説明

半導体ウエハ、半導体装置およびセンサアレイ

【課題】n型不純物を導入した表面の荒れを抑制できる半導体ウエハおよび半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体ウエハ10は、GaSb基板12と、GaSb基板12上に形成されたGaSbを含む層と、GaSbを含む層上に形成されたInAs層とを備え、InAs層のGaSb基板12と反対側の最表面17aにおいて全構成元素に対するSbの組成が3%以下である。半導体装置は、半導体ウエハ10と、半導体ウエハ10の最表面17a上に形成された電極とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ、半導体装置およびセンサアレイに関し、より特定的にはGaSb(ガリウムアンチモン)/InAs(インジウム砒素)系の半導体ウエハ、半導体装置およびセンサアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
GaSb/InAs系の半導体装置として、たとえば受光層を有する受光装置が挙げられる。このような受光装置として、たとえば、Appl.Phys.Lett.,Vol.90,231108(2007) pp.231108-1-231108-3(非特許文献1)には、GaSb/InAsタイプII量子井戸を受光層に用い、カットオフ波長12μm程度のフォトダイオードを作製したことが記載されている。
【0003】
また、Proc.of. SPIE Vol.7298 pp.72981S1-72981S9(非特許文献2)には、GaAb/InAs量子井戸受光層は、少数キャリアの寿命がn型よりもp型の方が長いことから、n型よりもp型で使用することが望ましいことが開示されている。その際、p−n構造を実現するために受光層上にn型領域を形成する必要がある。非特許文献2では、GaSb層にTe(テルル)を拡散させてn型領域を形成する技術を開示している。図19は、非特許文献2に開示されている、GaSb層にTeを拡散させたときのTeの深さ方向の濃度分布をSIMSにより測定したデータを示す図である。図19に示すように、最表面でのTeの濃度は約1×1019cm-3であり、深さ方向が50nmでのTeの濃度は約1×1016cm-3であり、Teの濃度は深さ方向において急に減少している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,Vol.90,231108(2007) pp.231108-1-231108-3
【非特許文献2】Proc.of. SPIE Vol.7298 pp.72981S1-72981S9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1は、ドーピングによりn型層を形成している。一方、上記非特許文献2は、拡散によりn型層を形成している。上記非特許文献2のように拡散によりn型層を形成する場合には、以下の問題があることを本発明者は鋭意研究の結果、見出した。
【0006】
すなわち、上記非特許文献2によれば、図19に示すように、非特許文献2に開示のGaSb層に拡散されたTeの濃度分布に示されるように、ドーパントとしてのTeが内部にあまり取り込まれずに、多くがGaSb層の最表面に分布し、Teが入り込む深さは100nm以下にとどまっている。半導体装置を作製するにはn型領域をさらに深くする必要がある。特に受光装置の場合は動作のために受光層を空乏化させ、なおかつ電極抵抗の増加を防ぐために、深く高濃度でTeを拡散させる必要がある。しかし後述するように発明者らの実験では、上記非特許文献2の受光層をp型で用い、この受光層上に形成したGaSb層に、深く高濃度でTeを拡散させようとすると、TeがGaSb層の最表面に蓄積し、Teが蓄積されたGaSb層の最表面には荒れが生じることが判明している。
【0007】
したがって、本発明の目的は、n型不純物を導入した表面の荒れを抑制できる半導体ウエハ、半導体装置およびセンサアレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、Teを導入したGaSbの表面にTeが析出するのは、Sb(アンチモン)とTeとの反応に起因することに着目し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の半導体ウエハは、GaSb基板と、GaSb基板上に形成されたGaSbを含む層と、GaSbを含む層上に形成されたInAs層とを備え、InAs層のGaSb基板と反対側の最表面において全構成元素に対するSbの組成が3%以下である。
【0010】
本発明の半導体ウエハによれば、InAs層の最表面において全構成元素に対するSbの組成が3%以下である。つまり、InAs層の最表面において、過剰なSbが存在しない。このため、n型領域を形成するために最表面からTeを導入した場合であっても、最表面においてSbとTeとの反応が抑制されているので、最表面にTeが蓄積されることが抑制される。したがって、n型不純物を導入した最表面の表面荒れを抑制することができる。
【0011】
ここで、本発明の半導体ウエハは、InAs層を複数含んでいてもよい。InAs層が複数含まれている場合には、InAs層の最表面とは、GaSb基板と反対側に位置するInAs層の最表面を意味する。
【0012】
本発明の半導体ウエハにおいて好ましくは、上記GaSbを含む層は、GaSb層とInAs層とを有する積層単位を複数含む多重量子井戸(MQW:Multiple-Quantum Well)構造である。これにより、感度、リーク電流、発光効率などの特性をより向上した半導体装置を実現することができる。
【0013】
