説明

半導体セラミック、及び積層型半導体セラミックコンデンサ、並びに半導体セラミックの製造方法

【課題】結晶粒子の平均粒径を1μm以下に微粒化しても5000以上の大きな見掛け比誘電率を有するSrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミック、及びこれを用いることにより薄層化の促進と誘電特性の向上の両立が可能な半導体セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】SrサイトとTiサイトとの配合モル比mを1.000≦m<1.020とし、Sr元素よりも価数の大きなLa等のドナー元素をTi元素100モルに対し0.8〜2.0モルの範囲でSrサイトに固溶させ、Mn等の遷移金属元素をTi元素100モルに対し0.3〜1.0モルの範囲で含有させて結晶粒界に偏析させ、結晶粒子の平均粒径を1.0μm以下とした半導体セラミックを得る。半導体セラミック層1a〜1gが積層されてなる部品素体1をこの半導体セラミックで構成し、部品素体1に内部電極2を埋設させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体セラミック、及び積層型半導体セラミックコンデンサに関し、より詳しくはSrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミック、及びこれを用いた積層型半導体セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス技術の発展に伴い、電子部品の小型化が急速に進んでいる。そして、積層セラミックコンデンサの分野でも、小型化・大容量化の要求が高まっており、このため比誘電率の高いセラミック材料の開発と誘電体セラミック層の薄層化・多層化が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一般式:{Ba1-x-y Cax Rey O}m TiO2 +αMgO+βMnO(Reは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、及びYbの群から選ばれる希土類元素、α、β、m、x、およびyは、それぞれ、0.001≦α≦0.05、0.001≦β≦0.025、1.000<m≦1.035、0.02≦x≦0.15、及び0.001≦y≦0.06)で表される誘電体セラミックが提案されている。
【0004】
特許文献1には、上記誘電体セラミックを使用した積層セラミックコンデンサが開示されており、セラミック層1層当たりの厚みが2μm、有効誘電体セラミック層の総数が5で比誘電率εrが1200〜3000、誘電損失が2.5%以下の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0005】
一方、特許文献1の積層セラミックコンデンサは、セラミック自体の誘電体としての作用を利用したものであるが、これとは原理的に異なる半導体セラミックコンデンサの研究・開発も盛んに行われている。
【0006】
このうちSrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックは、セラミック成形体を強還元雰囲気下で焼成(一次焼成)してセラミック成形体を半導体化した後、再度酸化雰囲気で焼成(二次焼成)することにより、結晶粒界を誘電体化したものであり、SrTiO自体の比誘電率εrは約200と小さいが、結晶粒界で静電容量を取得しているので、結晶粒径を大きくして結晶粒界の個数を少なくすることにより見掛け比誘電率εrAPPを大きくすることができる。
【0007】
例えば、特許文献2では、結晶粒子の平均粒径が10μm以下で最大粒径が20μm以下のSrTiO系粒界絶縁型半導体磁器素体が提案されており、単層構造の半導体セラミックコンデンサであるが、結晶粒子の平均粒径が8μmの場合で見掛け比誘電率εrAPPが9000の半導体磁器素体を得ることができる。
【0008】
【特許文献1】特開平11−302072号公報
【特許文献2】特許第2689439号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の誘電体セラミックを使用してセラミック層の薄層化・多層化を推し進めると、比誘電率が低下したり、静電容量の温度特性が悪化し、また短絡不良が急増するという問題点があった。
【0010】
このため、例えば100μF以上の大容量を有する薄層の積層セラミックコンデンサを得ようとした場合、誘電体セラミック層1層当たりの厚みを1μm程度とし、かつ、700層〜1000層程度の積層数が必要となることから、実用化が困難な状況にある。
【0011】
