説明

医薬品組成物

本発明は、動物に対するフェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩の経鼻送達のための組成物を提供するものであって、前記組成物は、(i)フェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩と、(ii)(a)ペクチン、または(b)ポロクサマー及び、キトサンもしくはその塩か誘導体、である薬学的に許容される添加剤の水溶液を有し、前記組成物はペクチンを有する場合には2価の金属イオンを実質的に含まず、同量のフェンタニルを単純な水溶液を用いて経鼻投与した場合との比較において、前記組成物は同量のフェンタニルを単純な水溶液を用いて経鼻投与した場合に対して10〜80%の血漿濃度ピーク(Cmax)が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェンタニルの経鼻投与のための医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
経鼻による薬物送達は、迅速な作用や、患者及び/または介護者にとっての簡便さという利点がある。特にこの経路では、薬物を血液循環へと迅速に吸収させることができる。場合によっては、投与したほとんどすべてを吸収させることができ、その薬物動力学は静脈注射と同様となりうる。このような迅速で効果的な薬物送達は、突出痛、頭痛、偏頭痛などの緊急な状況での処置に有用である(Nasal Systemic Drug Delivery, Chien et al (eds), Dekker, New York, 1987)。
【0003】
フェンタニル(N−(1−フェンタニルー4−ピペリジル)プロリオナニリド)は強力なオピオイド鎮痛薬であり、激しい激痛や慢性痛の処置に用いることができる。
【0004】
フェンタニルは、鼻腔から迅速かつ良好に吸収されることが報告されている(Striebel et al, Brit. J. Anaesthesia, 96, suppl 1, 108, 1993)。また、数々の研究において、フェンタニルの経鼻投与が患者に痛覚脱失をもたらすことが実証されている (例えば、 Striebel et al, Brit. J. Anaesthesia, 96, suppl 1, 108 and 109, 1993; Striebel et al, Anaesthesia, 48, 753-757, 1993; Majushree et al, Can. J. Anesth. , 49, 190-193, 2002; Toussaint et al, Can. J. Anesth. , 47, 299-302, 2000)。これらの研究において、フェンタニルの経鼻投与は、すべて市販の注射用処方を鼻へ滴下又は噴霧することによって行われている(JanssenのSublimaze(登録商標))。市販のフェンタニルの注射用処方は、1mlの塩化ナトリウム水溶液にクエン酸塩として0.05mgのフェンタニルを含有しており、薬物を治療上有効な用量とするには大量の鼻腔内投与が必要である。
【0005】
現在、フェンタニルは経皮貼付剤及び経粘膜トローチとしても市販されている。経皮貼付剤(例えばJanssenのDurogesic(登録商標))は、血漿中にフェンタニルを安定した濃度で長期間にわたって供給するが、終末期の疾患に伴う突出痛や、外傷や外傷後の手術に伴う激しい痛みからの素早い開放という点では、好適なものではない。経粘膜トローチ(Actiq(登録商標), Cephalon社)は、突出痛の処置に用いられ、0.2〜1.6mgの範囲の様々な投与量のものが市販されている。経粘膜の処方からのフェンタニルの吸収は比較的遅い。血漿濃度(Tmax)がピークに達する時間は20〜480分であることが報告されている (pp. 405-409, Physician’s Desk Reference, 54th edition, Medical Economics company, Montvale, NJ, 2000)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、フェンタニル送達には、例えば経鼻などのその他の手段の必要性が残されている。
【0007】
本明細書では先行して公開された文献が列挙されまたは議論されているが、これらが技術水準または一般的な共通知識の一部であることを自認するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の1又はそれ以上の問題を解決する、フェンタニルの経鼻投与の処方に好適な組成物を提供するものである。
【0009】
驚くべきことに、我々は実用的な用量でフェンタニルを鼻腔内に投与し、単純な水溶液による投与の場合よりも迅速な吸収かつ低い血漿濃度のピーク、そしてより長い血漿濃度−時間プロフィールが得られることを見いだした。また我々は、こうした長所を、フェンタニルを含む単純な水溶液の経鼻投与の場合に匹敵する生物学的利用能を保持したまま達成できることを見いだした。
