンポーネントに共有結合的にコンジュゲートされている請求項1から4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
第1のコンポーネントが第2のコンポーネントに化学的リンカーでコンジュゲートされている請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
リンカーがビス−ジアゾ−(o−トリジン)[BDT]である請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
第2のコンポーネントに存在する、第1のコンポーネントの結合可能部位の総数をNとしたときに、前記第1のコンポーネントの前記第2のコンポーネントに対する化学量論的比率が0.5:1からN:1の範囲である請求項1から7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
第1のコンポーネントの第2のコンポーネントに対する化学量論的比率が、0.5:1から2.5:1である請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の化合物と、医薬的に許容される担体、賦形剤、及びアジュバントの少なくともいずれかとを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の化合物、及び請求項10に記載の医薬組成物のいずれかの医療における使用。
【請求項12】
請求項1から9のいずれかに記載の化合物、及び請求項10に記載の医薬組成物のいずれかの、ER+癌細胞を含む癌を治療するための医薬の製造のための使用。
【請求項13】
癌が、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、及びその他のER+癌のいずれかである請求項12に記載の使用。
【請求項14】
医薬が、哺乳動物の治療に適している請求項12から13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
哺乳動物がヒトである請求項14に記載の使用。
【請求項16】
医薬が、注射及び注入のいずれか(静脈内その他経路による)と、経口投与とのいずれかによる対象への投与に適している請求項12から15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
医薬が、コンジュゲートされていない形態で使用したときの第1のコンポーネントの臨床的血中ピーク濃度の1%から500%に相当するピーク血中コンジュゲート濃度を得るための、対象への注射に適している請求項16に記載の使用。
【請求項18】
医薬が、コンジュゲートされていない形態で使用したときの第1のコンポーネントの臨床的血中ピーク濃度の80%から140%に相当するピーク血中コンジュゲート濃度を得るための、対象への注射に適している請求項17に記載の使用。
【請求項19】
請求項1から9のいずれかに記載の化合物の製造方法であって、第1のコンポーネントと、第2のコンポーネントとを反応させて第1のコンポーネントを第2のコンポーネントにコンジュゲートさせることを含む化合物の製造方法。
【請求項20】
コンジュゲーション中に、第1のコンポーネントと第2のコンポーネントのpHを制御することを含む請求項19に記載の化合物の製造方法。
【請求項21】
ER+細胞を含む癌の治療方法であって、医薬を対象に投与することを含み、前記医薬は、請求項1から9のいずれかに記載の化合物、及び請求項10に記載の医薬組成物のいずれかを含むことを特徴とする癌の治療方法。
【請求項22】
癌が、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、及び他のER+癌のいずれかである請求項21に記載の癌の治療方法。
【請求項23】
対象が哺乳動物である請求項21から22のいずれかに記載の癌の治療方法。
【請求項24】
哺乳動物がヒトである請求項23に記載の癌の治療方法。
【請求項25】
医薬が、静脈内その他経路により対象に注射及び注入のいずれかで投与されるか、又は、前記対象に経口投与される請求項21から24のいずれかに記載の癌の治療方法。
【請求項26】
医薬が、コンジュゲートされていない形態で使用したときの第1のコンポーネントの臨床的血中ピーク濃度の1%から500%に相当するピーク血中コンジュゲート濃度を得るために、対象に注射及び注入のいずれかで投与される請求項25に記載の癌の治療方法。
【請求項27】
医薬が、コンジュゲートされていない形態で使用したときの第1のコンポーネントの臨床的血中ピーク濃度の80%から140%に相当するピーク血中コンジュゲート濃度を得るために、対象に注射及び注入のいずれかで投与される請求項26に記載の癌の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−539134(P2010−539134A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524488(P2010−524488)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062071
【国際公開番号】WO2009/034136
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(508240111)ペプトセル リミテッド (6)
【Fターム(参考)】