一方、特許文献2に記載されているようなSrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックは、良好な周波数特性や温度特性を有し、誘電損失tanδも小さく、また見掛け比誘電率εrAPPの電界依存性も小さく、しかもバリスタ特性を有しており、高電圧が印加されても素子が破壊してしまうのを回避することができることから、コンデンサ分野への応用が期待されている。
【0012】
しかしながら、この種の半導体セラミックは、上述したように結晶粒子粒径を大きくすることによって大きな見掛け比誘電率εrAPPを得ているため、結晶粒子の粒径を小さくすると見かけ比誘電率εrAPPも小さくなって誘電特性の低下を招き、したがって薄層化の促進と誘電特性の向上を両立させるのは困難であるという問題点があった。
【0013】
すなわち、コンデンサの静電容量Cは周知のように一般に数式(1)で表される。
【0014】
C=ε・S/d…(1)
ここで、εは誘電率、Sは電極面積、dは電極間距離である。
【0015】
この数式(1)から明らかなように、静電容量Cを大きくするためには電極間距離dを小さくする必要があり、そのためには半導体セラミック層を薄くしなければならず、したがって半導体セラミックを構成する結晶粒子の平均粒径を小さくする必要がある。
【0016】
一方、上述したように結晶粒子の平均粒径を小さくすると結晶粒界の個数が増加することから、見掛け比誘電率εrAPPが小さくなる。
【0017】
このように従来のSrTiO系粒界絶縁型半導体セラミックコンデンサでは半導体セラミック層を薄層化するために結晶粒径を小さくすると見掛け比誘電率εrAPPも小さくなって誘電特性の低下を招くことから、薄層化の促進と誘電特性の向上を両立させるのは困難であるという問題点があった。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、結晶粒子の平均粒径を1μm以下に微粒化しても5000以上の大きな見掛け比誘電率εrAPPを有するSrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミック、及びこれを用いることにより薄層化の促進と誘電特性の向上の両立が可能な積層型半導体セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を行ったところ、Srサイトの含有モル量を化学量論組成よりも所定量過剰にすると共に、Sr元素よりも価数の大きなドナー元素をTi元素100モルに対し0.8〜2.0モルの範囲でSrサイトに固溶させ、かつ所定の遷移金属元素を前記Ti100モルに対し0.3〜1.0モルの範囲で含有させて結晶粒界に偏析させることにより、結晶粒子の平均粒径を1μm以下に微粒化しても、5000以上の大きな見掛け比誘電率εrAPPを有するSrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミック半導体セラミックを得ることができるという知見を得た。
【0020】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る半導体セラミックは、SrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックであって、SrサイトとTiサイトとの配合モル比mが1.000≦m<1.020であり、Sr元素よりも価数の大きなドナー元素が、Ti元素100モルに対し0.8〜2.0モルの範囲でSrサイトに固溶されると共に、所定の遷移金属元素が、前記Ti元素100モルに対し0.3〜1.0モルの範囲で含有されて結晶粒界に偏析され、かつ、結晶粒子の平均粒径が1.0μm以下であることを特徴としている。
【0021】
また、本発明の半導体セラミックは、前記ドナー元素が、La及びSmのうちの少なくとも1種の元素を含むことを特徴としている。
【0022】
さらに、本発明の半導体セラミックは、前記所定の遷移金属元素には、Mn、Co、Ni、及びCrのうちの少なくとも1種の元素が含まれることを特徴としている。
【0023】
また、本発明者らが更なる鋭意研究を行ったところ、低融点酸化物を、前記Ti元素100モルに対し0.1モル以下の範囲で含有させることにより、上記遷移金属元素の結晶粒界への偏析を促進できることが分かった。
【0024】
すなわち、本発明の半導体セラミックは、低融点酸化物が、前記Ti元素100モルに対し0.1モル以下の範囲で含有されていることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の半導体セラミックは、前記低融点酸化物が、SiOであることを特徴としている。