【0010】
生物学的利用能が匹敵するとは、血漿濃度−時間曲線(AUC)下の面積が、フェンタニルの単純な水溶液を同量の用量で投与した場合に対して少なくとも50%、好ましくは60%、最も好ましくは70%であることを意味する。
【0011】
単純な水溶液とは、フェンタニルと、マンニトール、デキストロースまたは塩化ナトリウムなどの溶液を等張性とする試薬を水に溶解したものを意味する。単純な水溶液は、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤を任意に含んでもよい。このような単純な水溶液の例としては、1.57mg/mlクエン酸フェンタニル、48mg/mlマンニトール及び0.15mg/ml塩化ベンザルコニウムの水溶液が挙げられる。
【0012】
本発明は、動物へのフェンタニル及び薬学的に許容されるその塩の経鼻送達のための組成物であって、
(i)フェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩、並びに
(ii)(a)ペクチン、及び(b)ポロクサマーと、キトサンまたはその塩もしくは誘導体、
から選ばれる薬学的に許容される添加物の水溶液を有する組成物を提供するものである。但し、前記構成物がペクチンを有する場合は、2価のイオン、特にカルシウムイオンなどのペクチンをゲル化させる試薬を含まない。
【0013】
同じ用量のフェンタニルの単純な水溶液を経鼻投与する場合と比較すると、本発明の組成物ではより低いフェンタニルの血漿濃度ピーク(Cmax)が得られ、任意でより長い血漿濃度−時間プロフィールが得られる。本発明の組成物を用いて得られる血漿濃度ピーク(Cmax)は、同一のフェンタニル用量を単純な水溶液で経鼻投与することにより得られるピークに対して10〜80%、好ましくは20〜75%、より好ましくは30〜70%である。これは、例えばフェンタニルの単純な水溶液により1000μg/mlのCmaxが得られる場合、同一のフェンタニル用量となる本発明の組成物を投与した後に得られるCmaxが100〜800μg/ml、好ましくは200〜750μg/ml、より好ましくは300〜700μg/mlとなることを意味する。
【0014】
本発明の組成物の経鼻投与によって血漿濃度がピークとなるまでの時間(Tmax)は、好ましくは5〜60分、より好ましくは5〜45分、最も好ましくは5〜30分である。
【0015】
フェンタニルは、好ましくは薬学的に許容される塩の形で用いられる。最も好ましくは、クエン酸フェンタニルが用いられる。
【0016】
本発明の組成物におけるフェンタニルまたはその塩の濃度は、好ましくは0.05〜30mg/ml、より好ましくは0.1〜20mg/ml、最も好ましくは0.2〜16mg/mlの範囲である(フェンタニル塩基として)。
【0017】
“薬学的に許容される”という語句は、当業者にとって容易に理解されるものであり、市販の製薬または食用製品、及び/またはGRAS(一般的に安全とみなされる)を持つ、及び/またはアメリカ薬局方やヨーロッパ薬局方などの薬局方に列挙される材料を包含すると考えることができる。
【0018】
本発明の一側面は、フェンタニル及び薬学的に許容されるその塩の経鼻送達のための組成物であって、フェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩及びペクチンの水溶液を有し、血漿濃度ピーク(Cmax)が、同一のフェンタニル用量となる単純な水溶液を経鼻投与して得られる場合に対して10〜80%である。
【0019】
ペクチンは、すべての植物組織の細胞壁に存在する多糖類の物質である。ペクチンは柑橘類の外皮内部またはリンゴの絞りかすの希酸抽出物として一般的に市販されている。ペクチンは不均一な材料であり、部分的にメトキシル化したポリガラクツロン酸を含んでいる。
【0020】
メチルエステル型のガラクツロン酸部分の割合は、エステル化度(DE)によって表される。DEという語句は、当業者に公知な語句であり、エステル化されたカルボキシル基の総数の割合もしくはペクチンのメトキシル含量である。すなわち、5個の酸性基のうちの4個がエステル化されていたとすると、それはエステル化度80%であることを示す。それぞれの理論最大値は100%及び16%である。本願において用いられるDEは、エステル化されたカルボキシル基の総パーセントである。自然界におけるペクチンのエステル化度(DE)は、かなり多様である(60〜90%)。
【0021】
ペクチンは、エステル化度の低いもの(低メトキシル化)またはエステル化度の高いもの(高メトキシル化)に分類される。“低DE”または“LM”ペクチンのエステル化度は50%以下であり、“高DE”または“HM”ペクチンのエステル化度は50%より高い。
【0022】
