説明

医薬組成物

【課題】整形外科疾患および歯周を含む歯科疾患の治療を必要とする患者に同時に投与することによって、そのような疾患を治療する方法の提供。
【解決手段】少なくとも1つの骨形成蛋白質(BMP)および(1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つ少なくとも1つの)グリセロールモノ、ジまたはトリエステルからなる可塑剤を、生分解性ポリマなどの製薬上許容される担体に、相乗的な骨形成および骨治癒効果を提供する量で含む医薬組成物および該医薬組成物の投与方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、相乗的な骨形成および骨治癒効果を提供する量で、生分解性ポリマなどの製薬上許容される担体に、少なくとも1つの骨形成蛋白質(BMP)および可塑剤を含む医薬組成物に関するものである。本発明はさらに、少なくとも1つの骨形成蛋白質(BMP)および少なくとも1つの可塑剤を、医薬上許容される任意の担体で、相乗的な骨形成効果を提供する量で、整形外科疾患および歯周病を含む歯科疾患の治療を必要とする患者に同時に投与することにより、整形外科疾患および歯周病を含む歯科疾患を治療する方法に関するものである。
【発明の背景】
【0002】
この10年間で、骨誘導再生(GBR)は、骨治癒を高めるための予測可能で効果的な方法として導入されてきており、とくに歯科インプラントの取り付けとの関連で、GBRは臨床的にかなり報告されていて、成功した方法である(ダーリン(Dahlin, C.)、その外、「Int. J. Periodontics Restorative Dent.」、1991年、第11号、p.273〜281、ハマーレ、シー. エイチ.(Hammerle, C. H.)、カーリング、ティ.(Karring, T.)、「歯周病(Periodontol) 2000」、1998年、第17号、p.151〜175、ナイマン、エス. アール.(Nyman, S. R.)、ラング、エヌ. ピー.(Lang, N. P.)、「歯周病(Periodontol) 2000」、1994年、第4号、p.109〜118)。GBRにおいては、膜は結合組織のためのバリアとして働き、骨が開放空間を満たすために必要な時間、開放空間を維持する。
【0003】
もし空の部分が、新しく形成される骨のための足場として働く多孔性材料によって満たされるならば、この骨充填過程は、骨伝導の原理により加速することができる(レディ、エイチ.(Reddi, H.)、「サイトカインおよび成長因子レビュ(Cytokine & Growth Factor Reviews)」、1997年、第8号、p.11〜20)。もしくは、骨誘導によって、骨修復を加速することができ、骨誘導には、間葉幹細胞を造骨細胞に分化できる適切な成長因子の適用を含む(ウォズニ、ジェイ. エム.(Wozney, J. M.)、ローゼン、ヴィ.(Rosen V.)、「Clin. Orthop. Rel. Res.」、1998年、第346号、p.26〜37)。
【0004】
骨誘導での最も有用な成長因子は、骨形成蛋白質類(BMP類)であり、骨形成蛋白質は、分化因子であり、骨形成を誘導するその能力に基づいて分離された(ウォズニ、ジェイ. エム.(Wozney, J. M.)、その外、「サイエンス(Science)」、1988年、第242号、p.1528〜1534)。これらはTGF-β-スーパーファミリに属する30を超えるメンバを持つBMPファミリを形成する。BMPファミリは、BMP-2およびBMP-4を含むBMP類と、OP-1またはBMP-7、OP-2またはBMP-8、BMP-5、BMP-6またはVgr-1を含む骨形成蛋白質(OP類)と、CDMP-1またはBMP-14またはGDF-5を含む軟骨由来形成蛋白質(CDMP類)と、GDF-1、GDF-3、GDF-8、GDF-9、GDF-11またはBMP-11、GDF-12およびGDF-14を含む成長/分化因子(GDF類)とを含むサブファミリ、およびBMP-3またはオステオゲニン、BMP-9またはGDF-2、およびBMP-10を含む他のサブファミリに分けられる(上記のレディ(Reddi)、その外、1997年)。
【0005】
とくに動物モデルにおいて、BMP類は、骨形成および骨修復の強力な誘導因子であることが証明されている。しかしながら、BMP類は体液に触れるとすぐに分解すること、およびBMP類の強力な形成作用のために、非生理的である多量のBMP類が、骨誘導性の生物学的活性のために必要とされる(ウェバ、エフ. イー.(Weber, F. E.)、その外、「Int. J. Oral Maxillofac. Surg.」、2002年、第31号、p.60〜65、ローズ、エフ. アール. エー.(Rose, F. R. A.)、オレフォ、アール. オー. シー.(Oreffo, R. O. C.)、「Biochem. Biophys. Res. Com.」、2002年、第292号、p.1〜7)。局所投与ルートを用いなければならず、そのため、担体システムの選択が重大であり、適切な担体システムは現在市販されていない。BMP類は通常、組換え技術により製造されていて、高価で、限られた量しか入手できないため、効果がわかっているにもかかわらず、BMP類は、患者の医学的治療に対しての影響力は不十分である。
【0006】
現在、生分解性(再吸収性、吸収性および侵食性とも呼ばれる)ポリマは、制御放出系のための選択材料であり、その異物反応が一過性であることおよび組織再生能力のため、治療すべき患者に移植可能なものを含む(たとえば、ブロンジノ、ジェイ. ディ.、エドワード(Bronzino, J. D., Ed.)、「医用工学ハンドブック(The Biomedical Engineering Handbook)」、CRC Press、Boca Raton、2000年、第41章、p.41-1〜41-22を参照のこと。)。最も研究されている生分解性ポリマには、ポリ(乳酸)類(PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)(PLG-PEG)コポリマ、PLG-PGAコポリマおよび同様のものが含まれる。しかしながら、合成の生分解性ポリマは硬く、たとえばGBR、とくに歯科GBRでの適用に必要な柔軟性に欠けている。
