説明

半導体レーザの製造方法

【課題】ドーパント濃度が高精度に制御された半導体領域を有する半導体レーザを得ることが可能な半導体レーザの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法は、半導体レーザを製造するための半導体領域80と、中間層90と、半導体レーザを製造するための半導体領域100とをこの順に半導体基板5上に形成する半導体領域形成工程と、半導体領域100のドーパント濃度を測定する測定工程と、測定工程の後、半導体領域100及び中間層90を除去する除去工程と、半導体領域80を用いて半導体レーザを製造することの要否をドーパント濃度の測定結果に基づき判定する判定工程と、判定工程において半導体領域80を用いて半導体レーザの製造を要すると判定された場合、半導体領域80を用いて半導体レーザを製造する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Znをドーパントとして含有する半導体領域を備えた半導体レーザが記載されている。このような半導体レーザのレーザ特性(素子寿命、しきい値電流等)は、半導体レーザを構成する半導体領域のドーパント濃度に依存している。そのため、設計値通りのレーザ特性を得るためには、半導体レーザを構成する半導体領域のドーパント濃度を精確に把握する必要がある。特許文献1には、半導体領域のドーパント濃度を二次イオン質量分析(SIMS)により測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−68597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機金属気相成長法(OMVPE法)等により半導体基板上に半導体領域を結晶成長させた後、二次イオン質量分析等の破壊分析により半導体領域のドーパント濃度を測定した場合には、半導体領域に測定痕が残存してしまい、当該半導体領域を用いてウエハプロセス(メサ部形成や電極形成等)を行って半導体レーザを作製すると、設計値通りのレーザ特性を得ることができない。同様に、半導体基板上に半導体領域を結晶成長させ、ウエハプロセスを行って半導体レーザを作製した後、破壊分析により半導体領域のドーパント濃度を測定した場合には、半導体レーザの半導体領域に測定痕が残存してしまい、設計値通りのレーザ特性を得ることができない。
【0005】
一方、破壊分析によりドーパント濃度を測定する場合、同一成長条件で半導体領域を複数の半導体基板上に成長させて積層体を複数作製し、一の積層体をダミーウエハとしてドーパント濃度の測定に用い、他の積層体を半導体レーザの製造に用いることが考えられる。例えば、一の半導体基板上に半導体領域を成長させて、半導体レーザを製造するための積層体を作製した後、半導体基板を取り替えて、同一成長条件で他の半導体基板上に半導体領域を成長させて、ダミーウエハとするための積層体を作製することが考えられる。しかしながら、この場合、積層体は互いに異なる半導体基板上に作製される上、同一成長条件で半導体領域を成長させているものの半導体基板の取り替えに際して成長炉内の内部環境が変化するため、半導体領域毎にドーパント濃度が異なり易い。
【0006】
また、成膜装置の成長炉(チャンバ)内の基板載置領域上に複数の半導体基板を配置し、それぞれの半導体基板上に同一成長条件で同時に半導体領域を成長させて複数の積層体を作製することが考えられる。しかしながら、この場合、同一成長条件で同時に複数の積層体を作製しているものの、積層体は互いに異なる半導体基板上に作製される上、成長炉内における基板載置領域には組成や膜厚の面内分布がある、すなわち、得られる半導体領域の組成や膜厚が成長炉内における半導体基板の配置位置毎に異なり易いため、半導体領域毎にドーパント濃度が異なり易い。
【0007】
したがって、このようなドーパント濃度のばらつきが要因となり、ダミーウエハにおける半導体領域のドーパント濃度を測定したとしても、半導体レーザを製造するための半導体領域のドーパント濃度の制御精度を把握することは困難である。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、ドーパント濃度が高精度に制御された半導体領域を有する半導体レーザを得ることが可能な半導体レーザの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のとおり複数の半導体基板上に同一成長条件で半導体領域を成長させたとしても半導体領域のドーパント濃度がばらつくのに対し、本発明者は、半導体レーザを製造するための半導体領域を半導体基板上に形成した後、当該半導体領域上に、半導体レーザを製造するための別の半導体領域を形成することで、両半導体領域のドーパント濃度を同じ濃度に調整し易くなることを見出した。