ペクチン水溶液のゲル化特性は、ペクチン濃度と、ペクチンのタイプ、特にガラクツロン酸のエステル価度と、塩の添加の有無によってコントロールすることができる。
【0023】
好ましくは、低DEペクチンが本発明の組成物に用いられる。より好ましくは、35%未満のエステル化度のペクチン、例えば5〜35%、好ましくは7〜30%、例えば約10〜25%、15%〜25%といったものが本発明に用いられる。
【0024】
低DEペクチンは、通常抽出ペクチンを脱エステル化することにより調製され、通常ベンチスケールでは酵素処理によって、また工業的スケールではアルコール性不均一溶媒中での酸またはアンモニア処理によって調製される。アンモニアによる処理によって、いわゆる低DEアミド化ペクチンが作られる。本願において、“低DEペクチン”は、アミド化及び非アミド化DEペクチンの両方を含む。
【0025】
低DEペクチンは市販品を購入してもよい。本発明に用いられる低DEペクチンの例は、CP Kelco (Lille Skensved, デンマーク)より市販されるSLENDID(登録商標)100であり、そのエステル化度は約15〜25%である。
【0026】
低DEペクチンが水溶液中でゲル化する主な機構は、金属イオンへ曝すことであり、たとえばWO98/47535に記載される鼻粘膜液において見いだされている。
【0027】
本発明の溶液は、保存においてはゲル化すべきではない。従って、ペクチンを含む溶液は、例えば2価のイオン、特にカルシウムイオンといったペクチンをゲル化させる試薬を実質的に含まない。2価のイオンを“実質的に含まない”とは、2価のイオンが97%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上フリーであることを意味する。
【0028】
本発明の組成物がペクチンを含む場合、ペクチンの濃度は好ましくは1〜40mg/ml、好ましくは2〜30mg/ml、最も好ましくは5〜25mg/mlの範囲である。
【0029】
好ましい本発明のペクチン含有組成物は、0.2〜16mg/mlのフェンタニル(フェンタニルとして表示)と、5〜25mg/mlのDE値が7〜30%のペクチンを有し、pHが3.4〜5.0及び重量オスモル濃度が0.25〜0.35osmol/kgである。
【0030】
本発明の一側面は、フェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩と、ポロクサマーと、キトサンまたはその塩もしくは誘導体を有する組成物である。
【0031】
ポロクサマーはエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体である。その一般式はHO(CO)(CO)(CO)Hであり、aは典型的には2〜130、bは15〜67である。ポロクサマーは粘度調整剤、可溶化剤または乳化剤などの様々な薬物としての用途がある。本発明の組成物において、ポロクサマーはフェンタニルが全身の循環系に吸収されるのをコントロール及び調整する濃化剤として用いることができ、フェンタニルの血漿濃度ピーク(Cmax)が、同一のフェンタニル用量となる単純な水溶液を経鼻投与して得られるピークに対して10〜80%となるようにするために用いることができる。
【0032】
数種の異なるポロクサマーが、BASFなどから市販されており、それらは分子量及びエチレンオキシド“a”ユニットとプロピレンオキシド“b”ユニットの比率について異なる。本発明に用いるのに好適なポロクサマーは、典型的には2500〜18000の分子量、例えば7000〜15000Daの分子量である。本発明に用いるのに好適な市販のポロクサマーとしては、構造としては80の“a”ユニットと27の“b”ユニットを含み、分子量は7680〜9510である、ポロクサマー188、及び構造としては101の“a”ユニットと56の“b”ユニットを含み、分子量は9840〜14600である、ポロクサマー407(Handbook of Pharmaceutical Excipients, editor A. H. Kippe, third edition, Pharmaceutical Press, London, UK, 2000)が挙げられる。好ましくはポロクサマー188である。
【0033】
本発明の組成物がポロクサマーを含む場合、ポロクサマーの濃度は好ましくは50〜200mg/ml、より好ましくは65〜160mg/ml、最も好ましくは80〜120mg/mlである。
【0034】
ポロクサマーを有する本発明の組成物は、キトサンまたはその塩もしくは誘導体も有する。
【0035】
キトサンは粘着付着性を持つカチオンポリマーである。この粘着付着性は、正に荷電されたキトサン分子とムチン上の負に荷電されたシアル酸基との相互作用の結果と考えられている(Soane et al, Int. J. Pharm., 178, 55-65, 1999)。
【0036】