【0026】
また、本発明に係る積層型半導体セラミックコンデンサは、上記半導体セラミックで部品素体が形成されると共に、内部電極が前記部品素体に設けられ、かつ前記部品素体の表面に前記内部電極と電気的に接続可能とされた外部電極が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本発明のSrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックによれば、SrサイトとTiサイトとの配合モル比mが1.000≦m<1.020であり、Sr元素よりも価数の大きなLaやSm等のドナー元素が、Ti元素100モルに対し0.8〜2.0モルの範囲でSrサイトに固溶されると共に、Mn、Co、Ni、Cr等の遷移金属元素が、前記Ti元素100モルに対し0.3〜1.0モルの範囲で含有されて結晶粒界に偏析され、かつ、結晶粒子の平均粒径が1.0μm以下であるので、結晶粒子の平均粒径が1.0μm以下であっても5000以上の大きな見掛け比誘電率εrAPPを有する半導体セラミックを得ることができ、薄層であっても従来の誘電体セラミックに比べ大きな静電容量を有する半導体セラミックを得ることが可能となる。
【0028】
また、SiO等の低融点酸化物が、前記Ti元素100モルに対し0.1モル以下の範囲で含有されているので、Mn、Co、Ni、Crの結晶粒界への偏析が促進され、所望の誘電特性を有する半導体セラミックを容易に得ることができる。
【0029】
また、本発明の積層型半導体セラミックコンデンサによれば、上記半導体セラミックで部品素体が形成されると共に、内部電極が前記部品素体に設けられ、かつ前記部品素体の表面に前記内部電極と電気的に接続可能とされた外部電極が形成されているので、部品素体を構成する半導体セラミック層を1μm程度に薄層化しても大きな見掛け比誘電率εrAPPを有する積層型の半導体セラミックコンデンサを得ることができ、したがって従来の積層セラミックコンデンサに比べ、薄層・大容量の積層型半導体セラミックコンデンサを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0031】
本発明の一実施の形態としての半導体セラミックは、SrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックであって、SrサイトとTiサイトとの配合モル比mが1.000≦m<1.020であり、Sr元素よりも価数の大きなドナー元素が、Ti元素100モルに対し0.8〜2.0モルの範囲でSrサイトに固溶されると共に、所定の遷移金属元素が、前記Ti元素100モルに対し0.3〜1.0モルの範囲で含有されて結晶粒界に偏析され、かつ、結晶粒子の平均粒径が1.0μm以下とされている。
【0032】
すなわち、前記ドナー元素をTi元素100モルに対し0.8〜2.0モルの範囲でSrサイトに固溶させることによりセラミックを半導体化させることを可能とし、SrサイトとTiサイトとの配合モル比mを1.000≦m<1.020としてSrサイトの含有モル量を化学量論組成又は化学量論組成よりも過剰とし、さらに所定の遷移金属元素を、前記Ti元素100モルに対し0.3〜1.0モルの範囲で含有させて結晶粒界に偏析させることにより、良好な誘電損失tanδを維持しつつ見掛け比誘電率εrAPPを大きくすることができる。
【0033】
具体的には、結晶粒子の平均粒径が1.0μm以下であっても、5000以上の見掛け比誘電率εrAPPを有する半導体セラミックを得ることができ、したがって薄層化・多層化に好適し、小型・大容量の積層型半導体セラミックコンデンサを得ることが可能となる。すなわち、特許文献1のような積層セラミックコンデンサとの比較において、本半導体セラミックを使用した積層型半導体セラミックコンデンサは、積層数が約半数の場合でも同等の静電容量を得ることができ、また、積層数が同等の場合は従来の積層セラミックコンデンサの約2倍の大容量を有するコンデンサを得ることができる。
【0034】
以下、配合モル比m、及びドナー元素や遷移金属元素の含有モル量を上記範囲に限定した理由を述べる。
【0035】
(1)配合モル比m
SrサイトとTiサイトの配合モル比mは、半導体セラミックの誘電特性や結晶粒子の平均粒径に影響を及ぼす。
【0036】
すなわち、配合モル比mが1.000未満となってTiサイトの含有モル量が化学量論組成よりも過剰になると、結晶粒子の粒径が大きくなって結晶粒子の平均粒径が1μm以下の半導体セラミックを得るのが困難となる。一方、配合モル比mが1.020以上になると、化学量論組成からの偏位が大きくなって焼結が困難となる。
【0037】
そこで、本実施の形態では、配合モル比mを1.000≦m<1.020となるように調製している。