【0010】
本発明に係る半導体レーザの製造方法は、半導体レーザを製造するための第1半導体領域と、第2半導体領域と、上記半導体レーザを製造するための第3半導体領域とをこの順に半導体基板上に形成する半導体領域形成工程と、第3半導体領域のドーパント濃度を測定する測定工程と、測定工程の後、第3半導体領域及び第2半導体領域を除去する除去工程と、第1半導体領域を用いて半導体レーザを製造することの要否をドーパント濃度の測定結果に基づき判定する判定工程と、判定工程において第1半導体領域を用いて半導体レーザの製造を要すると判定された場合、第1半導体領域を用いて半導体レーザを製造する工程と、を備える。
【0011】
本発明に係る半導体レーザの製造方法では、半導体レーザを製造するための第1半導体領域と、第2半導体領域と、半導体レーザを製造するための第3半導体領域とをこの順に半導体基板上に形成しており、第3半導体領域が第1半導体領域上に形成される。これにより、第1半導体領域及び第3半導体領域が同一半導体基板上に形成されると共に、第1半導体領域及び第3半導体領域のドーパント濃度が成長炉内における組成の面内分布に依存することが抑制されるため、第1半導体領域及び第3半導体領域のドーパント濃度を同じ濃度に調整し易くなる。その結果、第3半導体領域のドーパント濃度に基づき第1半導体領域のドーパント濃度の制御精度を把握し易くなる。そのため、半導体レーザを製造するために第3半導体領域のドーパント濃度を測定し、第1半導体領域を用いて半導体レーザを製造することの要否をドーパント濃度の測定結果に基づき判定することにより、所望のドーパント濃度を有する第1半導体領域を用いて半導体レーザを作製することができる。また、本発明に係る半導体レーザの製造方法では、第2半導体領域を形成することにより、測定工程や除去工程を行う際に第1半導体領域のドーパント濃度が変動することを抑制することができる。以上により、本発明に係る半導体レーザの製造方法によれば、ドーパント濃度が高精度に制御された半導体領域を有する半導体レーザを得ることができる。
【0012】
本発明に係る半導体レーザの製造方法では、測定工程においてドーパント濃度を二次イオン質量分析により測定してもよい。
【0013】
本発明に係る半導体レーザの製造方法では、測定工程において第3半導体領域を構成するそれぞれの半導体層のドーパント濃度を測定することが好ましい。この場合、ドーパント濃度が更に高精度に制御された半導体領域を有する半導体レーザを得ることができる。
【0014】
本発明に係る半導体レーザの製造方法では、判定工程において第1半導体領域を用いて半導体レーザの製造が不要であると判定された場合、除去工程の後に第1半導体領域を除去して半導体基板を再生する再生工程を更に備え、判定工程において半導体レーザの製造を要すると判定される第1半導体領域が得られるまで、再生工程で再生された半導体基板を用いて半導体領域形成工程、測定工程、除去工程及び判定工程を行ってもよい。この場合、判定工程において半導体レーザの製造が不要であると判定された場合であっても、半導体基板を破棄することなく半導体基板を再生することで、同一の半導体基板で半導体レーザを作製することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドーパント濃度が従来に比して高精度に制御された半導体領域を有する半導体レーザを得ることが可能な半導体レーザの製造方法を提供することができる。本発明によれば、特に、破壊分析を用いてドーパント濃度を測定する場合であっても、ドーパント濃度が従来に比して高精度に制御された半導体領域を有する半導体レーザを得ることが可能な半導体レーザの製造方法を提供することができる。これらの本発明によれば、設計値通りのレーザ特性を有する半導体レーザを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法によって製造される半導体レーザを模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の主要な工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る半導体レーザの製造方法について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、可能な場合には同一要素には同一符号を用いる。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0018】
