説明

半導体パッケージ用カバーガラス及びその製造方法

【課題】 プラスチックパッケージに適合する熱膨張係数を有し、また画像検査で異物や塵等の有無を正確に検知することができ、またα線放出量が常に少ない半導体パッケージ用カバーガラスとその製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%で、SiO 〜75%、Al 1.1〜20%、B 0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0〜11%、アルカリ土類金属酸化物 0〜20%含有し、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が90〜180×10−7/℃、ヤング率が68GPa以上、ガラスからのα線放出量が、0.05c/cm・hr以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子やレーザーダイオードを収納する半導体パッケージの前面に取り付けられ、固体撮像素子やレーザーダイオードを保護すると共に透光窓として使用される半導体パッケージ用カバーガラスに関するものである。特にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子が収納されるプラスチックパッケージのカバーガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子として、現在多く用いられている光半導体には、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)がある。CCDは、高精細な画像を取り込むため、主にビデオカメラに搭載されていたが、近年、画像のデータ処理の利用が加速する中で、急激に利用範囲が拡大している。特にデジタルスチルカメラや携帯電話に搭載され、高精細な画像を電子情報データに変換するために多く用いられるようになってきている。またCMOSは、相補型金属酸化物半導体とも呼ばれ、CCDに比較して小型化が可能であり、消費電力も5分の1程度と少なく、さらにマイクロプロセッサの製造工程を利用できるため、設備投資に費用が嵩まず、安価に製造することができる等の利点があり、携帯電話や小型パソコンといった画像入力デバイスに搭載されることが多くなってきている。
【0003】
固体撮像素子は、アルミナ等のセラミック材料や金属材料、或いはプラスチック材料で形成された半導体パッケージ内に配置され、透光窓となる平板状のカバーガラスを各種の有機樹脂や低融点ガラスからなる接着材で接着して気密封止される。
【0004】
半導体パッケージ用カバーガラスは、α線の放出が少ないことが求められる。カバーガラスからのα線の放出量が多くなると、ソフトエラーを引き起こすためである。ガラスからのα線放出は、放射性同位元素であるU(ウラン)やTh(トリウム)が不純物としてガラスに含まれることが原因である。それゆえガラスの製造に際しては、高純度原料を採用したり、原料を溶解する溶融炉の内壁を放射性同位元素の少ない耐火物(例えばアルミナ電鋳耐火物、石英耐火物、白金)を用いたりする等の対策が採られている。
【0005】
ところで近年、デジタルカメラやカメラ搭載携帯電話の普及に伴って高画素で小型軽量の撮像システムの需要が高まり、部材の省スペース化の要求も強まっている。このためパッケージ材料の小型化、薄型化が進んでいる。さらに部材全体を軽量化するために、プラスチック製のパッケージが注目されている。
【0006】
このような事情から、プラスチックパッケージと熱膨張係数が適合し、且つα線放出量が少ない半導体パッケージ用カバーガラスが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−327978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CCDやCMOSは、画像を正確に電子情報に変換する必要性があるため、それに使用されるカバーガラスは、その表面に汚れや傷、異物の付着等に関して厳しい基準が設けられ、高品位の清浄度が要求されている。また表面の清浄度に加え、ガラス内部の結晶欠陥や白金等の異物の混入を防止することも要求されている。さらにこの種のガラスには、長期に亘って表面品位が低下しないよう耐候性に優れること、破損や変形が起こり難いこと、また軽量化できるように密度が低いことも要求される。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、プラスチックパッケージに適合する特性を有し、α線放出量が常に少ない半導体パッケージ用カバーガラスとその製造方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスは、質量%で、SiO 58〜75%、Al 1.1〜20%、B 0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0〜11%、アルカリ土類金属酸化物 0〜20%含有し、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が90〜180×10−7/℃、ヤング率が68GPa以上、ガラスからのα線放出量が、0.05c/cm・hr以下であることを特徴とする。