説明

半導体レーザ素子

【課題】透明電極をクラッドとして機能させ、かつ活性層に発光ピークを整合させることができる半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子101は、n型クラッド層14、n型クラッド層14上に形成されたn型ガイド層15、n型ガイド層15上に形成された発光層10、および発光層10上に形成されたp型半導体層12を備えた窒化物半導体積層構造2と、p型半導体層12上に形成された透明電極5とを含む。n型ガイド層15は、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)とを周期的に積層した超格子層を有し、この超格子層の平均屈折率が2.6以下である。前記超格子層を構成するInGaN層のIn組成が発光層10のInGaN量子井戸層のIn組成よりも小さい。前記超格子層が発光層10に接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
1つの先行技術に係る半導体レーザ素子は、特許文献1に開示されている。この半導体レーザ素子は、基板と、この基板上に形成されたIII族窒化物半導体積層構造とを含む。III族窒化物半導体積層構造は、n型半導体層、発光層、およびp型半導体層を積層して構成されている。n型半導体層はn型AlGaNクラッド層およびn型GaN(またはInGaN)ガイド層を含み、p型半導体層はp型AlGaN電子ブロック層およびp型GaN(またはInGaN)ガイド・GaNコンタクト層を含む。p型GaN(またはInGaN)ガイド・GaNコンタクト層の表面に、ZnOからなるp型透明電極がオーミック接触している。p型電極は、上部クラッド層として兼用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−94360号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発明は、発振波長が400nm〜410nmの青紫色の光を発生する半導体レーザ素子であって、n型III族窒化物半導体層と、前記n型III族窒化物半導体層に積層され、InGaN量子井戸層を有する活性層と、前記活性層に積層されたp型III族窒化物半導体層と、前記p型III族窒化物半導体層に接触し、クラッドとしての機能を有する透明電極とを含み、前記n型III族窒化物半導体層が、n型クラッド層と、このn型クラッド層と前記活性層との間に配置されたn型ガイド層とを含み、前記n型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)とを周期的に積層した超格子層を有し、この超格子層の平均屈折率が2.6以下であって、前記InGaN層のIn組成が前記InGaN量子井戸層のIn組成よりも小さく、前記超格子層が前記活性層に接している、半導体レーザ素子である。
【0005】
この構成によれば、透明電極からp型III族窒化物半導体層を介して活性層に正孔が注入され、n型III族窒化物半導体から活性層に電子が注入される。それらの正孔および電子の再結合により発光が生じ、波長400nm〜410nmの青紫色の光が生じる。この光は、クラッドとして機能する透明電極とn型クラッド層との間で閉じ込められ、n型III族窒化物半導体層、活性層およびp型III族窒化物半導体層を含む窒化物半導体積層構造の積層方向と垂直な方向に伝搬する。この伝搬方向の両端に配置された共振器端面間で誘導放出を繰り返しながら光が共振増幅され、その一部がレーザ光として共振器端面から出射される。
【0006】
透明電極は、たとえば、酸化インジウム系材料、酸化亜鉛系材料、酸化ガリウム系材料および酸化錫系材料のうちの一種または二種以上を含む。このような材料で構成される透明電極は、III族窒化物半導体に比較して屈折率が小さい。そのため、n型III族窒化物半導体クラッド層と透明電極とで光閉じ込め構造を形成すると、発光ピーク(電界強度ピーク)が活性層よりもn型半導体層にずれやすくなる。とくに波長400nm〜410nmの青紫色の光を発生させるためには、活性層に含まれるInGaN量子井戸層のIn組成を小さく(たとえば6%程度)しなければならない。そのため、活性層の屈折率を大きくすることができず、活性層に発光ピークを整合させることが困難になる。これにより、十分な特性(たとえば十分に低い閾値)の半導体レーザ素子を得難くなる。この問題は、n型III族窒化物半導体クラッド層の屈折率を下げることによって解決できると考えられる。より具体的には、Al組成の大きなAlGaN層でn型クラッド層を形成すればよい。しかし、透明電極と屈折率をバランスさせるためにはAl組成を20%まで上げる必要があり、このようなAl組成の大きなAlGaN層は電気抵抗が大きい。しかも、たとえばGaN基板上に窒化物半導体積層構造を形成する場合には、Al組成の大きな(たとえばAl組成20%)AlGaN層はGaNとの格子不整合が大きいので、窒化物半導体積層構造にクラックが生じ、歩留まりの低下を招く。
【0007】
そこで、この発明では、n型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)とを周期的に積層した超格子層を有しており、その超格子層の平均屈折率が2.6以下とされている。より具体的には、InGaN層のIn組成および膜厚、ならびにAlGa1−XN層(0≦X<1)のAl組成Xおよび膜厚が、超格子層の平均屈折率が2.6以下となるように設計されている。そして、このような超格子層が活性層に接するように配置されている。これにより、活性層を挟んでp側とn側とで波長400nm〜410nmの青紫色の光に対する屈折率のバランスをとることができ、発光ピークを活性層に整合させることができる。それによって、十分な特性(とくに十分に低い閾値)の半導体レーザ素子を提供できる。なお、平均屈折率は、InGaN層の屈折率nInGaNおよび膜厚TInGaN、ならびにAlGa1−XN層(0≦X<1)の屈折率nAlGaN(X=0のときはGaNの屈折率nGaNに等しい)および膜厚TAlGaNを用いて、次式で表すことができる。分母は一周期の層厚(周期厚)であり、分子は一周期の光学膜厚である。
【0008】
【数1】

【0009】
InGaN単膜でn型ガイド層を形成することが考えられるが、たとえばGaN基板上に形成されたInGaN単膜にはGaN基板からの貫通転位が生じやすく、その貫通転位が漏れ電流の原因となる。そこで、この発明では、n型ガイド層は、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)との超格子層を含む。これにより、貫通転位に起因する漏れ電流を抑制または防止できる。
【0010】
n型ガイド層内の超格子層を形成するInGaN層のIn組成が大きいと、活性層よりも屈折率が大きくなるおそれがあるうえ、活性層へのキャリヤの閉じ込めが弱くなる。そこで、超格子層を構成するInGaN層のIn組成は、活性層内のInGaN量子井戸層のIn組成よりも小さくされる。
請求項2記載の発明は、前記n型ガイド層の光学膜厚が1000Å以上4000Å以下である、請求項1に記載の半導体レーザ素子である。光学膜厚は、物理的な膜厚(絶対膜厚)と膜材料の屈折率との積によって与えられる。したがって、前記超格子層の光学膜厚は、超格子層の繰り返し周期数(InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)とのペア数)Nを用いて、次式で与えられる。
【0011】
光学膜厚=(nInGaN・TInGaN+nAlGaN・TAlGaN)×N
n型ガイド層の光学膜厚が小さいほど閾値が小さくなるが、1000Å未満では、発振しなくなるおそれがある。また、n型ガイド層の光学膜厚が4000Åを超えると、光学膜厚の増加に対する閾値の増加率が大きくなり、特性が悪くなるおそれがある。
波長400nm〜410nmの青紫色の光を発生する活性層は、InGaN量子井戸層のIn組成が6%以上とされる。そこで、活性層において屈折率が最も高くなるようにして発光ピークを活性層に整合させるとともに活性層にキャリヤを良好に閉じ込めるためには、請求項3に記載されているように、前記超格子層を形成するInGaN層のIn組成が6%以下であることが好ましい。また、請求項4に記載されているように前記超格子層を形成するInGaN層のIn組成を4%以下としても、平均屈折率が2.6以下の超格子層を形成できる。超格子層内のInGaN層のIn組成を4%以下とすることにより、活性層への光閉じ込めおよびキャリヤの閉じ込めが一層良好になる。
【0012】
請求項5に記載されているように、前記超格子層を形成するAlGa1−XN層のAl組成Xが零であってもよい。すなわち、前記超格子層は、InGaN層とGaN層とを周期的に積層した超格子層であってもよい。
また、請求項6に記載されているように、前記超格子層を形成するAlGa1−XN層のAl組成Xが0<X≦0.04であってもよい。AlGa1−XN(X>0)の屈折率は、GaNの屈折率よりも小さく、Al組成が大きいほど小さくなる。したがって、AlGa1−XN層(X>0)を用いることによって、n型ガイド層の物理的な膜厚(絶対膜厚)を大きくしても、n型ガイド層の平均屈折率を2.6以下とすることができる。したがって、n型ガイド層の物理的な膜厚の範囲を広くとることができるので、設計の自由度が高まる。たとえば、n型ガイド層の光学膜厚を1000Å〜4000Åとしながら、n型ガイド層の物理的な膜厚を比較的大きくすることが可能となる。これにより、たとえば、n型ガイド層の物理的な膜厚を大きくとって発光強度の向上を図り、それによって、輝度の高い半導体レーザ素子を実現できる。
【0013】
一方、AlGa1−XN層のAl組成Xがあまり大きいと、n型クラッド層よりもn型ガイド層の屈折率が低くなってしまい、光閉じ込めが不良になるおそれがある。そこで、Al組成Xは、0.04以下(4%以下)とすることが好ましい。
請求項7記載の発明は、前記活性層が、アンドープのInGaNまたはアンドープのGaNからなる障壁層(たとえば厚さ200Å以下)と、前記InGaN量子井戸層とを交互に積層した多重量子井戸構造を有しており、前記超格子層を構成するInGaN層が前記障壁層に接している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子である。
【0014】
この構成によれば、超格子層を構成するInGaN層が活性層の障壁層に接することにより、超格子層および活性層が、それらの間に他の層を介在させることなく、直に接している。したがって、屈折率の低い超格子層を活性層に接して配置できるので、活性層に発光ピークを整合させることができる。たとえば、窒化物半導体積層構造をGaN基板上に形成する場合に、GaN基板との格子整合の観点からは、超格子層はAlGa1−XN層(0≦X<1)から成長開始される。この場合、超格子層の最後の層(最上層)は、InGaN層となる。このInGaN層が活性層の障壁層と接することになる。
【0015】
前記多重量子井戸構造は、In組成2%〜3%のInGaN障壁層と、In組成6%程度のInGaN量子井戸層とを交互に積層した超格子構造を有していてもよい。また、前記多重量子井戸構造は、GaN障壁層と、In組成6%程度のInGaN量子井戸層とを交互に積層した超格子構造を有していてもよい。