【0038】
(2)ドナー元素の含有モル量
Sr元素よりも価数の大きなドナー元素をSrサイトに固溶させ、かつ還元雰囲気で焼成処理を行うことによりセラミックを半導体化することが可能となるが、その含有モル量は見掛け比誘電率εrAPPに影響を与える。すなわち、前記ドナー元素がTi元素100モルに対し0.8モル未満の場合は所望の大きな見掛け比誘電率εrAPPを得ることができない。一方、ドナー元素がTi100モルに対し2.0モルを超えるとSrサイトへの固溶限界を超えてしまってドナー元素が結晶粒界に析出してしまい、このため見掛け比誘電率εrAPPが極端に低下し、誘電特性の劣化を招く。
【0039】
そこで、本実施の形態ではドナー元素の含有モル量がTi100モルに対し0.8〜2.0モルとなるように調製している。
【0040】
そして、このようなドナー元素としては、Srサイトに固溶しかつSr元素よりも価数が大きければ特に限定されるものではないが、La、Sm等の希土類元素が好んで使用される。
【0041】
(3)遷移金属元素の含有モル量
半導体セラミック中に遷移金属元素を含有させて結晶粒界に偏析させると、二次焼成時に前記遷移金属元素が酸素を結晶粒界に吸着し、これにより誘電特性を向上させることができる。
【0042】
しかしながら、遷移金属元素の含有モル量がTi元素100モルに対し0.3モル未満の場合は、遷移金属元素の添加による所期の作用効果を発揮することができず、静電容量を十分に向上させることができない。一方、遷移金属元素の含有モル量がTi元素100モルに対し1.0モルを超えてしまうと、該遷移金属元素がTiサイトに固溶してしまって誘電特性が悪化し、しかも平均粒径も1μm以上となって結晶粒子の祖大化を招く。
【0043】
そこで、本実施の形態では、遷移金属元素の含有モル量をTi元素100モルに対し0.3〜1.0モルとなるように調製している。
【0044】
このような遷移金属元素としては、特に限定されるものではないが、Mn、Co、Ni、Cr等を使用することができ、特にMnが好んで使用される。
【0045】
また、上記半導体セラミック中に、Ti元素100モルに対し、0.1モル以下の範囲で低融点酸化物を添加するのも好ましく、このような低融点酸化物を添加することにより、焼結性を向上させることができると共に上記遷移金属元素の結晶粒界への偏析を促進することができる。
【0046】
尚、低融点酸化物の含有モル量を上記範囲としたのは、その含有モル量がTi元素100モルに対し、0.1モルを超えると見掛け比誘電率εrAPPの低下を招き、所望の誘電特性を得ることができなくなるからである。
【0047】
また、低融点酸化物としては、特に限定されるものではなく、SiO、Bやアルカリ金属元素(K、Li、Na等)を含有したガラスセラミック、銅−タングステン酸化物等を使用することができるが、SiOが好んで使用される。
【0048】
尚、半導体セラミックの結晶粒子の平均粒径は、上述した組成範囲と相俟って製造条件を制御することにより、容易に1μm以下に制御することができる。
【0049】
図1は本発明に係る半導体セラミックを使用して製造された積層型半導体セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示した断面図である。
【0050】
該積層型半導体セラミックコンデンサは、本発明の半導体セラミックからなる部品素体1に内部電極2(2a〜2f)が埋設されると共に、該部品素体1の両端部には外部電極3a、3bが形成されている。
【0051】
すなわち、部品素体1は、複数の半導体セラミック層1a〜1gの積層焼結体からなり、半導体セラミック層1a〜1gと内部電極2a〜2fとが交互に積層された構造とされ、内部電極2a、2c、2eは外部電極3aと電気的に接続され、内部電極2b、2d、2fは外部電極3bと電気的に接続されている。そして、内部電極2a、2c、2eと内部電極2b、2d、2fとの対向面間で静電容量を形成している。
【0052】
上記積層型半導体セラミックコンデンサは、以下のような方法で製造される。
【0053】
まず、セラミック素原料としてSrCO等のSr化合物、LaやSm等のドナー元素を含有したドナー化合物、及び好ましくは比表面積が10m/g以上(平均粒径:約0.1μm以下)とされたTiO等のTi化合物をそれぞれ用意し、ドナー元素の含有モル量がTi元素100モルに対し、0.8〜2.0モルとなるようにドナー化合物を秤量し、さらに配合モル比mが1.000≦m<1.020となるようにSr化合物及びTi化合物を秤量する。
【0054】