ここで「平均熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて測定した30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を意味する。「ヤング率」は共振法により測定した値を意味する。「α線放出量」は、超低レベルα線測定装置(住友化学社製LACS−4000M)を用いて測定した値である。
【0011】
上記構成によれば、熱膨張係数およびヤング率がプラスチックパッケージに適合することから、プラスチックパッケージのカバーガラスとして使用しても、熱膨張差による反りや変形、あるいはガラスの割れや剥がれ等が生じない。
【0012】
また特定組成を有することから、化学耐久性に優れ、密度の低いガラスを得ることができる。
【0013】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスにおいては、ガラス中のU含有量が100ppb以下、Th含有量が200ppb以下であることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、α線放出量を的確に低減することができる。
【0015】
本発明においては、ZrO、As及びBaOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、α線放出量を的確に低減することができる。
【0017】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスにおいては、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の合量が21〜35質量%であることが好ましい。「アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物の合量」とは、NaO、KO、LiO、CaO、MgO、SrO及びBaOの含有量の合量を意味する。
【0018】
上記構成によれば、ガラスの熱膨張係数を高めることが容易になる。
【0019】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスにおいては、液相温度におけるガラス粘度が104.7dPa・s以上であることが好ましい。液相温度は次のようにして測定した温度を意味する。まず各ガラス試料を300〜500μmの粒径に破砕し、これを白金ボートに入れ、温度勾配炉中で8時間保持する、その後、試料を顕微鏡観察し、ガラス試料内部に失透(結晶異物)の見られた温度のうち、最高温度を液相温度とした。また液相温度におけるガラスの粘度を液相粘度とした。
【0020】
上記構成によれば、オーバーフローダウンドロー法でガラスを成形することが容易になる。その結果、未研磨でも表面品位に優れたガラスを容易に得ることができる。
【0021】
ところで従来のカバーガラスは、出荷前の画像検査で異物や塵等の有無を正確に検知できなかったり、誤作動を起こしたりするおそれがある。この原因は次のように考えられる。カバーガラスの透光面に精密研磨加工が施される結果、表面に無数の微細な凹凸(微小な研磨傷)が形成されることがある。微細な凹凸を有するカバーガラスを電子機器で画像検査すると、カバーガラス透光面の凹凸に起因して照射光が屈折し、明るく見える部分と暗く見える部分が混在することになり、異物や塵等の有無を正確に検知できないという事態を引き起こすことがある。
【0022】
このような事態を防止したい場合、半導体パッケージ用カバーガラスは未研磨の表面を有することが好ましい。「未研磨の表面を有する」とは、未研磨の状態でカバーガラスとして使用可能な表面品位を有していることを意味する。より具体的には、表面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを意味する。表面粗さ(Ra)は、表面平滑性の品位を表すものであり、JIS B0601に基づく試験方法を適用することによって測定することができる。
【0023】
上記構成によれば、未研磨の表面を有する、言い換えれば透光面に微細な凹凸や溝が存在しないことから、画像検査で異物や塵等の有無を正確に検知することができる。さらに入射光の散乱に起因する素子の誤動作を抑え、表示不良を防止することが可能である。しかも研磨しないため、酸化セリウムがガラス表面に残留することに起因するα線の放出を考慮する必要もない。
【0024】
また精密研磨加工工程を省略できるため、安価に大量生産することができる。