請求項8記載の発明は、発振波長が400nm〜410nmの青紫色の光を発生する半導体レーザ素子であって、n型III族窒化物半導体層と、前記n型III族窒化物半導体層に積層され、InGaN量子井戸層を有する活性層と、前記活性層に積層されたp型III族窒化物半導体層と、前記p型III族窒化物半導体層に接触し、クラッドとしての機能を有する透明電極とを含み、前記p型III族窒化物半導体層が、AlGaNからなるp型電子ブロック層を含み、そのAl組成が15%以上25%以下である、半導体レーザ素子である。
【0016】
この構成によれば、透明電極からp型III族窒化物半導体層を介して活性層に正孔が注入され、n型III族窒化物半導体から活性層に電子が注入される。それらの正孔および電子の再結合により発光が生じ、波長400nm〜410nmの青紫色の光が生じる。この光は、クラッドとして機能する透明電極とn型クラッド層との間で閉じ込められ、n型III族窒化物半導体層、活性層およびp型III族窒化物半導体層を含む窒化物半導体積層構造の積層方向と垂直な方向に伝搬する。この伝搬方向の両端に配置された共振器端面間で誘導放出を繰り返しながら光が共振増幅され、その一部がレーザ光として共振器端面から出射される。
【0017】
透明電極は、たとえば、酸化インジウム系材料、酸化亜鉛系材料、酸化ガリウム系材料および酸化錫系材料のうちの一種または二種以上を含む。このような材料で構成される透明電極は、III族窒化物半導体に比較して屈折率が小さい。そのため、n型III族窒化物半導体クラッド層と透明電極とで光閉じ込め構造を形成すると、発光ピーク(電界強度ピーク)が活性層よりもn型半導体層にずれやすくなる。しかも、AlGaNからなるp型電子ブロック層は屈折率が小さく、発光ピークがn側にずれる傾向を助長している。とくに波長400nm〜410nmの青紫色の光を発生させるためには、活性層に含まれるInGaN量子井戸層のIn組成を小さく(たとえば6%程度)しなければならない。そのため、活性層の屈折率を大きくすることができず、活性層に発光ピークを整合させることが困難になる。これにより、十分な特性(たとえば十分に低い閾値)の半導体レーザ素子を得難くなる。この問題は、n型III族窒化物半導体クラッド層の屈折率を下げることによって解決できると考えられる。より具体的には、Al組成の大きなAlGaN層でn型クラッド層を形成すればよい。しかし、透明電極と屈折率をバランスさせるためにはAl組成を20%まで上げる必要があり、このようなAl組成の大きなAlGaN層は電気抵抗が大きい。しかも、たとえばGaN基板上に窒化物半導体積層構造を形成する場合には、Al組成の大きな(たとえばAl組成20%)AlGaN層はGaNとの格子不整合が大きいので、窒化物半導体積層構造にクラックが生じ、歩留まりの低下を招く。
【0018】
そこで、この発明では、p型電子ブロック層が、Al組成15%〜25%のAlGaN層で構成されている。これにより、発光ピークを活性層に近づけることができ、十分なレーザダイオード特性(とくに十分に低い閾値)を実現することができる。光閉じ込めの観点からはAl組成は低いほどよいが、Al組成15%未満では活性層からの電子を十分にブロックすることができなくなり、閾値低減効果が飽和するうえ、高電流領域での光出力が低くなるおそれがある。また、Al組成25%を超えると、p型電子ブロック層の屈折率が小さくなりすぎ、活性層への光閉じ込めが不良になるおそれがある。
【0019】
請求項9記載の発明は、前記p型電子ブロック層の光学膜厚が300Å以下である、請求項8に記載の半導体レーザ素子である。この構成により、屈折率の低い電子ブロック層の厚さを抑制できるので、発光ピークを活性層に整合させることができる。光学膜厚とは、p型電子ブロック層を構成するAlGaN層の屈折率と、そのAlGaN層の層厚との積である。p型電子ブロック層を薄くし過ぎると、活性層からの電子をブロックする効果が弱くなるので、p型電子ブロック層は、80Å以上の膜厚とされることが好ましい。
【0020】
請求項10記載の発明は、前記p型III族窒化物半導体層が、前記p型電子ブロック層と前記活性層との間に配置された、AlX1Ga1−X1N(0≦X1<1)からなるp型ガイド層をさらに含む、請求項8または9に記載の半導体レーザ素子である。p型AlGaN電子ブロック層を成長させるときの成長温度(たとえば1050℃程度)は、InGaN量子井戸層を含む活性層を成長させるときの成長温度(たとえば850℃程度)よりも高い。そのため、半導体レーザ素子の製造工程において、活性層の成長を終えてから、基板温度の上昇を待って、p型AlGaN電子ブロック層を成長させる必要がある。この待機期間中には、活性層の最表面(結晶表面)が雰囲気中の不純物にさらされるから、結晶表面が荒れてしまうおそれがある。そこで、この発明では、活性層とp型電子ブロック層との間に、AlX1Ga1−X1N(0≦X1<1)からなるp型ガイド層が配置されている。活性層を成長し終えた後の昇温過程においてp型ガイド層を形成し、つづけてp型AlGaN電子ブロック層を形成すれば、活性層からp型電子ブロック層まで、結晶成長を連続させることができる。これにより、活性層の表面が荒れることを回避できるので、半導体レーザ素子の特性(とくに閾値)を向上できる。
【0021】
活性層への電子注入効率を高めるためには、p型電子ブロック層を活性層にできるだけ近づけて配置することが好ましい。したがって、請求項11に記載されているように、前記p型ガイド層の層厚を0〜500Åとすることが好ましい。
請求項12記載の発明は、n型III族窒化物半導体層と、前記n型III族窒化物半導体層に積層された活性層と、前記活性層に積層されたp型III族窒化物半導体層と、前記p型III族窒化物半導体層に接触し、クラッドとしての機能を有する透明電極とを含み、前記n型III族窒化物半導体層が、n型クラッド層と、このn型クラッド層と前記活性層との間に配置されたn型ガイド層とを含み、前記n型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)とを周期的に積層した超格子層からなる第1ガイド層と、前記第1ガイド層と前記n型クラッド層との間に配置されInX2Ga1−X2N層(0≦X2<1)からなる第2ガイド層とを含む、半導体レーザ素子である。
【0022】
この構成によれば、透明電極からp型III族窒化物半導体層を介して活性層に正孔が注入され、n型III族窒化物半導体から活性層に電子が注入される。それらの正孔および電子の再結合により発光が生じる。この光は、クラッドとして機能する透明電極とn型クラッド層との間で閉じ込められ、n型III族窒化物半導体層、活性層およびp型III族窒化物半導体層を含む窒化物半導体積層構造の積層方向と垂直な方向に伝搬する。この伝搬方向の両端に配置された共振器端面間で誘導放出を繰り返しながら光が共振増幅され、その一部がレーザ光として共振器端面から出射される。
【0023】
透明電極は、たとえば、酸化インジウム系材料、酸化亜鉛系材料、酸化ガリウム系材料および酸化錫系材料のうちの一種または二種以上を含む。このような材料で構成される透明電極は、III族窒化物半導体に比較して屈折率が小さい。そのため、n型III族窒化物半導体クラッド層と透明電極とで光閉じ込め構造を形成すると、発光ピーク(電界強度ピーク)が活性層よりもn型半導体層にずれやすくなる。とくに波長400nm〜410nmの青紫色の光を発生させる場合に、活性層は、In組成の小さな(たとえば6%程度)のInGaN量子井戸層を有する構成とされることがある。そのため、活性層の屈折率を大きくすることができず、活性層に発光ピークを整合させることが困難になる。これにより、十分な特性(たとえば十分に低い閾値)の半導体レーザ素子を得難くなる。この問題は、n型III族窒化物半導体クラッド層の屈折率を下げることによって解決できると考えられる。より具体的には、Al組成の大きなAlGaN層でn型クラッド層を形成すればよい。しかし、透明電極と屈折率をバランスさせるためにはAl組成を20%まで上げる必要があり、このようなAl組成の大きなAlGaN層は電気抵抗が大きい。しかも、たとえばGaN基板上に窒化物半導体積層構造を形成する場合には、Al組成の大きな(たとえばAl組成20%)AlGaN層はGaNとの格子不整合が大きいので、窒化物半導体積層構造にクラックが生じ、歩留まりの低下を招く。
【0024】
そこで、この発明では、n型クラッド層と活性層との間に配置されるn型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)とを周期的に積層した超格子層からなる第1ガイド層を含む。これにより、第1ガイド層の屈折率は、p側のクラッド層を構成する透明電極との間でバランスがとれるように、低くすることができる。より具体的には、発光波長が波長400nm〜410nmである場合に、前記超格子層の平均屈折率を2.6以下とすることができる。より具体的には、InGaN層のIn組成および膜厚ならびにAlGa1−XN層(0≦X<1)のAl組成Xおよび膜厚を、超格子層の平均屈折率が2.6以下となるように設計することができる。これにより、活性層を挟んでp側とn側とで屈折率のバランスをとることができ、発光ピークを活性層に整合させることができる。それによって、十分な特性(とくに十分に低い閾値)の半導体レーザ素子を提供できる。
【0025】
一方、n型クラッド層と第1ガイド層とは組成が異なるので、それに応じて結晶成長時の温度が異なる。すなわち、InGaN/AlGa1−XN超格子層(0≦X<1)からなる第1ガイド層の成長温度(たとえばInGaN/GaN超格子層では850℃)は、たとえばn型クラッド層を第1ガイド層の平均屈折率よりも屈折率の低いAlGaN層で構成する場合の成長温度(たとえば1050℃)よりも低い。そのため、半導体レーザ素子の製造工程において、n型クラッド層の成長を終えてから、基板温度の降下を待って、第1ガイド層を成長させる必要がある。この待機期間中には、n型クラッド層の最表面(結晶表面)が雰囲気中の不純物にさらされるから、結晶表面が荒れてしまう(たとえば酸化される)おそれがある。そこで、この発明では、n型ガイド層は、第1ガイド層とn型クラッド層との間に配置されInX2Ga1−X2N層(0≦X2<1)からなる第2ガイド層を含む。n型クラッド層を成長し終えた後の降温過程において第2ガイド層を形成し、つづけて第1ガイド層(超格子層)を形成すれば、n型クラッド層から第1ガイド層まで、結晶成長を連続させることができる。これにより、n型クラッド層の表面が荒れることを回避できるので、半導体レーザ素子の特性(とくに閾値)を向上できる。
【0026】
請求項13に記載されているように、前記第1ガイド層の平均In組成と前記第2ガイド層の平均In組成とが異なっていてもよい。n型クラッド層の成長の後、第1ガイド層の成長に適した温度までの降温過程で第2ガイド層を形成すると、第1ガイド層および第2ガイド層の平均In組成は互いに異なる値となる。より具体的には、請求項14に記載されているように、前記第2ガイド層は、層厚方向に関してIn組成X2が傾斜しているInX2Ga1−X2N単膜からなっていてもよい。降温過程で結晶成長を継続すると、第2ガイド層のIn組成は層厚方向に関して傾斜することになる。
【0027】