図1は、本実施形態に係る半導体レーザの製造方法によって製造される半導体レーザを模式的に示す断面図である。図1に示すように、半導体レーザ1は、第1導電型(例えばn型)の半導体基板5と、第1導電型の半導体領域10と、活性層15と、第2導電型(例えばp型)の半導体領域20と、絶縁層30と、上部電極40と、下部電極50とを備えている。
【0019】
半導体基板5は、例えばInP基板等のIII−V族化合物半導体基板であり、例えばSiがドープされている。半導体基板5は、互いに対向する表面5aと裏面5bとを有している。
【0020】
半導体領域10は、半導体基板5の表面5a上に配置されており、一又は複数の半導体層から構成されている。半導体領域10は、例えば第1導電型の下部クラッド層11、第1導電型の下部SCH(Separate Confinement Heterostructure)層13が半導体基板5の表面5a上にこの順に積層されて形成されている。
【0021】
下部クラッド層11は、例えばInP等のIII−V族化合物半導体からなり、例えばSiがドープされている。下部クラッド層11の厚さは、例えば400nmである。下部SCH層13は、例えばGaInAsP等のIII−V族化合物半導体からなり、例えばSiがドープされている。下部SCH層13の厚さは、例えば150nmである。
【0022】
活性層15は、半導体領域10上に配置されており、例えばMQW(多重量子井戸)構造やSQW(単一量子井戸)構造を有する。活性層15は、例えば交互に配列されたバリア層15a及び井戸層15bを含むMQW構造を有しており、バリア層15a及び井戸層15bは、例えばGaInAsP等のIII−V族化合物半導体からなる。バリア層15aの厚さは、例えば10nmであり、井戸層15bの厚さは、例えば5nmである。
【0023】
半導体領域20は、活性層15上に配置されている。半導体領域20の表面20s側には、メサ形状を有するメサ部25が形成されている。メサ部25の線幅は例えば3μmである。メサ部25は、半導体基板5の表面5aに沿った所定方向に延びており、この所定方向は、半導体レーザ1における光導波方向となる。なお、図1は、この所定方向と直交する方向の切断面を示している。
【0024】
半導体領域20は、一又は複数の半導体層から構成されている。半導体領域20は、例えば第2導電型の上部SCH層17、第2導電型の上部クラッド層19、第2導電型のコンタクト層21が活性層15上にこの順に積層されて形成されている。
【0025】
上部SCH層17は、半導体基板5の表面5a全体を覆うように活性層15上に形成された層状部17Aと、層状部17A上に形成されると共にメサ部25の一部を構成する隆起部17Bとから構成されている。上部SCH層17は、例えば下部SCH層13と同じ母体材料(例えばGaInAsP等のIII−V族化合物半導体)からなり、例えばZnがドープされている。層状部17Aの厚さは、例えば100nmであり、隆起部17Bの厚さは、例えば50nmである。
【0026】
上部クラッド層19及びコンタクト層21は、上部SCH層17の隆起部17Bの主面全体を覆うように隆起部17B上に形成されており、隆起部17Bと共にメサ部25を構成している。上部クラッド層19は、例えば下部クラッド層11と同じ母体材料(例えばInP等のIII−V族化合物半導体)からなり、例えばZnがドープされている。上部クラッド層19の厚さは、例えば500nmである。コンタクト層21は、例えばGaInAs等のIII−V族化合物半導体からなり、例えばZnがドープされている。コンタクト層21の厚さは、例えば200nmである。
【0027】
絶縁層30は、メサ部25を除く上部SCH層17上にメサ部25の側面が埋まるように形成されている。絶縁層30は、例えばポリイミド膜である。
【0028】
上部電極40は、半導体領域20の表面20s(メサ部25の頂面)が覆われるようにメサ部25の長手方向(半導体レーザ1の光導波方向)に沿って形成されている。下部電極50は、半導体基板5の裏面5b全体を覆うように形成されている。上部電極40及び下部電極50は、例えば金電極である。