【0007】
米国特許出願公開第2003-0104029 A1号に、公知の可塑剤、すなわちN-メチル-2-ピロリドン(NMP)で処理することにより、GBRで使用できる程度に、生分解性ポリマの硬さが柔らかくなり、その柔軟性が向上できることが開示されている。さらに、NMP自体が、予期せぬ骨形成誘導作用を持つことが開示されている。参照されて本願に含まれる2005年5月10日に出願した「吸収性ポリマ組成物、インプラントおよびインプラントの製造方法」と題する現在係属中の米国特許出願シリアル番号第XX/XXX,XXX号において、出願人は、他の公知の可塑剤、すなわちトリアセチンおよびこれに非常に類似した化合物について、同じことが言えることを示している。
【0008】
医学における担体としての生分解性ポリマの適用において、およびBMP類の利用において新しい他のアプローチが引き続き必要とされている。
【0009】
本発明の目的はこの必要に合致し、上記の不便および欠点を克服する新しい手段を提供することである。
【0010】
本発明の1つの目的は、したがって歯周病学を含む歯科および整形外科などの他の医学分野の患者の治療において、BMP類の骨形成誘導活性を利用するための新しい手段を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、BMP類、とくに組換えBMP類の用量を減少する手段を提供することであり、それにより、歯周病学を含む歯科および整形外科などの他の医学分野の患者の治療において、BMP類の安全で費用効果の高い使用を可能にする。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、骨誘導再生(GBR)の使用のための新しい手段を提供することである。
【0013】
本発明のなおさらに他の目的は、GBRでの生分解性膜の使用のための新しい手段を提供することであり、それにより第2の外科段階を避けることができる。
【0014】
本発明の目的は、それぞれトリアセチンおよびジアセチンであるグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテートを含む、1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールモノ、ジおよびトリエステルの骨形成誘導特性とともに、BMP類の骨形成特性を相乗的に利用する医薬組成物を提供することにより実現される。組成物は、歯科インプラントの合体および、抜歯後の歯ソケットの充填を含む、歯科および歯周疾患の治療、とくに骨誘導再生(GBR)による治療に有用である。ここでは、「トリアセチン」および「ジアセチン」という一般用語は、それぞれグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテートとして使用されている。
【0015】
本発明の目的は、さらに骨形成の誘導を必要とする患者を治療する方法を提供することにより実現され、その方法においては、それぞれトリアセチンおよびジアセチンであるグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテートを含む、1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールモノ、ジおよびトリエステルの骨形成誘導特性とともに、BMP類の骨形成特性を、さらに任意の生分解性ポリマを、相乗的な骨形成を行うように与えて、歯科インプラントの合体および抜歯後の歯ソケットの充填を含む歯科および歯周疾患を治療し、整形外科疾患および障害を治療する。これらにおいては、外科的骨手術または事故による骨折のある患者の回復の亢進を含む、歯槽堤増大、洞底上昇および非癒合の治癒などにおいて骨折治癒の亢進および骨の増大が望まれる。
【0016】
米国特許第6,440,444 B1号は、所定のかさ密度および所定の湿式圧縮強さを持つ骨粒子の成型組成物を含む耐荷重性骨インプラント組成物を開示する。グリセロールのモノおよびジエステル、すなわちモノアセチンおよびジアセチンが、湿潤剤として、また任意に組成物で使用される可塑剤として名前が挙げられているが、とくにその使用に関する具体的な実施例は示されていない。
【0017】
米国特許第5,510,396号および米国特許第5,314,476号において、骨形成組成物および流動性骨形成組成物を製造するための方法が、それぞれ開示されている。これらの組成物は、脱塩骨粒子、および液体ポリヒドロキシ化合物またはその誘導体などの生体適合性担体を含んでいる。モノアセチンおよびジアセチンの名前が挙げられているが、実施例は存在しない。
【0018】
米国特許第6,616,698号において、軟組織の内殖に浸透可能な少なくとも一つのゾーンを持つ骨粒子の凝集集合体を含む移植可能な生体適合性骨形成骨移植片が開示されている。このインプラントの製造においては、骨粒子のスラリまたはペーストを、モノアセチンおよびジアセチンを含むポリヒドロキシ化合物のエステルなどの生体適合性の液体中で作成する。
【0019】
米国特許出願公開第20020035401 A1号において、骨粒子および、任意に、モノアセチンおよびジアセチンを含む生体適合性液体担体などの生体適合性成分を含む柔軟性シートの形の骨形成骨インプラントが開示されている。これらのポリヒドロキシ化合物が可塑剤としてリストに載っているが、実施例では使用されていない。
【0020】
しかしながら、これらの従来技術に関する刊行物のいずれにも、これらポリヒドロキシ化合物の骨形成誘導または骨治癒活性の可能性についての記載または示唆はなく、インプラントまたは組成物は常に骨粒子を含んでいる。さらに、組成物は常に骨粒子を含んでいる。
【0021】
米国特許出願公開第20040152627 A1号において、製薬上許容される担体に、少なくとも1つの骨形成蛋白質(BMP)、および1-メチル-2-ピロリドン(NMP)または1-エチル-2-ピロリドン(NEP)などの少なくとも1つのピロリドンを含み、BMP(類)およびピロリドン(類)は、骨形成に対して相乗的な治療作用を示す医薬組成物が開示されている。この刊行物で用いられたピロリドンタイプの可塑剤は、グリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテートなどのグリセロール誘導体と構造において本質的に異なっている。