本発明の半導体装置は、上記半導体ウエハと、上記半導体ウエハの上記最表面に形成された電極とを備えている。上記半導体ウエハの最表面の表面荒れが抑制されているので、最表面に、密着性が良好で、接触抵抗が低く、信頼性に優れた、高い特性を維持した電極を形成することができる。
【0014】
上記半導体装置において好ましくは、上記半導体装置は、フォトダイオードである。GaSbを含む層を備える半導体装置は、フォトダイオードに好適に用いられる。このため、感度や暗電流などの特性をより向上したフォトダイオードを実現することができる。
【0015】
本発明のセンサアレイは、上記フォトダイオードを複数備える。本発明のセンサアレイは、n型不純物を導入した最表面の表面荒れを抑制したフォトダイオードを備えているので、感度や暗電流などの特性をより向上したセンサアレイを実現することができる
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の半導体ウエハ、半導体装置およびセンサアレイによれば、InAs層の最表面においてSbが検出限界以下であるので、最表面からTeを導入しても、n型不純物を導入した表面の荒れを抑制できる半導体ウエハおよび半導体装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1における半導体ウエハを概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における受光層の一部を概略的に示す拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における半導体ウエハの一製造工程を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2における半導体ウエハを概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3における半導体ウエハを概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態4におけるフォトダイオードを概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態5における発光装置を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態6におけるセンサアレイを概略的に示す上面図である。
【図9】本発明の実施の形態6におけるセンサアレイを概略的に示し、図8の線分IX−IXに沿った断面図である。
【図10】Teが拡散された実施例1の半導体ウエハの最表面をSEMにより測定した図である。
【図11】Teが拡散された実施例1の半導体ウエハの断面をSEMにより測定した図である。
【図12】Teが拡散された実施例1の半導体ウエハのTeの濃度をSIMSにより測定した図である。
【図13】比較例1の半導体ウエハを概略的に示す断面図である。
【図14】Teが拡散された比較例1の半導体ウエハの最表面をSEMにより測定した図である。
【図15】Teが拡散された比較例1の半導体ウエハの断面をSEMにより測定した図である。
【図16】比較例2の半導体ウエハを概略的に示す断面図である。
【図17】Teが拡散された比較例2の半導体ウエハの最表面をSEMにより測定した図である。
【図18】Teが拡散された比較例2の半導体ウエハの断面をSEMにより測定した図である。
【図19】非特許文献2において、GaSb層にTeを拡散させたときのTeの深さ方向の濃度分布をSIMSにより測定したデータを示す図である。
【図20】本発明の実施の形態1における多重量子井戸構造を受光層に用いた場合の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における半導体ウエハ10を概略的に示す断面図である。図1を参照して、本発明の半導体ウエハの一実施形態として、フォトダイオード用の半導体ウエハ10について説明する。
【0020】
図1に示すように、半導体ウエハ10は、GaSb基板12と、バッファ層13と、受光層14と、GaSb層15と、第1のInAs層16と、第2のInAs層17とを備えている。
【0021】
GaSb基板12は、たとえばp型GaSbである。GaSb基板12は主面を有し、主面の面方位はたとえば(100)である。
【0022】
バッファ層13は、GaSb基板12の主面上に形成され、たとえば1μmの厚みを有し、1×1018cm-3の濃度のBe(ベリリウム)を含むp型GaSb層である。
【0023】
受光層14は、バッファ層13上に形成されている。図2は、本実施の形態における受光層14の一部を概略的に示す拡大断面図である。受光層14は、図2に示すように、InAs層14aとGaSb層14bとを有する積層単位を複数含む多重量子井戸構造であることが好ましい。言い換えると、受光層14は、InAs層14aとGaSb層14bとがこの順で複数層交互に積層された多重量子井戸構造であることが好ましい。本実施の形態の受光層14は、たとえば、3.6nmの厚みを有するInAs層14aと、2.1nmの厚みを有するGaSb層14bとを有する積層単位が200(周期数が200)である。なお、積層単位は、InAs層14aとGaSb層14bとの界面14c、14dの少なくとも一方がInSb−likeであるものを含む。また、受光層14は単一の層よりなっていてもよい。
【0024】
GaSb層15は、受光層14上に形成され、たとえば0.3μmの厚みを有するアンドープGaSb層である。
【0025】
第1のInAs層16は、GaSb層15上に形成され、たとえば10nmの厚みを有するアンドープInAs層である。
【0026】