【0029】
次に、図2〜図10を参照しながら、本実施形態に係る半導体レーザの製造方法について説明する。図2は、本実施形態に係る半導体レーザの製造方法の主要な工程を示すフローチャートである。図3〜10は、本実施形態に係る半導体レーザの製造方法の工程を模式的に示す断面図である。
【0030】
本実施形態に係る半導体レーザの製造方法は、例えば、図2に示すように、準備工程S101、半導体領域形成工程S103、ドーパント濃度測定工程S105、半導体領域除去工程S107、判定工程S109及び半導体レーザ製造工程S111をこの順に少なくとも備えており、基板再生工程S113を任意に備えている。
【0031】
(準備工程S101)
準備工程S101では、半導体基板5を準備した後、成長炉内の基板載置領域に例えば表面5aが略水平となるように半導体基板5を載置する。本実施形態では、従来のように、基板載置領域に複数の半導体基板を配置して、半導体レーザ1を製造するためのウエハとドーパント濃度を測定するためのダミーウエハとを作製する必要はなく、単一の半導体基板を基板載置領域に配置すればよい。
【0032】
(半導体領域形成工程S103)
半導体領域形成工程S103では、図3に示すように、例えば有機金属気相成長法によって、半導体領域(第1半導体領域)80、中間層(第2半導体領域)90、半導体領域(第3半導体領域)100をこの順に半導体基板5の表面5a上に表面5aの法線方向にエピタキシャル成長させて積層体200を得る。半導体領域形成工程S103では、半導体基板5上の各領域を同一の成長炉内において一連の成膜工程で連続して成長させることが好ましい。
【0033】
半導体領域80は、半導体レーザ製造工程S111において半導体レーザ1を製造するための領域である。半導体領域80は、下部クラッド層11と、下部SCH層13と、活性層15と、上部SCH層17を形成するための半導体層17aと、上部クラッド層19を形成するための半導体層19aと、コンタクト層21を形成するための半導体層21aとが半導体基板5の表面5a上にこの順に積層されて形成されている。半導体層17a及び上部SCH層17、半導体層19a及び上部クラッド層19、半導体層21a及びコンタクト層21は、それぞれ互いに同じ組成(母体材料や当該母体材料にドープされるドーパントの種類、ドーパント濃度)及び厚さを有している。
【0034】
中間層90は、後述する半導体層111と同じ母体材料からなることが好ましく、例えばInP等のIII−V族化合物半導体からなる。この場合、半導体領域除去工程S107において中間層90及び半導体層111を同時に除去することが可能であり半導体領域を効率よく除去することができる。
【0035】
中間層90は、半導体領域除去工程S107において半導体領域100及び中間層90が除去される前に半導体領域80が露出することを抑制するために充分な厚さを有している。中間層90の厚さは、例えば、半導体層19a及び後述する半導体層119aの厚さの3倍以上であることが好ましい。この場合、ドーパント濃度測定工程S105において後述する分析痕132が半導体領域80に形成されることが更に抑制されると共に、ドーパント濃度測定工程S105を行って中間層90が露出した場合であっても、半導体領域除去工程S107において中間層90が除去されて半導体領域80が露出し、その後の工程において半導体領域80がエッチングされることを充分に抑制することができる。中間層90の厚さは、1500〜2000nmが好ましく、1700〜1800nmがより好ましい。
【0036】
半導体領域100は、半導体層111、半導体層113、半導体層115、半導体層117a、半導体層119a及び半導体層121aが中間層90上にこの順に積層されて形成されている。半導体領域100は、半導体レーザ1を製造するための分析領域であり、半導体領域80の構成層のドーパント濃度の制御精度を評価するための領域である。半導体領域100は、半導体領域80と実質的に同じ層構成(各構成層の組成及び厚さ)を有していることが好ましく、下部クラッド層11及び半導体層111、下部SCH層13及び半導体層113、活性層15及び半導体層115、半導体層17a及び半導体層117a、半導体層19a及び半導体層119a、半導体層21a及び半導体層121aのそれぞれは、互いに実質的に同じ成長条件(ガス種、ガス流量、成長時間、成長温度等)で成長され、実質的に同じ組成及び厚さを有している。また、例えば、半導体層111及び半導体層119aは互いに同じ母体材料からなり、半導体層113及び半導体層117aは互いに同じ母体材料からなる。