【発明の概要】
【0022】
意外にも、それぞれトリアセチンおよびジアセチンであるグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテート、とくにグリセリルトリアセテート、すなわちトリアセチンを含む1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールモノ、ジおよびトリエステル単独と組み合わせて、BMP類を投与することにより、または、これおよび生分解性インプラント、とくにグリセロールエステルで処理した膜と組み合わせて、BMP類を投与することにより、相乗的に骨形成を高め、その効果は、BMP類またはトリアセチンの個別の骨形成誘導活性、または従来技術で報告されているトリアセチンと生分解性ポリマとの組合せによる骨形成誘導活性に基づいては期待できなかった程度であることが発見された。
【0023】
本発明は、少なくとも1つの骨形成蛋白質(BMP)および少なくとも1つの、それぞれトリアセチンおよびジアセチンであるグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテートを含む1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールモノ、ジおよびトリエステルを、製薬上許容される任意である担体に含む医薬組成物に関するものであり、上記rBMPおよびグリセロールモノ、ジおよびトリエステルが、相乗的な骨形成作用を提供する量で医薬組成物に存在している。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態では、組換え骨形成蛋白質(rBMPa)が使われている。
【0025】
本発明の他の実施の形態では、製薬上許容される担体は生分解性ポリマである。
【0026】
本発明の別の実施の形態では、製薬上許容される担体は、生分解性ポリマであり、生分解性ポリマは、それぞれトリアセチンおよびジアセチンであるグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテート、とくにグリセリルトリアセテート、すなわちトリアセチンを含む1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールモノ、ジおよびトリエステルで前処理される。
【0027】
本発明の実施の形態の1つの例は、少なくとも1つの組換え骨形成蛋白質(rBMP)、グリセリルトリアセテートおよび生分解性ポリマを含む医薬組成物であり、rBMP、グリセリルトリアセテートおよび生分解性ポリマが、骨形成に対して相乗的治療効果を提供する量で存在している。
【0028】
本発明の実施の形態の他の例は、少なくとも1つの組換え骨形成蛋白質(rBMP)、グリセリルトリアセテートおよび生分解性ポリマを含む医薬組成物であり、生分解性ポリマは、グリセリルトリアセテートで前処理され、rBMP、グリセリルトリアセテートおよび前処理した生分解性ポリマが、骨形成に対して相乗的治療効果を提供する量で存在している。
【0029】
本発明はさらに、骨形成の誘導を必要とする患者を治療する方法に関するものであり、この方法は、少なくとも1つの組換え骨形成蛋白質(rBMP)、および1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つ少なくとも1つのグリセロールモノ、ジおよびトリエステル、好ましくはそれぞれトリアセチンおよびジアセチンであるグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテート、最も好ましくはグリセリルトリアセテートを、製薬上許容される任意である担体で、同時投与することを含み、rBMP(類)およびグリセロールモノ、ジおよびトリエステル(類)が、患者の骨形成に対して相乗的治療効果を提供する量で存在している。
【発明の詳細な説明】
【0030】
本発明は、トリアセチンがどのように骨再生を高めることができるのか、その機序を解明するための出願人のさらなる研究に基づいている。合成生分解性ポリマ、すなわちポリ乳酸/グリコール酸(PLGA)からなるトリアセチン処理膜は、GBRで使用するためにはその膜は、隆起しすぎているが、トリアセチン処理膜は、可塑剤すなわちトリアセチンで柔軟にした時、ラットの体内および試験管内のBMP産生細胞株および試験管内のBMP非産生細胞株の両方において、体内の骨再生において未処理のPLGA膜より良い結果を示している(図2)。後者は、自己BMP類の生物学的活性を増加させることによる自己治癒能力の改善を示唆している。しかしながら、従来技術でのインプラントの製造で使われている他の溶媒/可塑剤の使用は、前造骨細胞のアルカリホスファターゼ活性に基づく骨再生を誘導しなかった(図3)。
【0031】
動物モデルとして臨界サイズ頭蓋冠欠損モデルを選んだ。なぜならば、それは、骨治癒に対して悪い作用を持つ血液供給の不足および骨の膜状(皮質)構造のために、骨再生のための最も選択的なモデルであるからである。欠損のサイズは臨界サイズで、動物が生存している間には治癒しないものである。この動物モデルで、2つの膜、すなわちE1M-11(商標)およびトリアセチンで処理したE1M-11(商標)(E1M-11(商標)トリアセチン)を試験し、E1M-11(商標)トリアセチンのみが骨再生を向上させた(図1)。
【0032】
これらの結果は、トリアセチンが、BMP受容体を経由したシグナル伝達を加速しているか、または受容体レベルの下流で作用していることを示唆している。この解釈は、低用量のトリアセチンの適用がその成熟を向上させている前造骨細胞株(MC3T3-E1)から得られた試験管内のデータによって支持された(図2)。この細胞株はBMPを分泌し、細胞外マトリックスにそれを沈着させ、SmadsによるBMPシグナル伝達に対してもっぱら作用する細胞外BMPの作用により成熟することが知られている(Suzawa,
M.、その外、「内分泌(Endocrin)」、1999年、第140号、p.2125〜2133)。同じシグナル伝達経路がC3H10T1/2細胞にも存在し(Katagiri, T.、その外、「Biochem. Biophys.