【0025】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスにおいては、質量基準で、SiO/(Al+KO)の比が1〜12であることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、ガラスの耐候性と溶融性を維持しながら、高い液相粘度を得ることが容易になる。
【0027】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスにおいては、質量基準で、(NaO+KO)/NaOの比が1.1〜10であることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、高い液相粘度を得ることが容易になる。
【0029】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスにおいては、CMOS用プラスチックパッケージに使用されることが好ましい。
【0030】
本発明の半導体パッケージの製造方法は、質量%で、SiO 58〜75%、Al 1.1〜20%、B 0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0〜11%、アルカリ土類金属酸化物 0〜20%含有し、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が90〜180×10−7/℃となるようにガラス原料を調製し、溶融した後、オーバーフローダウンドロー法を用いて板状に成形するとともに、ガラスからのα線放出量が0.05c/cm・hr以下となるようにガラス原料及び溶融設備の選択を行うことを特徴とする。本発明において「溶融設備の選択」とは、放射性同位元素の含有量が少ない材料で構成された溶融槽、清澄槽等を選択、使用することを意味する。
【0031】
上記構成によれば、本発明のカバーガラスを容易に作製することができる。
【0032】
本発明の方法においては、ガラス中のU含有量が100ppb以下、Th含有量が200ppb以下となるように、原料バッチの選択及び溶融条件の調節を行うことが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、得られるガラスのα線放出量を的確に低減することができる。
【0034】
本発明の方法においては、ZrO、As及びBaOを実質的に含有しないバッチを使用することが好ましい。
【0035】
上記構成によれば、得られるガラスのα線放出量を的確に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のカバーガラスは、質量%で、SiO 58〜75%、Al 1.1〜20%、B 0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0.1〜11%、アルカリ土類金属酸化物 0〜20%含有する。
【0037】
ガラス組成を上記のように限定した理由を以下に説明する。なお以下の説明では、特に説明のない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0038】
SiOは、ガラスを構成する骨格となる主成分であり、ガラスの耐候性を向上する効果がある。ただしSiOの含有量が多くなりすぎると、ガラスの高温粘度が上昇し、溶融性が悪化すると共に、液相粘度が高くなる傾向がある。SiOの含有量は58〜75%、好ましくは60〜73%、より好ましくは62〜69%である。
【0039】
Alは、ガラスの耐候性と液相粘度を高め、ヤング率を向上させる成分である。ただしAlの含有量が多くなりすぎると、ガラスの高温粘度が上昇し、溶融性が悪化する傾向がある。Alの含有量は1.1〜20%、好ましくは1.1〜18%、1.1〜17%、1.1〜17.5%、3.5〜16.5%、さらに好ましくは4〜16%である。
【0040】
は、融剤として働き、ガラスの粘性を下げ、溶融性を改善する成分である。さらに液相粘度を高めるための成分である。しかしBの含有量が多くなりすぎると、ガラスの耐候性が低下する傾向がある。Bの含有量は0〜10%、好ましくは0〜9%、0〜8%、0〜5%、0〜3%、0〜2%、0〜1.9%、さらに好ましくは0〜1%である。
【0041】
アルカリ金属酸化物(NaO、KO、LiO)は、ガラスの粘性を下げ、溶融性を改善すると共に、熱膨張係数と液相粘度を効果的に調整する成分である。ただしアルカリ金属酸化物の含有量が多くなりすぎるとガラスの耐候性が著しく悪化する。よってアルカリ金属酸化物の含有量は、熱膨張係数と化学耐久性(アルカリ溶出量および耐候性)のバランス等を考慮して決める必要がある。アルカリ金属酸化物は合量で0〜27%であることが好ましく、1〜27%、さらには5〜25%、特に7〜23%であることが望ましい。
【0042】