第2のInAs層17は、第1のInAs層16上に形成され、たとえば10nmの厚みを有するアンドープInAs層である。第2のInAs層17は、GaSb基板12側と反対側の最表面17aを有する。最表面17aにおいて全構成元素に対するSbの組成が3%以下であり、Sbは検出限界以下であることが好ましい。
【0027】
Sbの組成は、たとえばAES(Auger Electron Spectroscopy:オージェ電子分光法)を用いて測定される。全構成元素とは、最表面17aに存在する全ての元素を意味する。また、検出限界以下とは、たとえばAESを用いて最表面17aのSbを測定した場合に、検出可能な最低の濃度以下であることを意味し、検出可能な最低の濃度が検出されないことがより好ましい。つまり、最表面17aには、実質的にSbは存在しないことが好ましい。
【0028】
本発明者が鋭意研究した結果、最表面17aの荒れを起こすことなくTeを拡散するためには半導体ウエハ10の最表面17aのSbの全構成元素に対する組成を1%以内に抑える必要があることが判明している。加えて、ここでのSbの組成はAESを用いて測定しているが、AESは1/3倍から3倍の測定誤差が存在するとされているので、実質的にはSbの全構成元素に対する組成は3%以内に抑える必要があると考えられる。最表面17aの荒れをより効果的に抑制するためには、Sbは検出限界以下であることが好ましい。
【0029】
ここで、本実施の形態の半導体ウエハは、InAs層を複数(第1および第2のInAs層16、17の2層)含んでいるが、1層であってもよい。InAs層が複数含まれている場合には、InAs層の最表面とは、GaSb基板と反対側に位置するInAs層の最表面、つまり第2のInAs層17の最表面17aを意味する。また、第2のInAs層17の最表面17a上に、他の層がさらに形成されていてもよい。
【0030】
続いて、図1〜図3を参照して、本実施の形態における半導体ウエハ10の製造方法について説明する。なお、図3は、本実施の形態における半導体ウエハ10の一製造工程を概略的に示す断面図である。
【0031】
まず、図3に示すように、GaSb基板12を準備する。次に、成長室内で、GaSb12上に、Sb供給部からSbの原料を供給しながら、バッファ層13を形成する。この工程では、バッファ層13として、たとえば1μmの厚みを有し、1×1018cm-3の濃度のBeを含むp型GaSb層を形成する。
【0032】
次に、成長室内で、図3に示すように、バッファ層13上に、受光層14を形成する。この工程では、図2に示すように、InAs層14aとGaSb層14bとを有する積層単位を複数含む多重量子井戸構造の受光層14を形成することが好ましい。GaSb層14bを形成する際には、Sb供給部からSbの原料を供給しながらGaSb層14bを形成する。本実施の形態では、たとえば、3.6nmの厚みを有するp型のInAs層14aと、2.1nmの厚みを有するp型のGaSb層14bとを有する積層単位が200(周期数が200)である受光層14を形成する。なお、積層単位は、図2におけるInAs層14aとGaSb層14bとの界面14c、14dの少なくとも一方がInSb−likeであるものを含む。また、単一の層よりなる受光層14を形成してもよい。
【0033】
次に、成長室内で、図3に示すように、受光層14上に、Sb供給部からSbの原料を供給しながら、GaSb層15を形成する。この工程では、たとえば0.3μmの厚みを有するアンドープGaSb層を形成する。
【0034】
次に、成長室内で、図3に示すように、GaSb層15上に、第1のInAs層16を形成する。この工程では、第1のInAs層16として、たとえば10nmの厚みを有するアンドープInAs層を形成する。この工程により、図3に示すGaSb基板12、バッファ層13、受光層14、GaSb層15および第1のInAs層16を備えたエピタキシャルウエハ10Aを得ることができる。
【0035】
バッファ層13、受光層14、GaSb層15および第1のInAs層16の形成方法は、特に限定されないが、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法で形成することが好ましい。つまり、成長室はMBE装置であることが好ましい。なお、これらのエピタキシャル層の形成方法は特に限定されず、たとえば、OMVPE(OrganoMetallic Vapor Phase Epitaxy:有機金属気相成長)法、昇華法、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy:ハイドライド気相成長)法などの気相成長法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相成長法などにより成長してもよい。
【0036】
次に、第1のInAs層16の成長時の温度よりも高い温度で、エピタキシャルウエハ10Aを保持する。エピタキシャルウエハ10Aの各層の成長温度をGaSb基板12の加熱温度で制御している場合には、この工程では、GaSb基板12の加熱温度を第1のInAs層16の加熱温度よりも高い温度にする。エピタキシャルウエハ10Aの保持時間は、特に限定されないが、たとえば第1のInAs層16の成長時の温度よりも高い温度に到達してから、5分以上60分以下であることが好ましい。また、エピタキシャルウエハ10Aの加熱温度は、Sbの昇華温度よりも高い温度であることが好ましい。これにより、第1のInAs層16の表面に残っているSbを昇華(蒸発)することができる。本実施の形態では、たとえば成長室内においてエピタキシャルウエハ10Aの成長温度よりも30℃高い温度で30分間保持してベーキングを行なう。
【0037】
次に、成長室からエピタキシャルウエハ10Aを一旦取り出して、Sb供給部を立ち下げる。つまり、成長室においてSb供給部からSbの供給を停止する。本実施の形態では、Sb供給部を含む成長装置自体を立ち下げる。MBE法でバッファ層13、受光層14、GaSb層15および第1のInAs層16を成長した場合には、Sb供給部であるセルを閉じる。