次いで、この秤量物に所定量の分散剤を添加し、PSZ(Partially Stabilized Zirconia;「部分安定化ジルコニア」)ボール等の粉砕媒体及び水と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で十分に湿式混合してスラリーを作製する。
【0055】
次に、このスラリーを蒸発乾燥させた後、大気雰囲気下、所定温度(例えば、1300℃〜1450℃)で2時間程度、仮焼処理を施し、ドナー元素が固溶した半導体の仮焼粉末を作製する。
【0056】
次に、SiO等の低融点酸化物の含有モル量がTi元素100モルに対し0〜0.1モルとなるように前記低融点酸化物を添加し、再度前記仮焼粉末及び水並びに必要に応じて分散剤と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で十分に湿式混合した後に蒸発乾燥を行い、その後大気雰囲気下、所定温度(例えば、600℃)で5時間程度、熱処理を行い、熱処理粉末を作製する。
【0057】
次に、Mn等の遷移金属元素の含有モル量が、Ti元素100モルに対し、0.3〜1.0モルとなるように遷移金属化合物を添加し、さらにトルエン、アルコール燃料等の有機溶媒や分散剤を適量添加する。そしてこの後、再度前記粉砕媒体及び水と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で十分に湿式で混合し、その後、有機バインダや可塑剤を適量添加して十分に長時間湿式で混合し、これによりセラミックスラリーを得る。
【0058】
次に、ドクターブレード法等の成形加工法を使用してセラミックスラリーに成形加工を施し、焼成後の厚みが所定厚み(例えば、1〜2μm程度)となるようにセラミックグリーンシートを作製する。
【0059】
次いで、内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成する。
【0060】
尚、内部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料としては特に限定されるものではないが、半導体セラミック層とのオーミック接触の確実性や低コスト化の観点からは、NiやCu等の卑金属材料を使用するのが好ましい。
【0061】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定方向に複数枚積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製する。
【0062】
そしてこの後、大気雰囲気下、温度300〜500℃で脱バインダ処理を行ない、次いで、HガスとNガスが所定の流量比(例えば、H:N=1:100)に調製された強還元雰囲気下、1150〜1300℃の温度で2時間、一次焼成を行ってセラミック積層体を半導体化する。すなわち、仮焼温度(1300〜1450℃)以下の低温で一次焼成を行い、セラミック積層体を半導体化する。
【0063】
そしてその後、大気雰囲気下、NiやCu等の内部電極材料が酸化しないように600〜900℃の低温度で1時間、二次焼成を行い、半導体セラミックを再酸化して粒界絶縁層を形成し、これにより内部電極2が埋設された部品素体1が作製される。
【0064】
次に、部品素体1の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布し、焼付処理を行い、外部電極3a、3bを形成し、これにより積層型半導体セラミックコンデンサが製造される。
【0065】
尚、外部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料についても特に限定されるものではないが、オーミック接触に好適なGa、In、Ni、Cu等の材料を使用するのが好ましい。さらに、これらのオーミック接触に好適な電極上にAg電極を形成することも可能である。
【0066】
また、外部電極3a、3bの形成方法として、セラミック積層体の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布した後、セラミック積層体と同時に焼成処理を施すようにしてもよい。
【0067】
このように本実施の形態では、上述した半導体セラミックを使用して積層型半導体セラミックコンデンサを製造しているので、各半導体セラミック層1a〜1gの層厚を1μm以下に薄層化することが可能となり、しかも薄層化しても1層当たりの見掛け比誘電率εrAPPを5000以上と大きくすることができ、小型・大容量の積層型半導体セラミックコンデンサを得ることができる。しかも、大容量のタンタルコンデンサに比べ、極性を気にする必要がなく取扱性が容易であり、高周波数域でも抵抗が小さいことから、これらタンタルコンデンサの代替品としても有用である。
【0068】