アルカリ金属酸化物の中で、特にNaOは熱膨張係数を調整する効果が大きく、またKOは液相粘度を上げる効果が大きい。そのためNaOとKOを併用すると、熱膨張係数と液相粘度が調整しやすくなる。よって本発明ではNaO及びKOを必須成分として含有することが好ましい。NaOの含有量は0.1〜20%、好ましくは3〜18%、さらに好ましくは8〜17%である。KOの含有量は0〜11%、好ましくは0〜9%、0〜7%、さらに好ましくは0〜2%、特に好ましくは0〜1%である。またNaOとKOを合量で4〜22%含有することが好ましく、特に6〜20%含有させることが好ましい。なお本発明においてはLiOを含有させることも可能である。ただしLiOは、原料に放射性同位元素を含みやすいため、その含有量を0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.5%に規制することが好ましい。
【0043】
本発明において、(NaO+KO)/NaOの比が質量基準で1.1〜10となるように規制すると、高い液相粘度が得られやすい。この(NaO+KO)/NaOの比は、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜3であることがより好ましい。
【0044】
また本発明においては、SiOを低減し、AlとKOを増加する程、液相粘度が上昇する傾向にある。そこでSiO/(Al+KO)の比を質量基準で1〜12、好ましくは2〜10となるように規制すると、ガラスの耐候性と溶融性を維持しながら、高い液相粘度を得ることが可能になる。
【0045】
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)は、ガラスの耐候性を向上させると共に、ガラスの粘性を下げ、溶融性を改善する成分である。ただしこれらの成分の含有量が多くなりすぎると、ガラスが失透しやすくなると共に密度が上昇する傾向がある。アルカリ土類金属酸化物の含有量は合量で0〜20%、好ましくは0.5〜18%、より好ましくは1.0〜18%である。
【0046】
ただしアルカリ土類金属酸化物成分の中で、BaOとSrOは密度を上昇させやすいため、密度を低下したい場合は各々12%以下、特に10%以下に規制することが望ましい。同様の理由から、両者の合量を6.5〜13%に規制することが好ましい。またBaOとSrOは、原料中に放射性同位元素を含みやすいため、α線放出量を低減したい場合は、各々0〜3%とすることが好ましく、より好ましくは0〜1%、さらに好ましくは0〜0.8%、最も好ましくは0〜0.5%であり、できれば実質的に含有しないことが望ましい。ここで「BaOとSrOを実質的に含有しない」とは、ガラス組成中のSrOおよびBaOの含有量が各々0.2%以下であることを意味する。
【0047】
本発明においては、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が90〜180×-7/℃である。このような高熱膨張係数を達成するには、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物を多量に導入することが望ましい。具体的にはアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の合量が21〜35%、特に22〜33%であることが望ましい。なおこれらの成分の合量が多すぎる場合にはヤング率の低下、液相粘度の低下等の不都合が生じるおそれがある。
【0048】
本発明においては、上記成分以外にも、ガラスの特性を損なわない範囲で、P、Y、Nb,La等の成分を5%以下含有させることができる。ただしPbO、CdO等は毒性が強いため、使用を避けるべきである。
【0049】
本発明においては、各種清澄剤を合量で3%まで含有させることができる。清澄剤としては、Sb、Sb、F、Cl、C、SO、SnO、或いはAl、Si等の金属粉末が使用できる。
【0050】
本発明におけるSiO−Al−B−RO系(SiO、Al、B及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分とする組成系)ガラスの場合は、清澄剤として、SbとSbが合量で0.05〜2.0%、F、Cl、SO、C、SnOが合量で0.1〜3.0%(特にCl 0.005〜1.0%、SnO 0.01〜1.0%)の割合となるように使用するのが好適である。またSiO−Al−B−RO系(SiO、Al、B及びアルカリ金属酸化物を必須成分とする組成系)ガラスの場合は、溶融性に優れているため、SbとSbが合量で0.2%以下、F、Cl、SO、C、SnOが合量で0.1〜3.0%の割合となるように含有させることが好ましい。
【0051】