請求項15に記載されているように、前記第2ガイド層の光学膜厚が500Å以下であることが好ましい。InX2Ga1−X2N層(0≦X2<1)は、屈折率が比較的高いので、第2ガイド層を厚く形成すると、発光ピークがn側に偏りやすくなる。そこで、第2ガイド層の光学膜厚を可能な限り薄くすることによって、発光ピークを活性層に整合させることができる。具体的には、光学膜厚を500Å以下としておけば、素子特性(とくに閾値)に大きな影響を与えることなく、窒化物半導体積層構造の結晶品質を向上できる。光学膜厚とは、第2ガイド層の屈折率(平均屈折率)と膜厚との積である。
【0028】
さらに、請求項16に記載されているように、前記第2ガイド層の平均In組成が、前記第1ガイド層の超格子層を形成するInGaN層のIn組成よりも小さいことが好ましい。これにより、第2ガイド層の屈折率を第1ガイド層よりも低くできるから、発光ピークがn側に偏ることを抑制できる。
請求項17に記載されているように、前記第2ガイド層が、アンドープのInX2Ga1−X2N層であってもよい。これにより、第2ガイド層は、光ガイド層としての機能を有することができる。アンドープのInX2Ga1−X2N層は、n型の導電型を示す。
【0029】
請求項18記載の発明は、発振波長が400nm〜410nmの青紫色の光を発生する半導体レーザ素子であって、n型III族窒化物半導体層と、前記n型III族窒化物半導体層に積層され、InGaN量子井戸層を有する活性層と、前記活性層に積層されたp型III族窒化物半導体層と、前記p型III族窒化物半導体層に接触し、クラッドとしての機能を有する透明電極とを含み、前記n型III族窒化物半導体層が、n型クラッド層と、このn型クラッド層と前記活性層との間に配置されたn型ガイド層とを含み、前記n型クラッド層が、AlGaNからなり、そのAl組成が4%よりも大きく9%よりも小さい、半導体レーザ素子である。
【0030】
この構成によれば、透明電極からp型III族窒化物半導体層を介して活性層に正孔が注入され、n型III族窒化物半導体から活性層に電子が注入される。それらの正孔および電子の再結合により発光が生じ、波長400nm〜410nmの青紫色の光が生じる。この光は、クラッドとして機能する透明電極とn型クラッド層との間で閉じ込められ、n型III族窒化物半導体層、活性層およびp型III族窒化物半導体層を含む窒化物半導体積層構造の積層方向と垂直な方向に伝搬する。この伝搬方向の両端に配置された共振器端面間で誘導放出を繰り返しながら光が共振増幅され、その一部がレーザ光として共振器端面から出射される。
【0031】
透明電極は、たとえば、酸化インジウム系材料、酸化亜鉛系材料、酸化ガリウム系材料および酸化錫系材料のうちの一種または二種以上を含む。このような材料で構成される透明電極は、III族窒化物半導体に比較して屈折率が小さい。そのため、n型III族窒化物半導体クラッド層と透明電極とで光閉じ込め構造を形成すると、発光ピーク(電界強度ピーク)が活性層よりもn型半導体層にずれやすくなる。とくに波長400nm〜410nmの青紫色の光を発生させるためには、活性層に含まれるInGaN量子井戸層のIn組成を小さく(たとえば6%程度)しなければならない。そのため、活性層の屈折率を大きくすることができず、活性層に発光ピークを整合させることが困難になる。これにより、十分な特性(たとえば十分に低い閾値)の半導体レーザ素子を得難くなる。この問題は、n型III族窒化物半導体クラッド層の屈折率を下げることによって解決できると考えられる。より具体的には、Al組成の大きなAlGaN層でn型クラッド層を形成すればよい。しかし、透明電極と屈折率をバランスさせるためにはAl組成を20%まで上げる必要があり、このようなAl組成の大きなAlGaN層は電気抵抗が大きい。しかも、たとえばGaN基板上に窒化物半導体積層構造を形成する場合には、Al組成の大きな(たとえばAl組成20%)AlGaN層はGaNとの格子不整合が大きいので、窒化物半導体積層構造にクラックが生じ、歩留まりの低下を招く。
【0032】
この発明では、n型AlGaNクラッド層のAl組成が4%〜9%とされている。Al組成を4%以下とすると、n型クラッド層の屈折率が高く、発光ピークが活性層に対してn側に偏り、閾値が高くなる。一方、Al組成を9%以上とすると、たとえば1μm〜1.5μmの膜厚のn型AlGaNクラッド層を形成したときに、全面にクラックが生じる。
【0033】
請求項19記載の発明は、前記n型クラッド層が、AlX3Ga1−X3N層(0<X3<1)とAlX4Ga1−X4N層(0<X4<X3)とを周期的に積層した超格子層を含み、前記超格子層の平均Al組成が4%よりも大きく9%よりも小さい、請求項18に記載の半導体レーザ素子である。
この構成によれば、n型クラッド層がAl組成の異なる一対のAlGaN層を交互に積層した超格子層を有している。このような超格子層では、クラックを生じることなく、平均Al組成を高くすることができる。これにより、歩留まり低下を招くことなく、発光ピークを活性層に整合させることができる。
【0034】
請求項20記載に記載されているように、n型クラッド層の全部が前記超格子層であってもよい。これにより、平均Al組成の大きなn型クラッド層を、クラックを生じることなく厚く(たとえば1μm〜1.5μm)に形成することができる。
また、請求項21に記載されているように、前記n型クラッド層が、前記超格子層と、前記超格子層以外のAlGaN層とを含む構成としてもよい。この場合、請求項22に記載されているように、前記超格子層以外のAlGaN層が、前記超格子層よりも前記活性層に近い側に配置されていることが好ましい。さらに、この場合に、請求項23に記載されているように、前記超格子層の平均Al組成が、前記超格子層以外のAlGaN層の平均Al組成よりも大きいことが好ましい。超格子層の平均Al組成は、AlGaN単膜のAl組成よりも大きくすることができる。平均Al組成の大きな超格子層は、屈折率が低いので、活性層よりも遠くに配置することで、発光ピークを活性層に整合させやすくなる。
【0035】
請求項24記載の発明は、前記n型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X≦0.04)を周期的に積層した超格子層を含み、前記n型クラッド層が前記n型ガイド層に対して前記活性層とは反対側から接している、請求項18〜20のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子である。
この構成によれば、n型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X≦0.04)とを周期的に積層した超格子層を有している。これにより、n型ガイド層の屈折率を低く(たとえば2.6以下)6とすることができるので、活性層を挟んでp側とn側とで波長400nm〜410nmの青紫色の光に対する屈折率のバランスをとることができ、発光ピークを活性層に整合させることができる。それによって、十分な特性(とくに十分に低い閾値)の半導体レーザ素子を提供できる。
【0036】
請求項25に記載されているように、前記n型ガイド層の超格子層を形成するAlGa1−XN層のAl組成Xが零であってもよい。すなわち、前記超格子層は、InGaN層とGaN層とを周期的に積層した超格子層であってもよい。
また、前記超格子層を形成するAlGa1−XN層のAl組成Xが0<X≦0.04であってもよい。AlGa1−XN(X>0)の屈折率は、GaNの屈折率よりも小さく、Al組成が大きいほど小さくなる。したがって、AlGa1−XN層(X>0)を用いることによって、n型ガイド層の物理的な膜厚(絶対膜厚)を大きくしても、n型ガイド層の平均屈折率を2.6以下とすることができる。したがって、n型ガイド層の物理的な膜厚の範囲を広くとることができるので、設計の自由度が高まる。たとえば、n型ガイド層の光学膜厚を1000Å〜4000Åとしながら、n型ガイド層の物理的な膜厚を比較的大きくすることが可能となる。これにより、たとえば、n型ガイド層の物理的な膜厚を大きくとって発光強度の向上を図り、それによって、輝度の高い半導体レーザ素子を実現できる。一方、AlGa1−XN層のAl組成Xがあまり大きいと、Al組成が4%〜9%のAlGaNからなるn型クラッド層よりもn型ガイド層の屈折率が低くなってしまい、光閉じ込めが不良になるおそれがある。そこで、Al組成Xは、0.04以下(4%以下)とすることが好ましい。
【0037】
いずれの発明においても、前記窒化物半導体積層構造は、p型半導体クラッド層を有していなくてもよい。窒化物半導体積層構造がp型半導体クラッド層を有する場合には、窒化物半導体積層構造の形成工程において、比較的低温で活性層(発光層)を形成してから、活性層よりも高い温度でp型半導体クラッド層を形成することになる。そのため、p型半導体クラッド層を形成する際に、活性層に対して熱によるダメージが加わる虞がある。それに対して、この発明では、窒化物半導体積層構造がp型半導体クラッド層を有していなくてもよいので、窒化物半導体積層構造の形成工程において活性層に対して熱によるダメージが加わるといった不具合を防止できる。
【0038】
また、いずれの発明においても、前記透明電極は、p型III族窒化物半導体層に接して形成され酸化インジウム系の材料からなる第1導電性膜と、第1導電性膜に積層され酸化亜鉛系、酸化ガリウム系または酸化錫系の材料からなる第2導電性膜とを含むことが好ましい。
透明電極は、n型クラッド層との間で発光層の光を閉じ込めるために、ある程度の厚さを有する必要がある。しかし、酸化インジウム系の材料からなる第1導電性膜は、成膜速度が遅いので、第1導電性膜だけで透明電極を構成すると、必要な厚さまで成長させるのに時間がかかってしまう。一方、酸化亜鉛系、酸化ガリウム系または酸化錫系の材料からなる第2導電性膜は、成膜速度は比較的速いものの、p型窒化物半導体に対する接触抵抗が高い。そこで、p型III族窒化物半導体層に接触する部分を酸化インジウム系の材料からなる第1導電性膜で構成して接触抵抗の低減を図り、その一方で、第1導電性膜の上に酸化亜鉛系、酸化ガリウム系または酸化錫系の材料からなる第2導電性膜を積層することによって、必要膜厚の透明電極の形成速度を早めることができる。より具体的には、第1導電性膜を必要最小限の膜厚に形成することにより、透明電極の形成に要する時間を短くでき、それによって生産性を向上できる。
【0039】
前記p型半導体層は、前記活性層上に積層された第1p型ガイド層と、前記第1p型ガイド層上に積層されたp型電子ブロック層と、前記p型電子ブロック層上に積層され前記第1p型ガイド層よりもp型不純物濃度が高い第2p型ガイド層と、前記第2p型ガイド層上に積層され前記第2p型ガイド層よりもp型不純物濃度が高いp型コンタクト層とを含んでいてもよい。
【0040】
この構成により、第1および第2p型ガイド層の間に配置されたp型電子ブロック層は、電子を活性層へと反射し、活性層への電子注入効率を高める。p型電子ブロック層を挟んで配置された第1および第2p型ガイド層は、活性層へのキャリヤ閉じ込めおよび光閉じ込めに寄与する。p型コンタクト層は、透明電極と接する。p型コンタクト層は、そのp型不純物濃度が高くされているので、透明電極との接触抵抗が低くなっている。第2p型ガイド層はp型コンタクト層よりもp型不純物濃度が低く、さらに第1p型ガイド層は第2p型ガイド層よりもp型不純物濃度が低い。すなわち、活性層に近づくほど、p型不純物濃度が低くなっており、不純物による光の吸収を抑制する構造となっている。