“キトサン”という語句には、キチンすなわちポリ−N−アセチル−D−グルコサミンンのあらゆる誘導体を含み、N−アセチル基の大部分が加水分解(脱アセチル化)によって除去された分子量の異なるすべてのポリグルコサミンとグルコサミンのオリゴマーを含む。好ましくは、キトサンはキチンを40%を超えて、好ましくは50〜98%、より好ましくは70〜90%脱アセチル化することで作られる。
【0037】
本発明に用いられるキトサン、キトサン誘導体及び塩は、好ましくは4000Da以上の分子量、好ましくは10000〜1000000Da、より好ましくは15000〜750000Da、最も好ましくは50000〜300000Daの分子量を持つ。
【0038】
キトサンの塩が本発明に好適に用いられる。好適な塩としては、限定されるわけではないが、硝酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、塩酸塩及び酢酸塩が挙げられる。好ましい塩は、グルタミン酸キトサン及び塩酸キトサンである。
【0039】
キトサン誘導体もまた、本発明に好適に用いられる。好適なキトサン誘導体としては、限定されるわけではないが、エステル、エーテルまたはキトサンのアミノ基ではないアクリル及び/またはアルキル基をヒドロキシル基と結合させたその他の誘導体が挙げられる。例としては、キトサンのO−アルキルエーテル及びキトサンのO−アクリルエステルである。ポリエチレングリコールと結合させたような修飾キトサンも、本発明に用いることができる。
【0040】
本発明に好適な低及び中粘度キトサンは、NovaMatrix, Drammen, ノルウェー; Seigagaku America Inc., メリーランド州, アメリカ; Meron (India) Pvt, Ltd., インド; Vanson Ltd, ヴァージニア州, アメリカ; and AMS Biotechnology Ltd., イギリスなど、様々な所から入手可能である。好適な誘導体としては、Roberts, Chitin Chemistry, MacMillan Press Ltd., London (1992)に記載されるものが挙げられる。
【0041】
特に好ましいキトサン化合物としては、NovaMatrix, Drammen, ノルウェーより市販される“ProtosanTM” 型のものが挙げられる。
【0042】
好ましくは、キトサンまたはその塩もしくは誘導体は水溶性である。
【0043】
キトサンの水溶液はキトサン塩基またはキトサン誘導体の塩基を塩酸、乳酸、クエン酸またはグルタミン酸などの薬学的に許容される無機または有機酸に溶解させるか、またはキトサン塩もしくはキトサン誘導体の塩を水に溶かすことによって調整される。
【0044】
本発明の組成物がキトサン、キトサンの塩、またはキトサンの誘導体を含む場合、キトサンの濃度は好ましくは0.1〜20mg/ml、より好ましくは0.5〜15mg/ml、最も好ましくは1〜10mg/mlである(キトサン塩基として表示)。
【0045】
好ましいポロクサマー及びキトサンを含む本発明の組成物は、0.2〜16mg/mlのフェンタニル(フェンタニル塩基として表示)、80〜120mg/mlの分子量7000〜15000Daであるポロクサマー、及び1〜10mg/mlの分子量50000〜300000Daであるキトサンまたはその塩もしくは誘導体(キトサン塩基として表示)を有し、pHが3.0〜5.0及び重量オスモル濃度が0.4〜0.7osmol/kgである。
【0046】
本発明の組成物のpHは、調整することができる。例えば、緩衝溶液を用いることができる。その他にも、本発明の組成物のpHは、他の構成成分と反応しない、薬学的に許容される酸性化剤またはアルカリ化剤を用いて調整することができる。好適な薬学的に許容される酸性化剤の例としては、限定されるわけではないが、塩酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸及びリンゴ酸が挙げられる。薬学的に許容されるアルカリ化剤の例としては、限定されるわけではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メグルミン、トロメタミン、重炭酸ナトリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンが挙げられる。本発明の組成物がペクチンを含む場合、不要なゲル化を防止するために、酸性化剤またはアルカリ化剤はアルカリ金属またはアルカリ土類金属イオンを含むべきではない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び重炭酸ナトリウムであるべきではない。
【0047】
本発明の組成物のpHは、一般的には3〜6が好ましい。ペクチンを含む本発明の組成物について、pHは、より好ましくは3.2〜5.5、最も好ましくは3.4〜5.0である。ポロクサマー及びキトサンを含む本発明の組成物については、pHは、より好ましくは3.0〜5.5、最も好ましくは3.0〜5.0である。