なおAsは、幅広い温度域(1300〜1700℃程度)で清澄ガスを発生させることができるため、従来、この種のガラスの清澄剤として広く用いられているが、原料中に放射性同位元素を含みやすい。しかもAsは、毒性が非常に強く、ガラスの製造工程や廃ガラスの処理時等に環境を汚染する可能性がある。よってAsは実質的に含有しないようにすべきである。さらに、Sb、Sbも、Asと同様、清澄効果に優れた成分であるが、やはり毒性が強いため、できれば実質的に含有しないことが望ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、ガラス組成中の、Asの含有量が0.1%以下、望ましくは100ppm以下であることを意味する。またSb、Sbの含有量は各々0.1%以下、望ましくは0.09%以下、最も望ましくは0.05%であることを意味する。
【0052】
またFeも清澄剤として使用できるが、ガラスを着色するため、その含有量は好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下に規制する。CeOも清澄剤として使用できるが、ガラスを着色するため、その含有量は好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.7%以下に規制する。
【0053】
ZrOは、ガラスの歪点やヤング率を向上させる成分であるが、原料中に放射性同位元素を含みやすい。よってZrOの使用はα線放出量の増大を招く危険性が高い。またZrOは、耐失透性を低下させる成分である。特にオーバーフローダウンドロー法によってガラスを成形する場合、ガラスの耐火物と接触する界面にZrOに起因する結晶が析出し、長期間に亘る操業中に生産性を低下させる虞がある。よってZrOの含有量は0〜3%、0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.2%にすることが好ましく、できれば実質的に含有しないことが望ましい。ここで「ZrOを実質的に含有しない」とは、ガラス組成中のZrOの含有量が500ppm以下であることを意味する。
【0054】
TiOは、ガラスの耐候性を改善し、高温粘度を低下させる効果を有するが、Feと共存させると、Feによる着色を助長するため実質的に含有しないことが望ましい。ここで「TiOを実質的に含有しない」とは、ガラス組成中のTiOの含有量が500ppm以下であることを意味する。なおFeの含有量を200ppm未満にすることができればTiOを5%まで含有させることができる。しかしFeの含有量を200ppm未満にするには多大なコストがかかり、現実的でない。
【0055】
以上の組成を有する本発明の半導体パッケージ用カバーガラスは、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を90〜180×10−7/℃にすることが容易である。よって有機樹脂や低融点ガラスからなる接着材を用いてプラスチックパッケージ(約100×10−7/℃)と封着しても、内部に歪みが発生せず、長期間に亘って良好な封着状態を保つことが可能である。カバーガラスの好ましい熱膨張係数は、90〜160×10−7/℃、より好ましい熱膨張係数は95〜130×10−7/℃である。
【0056】
上記組成範囲であれば、低密度、高耐候性、高液相粘度のガラスを得ることが容易である。
【0057】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスは、ガラスのヤング率が高いほど好ましい。具体的にはガラスのヤング率が68GPa以上、さらには70GPa以上であることが好ましい。ヤング率はカバーガラスが一定の外力を加えられた状態でどれだけ変形しやすくなるかを表しており、ヤング率が大きいほどカバーガラスは変形し難くなる。カバーガラスのヤング率が高いほど、半導体素子に直接圧力が加わるのを防止し、結果として素子の損傷が防止できる。上記範囲において、ガラスのヤング率を高くするには、アルカリ金属酸化物の含有量を低下させたり、アルカリ土類金属酸化物、Al、B等の含有量を増加させたりすればよい。
【0058】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスは、ガラスの比ヤング率(ヤング率/密度)が高いほど好ましい。具体的にはガラスの比ヤング率が27GPa/g・cm−3以上、特に28GPa/g・cm−3以上であることが望ましい。比ヤング率が高ければ、軽量でかつ変形し難いという特性を満足するものとなるため、特に携帯用電子機器に使用される半導体パッケージ用カバーガラスとして好適である。
【0059】
本発明の半導体パッケージ用ガラスは、ガラスの密度が低いほど好ましい。具体的にはガラスの密度は2.60g/cm以下、特に2.55g/cm以下であると、特に屋外で使用する携帯用電子機器に搭載される用途に好適である。すなわちビデオカメラ、携帯電話、PDA(Personal Digital Assiatant)等の機器は、屋外で使用されることがあるため、軽量で持ち運びに適することが要求される。上記範囲において、ガラスの密度を低下させるには、例えばアルカリ土類金属酸化物やAlの含有量を低下させたり、Bの含有量を増加させたりすればよい。
【0060】