【0037】
ここで、半導体領域80のいずれかの評価対象層のドーパント濃度の制御精度を把握するためには、評価対象層と実質的に同じ成長条件で成長させた測定対象層のみを中間層90上に形成し、当該測定対象層のドーパント濃度を測定することが考えられる。しかしながら、この場合、測定対象層と評価対象層とでは、半導体領域100のその他の構成層の有無の点で積層状態が異なるため、測定対象層と評価対象層とを実質的に同じ成長条件で成長させたとしても、両層のドーパント濃度は互いに相違する場合がある。そのため、本実施形態の半導体領域100は、半導体領域80と実質的に同じ層構成を有していることが好ましい。
【0038】
(ドーパント濃度測定工程S105)
ドーパント濃度測定工程S105では、半導体領域100を構成するそれぞれの構成層(半導体層)のドーパント濃度を測定することが好ましい。ドーパント濃度は、例えば破壊分析である二次イオン質量分析により測定することができる。ドーパント濃度として、例えばn型ドーパント濃度及びp型ドーパント濃度を測定することができる。
【0039】
ドーパント濃度測定工程S105においてドーパント濃度を二次イオン質量分析により測定する場合、図4に示すように、測定対象領域にイオンビームBを照射し測定対象領域から二次イオンIを放出させる。そして、放出された二次イオンIを検出器130で検出することにより、測定対象領域の含有成分及びその含有量を測定することができる。この場合、測定対象領域には、イオンビームBにより掘削されて半導体領域100の厚さ方向に沿って例えば凹状の分析痕132が形成される。測定対象領域は、半導体領域80における半導体レーザ1を製造するための素子形成領域上に位置しており、例えばメサ部25が形成されるための領域上に位置している。
【0040】
ドーパント濃度測定工程S105では、半導体領域100の厚さ方向に沿って半導体領域100の構成層のドーパント濃度を測定する。ドーパント濃度測定工程S105では、分析痕132が半導体領域100を貫通して中間層90に達するまで測定を行って半導体領域100のそれぞれの構成層のドーパント濃度を測定することが好ましい。この場合、半導体領域80が露出して半導体領域除去工程S107において半導体領域80がエッチングされることを充分に抑制する観点から、分析痕132の底部として中間層90に形成される凹部90aの深さDは、中間層90の厚さの1/3以下であることが好ましく、すなわち凹部90aの底面と半導体層21aの表面との間隔が中間層90の厚さの2/3以上であることが好ましい。
【0041】
(半導体領域除去工程S107)
半導体領域除去工程S107では、まず、図5に示すように、中間層90、半導体層111及び半導体層119aをエッチングすることなく、例えばウェットエッチングによって半導体層121aを選択的に除去する。このウェットエッチングの際に用いるエッチング液としては、例えばリン酸、過酸化水素及び水の混合液を挙げることができる。これにより、半導体層119aの表面を露出させる。本実施形態では、中間層90を設けることにより、半導体領域80がエッチングされることを抑制することができる。なお、このようなエッチング液を使用することで半導体層113、半導体層115及び半導体層117aにおける分析痕132に露出した部分の一部が除去されるが、半導体層113、半導体層115及び半導体層117aは完全には除去されない。
【0042】
次に、図6に示すように、半導体層113、半導体層115及び半導体層117aをエッチングすることなく、例えばウェットエッチングによって半導体層119aを選択的に除去する。このウェットエッチングの際に用いるエッチング液としては、例えば塩酸及び水の混合液を挙げることができる。これにより、半導体層117aの表面を露出させる。このようなエッチング液を使用することで中間層90及び半導体層111における分析痕132に露出した部分の一部が除去されるが、中間層90及び半導体層111が完全に除去されることはなく、半導体領域80が露出しないようにエッチング条件が調整される。
【0043】
続いて、図7に示すように、中間層90及び半導体層111をエッチングすることなく、例えばウェットエッチングによって半導体層113、半導体層115及び半導体層117aを選択的に除去する。このウェットエッチングの際に用いるエッチング液としては、例えばリン酸、過酸化水素及び水の混合液を挙げることができる。これにより、半導体層111の表面を露出させる。