Res. Com.」、1990年、第172号、p.295〜300)、そこではトリアセチン処理単独でさえ、rhBMP類との併用ではとくに、アルカリホスファターゼ活性を増加させている。それ故、トリアセチン作用の少なくとも1つの部位は、BMP受容体レベルの下流であり、自己およびrhBMPの効果を加速している。BMP類を添加しなくても、トリアセチンは、骨誘導効果を示唆するC3H10T1/2細胞のアルカリホスファターゼ活性を増加させることができる。
【0033】
GBRにおいては、トリアセチンで処理したPLGA膜のような合成の生分解性ポリマ膜との組合せは、膜の機能を、骨内殖のために作られた開放空間から結合組織を単に機械的に分けるものから、トリアセチンの放出装置へと発展させる。この組合せによりGBRは骨誘導と直接連携している。なぜならば、臨界サイズの欠損を治癒するためには、BMP類のような骨誘導因子の適用が必要だからである。トリアセチンの存在下で体内で自己BMPの生物学的活性/生物学的利用能を加速することにより、正常な条件下では余分のrhBMPの適用を必要とするような臨界サイズの欠損を治癒することが、自己BMPの自然の濃度で十分である。
【0034】
それゆえ、自己BMPによるこの場合においては、このモデルでのトリアセチンの使用はまた、自己治癒過程を強化するための良い例である。
【0035】
これらの結果により、臨床に適用するときに必要とされる外部rBMPの量を減らせることを期待して、出願人は、添加したBMPに対するトリアセチンの作用についてさらに研究を行った。
【0036】
しかしながら、意外なことに、さらなる研究において、トリアセチンと併用したBMP類の投与は、従来技術で報告されているrBMP類またはトリアセチンの別個の個々の骨形成誘導活性に基づいては予見できなかった程度まで骨形成を向上させることが、図4〜図6に示すように発見された。言い換えれば、トリアセチンとの併用でのrBMP類の投与は、相乗的な骨形成誘導効果を生み出している。
【0037】
これは、所望の効果のために必要とされる材料の量をより少なくするという点において、利点を与え、これは、rBMP類の製造は労力がかかり高価であるという観点から非常に重要である。また、外来性の材料をより少ない量で使用できる場合は、副作用の危険性は顕著に減少する。全体として、本発明は、BMP類、とくにrBMP類の骨誘導可能性を、対費用効果を高くして治療で利用することを初めて可能にする。
【0038】
この目的のために、BMPまたはrBMPという用語は、それぞれ二量体の天然物または組換え産物としてのBMPファミリの1員を意味している。したがって、たとえば、rBMPという用語は、遺伝子工学で製造されるときは、BMP-2およびBMP-4などのBMPのサブファミリのメンバー、OP-1(またはBMP-7)、OP-2(またはBMP-8)、BMP-5、BMP-6(またはVgr-1)などのOPサブファミリのメンバー、CDMP-1(またはBMP-14またはGDF-5)などのCDMPサブファミリのメンバー、GDF-1、GDF-3、GDF-8、GDF-9、GDF-11(またはBMP-11)、DGF-12およびGDF-14などのGDFサブファミリのメンバー、およびBMP-3(またはオステオゲニン)、BMP-9(またはGDF-2)およびBMP-10などの他のBMPサブファミリのメンバー、およびBMP-15、BMP-16を網羅している。本発明の医薬組成物中で有用なBMP類およびrBMP類の好ましい実施例には、天然および組換えBMP-2、BMP-4、BMP-5、BMP-6およびBMP-7が含まれ、これらのBMP類は、新しい骨の形成に決定的に関与していることが現在知られている。とくに好ましいのは、それぞれ、配列識別番号(SEQ ID NO)1、2および3を持つBMP-2、BMP-4およびBMP-7である。しかしながら、本発明の範囲はまた、骨形成におけるその役割はこれまで解明されていなかったBMP類、および、いくつかのアミノ酸の消失または置換、またはいくつかのアミノ酸の付加、または両方の組み合わせによって生成される修飾されたrBMP類を含む組成物を網羅することを意図している。
【0039】
本発明で有用な天然BMP類は、たとえばジョンソン イーイー(Johnson EE)、その外によって記載されているように(「Clin. Orthop.」、1990年、第250号、p234〜240)、人骨から、または当業者には容易に認識できる他の哺乳類の骨の原料から得ることができる。トリアセチンの存在下では、すでに存在する自己BMPでも十分可能である。
【0040】
本発明で有用なrBMP類は、従来の方法で原核生物および真核生物発現系の両方を用いることによって標準的な組換え技術で製造できる。この点については、たとえば、サーレッチ(Cerletti)、その外による欧州特許出願第0 433 225 A1号、およびイスラエル ディ アイ(Israel D. I.)、その外による「成長因子(Growth Factors)」、1992年、第7号、p.139〜150、を参照する。大腸菌株または他の適切な菌種などの原核生物発現系での生産は、収量という点で有利である。原核生物発現系は、とくにrBMPモノマの製造に適していて、このモノマを後で、たとえば上記のサーレッチ(Cerletti)、その外が記述するように二量体化できる。他方で、哺乳類または昆虫細胞、とくに哺乳類細胞、および蛋白質不存在培地を用いた細胞などの真核細胞発現系は、産物の安全性という点で有利である。適切な哺乳類細胞の例は、チャイニーズハムスタの卵巣(CHO)細胞を含んでいる。哺乳類発現系はrBMP類の製造にはとくに好ましい。しかしながら、適切な産生系の選択は、当業者によく知られていることである。それはまた、BMP受容体によるシグナル伝達を依然として引き起こすアミノ酸の付加または脱離によりある程度修飾されるrhBMPの使用を含むべきである。それは、とくに、トリアセチンの作用機序は、BMP受容体の下流にある、またはBMP受容体経路とクロストークするさまざまな経路をトリガすることによると思われるからである。
【0041】
本発明の医薬組成物で使用される1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールモノ、ジおよびトリエステルは、適用された濃度で組織を損なう効果または毒性効果を持たずに、可塑化または可溶化特性を有するべきである。好ましくは、1〜4個の炭素原子を有する、さらに好ましくは2〜3個の炭素原子を有するカルボン酸、すなわち酢酸およびプロピオン酸を持つ、グリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテート、最も好ましくはグリセリルトリアセテートなどのグリセロールモノ、ジおよびトリエステルが使用される。
【0042】
本発明の医薬組成物は製薬上許容される担体を含んでいてもよい。担体は、適切な液体、固体または半固体の担体であり、担体は、水、生理食塩水、緩衝液、および自然または合成の生分解性ポリマまたはコポリマを含む。緩衝液は、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酒石酸緩衝液および類似の緩衝液などである。水、生理食塩水、緩衝液は、溶液または懸濁液を形成するためのものである。さらに、液体の担体は、共溶媒、界面活性剤、安定剤、抗酸化剤、粘度向上剤、保存剤または同様のものなどの、製薬溶液および懸濁液を作るために通常使用される補助剤を含んでいてもよい。必要な場合は、組成物を膜濾過のような適切な滅菌法で滅菌してもよい。