また屋外で使用する携帯用電子機器に搭載される場合、軽量で持ち運びに適することに加え、高い耐候性を有することが要求される。つまり屋外で過酷な環境下で使用されても表面品位が低下しないといった特性を併せ持つことが望まれる。上記範囲において、ガラスの耐候性を向上させるには、例えばアルカリ金属酸化物の含有量を低下させればよい。
【0061】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスは、液相粘度が高いほど好ましい。つまりSiO−Al−B−RO(又はRO)系ガラスをオーバーフローダウンドロー法で成形する場合、成形部分におけるガラスの粘度はおよそ104.7dPa・s程度となる。そのためガラスの液相粘度が104.7dPa・s付近、或いはそれ以下であると、成形されたガラスに失透物が発生しやすい。ガラス中に失透物が発生すると、透光性が損なわれるため、カバーガラスとしては使用できなくなる。よってオーバーフローダウンドロー法でガラスを成形する場合、ガラスの液相粘度ができるだけ高いことが好ましく、具体的にはガラスの液相粘度が104.7dPa・s以上、特に105.0dPa・s以上であることが望ましい。上記範囲において、ガラスの液相粘度を高くするには、SiO、アルカリ土類金属酸化物等の含有量を低下させたり、アルカリ金属酸化物、Al等の含有量を増加させたりすればよい。
【0062】
また本発明の半導体パッケージ用カバーガラスは、ガラスからのα線放出量が0.05c/cm・hr以下であることを特徴とする。ガラスからのα線放出量が少なければ、高画素(例えば100万画素以上)で小型の固体撮像装置に搭載しても、α線に起因するソフトエラーの低減を図ることができる。α線放出量を0.05c/cm・hr以下にするためには、原料や溶融槽からの不純物の混入を防止し、ガラス中のU量を100ppb以下、Th量を200ppb以下に抑えることが望ましい。近年、固体撮像素子は、ますます画素数が大きくなっており、それに伴ってα線に起因するソフトエラーが発生しやすくなっているため、窓ガラスのα線放出量は、0.01c/cm・hr以下、0.0035c/cm以下、特に0.003c/cm以下にすることが好ましい。またU量は20ppb以下、5ppb以下、特に4ppb以下にすることが好ましく、Th量は40ppb以下、10ppb以下、特に8ppb以下にすることが好ましい。尚、Uは、Thに比べて、α線を放出しやすいため、Uの許容量は、Thの許容量に比べて少なくなる。なおα線放出量を少なくする、或いはU、Th量を低減するには、放射性元素を不純物として多量に含むZrO、BaO等のガラス原料を極力使用しないようにすること、高純度原料を選択すること、溶融炉の内壁を放射性同位元素の少ない耐火物で構成すること、研磨工程を必要としない方法でガラスを成形すること(=オーバーフローダウンドロー法を採用すること)等が挙げられる。
【0063】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスは、透光面が無研磨面であるとより好ましい。なお研磨することなく使用するためには、表面品位の高いガラス、好ましくは表面粗さ(Ra)が1.0nm以下、さらには好ましくは0.5nm以下、特に好ましくは0.3nm以下のガラスを直接成形することが可能な成形法を採用することが重要である。このような方法としてオーバーフローダウンドロー法が挙げられる。オーバーフローダウンドロー法は、ガラスの両透光面が他の部材と接触することなく成形されることから、ガラス表面が自由表面(火造り面)となり、上記したような表面品位に優れたガラスを研磨することなしに得ることができる。カバーガラスの透光面の表面粗さ(Ra)が小さくなるほど、異物等を検知する画像検査の精度が増し、また散乱光に起因する素子の誤動作の発生率が低下する。また半導体パッケージやデバイスの設計には厳密な寸法精度が求められる。半導体パッケージ用カバーガラスの肉厚偏差が大きく板厚が変化すると、これらの設計に大きな影響を与えてしまう。また厚肉のカバーガラスを作製し、後工程で研磨量を多くすると、基板作製に大きなコストがかかる。オーバーフローダウンドロー法では、板厚の偏差が少ない基板を低コストで作製することができる。
【0064】
本発明の半導体パッケージ用カバーガラスは、肉厚が0.05〜0.7mmであることが好ましい。肉厚が大きくなるほど、軽量化の障害となり、また0.7mm超では、固体撮像素子との距離が近くなりすぎて表示不良が起こりやすくなることがある。また肉厚が0.05mm未満では、実用強度が不足したり、大板ガラスのたわみが大きくなったりして取り扱いが困難となることがある。好ましい肉厚は、0.1〜0.5mmである。
【0065】
次に本発明の半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法を説明する。
【0066】
まず所望の組成及び特性を有するガラスとなるようにガラス原料調合物を準備する。目標とするガラス組成及び特性は既述の通りであり、ここでは説明を割愛する。ガラス原料は、U、Th等の不純物が少ない高純度原料を使用する。より具体的には、Uの含有量が100ppb以下(好ましくは20ppb以下)、Thの含有量が200ppb以下(好ましくは40ppb以下)となるように高純度原料を選択する。