【0044】
次に、図8(a)に示すように、半導体領域80をエッチングすることなく、例えばウェットエッチングによって中間層90及び半導体層111を選択的に除去する。このウェットエッチングの際に用いるエッチング液としては、例えば塩酸及び水の混合液を挙げることができる。これにより、半導体領域80の表面を露出させる。以上により、半導体基板5上に半導体領域80が積層された構造を有する積層体300が得られる。
【0045】
(判定工程S109)
判定工程S109では、ドーパント濃度測定工程S105において得られたドーパント濃度の測定結果に基づき、半導体領域80を用いて半導体レーザ1を製造することの要否を判定する。具体的には、ドーパント濃度の測定結果が所望のドーパント濃度、例えばドーパント濃度の設計値を満足するか否かを評価して半導体レーザ1を製造することの要否を判定する。
【0046】
本実施形態では、半導体領域80及び半導体領域100が同一の半導体基板5上において、表面5aの法線方向(半導体基板5の厚さ方向)で同じ位置に形成されていることから、半導体領域80及び半導体領域100のドーパント濃度が成長炉内における組成の面内分布に依存することが抑制されるため、半導体領域80及び半導体領域100のドーパント濃度を同じ濃度に調整し易い。そのため、ドーパント濃度測定工程S105において設計値を満足するドーパント濃度が得られる場合には、半導体領域100と同一基板上に形成された半導体領域80のドーパント濃度も設計値を満足することが予想される。そのため、このような半導体領域80を用いて半導体レーザ1を製造することにより、ドーパント濃度が高精度に制御された半導体領域を有する半導体レーザ1を得ることができる。したがって、ドーパント濃度測定工程S105において設計値を満足するドーパント濃度が得られる場合には、半導体領域80を用いて半導体レーザ1を製造することを要すると判定工程S109において判定され、判定工程S109の後に半導体レーザ製造工程S111が行われる。
【0047】
一方、ドーパント濃度測定工程S105において設計値を満足するドーパント濃度が得られない場合には、半導体領域80のドーパント濃度についても設計値を満足していないことが予想される。そのため、このような半導体領域80を用いて半導体レーザ1を製造したとしても、ドーパント濃度が高精度に制御された半導体領域を有する半導体レーザを得ることはできないと予想される。したがって、ドーパント濃度測定工程S105において設計値を満足するドーパント濃度が得られない場合には、半導体領域80を用いて半導体レーザ1を製造することが不要であると判定工程S109において判定され、判定工程S109の後に基板再生工程S113が行われる。
【0048】
(半導体レーザ製造工程S111)
半導体レーザ製造工程S111では、判定工程S109において半導体レーザ1の製造を要すると判定された半導体領域80を用いて半導体レーザ1を製造する。
【0049】
半導体レーザ製造工程S111では、まず、例えばCVD法によって、エッチングマスクとなる絶縁層を半導体層21a上の全面に形成する。絶縁層は、絶縁性シリコン化合物からなり、例えばSiO膜である。次に、絶縁層上の全面にレジスト膜を形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いてこのレジスト膜を露光・現像することにより、所望のパターン(例えば半導体レーザ1の光導波方向となる方向に延びるパターン)を有するレジスト膜を形成する。続いて、レジスト膜を介して絶縁層に対しドライエッチングを施すことにより、図8(b)に示すように、半導体層21aの一部を覆うマスク層134をエッチングマスクとして形成する。ドライエッチングのエッチングガスとしては、例えばCFガスが用いられる。マスク層134を形成した後、レジスト膜を除去する。
【0050】
次に、マスク層134を介して半導体層21a、半導体層19a及び半導体層17aに対し反応性イオンエッチングを施し、図9(a)に示すように、これらの半導体層におけるマスク層134から露出した領域を除去する。この際、マスク層134から露出した領域では、半導体層21a及び半導体層19aは厚さ方向に全て除去されるのに対し、半導体層17aは層状部17Aが残存し隆起部17Bが形成されるように除去される。これにより、上部SCH層17の隆起部17Bと、上部クラッド層19と、コンタクト層21とから構成されるメサ部25が形成される。反応性イオンエッチングのエッチングガスとしては、例えばCH及びHの混合ガスが用いられる。