【0043】
本発明の1つの好ましい実施例においては、製薬上許容される担体は、ポリエチレングリコール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸類、ポリカプロラクトン類、ポリトリメチレンカーボネート類、ポリヒドロキシブチレート類、ポリヒドロキシバレレート類、ポリジオキサノン類、ポリオルトエステル類、ポリカーボネート類、ポリチロシンカーボネート類、ポリオルトカーボネート類、ポリアルキレンオキサレート類、ポリアルキレンサクシネート類、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリペプチド類、ポリデプシペプチド類、ポリビニルアルコール、ポリエステルアミド類、ポリアミド類、ポリ無水物類、ポリウレタン類、ポリホスファゼン類、ポリシアノアクリレート類、ポリフマレート類、ポリ(アミノ酸類)、変性ポリサッカライド類(セルロース、澱粉、デキストラン、キチン、キトサン等など)、変性蛋白質類(コラーゲン、カゼイン、フィブリン等など)およびそれらのコポリマ、ターポリマ、またはそれらの組合せまたは混合物またはポリマブレンドなどの合成の生分解性ポリマに基づくゆるやかな放出系である。ポリグリコール酸、ポリ(L-乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(D,L-乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(L-乳酸)、ポリ(D,L-乳酸)、ポリ(L-乳酸-co-D,L-乳酸)、ポリカプロラクトン、ポリ(L-乳酸-co-カプロラクトン)、ポリ(D,L-乳酸-co-カプロラクトン)、ポリトリメチレンカーボネート、ポリ(L-乳酸-co-トリメチレンカーボネート)、ポリ(D,L-乳酸-co-トリメチレンカーボネート)、ポリジオキサノン、およびそれらのコポリマ、ターポリマおよびポリマブレンドは、ポリマの非常に好ましい例である。最も好ましくは、ポリ-DL-乳酸-co-グリコール酸(PLGA)などのポリ乳酸とグリコール酸のコポリマが担体として用いられる。
【0044】
本発明で用いられる製薬上許容される担体の他の実施例は、コラーゲンおよびフィブリンのような蛋白質類、リン酸カルシウム類(リン酸三カルシウム類、ヒドロキシアパタイト)、骨セメント類、バイオガラス、サンゴのミネラル類(Algipore(商標))、真珠層、卵の殻、ウシ由来ヒドロキシアパタイト(Bio-Oss(商標))およびすべての骨伝導性(多孔性)材料を含んでいる。
【0045】
本発明の医薬組成物は、BMP成分(類)およびグリセロールモノ、ジおよびトリエステル成分(類)を同時に投与するために適用できる適切な方法で作られる。1つの好ましい実施の形態においては、本発明の医薬組成物は、BMPおよびグリセリルジアセテートの適切な骨形成誘導量、および任意に製薬上許容される担体を混ぜ合わせることによって製造できる。
【0046】
選択的に、本発明の他の実施の形態においては、好ましくは膜の形の生分解性ポリマは、1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールモノ、ジおよびトリエステルで、好ましくはグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテートで、最も好ましくはグリセリルトリアセテート、すなわちトリアセチンで前処理して用いられる。その処置には、ポリマを柔軟にするために、またはポリマ中にトリアセチンの一定濃度を得るために必要な時間、たとえば5秒から10分間、成型したポリマをトリアセチンを含有する溶液中に、ただ浸し、その後空気乾燥することが含まれる。その後、rBMPを担体膜のヘパリン処置(ラパート アール(Ruppert R)、ホフマン イー(Hoffmann E)、セバルド ダブリュ(Sebald W)、「Eur. J. Biochem.」、1996年、第237号、p.295〜302)によって導入できる。ポリマは、インプラントの挿入のために十分に長い間、柔軟性を保つ。選択的に、成型されたポリマを、トリアセチンおよびrBMPの混合物で同様に前処理し、それによりBMPは、単なる吸収によってポリマに付着する。選択的に、rBMPは、別個に、しかし同時に、フィブリン、コラーゲン、ポリエチレングリコール、バイオガラス、ヒドロキシアパタイト類、リン酸カルシウム類などの異なった担体に、および既述の物質などの同様の担体材料に適用できる。
【0047】
本発明の1つの実施の形態においては、医薬組成物は、膜、フィルム、プレート、メッシュプレート、スクリュタブおよび他の形の物体を含むインプラントの形である。
【0048】
本発明の医薬組成物は、骨形成を誘導する量の少なくとも1つのBMPまたはrBMP、および骨形成を誘導する量の少なくとも1つの、1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールモノ、ジおよびトリエステル、好ましくはグリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテート、最も好ましくはグリセリルトリアセテート、すなわちトリアセチンを含んでいる。そのような量とは、たとえばBMP(類)またはrBMP(類)では約0.001から約10mg、好ましくは約0.002から約4mg、さらに好ましくは約0.005から約3mgであり、たとえばトリアセチンまたはジアセチンでは約0.001から約60重量パーセント、好ましくは約0.005から約50重量パーセントである。しかしながら、骨形成を誘導する量は、さまざまな適用により異なり、とくにBMP類により異なる。このように、たとえば歯科適用ではより少ない量で十分であるが、他方では、たとえば片側および多面的脊髄融合、非融合の治療、骨粗鬆症の治療および(臀部)インプラントの内部成長で望ましい効果を得るためには、多少多い量が必要とされる。
【0049】
本発明の医薬組成物の投与量は、治療する個々の患者および疾患に依存している。本発明の組成物の典型的な1回量は、約0.001から約4mgの範囲内である。しかしながら、たとえば歯科患者の治療では、より少ない用量で十分かもしれないが、他方では、他の治療では、望まれる効果のためには、いくらか、より多い用量が必要とされる。
【0050】
本発明の治療方法は、少なくとも1つの骨形成蛋白質(BMP)、および骨形成を誘導する量の少なくとも1つのグリセロールモノ、ジおよびトリエステルの同時使用に基づいていて、それにより相乗的作用が達成される。本発明の方法においては、任意に用いられる製薬上許容される担体中で、骨形成を誘導する量の少なくとも1つの骨形成蛋白質(BMP)、および骨形成を誘導する量のグリセロールモノ、ジおよびトリエステルを、骨形成の誘導を必要とする患者に同時に投与し、ここで、BMP(類)およびグリセロールモノ、ジおよびトリエステルは骨形成に対して相乗的な治療効果を提供する量で投与される。本発明の方法の目的では、「同時投与」という表現は、同時および順次投与することの両方を含んでいる。このように、本発明の方法の1つの実施の形態においては、BMP成分(類)およびグリセロールモノ、ジおよびトリエステル成分(類)は、本発明の医薬組成物の形で投与してもよい。本発明の他の実施の形態においては、トリアセチンなどのグリセロールモノ、ジおよびトリエステルで前処理した製薬上許容される担体を治療する部位に導入し、その後、BMPの適切な相乗効果量を適用するという順序でBMP(類)を投与してもよい。