【0041】
少なくとも前記p型コンタクト層の一部が掘り込まれてリッジ部が形成されていてもよい。これにより、リッジ部に電流を集中させる電流狭窄構造を形成することができる。リッジ部は、共振器方向に沿ってストライプ状に形成されることが好ましい。そして、リッジ部の両側には、絶縁膜が配置されることが好ましい。これにより、p型コンタクト層を含むp型半導体層の層厚を或る程度確保して縦方向の光閉じ込めを図りつつ、絶縁膜を発光層に近づけて配置することにより横方向の光閉じ込めを強化できる。これにより、発振閾値を低減できる。
【0042】
前記第2p型ガイド層の層厚は、50nm以下であることが好ましい。とくに、前述のようなリッジ部が形成される場合に、第2p型ガイド層の層厚を50nm以下とすることにより、リッジ部の両側の絶縁膜を発光層に一層近づけることができる。これにより、横方向の光閉じ込めを一層強化できるので、発振閾値の低減に寄与できる。
さらに、前記p型コンタクト層のp型不純物濃度が1×1020cm−3以上であり、前記第1p型ガイド層および前記第2p型ガイド層のp型不純物濃度が5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましい。この構成により、p型コンタクト層と第2導電性膜との接触抵抗を低減し、かつ第1および第2p型ガイド層による光の吸収を抑制できる。
【0043】
前記p型半導体層の総膜厚は、1500Å以下であることが好ましい。これにより、素子の薄型化を図ることができる。
以上の特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を説明するための模式的な斜視図であり、要部を切り欠いて示している。
【図2】図2は、共振器方向に直交する切断面を示す模式的な断面図である。
【図2A】図2Aは、前記半導体レーザ素子の一部の構成を拡大して示す模式的な断面図である。
【図3】図3は、第1n型ガイド層のIn組成と発振閾値との関係を示す図である。
【図4】図4は、第1n型ガイド層(InGaN/GaN超格子層)の光学膜厚と発振閾値との関係を示す。
【図5】図5は、p型電子ブロック層のAl組成と発振閾値との関係を示す。
【図6】図6は、Al組成と光出力との関係を示す。
【図7】図7は、p型電子ブロック層の層厚と発振閾値との関係を示す。
【図8】図8は、第1p型ガイド層の層厚(p型電子ブロック層と発光層との距離)と、発振閾値との関係を調べた結果を示す。
【図9】図9は、第2n型ガイド層の層厚と発振閾値との関係を調べた結果を示す。
【図10】図10は、n型クラッド層のAl組成と発振閾値との関係を調べた結果を示す。
【図11】図11は、p型GaNコンタクト層および第2p型GaNガイド層の各層厚と閾値電流との関係を計算した結果を示す。
【図12】図12は、この発明の他の実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を説明するための模式的な部分断面図である。
【図13】図13は、この発明のさらに他の実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を説明するための模式的な断面図である。
【図14】図14は、図2Aに示す構造について、第1n型ガイドの物理的な膜厚絶対膜厚)とフォトルミネッセンス(PL)強度との関係を調べた実験結果である。
【図15】図15は、第1n型ガイド層を形成する超格子の構成例を説明するための図である。
【図16】図16は、図15に示した各組合せの超格子層で第1n型ガイド層を構成した場合における半導体レーザ素子の発振閾値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ素子の構成を説明するための模式的な斜視図であり、要部を切り欠いて示してある。図2は、共振器方向に直交する切断面を示す模式的な断面図である。
この半導体レーザ素子101は、基板1と、基板1上に結晶成長(エピタキシャル成長)によって形成された窒化物半導体積層構造2と、基板1の裏面(窒化物半導体積層構造2と反対側の表面)に接触するように形成されたn側電極パッド3と、窒化物半導体積層構造2の表面に接触するように形成された絶縁膜4と、絶縁膜4上に形成されて窒化物半導体積層構造2の表面に部分的に接触するp側電極としての透明電極5と、透明電極5上に形成されたp側電極パッド6とを備えたファブリペロー型のものである。
【0046】
基板1は、この実施形態では、GaN単結晶基板で構成されている。この基板1は、たとえばc面を主面としたものであり、この主面上における結晶成長によって、窒化物半導体積層構造2が形成されている。したがって、窒化物半導体積層構造2は、c面を結晶成長主面とする窒化物半導体からなる。むろん、基板1の主面をm面やa面としてもよく、いずれの場合も、窒化物半導体積層構造2の結晶成長主面は基板1の主面の結晶面に従う。
【0047】
窒化物半導体積層構造2は、発光層10(活性層)と、n型半導体層11と、p型半導体層12とを備えている。各図において、ドットを付した部分が発光層10である。n型半導体層11は、発光層10に対して基板1側に配置されており、p型半導体層12は、発光層10に対して透明電極5側に配置されている。こうして、発光層10が、n型半導体層11およびp型半導体層12によって挟持されていて、ダブルヘテロ接合が形成されている。発光層10には、n型半導体層11から電子が注入され、p型半導体層12から正孔が注入される。これらが発光層10で再結合することにより、光が発生するようになっている。
【0048】
n型半導体層11は、基板1側から順に、n型クラッド層14(たとえば1.0μm厚)およびn型ガイド層15(たとえば100nm厚)を積層して構成されている。
一方、p型半導体層12は、発光層10上に形成されている。p型半導体層12は、全体で、Mgを1×1019cm-3以上の濃度で含んでいる。p型半導体層12は、発光層10側から順に、第1p型ガイド層171、p型電子ブロック層16(たとえば100Å厚)、第2p型ガイド層172、およびp型コンタクト層173(たとえば100nm厚)を積層して構成されている。p型コンタクト層173は、p型半導体層12における透明電極5側の表層部に位置している。
【0049】
発光層10は、たとえばInGaN量子井戸層を含む多重量子井戸(MQW:Multiple-Quantum Well)構造を有しており、電子と正孔とが再結合することにより光が発生し、その発生した光を増幅させるための層である。発光層10は、具体的には、図2Aに拡大して示すように、アンドープInGaN層51(100Å厚以下。たとえば3nm厚)とアンドープGaN層またはアンドープInGaN層52(20nm厚以下。たとえば9nm厚)とを交互に複数周期繰り返し積層して構成されている。この場合に、InGaN層51は、Inの組成比が5%以上とされることにより、バンドギャップが比較的小さくなり、量子井戸層を構成する。一方、GaN層またはInGaN層52は、バンドギャップが比較的大きなバリア層(障壁層)として機能する。たとえば、InGaN層51とバリア層52とは交互に2〜7周期繰り返し積層されて、MQW構造の発光層10が構成されている。発光波長は、量子井戸層(InGaN層51)におけるInの組成を調整することによって、たとえば、400nm以上410nm以下とされている。発光波長を405nm近傍の青紫色領域とするときには、量子井戸層におけるIn組成は、6%〜8%(たとえば、7%)とするとよい。前記MQW構造は、Inを含む量子井戸の数が3以下とされることが好ましい。
【0050】
第1p型ガイド層171には、p型不純物としてのMgが、たとえば5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下の濃度でドーピングされており、その厚さは、0〜500Å程度である。第1p型ガイド層171はp型AlX1Ga1−X1N層(0≦X1<1。X1=0のときはGaN層となる)であってもよい。
p型コンタクト層173は、共振器方向に沿うストライプ状のリッジ部を形成している。すなわち、p型コンタクト層173は、ストライプ状に成形されていて、共振器直交方向の両側が第2p型ガイド層172まで掘り切られている。
【0051】
p型電子ブロック層16は、Al組成が15%〜25%のp型AlGaNまたはp型AlInGaNからなり、その厚さは300Å以下、たとえば200Å程度である。p型電子ブロック層16は、第1p型ガイド層171と第2p型ガイド層172との間に形成されている。p型電子ブロック層16は、AlGaNまたはAlInGaNにp型ドーパントとしてのたとえばMgをドープ(ドーピング濃度は、たとえば、5×1019cm−3以上)して形成されたp型半導体であり、発光層10からの電子の流出を防いで、電子および正孔の再結合効率を高めている。
【0052】
第2p型ガイド層172は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下の濃度で、かつ第1p型ガイド層171よりも高濃度でp型不純物を含む。第2p型ガイド層172はp型GaN層であってもよい。第2p型ガイド層172は、p型電子ブロック層16の全域を覆うように形成されており、たとえば50nm以下の厚さに形成されている。p型コンタクト層173は、たとえばp型GaN層からなり、p型不純物としてのMgが、第2p型ガイド層172よりも高濃度にドーピングされている。たとえば、p型コンタクト層173のp型不純物濃度(Mg濃度)は、1×1020cm−3以上であることが好ましい。p型コンタクト層173の層厚は30nm程度であってもよい。素子の薄型化のためには、p型半導体層12は、リッジ部を構成するp型コンタクト層173の部分において、全体で1500Å以下の厚さに形成されることが好ましい。
【0053】
絶縁膜4は、たとえば、ZrOまたはSiOからなり、その厚さは、200nm以上400nm以下である。絶縁膜4は、リッジ部をなすp型コンタクト層173の両側に配置されていて、開口部20からp型コンタクト層173の頂面を露出させている。すなわち、絶縁膜4は、リッジ形状のp型コンタクト層173の両側において、第2p型ガイド層172に接している。
【0054】
透明電極5は、p型半導体層12側から順に、第1導電性膜21および第2導電性膜22を積層して構成されている。第1導電性膜21は、酸化インジウム系の材料(たとえばITO)からなる。第1導電性膜21は、開口部20に入り込んで、p型コンタクト層173にオーミック接触しており、さらに、開口部20外の絶縁膜4の表面にまで延びて形成されている。第2導電性膜22は、酸化亜鉛系、酸化ガリウム系または酸化錫系の材料(たとえばZnO)からなり、第1導電性膜21の表面全域を覆うように形成されている。透明電極5全体は、400nm程度の厚みを有している。
【0055】
第1導電性膜21は、2nm以上30nm以下(好ましくは10nm)の厚みを有する透明な酸化膜である。「透明」とは、発光層10の発光波長に対して透明であることであり、具体的には、たとえば、発光波長の透過率が70%以上の場合をいう。第1導電性膜21は、絶縁膜4の表面(図2における上面)における開口部20以外の全領域と、絶縁膜4において開口部20を縁取る1対の側面の全領域と、p型コンタクト層173の表面において開口部20から露出された全領域とに亘って連続して形成されている。つまり、第1導電性膜21は、開口部20を介してp型コンタクト層173(p型半導体層12)に接するように絶縁膜4上に形成されている。