【0051】
続いて、バッファードフッ酸を用いたウェットエッチングにより、マスク層134を除去する。さらに、図9(b)に示すように、層状部17A上におけるメサ部25の側面側の領域をポリイミド等の絶縁層30で埋め込む。
【0052】
次に、半導体領域20の表面20s(メサ部25の頂面)上に上部電極40を形成すると共に、半導体基板5の裏面5bに下部電極50を形成することにより、図1に示す半導体レーザ1が得られる。
【0053】
(基板再生工程S113)
基板再生工程S113では、判定工程S109において半導体レーザ1の製造が不要であると判定された半導体領域80を除去して半導体基板5を再生する。基板再生工程S113では、半導体領域除去工程S107で得られた積層体300(図10(a))に対し反応性イオンエッチングを施すことにより、図10(b)に示すように、半導体領域80(半導体層21a、半導体層19a、半導体層17a、活性層15、下部SCH層13、下部クラッド層11)を除去して半導体基板5を再生する。エッチングガスとしては、例えばCH及びHの混合ガスが用いられる。
【0054】
基板再生工程S113の後、半導体領域形成工程S103を再度行い、積層体200と同様の構成を有する積層体を半導体基板5上に形成し、当該積層体を用いてドーパント濃度測定工程S105、半導体領域除去工程S107及び判定工程S109を行う。ドーパント濃度測定工程S105において設計値を満足するドーパント濃度が得られる場合には、半導体レーザ製造工程S111を行い、ドーパント濃度測定工程S105において設計値を満足するドーパント濃度が得られない場合には、基板再生工程S113を再度行う。
【0055】
本実施形態では、ドーパント濃度測定工程S105において設計値を満足するドーパント濃度が得られ、判定工程S109において半導体レーザ1の製造を要すると判定される半導体領域80が得られるまで、半導体領域形成工程S103、ドーパント濃度測定工程S105、半導体領域除去工程S107及び判定工程S109を繰り返し行うことができる。この場合、半導体領域80を用いた半導体レーザ1の製造が不要であると判定工程S109において判定された場合であっても、半導体基板5を破棄することなく半導体基板5を再生することで、同一の半導体基板5で半導体レーザ1を作製することができる。
【0056】
本実施形態に係る半導体レーザ1の製造方法では、半導体レーザ1を製造するための半導体領域80と、中間層90と、半導体レーザ1を製造するための半導体領域100とをこの順に半導体基板5上に形成しており、半導体領域100が半導体領域80上に形成される。これにより、半導体領域80及び半導体領域100を同一の半導体基板5上に一連の成膜工程にて連続して形成できると共に、半導体領域80及び半導体領域100のドーパント濃度が成長炉内における組成の面内分布に依存することが抑制されるため、半導体領域80及び半導体領域100のドーパント濃度を同じ濃度に調整し易くなる。その結果、半導体領域100のドーパント濃度に基づき半導体領域80のドーパント濃度の制御精度を把握し易くなる。そのため、本実施形態では、ドーパント濃度測定工程S105において、半導体レーザ1を製造するために半導体領域100のドーパント濃度を測定し、判定工程S109において、半導体領域80を用いて半導体レーザ1を製造することの要否をドーパント濃度の測定結果に基づき判定することにより、所望のドーパント濃度を有する半導体領域80を用いて半導体レーザ1を作製することができる。また、本実施形態では、中間層90を半導体領域80及び半導体領域100の間に介在させることにより、ドーパント濃度測定工程S105において分析痕132が半導体領域80に形成されることが抑制し易くなると共に、半導体領域除去工程S107において半導体領域100に加えて半導体領域80が除去されることを抑制し易いため、ドーパント濃度測定工程S105及び半導体領域除去工程S107を行う際に半導体領域80のドーパント濃度が変動することを抑制することができる。以上により、本実施形態によれば、ドーパント濃度が高精度に制御された半導体領域(半導体領域10及び半導体領域20)を有する半導体レーザ1を得ることができる。
【0057】