また、SrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックは、〔発明が解決しようとする課題〕の項でも述べたように、バリスタ特性を有することが知られているが、本実施の形態では結晶粒子の平均粒径が1μm以下と微粒であるため、バリスタ電圧を高くすることができ、したがって電圧−電流特性が直線性を示す通常の電界強度領域(例えば、1V/μm)でコンデンサとして使用することにより、コンデンサとしての汎用用途が広くなる。しかも、バリスタ特性を有することから、異常な高電圧が素子に印加されても、素子が破壊されるのを防止することができ、信頼性の優れたコンデンサを得ることができる。
【0069】
また、上述したようにバリスタ電圧を高くすることができることから、サージ電圧等に対しても破壊するのを回避することができるコンデンサを実現することができる。すなわち、ESD(electro-static discharge;静電気放電)用途に使用される低容量コンデンサでは耐サージ特性が求められるが、破壊電圧が高いため耐ESD保証コンデンサとしての用途としても使用することができる。
【0070】
また、図1では、多数の半導体セラミック層1a〜1gと内部電極2a〜2fとが交互に積層されてなる積層型半導体セラミックコンデンサを示したが、半導体セラミックの単板(例えば、厚みが200μm程度)に内部電極を蒸着等で形成し、この単板の数層(例えば、2、3層)を接着剤等で貼り合わせた構造を有する積層型半導体セラミックコンデンサも可能である。このような構造は、例えば、低容量の用途に用いられる積層型半導体セラミックコンデンサに有効である。
【0071】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態では、固溶体を固相法で作製しているが、固溶体の作製方法は特に限定されるものではなく、例えば水熱合成法、ゾル・ゲル法、加水分解法、共沈法等任意の方法を使用することができる。
【0072】
また、上記の実施の形態では、粒界絶縁層を形成するための二次焼成(再酸化処理)を大気雰囲気中で行っているが、必要に応じ大気雰囲気よりも若干酸素濃度を下げても所期の作用効果を得ることができる。
【0073】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0074】
本発明者らは、〔実施例1〕〜〔実施例3〕で単層構造の半導体セラミックコンデンサを作製し、誘電特性を評価した。
【実施例1】
【0075】
セラミック素原料としてSrCO、LaCl、及び比表面積が30m/g(平均粒径:約30nm)のTiOを用意し、半導体セラミックが表1の組成を有するようにこれらセラミック素原料を秤量し、さらにこの秤量物100重量部に対し2重量部のポリカルボン酸アンモニウム塩を分散剤として添加し、次いで、直径2mmのPSZボール及び水と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で16時間湿式混合してスラリーを作製した。
【0076】
次に、このスラリーを蒸発乾燥させた後、大気雰囲気下、1400℃の温度で2時間仮焼処理を施し、La元素が固溶した半導体の仮焼粉末を得た。
【0077】
次に、Ti元素100モルに対し、SiOの含有モル量が表1のようになるようにケイ酸エチル(Si(OC)を添加し、再び直径2mmのPSZボール及び水と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で16時間湿式混合した後に蒸発乾燥を行い、その後大気雰囲気下、600℃の温度で5時間、熱処理を行い、熱処理粉末を得た。
【0078】
次に、前記Ti100モルに対し、MnOの含有モル量が表1のようになるようにオクチル酸マンガン(Mn(C15)溶液を添加し、さらにトルエン、アルコール燃料等の有機溶媒、及び上記ポリカルボン酸アンモニウム塩を前記熱処理粉末に適量添加し、再び直径2mmのPSZボール及び水と共にボールミルに投入し、該ボールミル内にて湿式で4時間混合した。そしてこの後、バインダとしてのポリビニルビチラール(PVB)や可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP)を適量添加し、さらに湿式で16時間混合処理を行い、これによりセラミックスラリーを作製した。
【0079】
次に、ドクターブレード法を使用してこのセラミックスラリーに成形加工を施し、セラミックグリーンシートを作製し、さらに、このセラミックグリーンシートを所定の大きさに打ち抜き、厚みが1mm程度となるように重ね合わせ、熱圧着を行ってセラミック成形体を作製した。
【0080】