【0056】
第1導電性膜21は、たとえば、以下の特性(1)〜(3)を有する材料からなる。
特性(1):電子濃度が1×1019cm-3以上である。
特性(2):透過率が発光層10の発光波長に対して70%以上である。
特性(3):仕事関数が5.0eV以上である。
以上の特性を有するものとして、酸化インジウム(In)系の材料が挙げられる。具体的には、この実施形態では、第1導電性膜21は、ITOからなる。この場合、第1導電性膜21と、これが接するp型半導体層12との接触抵抗は、1×10-3Ω・cm以下になっている。第1導電性膜21を構成する酸化インジウム系の材料は、Snを3%以上の組成で含んでいることが好ましい。
【0057】
第2導電性膜22は、400nm以上600nm以下の厚みを有する透明な酸化膜である。つまり、第2導電性膜22の透過率は、発光層10の発光波長に対して70%以上である。第2導電性膜22は、第1導電性膜21の表面(図2における上面)上の全域に亘って形成されている。第2導電性膜22は、酸化亜鉛(ZnO)系、酸化ガリウム(Ga)系または酸化錫(SnO)系の材料からなる。具体的には、第2導電性膜22は、GaもしくはAlのIII族原子を1×1019cm-3以上の濃度で含むZnOまたはMgZnOからなる。第2導電性膜22がMgZnOからなる場合、Mg組成を変更することによって第2導電性膜22の屈折率を調整できる。MgZnOにおけるMg組成は、50%以下であることが好ましい。具体的に、第2導電性膜22を構成するMgZnOは、MgxZn1-xO(0≦x<1)と表わすことができる。
【0058】
透明電極5は、上部クラッド層として機能し、n型クラッド層14との間で、発光層10からの光を当該発光層10側へと閉じ込める光閉じ込め効果を生じるものである。そのため、透明電極5に含まれる第1導電性膜21および第2導電性膜22の屈折率は、発光層10の屈折率より小さい。具体的には、発光層10の平均屈折率が2.7であるのに対し、ITOからなる場合における第1導電性膜21の屈折率は2.1であり、ZnOからなる場合における第2導電性膜22の屈折率は2.2である。また、SiOからなる場合における絶縁膜4の屈折率は1.4と小さいことから、絶縁膜4も光閉じ込め効果を生じる。
【0059】
発光層10からの光が透明電極5とn型クラッド層14との間で閉じ込められることから、この半導体レーザ素子101には、p型窒化物半導体からなるクラッド層(p型半導体クラッド層)が存在しない。つまり、窒化物半導体積層構造2は、p型半導体クラッド層を有していない。
n側電極パッド3は、たとえば、基板1側から順にAl層、Ti層およびAu層を積層した多層構造を有しており、そのAl層が基板1にオーミック接触している。
【0060】
p側電極パッド6は、たとえば、基板1側から順に、Ti層およびAu層を積層した積層電極膜で構成されている。
n型ガイド層15は、n型クラッド層14上に形成されている。n型ガイド層15は、発光層10にキャリヤ(電子)を閉じ込めるためのキャリヤ閉じ込め効果を生じる半導体層である。これにより、発光層10における電子および正孔の再結合の効率が高められるようになっている。n型ガイド層15は、この実施形態では、第1n型ガイド層151と、第2n型ガイド層152とを含む。第2n型ガイド層152は、n型クラッド層14と第1n型ガイド層151との間に配置されている。第1n型ガイド層151は、発光層10と第2n型ガイド層152との間に配置されている。
【0061】
第1n型ガイド層151は、図2Aに拡大して示すように、InGaN層61とGaN層62とを周期的に積層した超格子層からなる。より具体的には、GaN基板1側からGaN層62、InGaN層61、GaN層62、……の順に、GaN層62とInGaN層61とを交互に積層して超格子構造が形成されている。第1n型ガイド層151の平均屈折率は2.6以下である。前記超格子層を構成するInGaN層61のIn組成は、発光層10を構成するInGaN量子井戸層51のIn組成よりも小さく、たとえば6%以下(より好ましくは4%以下)である。第1n型ガイド層151(超格子層)を構成するInGaN層61が発光層10の障壁層52に接している。また、第1n型ガイド層151の光学膜厚は、1000Å以上4000Å以下とされている。
【0062】
第1n型ガイド層151の平均屈折率は、超格子層を構成するInGaN層61の屈折率nInGaNおよび膜厚TInGaN、ならびにGaN層62の屈折率nGaNおよび膜厚TGaNを用いて、次式で表すことができる。分母は一周期の層厚(周期厚)であり、分子は一周期の光学膜厚である。
【0063】
【数2】

【0064】
また、第1n型ガイド層151を構成する前記超格子層の光学膜厚は、超格子層の繰り返し周期数(InGaN層61とGaN層62とのペア数)Nを用いて、次式で与えられる。
光学膜厚=(nInGaN・TInGaN+nGaN・TGaN)×N
第2n型ガイド層152は、InX2Ga1−X2N層(0≦X2<1。X2=0のときはGaN層)からなる。第1n型ガイド層151の平均In組成と第2n型ガイド層152の平均In組成とは異なっており、第1n型ガイド層151の平均In組成は、第2n型ガイド層152の平均In組成よりも高い。さらに具体的には、第2n型ガイド層152の平均In組成は、前記第1n型ガイド層151の超格子層を形成するInGaN層61のIn組成よりも小さい。また、第2n型ガイド層152は、層厚方向に関してIn組成X2が傾斜しているアンドープのInX2Ga1−X2N単膜からなっている。第2n型ガイド層152は、その光学膜厚が500Å以下であることが好ましい。この場合の光学膜厚とは、第2n型ガイド層152の屈折率と膜厚との積である。
【0065】
n型クラッド層14は、基板1上に形成されている。n型クラッド層14は、発光層10からの光を当該発光層10側へと閉じ込める光閉じ込め効果を生じるものである。n型クラッド層14は、AlGaNにたとえばn型ドーパントとしてのSiをドープ(ドーピング濃度は、たとえば、1×1018cm−3)することによってn型半導体とされている。n型クラッド層14は、n型ガイド層15よりもバンドギャップが広い。これにより、n型クラッド層14は、n型ガイド層15よりも十分に小さな屈折率を有するので、良好な閉じ込めを行うことができ、低閾値および高効率の半導体レーザ素子101を実現できる。
【0066】
より詳細に説明すると、n型クラッド層14が、Al組成が4%よりも大きく9%よりも小さいAlGaNからなっている。さらに具体的には、図2Aに拡大して示すように、n型クラッド層14は、AlX3Ga1−X3N層71(0<X3<1)とAlX4Ga1−X4N層72(0<X4<X3)とを周期的に積層した超格子層からなっている。そして、前記超格子層の平均Al組成が4%よりも大きく9%よりも小さくなっている。n型クラッド層14は、n型ガイド層15に対して、発光層10とは反対側から接している。
【0067】
窒化物半導体積層構造2は、共振器方向両端における劈開により形成された一対の端面24,25(劈開面)を有している。一対の端面24,25は、互いに平行であり、いずれも共振器方向に垂直である。こうして、n型半導体層11、発光層10およびp型半導体層12によって、端面24,25を共振器端面とするファブリペロー共振器が形成されている。すなわち、発光層10で発生した光は、共振器端面24,25の間を往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、増幅された光の一部が、共振器端面24,25からレーザ光として素子外に取り出される。共振器端面24,25には、たとえば、多重反射膜(図示せず)が形成されている。たとえば、一方の共振器端面24側の多重反射膜は、共振器端面25側の多重反射膜よりも反射率が低くなるように設計される。これにより、共振器端面24側からより多くのレーザ光が素子外に取り出される。すなわち、一方の共振器端面24が、レーザ出射端面とされる。
【0068】
このような構成によって、n側電極パッド3および透明電極5を電源に接続し、n型半導体層11およびp型半導体層12から電子および正孔を発光層10に注入することによって、この発光層10内で電子および正孔の再結合を生じさせ、たとえば、波長400nm〜410nmの青紫色の光を発生させることができる。この光は、n型クラッド層14と透明電極5(上部クラッド層)との間に閉じ込められ、窒化物半導体積層構造2の積層方向と垂直な共振器方向に伝搬する。具体的には、この光は、共振器端面24,25の間をガイド層15,171に沿って共振器方向に往復しながら、誘導放出によって増幅される。そして、レーザ出射端面である共振器端面24から、より多くのレーザ出力が外部に取り出されることになる。
【0069】
図3は、第1n型ガイド層151のIn組成と発振閾値(Ith)との関係を示す図である。より具体的には、InGaN/GaN超格子層で構成された第1n型ガイド層151におけるInGaN層61(図2A参照)のIn組成と発振閾値との関係が示されている。ただし、InGaN/GaN超格子層は、10Å厚のInGaN層61と30Å厚のGaN層62とで構成し、周期数(InGaN層およびGaN層のペア数)は40とした。したがって、周期厚は40Åであり、総膜厚は1600Åである。図3から、In組成が6%を超えると閾値が急増することが分かる。すなわち、InGaN層61のIn組成は6%以下が好ましい。そして、In組成が4%以下では、閾値が下限値付近で飽和していることから、In組成を4%以下とすることがさらに好ましいことが分かる。In組成が4%のときの第1n型ガイド層151(InGaN/GaN超格子層)平均屈折率は2.6である。参照符号Aは、InGaN層61のIn組成を6%とし、InGaN/GaN超格子層の平均屈折率が2.6となるように、InGaN層61およびGaN層62の層厚を設計したときの計算結果を示す。この場合も、十分に低い閾値を実現できる。したがって、InGaN/GaN超格子層の平均屈折率が2.6以下となるようにInGaN/GaN超格子層を設計することによって、閾値を十分に低減できる。平均屈折率は、InGaNおよびGaNの屈折率とそれらの膜厚比とから計算される。
【0070】
図4は、第1n型ガイド層151(InGaN/GaN超格子層)の光学膜厚と発振閾値(Ith)との関係を示す。ただし、InGaN/GaN超格子層は、10Å厚のInGaN層61と30Å厚のGaN層62(図2A参照)とで構成し、InGaN層61のIn組成は4%とした。そして、周期数(InGaN層61およびGaN層62のペア数)を変更することによって、様々な光学膜厚に関して閾値を求めた。図4から、光学膜厚を減らすことで閾値を低減できることが分かる。そして、光学膜厚4000Å以下では閾値が飽和し始める。光学膜厚が1000Å未満では、発振しなくなる。したがって、第1n型ガイド層151(InGaN/GaN超格子層)の光学膜厚は、1000Å以上4000Å以下とすることが好ましい。
【0071】