【0038】
次に、図4に示すように、Sbの供給部が立ち下げられた状態(Sbの供給が停止された状態)で、エピタキシャルウエハ10Aを成長室に投入し、第1のInAs層16上に、第2のInAs層17を形成する。この工程では、第2のInAs層17として、たとえば10nmの厚みを有するアンドープGaSb層を形成する。第2のInAs層17の形成方法は特に限定されないが、エピタキシャルウエハ10Aの各層の成長方法と同様の方法を採用することができる。この工程を実施すると、第2のInAs層17のGaSb基板12と反対側の最表面17aにおいてSbの全構成元素に対する組成は3%以下になり、Sbが検出限界以下になることが好ましい。
【0039】
以上の工程を実施することにより、図1に示すように、n型GaSb基板12、バッファ層13、受光層14、GaSb層15、第1のInAs層16および第2のInAs層17を備えた半導体ウエハ10を製造できる。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態における半導体ウエハ10は、GaSb基板12と、GaSb基板12上に形成されたGaSbを含む層としての受光層14と、GaSbを含む層としての受光層14上に形成された第2のInAs層17とを備え、第2のInAs層17のGaSb基板12と反対側の最表面17aにおいて全構成元素に対するSbの組成が3%以下である。
【0041】
本実施の形態における半導体ウエハ10によれば、第2のInAs層17の最表面において過剰なSbの残留を低減できる。このため、n型領域を形成するために第2のInAs層17の最表面17aからTeを導入した場合であっても、最表面17aにおいてSbとTeとの反応が抑制されるので、最表面17aの表面荒れを抑制することができる。したがって、最表面17aに電極を形成することが可能な半導体ウエハを実現できる。
【0042】
このように、最表面17aに位置するSbが検出限界以下であるので、第2のInAs層17の最表面17aからTeを導入した場合に、最表面17aでTeとSbとの反応が実質的に発生することなくTeを内部に拡散することができる。このため、深く高濃度のTeが拡散したn型領域を形成することも可能となる。したがって、半導体装置の作製に適した半導体ウエハ10を得ることができる。
【0043】
また、最表面17aで表面荒れを起こすことなく高濃度のTeを拡散することができるので、最表面17a上にn型電極を形成でき、かつn型電極の抵抗を低く抑えることができる。n型電極の抵抗を低減することにより、消費電力の低減が可能となり、またn型電極での発熱を抑制できる。このため、本実施の形態の半導体ウエハ10を用いて作製する半導体装置の寿命を長くすることができる。
【0044】
本実施の形態における半導体ウエハにおいて好ましくは、GaSbを含む層としての受光層14は、InAs層14aとGaSb層14bとを有する積層単位を複数含む多重量子井戸構造である。
【0045】
InAs層14aとGaSb層14bとを有する積層単位を複数含む多重量子井戸構造をたとえば受光層に用いると、受光層中で光の吸収で発生した電子・正孔対は図20のように電子はInAs中の導電帯に、正孔はGaSb中の価電子帯に分布することになるので、GaSbもしくはInAsの単層を受光層に用いた場合より、長波長の光を検知することができる。なお、図20は、本実施の形態における多重量子井戸構造を受光層に用いた場合の効果を説明するための図である。
【0046】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における半導体ウエハ11を概略的に示す断面図である。本実施の形態における半導体ウエハ11は、基本的には図1に示す実施の形態1の半導体ウエハ10と同様の構成を備えているが、本実施の形態の半導体ウエハ11は発光装置用である点において異なる。このため、本実施の形態の半導体ウエハ11は、受光層14の代わりに、発光層18が形成されている。また、発光層18が多重量子井戸構造を有している場合のInAs層14aとGaSb層14bとを有する積層単位は、たとえば10である。
【0047】
また、本実施の形態における半導体ウエハ11の製造方法は、基本的には実施の形態1における半導体ウエハ10の製造方法と同様であるが、受光層14を形成する工程の代わりに発光層18を形成する工程を備えている点において異なる。
【0048】
このように、本発明の半導体ウエハは、実施の形態1におけるフォトダイオード用の半導体ウエハ10に限定されず、実施の形態2における発光装置用の半導体ウエハ11であってもよい。
【0049】
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3における半導体ウエハ10aを概略的に示す断面図である。図5を参照して、本実施の形態の半導体ウエハ10aについて説明する。
【0050】
図5に示すように、本実施の形態における半導体ウエハ10aは、基本的には実施の形態1における図1に示す半導体ウエハ10と同様の構成を備えているが、GaSb層15、第1および第2のInAs層16、17の一部にTeが拡散された拡散領域19が形成されている点において異なる。本実施の形態の半導体ウエハ10aは、最表面17a上に形成されるn型電極とGaSb基板12下に形成されるp型電極とに挟まれる領域にTeが拡散された拡散領域19を有している。
【0051】
GaSb層15に形成された拡散領域19は、たとえば4×1016cm-3〜2×1021cm-3の濃度のTeを含むn型GaSb層である。第1のInAs層16に形成された拡散領域19は、たとえば2×1021cm-3〜3×1021cm-3の濃度のTeを含むn型InAs層である。第2のInAs層17に形成された拡散領域19は、たとえば1×1021cm-3〜3×1021cm-3の濃度のTeを含むn型InAs層である。