【0048】
患者が、鼻へ投与する際(例えば鼻腔に噴霧する際)我慢できるものであることを確実にするためには、本発明の組成物が血漿に近い重量オスモル濃度を持つことが有用である。重量オスモル濃度は一般的には0.1〜1.0osmol/kgであることが好ましい。ペクチンを含む本発明の組成物については、重量オスモル濃度は、より好ましくは0.2〜0.8osmol/kg、さらに好ましくは0.2〜0.4osmol/kg、最も好ましくは0.25〜0.35osmol/kgである。ポロクサマーとキトサンを含む本発明の組成物については、重量オスモル濃度は、より好ましくは0.2〜0.9osmol/kg、さらに好ましくは0.3〜0.8osmol/kg、最も好ましくは0.4〜0.7osmol/kgである。
【0049】
本発明の組成物の重量オスモル濃度は、適当な試薬を加えることによって所望の値に調整しても良い。金属イオンの塩、特に塩化ナトリウムが薬学的な製剤の重量オスモル濃度の調整に一般的に用いられている。しかしながら、本発明の組成物がペクチンを含む場合は、ペクチンは金属イオンの存在下でゲル化するため、金属イオンを用いることは好ましくない。また、我々はフェンタニルとキトサンを含む組成物の場合でも、金属イオン、例えば塩化ナトリウムの形でナトリウムを加えると沈殿が形成されることを見いだした。従って、金属イオンを含有する試薬の使用は、避けるほうが好ましい。ペクチン含有フェンタニル組成物のゲル形成及びキトサン含有のフェンタニル組成物の沈殿形成は、例えばマンニトール、ソルビトール、砂糖などの多価アルコールやデキストロース、スクロース、トレハロースなどの糖といった非金属イオン化合物を重量オスモル濃度の調整に用いることで避けることができることを我々は見いだした。特に好ましい重量オスモル濃度を調整する試薬は、50mg/ml未満の濃度のマンニトール及びデキストロースである。
【0050】
本発明の組成物は、抗酸化剤(例えばメタ重亜硫酸ナトリウム)、キレート化剤(エデト酸またはその塩など)、防腐剤(塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸またはその塩、フェニルエチルアルコール及び/またはプロピルヒドロキシ安息香酸など)、甘味料(サッカリンやアスパルテームなど)、香味剤(ペパーミントなど)、または当業者に公知の液体製薬の調剤に一般的に用いられる試薬を含んでいても良い。
【0051】
好ましくは、本発明の組成物は防腐剤を含むか滅菌されている。
【0052】
好ましくは、本発明の組成物は非発熱性である。
【0053】
本発明の組成物は、例えば滴液または噴霧などのあらゆる好適な形態で鼻腔に投与することができる。
【0054】
組成物を鼻腔に好適に投与する方法は、当業者に公知である。あらゆる好適な方法を用いることができる。好ましい投与方法は噴霧装置を使用することである。噴霧装置は、単回(単ユニット)使用でも複数回使用の装置でも良く、例えばボトルとポンプと作動器を有するものであり、Pfeiffer, Valois, Bespak and Becton-Dickinsonなどの様々な市販品が利用可能である。例えばUS 5,655,517に記載されるような電気噴霧装置もまた、本発明の組成物の経鼻投与に好適である。
【0055】
噴霧装置としては、一度の噴霧動作で出される液体の体積は、典型的には0.01〜0.15mlである。点鼻スプレー製品の典型的な用法は、一方の鼻孔に1回の噴霧から各鼻孔に2回ずつの噴霧までの範囲である。
【0056】
フェンタニルまたはその塩の好ましい用量は、0.01〜0.5mg(10〜5000μg)、より好ましくは0.015〜4.0mg(15〜4000μg)、最も好ましくは0.02〜3.0mg(20〜3000μg)である。
【0057】
本発明はまた、上記の組成物を装填した噴霧装置を提供するものである。
【0058】
本発明はまた、上記の組成物を調整する方法を提供するものである。この方法は、組成物の構成物質を水中で混合することを有する。注射用水などの精製水を用いても良い。
【0059】
本発明の組成物は、ヒトを含む動物における激痛及び慢性痛の両方の治療、コントロールまたは予防に用いることができる。本発明の組成物は、手術、事故による外傷、終末期の疾患(特に突出痛)、手術後の痛み等に伴う様々な状況下での痛みを管理または予防するのに用いることができる。
【0060】
本発明は、
(a)ペクチン及び
(b)ポロクサマーと、キトサンまたはその塩もしくは誘導体;
から選ばれる薬学的に許容される添加剤の使用であって、フェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩をヒトなどの動物に経鼻送達するのための薬剤の製造における使用であって、前記薬剤はフェンタニルの血漿濃度ピークが、同量のフェンタニル用量の単純な水溶液の経鼻投与により得られる場合に対して10〜80%であるように調整されている、添加剤を提供するものである。