次いで、このセラミック成形体を縦5mm、横5mmに切断した後、大気雰囲気下、400℃の温度で10時間脱バインダ処理を行い、次いで、H:N=1:100の流量比に調製された強還元雰囲気下、1150〜1300℃の温度で2時間、一次焼成を行い、セラミック成形体の一部を半導体化した。そしてその後、大気雰囲気下、900℃の温度で1時間、二次焼成を行って再酸化処理を施し、粒界絶縁型の半導体セラミックを作製した。
【0081】
次いで、In−Gaを両端面に塗布し、これにより試料番号1〜試料番号15の試料を作製した。
【0082】
次に、各試料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、試料表面や破断面のSEM写真を画像解析し、結晶粒子の平均粒径(平均結晶粒径)を求めた。
【0083】
また、各試料について、インピーダンスアナライザ(ヒューレット・パッカード社製:HP4194A)を使用し、周波数1kHz、電圧1Vの条件で静電容量を測定し、測定した静電容量と試料寸法から見掛け比誘電率εrAPPを算出した。
【0084】
また、上記インピーダンスアナライザを使用し、誘電損失tanδを測定した。
【0085】
表1は試料番号1〜15の組成及び測定結果を示している。
【0086】
【表1】

この表1から明らかなように試料番号9は、配合モル比mが0.995であり、Tiサイトの含有モル量が化学量論組成よりも過剰であるため、平均結晶粒径は1.0μmであるが、見掛け比誘電率εrAPPが4700となって5000以下に低下し、所望の大きな見掛け比誘電率εrAPPを得ることができなかった。
【0087】
試料番号10は、配合モル比mが1.020であり、Srサイトの含有モル量が過度に多いため焼結が困難となり、平均結晶粒径や誘電特性を測定できなかった。
【0088】
試料番号11は、ドナー元素であるLaの含有モル量が主成分100モルに対し0.6モルであり0.8モル未満であるため、見掛け比誘電率εrAPPが4000となって5000未満に低下した。
【0089】
試料番号12は、ドナー元素であるLaの含有モル量が主成分100モルに対し2.3モルと過剰であるため、見掛け比誘電率εrAPPが1920となり、極端に低下した。
【0090】
試料番号13は、MnOの含有モル量が主成分100モルに対し0.25モルであり、0.3モル未満であるため、見掛け比誘電率εrAPPが2500となって5000未満に低下した。
【0091】
試料番号14は、MnOの含有モル量が主成分100モルに対し1.5モルであり、1.0モルを超えているため、見掛け比誘電率εrAPPが4500となって5000未満に低下し、しかも平均結晶粒径も1.8μmと大きく、所望の薄層化も困難であることが分かった。
【0092】
試料番号15は、SiOの含有モル量が主成分100モルに対し0.2モルであり、0.1モルを超えているため、見掛け比誘電率εrAPPが3500となって5000未満に低下することが分かった。
【0093】
これに対し試料番号1〜8は、配合モル比mが1.000≦m<1.020、ドナー元素であるLaの含有モル量がTi元素100モルに対し0.8〜2.0モルであり、かつ、MnOの含有モル量が、前記Ti元素100モルに対し0.3〜1.0モルであり、また、SiOを含有させた場合であってもその含有モル量は主成分100モルに対し0.1モル以下であるので、平均結晶粒径は0.3〜0.6μmとなって1.0μm以下であり、しかも見掛け比誘電率εrAPPは5120〜6760となって5000以上であり、したがって平均結晶粒径が1μm以下であっても5000以上の大きな見掛け比誘電率εrAPPを有する半導体セラミックを得ることができることが分かった。
【実施例2】
【0094】
セラミック素原料としてSr(OH)・8HO、LaCl、及び比表面積が300m/g(平均粒径:約5nm)のTiOを用意し、表2の組成を有するようにこれらセラミック素原料を秤量した。次いで、固溶体スラリーの容積が4.0×10-4(400cc)となるように純水を添加してフッ素樹脂製のビーカーに投入した。そしてこの後、このビーカーを攪拌型オートクレーブにセットし、温度200℃、8.5s-1(500rpm)(圧力:約1.5×10Pa)の条件で4時間水熱合成反応を生じさせ、La元素がナノメータレベルで均一に含有されたスラリーを作製した。
【0095】
次いで、得られたスラリーを蒸発乾燥させて粉末を作製した。
【0096】
次に、この粉末100重量部に対し2重量部のポリカルボン酸アンモニウム塩を分散剤として添加し、次いで、直径2mmのPSZボール及び水と共にボールミルに投入し、該ボールミル内で16時間湿式で粉砕し、この後蒸発乾燥させた後、大気雰囲気下、1400℃の温度で2時間仮焼処理を施し、La元素が固溶された半導体の仮焼粉末を得た。