図5は、p型電子ブロック層16のAl組成と発振閾値(Ith)との関係を示す。p型電子ブロック層16のAl組成を小さくするほど閾値が低くなることが分かる。図5からは、Al組成が15%以下の領域で閾値の低下が鈍化していることが分かる。しかし、Al組成を小さくすると、電子ブロック機能が弱まるから、Al組成の決定に当たっては、光出力を評価すべきである。
【0072】
図6は、Al組成と光出力との関係を示す。横軸は入力電流(Current)、縦軸は光出力(Output Power)である。Al組成を10%、15%、20%、25%としたときの計算結果が示されている。図6から、Al組成を下げると、高電流域での光出力が小さくなる傾向が読み取れる。閾値と光出力の傾向から、p型電子ブロック層16のAl組成は、15%以上25%以下とすることが適当である。
【0073】
図7は、p型電子ブロック層16の層厚と発振閾値(Ith)との関係を示す。ただし、Al組成を20%とした場合の計算結果が示されている。p型電子ブロック層16の膜厚が小さいほど閾値が低くなるが、120Å以下の範囲では閾値の変化率が低い。波長405nmの光に対するAl組成20%のAlGaNの屈折率は、2.22であるので、光学膜厚を266Å(≒120Å×2.22)以下とすればよい。Al組成が25%まで許されるので、p型電子ブロック層16の光学膜厚は概ね300Å以下とすればよい。ただし、p型電子ブロック層16を薄くしすぎると、電子を発光層10へ反射する機能が弱くなるので、p型電子ブロック層16は、160Å以上の光学膜厚を有することが好ましい。
【0074】
図8は、第1p型ガイド層171の層厚(p型電子ブロック層16と発光層10との距離)と、発振閾値(Ith)との関係を調べた結果を示す。ただし、第1p型ガイド層171をp型GaN層で構成する場合の計算結果である。図8から、第1p型GaNガイド層171の層厚が500Åを超えると、閾値が増加に転じることがわかる。したがって、第1p型GaNガイド層171の層厚は、0〜500Åの範囲で定めることが好ましい。第1p型ガイド層171は、p型AlGaNで構成することもできる。
【0075】
図9は、第2n型ガイド層152の層厚と発振閾値(Ith)との関係を調べた結果を示す。ただし、第2n型ガイド層152をn型GaN層で構成する場合の計算結果である。図9から、第2n型ガイド層152の層厚を500Å以下としておけば、十分に低い閾値となり、素子特性に大きな影響を与えないことが分かる。さらに、第2n型ガイド層152の層厚が200Å以下の範囲では、閾値は下限値付近で飽和している。GaNの屈折率が2.5であるので、第2n型GaN層152の光学膜厚を500Å(=200Å×2.5)以下とすることにより、閾値を下限値付近で飽和させることができる。
【0076】
図10は、n型クラッド層14のAl組成(平均Al組成)と発振閾値(Ith)との関係を調べた結果を示す。n型クラッド層14の層厚は10000Åとした。この図から、Al組成を大きくするほど閾値が低くなることが分かる。ただし、平均Al組成が9%以上になると、GaN基板1との格子不整合が大きくなるため、窒化物半導体積層構造2の全面にクラックが発生するおそれがある。また、Al組成が4%以下の範囲では閾値の増加率が大きくなる。よって、n型クラッド層14の平均Al組成は、4%〜9%とするのが適切である。
【0077】
図11は、p型GaNコンタクト層および第2p型GaNガイド層の各層厚と閾値電流との関係を計算した結果を示す。p型GaNコンタクト層173の層厚を30nmを基準として減らしていき、半導体レーザ素子101の閾値電流を計算すると、層厚の減少に伴って閾値電流が増加することが分かる。すなわち、光閉じ込めのためには、p型GaNコンタクト層173は、或る程度の層厚を有している必要がある。一方、第2p型GaNガイド層172の層厚を0nmから増やしていき、半導体レーザ素子101の閾値電流を計算すると、層厚の増加に伴って閾値電流が増加することが分かる。したがって、第2p型GaNガイド層172の層厚をできる限り小さくして、絶縁膜4を発光層10に近づけ、横方向の光閉じ込めを強化することで、閾値電流を低減できる。具体的には、第2p型ガイド層172の層厚は50nm以下が好ましく、これにより、閾値電流を十分に低くできる。
【0078】
以上のように、半導体レーザ素子101は、p型半導体クラッド層を有していない。つまり、窒化物半導体積層構造2は、p型半導体クラッド層を有していない。窒化物半導体積層構造2がp型半導体クラッド層を有する場合には、窒化物半導体積層構造2の形成工程において、比較的低温で発光層10を形成してから、発光層10の場合よりも高い温度でp型半導体クラッド層を形成することになる。そのため、p型半導体クラッド層を形成する際に、発光層10に対して熱によるダメージが加わる虞がある。それに対して、この実施形態では、窒化物半導体積層構造2がp型半導体クラッド層を有していないので、窒化物半導体積層構造2の形成工程において発光層10に対して熱によるダメージが加わるといった不具合を防止できる。また、Alを含むp型半導体クラッド層を設けると、このp型半導体クラッド層自体が高抵抗層となるが、このようなp型半導体クラッド層を必要としない本実施形態の構成により、電気抵抗を効果的に低減できる。こうして、簡単な構成でありながら、良好な発振効率を実現でき、低閾値化を実現することができる。
【0079】
透明電極5は、n型クラッド層14との間で発光層10の光を閉じ込めるために、ある程度の厚さを有する必要がある。しかし、酸化インジウム系の材料からなる第1導電性膜21は、成膜速度が遅いので、第1導電性膜21だけで透明電極5を構成すると、透明電極5を形成するのに時間がかかってしまう。一方、酸化亜鉛系、酸化ガリウム系または酸化錫系の材料からなる第2導電性膜22は、成膜速度は比較的速いものの、p型窒化物半導体に対する接触抵抗が高い。そこで、本実施形態では、透明電極5においてp型半導体層12に接触する部分を酸化インジウム系の材料からなる第1導電性膜21で構成して接触抵抗の低減が図られている。特に、第1導電性膜21は、ITOからなるので、p型半導体層12との接触抵抗を十分に低減できる。その一方で、第1導電性膜21と、その上に形成された酸化亜鉛系、酸化ガリウム系または酸化錫系の材料からなる第2導電性膜22とを透明電極5に含ませることによって、透明電極5の形成速度の向上を図ることができる。より具体的には、第1導電性膜21を必要最小限の膜厚に形成することにより、透明電極5の形成に要する時間を短くでき、それによって生産性を向上できる。
【0080】
また、p型ガイド層171,172およびp型コンタクト層173は、GaNからなるので、Alを含む組成の場合に比べて、低温で形成できる。そのため、発光層10に対する熱ダメージを一層低減できる。
また、絶縁膜4は、開口部20以外の領域において、p型半導体層12と透明電極5とを絶縁する。絶縁膜4では、開口部20において電流狭窄を行うことができ、絶縁膜4は、上部クラッド層としての透明電極5とともに発光層10への光閉じ込めに寄与する。
【0081】
透明電極5は、p型半導体層12に電流を供給する電極となる。透明電極5は、絶縁膜4の開口部20に入り込んでp型半導体層12に接している。これにより、透明電極5とp型半導体層12との電気的接続は、開口部20内に制限されるので、電流狭窄構造を形成できる。
透明電極5は、前述のとおり、酸化インジウム系の材料からなる第1導電性膜21と、酸化亜鉛系、酸化ガリウム系または酸化錫系の材料からなる第2導電性膜22とを積層して構成されている。このような透明電極5は、III族窒化物半導体に比較して屈折率が小さい。そのため、n型III族窒化物半導体クラッド層と透明電極5とで光閉じ込め構造を形成すると、発光ピーク(電界強度ピーク)が発光層10よりもn型半導体層11側にずれやすくなる。とくに波長400nm〜410nmの青紫色の光を発生させるためには、発光層10に含まれるInGaN量子井戸層51のIn組成を小さく(たとえば6%程度)としなければならない。そのため、発光層10の屈折率を大きくすることができず、発光層10に発光ピークを整合させることが困難になる。これにより、十分な特性(たとえば十分に低い閾値)の半導体レーザ素子を得難くなる。
【0082】
そこで、この実施形態では、n型ガイド層15が、InGaN層61とGaN層62とを交互に周期的に積層した超格子層からなる第1n型ガイド層151を有しており、その超格子層の平均屈折率が2.6以下とされている。より具体的には、InGaN層61のIn組成および膜厚が、超格子層の平均屈折率が2.6以下となるように設計されている。そして、このような超格子層が発光層10に接するように配置されている。これにより、発光層10を挟んでp側とn側とで波長400nm〜410nmの青紫色の光に対する屈折率のバランスをとることができ、発光ピークを発光層10に整合させることができる。それによって、十分な特性(とくに十分に低い閾値)の半導体レーザ素子101を提供できる。
【0083】
また、超格子層で構成された第1n型ガイド層151には、GaN基板1から引き継がれた大きな貫通転位が生じ難い。したがって、貫通転位に起因する漏れ電流を抑制または防止できる。
第1n型ガイド層151の超格子層を形成するInGaN層61のIn組成が大きいと、発光層10よりも屈折率が大きくなるおそれがあるうえ、発光層10へのキャリヤの閉じ込めが弱くなる。そこで、超格子層を構成するInGaN層61のIn組成は、発光層10内のInGaN量子井戸層51のIn組成よりも小さくされている。
【0084】
また、この実施形態では、第1n型ガイド層151の超格子層を構成するInGaN層61が、発光層10の量子井戸構造を構成する障壁層52に接している。これにより、屈折率の低い第1n型ガイド層151を発光層10に接して配置できるので、発光層10に発光ピークを整合させることができる。
また、この実施形態では、p型電子ブロック層16が、Al組成15%〜25%のAlGaN層で構成されている。これにより、発光ピークを発光層10に近づけることができ、十分なレーザダイオード特性(とくに十分に低い閾値)を実現することができる。また、この実施形態では、p型電子ブロック層16の光学膜厚が300Å以下とされている。これにより、屈折率の低いp型電子ブロック層16の厚さを抑制できるので、発光ピークを発光層10に整合させることができる。
【0085】
また、この実施形態では、p型半導体層12は、p型電子ブロック層16と発光層10との間に配置された、AlX1Ga1−X1N(0≦X1<1)からなる第1p型ガイド層171を含む。p型AlGaN電子ブロック層16を成長させるときの成長温度(たとえば1050℃程度)は、InGaN量子井戸層61を含む発光層10を成長させるときの成長温度(たとえば850℃程度)よりも高い。そのため、半導体レーザ素子101の製造工程において、発光層10の成長を終えてから、基板温度の上昇を待って、p型AlGaN電子ブロック層16を成長させる必要がある。この待機期間中には、発光層10の最表面(結晶表面)が雰囲気中の不純物にさらされるから、結晶表面が荒れてしまうおそれがある。そこで、この実施形態では、発光層10とp型電子ブロック層16との間に、AlX1Ga1−X1N(0≦X1<1)からなる第1p型ガイド層171が配置されている。発光層10を成長し終えた後の昇温過程において第1p型ガイド層171を形成し、つづけてp型AlGaN電子ブロック層16を形成すれば、発光層10からp型電子ブロック層16まで、結晶成長を連続させることができる。これにより、発光層10の表面が荒れることを回避できるので、半導体レーザ素子101の特性(とくに閾値)を向上できる。