【0061】
特に本発明は
(a)ペクチン及び
(b)ポロクサマーと、キトサンまたはその塩もしくは誘導体;
から選ばれる薬学的に許容される添加剤の使用であって、激痛または慢性痛の治療、予防または管理に好適な、ヒトなどの動物におけるフェンタニル及び薬学的に許容されるその塩を経鼻送達するための薬剤の製造において、前記薬剤はフェンタニルの血漿濃度ピークが、同量のフェンタニル用量の単純な水溶液の経鼻投与により得られる場合に対して10〜80%であるように調整されている、添加剤の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
本発明を、以下の限定とはならない実施例によって説明する。
【実施例1】
【0063】
実施例1−1.57mg/mlのクエン酸フェンタニル(フェンタニルとして1mg/mlに相当)及び10mg/mlのペクチンを含む溶液
2gのペクチン(Slendid 100, CP Kelco, デンマーク)を、180mlの水に撹拌しながら溶解させた。1mlのフェニルエチルアルコール(R. C. Treat, イギリス)及び40mgのプロピルヒドロキシ安息香酸(Nipa Laboratories, イギリス)を防腐剤として加えた。314mgのクエン酸フェンタニル(MacFarlan Smith,エジンバラ、イギリス)及び8.3gのマンニトール(Sigma, Poole,イギリス)をペクチン溶液に溶解させ、200mlのメスフラスコに移し、水でメスアップした。得られた溶液のpHは4.2、重量オスモル濃度は0.33osmol/kgであった。
【実施例2】
【0064】
実施例2−1.57mg/mlのクエン酸フェンタニルと20mg/mlのペクチンを含む溶液
4gのペクチン(Slendid 100)を180mlの水に撹拌しながら溶解させた。1mlのフェニルエチルアルコール及び40mgのプロピルヒドロキシ安息香酸をペクチン溶液に加えた。314mgのクエン酸フェンタニル及び8.3gのマンニトールをペクチン溶液に溶解させ、200mlのメスフラスコに移し、水でメスアップした。
【0065】
4mlの溶液を5ml容のガラスビンに移した。アクチュエータ付Valois VP7スプレーポンプ(Valois,フランス)(0.1ml)をビンに取り付けた。ポンプを数回押して、準備した。準備において、ポンプを作動させると0.1mlの液体が送達され、そこには0.157mgのクエン酸フェンタニル(フェンタニルとして0.1ml)を含む。
【実施例3】
【0066】
実施例3−1.57mg/mlのクエン酸フェンタニル、100mg/mlのポロクサマー188及び5mg/mlのグルタミン酸キトサンを含む溶液
300mgの50%塩化ベンザルコニウム水溶液(Albright & Wilson, イギリス)を秤量して10mlのメスフラスコに移し、約8mlの水に分散させた後10mlにメスアップして、15mg/mlの塩化ベンザルコニウム溶液を調製した。
【0067】
2.5mlの15mg/ml塩化ベンザルコニウム溶液と200mlの水を、ビーカー中の25gのポロクサマー188に加えた。ビーカーをアイスバスに入れ、ポロクサマーが溶解するまで撹拌した。1.25gのグルタミン酸キトサン(Protasan UPG213, Pronova, ノルウェー)と、11.25gのマンニトールをポロクサマー溶液に加え、溶解するまで撹拌した。393mgのクエン酸フェンタニルを、約10mlの水に溶解させ、ポロクサマー溶液に加えた。その溶液を250mlのメスフラスコに移し、水でメスアップした。
【0068】
得られた溶液のpHは3.3、重量オスモル濃度は0.56osmol/kgであった。
【0069】
0.123mlの最終的な溶液となる試料を、単回投与点鼻スプレー装置(Unitdose System, Pfeiffer, ドイツ)のガラスビンに満たした。ガラスビンをゴム栓で密封し、装置にセットした。噴霧すると、装置は0.1mlの液体を放出し、そこには0.157mgのクエン酸フェンタニル(フェンタニル塩基として0.1ml)を含む。
【実施例4】
【0070】
実施例4−6.28mg/mlのクエン酸フェンタニル(フェンタニル塩基として4mg/ml)及び10mg/mlのペクチンを含む溶液
2.5gのペクチン(Slendid 100)を200mlの水に撹拌して溶解させた。1.25mlのフェニルエチルアルコールと50mgのプロピルヒドロキシ安息香酸をペクチン溶液に加えた。1.58mgのアミノ酸フェンタニルと9gのマンニトールをペクチン溶液に溶解させ、250mlのメスフラスコに移して水でメスアップした。
【0071】
得られた溶液のpHは3.8、重量オスモル濃度は0.30osmol/kgであった。
【0072】