【0051】
本方法で使用したBMP成分(類)およびグリセロールモノ、ジおよびトリエステル成分(類)の量は、治療の条件によって変わり、治療する医師によって決定される。典型的な用量は上述した通りである。
【0052】
本発明を、以下の実施例で説明する。例は、説明のみを目的にして示したものである。
【0053】
統計解析のために、市販のソフトウエアパッケージ(SSPE, Chicago, II)を用いて、独立スチューデント t検定を実施した。すべての値は、平均値±平均値の標準誤差で表した。
【0054】
データの分析
E1M-11(商標)トリアセチン処理動物のX線写真を、3人の当該技術に精通した外科医が比較し、未処理およびE1M-11(商標)処理動物のX線写真と比較した。
【0055】
細胞培養技術およびアルカリホスファターゼの定量
MC3T3-E1細胞を、10%ウシ胎児血清(Life Techonologies, Inc., Grand Island, NY)、50μg/mlゲンタマイシンおよび50μg/mアスコルビン酸を含むalpha修飾最小必須培地(Life Technologies, Inc.)で育てた。C3H10T1/2細胞をEagle基本培地および50μg/mlゲンタマイシンで育てた。両細胞株に対するトリアセチンの作用を調べるために、1穴当たり1X105 細胞を6穴プレートに植え、続いてトリアセチンを加えた。培地交換を3日後に行い、ロウリ、オウ(Lowry, O.)、その外(「J. Biol. Chem.」、1954年、第207号、p.19〜37)に従って、アルカリホスファターゼ(ALP)を定量した。400μlの 1M NaOHを加えることによって、遊離したp-ニトロフェノールをp-ニトロフェニレートに変換し、それを410 nmで吸光度(epsilon=17500/mol x cm)を測定することにより定量した。アルカリホスファターゼ活性をすべての蛋白質について規格化し、1mg蛋白質当たり1分間に生成したnmolニトロフェニレートとして表現した。
【0056】
5mMグリセロールリン酸、および1μg/ml rhBMP-2または60 ng/ml rhBMP-4またはrhBMP-7を補充した同じ培地で育てたMC3T3-E1細胞で、石灰化を定量した。ボジネ ピ. ヴィ. エヌ.(Bodine, P. V. N.)、その外(「J. Bone Mineral Res.」、1996年、第11号、p.806〜819)の方法に従って、4週間後にアリザリンレッドS染色を行った。
【実施例1】
【0057】
骨再生に対するトリアセチンで処理したPLGA膜の作用
骨再生を評価するために、標準的な欠損をラットの頭蓋冠骨に作成した。試験計画には、それぞれ8mmの人工開頭欠損を持つ4匹のラットを含んでいた。欠損は、未処置、生分解性膜で治療、またはトリアセチンを含む生分解性膜で治療のいずれかであった。
【0058】
手術の5週間後にラットを屠殺し、頭蓋冠骨を摘出した。骨再生をX線写真で調べた。評価は目で行い、トリアセチンが欠損の治癒を著しく改善しているという結果について、3人の個別の外科医の判断が一致していた。未処置または膜治療のグループにおいては、治癒は認められなかった。トリアセチン含有膜治療のグループで、4個の欠損のうち、3個が治癒の改善を示していた。図1A〜図1Cは、トリアセチン処理膜が、X線写真で測定した骨形成を改善するという結果を示している。
【実施例2】
【0059】
骨再生に対するトリアセチン処理PLGA膜およびrhBMP-2併用の相乗的効果
最初に、トリアセチンの骨誘導作用を証明するために、マウス胎児間葉幹細胞株C3H10T1/2および前造骨細胞株MC3T3-E1を用い、上記のように培養した。C3H10T1/2細胞は、軟骨、骨または脂肪細胞に分化するが、他方、MC3T3-E1は、自己BMPを産生し放出する。造骨細胞系への分化のマーカとして、アルカリホスファターゼ活性を用いた。
【0060】
図2に示すように、0.0から4mMのトリアセチンの範囲で適用されたトリアセチンの量によって濃度に依存して、MC3T3-E1細胞の成熟は増加していた。とくに、これらの低投与量のトリアセチンは、アルカリホスファターゼ活性を2.0から7.0倍に増加し、MC3T3-E1での前造骨細胞の造骨細胞への成熟を加速していた。成熟のこの加速はまた、長時間続いていた。なぜならば、MC3T3-E1細胞のトリアセチン処理は、図2Bに示すように、アリザリンS染色により定量されるような、成熟造骨細胞によってなされる石灰化を増加するからである。意外なことに、この効果は、前造骨細胞で認められたのみならず、間葉幹細胞(C3H10T1/2)でも認められた。2mMおよび4mMトリアセチンのみで処理したC3H10T1/2細胞は、アルカリホスファターゼ活性の増加を示していた。このように、レッド染色の増加は、トリアセチンの濃度に依存し、石灰化により定量される成熟はトリアセチンにより増加させることができることを示している。したがって、トリアセチン単独でさえ骨誘導効果を生むことができた。rhBMPの存在下で、この増加はさらに高められて、間葉幹細胞のレベルでさえ、トリアセチンとrhBMPの相乗的効果を示していた。
【0061】
さらに、種々の可塑剤/溶媒の骨形成効果について、種々の可塑剤/溶媒の効果をトリアセチンのそれと比較した。MC3T3-E1細胞を上記のように育て、増加する量の異なった溶媒で処理し、MC3T3-E1細胞の成熟に対する作用を6日後にアルカリホスファターゼ活性によって定量した。結果を図3に示す。
【0062】
MC3T3-E1細胞の成熟は、0.1から6mMの範囲で適用したトリアセチンの量によって濃度に依存して増加している。しかしながら、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)のような他の溶媒は、前造骨細胞の成熟に対して陽性の効果を示さなかった。
【0063】
外部BMPの効果を定量するために、C3H10T1/2細胞およびMC3T3-E1細胞を1日目に4 mlの溶媒中に接種し、ALPの定量を6日目に行った。1日目に、rhBMPを、1 mM HCl中の2mg/ml rhBMP-2の保管溶液から、1μg/mlの濃度になるように細胞に加えた。2から4 mMの最終濃度になるようにトリアセチンを、それぞれの培地において200 mMトリアセチンの保管溶液から同じ時点で細胞に加えた。適用後、トリアセチンとrhBMPを、6穴プレート全体をゆっくり回して混ぜ合わせた。別の実験では、細胞をトリアセチンのみで処理した。相乗効果の計算のために、rhBMP処理単独で誘導されたALP活性およびトリアセチン処理単独で誘導されたALP活性を、rhBMPとトリアセチンの両方の存在下で得たALP活性から差し引いた。結果を図4および図5Aに示す。
【0064】
図5Aは、NMPと比較して、トリアセチン単独でrhBMPの不存在下でアルカリホスファターゼ活性を誘導でき、rhBMP-2と相乗的に働いていることを示している。造骨細胞系に向かう間葉細胞様細胞株(C3H10T1/2)の分化をアルカリホスファターゼ活性によって定量した。培地1ml当たり1μg rhBMP-2の存在下または不存在下で、C3H10T1/2細胞をトリアセチンで処理した。