【0086】
さらに、この実施形態では、n型ガイド層15が、InGaN層61とGaN層62とを交互に周期的に積層した超格子層からなる第1n型ガイド層151と、この第1n型ガイド層151とn型クラッド層14との間に配置されInX2Ga1−X2N層(0≦X2<1)からなる第2ガイド層152とを含む。n型クラッド層14と第1n型ガイド層151とは組成が異なるので、それに応じて結晶成長時の温度が異なる。すなわち、InGaN/GaN超格子層からなる第1n型ガイド層151の成長温度(たとえば850℃)は、n型AlGaNクラッド層14の成長温度(たとえば1050℃)よりも低い。そのため、半導体レーザ素子101の製造工程において、n型クラッド層14の成長を終えてから、基板温度の降下を待って、第1n型ガイド層151を成長させる必要がある。この待機期間中には、n型クラッド層14の最表面(結晶表面)が雰囲気中の不純物にさらされるから、結晶表面が荒れてしまう(とくにAlが酸化される)おそれがある。そこで、この実施形態では、第1n型ガイド層151とn型クラッド層14との間にInX2Ga1−X2N層(0≦X2<1)からなる第2n型ガイド層152が配置されている。n型クラッド層14を成長し終えた後の降温過程において第2n型ガイド層152を形成し、つづけて第1n型ガイド層151(超格子層)を形成すれば、n型クラッド層14から第1n型ガイド層151まで、結晶成長を連続させることができる。これにより、n型クラッド層14の表面が荒れることを回避できるので、半導体レーザ素子101の特性(とくに閾値)を向上できる。
【0087】
n型クラッド層14を形成した後の降温過程で結晶成長を継続して第2n型ガイド層152を形成すると、この第2n型ガイド層152のIn組成は層厚方向に関して傾斜することになる。したがって、第1n型ガイド層151の平均In組成と第2n型ガイド層152の平均In組成とが異なることになり、第1n型ガイド層151の平均In組成が第2n型ガイド層152の平均In組成よりも大きくなる。これにより、第2n型ガイド層152の屈折率を第1n型ガイド層151の屈折率よりも低くできるから、発光ピークがn側に偏ることを抑制できる。
【0088】
さらに、この実施形態では、n型AlGaNクラッド層14のAl組成が4%よりも大きく9%よりも小さくされている。これにより、発光ピークを発光層10と整合させることができ、窒化物半導体積層構造2にクラックを生じさせることなく、閾値の低い半導体レーザ素子101を実現できる。また、この実施形態では、n型クラッド層14が、AlX3Ga1−X3N層71(0<X3<1)とAlX4Ga1−X4N層72(0<X4<X3)とを交互に周期的に積層した超格子層からなっている。これにより、クラックを生じることなく、n型クラッド層14の平均Al組成を高くし、その層厚を厚く(たとえば1μm〜1.5μm)することができるので、歩留まり低下を招くことなく、発光ピークを発光層10に整合させることができる。
【0089】
さらに、この実施形態の半導体レーザ素子101においては、p型コンタクト層173は、そのp型不純物濃度が高くされているので、透明電極5との接触抵抗が低くなっている。第2p型ガイド層172はp型コンタクト層173よりもp型不純物濃度が低く、さらに第1p型ガイド層171は第2p型ガイド層172よりもp型不純物濃度が低い。すなわち、発光層10に近づくほど、p型不純物濃度が低くなっており、不純物による光の吸収を抑制する構造となっている。
【0090】
また、p型コンタクト層173がストライプ状のリッジ部を形成しているので、当該リッジ部に電流を集中させる電流狭窄構造が形成されている。そして、リッジ部の両側に絶縁膜4が配置されているので、p型コンタクト層173を含むp型半導体層12の層厚を或る程度確保して縦方向の光閉じ込めを図りつつ、絶縁膜4を発光層10に近づけて配置することにより横方向の光閉じ込めを強化できる。これにより、発振閾値を低減できる。とくに、第2p型ガイド層172の層厚を50nm以下とすることにより、リッジ部の両側の絶縁膜4を発光層10に一層近づけることができる。これにより、横方向の光閉じ込めを一層強化できるので、発振閾値の低減に寄与できる。
【0091】
図12は、この発明の他の実施形態に係る半導体レーザ素子102の構成を説明するための模式的な部分断面図である。図12において、前述の図2Aに示された各部の対応部分には同一参照符号を付してある。この実施形態では、n型クラッド層14が、AlX3Ga1−X3N層71(0<X3<1)とAlX4Ga1−X4N層72(0<X4<X3)とを周期的に積層した超格子層141と、この超格子層141以外のAlGaN層142とを含む。AlGaN層142は、超格子層141よりも発光層10に近い側に配置されている。そして、超格子層141の平均Al組成は、AlGaN層142の平均Al組成よりも大きい。平均Al組成の大きな超格子層141は、屈折率が低いので、発光層10に対してより遠くに配置することで、発光ピークを発光層10に整合させやすくなる。
【0092】
図13は、この発明のさらに他の実施形態に係る半導体レーザ素子103の構成を説明するための模式的な断面図である。図13において、前述の図2Aに示された各部の対応部分には、同一参照符号を付してある。この実施形態では、第1n型ガイド層151は、InGaN層61とAlGa1−XN層162(0<X≦0.04)とを周期的に積層した超格子層からなる。より具体的には、GaN基板1側からAlGa1−XN層162、InGaN層61、AlGa1−XN層162、……の順に、AlGa1−XN層162とInGaN層61とを交互に積層して超格子構造が形成されている。第1n型ガイド層151の平均屈折率は2.6以下である。前記超格子層を構成するInGaN層61のIn組成は、発光層10を構成するInGaN量子井戸層51のIn組成よりも小さく、たとえば6%以下(より好ましくは4%以下)である。AlGa1−XN層162のAl組成Xは0〜0.04(4%)である。第1n型ガイド層151(超格子層)を構成するInGaN層61が発光層10の障壁層52に接している。また、第1n型ガイド層151の光学膜厚は、1000Å以上4000Å以下とされている。
【0093】
第1n型ガイド層151の平均屈折率は、超格子層を構成するInGaN層61の屈折率nInGaNおよび膜厚TInGaN、ならびにAlGa1−XN層162の屈折率nAlGaNおよび膜厚TAlGaNを用いて、次式で表すことができる。分母は一周期の層厚(周期厚)であり、分子は一周期の光学膜厚である。
【0094】
【数3】

【0095】
また、第1n型ガイド層151を構成する前記超格子層の光学膜厚は、超格子層の繰り返し周期数(InGaN層61とAlGa1−XN層162とのペア数)Nを用いて、次式で与えられる。
光学膜厚=(nInGaN・TInGaN+nAlGaN・TAlGaN)×N
第2n型ガイド層152は、InX2Ga1−X2N層(0≦X2<1。X2=0のときはGaN層)からなる。第1n型ガイド層151の平均In組成と第2n型ガイド層152の平均In組成とは異なっており、第1n型ガイド層151の平均In組成は、第2n型ガイド層152の平均In組成よりも高い。さらに具体的には、第2n型ガイド層152の平均In組成は、前記第1n型ガイド層151の超格子層を形成するInGaN層61のIn組成よりも小さい。また、第2n型ガイド層152は、層厚方向に関してIn組成X2が傾斜しているアンドープのInX2Ga1−X2N単膜からなっている。第2n型ガイド層152は、その光学膜厚が500Å以下であることが好ましい。この場合の光学膜厚とは、第2n型ガイド層152の屈折率と膜厚との積である。
【0096】
図14は、前述の第1の実施形態の構造について、第1n型ガイド層151の物理的な膜厚(TInGaN+TGaN)×N(絶対膜厚)とフォトルミネッセンス(PL)強度との関係を調べた実験結果である。具体的には、ペア数Nを10,20,40にそれぞれ設定した3つの試料に関して測定されたスペクトルが表れている。この実験結果から、ペア数を2倍にすると、すなわち絶対膜厚を2倍にすると、発光強度が一桁高くなっていることが分かる。すなわち、発光強度を大きくして高輝度の半導体レーザ素子の実現のためには、第1n型ガイド層151の絶対膜厚を或る程度大きくする方が有利である。
【0097】
たとえば、第1n型ガイド層151を構成する超格子の周期厚が40Åの場合、ペア数N=40のとき、第1n型ガイド層151の絶対膜厚は1600Åとなる。この場合に、第1n型ガイド層151の光学膜厚を4000Åとするためには、第1n型ガイド層151の平均屈折率は、2.5(=4000/1600)としなければならない。ところが、GaNの屈折率が2.53であるため、第1の実施形態のようなInGaN/GaN超格子層では、平均屈折率2.5の第1n型ガイド層151を光学膜厚4000Å以下という制限の下で作製することができない。
【0098】
そこで、この実施形態では、第1n型ガイド層151が、InGaN層61とAlGa1−XN層162(0<X≦0.04)とを周期的に積層した超格子層で構成されている。AlGa1−XN(0<X≦0.04)の屈折率は、GaNよりも低く、たとえばAl組成X=0.03(3%)のAl0.03Ga0.97Nの屈折率は2.50である。よって、InGaN層61とAlGa1−XN層162(0<X≦0.04)との超格子層で第1n型ガイド層151を構成することによって、光学膜厚4000Å以下という制限の下で、絶対膜厚が大きい第1n型ガイド層151を形成できる。それによって、より高輝度な半導体レーザ素子を実現できる。
【0099】
第1n型ガイド層151の光学膜厚を1000Å〜4000Åとし、かつその平均屈折率を2.6以下とする場合、InGaN/GaN超格子層で構成される第1n型ガイド層151の絶対膜厚の下限は385Å(=1000/2.6)、その上限は1581(=4000/2.53)である。これに対して、InGaN/Al0.03Ga0.97N超格子層で構成される第1n型ガイド層151の絶対膜厚の下限は385Å(=1000/2.6)、その上限は1600(=4000/2.5)である。このように、AlGa1−XN層162(0<X≦0.04)を用いることによって、絶対膜厚の範囲を広げることができ、それによって、設計の自由度を高めることができる。具体的には、前述のように、絶対膜厚を大きくして発光強度の増大を図ることにより、高輝度の半導体レーザ素子を実現できる。
【0100】
図15は、第1n型ガイド層151を形成する超格子の構成例を説明するための図である。この図には、InGaN層61と、AlGa1−XN層162(0≦X≦0.04)との超格子層によって第1n型ガイド層151を構成するときのInGaN層61の膜厚およびAlGa1−XN層162の膜厚の組合せ例が示されている。ただし、周期厚を40Åとし、第1n型ガイド層151の平均屈折率が2.54となるように超格子層を設計した例であり、InGaN層61のIn組成は2.4%とした。また、超格子のペア数N=39として絶対膜厚を1560Å(=40Å×39)とし、光学膜厚を3962.4Å(=1560Å×2.54)とした。AlGa1−XN層のAl組成Xを増加するに従って、InGaN層の膜厚を厚く、AlGa1−XN層の膜厚を薄くすることにより、平均屈折率2.54を達成できる。AlGa1−XN層のAl組成X=0とした場合は、前述の第1の実施形態の構成に該当する。