【0067】
次いで調合したガラス原料を溶融槽に投入して溶融する。溶融槽は、白金容器を使用しても良いが、ガラス中に白金ブツが混入しやすいため、できれば使用しない方がよい。耐火物製の溶融槽を使用する場合、少なくとも溶融槽の内壁(天井、側面、底面)は、U、Thの少ない耐火物から作製することが好ましい。具体的には、アルミナ耐火物(例えばアルミナ質電鋳レンガ)や石英耐火物(例えばシリカブロック)が侵食しにくく、しかもU、Thの含有量が各々1ppm以下であり、U、Thのガラスへの溶出が少ないため好ましい。
【0068】
次いで溶融ガラスの均質化(脱泡・脈理除去)を清澄槽で行う。この清澄槽は、耐火物や白金から作製すれば良い。尚、ジルコニア耐火物は、放射性同位元素を多く含むため、清澄槽の内壁材料に使用することは避けるべきである。
【0069】
その後、均質化された溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法で板状に成形し、所望の厚みを有する板ガラスを得る。
【0070】
こうして得られた板ガラスを所定の寸法に細断加工し、必要に応じて面取り加工することによってカバーガラスを作製する。
【0071】
このようにして得られるパッケージ用カバーガラスは、上記の基本組成を有しつつ、高純度原料と、不純物が混入し難いように整備された溶融環境を採用している。それゆえ、所望の特性を得ることができ、しかもU、Th、Fe、PbO、TiO、ZrO等の含有量を精密に制御することが可能である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例に基づいて本発明のパッケージ用カバーガラスを説明する。
【0073】
表1、2は、本発明のパッケージ用カバーガラスの実施例(試料No.1〜11)を示すものである。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

まず表の組成となるように調製した高純度ガラス原料を、白金ロジウム、アルミナ、石英のいずれかから作製されたルツボに投入し、攪拌機能を有する電気溶融炉中で1550℃、6時間の条件で溶融し、その溶融ガラスをカーボン板上に流し出した。さらに、この板ガラスを徐冷してガラス試料とし、各種の評価に供した。
【0076】
表から明らかなように、各ガラス試料は、密度、熱膨張係数、α線放出量について、半導体パッケージ用カバーガラスに要求される条件を満足するものであった。また102.5dPa・sの粘度に相当する温度が1520℃以下であるため溶融性に優れており、液相温度が1025℃以下、液相粘度が105.0dPa・s以上であるため、耐失透性に優れ、オーバーフローダウンドロー法で成形可能であることが確認された。
【0077】
U、Thの含有量は、ICP−MASSにより測定した。密度は、周知のアルキメデス法によって測定した。熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した。ヤング率は共振法によって測定した。比ヤング率は、曲げ共振法によって測定したヤング率と密度から算出した。液相温度は、各ガラス試料を300〜500μmの粒径に破砕し、これを白金ボートに入れ、温度勾配炉中に8時間保持してから、顕微鏡観察により、ガラス試料内部に失透(結晶異物)の見られた最高温度を測定し、その温度を液相温度とした。また液相温度におけるガラスの粘度を液相粘度とした。また歪点、及び徐冷点は、ASTM C336−71の方法に準じて測定し、軟化点は、ASTM C338−93の方法に準じて測定した。10dPa・s温度、10dPa・s温度、及び102.5dPa・s温度は、周知の白金球引き上げ法によって求めた。102.5dPa・s温度は、高温粘度である102.5dPa・sに相当する温度を測定したものであり、この値が低いほど溶融性に優れていることになる。α線放出量は、超低レベルα線測定装置(住友化学社製LACS−4000M)を用いて測定した。
【0078】
耐酸性は80℃の10%濃度塩酸に24時間ガラス試料を浸漬し、試験前後に変化した試料の単位面積当たりの重量とした。
【0079】
次に表1〜2のNo.1、2、3、6及び9のガラスについて、試験溶融槽(アルミナ耐火物製)で溶融し、オーバーフローダウンドロー法で厚み0.5mmの板状に成形した。次いでガラス表面を研磨することなく、さらにレーザースクライブによって細断加工を施すことによって、縦寸法14mm、横寸法16mmのカバーガラスを作製した(試料A〜E)。こうして得られたカバーガラスの表裏の透光面(第1透光面と第2透光面)の表面粗さ(Ra)を、触針式表面粗さ測定機タリステップ(Tayler−Hobson社製)を用いて測定した。その結果を表3に示す。
【0080】
【表3】