0.123mlの最終溶液となる試料を、単回投与点鼻スプレー装置(Unitdose System, Pfeiffer, ドイツ)のガラスビンに満たした。ガラスビンをゴム栓で密封し、装置にセットした。噴霧すると、装置は0.1mlの液体を放出し、そこには0.628mgのクエン酸フェンタニル(フェンタニルとして0.4ml)を含む。
【実施例5】
【0073】
実施例5−1.57mg/mlのクエン酸フェンタニルを含む溶液の調製
【0074】
78.5mgのクエン酸フェンタニルを40mlの水に溶解させた。0.5mlの15mg/mlの塩化ベンザルコニウム溶液と、2.4gのマンニトールをフェンタニル溶液に加え、すべての試薬が溶解するまで撹拌した。溶液を50mlのメスフラスコに移し、水でメスアップした。
【実施例6】
【0075】
実施例6−1.57mg/mlのクエン酸フェンタニルと5mg/mlのグルタミン酸キトサンを含む溶液の調製
【0076】
250mgのグルタミン酸キトサンを40mlの水に溶解させた。0.5mlの15mg/ml塩化ベンザルコニウム溶液と、78.5mgのクエン酸フェンタニルと、2.4gのマンニトールをキトサン溶液に加え、すべての試薬が溶解するまで撹拌した。溶液を50mlのメスフラスコに移し、水でメスアップした。
【実施例7】
【0077】
実施例7−ヒツジにおけるフェンタニル経鼻投与処方の薬物動力学的な効力
【0078】
実施例5及び6において調製した溶液を、ヒツジに経鼻投与した。それぞれ体重約60kgの8頭からなるグループを用いた。投与はランダムクロスオーバーデザインで行った。各ヒツジが0.3mlの各試験溶液(フェンタニル塩基として0.3mg)を経鼻投与された。点鼻薬は、両鼻孔で等量となるようにスプレー装置で投与された。
【0079】
血液試料を採取し、血漿を分離した。血漿試料は、LC−MS−MS法にてフェンタニル含量を分析した。
【0080】
2の点鼻試験試料について、平均血漿濃度−時間曲線を図1に示す。曲線は実質的に同一であり、キトサンが存在する場合及び存在しない場合の両方においてフェンタニルは即座に吸収されることが示された。
【実施例8】
【0081】
実施例8−ヒトボランティアにおけるフェンタニルの経鼻投与処方と口腔粘膜処方の薬物動力学的な効力
3の経鼻フェンタニル処方及び経粘膜トローチ処方(ActiqR, Elan Pharmaceuticals, UK)について臨床試験を行い、薬物動力学的な効力を評価した。
【0082】
経鼻投与処方は、上記の実施例1、3及び6に従い調製した。
【0083】
試験は、18人の健康な成人ボランティアのグループに対して、ランダム4方向完全クロスオーバー試験により行った。経鼻投与は、Pfeiffer Unitdose装置を用いて投与した。各被験者は1の鼻孔に1回の噴霧を受け、0.1mgのフェンタニルを投与された。200μg(0.2mg)のフェンタニルを含むトローチとして、Actiq(登録商標)を用いた。トローチは約15分間かけて口内で溶解させて投与した。血漿試料を被験者より採取し、LC−MS−MS法によりフェンタニル含量を分析した。薬物動力学的なパラメータを血漿データより算出した。
【0084】
3の経鼻投与と1の経粘膜投与の処方に対する血漿濃度−時間曲線を図2に示す。薬物動力学的なパラメータの概要を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例7に記載するヒツジを用いた研究の結果に基づくと、ヒトボランティアにおけるキトサン溶液の薬物動力学的な効力は、フェンタニルの単純な水溶液の場合の効力を表していると考えることができる。ペクチン及びポロクサマーとキトサンの混合物を含む経鼻投与の処方では、キトサン溶液の経鼻投与と比較して、それぞれCmaxを52%及び68%に減少させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例7で得られた、キトサンを含むフェンタニル溶液と、キトサンを含まないフェンタニル溶液をヒツジに投与した後の、フェンタニルの血漿濃度プロフィールを示す。
【図2】実施例8で得られた、3の鼻腔内処方と1の経粘膜処方に対する、フェンタニルの血漿濃度プロフィールを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物に対するフェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩の経鼻送達のための組成物であって、前記組成物は、
(i)フェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩と、
(ii)(a)ペクチン、または(b)ポロクサマー及び、キトサンもしくはその塩か誘導体、である薬学的に許容される添加剤の水溶液を有し、
前記組成物がペクチンを有する場合には2価の金属イオンを実質的に含まず、
同量のフェンタニルを単純な水溶液を用いて経鼻投与した場合との比較において前記組成物は、同量のフェンタニルを単純な水溶液を用いて経鼻投与した場合に対して10〜80%のフェンタニルの血漿濃度ピーク(Cmax)が得られる、組成物。