【0097】
そしてその後は、〔実施例1〕と同様の方法・手順で、SiO添加→湿式混合→乾燥→熱処理→Mn添加→湿式混合→乾燥→熱処理→成形加工→脱バインダ処理→一次焼成→二次焼成→電極形成の各処理を順次行い、試料番号21〜23の試料を作製した。
【0098】
次に、各試料について、〔実施例1〕と同様の方法・手順で平均結晶粒径、見掛け比誘電率εrAPP、及び誘電損失tanδを求めた。
【0099】
表2は試料番号21〜23の組成及び測定結果を示している。
【0100】
【表2】

この実施例2では水熱合成法で固溶体スラリーを作製しているが、得られた半導体セラミックは平均結晶粒径が0.3〜0.6μmであり、したがって1.0μm以下であり、しかも見掛け比誘電率εrAPPは6560〜7010となって5000以上の見掛け比誘電率εrAPPを得ることができた。すなわち、本実施例2によれば、固溶体の製法種に関係なく、平均結晶粒径が1μm以下であっても5000以上の大きな見掛け比誘電率εrAPPを有する半導体セラミックを得ることができることが確認された。
【実施例3】
【0101】
添加物質をLaClに代えてSmClを使用した以外は、〔実施例1〕と同様の方法・手順で試料番号31〜33の試料を作製し、また〔実施例1〕と同様の方法・手順で平均結晶粒径、見掛け比誘電率εrAPP、及び誘電損失tanδを求めた。
【0102】
表3は試料番号31〜33の組成及び測定結果を示している。
【0103】
【表3】

この実施例3では固溶元素としてSmを使用しているが、得られた半導体セラミックは平均結晶粒径が0.6〜0.8μmであり、したがって1.0μm以下であり、しかも見掛け比誘電率εrAPPは5850〜6750となって5000以上の見掛け比誘電率εrAPPを得ることが分かった。すなわち、本実施例3によれば、Srサイトに固溶するドナー元素であれば、〔実施例1〕及び〔実施例2〕と同様、平均結晶粒径が1μm以下であっても5000以上の大きな見掛け比誘電率εrAPPを有する半導体セラミックを得ることができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明に係る半導体セラミックを使用して製造された積層型半導体セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0105】
1 部品素体
1a〜1g 半導体セラミック層
2 内部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SrTiO系粒界絶縁型の半導体セラミックであって、
SrサイトとTiサイトとの配合モル比mが1.000≦m<1.020であり、
Sr元素よりも価数の大きなドナー元素が、Ti元素100モルに対し0.8〜2.0モルの範囲でSrサイトに固溶されると共に、
所定の遷移金属元素が、前記Ti元素100モルに対し0.3〜1.0モルの範囲で含有されて結晶粒界に偏析され、
かつ、結晶粒子の平均粒径が1.0μm以下であることを特徴とする半導体セラミック。
【請求項2】
前記ドナー元素が、La及びSmのうちの少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体セラミック。
【請求項3】
前記所定の遷移金属元素には、Mn、Co、Ni、及びCrのうちの少なくとも1種の元素が含まれることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の半導体セラミック。
【請求項4】
低融点酸化物が、前記Ti元素100モルに対し0.1モル以下の範囲で含有されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の半導体セラミック。
【請求項5】
前記低融点酸化物が、SiOであることを特徴とする請求項4記載の半導体セラミック。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の半導体セラミックで部品素体が形成されると共に、内部電極が前記部品素体に設けられ、かつ前記部品素体の表面に前記内部電極と電気的に接続可能とされた外部電極が形成されていることを特徴とする積層型半導体セラミックコンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−180297(P2007−180297A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377538(P2005−377538)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】