【0052】
続いて、図1〜図3、および図5を参照して、本実施の形態における半導体ウエハ10aの製造方法について説明する。
【0053】
まず、実施の形態1の半導体ウエハ10の製造方法にしたがって図1に示す半導体ウエハ10を製造する。
【0054】
次に、図1に示す半導体ウエハ10の第2のInAs層17の最表面17aからTeを拡散する。この工程では、たとえば、半導体ウエハ10とTeとを石英管に封入し、加熱して保持する。これにより、GaSb層15、第1のInAs層16および第2のInAs層17にTeを拡散することができる。なお、GaSb層15、第1のInAs層16および第2のInAs層17にTeを選択的に拡散してもよく、Teを全体に拡散してもよいが、選択的に(または局所的に)Teを拡散することが好ましい。GaSb層15に拡散されたTeの濃度は、たとえば4×1016cm-3〜2×1021cm-3であり、第1のInAs層16に拡散されたTeの濃度は、たとえば2×1021cm-3〜3×1021cm-3であり、第2のInAs層17としに拡散されたTeの濃度は、たとえば1×1021cm-3〜3×1021cm-3であるような、拡散領域19を形成することができる。
【0055】
以上の工程により、図5に示す半導体ウエハ10aを製造することができる。この半導体ウエハ10aの最表面17aにおいても、全構成元素に対するSbの組成が3%以下である。また最表面17aの表面荒れは低減されている。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態における半導体ウエハ10aは、第1および第2のInAs層16、17およびGaSb層15に形成されたTeが拡散された拡散領域19をさらに備えている。
【0057】
本実施の形態における半導体ウエハ10aによれば、第2のInAs層17の最表面17aにおいてSbの全構成元素に対する組成が3%以下であるので、最表面17aからTeを拡散させても、最表面17aにおいてSbとTeとの反応が抑制された半導体ウエハ10aを形成することができる。したがって、最表面17aの表面荒れを抑制できるので、最表面17aに特性を維持した電極を形成することが可能な半導体ウエハ10aを実現できる。
【0058】
(実施の形態4)
図6は、本発明の実施の形態4における半導体装置の一例であるフォトダイオード20を概略的に示す断面図である。図6を参照して、本実施の形態における半導体装置の一例であるフォトダイオード20について説明する。
【0059】
図6に示すように、本実施の形態におけるフォトダイオード20は、実施の形態1の半導体ウエハ10において最表面17aからTeが拡散された拡散領域19が形成された半導体ウエハと、n型電極21と、p型電極22と、保護膜23とを備えている。言い換えると、フォトダイオード20は、図5に示す実施の形態3における半導体ウエハ10aと、n型電極21と、p型電極22と、保護膜23とを備えている。
【0060】
半導体ウエハ10には、バッファ層13の一部が露出するように、受光層14、GaSb層15、第1のInAs層16および第2のInAs層17を貫通する開口部が形成されている。拡散領域19は、実施の形態3と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0061】
n型電極21は、半導体ウエハ10の第2のInAs層17の最表面17a上に接するように形成されている。n型電極21は、たとえばTi(チタン)/Pt(白金)/Au(金)である。
【0062】
p型電極22は、露出したバッファ層13上に形成されている。p型電極22は、たとえばTi/Pt/Auである。
【0063】
保護膜23は、半導体ウエハ11のn型電極21およびp型電極22以外の表面であって、開口部を含むGaSb基板12と反対側の表面に形成されている。保護膜23は、たとえばARコート(反射防止膜)などが用いられる。
【0064】
本実施の形態におけるフォトダイオード20は、たとえば波長が3μm〜10μmの中赤外用のフォトダイオードに好適に用いられる。
【0065】
続いて、本実施の形態におけるフォトダイオード20の製造方法について説明する。まず、実施の形態1の半導体ウエハ10の製造方法にしたがって、半導体ウエハ10を製造する。
【0066】
次に、半導体ウエハ10の第2のInAs層17の最表面17aからTeを拡散する。この工程は実施の形態3と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0067】
次に、半導体ウエハ10において、バッファ層13の一部が露出するように、受光層14、GaSb層15、第1のInAs層16および第2のInAs層17を貫通する開口部を形成する。開口部の形成方法は特に限定されず、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)などのドライエッチングにより形成することができる。
【0068】
次に、開口部を形成した半導体ウエハ10の表面において、n型電極21およびp型電極22が形成される領域以外の領域に、保護膜23を形成する。保護膜23の形成方法は特に限定されないが、たとえば以下のように行なう。具体的には、半導体ウエハ11の表面にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)法により保護膜を形成する。その後、保護膜上に、n型電極21およびp型電極22を形成する領域が開口したレジストをリソグラフィにより形成する。次いで、フッ酸系溶液を用いて、レジストの開口部下の保護膜を除去する。