【0065】
同様の方法で、MC3T3-E1細胞の成熟に対する外部rhBMP-4の効果をアルカリホスファターゼ活性によって定量した。MC3T3-E1細胞を、培地1ml当たり60 ngのrhBMP-4の存在下または不存在下でトリアセチンで処理した。相乗効果を計算するために、BMP処理単独で誘導されたALP活性およびトリアセチン処理単独により誘導されたALP活性を、BMPおよびトリアセチンの両方の存在下で得られたALP活性から差し引いた。結果を図5Bに示す。
【0066】
同様の方法で、MC3T3-E1細胞の成熟に対するトリアセチンおよびrhBMP-7の相乗的効果をアルカリホスファターゼ活性によって定量した。培地1ml当たり60 ng rhBMP-7の存在下または不存在下でMC3T3-E1細胞をトリアセチンで処理した。相乗効果を計算するために、BMP処理単独で誘導されたALP活性およびNMP処理単独で誘導されたALP活性を、rhBMP-7およびトリアセチンの両方の存在下で得られたALP活性から差し引いた。結果を図6に示す。これは、rhBMP-7およびトリアセチンの相乗的骨形成効果を明らかに示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、ラットの頭蓋冠骨中にできた臨界サイズの欠損の、骨誘導再生およびトリアセチンによる治癒の向上を示している。頭蓋冠骨の直径8mmの欠損を2つの異なる膜(E1M-11(商標)、図1B、およびトリアセチンで処理したE1M-11(商標)、図1C)で治療し、また、処置しなかった(対照、図1A)。手術5週間後に、欠損中の骨再生を定量した。動物を屠殺後、撮られた頭蓋冠骨のX線写真を示す。
【図2】図2は、トリアセチンが、試験管内で前造骨細胞株(MC3T3-E1)の成熟の増加を誘導したことを示す。図2Aは、トリアセチンの量を増加しながら処理したMC3T3-E1細胞、および6日後にアルカリホスファターゼ活性で定量した成熟を示す。図2Bは、アリザリンS染色により可視化した6穴プレート上に接種したMC3T3-E1細胞によるミネラル化を示す。MC3T3-E1細胞を、5 mMグリセロールリン酸塩の存在下で4週間培養した。左から、トリアセチン添加無し、2.0 mMトリアセチン添加、 4.0 mMトリアセチン添加である。
【図3】図3は、前造骨細胞のアルカリホスファターゼ活性に対する異なる溶媒の作用を、トリアセチンと比較して示す。
【図4】図4は、アルカリホスファターゼ活性によって定量されたMC3T3-E1細胞の成熟に対するトリアセチンおよびrhBMP-2の相乗効果を示す。培地1ml当たり rhBMP-2 1μgの存在下または不存在下で、MC3T3-E1細胞をトリアセチンで処理した。相乗効果を計算するために、rhBMP処理単独で誘導されたALP活性およびトリアセチン処理単独で誘導されたALP活性を、rhBMP-2およびトリアセチンの両方の存在下で得られたALP活性から差し引いた。標準偏差(SD)を、グラフに示す。
【図5】図5は、アルカリホスファターゼ活性により定量されたMC3T3-E1細胞の成熟に対するトリアセチンおよびrhBMP-4の相乗効果を示す。培地1ml当たり rhBMP-4 60 ngの存在下または不存在下で、MC3T3-E1細胞をトリアセチンで処理した。相乗効果を計算するために、BMP処理単独で誘導されたALP活性およびトリアセチン処理単独で誘導されたALP活性を、rhBMP-4およびトリアセチンの両方の存在下で得られたALP活性から差し引いた。SDをグラフに示す。
【図6】図6は、アルカリホスファターゼ活性により定量したMC3T3-E1細胞の成熟に対するトリアセチンおよびrhBMP-7の相乗効果を示す。培地1ml当たり rhBMP-7 60 ngの存在下または不存在下で、MC3T3-E1細胞をトリアセチンで処理した。相乗効果を計算するために、BMP処理単独で誘導されたALP活性およびNMP処理単独で誘導されたALP活性を、rhBMP-7およびトリアセチンの両方の存在下で得られたALP活性から差し引いた。SDをグラフに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製薬上許容される担体に、少なくとも1つの骨形成蛋白質(BMP)と、1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つ少なくとも1つのグリセロールモノ、ジまたはトリエステルとを含み、前記BMP(類)および前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステル(類)は、骨形成に対して相乗的な治療効果を提供する量で存在することを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記少なくとも1つのグリセロールモノ、ジまたはトリエステルは、1〜4個の炭素原子を有するカルボン酸を持つグリセロールジまたはトリエステルであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
請求項3に記載の医薬組成物において、前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステルは、グリセリルトリアセテートおよびグリセリルジアセテートより選ばれることを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の医薬組成物において、前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステルは、グリセリルトリアセテートであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記BMPは、組換えBMP(rBMP)であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の医薬組成物において、前記組換えBMPは、rBMP-2、rBMP-3、rBMP-4、rBMP-5、rBMP-6、rBMP-7、rBMP-8、rBMP-9、rBMP10、rBMP-11、rBMP-14、rBMP-15、rBMP-16、rGDF-1、rGDF-3、rGDF-8、rGDF-9、rGDF-12、rGDF-14およびそれらの混合物より成るグループから選ばれることを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の医薬組成物において、前記組換えBMPは、rBMP-2、rBMP-4、rBMP-5、rBMP-6、rBMP-7、およびそれらの混合物より成るグループから選ばれることを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