本発明は上述の実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。例えば、上述の実施形態では、半導体領域除去工程S107の後に判定工程S109を行っているが、ドーパント濃度測定工程S105及び半導体領域除去工程S107の間に判定工程S109を行ってもよい。この際、判定工程S109において半導体領域80を用いた半導体レーザ1の製造が不要であると判定された場合、半導体領域除去工程S107においてウェットエッチングにより中間層90及び半導体領域100を除去した後、基板再生工程S113において反応性イオンエッチングにより半導体領域80を除去してもよい。
【0058】
上述の実施形態では、判定工程S109において半導体領域80を用いた半導体レーザ1の製造が不要であると判定された場合に基板再生工程S113を行っているが、半導体基板5を再生することなく、別の半導体基板5を用いてもよい。この場合、判定工程S109において半導体レーザ1の製造を要すると判定される半導体領域80が得られるまで、半導体基板5を取り替えることができる。
【0059】
上述の実施形態では、ドーパント濃度測定工程S105において、一つの測定対象領域を用いて半導体領域100のドーパント濃度を測定しているが、複数個所を測定対象領域として半導体領域100のドーパント濃度のプロファイルを測定し、当該プロファイルに基づき、半導体領域80を用いて半導体レーザ1を製造することの要否を判定してもよい。
【0060】
なお、半導体レーザ1や積層体200の層構成は上記に限られるものではなく、例えば、上述の実施形態とは逆の導電型を各半導体層が有していてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…半導体レーザ、5…半導体基板、80…半導体領域(第1半導体領域)、90…中間層(第2半導体領域)、100…半導体領域(第3半導体領域)、S103…半導体領域形成工程、S105…ドーパント濃度測定工程、S107…半導体領域除去工程、S109…判定工程、S111…半導体レーザ製造工程、S113…基板再生工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザを製造するための第1半導体領域と、第2半導体領域と、前記半導体レーザを製造するための第3半導体領域とをこの順に半導体基板上に形成する半導体領域形成工程と、
前記第3半導体領域のドーパント濃度を測定する測定工程と、
前記測定工程の後、前記第3半導体領域及び前記第2半導体領域を除去する除去工程と、
前記第1半導体領域を用いて前記半導体レーザを製造することの要否を前記ドーパント濃度の測定結果に基づき判定する判定工程と、
前記判定工程において前記第1半導体領域を用いて前記半導体レーザの製造を要すると判定された場合、前記第1半導体領域を用いて前記半導体レーザを製造する工程と、を備える、半導体レーザの製造方法。
【請求項2】
前記測定工程において前記ドーパント濃度を二次イオン質量分析により測定する、請求項1に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項3】
前記測定工程において前記第3半導体領域を構成するそれぞれの半導体層の前記ドーパント濃度を測定する、請求項1又は2に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項4】
前記判定工程において前記第1半導体領域を用いて前記半導体レーザの製造が不要であると判定された場合、前記除去工程の後に前記第1半導体領域を除去して前記半導体基板を再生する再生工程を更に備え、
前記判定工程において前記半導体レーザの製造を要すると判定される前記第1半導体領域が得られるまで、前記再生工程で再生された前記半導体基板を用いて前記半導体領域形成工程、前記測定工程、前記除去工程及び前記判定工程を行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体レーザの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−124334(P2012−124334A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273980(P2010−273980)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】