【0069】
次に、保護膜23の開口部内であって、かつ半導体ウエハ10の第2のInAs層17の最表面17aであって、かつ拡散領域19に接するように、n型電極21を形成する。また、保護膜23の開口部内であって、かつ露出したバッファ層13に接するようにp型電極22を形成する。n型電極21およびp型電極22は、たとえば蒸着法により形成することができる。
【0070】
以上の工程を実施することにより、図6に示すフォトダイオード20を製造することができる。なお、上記工程の順序は特に限定されない。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態における半導体装置の一例であるフォトダイオード20は、実施の形態1の半導体ウエハ10の最表面17aに位置する第2のInAs層17と、受光層14上に形成されたGaSb層15との間にTeが拡散された拡散領域19がさらに形成された半導体ウエハと、この半導体ウエハの第2のInAs層17の最表面17aに形成されたn型電極21と、この半導体ウエハに形成されたp型電極22とを備えている。
【0072】
本実施の形態におけるフォトダイオード20によれば、実施の形態1または3の半導体ウエハ10、10aを備えている。半導体ウエハ10、10aの最表面17aは表面荒れが低減されているので、最表面17aに高い特性のn型電極21を形成することが可能である。また、n型電極21の抵抗を低減することができる。さらに、Teが最表面に蓄積されないので、Teを拡散した拡散領域19を深く形成することもできる。したがって、感度や暗電流などの特性を向上したフォトダイオード20を実現することもできる。
【0073】
(実施の形態5)
図7は、本発明の実施の形態5における半導体装置の一例である発光装置25を概略的に示す断面図である。図7を参照して、本実施の形態における半導体装置の一例である発光装置25について説明する。なお、本実施の形態では、発光装置25として、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)を説明する。
【0074】
図7に示すように、本実施の形態における発光装置25は、実施の形態2の半導体ウエハ11において、GaSb層15、第1のInAs層16および第2のInAs層17の一部に、Teが拡散された拡散領域19が形成された半導体ウエハと、n型電極21と、p型電極22と、バリア層26とを備えている。拡散領域19は、実施の形態3と同様である。
【0075】
n型電極21は、第2のInAs層17の最表面17a上に接するように形成されている。p型電極22は、GaSb基板12下に形成されている。n型電極21およびp型電極22の材料は、実施の形態3と同様である。
【0076】
バリア層26は、第2のInAs層17の最表面17aにおいてn型電極21が形成された領域以外の領域上に形成されている。バリア層26は、拡散バリアのために設けられており、たとえばSiO2で構成される。
【0077】
続いて、図5および図7を参照して、本実施の形態における発光装置25の製造方法について説明する。
【0078】
まず、実施の形態2にしたがって、図4に示す半導体ウエハ11を製造する。次に、第2のInAs層の最表面17aにおいて、n型電極21が形成される領域以外の領域に、バリア層26を形成する。バリア層26の形成方法は特に限定されないが、たとえば以下のように行なう。具体的には、半導体ウエハ11の表面にプラズマCVD法によりバリア層を形成する。その後、バリア層上に、n型電極21を形成する領域が開口したレジストをリソグラフィにより形成する。次いで、フッ酸系溶液を用いて、レジストの開口部下のバリア層を除去する。これにより、拡散窓を有するバリア層を形成できる。
【0079】
次に、バリア層の拡散窓から、GaAs層15、第1のInAs層16、および第2のInAs層17に、Teを拡散する。この工程は、実施の形態3と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0080】
次に、バリア層26の拡散窓内であって、かつ半導体ウエハの第2のInAs層17の最表面17aに接するように、n型電極21を形成する。また、GaSb基板12においてバッファ層13が形成された面と反対側の面にp型電極22を形成する。n型電極21およびp型電極22は、たとえば蒸着法により形成することができる。
【0081】
このように、本発明の半導体装置は、実施の形態4のフォトダイオード20に限定されず、実施の形態5の発光装置25であってもよい。本実施の形態における発光装置25によれば、Teを拡散した拡散領域19の最表面の表面荒れが抑制されているので、発光効率や順方向電圧Vfなどの特性を向上することができる。
【0082】
(実施の形態6)
図8は、本発明の実施の形態6におけるセンサアレイ30を概略的に示す上面図であり、図9は、本発明の実施の形態6におけるセンサアレイ30を概略的に示し、図8の線分IX−IXに沿った断面図である。図8および図9を参照して、本実施の形態のセンサアレイ30を説明する。
【0083】
本実施の形態のセンサアレイ30は、実施の形態4のフォトダイオード20を複数含むセンサチップ31と、読み出し回路32と、複数のバンプ33とを備えている。バンプ33のそれぞれは、センサチップ31のフォトダイオード20のn型電極21のそれぞれと、読み出し回路32の電極34のそれぞれとを電気的に接続している。
【0084】
続いて、本実施の形態におけるセンサアレイ30の製造方法について説明する。まず、実施の形態4にしたがって、複数のフォトダイオード20を含むセンサチップ31を準備する。また読み出し回路32を準備する。次に、複数のバンプ33を用いて、複数のフォトダイオード20のn型電極21のそれぞれと、読み出し回路32の電極34のそれぞれとを電気的に接続する。