表3から明らかなように、実施例のカバーガラスは、いずれも第1透光面と第2透光面の表面粗さ(Ra)が0.23nm以下であり、極めて良好な平滑面を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のパッケージ用カバーガラスは、固体撮像素子パッケージ用カバーガラスとして好適であり、これ以外にも、レーザーダイオードを収納するパッケージを始めとして、各種半導体パッケージのカバーガラスとして使用することができる。また、このカバーガラスは、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が90〜180×10−7/℃であるため、プラスチックパッケージ以外にも、樹脂、コバール合金、モリブデン合金、42Ni−Fe合金、45Ni−Fe合金等で作製された各種パッケージに適用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO58〜75%、Al1.1〜20%、B0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0〜11%、アルカリ土類金属酸化物 0〜20%含有し、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が90〜180×10−7/℃、ヤング率が68GPa以上、ガラスからのα線放出量が、0.05c/cm・hr以下であることを特徴とする半導体パッケージ用カバーガラス。
【請求項2】
ガラス中のU含有量が100ppb以下、Th含有量が200ppb以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体パッケージ用ガラス。
【請求項3】
ZrO、As及びBaOを実質的に含有しないことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体パッケージ用カバーガラス。
【請求項4】
アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の合量が21〜35質量%であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の半導体パッケージ用ガラス。
【請求項5】
液相温度におけるガラス粘度が104.7dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の半導体パッケージ用ガラス。
【請求項6】
未研磨の表面を有することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の半導体パッケージ用ガラス
【請求項7】
質量基準で、SiO/(Al+KO)の比が1〜12であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の半導体パッケージ用ガラス。
【請求項8】
質量基準で、(NaO+KO)/NaOの比が1.1〜10であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の半導体パッケージ用ガラス。
【請求項9】
CMOS用プラスチックパッケージに使用されることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の半導体パッケージ用ガラス。
【請求項10】
質量%で、SiO58〜75%、Al1.1〜20%、B0〜10%、NaO 0.1〜20%、KO 0〜11%、アルカリ土類金属酸化物 0〜20%含有し、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が90〜180×10−7/℃、ヤング率が68GPa以上となるようにガラス原料を調製し、溶融した後、オーバーフローダウンドロー法を用いて板状に成形するとともに、ガラスからのα線放出量が0.05c/cm・hr以下となるようにガラス原料及び溶融設備の選択を行うことを特徴とする半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。
【請求項11】
ガラス中のU含有量が100ppb以下、Th含有量が200ppb以下となるように、原料バッチの選択及び溶融条件の調節を行うことを特徴とする請求項9に記載の半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。
【請求項12】
ZrO、As及びBaOを実質的に含有しないバッチを使用することを特徴とする請求項9又は11に記載の半導体パッケージ用カバーガラスの製造方法。



【公開番号】特開2012−76991(P2012−76991A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194600(P2011−194600)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】