【請求項2】
同量のフェンタニルを単純な水溶液を用いて経鼻投与した場合との比較において前記組成物は、同量のフェンタニルを単純な水溶液を用いて経鼻投与した場合に対して30〜70%のフェンタニルの血漿濃度ピーク(Cmax)が得られる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
薬学的に許容されるフェンタニルの塩を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記薬学的に許容されるフェンタニルの塩は、クエン酸フェンタニルである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ペクチンを有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ペクチンはDE値が7〜30%である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ペクチンの濃度は5〜25mg/mlである、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
2価の金属イオンが少なくとも99%フリーである、請求項5〜7の何れか1項に記載の組成物。
【請求項9】
重量オスモル濃度が0.25〜0.35osmol/kgである、請求項5〜8の何れか1項に記載の組成物。
【請求項10】
pHが3.4〜5.0である、請求項5〜9の何れか1項に記載の組成物。
【請求項11】
ポロクサマー及びキトサンまたはその塩もしくは誘導体を有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項12】
グルタミン酸キトサンを有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ポロクサマーの濃度は80〜120mg/mlであり、キトサンまたはその塩もしくは誘導体の濃度は1〜10mg/ml(キトサンとして表示)である、請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
重量オスモル濃度が0.4〜0.7osmol/kgである、請求項11〜13の何れか1項に記載の組成物。
【請求項15】
pHが3.0〜5.0である、請求項11〜14の何れか1項に記載の組成物。
【請求項16】
フェンタニルまたは薬学的に許容されるその塩の濃度が0.2〜15mg/ml(フェンタニルとして表示)である、請求項1〜15の何れか1項に記載の組成物。
【請求項17】
滴液または噴霧の形態によって鼻へ送達するように構成された、請求項1〜16の何れか1項に記載の組成物。
【請求項18】
激痛または慢性痛の治療または予防に用いられる、請求項1〜17の何れか1項に記載の組成物。
【請求項19】
(a)ペクチン、及び
(b)ポロクサマーと、キトサンまたはその塩もしくは誘導体
から選択される薬学的に許容できる添加剤の使用であって、
フェンタニル及び薬学的に許容されるその塩を必要としている患者へ経鼻送達するための薬剤の製造における使用であって、前記薬剤は、同量のフェンタニル用量の単純な水溶液を用いて得られる場合に対して10〜80%のフェンタニルの血漿濃度ピーク(Cmax)が得られるように構成されている、添加剤の使用。
【請求項20】
激痛または慢性痛の治療または予防のための薬剤の製造における、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
激痛または慢性痛の治療または予防のための方法であって、前記方法は請求項1〜18の何れか1項に記載の組成物の経鼻送達を有する、方法。
【請求項22】
請求項1〜18の何れか1項に記載の組成物を装填した噴霧装置。
【請求項23】
請求項1〜18の何れか1項に記載の組成物を調整するための方法であって、フェンタニルまたは薬学的に許容できるその塩を薬学的に許容できる前記添加剤と水中にて混合することを有する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−516272(P2006−516272A)
【公表日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500187(P2006−500187)
【出願日】平成16年1月12日(2004.1.12)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000057
【国際公開番号】WO2004/062561
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(505260176)アルキメデス ディヴェロプメント リミテッド (8)
【Fターム(参考)】