【0085】
以上説明したように、本実施の形態におけるセンサアレイ30およびその製造方法によれば、実施の形態4のフォトダイオード20を複数備えている。フォトダイオード20のそれぞれは、最表面17aの表面荒れが抑制されて、n型電極21が形成されているので、感度や暗電流などの特性を向上したセンサアレイ30を実現することができる。
【0086】
また、本実施の形態では、図1に示す半導体ウエハ10にTeを選択的に拡散することによりn型領域である拡散領域19を形成している。このため、Teをドーピングしながらエピタキシャル成長する場合に必要なメサを形成する工程を省略できる。このため、メサにおいてリーク電流が発生し、暗電流増加することに起因して感度が低下することを抑制できる。この点からも、本実施の形態のセンサアレイ30は感度や暗電流などの特性を向上することができる。
【実施例】
【0087】
本実施例では、InAs層のGaSb基板と反対側の最表面において残留するSbが低減されることの効果について調べた。
【0088】
(実施例1)
実施例1は、基本的には実施の形態1の半導体ウエハの製造方法にしたがって半導体ウエハを製造した。
【0089】
具体的には、まず、MBE装置にて、アンドープGaSb基板12の(100)面上に、Sb供給部およびBe供給部からSbおよびBeの原料を供給しながら、バッファ層13を形成した。バッファ層13は、1×1018cm-3のドーピング濃度を有し、1μmの厚みを有するGaSbであった。
【0090】
引き続きMBE装置にて、バッファ層13上に、受光層14を形成した。受光層14は、3.6nmの厚みを有するInAs層14aと、2.1nmの厚みを有するGaSb層14bとを有する積層単位を200備えている多重量子井戸構造とした。
【0091】
引き続きMBE装置にてSb供給部からSbの原料を供給しながら、受光層14上に、GaSb層15として、0.3μmの厚みを有するアンドープGaSb層を形成した。
【0092】
引き続きMBE装置にて、第1のInAs層16として、GaSb層15上に、10nmの厚みを有するアンドープInAs層を形成した。これにより、図3に示すエピタキシャルウエハ10Aを得た。
【0093】
次に、エピタキシャルウエハ10Aの成長時の温度よりも30℃高い温度で、エピタキシャルウエハ10Aを30分間保持した。なお、成長時の温度は、GaSb基板12を加熱する温度で制御し、この工程ではGaSb基板12の加熱温度を30℃上昇した。
【0094】
次に、MBE装置からエピタキシャルウエハ10Aを取り出して、Sb供給部を含むMBE装置を立ち下げた。
【0095】
翌日、Sb供給部が立ち下げられた状態で、再度MBE装置内にエピタキシャルウエハ10Aを投入し、第1のInAs層16上に第2のInAs層17を形成した。第2のInAs層17は、10nmの厚みを有するアンドープInAsであった。
【0096】
以上の工程により、図1に示す実施例1の半導体ウエハ10を製造した。実施例1の半導体ウエハ10の第2のInAs層の最表面について、AESを用いてSbの濃度を測定した結果、全構成元素に対するSbの組成が1%であった。
【0097】
次に、実施例1の半導体ウエハ10の第2のInAs層17からTeを拡散した。Teを拡散する方法としては、半導体ウエハ10と約10mgの重さを有するTeとを石英管に封入し、480℃に加熱して、120分間保持した。
【0098】
これにより、実施例1の半導体ウエハにTeを導入した。このTeが導入された実施例1の半導体ウエハの表面および断面を電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果を図10および図11にそれぞれ示す。図10は、Teが拡散された実施例1の半導体ウエハの最表面をSEMにより測定した図である。図11は、Teが拡散された実施例1の半導体ウエハの断面をSEMにより測定した図である。図10および図11に示すように、Teが導入された実施例1の半導体ウエハの表面には、Teの蓄積や荒れは見られなかった。
【0099】
またTeを導入した実施例1の半導体ウエハについてSIMSを用いてTeの濃度を分析した。その結果を図12に示す。図12は、Teが拡散された実施例1の半導体ウエハのTeの濃度をSIMSにより測定した図である。図12において、縦軸はTeの濃度を示し(単位:cm-3)、横軸は第2のInAs層17の最表面17aからGaSb基板12に向けた深さを示し(単位:nm)、深さが0とは第2のInAs層17の最表面17aを意味する。図12に示すように、Teが拡散された実施例1の半導体ウエハは、GaSb層15の最表面から深さ0.3μmまで、Teが4×1016cm-3のレベルで拡散していることがわかった。
【0100】
(比較例1)
図13は、比較例1の半導体ウエハ41を概略的に示す断面図である。図13に示すように、比較例1の半導体ウエハ41の製造方法は、基本的には実施例1の半導体ウエハ10の製造方法と同様であるが、GaSb層15を形成した時点で成長を終了し、それ以降の工程を実施していない点において異なっていた。このため、図13に示すように、比較例1の半導体ウエハ41は、GaSb基板12と、GaSb基板12上に形成されたバッファ層13と、バッファ層13上に形成された受光層14と、受光層14上に形成されたGaSb層15とを備えていた。
【0101】
この比較例1の半導体ウエハ41のGaSb基板と反対側の最表面(GaSb層15の最表面)から、実施例1と同様に、Teを拡散させ、Teを拡散させた比較例1の半導体ウエハの最表面および断面を電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果を図14および図15にそれぞれ示す。図14は、Teが拡散された比較例1の半導体ウエハの最表面をSEMにより測定した図である。図15は、Teが拡散された比較例1の半導体ウエハの断面をSEMにより測定した図である。図14および図15に示すように、比較例1の半導体ウエハ41では、GaSb層の最表面にはTeが蓄積し、GaSb層の最表面が荒れていることがわかった。