【0101】
図16は、図15に示した各組合せの超格子層で第1n型ガイド層151を構成した場合における半導体レーザ素子の発振閾値Ithを示す。Al組成と閾値との相関はみられず、したがって、AlGa1−XN層(0<X)を用いても、半導体レーザ素子の特性に対する悪影響がないことが分かる。すなわち、AlGa1−XN層(0<X)を用いることによって、他の素子特性を犠牲とすることなく、第1n型ガイド層151の絶対膜厚を大きくして発光強度の向上を図ることができる。
【0102】
以上、この発明の3つの実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、窒化物半導体積層構造2および透明電極5を構成する各層や膜についての厚さや不純物濃度等は一例であり、適宜適切な値を選択して用いることができる。また、n型クラッド層14は、必ずしもAlGaNの単層である必要はなく、AlGaN層とGaN層とで構成された超格子層としてもよい。
【0103】
また、前述の実施形態におけるp型コンタクト層173を省いて、リッジ部のないp型半導体層12を用いてもよい。
また、前述の実施形態における第2n型ガイド層152は省かれてもよい。同様に、前述の実施形態における第1p型GaNガイド層171を省いてもよい。
また、前述の実施形態では、窒化物半導体としてAlGaNやGaN等を例示したが、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)などの他の窒化物半導体が用いられてもよい。窒化物半導体は、一般には、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)と表わすことができる。
【0104】
また、第1導電性膜21は、開口部20外の絶縁膜4の全表面を覆う必要はなく、開口部20で露出したp型半導体層12の表面と、開口部20の両側から50μm程度の幅の範囲内における絶縁膜4の表面とを少なくとも覆っていればよい。
さらに、窒化物半導体積層構造2を形成した後にレーザリフトオフなどで基板1を除去することで、基板1のない半導体レーザ素子を構成することもできる。
【0105】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 基板
2 窒化物半導体積層構造
3 n側電極パッド
4 絶縁膜
5 透明電極
6 p側電極パッド
10 発光層
51 InGaN量子井戸層
52 GaNまたはInGaN障壁層
11 n型半導体層
12 p型半導体層
14 n型クラッド層
71 AlX3Ga1−X3N層
72 AlX4Ga1−X4N層
141 超格子層
142 AlGaN層
15 n型ガイド層
151 第1n型ガイド層
61 InGaN層
62 GaN層
162 AlGa1−XN層
152 第2n型ガイド層
17 p型ガイド・コンタクト層
171 第1p型ガイド層
172 第2p型ガイド層
173 p型コンタクト層
20 絶縁膜の開口部
21 第1導電性膜
22 第2導電性膜
101,102,103 半導体レーザ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振波長が400nm〜410nmの青紫色の光を発生する半導体レーザ素子であって、
n型III族窒化物半導体層と、
前記n型III族窒化物半導体層に積層され、InGaN量子井戸層を有する活性層と、
前記活性層に積層されたp型III族窒化物半導体層と、
前記p型III族窒化物半導体層に接触し、クラッドとしての機能を有する透明電極とを含み、
前記n型III族窒化物半導体層が、n型クラッド層と、このn型クラッド層と前記活性層との間に配置されたn型ガイド層とを含み、
前記n型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)とを周期的に積層した超格子層を有し、この超格子層の平均屈折率が2.6以下であって、前記InGaN層のIn組成が前記InGaN量子井戸層のIn組成よりも小さく、前記超格子層が前記活性層に接している、
半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記n型ガイド層の光学膜厚が1000Å以上4000Å以下である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記超格子層を形成するInGaN層のIn組成が6%以下である、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記超格子層を形成するInGaN層のIn組成が4%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記超格子層を形成するAlGa1−XN層のAl組成Xが零である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記超格子層を形成するAlGa1−XN層のAl組成Xが0<X≦0.04である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記活性層が、アンドープのInGaNまたはアンドープのGaNからなる障壁層と、前記InGaN量子井戸層とを交互に積層した多重量子井戸構造を有しており、前記超格子層を構成するInGaN層が前記障壁層に接している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
発振波長が400nm〜410nmの青紫色の光を発生する半導体レーザ素子であって、
n型III族窒化物半導体層と、
前記n型III族窒化物半導体層に積層され、InGaN量子井戸層を有する活性層と、
前記活性層に積層されたp型III族窒化物半導体層と、
前記p型III族窒化物半導体層に接触し、クラッドとしての機能を有する透明電極とを含み、
前記p型III族窒化物半導体層が、AlGaNからなるp型電子ブロック層を含み、そのAl組成が15%以上25%以下である、半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記p型電子ブロック層の光学膜厚が300Å以下である、請求項8に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記p型III族窒化物半導体層が、前記p型電子ブロック層と前記活性層との間に配置された、AlX1Ga1−X1N(0≦X1<1)からなるp型ガイド層をさらに含む、請求項8または9に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記p型ガイド層の層厚が、0〜500Åである、請求項10に記載の半導体レーザ素子。
【請求項12】
n型III族窒化物半導体層と、
前記n型III族窒化物半導体層に積層された活性層と、
前記活性層に積層されたp型III族窒化物半導体層と、
前記p型III族窒化物半導体層に接触し、クラッドとしての機能を有する透明電極とを含み、
前記n型III族窒化物半導体層が、n型クラッド層と、このn型クラッド層と前記活性層との間に配置されたn型ガイド層とを含み、
前記n型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X<1)とを周期的に積層した超格子層からなる第1ガイド層と、前記第1ガイド層と前記n型クラッド層との間に配置されInX2Ga1−X2N層(0≦X2<1)からなる第2ガイド層とを含む、半導体レーザ素子。
【請求項13】
前記第1ガイド層の平均In組成と前記第2ガイド層の平均In組成とが異なる、請求項12に記載の半導体レーザ素子。
【請求項14】
前記第2ガイド層が、層厚方向に関してIn組成X2が傾斜しているInX2Ga1−X2N単膜からなる、請求項12または13に記載の半導体レーザ素子。
【請求項15】
前記第2ガイド層の光学膜厚が500Å以下である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項16】
前記第2ガイド層の平均In組成が、前記第1ガイド層の超格子層を形成するInGaN層のIn組成よりも小さい、請求項12〜15のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項17】
前記第2ガイド層が、アンドープのInX2Ga1−X2N層である、請求項12〜16のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項18】
発振波長が400nm〜410nmの青紫色の光を発生する半導体レーザ素子であって、
n型III族窒化物半導体層と、
前記n型III族窒化物半導体層に積層され、InGaN量子井戸層を有する活性層と、
前記活性層に積層されたp型III族窒化物半導体層と、
前記p型III族窒化物半導体層に接触し、クラッドとしての機能を有する透明電極とを含み、
前記n型III族窒化物半導体層が、n型クラッド層と、このn型クラッド層と前記活性層との間に配置されたn型ガイド層とを含み、
前記n型クラッド層が、AlGaNからなり、そのAl組成が4%よりも大きく9%よりも小さい、半導体レーザ素子。
【請求項19】
前記n型クラッド層が、AlX3Ga1−X3N層(0<X3<1)とAlX4Ga1−X4N層(0<X4<X3)とを周期的に積層した超格子層を含み、前記超格子層の平均Al組成が4%よりも大きく9%よりも小さい、請求項18に記載の半導体レーザ素子。
【請求項20】
前記n型クラッド層の全部が前記超格子層である、請求項19に記載の半導体レーザ素子。
【請求項21】
前記n型クラッド層が、前記超格子層と、前記超格子層以外のAlGaN層とを含む、請求項19に記載の半導体レーザ素子。
【請求項22】
前記超格子層以外のAlGaN層が、前記超格子層よりも前記活性層に近い側に配置されている、請求項21に記載の半導体レーザ素子。
【請求項23】
前記超格子層の平均Al組成が、前記超格子層以外のAlGaN層の平均Al組成よりも大きい、請求項22に記載の半導体レーザ素子。
【請求項24】
前記n型ガイド層が、InGaN層とAlGa1−XN層(0≦X≦0.04)とを周期的に積層した超格子層を含み、前記n型クラッド層が前記n型ガイド層に対して前記活性層とは反対側から接している、請求項18〜20のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項25】
前記n型ガイド層の超格子層を形成するAlGa1−XN層のAl組成Xが零である、請求項24に記載の半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−38394(P2013−38394A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−139876(P2012−139876)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】