請求項5に記載の医薬組成物において、前記組換えBMPは、rBMP-2、rBMP-4、rBMP-7およびそれらの混合物より成るグループから選ばれることを特徴とする医薬組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記BMPは、rBMP-2であり、前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステルは、グリセリルトリアセテートであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記医薬上許容される担体は、生分解性ポリマであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物において、前記生分解性ポリマは、ポリグリコール酸、ポリ乳酸類、ポリカプロラクトン類、ポリトリメチレンカーボネート類、ポリヒドロキシブチレート類、ポリヒドロキシバレレート類、ポリジオキサノン類、ポリオルトエステル類、ポリカーボネート類、ポリチロシンカーボネート類、ポリオルトカーボネート類、ポリアルキレンオキサレート類、ポリアルキレンサクシネート類、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリペプチド類、ポリデプシペプチド類、ポリビニルアルコール、ポリエステルアミド類、ポリアミド類、ポリ無水物類、ポリウレタン類、ポリホスファゼン類、ポリシアノアクリレート類、ポリフマレート類、ポリ(アミノ酸類)、変性ポリサッカライド類、変性蛋白質類およびそれらのコポリマ、ターポリマおよびそれらの組合せおよび混合物およびポリマブレンドより成るグループから選ばれることを特徴とする医薬組成物。
【請求項12】
請求項10に記載の医薬組成物において、前記生分解性ポリマは、ポリグリコール酸、ポリ(L-乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(D,L-乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(L-乳酸)、ポリ(D,L-乳酸)、ポリ(L-乳酸-co-D,L-乳酸)、ポリカプロラクトン、ポリ(L-乳酸-co-カプロラクトン)、ポリ(D,L-乳酸-co-カプロラクトン)、ポリトリメチレンカーボネート、ポリ(L-乳酸-co-トリメチレンカーボネート)、ポリ(D,L-乳酸-co-トリメチレンカーボネート)、ポリジオキサノンおよびそれらのコポリマ、ターポリマおよびポリマブレンドより成るグループから選ばれることを特徴とする医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物において、前記生分解性ポリマは、ポリ-D,L-乳酸-co-グリコール酸(PLGA)であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項14】
少なくとも1つの組換え骨形成蛋白質(rBMP)と、1つの1〜4個の炭素原子を有するカルボン酸を持つ少なくともグリセロールモノ、ジまたはトリエステルと、生分解性ポリマとを含み、前記rBMP(類)と、前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステル(類)と、前記生分解性ポリマは、骨形成に対して相乗的な治療効果を提供する量で存在することを特徴とする医薬組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の医薬組成物において、前記少なくとも1つのrBMPは、rBMP-2、rBMP-4およびrBMP-7およびそれらの混合物より成るグループから選ばれ、前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステルはグリセリルトリアセテートであり、前記生分解性ポリマはポリ-DL-乳酸-co-グリコール酸(PLGA)であり、前記組換えBMP類と、前記グリセリルトリアセテートと、前記PLGAは、骨形成に対して相乗的な治療効果を提供する量で存在することを特徴とする医薬組成物。
【請求項16】
製薬上許容される担体の少なくとも1つの組換え骨形成蛋白質(rBMP)の骨形成誘導量と、1〜6個の炭素原子を有するカルボン酸を持つ少なくとも1つのグリセロールモノ、ジまたはトリエステルの骨形成誘導量とを患者に同時に投与することを含み、前記BMP(類)と前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステル(類)とを、製薬上許容される担体で、骨形成に対して相乗的治療効果を提供する量で投与することを特徴とする骨形成の誘導を必要とする患者の治療方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステルはグリセリルトリアセテートであり、前記rBMPを、rBMP-2、rBMP-3、rBMP-4、rBMP-5、rBMP-6、rBMP-7、rBMP-8、rBMP-9、rBMP10、rBMP-11、rBMP-14、rBMP-15、rBMP-16、rGDF-1、rGDF-3、rGDF-8、rGDF-9、rGDF-12およびrGDF-14およびそれらの混合物より成るグループから選択し、前記製薬上許容される担体は生分解性ポリマであることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項19に記載の方法において、前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステルはグリセリルトリアセテートであり、前記BMPを、rBMP-2、rBMP-4、rBMP-5、rBMP-6およびrBMP-7、およびそれらの混合物から成るグループから選択し、前記製薬上許容される担体は、ポリグリコール酸、ポリ(L-乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(D,L-乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(L-乳酸)、ポリ(D,L-乳酸)、ポリ(L-乳酸-co-D,L-乳酸)、ポリカプロラクトン、ポリ(L-乳酸-co-カプロラクトン)、ポリ(D,L-乳酸-co-カプロラクトン)、ポリトリメチレンカーボネート、ポリ(L-乳酸-co-トリメチレンカーボネート)、ポリ(D,L-乳酸-co-トリメチレンカーボネート)、ポリジオキサノンおよびそれらのコポリマ、ターポリマおよびポリマブレンドより成るグループから選ぶことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、前記グリセロールモノ、ジまたはトリエステルはグリセリルトリアセテートであり、前記rBMPを、rBMP-2、rBMP4、rBMP-7およびそれらの混合物より成るグループから選択し、前記製薬上許容される担体は、ポリ-DL-乳酸-co-グリコール酸(PLGA)であることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−316057(P2006−316057A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−129370(P2006−129370)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(505287232)ザ ユニバーシティ オブ チューリッヒ (4)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF ZURICH
【Fターム(参考)】