【0102】
(比較例2)
図16は、比較例2の半導体ウエハ61を概略的に示す断面図である。図16に示すように、比較例2の半導体ウエハ61の製造方法は、基本的には実施例1の半導体ウエハ11の製造方法と同様であるが、第1のInAs層16を形成した時点で成長を終了し、それ以降の工程を実施していない点において異なっていた。このため、図16に示すように、比較例2の半導体ウエハ61は、GaSb基板12と、GaSb基板12上に形成されたバッファ層13と、バッファ層13上に形成された受光層14と、受光層14上に形成されたGaSb層15と、GaSb層15上に形成された第1のInSb層16とを備えていた。比較例2の半導体ウエハの第1のInAs層16の最表面について、AESを用いてSbの濃度を測定した結果、Sbは全構成元素に対する組成が6%と検出された。
【0103】
この比較例2の半導体ウエハ61のGaSb基板12と反対側の最表面(第1のInGaSb層16の最表面)から、実施例1と同様に、Teを拡散させ、Teを拡散した比較例2の半導体ウエハの最表面および断面を電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果を図17および図18にそれぞれ示す。図17は、Teが拡散された比較例2の半導体ウエハの最表面をSEMにより測定した図である。図18は、Teが拡散された比較例2の半導体ウエハの断面をSEMにより測定した図である。図17および図18に示すように、Teを拡散した比較例2の半導体ウエハ61では、表面にはTeが蓄積し、アンドープGaSb層の表面が荒れていることがわかった。
【0104】
比較例2の半導体ウエハは、実施例1と同様に最表面がInAs層であるにもかかわらず、Te拡散後に、最表面にTeが蓄積し、表面が荒れていた。これは、実施例1の第2のInAs層17の最表面はSbが検出されなかったのに対し、比較例2の第1のInAs層16の最表面はSbが検出されたことに起因する。
【0105】
比較例2においてSbが最表面に存在した原因は、実施例1および比較例2において受光層などのGaSbを含む層を成長する場合にSbを供給しており、最表面にInAs層を形成する際にも、MBE装置内に多くのSbが浮遊していることから、第1のInAs層16の最表面にSbが付着することが考えられる。つまり、比較例2では、第1のInAs層16を形成した時点で成長を終了したので、最表面にSbが残留するため、最表面にTeが蓄積し、荒れが生じたと考えられる。一方、実施例1では、第1のInAs層16を成長後に、エピタキシャルウエハ10Aの成長時の温度よりも高い温度でエピタキシャルウエハ10Aを保持するので、第1のInAs層16の最表面に残留したSbを蒸発させ、また一旦Sbセルを立ち下げて待機し、翌日成長室内で浮遊するSbが減少した状態で第2のInAs層17を再成長したので、第2のInAs層17の最表面17aでの過剰なSbの残留を防止することができたと考えられる。
【0106】
以上より、本実施例によれば、InAs層のGaSb基板と反対側の最表面においてSbが検出限界以下であることにより、表面にTeが蓄積することを抑制でき、荒れを抑制できるので、この表面に電極を形成することができることがわかった。また、Teを深く拡散させることができるので、フォトダイオードの感度や暗電流などの特性を向上できることもわかった。
【0107】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0108】
10,10a,11 半導体ウエハ、10A エピタキシャルウエハ、12 GaSb基板、13 バッファ層、14 受光層、14a InAs層、14b GaSb層、14c 界面、15 GaSb層、16 第1のInAs層、17 第2のInAs層、17a 最表面、18 発光層、19 拡散領域、20 フォトダイオード、21 n型電極、22 p型電極、25 発光装置、26 バリア層、30 センサアレイ、31 センサチップ、32 回路、33 バンプ、34 電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaSb基板と、
前記GaSb基板上に形成されたGaSbを含む層と、
前記GaSbを含む層上に形成されたInAs層とを備え、
前記InAs層の前記GaSb基板と反対側の最表面において全構成元素に対するSbの組成が3%以下である、半導体ウエハ。
【請求項2】
前記GaSbを含む層は、GaSb層とInAs層とを有する積層単位を複数含む多重量子井戸構造である、請求項1に記載の半導体ウエハ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体ウエハと、
前記半導体ウエハの前記最表面上に形成された電極とを備えた、半導体装置。
【請求項4】
前記半導体装置は、フォトダイオードである、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載のフォトダイオードを複数備えた、センサアレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−94760(P2012−94760A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242216(P2010−242216)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】